特許第6092567号(P6092567)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6092567硫化物系固体電池用正極用スラリー、硫化物系固体電池用正極及びその製造方法、並びに、硫化物系固体電池及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6092567
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】硫化物系固体電池用正極用スラリー、硫化物系固体電池用正極及びその製造方法、並びに、硫化物系固体電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20170227BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20170227BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20170227BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20170227BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20170227BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170227BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M10/0562
   H01M4/139
   H01M4/13
   H01M10/058
   H01M10/052
【請求項の数】20
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2012-225507(P2012-225507)
(22)【出願日】2012年10月10日
(65)【公開番号】特開2014-7138(P2014-7138A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年8月21日
(31)【優先権主張番号】特願2012-124963(P2012-124963)
(32)【優先日】2012年5月31日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 元
(72)【発明者】
【氏名】久保 博紀
(72)【発明者】
【氏名】橋本 裕一
(72)【発明者】
【氏名】小坂 大地
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 圭介
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 民人
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 充康
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−014387(JP,A)
【文献】 特開2002−222651(JP,A)
【文献】 特開2000−173608(JP,A)
【文献】 特開2005−190786(JP,A)
【文献】 特開2008−288098(JP,A)
【文献】 特開平10−064517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62、10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン単量体単位を含むフッ素系共重合体、正極活物質、及び溶媒又は分散媒を少なくとも含有する硫化物系固体電池用正極用スラリーであって、
乾燥体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜10体積%であり、
前記フッ素系共重合体中のフッ化ビニリデン単量体単位の含有割合が40〜70mol%であることを特徴とする、硫化物系固体電池用正極用スラリー。
【請求項2】
前記フッ素系共重合体は、テトラフルオロエチレン単量体単位、ヘキサフルオロプロピレン単量体単位、フッ化ビニル単量体単位、トリフルオロエチレン単量体単位、クロロトリフルオロエチレン単量体単位、ペルフルオロメチルビニルエーテル単量体単位、及びペルフルオロエチルビニルエーテル単量体単位からなる群より選ばれる少なくとも1つのフッ素系単量体単位、並びに、フッ化ビニリデン単量体単位を含む、請求項1に記載の硫化物系固体電池用正極用スラリー。
【請求項3】
さらに硫化物系固体電解質を含有する、請求項1又は2に記載の硫化物系固体電池用正極用スラリー。
【請求項4】
前記溶媒又は分散媒は、下記式(1)により表されるエステル化合物を含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の硫化物系固体電池用正極用スラリー。
−CO−R 式(1)
(上記式(1)中、Rは、炭素数3〜10の直鎖若しくは分岐鎖の脂肪族基又は炭素数6〜10の芳香族基であり、且つ、Rは、炭素数4〜10の直鎖又は分岐鎖の脂肪族基である。)
【請求項5】
乾燥体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜4.0体積%である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の硫化物系固体電池用正極用スラリー。
【請求項6】
フッ化ビニリデン単量体単位を含むフッ素系共重合体、及び正極活物質を少なくとも含有する硫化物系固体電池用正極であって、
前記硫化物系固体電池用正極の体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜10体積%であり、
前記フッ素系共重合体中のフッ化ビニリデン単量体単位の含有割合が40〜70mol%であることを特徴とする、硫化物系固体電池用正極。
【請求項7】
前記フッ素系共重合体は、テトラフルオロエチレン単量体単位、ヘキサフルオロプロピレン単量体単位、フッ化ビニル単量体単位、トリフルオロエチレン単量体単位、クロロトリフルオロエチレン単量体単位、ペルフルオロメチルビニルエーテル単量体単位、及びペルフルオロエチルビニルエーテル単量体単位からなる群より選ばれる少なくとも1つのフッ素系単量体単位、並びに、フッ化ビニリデン単量体単位を含む、請求項6に記載の硫化物系固体電池用正極。
【請求項8】
さらに硫化物系固体電解質を含有する、請求項6又は7に記載の硫化物系固体電池用正極。
【請求項9】
前記硫化物系固体電池用正極の体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜4.0体積%である、請求項6乃至8のいずれか一項に記載の硫化物系固体電池用正極。
【請求項10】
正極、負極、並びに、当該正極及び当該負極の間に介在する硫化物系固体電解質層を備える硫化物系固体電池であって、
前記正極が、前記請求項6乃至9のいずれか一項に記載の硫化物系固体電池用正極を含むことを特徴とする、硫化物系固体電池。
【請求項11】
フッ化ビニリデン単量体単位を含むフッ素系共重合体、及び正極活物質を少なくとも含有する硫化物系固体電池用正極の製造方法であって、
基材を準備する工程、
少なくとも、前記フッ素系共重合体、前記正極活物質、及び溶媒又は分散媒を混練し、製造後の硫化物系固体電池用正極における乾燥体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜10体積%となるスラリーを準備する工程、並びに、
前記基材の少なくともいずれか一方の面に、前記スラリーを塗工して硫化物系固体電池用正極を形成する工程、を有し、
前記フッ素系共重合体中のフッ化ビニリデン単量体単位の含有割合が40〜70mol%であることを特徴とする、硫化物系固体電池用正極の製造方法。
【請求項12】
前記フッ素系共重合体は、テトラフルオロエチレン単量体単位、ヘキサフルオロプロピレン単量体単位、フッ化ビニル単量体単位、トリフルオロエチレン単量体単位、クロロトリフルオロエチレン単量体単位、ペルフルオロメチルビニルエーテル単量体単位、及びペルフルオロエチルビニルエーテル単量体単位からなる群より選ばれる少なくとも1つのフッ素系単量体単位、並びに、フッ化ビニリデン単量体単位を含む、請求項11に記載の硫化物系固体電池用正極の製造方法。
【請求項13】
前記スラリーがさらに硫化物系固体電解質を含有する、請求項11又は12に記載の硫化物系固体電池用正極の製造方法。
【請求項14】
前記溶媒又は分散媒は、下記式(1)により表されるエステル化合物を含む、請求項11乃至13のいずれか一項に記載の硫化物系固体電池用正極の製造方法。
−CO−R 式(1)
(上記式(1)中、Rは、炭素数3〜10の直鎖若しくは分岐鎖の脂肪族基又は炭素数6〜10の芳香族基であり、且つ、Rは、炭素数4〜10の直鎖又は分岐鎖の脂肪族基である。)
【請求項15】
前記スラリーにおいて、製造後の硫化物系固体電池用正極における乾燥体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜4.0体積%である、請求項11乃至14のいずれか一項に記載の硫化物系固体電池用正極の製造方法。
【請求項16】
正極、負極、並びに、当該正極及び当該負極の間に介在する硫化物系固体電解質層を備える硫化物系固体電池の製造方法であって、
前記負極及び前記硫化物系固体電解質層を準備する工程、
少なくとも、フッ化ビニリデン単量体単位を含むフッ素系共重合体、正極活物質、及び溶媒又は分散媒を混練し、製造後の硫化物系固体電池における乾燥体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜10体積%となるスラリーを準備する工程、並びに、
前記硫化物系固体電解質層の一方の面に前記スラリーを塗工して正極を形成し、且つ、前記硫化物系固体電解質層の他方の面に前記負極を積層し、硫化物系固体電池を製造する工程、を有し、
前記フッ素系共重合体中のフッ化ビニリデン単量体単位の含有割合が40〜70mol%であることを特徴とする、硫化物系固体電池の製造方法。
