(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば、夏期等におけるガスタービンの運転では、大気温度が高い場合に吸気密度が低下することでガスタービンの出力が低下する。この出力低下に対して、例えば、圧縮機の吸込み空気に水等の液滴を噴霧させることで吸気密度を上昇させ、吸気冷却の効果によりガスタービン出力を向上させる方法がある。さらに、その液滴の噴霧量を増加させて液滴を圧縮機内部へ導入させた場合には、中間冷却の効果により圧縮動力を低減させることでガスタービンの効率が向上する。この気流と共に圧縮機内部へ搬送された微細な液滴は動翼列間、静翼列間を通過しながら段の飽和温度まで蒸発し、その蒸発潜熱により作動流体の温度を低下させる。
【0003】
多段軸流圧縮機では圧縮機の上流側から液滴は気化され主流の温度が低下していくので、圧縮機の上流側では翼列負荷が低減し、その反対に下流側で翼列負荷が増加するといった流れ方向に対して通常の運転の負荷分布とは異なる分布になる。一般的にガスタービンの部分負荷運転では、圧縮機の下流側の翼列負荷が上流側に比べて大きくなるので、部分負荷時に液滴を噴霧すると下流側の翼列の負荷を更に増加させるため、翼列の信頼性を低下させる懸念がある。従って、液滴の噴霧は、ガスタービンが定格負荷に到達した安定運転時に開始される。
【0004】
また、圧縮機において、ケーシングの内壁面と動翼の外周部との間隙は、ロータおよび動翼とケーシングとの間の熱膨張差によって変化し、ケーシングの熱膨張がロータに比べて大きいと動翼先端の間隙が大きくなり圧縮機の効率が著しく低下する。反対に、ロータや動翼の熱膨張がケーシングの熱膨張に比べて大き過ぎると動翼とケーシング内壁面が接触して動翼先端を損傷する可能性がある。一般的なシンプルサイクルガスタービンの圧縮機では、この熱膨張差を考慮して翼先端間隙が定格運転時に最適になるように設計される。しかし、ガスタービンの吸気に多量の液滴を噴霧して中間冷却する圧縮機では、定格運転時に液滴を噴霧するため、ケーシングの熱変形が一般的なシンプルサイクルガスタービンと全く異なった現象となる。
【0005】
シンプルサイクルガスタービンの翼先端間隙の制御では、圧縮機のケーシングとロータおよび動翼の熱膨張差が圧縮機の下流段の高温領域で最大となるため、この翼先端間隙の制御構造として、例えば、特許文献1に示されるものがある。特許文献1では、圧縮機の中間段から抽気した抽気空気で圧縮機の内側ケーシングを周囲より冷却することで、圧縮機の軸方向の温度勾配を小さくして、ケーシングの内壁面と動翼先端との間隙を制御する技術が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に吸気噴霧を備えたガスタービンシステムの全体構成図の概略を示す。以下、
図1を用いて吸気噴霧を備えたガスタービンシステムの構成例について説明する。
【0015】
ガスタービンシステムは、空気を圧縮して高圧空気を生成する圧縮機1と、圧縮空気と燃料を混合して燃焼させる燃焼器2と、高温の燃焼ガスにより回転駆動するタービン3から構成される。圧縮機1とタービン3は回転軸5を介して発電機4と接続されている。
【0016】
次に、作動流体の流れについて説明する。作動流体である空気11は圧縮機1へ流入し、圧縮機で圧縮されながら高圧空気12として燃焼器2に流入する。燃焼器2で高圧空気12と燃料13とが混合燃焼され、高温の燃焼ガス14が生成される。燃焼ガス14はタービン3を回転させた後、排気ガス15として系外部へ放出される。発電機4は、圧縮機とタービンとを連通する回転軸5を通じて伝えられるタービンの回転動力により駆動される。
【0017】
ガスタービンシステムにおいて一般的に用いられる体積流量一定の定回転数の圧縮機では、夏場など吸気温度が高くなった場合、空気密度が小さくなり吸入空気の質量流量が低減するため、これに合せて燃焼器での燃料流量も低減せざるを得ない。つまり、圧縮機の吸気温度が高くなるほどガスタービンの出力は低下する問題がある。
