(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(i)Cuまたは/及びAgであるIB族元素と、(ii)B、Ga、Al、及びInからなる群より選択される一以上のIIIB族元素とが共ドープされたp型ZnO系半導体単結晶層であって、
前記IB族元素の濃度[IB]と、前記IIIB族元素の濃度[IIIB]とが、0.9≦[IB]/[IIIB]<100を満たし、かつ、[IB]が8.0×1019/cm3以上、[IIIB]が3.2×1019/cm3以上であるp型ZnO系半導体単結晶層。
前記IB族元素の濃度[IB]と、前記IIIB族元素の濃度[IIIB]とが、2≦[IB]/[IIIB]≦50を満たす請求項1に記載のp型ZnO系半導体単結晶層。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、ZnO系半導体層等の成長に用いられる結晶製造装置について説明する。以下に説明する実験及び実施例では、結晶製造方法として分子線エピタキシ(molecular beam epitaxy; MBE)を用いる。ここでZnO系半導体は、少なくともZnとOを含む。
【0013】
図1は、MBE装置を示す概略的な断面図である。真空チャンバ71内に、Znソースガン72、Oソースガン73、Mgソースガン74、Cuソースガン75、及びGaソースガン76が備えられている。
【0014】
Znソースガン72、Mgソースガン74、Cuソースガン75、及びGaソースガン76は、それぞれZn(7N)、Mg(6N)、Cu(9N)、及びGa(7N)の固体ソースを収容するクヌーセンセルを含み、セルを加熱することにより、Znビーム、Mgビーム、Cuビーム、及びGaビームを出射する。
【0015】
Oソースガン73は、たとえば13.56MHzのラジオ周波数を用いる無電極放電管を含み、無電極放電管内でO
2ガス(6N)をプラズマ化して、Oラジカルビームを出射する。放電管材料として、アルミナまたは高純度石英を使用することができる。
【0016】
基板ヒータを備えるステージ77が基板78を保持する。ソースガン72〜76は、それぞれセルシャッタを含む。各セルシャッタの開閉により、基板78上に各ビームが照射される状態と照射されない状態とを切り替え可能である。基板78上に所望のタイミングで所望のビームを照射し、所望の組成のZnO系化合物半導体層を成長させることができる。
【0017】
ZnOにMgを添加することにより、バンドギャップを広げることができる。しかしZnOはウルツ鉱構造(六方晶)であり、MgOは岩塩構造(立方晶)であることから、Mg組成が高すぎると相分離を起こす。MgZnOのMg組成をxと明示するMg
xZn
1−xOにおいて、Mg組成xは、ウルツ鉱構造を保つため0.6以下とするのが好ましい。なお、Mg
xZn
1−xOという表記は、x=0の場合としてMgの添加されないZnOを含む。
【0018】
ZnO系半導体のn型導電性は、不純物のドープを行わなくても得られる。Ga等の不純物をドープし、n型導電性を高めることができる。ZnO系半導体のp型導電性は、p型不純物のドープにより得られる。
【0019】
真空チャンバ71内に、水晶振動子を用いた膜厚計79が備えられている。膜厚計79で測定される付着速度から、各ビームのフラックス強度が求められる。
【0020】
真空チャンバ71に、反射高速電子回折(reflection high energy electron diffraction; RHEED)用のガン80、及び、RHEED像を映すスクリーン81が取り付けられている。RHEED像から、基板78上に形成された結晶層の表面平坦性や成長モードを評価することができる。
【0021】
結晶が2次元成長し表面が平坦なエピタキシャル成長(単結晶成長)である場合、RHEED像はストリークパターンを示し、結晶が3次元成長し表面が平坦でないエピタキシャル成長(単結晶成長)の場合、RHEED像はスポットパターンを示す。多結晶成長の場合は、RHEED像がリングパターンとなる。
【0022】
次に、Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)結晶成長におけるVI/IIフラックス比について説明する。Znビームのフラックス強度をJ
Zn、Mgビームのフラックス強度をJ
Mg、Oラジカルビームのフラックス強度をJ
Oと表す。金属材料であるZnあるいはMgのビームは、原子、または複数個の原子を含むクラスターのZnあるいはMgを含む。原子とクラスターのいずれも結晶成長に有効である。ガス材料であるOのビームは、原子ラジカルや中性分子を含むが、ここでは結晶成長に有効な原子ラジカルのフラックス強度を考える。
【0023】
結晶へのZnの付着しやすさを示す付着係数をk
Zn、Mgの付着しやすさを示す付着係数をk
Mg、Oの付着しやすさを示す付着係数をk
Oと表す。Znの付着係数k
Znとフラックス強度J
Znの積k
ZnJ
Zn、Mgの付着係数k
Mgとフラックス強度J
Mgの積k
MgJ
Mg、及び、Oの付着係数k
Oとフラックス強度J
Oの積k
OJ
Oは、それぞれ基板の単位面積に単位時間当たりに付着するZn原子、Mg原子、及びO原子の個数に対応する。
【0024】
k
ZnJ
Znとk
MgJ
Mgの和に対するk
OJ
Oの比であるk
OJ
O/(k
ZnJ
Zn+k
MgJ
Mg)を、VI/IIフラックス比と定義する。VI/IIフラックス比が1より小さい場合をII族リッチ条件(Mgを含まない場合は単にZnリッチ条件)、VI/IIフラックス比が1に等しい場合をストイキオメトリ条件、VI/IIフラックス比が1より大きい場合をVI族リッチ条件(あるいはOリッチ条件)と呼ぶ。
【0025】
なお、Zn面(+c面)での結晶成長においては、基板表面温度850℃以下であれば、付着係数k
Zn、k
Mg及びk
Oを1とみなすことができ、VI/IIフラックス比をJ
O/(J
Zn+J
Mg)と表すことが可能である。
【0026】
VI/IIフラックス比は、たとえばZnOの成長においては、以下の手順で算出することができる。Znフラックスは、水晶振動子を用いた膜厚モニタにより、室温でのZnの蒸着速度F
Zn(nm/s)として測定される。ZnフラックスはF
Zn(nm/s)からJ
Zn(atoms/cm
2s)に換算される。
【0027】
一方、Oラジカルフラックスは、以下のように求められる。Oラジカルビーム照射条件一定(たとえばRFパワー300W、O
