(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
管径の異なる複数の円管を、外周部から中心部に向けて、管径が段階的に減少する順序で同心円状に配置してなる形状を有し、段階間の境界部に開孔部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の反応管用充填物。
上記構造物の最大断面積が反応管断面積の10%以上、100%以下であり、上記構造物の最小断面積が反応管断面積の0%以上、50%以下であり、上記構造物の長さが触媒層長の10%以上、90%以下であることを特徴とする請求項5に記載の反応管。
上記構造物が、管径の異なる複数の円管を、外周部から中心部に向けて、管径が段階的に減少する順序で同心円状に配置してなる形状を有し、段階間の境界部に開孔部を有するものであることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の反応管。
【背景技術】
【0002】
不均一系固体触媒に反応原料を連続的に接触させて行う固定床流通反応において、その反応が発熱または吸熱を伴う場合には、通常、多管式熱交換型反応器が用いられる。
【0003】
特に、発熱の大きい気相酸化反応あるいは吸熱の大きい気相脱水反応を工業的に実施する際には、多管式熱交換型反応器が用いられている。発熱の大きい気相酸化反応としては、例えば、エチレンの酸化によるエチレンオキサイドの製造、プロピレンの酸化によるアクロレインおよびアクリル酸の製造、イソブチレンの酸化によるメタクロレインおよびメタクリル酸の製造、ベンゼンの酸化による無水マレイン酸の製造などが挙げられ、吸熱の大きい気相脱水反応としては、例えば、モノエタノールアミンの脱水によるエチレンイミンの製造、N−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドンの脱水によるN−ビニル−2−ピロリドンの製造などが挙げられる。
【0004】
工業的に用いられる多管式熱交換型反応器は、固体触媒を充填する内径20〜50mm、長さ1〜20mの反応管を数千本から数万本備えており、それら反応管が熱媒体と接触することによって反応に係る熱の除去あるいは供給をおこなう仕組みとなっている。通常、多管式熱交換型反応器の熱媒体は反応管が接触する全域で可能な限り均一温度になる様に設計されているため、反応原料濃度の高い反応管入口付近の触媒への負荷が大きくなり、反応管入口から出口にかけて触媒の劣化度合いに大きな偏りが生じ、所望の反応成績を維持できなくなる時期が早まる場合がある。
【0005】
例えば、発熱反応の場合は反応管入口付近の除熱が不充分となり、触媒層温度が上昇し、副反応の増加を招くばかりでなく触媒の損傷や反応の暴走を招く危険性もある。吸熱反応の場合は反応管入口付近の熱供給が不充分となり、転化率の低下を招く。
【0006】
工業的に実施される気相接触反応の多くは、触媒に蓄積した炭素質を定期的に燃焼除去して触媒を再生する工程を含んでおり、その場合も炭素質の蓄積が多い反応管入口付近の燃焼熱の除去が不充分となり、触媒層温度の上昇による触媒損傷を招く場合がある。通常は、その温度上昇を回避するために低酸素濃度で徐々に炭素質を燃焼させるため、触媒再生に長時間を要する。
【0007】
反応管入口付近の触媒層で起こる問題の解決策として、反応に不活性な物質と混合希釈した触媒あるいは触媒活性を抑えた触媒を反応管入口付近に充填して反応管入口付近の反応割合を抑制する方法が知られている(特許文献1、特許文献2)。しかしながら、これらの方法は触媒や不活性物質を均一に充填することが極めて煩雑であり多大な労力と時間を要し、更に、触媒層の圧力損失が増大し、それは反応ガス供給動力の増加を招くという問題がある。
【0008】
特許文献3および特許文献4には、反応管の全長の温度特性を制御するために反応管入口から出口に向けて反応管内径を段階的に減少して反応管入口付近での反応割合を最適にする方法が開示されているが、反応管の制作費用が高額となるとともに異径反応管接続部分の機械的強度および熱歪に対する耐久性に課題が残る。
【0009】
ホットスポット部の発生を避ける方法として、特許文献5には反応管の軸中心部に金属棒を設置して局部的異常高温部の発生を防ぐ方法が開示されている。この方法は、従来、反応管の半径方向に生じていた温度傾斜が小さくなり、管軸中心部の温度上昇を抑制できるという効果を有する。しかし、金属棒の先端付近以降から触媒層断面積が増大することになるので、当該先端付近で第二の局部的異常高温部の発生が容易に予想される。
【0010】
