(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6092494
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】ゴム製起伏堰本体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
E02B 7/20 20060101AFI20170227BHJP
【FI】
E02B7/20
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-6588(P2017-6588)
(22)【出願日】2017年1月18日
【審査請求日】2017年1月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231338
【氏名又は名称】日本自動機工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001405
【氏名又は名称】特許業務法人篠原国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100065824
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100104983
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 雅之
(74)【代理人】
【識別番号】100166394
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 和弘
(72)【発明者】
【氏名】金森 豪
(72)【発明者】
【氏名】桑島 智明
【審査官】
亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭58−017910(JP,A)
【文献】
特開2003−027451(JP,A)
【文献】
特開平08−294968(JP,A)
【文献】
特開2014−169575(JP,A)
【文献】
特許第3302430(JP,B2)
【文献】
特開昭56−052211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/20、7/26、7/32、7/36
E02B 3/04−3/14
B29C 65/00、65/70
B29D 7/01
B29K 21/00
B29L 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に接合部を有する複数組のゴムシート積層体を有し、
前記複数組のゴムシート積層体の軸方向に沿って設けられたフィンを有し、
各組の前記ゴムシート積層体は、同形状のゴムシートが軸方向に沿って所定量ずれて積層され、軸方向の端部に、軸方向に沿って各層のゴムシートが所定量ずれた軸方向階段状部を有し、
軸方向に隣り合う前記ゴムシート積層体の接合部同士は、互いの前記軸方向階段状部を形成する軸方向に沿って所定量ずれた各層のゴムシートの突出面と、他の層のゴムシートの突出面とが圧着されるとともに最外層のゴムシート同士が面一に配置され、前記複数組のゴムシート積層体は未加硫状態の前記接合部同士が加硫接合されるとともに、前記複数組のゴムシート積層体の軸方向に沿って設けられた前記フィンが前記ゴムシート積層体の未加硫状態のフィン接合部と加硫接合されていることを特徴とするゴム製起伏堰本体。
【請求項2】
同形状のゴムシートが軸方向に沿って所定量ずれて積層され、軸方向の端部に、軸方向に沿って各層のゴムシートが所定量ずれた軸方向階段状部を有する未加硫状態の複数組のゴムシート積層体を準備する工程と、
軸方向に隣り合う前記ゴムシート積層体同士の、互いの前記軸方向階段状部を形成する軸方向に沿って所定量ずれた各層のゴムシートの面と、他の層のゴムシートの面とを圧着して最外層のゴムシート同士が面一となるように配置し、フィン部に相当する軸方向に沿った一部分を残し一体加硫接合して一枚の板状体を形成する工程と、
前記一枚の板状体を前記軸方向に沿ったフィン部に相当する部分を折部として周方向に二つ折りし、軸方向に沿って前記フィン部に相当する部分に未加硫フィンを形成する工程と、
前記未加硫フィンが形成された前記二つ折り板状体の前記フィン部に対し加硫を行う工程と、
を有することを特徴とするゴム製起伏堰本体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム製起伏堰に用いるゴム製起伏堰本体及びその製造方法に関し、特に堰高が1.5mを超えるものに適する。
【背景技術】
【0002】
従来、中小河川の止水や農業用水路の水位確保などを目的として、河川や水路をせき止めるためにゴム堰が広く利用されているとともに各種改良が進められてきた。
