(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6092392
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】スイッチング周波数のシフトを伴う駆動方法及び駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02P 5/74 20060101AFI20170227BHJP
【FI】
H02P5/74
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-528962(P2015-528962)
(86)(22)【出願日】2013年8月21日
(65)【公表番号】特表2015-531226(P2015-531226A)
(43)【公表日】2015年10月29日
(86)【国際出願番号】EP2013067372
(87)【国際公開番号】WO2014033026
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2015年4月24日
(31)【優先権主張番号】102012215152.4
(32)【優先日】2012年8月27日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390039413
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ゲオルク バッハマイアー
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク ベルクマン
(72)【発明者】
【氏名】ギヨーム ペ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン バッハマン
(72)【発明者】
【氏名】マルコ ツュリアクス
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ゲアリヒ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドル ポペスク
【審査官】
マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−084790(JP,A)
【文献】
特開平04−200299(JP,A)
【文献】
特開2009−060691(JP,A)
【文献】
特開2005−210861(JP,A)
【文献】
特開2004−032938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 5/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのモータ(1,2)を備えた車両を駆動するための方法であって、
−前記少なくとも2つのモータの各々を、それぞれ1つのインバータ(3,4)により、各電気モータ周波数を有しているそれぞれ1つの駆動制御信号を用いて駆動制御するステップと、
−前記インバータに、1つの共振周波数を有している中間回路(5)を介して電流源(6)からの電流を供給するステップとを含み、
−前記インバータ(3,4)は、それぞれ1つのスイッチング周波数を有し、
−前記中間回路(5)では、そこに流れる電流のスペクトル成分が現れ、前記スペクトル成分は、各スイッチング周波数周りで前記電気モータ周波数から生じる複数の高調波(−5次、−3次、−1次、+1次、+3次、+5次)を有している、方法において、
−前記各インバータ(3,4)のスイッチング周波数を、前記各スイッチング周波数周りの複数の高調波の少なくとも1つが、常に、前記共振周波数(fres)から少なくとも1つの所定の間隔(Δf,Δf′)を有するように設定または制御し、
前記所定の間隔(Δf,Δf′)により、前記共振周波数周りの両側に、前記少なくとも1つの高調波から解放される領域(9,10)が提供される、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの高調波は、電気モータ周波数に起因する1次の高調波(−1次、+1次)である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記インバータ(3,4)のスイッチング周波数は、全ての前記1次の高調波(−1次、+1次)がスイッチング周波数周りで、常に前記共振周波数からそれぞれ1つの所定の間隔を有するように設定または制御される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記1次の高調波(−1次、+1次