(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
編地のコース方向が身周り方向になるように前身頃、後身頃及び左右の脚周り部が構成され、熱変形性弾性糸とその他の糸が交編及び熱処理されて裁断部のほつれ止め始末が不要となるヨコ編地で構成された本体布と、
前記本体布の前身頃に設けられ、前身頃の上端縁からクロッチ部近傍の下端縁に向けて次第に幅狭となる逆台形状の腹部補整用裏打ち布と、
前記本体布の後身頃に設けられ、内周が臀裂部上縁を中心とする略ハート形状に形成され、内周と外周とで仕切られる幅方向領域に臀溝部が位置する環状の臀部補整用裏打ち布とを備え、
ウェスト側開口部近傍周部で前記腹部補整用裏打ち布と前記臀部補整用裏打ち布が連続するように配置され、
前記ウェスト側開口部及び脚部側開口部がほつれ止め始末されずに切り放されている下半身用補整衣類。
前記腹部補整用裏打ち布が弾性伸縮糸と合成繊維を交編した経編地で構成され、そのウェール方向が上下方向に配置されている請求項1または2記載の下半身用補整衣類。
前記腹部補整用裏打ち布の身周り方向の伸び率が前記本体布の身周り方向の伸び率より小さく設定され、前記腹部補整用裏打ち布の上下方向の伸び率が前記本体布の上下方向の伸び率より大きく設定されている請求項3記載の下半身用補整衣類。
前記臀部補整用裏打ち布が弾性伸縮糸と合成繊維を交編した経編地で構成され、そのウェール方向が身周り方向に配置され、内外周部が前記本体布に縫着されている請求項1から4の何れかに記載の下半身用補整衣類。
前記本体布は、熱変形性弾性糸と綿糸が交編及び熱処理されて裁断部のほつれ止め始末が不要となるフライス編地、天竺編地、またはスムース編地で構成されている請求項1から7の何れかに記載の下半身用補整衣類。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、ガードルに代表される下半身用補整衣類は、膨らみや弛みが生じた腹部を引き締め、下垂した臀部を上方に持上げて美しいボディラインを形成するために着用される。そのため、身生地にパワーネット等の伸縮性に富んだ編地を使用して、腹部や臀部を締め付ける複数の帯状体が腹部や臀部周囲を覆うように重畳配置されている。
【0003】
しかし、下半身への締付力の全てが体形補整に効果的に寄与しているとは言いがたく、不必要な締付により却ってリンパの流れや血流を阻害するような圧迫感を着用者に与えるという問題もあった。
【0004】
また、特許文献2には、前後身頃を構成する本体布に対して、補整が要求される部位に、本体布よりも伸縮パワーの強い生地で構成される補整布を裏打ちしたガードルが開示されている。
【0005】
当該ガードルは、本体布の前部中央部に配置した第一当て布と、第一当て布の上部側の腹部両側から少なくとも脇線に達する位置に延在した第二当て布と、第二当て布と重ねて第一当て布の腹部両側から脇線を越えて本体布の後部へ延在し、該本体布の後部ではヒップの外周に位置した第三当て布を備え、第一当て布の上部側の腹部両側から脇線に達する位置で本体布、第二当て布及び第三当て布の3枚重ねに形成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本体布と当て布との伸縮パワーの差を大きくするほど、体形補整機能は向上する反面、本体布に皺よりが発生しやすくなり、また、伸縮パワーが強くなるほど、圧迫感が強くなり着心地を低下させ、その上、衣類の着脱操作がし難くなる。
【0008】
特許文献2では、腹部両側から脇線に達する位置で当て布が重畳配置されることによってその部位の伸縮パワーが強くなるが、それだけ衣類の着脱操作に力を要し、さらに着心地が低下するという問題や、当て布が配置されている領域と他の領域で肌に対する締付力が大きく異なり、衣類の境界部で肌に段差が生じるという問題もあった。特に、着圧の高いガードルでは、ウェスト部が肌に食い込み、その上部に皮下脂肪が盛り上り、却ってウェストラインが崩れる傾向にあった。
【0009】
また、ウェスト側開口部や脚部開口部の端部処理された部位のラインがアウターの表面に現れて美観を損なうという問題もあった。
