特許第6092221号(P6092221)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6092221メタクリル酸およびメタクリル酸エステルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6092221
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】メタクリル酸およびメタクリル酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/43 20060101AFI20170227BHJP
   C07C 57/05 20060101ALI20170227BHJP
   C07C 51/48 20060101ALI20170227BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20170227BHJP
   C07C 67/58 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   C07C51/43
   C07C57/05
   C07C51/48
   C07C69/54 Z
   C07C67/58
【請求項の数】13
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-530066(P2014-530066)
(86)(22)【出願日】2011年9月16日
(65)【公表番号】特表2014-528934(P2014-528934A)
(43)【公表日】2014年10月30日
(86)【国際出願番号】CN2011079764
(87)【国際公開番号】WO2013037131
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2014年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】390009128
【氏名又は名称】エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Evonik Roehm GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ジェラルド エイ. ジョーンズ
(72)【発明者】
【氏名】トアステン バルドゥーフ
(72)【発明者】
【氏名】ヘニング シェーファー
【審査官】 吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−279344(JP,A)
【文献】 特開昭57−144237(JP,A)
【文献】 特開昭56−092831(JP,A)
【文献】 特開昭54−115318(JP,A)
【文献】 特開2002−128728(JP,A)
【文献】 特表2005−537930(JP,A)
【文献】 特表2003−503187(JP,A)
【文献】 特表2010−528080(JP,A)
【文献】 特表2014−528935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸およびメタクリル酸エステルの少なくとも1つの製造方法であって、以下の工程段階を含む方法:
a1) 少なくとも1つのC4化合物を気相酸化して、メタクリル酸を含む反応相を得る段階;
a2) 前記反応相を急冷して、メタクリル酸を含む粗製水相を得る段階;
a3) メタクリル酸を含む粗製水相から、メタクリル酸の少なくとも一部を有機溶剤中へと抽出して、メタクリル酸を含む粗製有機相および第一の水相を得る段階、
ここで、前記第一の水相は、以下の成分を含む:
i. 第一の水相の総質量に対して、少なくとも65質量%の水、および
ii. 第一の水相の総質量に対して、35質量%以下の、抽出剤として使用された有機溶剤以外の少なくとも1つの有機化合物、
ここで、iおよびiiの質量の合計は100質量%になる;
a4) メタクリル酸を含む粗製有機相からメタクリル酸の少なくとも一部を分離し且つ随意に精製する段階;
a5) 段階a4)において得られたメタクリル酸の少なくとも一部を随意にエステル化する段階;
b) 工程段階a3)において得られた第一の水相の少なくとも一部から、水の少なくとも一部を結晶化して、第二の水相としての結晶化された水相および母液を形成する段階、その際、母液は少なくとも1つの成分iiを含む;
c) 結晶化された水相を、母液から少なくとも部分的に分離する段階
d)工程段階c)において分離された母液を少なくとも部分的に脱水して、少なくとも部分的に脱水された母液を得る段階、e)少なくとも1つの成分iiの少なくとも一部を、工程段階c)において得られた母液から、または工程段階d)において得られた少なくとも部分的に脱水された母液から分離する段階の少なくとも1つ、
f)結晶化された水相を溶融して、第三の水相として結晶化された水相の溶融物を得る段階を含み、その際、結晶化された水相の溶融物を、少なくとも1つの生物学的精製処理にみちびくことに供する。
【請求項2】
少なくとも1つの生物学的精製処理が、好気性処理および嫌気性処理の少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
結晶化された水相または結晶化された水相の溶融物が、それぞれの水相の総質量に対して、5000ppm未満の有機化合物を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程段階e)において分離された少なくとも1つの成分iiが、少なくとも2つの成分iiの混合物であり、且つ、さらなる工程段階g)において、少なくとも1つの成分iiが、この混合物から少なくとも部分的に分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
成分iiの少なくとも1つの有機化合物が、カルボン酸、アルデヒドおよびケトンから選択される少なくとも1つの有機化合物である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの成分iiが、酢酸、アクリル酸、プロピオン酸、およびメタクリル酸の少なくとも1つであるか、または酢酸、アクリル酸、プロピオン酸、およびメタクリル酸の少なくとも1つを含む、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程段階e)およびg)の少なくとも1つにおいて分離された少なくとも1つの成分iiが、メタクリル酸であるかまたはメタクリル酸を含み、且つ、このメタクリル酸の少なくとも一部が、工程段階a2)において得られた粗製水相および工程段階a3)において得られた粗製有機相の少なくとも1つに添加される請求項4に記載の方法。
【請求項8】
工程段階e)およびg)の少なくとも1つにおいて分離された、または工程段階d)において得られた脱水された母液中に含まれる、少なくとも1つの成分iiの少なくとも一部、または工程段階a3)において得られた第一の水相の少なくとも一部を、工程段階:
h) エステル化して、少なくとも1つのエステルを含むエステル相を得る段階
に供する、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記エステル相が、少なくとも2つのエステルを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
さらに、工程段階
j) 少なくとも1つのエステルを、エステル相から少なくとも部分的に分離する段階、
k) 工程段階j)において分離された少なくとも1つのエステルを随意に精製する段階
を含む、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つのエステルが、C1〜C4−カルボン酸およびC1〜C4−アルコールに基づく、請求項8から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
さらに、
aa1) メチルtert−ブチルエーテルを解離させて、少なくとも1つのC4化合物とメタノールとを得る段階
を含み、前記少なくとも1つのC4化合物の少なくとも一部を原料として工程段階a1)の少なくとも1つの気相酸化に供給する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
工程段階e)において分離された少なくとも1つの成分iiが、少なくとも2つの成分iiの混合物であり、且つ、さらなる工程段階g)において、少なくとも1つの成分iiが、この混合物から少なくとも部分的に分離され、工程段階e)およびg)の少なくとも1つにおいて分離された、または工程段階d)において得られた脱水された母液中に含まれる、少なくとも1つの成分iiの少なくとも一部、または工程段階a3)において得られた第一の水相の少なくとも一部を、工程段階:h) エステル化して、少なくとも1つのエステルを含むエステル相を得る段階に供し、工程段階aa1)において得られたメタノールを、工程段階h)に供給する、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル酸の製造方法、メタクリル酸エステルの製造方法、および少なくとも1つの有機化合物を含む水相の処理方法に関する。
【0002】
メタクリル酸(MMA)およびメタクリル酸エステル、例えばメチルメタクリレート(MMA)およびブチルメタクリレートは、広範な用途において使用される。メタクリル酸の商業的な製造は、とりわけ、イソブチレン、tert−ブタノール、メタクロレインまたはイソブチルアルデヒドの、不均一触媒気相酸化によって行われる。そのように得られたガス状の反応相を、冷却および凝縮によってメタクリル酸水溶液へと変換し、随意に低沸点物質、例えばアセトアルデヒド、アセトン、酢酸、アクロレインおよびメタクロレインから分離し、その後、溶剤抽出塔へと導入して、適した抽出剤、例えば短鎖炭化水素を用いてメタクリル酸を抽出し且つ分離する。分離されたメタクリル酸をさらに、例えば蒸留によって精製して、高沸点の不純物、例えば安息香酸、マレイン酸およびテレフタル酸を分離し、純粋なメタクリル酸を得る。かかる公知の方法は、例えばEP0710643号、US4618709号、US4956493号、EP386117およびUS5248819号内に記載されている。
【0003】
かかる公知の方法は、様々な工程段階で多量の廃水を生成し、その中でも、急冷相からのメタクリル酸の抽出後に残っている水相の形態であるものが最も多い。その水は主に、気相酸化段階へと添加される蒸気または水、および冷却および凝縮段階における急冷剤としての水の使用、並びにそれ自体の酸化反応に由来する。この廃水は、著しい量の有機化合物を含有し、且つ、少なくとも部分的にそれらの有機化合物を除去するためのさらなる処理をすることなく、再利用または安全に処分することができない。かかる有機化合物は一般に、有機抽出剤への不完全な抽出により、所望の生成物、例えばメタクリル酸を含み、並びに、酸化段階の他の副生成物、例えばアクリル酸、酢酸およびプロピオン酸を含み、それらも商業的な価値がある。この廃水中の有機物含有率は、かなりの希釈、著しい時間および非常に大きな処理設備を必要とすることなく、水処理方法、例えば生物学的処理、例えば活性スラッジ法に適合させるためには一般に高すぎるので、商業的なメタクリル酸の生産においては、廃水は多くの場合、例えばUS4618709号内に記載されるとおり、燃焼される。しかしながら、廃水の燃焼は、環境的にも経済的にも望ましくなく、高いエネルギー入力を必要とし、環境中に放出する前にさらなる処理を必要とすることがある放出物をもたらし、且つ、廃水中に存在する潜在的に価値がある有機化合物の損失並びに廃水それ自体の損失ももたらす。