【請求項17】
前記フッ素系共重合体は、テトラフルオロエチレン単量体単位、ヘキサフルオロプロピレン単量体単位、フッ化ビニル単量体単位、トリフルオロエチレン単量体単位、クロロトリフルオロエチレン単量体単位、ペルフルオロメチルビニルエーテル単量体単位、及びペルフルオロエチルビニルエーテル単量体単位からなる群より選ばれる少なくとも1つのフッ素系単量体単位、並びに、フッ化ビニリデン単量体単位を含む、請求項16に記載の硫化物系固体電池の製造方法。
【請求項18】
前記スラリーがさらに硫化物系固体電解質を含有する、請求項16又は17に記載の硫化物系固体電池の製造方法。
【請求項19】
前記溶媒又は分散媒は、下記式(1)により表されるエステル化合物を含む、請求項16乃至18のいずれか一項に記載の硫化物系固体電池の製造方法。
−CO−R 式(1)
(上記式(1)中、Rは、炭素数3〜10の直鎖若しくは分岐鎖の脂肪族基又は炭素数6〜10の芳香族基であり、且つ、Rは、炭素数4〜10の直鎖又は分岐鎖の脂肪族基である。)
【請求項20】
前記スラリーにおいて、製造後の硫化物系固体電池における乾燥体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜4.0体積%である、請求項16乃至19のいずれか一項に記載の硫化物系固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた出力及び高い結着力を両立した硫化物系固体電池に用いられる正極を形成できるスラリー、硫化物系固体電池用正極及びその製造方法、並びに、硫化物系固体電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、化学反応に伴う化学エネルギーの減少分を電気エネルギーに変換し、放電を行うことができる他に、放電時と逆方向に電流を流すことにより、電気エネルギーを化学エネルギーに変換して蓄積(充電)することが可能な電池である。二次電池の中でも、リチウム二次電池は、エネルギー密度が高いため、ノート型のパーソナルコンピューターや、携帯電話機等の携帯機器の電源として幅広く応用されている。
【0003】
リチウム二次電池においては、負極活物質としてグラファイト(Cと表現する)を用いた場合、放電時において、負極では下記式(I)の反応が進行する。
LiC→C+xLi+xe (I)
(上記式(I)中、0<x<1である。)
式(I)の反応で生じる電子は、外部回路を経由し、外部の負荷で仕事をした後、正極に到達する。そして、式(I)の反応で生じたリチウムイオン(Li)は、負極と正極に挟持された電解質内を、負極側から正極側に電気浸透により移動する。
【0004】
また、正極活物質としてコバルト酸リチウム(Li1−xCoO)を用いた場合、放電時において、正極では下記式(II)の反応が進行する。
Li1−xCoO+xLi+xe→LiCoO (II)
(上記式(II)中、0<x<1である。)
充電時においては、負極及び正極において、それぞれ上記式(I)及び式(II)の逆反応が進行し、負極においてはグラファイトインターカレーションによりリチウムが入り込んだグラファイト(LiC)が、正極においてはコバルト酸リチウム(Li1−xCoO)が再生するため、再放電が可能となる。
【0005】
リチウム二次電池の中でも、電解質を固体電解質とし、電池を全固体化したリチウム二次電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないため、安全かつ装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。このような固体電解質に用いられる固体電解質材料として、硫化物系固体電解質が知られている。
特許文献1には、正極、負極及び電解質層のうち少なくともいずれか1つが硫化物系固体電解質を含み、硫化物系固体電解質電池中に塩基性材料を含むことを特徴とする、硫化物系固体電解質電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−165650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の明細書の段落[0034]には、正極の結着材としてPVDFを使用できる旨が記載されている。しかし、PVDFホモポリマーを用いた場合には、十分な電池出力が得られないと考えられる。
本発明は、上記実状を鑑みて成し遂げられたものであり、優れた出力及び高い結着力を両立した硫化物系固体電池に用いられる正極を形成できるスラリー、硫化物系固体電池用正極及びその製造方法、並びに、硫化物系固体電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の硫化物系固体電池用正極用スラリーは、フッ化ビニリデン単量体単位を含むフッ素系共重合体、正極活物質、及び溶媒又は分散媒を少なくとも含有する硫化物系固体電池用正極用スラリーであって、乾燥体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜10体積%であり、前記フッ素系共重合体中のフッ化ビニリデン単量体単位の含有割合が40〜70mol%であることを特徴とする。
【0010】
本発明の硫化物系固体電池用正極用スラリーにおいて、前記フッ素系共重合体は、フッ化ビニリデン単量体単位に加えて、テトラフルオロエチレン単量体単位、ヘキサフルオロプロピレン単量体単位、フッ化ビニル単量体単位、トリフルオロエチレン単量体単位、クロロトリフルオロエチレン単量体単位、ペルフルオロメチルビニルエーテル単量体単位、及びペルフルオロエチルビニルエーテル単量体単位からなる群より選ばれる少なくとも1つのフッ素系単量体単位を含んでいてもよい。
【0011】
本発明の硫化物系固体電池用正極用スラリーにおいては、さらに硫化物系固体電解質を含有することが好ましい。
【0012】
本発明の硫化物系固体電池用正極用スラリーにおいては、前記溶媒又は分散媒は、下記式(1)により表されるエステル化合物を含むことが好ましい。
−CO−R 式(1)(上記式(1)中、Rは、炭素数3〜10の直鎖若しくは分岐鎖の脂肪族基又は炭素数6〜10の芳香族基であり、且つ、Rは、炭素数4〜10の直鎖又は分岐鎖の脂肪族基である。)
【0013】
本発明の硫化物系固体電池用正極用スラリーにおいては、乾燥体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜4.0体積%であることが好ましい。
【0014】
本発明の硫化物系固体電池用正極は、フッ化ビニリデン単量体単位を含むフッ素系共重合体、及び正極活物質を少なくとも含有する硫化物系固体電池用正極であって、前記硫化物系固体電池用正極の体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜10体積%であり、前記フッ素系共重合体中のフッ化ビニリデン単量体単位の含有割合が40〜70mol%であることを特徴とする。
【0016】
本発明の硫化物系固体電池用正極において、前記フッ素系共重合体は、フッ化ビニリデン単量体単位に加えて、テトラフルオロエチレン単量体単位、ヘキサフルオロプロピレン単量体単位、フッ化ビニル単量体単位、トリフルオロエチレン単量体単位、クロロトリフルオロエチレン単量体単位、ペルフルオロメチルビニルエーテル単量体単位、及びペルフルオロエチルビニルエーテル単量体単位からなる群より選ばれる少なくとも1つのフッ素系単量体単位を含んでいてもよい。
【0017】
本発明の硫化物系固体電池用正極においては、さらに硫化物系固体電解質を含有することが好ましい。
【0018】
本発明の硫化物系固体電池用正極においては、前記硫化物系固体電池用正極の体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜4.0体積%であることが好ましい。
【0019】
本発明の硫化物系固体電池は、正極、負極、並びに、当該正極及び当該負極の間に介在する硫化物系固体電解質層を備える硫化物系固体電池であって、前記正極が、上記硫化物系固体電池用正極を含むことを特徴とする。
【0020】
本発明の硫化物系固体電池用正極の製造方法は、フッ化ビニリデン単量体単位を含むフッ素系共重合体、及び正極活物質を少なくとも含有する硫化物系固体電池用正極の製造方法であって、基材を準備する工程、少なくとも、前記フッ素系共重合体、前記正極活物質、及び溶媒又は分散媒を混練し、製造後の硫化物系固体電池用正極における乾燥体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜10体積%となるスラリーを準備する工程、並びに、前記基材の少なくともいずれか一方の面に、前記スラリーを塗工して硫化物系固体電池用正極を形成する工程、を有し、前記フッ素系共重合体中のフッ化ビニリデン単量体単位の含有割合が40〜70mol%であることを特徴とする。
【0022】
本発明の硫化物系固体電池用正極の製造方法において、前記フッ素系共重合体は、フッ化ビニリデン単量体単位に加えて、テトラフルオロエチレン単量体単位、ヘキサフルオロプロピレン単量体単位、フッ化ビニル単量体単位、トリフルオロエチレン単量体単位、クロロトリフルオロエチレン単量体単位、ペルフルオロメチルビニルエーテル単量体単位、及びペルフルオロエチルビニルエーテル単量体単位からなる群より選ばれる少なくとも1つのフッ素系単量体単位を含んでいてもよい。
【0023】
本発明の硫化物系固体電池用正極の製造方法においては、前記スラリーがさらに硫化物系固体電解質を含有することが好ましい。
【0024】
本発明の硫化物系固体電池用正極の製造方法においては、前記溶媒又は分散媒は、上記式(1)により表されるエステル化合物を含むことが好ましい。
【0025】
本発明の硫化物系固体電池用正極の製造方法においては、前記スラリーにおいて、製造後の硫化物系固体電池用正極における乾燥体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜4.0体積%であることが好ましい。
【0026】
