特許第6092344号(P6092344)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝エレベータ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6092344-エレベータのガバナ装置 図000002
  • 特許6092344-エレベータのガバナ装置 図000003
  • 特許6092344-エレベータのガバナ装置 図000004
  • 特許6092344-エレベータのガバナ装置 図000005
  • 特許6092344-エレベータのガバナ装置 図000006
  • 特許6092344-エレベータのガバナ装置 図000007
  • 特許6092344-エレベータのガバナ装置 図000008
  • 特許6092344-エレベータのガバナ装置 図000009
  • 特許6092344-エレベータのガバナ装置 図000010
  • 特許6092344-エレベータのガバナ装置 図000011
  • 特許6092344-エレベータのガバナ装置 図000012
  • 特許6092344-エレベータのガバナ装置 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6092344
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】エレベータのガバナ装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/04 20060101AFI20170227BHJP
【FI】
   B66B5/04 B
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-215896(P2015-215896)
(22)【出願日】2015年11月2日
【審査請求日】2015年11月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宿 努
【審査官】 今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第02243739(EP,A1)
【文献】 国際公開第2012/035641(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗り籠の動きに追従して走行するガバナロープと、
前記ガバナロープが巻き掛けられ、当該ガバナロープによって回転されるガバナシーブと、
前記ガバナシーブと同軸状に配置され、前記ガバナロープを掴むロープ掴み機構を動作させる回転輪と、
前記ガバナシーブに支持され、前記ガバナシーブと一体に回転するとともに、前記乗り籠の速度が定格速度を超過した時の前記ガバナシーブの回転に基づく遠心力で前記ガバナシーブの径方向外側に進出する動作位置に向けて変位するフライウエイトと、を具備したエレベータのガバナ装置であって、
前記回転輪は、前記回転輪の外周部から前記ガバナシーブに向けて突出するとともに、前記回転輪の周方向に間隔を存して配置された複数の第1の係合部を有し、
前記フライウエイトは、前記フライウエイトが前記動作位置に変位された状態において前記回転輪の径方向に沿う内側から前記第1の係合部に押し付けられる第2の係合部を有し、
前記回転輪の前記第1の係合部は、前記第2の係合部の外周面が押し付けられる摩擦接触面と、前記動作位置に向けて変位する前記フライウエイトの前記第2の係合部を避ける逃げ部と、を含み、前記第1の係合部の前記摩擦接触面と前記第2の係合部の前記外周面との間に生じる摩擦力で前記回転輪が前記ガバナシーブに追従して回転するエレベータのガバナ装置。
【請求項2】
前記第1の係合部の前記逃げ部は、前記摩擦接触面よりも前記ガバナシーブと一体に回転する前記フライウエイトの回転方向に沿う後側に位置された請求項1に記載のエレベータのガバナ装置。
【請求項3】
前記逃げ部および前記摩擦接触面は、前記回転輪の周方向に連続して形成された請求項1又は請求項2に記載のエレベータのガバナ装置。
【請求項4】
前記第1の係合部の前記逃げ部は、前記第2の係合部の回転方向に沿う先端を避けるように円弧状に湾曲された形状を有する請求項1又は請求項2に記載のエレベータのガバナ装置。
【請求項5】
前記第1の係合部の前記逃げ部は、前記第2の係合部の回転方向に沿う先端を避けるように斜めにカットされた形状を有する請求項1又は請求項2に記載のエレベータのガバナ装置。
【請求項6】
前記第1の係合部の前記摩擦接触面は、前記回転輪の周方向に延びた形状を有する請求項1に記載のエレベータのガバナ装置。
【請求項7】
乗り籠の動きに追従して走行するガバナロープと、
前記ガバナロープが巻き掛けられ、当該ガバナロープによって回転されるガバナシーブと、
前記ガバナシーブと同軸状に配置され、前記ガバナロープを掴むロープ掴み機構を動作させる回転輪と、
前記ガバナシーブに支持され、前記ガバナシーブと一体に回転するとともに、前記乗り籠の速度が定格速度を超過した時の前記ガバナシーブの回転に基づく遠心力で前記ガバナシーブの径方向外側に進出する動作位置に向けて変位するフライウエイトと、を具備したエレベータのガバナ装置であって、
