(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記細胞による前記抗CTLA-4抗体の発現が前記腫瘍に近位のT細胞におけるCTLA-4シグナル伝達を抑制する、腫瘍を有する患者の治療に使用するための、請求項10〜12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明の詳細な説明
本発明のウイルスベクターおよび形質転換ヒト細胞は、CTLA-4媒介性の負のシグナル伝達を抑制する抗CTLA-4抗体を発現する。好ましい一態様では、抗CTLA-4抗体を発現するウイルスベクターまたはヒト細胞は、腫瘍に近位で抗体を発現し得る。
【0035】
用いられ得るヒト細胞としては、腫瘍細胞、抗原提示細胞(例えば樹状細胞)、B細胞およびT細胞が挙げられる。本発明に開示された細胞は、腫瘍に近位の細胞による抗CTLA-4抗体の限局性発現を提供する。細胞はin vivoで修飾され得るし、あるいは代替的には、ex-vivoで修飾された細胞は、種々の方法により、例えば注射により、患者に投与され得る。腫瘍に近位で形質転換細胞を作製し、および/または導入することにより、CTLA-4遮断は腫瘍に限局され得る。
【0036】
一実施形態では、細胞は腫瘍細胞である。ex-vivo形質転換のために、このような腫瘍細胞は、投与後に抗CTLA-4抗体の一過性発現を保持しながら、当業界で既知であるように、複製する細胞の能力を排除するために放射線照射され得る。in vivo形質転換のためには、非組込み発現ベクターが選択され得る。
【0037】
ある種の好ましい実施形態では、腫瘍細胞は自己由来または内因性である。前者の場合、腫瘍細胞は、抗CTLA-4抗体をコードする構築物でトランスフェクトされるかまたは形質導入された患者から採取され、そして例えば放射線照射後に患者に再導入される。後者の場合、腫瘍細胞は、本明細書中に記載されるように適切な構築物の局所投与によりin vivoで形質転換される。
【0038】
代替的一実施形態では、修飾腫瘍細胞は同種異系である。したがって同種異系腫瘍細胞は、細胞株中で保持され得る。この場合、腫瘍細胞は細胞株から選択され、放射線照射され、そして患者に導入され得る。
【0039】
別の代替的実施形態では、修飾ヒト細胞は抗原提示細胞、例えば樹状細胞または単球である。
【0040】
作用の特定の理論または方式と結び付けずに考えると、樹状細胞は、T細胞が所定の抗原を保有する腫瘍細胞を攻撃するようプライムされるようになる中核として役立ち得る。樹状細胞は、CTLA-4を早期に発現する(例えばAPCの近くであるが、通常はリンパ節内)潜在的応答性T細胞のスイッチを切る表面B7分子を積載される。好ましくは抗CTLA-4 Abを発現するAPCは、APCによりプライムされる抗腫瘍T細胞応答の強度および持続期間を増大し得る。
【0041】
別の代替的実施形態では、修飾ヒト細胞はT細胞である。一実施形態では、特定の腫瘍抗原に特異的なT細胞は、形質転換され、ex-vivoで増幅され、そして患者に再注入され得る。さらにまた、作用の特定の理論または方式と結びつけずに考えると、抗CTLA-4 Abを発現することにより、T細胞はそれ自体を、そして他の内因性および/または養子免疫細胞移入腫瘍特異的T細胞を、腫瘍環境において同時刺激または抑制性APCの欠如によりサイレントにされることから保護し得る。
【0042】
抗CTLA-4抗体を産生し得る修飾ヒト細胞は、抗CTLA-4抗体をコードする発現ベクターで細胞をトランスフェクトするかまたは形質導入することにより作製され得る。抗CTLA-4発現ベクターは、当該技術分野で周知の方法により作製され得る。
【0043】
ある種の好ましい実施形態では、抗CTLA-4抗体はscFv分子である。scFv分子は、例えばSmith et al. Gene Ther. 2003 Aug; 10(15): 1248-57により記載されたように産生され得る。同様に、scFv抗体は、Wang et al., J Immunol Methods, 2000 233(1-2): 167-77(この記載内容は参照により本明細書中で援用される)により記載されたように産生され得る。
【0044】
種々の実施形態では、抗CTLA-4抗体は、核酸構築物の形態で患者に投与され得る。
【0045】
一実施形態では、構築物はレトロウイルスベクターを含む。レトロウイルスベクターは、抗CTLA-4抗体をコードするDNAを細胞ゲノム中に恒久的に組込み得る。したがって自己由来または同種異系細胞のex-vivo操作の場合、抗CTLA-4抗体を構成的に産生する安定細胞株が調製され得る。好ましい一実施形態では、細胞は、患者への投与の前に放射線照射される。照射細胞は、限定期間の間、抗CTLA-4抗体を産生する。
【0046】
一実施形態では、抗CTLA-4抗体構築物はSFVベクターを含み、これは、哺乳類細胞中での高レベルの一過性発現を実証する。SFVベクターは、例えばLundstrom, Expert Opin. Biol. Ther. 3: 771-777 (2003)(この記載内容は参照により本明細書中で援用される)に記載されている。したがって、患者における内因性細胞のin vivo操作の場合、高レベルの抗CTLA-4抗体の一過性発現が成し遂げられ得る。これは、in vivoでのCTLA-4シグナル伝達経路の構成的発現、ならびに恒久的遮断を防止するためである。
【0047】
抗体をin vivoで発現し得る系は、当該技術分野で既知である。例として、当該系は、Fang et al., Nature Biotech. 23(5) 2005および米国特許公告第2005/0003506号(これらの記載内容は参照により本明細書中で援用される)に開示された2A媒介性抗体発現系を用い得るが、これに限定されない。当該技術分野で既知のその他の系が意図され、そしてさらにまた、本明細書中に記載されるようにin vivoで抗CTLA-4抗体を産生するために適合され得る。
【0048】
本明細書中に開示される抗CTLA-4産生細胞の投与は、抗原提示細胞、例えば顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、インターロイキン3(IL‐3)、インターロイキン12(IL‐12)等を刺激するサイトカイン、あるいはこのようなサイトカインを発現し得る細胞性ワクチンの投与と組合わされ得る。好ましい実施形態では、抗CTLA-4産生細胞は、このようなサイトカインを発現するようさらに修飾される。T細胞増殖および分泌を増強することが既知の付加的タンパク質および/またはサイトカイン、例えばIL‐1、IL‐2、B7、抗CD3および抗CD28は、免疫応答を増大するために遮断薬と同時にまたは逐次的に用いられ得る。本発明の療法はさらにまた、分子のいずれかと組合せされ得るし、あるいは米国特許第6,051,227号(この記載内容は参照により本明細書中で援用される)に記載されたように実行され得る。
抗CTLA-4ベクターおよび形質転換方法
【0049】
