特許第6092218号(P6092218)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6092218粗製アクロレインおよび粗製メチルメルカプタンからメチルメルカプトプロピオンアルデヒドを反応させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6092218
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】粗製アクロレインおよび粗製メチルメルカプタンからメチルメルカプトプロピオンアルデヒドを反応させる方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 319/20 20060101AFI20170227BHJP
   B01D 3/14 20060101ALI20170227BHJP
   C07C 319/28 20060101ALI20170227BHJP
   C07C 323/58 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   C07C319/20
   B01D3/14 A
   C07C319/28
   C07C323/58
【請求項の数】22
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-527591(P2014-527591)
(86)(22)【出願日】2012年8月23日
(65)【公表番号】特表2014-529616(P2014-529616A)
(43)【公表日】2014年11月13日
(86)【国際出願番号】EP2012066376
(87)【国際公開番号】WO2013030069
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2015年8月20日
(31)【優先権主張番号】102011081828.6
(32)【優先日】2011年8月30日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501073862
【氏名又は名称】エボニック デグサ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
(74)【復代理人】
【識別番号】100118072
【弁理士】
【氏名又は名称】醍醐 美知子
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】マーティン シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ハンス ヨアヒム ハッセルバッハ
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ケアファー
(72)【発明者】
【氏名】ハラルト ヤーコプ
(72)【発明者】
【氏名】イグネシュ ガンガドワラ
【審査官】 伊藤 佑一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/086326(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/072728(WO,A1)
【文献】 特開2006−206534(JP,A)
【文献】 特開昭60−092258(JP,A)
【文献】 特開2007−254442(JP,A)
【文献】 特開2003−119557(JP,A)
【文献】 特表2008−506520(JP,A)
【文献】 特表2012−509304(JP,A)
【文献】 特開平04−235138(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0039228(US,A1)
【文献】 特表2014−529615(JP,A)
【文献】 特開平09−176111(JP,A)
【文献】 <工場操作シリーズ>増補・蒸留,株式会社 化学工業社,1992年,第59-70頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチオニン塩を製造する反応精留塔であって、
前記反応精留塔において、5−(2−メチルメルカプトエチル)ヒダントインをメチオニン塩へアルカリ加水分解する工程が実施され、
堰高さが100〜800mmの範囲内にあり、
棚板間隔が500〜1000mmの範囲内にあり、
堰長さに対する塔直径の比率が1.1〜1.3の範囲内であり、
ガス貫流面積に対する横断面積の比率が1.5〜2の範囲内にあり、および
棚板数が15〜25の範囲内にある、
前記反応精留塔。
【請求項2】
前記棚板数が18〜20の範囲内である請求項1記載の反応精留塔。
【請求項3】
前記堰高さが150〜700mmの範囲内にある、請求項1または2記載の反応精留塔。
【請求項4】
前記反応精留塔が、シーブトレイ塔、多孔板塔、バルブトレイ塔または泡鐘塔である、請求項1から3までのいずれか1項記載の反応精留塔。
【請求項5】
前記ガス貫流面積に対する全ての孔の面積の総和の比率が、0.04〜0.08の範囲内にあり、および
シーブトレイにおける個々の孔の直径が、5〜10mmの範囲内にある、請求項1からまでのいずれか1項に記載の反応精留塔。
【請求項6】
前記堰高さが、棚板1枚当たり0.5分未満の各混合物の平均滞留時間を保証する、請求項1からまでのいずれか1項に記載の反応精留塔。
【請求項7】
ジルコニウムが、生成物に接触した部分に対する材料として使用される、請求項1からまでのいずれか1項に記載の反応精留塔。
【請求項8】
メチオニン塩を連続的に製造する方法であって、
この方法が請求項1からまでのいずれか1項に記載の反応精留塔内で実施され、メチオニン塩は、前記反応精留塔において、5−(2−メチルメルカプトエチル)ヒダントインをアルカリ加水分解することにより形成され、および
アリル成分が塔頂部を介して反応精留塔から除去される、前記方法。
【請求項9】
次の工程