【0004】
従って、廃水中に存在する有機化合物を少なくとも部分的に回収できることが有利である。例えばさらなる処理をすることなく生物学的処理に供し且つ/または環境中に排出されるために充分に低い有機含有率で、または例えば工業的なプロセス水としてまたは反応それ自体において、例えば酸化および/または急冷段階において、その水が再利用可能であるために充分な純度で、少なくともいくらかの廃水それ自体を回収することも有利である。CN1903738号は、膜分離装置を使用し、次に清留塔を使用してアクリル酸の生産からの廃水を精製し、且つ、アクリル酸、トルエンおよび酢酸を回収することを提案している。膜ろ過の欠点は、フィルターを通り抜けない成分を洗い流すために、一般に大量の水(多くの場合、廃水それ自体が使用される)が必要とされることである。その際、有機化合物の濃度が高められたこの洗浄水を、それ自体、さらに処理するかまたは燃焼しなければならない。
【0005】
本発明の課題は、一般に、従来技術の方法の前記の欠点を可能な限り克服または回避することである。
【0006】
さらなる課題は、有機化合物をプロセスの廃水から回収することによって、メタクリル酸の製造方法の全体的な効率および/または収率を向上させることである。
【0007】
本発明のさらなる課題は、有機化合物による廃水の汚染を可能な限り低減し、有機化合物と共に燃焼するよりは、その水を再利用でき、生物学的精製工程に供することができ、または随意に生物学的精製工程または他の種の精製工程の後、環境中に排出することができるようにすることである。
【0008】
上記の課題を解決するために、以下の工程段階を含むメタクリル酸およびメタクリル酸エステルの少なくとも1つの製造方法が寄与する:
a1) 少なくとも1つのC4化合物を気相酸化して、メタクリル酸を含む反応相を得る段階;
a2) 前記反応相を急冷して、メタクリル酸を含む粗製水相を得る段階;
a3) メタクリル酸を含む粗製水相から、メタクリル酸の少なくとも一部を有機溶剤中へと抽出して、メタクリル酸を含む粗製有機相および第一の水相を得る段階、
ここで、前記第一の水相は、以下の成分を含む:
i. 第一の水相の総質量に対して、少なくとも65質量%、好ましくは65質量%〜99.9質量%の範囲、より好ましくは70質量%〜99.8質量%の範囲の水、さらにより好ましくは75質量%〜99質量%の範囲、より好ましくは76質量%〜98.5質量%の範囲、より好ましくは77質量%〜98質量%の範囲、さらにより好ましくは78質量%〜97.5質量%の範囲、さらにより好ましくは79質量%〜95質量%の範囲、さらにより好ましくは80質量%〜90質量%の範囲の水、および
ii. 第一の水相の総質量に対して、35質量%以下、好ましくは0.1質量%〜35質量%の範囲、好ましくは0.2質量%〜30質量%の範囲、より好ましくは1質量%〜25質量%の範囲、さらにより好ましくは1.5質量%〜24質量%の範囲、より好ましくは2質量%〜23質量%の範囲、さらにより好ましくは2.5質量%〜22質量%の範囲、さらにより好ましくは5質量%〜21質量%の範囲、さらにより好ましくは10質量%〜20質量%の範囲の、抽出剤として使用された有機溶剤以外の少なくとも1つの有機化合物、
ここで、iおよびiiの質量の合計は100質量%になる;
a4) メタクリル酸を含む粗製有機相からメタクリル酸の少なくとも一部を分離し且つ随意に精製する段階;
a5) 段階a4)において得られたメタクリル酸の少なくとも一部を随意にエステル化する段階;
b) 工程段階a3)において得られた第一の水相の少なくとも一部から、水の少なくとも一部を結晶化して、第二の水相としての結晶化された水相および母液を形成する段階、その際、母液は少なくとも1つの成分iiを含む;
c) 結晶化された水相を、母液から少なくとも部分的に分離する段階。
【0009】
上記の課題を解決するために、以下の工程段階を含む、少なくとも1つの有機化合物を含む水相の処理方法も寄与する:
a) 以下の成分を含む第一の水相を準備する段階:
i. 第一の水相の総質量に対して、少なくとも65質量%、好ましくは65質量%〜99.9質量%の範囲、より好ましくは70質量%〜99.8質量%の範囲の水、さらにより好ましくは75質量%〜99質量%の範囲、より好ましくは76質量%〜98.5質量%の範囲、より好ましくは77質量%〜98質量%の範囲、さらにより好ましくは78質量%〜97.5質量%の範囲、さらにより好ましくは79質量%〜95質量%の範囲、さらにより好ましくは80質量%〜90質量%の範囲の水、および
ii. 第一の水相の総質量に対して、35質量%以下、好ましくは0.1質量%〜35質量%の範囲、好ましくは0.2質量%〜30質量%の範囲、より好ましくは1質量%〜25質量%の範囲、さらにより好ましくは1.5質量%〜24質量%の範囲、より好ましくは2質量%〜23質量%の範囲、さらにより好ましくは2.5質量%〜22質量%の範囲、さらにより好ましくは5質量%〜21質量%の範囲、さらにより好ましくは10質量%〜20質量%の範囲の、少なくとも1つの有機化合物、
ここで、iおよびiiの質量の合計は100質量%になる;
b) 第一の水相の少なくとも一部から、水の少なくとも一部を結晶化して、第二の水相としての結晶化された水相および母液を形成する段階、その際、母液は少なくとも1つの成分iiを含む;
c) 結晶化された水相を、母液から少なくとも部分的に分離する段階。
【0010】
本発明による方法の段階a1)において気相酸化に供されるC4化合物は、好ましくはイソブチレン、tert−ブチルアルコール、イソブチルアルデヒドおよびメタクロレインから選択されるC4化合物、またはそれらの2つまたはそれより多くの混合物である。本発明の好ましい態様において、C4化合物はメチルtert−ブチルエーテル(MTBE)またはエチルtert−ブチルエーテル(ETBE)の解離から誘導される。
【0011】
本発明による方法の段階a1)における気相酸化は、好ましくは少なくとも1つの酸化触媒の存在下で行われる。C4化合物がイソブチレンまたはtert−ブチルアルコールである場合、メタクリル酸を含む気相を得るための気相酸化を一段階で行うことができ、この場合、本願の文脈における一段階とは、メタクロレインへの最初の酸化とメタクリル酸へのさらなる酸化とが、実質的に同じ反応領域において少なくとも1つの触媒の存在下で行われることを意味するとみなされる。選択的に、段階a1)における気相酸化を、1つより多くの段階、好ましくは二段階で、好ましくは互いに分離された2つまたはそれより多くの反応領域において行うことができ、この場合、2つまたはそれより多くの触媒が好ましくは存在し、各々の触媒は好ましくは互いの触媒とは別途の反応領域内に存在する。二段階の気相酸化においては、第一の段階で、好ましくは、C4化合物がメタクロレインへと少なくとも部分的に酸化され、続いてメタクロレインがメタクリル酸へと少なくとも部分的に酸化される。従って、例えば、第一の反応段階において、好ましくは、少なくとも1つのC4化合物のメタクロレインへの酸化のために適した少なくとも1つの触媒が存在し、且つ、第二の反応段階において、メタクロレインのメタクリル酸への酸化のために適した少なくとも1つの触媒が存在する。
【0012】
気相触媒酸化のための適した反応条件は、例えば温度約250℃〜約450℃、好ましくは約250℃〜約390℃、および圧力約1atm〜約5atmである。空間速度は、約100〜約6000時間-1(NTP)、および好ましくは約500〜約3000時間-1で変化できる。C4原料、例えばイソブチレンの、メタクロレインおよび/またはメタクリル酸への酸化、例えば気相触媒酸化、並びにそのための触媒は、文献、例えばUS5248819号、US5231226号、US5276178号、US6596901号、US4652673号、US6498270号、US5198579号、US5583084号からよく知られている。
【0013】
イソブチレンまたはtert−ブタノールのメタクロレインおよび/またはメタクリル酸への酸化のために適した特に好ましい触媒および方法は、EP0267556号内に記載され、且つ、メタクロレインのメタクリル酸への酸化のために適した特に好ましい触媒および方法は、EP0376117号内に記載されている。これらの文献は、参照をもって本願内に含まれ、且つ、本発明の開示の一部を形成する。
【0014】
本発明による方法における、メタクロレインからメタクリル酸への気相酸化は、好ましくは温度約250〜約350℃およびそれ未満、圧力約1〜約3atm、および容積負荷約800〜約1800Nl/l/hで行われる。
【0015】
酸化剤として、一般には酸素が、例えば空気の形態で、または純粋な酸素、もしくは反応条件下で不活性な少なくとも1つのガス、例えば窒素、一酸化炭素および二酸化炭素の少なくとも1つで希釈された酸素の形態で使用され、この際、酸化剤としては空気が好ましく、且つ、希釈ガスとしては窒素および/または二酸化炭素が好ましい。二酸化炭素が希釈ガスとして使用される場合、好ましくは、これは燃焼、好ましくは反応ガスおよび/または副生成物の触媒燃焼または熱的燃焼からリサイクルされた二酸化炭素である。本発明による方法の段階a1)における気相酸化に供されるガスは、好ましくは水も含み、それは一般には水蒸気の形態で存在する。酸素、単数または複数の不活性ガス、および水を反応相に導入するか、または気相反応の前もしくは気相反応の間、または気相反応の前および間に、C4化合物と混合できる。
【0016】
本発明による方法の好ましい実施態様において、少なくとも1つのC4化合物、空気または酸素およびリサイクルされた酸化反応器流出ガス、好ましくはリサイクル前に燃焼された反応器流出ガスを含む混合物を、段階a1)に供給する。反応器流出ガスは好ましくは、分離条件、および燃焼段階の存在および燃焼段階の作用に依存して、少なくとも1つの未反応のC4化合物、少なくとも1つの炭素酸化物、窒素および酸素、並びに水を含む。
【0017】
本発明による二段階の気相酸化において、第一の段階におけるC4化合物:O2:H2O:不活性ガスの好ましい容積比は、一般に、1:0.5〜5:1〜20:3〜30、好ましくは1:1〜3:2〜10:7〜20である。第二の段階におけるメタクロレイン:O2:H2O:不活性ガスの容積比は、好ましくは1:1〜5:2〜20:3〜30、好ましくは1:1〜4:3〜10:7〜18である。
【0018】
本発明による方法の段階a2)において、メタクリル酸を含む気相を冷却し且つ凝縮して(一般に急冷として知られる)、粗製メタクリル酸含有水溶液の形態での凝縮物を得る。前記凝縮を当業者に公知であり且つ適していると考えられる任意の手段によって、例えばメタクリル酸含有気相をその成分の少なくとも1つ、特に水およびメタクリル酸の少なくとも1つの露点未満の温度に冷却することによって行うことができる。適した冷却方法は、当業者に公知であり、例えば少なくとも1つの熱交換器を用いた、または急冷による、例えば気相に液体、例えば水、水性組成物または有機溶剤、例えば芳香族または脂肪族炭化水素、またはそれらの少なくとも2つの混合物を噴霧することによる冷却であり、その際、好ましい有機溶剤は急冷条件下で比較的低い蒸気圧を有し、例えばヘプタン、トルエンまたはキシレンであり、その際、水が本発明による急冷液として好ましく、且つ、急冷段階自体において形成された凝縮物の少なくとも一部がさらにより好ましい。適した急冷方法は、例えばDE2136396号、EP297445号、EP297788号、JP01193240号、JP01242547号、JP01006233号、US2001/0007043号、US6596901号、US4956493号、US4618709号、US5248819号から当業者に公知であり、アクリル酸およびメタクリル酸の急冷に関するその開示は本願に含まれ、本開示の一部を形成する。本発明によれば、気相を40〜80℃の温度に冷却し、水および/または急冷段階からの凝縮物で洗浄して、メタクリル酸を含む水溶液を得ることが好ましく、前記メタクリル酸を含む水溶液は、種々の量の不純物、例えば酢酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、アクリル酸およびギ酸、並びにアルデヒド、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アクロレイン、メタクロレイン、ケトンおよび未反応の単数または複数のC4化合物も含んでいることがある。高純度のメタクリル酸を得るためには、それらの不純物並びに水を、可能な最大限まで、メタクリル酸から分離しなければならない。
