(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程iv.において析出される金属または金属合金が、ニッケル、Ni−P合金、Ni−B合金、Ni−B−P合金、Ni−Mo−P合金、Ni−Mo−B合金、Ni−Mo−B−P合金、Ni−W−P合金、Ni−W−B合金、Ni−W−B−P合金、Ni−Mo−W−P合金、Ni−Mo−W−B合金、Ni−Mo−W−B−P合金、コバルト、Co−P合金、Co−B合金、Co−B−P合金、Co−Mo−P合金、Co−W−P合金、Co−W−B合金、Co−W−B−P合金、Co−Mo−W−P合金、Co−Mo−W−B合金、およびCo−Mo−W−B−P合金、パラジウム、Pd−B合金、Pd−P合金、およびPd−B−P合金からなる群から選択される、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、プリント回路基板(PCB)、IC基板、マイクロチップおよび関連する電子デバイスの製造における表面処理方法に関する。本発明による方法は、貴金属イオンでの活性化後にその上に無電解(自己触媒)めっきにより金属または金属合金層を析出させる際に、パターン形成された銅表面を有する基材上での金属または金属合金の不要なめっきやスキップめっきを抑制するために用いられる。
【0002】
発明の背景
プリント回路基板、IC基板、マイクロチップおよび関連する電子デバイスの製造においては、金属を析出させるための表面処理方法が用いられ、それによってボンディング可能なおよび/またはソルダリング可能な表面領域が提供され、この表面領域上で能動素子や受動素子を電子デバイスに機械的および電気的に接触させることができる。しばしば適用される表面処理方法は、ENIG法(
Electroless
Nickel
Immersion
Gold)やNi/Pd(/Au)法である。これらのどちらの種類の方法においても、電子デバイスの銅表面を貴金属イオン含有活性組成物で活性化させた後で、その上に金属または金属合金層を無電解(自己触媒)析出させる。
【0003】
例えばニッケルの無電解めっきの前には、銅表面の活性化が必要である。なぜならば、銅は、例えば次亜リン酸塩を含有する電解液から析出されるニッケルの無電解析出のための非触媒金属と分類されているためである(W.Riedel,Electroless Nickel Plating,ASM International,reprint 1998,p.189)。活性化工程の目的は、銅表面上に触媒の浸漬コーティングを析出させることである。この触媒によって活性化エネルギーが低下し、ニッケル等の金属やニッケル−リン合金等の金属合金を無電解めっきにより銅表面上に析出させることが可能となる。適切な触媒の例は、パラジウムおよびルテニウムである(Printed Circuits Handbook,Ed.:C.F.Coombs,Jr.,McGraw−Hill,2001,p.32.3)。通常は、パラジウムシード層が銅表面上に浸漬めっきされ、その際にパラジウムイオンが銅表面上に析出し、これが銅により還元されて金属状態のパラジウムとなり、そして銅イオンが浸漬めっき浴中に放出される。その後、この銅表面が金属パラジウムで被覆され、この金属パラジウムが次の金属または金属合金の無電解めっきのためのシード/触媒として作用する。
【0004】
余剰分の貴金属イオンを全て除去するためには、貴金属イオンによる銅表面の活性化と金属または金属合金の無電解めっきとの間に基材を慎重にリンスすることが重要である。そうしなければ、例えば貴金属水酸化物から形成される析出物によって、基材表面やプラスチック材料製の表面や他の誘電体材料製の表面の上の個々の銅素材の周囲に、金属または金属合金の不要な(無制御の)析出が生じる可能性がある。
【0005】
「プラスチック材料」という語句には、むき出しのPCBラミネート、ソルダーマスクおよび例えばドライフィルムレジスト等の光画像形成性レジストが含まれる。上述の貴金属イオンやその析出物の無制御の析出に影響を受けうるその他の材料には、二酸化ケイ素、ケイ素および非金属ガラスが含まれる。
【0006】