− 3−メチルメルカプトプロピオンアルデヒドとシアン化水素とを反応させるかまたはこれらから製造可能な成分を反応させる工程が実施され、その際に5−(2−メチルメルカプトエチル)−ヒダントイン含有溶液が得られ、
− 得られた5−(2−メチルメルカプトエチル)−ヒダントインを反応精留塔内でメチオニン塩へアルカリ加水分解する工程が実施され、その際に前記反応精留塔の最も上の棚板上には、5−(2−メチルメルカプトエチル)−ヒダントイン含有溶液だけが供給され、およびアルカリ循環溶液は、その下にある棚板上に供給される、請求項記載の方法。
【請求項10】
前記アルカリ循環溶液が第2の棚板に供給される請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記アルカリ循環溶液は、アルカリ金属炭酸塩を含有する、請求項9または10記載の方法。
【請求項12】
前記アルカリ金属炭酸塩が炭酸カリウムである請求項11記載の方法。
【請求項13】
アリルアルコールは、塔頂部を介して反応精留塔から除去される、請求項8から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
水、アンモニアおよびCOは、塔頂部を介して反応精留塔から除去され、および除去されたNHは、全てまたは部分的に、5−(2−メチルメルカプトエチル)−ヒダントインの合成に凝縮導入される、請求項から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記反応精留塔の塔底部内でのアンモニアの濃度は、120ppm未満である、請求項から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記アンモニアの濃度が、100ppm未満である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記アンモニアの濃度が、80ppm未満である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記アルカリ加水分解は、160℃〜190℃の範囲内の温度で実施される、請求項から17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記反応精留塔の流出口での反応混合物の温度は、180℃〜190℃の範囲内にある、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記反応精留塔の塔頂部でのガス相の温度は、160℃〜170℃の範囲内にある、請求項18または19記載の方法。
【請求項21】
前記アルカリ加水分解は、8バール(過圧)〜10バール(過圧)の範囲内の圧力で実施される、請求項から20までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記反応精留塔内の熱媒体およびストリッピング媒体として、水蒸気が使用される、請求項から21までのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗製アクロレインおよび粗製メチルメルカプタンから製造されたメチルメルカプトプロピオンアルデヒドを反応させて2−ヒドロキシ−4−メチルメルカプト酪酸および/またはメチオニンにする反応精留塔ならびに2−ヒドロキシ−4−メチルメルカプト酪酸および/またはメチオニンを製造する方法における当該反応精留塔の使用に関する。
【0002】
アクロレインの合成のために、原理的には種々のルーチンが考えられうる。技術水準において、ホルムアルデヒドとアセトアルデヒトとの縮合が利用されるか、またはグリセロールの脱水も利用される。技術的基準において支配的である、さらなる通常の方法は、プロペンの部分酸化である。アクロレインを製造するために、反応は、常法において、例えば触媒で充填されている管束反応器中で実施される。プロペンの不均一系触媒による酸化の場合、目的生成物の他に、アクロレインは、様々な副成分、主にアクリル酸および酸化炭素(CO、CO2)を生じる。さらなる副成分は、とりわけ、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、プロピオンアルデヒド、不飽和有機酸、ケトンおよび水である(米国特許第6057481号明細書およびドイツ連邦共和国特許第1618889号明細書参照)。したがって、前記アクロレインを含有する反応ガスは、高沸点化合物、例えばアクリル酸および酢酸ならびにポリマー残留物を取り除くために、第一に水で洗浄されるかまたは水溶剤混合物で洗浄される。生成された反応ガスを冷水中に導入することによって、アクロレイン水溶液が得られる。非凝縮性ガス、例えばN2、過剰のプロペンおよび任意にプロパン(プロペン品質に応じて)、COおよびCO2は、塔頂部を介して吸収材を離れ、かつ部分的に不活性化媒体として反応部において使用されうる。排ガスの残りの割合は、燃焼装置に供給される。高沸点化合物および非凝縮性ガスによって精製された粗製アクロレインは、減圧下でおよび高められた温度でアクロレイン水溶液から得られ、かつ重合に抵抗するために、適した安定剤、例えばヒドロキノンが添加される。
【0003】
技術水準において、アセトアルデヒドおよび水は、アクロレインの製造の際に生じる副成分と呼称され、この副成分は、粗製アクロレイン中に含まれている。粗製アクロレインの蒸留は、可能であるが、しかし、精製された粗製アクロレインを蒸留してもなお微少量のアセトアルデヒドが含有されているであろう。さらに、粗製アクロレインが次にメチルメルカプタン(MC)と反応されて3−メチルメルカプトプロピオンアルデヒド(MMP)になるべき場合には、技術水準において、アセトアルデヒド(および別の易揮発性副成分)が粗製アクロレインから、好ましくはMMPへの当該粗製アクロレインの反応後に初めて分離されることが記載されている(米国特許第6057481号明細書、ドイツ連邦共和国特許第1618889号明細書)。そのための理由は、そのときに易揮発性アクロレインが反応されて高沸点成分になり、こうして簡単にアセトアルデヒドまたは一般に易揮発性物質から分離されることができ、および前記成分がアクロレインおよびメチルメルカプタンからの3−メチルメルカプトプロピオンアルデヒドの合成に不利な影響を及ぼさないことである。同様のことは、ドイツ連邦共和国特許出願公開第10359636号明細書A1中に既に記載されているように、粗製メチルメルカプタンの使用に対しても当てはまり、当該粗製メチルメルカプタンから、3−メチルメルカプトプロピオンアルデヒドへのアクロレインとの反応後に、未反応の出発物質のH2Sおよびメタノールは、より簡単に分離されうる。