)の他に、全ての3次の高調波(−3次、+3次)も共振周波数からそれぞれ1つの所定の間隔を有している、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記インバータ(3,4)のスイッチング周波数は、当該スイッチング周波数周りで電気モータ周波数の1次の高調波と3次の高調波とがそれぞれ所定の間隔を保てない場合にのみ、変更される、請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記所定の間隔(Δf,Δf′)は、各スペクトル成分の振幅に依存して選択される、請求項1から5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記所定の間隔(Δf,Δf′)は、3次の高調波に対する場合よりも1次の高調波に対する場合の方が大である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記モータ(1,2)の駆動制御信号は、パルス幅変調された信号である、請求項1から7いずれか1項記載の方法。
【請求項9】
車両用の駆動装置であって、
−各電気モータ周波数を有しているそれぞれ1つの駆動制御信号を用いてそれぞれ1つのモータ(1,2)を駆動制御するための少なくとも2つのインバータ(3,4)と、
−前記少なくとも2つのインバータ(3,4)に電流源(6)からの電流を供給することができ、かつ1つの共振周波数(fres)を有している中間回路(5)とを備え、
−前記少なくとも2つのインバータ(3,4)は、それぞれ1つのスイッチング周波数を有し、
−前記中間回路(5)では、動作中にそこに流れる電流のスペクトル成分が現れ、前記スペクトル成分は、各スイッチング周波数周りで前記電気モータ周波数から生じる複数の高調波(−5次、−3次、−1次、+1次、+3次、+5次)を有している、駆動装置において、
−前記インバータ(3,4)のスイッチング周波数が、前記各スイッチング周波数周りの複数の高調波の少なくとも1つが、常に、前記共振周波数(fres)から少なくとも1つの所定の間隔(Δf,Δf′)を有するように設定または制御され、
前記所定の間隔(Δf,Δf′)により、前記共振周波数周りの両側に、前記少なくとも1つの高調波から解放される領域(9,10)が提供されることを特徴とする駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つのモータを備えた車両を駆動するための方法であって、前記各モータを、それぞれ1つのインバータにより、その都度の電気モータ周波数を有しているそれぞれ1つの駆動制御信号を用いて駆動制御するステップと、前記インバータに、共振周波数を有している中間回路を介して電流源からの電流を供給するステップとを含んでいる方法に関している。前記インバータは、共通のスイッチング周波数を有し、前記中間回路では、そこに流れる電流のスペクトル成分が現れ、該スペクトル成分は、スイッチング周波数周りで電気モータ周波数の複数の高調波を有している。さらに本発明は、相応の車両用駆動装置にも関している。
【背景技術】
【0002】
車両のドライブトレーン内に2つの電気モータが設けられている、電気的な駆動車両は既に存在している。これらの2つの電気モータは互いに独立して制御される。そのため、モータの回転速度と、電気的なモータ周波数は、必ずしも同じである必要はない。
【0003】
本発明が基礎とするような駆動装置は、
図1に示されている。このドライブトレーンは、ここでは例示的に2つのモータ1および2を有している。この2つのモータは、3相モータとして構成されている。モータ1および2の駆動制御のために、2つの逆変換装置ないしインバータ3,4が用いられる。これらのインバータ3,4は、中間回路5を介してバッテリ6かまたはその他の電流源から給電されている。
図1に示す等価的な回路図によれば、インバータ3に対する給電線路は、抵抗R1と線路インダクタンスL1とを有する。前記インバータ3の上流側には、前記中間回路5の一部としてカウントされる結合キャパシタンスClが接続されている。インバータ4に対する給電線路は、オーム抵抗R2と線路インダクタンスL2とを有する。この第2のインバータ4の上流側には、結合キャパシタンスC2が接続されている。
【0004】
前記中間回路5には、バッテリインダクタンスL3と内部抵抗R3とを有するバッテリ6から給電されている。しかしながらさらなる検討のために、オーム抵抗R1乃至R3はここでは無視することにする。その他にバッテリインダクタンスL3は、高いダイナミックレンジ用の線路インダクタンスL1、L2に対して無視できる位に高い。
【0005】
