【文献】
高野 翔史 外1名,“多層構造モデルによる皮膚と口唇の光伝播解析: 測定系に関する検討”,2010年春季第57回応用物理学関係連合講演会講演予稿集,社団法人応用物理学会,2010年 3月 3日,p.03-140
【文献】
土居 元紀 外5名,“クベルカ−ムンク理論に基づいたファンデーション塗布肌の分光反射率の推定”,電子情報通信学会論文誌 (J92−D) 第9号,日本,社団法人電子情報通信学会,2009年 9月 1日,第J92-D巻,第9号,p.1602〜1612
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、開示の技術に係る実施の形態について詳細に説明する。
【0010】
<肌画像シミュレーション装置:機能ブロックの構成例>
図1は、本実施形態に係る肌画像シミュレーション装置の機能ブロック図である。本実施形態に係る肌画像シミュレーション装置は、例えば毛穴等の凹凸形状や、ファンデーション等の化粧料の塗布むら等を踏まえた不均一な層構造を有した皮膚モデルを形成する。これにより、形成された皮膚モデルを用いて、例えばモンテカルロ法等により、精度の高い肌や塗布肌のシミュレーションを行うことが可能となる。
【0011】
図1に示すように、肌画像シミュレーション装置10は、入力手段11と、出力手段12と、記憶手段13と、皮膚モデル形成手段14と、光学特性設定手段15と、輝度分布算出手段16と、画像形成手段(肌画像形成手段)17と、制御手段18とを有するように構成される。
【0012】
入力手段11は、例えばキーボードや、マウス等のポインティングデバイス、タッチパネル等から構成され、ユーザ等からの各種指示の開始、終了等の入力を受け付ける。
【0013】
出力手段12は、例えばディスプレイ等の表示画面から構成され、入力手段11により入力された内容や、入力内容に基づいて実行された内容等の表示、出力を行う。
【0014】
記憶手段13は、例えば皮膚モデル形成手段14により得られた皮膚モデルや、光学特性設定手段15により得られた光学特性、輝度分布算出手段16により得られた輝度分布等の各種データを記憶する。また、記憶手段13は、必要に応じて記憶されている各種データを読み出すことが可能である。
【0015】
皮膚モデル形成手段14は、例えばモンテカルロ法によりシミュレーションを行うため、皮膚組織を示す層構造の皮膚モデルを形成する。皮膚モデル形成手段14は、例えば皮膚モデルの層を構成する層界面を示す皮膚モデル形成データを用いることにより、層界面に凹凸を付与した皮膚モデルを形成する。
【0016】
また、皮膚モデル形成手段14は、例えば層界面を交差させた皮膚モデル形成データを用いて皮膚モデルを形成する。なお、皮膚モデル形成手段14は、皮膚モデル形成データにおける層界面が交差した皮膚の領域では、下位の層界面を優先させて皮膚モデルを形成すると良い。
【0017】
また、皮膚モデル形成手段14は、例えば4辺の高さを揃えるため、単位となる所定の領域の皮膚モデルを縦方向及び横方向に折り返して4倍にした皮膚モデルを繰り返した構造とする。なお、皮膚モデル形成手段14は、このように形成された構造においてそれぞれの皮膚モデルの境界を設けないことで、例えば無限に広い領域に照射されている状態を計算することが可能となる。
【0018】
また、皮膚モデル形成手段14は、例えばパウダリーファンデーション等の化粧料が塗布された塗布肌の皮膚モデルを形成しても良い。また、皮膚モデル形成手段14は、例えば皮膚モデルを区画化して形成することで皮膚の色むらやパウダリーファンデーション等の塗布むら等の不均一な層構造を有する領域を自由に設定することが可能となる。
【0019】
光学特性設定手段15は、皮膚モデル形成手段14により得られた皮膚モデルに含まれる層ごとに光学特性を設定する。例えば、皮膚の光学測定結果とシミュレーションによる結果との照合から、角層、表皮、真皮等の層ごとに、屈折率(n)、散乱係数(σs)、吸収係数(σa)、歪み係数(g)、媒体吸収係数、凹凸パラメータ(C
