(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6092519
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】地絡検出装置および地絡検出方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/02 20060101AFI20170227BHJP
【FI】
G01R31/02
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-40896(P2012-40896)
(22)【出願日】2012年2月28日
(65)【公開番号】特開2013-178104(P2013-178104A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2015年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000232922
【氏名又は名称】日油技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088306
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮 良雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126343
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 浩之
(72)【発明者】
【氏名】林 克典
(72)【発明者】
【氏名】清水 雅仁
(72)【発明者】
【氏名】米井 弘
(72)【発明者】
【氏名】笠原 崇史
【審査官】
小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】
特開平2−90065(JP,A)
【文献】
特開2008−39549(JP,A)
【文献】
特開平2−17468(JP,A)
【文献】
実開平3−18629(JP,U)
【文献】
特開2007−292526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/02−31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持構造物に架設され、架空地線のない送配電線路の地絡故障を検出する地絡検出装置であって、
地絡電流の流れる該支持構造物の導体を、互いの間に位置させるように該支持構造物に設置され、該地絡電流で生じる磁界を検出したときに互いに同じ極性の検出波形を出力する一対の磁界検出器と、
該一対の磁界検出器の検出波形を、所定のリミットレベルで各々振幅制限する一対のリミッタ回路と、
該一対のリミッタ回路によって振幅制限された両波形を合成する合成回路と、
該合成回路によって合成された合成波形のレベルに基づいて、地絡故障の有無を判定する地絡判定回路とを備え、
該一対の磁界検出器に夫々配置され、地絡電流の流れる前記導体によって貫通される環状のコアに巻かれたコイルの軸の方向と、該送配電線の方向とが直交するように支持構造物に設置されていることを特徴とする地絡検出装置。
【請求項2】
前記地絡判定回路は、前記合成波形の振幅レベルが前記所定のリミットレベルの1倍以上2倍未満に設定された判定レベルを超えたときに、地絡故障有りと判定することを特徴とする請求項1に記載の地絡判定装置。
【請求項3】
前記所定のリミットレベルが、前記送配電線路に流れる短絡電流で生じる磁界の前記検出波形を、振幅制限するレベルであることを特徴とする請求項1または2に記載の地絡検出装置。
【請求項4】
前記所定のリミットレベルが、前記地絡電流で生じる磁界の前記検出波形を、振幅制限するレベルであることを特徴とする請求項3に記載の地絡検出装置。
【請求項5】
支持構造物に架設され、架空地線のない送配電線路の地絡故障を検出する地絡検出方法であって、
地絡電流で生じる磁界を検出したときに、互いに同じ極性の検出波形を出力するように、該地絡電流の流れる該支持構造物の導体を互いの間に位置させて、一対の磁界検出器に夫々配置され、地絡電流の流れる前記導体によって貫通される環状のコアに巻かれたコイルの軸の方向と、該送配電線の方向とが直交するように支持構造物に設置し、
該一対の磁界検出器の検出波形を、所定のリミットレベルで各々振幅制限し、
振幅制限された両波形を合成し、
その合成波形のレベルに基づいて、地絡故障の有無を検出することを特徴とする地絡検出方法。
【請求項6】
前記合成波形の振幅レベルが、前記所定のリミットレベルの1倍以上2倍未満に設定された判定レベルを超えたときに、地絡故障有りと判定することを特徴とする請求項5に記載の地絡判定方法。
