【実施例】
【0081】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0082】
1.硫化物系固体電池の製造
[実施例1]
正極活物質として三元系活物質LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2(日亜化学工業株式会社製)、結着材としてフッ素系共重合体(フッ化ビニリデン単量体単位:テトラフルオロエチレン単量体単位:ヘキサフルオロプロピレン単量体単位=55mol%:25mol%:20mol%、株式会社クレハ製)、硫化物系固体電解質としてLiI−Li
2O−Li
2S−P
2S
5、導電助剤として気相成長炭素繊維(VGCF、昭和電工製)、溶媒としてエステル化合物の一種である酪酸ブチルを用いた。
正極活物質、結着材の5質量%酪酸ブチル溶液、硫化物系固体電解質、及び酪酸ブチル(東京化成工業株式会社製)を、固形分63質量%となるように混合した。得られた混合物を超音波ホモジナイザー(SMT株式会社製、UH−50)により60秒間超音波処理し、さらに30分間振とう機で攪拌し、硫化物系固体電池用正極用スラリーを調製した。
なお、硫化物系固体電池用正極用スラリーの乾燥体積中の含有割合は、正極活物質:硫化物系固体電解質:結着材:導電助剤=56.6体積%:37.8体積%:1.5体積%:4.1体積%であった。
【0083】
調製したスラリーを、アルミニウム箔にカーボン塗工した箔(昭和電工株式会社製 SDX(登録商標))上にアプリケーター(350μmギャップ、大佑機材株式会社製)を用いて塗工した。塗工後、表面が乾燥するまで自然乾燥させた後、100℃のホットプレート上にて30分間乾燥を行い、硫化物系固体電池用正極を作製した。
【0084】
負極活物質としてMF−6(三菱化学)、バインダーとしてアミノ変性水素添加ブタジエンゴム(ABR)系バインダー(JSR製)を準備した。活物質と硫化物固体電解質材料との質量比率を58:42、バインダーを活物質100質量部に対して1.1質量部となるように固形分を調合した。固形分率が63質量%となるように、正極に用いた混合溶媒と同様の混合溶媒と固形分とを調合し、超音波ホモジナイザー(SMT株式会社製、UH−50)を用いて混練することにより、負極活物質層形成用スラリーを得た。銅箔上にアプリケーターを用いて負極活物質層形成用スラリーを塗工して乾燥させることにより負極活物質層を形成した。上記銅箔及び負極活物質層を1cm
2に打ち抜いて、硫化物系固体電池用負極を作製した。
【0085】
固体電解質層を作製した。不活性ガス中で、上記硫化物固体電解質材料100質量部に対し、ABR系バインダーを1質量部加え、さらに脱水ヘプタンを固形分が35質量%となるように加えたものを超音波ホモジナイザー(SMT株式会社製、UH−50)を用いて混練することにより、固体電解質層形成用スラリーを得た。アルミニウム箔にアプリケーターを用いて固体電解質層形成用スラリーを塗工して乾燥させることにより固体電解質層を得た。アルミニウム箔及び固体電解質層を1cm
2に打ち抜き、アルミニウム箔をはがした。
硫化物系固体電池用正極用スラリーを塗工した面が固体電解質層と接するように、作製した硫化物系固体電池用正極を固体電解質層の一方の面に貼り合わせた。負極活物質層形成用スラリーを塗工した面が固体電解質層と接するように、作製した硫化物系固体電池用負極を固体電解質層のもう一方の面に貼り合わせ、4.3tでプレスすることにより、実施例1の硫化物系固体電池を製造した。
【0086】
[実施例2]
硫化物系固体電池用正極用スラリーの乾燥体積中の含有割合を、正極活物質:硫化物系固体電解質:結着材:導電助剤=55.0体積%:36.7体積%:4.3体積%:4.0体積%とした以外は、実施例1と同様に硫化物系固体電池用正極用スラリーを調製した。
後は、実施例1と同様に硫化物系固体電池用正極、硫化物系固体電池用負極を作製し、これら電極に加えて実施例1と同様の固体電解質層を用いて、実施例2の硫化物系固体電池を製造した。
【0087】
[実施例3]