【0018】
そのため、圧縮機の吸気に水などの液滴を噴霧することで吸気冷却効果によりガスタービン出力を向上させる方法がある。吸気冷却の方法としては、吸気ダクトにメディア式の吸気冷却器を設置し、吸い込み空気が吸気冷却器を通過することで吸気温度を低下させる方法がある。一方、
図1に示すように吸気ダクト31内に液滴噴霧ノズル32を配置して、吸気中に微細液滴を噴霧して気流中で蒸発させることで、液滴の蒸発潜熱により吸気温度を低下させる方法もある。
【0019】
このような液滴を噴霧する方法の場合、液滴量を増加すると吸気ダクト内で液滴が蒸発する吸気冷却効果に加えて、圧縮機内部にも液滴が供給され、圧縮機内部で液滴が気化することによる中間冷却効果が期待できる。これにより、ガスタービンの出力向上と圧縮動力低減によるガスタービンの高効率化に寄与できる。なお、本実施例では、液滴噴霧ノズル32を吸気ダクト31の1つの位置だけに図示しているが、吸気ダクト31と圧縮機入口の吸気プレナム33との2段階に分けて噴霧ノズルを設置しても良い。
【0020】
図2の圧縮機の子午面断面の概略図を用いて、詳細な圧縮機の構造について説明する。軸流圧縮機1は、複数の動翼列51が取り付けられた回転するロータ52と、複数の静翼列53を取り付けたケーシング54から構成され、ロータ52の外周面とケーシング54の内周面により環状流路が形成されている。動翼列51と静翼列53は軸方向に交互に配列されており、1つの動翼列と静翼列とで段が構成される。初段動翼の上流側には、吸込み流量を制御してガスタービン負荷を調整できる入口案内翼(IGV)55が設けられる。また、前段側静翼列にはガスタービン起動時の旋回失速を抑制するために可変機構56を備えている。
図2では可変機構を備えた静翼列は初段静翼だけとしたが、可変静翼が複数段備えている場合もある。
【0021】
吸気ダクト(図示しない)から流入した空気11は、圧縮機の上流側に位置する吸気プレナム33で90度転向して圧縮機内部へ供給される。水などの液滴は、吸気ダクト内部に配設された噴霧ノズル32から噴射され、微細な液滴は気流中で蒸発し、その蒸発潜熱により圧縮機へ流入する気体の温度を低下させると同時に吸気の密度を上昇させる。気流と共に搬送される微細な液滴のうち吸気プレナムで飽和まで気化しきれなかった液滴は、液滴のまま圧縮機内部へ流入する。
【0022】
圧縮機の内部で液滴は動翼列間、静翼列間を通過しながら飽和温度まで蒸発し、圧縮途中の作動流体の温度を低下させる。この中間冷却効果によって圧縮特性が等温圧縮に近づくため、圧縮機の動力は低減される。理想的には、圧縮機へ導入されたすべての液滴が、圧縮機吐出までに完全に気流中で蒸発させることが望ましい。しかし、噴霧ノズルから噴射された液滴の一部は、主流空気の冷却に寄与せずに、液膜として堆積し、ドレインとして圧縮機の外部へ排出される場合がある。
【0023】
次に、圧縮機の主流空気の冷却に寄与しない液滴挙動について説明する。上述の通り、吸気ダクトで噴霧された液滴の一部は、吸気プレナム33の壁面に衝突して液膜として堆積することがある。また、噴霧後に液滴同士が干渉して粒径の大きな液滴が生成した場合、その液滴は気流と伴に搬送されずに壁面へ衝突し、液膜として堆積する。さらに、圧縮機の入口に位置するストラット58やIGV55に衝突して一部は翼面に付着して液膜となる。その液膜の一部が分裂して粒径の大きい二次液滴となり圧縮機内部へ流入する。圧縮機の内部では粒径の大きい液滴は、動翼51に衝突して動翼が回転する遠心力により外周側へ吹き飛ばされてケーシング内壁面で液膜となる。
【0024】
液膜の一部はケーシングの熱伝導により蒸発するほか、再度、分裂して二次液滴となり下流段へ飛翔する。この二次液滴は粒径が大きくなるため、下流の動静翼に衝突して液膜となる可能性が高くなる。このような液膜が存在する範囲は、軸流圧縮機の最前段から圧縮機の内部で液滴が完全に蒸発する段(以降、蒸発完了段)までであり、特に、上流側から中間段で液膜が発生していることが確認されている。なお、蒸発完了段付近の主流温度は300℃以上であり、仮に液滴がケーシング内壁面に衝突したとしても瞬時に蒸発すると考えられる。