【0004】
さらに、粗製アクロレインが公知の化合物、例えばアセトアルデヒドの他に、微少量のアリルアルコールを含有することもできることが記載されている(Ullmann's Enzyklopaedie der technischen Chemie,Weinheim 2007,Acrolein und Methacroleinの章、第4段落、第10頁参照)。さらに、本発明者らの試験により、同様に、さらなる不飽和化合物、例えばアリルアクリレート、アリルアセテートおよびベンズアルデヒドが存在することができ、これらは、不均一系触媒でのプロペンの部分酸化の副生成物として生じることが見い出された。前記アリル成分、殊にアリルアルコールは、3−メチルメルカプトプロピオンアルデヒドへの触媒の存在下での粗製アクロレインとメチルメルカプタンとの反応後および引き続く後処理後(ドイツ連邦共和国特許第10359636号明細書A1参照)であっても完全には分離されず、かつ後続プロセスにおいて、殊にメチオニン(または2−ヒドロキシ−4−メチルメルカプト酪酸(MHA))へのメチルメルカプトプロピオンアルデヒド−シアンヒドリンを経る3−メチルメルカプトプロピオンアルデヒドの反応の際に含量が増加しうる。米国特許第5905171号明細書の実施例24において、同様に、MMPへの、プロペンの触媒酸化に由来するアクロレインとMCとの反応後に最終的な生成物中にアリルアルコールが存在することが説明されている。しかし、どのようにして、前記成分がメチオニンおよび/またはMHAへの後続プロセスにおいて、再び生成物から分離されるかまたはプロセスから排出されるかは記載されていない。
【0005】
本発明者らの試験は、5−(2−メチルメルカプトエチル)−ヒダントインのアルカリ加水分解(例えば、欧州特許出願公開第2133329号明細書A2または欧州特許出願公開第0780370号明細書A2)が行なわれる(式III参照)塔の塔頂部において、殊にアリルアルコールの含量が増加することの正しいことを証明した。しかし、塔底部を介して望ましくない副生成物を排出することは、広く行なわれている条件の場合、例えば欧州特許出願公開第0780370号明細書A2において排除されている。
【0006】
しかし、前記不飽和化合物の分離は、必要である。それというのも、アリル成分、例えばアリルアルコールは、原理的に当該不飽和化合物に対応する飽和アルキル成分よりも高い毒性を有するからである。アクロレインから製造すべき生成物のメチオニンおよび/またはMHAは、現在の家畜栄養において飼料添加物として使用されている。したがって、製造プロセスによって、全ての毒性化合物が除去されることは、保証されていなければならない。その上、技術的視点から、不飽和副成分、例えばアリルアルコールの含量の増加は、あとに述べるプロセス工程を損なう。例えば、メチオニンを製造する方法において、生成物溶液は、吸着材としての活性炭での加水分解後に精製される。それゆえに、汚染物質の高められた濃度は、活性炭の高められた消費量をまねくであろうし、それによって寿命は、明らかに短縮され、このことは、より大量の廃棄物流の生産および/またはプラントからの放出をまねくであろう。しかし、粗製アクロレイン中のわずかな濃度のために、蒸留分離は、高い投資費用および運転費用でのみ実現可能である。さらに、さらなる後処理工程において、価値の高いアクロレインは、失われるであろうし、このことは、プロセスの全収量を低減させる。プロセスの安全性の理由から、粗製アクロレインの反応および副成分のあとに続く分離は、同様により有利である。それというのも、アクロレインは、後続生成物のMMPよりも明らかに高い反応性を示すからである。その結果、プラントの使用可能性は向上される。それというのも、より強く濃縮されたアクロレインの蒸留は、様々な装置または管路内に堆積物を生じる可能性があり、このことは、強く増大された清浄化工程を、長引かせるであろうからである。
【0007】
したがって、本発明の技術的課題は、不飽和副成分、殊にアリルアルコールをメチオニンおよび/またはMHAの製造プロセスから分離することを可能にする方法を提供することであった。
【0008】
この技術的課題は、本発明による反応精留塔および本発明による方法における当該精留塔の使用によって解決される。
【0009】
不飽和副成分、殊にアリルアルコールの分離は、メチオニンおよび/またはMHAへのアクロレインの反応後に特に好ましい。アリル成分、殊にアリルアルコールを反応混合物から除去する、本発明による反応精留塔におけるメチオニン前駆体のアルカリ加水分解(鹸化)は、特に適していることが判明した。この鹸化は、水蒸気蒸留とその際に行なわれる加水分解反応との組合せとして記載されうる。
【0010】
本発明の対象は、100mm以上の堰高さを有する反応精留塔(反応蒸留塔または反応蒸留とも呼称される)ならびに本発明による塔を使用する、メチオニン塩を連続的に製造する方法である。
【0011】
好ましい実施態様は、次の構造的特徴を有する:
堰高さ8:100〜1000mm、特に150〜700mm
棚板間隔9:500〜1000mm
比率:塔直径4/堰長さ3:1.1〜1.3
比率:横断面積/ガス貫流面積:1.5〜2
棚板数:15〜25枚、殊に18〜20枚。
【0012】
横断面積は、塔直径4により算出されうる。横断面積から、2つの流出セグメント(2)の面積を減じた場合に、ガス貫流面積が得られる。
【0013】
