(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光電変換基板を配置する際、前記蒸着面の中心において50°≦θ≦65°となるように前記光電変換基板を配置する請求項3に記載の放射線検出パネルの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
一実施形態に係る放射線検出パネルの製造装置は、シンチレータ材を蒸発させ鉛直上方へ向けて放射させる蒸発源と、前記蒸発源より鉛直上方側に位置し、光電変換基板の蒸着面が前記蒸発源に露出しかつ鉛直軸に対して斜めとなる状態に前記光電変換基板を保持する保持機構と、を備える。
【0016】
また、一実施形態に係る放射線検出パネルの製造装置は、シンチレータ材を蒸発させ放射させる蒸発源と、前記蒸発源から放射される前記シンチレータ材が光電変換基板の蒸着面上に蒸着されるように前記光電変換基板を保持する保持機構と、前記光電変換基板から向かって前記保持機構を越えて位置し、前記保持機構に間隔を置いて配向配置され、前記保持機構に対向し黒色化処理が施された表面を有する熱伝導体と、を備える。
【0017】
また、一実施形態に係る放射線検出パネルの製造方法は、蒸発源より鉛直上方側で、光電変換基板の蒸着面が前記蒸発源に露出しかつ鉛直軸に対して斜めとなる状態に前記光電変換基板を配置し、前記蒸発源により、シンチレータ材を蒸発させ鉛直上方へ向けて放射し、前記蒸着面上に前記シンチレータ材を蒸着させ蛍光体膜を形成する。
【0018】
また、一実施形態に係る放射線検出パネルの製造方法は、光電変換基板の蒸着面上にシンチレータ材を蒸着させ蛍光体膜を形成し、前記蒸着面上に前記シンチレータ材を蒸着させる際、蒸着初期の前記光電変換基板の温度を70℃乃至140℃の範囲内に制御し、前記蒸着初期以降の前記光電変換基板の温度を125℃乃至190℃の範囲内に制御する。
【0019】
以下、図面を参照しながら一実施形態に係るX線検出パネルの製造装置及びX線検出パネルの製造方法について詳細に説明する。始めに、上記X線検出パネルの製造方法を使用して製造されたX線検出パネルの構成について説明する。ここでは、X線検出パネルを利用するX線平面検出装置の全体的な構成についても説明する。
【0020】
図1は、X線平面検出装置を概略的に示す断面図である。
図1に示すように、X線平面検出装置は、大型のX線平面検出装置である。X線平面検出装置は、X線検出パネル2、防湿カバー3、支持基板4、回路基板5、X線遮蔽用の鉛プレート6、放熱絶縁シート7、接続部材8、筐体9、フレキシブル回路基板10、及び入射窓11を備えている。
【0021】
図2は、X線平面検出装置の一部を示す分解斜視図である。
図1及び
図2に示すように、X線検出パネル2は、光電変換基板21と、蛍光体膜22とを有している。光電変換基板21は、0.7mm厚のガラス基板と、ガラス基板上に2次元的に形成された複数の光検出部28とを備えている。光検出部28は、スイッチング素子としてのTFT(薄膜トランジスタ)26及びフォトセンサとしてのPD(フォトダイオード)27を有している。TFT26及びPD27は、例えばa−Si(アモルファスシリコン)を基材として形成されている。光電変換基板21の平面に沿った方向のサイズは、例えば正方形であり、1辺が50cmである。なお、大型のX線平面検出装置において、光電変換基板21の一辺の長さは、例えば13乃至17インチである。
【0022】
蛍光体膜22は、光電変換基板21上に直接形成されている。蛍光体膜22は、光電変換基板21のX線の入射側に位置している。蛍光体膜22は、X線を光(蛍光)に変換するものである。なお、PD27は、蛍光体膜22で変換された光を電気信号に変換するものである。
【0023】
蛍光体膜22は、光電変換基板21上にシンチレータ材を蒸着させることにより形成されている。シンチレータ材としては、ヨウ化セシウム(CsI)を主成分とする材料を用いることができる。蛍光体膜22の厚みは、100乃至1000μmの範囲内に設定されている。より適切には、感度と解像度とを評価して、蛍光体膜22の厚みは、200乃至600μmの範囲内に設定されている。
【0024】
この実施形態において、蛍光体膜22の厚みは、500μmに調整されている。シンチレータ材としては、主成分であるCsIにタリウム(Tl)またはヨウ化タリウム(TlI)を添加した材料を用いている。これにより、蛍光体膜22は、X線が入射されることにより適切な波長の光(蛍光)を放出することができる。
【0025】
例えば、添加するヨウ化タリウム(TlI)は数%乃至それ以下であり、よってシンチレータ材中のヨウ化セシウム(CsI)濃度割合は95%以上を占めると好ましい。
【0026】
図1に示すように、防湿カバー3は、蛍光体膜22を完全に覆い、蛍光体膜22に封着されている。防湿カバー3は、例えばアルミニウム合金で形成されている。防湿カバー3の厚みが大きくなると、蛍光体膜22に入射されるX線量が減衰し、X線検出パネル2の感度の低下を招いてしまう。このため、防湿カバー3の厚みはなるべく小さくした方が望ましい。防湿カバー3の厚みを設定するに当たっては、各種パラメータ(防湿カバー3の形状の安定性、製造に耐える強度、蛍光体膜22に入射されるX線の減衰量)のバランスを考慮している。防湿カバー3の厚みは、50乃至500μmの範囲内に設定されている。この実施形態において、防湿カバー3の厚みは、200μmに調整されている。
【0027】
光電変換基板21の外周部には、外部と接続するための複数のパッドが形成されている。複数のパッドは、光電変換基板21の駆動のための電気信号の入力及び出力信号の出力に使用される。
【0028】
上記X線検出パネル2及び防湿カバー3の集合体は、薄い部材を積層して構成されているため、上記集合体は、軽く、強度の低いものである。このため、X線検出パネル2は、粘着シートを介して支持基板4の平坦な一面に固定されている。支持基板4は、例えばアルミニウム合金で形成され、X線検出パネル2を安定して保持するために必要な強度を有している。
【0029】
支持基板4の他面には、鉛プレート6と放熱絶縁シート7とを介して回路基板5が固定されている。回路基板5はねじ等で支持基板4に固定されている。回路基板5及びX線検出パネル2は、フレキシブル回路基板10を介して接続されている。フレキシブル回路基板10と、光電変換基板21との接続には、ACF(非等方性導電フィルム)を利用した熱圧着法が用いられる。この方法により、複数の微細な信号線の電気的接続が確保される。回路基板5には、フレキシブル回路基板10に対応するコネクタが実装されている。回路基板5は、上記コネクタなどを介してX線検出パネル2に電気的に接続されている。回路基板5は、X線検出パネル2を電気的に駆動し、かつ、X線検出パネル2からの出力信号を電気的に処理するものである。
【0030】