1、C
2)、双方向反射率分布関数(BRDF:Bi−directional Reflectance Distribution Function)、双方向透過率分布関数(BTDF:Bi−directional Transmittance Distribution Function)等の光学特性を設定することが可能である。
【0020】
輝度分布算出手段16は、光学特性設定手段15により得られた光学特性を用いて、上述した皮膚モデルの輝度分布を算出する。ここで、輝度分布算出手段16は、例えばモンテカルロ法を用いて皮膚モデルの輝度分布を算出すると良い。
【0021】
画像形成手段17は、輝度分布算出手段16により得られた輝度分布を用いて、皮膚モデルの肌画像を形成する。なお、画像形成手段17は、予め設定した入射角度、視線角度、画素数、検索半径等の条件に基づき、例えば輝度分布を画素ごとの反射率として求め、求めた反射率をXYZ刺激値へ変換し、変換したXYZ刺激値からRGBに変換することで、ビットマップ等から画像を形成すると良い。
【0022】
制御手段18は、肌画像シミュレーション装置10の各構成部全体の制御を行う。
【0023】
上述した構成を有することにより、肌画像シミュレーション装置10は、不均一な層構造の皮膚モデルを用いて肌画像のシミュレーションを行うことが可能となる。
【0024】
<肌画像シミュレーション装置:ハードウェア構成例>
図2は、本実施形態に係る肌画像シミュレーション装置のハードウェア構成図である。
図2に示すように、肌画像シミュレーション装置10は、入力装置21と、出力装置22と、ドライブ装置23と、補助記憶装置24と、メモリ装置25と、演算処理装置(CPU:Central Processing Unit)26と、ネットワーク接続装置27と、記録媒体28とを有するように構成され、それぞれシステムバスBで相互に接続されている。
【0025】
なお、
図2に示す肌画像シミュレーション装置10を構成する各種デバイスは1つの筐体に収容しても良く、複数の筐体に分散して収容しても良い。
【0026】
入力装置21は、ユーザが操作するキーボード、マウス等のポインティングデバイスや、ユーザが操作するタッチパネル等であり、ユーザからの肌画像シミュレーションプログラムの実行等、様々な操作指示を入力するために用いられる。
【0027】
出力装置22は、本実施形態に係る各処理を実行するコンピュータ本体を操作するのに必要な各種ウィンドウやデータ等を表示するディスプレイ等であり、演算処理装置26が有する制御プログラムにより肌画像シミュレーションプログラム等の実行経過や結果等を表示する。
【0028】
肌画像シミュレーションプログラム等の実行プログラムは、CD−ROM等の記録媒体28によって提供される。記録媒体28は、ドライブ装置23にセットされ、記録媒体28に含まれる実行プログラムは、記録媒体28からドライブ装置23を介して補助記憶装置24にインストールされる。
【0029】
なお、プログラムを記録した記録媒体28は、CD−ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク(MO)等の情報を光学的、電気的或いは磁気的に記録する記録媒体、又はROM、フラッシュメモリ等の情報を電気的に記録する半導体メモリ等、様々なタイプの記録媒体を用いることが可能である。
【0030】
補助記憶装置24は、ハードディスク等のストレージ手段であり、肌画像シミュレーションプログラム等の実行プログラムや、コンピュータに設けられた制御プログラム、そのプログラムの処理に必要な各種ファイル、各種データ等を蓄積し、必要に応じて入出力を行う。
【0031】
メモリ装置25は、演算処理装置26により補助記憶装置24から読み出された実行プログラム等を格納する。なお、メモリ装置25は、ROMやRAM等を含む。