貴金属イオンの析出物は、無電解めっき時の金属または金属合金の無制御でかつ望ましくない析出のためのシード/触媒として作用する。金属または金属合金の不要なめっきの典型的な現象としては、例えばニッケルの無電解めっき時に形成されるニッケルブリッジやニッケルフィートが挙げられる。不要なめっきは、特に50μm以下のラインアンドスペース幅の高密度回路では、例えば回路の短絡につながる。金属または金属合金の不要な析出物はラミネートやソルダーマスク表面に対する密着力が弱く、またPCBを破壊する可能があり、その場合にはPCBの他の箇所でも回路の短絡が生じる可能性がある。個々の銅コンタクトパッドや銅トレンチの間の金属および金属合金のブリッジは、回路の短絡に直につながりうる。細線回路における銅コンタクトパッドの周囲の金属および金属合金のフィートも、個々の銅コンタクトパッドのブリッジングによって回路の短絡を引き起こす可能性がある。
【0007】
特にニッケルの不要なめっきの問題は従来技術において知られており、この問題に対する様々なアプローチが記載されている:
US2001/0040047は、めっき中に生じうるブリッジングを低減する方法を教示している。この方法は以下の工程を含む:回路基板と膨潤剤とを接触させ、この基板を、アルカリ性過マンガン酸塩、クロム酸塩または亜塩素酸塩の組成物で処理し、次いでこの基板の処理された回路部上に金属層を施与する。この方法は、貴金属イオン活性化を適用しない本発明による方法の代替法の一つである。
【0008】
US2008/0073614A1は、少なくとも500mg/lのチオ尿素を含有する金属パラジウムのための酸性エッチング液を開示している。このようなエッチング液はパラジウムイオンやその析出物を選択的に除去するのには適しておらず、その結果、望ましくないスキップめっきが生じる(実施例5)。
【0009】
特許文献EP0707093は、無電解ニッケルめっきのために銅表面を選択的に活性化し、それによって不要なめっきを最小限に抑えるかあるいは排除する活性剤を開示している。この活性剤組成物はイミダゾール化合物を含み、さらにパラジウムイオンを含有してもよい。
【0010】
銅表面の活性化時の余剰分の貴金属イオンは、ニッケルの無電解めっきの前に適用される1つ以上のリンス工程において加水分解して貴金属含有析出物を形成する傾向がある。こうした析出物は、プラスチック製や他の誘電体材料製の基材の表面領域上に吸着されることがあり、また、基材表面上の例えばラミネート、フォトレジストおよび/またはソルダーマスクといった銅製やプラスチック製やその他の誘電体材料製の構造的素材の間に形成された空洞内に閉じ込められることがある。こうした析出物は、基材上に金属または金属合金層を析出させる(本発明による方法の工程iv.)ために利用される金属または金属合金の無電解めっき浴中に存在する還元剤により還元されて、金属状態の貴金属となることがある。こうして還元された貴金属析出物上で、金属または金属合金めっきが行われる。こうして還元された貴金属が銅表面以外の基材の表面領域上に存在する場合には、金属または金属合金の望ましくない不要なめっきが生じる可能性があり、これは望ましくない回路の短絡につながりうる。
【0011】
基材と金属または金属合金の無電解めっき組成物とを接触させる前に余剰分の貴金属イオンを全て除去するため、貴金属イオンによる活性化の後にリンス工程が適用される。一方では、好ましくはこうしたリンス工程時に貴金属イオンの加水分解および析出が生じる。したがって、少なくとも1つのリンス工程は通常は希硫酸からなるリンス液で行われる。しかし、高密度回路の場合には、金属または金属合金の不要なめっきの抑制には、硫酸リンスでは不十分である。
【0012】
金属および金属合金の望ましくない不要なめっきを抑制するためのその他の方法は、EP2233608A1に開示されている。貴金属イオンによる基材の活性化後でかつニッケルの無電解めっきの前に、基材を有機アミノカルボン酸を含む水性組成物と接触させる。
【0013】
US5,843,538Aには、無電解めっきにより金属基材上にニッケル合金を析出させるための方法が開示されている。基材を、この順番で、有機酸およびフッ素系界面活性剤を含む水溶液と接触させ、次いでパラジウムイオンを含む活性剤溶液と接触させ、次いで安定剤の添加剤としてチオ尿素を含む無電解ニッケルめっき浴と接触させる。この方法では、不要なめっきは抑制されない。
【0014】
US2013/005862A1には、パラジウム除去処理が開示されている。銅表面を、パラジウムイオンによる活性化の後に硫黄化合物を含むアルカリ性溶液と接触させる。こうしたアルカリ性溶液は不要なめっきを抑制するものの、銅表面の望ましくないスキップめっきをもたらす。すなわち、ニッケルの無電解めっきを開始するためにパラジウムが残留すべき銅表面からもこのパラジウムが除去されてしまう(実施例9および10)。
【0015】
