【実施例】
【0021】
図1、
図2に示すように、本実施例に係るシールド掘進機1においては、その後胴部材2の内部に、トンネル内面にセグメントを覆工するエレクタ(図示略)と、真円保持装置10とが設けられている。尚、以下、トンネル掘進の前進方向を前方(
図1における左方)、この前方に向いたときの左右方向を左右方向として説明する。
【0022】
真円保持装置10は、シールド掘進機1の軸心Aと平行な左右1対のサポートビーム3上に装備される。これら1対のサポートビーム3の前端部は、後胴部材2に固定された本体構造部材4(リングガーダ)に固定されている。トンネルを掘進する際、複数のシールドジャッキ5により覆工済みセグメントSのうちの前端のセグメントSに反力をとってシールド掘進機1を前進させ、1リング分掘進する毎に掘進を停止した状態で、1リング分のセグメントSをトンネル内面に覆工してから、次の1リング分の掘進行なう。尚、1リング分の掘進とその1リング分のセグメント覆工とがトンネル掘進の1サイクルである。この真円保持装置10は、リング状に覆工済みの最新の1リング分のセグメントの上端側部分を下方から押圧して、トンネル掘進の約1サイクルの間(セグメントSの外面側に注入されたモルタルの硬化期間を含む)真円形状に保持する装置である。
【0023】
真円保持装置10は、左右1対のサポートビーム3(これが支持部材に相当する)上を夫々前後方向へ移動自在の左右1対の移動台20と、これら1対の移動台20に夫々立設された左右1対の伸縮コラム30と、1対の伸縮コラム30の上端部に亙って架設された上部アーチ40と、1対の伸縮コラム30の上端部を上部アーチ40にピン結合する1対のピン結合機構50と、1対の伸縮コラム30が鉛直姿勢になるように付勢する左右1対の付勢機構60(付勢手段)と、左右1対の移動台20を夫々前後方向へ移動駆動するための左右1対の移動駆動機構70などを備えている。
【0024】
最初に、移動台20について説明する。
図1〜
図3に示すように、左右のサポートビーム3及び左右の移動台20は左右対称の構成であるので、右側のサポートビーム3と右側の移動台20について説明する。
サポートビーム3の後部側部分であるサポートビーム後部3aの上には、レール6が前後方向に所定長さ(約2リング分の長さ)延びるように配設され、移動台20の前後1対の遊転輪21がレール6上を転動して移動台20がレール6に沿って前後方向へ移動可能である。
【0025】
次に、伸縮コラム30について説明する。
図1〜
図5に示すように、左右1対の伸縮コラム30は、左右1対の移動台20に夫々立設され、上下方向に伸縮可能に構成されている。左右の伸縮コラム30は左右対称のものであるため、右側の伸縮コラム30について説明する。
【0026】
伸縮コラム30は、移動台20に下端部が固定された鉛直姿勢の円筒状の内筒部材31と、この内筒部材31に上方から伸縮自在且つ摺動自在に外嵌された円筒状の外筒部材32と、内筒部材31と外筒部材32の内部に鉛直向きに配置されて外筒部材32を昇降駆動可能な油圧シリンダ33とを備えている。
【0027】
移動台20の上端にベース板22が固定されており、油圧シリンダ33のシリンダ本体33aの下端に固定された連結金具33bは、ベース板22に固定された連結金具34に左右方向向きのピン35を介してピン結合されている。
油圧シリンダ33の出力ロッド33cの先端の連結金具36は、外筒部材32の上端の蓋板32aの裏面に固定された連結金具37に左右方向向きのピン38を介してピン結合されている。油圧シリンダ33の出力ロッド33cを退入させると外筒部材32が下降して
図4、
図5に示す収縮状態になる。この状態から、油圧シリンダ33の出力ロッド33cを伸長させると外筒部材32が上方へ伸長して油圧シリンダ33のストローク分だけ伸長する。
【0028】
油圧シリンダ33の往動油室に油圧を供給・排出する油圧ホース39aと、油圧シリンダ33の復動油室に油圧を供給・排出する油圧ホース39bとが接続され、油圧ホース39a,39bを通過させる為のスリット32c,32bが外筒部材32に形成されている。
【0029】
次に、上部アーチ40について説明する。
図1〜
