【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度 経済産業省「産業技術開発(次世代産業用三次元造形システム技術開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して、例示的に詳しく説明記載する。ただし、以下の実施の形態に記載されている、構成、数値、処理の流れ、機能要素などは一例に過ぎず、その変形や変更は自由であって、本発明の技術範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。
【0012】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態としての3次元造形装置100について、
図1乃至
図5を用いて説明する。3次元造形装置100は、金属粉体などの材料を電子ビームで照射して、材料を溶融および凝固させることにより、材料を積層して3次元造形物を造形する装置である。
【0013】
図1は、本実施形態に係る3次元造形装置100の構成を示す図である。3次元造形装置100は、電子銃101と、主偏向器102と、副偏向器103と、レンズ104と、中央制御部105と、記憶部106と、Z軸ステージ107とを備える。3次元造形装置100は、主偏向制御部151と、副偏向制御部152と、バイアス電圧制御部153と、Z軸ステージ制御部154とをさらに備える。
【0014】
3次元造形装置100は、偏向器として、主偏向器102および副偏向器103を備えている。主偏向器102および副偏向器103は、ともに電磁型の多極子偏向器であり、ともにX方向偏向用コイルとY方向偏向用コイルとを備える。
【0015】
主偏向器102の偏向範囲、すなわち、造形範囲の形状は正方形であり、その大きさは200mm四方である。また、Z軸ステージ107の送りの範囲、すなわち、最大造形深さは、200mmである。副偏向器103の偏向範囲の形状は、正方形であり、その偏向範囲の大きさは2mm四方であり、主偏向器102の偏向範囲の大きさに比べて格段に小さい。
説明の便宜上、主偏向器102の偏向範囲は同偏向器により偏向・走査可能な最大範囲とするが、副偏向器103の偏向範囲は必ずしも同偏向器により偏向・走査可能な最大範囲とは限らず、その形状・寸法は適宜変更できるものとする。
【0016】
主偏向制御部151は、主偏向器102に接続され、副偏向制御部152は、副偏向器103に接続され、バイアス電圧制御部153は、グリッド101cに接続され、Z軸ステージ制御部154は、Z軸ステージ107に接続されている。主偏向制御部151、副偏向制御部152、バイアス電圧制御部153、およびZ軸ステージ制御部154は、さらに、それぞれ中央制御部105に接続されている。そして、記憶部106は、中央制御部105に接続されている。記憶部106は、3次元構造物の形状を表すデータおよびその造形のための条件を表すデータを格納する。
【0017】
3次元造形装置100は、金属粉体130を造形面140上に敷き詰めた後、電子銃101により電子ビーム120を生成する。3次元造形装置100は、生成した電子ビーム120をレンズ104により集束して、主偏向器102を用いて偏向することより、造形面140上の所望の位置に入射させる。そして、入射させた電子ビーム120により、この所望の位置に存在する金属粉体130を溶融および凝固させる。次に、3次元造形装置100は、金属粉体130の溶融および凝固による3次元造形物の高さの上昇分をZ軸ステージ107を下降させることにより補償する。
【0018】
次に、上記動作中における各制御部の動作を説明する。まず、中央制御部105が、記憶部106に格納されたデータを取得する。中央制御部105は、取得したデータに基づいて、主偏向制御部151、副偏向制御部152、バイアス電圧制御部153およびZ軸ステージ制御部154を制御する。より具体的には、中央制御部105は、主偏向制御部151を介して主偏向器102を動作させ、副偏向制御部152を介して副偏向器103を動作させる。また、中央制御部105は、バイアス電圧制御部153を介してバイアス電圧を変化させることで電子ビーム120の電流を増減する。さらに、中央制御部105は、Z軸ステージ制御部154を介してZ軸ステージ107を必要な送り量だけ動かす。
【0019】