【0010】
本発明の目的は、上述の問題点に鑑み、着用圧を低減してソフトな着心地を実現しながらも十分な体形補整効果が得られ、アウターに響かない下半身用補整衣類を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するため本発明による下半身用補整衣類の特徴構成は、請求項1に記載した通り、編地のコース方向が身周り方向になるように前身頃、後身頃及び左右の脚周り部が構成され、熱変形性弾性糸とその他の糸が交編及び熱処理されて裁断部のほつれ止め始末が不要となるヨコ編地で構成された本体布と、前記本体布の前身頃に設けられ、前身頃の上端縁からクロッチ部近傍の下端縁に向けて次第に幅狭となる逆台形状の腹部補整用裏打ち布と、前記本体布の後身頃に設けられ、内周が臀裂部上縁を中心とする略ハート形状に形成され、内周と外周とで仕切られる幅方向領域に臀溝部が位置する環状の臀部補整用裏打ち布とを備え、ウェスト側開口部近傍周部で前記腹部補整用裏打ち布と前記臀部補整用裏打ち布が連続するように配置され、前記ウェスト側開口部及び脚部側開口部がほつれ止め始末されずに切り放されている点にある。
【0012】
腹部補整用裏打ち布によって下腹部の膨らみや弛みが引き締められ、内周が略ハート形状に形成された帯状の臀部補整用裏打ち布のうち、最下部から左右斜め上方に湾曲するように延出した帯状領域によって臀溝部上方の弛みが持ち上げられ、持ち上げられた弛み部が臀部補整用裏打ち布の内周側の本体布部領域で外側に膨出することで効果的にヒップアップされ、美しいシルエットが形成される。
【0013】
そして、本体布部が熱変形性弾性糸とその他の糸が交編及び熱処理されて裁断部のほつれ止め始末が不要となるヨコ編地で構成されているため、ウェスト側開口部及び脚部側開口部がほつれ止め始末されずに切り放されていても、裁断縁でほつれが生じることが無い。しかも、ウェスト側開口部近傍周部で腹部補整用裏打ち布と臀部補整用裏打ち布が連続するように配置されているため、ウェスト側開口部に緊締用のゴムや弾性テープを設けなくても装着状態から衣類がずれ下がるようなことが無い。
【0014】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述の第一特徴構成に加えて、前記腹部補整用裏打ち布の左右端部が前記本体布に縫着され、上下端部が開放されている点にある。
【0015】
臀部に比べて皮膚感覚が敏感な腹部は、できるだけ刺激を与えないように、本体布と腹部補整用裏打ち布との縫着部位を極力少なくすることが望ましい。しかし、そのため一部領域で縫着を回避すると、洗濯時等に本体布と腹部補整用裏打ち布との間に繊維屑等が入り込むため、それを取り出すという煩雑な作業が要求される。そのような場合でも、上下端部が開放されていれば、何れから入り込んだ繊維屑であっても、本体布と腹部補整用裏打ち布との間に溜まるようなことがなくなり、また、容易に離脱させることができるので、良好な着心地が得られる衣類を実現できるようになる。
【0016】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第一または第二特徴構成に加えて、前記腹部補整用裏打ち布が弾性伸縮糸と合成繊維を交編した経編地で構成され、そのウェール方向が上下方向に配置されている点にある。
【0017】
伸縮性の経編地で構成される腹部補整用裏打ち布のウェール方向が上下方向に配置されると、ウェール方向よりも伸縮性が小さく、従って伸びが少なく緊締力が強いコース方向が、本体布を構成するヨコ編地のコース方向となる身周り方向に沿うことになる。ヨコ編地はコース方向へ大きく伸長するが、腹部補整用裏打ち布によって腹部の身周り方向への伸びが抑制され、良好な腹部の補整効果が得られるようになる。さらに、このような腹部補整用裏打ち布の左右幅広の上縁が前身頃の上端縁まで配置されているので、衣類のずれ下がり防止効果に優れる。