筐体9は、X線検出パネル2、防湿カバー3、支持基板4、回路基板5、鉛プレート6、放熱絶縁シート7、接続部材8を収容している。筐体9は、X線検出パネル2と対向した位置に形成された開口を有している。接続部材8は、筐体9に固定され、支持基板4を支持している。
【0031】
入射窓11は、筐体9の開口に取付けられている。入射窓11は、筐体9の開口を密閉している。入射窓11はX線を透過するため、X線は入射窓11を透過してX線検出パネル2に入射される。入射窓11は、板状に形成され、筐体9内部を保護する機能を有している。入射窓11は、X線吸収率の低い材料で薄く形成することが望ましい。これにより、入射窓11で生じる、X線の散乱と、X線量の減衰とを低減することができる。そして、薄くて軽いX線検出装置を実現することができる。X線検出装置は、上記のように形成されている。
【0032】
次に、X線検出パネル2の製造装置に利用する真空蒸着装置について説明する。
図3は、真空蒸着装置30を示す概略構成図である。
図3に示すように、真空蒸着装置30は、真空チャンバ31、シンチレータ材を加熱溶融して蒸発させる蒸発源としての坩堝32、ヒータ33、34、カバー35、熱伝導体36、保持機構37、温度調整部としての放熱部38及びモータ39を備えている。
【0033】
真空チャンバ31は、幅方向(水平方向)に比べ高さ方向(垂直方向、鉛直方向)に大きい箱状に形成されている。真空チャンバ31には図示しない真空排気装置(真空ポンプ)が取付けられ、真空排気装置は真空チャンバ31内を大気圧以下の圧力に保持することができる。真空蒸着装置30は、圧力を大気圧以下の所望の値に設定した環境下で行う真空蒸着法を利用している。
【0034】
坩堝32は、真空チャンバ31内の下方に配置されている。坩堝32内には、主成分であるCsIにTlIが添加されたシンチレータ材が投入される。例えば、ヨウ化セシウム(CsI)の濃度割合が95%以上のシンチレータ材を利用することができる。他には、ヨウ化セシウム(CsI)の濃度100%のシンチレータ材を投入し、少量のヨウ化タリウム(TlI)を別の小さな坩堝から蒸発させる方法もある。後者の場合でも柱状結晶の構造はヨウ化セシウム(CsI)により決定されるので、真空チャンバ31内の坩堝32の配置に関する作用効果の説明は同じである。
【0035】
坩堝32の中央の先端部は、筒状(煙突状)に形成され、真空チャンバ31の高さ方向に延出している。坩堝32の先端に位置する蒸発口32aは、真空チャンバ31の上方を向いて開口している。シンチレータ材は、蒸発口32aの中心を通る鉛直軸を中心に、鉛直上方に放射される。
【0036】
ヒータ33は坩堝32の周囲に設けられている。ヒータ33は坩堝32を加熱し、坩堝32の温度がシンチレータ材の融点以上となるように調整されている。ここでは、ヒータ33は、坩堝32を約700℃に加熱している。なお、坩堝32の温度は図示しない温度計で計測することができ、坩堝32の温度のモニタリングと、ヒータ33の駆動は図示しないヒータ駆動部で行うことができる。
【0037】
上記のように坩堝32が加熱されることにより、シンチレータ材の蒸発元素が坩堝32の蒸発口32aを通って真空チャンバ31の上方に放射される。また、坩堝32の先端部は筒状に形成されているため、指向性の高いシンチレータ材の放射を行うことができる。上記のことから、光電変換基板21が位置する方向に集中してシンチレータ材の放射を行うことができる。なお、坩堝32の先端部の長さを調整することにより、シンチレータ材の放射の指向性を調整することができる。
【0038】
この実施形態において、大型のX線検出パネル2を製造するため、光電変換基板21には多量(例えば400g)のシンチレータ材を蒸着する必要がある。このため、坩堝32には大型のものを利用し、坩堝32内には数kg(例えば6kg)以上のシンチレータ材が投入されている。
【0039】
ヒータ34は、坩堝32の先端部の周囲に設けられ、坩堝32の先端部を加熱している。これにより、坩堝32の先端部が閉塞することを防止することができる。
カバー35は、坩堝32及びヒータ33、34を覆っている。カバー35は、坩堝32及びヒータ33、34からの熱伝導の拡散を抑制する。カバー35には、冷却液(例えば水)が流れる冷却路が形成されている。
【0040】
熱伝導体36は、真空チャンバ31内の上方に位置し、真空チャンバ31に固定されている。熱伝導体36は、例えば厚さ3mmの板状に形成されている。熱伝導体36を形成する材料としては、例えばアルミニウムを利用することができる。熱伝導体36は、熱伝導により、放熱部38の熱を光電変換基板21及び保持機構37に伝えたり、光電変換基板21及び保持機構37の熱を放熱部38に伝えたりする機能を有している。また、熱伝導体36は、放熱部38などへのシンチレータ材の付着を防護する機能も有している。
【0041】
保持機構37は、熱伝導体36に対向し、熱伝導体36よりも真空チャンバ31の中心側に位置している。保持機構37は、光電変換基板21の蒸着面を露出させた状態で、光電変換基板21を保持する。光電変換基板21は、蒸着面が真空チャンバ31の高さ方向に対して鋭角をなすように傾斜した状態で保持されている。
【0042】
放熱部38は、熱伝導体36に対向し、熱伝導体36よりも真空チャンバ31の側壁側に位置している。放熱部38は真空チャンバ31に接続され、放熱部38に生じる熱は真空チャンバ31に伝達可能である。詳細には図示しないが、放熱部38は、熱伝導体及びヒータの集合体である。放熱部38のヒータは光電変換基板21を加熱するものである。なお、光電変換基板21の温度は図示しない温度計で計測することができ、光電変換基板21の温度のモニタリングと、放熱部38のヒータの駆動は図示しないヒータ駆動部で行うことができる。
【0043】
放熱部38のヒータが発生する熱は、熱伝導により熱伝導体36を介して光電変換基板21に伝えられる。放熱部38のヒータが発生する熱は、放熱部38の熱伝導体や保持機構37をさらに介して光電変換基板21に伝えられてもよい。
【0044】
一方、光電変換基板21に発生する熱は、熱伝導により熱伝導体36を介して放熱部38の熱伝導体に伝えられる。光電変換基板21に発生する熱は、保持機構37をさらに介して放熱部38の熱伝導体に伝えられてもよい。放熱部38の熱伝導体に伝えられた熱は、真空チャンバ31に伝達される。
【0045】
モータ39は、真空チャンバ31に気密に取付けられている。モータ39のシャフトは、放熱部38に形成された貫通口及び熱伝導体36に形成された貫通口を通って位置している。なお、保持機構37は、モータ39のシャフトに取付けられ、シャフトに着脱可能である。光電変換基板21の中心は、モータ39のシャフトに対向している。そして、モータ39を稼動させることにより、保持機構37が回転する。すると、光電変換基板21は、光電変換基板21の中心の法線に沿った軸を回転軸として回転する。
【0046】