【請求項7】
前記所定のリミットレベルが、前記送配電線路に流れる短絡電流で生じる磁界の前記検出波形を、振幅制限するレベルであることを特徴とする請求項5または6に記載の地絡検出方法。
【請求項8】
前記所定のリミットレベルが、前記地絡電流で生じる磁界の前記検出波形を、振幅制限するレベルであることを特徴とする請求項6に記載の地絡検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄塔、電柱などの支持構造物に架設される送配電線路の地絡故障を検出する地絡検出装置および地絡検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
送配電線路の地絡故障を検出する地絡検出装置および方法について、出願人はすでに特許文献1を出願している。同文献中の
図11,12に示されるように、中性点非接地系統の送配電線路では、地絡故障時に流れる地絡電流は、送配電線路の有する対地静電容量に蓄えられた充電電流分しか流れない。地絡電流の大きさは、送配電線路のこう長(対地静電容量)や送電電圧などによって左右されるが、地絡検出装置としては、ある程度どの様な線路にも使用できるように、少なくとも0.2A(アンペア)の地絡電流を検出できる高い感度が必要である。
【0003】
地絡検出装置では、地絡電流を非接触で検出するために、電流センサとしてカレントトランス(CT)などの磁界検出器が用いられる。この磁界検出器は、支持構造物に設置されて使用される。
【0004】
一方、短絡故障時には、送配電線に数千Aの電流が流れる。この短絡電流によって強力な磁界が発生する。磁界検出器を高感度にすると、短絡電流による磁界や外来ノイズを検出して地絡検出装置が誤作動してしまうため、地絡故障と、短絡故障や外来ノイズとの弁別は、地絡故障の技術開発の大きな課題であった。特許文献1の装置では、送配電線路に生じる電圧変化を監視することで、この課題を解決しているが、本発明は、異なるアプローチによってこの課題を解決する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−237127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、短絡故障や外来ノイズで誤作動することなく、地絡故障を高精度に検出することができる地絡検出装置および地絡検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された地絡検出装置は、支持構造物に架設され、
架空地線のない送配電線路の地絡故障を検出する地絡検出装置であって、地絡電流の流れる該支持構造物の導体を、互いの間に位置させるように該支持構造物に設置され、該地絡電流で生じる磁界を検出したときに互いに同じ極性の検出波形を出力する一対の磁界検出器と、該一対の磁界検出器の検出波形を、所定のリミットレベルで各々振幅制限する一対のリミッタ回路と、該一対のリミッタ回路によって振幅制限された両波形を合成する合成回路と、該合成回路によって合成された合成波形のレベルに基づいて、地絡故障の有無を判定する地絡判定回路とを備え、
該一対の磁界検出器に夫々配置され、地絡電流の流れる前記導体によって貫通される環状のコアに巻かれたコイルの軸の方向と、該送配電線の方向とが直交するように支持構造物に設置されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載された地絡検出装置は、請求項1に記載されたものであり、前記地絡判定回路は、前記合成波形の振幅レベルが前記所定のリミットレベルの1倍以上2倍未満に設定された判定レベルを超えたときに、地絡故障有りと判定することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載された地絡検出装置は、請求項1または2に記載されたものであり、前記所定のリミットレベルが、前記送配電線路に流れる短絡電流で生じる磁界の前記検出波形を、振幅制限するレベルであることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載された地絡検出装置は、請求項3に記載されたものであり、前記所定のリミットレベルが、前記地絡電流で生じる磁界の前記検出波形を、振幅制限するレベルであることを特徴とする。
【0012】
請求項
5に記載された地絡検出方法は、支持構造物に架設され、
架空地線のない送配電線路の地絡故障を検出する地絡検出方法であって、地絡電流で生じる磁界を検出したときに、互いに同じ極性の検出波形を出力するように、該地絡電流の流れる該支持構造物の導体を互いの間に位置させて、一対の磁界検出器