図5に示すように、上部アーチ40は、覆工されたセグメントSの内径と等しい外径を有する円弧状のもので、円周の約1/5〜1/4程度の周方向長さを有するもので、左右1対の伸縮コラム30の上端部に亙って架設されている。
上部アーチ40は、2つのウェブ板41と内径側フランジ42と外径側フランジ43とで断面矩形の閉断面部材に構成されている。セグメントSを押圧する際にセグメントSを傷つけないようにするため、上部アーチ40の外径側フランジ43の外面には、合成樹脂(例えば、ポリウレタン)製の弾力性のある緩衝板44が取り付けられている。
【0030】
次に、ピン結合機構50について説明する。
図2、
図4〜
図7に示すように、1対の伸縮コラム30の上端部を、上部アーチ40にシールド掘進機軸心Aと平行な軸心回りに回動可能に夫々ピン結合する左右1対のピン結合機構50が設けられている。左右のピン結合機構50は左右対称の構成であるため、右側のピン結合機構50について説明する。
【0031】
このピン結合機構50は、伸縮コラム30の外筒部材32の蓋板32aに固定された前後1対の枢支金具51と、上部アーチ40の2つのウェブ板41の右端部に固着された筒状の軸受部材53と、1対の枢支金具51と軸受部材53とに挿通されてそれらをピン結合する前後方向向きの枢支ピン54とを備えている。
上部アーチ40の左右の両端部が、1対の伸縮コラム30の上端にピン結合機構50で夫々連結されているため、1対の伸縮コラム30の伸長量を夫々適宜調整することにより、上部アーチ40を左下り又は右下りの傾斜姿勢にすることが可能になっている。
【0032】
次に、付勢機構60(付勢手段)について説明する。
図2、
図4〜
図7に示すように、1対の伸縮コラム30が鉛直姿勢になるように付勢する左右1対の付勢機構60が設けられている。左右の付勢機構60は左右対称の構成であるため、右側の付勢機構60について説明する。この付勢機構60は、アーム部材61と、1対のスプリング手段66とを備えている。
【0033】
アーム部材61の上端部は上部アーチ40の右端近傍部に固定され、アーム部材61は下方へ伸縮コラム30の上部の後側まで延びている。アーム部材61は、上部アーチ40の右端近傍部に固定された後方へ突出する筒部材64に上端部が固定され且つ下方ほど狭幅となるテーパ状のアーム板62(上部アーチ40のウェブ板41と平行なアーム板)の後面にそれと直交状の補強リブ63を固定した構成のものである。
【0034】
1対のスプリング手段66は、アーム部材61の下端部の左右両側に水平に対向状に配設され、伸縮コラム30の外筒部材32に固定されたベース部材65に取り付けられている。各スプリング手段66は、ベース部材65に固定されたガイド部材67と、このガイド部材67に左右方向へ摺動自在に挿通されたプッシュロッド68と、このプッシュロッド68に外装されてプッシュロッド68をアーム部材61の方へ弾性付勢する圧縮スプリング69とを有する。尚、プッシュロッド68の端部には圧縮スプリング69の端部を受け止める為の2つのナット68aが固定されている。
【0035】
図6に示すように、上部アーチ40が中立姿勢(水平姿勢)にある場合には、アーム部材61に両側のスプリング手段66から対称に小さな押圧力が作用し、伸縮コラム30が鉛直姿勢を保持する。
図7に示すように、上部アーチ40が左上がりの傾斜姿勢になった場合には、外側のスプリング手段66から付勢力が作用しなくなり、内側のスプリング手段66の圧縮スプリング69の付勢力が増大するため、上部アーチ40が水平姿勢に復帰する方向へ付勢され、伸縮コラム30が鉛直姿勢に復帰する方向へ付勢される。
前記のように、圧縮スプリング69を採用しているため、アーム部材61の下端部の変位が小さいときにも大きな付勢力を発生させることができる。
【0036】
次に、移動台20を前後方向へ移動駆動する移動駆動機構70について説明する。
左右の移動駆動機構70は同様のものであるため、右側の移動駆動機構70について説明する。
図1、
図8に示すように、この移動駆動機構70は、サポートビーム後部3aの後端部の上面に固定された連結台71と、この連結台71と移動台20とを連結するスライダリンクからなるリンク機構72と、このリンク機構72を鉛直面内で屈曲状態と伸長時とに亙って駆動可能なアクチュエータ75とを有する。
【0037】
前記リンク機構72は、移動台20の後側に直列的に配設されている。