前記回転輪は、前記回転輪の外周部から前記ガバナシーブに向けて突出するとともに、前記回転輪の周方向に間隔を存して配置された複数の第1の係合部を有し、
前記フライウエイトは、前記フライウエイトが前記動作位置に変位された状態において前記回転輪の径方向に沿う内側から前記第1の係合部に押し付けられる第2の係合部を有し、前記第1の係合部と前記第2の係合部との間に生じる摩擦力で前記回転輪が前記ガバナシーブに追従して回転するエレベータのガバナ装置。
【請求項8】
前記第1の係合部は、前記第2の係合部の外周面が押し付けられる摩擦接触面を有し、当該摩擦接触面が前記回転輪の周方向に延びた形状を有する請求項7に記載のエレベータのガバナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、乗り籠の速度が定格速度を超過した時に動作するエレベータのガバナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータのガバナ装置は、ガバナシーブ、ラチェットホイールおよびガバナシーブに回動可能に支持された一対のフライウエイトを備えている。
【0003】
ガバナシーブは、乗り籠に追従して走行するガバナロープにより、乗り籠の速度に応じて回転される。乗り籠の速度が定格速度を超過すると、ガバナシーブの回転に基づく遠心力によりフライウエイトがガバナシーブの径方向外側に向けて変位する。
【0004】
この結果、フライウエイトの周面から突出された凸部がラチェットホイールの外周部の爪に引っ掛かり、ラチェットホイールがガバナシーブに追従して回転する。このラチェットホイールの回転によりロープ掴み機構が動作し、ガバナロープの走行が強制的に停止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−84261号公報
【特許文献2】特開2015−48234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のガバナ装置によると、フライウエイトがガバナシーブの径方向外側に向けて変位した時に、フライウエイトの凸部の角部がラチェットホイールの爪の端部に衝突する。
【0007】
すなわち、高速で回転しているガバナシーブに対し、ラチェットホイールは静止状態を保っているので、フライウエイトの凸部がラチェットホイールの爪に衝突した時に、凸部および爪の双方に大きな衝撃が加わるのを避けられない。
【0008】
したがって、フライウエイトの凸部あるいはラチェットホイールの爪が摩耗したり損傷するリスクが増加し、凸部や爪の耐久性を確保するための対策が必要となる。
【0009】
本発明の目的は、フライウエイトおよび回転輪の耐摩耗性および耐衝撃性を高めることができ、信頼性に優れたガバナ装置を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態によれば、エレベータのガバナ装置は、乗り籠の動きに追従して走行するガバナロープと、前記ガバナロープによって回転されるガバナシーブと、前記ガバナシーブと同軸状に配置され、前記ガバナロープを掴むロープ掴み機構を動作させる回転輪と、前記ガバナシーブに支持され、前記ガバナシーブと一体に回転するとともに、前記乗り籠の速度が定格速度を超過した時の前記ガバナシーブの回転に基づく遠心力で前記ガバナシーブの径方向外側に進出する動作位置に向けて変位するフライウエイトと、を備えている。
【0011】
前記回転輪は、複数の第1の係合部を有する。第1の係合部は、前記回転輪の外周部から前記ガバナシーブに向けて突出するとともに、前記回転輪の周方向に間隔を存して配置されている。前記フライウエイトは、第2の係合部を有する。第2の係合部は、前記フライウエイトが前記動作位置に変位された状態において前記回転輪の径方向に沿う内側から前記第1の係合部に押し付けられる。
【0012】
前記第1の係合部は、前記第2の係合部の外周面が接触する摩擦接触面と、前記動作位置に向けて変位する前記フライウエイトの前記第2の係合部を避ける逃げ部と、を含んでいる。前記回転輪は、前記第1の係合部の前記摩擦接触面と前記第2の係合部の前記外周面との間に生じる摩擦力で前記ガバナシーブに追従して回転する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1の実施形態に係るエレベータの構成を概略的に示す側面図である。
図2】第1の実施形態のガバナ装置の斜視図である。
図3】第1の実施形態のガバナ装置の側面図である。
図4図3のF4−F4線に沿う断面図である。
図5】第1の実施形態において、ガバナシーブに支持された第1のフライウエイトとラチェットホイールとの位置関係を示す斜視図である。
図6】第1の実施形態において、ガバナ装置の速度検出機構を示す斜視図である。
図7】第1の実施形態で用いるフライウエイトの斜視図である。
図8】第1の実施形態において、ラチェットホイールの第1の係合部と第1のフライウエイトおよび第2のフライウエイトが夫々有する第2の係合部との位置関係を示す側面図である。