に夫々配置され、地絡電流の流れる前記導体によって貫通される環状のコアに巻かれたコイルの軸の方向と、該送配電線の方向とが直交するように支持構造物に設置し、該一対の磁界検出器の検出波形を、所定のリミットレベルで各々振幅制限し、振幅制限された両波形を合成し、 その合成波形のレベルに基づいて、地絡故障の有無を検出することを特徴とする。
【0013】
請求項
6に記載された地絡検出
方法は、請求項
5に記載されたものであり、前記合成波形の振幅レベルが、前記所定のリミットレベルの1倍以上2倍未満に設定された判定レベルを超えたときに、地絡故障有りと判定することを特徴とする。
【0014】
請求項
7に記載された地絡検出
方法は、請求項
5または6に記載されたものであり、前記所定のリミットレベルが、前記送配電線路に流れる短絡電流で生じる磁界の前記検出波形を、振幅制限するレベルであることを特徴とする。
【0015】
請求項
8に記載された地絡検出
方法は、請求項
6に記載されたものであり、前記所定のリミットレベルが、前記地絡電流で生じる磁界の前記検出波形を、振幅制限するレベルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の地絡検出装置および地絡検出方法によれば、一対の磁界検出器の検出波形を、所定のリミットレベルで各々振幅制限してから合成することで、一対の磁界検出器の検出波形にレベル差が生じたとしても同じ振幅に整形されるので、短絡故障や外来ノイズで生じる磁界の影響を十分にキャンセルすることができる。したがって、短絡故障や外来ノイズで誤作動することなく、地絡故障を高精度に検出することができる。
【0017】
合成波形の振幅レベルが所定のリミットレベルの1倍以上2倍未満に設定された判定レベルを超えたときに地絡故障有りと判定する場合、また、所定のリミットレベルが送配電線路に流れる短絡電流で生じる磁界の検出波形を振幅制限するレベルである場合、また、所定のリミットレベルが地絡電流で生じる磁界の検出波形を振幅制限するレベルである場合、短絡故障による誤動作を確実になくすことができ、地絡故障の有無を一層確実に検出することができる。
【0018】
一対の磁界検出器が、環状のコアに巻かれたコイルである場合、簡便な構造でありながら、高感度で地絡電流を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明を適用する地絡検出装置の使用状態(地絡故障発生時)を示す斜視図である。
【
図2】地絡故障が発生した状態おける電流センサ部を主として表す地絡検出装置の電気的な構成図である。
【
図3】本発明を適用する地絡検出装置の電気的な構成図である。
【
図4】地絡故障が発生した状態における地絡検出装置のコイル、リミッタ回路、合成回路の動作を示す図である。
【
図5】本発明を適用する地絡検出装置の使用状態(短絡故障発生時)を示す斜視図である。
【
図6】短絡故障が発生した状態おける、電流センサ部を主として表す地絡検出装置の電気的な構成図である。
【
図7】短絡故障が発生した状態における地絡検出装置のコイル、リミッタ回路、合成回路の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0021】
本発明を適用する地絡検出装置1の使用状態を
図1に示す。地絡検出装置1は、中性点非接地系統や中性点抵抗接地系統などの架空地線の無い送配電線51を支持する支持構造物50に設置されて使用されるものである。支持構造物50としては、コンクリート柱、パンザーマスト柱、鉄塔、及び鉄柱などが挙げられる。この例では、支持構造物50の内部を、接地線52が通っている。この接地線52が、本発明における「地絡電流の流れる支持構造物の導体」の一例に相当する。
【0022】
地絡検出装置1は、同図に示すように、電流センサ部2、検出回路部3、及び出力部4を備えている。これらは、絶縁性の樹脂ケーシングで覆われている。
【0023】
電流センサ部2は、接地線52に流れる地絡電流Igを非接触で検出するためのものである。電流センサ部2は、接地線52を支持構造物50の外側から帯状に取り囲めるように、支持構造物50の形状に合わせた環状の形状に形成されている。この電流センサ部2は、支持構造物50に取り付ける作業を容易にするために、分割できる構造になっている。電流センサ部2は、後述する一対のコイルLa、Lbを備えている。
【0024】
検出回路部3は、一例として電流センサ部2にケーブル接続されていて、地絡電流Igを検出したときに、検出回路部3に連結された出力部4に、地絡検出信号を出力する。出力部4は、地絡故障が発生したことを送配電線検査員等に知らせるためのものである。出力部4は、検出回路部3から地絡検出信号が出力されたときに、例えば、外部に細長くて目立つ色(例えば赤色)の布を放出したり、色を変色させたり、光を点滅させたりするように外観を変化させて、目視で判別可能な地絡故障の発生表示を出力する。また、出力部4を、地絡故障発生を示す無線信号又は有線信号を出力して、遠隔地にデータ通信で地絡故障の発生を知らせるようにしてもよい。出力部4としては、公知の地絡検出装置に用いられる表示器やデータ送信器を用いることができる。