この実施形態において、真空蒸着装置30は、熱伝導体36、保持機構37、放熱部38及びモータ39を2つずつ備えている。このため、真空蒸着装置30は、2枚の光電変換基板21に同時に蛍光体膜22を形成することができる。一方の保持機構37の位置と他方の保持機構37の位置とは、蒸発口32aを通る鉛直軸に対して対称である。光電変換基板21の蒸着面同士が互いに向き合うように、2台の保持機構37は、それぞれ斜めに配置されている。一方の光電変換基板21の蒸着面と他方の光電変換基板21の蒸着面との内側になす角度αは鋭角である。上記のように、真空蒸着装置30が形成されている。
【0047】
坩堝32の蒸発口から放射されるシンチレータ材の蒸発元素は、真空チャンバ31の上方に位置した光電変換基板21に蒸着する。その際、シンチレータ材の蒸発元素は、光電変換基板21に斜め方向から入射される。ここで、光電変換基板21へのシンチレータ材の入射角をθとする。入射角θは、光電変換基板21の法線とシンチレータ材の入射方向(蒸発口32aの中心と光電変換基板21蒸着面の任意の点とを結ぶ仮想線)とが内側になす角である。
【0048】
この実施形態では、光電変換基板21の中心において、θ=60°である。光電変換基板21の最上部(真空チャンバ31の天井壁側の光電変換基板21の端部)において、θ=70°である。光電変換基板21の最下部(坩堝32側の光電変換基板21の端部)において、θ=45°である。
【0049】
上記真空蒸着装置30は、θ=0°となる真空蒸着装置に比べ、真空チャンバ31の体積を低減することができる。これにより、真空排気装置などの装置負荷を低減することができる。また、真空引きに掛かる時間を短縮できるため、生産性の向上を図ることができる。
また、上記真空蒸着装置30では、シンチレータ材の利用効率を大幅に向上することができる。
【0050】
次に、X線検出パネル2の製造方法として、真空蒸着装置30を使用した蛍光体膜22の製造方法について説明する。
蛍光体膜22の製造が開始されると、まず、真空蒸着装置30と、光検出部28を含む光電変換基板21とを用意する。続いて、光電変換基板21を保持機構37に取付ける。その後、光電変換基板21が取付けられた保持機構37を真空チャンバ31内に搬入し、モータ39のシャフトに取付ける。
【0051】
次いで、真空チャンバ31を密閉し、真空排気装置を用いて真空チャンバ31内を真空引きする。続いて、モータ39を稼動させて光電変換基板21を回転させる。なお、モータ39の稼動を開始するタイミングは、特に限定されるものではなく種々変更可能である。例えば、坩堝32の温度のモニタリング結果に基づいて、モータ39の稼動を開始するタイミングを調整してもよい。
【0052】
次いで、ヒータ33、34を用いての坩堝32の加熱と、カバー35に形成された冷却路における冷却液の循環と、を開始する。その後、坩堝32内のシンチレータ材が蒸発することにより、光電変換基板21上にシンチレータ材が蒸着する。なお、光電変換基板21上に蒸着するシンチレータ材は熱を持っているため、蒸着期間において光電変換基板21は加熱される。上記のように、光電変換基板21上にシンチレータ材を蒸着することにより、光電変換基板21上に蛍光体膜22(
図2)が形成される。これにより、蛍光体膜22の製造が終了する。
【0053】
次に、真空チャンバ31内の圧力について説明する。
光電変換基板21上に入射したシンチレータ材の蒸発元素は、光電変換基板21上に結晶を形成する。蒸着初期の段階において光電変換基板21上に形成されるのは微小な結晶粒であるが、蒸着を継続すると、やがて結晶粒が柱状結晶となって成長する。柱状結晶の成長方向は、蒸発元素の入射方向の逆である。したがって、蒸発元素が光電変換基板21に斜めに入射する場合、柱状結晶はその斜め方向に成長することになる。
【0054】
このような柱状結晶の成長を抑制し、光電変換基板21の法線に沿った方向に柱状結晶を成長させるため、以前は、蒸着中の真空チャンバ31内にアルゴン(Ar)ガスなどの不活性ガスを導入し、真空チャンバ31内の圧力を1×10
−2乃至1Paほどに上昇させていた。蒸発元素は、上記不活性ガスの存在により飛翔し、光電変換基板21へ多方向から入射するようになる。この結果、柱状結晶の成長方向は、光電変換基板21の法線に沿った方向となる。
【0055】
しかしながら、不活性ガスの導入により真空チャンバ31内の圧力を上げた場合、光電変換基板21への蒸発元素の入射方向は全方向に亘るため、柱状結晶の成長は、柱状結晶が太くなる方向にも促進される。結果的には、柱状結晶が太くなり、X線検出パネル2の解像度が低下することになる。この問題を克服するため、本実施形態では、光電変換基板21上にシンチレータ材を蒸着させる際、不活性ガスの導入無しに行っている。そして、真空引きして圧力が1×10
−2Pa以下となる状態を維持した環境下で行う真空蒸着法を利用している。これにより、柱状結晶が太くなる成長を低減することができ、光電変換基板21の法線に沿った方向への結晶成長を促進させることができる。
【0056】
次に、光電変換基板21の回転速度について説明する。
光電変換基板21への蒸発元素の入射方向を平均化するため、光電変換基板21上にシンチレータ材を蒸着させる際、光電変換基板21を回転させている。これにより、蛍光体膜22の厚みを光電変換基板21全面に亘って一様にすることができる。
【0057】
また、結晶成長ベクトルの向きを平均化することができ、トータルで光電変換基板21の法線に沿った方向に柱状結晶を成長させることができる。ここで、結晶成長ベクトルの向きは柱状結晶の成長方向である。この結果、より細い柱状結晶を形成することができるため、X線検出パネル2の解像度の向上を図ることができる。
【0058】
上記結晶成長ベクトルの向きの平均化には、光電変換基板21の回転速度が主要な要素となる。ここで、本願発明者は、光電変換基板21の回転速度に対するMTF(modulation transfer function)値について調査した。調査結果を
図4に示す。
図4は、光電変換基板21の回転速度に対するMTF相対値の変化をグラフで示す図である。
図4には、光電変換基板21の回転速度を2rpm、4rpm、6rpm、とした場合の光電変換基板21の周辺部でのMTF値と、光電変換基板21の回転速度を2rpm、6rpm、10rpm、とした場合の光電変換基板21の中心部でのMTF値と、をプロットした。
【0059】
図4に示すように、光電変換基板21の回転速度を10rpmとした場合の光電変換基板21の周辺部でのMTF値と、光電変換基板21の回転速度を4rpmとした場合の光電変換基板21の中心部でのMTF値と、はプロットしていない。しかしながら、光電変換基板21の回転速度を変えても、光電変換基板21の周辺部でのMTF値と、光電変換基板21の中心部でのMTF値とは、ほぼ同様に推移することが分かる。また、光電変換基板21の回転速度が4rpm未満になると、MTF値が急低下することが分かる。
