特許第6092496号(P6092496)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティドの特許一覧

<>
  • 特許6092496-リチウム合金化物質/炭素複合体 図000002
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6092496
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】リチウム合金化物質/炭素複合体
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20170227BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170227BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20170227BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170227BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20170227BHJP
【FI】
   H01M4/587
   H01M4/36 E
   H01M4/38 Z
   H01M10/052
   H01M10/0566
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2009-146730(P2009-146730)
(22)【出願日】2009年6月19日
(65)【公開番号】特開2010-3695(P2010-3695A)
(43)【公開日】2010年1月7日
【審査請求日】2012年5月31日
【審判番号】不服2014-23036(P2014-23036/J1)
【審判請求日】2014年11月12日
(31)【優先権主張番号】12/143,195
(32)【優先日】2008年6月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507342261
【氏名又は名称】トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】モニーク エヌ.リチャード
【合議体】
【審判長】 池渕 立
【審判官】 河本 充雄
【審判官】 宮澤 尚之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−146730(JP,A)
【文献】 特開2007−42601(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/071076(WO,A1)
【文献】 特開2001−143692(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0145757(US,A1)
【文献】 特開2002−93416(JP,A)
【文献】 特開2002−334697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13- 4/587
H01M10/052,10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素およびリチウム合金化物質を含み、
多孔質基材の形態の前記炭素がナノ孔隙を有し、前記ナノ孔隙がある体積を有し、かつ
前記リチウム合金化物質が、前記炭素基材の前記ナノ孔隙の一部中に吸着され、かつ電解液が出ていくことを可能にし及びリチウムと合金を作る際の前記リチウム合金化物質の体積膨張の余地を提供するように前記ナノ孔隙の体積の50%超、100%未満を占有する、負極材料
【請求項2】
前記基材が、10から99%の間の前記ナノ孔隙の体積を有する、請求項1に記載の負極材料
【請求項3】
前記リチウム合金化物質が、前記ナノ孔隙の体積の75%超、100%未満を占有する、請求項2に記載の負極材料
【請求項4】
前記ナノ孔隙の体積が、1ナノメートルから999ナノメートルの間の平均直径のナノ細孔およびナノ流路を有する、請求項3に記載の負極材料
【請求項5】
前記ナノ細孔および前記ナノ流路が、1ナノメートルから50ナノメートルの間の平均直径を有する、請求項4に記載の負極材料
【請求項6】
前記ナノ細孔および前記ナノ流路が、1ナノメートルから30ナノメートルの間の平均直径を有する、請求項5に記載の負極材料
【請求項7】
前記ナノ細孔および前記ナノ流路が、1ナノメートルから20ナノメートルの間の平均直径を有する、請求項6に記載の負極材料
【請求項8】
前記リチウム合金化物質が、スズ、ケイ素、アルミニウム、ゲルマニウム、およびこれらの合金からなる群から選択される、請求項7に記載の負極材料
【請求項9】
請求項8に記載の負極材料を含む負極
【請求項10】
結合用化合物、その他の添加剤、又はこれらの組合せをさらに含む、請求項9に記載の負極
【請求項11】
請求項10に記載の負極
電解液、および
正極
を有する電池。
【請求項12】
炭素およびリチウム合金化物質を含み、
多孔質基材の形態の前記炭素が、ナノ孔隙を画定するナノ細孔およびナノ流路を有し、前記ナノ孔隙がある体積を有し、前記ナノ細孔および前記ナノ流路が、1ナノメートルから999ナノメートルの間の平均直径を有し、また
前記リチウム合金化物質が、前記炭素基材の前記ナノ細孔および前記ナノ流路の一部中に吸着され、かつ電解液が出ていくことを可能にし及びリチウムと合金を作る際の前記リチウム合金化物質の体積膨張の余地を提供するように前記ナノ孔隙の体積の50%超、100%未満を占有する、負極材料