本発明の硫化物系固体電池の製造方法は、正極、負極、並びに、当該正極及び当該負極の間に介在する硫化物系固体電解質層を備える硫化物系固体電池の製造方法であって、前記負極及び前記硫化物系固体電解質層を準備する工程、少なくとも、フッ化ビニリデン単量体単位を含むフッ素系共重合体、正極活物質、及び溶媒又は分散媒を混練し、製造後の硫化物系固体電池における乾燥体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜10体積%となるスラリーを準備する工程、並びに、前記硫化物系固体電解質層の一方の面に前記スラリーを塗工して正極を形成し、且つ、前記硫化物系固体電解質層の他方の面に前記負極を積層し、硫化物系固体電池を製造する工程、を有し、前記フッ素系共重合体中のフッ化ビニリデン単量体単位の含有割合が40〜70mol%であることを特徴とする。
【0028】
本発明の硫化物系固体電池の製造方法において、前記フッ素系共重合体は、フッ化ビニリデン単量体単位に加えて、テトラフルオロエチレン単量体単位、ヘキサフルオロプロピレン単量体単位、フッ化ビニル単量体単位、トリフルオロエチレン単量体単位、クロロトリフルオロエチレン単量体単位、ペルフルオロメチルビニルエーテル単量体単位、及びペルフルオロエチルビニルエーテル単量体単位からなる群より選ばれる少なくとも1つのフッ素系単量体単位を含んでいてもよい。
【0029】
本発明の硫化物系固体電池の製造方法においては、前記スラリーがさらに硫化物系固体電解質を含有することが好ましい。
【0030】
本発明の硫化物系固体電池の製造方法においては、前記溶媒又は分散媒は、上記式(1)により表されるエステル化合物を含むことが好ましい。
【0031】
本発明の硫化物系固体電池の製造方法においては、前記スラリーにおいて、製造後の硫化物系固体電池における乾燥体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜4.0体積%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、スラリー中のフッ素系共重合体の含有割合を適切な範囲とすることにより、当該スラリーを用いて製造される電池において、高い電池出力と正極における高い接着力を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明により製造される硫化物系固体電池の積層構造の一例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。
図2】実施例1−実施例3、及び、比較例1−比較例3の硫化物系固体電池についての接着力をプロットしたグラフである。
図3】実施例1−実施例3、及び、比較例1−比較例4の硫化物系固体電池についての出力比をプロットしたグラフである。
図4】実施例1−実施例3、及び、比較例1−比較例3の硫化物系固体電池について、接着力に対する出力比をプロットしたグラフである。
図5】実施例4−実施例6の硫化物系固体電池について、初期出力及び初期容量をプロットしたグラフである。
図6】実施例4及び実施例5の硫化物系固体電池について、耐久後出力及び耐久後容量をプロットしたグラフである。
図7】接着力の測定態様の概略を示した断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
1.硫化物系固体電池用正極用スラリー
本発明の硫化物系固体電池用正極用スラリーは、フッ化ビニリデン単量体単位を含むフッ素系共重合体、正極活物質、及び溶媒又は分散媒を少なくとも含有する硫化物系固体電池用正極用スラリーであって、乾燥体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜10体積%であることを特徴とする。
【0035】
本発明者らは、鋭意努力の結果、フッ化ビニリデン単量体単位を含むフッ素系共重合体を特定量含むスラリーにより形成された硫化物系固体電池用正極が、優れた接着性を発揮し、且つ、当該正極を用いた硫化物系固体電池が高い出力を発揮することを見出し、本発明を完成させた。
【0036】
上記特許文献1に開示されているように、従来、硫化物系固体電池の技術の分野において、正極の結着材としてPVDFホモポリマーやコポリマーを用いることが知られていた。しかし、結着材が奏する正極の接着性と、電池性能とが背反となるとの観点から結着材の含有割合を規定した例はこれまで知られていない。
一方で、本発明者らは、これまで特に着目されなかったフッ化ビニリデン単量体単位を含むフッ素系共重合体に焦点を当て、さらにその最適な含有割合を検討した。その結果、スラリーの乾燥体積を100体積%としたとき、当該フッ素系共重合体の含有割合を1.5〜10体積%とすることにより、正極の優れた接着性及び高い電池出力を両立できる利点が見出された。
【0037】
フッ化ビニリデン単量体単位を含むフッ素系共重合体(以下、フッ素系共重合体と称する場合がある。)は、本発明において主に結着材としての役割を果たす。なお、本発明において単量体単位とは、重合体の繰り返し構造単位のことを指す。フッ素系共重合体は、具体的には、硫化物系固体電池用正極用スラリー(以下、スラリーと称する場合がある。
)中において溶媒又は分散媒に溶解又は分散し、且つ、硫化物系固体電池用正極において正極活物質等の正極材料をつなぎ留める働きを有する。
本発明に係る硫化物系固体電池用正極用スラリーが硫化物系固体電解質を含む場合には、本発明に用いられるフッ素系共重合体は硫化物系固体電解質と反応しないものであることが好ましい。
【0038】
フッ素系共重合体中のフッ化ビニリデン単量体単位の含有割合が40〜70mol%であることが好ましい。フッ化ビニリデン単量体単位の当該含有割合が40mol%未満の場合には、NMPや酪酸ブチル等の有機溶媒に対するフッ素系共重合体の溶解度が低下したり、集電体と本発明に係るスラリーにより得られる正極との接着性、特に、集電体と正極活物質層との接着性が低下したりするおそれがある。一方、フッ化ビニリデン単量体単位の当該含有割合が70mol%を超える場合には、溶媒又は分散媒への溶解性又は分散性に劣るおそれがある。
本発明におけるフッ素系共重合体中のフッ化ビニリデン単量体単位の含有割合とは、フッ素系共重合体を構成する単量体単位の物質量の総和を100mol%としたときの、フッ化ビニリデン単量体単位の物質量の割合である。フッ素系共重合体中のフッ化ビニリデン単量体単位の含有割合は、例えば、19FNMRスペクトルの各シグナルの積分比から、公知の方法により計算できる。
フッ素系共重合体中のフッ化ビニリデン単量体単位の含有割合は45〜65mol%であることがより好ましく、50〜60mol%であることがさらに好ましい。
【0039】
フッ素系共重合体は、フッ化ビニリデン単量体単位と共に他のフッ素系単量体単位を含有する。ここでいうフッ素系単量体単位とは、炭素−炭素結合からなる主鎖骨格(ここで言う主鎖には、グラフト鎖のようなポリマー状側鎖が含まれる)、及び主鎖骨格を構成する炭素原子に直接的又は間接的に結合したフッ素原子を含み、単量体単位の空間的広がりの大部分を炭素原子及びフッ素原子が占有している化学構造を有する単量体単位のことである。フッ化ビニリデン単量体単位以外の他のフッ素系単量体単位としては、例えば、テトラフルオロエチレン単量体単位、ヘキサフルオロプロピレン単量体単位、フッ化ビニル単量体単位、トリフルオロエチレン単量体単位、クロロトリフルオロエチレン単量体単位、ペルフルオロメチルビニルエーテル単量体単位、及びペルフルオロエチルビニルエーテル単量体単位等が挙げられる。これらのフッ素系単量体単位の中でも、特にテトラフルオロエチレン単量体単位、及びヘキサフルオロプロピレン単量体単位の少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。
【0040】
本発明に使用できるフッ素系共重合体としては、例えば、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ペルフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。これらのフッ素系共重合体の中でも、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を用いることが好ましい。
【0041】
フッ素系共重合体は、フッ化ビニリデン単量体単位及びその他のフッ素系単量体単位が、一定数同じ繰り返し単位が連結されたブロックが互いに共重合するブロック共重合体であってもよいし、あるいは異なる繰り返し単位が交互に重合する交互共重合体であってもよい。また、繰り返し単位の配列に全く秩序が無いランダム共重合体であってもよい。
【0042】
フッ素系共重合体は水溶性でないことが好ましい。また、特に後述する硫化物系固体電解質を用いる場合には、フッ素系共重合体に含まれる水分が100ppm以下であることが好ましい。硫化物系固体電解質は水と反応することにより硫化水素が発生し、電解質のイオン伝導度を低下させたり、当該硫化水素がスラリー中の正極材料を侵したりするおそれがある。
【0043】
本発明においては、スラリーの乾燥体積を100体積%としたとき、フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜10体積%であることが主な特徴の1つである。
フッ素系共重合体の当該含有割合が1.5体積%未満であるとすると、フッ素系共重合体の含有割合が少なすぎるため、得られる硫化物系固体電池用正極の接着性が不十分となり、硫化物系固体電池用正極の形成に支障が生じるおそれがある。一方、フッ素系共重合体の当該含有割合が10体積%を超えるとすると、フッ素系共重合体の含有割合が多すぎるため、当該スラリーを用いて作製された硫化物系固体電池の出力が低減するおそれがある。
なお、本発明における体積割合(体積%)の値は、室温(15〜30℃)下における値を指す。また、本発明における体積割合(体積%)の値は、使用される各部材及び材料の質量及び真密度から計算できる。また、本発明において、「(スラリーの)乾燥体積」とは、製造が予定されている硫化物系固体電池又は硫化物系固体電池用正極において、スラリーが乾燥して残る固形分の体積を指す。乾燥体積とは、より具体的には、スラリーから溶媒及び分散媒を留去した後の体積のことである。
【0044】
