【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、摩擦損失、油消費量及びブローバイに関して向上した特性を有する往復ピストンエンジンを製造することができるようにする問題の形式のホーニング仕上げ方法及びこのホーニング仕上げ方法を実施するために使用できるホーニング仕上げツールを提供することにある。
【0011】
この課題を解決するため、本発明は、請求項1の特徴を備えたホーニング仕上げ方法を提供する。さらに、ホーニング仕上げ方法の範囲内で使用できる請求項6の特徴を備えたホーニング仕上げツールが提供される。
【0012】
有利な実施形態は、従属形式の請求項に記載されている。特許請求の範囲の請求項の全ての記載は、本明細書の内容を参照することによって理解される。
【0013】
ホーニング仕上げ方法では、壜形ボア、即ち壜形状を有するボアを作る。「壜形ボア」は、ボア入口に直ぐ続いて、第1の直径を備えた第1のボア区分、第1の直径よりも大きい第2の直径を備えていてボア入口から離れて位置する第2のボア区分、及び第1の直径から第2の直径まで連続的に移行していて第1のボア区分と第2のボア区分との間に位置する移行区分を有する。第1のボア区分と第2のボア区分は、一般に、円筒形の基本形状を有し、互いに対して同軸状に位置している。移行区分は、部分的に円錐形に形作られるのが良く、かかる移行区分は、外側のボア区分に向いたその端部のところが、隣接のボア区分に合体するのが良く、それぞれ、適当な半径を備えている。
【0014】
壜形マクロ形状の適当な構成が与えられると、摩擦の減少、ブローバイの減少及び油消費量の減少に関して顕著な利点を得ることができる。さらに、ピストンリングパッケージの耐摩耗性の向上及び作動中における騒音発生に対するプラスの影響を得ることができる。内燃エンジン内における燃焼の相当な部分は、ボア入口の付近の比較的幅の狭い又は細い第1のボア区分、即ち、「壜の首(ボトルネック)」で起こる。この区分内における油の考えられる多量の提供により、エミッション及び油消費量に関する問題が生じる場合がある。この細い第1のボア区分内において、ピストンリングの環状パッケージは、縁応力が比較的高いので、その従来機能(特に、燃焼ガスに対する封止及び戻り運動の際の油膜のかき落とし)を容易に実施することができる。燃焼の圧力波によって、ピストンは、第1のボア区分内で加速され、そして次第に直径が増大する移行区分に達する。移行区分内において、直径が増大することによってピストンリング張力が減少する。しかしながら、相当高いピストン速度がここに既に存在すると共にシリンダ空間内の内圧が減少するので、ブローバイ、油消費量値及びエンジン放出騒音(ノイズエミッション)に悪影響を及ぼすことはない。移行区分と隣接の第1及び第2のボア区分との間の適当な半径により、ピストンリングの穏やかな出入りを移行区分のところで達成することができ、従って、リング摩耗又はエンジン焼き付きを回避することができる。下方運動の際、環状パッケージは、移行区分を通過した後、第2のボア区分に入る際にその最も低い張力に達し、従って、摩擦損失は、ピストンがその最大速度に達する時点で自動的に減少する。
【0015】
使用に関して表面構造最適条件を備えた壜形ボアが得られるようにするホーニング仕上げ方法との関連において、この目的に特に適していて、ホーニング仕上げツールの構成に鑑みて本明細書では「環状ツール」とも呼ばれるホーニング仕上げツールが用いられる。本願との関連における「環状ツール」は、3つ又は4つ以上の半径方向に送り込み可能な切削材料本体を有する少なくとも1つの環状切削群を有し、これら切削材料本体は、ホーニング仕上げツールのツール本体の周囲に沿ってぐるりと分布して配置されると共にホーニング仕上げセグメントとして構成されており、ホーニング仕上げセグメントは、ホーニング仕上げツールの円周方向において比較的幅が広く且つホーニング仕上げツールの軸方向において比較的幅が狭い。ホーニング仕上げツールの軸方向に測定したホーニング仕上げセグメントの軸方向長さは、この場合、円周方向に測定した幅よりも小さく、切削材料本体を備えた切削領域の軸方向長さは、ホーニング仕上げツールの有効外径よりも小さい。
【0016】
少なくとも3つのホーニング仕上げセグメントが設けられている場合、機械加工力を半径方向送り込みのゆえに利用できるホーニング仕上げツールの有効外径領域全体にわたって容易に且つ周囲全体にわたって比較的一様に分布させることができる。例えば、同一又は互いに異なる周囲幅の正確に3つ、正確に4つ、正確に5つ又は正確に6つのホーニング仕上げセグメントを切削群に設けることができる。切削群内の7つ以上のホーニング仕上げセグメントが可能であるが、これらホーニング仕上げセグメントは、構成をより複雑にするので、一般的には必要ではない。幾つかの場合、オプションとして、ホーニング仕上げツールがホーニング仕上げセグメントを2つしか備えない場合であっても間に合う場合がある。