2流量2sccm)のもとで、Znフラックスを変化させてZnOを成長させ、ZnO成長速度のZnフラックス依存性を実験的に求める。その結果を、ZnO成長速度G
ZnOの近似式:G
ZnO=[(k
ZnJ
Zn)
−1+(k
OJ
O)
−1]
−1を用いてフィッティングすることにより、その条件におけるOラジカルフラックスJ
Oが算出される。こうして得られたZnフラックスJ
Zn及びOラジカルフラックスJ
Oから、VI/IIフラックス比を算出することができる。
【0028】
本願発明者らは、先の出願(特願2012−41096号)において、たとえばZnO系半導体にCuをドープする新規な技術を提案した。これはZn、O及びCuを同時に供給し、MBE法でCuドープZnO膜を成長させた場合、3次元成長が生じ、表面の粗い多結晶膜が得られ、Cuが膜厚方向に均一にドープされないという実験結果等に基づいてなされた提案である。
【0029】
本願発明者らは、Zn、O及びCuを同時に供給したことによって、活性なOラジカルとCuの反応が促進され、CuがZnサイトを置換する以上に、CuOが別の結晶相として形成される結果、ZnOの成長阻害が起こり多結晶化が生じたと考えた。
【0030】
Zn、Oラジカル、及びCuを同時に供給してCuドープZnO膜を成長させると、Cuが活性なOラジカルと容易に反応することに起因して、CuO(II)が形成されやすくなる、すなわち2価のCu
2+の形成が支配的になると考えられる。また、CuO(II)がCu
2O(I)に熱分解する温度は、CuドープZnO膜の成長温度よりも高いため、2価のCu
2+は1価のCu
+になりにくく、ZnO中でアクセプタとして機能しないCuが支配的になると考えられる。
【0031】
本願発明者らは、2価のCu
2+よりも1価のCu
+が生じやすく、CuがZnサイトを置換しやすいCuドープZnO層の形成方法であれば、2次元成長やp型導電性が得られやすいであろうと考え、たとえばMg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜を形成する工程と、Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜上にCuを供給する工程を交互に繰り返す、Cuドープp型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)層の製造方法を、先の出願において提案した。先の出願に係る製造方法によれば、平坦性が高く、結晶性の良好なCuドープp型Mg
xZn
1−xO単結晶層を得ることができる。
【0032】
本願に係るp型ZnO系半導体単結晶層、及び、ZnO系半導体素子は、たとえば先の出願に係る提案を改良した方法で製造される。本発明のp型ZnO系半導体単結晶層には、たとえば先の出願に係る方法で製造されるp型Mg
xZn
1−xO単結晶層より有効にアクセプタとして機能する1価のCu
+が存する。
【0033】
まず本願発明者らが行った実験について説明する。本願発明者らは、層上にCuが供給されたGaドープZnO単結晶層(交互積層構造)がアニールによりp型化することを発見した。以下、サンプル1〜サンプル5の5つのサンプルに沿って説明を行う。なお、説明においては、アニール前の試料をアニール前試料、アニール開始後の試料をアニール後試料と記載する。
【0034】
サンプル1のアニール前試料の作製方法について説明する。
図2Aに、アニール前試料の概略的な断面図を示す。
【0035】
n型導電性を有するZn面ZnO(0001)基板(以下、本明細書においてZnO基板)51に900℃で30分間のサーマルクリーニングを施した後、基板51温度を300℃まで下げた。その温度(成長温度300℃)で、ZnフラックスF
Znを0.17nm/s(J
Zn=1.1×10
15atoms/cm
2s)、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccm(J
O=8.1×10
14atoms/cm
2s)とし、ZnO基板51上に厚さ30nmのZnOバッファ層52を成長させた。ZnOバッファ層52の結晶性及び表面平坦性の改善のため、900℃で10分間のアニールを行った。
【0036】
ZnOバッファ層52上に、成長温度を900℃、ZnフラックスF
Znを0.17nm/s(J
Zn=1.1×10
15atoms/cm
2s)、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccm(J
O=8.1×10
14atoms/cm
2s)として、厚さ100nmのアンドープZnO層53を成長させた。アンドープZnO層53はn型ZnO層である。アンドープZnO層53上に、Zn、O及びGaと、Cuとを別々のタイミングで供給し、交互積層構造54を形成した。交互積層構造54の形成温度は300℃とした。
【0037】
図2Bは、交互積層構造を形成する際のZnセル、Oセル、Gaセル、及びCuセルのシャッタシーケンスを示すタイムチャートである。
【0038】
交互積層構造54の形成に当たっては、Znセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタを開き、Cuセルシャッタを閉じるGaドープZnO単結晶層成長工程と、Znセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタを閉じ、Cuセルシャッタを開くCu付着工程(Cu層形成工程)とを交互に繰り返した。ZnO単結晶層を成長させる際にGaを供給することで、GaはZnO単結晶層においてZnサイトに入り、ドナーとして機能すると期待される。GaドープZnO単結晶層を成長させる工程と、GaドープZnO単結晶層上にCuを付着させる工程とを別々に設け、Oセルシャッタの開期間とCuセルシャッタの開期間とを重複させないため、OラジカルとCuとは同時に供給されない。
【0039】
GaドープZnO単結晶層成長工程においては、OセルシャッタとGaセルシャッタの開閉は同時に行い、Oセルシャッタ及びGaセルシャッタの開期間の前後に、Znセルシャッタの開期間を延長する。すなわちZnセルシャッタの開期間は、Oセルシャッタ及びGaセルシャッタの開期間を含む。OラジカルとCuを同時に供給しないことに加え、Cu付着工程の前後で、GaドープZnO単結晶層表面をZnで覆うことにより(Oの露出を抑制することにより)、OラジカルとCuの直接の反応を抑制する。
【0040】