上記の簡素化に基づいて、中間回路5の簡易化されたブロック回路図が
図2示されている。ここには、キャパシタンスC1とインダクタンスLとからなる直列回路が示されており、この直列回路には、キャパシタンスC2が並列に接続されている。インダクタンスLは、線路インダクタンスL1とL2の和に相応する。キャパシタンスC1とインダクタンスLとの間のノードには、第1のインバータ3から流出した電流i1が流れている(
図1参照)。さらに、インダクタンスLとキャパシタンスC2との間のノードには、第2のインバータ4から流出した電流i2が流れている。インダクタンスLには、電流iLが流れている。
【0006】
図2のシステムは、共振周波数を有しており、このことは
図3のシステム応答図からも見てとれる。この共振周波数は、例えば線路インダクタンスが1.5μΗで、インバータキャパシタンスC1およびC2がそれぞれ600μFである場合に、5.3kHzであり得る。実際のシステム内の共振は、オーム抵抗によって減衰される。
【0007】
当該のケースでは、インバータ3及び4が、モータ1及び2のために、パルス幅変調された駆動制御信号(PWM)を生成する。このPWMの周波数は、例えば8kHzである。この周波数は、中間回路の共振周波数近傍にあるので、インバータ3及び4のPWM信号の一部のスペクトル成分も共振周波数の近傍にある。これらの信号成分は、
図3のシステムレスポンスに応じて増幅される。これらの不要な増幅は、中間回路ないし入力側キャパシタンスClおよびC2に負担を強いる。それ故にそれらは相応に設計する必要がある。その他にもこの不所望な増幅ないし共振ピーク値によってパフォーマンスも著しく損なわれる。
【0008】
図1のシステムでは、動作中に実質的に高調波を伴った3つの振動が発生する。そのうちの1つは、例えばインバータを動作させている8kHzの周波数である。一方、モータは、120Hzの平均電気速度で動作している。インバータやモータにおける非理想的な現象に基づいて、中間回路内では、電気モータ周波数の6倍の周波数に相応する高調波が生じる。これは、例えば選択された例では、720Hzの周波数に相当する。さらに、例えば2つのモータが20Hzの速度差を有している場合には、それによって第3の振動が生じる。
【0009】
中間回路内を流れる電流iLの電流スペクトルをより理解し易くするために、以下の分析は、動的モデルに基づく。ここでは高調波だけを描写する。インバータは、8kHzの固定パルス周波数で動作する。インバータ/モータシステムにおける非線形性の結果として、8kHzの周波数は電流信号の変調搬送波として用いられる。
【0010】
インバータのPWM周波数は、
ω
INV=2・π・8000
で表すことができ、
電気モータ周波数は、ω
MOTORで示される。このモータの直流電流は、以下の式、
【数1】
から得られる。
【0011】
従ってモータは、上記のコサイン引数で示されるような2つの高調波を生成する。これは、インバータ周波数とモータ周波数のサイン値どうしの乗算の結果である。
【0012】
駆動システムないし駆動装置内の各モータは、
図1及び
図2に示すような電流i1及びi2を生成する。これらの2つの電流は方向に依存して加算され、その結果、以下のような、
i(t)=i
1(t)−i
2(t)
総電流が得られる。
【0013】
最終的には、インバータのスイッチング周波数φ
INV1とφ
INV2の周りで以下のような
ω
1=ω
INV1−6・ω
MOTOR1
ω
2=ω
INV1+6・ω
MOTOR1
ω
3=ω
INV2−6・ω
MOTOR2
ω
4=ω
INV2+6・ω
MOTOR2
それぞれ2つの高調波が生じる。
【0014】
以下のシミュレーションでは、中間回路で発生する電流iLを時間領域において示している。周波数は以下のように、
f
INV1=8kHz
f
MOTRO1=116.7Hz
f
INV2=8kHz
f
MOTOR2=118.7Hz
選択される。
【0015】
ここでは2つのインバータの周波数は、等しくなるように選択されるため、これらのインバータに対して共通のスイッチング周波数が存在する。電気モータの周波数は20Hzだけ異なる。
【0016】
図4および
図5は、上記の周波数に基づいてシミュレートされた電流信号iLを示す。この場合、
図5は、
図4の0.04秒から0.05秒の間を抜粋して拡大表示している。
【0017】
そこでは、信号の細い部分、特にインバータのスイッチング周波数が見て取れる。
【0018】
シミュレートされた信号のスペクトルは、
図6に示されている。ここでは7300Hzと8700Hzの主要なスペクトル成分が示されている。これらのスペクトル成分は、700Hzの周波数を生じさせているモータ回転速度に起因している。詳細には、ここではインバータの8kHzのPWM周波数と一緒になって、