【0025】
次に、圧縮機翼先端間隙について説明する。圧縮機において、ケーシングの内壁面と動翼の外周部との間隙はロータおよび動翼とケーシングとの間の熱膨張差によって変化し、ケーシングの熱膨張が大きいと動翼先端の間隙が大きくなり圧縮機の効率が著しく低下する。一方、ロータや動翼の熱膨張がケーシングの熱膨張に比べて大き過ぎると動翼とケーシング内壁面が接触して動翼先端を損傷する可能性がある。この現象はガスタービンの定格運転時に最も厳しくなる。前段側のロータおよび動翼は、主として遠心力により変形するのに対して、後段側では遠心力と熱膨張により熱変形するため、ロータおよび動翼とケーシングの熱膨張差の予測が圧縮機効率の向上と信頼性の確保では重要となる。
【0026】
一般的なシンプルサイクルガスタービンの圧縮機では、内部を流れる主流の温度は圧縮作用によるエンタルピー増加によって前段側(ほぼ大気温度)に比べて後段側で約400℃〜450℃まで高温となる。そのためケーシングは前段側に比べて後段側で熱膨張が大きくなる。この熱膨張差を考慮して翼先端間隙が定格運転時に最適になるように設計される。しかし、実際にはケーシングの熱変形の仕方は主流温度が高温であるほど複雑になるため、後段側の翼先端間隙を高精度に設定することが困難である。従って、シンプルサイクルガスタービンの圧縮機では後段側のケーシング内にキャビティのような抽気室も設けて、その抽気空気を用いて、下流側のケーシングを冷却することで翼先端間隙を制御している。
【0027】
一方、ガスタービンの吸気に多量の液滴を噴霧して中間冷却する圧縮機では、前段側から中間段のケーシング内壁面に液膜が形成される。主流空気の温度は流れに伴って大気温度から徐々に昇温されるので、前段側に堆積する液膜はケーシングの熱変形に対してほとんど影響を及ぼさない。しかし、液滴の蒸発完了段より上流側に位置する中間段では高温のケーシング内壁面に液滴が付着することでケーシングの熱変形に大きな影響を及ぼす。
【0028】
液滴を噴霧する前の定格運転時に中間段の動翼先端部と、その動翼を囲う環状のケーシング内壁面間に一定の間隙を有している状態で、液滴を噴霧したときについて説明する。中間段のケーシングに液滴が堆積して液膜が形成される場合、熱伝導によりケーシング温度が下がり、ケーシングの熱膨張が抑制される。そのためロータや動翼の熱膨張よりケーシングの熱膨張が小さくなり動翼とケーシング内壁面の間隙は縮小する。そして、ケーシングの熱膨張が小さくなり過ぎた場合、動翼はケーシング内壁面に接触して動翼先端が損傷する可能性がある。
【0029】
一方、液滴の噴霧を考慮して、動翼先端間隙を大きく設計した場合、高気温時に液滴を噴霧することでケーシングの熱変形が抑制されて翼先端間隙を最小にできる。しかし、低気温時は液滴噴霧が少流量に調整、もしくは停止されるため、動翼先端間隙の拡大により圧縮機の効率が低下する。また、圧縮機の吸気温度や湿度条件によって吸気ダクト内での蒸発量が変化するため、圧縮機内部の蒸発位置も変化する。つまり、蒸発完了段が大気条件や噴霧量によって変化してしまうため、設計時に動翼先端間隙量を的確に設定することは困難である。また、圧縮機の作動温度が定格運転時に比べて低い部分負荷運転時に吸気噴霧をした場合、ロータと動翼の熱膨張が抑制されるため動翼先端間隙に裕度が得られるが、圧縮機の入口案内翼(IGV)が定格運転時に比べて閉じられた状態であり、液滴がIGVへ衝突してドレイン量が増加し効果的に中間冷却効果を得ることができず、さらに動翼のエロージョンへの影響が懸念される。
【0030】