従属請求項に記載された、本発明の好ましい態様は、誤解のないように引き合いに出される。本発明は、殊に:
1.メチオニン塩を製造する反応精留塔であって、堰高さが100mm以上である、前記反応精留塔、
2.前記堰高さが、100〜1000mmの範囲内、特に150〜700mmの範囲内にあり、棚板間隔が、500〜1000mmの範囲内にあり、堰長さに対する塔直径の比率が、1.1〜1.3の範囲内にあり、ガス貫流面積に対する横断面積の比率が、1.5〜2の範囲内にあり、および棚板数が、15〜25の範囲内、特に18〜20の範囲内にある、前記1に記載の反応精留塔、
3.前記反応精留塔が、シーブトレイ塔、多孔板塔、バルブトレイ塔または泡鐘塔である、前記1または2記載の反応精留塔、
4.前記ガス貫流面積に対する全ての孔の面積の総和の比率が、0.04〜0.08の範囲内にあり、およびシーブトレイにおける個々の孔の直径が、5〜10mmの範囲内にある、前記1〜3に記載の反応精留塔、
5.前記堰高さが、棚板1枚当たり0.5分未満の各混合物の平均滞留時間を保証する、前記1〜4に記載の反応精留塔、
6.ジルコニウムが、生成物に接触した部分の材料として使用される、前記1〜5に記載の反応精留塔、
7.メチオニンを製造するための、前記1〜6に記載の反応精留塔の使用
に関する。
【0014】
横断面積は、塔直径4により算出されうる。横断面積から、2つの流出セグメント2の面積を減じた場合に、ガス貫流面積が得られる。
【0015】
前記塔がシーブトレイ塔(図1参照)である場合、次の特徴が好ましい:
比率:全ての孔の面積の総和/ガス貫流面積:0.04〜0.08
シーブトレイにおける個々の孔の直径:5〜10mm。
【0016】
図1の上方には、シーブトレイの平面図が略示されており、かつ下方には、好ましい実施態様の塔の側面図の一部分が略示されている。前記側面図において、蒸気相5、液/蒸気相6および個々のトレイ上の液相7がわかる。
【0017】
本発明によれば、好ましくは、塔頂部を介して、水、アンモニア(NH3)およびCO2の他に、望ましくないアリル成分も留去される。特別な実施態様において、引き続き全てのNH3量またはその一部分は、ヒダントイン合成に凝縮導入される。反応蒸留の塔底部からの流れには、技術水準において公知であるようにさらにメチオニンに後処理される、メチオニンのアルカリ金属塩、有利にカリウム塩、および/またはMHAが存在する。
【0018】
熱媒体およびストリップ媒体として、有利に水蒸気が使用され、この水蒸気は、圧力下に最も下のシーブトレイの下方へ供給される。蒸気流の量、速度および温度は、とりわけ、ガス相が160℃〜170℃の温度で塔頂部から塔を離れる間に、反応蒸留塔の流出口において、180℃〜190℃の温度が達成される程度に制御される。8〜10バール(過圧)の圧力範囲は、記載された温度範囲に相応する。さらに、蒸気量は、所望の処理量に依存する。
【0019】
好ましくは、棚板間隔は、塔内の様々な反応相に適合されてよい。1つの実施態様において、NH3およびCO2のストリッピングを促進させるために、塔の上半分において、棚板間隔および堰高さは、有利により小さく保持され、他面、より長い滞留時間によって転化を完結させるために、塔の下半分において、棚板間隔および堰高さは、より大きい。
【0020】
好ましい実施態様において、塔の上方の棚板の場合の堰高さは、800〜1000mmの範囲内、有利に1000mmの棚板間隔の際に、100〜200mmの範囲内、有利に150mmであり、塔の中間の棚板の場合の堰高さは、700〜900mmの範囲内、有利に800mmの棚板間隔の際に、400〜600mmの範囲内、有利に500mmであり、および塔の下方の棚板の場合の堰高さは、800〜1000mmの範囲内、有利に1000mmの棚板間隔の際に、600〜800mmの範囲内、有利に700mmである。前記棚板間隔は、そのつど、1つの棚板からより深い棚板へ向かって決定される。15〜17枚の棚板を有する塔の場合、棚板1〜4は、上方の棚板に含まれ、棚板5〜11は、中間の棚板に含まれ、およびより深い棚板は、下方の棚板に含まれる。18〜21枚の棚板を有する塔の場合、好ましくは、棚板1〜5は、上方の棚板に含まれ、棚板6〜12は、中間の棚板に含まれ、およびより深い棚板は、下方の棚板に含まれる。22〜25枚の棚板を有する塔の場合、好ましくは、棚板1〜7は、上方の棚板に含まれ、棚板8〜16は、中間の棚板に含まれ、およびより深い棚板は、下方の棚板に含まれる。
【0021】
本願のさらなる対象は、メチオニン塩を連続的に製造する方法である。本発明による方法は、殊に、メチオニン塩への5−(2−メチルメルカプトエチル)−ヒダントインのアルカリ加水分解に適しており、その際にこの5−(2−メチルメルカプトエチル)−ヒダントインは、3−メチルメルカプトプロピオンアルデヒドとシアン化水素(HCN)とから製造されるかまたはこれらから製造可能な成分から製造された。本方法の好ましい実施態様において、前記反応精留塔の最も上の棚板上には、5−(2−メチルメルカプトエチル)−ヒダントイン含有溶液が供給され、他方で、アルカリ循環溶液がその下にある棚板上、有利に第2の棚板上に上方から供給される。好ましくは、アルカリ循環溶液は、アルカリ金属炭酸塩、特に炭酸カリウムを含有する。
【0022】
本発明は、殊に、
1.メチオニン塩を連続的に製造する方法であって、この方法が、請求項1から6までのいずれか1項に記載の反応精留塔内で実施される、前記方法、
2.次の工程
− 3−メチルメルカプトプロピオンアルデヒドとシアン化水素とを反応させるかまたはこれらから製造可能な成分を反応させる工程が実施され、その際に5−(2−メチルメルカプトエチル)−ヒダントイン含有溶液が得られ、
− 得られた5−(2−メチルメルカプトエチル)−ヒダントインを反応精留塔内でメチオニン塩へアルカリ加水分解する工程が実施され、その際に前記反応精留塔の最も上の棚板上には、5−(2−メチルメルカプトエチル)−ヒダントイン含有溶液だけが供給され、アルカリ循環溶液は、その下にある棚板上、有利に第2の棚板上に上方から供給される、前記1記載の方法、