ところで、ゴム堰構築に用いられるゴムシート積層体に使用されている織布の幅は1.5m程度であるため、軸方向に織布の長手方向を配置した場合、1枚織布で構築できるゴム堰の高さは0.5m程度であり、加硫における標準的な幅3.0mのプレス加熱板を考慮すると、加硫後接合部を有さずに構築できるゴム堰の高さは最大1.5m程度である。そのため、ゴム堰の高さが1.5m以上必要な場合は、複数枚の加硫後ゴムシート積層体を接着材を用いて接合してゴム製起伏堰本体とする必要がある。そして、複数枚のゴムシート積層体を接着材を用いて後接着により接合したものとしては、特許文献1として示す特許第3302430号公報に記載されている周方向に接合したものと、特許文献2として示す特開昭58−17910号公報に記載されている軸方向(河幅方向)に接合したものの二通りがある。
【0003】
特許文献1のゴムシート積層体を周方向に接合したものは、例えば
図5(a)に示すように接続部jが周方向に設けられており、折り返し部先端にフィンfが設けられている。そして、倒伏時には
図5(b)に示すように扁平な形状に倒伏する。また、
図5(c)に示すように接続部jは補強材rにより図面において左右のゴムシート積層体gが接続されている。また、特許文献1はゴム堰本体の周方向に亘り分割した少なくとも2枚以上の本体分割部分を後接着により相互に一体接着したものである。
【0004】
特許文献2のゴムシート積層体を軸方向に接合したものは、例えば
図6に示すように接続部jが軸方向に設けられ隣接するゴムシートgが接続されている。また、特許文献2は可撓性膜堰の長手方向(軸方向)に亘り分割されて成形された少なくとも2個以上の可撓性膜堰部分を後接着により相互に一体に接着したものである。なお、
図6に示した例ではフィンがなく、そのため折り返し部hは丸みを帯び流水阻害となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3302430号公報
【特許文献2】特開昭58−17910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の周方向に亘り接合したものは、一度加硫したもの同士を再び加硫して後接着しているため、後接着の箇所は本体部よりも強度不足となる。さらに周方向には膨張時に作用する張力が軸方向より強く働くため、接合部で破損するおそれが高く、この周方向での接続部で破断した事例も報告されている。
【0007】
また、特許文献2の軸方向に亘り接合したものも、一度加硫したもの同士を再び加硫して後接着しているため、膨張時に軸方向に作用する力は周方向に作用する力より小さいとはいえ、特許文献2においても懸念しているように後接着の箇所は本体部よりも強度不足となるため接合部において破損するおそれがある。
【0008】
なお、特許文献1や特許文献2のように加硫後の後接着により接合部の強度が低下するのは次のような接合方法を実施しているためである。以下、特許文献2に示される接合方法を例にとり説明する。接合部における接着は
図7(a)に示すように各ゴムシートgの切欠き部cと補強材rとを接着剤で相互に接着するようにしたり、
図7(b)に示すように接着剤に代わり特殊カーボンを含有した面状発熱体たる未加硫ゴムシートuにより各ゴムシートgの切欠き部cと補強材rを一体で後加硫するようにしたり、あるいは
図7(c)及び(d)に示すように各ゴムシートgの相互接合端縁部の外面を多段数のステップを付けて削除dし、同ステップに対応するような形状に補強材rを形成し、同補強材rには各ゴムシートgの各補強層sに対応した深さに同補強層sと同様な補強層を埋設するようにして後加硫している。
【0009】
図7(a)〜(d)に示されるようないずれの接着方法によっても、対向するゴムシートg同士は一体加硫されないで補強材rを介して間接的に接合されるため、接合強度は補強材rと各ゴムシートgの接着強度に左右されることとなり、加硫後の後接着ではゴムシートgと補強材rの接着力が弱く、未加硫ゴム同士の接合に比べ十分な接合強度を確保することは困難である。
【0010】
また、特許文献2には上記
図7(a)〜(d)に示すような加硫後ゴムの後接着により軸方向に接合部を有し、さらにフィンを有するゴム製起伏堰本体が示されているが、特にフィン接合部の強度を確保することが難しく実現化されていない。