スラリーの乾燥体積を100体積%としたとき、フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜4.0体積%であることが好ましい。フッ素系共重合体の当該含有割合が4.0体積%を超えるとすると、後述する実施例において示すように、本発明に係るスラリーを硫化物系固体電池に用いた場合に、当該硫化物系固体電池の初期性能が落ちる結果、容量及び出力が低下するおそれがある。
スラリーの乾燥体積を100体積%としたとき、フッ素系共重合体の含有割合は、2.0体積%以上であることがより好ましく、3.0体積%以上であることがさらに好ましい。また、スラリーの乾燥体積を100体積%としたとき、フッ素系共重合体の含有割合は、3.5体積%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明に用いられる正極活物質としては、具体的には、LiCoO、LiNiCo15Al、Li1+xNi1/3Mn1/3Co1/3(xは0以上の実数)、LiNiO、LiMn、LiCoMnO、LiNiMn、LiFe(PO、Li(PO、Li1+xMn2−x−y(Mは、Al,Mg,Co,Fe,Ni,Znからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属)により表される組成を有する異種元素置換Li−Mnスピネル、チタン酸リチウム(LiTiO)、LiMPO(Mは、Fe,Mn,Co又はNi)により表される組成を有するリン酸金属リチウム等を挙げることができる。これらの中でも、本発明においては、LiCoO、LiNiCo15Al、Li1+xNi1/3Mn1/3Co1/3を正極活物質として用いることが好ましい。
本発明においては、上記正極活物質用材料をコーティング材によりコーティングした正極活物質を用いてもよい。本発明に使用できるコーティング材は、リチウムイオン伝導性を有し、且つ、電極活物質や固体電解質と接触しても流動しない被覆層の形態を維持し得る物質を含んでいればよい。コーティング材としては、例えば、LiNbO、LiTi12、LiPO等が挙げられる。
【0046】
正極活物質の平均粒径としては、例えば1〜50μm、中でも1〜20μm、特に3〜7μmであることが好ましい。正極活物質の平均粒径が小さすぎると、取り扱い性が悪くなる可能性があり、正極活物質の平均粒径が大きすぎると、平坦な正極活物質層を得るのが困難になる場合があるからである。なお、正極活物質の平均粒径は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)により観察される活物質担体の粒径を測定して、平均することにより求めることができる。
【0047】
本発明に用いられる溶媒又は分散媒(以下、溶媒等と称する場合がある。)は、フッ素系共重合体や正極活物質等の正極材料を均一に溶解又は分散させ、スラリー中の組成を均一に保つ役割を果たす。本発明に用いられる溶媒等は、上記フッ素系共重合体及び正極活物質等の正極材料を溶解又は分散できるものであれば特に限定されない。後述する硫化物系固体電解質を用いる場合には、溶媒等は、硫化物系固体電解質がスラリーに付与するイオン伝導度に悪影響を及ぼさないものであることが好ましい。なお、従来から固体電池材料の調製に用いられる溶媒であるN−メチルピロリドン(NMP)は、硫化物系固体電解質と反応しやすいため、好ましくない。
【0048】
溶媒等は、下記式(1)により表されるエステル化合物を含むことが好ましい。
−CO−R 式(1)
上記式(1)中、Rは、炭素数3〜10の直鎖若しくは分岐鎖の脂肪族基又は炭素数6〜10の芳香族基であり、且つ、Rは、炭素数4〜10の直鎖又は分岐鎖の脂肪族基である。Rが炭素数2以下の脂肪族基である場合には、硫化物固体電解質と混合した際のイオン伝導度が著しく低下するおそれがある。また、Rが炭素数11以上の脂肪族基である場合には、エステル化合物が上記フッ素系共重合体及び正極活物質を分散できなくなるおそれがある。
本発明に用いられるエステル化合物は、酪酸ブチル、ペンタン酸ブチル、ヘキサン酸ブチル、酪酸ペンチル、ペンタン酸ペンチル、ヘキサン酸ペンチル、酪酸ヘキシル、ペンタン酸ヘキシル、又はヘキサン酸ヘキシルが好ましい。これらのエステル化合物(脂肪酸エステル)は、1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらのエステル化合物の中でも、酪酸ブチルがより好適に、n−酪酸−n−ブチルがさらに好適に用いられる。
【0049】
スラリーの総質量を100質量%としたときの、溶媒等の含有割合は35〜90質量%であることが好ましい。溶媒等の当該含有割合が35質量%未満であるとすると、溶媒等の含有割合が少なすぎるため、フッ素系共重合体や正極活物質等が溶媒等中に溶解又は分散せず、硫化物系固体電池用正極の形成に支障が生じるおそれがある。一方、溶媒等の当該含有割合が90質量%を超えるとすると、溶媒等の含有割合が多すぎるため、目付(塗工)の制御が困難となるおそれがある。
スラリーの総質量を100質量%としたときの、溶媒等の含有割合は、40〜70質量%であることがより好ましく、50〜65質量%であることがさらに好ましい。
なお、スラリー中の固形分比率は、10〜65質量%であることが好ましい。
【0050】
溶媒等は水溶性でないことが好ましい。また、特に後述する硫化物系固体電解質を用いる場合には、溶媒等に含まれる水分が100ppm以下であることが好ましい。硫化物系固体電解質は水と反応することにより硫化水素が発生し、電解質のイオン伝導度を低下させたり、当該硫化水素がスラリー中の正極材料を侵したりするおそれがある。
【0051】
本発明に係る硫化物系固体電池用正極用スラリーは、さらに硫化物系固体電解質を含有することが好ましい。
硫化物系固体電解質は、水や、極性が高く且つ酸素原子を含む官能基を有する化合物(例えば、メタノール等のアルコール、酢酸エチル等のエステル、N−メチルピロリドン等のアミド)等と反応し、イオン伝導度が3桁以上も急激に低下することが知られている。そのため、従来の硫化物系固体電池用正極用スラリーの調製においては、酸素原子を含まない官能基を有する溶媒しか使用されていなかった。さらに、取り扱い性の観点から、結着材としては、当該溶媒に溶解するごく限られた種類の結着材しか使用されておらず、材料選択の幅が狭かった。
しかし、本発明においては、フッ素系共重合体、及び好適に用いられるエステル化合物が、いずれも硫化物系固体電解質と極めて反応しにくい。したがって、フッ素系共重合体、及び好ましくはエステル化合物と共に、硫化物系固体電解質を適宜組み合わせることができる。
【0052】
本発明に用いられる硫化物系固体電解質は、分子構造中、又は組成中に硫黄原子を含む固体電解質であれば特に限定されない。本発明に用いられる硫化物系固体電解質は、硫化物を主要組成としたガラス又はガラスセラミックス状の固体電解質であることが好ましい。
本発明に用いられる硫化物系固体電解質としては、具体的には、LiS−P、LiS−P、LiS−P−P、LiS−SiS、LiI−LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiS−P、LiI−LiPO−P、LiI−LiS−SiS−P、LiS−SiS−LiSiO、LiS−SiS−LiPO、LiPS−LiGeS、Li3.40.6Si0.4、Li3.250.25Ge0.76、Li4−xGe1−x等を例示することができる。
【0053】
硫化物系固体電解質を用いる場合には、スラリーの乾燥体積を100体積%としたとき、正極活物質の含有割合が10〜80体積%であり、硫化物系固体電解質の含有割合が20〜70体積%であることが好ましい。正極活物質の当該含有割合が10体積%未満である場合には、当該スラリーを用いた電池が、充放電性能に劣るおそれがある。一方、硫化物系固体電解質の当該含有割合が20体積%未満である場合には、当該スラリーにより作製される正極が、イオン伝導性に劣るおそれがある。
【0054】
本発明の硫化物系固体電池用正極用スラリーは、必要に応じてさらに導電助剤を含有していてもよい。本発明に用いられる導電助剤としては、目的とする硫化物系固体電池用正極中の導電性を向上させることができれば特に限定されるものではないが、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック;カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、及び気相成長炭素繊維(VGCF)等の炭素繊維;SUS粉、アルミニウム粉等の金属粉末;等を挙げることができる。
【0055】
スラリーは、上記材料以外の材料を含んでいてもよい。ただし、当該材料の含有割合は、スラリー全体の体積を100体積%としたときに、4体積%以下であることが好ましく、3体積%以下であることがより好ましい。
【0056】
2.硫化物系固体電池用正極
本発明の硫化物系固体電池用正極は、フッ化ビニリデン単量体単位を含むフッ素系共重合体、及び正極活物質を少なくとも含有する硫化物系固体電池用正極であって、前記硫化物系固体電池用正極の体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜10体積%であることを特徴とする。
【0057】
本発明に係る硫化物系固体電池用正極は、フッ化ビニリデン単量体単位を含むフッ素系共重合体、及び正極活物質を含有する正極活物質層のみからなるものであってもよい。本発明に係る硫化物系固体電池用正極は、上記正極活物質層に加えて、正極集電体、及び当該正極集電体に接続された正極リードを備えていてもよい。なお、本発明に係る硫化物系固体電池用正極が、正極集電体や正極リード等の、フッ素系共重合体及び正極活物質を含まない部材を備える場合において、「硫化物系固体電池用正極の体積」とは、これら正極集電体や正極リード等を除いた、フッ素系共重合体及び正極活物質を含む部分(好ましくは正極活物質層)の体積を意味する。
フッ素系共重合体、正極活物質、及び、溶媒又は分散媒については、上記硫化物系固体電池用正極用スラリーと同様である。なお、フッ素系共重合体の含有割合は、スラリーにおいては乾燥体積を100体積%としたときの割合であるのに対し、正極においては正極の体積(好ましくは正極活物質層の体積)を100体積%としたときの割合である。