【0019】
粗製メタクリル酸含有水溶液からの、少なくとも一部のメタクリル酸の抽出を、工程段階a3)において、有機抽出剤、例えば少なくとも1つの有機溶剤、好ましくは本質的に水と不混和性の少なくとも1つの溶剤を用いて行い、水相および有機相を形成できる。本発明による方法の段階c)において使用できる好ましい有機溶剤は、メタクリル酸の沸点とは異なる、好ましくはそれよりも低い沸点を有する。好ましくは、本発明による方法において、工程段階a3)において使用される有機抽出剤は、大気圧で測定して161℃未満の沸点を有する。その際、有機抽出剤を、例えば蒸留によって、好ましくは少なくとも部分的に、好ましくは本発明による方法の段階a4)における実質的な程度で、原理的にメタクリル酸から分離でき、ここで、それは好ましくは少なくとも部分的に低沸点物として、蒸留装置内で、純粋なメタクリル酸よりも高い水準で除去される。分離された有機抽出剤またはそれらの一部を、随意に少なくとも1つの冷却および/または精製段階の後に、工程段階a3)に返送できる。この段階のための好ましい有機溶剤は、特に、アルカン、および芳香族、好ましくはアルキル芳香族、炭化水素から選択され、その際、C6〜C8−炭化水素から選択される少なくとも1つの有機溶剤が好ましく、その際、ヘプタン、トルエンおよびキシレンが特に好ましく、且つヘプタン、好ましくはn−ヘプタンが最も好ましい。抽出を、当業者に公知であり且つ適していると考えられる任意の手段によって、好ましくは向流抽出によって、例えば溶剤抽出塔、パルス充填塔もしくは充填塔、回転抽出機、洗浄塔、相分離器、または有機相を用いた水相の抽出および水相からの有機相の分離に適した他の装置を用いて実施できる。本発明によれば、少なくとも一部、好ましくは少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも約70質量%、好ましくは少なくとも約80質量%、より好ましくは少なくとも約90質量%の、メタクリル酸水溶液中に含まれるメタクリル酸を有機相に抽出することが好ましい。
【0020】
2つの相: 本発明による方法の段階a4)に導かれるメタクリル酸含有粗製有機相と、成分iおよびii(水および少なくとも1つの有機化合物)を上述の量で含む第一の水相とが、本発明による方法の段階a3)においてそのように得られる。第一の水相中で成分iiとして含まれることがある有機化合物は、気相酸化反応の間に形成される任意の有機化合物、例えば急冷段階において得られた粗製水相に関連して上述されたもの、並びに未反応のC4化合物、および水相中に残留している任意のメタクリル酸である。第一の水相が、例えば分離が不完全であったために工程段階a3)における抽出剤として使用された少量の有機溶剤を含むことがあるが、この有機溶剤は、好ましくは本発明による成分iiの有機化合物としてはみなされない。
【0021】
本発明による方法の段階a4)において、段階a3)において得られたメタクリル酸を含む粗製有機相を分離、好ましくは熱分離法に供して、工程段階a3)において抽出剤として使用された有機溶剤から、そこに含まれるメタクリル酸の少なくとも一部を分離する。熱分離が使用される場合、これは、好ましくは蒸留であり、それによって工程段階a3)における抽出のために使用された有機溶剤が好ましくは蒸留塔の塔頂生成物として、もしくは蒸留塔のより高い水準で取り出される一方で、メタクリル酸またはメタクリル酸を多く含む相は、蒸留塔の塔底生成物として、もしくは抽出剤よりも低い水準で取り出される。例えば分留塔または精留塔を使用して、メタクリル酸よりも高い沸点を有する不純物が塔底生成物内に残留し、且つより高純度のメタクリル酸を、塔の底部よりも高い水準で取り出すことができるようにすることも可能である。抽出のために使用される有機溶剤が、メタクリル酸の沸点よりも高い沸点を有する場合、メタクリル酸相を塔頂部および/または塔のより高い水準で取り出すことも可能である。そのように得られたメタクリル酸またはメタクリル酸を多く含む相のさらなる精製は、さらなる熱工程、例えば蒸留または精留によって、または他の手段によって、例えば結晶化によるものであってよい。本発明による方法において、工程段階a4)の前またはその間に、中間段階、例えば低沸点物または高沸点物を分離するための1つまたはそれより多くのストリッピングまたは蒸留、固体の不純物を除去するためのろ過、結晶化、洗浄およびその種のものが含まれてもよい。精製および他の分離段階の数は、汚染物質の量およびメタクリル酸最終生成物の所望の純度に依存する。メタクリル酸がそのままで、例えばメタクリル酸ポリマーの調製のためのモノマーまたはコモノマーとして使用される場合、特に最終用途に依存して、より高い純度が好ましいことがある。メタクリル酸がエステル化される場合、例えばエステルの最終生成物を、メタクリル酸より単純に、より効果的に、またはより効率的に精製できるのであれば、より低い純度のメタクリル酸が許容可能である。
【0022】
そのように得られたメタクリル酸の少なくとも一部の、工程段階a5)におけるエステル化を、当業者に公知であり且つ適していると考えられる任意の方法で、随意にメタクリル酸および/またはメチルメタクリレートの重合を妨げるための重合阻害剤の存在中で、行うことができる。段階a5)におけるエステル化の実施手段は特に限定されない。エステル化を、例えばUS6469202号、JP1249743号、EP1254887号、US4748268号、US4474981号、US4956493号またはUS4464229号内に記載されるように実施でき、アクリル酸およびメタクリル酸のエステル化に関するそれらの開示は本願に含まれ、且つ本開示の一部を形成する。液相のエステル化が好ましい。エステル化がメタクリル酸とアルコールとの間の直接反応によって生じる場合、適した触媒によって反応を触媒することが好ましい。エステル化触媒は当業者に公知であり、且つ、例えば、不均一触媒または均一触媒、例えば固体状態の触媒または液体の触媒を含む。エステル化触媒は、好ましくは酸性のイオン交換樹脂、例えばUS6469292号、JP1249743号、EP1254887号内に記載されるもの、またはAmberlyst(登録商標)(Rohm and Haas Corp.)、Dowex(登録商標)(Dow Corp.)またはLewertit(登録商標)(Lanxess AG)の商品名で市販されているもの、またはエステル化を触媒できる酸、例えば硫酸、H2SO4である。
【0023】
本発明による工程段階a5)において調製されるメタクリレートエステルは、好ましくは式[CH2=C(CH3)C(=O)O]n−Rを有し、且つ、メタクリル酸と式R(OH)mのアルコールとのエステル化によって形成でき、前記式中、nおよびmは1〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜5、より好ましくは1〜4、より好ましくは1〜3の整数を表し、且つ、Rは線状または分枝の、飽和または不飽和の、脂肪族または芳香族の、環式または直鎖の炭化水素、および線状または分枝の、飽和または不飽和の、脂肪族または芳香族の、環式または直鎖のヘテロ原子含有炭化水素、例えばアルキル、ヒドロキシアルキル、アミノアルキル、他の窒素および/または酸素含有基、グリコール、ジオール、トリオール、ビスフェノール、脂肪酸基からなる群から選択され、ここでRは好ましくはメチル、エチル、プロピル、イソ−プロピル、ブチル、特にn−ブチル、イソ−ブチル、ヒドロキシエチル、好ましくは2−ヒドロキシエチル、およびヒドロキシプロピル、好ましくは2−ヒドロキシプロピルまたは3−ヒドロキシプロピル、2−エチルヘキシル、イソデシル、シクロヘキシル、イソボルニル、ベンジル、3,3,5−トリメチルシクロヘキシル、ステアリル、ジメチルアミノエチル、ジメチルアミノプロピル、2−tert−ブチルアミノエチル、エチルトリグリコール、テトラヒドロフルフリル、ブチルジグリコール、メトキシポリエチレングリコール−350、メトキシポリエチレングリコール500、メトキシポリエチレングリコール750、メトキシポリエチレングリコール1000、メトキシポリエチレングリコール2000、メトキシポリエチレングリコール5000、アリル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール400、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセロール、ジウレタン、エトキシ化ビスフェノールA、10個のエチレンオキシド単位を有するエトキシ化ビスフェノールA; トリメチロールプロパン、例えば25個のエチレンオキシド単位を有するエトキシ化C16〜C18−脂肪アルコール、2−トリメチルアンモニウムエチルを表す。
【0024】
メタクリル酸エステルを、当業者に公知の他の方法によって、例えばエステル交換反応によって、メチルメタクリレートから調製することもできる。ヒドロキシエステル誘導体のさらなる可能な調製において、本発明によるメタクリル酸を、相応の酸素含有環、例えばエポキシド、特にエチレンオキシドまたはプロピレンオキシドとの開環反応において反応させることができる。
【0025】
好ましいメタクリル酸エステルは、アルキルメタクリレート、特にメチル、エチル、プロピル、イソ−プロピル、ブチル、メタクリレート、特にメチル、n−ブチル、イソ−ブチル、sec−ブチルメタクリレート、特にメチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ヒドロキシエステルメタクリレート誘導体、例えばヒドロキシエチルメタクリレート、好ましくは2−ヒドロキシエチルメタクリレート、およびヒドロキシプロピルメタクリレート、好ましくは2−ヒドロキシプロピルメタクリレートまたは3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、および他のメタクリレートエステル、例えばエチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、3,3,5−トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、2−tert−ブチルアミノエチルメタクリレート、エチルトリグリコールメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ブチルジグリコールメタクリレート、メトキシポリエチレングリコール−350メタクリレート、メトキシポリエチレングリコール500メタクリレート、メトキシポリエチレングリコール750メタクリレート、メトキシポリエチレングリコール1000メタクリレート、メトキシポリエチレングリコール2000メタクリレート、メトキシポリエチレングリコール5000メタクリレート、アリルメタクリレート、エトキシ化された(随意に例えば25モルのEOを有する)C16〜C18−脂肪酸アルコールのメタクリル酸エステル、2−トリメチルアンモニウムエチルメタクリレートクロリド; エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール200ジメタクリレート、ポリエチレングリコール400ジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、ジウレタンジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシ化(随意に、例えば、10個のEOを有する)ビスフェノールAジメタクリレート; トリメチロールプロパントリメタクリレートであり、その際、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレートおよびヒドロキシエステルメタクリレート誘導体が特に好ましい。