図2は、3次元造形装置100の動作を説明する図である。
図2(a)は、主偏向器102および副偏向器103への走査信号入力および溶融のタイミングを表す図である。
図2(b)は、主偏向器102による偏向位置(造形面140上の電子ビーム120の入射位置)と時間との関係を表す図である。
図2(c)は、主偏向器102により走査される領域を表す図である。より詳細には、
その領域は、金属粉体130を溶融させる領域
であり、
その走査は、X方向の高速の往復走査をY方向に少しずつずらして繰り返すことによる走査である。
【0020】
ただし、
図2(a)および
図2(b)は、便宜上、
図2(c)の示す領域内の走査の全てではなく、その一部の様子、具体的には、ある時間帯において、同領域がX方向に左端から右端へ走査され、その後、走査の向きが反転するまでの様子を表している。
【0021】
3次元造形装置100の動作は、主偏向器を用いて電子ビームで材料を走査する従来の3次元造形装置の動作と基本的に同じであるが、副偏向器103を動作させる点で異なる。本実施形態では、主偏向器102への走査信号入力を開始または再開した後、主偏向器102による走査速度が所望の走査速度より一時的に遅くなっている間、副偏向器103を動作させる。そうすることで、電子ビーム120を受ける金属粉体130に与えられる熱を分散し、金属粉体130の温度上昇を抑える。
【0022】
以下、本実施形態における主偏向器102および副偏向器103の動作を、
図2(b)に付した時刻t0、t1、t2、t3およびt4を用いて詳細に説明する。ただし、以下の説明において、走査信号とは、主偏向器102および副偏向器103に入力される偏向信号のうち、偏向信号の強度変化速度が零でないものを指す。すなわち、偏向信号の強度が零ではなくても、偏向信号の変化速度が零であれば、走査信号の強度は零であり、走査信号の入力は停止している。また、走査信号の入力が停止されてから次の走査信号の入力が開始されるまで、主偏向器102には、強度を走査信号入力停止時のそれとした偏向信号が入力されるが、副偏向器103には、強度を零とした偏向信号が入力される。
【0023】
図2(a)および
図2(b)に示したように、時刻t0以前においては、主偏向器102への走査信号入力はOFFになっているが、副偏向器103への走査信号入力はONになっている。そして、時刻t0で主偏向器102へのX方向の走査信号入力がONになり、それとともに主偏向器102によるX方向の走査が始まる。その後、時刻t1で副偏向器103への走査信号入力がOFFになり、金属粉体130の溶融が始まる。そして、時刻t2で主偏向器102への走査信号入力がOFFになり、次に、時刻t3で副偏向器103への走査信号入力がONになり、溶融が終わる。時刻t3ではさらに、主偏向器102へのX方向の走査信号入力が再びONになり、それとともに主偏向器102によるX方向の走査が再開する。ただし、このとき、走査の向きの反転のため、これまでとは逆向きの走査信号が入力される。次に、時刻t4で、副偏向器103への走査信号入力がOFFになる。
【0024】
上述のように、主偏向器102によるX方向の走査を開始した後、すなわち、主偏向器102へのX方向の走査信号入力を開始した後(t0からt1の間)、
図2(b)に示したように、主偏向器102による偏向位置(実線201)は、理想的な偏向位置(破線202)に対して遅れる。そして、その遅れの分だけ、主偏向器102による偏向は、主偏向器102への走査信号入力を停止した後(t2からt3の間)もしばらく継続し、やがてその位置は目標位置に収束する。
【0025】
主偏向器102による偏向位置がこのように遅れるのは、主偏向器102およびその駆動回路(アンプ)の応答性によるものである。すなわち、上記説明において、主偏向器102への走査信号入力とは、より直接的には、主偏向器102の駆動回路への走査信号入力であり、その入力に対し、主偏向器102を構成するコイルに流れる電流が遅れる。上述の動作における主偏向器102による走査速度に着目すると、主偏向器102への走査信号入力が開始された後(t0からt1の間)、
図2(b)に示したように、主偏向器102の走査速度(実線201の勾配)は、理想的な走査速度(破線202の勾配)に対し遅くなっている。また、主偏向器102による走査速度は、主偏向器102への走査信号入力が停止されてからしばらく偏向が継続し、そして走査信号入力が再開された後も(t3からt4の間)、遅くなっている。