US2005/0109734A1には、パラジウム等の金属のための塩酸およびチオ尿素を含むエッチング液が開示されている。このエッチング液は、金属パラジウムのエッチングの前にパラジウム等の金属の表面から酸化物を除去するために適用される。したがって、そのようなエッチング液は、望ましくないスキップめっきを生じずに基材から金属パラジウムを選択的に除去するのには適していない。
【0016】
さらに、パラジウムイオンやそれから形成された析出物が銅コンタクトパッドに吸着されるが、スキップめっきを防止するためには、無電解めっきの前にこうしたパラジウムイオンやそれから形成された析出物を除去すべきではない。スキップめっきは望ましくない現象であり、銅コンタクトパッド上で金属または金属の不完全なめっきが生じる。したがって、このようなスキップめっきによって銅コンタクトパッド上での金属または金属合金層の破壊が生じ、これがボンディングやソルダリングの際の欠陥につながる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、望ましくない不要なめっき3を有するPCB基材1上での自己触媒めっきにより析出した金属(または金属合金)2で被覆された銅ボンディングパッドの上面図を示す(実施例1および2)。
【
図2】
図2は、望ましくないスキップめっき4を有するPCB基材1上での自己触媒めっきにより析出した金属(または金属合金)2で被覆された銅ボンディングパッドの上面図、すなわち銅コンタクトパッド上の金属(または金属合金)の破壊された層の上面図を示す(実施例3〜5および9〜10)。
【
図3】
図3は、PCB基材1上での自己触媒めっきにより析出した金属(または金属合金)2で被覆された銅ボンディングパッドの上面図を示す。望ましくない不要なめっきや望ましくないスキップめっきは観察されない(実施例6〜8)。
【0018】
発明の目的
本発明の目的は、銅表面を含む基材上に金属または金属合金層を無電解(自己触媒)めっきするための方法であって、前記銅表面、例えば銅コンタクトパッドの個々の素材の間での金属または金属合金の不要な望ましくない形成を抑制すると同時に、前記銅表面の個々の素材上に金属または金属合金の破壊されていない層を生じさせる前記方法を提供することである。
【0019】
発明の概要
前記課題は、以下の工程を以下の順序で含む、本発明による金属および金属合金の無電解(自己触媒)めっきのための方法により解決される:
i.銅表面を含む基材を準備する工程、
ii.前記基材と貴金属イオン含有組成物とを接触させる工程、その後、
iii.前記基材と水性前処理組成物とを接触させる工程、ここで、前記水性前処理組成物は、酸と、ハロゲン化物イオンの供給源と、以下:
チオ尿素、
式(1)
【化1】
[式中、
R
1、R
2およびR
3は、独立して、H、置換されたC
1〜C
6アルキル、および非置換のC
1〜C
6アルキルからなる群から選択され、かつ、
R
4は、H、置換されたC
1〜C
6アルキル、非置換のC
1〜C
6アルキル、および−N(R
7)−C(S)−NR
5R
6からなる群から選択され、
ここで、R
5、R
6およびR
7は、独立して、H、置換されたC
1〜C
6アルキル、および非置換のC
1〜C
6アルキルからなる群から選択される]
による化合物、
式(2)
R
8−C(S)−NR
9R
10 (2)
[式中、
R
8は、H、置換されたC
1〜C
6アルキル、および非置換のC
1〜C
6アルキルからなる群から選択され、かつ、
R
9およびR
10は、独立して、H、置換されたC
1〜C
6アルキル、および非置換のC
1〜C
6アルキルからなる群から選択される]
による化合物、および
チオ尿素基含有ポリマー
からなる群から選択される添加剤とを含み、
その際、前記添加剤の濃度は1〜200mg/lの範囲であるものとする、および
iv.無電解(自己触媒)めっきにより前記基材上に金属または金属合金層を析出させる工程。
【0020】
本発明による方法を適用すると、無電解(自己触媒)めっきにより析出する金属または金属合金の望ましくない不要なめっきやスキップめっきを、うまく抑制することができる。
【0021】
発明の詳細な説明
貴金属イオンやそれから形成される析出物の析出は、金属および金属合金の無電解(自己触媒)めっき用に定められた銅表面を含む基材の表面領域上でのみ生じることが望ましい。このことは、本発明による金属および金属合金の無電解めっきのための水性前処理組成物の適用により達成することができる。この水性前処理組成物は、酸と、ハロゲン化物イオンの供給源と、チオ尿素、チオ尿素誘導体およびチオ尿素基含有ポリマーからなる群から選択される添加剤とを含み、その際、この添加剤の濃度は1〜200mg/lの範囲である。