【0060】
一方、光電変換基板21の回転速度が4rpm以上では、MTF値が漸増することが分かる。従って、光電変換基板21を回転させる際、光電変換基板21の回転速度を4rpm以上とすることが望ましい。また、蒸着中は、光電変換基板21の回転速度を一定に保つとより望ましい。
【0061】
次に、光電変換基板21の中心における入射角θの下限について説明する。
本実施形態では、光電変換基板21の中心においてθ=60°となるように真空蒸着装置30を形成した場合について説明したが、これに限定されるものではなく種々変形可能である。真空蒸着装置30は、光電変換基板21の中心においてθ<60°となるように形成されていてもよい。しかし、入射角θが0°に近づくほど、光電変換基板21の蒸着面は真空チャンバ31の底壁を向くため、真空チャンバ31の幅が広がり、結果として真空チャンバ31の体積が増えることになる。上記のことは、光電変換基板21が大型である場合に顕著である。
【0062】
また、真空チャンバ31の体積圧縮率は、sinθ(入射角θのsin)に概ね比例するものである。言い換えると、真空チャンバ31の体積はcosθに略比例する。このため、0°≦θ<45°の範囲内では、真空チャンバ31の体積圧縮率は比較的緩慢であるが、一方で、θ=45°の場合に、真空チャンバ31の体積圧縮率は漸く70%程となる。45°<θの場合は、θ=45°の場合に比べて、体積圧縮率がより変化し、真空チャンバ31の体積圧縮率がより高くなる。これにより、真空チャンバ31の体積のより効率的な削減効果を得ることができる。
【0063】
このため、真空排気装置などの装置負荷、生産性、シンチレータ材の利用効率を考慮すると、真空蒸着装置30を、光電変換基板21の中心において45°≦θとなるように形成することが望ましい。
【0064】
次に、光電変換基板21の中心における入射角θの上限について説明する。
図5は、上記真空蒸着装置30の一部を示す模式図であり、坩堝32及び光電変換基板21を示す図である。
図5に示すように、光電変換基板21の蒸着面の中心における入射角θを、ここではθ
1とする。坩堝32の蒸発口32aから光電変換基板21(蒸着面)の中心までの距離(直線距離)をRとする。光電変換基板21の平面に沿った方向において、光電変換基板21(蒸着面)の中心からの長さをLとする。
【0065】
完全な真空状態では、蒸発元素の入射方向の反対側に結晶成長する。蒸着中に光電変換基板21は回転するため、蒸着ベクトルVa(Va1、Va2、Va3)の積算結果から光電変換基板21のそれぞれの個所の柱状結晶の成長方向が決まる。ここで、蒸着ベクトルの向きは蒸発元素の入射方向である。
【0066】
図6は、上記真空蒸着装置30の一部を示す他の模式図であり、坩堝32及び光電変換基板21を示す図である。
図6に示すように、光電変換基板21の最上部では、結晶成長ベクトルは光電変換基板21の内側に向くことが分かる(例えば、結晶成長ベクトルVb2参照)。光電変換基板21の最下部では、結晶成長ベクトルは光電変換基板21の外側に向くことが分かる(例えば、結晶成長ベクトルVb1参照)。蒸着中に光電変換基板21は回転するため、結晶成長ベクトルVb(Vb1、Vb2)の光電変換基板21の平面に沿った方向の成分は、互いに相殺される。
【0067】
ここで、結晶成長ベクトルVbの光電変換基板21の平面に沿った方向の成分をDhとする。結晶成長ベクトルVbの光電変換基板21の法線に沿った方向の成分をDvとする。簡単なシミュレーションとして、結晶成長ベクトルVbの大きさが距離Rの二乗に反比例すると仮定した場合、光電変換基板21の中心から長さLの位置において、成分Dh、Dvは、それぞれ次の式で表される。
【数1】
【0069】
光電変換基板21の平面に沿った方向への柱状結晶の成長の影響度は、成分Dhと、成分Dvとの比である成分比(Dh/Dv)を持って評価することができる。ここで、xは、光電変換基板21と坩堝32の蒸発口32aとの距離の相対寸法を特徴つける値であり、長さLと距離Rとの比(L/R)である(x=L/R)。
【0070】
図7は、入射角θ
1を40°、45°、50°、60°、70°、75°とした場合の、長さLと距離Rとの比(L/R)に対する結晶成長ベクトルの成分比(Dh/Dv)の変化をグラフで示す図である。
図7の縦軸では、光電変換基板21の内側方向を+とし、光電変換基板21の外側方向を−として表している。
図7は、上記数1、2を用いてシミュレーションした結果を表している。
図7に示すように、光電変換基板21の1辺の長さが50cmの場合、長さLは、0乃至25cmの範囲内である。一方、上記真空蒸着装置30の構造から、距離Rは150cm前後(100数10乃至200cm)が現実的な距離である。従って、比(L/R)の範囲は0.15乃至0.2となる。この範囲を考慮すると、入射角θ
1が70°以下であれば、(Dh/Dv)<1とできることが分かる。
【0071】
実際の柱状結晶の成長には、コサイン則と呼ばれる蒸発時の前方へ蒸発量の偏りや、微量な残留ガスなどの影響を受けるため、成分比(Dh/Dv)は、
図7に示した値よりも更に小さくなる(0に近づく)。
上記のことから、上述した入射角θの下限と併せると、45°≦θ
1≦70°であることが適切である。以上、簡単なシミュレーションの結果について説明した。
【0072】
ここで本願発明者等は、光電変換基板21の回転による効果をより精密かつ正確にシミュレーションした。その結果、50°≦θ
1≦65°であると、結晶垂直性(光電変換基板21の法線に沿った方向への結晶成長の促進性)がよりことが分かった。55°≦θ
1≦60°であると、結晶垂直性がさらによいことが分かり、柱状結晶の傾斜が略ゼロになることが分かった。
【0073】
次に、上記精密かつ正確なシミュレーションした内容について説明する。
ここで、斜め蒸着のモデル式を作成するためには、どの様な座標系を取るかが大切である。そこで、光電変換基板21の回転を考慮して、座標系を
図8の様に設定した。
図8は、真空チャンバ31、坩堝32及び光電変換基板21に座標を対応させた座標系を示す図である。
【0074】
図8に示すように、光電変換基板21の蒸着面をX−Y平面とし、光電変換基板21の回転軸(蒸着面の中心の法線に沿った軸)をZとする。蒸発口32aの中心を点Oとしている。点Oを通る坩堝32の中心軸(鉛直軸)は、X−Z平面上に位置している。坩堝32の中心軸とX軸との交点をTとする。例えば、点Tは真空蒸着装置30の頂点に相当する。シンチレータ材の蒸発元素(蒸着粒子)は、点Oから放射されると仮定することができ、坩堝32の中心軸を対称軸として周囲へ放射されると仮定することができる。
【0075】
入射角θ
1は、斜め蒸着を特徴付けるパラメータであり、座標系原点と点Oとの線分と、Z軸との内側になす角度である。点Pは、光電変換基板21の蒸着面(X−Y平面)上にあり、蒸着位置を表している。動径(座標系原点から点Pまでの直線距離)をL、回転角をφとすると、点PのX軸の座標X