【0017】
半径方向に送り込むことができるということによって(送り込み中における半径方向のホーニング仕上げセグメントの変位によって)達成できる作用効果は、切削材料本体とボア内面との間の係合条件が直径の設定とは無関係に事実上一定のままであるということにある。非一様な摩耗は、半径方向送り込み中、切削材料本体の傾動を回避することによって回避できる。
【0018】
上述の手段は、個々に及び組み合わせ状態で、達成できる表面品質に対して、特に、互いに異なるボア区分全体にわたる表面品質の一様性に関してプラスの作用効果をもたらすことができる。
【0019】
ホーニング仕上げセグメントの軸方向長さは、例えば、ホーニング仕上げツールの有効外径の30%未満であるのが良く、特にこの外径の10%〜20%であるのが良い。乗用車又はトラック用のエンジンブロック内に典型的なシリンダボアを機械加工するための環状ツールの場合、軸方向長さは、例えば、5mmから20mmまでの範囲内にあるのが良い。機械加工されるべきボアのボア長さに基づき、軸方向長さは、代表的には、このボア長さの10%未満である。上限をかなり超えた場合、これら輪郭の軸方向続き又はこれら輪郭の作製の可能性は、一般的に損なわれる。加うるに、僅かな軸方向長さは、機械加工に十分な表面圧力を生じさせる目的上、有利である。他方、軸方向における最小長さは、ボア端部を機械加工するためのホーニング仕上げオーバーランを可能にするため且つホーニング仕上げツールが傾動する傾向を制限する目的上、有利である。
【0020】
この種の環状ツールは、ホーニング仕上げされたボアに僅かな形状誤差を得るため、軸方向に比較的長いが円周方向に比較的幅の狭いホーニング砥石を有するホーニング仕上げツールが用いられるべきである。環状ツールは、壜形ボア形状又は一般に軸方向に相当なばらつきのあるボア直径を有するボア形状の機械加工に特に容易に適合する。環状切削群内において、切削材料(適当な結晶粒度、密度及び硬度の結合切削結晶粒)は、軸方向に比較的幅の狭いリング内に集中して設けられ、この場合、代表的には、環状切削群の周長の半分超が切削手段で占められ、従って、材料の除去に効果的に寄与する。
【0021】
ホーニング仕上げツールの有効外径と比較して、1つ又は2つ以上の環状切削群が位置している切削領域は、軸方向に短く又は幅が狭く、その結果、軸方向に延びる輪郭の作製及び/又は続きが可能である。
【0022】
従来型ホーニング砥石と比較して、環状切削群は、切削材料本体と環状切削群によって覆われた軸方向区分内のボア内面との間には、従来型ホーニング仕上げツールの比較的幅の狭い軸方向区分の場合よりも実質的に広い接触面が存在しているという点で区別される。幾つかの実施形態では、環状切削群により、ホーニング仕上げツールの周長の60%超、場合によっては70%超又は80%超が切削手段によって占められる。
【0023】
切削群は、好ましくは、切削群がもっぱらツール本体のスピンドルから見て遠くの半部内に位置するようにツール本体のスピンドルから見て遠くの端部の付近に配置される。複数個の環状切削群が設けられる場合、この条件は、あらゆる切削群に当てはまる。スピンドルから見て遠くの端部の付近の構成により、とりわけ、極めて小さなホーニング仕上げオーバーランで機械加工作業が可能である。
【0024】
ホーニング仕上げによる機械加工中、ボア内におけるホーニング仕上げツールのストローク位置を指令変数として用いることができ、その目的は、高い局所分解能により、環状切削群のストローク位置の関数として押し付け圧力又は送り込み力をあらかじめ決定することにある。その結果、送り込み可能な環状切削群により、望ましくない接触圧力又は力のピークなしに既にあらかじめ作られて軸方向に変化している輪郭を辿る軸方向に可変の輪郭等を備えたボアを作ることが可能である。環状ツールが用いられる場合、作業を実質的に同一のオーバーラップ状態でボアの全ての軸方向領域内で実施するのが良く、その結果、必要が生じた場合、極めて一様な粗さの画像又は表面構造を作ることができる。環状ツールが用いられる場合、作業は、オプションとして、これ又切削本体の非一様な摩耗に関する問題が起こることなく、ボアの軸方向端部のところの極めて少ないホーニング仕上げオーバーランで実施することができる。
【0025】