また、特許文献6には反応管内部に中空管を設置し原料ガスの一部を触媒から隔離する方法が開示されている。この方法は、中空管に原料ガスを流して原料ガスの高温部への接触を防止することによって局部的異常高温部の発生を防ぐという効果を有する。しかし、特許文献6の方法では反応管内部が反応割合の異なる領域に二分されることになり、触媒負荷に大きな偏りをもたらす。例えば特許文献6の実施例では、2つの温度ピークが確認されている。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0033】
本発明の反応管用充填物(以下、単に「充填物」ということもある)は、原料流体が導入される反応管の入口側の端部または途中から他方の端部に向けて体積が減少する形状を有し、該充填物を反応管に反応管入口側から出口側に向けて該充填物体積が漸減するように設置することにより、反応管入口部近傍から出口部に向けて反応管容積に漸増する容積勾配を付与し、反応管に充填される触媒量を反応管入口部近傍から出口部に向けて漸増させることができる。更には該反応管用充填物が反応原料の流体が通過可能な構造、例えば孔または網目等、を有することで、該反応管用充填物の周囲に存在する触媒への流体の分散供給を効果的に行なうことができる。
【0034】
本発明の反応管用充填物は底面部といえる部分を有する。かかる底面部は、充填物の高さ方向に直交する方向で最も大きな断面積を有する端部である。例えば充填物が側面部に加えてさらに上面部を有する場合には、底面部は上面部よりも大きな面積を有する。当該充填物を、当該底面部が反応管の触媒層における原料流体入口側近傍に存在するよう反応管内に設置した場合、当該底面部の面積に応じて反応管触媒層の原料流体入口側近傍における触媒量を減らし、触媒層入口側における局所的異常高温部や局所的異常低温部の発生を抑制することが可能になる。かかる底面部は完全な面である必要はなく、凹凸を有していたり、或いは触媒が内部に侵入しない範囲で孔を有していたり網目状になっていてもよい。さらに、当該底面部が反応管内の目皿に接しているなどして充填物内への触媒の侵入が防止されているような場合には、充填物の底面部には何も存在しない状態であってもよい。
【0035】
本発明の反応管用充填物は、端部または途中から他方の端部に向けて連続的または段階的に体積が減少する形状を有することを特徴とする。
【0036】
上記の「端部」は、上記底面部に相当し、充填物の高さ方向に直交する方向の断面積が最も大きな端部をいう。なお、ここでの「充填物の高さ方向」とは、充填物のある端部からその反対側の端部が最も長い方向をいうものとする。
【0037】
上記の「途中」とは、上記底面部と他方の端部との間をいうものとする。他方の端部は、上記底面部の反対側の端部であり、例えば、充填物が上面部を有する場合は上面部をいい、充填物が錐体である場合は頂点をいう。かかる「途中」の充填物の高さ方向における底面部からの位置としては、充填物の高さ方向において底面部の位置を0%、他方の端部の位置を100%とした場合に、70%以下、60%以下または50%以下が好ましく、40%以下、30%以下または20%以下がより好ましく、15%以下または10%以下が特に好ましい。
【0038】
本発明において「連続的に体積が減少する形状」とは、充填物の高さ方向に直交する方向の断面積が、充填物の底面部からの距離が大きいほど小さくなる形状をいう。また、「段階的に体積が減少する形状」とは、充填物の底面部面積に比べて他方の端部における面積が小さく、且つ、充填物の高さ方向に直交する方向の断面積が、底面部からの距離が異なる位置において同一である箇所が1以上存在するが、底面部からの距離がより大きな位置における当該断面積がより小さな位置に比べて大きいことはない形状をいう。即ち、上記の「体積」は、充填物の高さ方向に直交する方向の断面積に相当する。
【0039】
本発明の反応管用充填物は、反応管に設置したときに、原料流体が導入される側の端部または途中から他方の端部に向けて体積が減少する形状を有しておればどの様な外形でも良く、その体積変化は連続的あるいは段階的でも良い。製作の容易な錐体状、錐台体状、半楕円体または半紡錘体状が好ましく、特に円錐体、円錐台体等が好ましい。このような形状であれば、従来の多管式熱交換型反応器の反応管に固体触媒とともに充填することで、反応管入口側から出口側に向けて触媒量が連続的または段階的に漸増した触媒充填の状態にすることができるため、反応原料濃度が高く反応割合の多い反応管入口付近での反応を穏和に進行させることが可能となる。
【0040】