【0025】
図2に、電流センサ部2を主として表す地絡検出装置1の電気的な構成図を示す。同図では、電流センサ部2を、支持構造物50の上側から見た状態で図示している。電流センサ部2は、接地線52に流れる地絡電流Igにより発生する磁界Bgを検出するための一対のコイルLa、Lbを備えている。一対のコイルLa、Lbは、本発明における一対の磁界検出器に相当するものであり、カレントトランスとして機能して、磁界の強度および極性を検出波形(電圧波形)で出力する。コイルLa、Lbは、各々同様の検出特性を有している。このコイルLa、Lbは、接地線52を、互いの間に位置させるようにして支持構造物50に設置されるものである。具体的には、コイルLa、Lbは、一例として、ケイ素鋼板などの電磁鋼板で形成された円環状のコア21に、円環状の中心を挟んで対称となる位置に巻かれて形成されている。言い換えると、コイルLa,Lbは、接地線52を間に挟んで対称となる位置に、両コイルの軸(磁界の検出軸)が接地線52の方向と直交するように配置されている。コア21は、支持構造物50を取り囲む大きさで、2分割可能なように形成されている。コア21を用いることで、磁界コイルLa,Lbによる地絡電流Igの検出感度を高くすることができる。
【0026】
図3に、検出回路部3を主として表す地絡検出装置1の電気的な構成図を示す。検出回路部3は、リミッタ回路11a、リミッタ回路11b、合成回路12、積分回路13、整流回路14、時定数回路15、及びレベル判定回路16を備えている。また、図示しないが、検出回路部3は、動作用の電源として電池や太陽電池を備えている。
【0027】
リミッタ回路11aには、電流センサ部2のコイルLaが接続されている。また、リミッタ回路11bには、電流センサ部2のコイルLbが接続されている。コイルLa、Lbは、
図2に示すような地絡電流Igで生じる磁界Bgを検出したときに、その検出波形が互いに同じ極性(振幅の正負の極性)でリミッタ回路11a,11bに入力されるように、リミッタ回路11a,11bに接続されている。リミッタ回路11a,11bは、同様の特性を有する回路であり、コイルLa,Lbから出力される検出波形の正負の両振幅を、所定のリミットレベルEで振幅制限する。所定のリミットレベルEについては後述する。リミッタ回路11a,11bは、必要性に応じて、振幅制限する前の波形、又は振幅制限した後の波形を適宜電圧増幅してもよい。リミッタ回路11a,11bとしては、公知のリミッタ回路を使用することができる。リミッタ回路11a,11bの出力は、合成回路12に各々接続されている。
【0028】
合成回路12は、リミッタ回路11a,11bから各々出力される振幅制限波形を足し合わせることで合成する。合成回路12としては、公知の加算回路や合成回路を使用することができる。合成回路12は、必要性に応じて、波形を電圧増幅してもよい。合成回路12の出力は、積分回路13に接続されている。
【0029】
積分回路13は、合成回路12から出力される合成波形を積分する。この積分回路13は、非接地系地絡電流の特性から、地絡電流が針状波や正弦波を含む針状波のような非常に複雑な波形で流れているのを、安定的な地絡電圧と相似の波形形状にして検出するために設けている。また、針状の地絡電流の波形とノイズ波形とを弁別することは難しいが、地絡電流を安定的な電圧波形にすると、安定的な電圧波形とノイズとを後段で弁別することは容易であるため、積分しているという面もある。積分回路13を2つ用いて、合成回路12よりも前段の各系統やリミッタ回路11a,11bの前段に入れてもよい。積分回路13としては、コンデンサを用いた積分回路など、公知の積分回路を使用することができる。積分回路13の出力は、整流回路14に接続されている。整流回路14は、例えばダイオードブリッジ整流回路などの公知の整流回路であり、正負の振幅波形を、片側(例えば正側)だけの波形に整流する。整流回路14の出力は、時定数回路15に接続されている。時定数回路15は、地絡故障継続時間がおおむね100ms以上であり、誤動作防止の観点から、不用意に早く地絡故障の有無を判断する必要がないため、検出時間を調整するために設けている。この時定数回路15により、例えば50ms〜100msの間に動作するようにしている。また、この時定数回路15により、ノイズの除去も行える。時定数回路15は、抵抗およびコンデンサを用いたような公知の回路である。時定数回路15の出力は、レベル判定回路16に接続されている。
【0030】