この作業は、好ましくは、電気機械的切削群送り込みシステムにより実施される。それにより、油圧拡張とは対照的に、送り込み移動量を厳密にあらかじめ決定すること(移動量制御)が可能であり、その結果、軸方向輪郭を特定の仕方で作ることができると共に/或いは所定の軸方向輪郭を厳密に辿ることができる。
【0026】
直径測定システムの1つ又は2つ以上のセンサは、ホーニング仕上げツール上に配置されるのが良く、従って、プロセス内直径測定が可能である。例えば、空気圧直径測定システムの測定ノズルは、それぞれ、隣り合うホーニング仕上げセグメント相互間でツール本体に取り付けられるのが良い。これは、達成できるボア輪郭の精度を向上させることができるということを意味している。
【0027】
環状ツールの使用によって、切削材料本体の一様な摩耗並びにボアの極めて良好な形状値及び一様な表面粗さが環状切削群の表面寿命全体にわたって保証される。
【0028】
環状ツールの種々の構成が可能であり、ユーザは、実施されるべき機械加工タスクに応じて、これらの形態の中から選択することができる。
【0029】
幾つかの実施形態では、環状ツールは、単一の環状切削群を有し、かかる切削群のホーニング仕上げセグメントを単一の共通の送り込みシステムにより半径方向に送り込むことができ又は引き戻すことができる。環状切削群は、代表的には、ホーニング仕上げツールの周囲全体にわたって一様に又は非一様に分布して設けられた3つ又は4つ以上、一般的には6つ以下のホーニング仕上げセグメントを有する。単一の環状切削群は、好ましくは、ツール本体のスピンドルから見て遠くの自由端部の付近に、例えば、スピンドルから見て遠くの端部側と面一をなして配置される。この種の構成は、ホーニング仕上げオーバーランを減少させた状態でシリンダボアを機械加工するのに特に好適である。機械加工におけるこの種の制約は、例えば、止まり穴形ボアの場合又はモノブロックエンジン又はV形エンジン用のエンジンブロックのシリンダボアの場合に起こる。
【0030】
また、環状切削群が互いに別個独立に送り込み可能な2つの群をなすホーニング仕上げセグメントを有することが可能であり、この場合、これら群に属するホーニング仕上げセグメントは、円周方向に交互に配置される。このことは、単一の環状切削群の利点(例えば、ホーニング仕上げオーバーランを短くした状態のボアの機械加工に関して)と互いに別個独立であるホーニング仕上げセグメントの2つの群の二重送り込みの利点を組み合わせることが可能である。この種のツールにより、2つの連続して行われるホーニング仕上げ作業をツールの中間の変更なしで互いに異なる切削材料で実施することができる。ホーニング仕上げセグメントの1つの群に属するホーニング仕上げセグメントは、通常、同一の切削層を有し、これら群は、互いに異なる切削層、例えば互いに異なる結晶粒度のダイヤモンド層を有する。
【0031】
また、環状ツールが第1の環状切削群及び第1の環状切削群に対して軸方向にオフセットした仕方で配置されると共に第1の環状切削群とは別個独立に送り込み可能な少なくとも1つの第2の環状切削群を有することが可能である。このことは、2つの連続して行われるホーニング仕上げ作業がこれまたツールの中間の変更なしで互いに異なる切削材料で可能であることを意味している。互いに異なる切削材料が互いに対して軸方向にオフセットすると共に各々がホーニング切削ツールの周囲の大部分に及ぶことができる少なくとも2つの環状切削群に配分されるので、この場合、両方のホーニング仕上げ作業において特に高い除去能力又は比較的短いホーニング仕上げ時間が可能である。この種の環状ツールを十分なホーニング仕上げオーバーランを可能にする全てのボアについて用いることができる。2つ又は3つ以上の環状切削群により、脈動窓若しくは横方向ボアの橋渡し又は任意形式のボア中断も又、特に簡単な仕方で可能である。かかる環状ツールは、好ましくは、厳密にいって2つの環状切削群を有し、その結果、単一の構成にもかかわらず融通性のある使用が可能である。
【0032】
好ましい実施形態では、一体形の多軸可動継手、例えば球面継手又はカルダン継手がツール本体上に設けられる。それにより、機械の位置の誤差及び/又はボアのコアオフセットは、ボア位置を変えることなく補償できる。継手が設けられていない例示の実施形態も又実現可能である。この種の環状ツールは、ホーニング仕上げスピンドルに剛性的に結合でき又はホーニング仕上げスピンドルに剛性的に結合された駆動ロッドに剛性的に結合できる。
【0033】
ボアの壜形状を任意適当なチップ除去機械加工法、例えば精密旋削(高精度スピンドル)によって、即ち、幾何学的に決定された切れ刃を用いる機械加工法により若しくはホーニング仕上げによって作ることができる。これを行った後に1回又は2回以上のホーニング仕上げ作業を行うのが良く、その目的は、適当な表面構造を備えた最終的に望まれるボア幾何学的形状を得ることにある。