本発明において「錐体」とは、平面上の多角形または円のような閉曲線のすべての点と、平面外の一点とを結んでできた立体をいう。「錐台体」とは、錐体から、頂点を共有し相似に縮小した錐体を取り除いた立体図形をいう。「円錐体」および「円錐台体」は、それぞれ底面形状が円である「錐体」と「錐台体」をいう。「楕円体」とは、x
2/a
2+y
2/b
2+z
2/c
2=1[式中、a、b、cは、それぞれx軸、y軸、z軸方向の径の半分の長さに相当する]の方程式で表され、楕円面で囲まれた立体をいい、本発明において「半楕円体」とは、x軸、y軸、z軸方向のうち最も長い方向に直交する方向で且つ中心を含む断面で楕円体を切断した形状をいう。「紡錘体」とは、円柱状で中心部が最も太く且つ両端が段々と細くなった形であり、楕円体に類似した形状であるが上記方程式で表されない形状をいう。本発明において「半紡錘体」とは、x軸、y軸、z軸方向のうち最も長い方向に直交する方向で且つ中心を含む断面で紡錘体を切断した形状をいう。
【0041】
なお、底面部から他方の端部に向けて断面積が段階的に減少する場合や、底面部と他方の端部の途中から断面積が減少する場合には、厳密には上記の錐体などとはいえない。しかし本発明では、これらの場合であっても、大まかなシルエットが錐体などに該当する場合には、その形状は錐体などに当てはまるものとする。
【0042】
図1に、円錐体型の反応管用充填物の断面図を示す。また、管径の異なる複数の円管を、外周部から中心部に向けて、管径が段階的に減少する順序で同心円状に配置してなる形状を有する反応管用充填物の断面図を
図2に、その斜視図を
図3に示す。これらの例のように、本発明の充填物は、底面部を有し、底面部から他方の端部に向けて、または底面部と他方の端部との間から他方の端部に向けて、高さ方向の直交方向の断面積が連続的または段階的に減少する形状を有する。なお、本発明は、図面に示した実施態様に限定されるものではない。
【0043】
該反応管用充填物の材質は、反応温度において耐熱性を有するものであれば特に制限はなく、金属やセラミックスを用いることができる。
【0044】
本発明に係る充填物の大きさは、使用する反応管の大きさや反応の種類などに応じて適宜決定すればよい。一般的には、例えば、底面部の円相当直径が5mm以上、40mm以下程度、高さを20mm以上、10m以下程度とすることができる。
【0045】
より具体的には、充填物の大きさは、充填物を挿入すべき反応管中の触媒層に応じて適宜決定すればよい。例えば、反応管の内部断面積、即ち触媒層の断面積に対する充填物の最大断面積、即ち充填物の底面部の面積の割合としては、10%以上が好ましく、30%以上がより好ましい。当該割合が10%以上であれば、反応管の入口部、即ち触媒層の原料流体導入側における触媒への負荷をより確実に軽減することができる。また、当該割合としては、100%以下が好ましく、60%以下がより好ましい。後述するように充填物の底面部に開孔部を設ければ、当該割合が100%であっても、触媒層へ原料流体を導入することができる。
【0046】
反応管の内部断面積、即ち触媒層の断面積に対する充填物の最小断面積、即ち充填物の底面部の反対側端部の断面積の割合としては、0%以上、50%以下が好ましく、30%以下がより好ましい。当該割合が0%の場合は、充填物の底面部の反対側端部の断面積がゼロであり、充填物の形状は錐体などである。また、当該割合が50%以下であれば、反応効率の低下をより確実に抑制することができる。
【0047】
充填物の高さとしては、反応管中の触媒層長さに対して10%以上が好ましく、20%以上がより好ましい。当該割合が10%以上であれば、反応管の入口部、即ち触媒層の原料流体導入側における触媒への負荷をより確実に軽減することができる。一方、当該割合としては、90%以下が好ましく、60%以下がより好ましい。当該割合が90%以下であれば、反応効率の低下をより確実に抑制できる。
【0048】
また、本発明の反応管用充填物は、その内部から外表面方向に原料流体が通過可能な開孔部を有することが好ましい。開孔部を有した構造にすることにより、原料流体が通過し得るとした場合は、原料流体は分散して当該充填物周囲の触媒と接触するため、更に反応割合の偏りを抑制できる。この場合、当該充填物は触媒層の空隙率を向上させる効果を有し、触媒層の圧力損失を低減することができる。
【0049】
充填物における開孔部の形状は特に制限されず、原料流体が充填物の外部から内部へ流入し、再び外部へ流出するものであれば特に制限されない。例えば、直径50μm以上、2mm以下程度の孔であってもよいし、目開き寸法が20μm以上、2mm以下の網目状構造で充填物を構成してもよい。上記径としては、100μm以上がより好ましく、200μm以上がさらに好ましく、また、1.5mm以下がより好ましく、1mm以下がさらに好ましい。また、上記目開き寸法としては、35μm以上がより好ましく、70μm以上または150μm以上がさらに好ましく、また、900μm以下または500μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましい。