サンプル1のアニール前試料の作製においては、Oセルシャッタ及びGaセルシャッタの1回当たりの開期間を16秒とし、Oセルシャッタ及びGaセルシャッタの開期間の前後にZnセルシャッタの開期間を1秒ずつ延長した。Znセルシャッタの1回当たりの開期間は18秒である。Znセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタがすべて開状態となる16秒間が、1回当たりのGaドープZnO単結晶層成長期間である。Cuセルシャッタの1回当たりの開期間は10秒とした。
【0041】
GaドープZnO単結晶層成長工程とCu付着工程を交互に140回ずつ繰り返し、厚さ480nmの交互積層構造54を得た。GaドープZnO単結晶層成長工程でのZnフラックスF
Znは0.17nm/s(J
Zn=1.1×10
15atoms/cm
2s)、Oラジカルビーム照射条件はRFパワー300W、O
2流量2.0sccm(J
O=8.1×10
14atoms/cm
2s)、Gaのセル温度T
Gaは490℃とした。VI/IIフラックス比は0.74(Znリッチ条件)である。Cu付着工程でのCuのセル温度T
Cuは930℃とし、CuフラックスF
Cuを0.0015nm/sとした。
【0042】
図2Cは、交互積層構造54の概略的な断面図である。交互積層構造54は、GaドープZnO単結晶層54aとCu層54bが交互に積層された積層構造を有する。この積層構造は、層上にCuが供給されたGaドープZnO単結晶層54aが140層、厚さ方向に積層されたものと考えることが可能である。
【0043】
GaドープZnO単結晶層54aの厚さは3.3nm程度、Cu層54bの厚さ(Cuの付着厚さ)は1原子層以下、たとえば約1/20原子層である。この場合、GaドープZnO単結晶層54a表面のCu被覆率は5%程度となる。
【0044】
図2Dに、GaドープZnO単結晶層54a及びCu層54bの概略的な断面図を示す。たとえば約1/20原子層の厚さをもつCu層54bは、本図に示すように、GaドープZnO単結晶層54a表面の一部に付着するCuで形成される。以後、図面の簡略化のため、このようなCuの付着態様も含め、交互積層構造を
図2Cの層構造で表す。
【0045】
図3は、アニール前試料の交互積層構造について、CV特性と不純物濃度のデプスプロファイルを示すグラフの一覧である。上段にCV特性を示すグラフを記載し、下段にデプスプロファイルを示すグラフを記載した。測定は、電解液をショットキー電極に用いたECV法により行った。グラフは並列モデルで解析した結果を示す。最も左の列がサンプル1に関するグラフである。なお、後述のサンプルについてのグラフも含め、左の列から順にサンプル1〜サンプル4に関する。CV特性を示すグラフの横軸は、電圧を単位「V」で表し、縦軸は、「1/C
2」を単位「cm
4/F
2」で表す。両軸ともリニアスケールを用いている。また、デプスプロファイルを示すグラフの横軸は、試料の深さ(厚さ)方向の位置を単位「nm」で表す。縦軸は、不純物濃度を単位「cm
−3」で表す。横軸はリニアスケール、縦軸は対数スケールを用いている。
【0046】
サンプル1のCV特性を示すグラフを参照する。右上がりの曲線(電圧が増加すると1/C
2が増加する関係)が得られている。これは層上にCuが供給されたGaドープZnO単結晶層54a(交互積層構造54)がn型導電性を備えることを示す。GaドープZnO単結晶層54a上に局在するCuは、アクセプタとして機能していないと考えられる。なお、傾きが抵抗値と対応する。
【0047】
サンプル1のデプスプロファイルを示すグラフを参照する。本図に示されるように、サンプル1のアニール前試料の交互積層構造54の不純物濃度(ドナー濃度)N
dは1.0×10
20cm
−3である。
【0048】
次に、サンプル1にアニール処理を施した。大気中で650℃、30分間のアニールを行った後、更にその温度で10分間のアニールを4回実施した。
【0049】
図4は、アニール後試料のCV特性と不純物濃度のデプスプロファイルを示すグラフの一覧である。交互積層構造54形成位置のCV特性とデプスプロファイルを示した。最も左の列がサンプル1に関するグラフである。
図3と同様に、後述のサンプルについてのグラフも含め、左の列から順にサンプル1〜サンプル4のアニール後試料に関する。
【0050】
サンプル1の列を参照する。上欄に、650℃で30分間のアニール処理を行った後のCV特性を示すグラフを記載した。グラフの両軸の意味するところは、
図3に示すCV特性のグラフにおけるそれらと同様である。アニール前試料と比較したとき、交互積層構造54(層上にCuが供給されたGaドープZnO単結晶層54a)形成位置が高抵抗化している。Cuがp型不純物として機能し、n型不純物Gaの機能を相殺していると考えられる。
【0051】
下欄を参照する。下欄には、650℃、30分間のアニール後、更に10分間のアニールを4回実施し、650℃で合計70分間のアニールを行った試料のCV特性とデプスプロファイルを示すグラフを、それぞれ上段と下段に記載した。グラフの両軸の意味するところは、
図3に示すグラフのそれらと同様である。
【0052】
上段に示すCV特性のグラフにおいて、右下がりの曲線(電圧が増加すると1/C
2が減少する関係)が得られている。これは交互積層構造54の形成位置がp型導電性を備えることを表す。交互積層構造54形成位置における単位体積当たりのCu濃度はGa濃度より高く、Cuの拡散が進むと、Gaを補償した後、p型不純物Cuの濃度が増加するものと考えられる。デプスプロファイルを示す、下段のグラフを参照すると、サンプル1のアニール後試料における交互積層構造54形成位置の不純物濃度(アクセプタ濃度)N
aが2.0×10
17cm
−3〜1.0×10
19cm
−3であることがわかる。
【0053】
図5は、2次イオン質量分析法(secondary ion mass spectrometry; SIMS)による、アニール終了後のCuの絶対濃度[Cu]及びGaの絶対濃度[Ga]のデプスプロファイルを示すグラフの一覧である。最も左がサンプル1に関するグラフである。
図3、
図4と同様に、後述のサンプルについてのグラフも含め、左から順にサンプル1〜サンプル4のアニール後試料に関する。グラフの横軸は、アニール後試料の深さ方向の位置を表し、縦軸は、Cu濃度[Cu]及びGa濃度[Ga]を表す。アニール後試料の深さ方向の位置は、サンプル1〜サンプル3については単位「μm」、サンプル4については単位「nm」で示す。[Cu]及び[Ga]の単位は「cm
−3」である。
