特許第6092453号(P6092453)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6092453
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】パン改良剤及びパンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/18 20060101AFI20170227BHJP
   A21D 13/06 20170101ALI20170227BHJP
【FI】
   A21D2/18
   A21D13/06
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-171462(P2016-171462)
(22)【出願日】2016年9月2日
【審査請求日】2016年9月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】影嶋 富美
(72)【発明者】
【氏名】柿野 あけみ
(72)【発明者】
【氏名】大野 英理子
(72)【発明者】
【氏名】森本 和樹
(72)【発明者】
【氏名】高口 均
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−200696(JP,A)
【文献】 特開平05−015296(JP,A)
【文献】 特開平05−161446(JP,A)
【文献】 特開平10−295253(JP,A)
【文献】 特開2015−195770(JP,A)
【文献】 特開2010−154852(JP,A)
【文献】 特開平04−091744(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/132825(WO,A1)
【文献】 特開平10−276661(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0008761(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00
A21D 13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
Japio−GPG/FX
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性蛋白含量/灰分含量の値が17.0以下である強力粉及び/又は準強力粉を原料として含むパンの改良剤であって、アセチル基含量が2.0〜2.5質量%であり、6質量%の糊粘度が200mPa・s以下となるα化アセチル化膨潤抑制澱粉を有効成分とすることを特徴とするパン改良剤。
【請求項2】
前記α化アセチル化膨潤抑制澱粉がα化アセチル化架橋澱粉である請求項1記載のパン改良剤。
【請求項3】
可溶性蛋白含量/灰分含量の値が17.0以下である強力粉及び/又は準強力粉を含み、更に、アセチル基含量が2.0〜2.5質量%であり、6質量%の糊粘度が200mPa・s以下となるα化アセチル化膨潤抑制澱粉を含むパン生地を調製し、これを発酵膨化させた後、加熱処理することを特徴とするパンの製造方法。
【請求項4】
前記α化アセチル化膨潤抑制澱粉を、前記パンの澱粉質原料の全量中に0.2〜15質量%含有せしめる、請求項3記載のパンの製造方法。
【請求項5】
前記α化アセチル化膨潤抑制澱粉は、原料澱粉をアセチル化処理及び膨潤抑制処理した後、ドラムドライヤーによりα化することにより得られたものである、請求項3又は4記載のパンの製造方法。
【請求項6】
前記α化アセチル化膨潤抑制澱粉がα化アセチル化架橋澱粉である請求項3〜5のいずれか1つに記載のパンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生地の取扱い作業性がよく、品質の優れたパンを製造するための、パン改良剤及びパンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉はパンを作る上で最も重要な原料のひとつであり、パンに用いられる小麦粉は、蛋白質含量が高く、灰分含量の低いものほど良いとされている。
【0003】
その理由としては、まず、グルテンが挙げられる。標準的なパン用小麦粉には約12%の蛋白質が含まれており、その約85%を小麦胚乳の貯蔵蛋白質であるグルテニンとグリアジンが占めており、これらの蛋白質はミキシング時に加えられた水と水和すると、グルテンを形成する。グルテンは、弾力性と粘着性とがあり、同時に幾分柔らかく、流動性を持ち合わせており、つながりあって伸びたグルテンが澱粉を包んで膜を形成し、イーストが出す炭酸ガスを包み込んで膨張し、パンの形を保つ役目をする。さらには、グルテニン、グリアジンのほか、アルブミン、グロブリン等の可溶性蛋白は、良質でなめらかなパン生地を作ることに寄与する。そのため、パン用小麦粉としては、一般に、蛋白質含量が高いほうが好ましいとされているのである。
【0004】