図9】第1の実施形態において、第1のフライウエイトが待機位置から動作位置に向けて変位する際の第2の係合部とラチェットホイールの第1の係合部との位置関係を示す側面図である。
図10】第1の実施形態において、第1の係合部の外周面が第2の係合部の摩擦接触面に押し付けられた状態を示す側面図である。
図11】第2の実施形態において、ラチェットホイールの第1の係合部と第1のフライウエイトの第2の係合部との位置関係を示す側面図である。
図12参考例に係るラチェットホイールの環状の壁部と第1のフライウエイトおよび第2のフライウエイトが夫々有する第2の係合部との位置関係を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1の実施形態]
以下、第1の実施形態について、図1ないし図10を参照して説明する。
【0015】
図1は、トラクション方式のエレベータ1を概略的に示している。図1に示すように、建屋の昇降路2には、一対のガイドレール3a,3bを介して乗り籠4が支持されている。乗り籠4は、メインロープ5を介して昇降路2に吊り下げられている。乗り籠4は、例えば機械室6に設置した巻上機(図示せず)でメインロープ5を巻き上げたり、巻き戻すことで昇降路2に沿って昇降動するようになっている。
【0016】
乗り籠4は、一対の上部案内装置8a,8b、一対の下部案内装置9a,9bおよび一対の非常停止装置10a,10bを装備している。上部案内装置8a,8bは、乗り籠4の上梁4aに取り付けられている。下部案内装置9a,9bは、乗り籠4の下梁4bに取り付けられている。上部案内装置8a,8bおよび下部案内装置9a,9bは、ガイドレール3a,3bを挟み込むことで、乗り籠4をガイドレール3a,3bに沿って案内する。
【0017】
非常停止装置10a,10bは、乗り籠4の下降速度が予め決められた定格速度を超過した時に、ガイドレール3a,3bを掴むことで乗り籠4を強制的に停止させる要素である。非常停止装置10a,10bは、下部案内装置9a,9bと共に乗り籠4の下梁4bに取り付けられている。
【0018】
図1に示すように、ガバナ装置12が機械室6に据え付けられている。ガバナ装置12は、ガバナロープ13を備えている。ガバナロープ13は、ガバナ装置12が有するガバナシーブ14と、昇降路2の底に設置されたテンショナシーブ15との間に亘って無端状に巻き掛けられている。そのため、ガバナロープ13は、乗り籠4が昇降動する範囲の全域に亘るように昇降路2に沿って延びている。
【0019】
ガバナロープ13は、ガバナシーブ14とテンショナシーブ15との間の中間部が複数のリンクを組み合わせたセフティリンク機構16を介して乗り籠4に連結されている。これにより、ガバナロープ13は、乗り籠4が昇降動する方向に乗り籠4と同じ速度で無端走行するようになっている。さらに、セフティリンク機構16は、乗り籠4の非常停止装置10a,10bに連結されている。
【0020】
次に、ガバナ装置12の詳細について、図2ないし図8を参照して説明する。図2ないし図4に示すように、ガバナ装置12は、基台18、速度検出機構19、ロープ掴み機構20およびリミットスイッチ21を主要な要素として備えている。
【0021】
基台18は、機械室6に配置した機械台6aに据え付けられている。基台18は、一対の支持板22a,22bを有している。支持板22a,22bは、機械室6で起立されているとともに、互いに間隔を存して平行に配置されている。
【0022】
速度検出機構19は、支持板22a,22bの上端部の間に介在されている。速度検出機構19は、前記ガバナシーブ14、回転輪としてのラチェットホイール23および回転軸24を備えている。図4に示すように、回転軸24の一端部に軸受25aを介して円盤状の第1のホルダ26が支持されている。さらに、回転軸24の軸方向に沿う中間部に軸受25bを介して円盤状の第2のホルダ27が支持されている。
【0023】
第1のホルダ26は、一方の支持板22aの上端部に複数のボルトで固定されている。同様に第2のホルダ27は、他方の支持板22bの上端部に複数のボルトで固定されている。これにより、回転軸24は、支持板22a,22bの上端部の間に水平に架け渡されている。
【0024】
ガバナシーブ14は、第1のホルダ26と第2のホルダ27との間で回転軸24の上に同軸状に支持されている。ガバナシーブ14は、回転軸24の外周面にキー28を介して固定されたボス部29と、ボス部29から放射状に突出された四本のスポーク部30a,30b,30c,30dと、スポーク部30a,30b,30c,30dの先端部の間を結ぶリム31と、を備えている。リム31は、ボス部29を同軸状に取り囲んでいるとともに、当該リム31にガバナロープ13が巻き掛けられている。
【0025】
このため、乗り籠4の昇降動に追従してガバナロープ13が走行すると、ガバナシーブ14がガバナロープ13の走行方向に応じて回転するようになっている。本実施形態では、乗り籠4が下降した時に、ガバナシーブ14は図3の矢印Aの方向に回転する。
【0026】