8000Hz−700Hz=7300Hz
ないしは
8000Hz+700Hz=8700Hz
となる。
【0019】
図7のスペクトル拡大詳細図に示されているように、モータ回転速度のわずかな違いは、2つの異なるスペクトル線を生じさせる。一方のスペクトル線は、実際は7300Hzであるが、それに対して他方のスペクトル線は、それよりも12Hz下方の7288Hzである。
【0020】
シミュレーションにおいて、スイッチング周波数周りのモータ周波数に起因する、より高い奇数倍の高調波を考慮するならば、
図8に示すようなスペクトルが生じる。複数のモータ周波数ないしは平均モータ周波数に基づく700Hzの周波数に関連して、8kHzのスイッチング周波数の左側と右側に、複数の奇数倍の高調波が出現している。とりわけスイッチング周波数の右側には「+1次」、「+3次」、「+5次」等の複数の正の高調波が発生している。一方左側には「−1次」、「−3次」、「−5次」等の複数の負の高調波が発生している。
【0021】
これらの周波数は、通常は、
図3による中間回路やシステムの共振周波数の近傍に存在しない限り問題にはならない。しかしながらモータの回転速度が変更された場合には、高調波周波数も変化し、それらの高調波周波数が共振領域内に入りこんで、そこで過剰に増幅されるようなことが起こり得る。そのため駆動装置の構成要素は、このような電流増幅にも耐えなければならない必要があり、その他にもこのことによって電力損失が引き起こされる。
【0022】
従って本発明の課題は、より少ない電力損失しか伴わず、構成要素の設計仕様に係る変更も極僅かで済むような、車両を駆動するための方法を提供することにある。
【0023】
前記課題は本発明により、少なくとも2つのモータを備えた車両を駆動するための方法であって、
−前記少なくとも2つのモータの各々を、それぞれ1つのインバータにより、その都度の電気モータ周波数を有しているそれぞれ1つの駆動制御信号を用いて駆動制御するステップと、
−前記インバータに、共振周波数を有している中間回路を介して電流源からの電流を供給するステップとを含み、
−前記インバータは、それぞれ1つのスイッチング周波数を有し、
−前記中間回路では、そこに流れる電流のスペクトル成分が現れ、前記スペクトル成分は、その都度のスイッチング周波数周りで前記電気モータ周波数から生じる複数の高調波を有し、
−前記各インバータのスイッチング周波数を、その都度のスイッチング周波数周りの複数の高調波の少なくとも1つが、常に、共振周波数から少なくとも1つの所定の間隔を有するように設定または制御する。
【0024】
また本発明によれば、車両用の駆動装置であって、
−その都度の電気モータ周波数を有しているそれぞれ1つの駆動制御信号を用いてそれぞれ1つのモータを駆動制御するための少なくとも2つのインバータと、
−前記少なくとも2つのインバータに電流源からの電流を供給することができ、かつ共振周波数を有している中間回路とを備え、
−前記少なくとも2つのインバータは、それぞれ1つのスイッチング周波数を有し、
−前記中間回路では、動作中にそこに流れる電流のスペクトル成分が出現し、前記スペクトル成分は、その都度のスイッチング周波数周りで前記電気モータ周波数から生じる複数の高調波を有し、
−前記その都度のスイッチング周波数周りの前記複数の高調波の少なくとも1つが、常に、前記共振周波数(F
res)から少なくとも1つの所定の間隔(Δf,Δf′)を有するように、前記インバータ(3,4)のスイッチング周波数が設定または制御される駆動装置も提供される。
【0025】
それ故有利には、インバータのケースにおいて、スイッチング周波数または共通のスイッチング周波数がシフトされる。このシフトにより、(インバータの結合キャパシタンスも含む)中間回路の共振周波数に対する(事前設定される)所定の間隔が保証される。この所定の間隔は、シフト中のオーバーシュートも可能な最小間隔であり得る。これにより、共振領域が、中間回路の共振周波数にて若しくはその周りで、高調波から開放された状態を保つことが達成される。その結果、過電流が発生することはなくなり、インバータの結合キャパシタンスを小さなサイズにすることが可能になる。その他に電力損失も僅かになる。
【0026】
有利には、前記所定の間隔により、共振周波数周りの両側にて、少なくとも1つの高調波から開放された状態が保たれる領域が提供される。これにより、共振周波数の両側において、高調波から保たれる必要最小限の間隔が事前設定される。
【0027】
少なくとも1つの高調波は、電気モータ周波数に起因する1次高調波であってもよい。この1次高調波は、その都度の電気モータ周波数の6倍の周波数からなっている。