また、本発明に係る硫化物系固体電池用正極は、さらに硫化物系固体電解質を含有することが好ましい。本発明に用いられる硫化物系固体電解質については、上記硫化物系固体電池用正極用スラリーと同様である。
【0058】
本発明に用いられる正極活物質層の厚さは、目的とする硫化物系固体電池の用途等により異なるものであるが、10〜250μmであるのが好ましく、20〜200μmであるのが特に好ましく、特に30〜150μmであることが最も好ましい。
【0059】
本発明に用いられる正極集電体は、上記の正極活物質層の集電を行う機能を有するものであれば特に限定されない。
正極集電体の材料としては、例えばアルミニウム、SUS、ニッケル、鉄、チタン、クロム、金、白金、亜鉛等を挙げることができ、中でもアルミニウム及びSUSが好ましい。また、正極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状、メッシュ状等を挙げることができ、中でも箔状が好ましい。
【0060】
本発明に係る硫化物系固体電池用正極は、フッ素系共重合体の含有割合を硫化物系固体電池用正極(好ましくは正極活物質層)の1.5〜10体積%とすることにより、優れた接着力を発揮し、且つ、当該正極を用いた硫化物系固体電池は高い出力を発揮する。
【0061】
3.硫化物系固体電池用正極の製造方法
本発明の硫化物系固体電池用正極の製造方法は、フッ化ビニリデン単量体単位を含むフッ素系共重合体、及び正極活物質を少なくとも含有する硫化物系固体電池用正極の製造方法であって、基材を準備する工程、少なくとも、前記フッ素系共重合体、前記正極活物質、及び溶媒又は分散媒を混練し、製造後の硫化物系固体電池用正極における乾燥体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜10体積%となるスラリーを準備する工程、並びに、前記基材の少なくともいずれか一方の面に、前記スラリーを塗工して硫化物系固体電池用正極を形成する工程、を有することを特徴とする。
【0062】
本発明は、(1)基材を準備する工程、(2)スラリーを準備する工程、及び、(3)スラリーを塗工して硫化物系固体電池用正極を形成する工程を有する。本発明は、必ずしも上記3工程のみに限定されることはない。
以下、上記工程(1)〜(3)について、順に説明する。
【0063】
3−1.基材を準備する工程
本発明に用いられる基材は、スラリーを塗工できる程度の平面を有するものであれば、特に限定されない。基材は、板状であってもよいし、シート状であってもよい。また、基材は、予め作製したものでもよいし、市販品でもよい。
本発明に用いられる基材は、硫化物系固体電池用正極を形成した後に硫化物系固体電池に用いられるものであってもよいし、硫化物系固体電池の材料とならないものであってもよい。硫化物系固体電池に用いられる基材の例としては、例えば、正極集電体等の電極材料や、硫化物系固体電解質膜等の硫化物系固体電解質層用材料等が挙げられる。硫化物系固体電池の材料とならない基材としては、例えば、転写用シートや転写用基板等の転写用基材が挙げられる。転写用基材上に形成した硫化物系固体電池用正極は、硫化物系固体電解質層と熱圧着等により接合した後、転写用基材を剥離することにより、硫化物系固体電解質層上に硫化物系固体電池用正極を形成できる。また、転写用基材上に形成した硫化物系固体電池用正極は、正極用集電体と熱圧着等により接合した後、転写用基材を剥離することにより、正極用集電体上に硫化物系固体電池用正極を形成できる。
【0064】
3−2.スラリーを準備する工程
本工程は、少なくとも、上記フッ素系共重合体、上記正極活物質、及び溶媒又は分散媒を混練し、製造後の硫化物系固体電池用正極におけるスラリーの乾燥体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜10体積%となるスラリーを準備する工程である。
本工程に用いられるフッ素系共重合体、正極活物質、及び溶媒又は分散媒は、上述した通りである。また、本工程においては、スラリーに上述した硫化物系固体電解質をさらに混合してもよい。
本工程において準備するスラリーは、上述した本発明に係る硫化物系固体電池用正極用スラリーと同様である。スラリーには適宜増粘剤を加えてもよい。
【0065】
フッ素系共重合体、正極活物質、硫化物系固体電解質、及び溶媒等を混練する方法は、これらの材料が均一に混ざり合う方法であれば、特に限定されない。
これらの材料を混練する方法としては、例えば、乳鉢を用いた混練や、ボールミル等のメカニカルミリング等が挙げられるが、必ずしもこれらの方法に限定されるものではない。また、混練の前後に超音波分散等の分散手段を用いて、スラリー中の組成を均一なものとしてもよい。
【0066】
3−3.スラリーを塗工して硫化物系固体電池用正極を形成する工程
本工程は、上記基材の少なくともいずれか一方の面に、上記スラリーを塗工して硫化物系固体電池用正極を形成する工程である。
硫化物系固体電池用正極は、基材の片面のみに形成されてもよいし、基材の両面に形成されてもよい。
【0067】
スラリーの塗工方法、乾燥方法等は適宜選択することができる。例えば、塗工方法としては、スプレー法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、バーコート法、ロールコート法、グラビア印刷法、ダイコート法などが挙げられる。また、乾燥方法としては、例えば、減圧乾燥、加熱乾燥、減圧加熱乾燥などが挙げられる。減圧乾燥、加熱乾燥における具体的な条件に制限はなく、適宜設定すればよい。
スラリーの塗工量は、スラリーの組成や目的とする硫化物系固体電池用正極の用途等によって異なるが、乾燥状態で5〜30mg/cm程度となるようにすればよい。また、硫化物系固体電池用正極の厚さは、特に限定されないが、10〜250μm程度とすればよい。
【0068】
4.硫化物系固体電池
本発明の硫化物系固体電池は、正極、負極、並びに、当該正極及び当該負極の間に介在する硫化物系固体電解質層を備える硫化物系固体電池であって、前記正極が、上記硫化物系固体電池用正極を含むことを特徴とする。
【0069】
図1は本発明に係る硫化物系固体電池の積層構造の一例を示す図であって、積層方向に切断した断面を模式的に示した図である。なお、本発明に係る硫化物系固体電池は、必ずしもこの例のみに限定されるものではない。
硫化物系固体電池100は、正極活物質層2及び正極集電体4を備える正極6と、負極活物質層3及び負極集電体5を備える負極7と、前記正極6及び前記負極7に挟持される硫化物系固体電解質層1を備える。
本発明に用いられる正極は、上述した硫化物系固体電池用正極と同様である。以下、本発明に係る硫化物系固体電池に用いられる負極及び硫化物系固体電解質層、並びに本発明に係る硫化物系固体電池に好適に用いられるセパレータ及び電池ケースについて、詳細に説明する。
【0070】
本発明に用いられる負極は、負極活物質を含有する負極活物質層を備えることが好ましい。本発明に用いられる負極は、当該負極活物質層に加え、負極集電体、及び、当該負極集電体に接続した負極リードを備えることがより好ましい。
【0071】
負極活物質層に用いられる負極活物質としては、金属イオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に限定されるものではない。金属イオンとしてリチウムイオンを用いる場合には、例えば、リチウム合金、金属酸化物、グラファイトやハードカーボン等の炭素材料、ケイ素及びケイ素合金、LiTi12、アルミニウム等を挙げることができる。また、負極活物質は、粉末状であっても良く、薄膜状であっても良い。
【0072】
負極活物質層は、必要に応じて結着材及び上述した導電助剤を含有していても良い。
負極活物質層に用いられる結着材としては、例えばブチレンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アミノ変性水素添加ブタジエンゴム(ABR)等のゴム系の結着材等を挙げることができる。また、負極活物質層における結着材の含有割合は、負極活物質等を固定化できる程度の量であれば良く、より少ないことが好ましい。結着材の含有割合は、通常0.3〜10質量%である。また、本発明に用いられる結着材としては、上述したフッ素系共重合体を用いてもよい。
【0073】
本発明に用いられる負極が含有する負極用電解質としては、固体電解質を用いることができる。固体電解質としては、具体的には、上述した硫化物系固体電解質の他、酸化物系固体電解質や、結晶質酸化物・酸窒化物を用いることもできる。
酸化物系固体電解質としては、具体的には、LiPON(リン酸リチウムオキシナイトライド)、LiO−B−P、LiO−SiO、Li1.3Al0.3Ti0.7(PO、La0.51Li0.34TiO0.74、LiPO、LiSiO、LiSiO、Li0.5La0.5TiO、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO等を例示することができる。
結晶質酸化物・酸窒化物としては、具体的には、LiI、LiN、LiLaTa12、LiLaZr12、LiBaLaTa12、LiPO(4−3/2w)(w<1)、Li3.6Si0.60.4等を例示することができる。
【0074】
負極活物質層の膜厚としては、特に限定されるものではないが、例えば5〜150μm、中でも10〜80μmであることが好ましい。
負極活物質層を形成した後は、電極密度を向上させるために、負極活物質層をプレスしても良い。
【0075】
本発明に用いられる負極集電体は、上記の負極活物質層の集電を行う機能を有するものであれば特に限定されない。
負極集電体の材料としては、例えばクロム、SUS、ニッケル、鉄、チタン、銅、コバルト、及び亜鉛等を挙げることができ、中でも銅、鉄、及びSUSが好ましい。また、負極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状、メッシュ状等を挙げることができ、中でも箔状が好ましい。
【0076】
本発明に用いられる硫化物系固体電解質層は、上述した硫化物系固体電解質を含む層であれば、特に限定されない。本発明に用いられる硫化物系固体電解質層は、上述した硫化物系固体電解質からなる層であることが好ましい。