【0022】
銅表面を含む基材とは、例えば銅コンタクトパッドを備えたプリント回路基板(PCB)基材であり、この基材は、この基材上に無電解めっきにより析出される金属または金属合金層と、誘電体ベース材料(例えば、エポキシ樹脂)と、ソルダーマスク層(例えば、ポリアクリレートおよび/またはポリメタクリレート系材料)とで被覆されることが望ましい。銅表面を含む他の基材材料は、例えばガラスインターポーザ等の非金属ガラス製のデバイスや、例えばケイ素等の半導体材料製のデバイスであり、これは必要に応じて二酸化ケイ素製等の誘電体層等の誘電体材料を含む。
【0023】
いずれの場合にも、本発明による方法の工程iv.において利用される無電解めっき浴に曝される銅表面の選択された領域上にのみ金属または金属合金層が析出されることが望ましい。
【0024】
「無電解めっき」という用語は自己触媒めっきを意味するため、本発明による方法の工程iv.において利用されるめっき浴は化学的還元剤を含み、この化学的還元剤によってこのめっき浴中の金属イオンが還元されて金属状態となり、それによって、貴金属で活性化された銅表面上に金属または金属合金層が析出する。
【0025】
銅表面は、金属または金属合金の無電解めっきの前に活性化を必要とする。金属および金属合金の無電解めっきのために、特にニッケルの無電解めっきのために銅表面を活性化させるための組成物は、当技術分野で十分に知られている(K.Johal,SMTA International,Chicago,October 2001,Proceedings of the Technical Program,612−620)。この目的のために、パラジウムイオン等の貴金属イオンの酸性溶液がしばしば適用される。このような溶液は、少なくとも1種の酸、パラジウムイオンの少なくとも1種の供給源、および任意に界面活性剤を含む。
【0026】
少なくとも1種の酸は、好ましくは、塩酸、硫酸、トルエンスルホン酸、およびメタンスルホン酸を含む群から選択される。少なくとも1種の酸の濃度は、好ましくは25g〜150g/lの範囲であり、より好ましくは50g/l〜100g/lの範囲である。
【0027】
貴金属イオンは、好ましくはパラジウムイオンである。
【0028】
パラジウムイオンの少なくとも1種の供給源は、好ましくは塩化パラジウム、硫酸パラジウム、および酢酸パラジウムを含む群から選択される。パラジウムイオンの少なくとも1種の供給源の濃度は、10mg/l〜100mg/lの範囲であり、より好ましくは30mg/l〜70mg/lの範囲である。
【0029】
銅表面を含む基材とこのような活性剤溶液とを、10℃〜40℃の範囲の温度で、より好ましくは20℃〜30℃の範囲の温度で、30秒間〜300秒間、より好ましくは60秒間〜240秒間接触させる。
【0030】
次に、銅表面を含む基材から貴金属活性剤を選択的に除去する。無電解めっきによって金属または金属合金層を析出させるべき銅表面の部分上にのみ貴金属活性剤が残留することが重要である。「選択的に除去する」とは、銅表面のこのような部分の間に析出した貴金属活性剤のみを、例えば、銅表面のそのような部分とソルダーマスク層との間に析出した貴金属活性剤のみを、または銅表面のそのような部分と誘電体基材ベース材料との間に析出した貴金属活性剤のみを、本発明による方法の工程iii.において除去することを意味する。
【0031】
本発明による方法の工程iii.において適用される水性前処理組成物中に存在する酸は、好ましくは、無機酸、カルボン酸、有機スルホン酸およびそれらの混合物からなる群から選択される。より好ましくは、酸は、硫酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、リン酸、塩酸およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0032】
水性前処理組成物のpH値は、≦3であり、好ましくは≦2であり、より好ましくは≦1である。
【0033】
酸の濃度は、水性前処理組成物のpH値が≦3、好ましくは≦2、より好ましくは≦1となるように選択される。必要なpH値は、通常のpHメーターを用いて測定することができる。
【0034】
水性前処理組成物の酸性のpH値は、基材上の銅表面を清浄化することによって本発明による方法のために十分に清浄な銅表面を準備するために必要である。
【0035】