硫化物系固体電池用正極用スラリーの乾燥体積中の含有割合を、正極活物質:硫化物系固体電解質:結着材:導電助剤=53.5体積%:35.6体積%:7.1体積%:3.8体積%とした以外は、実施例1と同様に硫化物系固体電池用正極用スラリーを調製した。
後は、実施例1と同様に硫化物系固体電池用正極、硫化物系固体電池用負極を作製し、これら電極に加えて実施例1と同様の固体電解質層を用いて、実施例3の硫化物系固体電池を製造した。
【0088】
[実施例4]
LiNbO
3がコートされた正極活物質を調製した。転動流動式コーティング装置(パウレック製)を用いて、大気下において、平均粒径4μmの正極活物質(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)に対しLiNbO
3をコーティングし、大気下において焼成を行った。
正極活物質としてLiNbO
3がコートされた上記LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2、結着材としてフッ素系共重合体(フッ化ビニリデン単量体単位:テトラフルオロエチレン単量体単位:ヘキサフルオロプロピレン単量体単位=55mol%:25mol%:20mol%、株式会社クレハ製)、硫化物系固体電解質(平均粒径2.5μm)としてLiIを含むLi
2S−P
2S
5系ガラスセラミック、導電助剤として気相成長炭素繊維(VGCF、昭和電工製)、溶媒としてエステル化合物の一種である酪酸ブチルを用いた。
正極活物質、結着材の5質量%酪酸ブチル溶液、硫化物系固体電解質、及び酪酸ブチル(東京化成工業株式会社製)を、固形分が63質量%となるように混合した。得られた混合物を超音波ホモジナイザー(SMT株式会社製、UH−50)により30秒間超音波処理した。続いて混合物を振とう機(柴田科学株式会社製、TTM−1)により3分間振とうさせて攪拌した。さらに、混合物を超音波ホモジナイザー(SMT株式会社製、UH−50)により30秒間超音波処理し、硫化物系固体電池用正極用スラリーが得られた。
なお、硫化物系固体電池用正極用スラリーの乾燥体積を100体積%としたとき、結着材の含有割合は1.4体積%であった。
【0089】
調製したスラリーを、アルミニウム箔にカーボン塗工した箔(昭和電工株式会社製 SDX(登録商標))上にアプリケーター(350μmギャップ、大佑機材株式会社製)を用いて塗工した。塗工後、表面が乾燥するまで自然乾燥させた後、100℃のホットプレート上にて30分間乾燥を行い、硫化物系固体電池用正極を作製した。
【0090】
負極活物質として平均粒径10μmの天然黒鉛系カーボン(三菱化学製)、結着材としてアミノ変性水素添加ブタジエンゴム(ABR)系バインダー(JSR製)、硫化物系固体電解質(平均粒径2.5μm)としてLiIを含むLi
2S−P
2S
5系ガラスセラミック、溶媒としてヘプタンを準備した。反応容器に、負極活物質、結着材の5質量%ヘプタン溶液、硫化物系固体電解質、及び溶媒を加え、超音波ホモジナイザー(SMT株式会社製、UH−50)により30秒間超音波処理した。続いて混合物を振とう機(柴田科学株式会社製、TTM−1)により30分間振とうさせて攪拌し、硫化物系固体電池用負極用スラリーが得られた。銅箔上にアプリケーターを用いて硫化物系固体電池用負極用スラリーを塗工して乾燥させることにより負極活物質層を形成した。塗工後、表面が乾燥するまで自然乾燥させた後、100℃のホットプレート上にて30分間乾燥を行い、硫化物系固体電池用負極を作製した。
【0091】
硫化物系固体電解質(平均粒径2.5μm)としてLiIを含むLi
2S−P
2S
5系ガラスセラミック、結着材としてブチレンゴム(BR)系バインダー、溶媒としてヘプタンを準備した。反応容器に、硫化物系固体電解質、結着材の5質量%ヘプタン溶液、及び溶媒を加え、超音波ホモジナイザー(SMT株式会社製、UH−50)により30秒間超音波処理した。続いて混合物を振とう機(柴田科学株式会社製、TTM−1)により30分間振とうさせて攪拌し、固体電解質層形成用スラリーが得られた。アルミニウム箔にアプリケーターを用いて固体電解質層形成用スラリーを塗工して乾燥させることにより固体電解質層を得た。アルミニウム箔及び固体電解質層を1cm