【0032】
演算処理装置26は、OS等の制御プログラム、メモリ装置25に格納されている肌画像シミュレーションプログラム等の実行プログラムに基づいて、各種演算や各ハードウェア構成部とのデータの入出力等、コンピュータ全体の処理を制御して各処理を実現する。また、プログラムの実行中に必要な各種情報は、補助記憶装置24から取得し、また格納する。
【0033】
ネットワーク接続装置27は、通信ネットワーク等と接続することにより、肌画像シミュレーションプログラム等の実行プログラムを通信ネットワークに接続されている他の端末等から取得したり、プログラムを実行することで得られた実行結果又は肌画像シミュレーションプログラム等の実行プログラム自体を他の端末に提供したりする。
【0034】
上述したハードウェア構成により、特別な構成を必要とせず、低コストで効率的に肌画像シミュレーション処理を実現する。また、プログラムをインストールすることにより本実施形態に係る肌画像シミュレーション処理を容易に実現することができる。なお、上述したハードウェア構成は、例えば汎用PC等を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0035】
<肌画像シミュレーション処理>
図3は、本実施形態に係る肌画像シミュレーション処理のフローチャートである。
図3に示すように、肌画像シミュレーション装置10は、皮膚モデル形成手段14により皮膚の層構造を設定する(S10)。ここで、皮膚モデル形成手段14は、例えば毛穴、塗布肌等のシミュレーションする皮膚モデルに応じて層構造を設定すると良い。なお、層構造の設定手順については後述する。
【0036】
次に、肌画像シミュレーション装置10は、光学特性設定手段15によりS10の処理で設定した皮膚モデルに含まれる各層に対して皮膚の光学特性を波長ごとに設定する(S11)。
【0037】
ここで、光学特性設定手段15で設定する各層の光学特性には、例えば、予め上腕内側部位の素肌、塗布肌に対して、約0.6mm系の範囲に白色光を照射し、分光フィルター(例えば400〜700nm:20nmステップ)を備えたCCD(Charge Coupled Device)カメラを用いて撮影し、照射中心からの距離に対する強度分布及び標準白色板(硫酸バリウム等)との相対値をシミュレーションとの比較により決定した光学特性等を用いると良い。
【0038】
なお、上述したシミュレーションにおいて肌上でのファンデーションの塗布厚みを例えば10μmとした場合に等価散乱係数(σ
s(1−g))で肌のおおよそ30倍と見積もられたが、このような大きな等価散乱係数となるのは、ファンデーションにおける色むら等を隠蔽する機能によるものといえる。
【0039】
次に、肌画像シミュレーション装置10は、例えば画像形成手段17によりS10の処理で形成される皮膚モデルの輝度分布を算出するための条件を設定する(S12)。ここでは、例えば入射角度(例えば45°)や、視線角度(例えば0°(真上から観察した場合))、画素数(例えば512×512)、検索半径(例えば皮膚モデルの一辺が5mmの場合には、約25μm)等を設定すると良い。
【0040】
次に、輝度分布算出手段16により、S12の処理で設定された光学特性を用いて、S13の処理で設定された条件に基づき、S10の処理で設定された皮膚モデルの輝度分布を算出する(S13)。
【0041】
ここで、輝度分布算出手段16は、皮膚モデルの最表面上の位置ベクトルxにおけるベクトルω方向への輝度L(x,ω)を、ベクトルxを中心とする検索円面積△Aの範囲に、光線追跡の結果、表側から到達した光線△Φ’
p(ω’)と、内部から到達した光線△Φ”
p(ω”)とから、以下に示す(式1)を用いて輝度分布を算出する。
【0042】
なお、皮膚モデルの最表面上の位置ベクトルxは、例えば皮膚モデル上に設けられたスクリーン上の位置(α、β)から視線ベクトルを投下した交点である。