【0026】
主偏向器102による走査速度が上記のように遅くなっている間、すなわち、主偏向器102への走査信号入力を開始または再開してからしばらくの間、副偏向器103を動作させなければ、電子ビーム120を受ける金属粉体130は、より多くの、単位面積当たりの熱を与えられる。すなわち、金属粉体130は、過熱されることになる。
【0027】
この原理によれば、金属粉体130が過熱される領域は、主偏向器102による走査の向きが反転する地点およびその近傍である。
図2(c)を参照して説明すれば、金属粉体130が過熱される領域は、金属粉体130を溶融させる長方形領域の縁のうち、Y方向の縁に沿って存在している。すなわち、金属粉体130を溶融させる領域と溶融させない領域の境界(X方向およびY方向)のうち、そのY方向の境界に沿って存在している。
【0028】
上記の過熱により、意図しない溶融が生じ、その結果、造形精度が損なわれる。また、金属粉体130の蒸発量が過剰となり、金属粉体130の凝固後に形成される金属層の層厚が減少する。この減少は、金属層の上に新たに金属粉体130を敷き詰める工程において補償できるが、金属粉体130の蒸発量が多くなれば、装置内壁に形成される金属蒸着膜が厚くなるのが早くなる。したがって、装置内壁の汚れる速度が速くなるとともに、その金属蒸着膜が剥がれやすくなり、剥がれ落ちた金属蒸着膜が造形面140上に落ちれば、そこに位置する金属粉体130の溶融が妨げられる。
【0029】
これに対し、上述のように、主偏向器102への走査信号入力を開始または再開した後、主偏向器102による走査速度が上記のように遅くなっている間に、副偏向器103を動作させれば、その間電子ビーム120を受ける金属粉体130に与えられる熱が分散される。これにより、金属粉体130の過熱が抑えられ、上述のような問題の発生が防止される。なお、副偏向器103による走査速度は、主偏向器102による走査速度よりも速くしてもよく、また、これとは反対に、副偏向器103による走査速度を主偏向器102による走査速度よりも遅くしてもよく、適宜変更することができる。
【0030】
さらには、同じく上述のように、主偏向器102への走査信号入力を開始または再開する前に、主偏向器102による偏向を、主偏向器102への走査信号入力を停止してからもしばらくの間(t2からt3の間)継続させて、その位置を目標位置に収束させれば、金属粉体130を溶融させる領域と溶融させない領域との境界の位置精度が向上し、造形精度が向上する。
【0031】
上記動作において、主偏向器102への走査信号入力を開始または再開するタイミングは、走査の向きを反転させるタイミングである。すなわち、主偏向器102による走査の速度ベクトルを変えるタイミングである。したがって、本実施形態において副偏向器103を動作させるのは、主偏向器102による走査の速度ベクトルを変えた後においてである。
【0032】
図3は、本実施形態に係る3次元造形装置100の副偏向器103による偏向範囲の一例(1次元)を示す図である。副偏向器103の偏向範囲は本来、先述のように正方形(2次元)であるが、上記動作における副偏向器103の偏向範囲は、同図に示すように1次元であってもよい。つまり、副偏向器103による走査の方向は、
図3(a)に示したようにX方向としてもよい。しかし、もし、
図3(b)に示したように、副偏向器103による走査の方向がY方向であれば、主偏向器102によるX方向の走査の向きが反転するX座標(金属粉体130を溶融させる領域と溶融させない領域との境界)において、走査の反転および熱の分散の回数が重ねられるごとに、副偏向器103の偏向範囲、すなわち、熱の分散範囲が、上述のY方向の縁において重なる。そのため、副偏向器103により分散されるべき熱が、上述のY方向の縁において積算され、結果的に分散されない。したがって、副偏向器103の偏向範囲内の金属粉体130の過熱が防止できない。
【0033】
図4は、本実施形態に係る3次元造形装置100の副偏向器103による偏向範囲の他の例(2次元)を示す図である。上記動作における副偏向器103の偏向範囲は、同図に示すように、2次元としてもよい。また、副偏向器103による走査速度は、
図4(a)に示すようにX方向に速く、Y方向に遅くしても、