【0050】
本発明の反応管用充填物の開孔率は特に限定されるものではないが、充填物表面積の20〜85%であれば良く、特に、30〜85%にすることで圧力損失を低減するという点で好ましい。開孔径は前記開孔率となるように適宜選択すれば良い。
【0051】
上記開孔率は、充填物の体積の大きい方の端部から体積の小さい方の他方の端部に向けて、即ち底面部から他方の端部に向けて、減少するようにすることが好ましい。かかる態様により、反応管中の触媒層に対する原料流体の分散度合いをより一層均一化することが可能になる。
【0052】
尚、開孔部は反応管入り口側の端部、即ち底面部から他方の端部に向けて開孔率が減少していても良く、それによって原料流体の通過量を反応管入口部から出口部に向けて制御することが可能となる。その結果、反応管中の触媒層に対する原料流体の分散度合いをより一層均一化することができる。例えば、充填物の高さ方向において底面部の位置を0%、他方の端部の位置を100%とした場合、0%以上、35%以下の範囲で表面積に対する開孔率を40%以上、70%以下;35%超、70%以下の範囲で表面積に対する開孔率を30%以上、40%以下;70%超、100%以下の範囲で表面積に対する開孔率を10%以上、30%以下とすることができる。本発明において「開孔率」とは、本発明に係る充填物の側面部や底面部またはその一部に占める開孔の面積のパーセンテージをいうものとする。
【0053】
充填物の内部から外表面方向に原料流体が通過可能な開孔部を有する構造とした場合、例えば反応管の入口と出口の間で圧力損失が大きいと、充填物の内部空間を通過する原料流体の量が必要以上に多くなるおそれがあり得る。その場合には、充填物内部に不活性固体(例えば、金属球、セラミックボールなど)を充填することで通気抵抗を生じさせ、原料流体の充填物内部空間の通過量を調節することが可能である。
【0054】
端部または途中から他方の端部に向けて段階的に体積が減少する形状を有する反応管用充填物は、管径の異なる複数の円管を、外周部から中心部に向けて、管径が段階的に減少する順序で同心円状に配置してなる形状を有するものとすることができる。
【0055】
かかる形状は、例えば、
図4に示すことができる。但し、
図4は形状を説明するための模式図であって、上記の反応管用充填物の製造方法を示すものではない。
【0056】
上記の反応管用充填物を構成する各段階の管の径は、反応管径、触媒サイズ、触媒活性、反応条件などにより適宜決定することができる。また、各段階の管の長さ、例えば
図3中のh
1〜h
5は、反応管の触媒層長、触媒活性、反応条件などにより適宜調整すればよい。各段階の管長は、同一であっても異なっていてもよく、例えば、管径が段階的に減少するにしたがって管長を段階的に減少させても増加させてもよい。管径が段階的に減少するにしたがって、管長も段階的に減少する外観形状がより好ましい。
【0057】
上記の反応管用充填物の段階数は、通常、2以上、10以下であり、好ましくは3以上、5以下である。
【0058】
上記の反応管用充填物は、少なくとも段階間の境界部に開孔部を有するものであることが好ましい。当該境界部は、
図3に示されているとおり、隣接する段階の間の、底面部と平行または略平行である部位をいう。当該部分に開孔部を設けることによって、原料流体の通過量をより精密に制御することが可能になる。
【0059】
段階間の境界部に開孔部を設ける場合には、例えば、径の異なる複数の円管を、中心軸を同じくし、大径管の内部に小径管を挿入して同心円状に配置することによっても製作できる。この場合、外周部から中心部に向けて径が段階的に減少し、且つ内側に設置した円管の外壁と、隣接して外側に配置した円管の内壁との間に空隙ができ、開孔部を有する構造となる。かかる円管を構成する管の壁厚は、通常、0.05mm以上、0.3mm以下とすることができる。
【0060】
また、直角三角形または直角台形の金属薄板を巻き円錐型とし、金属薄板間に空隙を有する構造とした反応管用充填物を用いても良い。なお、直角台形とは、4つの内角のうち2つが90°である台形をいう。
【0061】
かかる反応管用充填物は、例えば、
図5に示すように作製することができる。即ち、直角三角形の90°の内角、または直角台形の2つの90°内角を下側とし、長辺側を内側にして巻けば円錐型形状となる。この際、金属薄板間に空隙が形成され、かかる空隙が、底面部側から流体が通過する開孔部となる。