水性前処理組成物は、さらに、ハロゲン化物イオンの供給源、好ましくは塩化物イオンおよび/または臭化物イオンの供給源、より好ましくは塩化物イオンの供給源を含む。酸として塩酸が選択される場合には、ハロゲン化物イオンの必要量が完全に塩酸により提供されることができる。ハロゲン化物イオンの他の適切な供給源は、例えば塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化リチウム、臭化ナトリウムおよび臭化カリウム等のアルカリ金属ハロゲン化物、対応するアンモニウムハロゲン化物およびアルカリ土類金属ハロゲン化物である。水性前処理組成物において、ハロゲン化物イオンの異なる供給源の混合物を使用することができる。
【0036】
水性前処理組成物中のハロゲン化物イオンの濃度は、好ましくは、0.01〜100g/lの範囲であり、より好ましくは0.05〜50g/lの範囲であり、最も好ましくは0.1〜25g/lの範囲である。
【0037】
水性前処理組成物中のハロゲン化物イオンは、例えば銅コンタクトパッド等の銅表面上に金属または金属合金の破壊されていない層を得るために必要である。こうした金属または金属合金層は、例えば、被覆された銅コンタクトパッドと、本発明による方法の工程iv.において析出される金属または金属合金の上にめっきされる1つ以上のさらなる金属および/または金属合金層との間のバリア層として機能するためには、破壊されていてはならない。
【0038】
水性前処理組成物中にハロゲン化物イオンが存在しない場合には(実施例4、比較例)、スキップめっき、すなわち金属または金属合金の破壊された層が、銅コンタクトパッド上に生じる。このような金属または金属合金の破壊された層は、望ましくない。
【0039】
水性前処理組成物はさらに、チオ尿素、チオ尿素誘導体、およびチオ尿素基含有ポリマーからなる群から選択される添加剤を含む。
【0040】
本発明による方法における添加剤として適しているチオ尿素誘導体は、式(1)
【化2】
[式中、
R
1、R
2およびR
3は、独立して、H、置換されたC
1〜C
6アルキル、および非置換のC
1〜C
6アルキルからなる群から選択され、かつ、
R
4は、H、置換されたC
1〜C
6アルキル、非置換のC
1〜C
6アルキル、および−N(R
7)−C(S)−NR
5R
6からなる群から選択され、
ここで、R
5、R
6およびR
7は、独立して、H、置換されたC
1〜C
6アルキル、および非置換のC
1〜C
6アルキルからなる群から選択され、
好ましくは、R
1、R
2およびR
3は、独立して、H、メチル、エチル、プロピルおよびブチルからなる群から選択され、かつ、
R
4は、H、メチル、エチル、プロピル、ブチル、および−N(R
7)−C(S)−NR
5R
6からなる群から選択され、かつ、
R
5、R
6およびR
7は、独立して、H、メチル、エチル、プロピル、ブチルからなる群から選択される]
で表される化合物、
および、式(2)
R
8−C(S)−NR
9R
10 (2)
[式中、
R
8は、H、置換されたC
1〜C
6アルキル、および非置換のC
1〜C
6アルキルからなる群から選択され、かつ、
R
9およびR
10は、独立して、置換されたC
1〜C
6アルキル、および非置換のC
1〜C
6アルキルからなる群から選択される]
による化合物である。
【0041】
置換されたC
3〜C
6アルキル、および非置換のC
3〜C
6アルキルには、総じて、分岐鎖C
3〜C
6アルキル残基、および非分岐鎖C
3〜C
6アルキル残基が含まれる。
【0042】
式(1)および(2)による化合物中の置換されたC
1〜C
6アルキルのための適した官能基は、例えば、C
1〜C
6アルキル基に結合したヒドロキシル残基およびアミノ残基である。好ましくは、R
8は、H、メチル、エチル、プロピルおよびブチルからなる群から選択され、かつ、R
9およびR
10は、独立して、H、メチル、エチル、プロピルおよびブチルからなる群から選択される。
【0043】
より好ましくは、チオ尿素は、式(1)[式中、残基対R
1/R
3およびR
2/R
4が、独立して、H、メチル、エチル、プロピルおよびブチルからなる群から選択される同一の置換基を有する]による対称的に置換されたチオ尿素誘導体である。
【0044】
最も好ましくは、式(1)によるチオ尿素誘導体中の残基R
1、R
2、R
3およびR
4は、全て同一であり、かつ、H、メチル、エチル、プロピルおよびブチルからなる群から選択される。
【0045】
より好ましくは、式(2)によるチオ尿素誘導体のR