前記ラチェットホイール23は、第2のホルダ27の外周面に同軸状に固定されている。ラチェットホイール23は、ガバナシーブ14に対し回転軸24の軸方向に間隔を存して同軸状に配置されている。ラチェットホイール23の外周部23aは、ガバナシーブ14のリム31の側面と向かい合っている。
【0027】
図4ないし図6に示すように、複数の第1の係合部32がラチェットホイール23の外周部23aに形成されている。第1の係合部32は、ラチェットホイール23の外周部23aからガバナシ−ブ14のリム31に向けて一体的に突出されているとともに、ラチェットホイール23の周方向に間隔を存して配置されている。
【0028】
図3に示すように、ガバナシーブ14の周方向に隣り合うスポーク部30a,30b,30c,30dは、互いに交差する方向に延びている。第1のフライウエイト34aがスポーク部30aの中間部に支持されている。同様に、第2のフライウエイト34bがスポーク部30cの中間部に支持されている。第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bは、互いに共通の構成を有するので、第1のフライウエイト34aを代表して説明する。
【0029】
図7は、第1のフライウエイト34aの外観を示す斜視図である。図7に示すように、第1のフライウエイト34aは、一対の回動腕部35a,35bを備えている。回動腕部35a,35bは、スポーク部30aを間に挟んで互いに向かい合うとともに、スポーク部30aと交差する方向に延びている。
【0030】
一方の回動腕部35aは、他方の回動腕部35bよりも全長が長い。そのため、本実施形態では、一方の回動腕部35aの中間部および他方の回動腕部35bの一端部が共通のピボット軸36を介してスポーク部30aに回動可能に支持されている。さらに、回動腕部35a,35bの他端部の間は、連結部37により一体的に連結されている。
【0031】
図3および図6に示すように、第2のフライウエイト34bは、第1のフライウエイト34aに対し向きを反転させた姿勢でスポーク部30cに支持されている。第1のフライウエイト34aの一方の回動腕部35aの一端部と第2のフライウエイト34bの一方の回動腕部35aの他端部との間は、リレーロッド38を介して連結されている。
【0032】
そのため、乗り籠4の下降に伴ってガバナシーブ14が図3の矢印Aの方向に回転すると、第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bは、ガバナシーブ14の回転に伴う遠心力により回動腕部35a,35bの他端部がガバナシーブ14の径方向に沿う外側に向けて進出する動作位置に変位するようになっている。
【0033】
さらに、図3および図5に示すように、ガバナシーブ14のスポーク部30bは、第2のフライウエイト34bの一方の回動腕部35aの先端部と隣り合っている。一方の回動腕部35aの先端部とスポーク部30bから突出されたばね受け40との間に圧縮コイルばね41が介在されている。圧縮コイルばね41は、第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bに作用する遠心力に対抗する方向に第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bを弾性的に付勢している。
【0034】
このため、第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bは、圧縮コイルばね41のばね力により図8に示す待機位置に保持されている。待機位置では、回動腕部35a,35bの他端部が動作位置よりもガバナシーブ14の径方向に沿う内側に位置されている。
【0035】
さらに、圧縮コイルばね41のばね力を調整することで、第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bが待機位置から動作位置に向けて動き始めるタイミングを自由に変更することができる。
【0036】
第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bの他方の回動腕部35bは、夫々ガバナシーブ14とラチェットホイール23との間に位置されている。他方の回動腕部35bの外周縁部には、ねじ受け43および第2の係合部44が一体に形成されている。
【0037】
ねじ受け43は、他方の回動腕部35bの他端からガバナシーブ14の径方向に沿う外側に向けて突出されている。操作ボルト45がねじ受け43に取り付けられている。操作ボルト45は、ガバナシーブ14とラチェットホイール23との間で第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bが待機位置から動作位置に向けて変位する方向に突出されている。
【0038】
第2の係合部44は、ねじ受け43および操作ボルト45よりもラチェットホイール23の側に張り出している。第2の係合部44は、ラチェットホイール23の周方向に延びた外周面44aを有している。外周面44aは、例えばラチェットホイール23の外周部23aに沿うように円弧状に湾曲された曲面でもよいし、フラットな面であってもよい。さらに、外周面44aは、曲面とフラットな面とを組み合わせた複数の面で構成してもよく、外周面44aの形状に特に制約はない。