【0018】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述の第三特徴構成に加えて、前記腹部補整用裏打ち布の身周り方向の伸び率が前記本体布の身周り方向の伸び率より小さく設定され、前記腹部補整用裏打ち布の上下方向の伸び率が前記本体布の上下方向の伸び率より大きく設定されている点にある。
【0019】
上述の構成によれば、腹部補整用裏打ち布は身丈方向よりも身周り方向に締付作用が発現し、身丈方向の締付作用は本体布で発現するようになる。本体布と腹部補整用裏打ち布によって、腹部の身周り方向と身丈方向の締付作用が互いに補完され、全体として引き締め効果が得られるようになる。
【0020】
同第五の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述の第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記臀部補整用裏打ち布が弾性伸縮糸と合成繊維を交編した経編地で構成され、そのウェール方向が身周り方向に配置され、内外周部が前記本体布に縫着されている点にある。
【0021】
伸縮性の経編地で構成される臀部補整用裏打ち布のウェール方向が身周り方向に配置されると、ウェール方向よりも伸縮性が小さく従って緊締力が強いコース方向が、本体布を構成するヨコ編地のウェール方向となる身丈方向に沿うことになる。その結果、臀裂部上縁を中心とする帯状の臀部補整用裏打ち布の下方から左右両側に斜め方向に延びる帯状の円弧領域によって臀溝部から左右斜め上方領域の弛みが持ち上げられ、臀部補整用裏打ち布の内周のハート形状の内側の本体布領域で臀頂部が膨出し、良好なヒップアップ効果が得られる。
【0022】
さらに、帯状の臀部補整用裏打ち布の上方ウェスト側領域によって、腰周りの膨らみや弛み部が適度に締め付けられるとともに、腹部補整用裏打ち布の上縁側と協働して衣類がずれ下がることがないようにホールドされる。
【0023】
同第六の特徴構成は、同請求項6に記載した通り、上述の第五特徴構成に加えて、前記臀部補整用裏打ち布の身周り方向の伸び率が前記本体布の身周り方向の伸び率より小さく設定されている点にある。
【0024】
上述の構成によれば、身周り方向の伸び率が大きな本体布に対して、臀部補整用裏打ち布によって身周り方向への締付作用が発現するようになる。臀部補整用裏打ち布は、伸び率が大きいウェール方向が身周り方向に設定されているので、身周り方向への締付力が極端に大きくならず、臀部を優しく包み込むような着心地が醸し出されるようになる。さらに、ウェスト部の開口が広がるように伸長しやすいので着脱操作が容易になり、着用後にはウェスト部からのずり落ち防止効果が奏されるようになる。
【0025】
同第七の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述の第一から第六の何れかの特徴構成に加えて、後身頃上縁からクロッチ部まで後中心に沿って引上げ部が配置されている点にある。
【0026】
後身頃上縁からクロッチ部まで後中心に沿って配置された引上げ部によって、臀部補整用裏打ち布によるヒップアップ効果が強化されるとともに、後中心で本体布の膨出が抑制されるので、臀部が左右に分かれた美しいシルエットが得られるようになる。
【0027】
同第八の特徴構成は、同請求項8に記載した通り、上述の第一から第七の何れかの特徴構成に加えて、前記本体布は、熱変形性弾性糸と綿糸が交編及び熱処理されて裁断部のほつれ止め始末が不要となるフライス編地、天竺編地、またはスムース編地で構成されている点にある。
【0028】
本体布に綿を用いたフライス編地、天竺編地、またはスムース編地が用いられ、その編地のコース方向が身周り方向に設定されているため、身丈方向よりも身周り方向へ十分な伸びが確保され、衣類の着脱操作が容易になり、しかも着用時の圧迫感を緩和して優しく包み込まれるような着用感が得られ、着心地が大きく向上する。
【発明の効果】
【0029】
以上説明した通り、本発明によれば、着用圧を低減してソフトな着心地を実現しながらも十分な体形補整効果が得られ、アウターに響かない下半身用補整衣類を提供することができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の下半身用補整衣類を説明する。