一方、灰分含量も、小麦粉の品質をあらわす重要な指標のひとつである。小麦粉を高温で燃やしたときに、その主成分である蛋白質、澱粉、脂質などは燃えてなくなるが、一部は燃えずに灰として残る。これが灰分とよばれるもので、その実体は小麦粉に含まれている、リン、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄などのミネラルである。灰分は、パンの製造に有効な酵素の活性を阻害するため、含有量が多いとパン生地のべたつきや、パンの口どけの悪化などの問題が発生したりして好ましくない。また、灰分含量が多い小麦粉は、夾雑蛋白質や酵素の含有量も高く、これらが、グルテンの形成阻害やグルテンの質を低下させる働きがあるため、製パン適性に悪影響を与え、口どけが悪く、かたくぱさつきやすいパンとなる。そのため、パン用小麦粉としては、一般に、灰分含量が低いほうが好ましいとされているのである。
【0005】
しかし、小麦粉を製粉する過程で必ずしも、蛋白質含量が高く、灰分含量が低い小麦粉が得られるわけではない。すなわち小麦粉の製粉過程においては、段階的なロール・篩い分けの工程を経て、小麦粉の主な構成成分である胚乳部分が分離されるのであるが、比較的灰分や夾雑酵素が多く含まれる外皮や胚芽の混入も免れない。そして、外皮や胚芽を含有する部分の混入の少ない、品質の良い小麦粉を得ようとすれば、歩留まりも悪くなる。この点、日本の市場では、製粉技術を駆使して製造された灰分含量の少ない品質の良好な製品が主流となっているが、その分、割高となる。また、海外の市場にあっては、灰分含量が高く、製パン適性が高いとは言い難いパン用小麦粉の使用も多くみられる。そのため、灰分含量が高い小麦粉を使用した場合であっても、製パン適性に遜色がなく、食感等の品質が良好なパンを得るための技術が望まれていた。
【0006】
このような課題に関して、例えば、特許文献1には、灰分含有量が0.5〜3質量%の小麦粉を、品温82〜97℃で5〜60秒間湿熱処理することを特徴とする製パン用小麦粉の製造方法が開示されている。そして、当該製パン用小麦粉を使用すると、通常の製パン用小麦粉を使用したときと同様の製パン性や食感が得られることが記載されている。
【0007】
また、例えば、特許文献2には、トレハロース1質量部に対して、プルラン、アラビアガムおよびアラビノキシランから選ばれる多糖類の1種または2種以上を0.1〜1質量部の割合で配合したことを特徴とする製パン改良剤が開示されている。そして、当該製パン改良剤を使用すると、グルテンなどの蛋白含量が低くて製パン適性の低い穀粉類を用いてパン類を製造する場合や、パン用小麦粉以外の成分の配合割合が多くて配合全体でのグルテン含量が低減している製パン原料を用いてパン類を製造する場合にも、パン体積が大きく、外観、内相、食感および食味に優れる高品質のパン類を良好な工程性で円滑に製造することができることが記載されている。
【0008】
また、例えば、特許文献3には、水相中にクルコマンナン及びグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする製パン練り込み用可塑性乳化油脂組成物が開示されている。そして、当該組成物を使用すると、灰分含量の高い小麦粉を使用した場合であっても、得られたパン生地はべたつきがなく伸展性が良好であり、該生地を用いて得られたパンの食感も良好であったことが記載されている。
【0009】
また、例えば、特許文献4には、タンパク質分解酵素、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、酸化剤、及び糊化膨潤抑制澱粉を含有する製パン練り込み用油中水型乳化油脂組成物が開示されている。そして、当該組成物を使用すると、灰分含量の高い小麦粉を使用した場合であっても、得られたパン生地はべたつきがなく伸展性が良好であり、該生地を用いて得られたパンの食感も良好であったことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−125006号公報
【特許文献2】特開2011−223907号公報
【特許文献3】国際公開第2012/108377号
【特許文献4】特開2010−200696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、通常の製パン用小麦粉を使用する際に、その一部を湿熱処理した高灰分含量の小麦粉で代替するだけであり、パン用小麦粉としてすべてを高灰分含量の小麦粉としたときには、十分な効果が得られなかった。また、上記特許文献2に記載の方法では、蛋白質含量が低い小麦粉を使用したときの製パン性の改良が目的とされており、パン用小麦粉として高灰分含量のものを使用したときの製パン性を改良する技術ではなかった。また、上記特許文献3,4に記載の方法では、特定の乳化剤を使用する必要があり、その使用を好まない消費者に受け入れられないという問題があった。
【0012】
上記従来技術にかんがみ、本発明の目的は、灰分含量が高く、製パン適性が高いとは言い難いパン用小麦粉を使用した場合であっても、製パン適性に遜色がなく、食感等の品質が良好なパンを得ることができる、パン改良剤及びパンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、灰分含量が高く、製パン適性が高いとは言い難い強力粉又は準強力粉に、特定のα化アセチル化膨潤抑制澱粉を配合することで、べたつきがなく、伸展性の良い生地が得られ、得られるパンのソフト感、しっとり感、口どけなどの食感が良好となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明のパン改良剤は、可溶性蛋白含量/灰分含量の値が17.0以下である強力粉及び/又は準強力粉を原料として含むパンの改良剤であって、アセチル基含量が2.0〜2.5質量%であり、6質量%の糊粘度が200mPa・s以下となるα化アセチル化膨潤抑制澱粉を有効成分とすることを特徴とする。