2に打ち抜き、アルミニウム箔をはがした。
底面が1cm
2の金型に固体電解質層を加えて1t/cm
2でプレスし、セパレート層を作製した。硫化物系固体電池用正極をセパレート層の一方の面に接するように金型に加え、全体を1t/cm
2でプレスした。また、硫化物系固体電池用負極をセパレート層の他方の面に接するように金型に加え、6t/cm
2でプレスすることにより、実施例4の硫化物系固体電池を製造した。
【0092】
[実施例5]
硫化物系固体電池用正極用スラリーの乾燥体積を100体積%としたとき、結着材の含有割合を4.0体積%とした以外は、実施例4と同様に硫化物系固体電池用正極用スラリーを調製した。
後は、実施例4と同様に硫化物系固体電池用正極、硫化物系固体電池用負極を作製し、これら電極に加えて実施例4と同様の固体電解質層を用いて、実施例5の硫化物系固体電池を製造した。
【0093】
[実施例6]
硫化物系固体電池用正極用スラリーの乾燥体積を100体積%としたとき、結着材の含有割合を6.6体積%とした以外は、実施例4と同様に硫化物系固体電池用正極用スラリーを調製した。
後は、実施例4と同様に硫化物系固体電池用正極、硫化物系固体電池用負極を作製し、これら電極に加えて実施例4と同様の固体電解質層を用いて、実施例6の硫化物系固体電池を製造した。
【0094】
[比較例1]
正極活物質として三元系活物質LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2(日亜化学製)、結着材としてアミノ変性水素添加ブタジエンゴム(ABR)系バインダー(JSR製)、硫化物系固体電解質としてLiI−Li
2O−Li
2S−P
2S
5、溶媒としてヘプタン(ナカライテスク製)及びトリ−n−ブチルアミン(ナカライテスク製)を用いた。
正極活物質、結着材の5質量%ヘプタン溶液、硫化物系固体電解質、並びに、ヘプタン及びトリ−n−ブチルアミンを混合した。得られた混合物を30秒間超音波処理し、さらに30分間振とう機で攪拌し、硫化物系固体電池用正極用スラリーを調製した。
なお、硫化物系固体電池用正極用スラリー中の乾燥体積中の含有割合は、正極活物質:硫化物系固体電解質:結着材:導電助剤=55.2体積%:36.8体積%:4.0体積%:4.0体積%であった。
後は、実施例1と同様に硫化物系固体電池用正極、硫化物系固体電池用負極を作製し、これら電極に加えて実施例1と同様の固体電解質層を用いて、比較例1の硫化物系固体電池を製造した。
【0095】
[比較例2]
硫化物系固体電池用正極用スラリーの乾燥体積中の含有割合を、正極活物質:硫化物系固体電解質:結着材:導電助剤=54.5体積%:36.4体積%:5.2体積%:3.9体積%とした以外は、比較例1と同様に硫化物系固体電池用正極用スラリーを調製した。
後は、実施例1と同様に硫化物系固体電池用正極、硫化物系固体電池用負極を作製し、これら電極に加えて実施例1と同様の固体電解質層を用いて、比較例2の硫化物系固体電池を製造した。
【0096】
[比較例3]
硫化物系固体電池用正極用スラリーの乾燥体積中の含有割合を、正極活物質:硫化物系固体電解質:結着材:導電助剤=53.8体積%:35.9体積%:6.4体積%:3.9体積%とした以外は、比較例1と同様に硫化物系固体電池用正極用スラリーを調製した。
後は、実施例1と同様に硫化物系固体電池用正極、硫化物系固体電池用負極を作製し、これら電極に加えて実施例1と同様の固体電解質層を用いて、比較例3の硫化物系固体電池を製造した。
【0097】
[比較例4]
硫化物系固体電池用正極用スラリーの乾燥体積中の含有割合を、正極活物質:硫化物系固体電解質:結着材:導電助剤=52.4体積%:35.0体積%:8.8体積%:3.8体積%とした以外は、比較例1と同様に硫化物系固体電池用正極用スラリーを調製した。