図2(a),(b),(c)に示すように、下半身用補整衣類Aは、本体布1と、臀部補整用裏打ち布2と、腹部補整用裏打ち布3とを備えている。
【0032】
図1(a),(b),(c)に示すように、本体布1は、ウェスト部4からクロッチ部5および左右脚周り部6,7に達する前後身頃部1a、1bを有している。本体布1は、前身頃1aの上端縁からクロッチ部5近傍の下端縁に向けて次第に幅狭となる逆台形状の腹部生地片1cと、後身頃1bの後中心から左右に分離し、前身頃1aに到る二枚の脇部生地片1d、1dと、クロッチ部5に対応する生地片1eで構成され、腹部生地片1cの左右端部と各脇部生地片1d、1dが縫着されるとともに、脇部生地片1d、1d同士が後中心に沿って縫着されている。従って、脇部は無縫製となる。
【0033】
本体布1は、熱変形性弾性糸と綿糸が交編及び熱処理されて裁断部のほつれ止め始末が不要となるヨコ編地の一種である丸編地で構成されたフライス編地、天竺編地、又はスムース編地が使用され、ウェスト側開口部4a及び脚部側開口部6a,7aがほつれ止め始末されずに切り放されている。
【0034】
クロッチ部5は、本体布1と共生地で構成され、編地のウェール方向またはコース方向を本体布1に対して直交するように生地取りして本体布1の股部から左右脚周り部6,7の内股部に亘って縫着されるとともに肌側に綿の平編生地が配置され、直接装着することができるように構成されている。
【0035】
ほつれ止め加工のヨコ編地について詳述する。当該ヨコ編地は、熱変形性弾性糸として低融点ポリウレタン弾性糸のような熱融着性弾性糸とそれ以外の糸(本実施形態では、綿糸)をプレーティング編みで編成し、ヒートセット加工で熱変形性弾性糸を溶融することによりほつれ止め加工された編み地である。プレーティング編みは、地糸と弾性糸などの別の糸をそれぞれ別の給糸口から編み針に給糸する方法、または張力を調整するなどして同一の給糸口から編み針に給糸する方法により、編成ループにおいて地糸と別の糸の配置が安定的に定まる。
【0036】
従って、熱変形性弾性糸とそれ以外の糸とを別の給糸口から編み針に給糸して編み立てられたプレーティング編地は、各編成ループにおける熱変形性弾性糸とそれ以外の糸との配置が安定しているため、全てのループに熱変形性弾性糸を隣接させることができ、ヒートセット加工等により熱変形性弾性糸を溶融すれば、編地の全てのループで確実にほつれ止め機能が実現できる。
【0037】
熱変形性弾性糸として低融点ポリウレタン弾性糸のような熱融着性弾性糸を用いる以外に、ポリウレタンウレア弾性繊維を用いることも可能である。ヒートセット加工等の加熱加工によりポリウレタンウレア弾性繊維同士またはポリウレタンウレア弾性繊維と相手糸との接触点でポリウレタンウレア弾性繊維の圧縮変形が発生し、ポリウレタンウレア弾性繊維同士またはポリウレタンウレア弾性繊維への相手糸の固着が生じるため、編地からのポリウレタンウレア弾性繊維や相手糸が抜けにくくなり、カールやほつれが抑制された編地を得ることができる。つまり、加熱処理により溶融し或いは圧縮変形するような特性を備えた熱変形性弾性糸であればこれらに限るものではない。
【0038】
下半身用補整衣類Aは、この編地のコース方向が本体布1の身周り方向に設定され、ウェール方向が本体布1の身丈方向となるように構成されている。
【0039】
図2(a),(b)に示すように、腹部補整用裏打ち布3は、本体布1の前身頃1aに設けられ、腹部生地片1cに対応して、前身頃1aの上端縁からクロッチ部5近傍の下端縁に向けて次第に幅狭となる逆台形状の生地片で、左右端部が本体布1の腹部生地片1cとともに脇部生地片1dに縫着されている。さらに、臀部に比べて皮膚感覚が敏感な腹部は、できるだけ刺激を与えないように、本体布と腹部補整用裏打ち布との縫着部位を極力少なくすることを目的として、腹部補整用裏打ち布3の上下端部が開放されている。
【0040】