【0054】
サンプル1の欄を参照する。深さ0.0μm〜0.48μmの範囲が、交互積層構造54の形成位置に対応するp型層の形成位置である。Cu濃度[Cu]は2.2×10
20cm
−3、Ga濃度[Ga]は3.4×10
19cm
−3、ともにp型層の厚さ方向の全体にわたり、ほぼ一定であることがわかる。本明細書において、濃度に関し「ほぼ一定」とは、濃度の平均値(本図サンプル1の[Cu]の場合、2.2×10
20cm
−3)の50%〜150%の範囲(本図サンプル1の[Cu]の場合、1.1×10
20cm
−3〜3.3×10
20cm
−3)をいう。Cuは均一に拡散している。[Cu]は[Ga]より大きく、[Ga]に対する[Cu]の比である[Cu]/[Ga]の値は6.5である。なお、[Cu]及び[Ga]は、たとえば表面吸着物の影響により、p型層表面近傍で正確に測定されない場合がある。たとえばサンプル1の場合、低い値に測定されている。
【0055】
次に、サンプル2〜サンプル4について説明する。サンプル2〜サンプル4は、たとえば交互積層構造作製時にCuとGaの供給量を調整し、[Cu]/[Ga]をそれぞれサンプル1と異なる値にしたサンプルである。
【0056】
サンプル2〜サンプル4のアニール前試料は、ZnO基板51上に、順にZnOバッファ層、アンドープZnO層、及び交互積層構造が形成される点で、
図2Aに示したサンプル1の場合と同様であるが、ZnO基板51上に形成される各層の成長条件が相違する。
【0057】
サンプル2及びサンプル3のアニール前試料の作製においては、ZnOバッファ層の成長温度を300℃、成長時間を5分とした。ZnフラックスF
Znを0.16nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccmとして、厚さ40nmのZnOバッファ層を成長させた。その後、900℃で15分間のアニールを行った。
【0058】
アンドープZnO層の成長温度は900℃、成長時間は15分とした。ZnフラックスF
Znを0.16nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccmとして、厚さ120nmのアンドープZnO層を成長させた。
【0059】
交互積層構造は成長温度300℃で形成した。GaドープZnO単結晶層成長工程におけるZnフラックスF
Znは0.16nm/s、Oラジカルビーム照射条件はRFパワー300W、O
2流量2.0sccmとした。VI/IIフラックス比は1より小さく、Znリッチ条件である。Gaのセル温度T
Gaは、サンプル2の作製においては498℃、サンプル3の場合は505℃とした。1回当たりのGaドープZnO単結晶層成長期間は16秒に設定した。Cu付着工程でのCuのセル温度T
Cuは930℃とし、CuフラックスF
Cuを0.0015nm/sとした。Cuセルシャッタの1回当たりの開期間は10秒とした。GaドープZnO単結晶層成長工程とCu付着工程を交互に60回ずつ繰り返し、交互積層構造を得た。成長時間は30分である。交互積層構造の厚さは、サンプル2が207nm、サンプル3が199nmであった。こうしてサンプル2及びサンプル3のアニール前試料を作製した。
【0060】
サンプル4のアニール前試料の作製方法は、サンプル2及びサンプル3のそれと、交互積層構造の成長条件において相違する。
【0061】
サンプル4の交互積層構造は、成長温度300℃で形成した。GaドープZnO単結晶層成長工程におけるZnフラックスF
Znは0.15nm/s、Oラジカルビーム照射条件はRFパワー300W、O
2流量2.0sccmとした。VI/IIフラックス比は1より小さく、Znリッチ条件である。Gaのセル温度T
Gaは525℃とした。1回当たりのGaドープZnO単結晶層成長期間は16秒に設定した。Cu付着工程でのCuのセル温度T
Cuは930℃とし、CuフラックスF
Cuを0.0015nm/sとした。Cuセルシャッタの1回当たりの開期間は50秒とした。GaドープZnO単結晶層成長工程とCu付着工程を交互に30回ずつ繰り返して、厚さ90nmの交互積層構造を形成し、サンプル4のアニール前試料を作製した。
【0062】
図3のサンプル2〜サンプル4の列を参照する。上段のCV特性を示すグラフによると、サンプル2〜サンプル4についても、サンプル1と同様に、交互積層構造において、電圧が増加すると1/C
2が増加する関係が得られている。すなわちサンプル2〜サンプル4のアニール前試料において、交互積層構造(層上にCuが供給されたGaドープZnO単結晶層)がn型導電性を備えることがわかる。
【0063】
デプスプロファイルを示す、下段のグラフを参照する。サンプル2、サンプル3、サンプル4の交互積層構造のドナー濃度N
dは、それぞれ1.0×10
20cm
−3、1.0×10
20cm
−3、7.0×10
20cm
−3である。
【0064】
続いて、サンプル2〜サンプル4にアニール処理を施した。
【0065】
図4のサンプル2の列を参照する。サンプル2は2分割し、2分割した一方には、大気中で650℃、10分間のアニール処理、他方には、大気中で650℃、30分間のアニール処理を行った。上欄は、650℃で10分間のアニール処理を行ったサンプル2のCV特性を示すグラフである。交互積層構造(層上にCuが供給されたGaドープZnO単結晶層)形成位置が、アニール前より高抵抗化している。
【0066】
下欄は、650℃で30分間のアニールを実施したサンプル2のCV特性と不純物濃度のデプスプロファイルを示す。
【0067】
CV特性を示す、上段のグラフにおいては、電圧が増加すると1/C
2が減少する関係が得られている。これにより、交互積層構造の形成位置がp型化したことがわかる。デプスプロファイルを示す、下段のグラフを参照すると、650℃で30分間のアニールを行ったサンプル2における交互積層構造形成位置のアクセプタ濃度N
aは1.0×10
17cm
−3〜7.0×10
18cm
−3であることがわかる。
【0068】
図5のサンプル2の欄には、650℃で30分間のアニールを行った試料のSIMSによるCu濃度[Cu]及びGa濃度[Ga]のデプスプロファイルを示した。交互積層構造の形成位置に対応する範囲(p型層の形成位置)におけるCu濃度[Cu]は1.7×10
20cm
−3、Ga濃度[Ga]は3.7×10
19cm
−3であり、ともにp型層の厚さ方向の全体にわたり、ほぼ一定であることがわかる。[Cu]/[Ga]の値は4.6である。
【0069】