【0077】
本発明の硫化物系固体電池は、正極及び負極の間にセパレータを備えていてもよい。上記セパレータとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔膜;及びポリプロピレン等の樹脂製の不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等を挙げることができる。
【0078】
本発明の硫化物系固体電池は、さらに電池ケースを備えていてもよい。本発明に用いられる電池ケースの形状としては、上述した正極、負極、硫化物系固体電解質層等を収納できるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等を挙げることができる。
【0079】
5.硫化物系固体電池の製造方法
本発明の硫化物系固体電池の製造方法は、正極、負極、並びに、当該正極及び当該負極の間に介在する硫化物系固体電解質層を備える硫化物系固体電池の製造方法であって、前記負極及び前記硫化物系固体電解質層を準備する工程、少なくとも、フッ化ビニリデン単量体単位を含むフッ素系共重合体、正極活物質、及び溶媒又は分散媒を混練し、製造後の硫化物系固体電池における乾燥体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜10体積%となるスラリーを準備する工程、並びに、前記硫化物系固体電解質層の一方の面に前記スラリーを塗工して正極を形成し、且つ、前記硫化物系固体電解質層の他方の面に前記負極を積層し、硫化物系固体電池を製造する工程、を有することを特徴とする。
【0080】
本発明は、(1)負極及び硫化物系固体電解質層を準備する工程、(2)スラリーを準備する工程、及び、(3)硫化物系固体電解質層の一方の面にスラリーを塗工して正極を形成し、且つ、硫化物系固体電解質層の他方の面に負極を積層し、硫化物系固体電池を製造する工程を有する。本発明は、必ずしも上記3工程のみに限定されることはなく、上記3工程以外にも、例えば、硫化物系固体電池を上述した電池ケースに収納する工程等を有していてもよい。
工程(1)において準備する負極及び硫化物系固体電解質層は、上述した通りである。
また、工程(2)は、「3−2.スラリーを準備する工程」で述べた工程と同様である。
工程(3)において、スラリーを電解質層に塗工する方法は、上述した通りである。なお、工程(3)後は、各電極と硫化物系固体電解質層の各界面のイオン伝導性を高めるために、熱圧着法等により積層体を適宜圧着してもよい。
【実施例】
【0081】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0082】
1.硫化物系固体電池の製造
[実施例1]
正極活物質として三元系活物質LiCo1/3Ni1/3Mn1/3(日亜化学工業株式会社製)、結着材としてフッ素系共重合体(フッ化ビニリデン単量体単位:テトラフルオロエチレン単量体単位:ヘキサフルオロプロピレン単量体単位=55mol%:25mol%:20mol%、株式会社クレハ製)、硫化物系固体電解質としてLiI−LiO−LiS−P、導電助剤として気相成長炭素繊維(VGCF、昭和電工製)、溶媒としてエステル化合物の一種である酪酸ブチルを用いた。
正極活物質、結着材の5質量%酪酸ブチル溶液、硫化物系固体電解質、及び酪酸ブチル(東京化成工業株式会社製)を、固形分63質量%となるように混合した。得られた混合物を超音波ホモジナイザー(SMT株式会社製、UH−50)により60秒間超音波処理し、さらに30分間振とう機で攪拌し、硫化物系固体電池用正極用スラリーを調製した。
なお、硫化物系固体電池用正極用スラリーの乾燥体積中の含有割合は、正極活物質:硫化物系固体電解質:結着材:導電助剤=56.6体積%:37.8体積%:1.5体積%:4.1体積%であった。
【0083】
調製したスラリーを、アルミニウム箔にカーボン塗工した箔(昭和電工株式会社製 SDX(登録商標))上にアプリケーター(350μmギャップ、大佑機材株式会社製)を用いて塗工した。塗工後、表面が乾燥するまで自然乾燥させた後、100℃のホットプレート上にて30分間乾燥を行い、硫化物系固体電池用正極を作製した。
【0084】
負極活物質としてMF−6(三菱化学)、バインダーとしてアミノ変性水素添加ブタジエンゴム(ABR)系バインダー(JSR製)を準備した。活物質と硫化物固体電解質材料との質量比率を58:42、バインダーを活物質100質量部に対して1.1質量部となるように固形分を調合した。固形分率が63質量%となるように、正極に用いた混合溶媒と同様の混合溶媒と固形分とを調合し、超音波ホモジナイザー(SMT株式会社製、UH−50)を用いて混練することにより、負極活物質層形成用スラリーを得た。銅箔上にアプリケーターを用いて負極活物質層形成用スラリーを塗工して乾燥させることにより負極活物質層を形成した。上記銅箔及び負極活物質層を1cmに打ち抜いて、硫化物系固体電池用負極を作製した。
【0085】
固体電解質層を作製した。不活性ガス中で、上記硫化物固体電解質材料100質量部に対し、ABR系バインダーを1質量部加え、さらに脱水ヘプタンを固形分が35質量%となるように加えたものを超音波ホモジナイザー(SMT株式会社製、UH−50)を用いて混練することにより、固体電解質層形成用スラリーを得た。アルミニウム箔にアプリケーターを用いて固体電解質層形成用スラリーを塗工して乾燥させることにより固体電解質層を得た。アルミニウム箔及び固体電解質層を1cmに打ち抜き、アルミニウム箔をはがした。
硫化物系固体電池用正極用スラリーを塗工した面が固体電解質層と接するように、作製した硫化物系固体電池用正極を固体電解質層の一方の面に貼り合わせた。負極活物質層形成用スラリーを塗工した面が固体電解質層と接するように、作製した硫化物系固体電池用負極を固体電解質層のもう一方の面に貼り合わせ、4.3tでプレスすることにより、実施例1の硫化物系固体電池を製造した。
【0086】
[実施例2]
硫化物系固体電池用正極用スラリーの乾燥体積中の含有割合を、正極活物質:硫化物系固体電解質:結着材:導電助剤=55.0体積%:36.7体積%:4.3体積%:4.0体積%とした以外は、実施例1と同様に硫化物系固体電池用正極用スラリーを調製した。
後は、実施例1と同様に硫化物系固体電池用正極、硫化物系固体電池用負極を作製し、これら電極に加えて実施例1と同様の固体電解質層を用いて、実施例2の硫化物系固体電池を製造した。
【0087】
[実施例3]
硫化物系固体電池用正極用スラリーの乾燥体積中の含有割合を、正極活物質:硫化物系固体電解質:結着材:導電助剤=53.5体積%:35.6体積%:7.1体積%:3.8体積%とした以外は、実施例1と同様に硫化物系固体電池用正極用スラリーを調製した。
後は、実施例1と同様に硫化物系固体電池用正極、硫化物系固体電池用負極を作製し、これら電極に加えて実施例1と同様の固体電解質層を用いて、実施例3の硫化物系固体電池を製造した。
【0088】
[実施例4]
LiNbOがコートされた正極活物質を調製した。転動流動式コーティング装置(パウレック製)を用いて、大気下において、平均粒径4μmの正極活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)に対しLiNbOをコーティングし、大気下において焼成を行った。
正極活物質としてLiNbOがコートされた上記LiNi1/3Co1/3Mn1/3、結着材としてフッ素系共重合体(フッ化ビニリデン単量体単位:テトラフルオロエチレン単量体単位:ヘキサフルオロプロピレン単量体単位=55mol%:25mol%:20mol%、株式会社クレハ製)、硫化物系固体電解質(平均粒径2.5μm)としてLiIを含むLiS−P系ガラスセラミック、導電助剤として気相成長炭素繊維(VGCF、昭和電工製)、溶媒としてエステル化合物の一種である酪酸ブチルを用いた。
正極活物質、結着材の5質量%酪酸ブチル溶液、硫化物系固体電解質、及び酪酸ブチル(東京化成工業株式会社製)を、固形分が63質量%となるように混合した。得られた混合物を超音波ホモジナイザー(SMT株式会社製、UH−50)により30秒間超音波処理した。続いて混合物を振とう機(柴田科学株式会社製、TTM−1)により3分間振とうさせて攪拌した。さらに、混合物を超音波ホモジナイザー(SMT株式会社製、UH−50)により30秒間超音波処理し、硫化物系固体電池用正極用スラリーが得られた。
なお、硫化物系固体電池用正極用スラリーの乾燥体積を100体積%としたとき、結着材の含有割合は1.4体積%であった。
【0089】
調製したスラリーを、アルミニウム箔にカーボン塗工した箔(昭和電工株式会社製 SDX(登録商標))上にアプリケーター(350μmギャップ、大佑機材株式会社製)を用いて塗工した。塗工後、表面が乾燥するまで自然乾燥させた後、100℃のホットプレート上にて30分間乾燥を行い、硫化物系固体電池用正極を作製した。
【0090】
負極活物質として平均粒径10μmの天然黒鉛系カーボン(三菱化学製)、結着材としてアミノ変性水素添加ブタジエンゴム(ABR)系バインダー(JSR製)、硫化物系固体電解質(平均粒径2.5μm)としてLiIを含むLiS−P系ガラスセラミック、溶媒としてヘプタンを準備した。反応容器に、負極活物質、結着材の5質量%ヘプタン溶液、硫化物系固体電解質、及び溶媒を加え、超音波ホモジナイザー(SMT株式会社製、UH−50)により30秒間超音波処理した。続いて混合物を振とう機(柴田科学株式会社製、TTM−1)により30分間振とうさせて攪拌し、硫化物系固体電池用負極用スラリーが得られた。銅箔上にアプリケーターを用いて硫化物系固体電池用負極用スラリーを塗工して乾燥させることにより負極活物質層を形成した。塗工後、表面が乾燥するまで自然乾燥させた後、100℃のホットプレート上にて30分間乾燥を行い、硫化物系固体電池用負極を作製した。
【0091】