上下端部の何れかが本体布1に縫着されていると、洗濯時等に本体布1と腹部補整用裏打ち布3との間に繊維屑等が入り込むため、それを取り出すという煩雑な作業が要求される。そのような場合でも、上下端部が開放されていれば、何れから入り込んだ繊維屑であっても、本体布1と腹部補整用裏打ち布3との間に溜まるようなことがなくなり、また容易に離脱させることができる。
【0041】
腹部補整用裏打ち布3は、ポリウレタン等の弾性伸縮糸とナイロン等の合成繊維を交編した経編地であるパワーネットで構成され、そのウェール方向が上下方向に配置されている。
【0042】
腹部補整用裏打ち布3のウェール方向が上下方向に配置されると、ウェール方向よりも伸縮性が小さく、従って伸びが少なく緊締力が強いコース方向が、本体布1を構成するヨコ編地のコース方向となる身周り方向に沿うことになる。
【0043】
ヨコ編地はコース方向へ大きく伸長するが、腹部補整用裏打ち布によって腹部の身周り方向への伸びが抑制され、良好な腹部の補整効果が得られるようになる。さらに、このような腹部補整用裏打ち布の左右幅広の上縁が前身頃の上端縁まで配置されているので、衣類のずれ下がり防止効果に優れる。
【0044】
腹部補整用裏打ち布3の身周り方向の伸び率が本体布1の身周り方向の伸び率より小さく設定され、腹部補整用裏打ち布3の上下方向の伸び率が本体布1の上下方向の伸び率より大きく設定されている。
【0045】
図2(b),(c)に示すように、臀部補整用裏打ち布2は、本体布1の後身頃1bに設けられ、内周が臀裂部上縁P1を中心とする略ハート形状に形成され、内周と外周とで仕切られる幅方向領域に臀溝部P2が位置するように配置された環状の生地片で、内周部及び外周部が弾性糸を用いて本体布1に縫着されている。
【0046】
臀部補整用裏打ち布2も、ポリウレタン等の弾性伸縮糸とナイロン等の合成繊維を交編した経編地であるパワーネットで構成され、そのウェール方向が身周り方向に配置されている。
【0047】
臀部補整用裏打ち布2のウェール方向が身周り方向に配置されると、ウェール方向よりも伸縮性が小さく、従って伸びが少なく緊締力が強いコース方向が、本体布1を構成するヨコ編地のウェール方向となる身丈方向に沿うことになる。
【0048】
その結果、臀裂部P1上縁を中心とする帯状の臀部補整用裏打ち布2の下方から左右両側に斜め方向に延びる帯状の円弧領域R1によって臀溝部P2から左右斜め上方領域の弛みが持ち上げられ、臀部補整用裏打ち布2の内周のハート形状の内側の本体布1領域R2で臀頂部領域が膨出し、良好なヒップアップ効果が得られる。
【0049】
帯状に形成された臀部補整用裏打ち布2の上方ウェスト領域R2によって、腰周りの膨らみや弛み部が適度に締め付けられるとともに、腹部補整用裏打ち布3の上縁側と協働して衣類がずれ下がることがないようにホールドされる。特に、上方ウェスト領域R2の上下幅が後中心近傍で脇部よりも幅広に形成されているので、十分なホールド力が発揮される。
【0050】
臀部補整用裏打ち布2の身周り方向の伸び率が本体布1の身周り方向の伸び率より小さく設定され、臀部補整用裏打ち布2の上下方向の伸び率が前記本体布の上下方向の伸び率より大きく設定されている。
【0051】
図2(a),(b),(c)に示すように、ウェスト側開口部4a近傍の周部で腹部補整用裏打ち布3と臀部補整用裏打ち布2が連続するように配置されているので、ウェスト側開口部4aに緊締用のゴムや弾性テープを設けなくても装着状態から衣類がずれ下がるようなことが無い。
【0052】
さらに、
図2(c)に示すように、後身頃1b上縁からクロッチ部5まで後中心に沿ってポリウレタンが交編された引上げ部8が縫着されている。
【0053】
引上げ部8によって、臀部補整用裏打ち布2によるヒップアップ効果が強化されるとともに、後中心で本体布1の膨出が抑制され、臀部が左右に分かれた美しいシルエットが得られるようになる。
【0054】
つまり、上述の構成によれば、腹部補整用裏打ち布3によって下腹部の膨らみや弛みが引き締められ、内周が略ハート形状に形成された帯状の臀部補整用裏打ち布2のうち、最下部から左右斜め上方に湾曲するように延出した帯状領域R1によって臀溝部P2上方の弛みが持ち上げられ、持ち上げられた弛み部が臀部補整用裏打ち布2の内周側の本体布部1領域で外側に膨出することで効果的にヒップアップされ、美しいシルエットが形成される。