【0044】
ここで、ベクトルω’、ベクトルω”は検索円への入射方向を表す。また、N’、N”は、それぞれ△Aに表側から到達した光線の数と内部から到達した数を表す。f
r、f
tは、入射束の入射方向から視線方向への輝度に変換する関数を表す。f
r、f
tは、△A内に、所定の分布にしたがった方向に法線をもつ、例えば鏡面反射・透過する微小な凹凸面(マイクロファセット)が多数存在すると仮定したモデル等により算出する。
【0045】
次に、画像形成手段17により、輝度分布算出手段16により得られた輝度分布を用いて画像を形成する(S14)。ここでは、例えば輝度L(x,ω)が画素ごとに反射率ρ(α,β)として求められるため、XYZ刺激値へと変換し、変換したXYZ刺激値をRGBに変換することで、ビットマップ等から画像を形成することが可能となる。
【0046】
次に、肌画像シミュレーション装置10は、処理を終了するか否か判断し(S15)、処理を終了しないと判断した場合には(S15において、NO)、S10の処理に進む。また、処理を終了すると判断下場合には(S15において、YES)、処理を終了する。
【0047】
<皮膚モデルの多層構造>
図4は、本実施形態で用いられる皮膚モデルの多層構造を説明するための図である。なお、
図4(A)は、インターセクト(交差)するレイヤー(層)の一例を示す図であり、
図4(B)は、レイヤーの優先ルールを説明するための図である。
図4(C)は、適当に加工したレイヤーを組み合わせた構造の一例を示す図である。
【0048】
図4(A)に示すように、例えばインターセクトするレイヤーに対して、例えば上位層(表面層)からそれぞれ順番に番号(0〜4)を設定する。また、本実施形態では、異なる各レイヤーの層界面どうしが交差する部分がある場合に、設定したレイヤーの番号のうち大きい番号(下位層、深層)のレイヤーを優先する優先ルールを設ける。
【0049】
図4(B)に示すように、上述した大きい番号のレイヤーを優先する優先ルールにより、0番のレイヤーと1番のレイヤーとが重なっている領域では1番のレイヤーが優先され、1番のレイヤーと2番のレイヤーとが重なっている領域では2番のレイヤーが優先されている。このように、各層における優先ルールを設定することで、層構造が一意的に定まる。
【0050】
例えば、
図4(C)の例では、適当に加工したレイヤー(形状データ)を組み合わせ、レイヤーの層界面どうしが部分的に交差しても良いとし、レイヤーの層界面が交差している領域では番号の小さいレイヤーの層界面(
図4(C)に示す点線0のレイヤー)を無視するように設定する。これにより、例えば凹部にファンデーション30が入り込んだ塗布肌モデルを形成することが可能となる。
【0051】
上述したように、例えば肌の表面形状データを適宜加工したレイヤー(皮膚モデル形成データ)を組み合わせることで、例えば毛穴内部の角栓や、乳頭層周囲の濃いメラニン層、ファンデーションの塗布むら等を踏まえた不均一な層構造を容易にモデリングすることが可能となる。
【0052】
<毛穴モデルの多層構造>
図5は、毛穴モデルの多層構造を説明するための図である。なお、
図5(A)は、毛穴モデルを作成するレイヤー(皮膚モデル形成データ)の一例を示し、
図5(B)は、優先ルールにより得られた毛穴モデルの多層構造の一例を示し、
図5(C)は、毛穴内部の共焦点画像の一例を示す図である。
【0053】
図5(A)に示すように、例えば毛穴モデルの多層構造では、例えば毛穴の中心部分の層構造を基準にインターセクトするレイヤーに対して番号(0〜5)を設定し、
図5(B)に示すように、レイヤーの層界面が交差している領域では優先ルールにしたがって番号の小さいレイヤーの層界面を無視するように構成すると良い。
【0054】