【0039】
図8ないし図10は、ラチェットホイール23の第1の係合部32と第1のフライウエイト34aの第2の係合部44との位置関係、およびラチェットホイール23の第1の係合部32と第2のフライウエイト34bの第2の係合部44との位置関係を示している。
【0040】
図8に示すように、第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bが待機位置に保持された状態では、第2の係合部44は、ラチェットホイール23の第1の係合部32よりもラチェットホイール23の径方向に沿う内側に位置されている。このため、ガバナシーブ14が乗り籠4の昇降動に追従して回転した状態においても、第2の係合部44が第1の係合部32と干渉することはない。第2の係合部44は、第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bが待機位置から動作位置に変位する過程で第1の係合部32に向けて進出する。
【0041】
本実施形態によると、ラチェットホイール23の第1の係合部32は、摩擦接触面47および逃げ部48を有している。摩擦接触面47は、第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bが有する第2の係合部44の外周面44aに面しているとともに、ラチェットホイール23の周方向に延びている。
【0042】
摩擦接触面47は、例えばラチェットホイール23の外周部23aに沿うように円弧状に湾曲された曲面でもよいし、フラットな面であってもよい。さらに、摩擦接触面47は、曲面とフラットな面とを組み合わせた複数の面で構成してもよく、摩擦接触面47の形状に特に制約はない。
【0043】
逃げ部48は、摩擦接触面47よりも乗り籠4が下降する際にガバナシーブ14と一体に回転する第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bの回転方向に沿う後側で摩擦接触面47に連続されている。本実施形態では、逃げ部48は、第2の係合部44の回転方向に沿う先端を避けるように円弧状に湾曲された形状を有している。
【0044】
そのため、第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bが待機位置から動作位置に向けて変位する過程では、第2の係合部44は、第1の係合部32に突き当たることなくラチェットホイール23の内側で回転する。
【0045】
第2の係合部44の外周面44aは、第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bが動作位置に達した状態において、第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bに作用する遠心力によって第1の係合部32の摩擦接触面47に強固に押し付けられる。
【0046】
この結果、第1の係合部32の摩擦接触面47と第2の係合部44の外周面44aとの間に摩擦力が生じ、当該摩擦力によりラチェットホイール23がガバナシーブ14に追従して回転する。
【0047】
図3に示すように、前記ロープ掴み機構20は、基台18の支持板22a,22bの下端部の間に介在されている。ロープ掴み機構20は、固定シュー50および可動シュー51を備えている。固定シュー50は、速度検出機構19の下方に位置するように基台18に固定されているとともに、ガバナシーブ14から下向きに延びたガバナロープ13と向かい合っている。
【0048】
可動シュー51は、固定シュー50に対しガバナシーブ14から下向きに延びたガバナロープ13を間に挟んで向かい合っている。可動シュー51は、ホルダ52を介して支持棒53の先端に取り付けられている。さらに、可動シュー51は、圧縮コイルばね54によりガバナロープ13に向けて弾性的に付勢されている。
【0049】
支持棒53の基端は、ピボット軸55を介して基台18の支持板22a,22bに回動可能に支持されている。このため、可動シュー51は、固定シュー50の上側に退避した待機位置と、固定シュー50と協働してガバナロープ13を挟み込む掴み位置との間で回動可能となっている。
【0050】
待機位置では、可動シュー51がガバナロープ13から離れているとともに、ホルダ52がラチェットホイール23の外周部23aから突出されたフック56に引っ掛かっている。そのため、乗り籠4の下降速度が定格速度の範囲内にある限り、ロープ掴み機構20の可動シュー51は、待機位置に保持されている。
【0051】
図2図3および図5に示すように、前記リミットスイッチ21は、ブラケット58を介して支持板22bの上端部に支持されている。リミットスイッチ21は、乗り籠4の下降速度が定格速度を超過した時に、巻上機の電源を遮断するとともに巻上機の電磁ブレーキを作動させるための要素である。リミットスイッチ21は、ガバナシーブ14とラチェットホイール23との間に進出する検出レバー59を備えている。
【0052】