【0034】
円筒形のボア形状を備えたボアが好ましくは、当初、精密旋削又はホーニング仕上げにより作られ、次に、壜ホーニング仕上げ作業では、壜形ボア形状を軸方向に変化するホーニング仕上げ除去が行われるホーニングによって作られる。精密旋削と比較して、ホーニング仕上げによって周辺マークなしで特に一様な表面品質を備えた状態で表面を作製することができる。切削材料本体の自生作用効果は又、表面品質の一様性に寄与する。ホーニング仕上げの場合、連続プロセスモニタが可能である。
【0035】
変形例としての方法では、壜ホーニング仕上げ作業の際、少なくとも1つの環状切削群を有する拡張型ホーニング仕上げツール、即ち環状ツールが用いられる。切削群のホーニング仕上げセグメントをこの場合、ストローク位置に応じて壜形状に従い、下向きのストロークにおいて移動及び/又は力制御方式で半径方向外方に送り込み、上方ストロークの際、かかるホーニング仕上げセグメントをストローク位置に応じて壜形状に従って半径方向に引っ込める。この機械加工変形例により、比較的に滑らかな輪郭形状を特に機械加工が困難な移行区分のはじめから作る。
【0036】
また、変形例として、壜ホーニング仕上げ作業の際、ホーニング砥石を備えた拡張型ホーニング仕上げツールが用いられ、その長さは、ボアの長さの50%を超える。ホーニング砥石の長さは、例えば、ボアの長さの50%〜80%であるのが良い。壜ホーニング仕上げ作業の際、第1の段階では、次にホーニング仕上げツールを第1のストローク位置において上側逆転箇所と下側逆転箇所との間で上下又は前後に動かしてボアを当初、その長さ全体にわたり円筒形の形状にする。次に、第2の段階において、上側逆転箇所を下側逆転箇所の方向に小刻みに、即ち、複数回のストロークによって変化させ、従って、ストローク長さを次第に減少させる。その結果、ストローク位置を第2のボア区分の付近に位置する第2のストローク位置の方向にシフトさせる。次に、第3の段階において、ホーニング仕上げツールを第2のストローク位置で前後に動かす。この変形例としての方法では、移行区分の基本的な形状は、実質的に、ストローク位置の漸次シフト及びストローク高さの減少の第2段階の際に作られ、この場合、第2のボア区分の直径の増大も又、同時に且つ第3の段階で作られる。
【0037】
壜ホーニング仕上げ作業が比較的長いホーニング砥石を有するホーニング仕上げツールによって実施される場合、のこ歯輪郭形状とほぼ同じ輪郭形状を備えた比較的粗い表面構造を移行区分に作ることができる。したがって又、移行区分に所望の一様な表面構造を得るためには、移行区分又は領域のボア輪郭形状を滑らかにする平滑化ホーニング仕上げ作業が好ましくは壜ホーニング仕上げ作業後に実施され、この場合、環状ツール、即ち少なくとも1つの環状切削群を備えた拡張型ホーニング仕上げツールが平滑化ホーニング仕上げ作業で用いられる。環状ツールにより、移行区分の溝又はばり(まくれ)をなくすことができ、しかも移行区分のアールを丸く(丸形化)することができる。
【0038】
平滑化ホーニング仕上げ作業の際、環状切削群の切削材料本体が一定の送り込み力でボアの内面に押し付けられると、有利であることが判明した。これは、幾つかの変形例としての方法では、環状ツール用の油圧送り込みシステムを備えたホーニング盤(ホーニングマシーンと呼ばれることもある)が用いられることによって達成される。環状ツールのホーニング仕上げセグメントによる壜形ボアの輪郭の続きは、この場合、油圧拡張の設計により得られる融通性に基づいて既に作れる。
【0039】
本発明は又、ホーニング仕上げ方法を実施するのに特に適しているが、本発明によってではない他のホーニング仕上げ方法にも用いることができるホーニング仕上げツールに関する。
【0040】
本発明は又、ホーニング仕上げされた内面を備える少なくとも1つのボアを有する工作物に関し、この場合、ボアは、壜形ボアであり、この壜形ボアは、ボア入口に続き、第1の直径を備えた第1のボア区分、第1の直径よりも大きい第2の直径を備えていてボア入口から離れて位置する第2のボア区分、及び第1の直径から第2の直径まで連続的に移行していて第1のボア区分と第2のボア区分との間に位置する移行区分を有する。工作物は、本発明のホーニング仕上げツールを用いて機械加工される。
【0041】
特に、工作物は、往復ピストン機械用のシリンダブロック又はシリンダライナであるのが良い。往復ピストン機械は、例えば、内燃エンジン(燃焼エンジン)又は圧縮機であるのが良い。