図4(b)に示すようにX方向に遅く、Y方向に速くしてもよい。ここで、副偏向器103は、その偏向範囲内の金属粉体130の温度分布が不均一になることを防ぐために、その偏向範囲内を隈なく走査する。
【0034】
これに留意して、
図3(a)および(b)と、
図4(a)および(b)とを比較すれば、金属粉体130の過熱防止のために副偏向器103の偏向範囲に課せられる要件が見出せる。この要件は、副偏向器103の偏向範囲が、X方向に零でない幅(電子ビーム120の径は除く)を持つことである。この要件が満たされるとき、電子ビーム120が金属粉体130に与える余計な熱が、副偏向器103により分散される。この場合の熱の分散範囲の広さは、副偏向器103の偏向範囲の幅により決定され、その分散範囲が広くなれば、金属粉体130の温度上昇幅が小さくなる。
【0035】
図5は、3次元造形装置100の主偏向器102による走査の速度ベクトルが変化する点を示す図である。上記要件において、X方向は、言い換えれば、金属粉体130を溶融させる領域内で主偏向器102による走査の速度ベクトルが変わる点、すなわち、副偏向器103が動作しなければ金属粉体130が過熱されうる点が配列する方向(Y方向)に垂直な方向である。ここで、主偏向器102による走査の速度ベクトルが変わる点が配列する方向(Y方向)は、点線501で表した線分の方向である。すなわち、上記要件は、副偏向器103の偏向範囲が、主偏向器102による走査の速度ベクトルが変わる点の配列方向に垂直な方向に零でない幅を持つことと表現できる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態によれば、主偏向器102への走査信号入力を開始および再開した後、電子ビーム120を受ける金属粉体130が過熱され、意図しない溶融が生じ、これにより造形精度が損なわれることが抑制される。
【0037】
[第2実施形態]
次に本発明の第2実施形態に係る3次元造形装置の動作について、
図6を用いて説明する。
図6は、本実施形態に係る3次元造形装置の副偏向器による偏向範囲の例を説明するための図である。本実施形態に係る3次元造形装置は、上記第1実施形態と比べると、副偏向器による走査範囲が、金属粉体を溶融させる領域の外側にある点で異なる。その他の構成および動作は、第1実施形態と同様であるため、同じ構成および動作については同じ符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0038】
上記第1実施形態では、
図3および
図4から分かるように、副偏向器103の偏向範囲が金属粉体130を溶融させる領域に重なっている。これは、第1実施形態では、金属粉体130に与えられる熱を分散すべく副偏向器103を動作させる前、電子ビーム120の入射位置が、副偏向器103の偏向範囲の中心に一致していることによる。ここで、副偏向器103を動作させる前は、先述のように、副偏向器103への走査信号は零である。
【0039】
上記状態のもとで副偏向器103を動作させると、金属粉体130に与えられる余計な熱は分散されるものの、その熱が、上記重なりの分だけ
金属粉体130を溶融させる領域内に与えられる。そのため、
金属粉体130を溶融させる領域は依然として、
部分的かつ穏やかながら過熱される。
【0040】
これを防ぐには、副偏向器103の偏向範囲が、金属粉体130を溶融させる領域と重ならない方が好ましい。
図6に示したように、本実施形態では、副偏向器103により走査される範囲を、金属粉体130を溶融させる領域の外側とする。
【0041】
このような副偏向器103による走査を可能とするためには、主偏向器102による走査の速度ベクトルを変える点における熱を分散させるために副偏向器103を動作させると同時またはその直前に、副偏向器103により電子ビーム120を偏向する。そして、これにより、副偏向器103の偏向範囲の中心を、金属粉体130を溶融させる領域の外側に移動させればよい。すなわち、副偏向器103による走査範囲の移動に相当する偏向信号を、副偏向器103に入力される走査信号に加算すればよい。
【0042】
ただし、その際、上記第1実施形態においてそうしたように、副偏向器103の偏向範囲は、
図6(a)および(b)に示すように、主偏向器102による走査の速度ベクトルが変わる点の配列方向に垂直な方向、すなわちX方向に、零でない幅(電子ビーム120の径は除く)を持つように定める。
【0043】