このような構成のエレベータ1において、乗り籠4が昇降動すると、ガバナシーブ14が乗り籠4の動きに追従して回転する。ガバナシーブ14に支持された第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bは、ガバナシーブ14と一緒に回転するので、ガバナシーブ14の回転による遠心力を受ける。
【0053】
乗り籠4の下降速度が定格速度を超過した場合、ガバナシーブ14の回転に基づく遠心力により第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bが圧縮コイルばね41のばね力に抗して待機位置から動作位置に向けて変位し始める。
【0054】
乗り籠4の下降速度が例えば定格速度の130%に近づくと、第1のフライウエイト34a又は第2のフライウエイト34bの操作ボルト45の先端がリミットスイッチ21の検出レバー59を押し下げる。これにより、リミットスイッチ21が作動し、巻上機の電源を遮断するとともに巻上機の電磁ブレーキを作動させる。
【0055】
リミットスイッチ21が作動したにも拘らず、乗り籠4が停止せずに乗り籠4の下降速度が例えば定格速度の140%に近づいた場合、第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bに作用する遠心力が増大する。この結果、第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bが動作位置に向けてさらに変位し、第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bの第2の係合部44の外周面44aがラチェットホイール23の第1の係合部32の摩擦接触面47に押し付けられる。
【0056】
これにより、静止していたラチェットホイール23がガバナシーブ14に追従して回転し、ラチェットホイール23のフック56がロープ掴み機構20のホルダ52から外れる。
【0057】
したがって、ロープ掴み機構20の可動シュー51が待機位置から掴み位置に向けて倒れ込み、可動シュー51がガバナロープ13に接触する。可動シュー51は、ガバナロープ13との接触に伴って下方に引き込まれ、固定シュー50と協働してガバナロープ13を掴む。これにより、ガバナロープ13の走行が停止する。ガバナロープ13の走行が停止すると、セフティリンク機構16を介して乗り籠4の非常停止装置10a,10bが作動し、下降する乗り籠4を強制的に停止させる。
【0058】
第1の実施形態によると、ガバナシーブ14と一緒に回転する第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bは、図9に示すように、待機位置から動作位置に向けて変位する過程で、ラチェットホイール23の径方向に沿う内側からラチェットホイール23の第1の係合部32の摩擦接触面47に向けて進出する。
【0059】
ラチェットホイール23の第1の係合部32は、ガバナシーブ14と共に回転しつつガバナシーブ14の径方向外側に向けて変位する第2の係合部44を避けるように湾曲された逃げ部48を有している。このため、図10に示すように、第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bが動作位置に達した状態では、第2の係合部44の外周面44aは、静止した第1の係合部32に衝突することなくラチェットホイール23の径方向に沿う内側から第1の係合部32の摩擦接触面47に押し付けられる。
【0060】
したがって、ガバナシーブ14に追従して高速で回転する第2の係合部44が静止した第1の係合部32の角に衝突するのを回避でき、第1の係合部32および第2の係合部44の双方に大きな衝撃が加わることはない。よって、ガバナシーブ14およびラチェットホイール23の耐摩耗性および耐衝撃性を高めることが可能となり、動作の信頼性が高いガバナ装置12を得ることができる。
【0061】
[第2の実施形態]
図11は、第2の実施形態を開示している。第2の実施形態は、ラチェットホイール23の第1の係合部32の形状に関する事項が第1の実施形態と相違している。それ以外のガバナ装置12の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0062】
図11に示すように、第1の係合部32は、摩擦接触面47に連続する逃げ部61を有している。逃げ部61は、摩擦接触面47よりも乗り籠4が下降する際にガバナシーブ14と一体に回転する第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bの回転方向に沿う後側に位置されている。本実施形態では、逃げ部61は、第2の係合部44の回転方向に沿う先端を避けるように斜めにカットされた形状を有している。
【0063】
そのため、第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bが待機位置から動作位置に向けて変位する過程では、第2の係合部44は、第1の係合部32に突き当たることなくラチェットホイール23の内側で回転する。
【0064】