本発明の抗CTLA-4発現ベクターは、ウイルスまたは非ウイルスであり得る。in vivoで用いるためには、ウイルスベクターが好ましい。本発明の抗CTLA-4発現ベクターは、哺乳類細胞中で機能的である発現制御領域またはその相補体と操作可能的に連結される抗CTLA-4抗体コード核酸、またはその相補体を含む。発現制御領域は、抗CTLA-4発現ベクターで形質転換されたヒト細胞中で抗CTLA-4抗体が産生されるよう、操作可能的連結抗CTLA-4抗体コード核酸の発現を駆動し得る。
【0050】
発現制御領域は、操作可能的連結核酸の発現に影響を及ぼす調節ポリヌクレオチド(時として、本明細書中では素子と呼ばれる)、例えばプロモーターおよびエンハンサーである。
【0051】
本発明の抗CTLA-4発現ベクターの発現制御領域は、ヒト細胞中で操作可能的連結抗CTLA-4抗体コード核酸を発現し得る。一実施形態では、細胞は腫瘍細胞である。一実施形態では、細胞は非腫瘍細胞である。
【0052】
一実施形態では、発現制御領域は、操作可能的連結核酸に調節可能発現を付与する。シグナル(時として、刺激と呼ばれる)は、このような発現制御領域と操作可能的に連結される核酸の発現を増大するかまたは低減し得る。シグナルに応答して発現を増大するこのような発現制御領域は、しばしば、誘導性と言及される。シグナルに応答して発現を低減するこのような発現制御領域は、しばしば、抑制性と言及される。典型的には、このような素子により付与される増大または低減の量は、存在するシグナルの量と比例する:シグナルの量が大きいほど、発現の増大または低減は大きい。
【0053】
本発明で用いるために特に好ましいのは、合図に応答して一時的に高レベルの発現を達成し得る誘導性プロモーターである。腫瘍細胞の近位である場合、このような発現制御配列を含む抗CTLA-4発現ベクターで形質転換された細胞は、形質転換細胞を適切な合図に曝露することにより高レベルの抗CTLA-4抗体を一時的に産生するよう誘導される。
【0054】
好ましい誘導性発現制御領域としては、小分子化学化合物のような合図で刺激される誘導性プロモーターを含むものが挙げられる。特定の例は、例えば米国特許第5,989,910号、第5,935,934号、第6,015,709号および第6,004,941号(これらの記載内容は各々、参照により本明細書中で援用される)に見出され得る。
【0055】
発現制御領域としては、全長プロモーター配列、例えばネイティブプロモーターおよびエンハンサー素子、ならびに全長または非変異体機能の全部または一部を保有するサブ配列またはポリヌクレオチド変異体が挙げられる。本明細書中で用いる場合、「機能的」という用語およびその文法的変形は、核酸配列、サブ配列または断片に言及するのに用いられる場合、配列がネイティブ核酸配列(例えば非変異体または非修飾配列)の1つまたは複数の機能を有することを意味する。
【0056】
本明細書中で用いる場合、「操作可能的連結」とは、それらの意図されたやり方でそれらを機能させるよう記載された構成成分の物理的並置を指す。核酸との操作可能的連結における発現制御素子の例において、その環系は、制御素子が核酸の発現を調整するといったものである。典型的には、転写を調整する発現制御領域は、転写拡散の5’末端(即ち「上流」)近くに並置される。発現制御領域は、転写配列の3’末端(即ち「下流」)または転写体内(例えばイントロンに)にも置かれ得る。発現制御素子は、転写された配列から離れて(例えばその核酸から100〜500、500〜1000、2000〜5000ヌクレオチドまたはそれ以上)置かれ得る。発現制御素子の特定の例はプロモーターであり、これは、通常は転写配列の5’に配置される。発現制御素子の別の例はエンハンサーであり、これは転写配列の5’または3’に、あるいは転写配列内に配置され得る。
【0057】
ヒト細胞中で機能的な発現系は、当該技術分野で周知であり、例としてはウイルス系が挙げられる。一般的には、ヒト細胞中で機能的なプロモーターは、哺乳類RNAポリメラーゼを結合し得る、そしてmRNAへの抗CTLA-4コード配列の下流(3’)転写を開始し得る任意のDNA配列である。プロモーターは、転写開始領域を有し、これは通常は、転写開始部位の配置25〜30塩基対上流を用いて、コード配列の5’末端の近位に、典型的にはTATAボックスに配置される。TATAボックスは、RNAポリメラーゼIIに向けられて、正しい部位でRNA合成を開始すると考えられる。プロモーターは、典型的にはTATAボックスの100〜200塩基対上流内に配置される上流プロモーター素子(エンハンサー素子)も典型的には含有する。上流プロモーター素子は、転写が開始され、そしていずれかの配向で作用し得る比率を確定する。プロモーターとして特に用いられるのは哺乳類ウイルス遺伝子からのプロモーターであり、これは、ウイルス遺伝子がしばしば高度に発現され、そして広範な宿主範囲を有するためである。例としては、SV40初期プロモーター、マウス乳癌ウイルスLTRプロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター、単純ヘルペスウイルスプロモーターおよびCMVプロモーターが挙げられる。
【0058】
典型的には、哺乳類細胞により認識される転写終結およびポリアデニル化配列は、翻訳停止コドンに対して3’に、したがってプロモーター素子と一緒に配置される調節領域であり、コード配列の側面に位置する。成熟mRNAの3’末端は、部位特異的翻訳後切断およびポリアデニル化により形成される。転写ターミネーターおよびポリアデニル化シグナルの例としては、SV40由来のものが挙げられる。イントロンも、発現構築物に含まれ得る。
【0059】
多様な細胞中に核酸を導入するために利用可能な種々の技法が存在する。In vitroで哺乳類細胞中に核酸を移入するのに適した技法としては、リポソーム、電気穿孔、マイクロインジェクション、細胞融合、ポリマーベースの系、DEAE-デキストラン、ウイルス形質導入、リン酸カルシウム沈降法等の使用が挙げられる。in vivo遺伝子移入のために、多数の技法および試薬、例えばリポソームも用いられ得る;天然ポリマーベースの送達ビヒクル、例えばキトサンおよびゼラチン;ウイルスベクターも、in vivo形質導入のために選択される(例えばDzau et a., Trends in Biotechnology 11, 205-210 [1993])。いくつかの情況では、ターゲッティング剤、例えば腫瘍細胞表面膜タンパク質に特異的な抗体またはリガンドを提供することが望ましい。リポソームが用いられる場合、エンドサイトーシスと関連した細胞表面膜タンパク質と結合するタンパク質は、ターゲッティングのために、および/または例えば特定の細胞型に向性であるキャプシドタンパク質またはその断片、循環中にインターナライズ化を受けるタンパク質に関する抗体、細胞内局在化を標的にし、細胞内半減期を増強するタンパク質の取り込みを促進するために用いられ得る。受容体媒介性エンドサイトーシスの技法は、例えばWu et al., J. Biol. Chem. 262, 4429-4432 (1987);およびWagner et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87, 3410-3414 (1990)に記載されている。遺伝子療法プロトコールの再検討のためには、Anderson et al., Science 256, 808-813 (1992)を参照されたい。
【0060】