あるいは、その際、次のような工夫を施せば、副偏向器103の偏向範囲は、主偏向器102による走査の速度ベクトルが変わる点の配列方向に垂直な方向、すなわちX方向に零でない幅を持たなくてもよい。その工夫とは、例えば、
図6(c)に示すように、偏向器103の偏向範囲が1次元であり、零でない幅をY方向には持っているがX方向には持っていない場合に、副偏向器103の偏向範囲の中心を、主偏向器102による走査の向きが反転するたびに異なるX座標に移動させるものである。こうすれば、金属粉体130に与えられる熱は、結果的に分散される。このとき、副偏向器103の偏向範囲は、等価的に、主偏向器102による走査の速度ベクトルが変わる点の配列方向に垂直な方向(X方向)に零でない幅を持つと見なせる。
【0044】
以上説明したように、本実施形態では、副偏向器による走査範囲を金属粉体を溶融させる領域の外側とする。そのため、本実施形態によれば、同領域内の金属粉体の過熱が抑制され、意図しない溶融が生じることも抑制されるので、造形精度が向上する。
【0045】
[第3実施形態]
次に本発明の第3実施形態に係る3次元造形装置の動作について、
図7を用いて説明する。
図7は、本実施形態に係る3次元造形装置の副偏向器による偏向範囲の例を説明するための図である。本実施形態に係る3次元造形装置は、上記第1実施形態および第2実施形態と比べると、副偏向器による走査範囲が金属粉体を溶融させる領域内に収まっている点で異なる。その他の構成および動作は、
第1実施形態および第2実施形態と同様であるため、同じ構成および動作については同じ符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0046】
上記第1実施形態においては、副偏向器による走査範囲は、金属粉体を溶融させる領域と部分的に重なっており、また、上記第2実施形態においては、同走査範囲は金属粉体を溶融させる領域の外側となっていた。一方、本実施形態では、
図7に示すように、副偏向器103より走査される範囲の全体を、金属粉体130を溶融させる領域内に収めるようにする。さらに好適には、その際、副偏向器103により走査される範囲の全体を、金属粉体130を溶融させる領域と溶融させない領域の境界から極力離す。
【0047】
このような副偏向器103による走査を可能とするためには、金属粉体130に与えられる熱を分散すべく副偏向器103を動作させると同時またはその直前に、副偏向器103により電子ビーム120を偏向し、副偏向器103の偏向範囲の中心を、金属粉体130を溶融させる領域内の、より内側に移動させればよい。すなわち、副偏向器103による走査範囲の移動に相当する偏向信号を、副偏向器103に入力される走査信号に加算すればよい。
【0048】
こうすることで、金属粉体130を溶融させる領域内の金属粉体130の過熱による金属粉体130の蒸発を抑える効果は幾分損なわれる。しかしながら、金属粉体130を溶融させる領域の外側、すなわち、金属粉体
130を溶融させない領域への余計な熱の伝わりが抑制できる。その抑制により、金属粉体130を溶融させる領域と溶融させない領域の境界の位置精度が向上する。
【0049】
ただし、その際、上記第1実施形態および第2実施形態においてそうしたように、副偏向器103の偏向範囲は、
図7(a)および(b)に示すように、主偏向器102による走査の速度ベクトルが変わる点の配列方向に垂直な方向、すなわちX方向に零でない幅を持つように定める。あるいは、上記第2実施形態においてそうであったように、副偏向器103の偏向範囲の中心を、
図7(c)に示すように、主偏向器102による走査の向きが反転するたびに異なるX座標に移動させるならば、副偏向器103の偏向範囲は、零でない幅をY方向に持っていれば、X方向には持たなくてもよい。
【0050】
以上説明したように、本実施形態では、副偏向器による走査範囲を、金属粉体を溶融させる領域内に収める。そのため、本実施形態によれば、金属粉体を溶融させる領域と溶融させない領域の境界の位置精度が向上する。
【0051】
[第4実施形態]
次に本発明の第4実施形態に係る3次元造形装置の動作について、
図8および
図9を用いて説明する。
図8は、本実施形態に係る3次元造形装置により走査される領域を説明するための図である。本実施形態に係る3次元造形装置は、上記第1乃至第3実施形態と比べると、主偏向器による走査の向きを180度以外の角度に回転させる点で異なる。その他の構成および動作は、