【0062】
上記の反応管用充填物を形成するための金属薄板の厚さは特に制限されないが、例えば、0.05mm以上、0.3mm以下とすることができる。また、
図5に示す直角三角形の底辺や、直角台形において両端角が90°である辺の長さは、反応管径の3倍以上、15倍以下とすることができる。
【0063】
原料流体が通過可能な開孔部を有さない閉じた構造の充填物においては、その底面側に原料流体を分散させる機能を持つ凸部を設けても良い。例えば、底面部全体を半球状や半楕円状にすることもできる。
【0064】
なお、反応器が下降流型の場合は該反応管用充填物の反応器入口側末端を取り外し可能な凸型の蓋で覆い、該充填物と反応管の隙間から触媒を充填することで該充填物を支障なく反応管内部に設置できる。
【0065】
本発明に係る反応管は、特に多管式熱交換型反応器の反応管として用いることができるものであり、触媒層を有し、当該触媒層中に、端部または途中から他方の端部に向けて連続的または段階的に体積が減少する形状を有する構造物、即ち、底面部を有し、底面部から他方の端部に向けて、または底面部と他方の端部との間から他方の端部に向けて、高さ方向の直交方向の断面積が連続的または段階的に減少する形状を有する構造物を内部に含むことを特徴とする。
【0066】
本発明に係る反応管の内部に含まれる構造物は、上記形状を有するものであれば特に制限されない。例えば、触媒と共に充填された上記反応管用充填物であってもよいし、または触媒の充填前から反応管に固定化された上記反応管用充填物に相当する構造物であってもよい。なお、上述した充填物の定義や説明において、「充填物」を「構造物」に読み替えてよいものとする。また、上記構造物が固定化されている反応管は、触媒が充填されていない状態でも流通可能である。
【0067】
反応管の形状や大きさは、反応の種類や実施規模などに応じて適宜決定すればよい。例えば、内径を20mm以上、50mm以下程度、長さを0.1m以上、20m以下程度とすることができる。反応管の外径や内径は一定でなくてもよいが、一定でないと製造コストがかかるので、好ましくは一定にする。また、反応管の形状は、
図6に示すように直線上の管であってもよいし、
図7に示すようにU字型の管などであってもよい。
【0068】
反応管の内部に設置する構造物の大きさは、使用する反応管の大きさや反応の種類などに応じて適宜決定すればよい。例えば、反応管断面積に対する構造物の最大断面積、即ち構造物の底面部の面積の割合としては10%以上、100%以下が好ましく、30%以上、60%以下がより好ましい。当該割合が10%以上であれば、反応管の入口部付近における局所的異常高温部や局所的異常低温部をより確実に抑制することができる。なお、当該割合が100%の場合であっても、構造物の底面部に開孔を設ければ原料流体の流通は可能である。また、反応管断面積に対する構造物の最小断面積の割合としては0%以上、50%以下が好ましく、0%以上、30%以下がより好ましい。この範囲であれば、反応を良好に進行せしめることができる。さらに、反応管内の触媒層長に対する構造物の長さ(高さ)の割合としては10%以上、90%以下が好ましく、20%以上、60%以下がより好ましい。当該割合が10%以上であれば、反応管の入口部付近における局所的異常高温部や局所的異常低温部をより確実に抑制することができる。一方、当該割合が90%以下であれば、反応を良好に進行せしめることができる。なお、上記構造物が固定化されており且つ触媒が充填されていない反応管では、上記構造物の長さ(高さ)は、充填予定の触媒層の長さを基準として決定すればよい。
【0069】
また、構造物には、
図7に示すように、温度計を保護するための保護管を通す穴を設けてもよい。
【0070】
上記構造物として反応管用充填物を反応管へ設置する場合、反応管入口部または出口部から反応管内部に挿入する。上記構造物の軸方向の設置位置は、反応管入口端と該構造物の底面部を同じくし、径方向の設置位置は、反応管の中心軸と該構造物の中心軸を同じとするが、これら位置は多少ずれてもその効果発現に支障はない。なお、上記の反応管入口部は、反応管中の触媒層における原料流体導入側端部であってもよいものとする。
【0071】
図6は上昇流型反応器の反応管に
図1の充填物を設置した後、触媒を充填した反応管の断面図である。
図6における構造物の底面部の円相当半径(r)と反応管内半径(R)の比は、(r/R)
2=0.1〜1.0の範囲であり、該構造物の高さ(h)と触媒層高(H)の比は、h/H=0.1〜0.9の範囲である。これらの比は、触媒の活性、選択性、触媒の大きさ、反応管入口出口間の圧損、反応条件などに応じてその最適値を選択する。