適切な場合、遺伝子送達作因、例えば組込み配列も用いられ得る。多数の組込み配列が当該技術分野で既知である(例えばNunes-Duby et al., Nucleic Acids Res. 26: 391-406, 1998;Sadwoski, J. Bacteriol., 165: 341-357, 1986;Bestor, Cell, 122(3): 322-325, 2005;Plasterk et al., TIG 15: 326-332, 1999;Kootstra et al., Ann. Rev. Pham. Toxicol., 43: 413-439, 2003参照)。これらは、リコンビナーゼおよびトランスポザーゼを包含する。例としては、Cre(Sternberg and Hamilton, J. Mol. Biol., 150: 467-486, 1981)、ラムダ(Nash, Nature, 246, 543-545, 1974)、Flp(Broach, et al, Cell, 29: 227-234, 1982)、R(Matsuzaki, et al, J. Bacteriology, 172: 610-618, 1990)、φC31(例えばGroth et al., J. Mol. Biol. 335: 667-678, 2004参照)、marinerファミリーのトランスポザーゼであるスリーピング・ビューティー(Plasterk et al.、上記)、ならびにレトロウイルスまたはレンチウイルスのLTR配列およびAAVのITR配列のようなウイルス組込みを提供する構成成分を有するAAV、レトロウイルスおよびレンチウイルスのようなウイルスを組込むための構成成分(Kootstra et al., Ann. Rev. Pharm. Toxicol., 43: 413-439, 2003)が挙げられる。
【0061】
抗CTLA-4ウイルスベクター
一態様では、本発明は、抗CTLA-4 Abウイルスベクターである抗CTLA-4発現ベクターを提供する。遺伝子療法のために有用な多数のウイルスベクターが既知である(例えばLundstrom, Trends Biotechnol., 21: 117, 122, 2003参照)。
【0062】
好ましいウイルスベクターとしては、レンチウイルス(LV)、レトロウイルス(RV)、アデノウイルス(AV)、アデノ随伴ウイルス(AAV)およびアルファウイルスから成る群から選択されるものが挙げられるが、しかし他のウイルスベクターも用いられ得る。in vivo使用のためには、宿主ゲノム中に組込まれないウイルスベクター、例えばアルファウイルスおよびアデノウイルスが好ましく、アルファウイルスが特に好ましい。好ましい型のアルファウイルスとしては、シンドビスウイルス、ベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルスおよびセムリキフォレストウイルス(SFV)が挙げられ、SFVが特に好ましい(例えばLundstrom, Expert Opin. Biol. Ther. 3: 771-777, 2003;Afanasieva et al. Gene Ther., 10: 1850-59, 2003参照)。in vitro使用のためには、宿主ゲノム中に組込まれるウイルスベクター、例えばレトロウイルス、AAVおよびレンチウイルスが好ましい。
【0063】
好ましい一実施形態では、ウイルスベクターは、形質導入ヒト細胞中での一過性の高レベルの発現を提供する。
【0064】
一実施形態では、ウイルスベクターは、形質導入ヒト細胞のゲノム中へのCTLA-4 Abコード核酸の組込みを提供しない。
【0065】
別の実施形態では、ウイルスベクターは、形質導入ヒト細胞のゲノム中へのCTLA-4 Abコード核酸の組込みを提供する。
【0066】
一実施形態では、本発明は、in vivoでのヒト細胞の形質導入方法であって、in vivoで固形腫瘍を本発明の抗CTLA-4 Abウイルスベクターと接触させることを包含する方法を提供する。
【0067】
別の実施形態では、本発明は、ex-vivoでのヒト細胞の形質導入方法であって、ex-vivoで人細胞を本発明の抗CTLA-4 Abウイルスベクターと接触させることを包含する方法を提供する。一実施形態では、ヒト細胞は腫瘍細胞である。一実施形態では、ヒト細胞は同種異系である。一実施形態では、腫瘍細胞は患者に由来する。一実施形態では、ヒト細胞は非腫瘍細胞、例えば抗原提示細胞(APC)またはT細胞である。
【0068】
ウイルス粒子コートは、当該技術分野で周知であるように、特異性を変更し、そして細胞/組織ターゲッティングを改善するよう修飾され得る。ウイルスベクターは、その他のビヒクル、例えばリポソーム中でも送達され得る。リポソームは、それらの表面に結合されて細胞/組織ターゲッティングを改善するターゲッティング分子も有し得る。
【0069】
本発明の出願は、CTLA-4の細胞外ドメインと特異的に結合し、そしてCTLA-4媒介性の負のシグナル伝達を抑制する抗CTLA-4抗体を発現するヒト細胞に向けられる。ある種の実施形態では、ヒト細胞は、例えば癌患者において腫瘍に近位に抗CTLA-4抗体を発現する。したがってヒト細胞は、腫瘍細胞または腫瘍細胞塊での抗体の限局性発現を可能にする。抗CTLA-4抗体は、上記腫瘍細胞に近位の細胞におけるCTLA-4シグナル伝達を抑制し、および/または腫瘍関連自己抗原に対する免疫寛容を中断し、そして上記腫瘍細胞に対する自己反応性T細胞応答を刺激し得る。好ましい一実施形態では、抗CTLA-4抗体の限局性発現は、望ましくない有害免疫応答を低減するかまたは抑制する。
【0070】
作用のメカニズムが理解されるということは、本発明の実行のために欠かせないというわけではない。本明細書中に記載される細胞および方法は、腫瘍細胞または腫瘍細胞塊に近位でヒト細胞を提供する。腫瘍細胞に近位での抗CTLA-4抗体および任意の付加的サイトカインの発現は、CTLA-4により媒介される抑制シグナルから応答性T細胞を放出する。
【0071】
CTLA-4抗体
抗CTLA-4抗体は、CTLA-4タンパク質の細胞外ドメインと特異的に結合し、そしてそのカウンター受容体CD80およびCD86とのCTLA-4の結合を遮断する分子である。好ましい実施形態では、抗体の結合親和性は、少なくとも約100 uMである。抗体は、CTLA-4と関連する分子、例えばCD28ならびに免疫グロブリン・スーパーファミリーの他の成員と実質的に非反応性である。CTLA-4シグナル伝達を活性化しない抗体を遮断することが好ましい。これは、一価または二価結合分子の使用により達成されるのが便利である。適切な抗CTLA-4抗体は、米国特許第5,855,887号、第5,811,097号、第6,051,227号、第6,984,720号、第6,682,736号、第6,979,442号、第7,109,003号および第7,132,281号(これらの記載内容は各々、参照により本明細書中で援用される)に開示されたものも包含し得る。
【0072】