図4のサンプル3の列を参照する。サンプル3に対しても大気中でアニールを施した。550℃で10分間のアニール処理を7回行った後、570℃で10分間のアニール処理を4回、及び、580℃で10分間のアニール処理を3回と5分間の処理を1回行い、更に、590℃で12分間のアニール処理を実施した。アニールの合計時間は157分である。
【0070】
上欄は、550℃で10分間のアニール処理を3回(合計30分)行った後のCV特性を示すグラフである。交互積層構造形成位置が、アニール前より高抵抗化している。
【0071】
下欄は、590℃で12分間のアニール(合計157分のアニール)を実施した試料のCV特性と不純物濃度のデプスプロファイルを示す。
【0072】
CV特性を示す、上段のグラフにおいては、電圧が増加すると1/C
2が減少する関係が得られており、交互積層構造の形成位置がp型化したことがわかる。デプスプロファイルを示す、下段のグラフを参照すると、サンプル3のアニール後試料における交互積層構造形成位置のアクセプタ濃度N
aは6.0×10
17cm
−3〜1.0×10
19cm
−3であることがわかる。
【0073】
図5のサンプル3の欄を参照する。交互積層構造の形成位置に対応する範囲(p型層の形成位置)におけるCu濃度[Cu]は1.2×10
20cm
−3、Ga濃度[Ga]は6.0×10
19cm
−3であり、ともにp型層の厚さ方向の全体にわたり、ほぼ一定であることがわかる。[Cu]/[Ga]の値は2.0である。
【0074】
図4のサンプル4の列を参照する。サンプル4には大気中において、500℃で10分間、525℃で10分間、550℃で10分間のアニール処理を行った後、更に、600℃で10分間のアニール処理を5回実施した。アニールの合計時間は80分である。
【0075】
上欄は、550℃で10分間のアニール処理を行った後のCV特性を示すグラフである。交互積層構造形成位置が、アニール前より高抵抗化している。
【0076】
下欄は、600℃で50分間(10分を5回)のアニール処理(合計80分のアニール処理)を実施した試料のCV特性と不純物濃度のデプスプロファイルを示す。
【0077】
CV特性を示す、上段のグラフにおいては、電圧が増加すると1/C
2が減少する関係が得られており、交互積層構造の形成位置がp型化したことがわかる。デプスプロファイルを示す、下段のグラフを参照すると、サンプル4のアニール後試料における交互積層構造形成位置のアクセプタ濃度N
aは8.0×10
17cm
−3〜1.0×10
19cm
−3であることがわかる。
【0078】
図5のサンプル4の欄を参照する。交互積層構造の形成位置に対応する範囲(p型層の形成位置)におけるCu濃度[Cu]は3.5×10
20cm
−3、Ga濃度[Ga]は2.0×10
20cm
−3であり、ともにp型層の厚さ方向の全体にわたり、ほぼ一定であることがわかる。[Cu]/[Ga]の値は1.8である。
【0079】
続いて、サンプル5について説明する。
【0080】
サンプル5のアニール前試料は、ZnO基板51上に、順にZnOバッファ層52、アンドープZnO層53、及び交互積層構造が形成される点で、
図2Aに示したサンプル1の場合と同様であるが、サンプル1とは交互積層構造の成長条件が相違する。
【0081】
サンプル5の交互積層構造は成長温度300℃で形成した。GaドープZnO単結晶層成長工程におけるZnフラックスF
Znは0.15nm/s(J
Zn=9.9×10
14atoms/cm
2s)、Oラジカルビーム照射条件はRFパワー300W、O
2流量2.0sccm(J
O=8.1×10
14atoms/cm
2s)とした。VI/IIフラックス比は0.82である。Gaのセル温度T
Gaは530℃とした。1回当たりのGaドープZnO単結晶層成長期間は16秒に設定した。Cu付着工程でのCuのセル温度T
Cuは890℃とし、CuフラックスF
Cuを0.001nm/sとした。Cuセルシャッタの1回当たりの開期間は80秒とした。GaドープZnO単結晶層成長工程とCu付着工程を交互に30回ずつ繰り返し、厚さ80nmの交互積層構造を得た。
【0082】
サンプル5は3分割し、各々O
2流量を1L/minとする酸素雰囲気中で10分間のアニールを行った。アニール温度は、600℃、620℃、及び630℃とした。
【0083】
図11は、サンプル5の交互積層構造及びその対応位置について、CV特性と不純物濃度のデプスプロファイルを示すグラフの一覧である。上欄にCV特性を示すグラフを記載し、下欄にデプスプロファイルを示すグラフを記載した。左の列から順に、アニール前試料、600℃、620℃、630℃でアニールした試料に関する。グラフの両軸の意味するところは、
図3及び
図4下欄に示すグラフにおけるそれらと同様である。
【0084】
アニール前試料のCV特性を示すグラフを参照すると、右上がりの曲線(電圧が増加すると1/C
2が増加する関係)が得られており、交互積層構造がn型導電性を備えることがわかる。デプスプロファイルを示すグラフを参照すると、アニール前試料の交互積層構造の不純物濃度(ドナー濃度)N
dは1.0×10
21cm
−3〜2.0×10
21cm
−3である。
【0085】
600℃でアニールした試料のCV特性を示すグラフを参照する。右下がりの曲線(電圧が増加すると1/C
2が減少する関係)が得られており、交互積層構造の形成位置がp型化したことがわかる。デプスプロファイルを示す、下欄のグラフを参照すると、交互積層構造形成位置の不純物濃度(アクセプタ濃度)N
aは1.0×10
18cm
−3〜2.0×10
18cm
−3である。
【0086】
620℃でアニールした試料のCV特性を示すグラフにおいても、電圧が増加すると1/C
2が減少する関係が得られており、交互積層構造の形成位置がp型化したことがわかる。デプスプロファイルを示すグラフから、交互積層構造形成位置のアクセプタ濃度N
aは3.0×10
18cm
−3〜4.0×10
18cm
−3である。
【0087】
630℃で10分間のアニールを行った試料のCV特性を表すグラフは、電圧が増加すると1/C
2が増加する関係、すなわち交互積層構造形成位置がn型導電性をもつことを示す。過剰なアニールにより、交互積層構造形成位置はp型化した後、再びn型層となった。デプスプロファイルを示すグラフを参照すると、交互積層構造形成位置のドナー濃度N
dは2.0×10
19cm
−3〜3.0×10
19cm
−3である。
【0088】