3.アルカリ循環溶液は、アルカリ金属炭酸塩、特に炭酸カリウムを含有する、前記2記載の方法、
4.アリル成分、殊にアリルアルコールは、塔頂部を介して反応精留塔から除去される、前記1〜3記載の方法、
5.水、アンモニアおよびCO2は、塔頂部を介して反応精留塔から除去され、除去されたNH3は、全てまたは部分的に、5−(2−メチルメルカプトエチル)−ヒダントインの合成に縮合導入される、前記1〜4記載の方法、
6.前記反応精留塔の塔底部内でのアンモニアの濃度は、120ppm未満、有利に100ppm未満、たいてい有利に80ppm未満である、前記1〜5記載の方法、
7.前記アルカリ加水分解は、160℃〜190℃の範囲内の温度で実施される、前記1〜6記載の方法、
8.前記反応精留塔の流出口での反応混合物の温度は、180℃〜190℃の範囲内にある、前記7記載の方法、
9.前記反応精留塔の塔頂部でのガス相の温度は、160℃〜170℃の範囲内にある、前記7または8記載の方法、
10.前記アルカリ加水分解は、8バール(過圧)〜10バール(過圧)の範囲内の圧力で実施される、前記1〜9記載の方法、
11.前記反応精留塔内の熱媒体およびストリッピング媒体として、水蒸気が使用される、前記1〜10記載の方法
に関する。
【0023】
5−(2−メチルメルカプトエチル)−ヒダントイン(ヒダントイン誘導体とも呼称されるかまたは略してヒダントインとも呼称される)を製造する、好ましい出発物質は、3−メチルメルカプトプロピオンアルデヒド、シアン化水素、アンモニアおよび二酸化炭素である。
【0024】
前記反応の副生成物は、成分の5−(2−メチルメルカプトエチル)−ヒダントイン酸アミド、5−(メチルメルカプトエチル)−ヒダントイン酸、メチオニンアミドおよび微少量で別の成分の他に3−メチルメルカプトプロピオンアルデヒドシアンヒドリンである。これらは、アルカリ加水分解において、主要生成物と同様に反応されてメチオニンになる。加水分解の際に4−メチルメルカプト−2−ヒドロキシブタン酸になる3−メチルメルカプトプロピオンアルデヒドシアンヒドリンは、除かれている。ヒダントイン反応の際に生じる生成物混合物の正確な組成は、HPLCを用いて解明されうる。
【0025】
【化1】
【0026】
それとは別に、ヒダントインの製造の際に、先に合成されたMMPシアンヒドリンが使用されてもよい。前記反応吸収材において、NH3に対してMMPが約1対3のモル比で使用されることは、ヒダントイン誘導体へのMMPの完全な転化にとって好ましく、その際にヒダントイン合成の基本方程式は、次のとおりである(式I):
【化2】
【0027】
次の工程において、ヒダントイン誘導体は、アルカリ加水分解で反応されてメチオニンになる。メチオニンは、ラセミ体メチオニンを意味し、当該ラセミ体メチオニンは、D,L−メチオニンとも呼称される。好ましくは、本発明による方法のこの工程は、反応蒸留として運転されるシーブトレイ塔内で実施される。
【0028】
4−メチルメルカプト−2−ヒドロキシブタン酸(=メチオニンヒドロキシ類似体、MHA)への反応は、次の反応方程式に従って進行する。
【0029】
【化3】
【0030】
特許請求された方法において運転される、特にシーブトレイを装備している反応蒸留塔は、アンモニアの極めて有効な留去の他に、とりわけメチオニンのカリウム塩の形成下にヒダントインのアルカリ加水分解のための極めて好ましい反応操作を生じさせる。この反応操作は、式IIIに従って行なわれる。
【0031】
【化4】
【0032】
本発明による反応精留塔は、有利に結合された反応蒸留−反応吸収材システムにおいて運転される。このために必要とされるNH3量は、別々に準備されかつ計量供給される必要はなく、前記システム中で循環される。好ましくは、塔底生成物中のアンモニアの濃度は、120ppm未満、さらに有利に100ppm未満、たいてい有利に80ppm未満である。前記運転形式によって、好ましくは、「steady State:ステディ状態」において全て外部のNH3計量供給を省略することが可能である。
【0033】
ヒダントインの加水分解を実施した場合、シーブトレイ塔として設計された反応蒸留において、幾つかの好ましい効果を達成することができることが判明した。
【0034】
ヒダントインの加水分解の反応機構についての本発明者らの極めて独特の試験は、第1に安定した中間生成物、すなわちヒダントイン酸のカリウム塩が次の方程式(式IV)に応じて形成することを意外にも示した。
【0035】
【化5】
【0036】
ヒダントイン酸のさらなる加水分解による分解は、次の方程式に従って行なわれる(式V):
【化6】
【0037】
形成されたカリウム塩は、平衡反応を経て再びヒダントイン酸の塩に逆反応しうるので、反応中にアリル成分の他に効果的にアンモニアおよびCO2も液相から除去することは、技術的に必要とされる短い反応時間で可能なかぎり完全な転化にとって多大な利点である。そのために、1つの実施態様において、シーブトレイ塔が使用される。
【0038】
反応精留塔と反応吸収材との好ましい組合せは、メチオニンの製造を特別な方法で経済的に魅力のあるものにさせる、プロセス条件の提供を可能にする。したがって、反応蒸留−反応吸収材システムにおける安定したNH3ホールドアップを制御するために、さらなる実施態様において、意図的にガス状塔頂生成物から小さな部分流を取出しかつ廃棄することができる。こうして、生じる過剰のNH3を、環境保護的に、かつ価値の高い原料の損失を回避させながら前記システムから導出させることに成功する。
【0039】
前記反応精留塔は、1つ以上の棚板上または全ての棚板上に試料採取位置を有することができる。好ましくは、前記反応精留塔は、第4の棚板上ごとに、第3の棚板上ごとに、第2ないし第4または第3の棚板上ごとに、特に有利に第2の棚板上ごとに試料採取位置を有する。採取された試料は、有利に冷却され、かつ高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてヒダントイン、ヒダントイン酸、メチオニン、メチオニル−メチオニンについて試験される。NH3含量は、イオン選択性電極を用いて電位差測定により測定されうる。