本明細書中で用いる場合、「抗体」という用語は、1つまたは複数のポリペプチド鎖を含む単量体または多量体タンパク質を指す。抗体は、抗原(例えばCTLA-4の細胞外部分)と特異的に結合し、そして抗原の生物学的活性を抑制するかまたは調整し得る。本明細書中で用いる場合、「抗体」という用語は、抗体断片も包含する。特定抗体断片としては、(i)VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなるFab断片、(ii)VHおよびCH1ドメインから成るFd断片、(iii)単一抗体のVLおよびVHドメインからなるFv断片、(iv)単一可変部から成るdAb断片(Ward et al., 1989, Nature 341: 544-546)、(v)単離CDR領域、(vi)F(ab’)2断片、2つの連結Fab断片を含む二価断片(vii)1本鎖Fv分子(scFv)、この場合、VHドメインおよびVLドメインは2つのドメインを会合させて抗原結合部位を形成するペプチドリンカーにより連結される(Bird et al., 1988, Science 242: 423-426;Huston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85: 5879-5883)、(viii)二特異性1本鎖Fv二量体(PCT/US92/09965)、ならびに(ix)遺伝子融合により構築される「ディアボディ」または「トリアボディ」、多価または多特異性断片(Tomlinson et al., 2000, Methods Enzymol. 326: 461-479;WO94/13804;Holliger et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90: 6444-6448)が挙げられるがこれらに限定されない。ある種の実施形態では、抗体は組換えDNA技術により産生される。付加的実施形態では、抗体は、天然抗体の酵素的または化学的切断により産生される。
【0073】
ある種の実施形態では、抗CTLA-4抗体は、任意のアイソタイプ、例えばIgG(例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4)を有するよう意図され得る。いくつかの実施形態では、本発明の抗CTLA-4抗体のヒンジ領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4から成る群から選択される免疫グロブリンのものである。
【0074】
好ましい実施形態では、抗CTLA-4抗体は、エフェクター機能を低減するかまたは排除するよう意図されるかまたは工学処理される。抗体は、以下の4つの主要エフェクター機能を引き出す:ADCC、貪食作用、補体依存性細胞傷害活性(CDC)、および半減期/クリアランス速度。ADCCおよび貪食作用は、細胞結合モノクローナル抗体とFcガンマ受容体(FcγR)との相互作用により媒介され、CDCは細胞結合mAbと補体系(例えばC1q)を構成する可溶性血液タンパク質シリーズとの相互作用により、半減期に関しては、遊離モノクローナル抗体を新生児Fc受容体(FcRn)と結合することにより媒介される(Presta, Current Pharmaceutical Biotechnology (2002), 237-256)。モノクローナル抗体(例えばIgG)のFc領域の適正なグリコシル化は、野生型エフェクター機能を付与するのに重要であると考えられる(例えばJefferis & Lund, Immunol. Lett. (2002), 82(1-2): 57-65;Lisowska, Cell. Mol. Life Sci. (2002), 59(3): 445-455;Radaev & Sun, Mol. Immunol. (2002), 38(14): 1073-1083;Mimura et al., Adv. Exp. Med. Biol. (2001), 495: 49-53;Rudd et al., Science (2001), 291(5512): 2370-2376;Jefferis et al., Immunol. Rev. (1998), 163: 59-76;Wright & Morrison, Trends Biotechnol. (1997), 15(1): 26-32;Jeffris & Lund, Chem. Immunol. (1997), 65: 111-128参照)。
【0075】
一態様では、特定のエフェクター機能(例えば抗体依存性細胞媒介性細胞傷害活性(ADCC)および/または貪食作用を調節するFcγR結合)は、エフェクター機能と相関する特定アミノ酸を修飾することにより、除去されるかまたは低減され得る。例示的修飾は例えばHsu et al., Transplantation (1999), 27: 68(4): 545-554;Carpenter et al., J. Immunol. (2000), 165: 6205-6213;Xu et al., Cell. Immunol. (2000), 200: 16-26;Van der Lubbe et al., Arthritis Rheum. (1993), 36(10): 1375-1379;Kon et al., Lancet (1998), 352: 1109-1113;Reddy et al., J. Immunol. (2000), 164: 1925-1933;Duncan et al., Nature (1988), 332: 563-564;Klein et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1981), 78(1): 524-528;Gillies & Wesolowski, Hum. Antibod. Hybridomas (1990), 1(1): 47-54;およびArmour et al., Eur. J. Immunol. (1999), 29: 2613-2624(これらの記載内容は各々、参照により本明細書中で援用される)に開示されている。もちろん、抗体修飾は、それらが修飾抗体の薬理学的特質を有意に危うくしないことを保証するようなやり方で意図され得る。例えば実質的野生型in vivo半減期またはクリアランスの保持は、多数の臨床設定において重要である。好ましい一実施態様では、抗CTLA-4抗体は、1つまたは複数のエフェクター機能を低減するかまたは排除するよう選択されるかまたは修飾される。
【0076】
別の態様では、抗体断片は特に、無傷IgGを上回る多数の利益を示し得る。例えば抗体断片は、無傷IgGより短い半減期を有するが、これは、それらがそれらのより低い分子量の結果として腎臓による循環からより迅速に除去され、したがって潜在的毒性を低減するためである(Behr et al., 1995)。サイズ低減の別の利点は、それらが腫瘍組織および関連血管系をより迅速に通り抜け得る、という点である(Yokota et al., 1992)。このやり方で、腫瘍塊のより多くの細胞が標的化される。
【0077】
さらなる一態様では、Fc領域を欠く抗CTLA-4抗体は、Fc領域またはその一部を有する抗体を上回る利点を提供する。このような断片は、補体を結合し、そして補体カスケードを誘導する能力が存在しない場合、免疫応答の活性化を誘導しない。その他の実施形態では、一価抗CTLA-4抗体断片(例えばF(ab’)断片)より高い結合活性を有するCTLA-4を結合する二価抗CTLA-4抗体断片(例えばF(ab’)