これにより、例えば毛穴内部の角栓31や、角栓31の下にある汚れ32、毛穴周囲にある真皮乳頭層33が林立した構造、その周囲を取り囲むメラニン層34を有する毛穴モデルを形成することが可能となる。また、このような毛穴の特異な構造が外観に及ぼす影響(例えば毛穴色等)を把握することも可能となる。
【0055】
図5(B)の毛穴モデルは、例えば
図5(C)に示す毛穴内部の各部位の画像と同様の構造を形成している。
【0056】
<毛穴モデルの作成例>
図6は、皮膚モデル形成データにより作成される毛穴モデルの一例を示す図である。
図6(A)は、毛穴の外形(上位層)に対応する層界面の一例を示し、
図6(B)は、真皮乳頭層(下位層)に対応する層界面の一例を示し、
図6(C)は、毛穴モデルの断面を示す図である。
【0057】
図6(A)〜
図6(B)の例では、例えばガウス関数を展開して作成した毛穴の外形(例えば角層)と真皮乳頭層とをそれぞれ示している。
図6(A)に示す毛穴の外形と、
図6(B)に示す真皮乳頭層とは、それぞれ高さ(深さ)データに応じて作成されている。
【0058】
例えば、
図6(A)に示す毛穴の外形は、皮膚表面「0」を基準として深さ−60(μm)を有する層構造として形成されている。また、
図6(B)に示す真皮乳頭層は、皮膚表面「0」を基準として高さ20(μm)から深さ−60(μm)を有する層構造として形成されている。なお、
図6(A)及び
図6(B)に示すグラフ上の縦軸の数値に「0.001」を掛けると「μm」に変換される。
【0059】
皮膚モデル形成手段14は、
図6(A)〜
図6(B)に示す予め作成した毛穴部分における皮膚の層構造の皮膚モデル形成データを、
図6(C)に示す層構造の順番どおりに並べて組み合わせていくことで毛穴モデルを作成する。
【0060】
図6(C)の断面図では、真皮乳頭層(真皮淡色層1)が表皮(表皮淡色層及び表皮濃色層)を貫通した構造を示しているが、上述した下位にある層界面(上述した大きい番号に設定したレイヤーの層界面)を優先する優先ルールを設けることで実際の肌構造と同様のモデルを形成することが可能となる。
【0061】
なお、上述の皮膚モデル形成方法によれば、例えば内部層の一部が分離した構造の場合でも、陽曲面を組み合わせることで簡単にモデル化することが可能となる。
【0062】
<皮膚モデルを構成する層>
図7は、本実施形態で用いる皮膚モデルを構成する層を説明するための図である。
図7に示すように、本実施形態で用いる皮膚モデルには、例えば5層により構成された皮膚モデルを用いると良い。具体的には、例えば第1層を角層とし、第2層、第4層に肌色を構成する代表的な色素成分であるメラニンとヘモグロビンの吸収に対応する層をそれぞれ配置し、第3層、第5層に淡色層をそれぞれ設けると良い。
【0063】
上述した5層の皮膚モデルでは、例えば第2層におけるメラニンや第4層におけるヘモグロビンの濃さを変えることにより、様々な肌色を表現することが可能である。なお、本実施形態で用いる皮膚モデルはこれには限定されず、例えば上述した特許文献1で示されている9層の皮膚モデルを用いても良い。
【0064】
<皮膚モデルの設定手順>
図8は、本実施形態で用いる皮膚モデルの設定手順を説明するための図である。
図8(A)は、皮膚モデルの層構造の断面を示し、
図8(B)は、層構造を設定するためのテーブルの一例を示し、
図8(C)は、皮膚モデルの平面を示し、
図8(D)は、皮膚モデルの平面に対応して設定された光学IDの分布情報の一例を示す。
【0065】
また、
図8(E)は、各層の光学特性を設定するためのテーブルの一例を示し、
図8(F)は、
図8(E)に示す各層に対して波長ごとに設定される光学特性情報の一例を示す。
【0066】
例えば、
図8(A)に示す層構造の皮膚モデルの場合には、
図8(B)に示すテーブルで格納される形状ファイル(皮膚モデル形成データ)を用いて、本実施形態に対応する層構造の皮膚モデルが設定される。
【0067】
例えば、