9およびR
10は、同一であり、かつ、H、メチル、エチル、プロピルおよびブチルからなる群から選択される。
【0046】
総じて、プロピル残基およびブチル残基には、分岐鎖および非分岐鎖のプロピル残基およびブチル残基が含まれる。
【0047】
適したチオ尿素誘導体の例は、例えばジメチルチオ尿素、ジエチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、チオアセトアミド、および2,5−ジチオジウレア等のN−アルキル置換チオ尿素誘導体である。
【0048】
水性前処理組成物中の前述の添加剤の濃度は、1〜200mg/lの範囲であり、好ましくは5〜150mg/lの範囲であり、より好ましくは10〜100mg/lの範囲である。
【0049】
前述の添加剤の濃度が1mg/l未満である場合には、望ましくない不要なめっきは抑制されない。
【0050】
前述の添加剤の濃度が200mg/l超である場合には、望ましくないスキップめっきが認められ、すなわち、金属または金属合金の破壊された層が銅コンタクトパッド上に得られる(実施例5)。
【0051】
本発明による水性前処理組成物は、さらに界面活性剤を含んでもよく、これはルーチン実験により選択可能である。
【0052】
このような任意の界面活性剤によって基材の濡れ性が向上し、また、水性前処理組成物中のチオ尿素、チオ尿素誘導体またはチオ尿素基含有ポリマーの十分な溶解性を提供するためにもこうした任意の界面活性剤が必要とされることがある。特に、例えばN,N’−ジブチルチオ尿素やN,N,N’,N’−テトラブチルチオ尿素等のブチル置換チオ尿素誘導体は、このチオ尿素誘導体を水性前処理組成物中に1〜200mg/lの濃度で溶解させるために界面活性剤を必要とする場合がある。
【0053】
水性前処理組成物は任意にさらに、アミノカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種類の錯化剤を含む。好ましい有機アミノカルボン酸は、アラニン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グリシン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、トレオニン、バリン、N,N−ジメチルグリシン、β−アラニン、β−ロイシン、β−イソロイシン、β−グルタミン、β−グルタミン酸、β−メチオニン、β−アスパラギン酸から選択される。ヒドロキシカルボン酸は、好ましくは乳酸およびクエン酸から選択される。
【0054】
任意の錯化剤の濃度は、好ましくは0.1〜100g/lの範囲であり、より好ましくは0.5〜50g/lの範囲であり、最も好ましくは1〜15g/lの範囲である。このような錯化剤は、本発明による方法の工程iii.において溶解されるパラジウムイオンが基材上に再度析出されないようにすることによって、水性前処理組成物の所望の特性を高めることができる。
【0055】
チオ尿素、チオ尿素誘導体およびチオ尿素基含有ポリマーからなる群から選択される添加剤に代えて、例えば3−メルカプトプロパン−1−スルホン酸や対応するジスルフィド付加ビス−(ナトリウムスルホプロピル)−ジスルフィドといった他の硫黄化合物を適用した場合には、金属または金属合金の望ましくない不要なめっきは抑制されない(実施例2)。
【0056】
チオ尿素、チオ尿素誘導体およびチオ尿素基含有ポリマーに代えて、例えばチオ硫酸イオンおよび/またはチオシアン酸イオン等の硫黄化合物を適用した場合(実施例3および4)や、200mg/l超の濃度のチオ尿素を適用した場合(実施例5)には、銅コンタクトパッドの表面上に望ましくないスキップめっきが認められる。したがって、こうした場合には、銅表面上での無電解めっきにより、金属または金属合金の望ましくない破壊された層が得られる。
【0057】
方法工程ii.とiii.との間の、主に水を用いた少なくとも1つの追加のリンス工程は、任意である。方法工程iii.とiv.との間の、主に水を用いた少なくとも1つの追加のリンス工程は、任意ではあるものの好ましい。なぜならば、その場合には、工程iii.において使用される水溶液から工程iv.において使用される金属または金属合金の自己触媒めっき浴への例えばチオ尿素および/またはその誘導体の望ましくない随伴が最小限に抑えられるためである。
【0058】
活性化された銅表面を含む基材と水性前処理組成物とを、好ましくは20℃〜80℃の温度で、より好ましくは25℃〜70℃の温度で、最も好ましくは30〜60℃の温度で接触させる。接触時間は、好ましくは10秒間〜20分間の範囲であり、より好ましくは1分間〜6分間の範囲である。