【0015】
本発明のパン改良剤においては、前記α化アセチル化膨潤抑制澱粉がα化アセチル化架橋澱粉であることが好ましい。
【0016】
また、本発明のパンの製造方法は、可溶性蛋白含量/灰分含量の値が17.0以下である強力粉及び/又は準強力粉を含み、更に、アセチル基含量が2.0〜2.5質量%であり、6質量%の糊粘度が200mPa・s以下となるα化アセチル化膨潤抑制澱粉を含むパン生地を調製し、これを発酵膨化させた後、加熱処理することを特徴とする。
【0017】
本発明のパンの製造方法においては、前記α化アセチル化膨潤抑制澱粉を、前記パンの澱粉質原料の全量中に0.2〜15質量%含有せしめることが好ましい。
【0018】
また、前記α化アセチル化膨潤抑制澱粉は、原料澱粉をアセチル化処理及び膨潤抑制処理した後、ドラムドライヤーによりα化することにより得られたものであることが好ましい。
【0019】
また、前記α化アセチル化膨潤抑制澱粉がα化アセチル化架橋澱粉であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のパン改良剤によれば、灰分含量が高い製パン適性が高いとは言い難いパン用小麦粉を使用した場合であっても、製パン適性に遜色がなく、食感等の品質が良好なパンを得ることができる。具体的には、べたつきがなく、伸展性の良い生地を調製でき、ソフト感、しっとり感、口どけなど、パンの食感も良好となる。
【0021】
また、本発明のパンの製造方法によれば、灰分含量が高く、製パン適性が高いとは言い難いパン用小麦粉を使用して、これに特定のα化アセチル化膨潤抑制澱粉を配合することにより、製パン適性に遜色がなく、食感等の品質が良好なパンを得ることができる。具体的には、べたつきがなく、伸展性の良い生地を調製でき、その生地を発酵膨化させた後、加熱処理して、ソフト感、しっとり感、口どけなどの食感が良好なパンを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に用いられるα化アセチル化膨潤抑制澱粉は、アセチル基含量が2.0〜2.5質量%であり、6質量%の糊粘度が200mPa・s以下であればよく、その由来や、原資澱粉の種類、α化の方法、アセチル化の方法、膨潤抑制の方法等に特に制限はない。
【0023】
原資澱粉については、食用として利用可能な澱粉であればよく、例えば、コーンスターチ、タピオカ、米澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、片栗澱粉、葛澱粉、蕨澱粉、サゴ澱粉、オオウバユリ澱粉などが挙げられる。この中でも、コスト及び効果の点からコーンスターチ又はタピオカが好ましい。また、いずれの澱粉においても通常の澱粉に加え、ウルチ種、ワキシー種、ハイアミロース種のように、育種学的手法もしくは遺伝子工学的手法において改良されたものを用いてもよい。
【0024】
澱粉のアセチル化は、従来公知のアセチル化剤、例えば、無水酢酸、酢酸ビニルモノマー等を用いて行うことができる。その際、用いるアセチル化剤の添加量、反応時間、反応温度、反応pH等の条件を適宜調整することで、所望のアセチル基含量、例えば本発明であれば2.0〜2.5質量%となるように調節することができる。なお、アセチル基含量が2.0質量%未満であると、ソフト感、しっとり感の効果が得られにくい傾向があるので好ましくない。また、アセチル化剤によるアセチル化反応の効率や、食品衛生法の食品、及び添加物等の規格基準を考慮すれば、アセチル化澱粉のアセチル基含量は2.5質量%以下とすることが好ましい。
【0025】
アセチル基含量は、例えば、以下のようにして測定することができる。
【0026】
(アセチル基含量の測定方法)
試料5.0gを精密に量り、水50mLに懸濁し、フェノールフタレイン試液数滴を加え、液が微紅色を呈するまで0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液を滴下後、0.45mol/L水酸化ナトリウム溶液25mLを正確に加え、温度が30℃以上にならないように注意しながら栓をして30分間激しく振り混ぜる。0.2mol/L塩酸で過量の水酸化ナトリウムを滴定する。終点は液の微紅色が消えるときとする。別に空試験を行い補正する。下記式(1)により、遊離アセチル基含量を求め、更に乾燥物換算を行う。
【0027】
アセチル基含量(%)=(e−f)×n×0.043×100/w…(1)
(上記式(1)中、e:空試験滴定量(mL)、f:試料滴定量(mL)、n:0.2mol/L塩酸の規定度、w:試料乾燥物重量(g)を意味するものとする。)
【0028】
澱粉の膨潤抑制とは、澱粉を加熱膨化した際に澱粉粒子の膨潤が抑制されるように何らかの方法で澱粉が加工処理されていることを意味し、その処理としては、例えば架橋処理や湿熱処理等が例示される。
【0029】