前記リンク機構72は、前後に並べた2つのリンク部材(前側リンク部材73,後側リンク部材74)をピン結合したものである。
前側リンク部材73は例えばパイプ材など必要な剛性を有する部材で構成され、その前後両端部には連結金具73a,73bが固着されている。後側リンク部材74も例えばパイプ材など必要な剛性を有する部材で構成されている。リンク機構72を鎖線で図示のように、屈曲状態にしたとき前側リンク部材73と緩衝しないように、後側リンク部材74の前端部には鋭角的に傾斜した傾斜板74aが固着され、この傾斜板74aの上部に連結金具74bが固着され、後側リンク部材74の後端部には連結金具74cが固着されている。
【0038】
前側リンク部材73の後端部の連結金具73bと後側リンク部材74の前端部の連結金具74bは左右方向向きのピン部材76でピン結合されて、鉛直面内で屈曲状態と伸長状態とに亙って屈伸可能なリンク機構72が構成されている。
連結台71は側面視にて直角三角形で、その前面には
前記リンク機構72とアクチュエータ75に対向するように後方上がり傾斜状
に傾斜した傾斜板71aが設けられ、この傾斜板71aの下部に1対の連結金具71bが固着され、傾斜板71aの上端部に連結金具71cが固着されている。
【0039】
リンク機構72の前端部の連結金具73aは、移動台20の後端部の連結金具77に左右方向向きのピン部材78によりピン結合されている。リンク機構72の後端部の連結金具74cは、連結台71の下部の1対の連結金具71bに左右方向向きのピン部材79によりピン結合されている。
アクチュエータ75は複動型の油圧シリンダ75で構成されている。油圧シリンダ75のシリンダ本体の端部の連結金具75aは、連結台71の上端部の連結金具71cに左右方向向きのピン部材80によりピン結合され、油圧シリンダ75の出力ロッド75cの先端の連結金具75bは、後側リンク部材74の後面の上部に固着された連結金具74dに左右方向向きのピン部材81によりピン結合されている。
【0040】
油圧シリンダ75の出力ロッド75cを退入させた状態では、
図8に鎖線で図示のようにリンク機構72が屈曲状態になって後側リンク部材74がほぼ鉛直姿勢になり、前側リンク部材73が後方へ引っ張られるため、移動台20が後退限位置になる。
この状態から油圧シリンダ75の出力ロッド75cを伸長させていくと、後側リンク部材74が起立姿勢から倒伏姿勢に徐々に移行し、リンク機構72が次第に伸長して、前側リンク部材73が前方へ押動されていく。
図8に実線で図示のように、油圧シリンダ75の出力ロッド75cを最大限伸長させた状態では、移動台20が前進限位置になる。尚、左右1対の油圧シリンダ75は同期作動するように制御される。
【0041】
次に、上記の真円保持装置10の作用、効果について説明する。
トンネルをストレートに掘進する場合、
図2に示すように、形状保持対象のセグメントSの縦中心線と上部アーチ40の縦中心線とが一致しているため、1対の伸縮コラム30を伸長させていくことで、上部アーチ40をセグメントSの内面に均等の押圧力で当接させて形状保持することができる。
【0042】
例えば左方へ湾曲状に掘進する曲進区間において、形状保持対象のセグメントSと、真円保持装置10の関係は
図9のようになる。但し、真円保持装置10の縦中心線Bと、セグメントSの縦中心線Cのズレ量、上部アーチ40の外径の中心AとセグメントSの内径の中心Dのズレ量などは誇張して図示してある。
【0043】
図9の状態から左右の伸縮コラム30を均等に伸長させていくと、上部アーチ40の右端部がセグメントSの内面に当接した状態になる。その状態で、右側の伸縮コラム30はそれ以上伸長しなくなり、左側の伸縮コラム30のみを伸長させていくと、右側のピン結合機構50を中心にして、上部アーチ40が左上がりの姿勢に傾いて上部アーチ40がその全長に亙ってセグメントSの内面に均一の押圧力で当接する。その状態でセグメントSを真円形状に形状保持することができる。
【0044】
このとき、上部アーチ40がセグメントSに片当りして偏荷重が作用したりすることがないから、セグメントSを傷つけることもなく、真円保持装置10に無理な荷重が作用したりすることもなく、作動信頼性と耐久性を高めることができる。
【0045】