【0072】
本発明の反応器への触媒充填は通常の方法、すなわち、反応管上部から触媒を注ぐ方法で行う。本発明の構造物を設置した反応管を用いて成る多管式熱交換型反応器においては、それぞれの反応管に所定量の触媒を上部から注ぐのみで良く、充填速度および触媒層高が同等であれば圧損も同等となるため圧損調製用の材料を追加充填して圧損を微調整する様な作業は不要である。
【0073】
本発明に係る熱交換型反応器は、上記反応管を有する。反応管の数は特に制限されず、1以上であればよいが、目的化合物を工業的に製造する場合には、通常、反応管を1000本以上、30000本以下備える。
【0074】
本発明に係る熱交換型反応器は、本発明に係る構造物を含み触媒が充填された触媒層を有する反応管を含む。この反応管の周囲では熱媒が循環しており、反応に必要な熱を触媒層へ供給したり、或いは過剰な反応熱を吸収したりする。
【0075】
本発明は、上記構造物が設置され、かつ触媒が充填された反応管を用いる反応方法でもある。より具体的には、本発明に係る反応方法は、本発明に係る反応管に、上記構造物の体積の大きい方の端部側、即ち底面部側から原料流体を流通させる工程を含む。この場合、本発明に係る構造物により、局所的異常高温部や局所的異常低温部が発生しがちである反応管の触媒層における入口側付近において原料流体と触媒との接触を低減し、原料流体の流通方向に沿って当該接触機会が徐々に増えていく。その結果、反応管入口部付近での局所的異常高温部や局所的異常低温部の発生が抑制され、触媒寿命が延びると共に、反応効率も低下しない。
【0076】
本発明の構造物を反応管に設置し、かつ触媒を充填した反応管を用いる反応としては、特に限定されず、発熱または吸熱を伴なう反応を挙げることができる。好適には、気相酸化反応または気相還元反応であり、例えば、ベンゼンの酸化による無水マレイン酸の製造、エチレンの酸化によるエチレンオキシドの製造、プロピレンの酸化によるアクロレインおよびアクリル酸の製造、アクロレインの酸化によるアクリル酸の製造、イソブチレンの酸化によるメタクロレインおよびメタクリル酸の製造、メタクロレインの酸化によるメタクリル酸の製造等の発熱の大きい気相酸化反応、あるいはモノエタノールアミンの脱水によるエチレンイミンの製造またはN−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドンの脱水によるN−ビニル−2−ピロリドンの製造等の吸熱の大きい気相脱水反応を挙げることができる。
【0077】
本発明の構造物が設置された反応管に充填される触媒については特に制限は無く、前記した反応において従来より用いられている公知の触媒を用いれば良い。また触媒の形状についても特に制限はなく、球状、円柱状またはリング状の触媒が用いられる。
【0078】
本発明の構造物が設置された反応管を用いる気相接触反応は従来と同様の条件で行うことができる。例えば、プロピレンの酸化反応であれば、プロピレン1〜12容量%、分子状酸素2〜20容量%、水蒸気0〜50容量%、残りは窒素、二酸化炭素などの不活性ガスおよびプロパンなどからなる混合ガスを熱媒体温度280〜450℃、空間速度(GHSV)300〜5000h
-1、反応圧力0.1〜1.0MPaで触媒層を通過させることによって行う。
【0079】
アクロレインの酸化反応であれば、アクロレイン1〜12容量%、分子状酸素2〜20容量%、水蒸気0〜25容量%、残りは窒素、二酸化炭素などの不活性ガスからなる混合ガスを熱媒体温度200〜400℃、空間速度(GHSV)300〜5000h
-1、反応圧力0.1〜1.0MPaで触媒層を通過させることによって行う。
【0080】
ベンゼンの酸化反応であれば、ベンゼン1〜2容量%、分子状酸素10〜30容量%、水蒸気0〜6容量%、残りは窒素、二酸化炭素などの不活性ガスからなる混合ガスを熱媒体温度340〜380℃、空間速度(GHSV)1900〜4000h
-1、反応圧力0.1〜1.0MPaで触媒層を通過させることによって行う。
【0081】
吸熱反応の例としてモノエタノールアミンの分子内脱水反応であれば、モノエタノールアミン100%のガスを、熱媒体温度は300〜450℃、空間速度(GHSV)は10〜300h
-1、反応圧力は5〜30kPaで触媒層を通過させることによって行う。
【0082】
反応開始操作は、従来であれば反応器入口部分の局所的温度上昇あるいは局所的温度下降を抑制するために長時間をかけて徐々に反応原料ガス濃度を高めて行く方法が一般的であるが、本発明の構造物が設置された反応管を用いる反応においては従来よりも大幅に短時間で所定の原料濃度に到達できる。