なお、積分回路13、整流回路14、および時定数回路15は、何れも合成回路12から出力される合成波形のレベルを後段のレベル判定回路16が検出しやすくするために、およびノイズ成分を除去するために設けられているものである。そのため、レベル判定回路16が、合成波形のレベルを正確に判別(検出)することができれば、回路13〜15のいずれか一つ又は複数を備えなくてもよい。なお、積分回路13、整流回路14、時定数回路15、およびレベル判定回路16が、本発明における地絡判定回路に相当する。
【0031】
レベル判定回路16は、時定数回路15から出力されるレベル、つまり直流に変換された合成波形のレベルに基づいて、地絡故障の有無を判定する。レベル判定回路16は、例えばコンパレータを用いたような公知の比較回路であり、合成波形のレベルと、予め設定された判定レベルとを比較して、合成波形のレベルが判定レベルを超えたときに、地絡故障の発生有りを示す地絡検出信号を出力部4に出力する。
【0032】
次に、地絡検出装置1の動作を具体的に説明する。
【0033】
図1に示すように、地絡故障Pが発生すると、接地線52に地絡電流Igが流れる。これにより、
図2に一点鎖線で示すように、コイルLa,Lbと鎖交する磁界Bgが発生する。コイルLa、Lbには、この磁界Bgの大きさに対応して、同図に矢印で示す方向の電圧Vgが発生する。この電圧Vgが、磁界Bgの検出波形として、コイルLa,Lbから各々出力される。
【0034】
図4に、地絡電流Igが流れたときに、コイルLa,Lb、リミッタ回路11a,11b、及び合成回路12が出力する各々の波形の概要を示す。なお、地絡電流Igの電流波形、つまり、コイルLa,Lbから出力される検出波形は、様々な形状を取りうるが、同図では各部の動作を理解しやすくするために、一例として、正弦波で示している。
【0035】
同図に示すように、コイルLa,Lbから磁界Bgの検出波形が同極性(同位相)で出力される。ここで、コイルLa,Lbの特性のばらつきの影響、コア21(
図2参照)の中心からの接地線52(
図2参照)の位置ずれの影響などにより、同図に示すように、各々の検出波形の振幅レベルが異なるレベルになる場合がある。各々の検出波形は、同じ極性(同じ位相)で、リミッタ回路11a、11bに入力する。
【0036】
リミッタ回路11a,11bは、入力された検出波形の正負の振幅を、所定のリミットレベルEで振幅制限する。これにより、各々の検出波形の振幅レベルに差があっても、何れも同じ振幅になる。振幅制限された両波形は、合成回路12で合成され、同図に示すような、振幅レベル(絶対値)が2Eの合成波形になる。
【0037】
一方、
図5に示すように、短絡故障Qが発生すると、送配電線51に短絡電流Isが流れ、これにより、磁界Bsが発生する。この磁界Bsは、
図6に一点鎖線で示すように、コイルLa,Lbに鎖交する。この磁界Bsは、
図2に示す磁界Bgと比較すると明らかなように、コイルLa,Lbに対して同じ方向で鎖交するため、一方のコイル(この場合、コイルLb)に鎖交する磁界Bsの方向が、磁界Bgのときの方向と逆方向になる。
【0038】
これにより、
図7に示すように、コイルLa,Lbから、磁界Bsの検出波形が互いに逆極性(逆位相)で出力される。ここで、コイルLa,Lbと送配電線51(
図5参照)との距離の差の影響、他の送配電線51に流れる短絡電流による磁界の影響、周囲の磁性体の影響、コイルLa,Lbの特性のばらつきの影響などにより、同図に示すように、各々の検出波形の振幅レベルが異なるレベルになる場合がある。
【0039】
磁界Bsの検出波形の振幅レベルに差があったとしても、リミッタ回路11a,11bが、入力された検出波形の正負の振幅を、所定のリミットレベルEで振幅制限する。したがって、両検出波形は、互いに逆極性で、互いに振幅レベルEの波形になる。この振幅制限された両波形が、合成回路12で合成されると、互いに相殺されて、振幅レベルがゼロになる。なお、合成波形として、同図に示すような、小さなとげ状の波形が出力される場合がある。このとげ状の波形は、振幅制限された両検出波形の立ち上がり部分や、立下り部分のレベル差(位相差)から生じるものである。とげ状の波形レベルは、仮に合成される一方の波形のレベルがゼロであり、合成される他方の波形のレベルがEであるときに、合成波形の振幅レベルはEになるので、最大値はEである。
【0040】
このように、地絡電流Igが流れたときに、振幅レベルが2Eの合成波形が得られる。また、短絡電流Isが流れたときに、振幅レベルがゼロであり、とげ状の波形が生じたとしても大きくてもその振幅レベルがEである合成波形が得られる。したがって、
図3のレベル判定回路16(積分回路13〜時定数回路15を含む)の判定レベルを、E以上2E未満の値(好ましくはEを超えて2E未満の値)に設定して、合成波形の振幅レベルが判定レベルを超えたときに、地絡故障有りと判定することで、短絡故障による誤動作を確実に防止して、地絡故障の発生を高精度に検出することができる。なお、両検出波形の振幅レベルに大きな差が生じない場合には、判定レベルをE以下の適切な値に設定してもよい。