図8(A)に示す層構造では、例えば光学ID「0」、「2」〜「5」を有する各層が、それぞれ深さ「0μm」、「−6μm」、「−80μm」、「−15.0mm」を基準として配置されている。
【0068】
図8(B)に示すテーブルでは、
図8(A)に対応させた各層の基準となる深さと、その深さに対応して設定される各層の形状ファイル名と、各層に対応した光学特性を示す光学IDが示されている。なお、各層の形状ファイル名により、例えば上述した
図6に示す皮膚の層構造の皮膚モデル形成データが特定される。
【0069】
ここで、例えば皮膚モデルの層構造のうち、不均一な層構造を設定したい場合には、例えば
図8(B)に示す光学IDの項目に、不均一な層構造を設定したファイル名を入力すると良い。
図8(D)に示すファイルには、
図8(C)に示すように、例えば皮膚モデルを真上から見てメッシュ状に分け、それぞれのメッシュ(区画化した領域)に対応した位置に光学IDの分布情報が格納されている。
【0070】
図8(E)に示すテーブルでは、各層に対して設定される光学IDと、各層の光学特性ファイル名が示されている。なお、上述した
図8(D)に示すファイルには、
図8(E)に示すテーブルで設定された白真皮に対応する「4」の光学IDと、赤真皮に対応する「5」の光学IDが設定されている。
【0071】
このように、層構造の所定の領域ごとに光学IDを割り振ることにより、不均一な層構造の形成を可能とするとともに、上述した設定により大量の光学特性を容易に管理することが可能となる。
【0072】
<皮膚モデルの凹凸層状モデル>
図9は、皮膚モデルで用いられる凹凸層状モデルについて説明するための図である。
図9(A)は、皮膚モデルの断面を示し、
図9(B)は、レーザ深度計(VK9700 Keyence)で得られる界面形状の一例を示している。
【0073】
図9(A)に示すように、皮膚モデルの設定では、
図9(B)に示す界面形状を、例えば単位皮膚モデルとして折り返し繰り返す構造とし、それぞれの界面形状の側面の境界を設けないようにすることで、例えば無限に広い凹凸層状モデルとする。なお、
図9(B)に示す界面形状は、例えば頬部から採取したシリコンレプリカの高さ計測データを用いても良いが、簡単な関数から生成した曲面を用いても良い。
【0074】
<皮膚モデルの区画化>
図10は、皮膚モデルの区画化について説明するための図である。
図10(A)は、
図9(A)に示す凹凸層状モデルを区画化した断面を示し、
図10(B)は、区画化した領域の一部分を示す図である。
【0075】
図10(A)に示すように、本実施形態では皮膚モデルに用いる凹凸層状モデル(層番号「0」〜「3」)を所定の領域で区画化する(例えば区画番号「0」〜「5」、区画番号「−6」〜「−1」)。
【0076】
この区画化は、例えば
図9(B)に示す界面形状を、層ごと(例えば層番号「0」〜「3」)に区画化するものであり、例えば平面から見た場合、
図8(C)に示すメッシュ状(例えば等間隔)の領域に区画化されるものである。
【0077】
なお、本実施形態において区画化を行う際には、
図10(B)に示すように格子状の4点(2つの三角形)からなる面を基準に区画化すると良い。例えば、層番号「2」の区画番号「2」の空間領域で区画化する場合には、上面(層番号「1」と層番号「2」との境界面ABCD)と、下面(層番号「2」と層番号「3」との境界面EFGH)を設定し、設定した各面を構成する格子状の4点(例えば
図10(B)に示すA〜D、E〜Hの点)のそれぞれの位置データ(XY方向の位置データ)と、各点の高さ(深さ)データ(Z方向のデータ)とにより囲まれた空間領域として定義する。
【0078】
すなわち、各層の区画化された領域は、例えばXY方向に対して等間隔に高さデータが並んだデータ構造を有することができ、境界面の高さデータの存在する4点で格子状に囲まれた領域を区画化された領域として定義される。
【0079】