【0083】
本願は、2013年11月7日に出願された日本国特許出願第2013−231370号に基づく優先権の利益を主張するものである。2013年11月7日に出願された日本国特許出願第2013−231370号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0084】
以下に本発明を実施例および比較例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0085】
なお、本発明における転化率、選択率、単流収率および空間速度は以下の定義に従う。
【0086】
転化率(モル%)=(反応した反応原料のモル数)/(供給した反応原料のモル数)×100
選択率(モル%)=(生成した目的物のモル数)/(反応した反応原料のモル数)×100
単流収率(モル%)=(生成した目的物のモル数)/(供給した反応原料のモル数)×100
空間速度(NL/L・hr)=反応原料の毎時供給量(NL/hr:標準状態換算)/充填触媒量(L)
実施例1
(1)反応管用充填物
目開き寸法250μmのステンレス製金網からなる、底面直径10mm、上面直径4mm、高さ65mmの円錐台型充填物を用いた。頂点部には、反応時に温度を計測する熱電対を設置するための管(内径2mm、外径3mm、長さ320mm)を通す穴(直径約3.1mm)を設けた。
【0087】
(2)反応管用充填物の反応管への設置およびベンゼンの酸化反応
反応管として、両端部にガスが出入りする側管を備えた、内径25mmのステンレス製U字管を用いた。前記の反応管用充填物は、触媒支持用目皿を有する熱電対設置管(内径2mm、外径3mm、長さ320mm)の目皿部に底面が接する位置に設置した。それを該反応管の触媒充填孔から底端まで挿入することによって反応管内部に設置した。次いで、ベンゼンの酸化反応用触媒としてバナジウム、モリブデンおよびリンを主成分とする外径6mm、内径2mm、高さ6mmのリング型触媒80mLを充填した。反応管用充填物および触媒が充填された状態の反応管内部を
図7に示す。この状態の反応管を360℃の溶融塩浴に浸した。
【0088】
触媒層の底部(入口部)から上部(出口部)に向けて、ベンゼン1.6容量%、酸素21容量%、水蒸気5容量%、残りは不活性ガスからなる混合ガスを空間速度2500/hで供給することによってベンゼンの酸化を行った。ガス供給開始1時間後の転化率は84.6%、無水マレイン酸の選択率は83.0%、単流収率は70.2%、触媒層最高温度は420℃であった。また、触媒層の温度は
図8に示す分布状態となった。
【0089】
比較例1
前記の反応管用充填物を用いない他は実施例1と同様にベンゼンの酸化を行った。ガス供給開始1時間後の転化率は81.6%、無水マレイン酸の選択率は81.0%、単流収率は66.1%、触媒層最高温度は430℃であった。また、触媒層の温度は
図8に示す分布状態となった。
【0090】
図8に示した結果のとおり、本発明の充填物を設置した反応管を用いることにより、反応管入口付近の触媒層温度が低下した。この結果より反応管入口付近の触媒への反応負荷が低減されたことは明らかである。また反応の偏りが解消されることにより転化率および選択率が大幅に向上することも確認された。
【0091】
実施例2
実施例1と同じ反応管用充填物を備えた、実施例1と同じサイズの反応管に、プロピレン酸化用触媒としてモリブデンとビスマスを主成分とする外径6mm、内径2mm、高さ6mmのリング型触媒50mLを充填した後、該反応管を320℃の溶融塩浴に浸した。触媒層の底部(入口部)から上部(出口部)に向けて、プロピレン2容量%、酸素12容量%、水蒸気40容量%、残りは不活性ガスからなる混合ガスを空間速度1350/hで供給することによってプロピレンの酸化を行った。触媒層最高温度は347℃であり、触媒層の温度は
図9に示す分布状態となった。
【0092】
比較例2
前記の反応管用充填物を用いない他は実施例2と同様にプロピレンの酸化を行った。触媒層最高温度は351℃であり、触媒層の温度は
図9に示す分布状態となった。
【0093】
図9に示した結果のとおり、本発明の充填物を設置した反応管を用いない場合(比較例2)、触媒層中、原料導入部付近の温度が最も高く、原料の進行方向に向かって触媒層温度は次第に低下していった。一方、本発明の充填物を設置した反応管を用いた場合(実施例2)、触媒層最高温度は351℃から347℃に低下し、触媒層における温度変化はより小さくなった。
【0094】
実施例3