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、堰高が1.5mを超えるゴム製起伏堰の使用に適した十分な接合強度を有し、振動防止対策および倒伏時の損傷防止に有用なフィンを有するゴム製起伏堰本体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明によるゴム製起伏堰本体は、軸方向に接合部を有する複数組のゴムシート積層体を有し、前記複数組のゴムシート積層体の軸方向に沿って設けられたフィンを有し、各組の前記ゴムシート積層体は、同形状のゴムシートが軸方向に沿って所定量ずれて積層され、軸方向の端部に、軸方向に沿って各層のゴムシートが所定量ずれた軸方向階段状部を有し、軸方向に隣り合う前記ゴムシート積層体の接合部同士は、互いの前記軸方向階段状部を形成する軸方向に沿って所定量ずれた各層のゴムシートの突出面と、他の層のゴムシートの突出面とが圧着されるとともに最外層のゴムシート同士が面一に配置され、前記複数組のゴムシート積層体は未加硫状態の前記接合部同士が加硫接合されるとともに、前記複数組のゴムシート積層体の軸方向に沿って設けられた前記フィンが前記ゴムシート積層体の未加硫状態のフィン接合部と加硫接合されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明によるゴム製起伏堰本体の製造方法は、同形状のゴムシートが軸方向に沿って所定量ずれて積層され、軸方向の端部に、軸方向に沿って各層のゴムシートが所定量ずれた軸方向階段状部を有する未加硫状態の複数組のゴムシート積層体を準備する工程と、軸方向に隣り合う前記ゴムシート積層体同士の、互いの前記軸方向階段状部を形成する軸方向に沿って所定量ずれた各層のゴムシートの面と、他の層のゴムシートの面とを圧着して最外層のゴムシート同士が面一となるように配置し、フィン部に相当する軸方向に沿った一部分を残し一体加硫接合して一枚の板状体を形成する工程と、前記一枚の板状体を前記軸方向に沿ったフィン部に相当する部分を折部として周方向に二つ折りし、軸方向に沿って前記フィン部に相当する部分に未加硫フィンを形成する工程と、前記未加硫フィンが形成された前記二つ折り板状体の前記フィン部に対し加硫を行う工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、軸方向に隣接する複数組の未加硫ゴムシート積層体同士が、接合部となる軸方向階段状部を形成する突出面で補強材や接着剤を用いず一体で加硫成形されているため、安定的な接合強度を得られる。また、面一に配置された最外層のゴムシート同士は未加硫状態からの接合となるため、表面に凹凸が無く美観に優れ、凹凸があることに起因する接合部分の剥離も防止することができる。
【0015】
また、フィンも未加硫状態からゴムシート積層体と加硫接合されているため、接合強度も高く耐久性も大きなものとなる。
【0016】
そして本発明によれば、接合部での損傷の危険が少なく、かつ振動防止効果を有し、倒伏時の下流部のゴム突出による流下物による損傷を防止できるゴム製起伏堰となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のゴム製起伏堰本体を用いたゴム製起伏堰の斜視図である。
【
図2】本発明のゴム製起伏堰本体を製造する際のゴムシートを積層したゴムシート積層体を接続するための説明図である。
【
図3】本発明のゴム製起伏堰本体の製造方法の説明図であり、(a)はゴムシート積層体を軸方向に接続した状態を示す平面図、(b)は(a)のA部拡大正面図である。
【
図4】本発明のゴム製起伏堰本体の製造方法の説明図であり、二つ折りしたゴムシートの軸方向にフィンを成形する方法を示す説明図である。
【
図5】従来のゴム製起伏堰本体の周方向の接合を示す説明図であり、(a)は斜視図、(b)は倒伏状態を示す正面図、(c)は(b)のB部拡大図である。
【
図6】従来のゴム製起伏堰本体の軸方向の接続を示す斜視図である。
【
図7】従来の加硫後の後接着によるゴムシートの接合例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のゴム製起伏堰本体の一例を
図1〜
図3に基づいて説明する。
本発明のゴム製起伏堰本体は、
図1に示すように軸方向に接合部1を有する複数組のゴムシート積層体2と、複数組のゴムシート積層体2の軸方向に沿って設けられたフィン3を有している。
【0019】
そして、
図2に示すように各組のゴムシート積層体2は、同形状のゴムシート21,22,23,24,25が軸方向に沿って所定量ずれて積層され、軸方向の両端に、軸方向に沿って各層のゴムシートが所定量ずれた軸方向階段状部4を有している。なお、他のゴムシート積層体2と接合しない端部、例えば川の法面への取り付け箇所には軸方向階段状部4はなくてもよい。また、各組のゴムシート積層体2を接合するに際しては、軸方向に隣り合うゴムシート積層体2の接合部同士は
図3(b)に示すように、互いの軸方向階段状部4を形成する軸方向に沿って所定量ずれたゴムシート21,22,23,24,25の突出面211,221,231,241,251が、他の層のゴムシート21,22,23,24,25の突出面211,221,231,241,251の各面と圧着され、最外層のゴムシート21同士が面一に配置されている。