【請求項13】
前記基材が、10から99%の間の前記ナノ孔隙の体積を有する、請求項12に記載の負極材料
【請求項14】
前記リチウム合金化物質が、スズ、ケイ素、アルミニウム、ゲルマニウム、およびこれらの合金からなる群から選択される、請求項13に記載の負極材料
【請求項15】
炭素およびリチウム合金化物質の負極を有する電池であって、
リチウムを含有する正極と、
電解液と、
負極であって、ナノ孔隙を画定するナノ細孔およびナノ流路を有する多孔質の炭素基材を有し、前記ナノ孔隙がある体積を有し、前記ナノ細孔および前記ナノ流路が、1ナノメートルから999ナノメートルの間の平均直径を有する、負極と、
前記炭素基材の前記ナノ細孔および前記ナノ流路の一部中に吸着され、かつ前記電解液が出ていくことを可能にし及びリチウムと合金を作る際の前記リチウム合金化物質の体積膨張の余地を提供するように前記ナノ孔隙の体積の50%超、100%未満を占有するリチウム合金化物質と
を含む電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料に関し、具体的にはリチウムイオン電池用の電極材料に関する。
【背景技術】
【0002】
電池に対するエネルギー需要量は増加し続けており、一方で体積および質量に関する制約は存在し続ける。さらに安全、低コスト、および環境にやさしい材料に対する要求が増加しつつある。これらの要求および電池仕様を、伝統的なリチウムイオン電池化学を用いて満たすことはできない。リチウムイオン電池は時間をかけて最適化されてきており、安定なエネルギーであることが実証されているが、これらのシステムは、電池の活物質構造物を可逆的に挿入し、またそれから取り除くことができるリチウムの量によって制限される。
【0003】
より卓越した性能、安全性、低コスト、および環境にやさしい材料に対する要求条件は、新規な電池材料の開発を通してのみ達成することができる。研究者達は、炭素系負極をスズと置き換えることを提案している。スズは、電池の充電の間にリチウムと合金を作る。リチウム−スズ合金は、スズ1原子当たりリチウム4.4原子の最大濃度を形成し、この濃度は993mAh/gの容量に等しい。伝統的な炭素系負極は372mAh/gの理論容量を有する。したがって伝統的な炭素系負極電池をスズ系負極電池で置き換えることは、より高いエネルギー能力をもたらす可能性がある。さらに他のリチウム合金化物質も炭素系負極電池に代わるものとみなすことができる。しかし研究の結果は、スズ系および他のリチウム合金化物質の負極システムの使用に伴う2つの主要な問題があることを示しており、その第一はサイクル寿命が劣ることであり、第二はスズの利用率が劣ることである。したがって、電池材料の十分なサイクル寿命および適切な利用率に加えて高いエネルギー密度を示す改良されたリチウム電池が必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
リチウム合金化物質/炭素複合体を有する電極材料を提供する。この炭素は、ナノ孔隙を有する多孔質基材の形態であり、リチウム合金化物質はその炭素基材のナノ孔隙中に吸着される。炭素基材は、10から99%の間のナノ孔隙の体積を有することができる。さらにこのリチウム合金化物質は、ナノ孔隙の少なくとも5%でかつ100%未満を占有することができ、実例としてはスズ、ケイ素、アルミニウム、ゲルマニウム、およびこれらの合金を含めた、リチウムと合金を作る元素から作ることができる。部分的にのみリチウム合金化物質で満たされる炭素構造物の一部は空のままであり、電解液が出ていくことを可能にする。この空きスペースはまた、リチウムと合金を作る際のリチウム合金化物質、例えばスズの体積膨張の余地を提供する。膨張用の固有体積または自由空間を有する複合体を作り出すことにより、通常の電池動作中の複合体、したがって電極の損傷を防ぐ。
【0005】
場合によっては、このナノ孔隙は、平均直径が1ナノメートルから999ナノメートルの間にあるナノ細孔およびナノ流路を有する。このリチウム合金化物質は、導電性炭素構造物および電気的に活性なリチウム合金化物質との間で密接に接触している材料を与える液体輸送または他の機構を用いてナノ孔隙中に吸着される。さらにこのリチウム合金化物質は、リチウム合金化物質単体として存在することもでき、かつ/またはリチウムとの合金になったリチウム合金化物質として存在することもできる。この吸着された物質は、ナノ流路またはナノ細孔内では粒子および/または被膜の形態であり、粒子として存在する場合、その粒子の位置するナノ流路またはナノ細孔の最も狭い部分よりも大きい外のり寸法を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の構造物を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、電気化学的装置に使用されるリチウム合金化物質/炭素(LAM/C)複合体を開示する。それ自体ではLAM/C複合体は、電池における電気活性物質としての有用性を有する。
【0008】
LAM/C複合体は、炭素を含有する本体と、リチウム合金化物質とを含む。炭素は、ナノ孔隙を有する高表面積かつ多孔質の基材の形態である。リチウム合金化物質は、ナノ孔隙が部分的にのみリチウム合金化物質で満たされるように多孔質基材のナノ孔隙中に吸着され、分離した粒子、被膜、およびそれらの組合せとして存在することができる。リチウム合金化物質による孔隙の単に部分的な充填は、電解液がナノ孔隙を通ってリチウム合金化物質に達するための拡散または移動を可能にする。これとは対照的にナノ孔隙がリチウム合金化物質で満たされた場合、ナノ孔隙内でのリチウム合金化物質への電解液の移動は可能でないはずである。
【0009】