【0055】
そして、本体布部1が熱変形性弾性糸とその他の糸が交編及び熱処理されて裁断部のほつれ止め始末が不要となるヨコ編地で構成されているため、ウェスト側開口部4a及び脚部側開口部6a,7aがほつれ止め始末されずに切り放されていても、裁断縁でほつれが生じることが無い。
【0056】
臀部補整用裏打ち布2についてさらに詳述する。
図3に示すように、臀部補整用裏打ち布2は、後身頃1bの左右方向中央部におけるクロッチ部5よりも上方で臀頂部相当ラインL1よりも下方の位置P3,P3から臀頂部相当ラインL1との交点P4,P4まで下向き凸の円弧状曲線C1として一連に形成された上縁と、クロッチ部5よりも下方で左右脚周り部6,7の内股部P5,P5から左右両側斜め上方の左右両側脇部P6,P6を経て前身頃1a側の腹部補整用裏打ち布3との交点まで下向き凸の円弧状曲線C2として一連に形成された下縁とで囲まれた下向き凸円弧帯状部を備えている。
【0057】
凸円弧帯状部の幅寸法(P3からP5までの寸法)は、クロッチ部5から上縁のP3までの寸法d1に対して、クロッチ部5から下縁のP5までの寸法d2の方を大きく設定してある。これによって、臀部補整用裏打ち布2による臀部下方のサポート幅を広幅とすることができ、この臀部補整用裏打ち布2の左右方向両端が斜め上のウェスト部4側の臀部補整用裏打ち布2に連続させることによって、ヒップアップ機能を向上させることができる。
【0058】
具体的には、臀部補整用裏打ち布2の後身頃1b側の左右方向中央部におけるクロッチ部5から上縁のP3までの寸法d1と、クロッチ部5から下縁のP5までの寸法d2とは、3.0cm:3.6cm〜8.7cm=1:1.2〜2.9の範囲に設定されている。尚、寸法d1に対するd2の比が1.2以下では臀部下方のサポート幅が不足してヒップアップ機能が低下し、2.9以上では臀部下方のサポート幅が過剰となって却って着心地を悪化させることになる。
【0059】
図5には、本体布1と、腹部補整用裏打ち布3と、臀部補整用裏打ち布2の伸縮強度の特性データが示されている。
各編地(試験片)の伸度(%)及びパワー(mN)は、定荷重時伸び率(カットストリップ法)を採用して計測された値である。定荷重時伸び率(カットストリップ法)は、JIS L 1018に基づいて計測され、試験片の大きさ幅2.5cm×長さ20cm、つかみ間隔:10cm、初荷重:29mN、引張速度:1分間当たりつかみ間隔の100%の伸張とし、一定荷重を9.81N,14.70N,22.10Nにそれぞれ設定したときの伸度(%)、伸長率が30%、50%、80%、50%、30%と順に変化させたときのパワー(mN)が
図5に示されている。
【0060】
データに基づけば、腹部補整用裏打ち布3の身周り方向の伸び率が本体布1の身周り方向の伸び率より小さく設定され、腹部補整用裏打ち布3の上下(身丈)方向の伸び率が本体布1の上下(身丈)方向の伸び率より大きく設定されていることが判る。
【0061】
つまり、腹部補整用裏打ち布3は身丈方向よりも身周り方向に締付作用が発現し、身丈方向の締付作用は本体布1で発現するのであり、本体布1と腹部補整用裏打ち布3によって、腹部の身周り方向と身丈方向の締付作用が互いに補完され、全体として引き締め効果が得られるようになる。また、腹部補整用裏打ち布3が配置されていない鼠径部には締付作用が作用しないため、リンパや血液の流れが阻害されることなく、良好な着用感が得られる。
【0062】
本体布に対する腹部補整用裏打ち布の身周り方向での伸度比は、0.10から0.30の範囲が好ましく、0.15から0.20の範囲がより好ましい。0.10よりも小さければ締付感が強くなるが、それほど体形補整効果が顕著にはならず、0.30よりも大きければ、体形補整効果が得られず、ウェスト部からずり落ちやすくなる。
【0063】
本体布1に対する腹部補整用裏打ち布3の身丈方向での伸度比は、特に制限されることは無く、1より大きければよい。
【0064】