第1実施形態乃至第3実施形態と同様であるため、同じ構成および動作については同じ符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0052】
上記第1乃至第3実施形態では、主偏向器102による走査の向きを反転、すなわち、180度回転させる際に、副偏向器103を動作させたが、本実施形態では、主偏向器102による走査の向きを180度以外の角度に回転させる際にも、副偏向器103を動作させる。本実施形態における主偏向器102および副偏向器103の動作について、
図8および
図9を用いて説明する。
【0053】
本実施形態において走査される領域は、金属粉体130を溶融させる領域であり、
図8から分かるように、中心を同じくする大小2つの長方形の論理差である。同領域の走査は、これらの長方形の辺に挟まれた細長い経路を、各辺の方向に沿って、途中で金属粉体130を溶融させない領域、すなわち、同細長い経路以外の領域を経由することなく、連続的に巡回するようになされる。その途中、同領域の四隅にて、主偏向器102による走査の向きが90度回転する。
【0054】
図9は、本実施形態に係る3次元造形装置の動作を説明するための図である。
図9(a)は、主偏向器102および副偏向器103への走査信号入力および溶融のタイミングを表す図である。
図9(b)は、主偏向器102による偏向位置XおよびYと時間との関係を表す図である。
図9(b)において、実線901は、電子ビーム120の実際の偏向位置Xと時間との関係を示し、破線902は、電子ビーム120の理想的な偏向位置Xと時間との関係を示す。また、
図9(b)において、実線903は、電子ビーム120の実際の偏向位置Yと時間との関係を示し、破線904は、電子ビーム120の理想的な偏向位置Yと時間との関係を示す。
図9(c)は、
図8と同じく、主偏向器102により走査される領域を表す図である。
【0055】
上記走査においては、主偏向器102による走査の進行とともに上記長方形の辺の方向が90度変わるたびに、走査の方向が90度回転する。それとともに、副偏向器103の動作が開始される。その詳細は次の通りである。
【0056】
図9(a)および(b)に示すように、時刻t0以前においては、主偏向器102への走査信号入力はOFFになっているが、副偏向器103への走査信号入力はONになっている。そして、時刻t0で主偏向器102へX方向の走査信号入力がONになり、それとともに主偏向器102によるX方向の走査が始まる。その後、時刻t1で副偏向器103への走査信号入力がOFFになり、金属粉体204の溶融が始まる。そして、時刻t2で主偏向器102への走査信号入力がOFFになり、次に、時刻t3で副偏向器103への走査信号入力がONになり、溶融が終わる。時刻t3ではさらに、主偏向器102へのY方向の走査信号入力がONになり、それとともに主偏向器102によるY方向の走査が始まる。次に、時刻t4で、副偏向器103への走査信号入力がOFFになり、金属粉体130の溶融が再び始まる。そして、時刻t5で主偏向器102へのY方向の走査信号入力がOFFになり、次に、時刻t6で副偏向器103への走査信号入力がONになり、溶融が終わる。時刻t6ではさらに、X方向の走査信号入力がONになり、それとともに主偏向器102によるX方向の走査が再開する。ただし、時刻t6に主偏向器102に入力されるX方向の走査信号は、時刻t0に入力されるそれとは逆向きとなる。
【0057】
上記のように主偏向器102によるX方向の走査を開始した後、すなわち主偏向器102へのX方向の走査信号入力を開始した後(t0からt1の間)、および主偏向器102によるY方向の走査を開始した後、すなわち主偏向器102へのY方向の走査信号入力を開始した後(t3からt4の間)、
図9(b)に示したように、主偏向器102による偏向位置X(実線901)および偏向位置Y(実線903)は、理想的な偏向位置
X(破線902)および偏向位置Y(
破線904)に対して遅れる。そして、その遅れの分だけ、主偏向器102による偏向は、主偏向器102への走査信号入力を停止した後(t2からt3の間、およびt5からt6の間)もしばらく継続し、やがてその位置は目標位置に収束する。
【0058】
