(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、発電用ガスタービンエンジン、航空機用ジェットエンジン等において、その燃焼ガスが高温であるために、動翼、静翼、燃焼器等の高温部品の表面には、遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating:TBC)といわれる皮膜が施されている。そして、遮熱コーティングの表面において、耐食性、耐酸化性、耐熱性等を備えるものとなっている。この皮膜の形成には、イットリア安定化ジルコニアを含む材料が広く用いられているものの、近年、このイットリア安定化ジルコニアより低い熱伝導率を与える材料の探索が行われてきた。
【0003】
特許文献1には、A
2B
2O
7で表されるパイロクロール構造を有する化合物(La
2Zr
2O
7等)を含む皮膜を有する金属物体が開示されている。
特許文献2には、希土類安定化ジルコニア及び希土類安定化ジルコニア−ハフニアに、酸化ランタンを0.1〜10mol%添加したセラミックスからなる遮熱層を有する遮熱コーティング部材が開示されている。
特許文献3には、Ln
3Nb
1−xTa
xO
7(0≦x≦1、LnはSc、Y及びランタノイドからなる群より選択される1種又は2種以上の原子)で表される化合物を主として含む遮熱コーティング用材料が開示されている。
特許文献4には、Ln
1−xM
xO
1.5+x(0.13≦x≦0.24、LnはSc、Y及びランタノイドからなる群より選択される1種又は2種以上の原子、MはTa又はNb)で表される化合物を主として含む遮熱コーティング用材料が開示されている。
また、特許文献5には、Ln
x+y−3xyTi
xTa
xZr
(1−3x)(1−y)O
2+1.5xy−0.5y(0.05≦x≦0.25、0≦y≦0.15、Lnは、Y、Sm、Yb及びNdからなる群より選択される1種又は2種以上の原子)を主として含む遮熱コーティング用材料が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の遮熱コーティング用材料は、下記一般式(1)で表される化合物を含むことを特徴とする。
M
1M
23O
9 (1)
(式中、M
1は、
イットリウム原子であり、M
2は、タンタル原子である。)
【0010】
上記一般式(1)における原子M
1は、イットリウム(Y)
である。
【0011】
上記一般式(1)における原子M
2は、
タンタル原子である。
【0012】
上記一般式(1)で表される化合物は、カチオン欠損型の欠陥ペロブスカイト型複合酸化物(以下、「複合酸化物」ともいう。)であり、
図1に示すような構造を有する。この構造は、A
3B
3O
9で表されるペロブスカイト構造から、2/3のAイオン(
図1における×印)が欠損した構造である。
本発明の遮熱コーティング用材料がこの構造を有する複合酸化物を含むことにより、低熱伝導性に優れた皮膜を得ることができる。
【0013】
上記複合酸化物の融点は、通常、1,400℃以上であり、JIS R1611に準じて、レーザーフラッシュ法により測定される熱伝導度(測定温度:20℃〜1,000℃)が、好ましくは3.0W/(m・K)未満、より好ましくは2.8W/(m・K)未満である。
【0014】
本発明の遮熱コーティング用材料は、上記複合酸化物のみからなることが好ましい。
【0015】
本発明の遮熱コーティング用材料を、電子ビーム物理気相堆積(EB−PVD)、プラズマ溶射、真空プラズマ溶射、フレーム溶射、高速溶射、焼結等の方法に供することにより、所望の材料からなる基体等の表面に、安定な皮膜を形成することができる。
【0016】
上記複合酸化物の製造方法は、一般式(1)における原子M
1を含む化合物(以下、「化合物(m1)」という。)と、原子M
2を含む化合物(以下、「化合物(m2)」という。)とを、原子M
1及び原子M
2のモル比が所定の割合となるように配合し、これを熱処理する方法が一般的である。更に、より均質な複合酸化物を得るために、例えば、尿素を含む混合物とした後、これを熱処理する方法もある。
【0017】
上記化合物(m1)及び化合物(m2)としては、酸化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物等を用いることができる。これらのうち、組成がより均一な複合酸化物を得る場合には、水溶性化合物が好ましいが、水不溶性化合物を用いることもできる。