また、臀部補整用裏打ち布2の身周り方向の伸び率が本体布1の身周り方向の伸び率より小さく設定されている。
【0065】
つまり、身周り方向の伸び率が大きな本体布1に対して、臀部補整用裏打ち布2によって身周り方向への締付作用が発現するように構成されている。ここで、臀部補整用裏打ち布2は、伸び率が大きいウェール方向が身周り方向に設定されているので、身周り方向への締付力が極端に大きくならず、臀部を優しく包み込むような着心地が醸し出されるようになる。さらに、ウェスト部の開口が広がるように伸長しやすいので着脱操作が容易になり、着用後にはウェスト部からのずり落ち防止効果が奏されるようになる。
【0066】
臀部補整用裏打ち布2の身丈方向の伸び率が本体布1の身丈方向の伸び率より若干大きな値に設定されているが、それほど大きな違いが無く、身丈方向に沿って臀部を持ち上げる作用は、本体布1と臀部補整用裏打ち布2の双方により発現するように構成されている。
【0067】
本体布に対する臀部補整用裏打ち布の身周り方向での伸度比は、0.40から0.70の範囲が好ましく、0.50から0.60の範囲がより好ましい。0.70よりも大きければ締付感が弱く、補整効果が得られないばかりか、ウェスト部からずり落ちやすくなり、0.40より小さければ、締付感が強くなり、不快に感じる傾向が強くなる。
【0068】
本体布に対する臀部補整用裏打ち布の身丈方向での伸度比は、1.50以下であればよい。1.50以上であれば身丈方向に沿って臀部を持ち上げる作用が弱くなる。
【0069】
図4(a),(b),(c)には、本発明の下半身用補整衣類による体形補整機能と、従来の締付力が強いガードルによる体形補整機構を比較評価した結果が示されている。
【0070】
図4(a)は、従来のパワーネット生地のみで構成された締付力の強いガードルを装着したときの側部体形線図と、そのときの三次元形状計測写真が示されている。左側の側部体形線図の破線は、ヌード時の輪郭が示され、ガードル装着時の輪郭が実線で示されている。当該ガードルにより、大腿部、下腹部、臀部が締め付けられ、ヒップアップを含めて体形が補整されていることが判る。しかし、右の三次元形状計測写真でも判るように、ウェスト部が肌に食い込み、その上部Mで皮下脂肪が肌から膨出していることも確認された。
【0071】
図4(b)は、本発明による下半身用補整衣類を装着したときの側部体形線図と、そのときの三次元形状計測写真が示されている。左側の側部体形線図の破線は、ヌード時の輪郭が示され、下半身用補整衣類装着時の輪郭が実線で示されている。当該下半身用補整衣類によっても、大腿部、下腹部、臀部が締め付けられ、ヒップアップを含めて体形が補整されていることが判る。しかも、右の三次元形状計測写真でも判るように、ウェスト部は肌に食い込むことなく、下半身用補整衣類からその上部肌側にかけてなめらかな曲線が描かれている。
【0072】
図4(a),(b)の三次元形状計測写真を対比すると、ともに臀部の等高線が同じ様な形状を示し、同様のヒップアップ効果が得られることが判明した。つまり、締付力が強ければそれだけ体形補整効果が高くなるのではなく、汎用のヨコ編地で本体布を構成しても伸縮性の裏打ち布との締付力のバランスを図ることで、楽な着心地で十分に体形が補整できるのである。
【0073】
図4(c)には、従来のガードルを装着したときの輪郭が破線で示され、本発明による下半身用補整衣類を装着したときの輪郭が実線で示されている。従来のガードルを装着したときの方が多少スリムになるが、ウェスト部Mの膨出が発現しない点で優れている。
【0074】
臀部補整用裏打ち布及び腹部補整用裏打ち布がパワーネットで構成される例を説明したが、伸縮性の裏打ち布はパワーネット以外にサテンネットやトリコネット等のタテ編地を用いることも可能である。
【0075】
上述の実施形態は、本発明の一例であり、該記載により本発明の範囲が限定されるものではなく、編地の種類、編地の厚さ、使用する糸種や太さ等、具体的な態様は同様の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計することができる。