図12は、SIMSによる、Cuの絶対濃度[Cu]及びGaの絶対濃度[Ga]のデプスプロファイルを示すグラフの一覧である。左の列から順に、アニール前試料、600℃、620℃、630℃でアニールした試料に関する。グラフの横軸は深さ方向の位置を、単位「nm」で表し、縦軸はCu濃度[Cu]及びGa濃度[Ga]を、単位「cm
−3」で表す。深さ0nm〜80nmの範囲が、交互積層構造及びその対応位置を示す。
【0089】
アニール前試料の交互積層構造においては、Cu濃度[Cu]は7.2×10
20cm
−3、Ga濃度[Ga]は4.1×10
20cm
−3、[Cu]/[Ga]は1.75である。
【0090】
600℃でアニールした試料の交互積層構造対応位置(p型層の形成位置)におけるCu濃度[Cu]は4.8×10
20cm
−3、Ga濃度[Ga]は3.8×10
20cm
−3であり、ともにp型層の厚さ方向の全体にわたり、ほぼ一定である。[Cu]/[Ga]の値は1.26である。
【0091】
620℃でアニールした試料の交互積層構造対応位置(p型層の形成位置)におけるCu濃度[Cu]は3.8×10
20cm
−3、Ga濃度[Ga]は4.1×10
20cm
−3であり、ともにp型層の厚さ方向の全体にわたり、ほぼ一定である。[Cu]/[Ga]の値は0.93である。
【0092】
630℃でアニールした試料の交互積層構造対応位置におけるCu濃度[Cu]は4.2×10
20cm
−3、Ga濃度[Ga]は4.8×10
20cm
−3である。[Cu]/[Ga]の値は0.88である。
【0093】
たとえばCu及びGaが交互積層構造の外部に拡散することにより、アニールの前後で[Cu]/[Ga]の値は変化する。CuはGaに比べ、拡散しやすい。このためアニール後の[Cu]/[Ga]の値は、アニール前より小さくなる。アニール後の[Cu]/[Ga]の値は、たとえばアニール温度により異なり、アニール温度が高いほど小さくなる傾向が見られる。[Cu]/[Ga]はアニール時間等の条件によっても変化するであろう。
【0094】
図13は、アニールした交互積層構造対応位置の導電性、Cu濃度[Cu]、Ga濃度[Ga]、及び[Cu]/[Ga]の値を示すグラフである。本図には、サンプル1〜サンプル5に限らず、本願発明者らが行った他の実験のサンプルも含めて示した。グラフの横軸は、Cu濃度[Cu]を、単位「cm
−3」で表す。縦軸は、Ga濃度[Ga]を、単位「cm
−3」で表す。両軸とも対数スケールを用いている。黒丸はアニールの結果、p型化したサンプルを示し、黒菱形は高抵抗化したがp型化するには至らなかったサンプルを示す。
【0095】
αは、[Cu]/[Ga]の値が0.93でp型化したサンプル(620℃でアニールしたサンプル5)を表す。αで示すサンプルにおいては、Cu濃度[Cu]は3.8×10
20cm
−3、Ga濃度[Ga]は4.1×10
20cm
−3である。
【0096】
βは、[Cu]/[Ga]の値が1.0でp型化したサンプルを表す。βで示すサンプルにおいては、Cu濃度[Cu]、Ga濃度[Ga]は、ともに3.0×10
20cm
−3である。
【0097】
γは、[Cu]/[Ga]の値が0.93でp型化しなかったサンプルを表す。γで示すサンプルにおいては、Cu濃度[Cu]は3.8×10
19cm
−3、Ga濃度[Ga]は4.1×10
19cm
−3である。
【0098】
Cu濃度[Cu]及びGa濃度[Ga]が1桁違うサンプルα、γの比較から、[Cu]/[Ga]の値が等しい場合(0.93)であっても、濃度の絶対値([Cu]及び[Ga])によってp型化するか否かが異なることがわかる。
【0099】
なお、本図には示していないが、Cu濃度[Cu]が5.87×10
20cm
−3、Ga濃度[Ga]が6.44×10
20cm
−3、[Cu]/[Ga]の値が0.91でp型化したサンプルが得られた。[Cu]/[Ga]の値が0.90以上でp型化が可能であろう。
【0100】
本願発明者らが行った以上の実験より、サンプル1〜サンプル5の交互積層構造(GaドープZnO単結晶層)は、アズグロウンでn型であり(
図3参照)、アニールにより、高抵抗化(
図4の上欄参照)を経てp型化する(
図4の下欄及び
図11参照)ことが理解される。アニール処理を行うことでCu層のCuがGaドープZnO単結晶層内に均一に拡散する。Cuの拡散(アクセプタとして機能するCu
+の発生)に伴って交互積層構造(GaドープZnO単結晶層)は高抵抗化(ドナー濃度N
dが減少)し、更に、CuとGaが共ドープされたp型ZnO単結晶層となる(p型化する)と考えられる。
【0101】
サンプル1〜サンプル5の比較から、p型化のためのアニール条件(温度、時間、雰囲気等)は、交互積層構造やGaドープZnO単結晶層の厚さ、交互積層構造におけるCu濃度[Cu]、Ga濃度[Ga]、[Ga]に対する[Cu]の比[Cu]/[Ga]等によって異なるであろう。
【0102】
また、Cu濃度[Cu]とGa濃度[Ga]がともに狭い数値範囲内にあるサンプル1〜サンプル3において、[Cu]/[Ga]の値に着目すると、サンプル1>サンプル2>サンプル3の関係にあり、[Cu]/[Ga]の値が小さいほど、p型化に必要なアニール温度が低くなる、または処理時間が短くなる傾向が認められる。たとえば高温アニールによる酸素空孔等ドナー性点欠陥の形成、p型層からの外部拡散に伴うp型層中のCu濃度やGa濃度の低下、CuやGaの下地層(n型層)への拡散に伴うpn界面急峻性の悪化等の不具合発生の可能性を考慮すると、[Cu]/[Ga]の値は、たとえば100未満であることが望ましく、50以下であることが一層望ましいであろう。
【0103】
更に、交互積層構造(GaドープZnO単結晶層とその上に供給されたCuからなる構造)において、CuとGaが1:1で補償されると考えるなら、[Cu]/[Ga]>1のときp型化が可能であろう。実験によれば、アニール後の交互積層構造対応位置における[Cu]/[Ga]の値が0.9以上となるように、交互積層構造形成時にCuとGaを供給することにより、交互積層構造のp型化が可能である。また、たとえば[Cu]/[Ga]≧2のとき、アニールによって実用的なp型導電性を得やすいと思われる。
【0104】
したがって、たとえばアニール後の交互積層構造対応位置において、0.9≦[Cu]/[Ga]<100であれば、比較的低温のアニールで交互積層構造をp型化することができ、2≦[Cu]/[Ga]≦50であれば、一層低温のアニールで、実用的なp型導電性が得られるということが可能であろう。
【0105】
また実験においては、たとえば