【0028】
その上さらに、各インバータのスイッチング周波数は、スイッチング周波数周りの全ての第1の高調波が、常に、共振周波数からそれぞれ1つの所定の間隔を有するように設定されるかまたは制御され得る。このことは、正の第1の高調波だけでなく、負の第1の高調波も前述した間隔を保たなければならないことを意味する。
【0029】
さらに有利には、1次の高調波の他に、全ての3次の高調波も、共振周波数からそれぞれ1つの所定の間隔を有する。このことは、特に3次の高調波が、振幅ピーク値においてインバータの結合キャパシタンスに過負荷をかけるくらいに高い振幅を有している場合に考慮される。
【0030】
この関係において場合により有利には、各インバータのスイッチング周波数は、当該スイッチング周波数周りで電気モータ周波数の1次の高調波と3次の高調波とがそれぞれ所定の間隔を保てない場合にのみ変更される。すなわち、例えば5次のおよびそれ以上の高調波が、共振ピーク値によりインバータの結合キャパシタンスに過負荷をかけない位の低い振幅しか有さないのならば、5次の及びそれ以上の高調波が共振周波数の領域に入った場合でもインバータスイッチング周波数の変更は省略してもよい。
【0031】
特に有利には、前記所定の間隔は、各スペクトル成分の振幅に依存して選択される。典型的には、1次の高調波は、3次の高調波よりも高い振幅を有する。このケースにおいて、3次の高調波が共振周波数に対して保たなければならない最小間隔は、1次の高調波のための間隔よりも小さい。なぜなら3次の高調波は、マイナスの結果を引き起こすことなく1次の高調波よりも多くの増幅が可能だからである。
【0032】
前記モータの駆動制御信号は、パルス幅変調された信号であってもよい。それにより、本発明は、通常のインバータにも適用可能となる。
【0033】
前述した方法ステップによれば、当該方法ステップを実現することができ、かつ相応の駆動装置の一部になり得る手段も、間接的に定められる。
【0034】
以下では本発明を、添付の図面に基づき詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の基礎とすることができる2つのモータを備えた車両用の駆動装置の概略図
【
図4】中間回路におけるシミュレートされた電流経過を示す図
【
図8】複数の高調波を有するシミュレートされた信号のスペクトルを示す図
【
図10】共振領域からダウンシフトされた高調波を示す図
【
図11】共振領域からアップシフトされた高調波を示す図
【0036】
以下で詳細に説明する実施例は、本発明の好ましい実施形態を表している。
【0037】
本発明による方法は、
図1乃至
図8に関連して説明したものに基づく。従って、ここまでの説明は上記図面が参照される。また、インバータ3,4は、それらが自身のスイッチング周波数を自動的に変更できるように設計されているか、または、それらのスイッチング周波数が変化するように駆動制御される。それ故中間回路の共振周波数を励起しないために、インバータ周波数(例えば、PWM周波数または他のデジタル変調周波数)は変更される。この方法は、2以上のスイッチングインバータを使用することができる。
【0038】
冒頭でも説明したように、中間回路の周波数は、電気モータ周波数ω
MOTORとインバータないしスイッチング周波数ω
INVに依存する。このケースでは、以下の高調波周波数(以下では「モータ周波数に起因する高調波」とも称する)
ω
2k+1=ω
INV+(2k+1)・6・ω
MOTOR
k∈Z
が、各インバータによって直流側で生成される。ただし前記kは、0を含む正または負の整数を意味している。
【0039】
中間回路の共振周波数周りで、上記式によって定められる何らかの高調波から開放された状態が保たれる領域が定められる。スイッチング周波数ω
INVの両側に位置しているこれらの高調波は、上述したように、
図8に示されている。
【0040】
本発明の基本的な考え方は、共振周波数周りで事前設定される領域ないし事前設定可能な領域を、何らかの高調波から開放された状態に保ち続けることにあり、換言すれば、高調波と共振周波数との間の所定の最小間隔が保証されることにある。
【0041】
それ故に、禁止領域または開放された領域を回避するために、以下の例ではPWM周波数が変更される。以下の例については、説明の冒頭で当該実施例の変数を以下のように想定する。すなわち、
C1=C2=600μF
L=1.5μH
これにより、中間回路の共振周波数も再び5.3kHzとなり、2つのインバータに対して使用されるスイッチング周波数は8kHzである。
【0042】
電気自動車のドライブトレーンにおける測定では、実質的に1次、3次及び5次の高調波が重要であることが示されている。それ故、以下ではこれらの高調波のみを考慮する。