上述したように、皮膚モデルに用いる凹凸層状モデルを区画化することで、例えば
図8(D)に示す不均一な層構造を設ける場合でも、その領域を自由に設定することが可能となり、例えばボクセルモデル設定における境界面設定の煩わしさを排除することも可能となる。また、上述した凹凸層状モデルの区画化により、例えば輝度分布算出手段16による光線追跡も容易に行うことが可能となる。
【0080】
<折り返し繰り返す構造の光の拡散>
図11は、折り返し繰り返す構造の光の拡散について説明するための図である。
図11(A)は、折り返し繰り返す構造でない皮膚モデルの一例を示し、
図11(B)は、折り返し繰り返す構造の皮膚モデルの一例を示す。
【0081】
なお、
図11(A)〜
図11(B)は、角層、表皮、真皮の均一3層モデル(説明の便宜上、乳頭層、角栓等の内部形状を無視)の皮膚上に、ファンデーション層(FD層)の塗布膜がガウス窓により形成されている。
【0082】
図11(A)の例では、折り返し繰り返す構造の皮膚モデルではないため、通常の計算では、入射した光は皮膚モデルの側面から拡散して暗くなる。
【0083】
一方、本実施形態では、
図11(B)に示すように、例えば四辺の高さを揃えるために、折り返し対称形とした皮膚モデル(すなわち縦方向及び横方向に折り返した皮膚モデル)を1つの形状として、皮膚モデルの側面から抜けた光を反対側の相当する場所に導入することで、無限に広い領域に照射されている状態を計算する。したがって、得られた画像を縦横に繰り返し並べた画像は、理論上、大きなスケールで見たときの見え方と一致することになる。
【0084】
<折り返し繰り返す皮膚モデルから得られる肌画像例>
図12は、折り返し繰り返す皮膚モデルから得られる肌画像の一例を示す図である。
図12(A)は、単位皮膚モデルの肌画像の一例を示し、
図12(B)は、本実施形態における単位皮膚モデルを折り返し対称形としたモデルにより得られる肌画像の一例を示す。また、
図12(C)は、対称形のモデルを繰り返した皮膚モデルにより得られる肌画像の一例を示す。
【0085】
本実施形態では、例えば、
図12(A)の単位皮膚モデルを、
図12(B)の肌画像が得られる対称形とした皮膚モデルとし、
図12(B)に示す対称形の皮膚モデルを4×4個並べることにより、
図12(C)に示す肌画像(8mm×8mm)を形成する。
【0086】
通常、VMS(Video Micro Scope)や顕微鏡で見える画像を並べても視野は広がらないが、上述した折り返し繰り返す皮膚モデルの構造により、無限に広い領域に光が照射されている表面の一部を見ているのと同じ状態を得ることが可能となる。
【0087】
したがって、
図12(C)に示す肌画像のように、そのサイズが小さくなると皮溝や皮丘により構成されるキメ構造が見えなくなり、毛穴の影が浮き上がってくるように見える。
【0088】
<不均一な層構造の皮膚モデルから得られる肌画像>
図13は、不均一な層構造の皮膚モデルから得られる肌画像を説明するための図である。
図13(A)は、層内部に不均一な構造を設けた皮膚モデルの一例を示し、
図13(B)は、
図13(A)の皮膚モデルにより得られる画像の一例を示す。また、
図13(C)は、第1界面と第2界面とが交差する皮膚モデルの一例を示し、
図13(D)は、
図13(C)に示す皮膚モデルにより得られる画像の一例を示す。
【0089】
なお、
図13(B)及び
図13(D)は、例えば45度の平行光を入射して0度で受光した場合の画像を示す。
【0090】
図13(A)に示すように、例えば毛穴直下に赤みを有する層構造の皮膚モデルを形成した場合には、
図13(B)に示すように毛穴部分に赤みが現れた画像を得ることが可能となる。また、
図13(C)に示すように、例えば第1界面と第2界面とが交差して毛穴に角栓が入った層構造の皮膚モデルを形成した場合には、
図13(D)に示す画像を得ることが可能となる。
【0091】