P、Y軸の座標Y
P、及びZ軸の座標Z
Pを次のように表すことができる。
【0076】
X
P=L×cosφ
Y
P=L×sinφ
Z
P=0
また、動径Lは、座標系原点から点Pまでの直線距離L
O以下である。すなわち、L≦L
Oであり、より現実的にはL<L
Oである。その他、坩堝32の中心軸(線分OT)と、点Pへの入射方向(線分OP)との内側になす角度をηとする。
【0077】
ここで、まず一般式を導出する。一般式を導出する際、次の4点を仮定している。
【0078】
(1)真空チャンバ31内は十分に高真空の状態にあり、坩堝32から放出された蒸発元素は直接光電変換基板21の蒸着面に到達する。
【0079】
(2)蒸発元素は、坩堝32の中心軸に関して対称(軸対称)に放射される。
【0080】
(3)各瞬間における柱状結晶の成長方向は、蒸発元素の入射方向の逆である。
【0081】
(4)光電変換基板21は一様に回転する。すなわち、角度φは一様に変化する。
【0082】
そして、一般式を導出するため、上記座標系から、点Pの座標を数3に、点Oの座標を数4に、点Tの座標を数5に、点Oから点Tに向かうベクトルを数6に、点Oから点Pに向かうベクトルを数7に示す。
【数3】
【0087】
また、数6に基づく数式を数8に、数7に基づく数式を数9に、それぞれ示す。
【数8】
【0089】
図9は、
図8に示した座標系を示す図であり、各瞬間における点Pの柱状結晶の成長方向(結晶成長ベクトル)の成分を示す図である。
図9に示すように、光電変換基板21(蒸着面)に垂直な方向の成分をDa、動径方向の成分をDb、回転方向(φ方向)の成分をDcとする。なお、各成分の相対値に注目し、全成分にかかる係数は1とする。成分Daを数10に、成分Dbを数11に、成分Dcを数12に示す。
【数10】
【0092】
f(η)は、蒸発元素の分布を表す関数であり、軸対称性からηの関数である。また、η自体が、θ
1、φ、L、L
O、Rに依存する関数であり、すなわちη(θ
1,φ,L,L
O,R)である。
【0093】
上記のことから、長期的にみた場合の、点Pの柱状結晶の成長方向の成分を求めることができる。なお、
図8から分かるように、ηおよびfはφの偶関数であることに注意する。そして、光電変換基板21を回転する効果を考慮するためにはφで積分すればよい。
【0094】
光電変換基板21(蒸着面)に垂直な方向の成分を数13に、動径方向の成分を数14に示す。
【数13】
【0096】
なお、回転方向(φ方向)の成分に関しては、φに関する奇関数の積分となるため、ゼロ(0)となる。
【0097】
より具体的に計算を行うためには、f(η)の関数形が必要である。上述のように微小平面から蒸発における角度分布はcos則で良く近似できる。よって、f(η)=cos(η)の近似モデルを採用する。具体的には数15及び数16に示す関係式を利用する。
【数15】
【0099】
なお、Tはφを含まない関数であることに注意する。以上を考慮すると、cos則を用いた蒸着モデル式を求めることができる。cos則を用いた蒸着モデル式を、数17、数18及び数19に示す。数17は光電変換基板21(蒸着面)に垂直な方向の成分を示し、数18は動径方向の成分を示し。数19は回転方向(φ方向)の成分を示している。
【数17】
【0102】
なお、上述したように、回転方向(φ方向)の成分に関しては、φに関する奇関数の積分となるため、ゼロとなる。
【0103】
これらの数値を得るためには、数値積分を行うか、解析的に積分を求めれば蒸着状態をシミュレーションできる。上記のCOS則の厳密解から求めた光電変換基板21(蒸着面)に垂直な方向の成分を
図10に示す。
【0104】
図10は、入射角θ
1を45°、50°、55°、60°、65°、70°、75°とした場合の、光電変換基板21(蒸着面)の中心からの長さ(動径)Lに対する結晶成長ベクトルの垂直成分の相対長さの変化をグラフで示す図である。
図10において、距離L
O及び距離Rとしては現実的な値を仮定しており、L
O=1m、R=1.5mである。長さLは、0乃至0.5mの範囲内を評価の対象とした。一辺の長さが17インチの光電変換基板21であれば、長さLの最大値は0.3m(=0.43÷2×√2)であり、L≦0.5mを満たしている。
【0105】
図10から分かるように、長さLが変化しても、結晶成長ベクトルの垂直成分の均一性が良いという特徴がある。すなわち、45°≦θ
1≦70°において、結晶成長ベクトルの垂直成分の均一性が良いことが分かる。そして、蒸着膜厚(蛍光体膜22の厚み)の均一性が確保されると言い換えることもできる。また、入射角θ
1が替わることにより、結晶成長ベクトルの垂直成分(蒸着膜厚)が全体的にシフトすることが分かる。そして、入射角θ
1が大きくなるに従い、蒸着効率が低下することが分かる。
【0106】
他方、動径方向の成分を
図11に示す。
図11は、入射角θ
1を45°、50°、55°、60°、65°、70°、75°とした場合の、光電変換基板21(蒸着面)の中心からの長さ(動径)Lに対する結晶成長ベクトルの動径方向の成分の相対長さの変化をグラフで示す図である。
図11において、L
O=1m、R=1.5mである。長さLは、0乃至0.5mの範囲内を評価の対象とした。
【0107】
図11の縦軸では、光電変換基板21の内側方向を−とし、光電変換基板21の外側方向を+として表している。−であれば柱状結晶が内側方向に傾斜し、逆に+であれば柱状結晶が外側方向に傾斜する。
【0108】
図11から分かるように、光電変換基板21(蒸着面)の中心(回転軸)の位置では、光電変換基板21の回転により、結晶成長ベクトルの動径成分の平均化の効果が得られ、動径方向の成分はセロとなる。一方、長さLが大きくなるにつれ(L>0)、結晶成長ベクトルの動径成分が大きくなる傾向にある。上記傾向は入射角θ
1に大きく依存することを示している。結果を見ると、55°≦θ
1≦60°では、柱状結晶の傾斜が略ゼロとなる。結晶成長ベクトルの動径成分と垂直成分との比率を見ると、L≦0.3mであれば、動径成分と垂直成分との比が±3%以内に収まる。50°≦θ
1≦65°であっても、L≦0.3mであれば、動径成分と垂直成分との比が±10%以内に収まる。実用的に非常に良い垂直性を有する結晶が得られることを期待できる。
【0109】
上述したように、
図10及び
図11には、L
O=1m、R=1.5mとして評価した場合の結果を示した。次に、L
O=1m、R=1mとして評価した場合の結果を
図12及び
図13に示す。
【0110】
図12は、入射角θ
1を45°、50°、55°、60°、65°、70°、75°とした場合の、光電変換基板21(蒸着面)の中心からの長さ(動径)Lに対する結晶成長ベクトルの垂直成分の相対長さの変化をグラフで示す図である。
図13は、入射角θ