このとき、左右の移動台20の遊転輪21はレール6に対して夫々傾き得るため、左右の伸縮コラム30又は左側の伸縮コラム30が右方へ僅かに傾きながら、上部アーチ40が左上がりの傾斜姿勢になる。この状態において、左側の付勢機構60の外側のスプリング手段66と、右側の付勢機構60の内側のスプリング手段66の圧縮が一層進行し、付勢力が強化されている(
図7参照)。
【0046】
左右の付勢機構60により、上部アーチ40が水平姿勢に復帰するように、また、左右の伸縮コラム30が鉛直姿勢に復帰するように付勢されているため、真円保持を解除する際に、左右の伸縮コラム30を収縮させていき、上部アーチ40がセグメントSから離れた後、左右の伸縮コラム30の高さが等しくなったときに上部アーチ40が水平姿勢に自動的に復帰し、左右の伸縮コラム30が鉛直姿勢に自動的に復帰し、真円保持装置10の縦中心線Bと上部アーチ40の縦中心線Bとが一致した中立位置に自動的に復帰する。
【0047】
真円保持装置10によりセグメントSの形状保持を行うとき、1対の移動駆動機構70は、最初
図8に実線で図示の状態になっているが、シールド掘進機1がトンネル掘進のため前進していくと、真円保持装置10はセグメントSに対して定位置を維持したまま、1対の移動台20の遊転輪21の転動を介して、サポートビーム3も前進移動していく。
このとき、1対の油圧シリンダ75を伸縮自在のフリー状態に切換えておくと、サポートビーム3及び連結台71の前方移動に応じてリンク機構72が徐々に屈曲していき、1リング分の掘削終了時には、
図8に鎖線で図示の屈曲状態になる。その後、次の1リング分の掘削開始までに、1対の伸縮コラム30を縮小して形状保持を解除した状態で、油圧シリンダ75の出力ロッド75cを伸長させることで、リンク機構72を
図8に実線で図示の伸長状態に切換えて、真円保持装置10を前進限位置に切換え、次のセグメントSの形状保持を行う。
【0048】
この移動駆動機構70のリンク機構72は2つのリンク部材73,74をピン結合した簡単な小型の構成のもので安価に製作できる。しかも、油圧シリンダ75の出力ロッド75cのストロークを増幅して移動台20に伝達できるから、油圧シリンダ75も小ストロークの小型・安価なものでよい。
【0049】
しかも、このリンク機構72を移動台20の後側に配置し、リンク機構72の作動領域が移動台20の移動領域と大幅に重複する状態にリンク機構72を配置することができる上、リンク機構72をサポートビーム3の後端から後方へ張り出さない状態に配置できるため、シールド掘進機1内の狭隘なスペースを有効利用する上で非常に有利である。
リンク機構72の後端部とアクチュエータ75のシリンダ本体の端部を連結台71の傾斜板71aにピン結合するため、リンク機構72とアクチュエータ75を狭いスペースで屈伸させることができる。
【0050】
リンク機構72の途中部を連結するピン結合と、リンク機構72の一端部を移動台20に連結するピン結合、リンク機構72の他端部を連結台71
の傾斜板71aに連結するピン結合に、夫々、左右方向向きのピン部材76,78,79を採用しているため、リンク機構72は鉛直面内で屈曲状態と伸長状態とに亙って屈伸可能である。
上記のように移動台20の後側のスペースを活用して移動駆動機構70を配置することができる。アクチュエータである油圧シリンダ75を後側リンク部材74の後側近傍位置に配置できるため、移動駆動機構70のコンパクト化を図る上で有利である。
【0051】
次に、前記真円保持装置10を部分的に変更する変更例について説明する。
(1)前記実施例では、移動駆動機構70を移動台20の後側に配置したが、移動駆動機構70を移動台20の前側に配置することもできる。
(2)前記移動駆動機構70のリンク機構72を油圧ホースや電線ケーブルの為のホース
やケーブルの敷設構造に兼用することも可能である。
【0052】
(3)移動駆動機構70のリンク機構72を駆動する油圧シリンダ75の出力ロッド75cの先端部を前側リンク73の下面側にピン結合し、油圧シリンダ75のシリンダ本体の端部の連結金具を後側リンク74の下面側にピン結合してもよい。尚、アクチュエータとしては、油圧シリンダ以外に、エアシリンダ、電動シリンダ、その他のアクチュエータなども適用可能である。