澱粉の架橋処理は、従来公知の架橋剤を用いて行うことができる。その架橋処理としては、例えば、トリメタリン酸ナトリウム、塩化ホスホリルを用いたリン酸架橋処理、無水酢酸と共にアジピン酸を用いたアジピン酸架橋処理、アクロレインを用いたアクロレイン架橋処理、エピクロヒドリンを用いたエピクロヒドリン架橋処理等が挙げられる。その際、用いる架橋剤の添加量、反応時間、反応温度、反応pH等の条件を適宜調整することで、所望の架橋度となるように調節することができる。この架橋度は澱粉の糊粘度によく相関している。すなわち、架橋度を高めることで澱粉の膨潤が抑制され、糊粘度を抑えることができる。したがって、架橋剤の添加量、反応時間、反応温度、反応pH等の条件を適宜調整することで、所望の糊粘度に調整することができる。
【0030】
また、澱粉の湿熱処理は、澱粉を糊化するには不十分な水分の存在下で、加熱処理することで行うことができる。例えば、澱粉の水分含量を20〜25%程度に調整し、これを約100〜130℃で、0.5〜5時間程度処理して得られる。この際、糊化しない範囲で水分を多くし、加熱温度を高くして処理時間を長くすると、膨潤はより抑制される。したがって、澱粉の水分含量、加熱温度、加熱時間等の条件を適宜設定することで、膨潤抑制を所望の度合いに調整することができ、ひいては所望の糊粘度に調整することができる。
【0031】
なお、澱粉の膨潤抑制処理は、製造コスト及び製造の簡便さの点から架橋処理が好ましい。
【0032】
本発明において用いられる、上記α化アセチル化膨潤抑制澱粉は、6質量%の糊粘度が200mPa・s以下である必要がある。なお、6質量%の糊粘度は150mPa・s以下であることがより好ましい。糊粘度が200mPa・sを超えると、パン生地がべたつき、作業性が低下し、製造したパンの口どけが悪くなる傾向があるので好ましくない。
【0033】
澱粉の6質量%の糊粘度は、糊粘度測定装置(例えば、Newport Scientific社製のRapid Visco Analyser:RVA、型式RVA−4)を用いて、例えば、以下のようにして測定することができる。
【0034】
(糊粘度の測定方法)
固形分換算で1.8gの試料澱粉をアルミ缶に入れ、精製水を加えて総量30gとした後(6質量%)、パドルをセットし、下記表1で表される条件で粘度を測定する。そして、160rpm回転時に得られた粘度データにおける最高粘度を、6質量%の糊粘度とする。
【0035】
【表1】
【0036】
澱粉のα化は、澱粉の加熱糊化に使用されている一般的な方法を採用して行うことができる。具体的には、ドラムドライヤー、ジェットクッカー、エクストルーダー、パドルドライヤー、スプレードライヤー等の乾燥装置を使用した加熱糊化法が知られている。特に、α化率の高いα化澱粉を効率的に製造できる点から、ドラムドライヤーでα化処理を行うことが好ましい。また、澱粉のα化は、アセチル化及び膨潤抑制の処理が施された澱粉に対して行うことが好ましい。
【0037】
本発明に用いられるα化アセチル化膨潤抑制澱粉は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記に説明したα化、アセチル化、及び膨潤抑制に加えて、更にそれ以外の加工処理が施されたものであってもよい。具体的には、エステル化、エーテル化、酸化、油脂加工、ボールミル処理、微粉砕処理、加熱処理、温水処理、漂白処理、酸処理、アルカリ処理、酵素処理等の加工処理が施されたものであってもよい。
【0038】
一方、一般にパン類は、小麦粉及び/又は穀粉由来の粉を主原料とし、水、イースト、食塩、イーストフードの他、必要な副材料を加えて生地を調製し、これを発酵膨化させた後、焼成、フライ、蒸し、茹でなどの加熱処理を行うことにより製造される。具体的には、プルマンなどの食パン類、バゲット、バタールなどのフランスパン、スイートロール、テーブルロールなどの各種ロール類、ピザやナン、ベーグル、イングリッシュマフィン、バンズ、ブリオッシュ、菓子パン、惣菜パンなどが挙げられる。必要に応じ使用される副材料には、例えば、油脂、糖類や甘味料、増粘安定剤、着色料、酸化防止剤、デキストリン、乳や乳製品、チーズ類、蒸留酒、醸造酒、各種リキュール、乳化剤、膨張剤、無機塩類、ベーキングパウダー、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、ハーブ、豆類、蛋白質、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、香料、各種食品素材や食品添加物などが挙げられる。
【0039】
本発明においては、上記に説明したα化アセチル化膨潤抑制澱粉を、パン改良のための有効成分として用いる。すなわち、上記α化アセチル化膨潤抑制澱粉を小麦粉等の他の材料とともにパンの原料に含有せしめて、製パン性を向上させる。ただし、本発明は、上記パン類のうち、可溶性蛋白含量/灰分含量の値が17.0以下である強力粉及び/又は準強力粉を原料として含むパンに適用されることが好ましく、その可溶性蛋白含量/灰分含量の値が16.0以下であることがより好ましく、その可溶性蛋白含量/灰分含量の値が14.0以下であることが最も好ましい。すなわち、後述の実施例で示されるように、灰分含量が高く、製パン適性が高いとは言い難いパン用小麦粉を使用したパンにおいて、その生地の取扱い作業性や食感を改良する効果が顕著に発揮されるからである。
【0040】
ここで本明細書において「強力粉」や「準強力粉」とは、パン用小麦粉として通常当業者に理解される意味で用いられるが、より具体的には、「強力粉」としては蛋白質含量が11.5質量%以上のものを意味し、「準強力粉」としては蛋白質含量が11.0〜12.5質量%程度のものを意味している。
【0041】