1を45°、50°、55°、60°、65°、70°、75°とした場合の、光電変換基板21(蒸着面)の中心からの長さ(動径)Lに対する結晶成長ベクトルの動径方向の成分の相対長さの変化をグラフで示す図である。
図12及び
図13において、長さLは、0乃至0.5mの範囲内を評価の対象とした。
【0111】
図12及び
図13に示すように、結果は
図10及び
図11(R=1.5m)と類似の傾向を示している。但し、距離Rが短くなる分、結晶成長ベクトルの垂直成分の均一性が低下し、結晶成長ベクトルの動径成分の傾き変動が大きくなることが分かる。
【0112】
しかしながら、この場合も、
図10及び
図11に示した例と同様の結論に至る。結果を見ると、55°≦θ
1≦60°では、柱状結晶の傾斜が略ゼロとなる。結晶成長ベクトルの動径成分と垂直成分との比率を見ると、L≦0.3mであれば、動径成分と垂直成分との比が±6.5%以内に収まる。55°≦θ
1≦60°となるように光電変換基板21を配置し、入射角θを所定範囲に設定することにより、一層の結晶垂直性の向上が期待できる。
【0113】
50°≦θ
1≦65°であっても、L≦0.3mであれば、動径成分と垂直成分との比が−13%乃至+10%の範囲内に収まり、垂直性のよい結晶が得られることが期待できる。従って、より垂直性の良いシンチレータ材の結晶が必要な場合、50°≦θ
1≦65°に設定することがより望ましい。
【0114】
次に、蒸着期間における光電変換基板21の温度について説明する。
通常の蒸着においては被蒸着基板を加熱することにより蒸着膜の付着力を上げる方法が採られている。この狙いは、被蒸着基板に入射した蒸発元素と被蒸着基板の表面との活性状態を高めることにより蒸着膜の付着力を高めることである。
【0115】
ところで、光電変換基板21は、ガラス基板上にa−Siを基材としたTFT26やPD27が作り込まれた基板である。また、上述した光電変換基板21の構成の説明では省略したが、光電変換基板21の上層には保護層が形成されている。保護層は、光電変換基板21の表面の平滑化、保護及び電気絶縁性を確保するものである。保護層はその求められる機能から有機膜、又は有機膜と薄い無機膜との積層膜で形成されている。
【0116】
光電変換基板21の表面にシンチレータ材を蒸着させる際、光電変換基板21の温度を上昇させると、光電変換基板21がダメージを受けたり、蛍光体膜22の付着力が低下したりするなど、信頼性の低下を引き起こす恐れがある。なお、X線イメージ管においては、アルミニウムで形成された基板上にシンチレータ材を蒸着させる方法及び構成を採っているため、蒸着の際の基板の温度を問題とすることは無い。
【0117】
上記のことから、TFT26及びPD27、さらに配線部の接続部などを考慮すると、光電変換基板21の温度を200数十℃以内に抑えることが望ましい。さらに、有機膜(保護膜)を考慮すると、光電変換基板21の温度を上記温度より低く抑えることが望ましい。
【0118】
有機膜の材料としては、光学的特性やフォトエッチングパターン形成機能などの要請から、特にアクリル系やシリコーン系などの有機樹脂剤が利用されることが多い。上記の他には、エポキシ系樹脂なども保護膜の材料に成り得るが、いずれの有機樹脂にもガラス転移点が存在し、このガラス転移点以上の温度では、有機膜の熱膨張係数の増加や、有機膜の軟化が始まる。
【0119】
従って、蒸着時の保護膜(光電変換基板21)の温度が大幅にガラス転移点を超えると、蒸着膜が安定となる。特に、光電変換基板21上へ蛍光体膜22の形成が始まる蒸着初期において、蒸着膜の安定度に与える影響は大きい。一方、蛍光体膜22(結晶膜)の形成を考慮した場合、蒸着中の光電変換基板21の温度はより高い温度であることが望ましい。
【0120】
ここで、本願発明者は、蒸着期間に光電変換基板21の温度に対する蛍光体膜22の状態の変化について調査した。そして、形成された蛍光体膜22に剥離の発生があるかどうかを調査し、蛍光体膜22の品質を判定した。調査する際、蒸着期間の光電変換基板21の温度を、蒸着初期と、蒸着初期以降とで変えて行った。ここで、蒸着初期とは、光電変換基板21上への蛍光体膜22の形成を開始するタイミングである。具体的には、坩堝32の先端部(蒸発口)に設けたシャッタを開くことにより、そのタイミングを設定できる。次の表1に調査結果を示す。
【表1】
【0121】
表1に示すように、蒸着初期の光電変換基板21の温度を100℃、蒸着初期以降の光電変換基板21の温度を125℃にそれぞれ調整したところ、形成された蛍光体膜22に剥離の発生は無く、強制試験を経ても蛍光体膜22に剥離の発生は無かった。ここで、強制試験とは、例えばエポキシ樹脂などの硬化収縮性樹脂を蛍光体膜22上に一定量塗布し、硬化収縮による膜応力を局所的に強制負荷する方法である。
【0122】
蒸着初期の光電変換基板21の温度を125℃、蒸着初期以降の光電変換基板21の温度を160乃至170℃にそれぞれ調整したところ、形成された蛍光体膜22に剥離の発生は無く、強制試験を経ても蛍光体膜22に剥離の発生は無かった。
【0123】
蒸着初期の光電変換基板21の温度を140℃、蒸着初期以降の光電変換基板21の温度を170乃至190℃にそれぞれ調整したところ、形成された蛍光体膜22に剥離の発生は無かったが、強制試験を経ると蛍光体膜22に剥離が発生した。
【0124】
蒸着初期の光電変換基板21の温度を150乃至180℃、蒸着初期以降の光電変換基板21の温度を180乃至195℃にそれぞれ調整したところ、形成された蛍光体膜22に剥離が発生した。
【0125】
蛍光体膜22の光電変換基板21への付着安定性に関しては、特に蒸着初期の光電変換基板21の温度の影響が大きい。蒸着初期の光電変換基板21の温度が140℃を超えると、形成された蛍光体膜22に剥離が発生するリスクが大幅に増加することが予想される。従って、蒸着初期の光電変換基板21の温度は140℃以下に抑えた方が望ましい。
【0126】
また、蒸着初期以降においては、125℃の温度条件でも膜剥れの無い適切な蛍光体膜22が形成できたことは上述の通りである。なお、125℃より低温側でも成膜は可能であるが、一方、蒸着初期以降の温度条件は蛍光体膜22の結晶成長条件に関連するため、感度などの蛍光体膜22の特性への影響も想定される。よって、125℃以上が適正範囲である。
【0127】
このため、蒸着初期以降においては、光電変換基板21の温度を125℃乃至190℃の範囲内とした方が望ましく、これにより、蛍光体膜22を剥離の発生無しに形成することができる。上記のように、蛍光体膜22の光電変換基板21への付着安定性の観点から、蒸着期間における光電変換基板21の温度の上限が判定される。
【0128】
一方、蒸着期間における光電変換基板21の温度の下限は、特性面から制約を受ける。ここで、本願発明者は、X線検出パネル2の感度特性が蒸着初期の光電変換基板21の温度と相関性があること、を見出した。
【0129】