後は、実施例1と同様に硫化物系固体電池用正極、硫化物系固体電池用負極を作製し、これら電極に加えて実施例1と同様の固体電解質層を用いて、比較例4の硫化物系固体電池を製造した。
【0098】
[比較例5]
LiNbO
3がコートされた正極活物質を調製した。転動流動式コーティング装置(パウレック製)を用いて、大気下において平均粒径4μmの正極活物質(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)に、LiNbO
3をコーティングし、大気下において焼成を行った。
正極活物質としてLiNbO
3がコートされた上記LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2、結着材としてアミノ変性水素添加ブタジエンゴム(ABR)系バインダー(JSR製)、硫化物系固体電解質(平均粒径2.5μm)としてLiIを含むLi
2S−P
2S
5系ガラスセラミック、導電助剤として気相成長炭素繊維(VGCF、昭和電工製)、溶媒としてヘプタンを用いた。
正極活物質、結着材の5質量%ヘプタン溶液、硫化物系固体電解質、及びヘプタンを、固形分が63質量%となるように混合した。得られた混合物を超音波ホモジナイザー(SMT株式会社製、UH−50)により30秒間超音波処理した。続いて混合物を振とう機(柴田科学株式会社製、TTM−1)により3分間振とうさせて攪拌した。さらに、混合物を超音波ホモジナイザー(SMT株式会社製、UH−50)により30秒間超音波処理し、硫化物系固体電池用正極用スラリーが得られた。
なお、硫化物系固体電池用正極用スラリーの乾燥体積を100体積%としたとき、結着材の含有割合は4.0体積%であった。
後は、実施例4と同様に硫化物系固体電池用正極、硫化物系固体電池用負極を作製し、これら電極に加えて実施例4と同様の固体電解質層を用いて、比較例5の硫化物系固体電池を製造した。
【0099】
2.接着力の測定
実施例1−実施例3、並びに、比較例1−比較例3の硫化物系固体電池について、接着力を測定した。
接着力の測定は、引っ張り荷重測定機(アイコーエンジニアリング社製、MODEL−2257)を用い、グローブボックス中、アルゴン雰囲気下、室温で行った。
図7は、接着力の測定態様の概略を示した断面模式図である。
図7中、二重波線は図の省略を意味する。まず、硫化物系固体電池における正極側13aを上にして、両面テープ14により硫化物系固体電池13を台座15に固定した。引っ張り荷重測定機11のアタッチメント先端部11aに別の両面テープ12を貼り付け、当該両面テープの接着面を硫化物系固体電池13側に向けた。引っ張り荷重測定機11を、硫化物系固体電池13に対し、垂直に等速(約20mm/min)で下降させ、両面テープ12と硫化物系固体電池における正極側13aとを接触させた後、引っ張り荷重測定機11を上昇させた。硫化物系固体電池用正極用スラリーの塗膜が剥がれた際の引っ張り荷重を、当該サンプルの接着力とした。
【0100】
図2は、実施例1−実施例3、及び、比較例1−比較例3の硫化物系固体電池についての接着力をプロットしたグラフである。
図2は、横軸に結着材の含有割合(体積%)を、縦軸に接着力(N/cm
2)を、それぞれとったグラフである。また、黒菱形のプロットは結着材にフッ素系共重合体を用いた硫化物系固体電池(実施例1−実施例3)のデータを示し、白丸のプロットは結着材にABR系バインダーを用いた硫化物系固体電池(比較例1−比較例3)のデータを示す。また、グラフ中の太い実線は黒菱形のプロットの漸近線を、グラフ中の細い実線は白丸のプロットの漸近線を、それぞれ示す。
【0101】
図2から分かるように、比較例1(結着材含有割合:4.0体積%)の接着力は6.3N/cm
2である。比較例2(結着材含有割合:5.2体積%)の接着力は10N/cm
2である。比較例3(結着材含有割合:6.4体積%)の接着力は12.7N/cm
2である。
【0102】
一方、
図2から分かるように、実施例1(結着材含有割合:1.5体積%)の接着力は2.4N/cm
2である。したがって、実施例1の接着力は、使用可能な硫化物系固体電池の基準値である1.8N/cm