2断片)が好ましい。
【0078】
好ましい実施形態では、抗CTLA-4抗体は、Fc受容体に対する親和性低減を実証する。Fc受容体に対する親和性低減は、種々の方法で、例えば上記のような特異的Fc受容体結合領域を欠く抗体断片を選択することにより、あるいはFc受容体結合を低減する1つまたは複数の一で抗体のFc部分を突然変異させることにより、工学処理され得る(例えば米国特許第号公開第2005/0152894号、第2004/0132101号および第2005/0054832号参照)(これらの開示内容は各々、参照により本明細書中で援用される)。抗体は、補体カスケードを回避するよう、そしてT細胞に対する免疫反応性を低減するよう意図され得る。
【0079】
一実施形態では、抗CTLA-4抗体は、分子間ジスルフィド結合(例えば2つの重鎖間のジスルフィド結合)を低減するかまたは排除するよう意図される。いくつかの実施形態では、上記重鎖間ジスルフィド結合は、Fc領域間である。別の実施形態では、本発明の抗体は、分子間ジスルフィド結合が不可能であるかまたはその結合に関与する変異体重鎖ヒンジ領域を含む。一実施形態では、上記変異体ヒンジ領域は、分子間(例えば重鎖間)ジスルフィド結合を形成し得る野生型ヒンジ領域中に普通に存在する少なくとも1つのシステイン、少なくとも2つの、少なくとも3つの、少なくとも4つのまたは全数までの任意の整数のシステインを欠く。概して、本発明の抗体は、それらの野生型等価物と実質的に同様の治療効果に関する生物学的(例えば抗原結合能力(これに限定されない))および/または物理化学的特質を保有するが、但し、本発明の抗体は、野生型等価物抗体の少なくとも1つ(しかしすべてではない)のエフェクター機能を除く。このような実施形態は、米国特許第2005/0152894号(この記載内容は参照により本明細書中で援用される)にさらに詳細に記載されている。
【0080】
いくつかの実施形態では、本発明は、免疫グロブリン重鎖の変異体ヒンジ領域を含む抗体を提供するが、この場合、上記変異体ヒンジ領域は、ジスルフィド結合を形成し得るシステイン残基を欠く(即ち含まないか含有しないかまたはそれがない)。いくつかの実施形態では、上記ジスルフィド結合は、分子間(好ましくは重鎖間)である。2またはそれより多くのシステインがジスルフィド結合できなくされる抗体のいくつかの実施形態では、すべての上記システインは普通は分子間(好ましくは重鎖間)ジスルフィド結合が可能である。2またはそれより多くのシステインがジスルフィド結合できなくされる抗体のいくつかの実施形態では、上記システインのうちの少なくとも1つは普通は分子間(好ましくは重鎖間)ジスルフィド結合が可能である。いくつかの実施形態では、上記分子間ジスルフィド結合は、2つの免疫グロブリン重鎖のシステイン間である。
【0081】
好ましい一実施形態では、抗体は、scFv分子である。scFv分子は、例えば、本明細書中に開示される配列を有し得る。scFv分子は、当該技術分野で既知の任意の方法により産生され得る。抗CTLA-4scFv分子は、例えばChen et al., Protein Expr. Purif. 2005(電子出版)により記載されている。好ましい一実施形態では、scFv抗体断片は、Gilliland et al., Tissue Antigens 1996, 47: 1-20(この記載内容は参照により本明細書中で援用される)に記載されたように産生される。本明細書中に開示される抗CTLA-4抗体は、分泌される。
【0082】
種々の実施形態では、抗CTLA-4抗体に付属される異なるC末端尾は、CTLA-4との結合の異なる結果を促す。抗体(例えば全長抗体または抗体断片)はIgG尾(例えばIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)を含み得る、ということを出願人等は注目する。一実施形態では、抗CTLA-4抗体は、IgGの二量体化を防止し、そしてFc受容体結合を低減するよう意図され得る。例えば抗CTLA-4抗体は、ヒンジシステイン残基がセリン残基に変更されて、二量体化を防止し、Fc受容体結合を提言するIgG1定常部を含み得る。この抗体変異体はCTLA-4を結合し、そしてB7とのその相互作用を遮断し得る(定常部は結合を安定化するのを手助けし、そして遮断のための付加的バルクを提供する)。低Fc-受容体結合は、APCの表面に結合されているscFvの機会を低減するが、この場合、それはT細胞の表面でCTLA-4を交差結合し、そして負のシグナルを送る。別の例示的実施形態では、scFvは、尾としてセリンまたは単一タグに突然変異されるヒンジシステインを有するIgG1尾を含むよう修飾され得る。Ig尾突然変異は二量体化を防止し、それによりFc受容体結合およびADCC型作用に関する任意の能力を低減し得る。
【0083】
さらなる他の実施形態では、抗CTLA-4抗体の尾は、主に免疫抑制作用を発揮し得る。特定のメカニズムまたは作用に限定されることなく、このような作用は、細胞表面につなぎ止められる抗体を固定し、保持する膜貫通領域で末端につながれる抗CTLA-4抗体を模倣し得る。このようなCTLA-4抗体は、T細胞の表面にCTLA-4分子を交差結合し、そして寛容化シグナルを送る能力を獲得し得る。
【0084】
細胞および組成物の投与方法
本明細書中に開示されるヒト細胞およびウイルスベクターは、製薬上許容可能な担体と組合せて、製剤組成物を形成し得る。本明細書中で用いる場合、「製薬上許容可能な担体」は、任意のそしてすべての溶媒、分散媒質、コーティング、抗細菌剤および抗真菌剤、等張性および吸収遅延剤等を包含する。薬学的活性物質のためのこのような媒質および作用物質の使用は、当該技術分野で周知である。任意の慣用的媒質または作用物質が活性細胞または組成物と不適合性である限りを除いて、治療用組成物中のその使用が意図される。補足化合物も、組成物中に組入れられ得る。その他の製薬上許容可能なビヒクルとしては、慣用的薬学的溶出物または添加剤が挙げられる。
【0085】
貯蔵および使用の普通の条件下では、これらの調製物は、相でなければ患者にとって有害である微生物の増殖を防止するために防腐剤を含有し得る。
【0086】
全身投与
一実施形態では、ヒト細胞、ウイルスベクターまたはその組成物は、全身的に提供され得る(即ちベクターまたは細胞は循環により患者に提供され得る)。細胞またはウイルスベクターが全身的に提供されると、抗CTLA-4抗体は全組織に提供される。全身投与される細胞またはウイルスベクターは患者中の特定位置に拘束されず、むしろ患者の全身で抗体および任意のその他の発現産物を発現する。単一の理論または作用方式に限定されないが、投与は、投与細胞の寿命の間、抗CTLA-4抗体およびその他の発現産物の一過性または構成性発現を可能にし得る。細胞またはウイルスベクターの全身分布は、したがって、抗体およびその他の発現産物(例えば同時発現免疫エフェクター分子)の時限放出送達として作用し得る。投与細胞は、最終的には死亡し、抗CTLA-4抗体をもはや産生せず、抗CTLA-4抗体の濃度低減および結果的排除を生じる(さらなる細胞投与の非存在下で)。
【0087】
好ましい一実施形態では、細胞またはウイルスベクターは、腫瘍細胞ワクチンと一緒に投与され得る。腫瘍細胞ワクチンおよび細胞またはウイルスベクターはともに、同時投与される。さらなる変法では、細胞それ自体は、自己由来放射線照射腫瘍細胞である。