蒸着初期の光電変換基板21の温度が65℃乃至85℃の範囲内では、諸要因の影響はあるものの、平均的には蒸着初期の光電変換基板21の温度に対し約0.6倍の比率で感度特性が比例する。従って、蒸着初期の光電変換基板21の温度が低くなるとX線検出パネル2の感度特性も低くなる。
【0130】
また、蒸着初期の光電変換基板21の温度が低下すると、結果的には蒸着初期以降の光電変換基板21の温度も低下する傾向となる。その結果、上述の結晶成長へ影響が想定される。また、上記のような感度低下現象を確認することができた。このため、X線検出パネル2が低感度を示すリスクを考慮すると、蒸着初期の光電変換基板21の温度は70℃以上が望ましい。
【0131】
上述した検討結果から、本実施形態において、光電変換基板21上にシンチレータ材を蒸着させる際、蒸着初期の光電変換基板21の温度を70℃乃至140℃の範囲内に制御し、蒸着初期以降の光電変換基板21の温度を125℃乃至190℃の範囲内に制御することが望ましい。
【0132】
また、蒸着初期の光電変換基板21の温度を70℃乃至125℃の範囲内に制御し、蒸着初期以降の光電変換基板21の温度を125℃乃至170℃の範囲内に制御した方がより好ましい。
【0133】
次に、真空チャンバ31内部で起こる熱伝導について説明する。
図14は、
図3に示した光電変換基板21、熱伝導体36、保持機構37及び放熱部38を示す図であり、熱伝導体36の機能を説明する模式図である。上述したように、蛍光体膜22を形成するため、坩堝32には大型のものを利用し、坩堝32内には数kg(例えば6kg)以上のシンチレータ材が投入される。坩堝32の温度は、CsIの溶融温度より高くするため約700℃に加熱される。
【0134】
図3及び
図8に示すように、従って、坩堝32からの放射(輻射)熱は大きいため、真空チャンバ31内の上方に位置した光電変換基板21は強く加熱される。さらに、蒸着中の蒸発元素が光電変換基板に熱エネルギを持ち込むため、光電変換基板21の温度は大きく上昇する。
【0135】
そこで、光電変換基板21及び保持機構37の全域に対向するように熱伝導体36を配置している。ここで、光電変換基板21及び保持機構37と対向した熱伝導体36の面を表面S1、放熱部38と対向した熱伝導体36の面を裏面S2とする。これにより、熱伝導体36は、光電変換基板21及び保持機構37からの放射熱を表面S1側で吸収することができるため、光電変換基板21の過熱を抑制し、光電変換基板21の温度を上述した適正な値に制御することが可能となる。
【0136】
また、熱伝導体36は、裏面S2側から放熱部38に放射熱を発散することができる。放熱部38のヒータを駆動しない場合、放熱部38は、熱伝導により熱を真空チャンバ31に伝える役割を果たしている。
【0137】
放射熱は、対向する両者の間の距離が短ければより効率良く伝えることができる。このため、本実施形態では、熱伝導体36を保持機構37(光電変換基板21)と放熱部38の間に介在させ、熱伝導体36及び保持機構37(光電変換基板21)間の距離、並びに熱伝導体36及び放熱部38間の距離を極力短くしている。
【0138】
また、表面S1と裏面S2の放射率をそれぞれ1に近づけ、熱伝導率の高い材料を利用して熱伝導体36を形成することが望ましく、これにより、光電変換基板21の過熱を一層抑制することができる。
【0139】
本実施形態において、熱伝導体36の表面S1及び裏面S2には、それぞれ黒色化処理が施されている。これにより、熱伝導体36は高い放射率を確保することができる。これは、アルミニウムなどで形成された金属光沢面の放射率が数10%程度であるのに比べ、黒色化処理が施された表面S1及び裏面S2の放射率は約95%を示すためである。表面S1及び裏面S2からの放射は、完全黒体放射に近いことが分かる。さらに、保持機構37の表面及び放熱部38の表面にも、放射率を上げる表面処理(黒色化処理)を施せば、より効果的である。
【0140】
以上のように構成されたX線検出パネルの製造方法によれば、放射線パネルを製造する際、光電変換基板21の中心において45°≦θ≦70°となるように光電変換基板21を配置している。次いで、光電変換基板21上にシンチレータ材を蒸着させ蛍光体膜22を形成している。
【0141】
光電変換基板21の中心において45°≦θとすることにより、真空排気装置などの装置負荷を低減することができ、生産性やシンチレータ材の利用効率の向上を図ることができる。特に大型のX線検出パネル2の製造において、生産性を向上させることができる。また、光電変換基板21の中心においてθ≦70°とすることにより、(Dh/Dv)<1とすることができ、より細い柱状結晶を形成することができるため、X線検出パネル2の解像度の向上に寄与することができる。
【0142】
圧力を1×10
−2Pa以下とした環境下で行う真空蒸着法を利用している。これにより、柱状結晶が太くなる成長を低減することができ、光電変換基板21の法線に沿った方向への結晶成長を促進させることができる。
光電変換基板21の回転速度を4rpm以上としている。これにより、MTF値が漸増するため、X線検出パネル2の解像度の向上に寄与することができる。
【0143】
光電変換基板21上にシンチレータ材を蒸着させる際、蒸着初期の光電変換基板21の温度を70℃乃至140℃の範囲内に制御し、蒸着初期以降の光電変換基板21の温度を125℃乃至190℃の範囲内に制御している。これにより、蛍光体膜22を剥離の発生無しに形成することができ、感度特性に優れたX線検出パネル2の形成に寄与することができる。
【0144】
上記のことから、生産性の向上を図ることができ、X線検出パネル2の解像度特性の向上に寄与する蛍光体膜22を形成することができるX線検出パネル2の製造方法を得ることができる。また、製造歩留まりが高い蛍光体膜22を形成することができるX線検出パネル2の製造方法を得ることができる。
【0145】
本発明の一つの実施形態を説明したが、実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0146】
例えば、上述した実施形態では、2枚のX線検出パネル2を同時に製造したが、1枚のX線検出パネル2のみを製造する場合や、3枚のX線検出パネル2を同時に製造する場合であっても上述した効果を得ることができる。3枚のX線検出パネル2を同時に製造する場合、真空蒸着装置30は、熱伝導体36、保持機構37、放熱部38及びモータ39を3つずつ備えている。例えば、3つの保持機構37は、坩堝32の中心軸(鉛直軸)を中心とした周方向に120°ずつずらして等間隔に配置することができる。
【0147】
坩堝32内には、CsIのみが投入されていてもよい。この場合、坩堝32(大型坩堝)とは別に用意した坩堝(小型坩堝)にTlIを投入し、CsIと、TlIを同時に蒸着しても上述した効果を得ることができる。
【0148】