2を超える。また、実施例2(結着材含有割合:4.3体積%)の接着力は15.7N/cm
2であり、実施例3(結着材含有割合:7.1体積%)の接着力は31.5N/cm
2である。
以上より、結着材にフッ素系共重合体を用いた実施例1−実施例3の硫化物系固体電池の接着力は、ABR系バインダーを同じ含有割合で用いた硫化物系固体電池の接着力よりも高いと考えられる。また、結着材の種類に限らず、結着材の含有割合を増やすほど、接着力は強くなることが確認できる。
【0103】
3.出力の測定
3−1.実施例1−実施例3、及び、比較例1−比較例4について
実施例1−実施例3、及び、比較例1−比較例4の硫化物系固体電池について、出力を測定し、出力比を算出した。具体的には、3.6Vの電圧でSOC調整後、定電力放電(20〜100mW、10mW刻み)し、5秒相当の電力を出力とした。なお、出力比は、比較例1の電池の出力に対する、測定した電池出力の比とした。すなわち、出力比とは、比較例1の電池の出力を1としたときの、測定した電池出力の比である。
【0104】
図3は、実施例1−実施例3、及び、比較例1−比較例4の硫化物系固体電池についての出力比をプロットしたグラフである。
図3は、横軸に結着材の含有割合(体積%)を、縦軸に出力比を、それぞれとったグラフである。また、黒菱形のプロットは結着材にフッ素系共重合体を用いた硫化物系固体電池(実施例1−実施例3)のデータを示し、白丸のプロットはABR系バインダーを用いた硫化物系固体電池(比較例1−比較例4)のデータを示す。また、グラフ中の太い実線は黒菱形のプロットの漸近線を示す。
【0105】
図3から分かるように、比較例2(結着材含有割合:5.2体積%)の出力比は1.09である。比較例3(結着材含有割合:6.4体積%)の出力比は0.9である。比較例4(結着材含有割合:8.8体積%)の出力比は0.71である。
以上より、結着材にABR系バインダーを用いた比較例1−比較例4の硫化物系固体電池の出力比は、結着材の含有割合が約5体積%のときに極大値をとる。ABR系バインダーの含有割合が約5体積%よりも小さい場合には、合剤内の接着性が低すぎるため、粒子間に隙間ができ、出力が得にくいと考えられる。一方、ABR系バインダーの含有割合が約5体積%よりも大きい場合には、正極材料粒子間に多くのABR系バインダーが存在し、リチウム伝導及び電子伝導を阻害すると考えられる。
【0106】
一方、
図3から分かるように、実施例1(結着材含有割合:1.5体積%)の出力比は1.35である。実施例2(結着材含有割合:4.3体積%)の出力比は1.17である。実施例3(結着材含有割合:7.1体積%)の出力比は0.97である。
以上より、結着材にフッ素系共重合体を用いた実施例1−実施例3の硫化物系固体電池の出力比は、結着材の含有割合が増すほど低下する。フッ素系共重合体は、少ない量でも優れた接着性及び高い出力が得られる。一方、フッ素系共重合体が多すぎる場合には、正極材料粒子間に多くのフッ素系共重合体が存在し、リチウム伝導及び電子伝導を阻害するおそれがあると考えられる。
このように、結着材にフッ素系共重合体を用いた実施例1−実施例3の硫化物系固体電池は、結着材にABR系バインダーを用いた比較例1−比較例4の硫化物系固体電池と比較して、高い出力を発揮することが分かる。また、含有割合の増加によって出力比が急激に低下していないことから、実施例1−実施例3においては、硫化物系固体電解質と結着材との間において特異的な化学反応が生じ、その結果硫化物系固体電池の出力が損なわれる、というおそれはないと推定される。
図4は実施例1−実施例3、及び、比較例1−比較例3の硫化物系固体電池について、接着力に対する出力比をプロットしたグラフである。
図4は、縦軸に出力比を、横軸に接着力(N/cm
2)を、それぞれとったグラフである。
図4より、比較例1−比較例3においては、接着力が15N/cm
2未満でも出力比が1を割り、出力比の減りが大きいことが分かる。一方、
図4より、実施例1−実施例3においては、接着力が30N/cm