【0059】
そうすると、銅表面を含む基材は、活性化された銅表面上への金属または金属合金の無電解めっきに適したものとなる。本発明による方法工程iv.において析出される金属または金属合金は、好ましくは、ニッケル、Ni−P合金、Ni−B合金、Ni−B−P合金、Ni−Mo−P合金、Ni−Mo−B合金、Ni−Mo−B−P合金、Ni−W−P合金、Ni−W−B合金、Ni−W−B−P合金、Ni−Mo−W−P合金、Ni−Mo−W−B合金、Ni−Mo−W−B−P合金、コバルト、Co−P合金、Co−B合金、Co−B−P合金、Co−Mo−P合金、Co−W−P合金、Co−W−B合金、Co−W−B−P合金、Co−Mo−W−P合金、Co−Mo−W−B合金、およびCo−Mo−W−B−P合金、パラジウム、Pd−B合金、Pd−P合金、およびPd−B−P合金からなる群から選択される。
【0060】
より好ましくは、金属または金属合金は、ニッケル、Ni−P合金、Ni−B合金、パラジウム、Pd−B合金、およびPd−P合金からなる群から選択される。
【0061】
適しためっき浴組成物と、例えばめっき時の浴温度や上述の金属および金属合金を析出させるためのめっき時間等のめっきパラメータは当技術分野において公知であり、かつ本発明による方法工程iv.に利用することができる。
【0062】
本発明による方法によって、金属および金属合金の不要なめっきが抑制される。さらに、本発明による方法における銅表面を含む基材と水性前処理組成物との接触時には銅表面からの貴金属活性剤の再溶解が生じないため、金属および金属合金の望ましくないスキップめっきのリスクがない。スキップめっきとは、銅が十分に活性化されていない銅の表面領域上での金属または金属合金の無電解めっきの欠如を意味する。
【0063】
実施例
本発明を、以下の非限定的な実施例を参照して説明する。
【0064】
包括的な手順:
全ての実施例を通じて、銅コンタクトパッドとこの銅パッドの周囲のソルダーマスク層とを含むPCB基材を使用した。これら全てのPCB基材上には、この銅コンタクトパッドとソルダーマスク層との間に約10〜20μmの間隙が存在しており、むき出しの誘電体基材材料(補強されたエポキシ樹脂材料)が露出していた。
【0065】
これらのPCB基材を、50mg/lのPd
2+イオンおよび90g/lの硫酸を含む貴金属活性剤組成物と、23℃の温度で3分間接触させた(貴金属活性化、工程ii.)。
【0066】
次に、活性化された銅コンタクトパッドを有するこれらのPCB基材を様々な水性前処理組成物と接触させ(工程iii.)、次いでこれらの活性化された銅コンタクトパッド上への無電解めっきによって、ニッケル−リン合金層を析出させた(Aurotech(登録商標) HP、Atotech Deutschland GmbH社の製品、Ni−P合金層の厚さ=5〜6.5μm)(実施例1〜7)。実施例8においては、ニッケル−リン合金層に代えて無電解めっきにより工程iii.においてパラジウム層を析出させた。このパラジウム層は、US5,882,736に記載の無電解パラジウムめっき浴から析出させたものである。
【0067】
その後、銅コンタクトパッド上に望ましくない不要なニッケル−リン合金めっきや望ましくないスキップめっきが生じたかどうかを調べるために、これらのPCB基材について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、特にこれらの銅コンタクトパッドとソルダーマスク層との間の間隙を調べた。
【0068】
実施例1(比較例)
PCB基材を、60g/lの硫酸および5g/lの塩化物イオンからなる水性前処理溶液で20℃で5分間リンスし(本発明の工程iii.)、次いで水でリンスした。ニッケルの無電解析出後に、基材表面をSEMを用いて調べた。
【0069】
望ましくない不要なめっき3が、基材1上のニッケル−リン合金で被覆された銅コンタクトパッド2の周囲に生じた(
図1)。
【0070】
実施例2(比較例)
PCB基材を、20g/lの硫酸、5g/lの塩化物イオンおよび100mg/lのビス(ナトリウムスルホプロピル)−ジスルフィドからなる前処理溶液で45℃で3分間リンスし(工程iii.)、次いで水でリンスした。ニッケルの無電解析出後に、PCB基材表面をSEMを用いて調べた。
【0071】
望ましくない不要なめっき3が、ニッケル−リン合金で被覆された銅コンタクトパッド2の周囲のPCB基材1上で生じた(