【0040】
好ましい実施態様のシーブトレイ(図1参照)を装備した反応蒸留は、塔頂部から放出されるプロセス溶液1t当たり蒸気0.25t未満の蒸気量で運転されうる。このことは、全く予期しなかったことである。それというのも、反応蒸留における上記の高い圧力および上記の大きなNH3循環量の場合、使用されたMMP1t当たりNH3約0.4tの反応蒸留の塔頂部からの反応蒸留−反応吸収材システムを利用する際に、前記塔の塔底部を介する本質的により大きなNH3損失を前もって計算に入れることができたからである。使用された蒸気量に対する下限は、いわゆるシーブトレイのレイン限界(Regengrenze der Siebboeden)が達成されている場合にもたらされる。それについては、下方からの一定の減少されたガス流からますます液体は直接にシーブトレイの孔を通って流出(降下)し、もはや流出セグメント2(下降管)を介する予定された経路を取らないという効果であると解釈される。それによって、加水分解反応に対する滞留時間は、失われるであろうし、ひいては、反応蒸留の望ましい機能が損なわれる。本発明の反応システムについての詳細な試験において、上記の特殊な蒸気量のレイン限界(Regengrenze)は、50%であることが算出された。好ましくは、蒸気量は、プロセス溶液1t当たり蒸気0.13tないしプロセス溶液1t当たり蒸気0.4tの範囲内であり、たいてい有利には、プロセス溶液1t当たり蒸気0.20tないしプロセス溶液1t当たり蒸気0.25tの範囲内である。
【0041】
好ましい実施態様において、ジルコニウムは、反応蒸留において、および/または反応吸収材において、および/または後方反応器において、生成物に接触した部分に対する材料として使用される。これによって、生成物に接触した部分に対して影響が残る腐食損傷は、回避させることができる。反応蒸留と反応吸収との考えられうる、方法の組合せは、ジルコニウムが高価な材料であるという背景から特に好ましいことが証明される。それというのも、2つの方法の工程の緊密な関連によって、結合する管路の数および長さならびに緩衝容器の数は、最小になるからである。それによって、特許請求された方法は、全体的に極めて影響を与える。それというのも、当該方法は、環境を損なう重金属、例えばクロムおよびニッケルの腐食を引き起こした排出を回避するからである。さらに、プロセス工程の緊密な関連によって、前記塔の運転の際に生じる廃熱は、理想的には流入する流れの加熱のために、およびさらに蒸気導入ユニットの運転のために利用されることができる。
【0042】
本発明による反応システムは、塔内での反応成分の十分な滞留時間を保証する。同時に、材料のジルコニウムに対する高い費用のために、棚板の数を少なく維持しうることは好ましい。
【0043】
有利には、棚板は、シーブトレイである。別の普通の棚板構造(例えば、多孔板、バルブトレイまたはバブルキャップトレイ)は、使用可能であるが、しかし、材料のジルコニウムからの当該棚板構造の製造は、極めて困難であるという欠点を有する。したがって、本願においては、シーブトレイおよびシーブトレイ塔が引き合いに出される。しかし、本発明は、前記のシーブトレイおよびシーブトレイ塔に限定されるものではなく、明確に別記されていないかぎり、同様に、多孔板、バルブトレイもしくはバブルキャップトレイまたは多孔板塔、バルブトレイ塔もしくは泡鐘塔にも関連する。
【0044】
1つの実施態様において、反応蒸留塔は、160℃〜180℃の温度で8バール(過圧)〜10バール(過圧)の圧力範囲内で10分未満の滞留時間でヒダントインの定量的加水分解を可能にし、その際に前記塔は、棚板1枚当たり0.5分未満の平均滞留時間を保証する。その際に、堰高さは、個々のシーブトレイの滞留時間に対して本質的な影響をもつ(図1参照)。意外なことに、特許請求された反応システムにおいて、本質的に、技術水準(例えば、Mersmann,Thermische Verfahrenstechnik,第222頁,Springer Verlag,1980参照)において記載されている堰高さよりも高い堰高さが可能であることが判明した。そこには、最大60mmまでの堰高さが記載されており、他方で、特許請求した場合には、1000mmまでの堰高さが使用される。それによって、好ましい実施態様において、同時に前記塔の流出口での100ppm未満に減少されるNH3濃度の際に、材料としてのジルコニウムの使用量を最小化することに成功する。
【0045】
ヒダントインのアルカリ加水分解のために、有利にメチオニン塩の沈澱からの母液が使用される。この母液は、主にKHCO3としてのカリウム塩を含有する。この母液は、引き続きCO2および水を分離するために、有利に濃縮され、このことは、高い炭酸カリウム割合およびそれとともに高められた塩基度を有する溶液を生じ、この溶液は、加水分解反応に対して好ましい。
【0046】
前記蒸発濃縮工程の運転に必要とされるエネルギーは、特に適した方法で反応蒸留−反応吸収の組合せの廃熱から得ることができる。好ましい実施態様において、反応蒸留の運転に必要である蒸気量の生産に必要とされる水量は、蒸発濃縮工程の凝縮物から得られる。それと同時に、全てのメチオニン製造プロセスは、最も広範囲に及んで廃水不含になるように運転されることができ、このことは、生態的理由からより大きな利点である。
【0047】
特別な実施態様において、アルカリ加水分解のために、反応溶液は、最も上の棚板上に5−(2−メチルメルカプトエチル)−ヒダントインを含有する溶液だけが供給されかつアルカリ性カリウム循環溶液がその下にある棚板上、有利に第2の棚板上に上から供給される程度に反応精留塔内に導入される。それによって、ヒダントイン溶液から最初に有利にNH3、CO2およびHCNがストリッピングされ、かつヒダントイン反応に返送される。それによって、とりわけHCNの損失は、式VIに従って最小化され、同時にギ酸カリウムの形成は、回避される。
【0048】