2を超えても出力比の減りはあまり大きくないことが分かる。したがって、従来のABR系バインダーを用いると、接着力の向上に伴い出力比が犠牲になるが、一方、本発明に用いられるフッ素系共重合体は、出力比を落とさずに接着力を向上させることができることが分かる。
【0107】
以上より、正極においてフッ化ビニリデン単量体単位を含むフッ素系共重合体及び正極活物質を含有し、正極の体積を100体積%としたとき、前記フッ素系共重合体の含有割合が1.5〜10体積%である実施例1−実施例3の硫化物系固体電池は、従来のABR系バインダーを結着材に用いた硫化物系固体電池と比較して、優れた出力及び高い接着力を両立できることが分かる。
【0108】
3−2.実施例4−実施例6、及び、比較例5について
実施例4−実施例6、及び、比較例5の硫化物系固体電池について、初期出力を測定した。具体的には、まず、3.6Vまで定電流−定電圧充電した(終止電流1/100C相当)。次に、10分間休止した。続いて、定電力放電を実施し、5秒間で2.5Vに達する電力値(W)を初期出力とした。
【0109】
図5は、実施例4−実施例6の硫化物系固体電池について、初期出力及び初期容量をプロットしたグラフである。
図5は、横軸に結着材の含有割合(体積%)を、縦軸に初期出力又は初期容量を、それぞれとったグラフである。また、菱形のプロットは各電池の初期出力のデータを示し、三角形のプロットは各電池の初期容量のデータを示す。なお、
図5中の初期出力及び初期容量は、実施例4(結着材含有割合:1.4体積%)の初期出力又は初期容量を100としたときの比で示す。
図5中の初期容量については後に検討する。
【0110】
図5の菱形のプロットから分かるように、実施例4(結着材含有割合:1.4体積%)の初期出力を100としたとき、実施例5(結着材含有割合:4.0体積%)の初期出力は87であり、実施例6(結着材含有割合:6.6体積%)の初期出力は73である。以上より、初期段階においては、結着材の含有割合が小さいほど出力が高いことが分かる。
【0111】
次に、実施例4−実施例6、及び、比較例5の硫化物系固体電池について、耐久後出力を測定した。具体的には、(1)まず、0.5時間率(2C)で4.4Vまで定電流充電した。(2)次に、10分間休止した。(3)続いて、0.5時間率(2C)で3.4Vまで定電流放電した。(4)次に、10分間休止した。(1)〜(4)を60℃の温度条件下で2,000サイクル実施し、2,000サイクル後の出力を測定し、このときの出力を耐久後出力とした。なお、2,000サイクルの途中で、容量確認及び出力測定を数回実施した。
【0112】
図6は、実施例4及び実施例5の硫化物系固体電池について、耐久後の出力維持率及び容量維持率をプロットしたグラフである。
図6は、横軸に結着材の含有割合(体積%)を、縦軸に出力維持率又は容量維持率(%)を、それぞれとったグラフである。また、菱形のプロットは各電池の出力維持率のデータを示し、三角形のプロットは各電池の容量維持率のデータを示す。なお、
図6中の出力維持率及び容量維持率とは、各電池の初期出力又は初期容量を100%としたときの、2,000サイクル後の出力又は容量の割合(%)である。
図6中の容量維持率については後に検討する。
【0113】
図6から分かるように、実施例4(結着材含有割合:1.4体積%)の出力維持率は75%であり、実施例5(結着材含有割合:4.0体積%)の出力維持率は85%である。以上より、結着材の含有割合が大きいほど、出力維持率が高いことが分かる。
【0114】
下記表1は、実施例5(フッ素系共重合体含有割合:4.0体積%)及び比較例5(ABR系バインダー含有割合:4.0体積%)のそれぞれの初期出力及び耐久後出力をまとめた表である。なお、下記表1において、初期出力及び耐久後出力は、比較例5の初期出力を100としたときの比で示される。
【0115】
【表1】
【0116】
上記表1より、比較例5の初期出力を100としたとき、実施例5の初期出力は91である。一方、比較例5の耐久後出力は56であるのに対し、実施例5の耐久後出力は63と高い。以上の結果から、フッ素系共重合体を正極に用いた実施例5の硫化物系固体電池は、ABR系バインダーを正極に用いた比較例の硫化物系固体電池と比較して、耐久性が向上する結果、出力維持率が高くなることが分かる。