図5に示すように、層の厚さ方向の全体にわたり、Cu濃度[Cu]及びGa濃度[Ga]がほぼ一定のp型層が得られた。p型層におけるCu濃度[Cu]は、1.2×10
20cm
−3(サンプル3の場合)〜4.8×10
20cm
−3(600℃でアニールしたサンプル5の場合)であった。
【0106】
この結果から、たとえば層上にCuが供給されたGaドープn型ZnO単結晶層をアニールする方法によって、Cuを、高濃度といえる1.0×10
19cm
−3以上の濃度に、少なくとも1.0×10
21cm
−3未満の濃度までは、厚さ方向に均一にドープすることができると考えられる。
【0107】
本願発明者らは鋭意研究により、ZnO系半導体層において、Cuの不純物濃度(アクセプタ濃度)は、Cuの絶対濃度[Cu]より約2桁小さいという知見を得ている。この知見を加味すると、層上にCuが供給されたGaドープn型ZnO単結晶層をアニールする方法によって、アクセプタ濃度が1.0×10
17cm
−3以上、1.0×10
19cm
−3未満のp型層が得られるということができる。事実、
図4及び
図11の下欄のデプスプロファイルには、サンプル1〜サンプル5のアクセプタ濃度N
aが、1.0×10
17cm
−3(サンプル2の場合)〜1.0×10
19cm
−3(サンプル1、サンプル3、及びサンプル4の場合)であることが示されている。
【0108】
p型層は、アクセプタ濃度が1.0×10
17cm
−3以上であれば実用的ということが可能である。したがって実験で得られたp型層は、実用的なp型導電性を有するp型ZnO系半導体単結晶層である。
【0109】
層上にCuが供給されたGaドープZnO単結晶層をアニールする方法によれば、Cuが高濃度に、かつ、層の厚さ方向の全体にわたって均一にドープされ、実用的なp型導電性を有するCu、Ga共ドープZnO単結晶層を製造することができる。また、低い温度のアニールで製造可能である。
【0110】
n型導電性を示す交互積層構造(層上にCuが供給されたGaドープZnO単結晶層)は、アニールにより、高抵抗化を経てp型化される。実験においては、たとえばサンプル1の場合、650℃で30分間のアニール処理を行って高抵抗化した試料を作製した(
図4上欄のグラフ参照)後、すなわち顕在的な高抵抗化を経た後、更に40分間のアニール処理を実施してp型化を行った(
図4下欄のグラフ参照)が、アニール前試料に650℃で70分間のアニールを連続して行った場合でも、交互積層構造はp型化する。このとき交互積層構造は、潜在的な高抵抗化を経てp型化されるということができる。同様に、サンプル2のアニール前試料には650℃で30分間、サンプル3のアニール前試料には590℃で12分間、サンプル4のアニール前試料には600℃で50分間のアニール処理をそれぞれ大気中で実施することで、各サンプルの交互積層構造を潜在的に高抵抗化した後、p型化することが可能である。
【0111】
なお、交互積層構造は、潜在的または顕在的な高抵抗化の後、更に絶縁化を経てp型化されると考えることもできる。アニール条件の設定により、絶縁化を顕在化させることも可能であろう。したがって交互積層構造は、潜在的または顕在的な高抵抗化の後、更に潜在的または顕在的な絶縁化を経てp型化されるということができるであろう。
【0112】
本願発明者らは、p型化した交互積層構造を更にアニールすると、再びn型導電性をもちうることを発見した。したがってアニール処理は、たとえば交互積層構造が高抵抗化を経てp型化した後、再びn型層となる前に終了すればよい。
【0113】
本願発明者らが行った実験により、層上にCuが供給されたGaドープZnO単結晶層(GaドープZnO単結晶層成長工程とCu付着工程を交互に繰り返し形成した交互積層構造)にアニール処理を施すことで、高抵抗化の後、CuとGaが共ドープされたp型ZnO層が得られることがわかった。
【0114】
次に、
図6A及び
図6Bを参照し、Cu、Ga共ドープZnO層をp型半導体層に用いる、第1実施例によるZnO系半導体発光素子について説明する。第1実施例はホモ構造のZnO系半導体発光素子である。なお、実施例においては半導体発光素子について述べるが、本発明は、発光素子に限らず広く半導体素子について適用することができる。
【0115】
まず、第1実施例によるZnO系半導体発光素子の製造方法を説明する。
【0116】
図6Aに示すように、ZnO基板1上方に、成長温度300℃で、ZnフラックスF
Znを0.15nm/s(J
Zn=9.9×10
14atoms/cm
2s)とし、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccm(J
O=8.1×10
14atoms/cm
2s)として、厚さ30nmのZnOバッファ層2を成長させた。ZnOバッファ層2の結晶性及び表面平坦性の改善のため、900℃で10分間のアニールを行った。
【0117】
ZnOバッファ層2上方に、成長温度900℃で、Zn、O及びGaを同時に供給し、厚さ150nmのn型ZnO層3を成長させた。ZnフラックスF
Znは0.15nm/s(J
Zn=9.9×10
14atoms/cm
2s)、Oラジカルビーム照射条件はRFパワー250W、O
2流量1.0sccm(J
O=4.0×10
14atoms/cm
2s)、Gaのセル温度は460℃とした。n型ZnO層3のGa濃度は、たとえば1.5×10
18cm
−3である。
【0118】
n型ZnO層3上方に、成長温度900℃、ZnフラックスF
Znを0.03nm/s(J
Zn=2.0×10
14atoms/cm
2s)、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccm(J
O=8.1×10
14atoms/cm
2s)として、厚さ15nmのアンドープZnO活性層4を成長させた。
【0119】
続いて、アンドープZnO活性層4上方に、Cu、Ga共ドープp型ZnO層5を形成した。
【0120】
まず、基板温度を300℃とし、サンプル1のアニール前試料作製時と等しいシャッタシーケンス(
図2B参照)で、Zn、O及びGaと、Cuとを別々のタイミングで供給し、膜上にCuが供給されたGaドープn型ZnO単結晶膜を準備した。具体的には、Zn、O及びGaを供給してGaドープZnO単結晶膜を成長させる工程と、GaドープZnO単結晶膜上にCuを供給する工程を交互に140回ずつ繰り返し、厚さ480nmの交互積層構造を形成した。交互積層構造は、膜上にCuが供給されたGaドープn型ZnO単結晶膜が140層、厚さ方向に積層されたものと考えることができる。