ギ酸カリウムは、中性塩として、ヒダントインの加水分解を促進するためには不適当であり、したがって前記カリウム循環溶液から排出されなければならない。それと関連したカリウム損失は、KOHを使用することで補われる。したがって、前記反応蒸留の塔頂部でのヒダントイン溶液およびアルカリ性カリウム循環溶液の連続的な供給は、原料および廃棄の費用を回避させる。
HCN+2H2O→NH3+HCOOH VI
【0049】
好ましい実施態様において、シーブトレイを装備した反応蒸留を使用して有利に副生成物、例えばメチオニン−ジペプチドの形成は、抑制される。メチオニン−ジペプチドを発生させるために、出発化合物のヒダントインおよびメチオニンのカリウム塩を同時に存在させることが必要であるので、前記反応を回避させるために、反応成分を効率的に分離することは、好ましい。このことは、特に適した方法でシーブトレイを装備した反応蒸留において行なわれ、それというのも、このシステムにおいて、逆混合は、最も広範囲に及んで抑制されるからである。しかし、本発明は、これに限定されるものではなく、明確に別記されていないかぎり、同様に、多孔板、バルブトレイもしくはバブルキャップトレイまたは多孔板塔、バルブトレイ塔もしくは泡鐘塔に関連する。前記方法で、加水分解された反応混合物において、Met98モル%およびMet−ジペプチド2モル%の割合が予め見出され、その際に10分未満の滞留時間が必要とされる。
【0050】
有利に特許保護された、シーブトレイ塔におけるヒダントインのアルカリ加水分解の方法は、2つの相乗効果の利用によって副生成物のMet−ジペプチドの形成を最小にする。一方で、棚板構造によって、逆混合は、広範囲に及んで抑制されかつそれによってMet−ジペプチドの形成は抑制され、他方で、強力なストリッピング工程によって反応溶液中の塩基度が高められ、このことは、次の反応方程式によって表わされている。
CO32-+H2O→2OH-+CO2、ガス VII
【0051】
高められた塩基割合は、生じたMet−ジペプチドの分解を再び促進させる。この機序は、式VIIIにおいて表わされている:
【化7】
【0052】
それによって、特許請求された多段のシーブトレイ塔は、Met−ジペプチドの形成を最小にもするし、ジペプチドの加水分解による分解の促進もすることが明示され、このことは、副生成物の形成ならびに当該副生成物の廃棄と関連している損失を全て著しく低減する。
【0053】
十分な量の非揮発性塩基性化合物が反応マトリックス中に存在することは、特許保護された塔内でのメチオニンへのヒダントインの効率的な反応にとって根本的なことである。前記化合物は、カリウム塩、例えばKOH、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、カリウムメチオニネート、Met−ジペプチドのカリウム塩である。前記カリウム塩は、極めて広範囲に及んで再循環されるが、しかし、副反応において強酸のカリウム塩も生じるので、カリウム循環溶液中の塩基度を監視しかつ安定するように保持することは、重要なことである。
【0054】
したがって、特許保護された、連続的に運転する方法において、前記塩基度を殊に前記塔の出口で検出することは、重要なことである。そのために、試料が取り出され、かつこの試料は、環境温度への冷却後に古典的な酸塩基滴定にかけられる。有利に、前記塔の出口での反応混合物のpH値は、4と5の範囲内にある。有利に、反応の終結時での反応マトリックス中の塩基度の値は、鹸化された溶液1kg当たり塩基2.2〜2.8モルの範囲内、とりわけ鹸化された溶液1kg当たり塩基2.5モルである。より低い塩基度は、強化されたMet−ジペプチド形成および鹸化された生成物中のより高いNH3濃度を生じる。より高い塩基度の値は、製造されたMet量に対して、本方法におけるアルカリ性カリウム塩のより大きな循環量を動かさなければならないことを意味する。これは、エネルギー的にますます費用が掛かり、したがって非生産的である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1図1の上方には、シーブトレイの平面が示されており、かつ下方には、好ましい実施態様の塔の側面の一部分が示されている略図。
図2】メチオニンの連続的生産のために使用される、1メートルの直径および18個のシーブトレイを有するシーブトレイ塔を含む略示系統図。
図3】様々なシーブトレイ上の組成物の塔プロファイルを示すグラフ。
【実施例】
【0056】

実施例1
本発明のさらなる説明のために、図2を使用する。
【0057】
反応システムR−1内でヒダントインの製造は、行なわれる。原料HCNおよびMMPは、供給位置S−1およびS−2を介して約20倍量のヒダントイン反応溶液中に混入され、当該ヒダントイン反応溶液は、ポンプP−1によってポンプ循環される。
【0058】
熱交換器H−1は、熱導出に使用されかつ反応器内容物R−1を有利に100℃〜120℃の温度で保持する。それとは別に、MMPとHCNまたは別に製造されたMMPシアンヒドリンとからなる予備混合物は、ポンプP−1によってポンプ循環される流れに供給されてもよい。こうして製造され合わされた流れは、次に推進ジェットとしてジェットミキサー中で使用され、このジェットミキサーは、反応蒸留R−2の塔頂部からの部分凝縮された易揮発性物質(S−3)をヒダントインプロセス溶液と強力に接触させ、かつ反応器R−1中に返送する。水(S−4)でNH3が不含になるまで洗浄される流れS−5により、CO2を含む流れは、反応器R−1を離れる。このCO2を含む流れは、付随的に生じる。それというのも、式IIIにより、炭酸カルシウムの存在下でのヒダントインの加水分解の際に、式Iによるヒダントイン形成に必要とされるよりも多く、形成されたメチオニン1モル当たりCO20.5モルが化学量論的に生じるからである。こうして取得された、NH3不含のCO2の流れは、有利に米国特許第7655072号明細書B2の記載と同様に、結晶化メチオニンを単離する後処理部内に返送される。それというのも、当該後処理部内でアルカリ性プロセス溶液を中和するために、CO2が使用されるからである。
【0059】