【0088】
ヒト細胞、ウイルスベクターおよび組成物は、いくつかの異なる方法で投与され得る。一般的には、ヒト細胞、ウイルスベクターおよび組成物は、慣用的やり方で、例えば注射(皮下、静脈内、筋肉内等)、経口投与、吸入、経皮適用または直腸投与により、投与され得る。細胞、ウイルスベクターおよび組成物は、非経口的または腹腔内にも投与され得る。投与経路によって、細胞、ウイルスベクターおよび組成物は、細胞またはウイルスベクターを殺害するかそうでなければ不活性化し得る酸およびその他の天然条件からそれらを保護するための材料で被覆され得る。
【0089】
ある種の実施形態では、細胞またはウイルスベクターの組成物は、注射用に適しているよう処方される。このような組成物としては、滅菌水性溶液(この場合、水溶性)または分散液、ならびに滅菌注射用溶液または分散液の必要に応じた調製のための滅菌粉末が挙げられる。好ましくは組成物は滅菌性であり、そして易注射可能性が存在する程度に流動性である。組成物は、好ましくは製造および貯蔵条件下で安定であり、そして微生物、例えば細菌および真菌の汚染作用に対して保存されなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコール等)ならびにその適切な混合物を含有する溶媒または分散媒質であり得る。適性流動性は、例えばコーティング、例えばレシチンの使用により、分散液の場合は必要とされる粒子サイズの保持により、そして界面活性剤の使用により、保持され得る。微生物の作用の防止は、種々の抗細菌および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等により達成され得る。多くの場合、等張剤、例えば糖、ポリアルコール、例えばマンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウムを組成物中に含むのが好ましい。注射用組成物の吸収延長は、吸収を遅延する作用物質、例えば一ステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物中に含むことによりもたらされ得る。
【0090】
滅菌注射溶液は、1つまたは複数の細胞、ウイルスベクターまたはその組成物を、付加的免疫応答刺激剤または免疫抑制剤と一緒にまたは別々に、上で列挙された成分のうちの1つまたは組合せを含有する適切な溶媒中に必要な量で混入し、必要な場合は、その後、濾過滅菌することにより調製され得る。一般的に、分散液は、塩基性分散媒質ならびに上記のものからの必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクル中に細胞または組成物を組入れることにより調製される。滅菌注射溶液の調製のための芽菌粉末の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥および凍結乾燥であり、これは活性成分+その予め滅菌濾過された溶液からの任意の付加的な所望の成分の粉末を生じる。
【0091】
投与を容易にし、投与量を均一にするための投与量単位形態中に非経口組成物を処方することは、特に有益である。投与量単位形態は、本明細書中で用いる場合、処置患者のためのユニタリ投与量として適合される物理的離散単位を指す;各単位は、必要とされる製剤担体と関連した所望の治療作用を生じるよう算定された予定量の細胞またはウイルスベクターを含有する。本発明の投与量単位形態に関する明細書は、以下の:(a)細胞、ウイルスベクターまたは組成物の独特の特質、ならびに達成されるべき特定の治療作用、そして(b)個体における感受性の治療のためのこのような作用物質を調合する当該技術分野における固有の制限:により指図され、そして直接的にそれらによっている。
【0092】
特定用量は、例えば患者のおよその体重または体表面積、あるいは占められる身体空間の容積に従って、当業者により容易に算定され得る。用量は、選択される特定投与経路によっても算定される。治療のための適切な投与量を確定するために必要な計算のさらなる細分は、当業者によりルーチンになされる。このような計算は、標的細胞の検定準備において、本明細書中に開示される活性にかんがみて、当業者による過度の実験なしになされ得る。正確な投与量は、標準用量-応答試験と結び付けて確定される。実際に投与される細胞、ウイルスベクターまたは組成物の量は、治療されるべき単数または複数の症状、投与されるべき組成物の選択、個々の患者の年齢、体重および応答、患者の症候の重症度、ならびに投与の選択経路を含めた関連環境にかんがみて、実践者により確定される、と理解される。
【0093】
本明細書中に記載されるヒト細胞、ウイルスベクターおよび組成物の毒性および治療効力は、例えばLD
50(集団の50%に致死性である用量)およびED
50(集団の50%において治療的に有効な用量)を確定するために、細胞培養または実験動物における標準製剤手順により確定され得る。毒性および治療作用間の用量比は治療指数であり、そしてそれは比LD
50/ED
50として表わされ得る。大きな治療指数を示す化合物が好ましい。毒性副作用を示す細胞、ウイルスベクターおよび組成物が用いられ得るが、非感染細胞への潜在的損害を最小限にし、それにより副作用を低減するために、罹患組織の部位に対してこのような細胞、ウイルスベクターおよび組成物を標的として向ける送達系を設計するよう注意すべきである。
【0094】
一実施形態では、細胞、ウイルスベクターまたは組成物の治療的有効量が患者に投与される。投与される細胞またはウイルスベクターの最適量は、それが投与される時機によって、同一患者において変わることさえある。
【0095】
ある種の因子、例えば疾患または障害の重症度、以前の治療、患者の全身健康状態および/または年齢、ならびに存在するその他の疾患(これらに限定されない)は患者を有効に治療するために必要とされる投与量に影響を及ぼし得る、と当業者は理解する。さらに治療的有効量の細胞、ウイルスベクターまたは組成物による患者の処置は、単一処置、好ましくは一連の処置を包含し得る。治療のために用いられる細胞またはウイルスベクターにより産生される細胞、ウイルスベクターまたは組成物の有効投与量は、特定の処置の経過に亘って増大または低減し得る、とも理解される。投与量の変化は、当該技術分野で周知であるように、腫瘍状態をモニタリングするよう意図される検定の結果に起因し得る。
【0096】
非経口投与可能な細胞、ウイルスベクターおよび組成物を調製するための実際的方法は、当業者に既知であるかまたは明らかであり、そして例えばRemington’s Pharmaceutical Science, 15
th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa. (1980)(この記載内容は参照により本明細書中で援用される)にさらに詳細に記載されている。
【0097】
細胞、ウイルスベクターおよび組成物は、予防的および/または治療的処置のために投与され得る。治療的適用では、組成物は、腫瘍増殖および関連合併症を低減するかまたは少なくとも一次的に制限するのに十分な量で、すでに疾患に罹患されている患者に投与され得る。これを成し遂げるのに適した量は、「治療的有効量」と定義される。