【0026】
本発明による方法の工程段階b)において、第一の水相の少なくとも一部を結晶化に供して、結晶化された水相を得て、その際、この相の水は結晶化された形態で存在し、且つ、母液は少なくとも1つの成分iiを含む。工程段階b)における結晶化を、連続的またはバッチ式について当業者に公知の方法によって、好ましくは連続的な結晶化、例えば動的な結晶化または静的な結晶化、またはその2つの組み合わせ、例えば溶融結晶化、スクラッチ冷却結晶化(scratch cooling crystallisation)、分別結晶化、層結晶化、懸濁結晶化、流下膜結晶化およびその種のもの、またはそれらの2つまたはそれより多くの組み合わせによって行うことができ、その際、好ましくは連続結晶化法における懸濁溶融結晶化(suspension melt crystallisation)が好ましい。本発明による方法の段階b)の好ましい態様において、結晶化を2段階で行うことができ、その際、第一の段階において、結晶が例えば冷却された表面上に形成し、且つ、第二の段階において、それらの結晶が成長し、且つサイズが増加する。その2つの段階を、実質的に互いに同じ領域で行ってもよいし、または、それぞれの段階を別途の領域で行ってもよい。本発明による方法において懸濁溶融結晶化が行われる場合、結晶化が少なくとも1つの結晶化および溶融サイクルで行われることが好ましい。本発明による懸濁溶融結晶化の好ましい態様においては、結晶化された水の溶融物の少なくとも一部を、結晶化された水の少なくとも一部を洗浄するために使用する。アクリル酸および/またはメタクリル酸の精製に関して適した方法は、例えばWO02/055469号、WO99/14181号、WO01/77056号、US5504247号内に記載され、結晶化、特にWO01/77056号およびWO02/055469号内に開示される懸濁溶融結晶化に関するそれらの開示は参照を持って本願内に含まれ、且つ、本開示の一部を形成する。水が第一の水相中で1つまたはそれより多くの成分iiとの共晶混合物を形成する場合、可能な限り純粋な、結晶化された(第二の)水相における水を得るために、水を好ましくは共融点付近で晶出するのみである。
【0027】
本発明による方法の段階c)において、第二の水相として結晶化された水相が少なくとも部分的に母液から分離される。分離を、当業者に公知であり且つ適していると考えられる任意の手段によって、好ましくはろ過、遠心分離、相分離、または他の固体と液体との分離手段の少なくとも1つによって、好ましくはろ過、遠心分離、または相分離によって実施でき、その際、結晶の洗浄は、例えば母液、結晶化された水相の溶融物、および水の少なくとも1つを用いた洗浄を含むこともできる。かかる洗浄溶融式の結晶化および分離は、例えば工程段階b)に関して上記で引用された参考文献内に記載される。本発明による方法の段階c)の好ましい態様においては、洗浄塔、例えばWO01/77056号内に開示される種類の洗浄塔内での相分離を使用し、その際、結晶化相は、母液上および/または母液中に浮遊しており、且つ/または、例えば塔内を上方向に動き且つプレート上に結晶化相を保持する一方で、母液は通過させる可動式のプレート、例えばフィルターの形態のプレートを用いて収集され且つ/または圧縮されて、結晶化相が洗浄塔の塔頂部または上の方の水準で取り出される一方で、母液は前記プレートを通過し、且つ、結晶化相と比較して、相分離器の低い方の水準で取り出される。例えば結晶化された水相と母液との相対的な密度、または結晶化および/または分離のために使用された装置に依存して、相分離器の低い方の水準で結晶化相を分離することも可能である。この態様において、結晶化相の少なくとも一部を例えば熱交換器内で溶融することができ、且つ、洗浄塔内に存在する結晶化相を好ましくは向流で洗浄するための洗浄液として洗浄塔に返送することができる。本発明による方法の段階c)の他の好ましい実施態様において、分離は遠心分離によって行われる。この実施態様において、結晶化相の少なくとも一部を、例えば熱交換器において溶融することができ、且つ、遠心分離装置内に存在する結晶化相を洗浄するための洗浄液として遠心分離装置に返送することができる。該母液は水が減少し、且つ、第一の水相と比較してより多くの割合の有機化合物を含むので、工程段階c)における分離後に得られた母液を焼却することが可能である。かかる焼却は、第一の水相と比較して減少された含水率を有するこの実質的な有機相が、燃料として作用することができ、従って、燃料を購入する必要が低減するという利点を有する。この選択肢は、例えば燃料のコストまたは関連する要求、例えば輸送の容易さおよび/またはコストが不利となる場合、および/または成分iiの有機化合物の1つまたはそれより多くの市場価値が、特にそれらの分離および/または精製のために必要とされる全体的な努力および費用に比して低い場合に、好ましいことがある。
【0028】
本発明による好ましい態様において、段階b)およびc)は連続的に行われる。結晶化段階b)を、本発明による方法の段階b)を行うために適した結晶化ユニット内で行うことができ、前記ユニットは随意に、本発明による方法の段階c)を行うために適した分離ユニット、上述のように、例えば洗浄ユニットまたは遠心分離装置に接続されている。結晶化ユニットは、工程段階b)で可能性のある2つの段階に相応して、1つまたは2つの段階を含むことができる。結晶化ユニットにおいて、または結晶化ユニットの第一の段階において、第一の水相を一般には冷却して、水を少なくとも部分的に晶出させる。結晶が、結晶化ユニットの冷却された表面上で少なくとも部分的に形成する場合、それらをこすり落とすことができる。その際、第二の段階が含まれる場合は、生じるスラリーを随意に結晶化ユニットの第二の段階にみちびき、そこでスラリーが好ましくは撹拌され、より多くの結晶が成長し、且つ/または結晶サイズが増加する。その後、結晶化ユニットから、結晶/母液のスラリーを分離ユニットにみちびき、そこで固体の結晶が少なくとも部分的に分離され、且つ随意に洗浄されて不純物が少なくとも部分的に除去される。随意に洗浄された結晶の少なくとも一部を溶融でき、且つ、溶融された部分の少なくとも一部を、以下で工程段階f)に関連して記載されるさらなる工程段階にみちびくかまたはそこで処理するか、または洗浄液として使用することが可能であり、その際、溶融された結晶化相の第一の部分を、以下に工程段階f)に関連して記載されるとおりに取り扱い、且つ、溶融された結晶化相のさらなる部分を、結晶を洗浄するための洗浄液として使用することが可能である。結晶の少なくとも一部を、結晶化のシードとして結晶化ユニットに供給することも可能である。溶融段階も含めることができる。溶融段階は、結晶化ユニットおよび洗浄ユニットの少なくとも1つの内部または外部であってよい装置によって行うことができる。結晶化ユニットは、当業者に公知であり且つ有機成分を含む水溶液から水を結晶化するために適していると考えられる任意の結晶化ユニットであってよい。適した結晶化ユニット、並びに洗浄ユニットおよび/または溶融ユニットを含む結晶化ユニットは、Sulzer Chemtech AG、スイス、またはNiro Process Technology B.V., オランダから市販されているものである。適した結晶化ユニット、洗浄ユニットおよび溶融ユニット、並びに合体された結晶化/洗浄/溶融ユニットの例は、工程段階b)に関連して上記で引用された文献内に示されている。本発明による方法のために適した遠心分離装置は、当業者に公知である。
【0029】
工程段階b)およびc)は、(必須ではないが)第一の水相からの水の完全な晶出をもたらすことができるので、母液は特定の量の水を含むことがあるか、または一般には含む。これは例えば、特に、水が、第一の水相の1つまたはそれより多くの成分iiと共に共晶混合物を形成する場合にあてはまる。この場合、結晶化された(第二の)水相中で、可能な限り純粋である水を得るために、水は好ましくは共晶点付近で晶出されるのみであり、ある割合の水が母液中に残留する。従って、母液中に残留する水の割合は、水が共晶混合物を形成する第一の水相中のそれぞれの成分iiの種類および量、および水と単数または複数のこの成分iiとのそれぞれの共晶点に依存する。本発明による方法のさらなる態様において、該方法はさらに、以下の工程段階
d) 工程段階c)において分離された母液を少なくとも部分的に脱水して、少なくとも部分的に脱水された母液を得る段階、
e) 少なくとも1つの成分iiの少なくとも一部を、工程段階c)において得られた母液から、または工程段階d)において得られた少なくとも部分的に脱水された母液から分離する段階
の少なくとも1つを含む。
【0030】
本発明による方法の好ましい態様において、結晶化後の母液中に残留している水の少なくとも一部を工程段階d)における母液から分離する。工程段階d)における脱水を、好ましくは共沸蒸留、好ましくは共留剤を使用した共沸蒸留によって行う。当業者に公知であり且つ工程段階c)において分離された母液の少なくとも部分的な脱水のために適していると考えられる任意の共留剤を考慮に入れることができる。本発明によれば、特に好ましい共留剤は、直鎖または分枝鎖のアルカン、特にヘプタンまたはヘキサン、シクロアルカン、特にシクロヘキサン、アセテート、特にイソブチルアセテートまたはエチルアセテート、芳香族化合物、特にトルエンまたはベンゼン、またはCS2、CCl2またはブロモメタンである。
【0031】
工程段階e)における分離は、好ましくは熱分離法、好ましくは蒸留、分留または精留であり、その際、少なくとも1つの成分iiの少なくとも一部が母液から、または脱水された母液から分離される。母液または脱水された母液は、例えば、分離されるべき少なくとも1つの成分iiの他に、本発明による方法の段階a3)からの抽出剤、または他の成分iiを含むことがある。母液または脱水された母液中に1つより多くの成分ii、例えば2つまたはそれより多くの成分iiが含まれる場合、工程段階e)において1つだけの成分iiを分離するか、または2つまたはそれより多くの成分iiを分離することが可能である。分離手段としての蒸留、分留または精留の選択は、当業者によって容易に行うことができ、且つ、多数の要因、例えば少なくとも1つの成分iiが分離されるべき母液または脱水された母液中の他の化合物の数および量に依存し、並びに、分離されるべき1つまたはそれより多くの成分iiのそれぞれの沸点および分離されることが意図されていない母液または脱水された母液の成分のそれぞれの沸点、特に母液または脱水された母液の他の成分の沸点の、分離されるべき少なくとも1つの成分iiの沸点との近さ、および1つより多くの成分iiが分離されるべき場合は、互いに分離されるべき成分iiの沸点の近さに依存する。考慮すべき他の要因は、分離されるべき少なくとも1つの成分の所望の純度である。
【0032】
本発明による方法の好ましい実施態様において、該方法はさらに、以下の工程段階
f) 結晶化された水相を溶融して、第三の水相として結晶化された水相の溶融物を得る段階