硫化物系固体電解質(平均粒径2.5μm)としてLiIを含むLiS−P系ガラスセラミック、結着材としてブチレンゴム(BR)系バインダー、溶媒としてヘプタンを準備した。反応容器に、硫化物系固体電解質、結着材の5質量%ヘプタン溶液、及び溶媒を加え、超音波ホモジナイザー(SMT株式会社製、UH−50)により30秒間超音波処理した。続いて混合物を振とう機(柴田科学株式会社製、TTM−1)により30分間振とうさせて攪拌し、固体電解質層形成用スラリーが得られた。アルミニウム箔にアプリケーターを用いて固体電解質層形成用スラリーを塗工して乾燥させることにより固体電解質層を得た。アルミニウム箔及び固体電解質層を1cmに打ち抜き、アルミニウム箔をはがした。
底面が1cmの金型に固体電解質層を加えて1t/cmでプレスし、セパレート層を作製した。硫化物系固体電池用正極をセパレート層の一方の面に接するように金型に加え、全体を1t/cmでプレスした。また、硫化物系固体電池用負極をセパレート層の他方の面に接するように金型に加え、6t/cmでプレスすることにより、実施例4の硫化物系固体電池を製造した。
【0092】
[実施例5]
硫化物系固体電池用正極用スラリーの乾燥体積を100体積%としたとき、結着材の含有割合を4.0体積%とした以外は、実施例4と同様に硫化物系固体電池用正極用スラリーを調製した。
後は、実施例4と同様に硫化物系固体電池用正極、硫化物系固体電池用負極を作製し、これら電極に加えて実施例4と同様の固体電解質層を用いて、実施例5の硫化物系固体電池を製造した。
【0093】
[実施例6]
硫化物系固体電池用正極用スラリーの乾燥体積を100体積%としたとき、結着材の含有割合を6.6体積%とした以外は、実施例4と同様に硫化物系固体電池用正極用スラリーを調製した。
後は、実施例4と同様に硫化物系固体電池用正極、硫化物系固体電池用負極を作製し、これら電極に加えて実施例4と同様の固体電解質層を用いて、実施例6の硫化物系固体電池を製造した。
【0094】
[比較例1]
正極活物質として三元系活物質LiCo1/3Ni1/3Mn1/3(日亜化学製)、結着材としてアミノ変性水素添加ブタジエンゴム(ABR)系バインダー(JSR製)、硫化物系固体電解質としてLiI−LiO−LiS−P、溶媒としてヘプタン(ナカライテスク製)及びトリ−n−ブチルアミン(ナカライテスク製)を用いた。
正極活物質、結着材の5質量%ヘプタン溶液、硫化物系固体電解質、並びに、ヘプタン及びトリ−n−ブチルアミンを混合した。得られた混合物を30秒間超音波処理し、さらに30分間振とう機で攪拌し、硫化物系固体電池用正極用スラリーを調製した。
なお、硫化物系固体電池用正極用スラリー中の乾燥体積中の含有割合は、正極活物質:硫化物系固体電解質:結着材:導電助剤=55.2体積%:36.8体積%:4.0体積%:4.0体積%であった。
後は、実施例1と同様に硫化物系固体電池用正極、硫化物系固体電池用負極を作製し、これら電極に加えて実施例1と同様の固体電解質層を用いて、比較例1の硫化物系固体電池を製造した。
【0095】
[比較例2]
硫化物系固体電池用正極用スラリーの乾燥体積中の含有割合を、正極活物質:硫化物系固体電解質:結着材:導電助剤=54.5体積%:36.4体積%:5.2体積%:3.9体積%とした以外は、比較例1と同様に硫化物系固体電池用正極用スラリーを調製した。
後は、実施例1と同様に硫化物系固体電池用正極、硫化物系固体電池用負極を作製し、これら電極に加えて実施例1と同様の固体電解質層を用いて、比較例2の硫化物系固体電池を製造した。
【0096】
[比較例3]
硫化物系固体電池用正極用スラリーの乾燥体積中の含有割合を、正極活物質:硫化物系固体電解質:結着材:導電助剤=53.8体積%:35.9体積%:6.4体積%:3.9体積%とした以外は、比較例1と同様に硫化物系固体電池用正極用スラリーを調製した。
後は、実施例1と同様に硫化物系固体電池用正極、硫化物系固体電池用負極を作製し、これら電極に加えて実施例1と同様の固体電解質層を用いて、比較例3の硫化物系固体電池を製造した。
【0097】
[比較例4]
硫化物系固体電池用正極用スラリーの乾燥体積中の含有割合を、正極活物質:硫化物系固体電解質:結着材:導電助剤=52.4体積%:35.0体積%:8.8体積%:3.8体積%とした以外は、比較例1と同様に硫化物系固体電池用正極用スラリーを調製した。
後は、実施例1と同様に硫化物系固体電池用正極、硫化物系固体電池用負極を作製し、これら電極に加えて実施例1と同様の固体電解質層を用いて、比較例4の硫化物系固体電池を製造した。
【0098】
[比較例5]
LiNbOがコートされた正極活物質を調製した。転動流動式コーティング装置(パウレック製)を用いて、大気下において平均粒径4μmの正極活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)に、LiNbOをコーティングし、大気下において焼成を行った。
正極活物質としてLiNbOがコートされた上記LiNi1/3Co1/3Mn1/3、結着材としてアミノ変性水素添加ブタジエンゴム(ABR)系バインダー(JSR製)、硫化物系固体電解質(平均粒径2.5μm)としてLiIを含むLiS−P系ガラスセラミック、導電助剤として気相成長炭素繊維(VGCF、昭和電工製)、溶媒としてヘプタンを用いた。
正極活物質、結着材の5質量%ヘプタン溶液、硫化物系固体電解質、及びヘプタンを、固形分が63質量%となるように混合した。得られた混合物を超音波ホモジナイザー(SMT株式会社製、UH−50)により30秒間超音波処理した。続いて混合物を振とう機(柴田科学株式会社製、TTM−1)により3分間振とうさせて攪拌した。さらに、混合物を超音波ホモジナイザー(SMT株式会社製、UH−50)により30秒間超音波処理し、硫化物系固体電池用正極用スラリーが得られた。
なお、硫化物系固体電池用正極用スラリーの乾燥体積を100体積%としたとき、結着材の含有割合は4.0体積%であった。
後は、実施例4と同様に硫化物系固体電池用正極、硫化物系固体電池用負極を作製し、これら電極に加えて実施例4と同様の固体電解質層を用いて、比較例5の硫化物系固体電池を製造した。
【0099】
2.接着力の測定
実施例1−実施例3、並びに、比較例1−比較例3の硫化物系固体電池について、接着力を測定した。
接着力の測定は、引っ張り荷重測定機(アイコーエンジニアリング社製、MODEL−2257)を用い、グローブボックス中、アルゴン雰囲気下、室温で行った。
図7は、接着力の測定態様の概略を示した断面模式図である。図7中、二重波線は図の省略を意味する。まず、硫化物系固体電池における正極側13aを上にして、両面テープ14により硫化物系固体電池13を台座15に固定した。引っ張り荷重測定機11のアタッチメント先端部11aに別の両面テープ12を貼り付け、当該両面テープの接着面を硫化物系固体電池13側に向けた。引っ張り荷重測定機11を、硫化物系固体電池13に対し、垂直に等速(約20mm/min)で下降させ、両面テープ12と硫化物系固体電池における正極側13aとを接触させた後、引っ張り荷重測定機11を上昇させた。硫化物系固体電池用正極用スラリーの塗膜が剥がれた際の引っ張り荷重を、当該サンプルの接着力とした。
【0100】
図2は、実施例1−実施例3、及び、比較例1−比較例3の硫化物系固体電池についての接着力をプロットしたグラフである。図2は、横軸に結着材の含有割合(体積%)を、縦軸に接着力(N/cm)を、それぞれとったグラフである。また、黒菱形のプロットは結着材にフッ素系共重合体を用いた硫化物系固体電池(実施例1−実施例3)のデータを示し、白丸のプロットは結着材にABR系バインダーを用いた硫化物系固体電池(比較例1−比較例3)のデータを示す。また、グラフ中の太い実線は黒菱形のプロットの漸近線を、グラフ中の細い実線は白丸のプロットの漸近線を、それぞれ示す。
【0101】
図2から分かるように、比較例1(結着材含有割合:4.0体積%)の接着力は6.3N/cmである。比較例2(結着材含有割合:5.2体積%)の接着力は10N/cmである。比較例3(結着材含有割合:6.4体積%)の接着力は12.7N/cmである。
【0102】
一方、図2から分かるように、実施例1(結着材含有割合:1.5体積%)の接着力は2.4N/cmである。したがって、実施例1の接着力は、使用可能な硫化物系固体電池の基準値である1.8N/cmを超える。また、実施例2(結着材含有割合:4.3体積%)の接着力は15.7N/cmであり、実施例3(結着材含有割合:7.1体積%)の接着力は31.5N/cmである。
以上より、結着材にフッ素系共重合体を用いた実施例1−実施例3の硫化物系固体電池の接着力は、ABR系バインダーを同じ含有割合で用いた硫化物系固体電池の接着力よりも高いと考えられる。また、結着材の種類に限らず、結着材の含有割合を増やすほど、接着力は強くなることが確認できる。
【0103】
3.出力の測定
3−1.実施例1−実施例3、及び、比較例1−比較例4について
実施例1−実施例3、及び、比較例1−比較例4の硫化物系固体電池について、出力を測定し、出力比を算出した。具体的には、3.6Vの電圧でSOC調整後、定電力放電(20〜100mW、10mW刻み)し、5秒相当の電力を出力とした。なお、出力比は、比較例1の電池の出力に対する、測定した電池出力の比とした。すなわち、出力比とは、比較例1の電池の出力を1としたときの、測定した電池出力の比である。
【0104】
図3は、実施例1−実施例3、及び、比較例1−比較例4の硫化物系固体電池についての出力比をプロットしたグラフである。図3は、横軸に結着材の含有割合(体積%)を、縦軸に出力比を、それぞれとったグラフである。また、黒菱形のプロットは結着材にフッ素系共重合体を用いた硫化物系固体電池(実施例1−実施例3)のデータを示し、白丸のプロットはABR系バインダーを用いた硫化物系固体電池(比較例1−比較例4)のデータを示す。また、グラフ中の太い実線は黒菱形のプロットの漸近線を示す。
【0105】
図3から分かるように、比較例2(結着材含有割合:5.2体積%)の出力比は1.09である。比較例3(結着材含有割合:6.4体積%)の出力比は0.9である。比較例4(結着材含有割合:8.8体積%)の出力比は0.71である。
以上より、結着材にABR系バインダーを用いた比較例1−比較例4の硫化物系固体電池の出力比は、結着材の含有割合が約5体積%のときに極大値をとる。ABR系バインダーの含有割合が約5体積%よりも小さい場合には、合剤内の接着性が低すぎるため、粒子間に隙間ができ、出力が得にくいと考えられる。一方、ABR系バインダーの含有割合が約5体積%よりも大きい場合には、正極材料粒子間に多くのABR系バインダーが存在し、リチウム伝導及び電子伝導を阻害すると考えられる。