【0098】
この使用のために有効な量は、臨床的情況および患者自身の免疫系の全身状態によっている。例えば移植片拒絶を防止するための用量は、患者が拒絶の臨床的症候を提示する場合に投与されるものより低い。組成物の1回または多数回投与は、治療している医者により選択される用量レベルおよびパターンで実行され得る。任意の事象において、製剤組成物は、患者を有効に治療するのに十分な本明細書中に記載される細胞、ウイルスベクターまたは組成物の量を提供すべきである。
【0099】
製剤組成物は、投与のための使用説明書と一緒に、容器、パックまたはディスペンサー中に含まれ得る。本発明の実行のためのキットも、提供される。田とこのようなキットは、ヒト細胞、ウイルスベクター、あるいは細胞および/またはウイルスベクターを含む組成物を、細胞、ウイルスベクターまたは組成物を投与するための手段、例えば1つまたは複数の注射器と一緒に包含する。キットは、使用するための使用説明書とともに包装されるようになり得る。
【0100】
腫瘍の部位での投与
好ましい実施形態では、抗CTLA-4産生細胞または抗CTLA-4コードベクターが、例えば腫瘍組織で、例えば腫瘍組織内にまたはそれに接触して、あるいは腫瘍の位置の近位に、提供され得る。「〜の近位」とは、本発明の発現ベクターおよび/または形質転換細胞抗CTLA-4抗体に起因する抗CTLA-4抗体が腫瘍組織に直接到達するような、腫瘍細胞の有効距離内を意味する。腫瘍部位で修飾細胞またはウイルスベクターを提供するかまたは作製する本発明の方法は、したがって、周囲非腫瘍細胞への抗CTLA-4抗体の曝露を最小限にしながら、修飾細胞またはウイルスベクターにより発現される抗CTLA-4抗体を、腫瘍に局所的に提供する。活性の特定の方式に限定されることなく、細胞、ウイルスベクターまたは組成物の腫瘍への直接投与は、全身投与で観察され得る自己免疫および免疫抑制的副作用を低減しながら、腫瘍に直接的且つ持続的利益を提供する。
【0101】
腫瘍への直接的な細胞またはウイルスベクターの投与の方法は、他の情況において成し遂げられている。例えば細胞は、注射により腫瘍に投与されている(Rodriguez-Madoz et al., Molecular Therapy (2005) 12, 153-163)(この記載内容は参照により本明細書中で援用される)。
【0102】
ヒト細胞またはウイルスベクターは、腫瘍細胞と直接結合するよう選択され得る。例えばヒトTリンパ球は、抗CTLA-4抗体を、そして任意にその他の同時発現分子を発現するよう修飾され得る。リンパ球は、当該技術分野で既知の方法により修飾され得る。リンパ球は、Sadelaine et al., Nature Reviews Cancer 3, 35-45 (2003)に開示されているように修飾され得る。リンパ球は、Tarner et al., Methods of Autoimmunity Reviews 5(2): 148-152, February 2006により開示されているように、自己免疫疾患を治療するために部位特異的投与のためにも使用されている。
【0103】
ヒト細胞は、腫瘍部位への細胞および組成物の直接投与に代替的にまたはそのほかに、腫瘍細胞と直接的に結合するよう選択され得る。
【0104】
腫瘍に最も近いリンパ節への投与
さらにその他の実施形態では、細胞は、腫瘍に直接的にまたは腫瘍近くのリンパ節の近位に投与され得る。細胞および組織は、本明細書中に開示される任意の手段により、リンパ節に投与され得る。
【実施例】
【0105】
実験
実施例の以下の説明は純粋に例示的であり、本発明の態様を例証するに過ぎない。
【0106】
実施例1
Roche diagnosticsからのIsoStripキットを用いて、9D9マウス抗マウスCTLA4抗体を類型分けした。9D9抗体を、IgG2b-κであると確定した(データは示されていない)。
【0107】
実施例2
9D9抗体を、Igにクローン化した:
図1は、クローニング戦略を示す。
9D9軽鎖および重鎖に関する多重複プライマーを、Wang, Z and Ratner, D (J Immunol Methods, 2000 Jan 13; 233(1-2): 167-77)に基づいて設計して、軽鎖(V
L)および重鎖(V
H)可変領域を増幅した。Advantage 2PCRキット(Clonetech)を用いてPCRを実施して、T-A末端を有する産物を生成し、そしてVent(NEB)およびPfu(Stratagene)ポリメラーゼの3:1混合物を用いて、平滑末端断片を生成した。
図2は、軽鎖および重鎖プライマーの配列を示す。
【0108】
低い45度のアニーリング温度を用いて、部分ミスマッチプライマー/鋳型配列のハイブリダイゼーションを促進した。V
HおよびV
LPCR producerのその後のクローニングを助長し、ならびにその後のジョイニングのためのVLの尾部およびVHの頭部に(Gly
4Ser)
3リンカーを添付するために、制限部位を含有するようプライマーを設計した。
【0109】
Zero BluntPCRクローニングキット(Invitrogen)を用いて平滑末端PCR産物をクローン化し、一方、Topo TAキット(Invitrogen)を用いてT-Aオーバーハングを有するPCR産物をクローン化した。
【0110】
Top 10コンピーテント細胞中への形質転換後、コロニーを選択し、増幅した。Qiagenスピン・ミニプレプキットを用いてDNAを単離し、EcoRI(NEB)で消化することによりスクリーニングした。最終VLおよびVH構築物を、
図3に示す。
【0111】
SOE PCRによる9D9抗体。 上記のようなPCRにより個々のVHおよびVL断片を増幅し、次に、Qiagenゲル抽出キットを用いてゲル精製した。次に、上流5‘Mk-FR1プライマーおよび3’IgG2Bプライマーならびに前記と同様の3:1Vent(NEB)対Pfu(Stratagene)混合物を用いて、PCR反応における鋳型として精製断片を用いた。Gly-Serリンカーを含有するオーバーハンギング領域は、増幅VHおよびVL断片をハイブリダイズ指せ、中心Gly-Serリンカーにより接合される2つの断片を含有する増幅のための単一鋳型として役立つ。増幅後、DNAを1%アガロースゲル上を走行させ、そしてQiagenゲル抽出キットを用いて全scFvを表わす821 bp断片を単離し、精製した。次にこの断片を、Zero BluntPCRクローニングキット(Invitrogen)を用いてクローン化した。
【0112】
図4は、9D9 scFv分子の配列を示す。
【0113】
5’Ig-カッパ分泌シグナルおよび3’Myc-6xHIS尾を提供するpSecTag2-HygroAベクター(Invitrogen)中に、完全9D9 scFvをクローン化した。さらにまた、5’分泌シグナルおよびセリンに突然変異されたヒンジシステインを有する3’IgG1尾を提供するpSecTag2-HygroAベクター(Invitrogen)中に、scFvをクローン化した。
【0114】
実施例3
9D9 scFvのMyc-HISを尾方に有するおよびIgG1を尾方に有するバージョンを発現するMLVベースのレトロウイルスベクターを用いて、scFv分子の各々を安定的に発現する293T細胞を作製した。