を含み、その際、結晶化された水相の溶融物を、少なくとも1つの生物学的精製処理にみちびくこと、プロセス水として使用すること、および工程段階a1)、a2)の少なくとも1つにみちびくことの少なくとも1つに供する。
【0033】
結晶化された水相の溶融を、当業者に公知であり且つ適していると考えられる任意の手段によって行うことができる。特に、例えば溶融装置または熱交換器において、結晶化された水相をそれが溶融する温度に供することができる。工程段階f)における溶融は、工程段階b)およびc)の記載において既に述べられた溶融に相応してもよく、且つ/またはさらなる溶融であってもよい。従って、例えば第一の溶融を、工程段階b)およびc)の範疇で実施して、例えば結晶を洗浄するための洗浄液を提供することができる。その際、洗浄液それ自体は、好ましくは、結晶上で、それと接触した際に少なくとも部分的に結晶化する。所望の結晶の純度を得るために必要な数の洗浄−溶融サイクルにおいて、そのように洗浄され且つその後分離された結晶を再度溶融して、洗浄液を提供することができる。所望の純度が得られたら、その後、結晶を本発明による方法の段階f)において溶融でき、且つ、生物学的精製処理(プロセス水として使用される)の少なくとも1つ、および工程段階a1)およびa2)の少なくとも1つにさらにみちびくことができる。
【0034】
第三の水相が、少なくとも1つの生物学的精製処理に供される場合、この処理は好ましくは好気性処理および嫌気性処理の少なくとも1つである。2つまたはそれより多くの段階を有する処理の1つの実施態様において、例えば、第一の嫌気性処理の後に好気性処理をしてもよいし、第一の好気性処理の後に嫌気性処理をしてもよいし、または、例えば連続的なバッチ式反応器内での一連の好気性処理および/または嫌気性処理を使用してもよい。
【0035】
本発明による結晶化された水相の溶融物または第三の水相は、一般に、プロセス水として直接的に使用可能であるために、または本発明による工程段階a1)またはa2)において添加される水として、充分な純度である。特に、結晶化された水相または結晶化された水相の溶融物は、それぞれの水相の総質量に対して、好ましくは5000ppm未満、好ましくは4000ppm未満、より好ましくは3000ppm未満、好ましくは1500〜2500ppmの範囲、より好ましくは1800〜2200ppmの範囲、最も好ましくは2000ppm以下の有機化合物を含む。より低い不純物量、例えば約500ppm未満、またはさらには100ppm未満、および0ppmから100ppmの範囲を、特に本発明による工程段階c)における多数の洗浄−溶融サイクルを用いることによって達成することも可能である。しかしながら、より少ない量の不純物は、一般に、減少された水の量と共にのみ得られる。プロセス水として使用するか、または工程段階a1)またはa2)において添加される水として使用する前に、生物学的精製処理を随意に行うことができる。結晶化された水相の溶融物の水が他の目的のために使用されるか、または環境中に排出されるべき場合、かかる使用または排出は、生物学的精製の後であることが好ましいことがある(しかし、常に必要なわけではない)。
【0036】
本発明の文脈において、用語「生物学的精製処理」とは、例えば汚染物または不純物、好ましくは1つまたはそれより多くの生物学的生物および/または微生物、または生物学的もしくは生化学的に活性な物質、例えばかかる生物または微生物から誘導される物質による有機汚染物を除去することによって、水の純度を高める任意の処理を意味することが意図されている。このように除去されるべき汚染物および不純物は、一般に、第三の水相中に残っている有機化合物である。除去は、有機化合物のいくつかまたは全ての消化または破壊によって行われる。水の純度の高まりは、達成される純度に依存して、好ましくは、廃水を例えば工業的なプロセス水として、本発明による方法において、特に工程段階a1)またはa2)の1つまたは両方において再利用できるか、または環境もしくは給水系に放出できることを意味する水準へ、例えば汚染物質および/または不純物が減少すること、および/または水の生化学的酸素要求量(BOD)もしくは化学的酸素要求量(COD)が減少することによって測定される。生物学的精製処理は、当業者に公知であり、且つ、例えば1つまたはそれより多くのいわゆる活性スラッジ処理であってよい。かかる処理は慣例的であり、且つ当業者によく知られている。生物学的精製処理を1つまたはそれより多くの段階で行うことができ、且つ、それは連続的または断続的であってよい。
【0037】
本発明による方法の工程段階e)における分離が熱分離である場合、それは常に可能ではないか、または、例えば2つまたはそれより多くの成分が非常に類似した沸点を有する場合、成分を互いに分離することが例えば経済的もしくは技術的に実用的ではないことがある。これは特に、工程段階e)に供される母液または脱水された母液が比較的多数の成分を含む場合、特に、1つまたはそれより多くの成分iiが工程段階e)において分離されるべき少なくとも1つの成分iiと類似した沸点を有する場合であって、工程段階e)における1つだけの成分iiの分離の微細な調節がより困難になるようなケースに該当し得る。その際、2つまたはそれより多くの成分iiをさらなる工程段階g)において分離することが、より適切またはより実用的であることがあり、それぞれの成分iiの特定の分離の要求のためのそのような適合を、より容易に達成することができる。従って、本発明による方法の1つの態様において、工程段階e)において分離された少なくとも1つの成分iiは、少なくとも2つの成分iiの混合物であってよく、且つ、さらなる工程段階g)において、少なくとも1つの成分iiが、この混合物から好ましくは少なくとも部分的に分離される。本発明による方法の工程段階g)における分離は、1つまたはそれより多くの分離段階、例えば、本発明による方法における他の分離段階について上記で既に議論したような熱分離、クロマトグラフィーによる分離、例えば1つの成分iiを優先的に反応させて1つまたはそれより多くの他の成分iiからより容易に分離可能な反応生成物を形成することによる、または、2つまたはそれより多くの成分iiを反応させて互いからより容易に分離可能な反応生成物を形成することによる、化学的分離、または当業者に公知であり且つ適していると考えられる他の分離手段を含むことができる。
【0038】
本発明による方法の好ましい実施態様において、成分iiの少なくとも1つの有機化合物、好ましくは、工程段階g)において少なくとも部分的に分離された少なくとも1つの成分iiは、カルボン酸、アルデヒドおよびケトンから選択される少なくとも1つの有機化合物である。それらの中で、本発明によれば、少なくとも1つの成分ii、好ましくは工程段階g)において少なくとも部分的に分離された少なくとも1つの成分iiは、酢酸、アクリル酸、プロピオン酸およびメタクリル酸の少なくとも1つであることが好ましい。
【0039】
工程段階e)およびg)の少なくとも1つにおいて分離された少なくとも1つの成分iiが、メタクリル酸であるかまたはメタクリル酸を含む場合、本発明による方法の好ましい実施態様において、このメタクリル酸相の少なくとも一部を、工程段階a2)において得られた粗製水相に、および/または工程段階a3)において得られた粗製有機相に添加する。この実施態様は、例えば工程段階e)およびg)の1つまたはそれより多くにおいて分離されたメタクリル酸が、その最終的な用途のために望ましい純度ではない場合に好ましいことがある。粗製水相への添加は、例えば、分離されたメタクリル酸が、メタクリル酸よりも低い沸点を有する1つまたはそれより多くの他の成分と共に分離されている場合に好ましいことがある。粗製有機相への添加は、例えば、メタクリル酸以外の成分がメタクリル酸よりも高い沸点を有する場合に好ましいことがあり、なぜなら、そのようなより高い沸点のものは、工程段階a4)において分離できるからである。工程段階e)、f)およびj)の少なくとも1つにおいて分離されたこのメタクリル酸含有相をどの相に添加するかを決定する上で、メタクリル酸の他の成分に対する、特に他の成分iiに対する相対比も役割を果たし得る一方で、工程段階e)およびg)の少なくとも1つにおいて分離された少なくとも1つの成分ii中の他の成分の性質がより大きなウェートを占める。例えば、工程段階e)およびg)の少なくとも1つにおいて分離されたメタクリル酸が比較的純粋である、例えば約5質量%以下、好ましくは約4質量%以下、好ましくは約3質量%以下、好ましくは約2質量%以下、好ましくは約1質量%〜約2質量%の範囲の不純物または他の成分iiを含む場合、このメタクリル酸を工程段階a4)の随意の精製段階に導入することが好ましいことがある。
【0040】
本発明による方法のさらなる態様において、工程段階e)およびg)の少なくとも1つにおいて分離された、または工程段階d)において得られた脱水された母液中に含まれる、少なくとも1つの成分iiの少なくとも一部、または工程段階a3)において得られた第一の水相の少なくとも一部を、工程段階:
h) エステル化して、少なくとも1つのエステルを含むエステル相を得る段階
に供する。
【0041】
この段階は、それぞれ少なくとも1つの成分iiがカルボン酸である場合に好ましいことがある。エステル化段階の詳細は、一般に、本発明による方法の工程段階a5)について上述されたものと同じである。例えば、分離されたそれぞれの成分iiの得られる純度、それぞれの成分iiについて、そのエステルと比較した市場またはさらなる用途によっては、工程段階e)およびg)の少なくとも1つにおいて分離された少なくとも1つの成分iiをエステル化することが、それぞれ少なくとも1つの成分iiそれ自体を得ることよりも、またはそれに加えて、好ましいことがある。例えば、第一の水相が少ない割合のみの不純物および/または分離されることが意図されていない成分ii、例えば不純物の総量が第一の水相の総質量に対して約6質量%未満、好ましくは約5質量%未満、好ましくは約4質量%未満、より好ましくは約3質量%未満である不純物および/または分離されることが意図されていない成分ii、特に例えば成分iiそれ自体からよりもそれぞれの成分iiのエステルからのほうがより容易に分離できる不純物を含む場合、工程段階a3)において得られた第一の水相中に含まれる少なくとも1つの成分iiのエステル化が好ましいことがある。
【0042】
本発明によるエステル相中に含まれる特に好ましいエステルは、C1〜C4−カルボン酸およびC1〜C4−アルコールに基づき、その際、C2〜C4−カルボン酸に基づくエステルが好ましい。工程段階a5)と関連して述べられたメタクリレートエステルの他に特に好ましいエステルは、メチルアセテート、エチルアセテート、n−プロピルアセテート、イソプロピルアセテート、n−ブチルアセテート、イソブチルアセテート、sec−ブチルアセテート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、n−プロピルプロピオネート、イソプロピルプロピオネート、n−ブチルプロピオネート、イソブチルプロピオネート、sec−ブチルプロピオネートであり、その中で、アセテートおよびアクリレートが好ましい。
【0043】
本発明によれば、エステル相は少なくとも2つのエステルを含むことが可能である。これは、工程段階e)およびg)の少なくとも1つにおいて分離された少なくとも1つの成分ii、または工程段階a3)において得られた第一の水相の少なくとも一部が、反応してエステルを形成できる少なくとも2つの成分ii、特に少なくとも2つのカルボン酸を含む場合に該当し得る。この実施態様は、反応してエステルを形成できる少なくとも2つの成分iiが、例えばそれらの特性、例えば沸点、特定の溶剤中での可溶性および揮発性が非常に近く、例えば熱または他の手段によって特に分離困難である一方で、それらのエステルは互いからあまり困難ではなく分離できる場合に、好ましいことがある。