小麦粉の蛋白質含量は、例えば、以下のようにして測定することができる。
【0042】
(小麦粉の蛋白質含量の測定方法)
(1−1)ティケーター社(スウェーデン)製のケルダールチューブに小麦粉試料を無水物換算で0.5g入れ、分解促進剤〔フォス・ジャパン株式会社製「ケルタブCu4.5」;(成分)硫酸カリウム:硫酸銅=4.5g:0.5g(質量比)〕2錠および濃硫酸15mLを加える。
(1−2)分解は、ケルダール分解装置である(FOSS Tecator Digester8)を用い、内容物が透明な青緑色になるまで420℃で30〜60分間放置し、10分間放冷後、過酸化水素を駒込ピペットで2mL加える。さらに、420℃で1時間分解反応させ、10分間放冷する。
(1−3)蒸留および滴定、窒素計算は、ケルテック蒸留滴定システム(株式会社アクタック「スーパーケル1500」)で行われ、窒素含量(質量%)を得る。
(1−4)上記(1−3)で得られた窒素含量の値に窒素蛋白質換算係数(5.70)を乗じ、蛋白質含量(質量%)を算出する。
【0043】
小麦粉の可溶性蛋白は、希酸に可溶であるグルテンを形成するグルテニン、グリアジンのほか、アルブミン、グロブリン等を主成分とすると考えられる。これらの含有量が高い方が良質でなめらかなパン生地を作ることができ、製パン性が高い小麦粉と言える。
【0044】
小麦粉の可溶性蛋白含量は、例えば、以下のようにして測定することができる。
【0045】
(小麦粉の可溶性蛋白含量の測定方法)
(2−1)100mL容のビーカーに無水物換算で小麦粉試料約2gを精秤する。
(2−2)0.05規定酢酸を40mL加え、スターラーを用いて室温で60分間攪拌する。
(2−3)得られた懸濁液を遠沈管に移し、ビーカーを0.05規定酢酸40mLで洗い、洗液を同じ遠沈管に移し、4,220×Gで5分間遠心分離を行った後、濾紙を用いて濾過し、濾液を回収する。
(2−4)上記(2−3)で得られた濾液を混合して100mLにメスアップする。
(2−5)ティケーター社(スウェーデン)製のケルダールチューブに上記(2−4)で得られた液体25mLをホールピペットで入れ、分解促進剤〔フォス・ジャパン株式会社製「ケルタブCu4.5」;(成分)硫酸カリウム:硫酸銅=4.5g:0.5g(質量比)〕2錠および濃硫酸15mLを加える。
(2−6)分解は、ケルダール分解装置である(FOSS Tecator Digester8)を用い、内容物が透明な青緑色になるまで420℃で30〜60分間放置し、10分間放冷後、過酸化水素を駒込ピペットで2mL加える。さらに、420℃で1時間分解反応させ、10分間放冷する。
(2−7)蒸留および滴定、窒素計算は、ケルテック蒸留滴定システム(株式会社アクタック「スーパーケル1500」)で行われ、窒素含量(質量%)を得る。
(2−8)上記(2−7)で得られた窒素含量の値に窒素蛋白質換算係数(5.70)を乗じ、可溶性蛋白質含量(質量%)を算出する。
【0046】
小麦粉の灰分は、その実体は、前述したとおり、リン、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄などのミネラルである。また、灰分含量が多い小麦は、夾雑酵素を含む夾雑物の含有量も高い傾向にあり、製パン適性を判断する指標となり、灰分含量が少ない順に、一等粉(灰分含量0.3〜0.4質量%)、二等粉(灰分含量0.5質量%前後)、三等粉(灰分含量1.0質量%前後)と便宜的に等級別に分類されており、市場で販売されているほとんどの小麦粉は、これらの灰分含量の範囲のものである。
【0047】
本発明が適用されるパンの原料として使用する強力粉及び/又は準強力粉の灰分含量としては、無水物換算で0.55質量%以上であることが好ましく、0.65質量%以上であることがより好ましい。なお、本発明における「灰分含量」は、上記小麦粉の等級別分類の際の灰分含量とは異なり、以下に示した直接灰化法で測定した無水物換算の灰分含量を意味するものとする。
【0048】
(小麦粉の灰分含量(無水物換算)の測定方法)
あらかじめ恒量した灰化容器(W0g)に、適量の試料を精密に量り[W1g(無水物換算)]、必要な前処理を行った後、550〜600 ℃の温度に達した電気炉に入れ、白色又はこれに近い色になるまで灰化する。灰化後、灰化容器を取り出し)、温度が200 ℃近くになるまで放冷してからデシケーターに移し、室温に戻った後秤量する。同じ操作(灰化、放冷、秤量)を恒量(W2g)になるまで繰り返す。
【0049】
上記の方法によって得られた値から、下記式(2)の計算式により求められる。
灰分(%)=(W2−W0)/W1×100 …(2)
【0050】
ここで本明細書において「可溶性蛋白含量/灰分含量の値」は、小麦粉の品質を示す指標ともいえる。すなわち、この値が高い小麦粉は、小麦粉中の夾雑物に対して、グルテン含量が高い品質の良い小麦粉であることを示し、この値が低い小麦粉は、小麦粉中の夾雑物に対して、グルテン含量が低い品質の悪い小麦粉であることを示す。
【0051】
本発明が適用されるパンは、上記に説明した強力粉及び/又は準強力粉を原料として含むパンに、上記に説明したα化アセチル化膨潤抑制澱粉を所定量配合してパンを製造することにより得られ、その製造方法としては、従来公知の一般的な方法を採用すればよく、特に制限されるものではない。すなわち、上記に説明した強力粉及び/又は準強力粉を含み、更に、上記に説明したα化アセチル化膨潤抑制澱粉を含むパン生地を調製し、これを発酵膨化させた後、加熱処理することなどにより製造すればよい。例えば、直捏法、中種法、水種法、冷蔵法、湯種法などのいずれの製パン方法にも適用可能である。また、冷凍パン生地を調製して用いる製パン方法にも適用可能である。