図2を用いて、本発明の第一の実施例に係る圧縮機について説明する。本実施例では軸流圧縮機の中間段(液滴の蒸発完了段より上流側)のケーシングに周方向に連通するキャビティ64を形成している。また、キャビティ64の下流側に、同じく周方向に連通するキャビティ65を形成している。そして、キャビティ64は外側環状ケーシング62と、圧縮機の中間段動翼57の周囲を囲って内部に圧縮流路を形成する内側環状ケーシング63とから成る二重ケーシングによって形成される。そして、キャビティ65から内周側環状ケーシング63のキャビティ64を形成する領域よりも下流側を流下する高温、高圧の圧縮空気の一部を上流側キャビティ64へ供給できる流路72を備えている。この上流側キャビティ64へ高温、高圧空気を供給できる流路72には流量を制御可能なバルブなどを設置することも可能である。
【0031】
次に、本実施例の液滴噴霧をしたときの動翼先端間隙への影響について説明する。
図2のように中間段で径方向に対して2つの別体の二重ケーシング構造として周方向にキャビティを設けた場合、内側環状ケーシング63に液滴が付着することで熱膨張が抑制される。しかし、内側環状ケーシング63が取付けられた外側環状ケーシング62ではキャビティ64を設けないときに比べて熱容量が小さくなっており、また液滴の付着がないために熱膨張が抑制されることは少なく、外側環状ケーシング62に内側環状ケーシング63は支持されているので、外側環状ケーシング62の熱伸び量だけ内側環状ケーシング63も径方向に移動する。そのため、動翼先端61の間隙の縮小を抑制できる。
【0032】
さらに、流路72を介して下流段のキャビティ65からの高温、高圧の圧縮空気を上流側キャビティ64へ供給することで、外側環状ケーシング62を暖機してキャビティ内の温度を設定値に制御することで熱膨張をコントロールすることができるため、動翼先端61の間隙の縮小を抑制できる。また、内側環状ケーシング63をより高温にさせることで、内側環状ケーシング63の内周側に付着した液滴を蒸発させ、ドレインの発生を抑制することもできる。なお、流路72に上流側キャビティ64へ供給する圧縮空気の流量を制御可能なバルブを設けた場合、キャビティ64内の温度をより効果的に制御することが可能となり、間隙制御やドレイン発生の抑制効果をより顕著なものとすることが可能となる。
【0033】
また、外側環状ケーシング62と内側環状ケーシング63の材質は、内側環状ケーシング63は外側ケーシングに比べて線膨張係数が低い材質を用いたケーシングにすることも有効である。熱膨張量は、ケーシング厚みや長さ、温度差およびケーシング材の線膨張係数の積から算出される。内側環状ケーシングに低線膨張係数の材質を選定してキャビティ内へ高温、高圧の圧縮空気を供給させることで外側環状ケーシングがより熱膨張するため動翼先端61と内側環状ケーシング63の内壁面の干渉を抑制できる。
【0034】
さらに、内側環状ケーシング63のガスパス側の内壁面にアブレイダブルコーティングを施工することも有効である。アブレイダブルコーティングはケーシングの内壁面に溶射コーティングすることで、動翼の回転によりケーシング内壁面と干渉してもコーティング部が容易に削れることで、動翼の損傷を抑制するものである。内側と外側でケーシングを別体にすることで、内側ケーシングへのアブレイダブルコーティングの施工が容易になり、コスト削減に効果がある。
【0035】
本実施例では、下流側のキャビティ65から抽気配管71を介して抽気される高温、高圧空気はタービンの翼冷却に利用するものであり、その一部を上流側のキャビティへ供給している。そのため、簡易な構成で高温、高圧空気をキャビティ64に導入する事ができる。さらに、上流側のキャビティ64の空気はガスタービンの軸受のシール空気として利用することで圧縮空気を外部へ放出することなくガスタービン内部で熱量を有効に利用できる。
【0036】
以上のような構成にすることで、本実施例では定格運転時に液滴噴霧しても動翼先端61とケーシング内壁面が干渉することを回避でき、軸流圧縮機の信頼性を確保できる。また、動翼先端間隙を液滴噴霧の有無で適切な間隙に調整できるので、圧縮機の効率向上、そしてガスタービンの効率向上が可能である。
【0037】
次に、
図3を用いて、本発明の第二の実施例に係る圧縮機について説明する。
図3は圧縮機の子午面断面の概略図であり、