【0044】
エステル相が2つまたはそれより多くのエステルを含む場合、本発明による方法は好ましくは、さらに、工程段階
j) 少なくとも1つのエステルを、エステル相から少なくとも部分的に分離する段階、
k) 工程段階j)において分離された少なくとも1つのエステルを随意に精製する段階
を含む。
【0045】
一般に、該エステル相は、少なくとも1つのエステルの他に、溶剤、例えば水、またはエステル化反応のために適した少なくとも1つの有機溶剤またはそれらの混合物、並びに未反応の成分iiおよび場合により単数または複数のさらなるエステルを含むことがある。工程段階j)における分離は、当業者に公知であり且つそれぞれのエステルをエステル相から分離するために適していると考えられる任意の分離手段によるものであってよい。適した分離手段の例は、例えば熱分離、例えば蒸留、分留もしくは精留、エステル相の他の成分と比較した少なくとも1つのエステルの異なる可溶性に基づく分離手段、固体−液体分離手段、例えば特にろ過である。例えば、それぞれのエステルの意図される最終用途に依存して、必要または望ましい場合、工程段階j)において分離された少なくとも1つのエステルの精製を、工程段階k)において行うこともできる。精製手段は、エステルに依存し、例えば熱的な手段による精製、クロマトグラフィー手段による精製、洗浄による精製、または結晶化による精製を全て考慮することができる。
【0046】
本発明による方法の1つの実施態様において、該方法はさらに、
aa1) メチルtert−ブチルエーテル(MTBE)を解離させて少なくとも1つのC4化合物およびメタノールを得る段階
を含み、その際、少なくとも1つのC4化合物の少なくとも一部を原料として工程段階a1)の少なくとも1つの気相酸化に供給する。MTBEは、イソブチレンのための供給原料として広く使用されており、且つ、MTBEの解離は当該技術分野でよく知られている。MTBEの解離は、当業者に公知の任意の適した手段によって行うことができる。適した触媒および反応条件は、例えばEP1149814号、WO04/018393号、WO04/052809号; Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、第五版、Vol.A4、488ページ; V. Fattore, M. Massi Mauri, G. Oriani, G. Paret, Hydrocarbon Processing、1981年8月、101−106ページ; Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、第五版、Vol. A16, 543−550ページ; A. Chauvel, G. Lefebvre, "Petrochemical Processes, Technical and Economic Characteristics"、Vol. 1、Editions Technip、Paris、1989、213ページ以降.; US5336841号、US4570026号、およびそこで挙げられている参考文献内に記載されている。これらの参考文献の開示は、参照をもって本願内に含まれ、且つ、本発明の開示の一部を形成する。
【0047】
MTBEの解離の2つの主生成物は、C4化合物のイソブチレンおよびメタノールである。さらなるC4化合物の第三ブタノールが解離反応生成物相内に含まれていることもある。イソブチレンおよび第三ブタノールのいずれかまたは両方を、原料として工程段階a1)に供給し、この工程段階のための原料のC4化合物の含有量全体を構成するか、または他の源からのさらなるC4含有量に追加することができる。例えば、少なくとも1つのC4化合物とメタノールとを互いから可能な限り分離し、且つ解離からの任意の副生成物であって気相酸化に悪影響を及ぼしかねないものを除去するために、MTBEの解離とそのように得られた少なくとも1つのC4化合物を工程段階a1)における気相酸化に供給することとの間の1つまたはそれより多くの中間の分離段階および/または精製段階があることが可能である。分離および/または精製は、当業者に公知であり且つ適していると考えられる任意の手段によるものであってよい。適した精製および分離方法は、例えばEP1149814号、WO04/018393号およびWO04/052809号内に記載されている。メタノールの分離後、C4化合物のイソブチレンを主成分として含む解離相を、その後、随意に精製し、且つ原料として工程段階a1)に供給することができる。適した精製方法は、当業者に公知であり、且つ、好ましくは蒸留、抽出、吸着、吸収、クロマトグラフィーまたは洗浄の少なくとも1つ、好ましくは蒸留および抽出の少なくとも1つ、好ましくは少なくとも1つの蒸留、および少なくとも1つの抽出を含む。未反応のMTBEをこの段階においてC4化合物相から少なくとも部分的に分離することができる。分離されたMTBEを随意に精製し、且つ少なくとも部分的に解離反応にリサイクルすることができる。
【0048】
本発明による方法の好ましい実施態様において、工程段階aa1)において得られたメタノールを工程段階h)に供給する。本発明による方法の他の態様において、工程段階aa1)において得られたメタノールを工程段階a5)に供給することができる。メタノールを、好ましくは熱精製、例えば蒸留、分留または精留、結晶化、抽出、塔または洗浄によって、より好ましくは少なくとも1つの蒸留によって随意に精製できる。メタノールの精製の例は、EP1254887号内に記載されている。
【0049】
本発明は、メタクリル酸およびメタクリル酸エステルの少なくとも1つを製造するための装置であって、互いに流体接続されている少なくとも以下の要素:
A1) 気相酸化ユニット、
A2) 急冷ユニット、
A3) 第一の抽出ユニット、
A4) 第一の分離ユニット、
A5) 随意に、第一のエステル化ユニット、
B) 水相からの水の結晶化のための結晶化ユニット、
C) 随意に第二の分離ユニット
を含む前記装置にも関する。
【0050】
「流体接続されている」との用語は、本願では、前記ユニットが、流体(液体、気体、蒸気、超臨界流体または任意の他の流体の少なくとも1つであってよい)が1つのユニットから少なくとも1つの他のユニットへとみちびかれ得るように接続されていることを意味するとして理解される。例えば、これは、例えば反応物および支配的な条件に対して耐性がある材料、例えばステンレス鋼またはガラス、または当業者に公知の任意の他の適した材料製のチューブまたはパイプを介した直接的な接続によって、または、タンク輸送手段、もしくはユニット間に配置されたタンクまたはリザーバーを用いて間接的に達成することができる。ガスがガス状の形態で導かれ、且つガス状の形態のままであるべき場合、ガスをみちびく手段は、好ましくは該ガスの露点より高い温度で保持される。液体がみちびかれるべき場合、該液体をみちびく手段は、好ましくは、該液体および/または該液体中に存在する成分の凝固点および/または析出点より高い温度で保持される。これは、それぞれのガスまたは液体をみちびく手段の断熱および/または加熱によって達成できる。全ての反応器、塔、および他の装置の要素は好ましくは、反応物、および特にそれらが供される条件、例えば温度および圧力条件に対して耐性のある材料から製造されている。
【0051】
気相酸化ユニットA1)は、好ましくは、気相反応を行うために適した少なくとも1つの反応器、特に圧力反応器、好ましくは、例えば管型および/またはシェル型反応器として形成される少なくとも1つの多管型反応器、および/または少なくとも1つのプレート型反応器および/または少なくとも1つの流動床反応器を含み、ここで、多管型反応器が好ましい。酸化触媒が少なくとも1つの管内に配置され、好ましくはその際、前記管が酸化触媒で充填されるかまたは被覆され、好ましくは充填されている少なくとも1つの多管型反応器が特に好ましい。本発明による好ましい酸化触媒は、本発明の方法に関連して上述されたものである。反応器の材料は、反応物および反応器内部での支配的な条件に対して耐性があり且つ好ましくは不活性であるべきである。適した反応器は、例えばMAN DWE GmbH(Deggendorfer Werft、ドイツ)から、または株式会社IHI(日本)から市販されており、且つ、当業者の一般的な知識の範疇である。
【0052】
二段階の気相酸化において、気相酸化ユニットA1)は、それぞれ酸化触媒を含む少なくとも2つの反応ゾーンを含むことができる。前記少なくとも2つの反応ゾーンは、単独の反応器内の少なくとも2つの反応ゾーン、または少なくとも2つの反応器であってよい。第一の反応ゾーン内の酸化触媒は、好ましくは、少なくとも1つのC4化合物、好ましくはイソブチレンおよび/またはtert−ブタノールをメタクロレインに酸化するための酸化触媒であり、且つ、第二の反応ゾーン内の酸化触媒は、好ましくはメタクロレインのメタクリル酸への酸化のために適している。適した触媒は、本発明による方法に関連して上述されたものである。
【0053】
本発明の装置の好ましい態様において、少なくとも1つの酸化剤源、好ましくは酸素、好ましくは空気のための少なくとも1つの供給手段、および水および/または蒸気のための少なくとも1つの供給手段は、気相酸化ユニットと流体接続されている。気相酸化ユニットが少なくとも第一の酸化領域およびさらなる酸化領域を含む場合、該装置は各々の酸化領域について、少なくとも1つの酸化剤源のための少なくとも1つの供給手段、および水および/または蒸気のための少なくとも1つの供給手段を含むことができる。該装置はさらに、希釈剤、例えば窒素、アルゴン、および/または二酸化炭素、好ましくは窒素または二酸化炭素、例えば触媒燃焼ユニット(CCU)もしくは熱燃焼ユニット(TCU)からの二酸化炭素含有リサイクルガスのための供給手段を含むことができ、好ましくはCCUまたはTCUは本発明による装置の下流にある。それぞれの供給手段は、反応物および支配的な条件に対して耐性のある材料、例えばステンレス鋼またはガラス製であるべきである。好ましい設計においては、酸素、希釈剤および水が、それぞれの反応器に入る前にC4流に供給され、予め形成された混合物が反応器に入る。
【0054】
本発明による方法の段階a1)は、好ましくは気相酸化ユニットA1)内で行われる。
【0055】
本発明による装置の好ましい実施態様において、急冷ユニットA2)は、吸収ユニットであり、そこでガス状の酸化相が凝縮および/または吸収されて液相が形成される。触媒反応ゾーンを離れ、酸化相中に存在するメタクリル酸が前記急冷ユニットA2)内で凝縮されて、主な酸化生成物としてのメタクリル酸を含む溶液、好ましくは水溶液を形成することが好ましい。吸収ユニットA2)内で、未反応のメタクロレインも分離することができ、且つ、望ましい場合には、さらなる反応のために気相酸化ゾーンへと返送できる。本発明による装置内で使用するために適した急冷ユニットは当業者に公知である。本発明による方法の段階a2)は、好ましくは急冷ユニットA2)内で行われる。
【0056】
本発明による装置の好ましい実施態様において、急冷ユニットA2)の次に第一の抽出ユニットA3)がある。急冷ユニットA2)内で形成されたメタクリル酸含有水溶液を、第一の抽出ユニットA3)にみちびき、そこで、有機溶剤が供給され、その溶剤中にメタクリル酸が好ましくは本質的に抽出される。有機溶剤は、好ましくは本質的に水と不混和性であり、従ってメタクリル酸が少なくとも部分的に減少した水相と、メタクリル酸を含む有機相とが形成される。好ましい有機溶剤に関する詳細は、工程段階a3)の記載において上記で示されている。工程段階a3)は好ましくは、第一の抽出ユニット内で行われる。第一の抽出ユニットA3)として使用するために、当業者に公知であり且つメタクリル酸のかかる抽出のために適していると考えられる任意の抽出ユニットが考慮に入れられる。