熱伝導体36の形状は、板状に限定されるものではなく、ブロック構造など、種々変形可能である。熱伝導体36は、光電変換基板21の配置、保持機構37の形状、放熱部38との位置関係などに応じた形状に形成されていればよい。上述した実施形態では、熱伝導率を高めるためにアルミニウムを利用して熱伝導体36を形成したが、アルミニウムに限定されるものではなく、種々変形可能であり、銅(Cu)などの材料を利用して熱伝導体36が形成されていてもよい。
【0149】
上述した実施形態では、シンチレータ材にヨウ化セシウム(CsI)を主成分とする材料を利用したが、これに限定されるものではなく、シンチレータ材に他の材料を利用しても上述した実施形態と類似した効果を得ることができる。
【0150】
上述した技術は、X線検出パネルの製造装置及び製造方法への適用に限定されるものではなく、各種の放射線検出パネルの製造装置及び製造方法に適用することができる。
【0151】
以下に、原出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
【0152】
[1]シンチレータ材を蒸発させ鉛直上方へ向けて放射させる蒸発源と、
前記蒸発源より鉛直上方側に位置し、光電変換基板の蒸着面が前記蒸発源に露出しかつ鉛直軸に対して斜めとなる状態に前記光電変換基板を保持する保持機構と、を備える放射線検出パネルの製造装置。
【0153】
[2]前記保持機構に取付けられ、前記保持機構とともに前記光電変換基板を回転させる駆動部をさらに備える[1]に記載の放射線検出パネルの製造装置。
【0154】
[3]前記蒸発源より鉛直上方側に位置し、他の光電変換基板の他の蒸着面が前記蒸発源に露出しかつ前記鉛直軸に対して斜めとなる状態に前記他の光電変換基板を保持する他の保持機構をさらに備え、
前記蒸着面と前記他の蒸着面との内側になす角度は鋭角である[1]に記載の放射線検出パネルの製造装置。
【0155】
[4]前記蒸発源は、前記シンチレータ材を放射させる蒸発口を有し、
前記保持機構の位置と前記他の保持機構の位置とは、前記蒸発口を通る前記鉛直軸に対して対称である[3]に記載の放射線検出パネルの製造装置。
【0156】
[5]前記蒸発源は、前記シンチレータ材を放射させる蒸発口を有し、
前記蒸発口の中心と前記蒸着面の任意の点とを結ぶ仮想線と、前記蒸着面の法線との内側になす角度をθとすると、
前記保持機構は、前記蒸着面の中心において45°≦θ≦70°となるように前記光電変換基板を保持し、
前記駆動部は、前記蒸着面の中心の法線に沿った軸を回転軸として前記保持機構とともに前記光電変換基板を回転させる[2]に記載の放射線検出パネルの製造装置。
【0157】
[6]前記保持機構は、前記蒸着面の中心において50°≦θ≦65°となるように前記光電変換基板を保持する[5]に記載の放射線検出パネルの製造装置。
【0158】
[7]前記蒸発源及び保持機構を収容し、前記駆動部が取付けられた矩形箱状に形成された真空チャンバをさらに備え、
前記角度θは前記真空チャンバの高さ方向及び幅方向に平行な平面上で規定される角度であり、
前記真空チャンバの体積はcosθに略比例する[5]に記載の放射線検出パネルの製造装置。
【0159】
[8]シンチレータ材を蒸発させ放射させる蒸発源と、
前記蒸発源から放射される前記シンチレータ材が光電変換基板の蒸着面上に蒸着されるように前記光電変換基板を保持する保持機構と、
前記光電変換基板から向かって前記保持機構を越えて位置し、前記保持機構に間隔を置いて配向配置され、前記保持機構に対向し黒色化処理が施された表面を有する熱伝導体と、を備える放射線検出パネルの製造装置。
【0160】
[9]前記保持機構に取付けられ、前記保持機構とともに前記光電変換基板を回転させる駆動部をさらに備える[8]に記載の放射線検出パネルの製造装置。
【0161】
[10]前記熱伝導体は、黒色化処理が施された裏面をさらに有する[8]に記載の放射線検出パネルの製造装置。
【0162】
[11]前記保持機構から向かって前記熱伝導体を越えて位置し、前記熱伝導体を通じて前記光電変換基板の温度を調整する温度調整部をさらに備えている[8]に記載の放射線検出パネルの製造装置。
【0163】
[12]前記温度調整部は、前記蒸着面上に前記シンチレータ材を蒸着させる際、蒸着初期の前記光電変換基板の温度を70℃乃至140℃の範囲内に制御し、前記蒸着初期以降の前記光電変換基板の温度を125℃乃至190℃の範囲内に制御する[11]に記載の放射線検出パネルの製造装置。
【0164】
[13]蒸発源より鉛直上方側で、光電変換基板の蒸着面が前記蒸発源に露出しかつ鉛直軸に対して斜めとなる状態に前記光電変換基板を配置し、
前記蒸発源により、シンチレータ材を蒸発させ鉛直上方へ向けて放射し、前記蒸着面上に前記シンチレータ材を蒸着させ蛍光体膜を形成する放射線検出パネルの製造方法。
【0165】
[14]前記蒸着面上に前記シンチレータ材を蒸着させる際、前記光電変換基板を回転させる[13]に記載の放射線検出パネルの製造方法。
【0166】
[15]前記光電変換基板を配置する際、前記シンチレータ材の入射方向と前記蒸着面の法線との内側になす角度をθとすると、前記蒸着面の中心において45°≦θ≦70°となるように前記光電変換基板を配置し、
前記光電変換基板を回転させる際、前記蒸着面の中心の法線に沿った軸を回転軸として前記光電変換基板を回転させる[14]に記載の放射線検出パネルの製造方法。
【0167】
[16]前記光電変換基板を配置する際、前記蒸着面の中心において50°≦θ≦65°となるように前記光電変換基板を配置する[15]に記載の放射線検出パネルの製造方法。
【0168】
[17]光電変換基板の蒸着面上にシンチレータ材を蒸着させ蛍光体膜を形成し、
前記蒸着面上に前記シンチレータ材を蒸着させる際、蒸着初期の前記光電変換基板の温度を70℃乃至140℃の範囲内に制御し、前記蒸着初期以降の前記光電変換基板の温度を125℃乃至190℃の範囲内に制御する放射線検出パネルの製造方法。
【0169】
[18]蒸着初期の前記光電変換基板の温度を70℃乃至125℃の範囲内に制御し、
前記蒸着初期以降の前記光電変換基板の温度を125℃乃至170℃の範囲内に制御する[17]に記載の放射線検出パネルの製造方法。
【0170】
[19]前記蒸着面上に前記シンチレータ材を蒸着させる際、前記光電変換基板を回転させる[17]に記載の放射線検出パネルの製造方法。
【0171】
[20]真空引きして圧力が1×10
−2Pa以下となる状態を維持した環境下で行う真空蒸着法を利用する[14]又は[19]に記載の放射線検出パネルの製造方法。
【0172】
[21]前記光電変換基板を回転させる際、前記光電変換基板の回転速度を4rpm以上とする[14]又は[19]に記載の放射線検出パネルの製造方法。
【0173】
[22]前記シンチレータ材に、ヨウ化セシウム(CsI)を主成分とする材料を用いることを特徴とする[13]又は[17]に記載の放射線検出パネルの製造方法。