実施例1と同じ反応管用充填物を備えた、実施例1と同じサイズの反応管に、アクロレイン酸化用触媒としてモリブデンとバナジウムを主成分とする直径5.5mmの球状触媒50mLを充填した後、該反応管を230℃の溶融塩浴に浸した。
【0095】
触媒層の底部(入口部)から上部(出口部)に向けて、アクロレイン2容量%、酸素10容量%、水蒸気10容量%、残りは窒素からなるガスを空間速度2000/hで供給することによってアクロレインの酸化を行った。触媒層最高温度は253℃であり、触媒層の温度は
図10に示す分布状態となった。
【0096】
比較例3
反応管用充填物を用いない他は実施例3と同様にアクロレインの酸化を行った。触媒層最高温度は262℃であり、触媒層の温度は
図10に示す分布状態となった。
【0097】
実施例3においても、実施例2と同様に、反応管入口付近の触媒層温度と触媒層最高温度が低下し、本発明の充填物を設置することにより触媒層全体、特に反応管入口付近の触媒への反応負荷が低減されることが確認された。
【0098】
実施例4
(1) 反応管
内径25mmのステンレスパイプ内部端部に、管径および管長の異なる3種類のステンレスパイプ(外径10mm、内径9.4mm、長さ60mm;外径8mm、内径7.4mm、長さ90mm;および外径6mm、内径5.4mm、長さ110mm)を同心円状に配置して作成した充填物を設置した反応管を用いた。該構造物の中心部には、反応時に温度を計測する熱電対保護管(内径2mm、外径3mm、長さ320mm)を通した。
図11は反応管の構造物設置部分の断面図である。
【0099】
(2) プロピレンの酸化
この反応管に、実施例1と同じ触媒50mLを充填した後、該反応管を290℃に加熱した。次いで、触媒層の底部(入口部)から上部(出口部)に向けて、プロピレン2容量%、酸素12容量%、水蒸気40容量%、残りは不活性ガスからなる混合ガスを空間速度2700/hで供給することによってプロピレンの酸化を行った。触媒層最高温度は310℃であり、触媒層の温度は
図12に示す分布状態となった。
【0100】
比較例4
本発明の構造物を設置していない反応管を用い、温度を280℃とした他は実施例4と同様にプロピレンの酸化を行った。触媒層最高温度は316℃であり、触媒層の温度は
図12に示す分布状態となった。
【0101】
図12に示した結果のとおり、本発明の充填物を設置した反応管を用いない場合(比較例4)、触媒層中、原料導入部付近の温度が最も高く、原料の進行方向に向かって触媒層温度は次第に低下していった。一方、本発明の充填物を設置した反応管を用いた場合(実施例4)、触媒層最高温度は316℃から310℃に低下し、触媒層における温度変化はより小さくなった。
【0102】
実施例5
(1) 反応管
直角三角形状のステンレス製金網を巻いて、底面直径10mm、上面直径4mm、高さ1800mmの円錐台型構造物を作成した。ステンレス金網の網目サイズは、底面より800mmまでの目開き寸法を250μm、そこから500mmまでの目開き寸法を150μm、さらにそこから500mmの目開き寸法を75μmとした。反応には、該構造物を設置した内径25mm、長さ3000mmの反応管を用いた。該構造物の中心には、反応時に温度を計測する熱電対を設置するための管(内径2mm、外径3mm、長さ3100mm)を通す穴(直径約3.1mm)を設けた。
【0103】
(2) 反応原料用アクロレインの製造
プロピレン酸化用触媒を充填した反応管を352℃の溶融塩浴に浸し、該反応管にプロピレン7容量%、酸素12.6容量%、水蒸気7容量%、残りは不活性ガスからなる混合ガスを空間速度1380/hで供給することによってプロピレンの酸化を行った。この時のプロピレン転化率は98.0%、アクロレインの収率は80.4%、アクリル酸の収率は12.5%であった。
【0104】
(3) アクロレインの酸化反応
上記(1)の反応管に、アクロレイン酸化用触媒としてモリブデンとバナジウムを主成分とする直径5.2mmの球状触媒1286mLを充填した。溶融塩浴温度を265℃とし、触媒層の底部(入口部)から上部(出口部)に向けて、上記(2)の反応原料用アクロレインの製造工程で生成したガスを空間速度1544/hで供給することによってアクロレインの酸化を行った。供給されたアクロレイン量を基準とするアクロレインの転化率は、99.8%、アクリル酸の選択率は94.3%、アクリル酸の収率は94.1%であった。また、触媒層最高温度は332℃であり、触媒層の温度は
図13に示す分布状態となった。
【0105】
比較例5
反応管用充填物を用いない他は実施例5と同様にアクロレインの酸化を行った。しかし、アクロレインの供給開始直後から触媒層温度が急上昇し、温度制御不能となったため反応を停止した。