【0057】
本発明による装置は、第一の分離ユニットA4)を、第一の抽出ユニットA3)の下流に含む。本発明による装置がメチルメタクリレートの製造用である場合、第一の分離ユニットA4)が、第一のエステル化ユニットA5)の上流、好ましくは第一の抽出ユニットA3)と第一のエステル化ユニットA5)との間にあり、且つそれらと流体接続されている。第一の分離ユニットA4)は、好ましくはメタクリル酸を分離および好ましくは精製するために、特に、第一の抽出ユニットA3)において使用された抽出剤からメタクリル酸を分離するために適しており、且つ好ましくは、本発明による装置の第一の抽出ユニットA3)から流出し、本発明による方法の工程段階a3)の粗製有機相に相応する、粗製有機相中に存在する他の成分からのメタクリル酸の分離も可能にする。好ましくは、第一の分離ユニットA4)は、好ましくは蒸留塔、分留塔、精留塔、および当業者に公知であり且つ本発明による方法の工程段階a3)の分離のために適していると考えられる任意の他の熱分離手段の少なくとも1つを含む熱分離ユニットである。第一の分離ユニットA4)が、1つまたはそれより多くの分離段階を含むことが可能である。
【0058】
第一の分離ユニット内で分離されたメタクリル酸の精製のための随意の第一の精製ユニットも、第一の分離ユニットの下流に配置されてよい。随意の第一の精製ユニットは、例えば熱精製ユニット、例えば蒸留塔、分留塔、精留塔またはその種のもの、結晶化ユニット、または当業者に公知であり且つメタクリル酸の精製のために適していると考えられる任意の他の装置であってよい。
【0059】
本発明による装置が、上述のユニットもしくは要素のいずれかまたは全ての間に、1つまたはそれより多くのさらなる要素、例えば高沸点成分および/または低沸点成分を分離するための熱的手段またはストリッピング手段、固体/液体分離のための手段、例えば少なくとも1つのフィルターおよび/または遠心分離器、および/または冷却および/または加熱ユニットを、さらに含むことが可能である。好ましい設計においては、例えば、低沸点物のための蒸留塔および随意にフィルターが、急冷ユニットの下流且つ抽出ユニットの上流に配置される。二段階の気相酸化ユニットのさらに好ましい態様において、急冷ユニットが2つの段階の間に配置される。
【0060】
未反応のメタクロレインを、急冷ユニット、第一の抽出ユニット、第一の分離ユニット、第一の精製ユニットのいずれにおいても、または上述のさらなる装置の要素のいずれにおいても分離でき、且つ、さらなる反応のために気相酸化ユニットに返送できる。
【0061】
第一のエステル化ユニットA5)を、第一の分離ユニットA4)または随意に第一の精製ユニットの下流に配置することができる。第一のエステル化ユニットA5)は、特に限定されず、且つ、メタクリル酸からメタクリレートエステル、好ましくはメチルメタクリレートを形成するためのエステル化に適した任意のユニットであってよい。それは好ましくは液相エステル化のために適している。第一のエステル化ユニットA5)は好ましくはエステル化触媒を含み、前記触媒は不均一触媒または均一触媒、例えば固体触媒または液体触媒であってよく、且つ、好ましくは酸性のイオン交換樹脂、例えばUS6469292号、JP1249743号、EP1254887号内に記載されるもの、または商品名Amberlyst(登録商標) (Rohm and Haas Corp.)、Dowex(登録商標) (Dow Corp.)またはLewertit(登録商標) (Lanxess AG)として市販されているもの、またはエステル化を触媒できる酸、例えば硫酸、H2SO4である。
【0062】
第二の精製ユニットを、第一のエステル化ユニットA5)の下流に、そこで製造されたメタクリレートエステルの精製のために配置できる。随意の第二の精製ユニットは、例えば熱精製ユニット、例えば蒸留塔、分留塔、精留塔またはその種のもの、結晶化ユニット、または当業者に公知であり且つメタクリル酸エステル、特にメチルメタクリレートの精製のために適していると考えられる任意の他の装置であってよい。
【0063】
本発明による装置はさらに、結晶化ユニットB)を含む。結晶化ユニットB)は、第一の抽出ユニットA3)において得られた第一の水相中に含まれる水の少なくとも一部を、少なくとも1つの有機化合物、特に上述の少なくとも1つの成分iiの少なくとも一部から分離して、第二の水相および有機相を得るために役立つ。本発明による方法の工程段階b)は、好ましくは結晶化ユニットB)内で行われる。本発明による装置は好ましくは、さらに、好ましくは結晶分離ユニットである第二の分離ユニットC)を含む。本発明による方法の工程段階c)は、好ましくは第二の分離ユニットC)内で行われる。
【0064】
第一の抽出ユニットA3)において得られた第一の水相が、結晶化ユニットB)において一般には冷却されて、水が少なくとも部分的に晶出される。生じるスラリーを、その後、随意に結晶成長のための滞留ユニットT1(工程段階b)およびc)に関連して上述されたもの)を介して、結晶分離ユニットC)、例えば洗浄塔または遠心分離器に搬送することができ、そこで、固体の結晶を少なくとも部分的に母液から分離し、且つ好ましくは洗浄して、残留している不純物を可能な最大の範囲まで少なくとも部分的に除去する。少なくとも1つの溶融装置も、結晶化ユニットB)および第二の分離ユニットC)の少なくとも1つ内に含まれてよく、且つ、その少なくとも1つの内部または外部であってよく、好ましくは、少なくとも結晶分離ユニットと流体接続および/または固体接続されている。随意に洗浄された結晶の少なくとも一部を、好ましくは、少なくとも1つの溶融ユニット内で溶融し、且つ、溶融された部分の少なくとも一部を、次の装置要素に移送するか、または結晶分離ユニットC)内の結晶用の洗浄液として使用するかのいずれか、またはそれらの両方である。結晶の少なくとも一部を、1つまたはそれより多くの導管を用いて、結晶分離ユニットC)から、結晶分離ユニットB)および/または滞留ユニットに、結晶化シードとして供給することも可能である。
【0065】
当業者に公知であり且つ上述の目的のために適していると考えられる任意の結晶化ユニット、滞留ユニットおよび結晶分離ユニットを、本発明による装置内で使用でき、その際、それぞれのユニットが、連続的な結晶化および分離を可能にすることが好ましい。結晶化ユニットは、当業者に公知であり且つ有機成分を含む水溶液からの水の結晶化のために適していると考えられる任意の結晶化ユニットであってよく、その際、懸濁結晶化ユニットが好ましく、且つ、結晶が形成し得る冷却された表面の結晶を少なくとも部分的にこすり落とすためのスクレーパを備えた懸濁結晶化ユニットがさらにより好ましい。滞留ユニットが備えられる場合、それは好ましくはタンクの形態であり、好ましくは撹拌手段を備え、且つ、結晶化ユニットと流体接続および/または固体接続された少なくとも1つの入口、および結晶分離ユニットと流体接続および/または固体接続された少なくとも1つの出口を有する。随意に滞留ユニットT1)を伴う結晶化ユニットB)は、好ましくは、本発明による方法の段階b2a)を行うために適している。結晶分離ユニットC)は、好ましくは本発明による方法の段階c)を行うために適しており、且つ、好ましくは洗浄塔または遠心分離装置である。適した結晶化ユニット、並びに洗浄ユニットおよび/または溶融ユニットを含む結晶化ユニットは、例えば水圧または機械的な洗浄塔における結晶の洗浄を下流に有する懸濁結晶化ユニットであり、G.F.Arkenboutによる本「Melt Crystallisation Technology」、Technomic Publishing Co. Inc.、Lancaster−Basel (1995)、pp. 265−288、Chem. Ing. Techn. (72) (10/2000)、1231−1233内に記載されている。一般に、強制輸送を有する任意の洗浄溶融洗浄塔は、例えばChem. Ing. Techn. 57 (1985) No.2、p.91−102およびChem. Ing. Techn. 63 (1991)、No.9、p.881−891内、およびWO99/6348号内に記載されている。適した洗浄溶融塔の例は、EP97405号、US4735781号、WO00/24491号、EP920894号、EP398437号、EP373720号、EP193226号、EP191194号、WO98/27240号、EP305316号、US4787985号内に記載されており、且つ、例えばTNO Institute(Apeldoorn、オランダ)から、Niro Process Technology B.V.(Hertogenbosch、オランダ)から、またはSulzer Chemtech AG(スイス)から、TNOまたはNiro Process Technology B.V.(オランダ)から市販されている。適した結晶化ユニット、洗浄ユニットおよび溶融ユニット、並びに合体された結晶化/洗浄/溶融ユニットのさらなる例は、工程段階b2a)に関連して上記で引用された文献内にも示されている。本発明による装置内の結晶分離ユニットとして適した遠心分離装置は、当業者に公知であり、且つ、広範に市販されている。
【0066】
例えば結晶化ユニットおよび/または結晶分離ユニットから得られた母液を焼却するために、少なくとも1つの焼却炉または燃焼ユニットが、本発明による装置内に含まれてもよい。
【0067】
本発明による装置はさらに、脱水ユニットD)も含むことができる。本発明による装置は、第三の分離ユニットE)を含むこともできる。脱水ユニットは好ましくは、本発明による方法の工程段階d)を行うために適しており、且つ、第三の分離ユニットは好ましくは、本発明による方法の工程段階e)を行うために適している。当業者に公知であり且つ結晶化ユニットおよび/または結晶分離ユニット内で分離された母液を少なくとも部分的に脱するために適していると考えられる脱水ユニットが、本発明による装置における使用のために考慮に入れられる。本発明による好ましい脱水ユニットは、例えば、少なくとも1つの成分iiとは反応しない脱水剤、例えば分子ふるいで充填された塔、および蒸留ユニット、特に共沸蒸留のために適した蒸留ユニットである。第三の分離ユニットE)は、好ましくは熱分離ユニットである。本発明による装置において使用するために、当業者に公知であり且つ工程段階e)の分離を行うために適していると考えられる熱分離装置、例えば蒸留、分留または精留塔の少なくとも1つまたはその種のものを考慮に入れることができる。
【0068】
本発明による装置内に、さらなる分離ユニットが含まれることもある。好ましいさらなる分離ユニットの1つの例は、少なくとも1つの成分iiを、本発明による少なくとも2つの成分iiを含む混合物、例えば本発明による方法の段階e)において得られた混合物から分離するために適した分離ユニットである。好ましくは、かかるさらなる分離ユニットは、好ましくは少なくとも1つの蒸留塔、分留塔、精留塔またはその種のものを含む熱分離ユニットである。
【0069】
本発明による装置は好ましくは、第三の分離ユニットE)および/または少なくとも1つのさらなる分離ユニットと、第一の抽出ユニットA3)および/または第一の分離ユニットA4)との間に、メタクリル酸およびメタクリル酸含有相の少なくとも1つを第一の抽出ユニットA3)および第一の分離ユニットA4)の少なくとも1つに返送するための少なくとも1つの導管を含む。
【0070】
本発明による装置は随意に、少なくとも1つの成分iiをエステル化するための少なくとも1つの第二のエステル化ユニットH)を、好ましくは結晶化ユニットB)、第二の分離ユニットC)、および第三の分離ユニットE)の少なくとも1つの下流に含む。本発明による方法の工程段階h)は、好ましくは第二のエステル化ユニットH)内で行われる。第二のエステル化ユニットH)に関する詳細は、第一のエステル化ユニットA5)について上述されたものと同じである。