【0052】
上記α化アセチル化膨潤抑制澱粉の添加量としては、パンの澱粉質原料の全量中に0.2〜15質量%含有せしめることが好ましく、0.5〜10質量%含有せしめることがより好ましい。また、上記強力粉及び/又は準強力粉は、パンの澱粉質原料の全量中に80質量%以上含有せしめることが好ましく、90質量%以上含有せしめることがより好ましい。上記α化アセチル化膨潤抑制澱粉が0.2質量%未満であると、生地作業性やパンの食感を改良する効果に乏しくなる傾向となるので好ましくない。また、15質量%を超えると、生地粘度の上昇により製造後のパンのボリュームが低下したり、食感が硬くなったりしてしまう傾向があるので好ましくない。また、上記強力粉及び/又は準強力粉がパンの澱粉質原料の全量の80質量%に満たないと、製パン性が悪くなり、パンの良好な食感が得難い傾向となるので好ましくない。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明の詳細を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
[試料の調製]
・試料1〜5
タピオカに水を添加して、タピオカを30〜40質量%含有するスラリーとした。このスラリーを30℃に加温した後、澱粉の乾燥質量100質量部に対して2質量部の硫酸ナトリウムを溶解した。さらに、水酸化ナトリウムを添加してpH11〜12に調整した後、澱粉の乾燥質量100質量部に対して、試料1では0.5質量部、試料2では0.05質量部、試料3では0.04質量部、試料4では0.03質量部、及び試料5では0.02質量部の塩化ホスホリルを添加して1時間反応した。次に、硫酸を添加してpH9〜10に調整した後、pHを維持したまま澱粉の乾燥質量100質量部に対して7質量部の酢酸ビニルモノマーを添加して30分間反応した。さらに、硫酸を添加してpH5〜6に調整した後、水洗、脱水した。得られた生成物に水を添加して、該生成物を30〜40質量%含有するスラリーを調製し、このスラリーを表面温度158℃に設定したダブルドラムドライヤーにて乾燥し、試料1〜5を得た。
【0055】
・試料6
タピオカに水を添加して、タピオカを30〜40質量%含有するスラリーとした。このスラリーを30℃に加温した後、澱粉の乾燥質量100質量部に対して2質量部の硫酸ナトリウムを溶解した。さらに、水酸化ナトリウムを添加してpH11〜12に調整した後、澱粉の乾燥質量100質量部に対して0.05質量部の塩化ホスホリルを添加して1時間反応した。硫酸を添加してpH5〜6に調整した後、水洗、脱水した。得られた生成物に水を添加して、該生成物を30〜40質量%含有するスラリーを調製し、このスラリーを表面温度158℃に設定したダブルドラムドライヤーにて乾燥し、試料6を得た。
【0056】
・試料7
試料2の調製において、澱粉の乾燥質量100質量部に対して7質量部の酢酸ビニルモノマーを添加する代わりに、1.5質量部の酢酸ビニルモノマーを添加した以外は、試料2と同様にして、試料7を得た。
【0057】
・試料8
水120質量部にタピオカ100質量部を加えてスラリーとし、撹拌下3%の苛性ソーダ水溶液を加えてpH11.3〜11.5に保持しながら、トリメタリン酸ソーダ0.5質量部を加え、39℃で5時間反応した後、硫酸でpH9.5とし、25℃に冷却した。次いで、3%苛性ソーダ水溶液を加えてpH9.0〜9.5に維持しながら無水酢酸6質量部を加えてアセチル化し、硫酸で中和、水洗、脱水した。得られた生成物に水を添加して、該生成物を30〜40質量%含有するスラリーを調製し、このスラリーを表面温度158℃に設定したダブルドラムドライヤーにて乾燥し、試料8を得た。
【0058】
・試料9
試料2の調製において、澱粉の乾燥質量100質量部に対して7質量部の酢酸ビニルモノマーを添加する代わりに、8質量部の酢酸ビニルモノマーを添加した以外は、試料2と同様にして、試料9を得た。
【0059】
・試料10
試料1の調製において、タピオカの代わりにコーンスターチを使用し、且つ澱粉(コーンスターチ)の乾燥質量100質量部に対して0.5質量部の塩化ホスホリルを添加する代わりに、0.8質量部のトリメタリン酸ナトリウムを添加した以外は、試料1と同様にして、試料10を得た。
【0060】
・試料11
試料1の調製において、タピオカの代わりに馬鈴薯澱粉を使用し、且つ澱粉(馬鈴薯澱粉)の乾燥質量100質量部に対して0.5質量部の塩化ホスホリルを添加する代わりに、1質量部のトリメタリン酸ナトリウムを添加した以外は、試料1と同様にして、試料11を得た。
【0061】
・試料12
硫酸ナトリウム20部を溶解した水120部に市販のタピオカ100部を加えてスラリーとし、撹拌下4%の苛性ソーダ水溶液30部、プロピレンオキサイド5部、トリメタリン酸ソーダ0.4部を加え、41℃で20時間反応した後、硫酸で中和、水洗、脱水した。得られた生成物に水を添加して、該生成物を30〜40質量%含有するスラリーを調製し、このスラリーを表面温度158℃に設定したダブルドラムドライヤーにて乾燥し、試料12を得た。
【0062】