【0043】
車両速度は、例えばモータ回転速度や電気モータ周波数に直接結び付けることが可能である。電気モータ周波数の範囲は、0〜300Hzの間にある。この電気モータ周波数が例えば150Hzである場合には、中間回路のスペクトルには、以下のような周波数ないし高調波が生じる。すなわち、
ω
-5=8000−5・6・150=3500Hz
ω
-3=8000−3・6・150=5300Hz
ω
-1=8000−1・6・150=7100Hz
ω
1=8000+1・6・150=8900Hz
ω
3=8000+3・6・150=10700Hz
ω
5=8000+5・6・150=12500Hz
である。
【0044】
このことは、負の3次の高調波が、
図9に示されているように中間回路7の共振領域内に存在することを意味する。禁止帯はここでは5.1kHzと5.5kHzの間に定められる。つまりこのことは、中間回路内を流れる電流の高調波が、この禁止帯領域内に存在してはならないこと、すなわち、前記電流の高調波が、5300Hzの共振周波数からその両側に向けて200Hzの最小間隔を保っていなければならないことを意味する。この規定は、例えば、1次の高調波に対してのみ、または、1次および3次の高調波に対してのみ、あるいは、1次、3次、5次などの高調波に対してのみに適用することが可能である。
【0045】
ここでPWM周波数を200Hzだけ変更すれば、前記負の3次の高調波は、前記共振領域7から抜け出すのに十分なシフトをすることができるはずである。通常は、インバータ周波数を8kHzから7.8kHzへ200Hzだけ低減しさえすれば、単一のインバータないしは複数のインバータの損失を低減することができる。これによれば、
図10に示されているようなスペクトルが生じる。この図からは、負の3次の高調波が共振領域7の下方に位置しているのが識別できる。すなわち、当該負の3次の高調波ω
-3は、
ω
-3=7800Hz−3・6・150=5100Hz
の周波数に存在する。
【0046】
代替的に例えばよりきれいな正弦波形を得るために、前記PWM周波数を、200Hzだけアップさせて8.2kHzにシフトすることももちろん可能である。その場合の負の3次の高調波ω
-3は、
ω
-3=8200−3・6・150=5500Hz
の周波数に存在する。
【0047】
図11に示すように、負の3次の高調波が禁止帯共振領域7よりも高い周波数である場合には、ハードウェアの変更がなくても、システムの共振が励起されることは回避される。
【0048】
図12には、共振周波数f
resからの高調波の事前設定可能な間隔をどのように定義することが可能であるかがより正確に示されている。
図3でも示したように、ここでも伝達関数8は特定の共振周波数f
resの領域内で示されている。中間回路内の電流信号の1次の高調波は、例えば最大で3dB増幅される。それにより、共振周波数周りで1次の高調波が出現できない領域9が生じる。この領域9は、共振周波数f
resに対して、対称若しくは非対称に存在し得る。対称の場合には、前記領域は、f
res−Δf〜f
res+Δfに亘って延在する。このΔfは、共振周波数f
resに対して最低限維持しなければならない最小間隔を表す。非対称の場合には、例えば共振周波数f
resに対して最小限維持しなければならない最小間隔は、左側の方が、右側で維持しなければならない最小間隔に比べて大である。
【0049】
高調波が例えば6デシベルの増幅を許されるのならば、この高調波共振周波数にさらに近づくことができる。その結果、禁止帯領域10も、3dBの増幅が許されている場合の領域9よりも小さくなる。それに応じて、最小間隔Δf′も、Δfよりも小さくなる。
【0050】
禁止帯領域9,10は、各高調波毎に異なって定めることが可能である。例えばこの禁止帯領域は、高調波の振幅に依存して生じ得る。例えば1次の高調波の振幅が、3次の高調波の振幅よりも大きい場合には、3次の高調波は、所定の最大電流を超えることなしに共振周波数に近づける。
【0051】
但し前記禁止帯領域9,10は、単一又は複数のインバータに対して総合的に要求される電力に依存させることもできる。具体的に例えば少ない電力しか要求されないケースでは、高調波を、臨界的な電流強度を超えることなく、共振周波数に近づけることが可能となる。それとは逆に、高い電力が要求されるケースでは、高調波は共振周波数からさらに離れて距離をおかなければならない。
【0052】
本発明の上記実施例によれば、中間回路において臨界的な電流強度を超えることは回避され、インバータの結合キャパシタンスは、より少ない負担にしかさらされないため、低電流強度用の仕様ないし低電力用の仕様が可能になる。