図5はmyc-HISを尾方に有する9D9 scFv分子の産生のために用いられる発現ベクターを示し、そして
図6はIgG1を尾方に有するバージョンの9D9 scFv分子の産生のために用いられる発現ベクターを示す。
【0115】
これらの細胞からの上清を収集し、DT230細胞(高レベルの表面CTLA-4を発現するマウスL細胞株)を染色するために用いた。これらの細胞の表面に結合されるscFvを、抗マウスPE二次抗体を用いて定量し、Cyan-LX(Dako-Cytomation)上でのフローサイトメトリーにより分析した。
【0116】
図12および13は、表面CTLA-4タンパク質を発現するDT230細胞に対するscFv抗体のCDスペクトルを示す。
【0117】
実施例4
GMVax-9D9scFv細胞株を作製した。
各形態の9D9scFvおよび切頭化霊長類NGFp75表面マーカーを発現するMLVベースのレトロウイルスベクターを用いて、B16-GMCSF細胞を形質導入した。
【0118】
陽性細胞を、マウス抗霊長類NGF一次および抗マウスAPC二次抗体(Pharmingen)で染色することにより検出し、そしてMoFlo(Cytomation)でのFACSにより区分けした。さらに、抗Lyt2-PE抗体(Pharmingen)を用いて、高レベルのGMCSF発現に関して選択した。
【0119】
図9は、9D9抗体および種々の形態のscFv分子のDT230/LMtK比較ヒストグラムを示す。
【0120】
実施例5
各形態の9D9scFvおよび切頭化霊長類NGFp75表面マーカーを発現するMLVベースのレトロウイルスベクターを用いて、B16-GMCSF細胞を形質導入した。
【0121】
陽性細胞を、マウス抗霊長類NGF一次および抗マウスAPC二次抗体(Pharmingen)で染色することにより検出し、そしてMoFlo(Cytomation)でのFACSにより区分けした。さらに、抗Lyt2-PE抗体(Pharmingen)を用いて、高レベルのGMCSF発現に関して選択した。
図10は、B16-GM-9D9scFv形質導入細胞株のCDスペクトルを示す。
【0122】
実施例6
抗CTLA-4 scFv分子およびモノクローナル抗体をB16細胞中に形質導入して、腫瘍を治療するために用いた。動物を群分けして、以下のように処置した:
表1
群1:PBS
群2:B16-GMCSF-tNGFr
群3:B16-GM+9D9mAb
群4:B16-GM+9D9mAb+PC61
群5:B16-GM-9D9scFv-MycHis
群6:B16-GM-9D9scFv-Ig
群7:B16-GM-9D9scFv-MycHis+PC61
群8:B16-GM-9D9scFv-Ig+PC61
【0123】
マウスを、右脇腹に皮下的に、増殖因子枯渇マトリゲル中の15,000B16-BL6細胞(BD)で攻撃誘発し、そして同一日に、左脇腹に皮下的に、1,000,000放射線照射B16-GMCSF細胞をワクチン接種した。3日目および6日目に、ワクチン追加免疫を投与した。4日目に350 ugのPC-61抗CD25抗体の腹腔内注射により、T-reg細胞を枯渇させたマウスもあった。あるマウスには、0、3および6日目に100 ugの9D9抗CTLA-4抗体を腹腔内投与した。
【0124】
18日目に、カリパスを用いて腫瘍を測定した。次にマウスを屠殺し、腫瘍を単離した。注射器プランジャで押し潰し、その後、70um細胞濾し器を通過させ、Ficollを用いて勾配精製することにより、腫瘍を消散した。
【0125】
腫瘍細胞を、メーカーの使用説明書に従ってeEiosciencesFoxP3染色キットを用いて、抗CD8 APC(Pharmingen)およびFoxP3-PE(eEiosciences)で染色した。Cyan LX(Cytomation)でのフローサイトメトリー分析に従って、CD8+細胞対FoxP3+細胞比を算定した。
【0126】
図11は、抗CTLA-4モノクローナル抗体およびscFv分子による処置後18日目の腫瘍/マトリゲルサイズ・マウスを示す。B16-GM-CSF-9D9細胞は、B16-GM-CSF細胞と比較した場合に、腫瘍サイズ低減およびCD8+増殖増大を示した。
【0127】
ヒンジシステインをセリンに変更して、二量体化を防止し、Fc受容体結合を低減するマウスIgG1抗体定常領域を、9D9抗CTLA-4 scFvの後備に付けた。scFv結合CTLA-4のこの変異体は、B7とのその相互作用を遮断し得るべきである(定常領域は、結合を安定化するのを手助けし、そして遮断のための付加的容積を提供する)。低F好ましい受容体結合は、それがT細胞の表面でCTLA-4を交差結合し、負の信号を送り得るAPCの表面に結合されているscFvの機会を低減する。
【0128】
CTLA-4と結合する2つの他のscFv分子は、主に免疫抑制作用を発揮する。作用の特定のメカニズムに限定せずに考えると、cMycおよび6XHISエピトープ・タグは寛容作用を有した。この形態のscFvはB7結合を防止するのに十分な容積を欠く(即ち、それは負のシグナル伝達を防止する能力を欠く)が、しかし、それは標的T細胞のCTLA-4交差結合および寛容性も促進し得る。この作用のために考え得る一つの説明は、T細胞の表面でCTLA-4に結合される9D9 scFv-MycHISは次に、尾部中の免疫学的に異物であるタグを認識する宿主抗体により結合され得る、というものである。この宿主抗体とscFvとの結合は、scFvが結合されて負のシグナルをT細胞に送るCTLA-4分子の間接的交差結合を生じ得る。これらの結果は、移植および自己免疫のような免疫抑制において有用性を有する限局性抗CTLA抗体分泌の代替的実施形態を示唆する。
【0129】
実施例7
9D9 scFv-IgG1(Cys→Ser)を、pSFV1ベクターまたは増強SFVベクターpSFVC2A中でクローン化した。SP6Message Machineキット(Ambion)を用いて、全長ベクターRNAをin vitroで産生した。Amaxa Cell Line TransfectionキットL(Amaxa)を用いて、SFV-9D9scFvIg RNAをBHK細胞中に電気穿孔した。Tri-Reagent(Sigma)を用いて、BHK細胞から24時間トランスフェクション後RNAを精製した。Superscript IIRT-PCRキット(Invitrogen)を用いて、このRNAからcDNAを産生した。次に、PCRを用いて、9D9 scFvの発現に関して、このcDNAを分析した。
【0130】
図13は、DT230原上清および抗マウスPEを用いたB16-GM-9D9scFv IgのDT230染色を示す。染色増大を9D9抗体に関して観察する、一方、scFv 3B1分子に関して染色の大きさの小さい順序を観察した。
【0131】
実施例8
実施例6に記載したのと同様に、マウスに9D9scFv抗CTLA-4抗体を投与した。
図14は、腫瘍細胞ワクチンの部位でのscFv抗CTLA-4抗体の送達後の時間の一関数としての平均腫瘍増殖を示す。腫瘍増殖は、3〜6日遅延された。これらのデータは、ヒト細胞の全身投与(限局性投与とは対照的に)が抗体の徐放性投与として作用する、ということを示唆する。抗体は、細胞が未だ生きている間、細胞により産生されるが、その後、抗体の産生が遅くなり、そして細胞が死亡し始める。