【0117】
4.容量の測定
実施例4−実施例6、及び、比較例5の硫化物系固体電池について、初期容量を測定した。具体的には、まず、3時間率(1/3C)で4.55Vまで定電流−定電圧充電した。次に、10分間休止した。続いて、3時間率(1/3C)で3.0Vまで定電力放電を実施し、このときの放電容量を初期容量とした。
【0118】
図5の三角形のプロットから分かるように、実施例4(結着材含有割合:1.4体積%)の初期容量を100としたとき、実施例5(結着材含有割合:4.0体積%)の初期容量は98であり、実施例6(結着材含有割合:6.6体積%)の初期容量は95である。以上より、初期段階においては、結着材の含有割合が小さいほど容量が高いことが分かる。
【0119】
次に、実施例4−実施例6、及び、比較例5の硫化物系固体電池について、耐久後容量を測定した。具体的には、上述した耐久後出力の測定と同様に、上記(1)〜(4)を60℃の温度条件下で2,000サイクル実施し、2,000サイクル後の容量を測定し、このときの容量を耐久後容量とした。なお、2,000サイクルの途中で、容量確認及び出力測定を数回実施した。
【0120】
図6の三角形のプロットから分かるように、実施例4(結着材含有割合:1.4体積%)の容量維持率は86%であり、実施例5(結着材含有割合:4.0体積%)の容量維持率は88%である。以上より、結着材の含有割合が大きいほど、容量維持率が高いことが分かる。
【0121】
下記表2は、実施例5(フッ素系共重合体含有割合:4.0体積%)及び比較例5(ABR系バインダー含有割合:4.0体積%)のそれぞれの初期容量及び耐久後容量をまとめた表である。なお、下記表2において、初期容量及び耐久後容量は、比較例5の初期容量を100としたときの比で示される。
【0122】
【表2】
【0123】
上記表2より、比較例5の初期容量を100としたとき、実施例5の初期容量は100であり、2つの硫化物系固体電池は同程度の初期容量を示す。一方、比較例5の耐久後容量は80であるのに対し、実施例5の耐久後容量は86と高い。以上の結果から、フッ素系共重合体を正極に用いた実施例5の硫化物系固体電池は、ABR系バインダーを正極に用いた比較例の硫化物系固体電池と比較して、耐久性が向上する結果、容量維持率も高くなることが分かる。
【0124】
5.圧粉体の作製
[製造例1]
硫化物系固体電解質の一種であるLiI−Li
2O−Li
2S−P
2S
5を100mg、及び、エステル化合物の一種である酪酸ブチル(東京化成社製)を5mL混合し、当該混合物を乾燥させた。乾燥させた混合物を、4.3t/cm
2の圧力でペレット化し、製造例1の圧粉体を作製した。
【0125】
[製造例2]
製造例1において、酪酸ブチル5mLを、N−メチルピロリドン(NMP、ナカライテスク社製)5mLに替えた以外は、製造例1と同様に原料を混合し、乾燥させ、ペレット化を行い、製造例2の圧粉体を作製した。
【0126】
6.イオン伝導度の測定
製造例1及び製造例2の圧粉体について、インピーダンスアナライザー(Solartron社製:SI−1260)を用いて、周波数1MHz〜0.1Hzで交流インピーダンス測定を行い、測定結果に基づいてイオン伝導度を算出した。
下記表3は、製造例1及び製造例2の圧粉体のイオン伝導度をまとめた表である。
【0127】
【表3】
【0128】
上記表3から分かるように、NMPを用いた製造例2の圧粉体のイオン伝導度は7.64×10
−8S/cmであるのに対し、酪酸ブチルを用いた製造例1の圧粉体のイオン伝導度は9.3×10
−4S/cmである。すなわち、製造例1のイオン伝導度のオーダーは、製造例2のイオン伝導度のオーダーよりも4ケタ高い。これらの結果から、酪酸ブチルが、NMPと比較して硫化物系固体電解質との反応性が低く、そのため、硫化物系固体電解質のイオン伝導性を損なわないことが示唆される。