【0041】
所定のリミットレベルEは、
図4,
図7に示したように、地絡電流Igの検出波形、および、短絡電流Isの検出波形の両波形を振幅制限するレベルで設定すると、両合成波形のレベル差が大きくなり、地絡故障と短絡故障との弁別が容易になるので好ましい。なお、所定のリミットレベルEは、少なくとも短絡電流Isの検出波形を振幅制限するレベルであればよい。地絡電流IgによるコイルLa,Lbの検出波形の振幅レベルが0.5Eを超えていれば、その検出波形は合成されて、合成波形の振幅レベルはEよりも大きくなる。したがって、短絡故障時のとげ状の合成波形の最大値Eよりも大きくなるので、短絡故障により誤動作することなく、地絡故障の発生を確実に検出することができる。コイルLa,Lbのばらつき等を考慮して多少マージンをとり、判定レベルを、1.2E〜1.8Eの範囲で設定することが好ましく、1.4E〜1.6Eの範囲で設定することがより好ましい。例えば、レベル判定回路16の判定レベルを1.4Eに設定しておけば、地絡電流Igの検出波形の振幅レベルが0.7Eを超えているときに、地絡故障の発生を検出できる。
【0042】
前述したように、
図3に示すレベル判定回路16の前段には、合成波形のレベルを検出するために積分回路13〜時定数回路15が挿入されているが、これら回路によって、合成波形の振幅レベルが直流レベルに変換されるため、その変換率を考慮して、判定レベルを設定する。
【0043】
また、
図5に示すように、コイルLa,Lbの軸の方向と、送配電線51の方向とが直交するように電流センサ部2を支持構造物50に設置することで、
図6に示すように、コイルLa,Lbの軸と、磁界Bsとがちょうど同方向に一致する例について説明したが、コイルLa,Lbの軸の方向と、送配電線51の方向とが直交していなくてもよい。コイルLa,Lbの軸と、送配電線51とが直交する場合には、コイルLa,Lbから出力される磁界Bsの検出波形の振幅レベルが最も大きくなるため、検出波形がリミットレベルEで確実に振幅制限されて、合成回路12でキャンセルされるため好ましい。しかしながら、コイルLa,Lbの軸と、送配電線51とが90度で直交せずに、交差する角度が90度よりも小さい場合、コイルLa,Lbから出力される磁界Bsの両検出波形の振幅レベルはいずれも小さくなるものの、両検出波形は逆極性で出力される。そのため、その振幅レベルがリミットレベルEよりも大きければ、振幅制限されて合成回路12でキャンセルされるし、リミットレベルEよりも小さければ、振幅制限されずに合成回路12でキャンセルされる。両検出波形の振幅レベルに差があったとしても、キャンセルされずに合成回路12から出力される合成波形の振幅レベルは、大きくてもEである。したがって、地絡時の合成波形の振幅レベルよりも小さくなるので、短絡故障で誤動作することなく、地絡故障の発生を高精度で検出できる。つまり、コイルLa,Lbの軸の方向と、送配電線51の方向とが直交するように電流センサ部2を支持構造物50に設置することが好ましいが、直交させずに設置してもよい。
【0044】
また、外部磁界(外部ノイズ)の場合には、外部磁界はいずれの方向から来るか不定であるが、コイルLa,Lbに対しては、同じ方向から印加される。そのため、コイルLa,Lbから逆極性の検出信号が出力されて、合成回路12でキャンセルされる。外部磁界による検出信号が小さくて振幅制限されなかったり、コイルLa,Lbの両検出信号のレベルに差が生じたりしても、合成波形の振幅レベルの最大値はEである。つまり、地絡故障時の合成波形の振幅レベルよりも小さくなる。したがって、本発明の地絡検出装置1は、外部ノイズによる誤動作も確実に防止することができる。
【0045】
なお、一対の磁界検出器としてコイルLa,Lbを用いた例について説明したが、このコイルLa,Lbを、ホール素子、フラックス・ゲートセンサなどの磁界の強度および極性を検出できる公知の磁界検出器に換えてもよい。
【0046】
また、接地線52が支持構造物50の内側ではなく外側を通る場合には、電流センサ2として、接地線52だけを取り巻く大きさに形成したものを用いてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1は地絡検出装置、2は電流センサ部、3は検出回路部、4は出力部、11a・11bはリミッタ回路、12は合成回路、13は積分回路、14は整流回路、15は時定数回路、16はレベル判定回路、21はコア、50は支持構造物、51は送配電線、52は接地線、Bgは地絡電流で発生する磁界、Bsは短絡電流で発生する磁界、Eは所定のリミットレベル、Igは地絡電流、Isは短絡電流、La・Lbはコイル、Pは地絡故障、Qは短絡故障、Vgは電圧である。