上記動作において主偏向器102へのX方向またはY方向の走査信号入力を開始または再開するタイミングは、走査の向きを変えるタイミングであり、すなわち、主偏向器102による走査の速度ベクトルを変えるタイミングである。したがって、本実施形態において副偏向器103を動作させるのは、第1乃至第3実施形態と同様に、主偏向器102による走査の速度ベクトルを変えた後においてである。
【0059】
上記タイミングで副偏向器103を動作させることにより、上記走査ベクトルの変更に原因し主偏向器102による走査の速度が一時的に遅くなることに伴う金属粉体130の過熱が、抑制される。さらには、主偏向器102による走査の向きを変える前、上記第1実施形態と同様に、一旦走査信号入力を停止し、偏向位置を目標位置に収束させれば、金属粉体130を溶融させる領域と溶融させない領域の境界の位置精度が向上し、したがって造形精度が向上する。
【0060】
本実施形態においては、副偏向器103の偏向範囲は、上記第1実施形態と同様に、1次元としてもよいし、2次元としてもよい。ただし、その偏向範囲を1次元とするときは、上記第1実施形態においてそうしたように、副偏向器103の偏向範囲に、主偏向器102による走査の速度ベクトルが変わる点の配列方向に垂直な方向に、零でない幅を持たせる。本実施形態における、主偏向器102による走査の速度ベクトルが変わる点の配列方向は、
図8にて点線で表した線分の方向である。また、必要に応じて、上記第2実施形態および第3実施形態においてそうしたように、副偏向器103に入力される走査信号に、副偏向器103の偏向範囲の中心をずらすための偏向信号を加算してもよい。
【0061】
以上の説明では、主偏向器102による走査の向きを90度回転させたが、上述の主偏向器102および副偏向器103の動作は、主偏向器102による走査の向きを90度以外、例えば45度に回転させる場合にも、有効であり、さらには、主偏向器102による走査の向きは変えずとも、その速度を変える場合にも、有効である。すなわち、主偏向器102および副偏向器103の上記動作は、主偏向器102による走査の速度ベクトルを変える際に有効である。
【0062】
以上説明したように、本実施形態では、主偏向器による走査方向を180度以外の角度に回転させる際にも副偏向器を動作させる。そのため、本実施形態によれば、金属粉体を溶融させる領域の形状によらず、金属粉体を溶融させる領域と溶融させない領域の境界の位置精度が向上し、したがって造形精度が向上する。
【0063】
[他の実施形態]
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。また、それぞれの実施形態に含まれる別々の特徴を如何様に組み合わせたシステムまたは装置も、本発明の範疇に含まれる。
【0064】
また、本発明は、複数の機器から構成されるシステムに適用されてもよいし、単体の装置に適用されてもよい。さらに、本発明は、実施形態の機能を実現する情報処理プログラムが、システムあるいは装置に直接あるいは遠隔から供給される場合にも適用可能である。したがって、本発明の機能をコンピュータで実現するために、コンピュータにインストールされるプログラム、あるいはそのプログラムを格納した媒体、そのプログラムをダウンロードさせるWWW(World Wide Web)サーバも、本発明の範疇に含まれる。特に、少なくとも、上述した実施形態に含まれる処理ステップをコンピュータに実行させるプログラムを格納した非一時的コンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)は本発明の範疇に含まれる。
粉体が過熱されることを抑制し、粉体の意図しない溶融も抑制して、造形精度を向上させる。3次元造形装置であって、電子ビームを発生させる電子銃と、前記電子ビームを1次元偏向または2次元偏向させる少なくとも1つの第1偏向器と、前記電子銃と前記第1偏向器との間に設けられ、前記電子ビームを集束させる少なくとも1つのレンズと、前記電子銃と前記第1偏向器との間に設けられ、前記電子ビームを1次元偏向または2次元偏向させる第2偏向器と、前記第1偏向器および前記第2偏向器による偏向方向および走査速度を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記第1偏向器による走査速度が所定速度以下の間、前記第2偏向器による偏向方向および走査速度を制御する。