第2の実施形態によれば、ガバナシーブ14に追従して高速で回転する第2の係合部44が、静止した第1の係合部32の角に衝突するのを回避でき、前記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0065】
[参考例]
図12は、第1の実施形態と関連性を有する参考例を開示している。参考例は、ラチェットホイール23に関する事項が第1の実施形態と相違している。それ以外のガバナ装置12の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0066】
図12に示すように、ラチェットホイール23は、その外周部23aに壁部71を有している。壁部71は、ラチェットホイール23の周方向に連続した円環状に形成されており、ラチェットホイール23の外周部23aからガバナシーブ14に向けて張り出している。
【0067】
さらに、壁部71の内周面は、ラチェットホイール23の周方向に連続した摩擦接触面72を構成している。摩擦接触面72は、第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bが夫々有する第2の係合部44の外周面44aを取り囲んでいる。
【0068】
参考例において、第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bが待機位置から動作位置に向けて変位すると、第2の係合部44の外周面44aが静止した摩擦接触面72に近づく。第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bが動作位置に達すると、第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bに作用する遠心力によって第2の係合部44の外周面44aが摩擦接触面72に強固に押し付けられる。これにより、摩擦接触面72と外周面44aとの間に摩擦力が生じ、当該摩擦力によりラチェットホイール23がガバナシーブ14に追従して回転する。
【0069】
参考例では、摩擦接触面72がラチェットホイール23の周方向に連続した円環状に形成されている。このため、第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bが夫々有する第2の係合部44の外周面44aが摩擦接触面72に接するタイミングを自由に設定することができる。
【0070】
よって、第1の実施形態および第2の実施形態のガバナ装置12と比較した場合に、ガバナシーブ14と共に回転する第1のフライウエイト34aおよび第2のフライウエイト34bの第2の係合部44と、ラチェットホイール23の摩擦接触面72との位置合わせを容易に行うことができる。
【0071】
さらに、摩擦接触面72を有する壁部71は、ラチェットホイール23の周方向に連続した円環状であるので、ラチェットホイール23の形状を簡素化することができる。このため、ラチェットホイール23の製造に要するコストを削減でき、ガバナ装置12の価格を下げる上で好都合となる。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0073】
前記各実施形態では、第1のフライウエイトおよび第2のフライウエイトの回動腕部に第2の係合部を一体に形成したが、この構成に限定されるものではない。例えば、第2の係合部を回動腕部とは独立した別の要素とし、当該要素を回動腕部に対しボルトのような結合手段を用いて取り外し可能に固定してもよい。
【0074】
この構成によれば、第2の係合部がダメージを受けた場合に、既存の第2の係合部を新規な第2の係合部と交換することができる。このため、第1のフライウエイトおよび第2のフライウエイトはそのまま繰り返し利用することができ、経済的である。
【符号の説明】
【0075】
1…エレベータ、4…乗り籠、13…ガバナロープ、14…ガバナシーブ、20…ロープ掴み機構、23…回転輪(ラチェットホイール)、32…第1の係合部、34a,34b…フライウエイト(第1のフライウエイト、第2のフライウエイト)、44…第2の係合部、47…摩擦接触面、48,61…逃げ部。
【要約】
【課題】フライウエイトおよび回転輪の耐摩耗性および耐衝撃性を高めることができ、信頼性に優れたエレベータのガバナ装置を得ることにある。
【解決手段】ガバナ装置は、ガバナロープにより回転されるガバナシーブと、ガバナシーブと同軸状に配置された回転輪と、ガバナシーブの回転に基づく遠心力でガバナシーブの径方向外側に進出する動作位置に向けて変位するフライウエイトと、を備えている。回転輪は、回転輪の外周部からガバナシーブに向けて突出する複数の第1の係合部を有する。フライウエイトは、動作位置に変位された状態において回転輪の径方向に沿う内側から第1の係合部に押し付けられる第2の係合部を有する。第1の係合部は、第2の係合部の外周面が接触する摩擦接触面と、動作位置に向けて変位するフライウエイトの第2の係合部を避ける逃げ部と、を含む。回転輪は、第1の係合部の摩擦接触面と第2の係合部の外周面との間に生じる摩擦力でガバナシーブに追従して回転する。
【選択図】図10
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12