【0018】
上記複合酸化物の好ましい製造方法は、以下の通りである。
初めに、原子M
1及び原子M
2のモル比が1:3となるように配合した、化合物(m1)及び化合物(m2)と、尿素とを含む水溶液又は水分散液(懸濁液)を調製する。この混合液に含まれる化合物(m1)、化合物(m2)及び尿素の濃度は、それぞれ、好ましくは0.02〜0.1mol/l、0.02〜0.1mol/l及び2〜10mol/l、より好ましくは0.02〜0.05mol/l、0.02〜0.05mol/l及び2〜5mol/lである。
次に、混合液を、還流冷却下、80℃〜95℃の温度で加熱して尿素加水分解反応を行う。反応時間は、通常、10〜20時間である。
その後、反応系に含まれる反応生成物の形態によって、必要に応じて、遠心分離等を行い、反応生成物を回収する。そして、水、アルコール等を用いて洗浄し、乾燥させ、必要に応じて、粉砕することにより、第1前駆化合物からなる粉体を得る。
次に、第1前駆化合物からなる粉体を整粒し、必要に応じて、プレス成形等に供して、板状、塊状等の成形物を作製する。そして、この成形物を、酸素ガスを含む雰囲気下、1,200℃〜1,500℃の温度で、1〜3時間程度の熱処理(仮焼)を行い、第2前駆化合物からなる仮焼物を得る。この第2前駆化合物は、単一化合物ではなく、M
1M
23O
9、M
1M
27O
19等の混合物と推定される。
その後、得られた仮焼物を、必要に応じて、粉砕、整粒する。そして、必要に応じて、プレス成形等に供して、板状、塊状等の成形物を作製し、この成形物を、酸素ガスを含む雰囲気下、1,400℃〜1,700℃の温度で、1〜3時間程度の熱処理を行い、上記一般式(1)で表される複合酸化物を得る。
【0019】
本発明の遮熱コーティング用材料を用いて、金属、合金等の材料からなる基体の表面に、直接、又は、間接的に、遮熱コーティング(皮膜)を形成し、一体化された物品(遮熱コーティング付き物品)を得ることができる。本発明の物品の概略断面を
図5及び
図6に示す。
図5は、基体15と、この基体15の表面に配された遮熱コーティング(皮膜)11とを備える物品(遮熱コーティング付き物品)1を示す。
図6は、基体15と、中間層13と、遮熱コーティング(皮膜)11とを、順次、備える物品(遮熱コーティング付き物品)1を示す。この構成により、1,400℃〜1,700℃程度の温度で、低熱伝導性、耐食性、耐酸化性、耐熱性、断熱性等における長寿命化の求められる用途に好適である。
【0020】
遮熱コーティング(皮膜)11の形成方法は、上記例示した方法等とすることができる。また、遮熱コーティング(皮膜)11の厚さは、目的、用途等に応じて、適宜、選択され、低熱伝導性、耐食性、耐酸化性、耐熱性、断熱性、基体又は中間層の保護効果等の観点から、下限値は、通常、300μmである。尚、遮熱コーティング(皮膜)11の厚さが大きいほど、上記性質に優れることは言うまでもないが、大型の物品に適用する場合には、その膜厚を、公知の場合より小さくすることも可能である。そして、軽量化を実現した遮熱コーティング付き物品を得ることができる。
【0021】
本発明を、航空機用ジェットエンジンにおける燃焼器、及び、発電用ガスタービンにおける高温部品に適用する場合、例えば、Niを含む合金からなる基体15の表面に配された、MCrAlY合金(M:Co、Ni、Fe)等からなる耐酸化性中間層13、そして、この中間層13の表面に配された、本発明の遮熱コーティング用材料を含む皮膜11を備えるものとすることができる(
図6参照)。この構成において、本発明に係る遮熱コーティング(皮膜)を備えることにより、1,400℃〜1,700℃程度の高い温度で耐久性を得ることができる。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。尚、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
遮熱コーティング用材料の製造に係る中間生成物(仮焼物)及び最終生成物(複合酸化物)について、X線回折測定を行った。
【0023】
実施例1(YTa
3O
9を含む遮熱コーティング用材料の製造)
フッ素樹脂製の反応器に収容した蒸留水900グラムに、純度99.99%以上のY(NO
3)
3・6H
2O粉末(関東化学社製)10グラム(0.025モル)を入れて、室温(25℃)で1時間撹拌し、無色透明の水溶液を得た。次いで、この水溶液に、尿素190グラム(3モル)を投入し、室温(25℃)で1時間撹拌した。その後、得られた無色透明の水溶液に、純度99.9%以上のTa