【0106】
一方、図3から分かるように、実施例1(結着材含有割合:1.5体積%)の出力比は1.35である。実施例2(結着材含有割合:4.3体積%)の出力比は1.17である。実施例3(結着材含有割合:7.1体積%)の出力比は0.97である。
以上より、結着材にフッ素系共重合体を用いた実施例1−実施例3の硫化物系固体電池の出力比は、結着材の含有割合が増すほど低下する。フッ素系共重合体は、少ない量でも優れた接着性及び高い出力が得られる。一方、フッ素系共重合体が多すぎる場合には、正極材料粒子間に多くのフッ素系共重合体が存在し、リチウム伝導及び電子伝導を阻害するおそれがあると考えられる。
このように、結着材にフッ素系共重合体を用いた実施例1−実施例3の硫化物系固体電池は、結着材にABR系バインダーを用いた比較例1−比較例4の硫化物系固体電池と比較して、高い出力を発揮することが分かる。また、含有割合の増加によって出力比が急激に低下していないことから、実施例1−実施例3においては、硫化物系固体電解質と結着材との間において特異的な化学反応が生じ、その結果硫化物系固体電池の出力が損なわれる、というおそれはないと推定される。
図4は実施例1−実施例3、及び、比較例1−比較例3の硫化物系固体電池について、接着力に対する出力比をプロットしたグラフである。図4は、縦軸に出力比を、横軸に接着力(N/cm)を、それぞれとったグラフである。図4より、比較例1−比較例3においては、接着力が15N/cm未満でも出力比が1を割り、出力比の減りが大きいことが分かる。一方、図4より、実施例1−実施例3においては、接着力が30N/cmを超えても出力比の減りはあまり大きくないことが分かる。したがって、従来のABR系バインダーを用いると、接着力の向上に伴い出力比が犠牲になるが、一方、本発明に用いられるフッ素系共重合体は、出力比を落とさずに接着力を向上させることができることが分かる。
【0107】
以上より、正極においてフッ化ビニリデン単量体単位を含むフッ素系共重合体及び正極活物質を含有し、正極の体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜10体積%である実施例1−実施例3の硫化物系固体電池は、従来のABR系バインダーを結着材に用いた硫化物系固体電池と比較して、優れた出力及び高い接着力を両立できることが分かる。
【0108】
3−2.実施例4−実施例6、及び、比較例5について
実施例4−実施例6、及び、比較例5の硫化物系固体電池について、初期出力を測定した。具体的には、まず、3.6Vまで定電流−定電圧充電した(終止電流1/100C相当)。次に、10分間休止した。続いて、定電力放電を実施し、5秒間で2.5Vに達する電力値(W)を初期出力とした。
【0109】
図5は、実施例4−実施例6の硫化物系固体電池について、初期出力及び初期容量をプロットしたグラフである。図5は、横軸に結着材の含有割合(体積%)を、縦軸に初期出力又は初期容量を、それぞれとったグラフである。また、菱形のプロットは各電池の初期出力のデータを示し、三角形のプロットは各電池の初期容量のデータを示す。なお、図5中の初期出力及び初期容量は、実施例4(結着材含有割合:1.4体積%)の初期出力又は初期容量を100としたときの比で示す。図5中の初期容量については後に検討する。
【0110】
図5の菱形のプロットから分かるように、実施例4(結着材含有割合:1.4体積%)の初期出力を100としたとき、実施例5(結着材含有割合:4.0体積%)の初期出力は87であり、実施例6(結着材含有割合:6.6体積%)の初期出力は73である。以上より、初期段階においては、結着材の含有割合が小さいほど出力が高いことが分かる。
【0111】
次に、実施例4−実施例6、及び、比較例5の硫化物系固体電池について、耐久後出力を測定した。具体的には、(1)まず、0.5時間率(2C)で4.4Vまで定電流充電した。(2)次に、10分間休止した。(3)続いて、0.5時間率(2C)で3.4Vまで定電流放電した。(4)次に、10分間休止した。(1)〜(4)を60℃の温度条件下で2,000サイクル実施し、2,000サイクル後の出力を測定し、このときの出力を耐久後出力とした。なお、2,000サイクルの途中で、容量確認及び出力測定を数回実施した。
【0112】
図6は、実施例4及び実施例5の硫化物系固体電池について、耐久後の出力維持率及び容量維持率をプロットしたグラフである。図6は、横軸に結着材の含有割合(体積%)を、縦軸に出力維持率又は容量維持率(%)を、それぞれとったグラフである。また、菱形のプロットは各電池の出力維持率のデータを示し、三角形のプロットは各電池の容量維持率のデータを示す。なお、図6中の出力維持率及び容量維持率とは、各電池の初期出力又は初期容量を100%としたときの、2,000サイクル後の出力又は容量の割合(%)である。図6中の容量維持率については後に検討する。
【0113】
図6から分かるように、実施例4(結着材含有割合:1.4体積%)の出力維持率は75%であり、実施例5(結着材含有割合:4.0体積%)の出力維持率は85%である。以上より、結着材の含有割合が大きいほど、出力維持率が高いことが分かる。
【0114】
下記表1は、実施例5(フッ素系共重合体含有割合:4.0体積%)及び比較例5(ABR系バインダー含有割合:4.0体積%)のそれぞれの初期出力及び耐久後出力をまとめた表である。なお、下記表1において、初期出力及び耐久後出力は、比較例5の初期出力を100としたときの比で示される。
【0115】
【表1】
【0116】
上記表1より、比較例5の初期出力を100としたとき、実施例5の初期出力は91である。一方、比較例5の耐久後出力は56であるのに対し、実施例5の耐久後出力は63と高い。以上の結果から、フッ素系共重合体を正極に用いた実施例5の硫化物系固体電池は、ABR系バインダーを正極に用いた比較例の硫化物系固体電池と比較して、耐久性が向上する結果、出力維持率が高くなることが分かる。
【0117】
4.容量の測定
実施例4−実施例6、及び、比較例5の硫化物系固体電池について、初期容量を測定した。具体的には、まず、3時間率(1/3C)で4.55Vまで定電流−定電圧充電した。次に、10分間休止した。続いて、3時間率(1/3C)で3.0Vまで定電力放電を実施し、このときの放電容量を初期容量とした。
【0118】
図5の三角形のプロットから分かるように、実施例4(結着材含有割合:1.4体積%)の初期容量を100としたとき、実施例5(結着材含有割合:4.0体積%)の初期容量は98であり、実施例6(結着材含有割合:6.6体積%)の初期容量は95である。以上より、初期段階においては、結着材の含有割合が小さいほど容量が高いことが分かる。
【0119】
次に、実施例4−実施例6、及び、比較例5の硫化物系固体電池について、耐久後容量を測定した。具体的には、上述した耐久後出力の測定と同様に、上記(1)〜(4)を60℃の温度条件下で2,000サイクル実施し、2,000サイクル後の容量を測定し、このときの容量を耐久後容量とした。なお、2,000サイクルの途中で、容量確認及び出力測定を数回実施した。
【0120】
図6の三角形のプロットから分かるように、実施例4(結着材含有割合:1.4体積%)の容量維持率は86%であり、実施例5(結着材含有割合:4.0体積%)の容量維持率は88%である。以上より、結着材の含有割合が大きいほど、容量維持率が高いことが分かる。
【0121】
下記表2は、実施例5(フッ素系共重合体含有割合:4.0体積%)及び比較例5(ABR系バインダー含有割合:4.0体積%)のそれぞれの初期容量及び耐久後容量をまとめた表である。なお、下記表2において、初期容量及び耐久後容量は、比較例5の初期容量を100としたときの比で示される。
【0122】
【表2】
【0123】
上記表2より、比較例5の初期容量を100としたとき、実施例5の初期容量は100であり、2つの硫化物系固体電池は同程度の初期容量を示す。一方、比較例5の耐久後容量は80であるのに対し、実施例5の耐久後容量は86と高い。以上の結果から、フッ素系共重合体を正極に用いた実施例5の硫化物系固体電池は、ABR系バインダーを正極に用いた比較例の硫化物系固体電池と比較して、耐久性が向上する結果、容量維持率も高くなることが分かる。
【0124】
5.圧粉体の作製
[製造例1]
硫化物系固体電解質の一種であるLiI−LiO−LiS−Pを100mg、及び、エステル化合物の一種である酪酸ブチル(東京化成社製)を5mL混合し、当該混合物を乾燥させた。乾燥させた混合物を、4.3t/cmの圧力でペレット化し、製造例1の圧粉体を作製した。
【0125】
[製造例2]
製造例1において、酪酸ブチル5mLを、N−メチルピロリドン(NMP、ナカライテスク社製)5mLに替えた以外は、製造例1と同様に原料を混合し、乾燥させ、ペレット化を行い、製造例2の圧粉体を作製した。
【0126】
6.イオン伝導度の測定
製造例1及び製造例2の圧粉体について、インピーダンスアナライザー(Solartron社製:SI−1260)を用いて、周波数1MHz〜0.1Hzで交流インピーダンス測定を行い、測定結果に基づいてイオン伝導度を算出した。
下記表3は、製造例1及び製造例2の圧粉体のイオン伝導度をまとめた表である。
【0127】
【表3】
【0128】
上記表3から分かるように、NMPを用いた製造例2の圧粉体のイオン伝導度は7.64×10−8S/cmであるのに対し、酪酸ブチルを用いた製造例1の圧粉体のイオン伝導度は9.3×10−4S/cmである。すなわち、製造例1のイオン伝導度のオーダーは、製造例2のイオン伝導度のオーダーよりも4ケタ高い。これらの結果から、酪酸ブチルが、NMPと比較して硫化物系固体電解質との反応性が低く、そのため、硫化物系固体電解質のイオン伝導性を損なわないことが示唆される。
【符号の説明】
【0129】
1 硫化物系固体電解質層
2 正極活物質層
3 負極活物質層
4 正極集電体
5 負極集電体
6 正極
7 負極
11 引っ張り荷重測定機
11a アタッチメント先端部
12 両面テープ
13 硫化物系固体電池
13a 硫化物系固体電池における正極側
14 両面テープ
15 台座
100 硫化物系固体電池
図1
図2
図3
図5
図6
図7
図4