【0020】
図1に示すようにゴムシート積層体2は軸方向に接合され、
図2と
図3(a)(b)に示すように左右のゴムシート積層体2は軸方向階段状部4の突出面211,221,231,241,251で未加硫状態から一体で加硫成形されている。すなわち、左右のゴムシート積層体2は加硫後に後接着されることなく接合されることから、接合強度が高まり、堰高が1.5mを超える大きなものであっても十分な接合強度と、膨張時に法部付近に発生する折れ皺による極度な曲げに対する耐久性も有することとなる。
【0021】
また、
図1に示すようにフィン3も設けられているため、膨張時の越流水による振動の発生が防止され、さらに
図6に示すような丸みを帯びた折り返し部hとならず倒伏時の下流部ゴム突出による流下物による損傷も防止される。
【実施例】
【0022】
次に、本発明のゴム製起伏堰本体の製造方法の実施例を
図2〜
図4に基づいて説明する。
まず、
図2に示すように未加硫の同形状のゴムシート21,22,23,24,25を軸方向に所定量階段状にずらし、軸方向の両端に軸方向に沿って各層のゴムシート21,22,23,24,25が所定量ずれた軸方向階段状部4を有する未加硫状態のゴムシート積層体2を複数枚用意する。ゴムシート21は最外層となる外面ゴムであり、ゴムシート25は最内層となる内面ゴムである。ゴムシート22,23,24は帆布5を補強材としたゴム引布である。図示した例ではゴムシート積層体2は5枚のゴムシートより形成しているがこれらの枚数や材質は任意に選択可能である。
【0023】
そして、軸方向に隣り合うゴムシート積層体2同士の、互いの軸方向階段状部4を形成する軸方向に沿って所定量ずれたゴムシート21,22,23,24,25の突出面211,221,231,241,251と、他の層のゴムシート21,22,23,24,25の突出面211,221,231,241,251とを
図3(b)に示すように重ね合わせて圧着し、最外層のゴムシート21同士が面一に配置されるように、未加硫状態のまま大型熱板プレス機を用いて加硫接合して
図3(a)に示すように一枚の板状体6を形成する。
図3(a)の周方向中央部のフィン部に相当する軸方向に沿った一部については
図4(a)のフィン3を接合するため未加硫状態とする。なお、フィン部に相当する部分を未加硫状態とするためには、例えば上記大型の熱板プレス機を用いて加硫接合するに際し、フィン部に相当する部分の加熱温度を調整し、フィンが付く部分を未加硫状態にすればよい。
【0024】
ついで、板状体6を軸方向に沿ったフィン部に相当する部分を折部として周方向に二つ折りして袋体にする便宜と、袋体折り返し部内側での空気溜まりを防止するために最内層のゴムシート25に軸方向にV字溝7を形成する。そして、板状体6とフィン部を加硫する際に、対面する上下の最内層のゴムシート25が接合されることを防止するために離形用マイラー8を配設する。
【0025】
次に、二つ折りにされた板状体6の軸方向に沿って未加硫のフィン部に相当する部分に
図4(b)に示すように未加硫のフィン3を成形する。フィン3は本発明のゴム製起伏堰本体が膨張した際に
図1に示すように軸方向で越流水に対し立ち、倒伏時にはこのフィン3部分が倒伏面の下流先端となり扁平な状態でゴム製起伏堰本体が倒伏するように成形する。
【0026】
そして、二つ折りした板状体6の未加硫部分とフィン3を面一で一体と成るよう熱板プレス機にて加硫接合する。
【符号の説明】
【0027】
1 接合部
2 ゴムシート積層体
21,25 ゴムシート
22,23,24 補強層入りゴムシート
211,221,231,241,251 突出面
3 フィン
4 軸方向階段状部
5 帆布
6 板状体
7 V字溝
8 離形用マイラー
【要約】
【課題】堰高が1.5mを超えるゴム製起伏堰の使用に適した十分な接合強度を有し、振動防止対策および倒伏時の損傷防止に有用なフィンを有するゴム製起伏堰本体を提供する。
【解決手段】軸方向に接合部を有する複数組のゴムシート積層体2を有し、各組のゴムシート積層体は同形状のゴムシート21〜25が軸方向に沿って所定量ずれて積層され、軸方向の端部に各層のゴムシートが所定量ずれた軸方向階段状部4を有し、隣り合うゴムシート積層体の接合部同士は、互いの軸方向階段状部を形成する軸方向に沿って所定量ずれた各層のゴムシートの突出面211〜251と、他の層のゴムシートの突出面とが圧着されるとともに最外層のゴムシート同士が面一に配置され、ゴムシート積層体は未加硫状態の接合部同士が加硫接合されるとともに、ゴムシート積層体の軸方向に沿って設けられたフィンがゴムシート積層体の未加硫状態のフィン接合部と加硫接合されている。
【選択図】
図1