2O
5粉末(レアメタリック社製)17グラム(0.038モル)を投入し、室温(25℃)で7時間撹拌し、懸濁液を得た。
次に、懸濁液を加熱して95℃とし、還流冷却しながら、攪拌下、反応(尿素加水分解反応)させた(反応時間:15時間)。その後、得られた反応液を、25℃、4,800rpmで30分間遠心分離し、下層のゲルを回収した。このゲルを、大量の蒸留水に投入し、十分に撹拌したところで、上記と同じ条件で遠心分離し、下層のゲルを回収した。そして、このゲルを、大量のイソプロピルアルコールに投入し、十分に撹拌したところで、上記と同じ条件で遠心分離し、沈殿物を回収した。
その後、沈殿物を、大気雰囲気中、120℃で24時間加熱し、乾燥粉末とした。次いで、この乾燥粉末をふるい(100メッシュ)にかけて、微粉末を回収した。そして、この微粉末を、プレス成形(圧力5MPa)に供し、円板形状の成形体を作製した。その後、この成形体を、大気雰囲気中、1,400℃で1時間熱処理(仮焼)し、仮焼成形体を得た。得られた仮焼成形体を、室温(25℃)で、乳鉢により乾式粉砕し、そのX線回折測定を行ったところ、仮焼物は、YTa
7O
19を主として含むことが分かった(
図2(A)参照)。
次いで、乾式粉砕物をふるい(100メッシュ)にかけて、微粉末を回収した。そして、この微粉末を、プレス成形(圧力25MPa)に供し、更に、冷間等方静水圧加圧(荷重2.5トン)を行って、円板形状の成形体を作製した。その後、この成形体を大気雰囲気中、1,650℃で1時間熱処理した。得られた焼成体を、室温(25℃)で、乳鉢により乾式粉砕し、そのX線回折測定を行ったところ、焼成物は、実質的にYTa
3O
9からなる単斜晶系であることが分かった(
図2(B)参照)。また、焼成物を目視観察したところ、1,650℃における高温熱処理により、溶融等を伴っていないことを確認した。密度ρは6.94g/cm
3であった。
上記のようにして得られた焼成物を、そのまま遮熱コーティング用材料とした。
【0024】
上記焼成物を、超音波パルス法(JIS R1602に準拠)に供して、25℃における弾性率Eを計測し、下記式(5)により、最小熱伝導率κ
minを算出し、0.97W/(m・K)を得た(表1参照)。
κ
min=0.87k
B・Ω
a−2/3・(E/ρ
i)
1/2 (5)
(式中、k
Bはボルツマン定数、Ω
aは有効原子体積でありΩ
a=M/(m・ρ
i・N
A)、Eは弾性率、ρ
iは理論密度、Mは分子量、mは原子数/分子、N
Aはアボガドロ数である。)
【0025】
更に、上記焼成物を、レーザーフラッシュ法(JIS R1611に準拠)に供して、25℃、200℃、400℃、600℃、800℃及び1,000℃における熱伝導率を測定した。その結果を
図4に示す。
【0026】
参考例(LaTa
3O
9を含む遮熱コーティング用材料の製造)
出発原料であるY(NO
3)
3・6H
2O粉末に代えて、純度99.99%以上のLa(NO
3)
3・6H
2O粉末(関東化学社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、LaTa
3O
9を含む遮熱コーティング用材料を得た。仮焼物のX線回折像は、
図3における(A)であり、LaTa
3O
9及びLaTa
7O
19を主として含むことが分かる。また、焼成物のX線回折像は、
図3における(B)であり、実質的にLaTa
3O
9からなる正方晶系であることが分かった。また、焼成物を目視観察したところ、1,650℃における高温熱処理により、溶融等を伴っていないことを確認した。密度ρは7.25g/cm
3であった。
また、実施例1と同様にして得られた、25℃、200℃、400℃、600℃、800℃及び1,000℃における熱伝導率を
図4に示すとともに、これらの計測値と、最小熱伝導率κ
min等とを表1に示した。
【0027】
【表1】
【0028】
尚、
図4には、従来、遮熱コーティング用材料として知られているイットリア安定化ジルコニア(YSZ)の熱伝導率を示した。このデータは、M.R.Winterら、J.Am.Ceram.Soc. 90(2007) 533−540から引用したものである。
図4から明らかなように、実施例1及び
参考例の熱伝導率は、いずれも、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)の熱伝導率よりも低く、遮熱性に優れることが分かる。