<不均一な層構造のファンデーション塗布皮膚モデルを用いた毛穴補正の検討>
図14は、ファンデーション塗布皮膚モデルを用いた毛穴補正を検討するための図である。
図14(A)は、毛穴を含む皮膚モデルから得られる肌画像を示している。また、
図14(B)〜
図14(C)は、
図14(A)の皮膚モデルにファンデーション塗布膜を設けたモデルから得られる塗布肌画像を示している。
【0092】
なお、
図14(A)は、ファンデーションを塗布していない皮膚モデル(無塗布)から得られた肌画像を示し、
図14(B)は、肌表面形態に合わせてファンデーション塗布膜(例えば10mm)を同一の膜厚で塗布した皮膚モデル(均一塗布)から得られた塗布肌画像を示している。
【0093】
図14(B)に示す均一塗布の肌画像は、
図14(A)に示す無塗布の肌画像と比較すると、ファンデーション塗布膜を肌表面形態に合わせて均一に塗布しているにも関わらず、肌表面の窪みで発生する影がファンデーションの粉末塗布によって強調され、肌表面の凹凸が目立つ状態となっている。
【0094】
また、
図14(C)に示す毛穴塗布の画像は、毛穴部位にファンデーションが埋め込まれた皮膚モデルにより形成された画像であるが、このような塗布むらが発生している場合には、塗布部位が明るく、無塗布部位が暗くなり、毛穴部位が明るく目立つ明暗を発生させている。
【0095】
<ファンデーションによる明暗発生の理由>
図15は、ファンデーションによる明暗発生の理由について説明するための図である。
図15(A)は、皮膚内部からの光線を示す図であり、
図15(B)は、ファンデーションを塗布していない無塗布の肌画像と塗布むらが発生している肌画像とを示している。
【0096】
図15(A)に示すように、例えば皮膚内部から表面に到達したフォトン密度、すなわち皮膚内部から表面に到達した光線の単位面積当たりの本数が可視化されるため、明るい部分ほど内部フォトンの密度は高くなる。
【0097】
したがって、
図15(B)に示す毛穴塗布画像のように、塗布むらがある場合には、皮膚内部からのフォトンの密度に差が生じることとなるため、塗布部位が明るく、無塗布部位が暗くなる明暗画像が生成されることとなる。
【0098】
<明暗発生を利用した毛穴補正>
図16は、明暗発生を利用した毛穴補正を説明するための図である。
図16の例では、例えば毛穴補正効果があるファンデーションと、毛穴補正効果が劣るファンデーションとを、それぞれ毛穴を模したウレタンモデル上に塗布してその付着状態の違いを皮膚モデルによりモデル化し、画像化したものである。
【0099】
図16(A)に示すように、毛穴補正効果があるファンデーションを塗布した塗布肌の画像例では、塗布部位が明るく、塗布が少ない部位では暗くなるものの、明暗が細かく配置されているため、巨視的に見たときに毛穴が目立ちにくくなっている。
【0100】
一方、
図16(B)に示すように、毛穴補正効果が劣るファンデーションを塗布した塗布肌の画像例では、皮丘部位へ粉体が均一に付着している一方で、毛穴部位への粉末の入り込みが少なくなっているため、毛穴部分と皮丘部分に大きな明暗差が発生して毛穴が目立つ状態となっている。
【0101】
ここから、例えば毛穴内縁部にファンデーションが入り込んで毛穴自体を小さくし、毛穴周囲の皮溝部分にファンデーションが入り込んで塗布部位を細かく分散して配置することで、塗布部位と無塗布部位との明暗差が巨視的に均一に見えることとなり、毛穴補正が実現されるといえる。一方、均一な厚みでの付着や皮丘部分への過剰な付着は、凹凸補正において逆効果といえる。
【0102】
上述したように、本実施形態によれば、精度の高い肌や塗布肌のシミュレーションを行うことが可能となる。
【0103】
以上、開示の技術の好ましい実施形態について詳述したが、開示の技術は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。