なお、ヒドロキシプロピル基(HP基)含量は以下の方法で測定した。
【0063】
試料澱粉0.05gを精密に量り、0.5mol/L硫酸を25mL加えて沸騰水浴中で加熱して溶解し、冷却後、水を加えて100mLにした。試料澱粉液1.0mLを正確に量り、冷水で冷却しながら硫酸8mLを加え、攪拌した後、沸騰水中で正確に3分間加熱し、直ちに氷水中で冷却した。冷却後、ニンヒドリン試薬0.6mLを管壁に沿って加え、直ちに攪拌し、25℃水浴中で100分間反応させた。これに硫酸15mLを加えた後、静かに攪拌したものを検液とし、5分間後、590nmの吸光度を測定した。対照液は、同じ植物を起源とする未加工澱粉を用い、検液の場合と同様の操作を行った。さらに、検量線作成のため、プロピレングリコールを0、15、30、60μg/mLになるように調製し、これらの液についても検液の場合と同様の操作を行った。検量線から、検液中および対照液中のプロピレングリコール濃度(μg/mL)を求め、下記式(4)によりヒドロキシプロピル基含有量を求めた。
【0064】
ヒドロキシプロピル基含有量(質量%)=(f−e)×0.007763/w…(4)
(上記式(4)中、f:検液中のプロピレングリコール濃度(μg/mL)、e:対照液中のプロピレングリコール濃度(μg/mL)、w:試料澱粉の乾燥物質量(g)を意味する。)
【0065】
・試料13
タピオカに水を添加して、タピオカを30〜40質量%含有するスラリーとした。このスラリーを30℃に加温した後、澱粉の乾燥質量100質量部に対して2質量部の硫酸ナトリウムを溶解し、水酸化ナトリウム等を添加してpH11〜12に調整した後、澱粉の乾燥質量100質量部に対して0.05質量部の塩化ホスホリルを添加して1時間反応した。硫酸を添加してpH9〜10に調整した後、pHを維持したまま澱粉の乾燥質量100質量部に対して7質量部の酢酸ビニルモノマーを添加して30分間反応した。さらに、硫酸を添加してpH5〜6に調整した後、水洗、脱水、乾燥して、試料13を得た。
【0066】
下記表2には調製した各澱粉試料の特徴をまとめて示す。
【0067】
【表2】
【0068】
[試験例1]
<食パンの製造 その1>
強力粉試料A(蛋白質含量:14.3質量%、可溶性蛋白含量:8.6質量%、灰分含量:0.68質量%、可溶性蛋白含量/灰分含量の値:12.6)を使用し、さらに、試料2、5、6、10〜12の各澱粉試料のいずれかを供試澱粉として配合して(または対照として澱粉無添加の)、プルマン型食パンを製造した。具体的には、以下のようにして製造した。
【0069】
強力粉試料A70質量部、生イースト2.2質量部、乳化剤0.3質量部、イーストフード0.1質量部、及び水40質量部をボウルに投入し、フックで、低速で3分間混合し、中種生地を得た。捏ね上げ温度は24℃であった。この中種生地をプラスチックケースに入れ、温度27℃、相対湿度75%のホイロで、4時間中種醗酵を行った。発酵後の温度は28℃となった。この中種生地と、強力粉試料A30質量部、供試澱粉5質量部(または対照として澱粉無添加)、上白糖6質量部、脱脂粉乳2質量部、食塩2質量部、及び水28質量部をボウルに投入し、低速で2分間、中速で2分間本捏混合した。マーガリン6質量部を投入し、中速で2分、高速で6分混合した。得られた食パン生地の捏ね上げ温度が27℃となるよう混合時に調整した。その後、フロアタイムを20分間とり、240gに分割・丸めを行った。次いで、ベンチタイムを20分間とった後、モルダー成形し、6本をU字にして3斤型プルマン型に入れ、38℃、相対湿度85%のホイロで45分間発酵を行った後、215℃の固定窯で40分間焼成してプルマン型食パンを得た。
【0070】
<評価>
得られたプルマン型食パンについて、生地作業性(べたつきがなく伸展性もよい生地ほど作業性が良好といえる。)及び製造4日後の食感(ソフト感、しっとり感、口どけ)の評価を行った。なお、評価は、下記評価基準に従い、生地作業性についてはパネラー2名で評点評価し、食感についてはパネラー10名で評点評価し、それぞれの評点の平均値で示した。
【0071】
(作業性)
供試澱粉を添加しないで製造した対照のプルマン型食パンの生地作業性を1点とした場合に、やや作業性が優れている:+2点、作業性が優れている:+3点、とても作業性が優れている:+4点、著しく作業が優れている:+5点、作業性が同等か劣る:1点の基準で評価した。
【0072】
(ソフト感)
供試澱粉を添加しないで製造した対照のプルマン型食パンのソフト感を0点とした場合に、ややソフト感が強い:+1点、ソフトである:+2点、とてもソフトである:+3点、ややソフト感が劣る:−1点、ソフト感が劣る:−2点、とてもソフト感が劣る:−3点の基準で評価した。
【0073】
(しっとり感)
供試澱粉を添加しないで製造した対照のプルマン型食パンのしっとり感を0点とした場合に、ややしっとり感が強い:+1点、しっとりしている:+2点、とてもしっとりしている:+3点、ややしっとり感が劣る:−1点、しっとり感が劣る:−2点、とてもしっとり感が劣る:−3点の基準で評価した。
【0074】
(口どけ)
供試澱粉を添加しないで製造した対照のプルマン型食パンの口どけを0点とした場合に、やや口どけが良い:+1点、口どけが良い:+2点、とても口どけが良い:+3点、やや口どけが悪い:−1点、口どけが悪い:−2点、とても口どけが悪い:−3点の基準で評価した。
【0075】