【0071】
本発明による装置は、本発明の方法の工程段階j)に相応して、1つまたはそれより多くのエステルを互いから少なくとも部分的に分離するための、特に少なくとも1つのエステルを少なくとも1つの第二のエステル化ユニットにおいて得られたエステル相から少なくとも部分的に分離するための、少なくとも1つのエステル分離ユニットJ)も含むことができる。当業者に公知であり且つエステルの分離のために適していると考えられる任意の装置をエステル分離ユニットJ)として使用することができる。既に記載された種類の熱分離装置、並びに結晶化装置、抽出装置、相分離装置が、本発明による装置におけるエステル分離ユニットとして好ましい。
【0072】
第二のエステル化ユニット内で得られた、または少なくとも1つのエステル分離ユニット内で分離された、単数および/または複数のエステルを精製するために、少なくとも1つのさらなる精製ユニットK)が、本発明による装置内に提供されてもよい。本発明による方法の工程段階k)は、好ましくは少なくとも1つのさらなる精製ユニットK)内で行われる。このさらなる精製ユニットの詳細は、第一のエステル化ユニットと関連して上述された精製ユニットについての詳細に相応する。
【0073】
本発明による装置の好ましい態様において、該装置はさらに、MTBE解離ユニットAA1)を、気相酸化ユニットA1)の上流に含む。MTBT解離のための解離ユニットおよび適した触媒は、当該技術分野においてよく知られており、且つ、当業者の一般的な知識の範疇であり、例えばUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、第五版、Vol.A4、488ページ; V. Fattore, M. Massi Mauri, G. Oriani, G. Paret, Hydrocarbon Processing、1981年8月、101−106ページ; Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、第五版、Vol. A16, 543−550ページ; A. Chauvel, G. Lefebvre, "Petrochemical Processes, Technical and Economic Characteristics"、Vol. 1、Editions Technip、Paris、1989、213ページ以降.; US5336841号、US4570026号、およびそこで挙げられている参考文献内に記載されている。
【0074】
イソブチレン分離ユニットS1)は、好ましくはMTBE解離ユニットAA1)と気相酸化ユニットA1)との間に配置されており、且つ、互いに流体接続されている。イソブチレン分離ユニットS1)は、イソブチレン相および好ましくはメタノール相も、第二の触媒活性ゾーンの流出物から分離するために役立ち、前記流出物はイソブチレンおよびメタノールを主成分として含む。イソブチレン分離ユニットS1)は、抽出器、結晶化装置、塔、蒸留装置、精留装置、膜、透析蒸発装置、相分離器、および洗浄装置の少なくとも1つであってよい。イソブチレン分離ユニットS1)は、好ましくは、イソブチレン相のための出口およびメタノール相のための出口を含む。イソブチレン相のための出口は、好ましくは気相酸化ユニットA1)に、随意に中間ユニット、例えば精製ユニット、熱交換器および/または加圧器を介して接続されている。メタノール相のための出口は、好ましくは第一のエステル化ユニットA4)および第二のエステル化ユニットH)の少なくとも1つに、随意に中間のメタノール精製ユニットを介して接続されている。当業者に公知であり且つメタノールを精製するために適していると考えられる任意の装置を、メタノール精製ユニットとして含むことができる。適した精製ユニットの例は、好ましくは、少なくとも1つの蒸留装置、結晶化装置、抽出機、塔または洗浄装置、より好ましくは少なくとも1つの蒸留装置を含む。メタノール用の精製ユニットの例は、EP1254887号内に記載されている。
【0075】
本発明は、本発明による装置内で行われる本発明による方法にも関する。
【0076】
本発明を、以下の図面および限定されない実施例によって、より厳密に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0077】
図1図1は、本発明による方法の好ましい実施態様をフローチャートの形式で模式的に示す。
図2図2は、本発明による装置の実施態様を模式的に示す。
図3図3は、実施例が行われたパイロットプラントを示す。
【0078】
図2の実施態様によれば、C4化合物が気相酸化ユニットA1に導入され、そこでそれが一段階または二段階の触媒気相酸化においてメタクリル酸へと酸化される。C4化合物、酸素、蒸気、および不活性な希釈ガス用の、気相酸化ユニットA1への入口は示されていない。C4化合物は、MTBT解離ユニットAA1(図示せず)から、イソブチレン分離ユニットS1(図示せず)を介して供給され得る。気相酸化ユニットA1内で得られたガス状のメタクリル酸相は、ライン1を介して、急冷ユニットA2へとみちびかれ、そこで冷却され、且つ、水中または水相中に吸収されて、メタクリル酸含有水相を形成する。急冷ユニットA2への急冷液用の入口は示されていない。メタクリル酸の水相は、ライン2を介して、第一の抽出ユニットA3へとみちびかれ、そこで、それが抽出剤としての有機溶剤を用いて抽出されて有機相および水相(本発明による方法の第一の水相)が形成される。これら2つの相は、第一の抽出ユニットA3において分離される。
【0079】
第一の抽出ユニットA3からの有機相は、ライン3を介して第一の分離ユニットA4にみちびかれ、そこで、それが蒸留されて、メタクリル酸と抽出剤とに分離される。抽出剤はライン6を介して第一の抽出ユニットA3へとリサイクルすることができる。メタクリル酸を、ライン5を介して回収し、且つ随意に下流にある単数または複数の精製ユニット(図示せず)内で精製できるか、またはそれを、ライン4を介して、随意に精製(図示せず)を介して、第一のエステル化ユニットA5にみちびくことができる。第一のエステル化ユニットA5において、メタクリル酸を、例えばメタノール、例えばMTBE解離相から分離されたメタノールを用いて、分離ユニットS1(図示せず)内でエステル化し、メチルメタクリレートを形成できる。メタクリル酸を、第一のエステル化ユニットA5内で、上述のもの以外のアルコールを用いてエステル化することも可能である。第一のエステル化ユニットA5内で製造されたエステルを、ライン7を介して回収し、且つ、随意に重合ユニットA6(図示せず)内で重合することができ、随意に中間および/または下流の精製を伴う。
【0080】
第一の抽出ユニットA3内で分離された水相を、結晶化ユニットBにみちびき、そこで、それを一般に冷却して、水を少なくとも部分的に晶出させる。結晶が、結晶化ユニットBの冷却された表面上で少なくとも部分的に形成する場合、それらをこすり落とすことができる。その際、生じるスラリーを随意に滞留ユニットT1(図示せず)にみちびき、そこでスラリーが好ましくは撹拌され、より多くの結晶が成長し、且つ/または結晶サイズが増加する。その後、結晶化ユニットBおよび/または滞留ユニットT1から、結晶と母液とのスラリーがライン9を介して結晶分離ユニットCへとみちびかれ、そこで、固体の結晶が少なくとも部分的に母液から分離され、且つ随意に洗浄されて、不純物が少なくとも部分的に除去される。結晶の一部は、結晶分離ユニットCから結晶化ユニットBおよび/または滞留ユニットT1へと返送されて、結晶シードとしてはたらくことができる(導管は図示せず)。随意に洗浄された結晶の少なくとも一部を溶融でき(溶融装置は図示せず)、且つその溶融された部分の少なくとも一部を、例えば気相酸化ユニットA1(導管は図示せず)にリサイクルする、プロセス水として使用する、結晶分離ユニットC内で結晶を洗浄するための洗浄液として使用する、生物学的精製ユニット(図示せず)にみちびく、またはライン20を介して排出することができる。結晶分離ユニットC内で分離された母液を、随意に脱水ユニットD(図示せず)を介して、ライン10を介して第三の分離ユニットEへとみちびくことができ、そこで、少なくとも1つの成分iiを分離できる。成分iiの混合物が、第三の分離ユニットE内で分離される場合、この混合物を、成分iiを互いから分離するためのさらなる分離ユニットへとみちびくことができる(図示せず)。メタクリル酸またはメタクリル酸含有相が第三の分離ユニットD内で分離される場合、このメタクリル酸またはメタクリル酸含有相を、ライン15を介して第一の抽出ユニットA3に、またはライン16を介して第一の分離ユニットA4にみちびくことができる。第三の分離ユニットE内で分離された少なくとも1つの成分iiの少なくとも一部を、ライン11を介して回収し、且つ随意にさらなる精製ユニット(図示せず)内で精製することができる。第三の分離ユニットE内で分離された少なくとも1つの成分iiの少なくとも一部を、ライン14を介して第二のエステル化ユニットHにみちびくことも可能である。結晶分離ユニットC内で分離された母液を、第二のエステル化ユニットHにみちびくことができる。第二のエステル化ユニットH内で、少なくとも1つの成分iiがアルコールを用いてエステル化されて、相応のエステルが形成される。アルコールがメタノールである場合、このメタノールは例えばMTBE解離器AA1から分離ユニットS1を介して、随意に中間の精製(図示せず)を用いて、導入されてよい。第二のエステル化ユニットH内で得られたエステル相が、1つより多くのエステルを含む場合、少なくとも1つのエステルを、エステル分離ユニットJ内で分離できる。少なくとも1つのエステルを、下流のエステル精製ユニットK(図示せず)内で精製できる。
【0081】
実施例1:
該実施例は、図3によるパイロットプラント(GEAから貸与されたNiro process pilot plant)内で行われた。人工的な第一の水相を混合し、且つ、B−100内で貯蔵した。第一の水相を、かき取り表面熱交換器(結晶化装置)へと供給し、そこで、第一の水相を−15℃に冷却し、その際、冷たい表面で氷の結晶が形成された。第一の水相を含有する氷の結晶を、再結晶化装置へと供給し、そこでより大きな結晶が形成される。氷の結晶を、ピストン式の洗浄塔内で、濃縮液から分離した。洗浄塔から、純粋な水を第二の水相として引き出した。氷の結晶のこの流れを最終的に溶解して、純粋な水の第三の水相が得られた。水を第一の水相から収率84%で除去した一方で、濃度99.85%の水およびわずかな濃度の酢酸(0.11%)およびエタノール(0.04%)を有する純粋な水を取得した。第二の水相の次に、母液を水濃度55.5%で洗浄塔から引き出した。母液を蒸留塔K−200に供給し、そこで、母液を共留剤によって脱水した。共留剤イソブチルアセテート(BuOAc)を使用した。蒸留塔は、不規則充填材で充填され、且つ、350mbarで、蒸気加熱蒸発器、および冷却水を用いて稼働される凝縮器と共に連続的に稼働された。相分離容器が蒸留容器として使用され、その間、軽い相は還流のために使用され、且つ、重い相は系から引き出された。0.01%未満の水濃度を有する、無水の塔底流出液(脱水された母液)が取得されたので、脱水は非常に良好に作用した。最終的に、蒸留相分離容器の重い相を介して、濃度0.02%の酢酸および濃度2%のアセトンと共に、水が系から引き出される。
【0082】
【表1】
【0083】
ACA = 酢酸
AA = アクリル酸
MAA = メタクリル酸
PRA = プロピオン酸
EtAC = 酢酸エチル
EtOH = エタノール
ACK = アセトン
FOL = ホルムアルデヒド
図1
図2
図3