本発明の目的では、ナノ孔隙は平均直径が999ナノメートル以下の細孔、通路、流路などを有する基材内の孔隙として定義され、吸着されるという用語は、吸収されるおよび保持されるとして定義され、リチウム合金化物質という用語は、合金、金属間化合物などを形成するようにリチウムと合金を作る1種または複数種の元素として定義される。
【0010】
スズ、ケイ素などのリチウム合金化物質は、電解液に溶解しにくい傾向があり、したがって少なくともこの態様においてこのような物質を使用することは、電極材料としてイオウを使用することとは異なる。さらにこの複合体内の自由空間は、複合体が、(1)リチウム合金化物質を電解液と接触させ、こうしてリチウムと合金を作らせ、(2)リチウム含量の増加につれて、得られるリチウム合金化物質とリチウム合金を加えたものの体積膨張に適応することを可能にする。
【0011】
次に図1に移ると、LAM/C複合体の可能性のある構造物を表す例示的な概略図を、参照数字10で全体として示す。複合体10は炭素基材100を有し、この炭素基材100は流路110および細孔120を有する。流路110および細孔120は、炭素基材100内の孔隙を画定する。図1の図面が二次元であること、および流路110が紙の平面の中へまた外へ延びているはずであることを理解されたい。場合によっては、流路110はナノ流路であり、細孔120はナノ細孔であり、ナノ細孔およびナノ流路は、それぞれ999ナノメートル以下の平均直径を有する細孔および流路として定義される。平均直径は、細孔の3回の直交径測定の平均値、および流路の2回の直交径測定の平均値として定義される。
【0012】
ナノ流路およびナノ細孔は、1ナノメートルから999ナノメートルの間の平均直径を有することができる。場合によっては、ナノ流路およびナノ細孔は、1ナノメートルから50ナノメートルの間の平均直径を有することができる。さらに他の場合には、ナノ流路およびナノ細孔は、1ナノメートルから30ナノメートルの間の平均直径を有することができる。さらに他の場合には、ナノ流路およびナノ細孔は、1ナノメートルから20ナノメートルの間の平均直径を有することができる。図1に示す概略図は、例示的目的に過ぎないこと、これらに限定されないがエアロゲル、キセロゲル、吸収剤、モレキュラーシーブ、触媒担体などの任意の高表面積炭素構造物が本明細書中で開示されるLAM/C複合体の範囲内にあることを理解されたい。
【0013】
場合によっては、炭素基材100内の少なくとも部分的なリチウム合金化物質200は、実例としてはリチウム合金化物質の溶融物からの液体注入、溶液注入、化学蒸着(CVD)法、および物理蒸着(PVD)法を含めた当業者に知られている任意の液相および/または気相成長法を用いて炭素基材の空きスペース中へ吸い込むことができる。他の場合には、その中にリチウム合金化物質200が少なくとも部分的に存在する炭素基材100を単一工程において生成する。図1では不連続の粒子として例示されているがそれは必要でない。
【0014】
リチウム合金化物質200はまた、予めリチオ化したリチウム合金化物質として炭素基材100内に存在することもできる。例えば、単に例示の目的ではリチウム合金化物質200は、スズ、ケイ素、アルミニウム、ゲルマニウム、および/またはそれらの合金、例えばリチウム合金、銅−スズ合金などとして存在することができる。
【0015】
リチウム合金化物質200は、流路110および/または細孔120内の被膜として存在することができ、かつ/あるいはリチウム合金化物質200は、流路110および/または細孔120を部分的に満たすことができる。場合によっては、リチウム合金化物質200は、5%から100%未満の間で流路110および/または細孔120を部分的に満たすことができる。他の場合には、リチウム合金化物質200は、50%から100%未満の間で、一方さらに他の場合には、75%から100%未満の間で流路110および/または細孔120を部分的に満たすことができる。自由体積としても知られている、リチウム合金化物質200で満たされていない流路110および/または細孔120の残りの体積は、空であることができ、リチウム合金化物質がリチウムと合金を作るにつれてリチウム合金化物質の膨張とともに満たされることになり、それによってこれらの空隙から電解液を外に押しやり、または押し出す。換言すれば、リチウム合金化物質200が炭素基材100のナノ孔隙を部分的に満たした後、流路110および細孔120内に利用できる自由体積が存在する。LAM/C複合体10の一部として存在するリチウム合金化物質200の量は、そのリチウム合金化物質200の液相および/または気相成長の度合または範囲によって変わる可能性があることもまた理解されたい。
【0016】
理論にとらわれないが、完全には満たされていない炭素基材100の空きスペース中へのリチウム合金化物質200の取込みは、リチウム合金化物質がリチウムと合金を作るにつれてそのリチウム合金化物質の体積膨張を本質的に相殺する改良型複合体をもたらす。
【0017】
当業者には明らかなように、リチウム合金化物質と炭素の混合は、これらに限定されないがボールミル粉砕、磨砕、融解、蒸発、および/または減圧処理を含めた様々な方法を用いて達成することができる。電極に30重量%までの炭素を加えてもなお電池に役立つエネルギーを与えることができるように炭素の密度は比較的低い。
【0018】
本発明を詳細にまた特定の例を参照して述べてきたが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく様々な変更および修正を行うことができることを理解されたい。
【符号の説明】
【0019】
10 複合体
100 炭素基材
110 流路
120 細孔
200 リチウム合金化物質
図1