結果を表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
その結果、強力粉試料A(可溶性蛋白含量/灰分含量の値:12.6)を使用した場合、以下のことが明らかとなった。
【0078】
(1)澱粉試料2(原資:タピオカ)、澱粉試料10(原資:コーンスターチ)、あるいは澱粉試料11(原資:馬鈴薯澱粉)を添加したとき、それらの原資によらず、作業性に優れ、ソフト感、しっとり感、口どけが良好であった。特に、澱粉試料2では、作業性や食感の改良効果がより顕著であった。
(2)架橋処理は行っているが、粘度が200mPa・sより高い澱粉試料5では、ソフト感としっとり感は良好な評価が得られたものの、口どけが不足し、ややくちゃつく食感であった。また、作業性の改良効果が得られなかった。
(3)アセチル化処理を行っていない澱粉試料6では、ソフト感と共にしっとり感が不足しており、硬くてパサついた食感であった。また、作業性の改良効果に乏しかった。
(4)ヒドロキシプロピル化したタピオカである澱粉試料12では、作業性の改良効果が認められたものの、食感がややじっとりとして口どけが悪かった。
【0079】
[試験例2]
<食パンの製造 その2>
強力粉試料Aに替えて強力粉試料B(蛋白質含量:13.4質量%、可溶性蛋白含量:9.75質量%、灰分含量:0.61質量%、可溶性蛋白含量/灰分含量の値:16.0)を用いた以外は試験例1と同様にして、さらに試料1〜13の各澱粉試料のいずれかを供試澱粉として配合して(または対照として澱粉無添加の)、プルマン型食パンを製造した。
【0080】
<評価>
得られたプルマン型食パンについて、試験例1と同様にして、供試澱粉を添加しないで製造した対照のプルマン型食パンを基準として、評価した。
【0081】
結果を表4に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
その結果、強力粉試料B(可溶性蛋白含量/灰分含量の値:16.0)を使用した場合、以下のことが明らかとなった。
【0084】
(1)澱粉試料1〜3、9(原資:タピオカ)、澱粉試料10(原資:コーンスターチ)、あるいは澱粉試料11(原資:馬鈴薯澱粉)を添加したとき、それらの原資によらず、作業性に優れ、ソフト感、しっとり感、口どけが良好であった。特に、澱粉試料2では、作業性の改良効果がより顕著で食感も優れていた。
(2)架橋処理は行っているが、粘度が200mPa・sより高い澱粉試料4、5では、ソフト感としっとり感は良好な評価が得られたものの、口どけが不足し、ややくちゃつく食感であった。また、作業性の改良効果に乏しかった。
(3)アセチル化処理を行っていない澱粉試料6では、ソフト感と共にしっとり感が不足しており、硬くてパサついた食感であった。また、作業性の改良効果に乏しかった。
(4)アセチル基含量が低い澱粉試料7、8では、ソフト感としっとり感の評価がやや低く、良好な食感が得られなかった。また、作業性の改良効果に乏しかった。
(5)ヒドロキシプロピル化したタピオカである澱粉試料12では、食感がややじっとりとして口どけが悪かった。また、作業性の改良効果に乏しかった。
(6)α化処理を行わなかった澱粉試料13では、作業性が悪く、食感改良効果も全体を通して良好なものではなかった。
【0085】
[試験例3]
<食パンの製造 その3>
強力粉試料Aに替えて強力粉試料C(蛋白質含量:13.1質量%、可溶性蛋白含量:8.3%、灰分含量:0.47質量%、可溶性蛋白含量/灰分含量の値:17.6)を用いた以外は試験例1と同様にして、さらに試料1〜13の各澱粉試料のいずれかを供試澱粉として配合して(または対照として澱粉無添加の)、プルマン型食パンを製造した。
【0086】
<評価>
得られたプルマン型食パンについて、試験例1と同様にして、供試澱粉を添加しないで製造した対照のプルマン型食パンを基準として、評価した。
【0087】
結果を表5に示す。
【0088】
【表5】
【0089】
その結果、強力粉試料C(可溶性蛋白含量/灰分含量の値:17.6)を使用した場合、澱粉試料1〜13のいずれでも、対照と比較して、秀でた作業性の改良効果は得られなかった。これは、可溶性蛋白含量/灰分含量の値の高い品質の良い強力粉を使用したので、生地作業性にそれほど問題がなかったためであった。
【0090】
以上の結果によれば、本発明の範囲に属する澱粉試料1〜3、9〜11によれば、品質の悪い強力粉を使用してときに、ソフト感、しっとり感、口どけ等の食感を改良し、なお且つ、生地作業性の改良効果も得られることが明らかとなった。
【要約】
【課題】灰分含量が高く、製パン適性が高いとは言い難いパン用小麦粉を使用した場合であっても、製パン適性に遜色がなく、食感等の品質が良好なパンを得ることができる、パン改良剤及びパンの製造方法を提供する。
【解決手段】可溶性蛋白含量/灰分含量の値が17.0以下である強力粉及び/又は準強力粉を原料として含むパンの改良剤であって、アセチル基含量が2.0〜2.5質量%であり、6質量%の糊粘度が200mPa・s以下となるα化アセチル化膨潤抑制澱粉を有効成分とする。また、可溶性蛋白含量/灰分含量の値が17.0以下である強力粉及び/又は準強力粉を含み、更に、アセチル基含量が2.0〜2.5質量%であり、6質量%の糊粘度が200mPa・s以下となるα化アセチル化膨潤抑制澱粉を含むパン生地を調製し、これを発酵膨化させた後、加熱処理することによりパンを製造する。
【選択図】 なし