図2に示した第一の実施例と異なる点は、中間段動翼57の周囲を囲っているキャビティ64へ供給される高温、高圧空気は軸流圧縮機の吐出空気を用いており、その吐出空気を供給できる経路73を設けたことである。
図3のように吐出空気を利用することで、外側環状ケーシング62のメタル温度と供給される空気の温度差が
図2の下流段のキャビティ65の空気を供給したときに比べて大きくなるため、小流量の供給空気量で動翼先端間隙量を調整することができる。
【0038】
ここで、圧縮機の吐出空気の抽気に有効な構造として、高湿分利用ガスタービンシステムを例に説明する。高湿分利用ガスタービンは、圧縮機、燃焼器、タービン、加湿装置、再生熱交換器から構成される。圧縮機の吸気では吸気噴霧ノズルにより大気に水を噴霧し湿分空気を生成する。吸気噴霧により生成された湿分空気は圧縮機で圧縮されるとともに、圧縮機で生成した圧縮空気は圧縮機の吐出に設けられた抽気孔で一度、全流量が抽気される。圧縮機吐出から抽気された高圧空気は1つの配管に合流して、加湿装置で加湿される。
【0039】
加湿装置で加湿された湿分空気はタービンからの排ガスで過熱する再生熱交換器に供給される。そして、再生熱交換器において、加湿装置から供給された湿分空気が過熱され、燃焼器へ供給される。燃焼器に供給された湿分空気は燃焼器で燃料と混合燃焼する。そして、生成した燃焼ガスはタービンを回転駆動させる。タービンから排出された排ガスは、再生熱交換器で熱回収され排ガスとして排出される。
【0040】
再生熱交換器において排気ガスの熱エネルギーを燃焼用空気に回収できるため、燃焼器での燃料流量が減少してガスタービンサイクルの効率が向上する。また、加湿装置で湿分が添加され作動流体が増加することによって、高湿分利用ガスタービンの出力が増加する。さらに、湿分添加により作動流体の温度が低下した効果と流量が増加した効果によって、再生熱交換器における熱回収量が増加し、高湿分利用ガスタービンの効率が向上する。
【0041】
このようなシステムでは、上述の通り、圧縮機の吐出空気を全量抽気する構造が存在する。そのため、一度抽気された後の1つの配管からキャビティへ高温空気の一部を供給する経路を設けることは構造上容易である。即ち、経路73を既存のシステムに組み込む場合も、既存のシステム構造を大きく変化させる必要が無く、既存のシステムの信頼性を引き継いだシステムを構成することができる。
【0042】
ここで、圧縮機の抽気流量について説明する。圧縮機の吸込空気量を100%としたとき、圧縮機から軸受シール空気として約1〜2%、タービン静翼側から供給される翼冷却空気は約3〜5%である。そして、吸気噴霧量が吸込空気量の約2wt%(重量パーセント)のとき、
図3のキャビティを形成する外側環状ケーシングのメタル温度は約120℃程度になる。また、圧縮機の吐出空気温度は、約400℃程度になるので、約400℃の空気がキャビティへ供給される。キャビティへ供給される吐出空気が約1%でケーシングの熱膨張量は約0.3〜0.5mmになる。この吐出空気からキャビティへ供給される空気量は主流に対して微小であり、また、キャビティへ供給された空気はケーシングの暖機や壁面に付着した液滴の蒸発に寄与し、その後、軸受シール空気として流用することができるので、ガスタービンの効率低下に対する影響は小さいと考えられる。
【0043】
次に、
図4を用いて、本発明の第三の実施例に係る圧縮機について説明する。
図4は圧縮機の子午面断面の概略図であり、
図2と異なる点は、中間段動翼57の周囲を囲っているキャビティ64へ供給される高温、高圧空気は下流段のキャビティ65から直接、内側環状ケーシングへ設けた2つのキャビティを連通する経路74から供給するように構成されたことである。この経路74(連通孔)は内側環状ケーシング63に周方向に複数の孔を設けた構造である。
【0044】
本実施例における外側環状ケーシング62の暖機の効果は