液状のヒダントインを含む流れS−6は、反応を完結させるために、後方反応器R−3を介して導かれる。それによって、同時に加水分解反応器R−2中へのMMPシアンヒドリンの進入は、阻止される。反応蒸留R−2におけるエネルギー需要を最小にするために、ヒダントインを含むプロセス流S−6は、シーブトレイ塔R−2の最も上の棚板上の入口の前方で熱交換器H−2により有利に130℃へ予熱される。前記反応蒸留の棚板1上で、まず先に、有利になお存在するHCNが放出される。これは、さもないと、反応蒸留においてアルカリ性で行なわれる、ギ酸のカリウム塩へのHCNの加水分解を低減させる(式VI)。
【0060】
メチオニンへのヒダントインの加水分解は、ヒダントインを含むプロセス溶液とメチオニン塩の固体S−9への後処理の濃縮されたろ液に由来する流れS−8とが出会うと開始する。流れS−8は、反応蒸留(熱交換H−4)の塔底生成物からできる限り大量の熱を受け取り、こうして有利に170℃へ加熱される。蒸発器ユニットH−5を用いて、有利に、反応蒸留の運転のために、水源として後処理(流れS−7)からの凝縮物を使用することにより、蒸気が発生される。
【0061】
流れS−10を介して、望ましくないアリル成分が除去される。さらに、流れS−10は、特許請求され結合されたシステムにおけるアンモニア供給量を調整するために使用される。それというのも、一方で、ヒダントイン合成およびNH3およびギ酸への当該ヒダントインの加水分解における過剰のHCNの使用は、さらなるNH3量を生じ、このNH3量は、この位置で極めて選択的に、すなわちヒダントインまたはメチオニンの損失なしに排出されうるからである。蒸発器H−3は、ボイラー給水から圧力段階3バール(過圧)(130℃)の熱蒸気を発生させ、この熱蒸気は、有利にメチオニン母液の蒸発濃縮において使用される。それによって、理想的に170℃〜190℃の温度で運転される反応蒸留からの廃熱は、さらなる後処理に利用されることができ、それによって特許請求された方法によるメチオニンに対する全ての製造プロセスは、エネルギー的に極めて有利であり、したがって経済的に魅力のあるものである。
【0062】
実施例2
図2に示された、1メートルの直径および18個のシーブトレイを有するシーブトレイ塔は、メチオニンの連続的生産のために使用される。シーブトレイの配置、当該シーブトレイの間隔および堰高さは、次の表から判明する:
【表1】
【0063】
容器R−1は、3m3のホールドアップで運転され、後方反応器は、1m3のホールドアップを有する。ポンプP−1により、循環量は、42t/hに調節される。前記流れには、S−1の場合に、HCN442kg/h(16.92kmol/h)が供給され、かつS−2の場合に、MMP1688kg/h(16.24Kmol/h)が供給される。S−3を介して、凝縮物に対して11.6質量%のNH3含量を有する、6063kg/hの流れが反応蒸留の塔頂部から、循環されたプロセス溶液中に混入される。過剰のCO2ガス(400kg/h)は、塔頂部(S−4)で水770kg/hが衝突する洗浄塔を介して容器R−1を離れ、それによって排ガス流は、NH3が不含になるまで洗浄され、かつ次に再循環されうる。
【0064】
冷却器H−1を用いて、R−1の出口内の温度は、105℃に調節される。ヒダントイン反応溶液(S−6)は、反応の完結のために、後方反応器R−3を介して導かれ、熱交換器H−2中で130℃へ加熱され、かつ次にシーブトレイ塔の最も上の棚板上に供給される。棚板2上に熱交換器H−4で170℃に加熱された炭酸カリウム含有プロセス溶液14.14t/h(S−8)をポンプ輸送する。前記プロセス溶液は、次の成分を含有する:Met66g/kg、カリウム158g/kg、Met−Met48g/kg、MHA6.5g/kg、ギ酸塩12.5g/kg。塩基3.6mol/kgの塩基度。
【0065】
運転に必要とされる蒸気流(5470kg/h)は、蒸発器H−5(S−7)を用いて発生され、かつ最も下のシーブトレイの下方に供給される。塔頂部を経て蒸留された流れから、部分流S−10(54kg/h)は、分岐されかつ廃棄される。その際に、S−10中のアリルアルコールの量は、0.5〜1.7kg/hの範囲内にある。
【0066】
シーブトレイ塔の塔頂部での圧力は、8.2バール(過圧)であり、および熱交換器H−3の入口側の温度は、165℃である。全てのシーブトレイに関する差圧は、450ミリバールである。
【0067】
前記塔の塔底部内の温度は、189℃である。
【0068】
前記塔の出口から、22.15t/hの流れS−9が付随的に発生し、この流れは、Met149g/kg、Met−Met32g/kg、カリウム101g/kg、ギ酸塩8.2g/kg、MHA4.2g/kgを含有し、かつ塩基2.5mol/kgの塩基度を有する。
【0069】
シーブトレイ塔は、棚板2、4、6、8、10、12、14、16および18上に、試料採取位置が装備されている。試料は、直ちに冷却され、かつ高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてヒダントイン、ヒダントイン酸、メチオニン、メチオニル−メチオニンについて試験される。NH3含量は、イオン選択性電極を用いて電位差測定により測定されうる。アリルアルコールの濃度をアスペンシミュレーション(Aspen Simulation)により算出した。アリルアルコールの直接の分析は、粗製アクロレインにおいて、ならびにヒダントイン合成において行なわれる(R−1)。様々なシーブトレイ上の組成物は、次表中および図3中にまとめられている。
【0070】
【表2】
【0071】
滞留時間の測定のために、最初に流れS−6、S−7、S−8およびS−9を同時に停止させることにより、液体内容物を連続運転において測定する。塔底部におけるレベル上昇がもはや記録されなくなるまで時期を待ち、次にポンプ吐出によって塔底部おける出発レベルが再び回復される。ポンプ吐出された溶液の量は、2.4tである。連続運転において、処理量は、22.15t/hであるので、6.5分の液相の滞留時間がもたらされる。
図1
図2
図3