図1)。
【0072】
実施例3(比較例)
PCB基材を、20g/lの硫酸および10mg/lのチオシアン酸塩からなる前処理溶液で45℃で3分間リンスし(工程iii.)、次いで水でリンスした。ニッケルの無電解析出後に、PCB基材表面をSEMを用いて調べた。
【0073】
望ましくないスキップめっき4が、銅コンタクトパッド上のPCB基材1上に生じた。すなわち、銅コンタクトパッド上のニッケル−リン合金の望ましくない破壊された層2が得られた(
図2)。
【0074】
実施例4(比較例)
PCB基材を、15g/lの硫酸および10mg/lのチオ尿素からなる水性前処理溶液で45℃で3分間リンスし(工程iii.)、次いで水でリンスした。したがって、利用したこの水性前処理溶液は、ハロゲン化物イオンを含んでいなかった。ニッケルの無電解析出後に、基材表面をSEMを用いて調べた。
【0075】
望ましくないスキップめっき4が認められた。したがって、銅コンタクトパッド上のニッケル−リン合金層2は破壊されていた(
図2)。
【0076】
実施例5(比較例)
PCB基材を、20g/lの硫酸、3g/lの塩化物イオンおよび250mg/lのチオ尿素からなる水性前処理溶液で45℃で3分間リンスし(工程iii.)、次いで水でリンスした。したがって、利用したこの水性前処理溶液中のチオ尿素濃度は過度に高かった。ニッケルの無電解析出後に、基材表面をSEMを用いて調べた。
【0077】
望ましくないスキップめっき4が認められた。したがって、銅コンタクトパッド上のニッケル−リン合金層2は破壊されていた(
図2)。
【0078】
実施例6
PCB基材を、15g/lの硫酸、10g/lの塩化物イオンおよび10mg/lのチオ尿素からなる水性前処理溶液で45℃で3分間リンスし(工程iii.)、次いで水でリンスした。ニッケルの無電解析出後に、基材表面をSEMを用いて調べた。
【0079】
不要なめっき3もニッケル−リン合金層のスキップめっき4も認められなかった(
図3)。
【0080】
実施例7
PCB基材を、20g/lの硫酸、3g/lの塩化物イオンおよび50mg/lのN,N,N’,N’−テトラメチルチオ尿素からなる水性前処理溶液で45℃で3分間リンスし(工程iii.)、次いで水でリンスした。ニッケルの無電解析出後に、基材表面をSEMを用いて調べた。
【0081】
不要なめっき3もニッケル−リン合金層のスキップめっき4も認められなかった(
図3)。
【0082】
実施例8
PCB基材を、20g/lの硫酸、3g/lの塩化物イオンおよび50mg/lのN,N,N’,N’−テトラメチルチオ尿素からなる水性前処理溶液で45℃で3分間リンスし(工程iii.)、次いで水でリンスした。パラジウムの無電解析出後に、基材表面をSEMを用いて調べた。
【0083】
不要なめっき3もパラジウム層のスキップめっき4も認められなかった(
図3)。
【0084】
実施例9(比較例)
PCB基材を、2.2g/lのナトリウム塩化物イオンおよび50mg/lのN,N−ジメチルチオ尿素からなる水性アルカリ性(pH=9)前処理溶液で45℃で3分間リンスし(工程iii.)、次いで水でリンスした。パラジウムの無電解析出後に、基材表面をSEMを用いて調べた。
【0085】
望ましくないスキップめっき4が認められた。したがって、銅コンタクトパッド上のニッケル−リン合金層2は破壊されていた(
図2)。
【0086】
実施例10(比較例)
PCB基材を、2.2g/lのナトリウム塩化物イオンおよび50mg/lのチオ尿素からなる水性アルカリ性(pH=9)前処理溶液で45℃で3分間リンスし(工程iii.)、次いで水でリンスした。パラジウムの無電解析出後に、基材表面をSEMを用いて調べた。
【0087】
望ましくないスキップめっき4が認められた。したがって、銅コンタクトパッド上のニッケル−リン合金層2は破壊されていた(
図2)。
本発明は、望ましくないスキップめっきや不要なめっきを抑制する、プリント回路基板等の電子デバイスの銅素材上に金属または金属合金を無電解めっきするための方法を開示する。前記方法は、次の工程を含む:i)そのような基材を準備する工程;ii)前記銅素材を貴金属イオンで活性化させる工程;iii)余剰分の貴金属イオンやそれから形成された析出物を水性前処理組成物を用いて除去する工程、ここで、前記水性前処理組成物は、酸と、ハロゲン化物イオンの供給源と、チオ尿素化合物、チオ尿素誘導体およびチオ尿素基含有ポリマーからなる群から選択される添加剤とを含むものとする、およびiv)金属または金属合金層を無電解めっきする工程。