図2と同様であるが、本実施例では空気供給経路を内側環状ケーシング63に設けることで、配管を簡素化できるメリットがある。しかし、吸気噴霧が無い運転状態でも圧力差により下流側キャビティから上流側キャビティへ高温、高圧空気が直接供給されるため、吸気噴霧の有無により動翼先端間隙を調整することは困難となる。
【0045】
なお、本実施例では、キャビティ64とキャビティ65とを隔てるケーシング部材に連通孔を設ける構成として、内側環状ケーシング63に連通孔を設けて経路74とした場合を想定しているが、外周側ケーシング62に連通孔を設けて経路74としても良い。
【0046】
次に、
図5を用いて、本発明の第四の実施例に係る圧縮機について説明する。
図5は本実施例の制御システム構成図であり、
図2に示した第一の実施例と異なる点は、液滴噴霧ノズル32に液滴を供給する経路にバルブ81と、中間段のキャビティへ高温、高圧空気を供給する経路へ設けたバルブ82と、圧縮機の液滴蒸発完了段より上流側に位置する中間段の動翼先端間隙を計測できる翼先端間隙センサ83とを設けると共に、翼先端間隙センサ83の計測値を受信して、その計測値をもとにバルブ81、およびバルブ82を制御する制御装置84を備えた構成である。
【0047】
動翼先端間隙を計測して間隙値が縮小する場合、液滴の噴霧量を低減させることで内側環状ケーシング63に付着する液滴量を低減でき、動翼先端61とケーシング内壁面の干渉を抑制することができる。また、動翼先端間隙が縮小したときに、キャビティ64へ高温、高圧空気を供給することで、外側環状ケーシング62を暖機して動翼先端間隙を適正化することができる。これにより液滴噴霧時の圧縮機の信頼性を確保することが可能になる。
【0048】
なお、本実施例では、2つのバルブを制御する構成としているが、片方のバルブの制御だけでも本発明の効果を達成することは可能である。しかし、液滴噴霧のバルブ81の動作により動翼先端間隙を制御することに比べて、キャビティ64へ高温空気を供給するバルブ82を動作させる方が、より短時間で動翼先端間隙を制御することが可能である。
【0049】
また、本実施例では、第一の実施例で説明した経路72に流量を調節する手段を設けた場合について説明を行ったが、第二の実施例で説明した経路73や、第三の実施例で説明した経路74に流量を調節する手段を設けた場合も、同様の制御を行なう事が可能である。
【0050】
最後に、
図6を用いて、本発明の第五の実施例に係る圧縮機について説明する。
図5を用いて説明した第四の実施例の運転制御方法と異なる点は、動翼先端間隙を計測するセンサの代替として、内側環状ケーシング63に温度計測手段として温度計測センサ85を設け、圧縮機内部の温度および内側環状ケーシング63のメタル温度計測から動翼先端間隙を予測するように構成したことである。本実施例では主流温度とケーシングメタル温度85から予め動翼先端間隙を推定する予測式を準備しておき、温度計測結果から動翼先端間隙を推定して、液滴噴霧のバルブ81を動作して噴霧量を制御する。
【0051】
本実施例は、熱電対に代表される温度計測センサ85は、動翼先端間隙センサに比べて安価である。そのため、同等のコストで圧縮機の軸方向に複数設置して複数点で計測することが可能となるため、計測精度が向上できるメリットがある。ただし、主流の温度計測をする場合、圧縮機内部を流れる粒径が大きい液滴はケーシングへ付着すると同時に、温度計測センサ85にも液滴が付着する可能性が高い。センサに液滴が付着すると温度の計測誤差が大きくなる。特に、ケーシングに付着した液滴は重力によりケーシングの下半側に堆積すると考えられるため、温度計測センサはケーシングの上半側に設置することが望ましい。また、液滴付着を抑制するためのパージ空気を供給することも必要である。
【0052】
なお、図示していないが、液滴噴霧のバルブ81の制御に替えて、キャビティへ高温、高圧空気を供給する経路72〜74に設けたバルブ等によってキャビティ64に供給する高温、高圧空気の流量を制御した場合も、本実施例の目的は達成できる。また、上述の通り、キャビティ64に供給する高温、高圧空気の流量を制御する場合は、より短時間で動翼先端間隙を制御することが可能である。