【0121】
1回当たりのGaドープZnO単結晶膜成長期間は16秒、1回当たりのCu供給期間は10秒とした。GaドープZnO単結晶膜成長工程でのZnフラックスF
Znは0.17nm/s(J
Zn=1.1×10
15atoms/cm
2s)、Oラジカルビーム照射条件はRFパワー300W、O
2流量2.0sccm(J
O=8.1×10
14atoms/cm
2s)とし、Gaのセル温度T
Gaは490℃とした。VI/IIフラックス比は0.74である。また、Cu供給工程でのCuのセル温度T
Cuは930℃とし、CuフラックスF
Cuを0.0015nm/sとした。
【0122】
図6Bは、交互積層構造5Aの概略的な断面図である。交互積層構造5Aは、GaドープZnO単結晶膜5aとCu層5bが交互に積層された構造(膜上にCuが供給されたGaドープZnO単結晶膜5aが厚さ方向に積層された構造)を有する。GaドープZnO単結晶膜5aの厚さは3.3nm程度、Cu層5bの厚さは1原子層以下、たとえば約1/20原子層(GaドープZnO単結晶膜5a表面のCu被覆率が5%程度)である。交互積層構造5A(膜上にCuが供給されたGaドープZnO単結晶膜5a)はn型導電性を示し、ドナー濃度N
dは、たとえば約1.0×10
20cm
−3である。
【0123】
次に、膜上にCuが供給されたGaドープZnO単結晶膜5a(交互積層構造5A)をアニールして、Cuがドープされたp型膜(Cu、Ga共ドープp型ZnO層5)とした。たとえば大気中で650℃、70分間のアニールを実施することにより、Cu層5bのCuをGaドープZnO単結晶膜5a内に拡散させ、n型導電性を示す交互積層構造5Aをp型化することができる。このアニール条件においては、GaドープZnO単結晶膜5aは、潜在的な高抵抗化を経てp型化される。
【0124】
なお、たとえば大気中で650℃、30分間のアニールを実施し、GaドープZnO単結晶膜5aを顕在的に高抵抗化した後、更に、大気中で650℃、40分間のアニールを行うことにより、GaドープZnO単結晶膜5aをp型化してもよい。
【0125】
その後、ZnO基板1の裏面にn側電極6nを形成した。Cu、Ga共ドープp型ZnO層5上にはp側電極6pを形成し、p側電極6p上にボンディング電極7を形成した。n側電極6nは、厚さ10nmのTi層上に厚さ500nmのAu層を積層して形成することができる。p側電極6pは、サイズ300μm□で厚さ1nmのNi層上に、厚さ10nmのAu層を積層して形成し、ボンディング電極7は、サイズ100μm□で厚さ500nmのAu層で形成した。こうして第1実施例によるZnO系半導体発光素子が作製された。
【0126】
図6Aは、第1実施例によるZnO系半導体発光素子の概略的な断面図である。第1実施例によるZnO系半導体発光素子は、n型ZnO系半導体層(n型ZnO層3)、n型ZnO系半導体層上方に形成されたZnO系半導体活性層(アンドープZnO活性層4)、ZnO系半導体活性層上方に形成されたp型ZnO系半導体層(Cu、Ga共ドープp型ZnO層5)、n型ZnO系半導体層に電気的に接続されたn側電極(n側電極6n)、及び、p型ZnO系半導体層に電気的に接続されたp側電極(p側電極6p)を含む。
【0127】
Cu、Ga共ドープp型ZnO層5は、CuとGaが共ドープされたp型ZnO系単結晶層である。Cu、Ga共ドープp型ZnO層5内において、Cu濃度[Cu]とGa濃度[Ga]とは、0.9≦[Cu]/[Ga]<100の関係を満たし、より望ましくは、2≦[Cu]/[Ga]≦50の関係を満たす。具体的には、Cu濃度[Cu]は、たとえば2.2×10
20cm
−3、Ga濃度[Ga]は、たとえば3.4×10
19cm
−3、[Cu]/[Ga]は6.5である。第1実施例による半導体発光素子のCu、Ga共ドープp型ZnO層5は、実用的なp型導電性を有するZnO層である。n型導電性を示すGaドープZnO単結晶膜5aを、低い温度でアニールすることによりp型化し、形成することができる。
【0128】
実験及び第1実施例では、Cu、Ga共ドープp型ZnO層を形成した(Mg
xZn
1−xO表記においてx=0)が、膜上にCuが供給されたGaドープn型Mg
xZn
1−xO(0<x≦0.6)単結晶膜をアニールすることにより、Cuがドープされたp型膜(Cu、Ga共ドープp型Mg
xZn
1−xO(0<x≦0.6)単結晶膜)を得ることができる(Mg
xZn
1−xO表記においてx≠0)。
【0129】
膜上にCuが供給されたGaドープn型Mg
xZn
1−xO(0<x≦0.6)単結晶膜を準備する例として、Gaドープn型Mg
xZn
1−xO(0<x≦0.6)単結晶膜とCu層が交互に積層された交互積層構造を形成する場合を説明する。
【0130】
図7は、交互積層構造を形成する際のZnセル、Mgセル、Oセル、Gaセル、及びCuセルのシャッタシーケンスの一例を示すタイムチャートである。
【0131】
交互積層構造の形成においては、Znセルシャッタ、Mgセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタを開き、Cuセルシャッタを閉じるGaドープMg
xZn
1−xO(0<x≦0.6)単結晶膜成長工程と、Znセルシャッタ、Mgセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタを閉じ、Cuセルシャッタを開くCu付着工程とを交互に繰り返す。
【0132】
本図に示す例では、GaドープMg
xZn
1−xO単結晶膜成長工程におけるZnセルシャッタの開期間が、Mgセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタの開期間を含むように設定されている。具体的には、Mgセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタの開閉は同時に行われ、Mgセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタの開期間の前後に、Znセルシャッタの開期間が延長される。
【0133】
たとえば、Mgセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタの1回当たりの開期間は16秒である。Mgセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタの開期間の前後にZnセルシャッタの開期間を1秒ずつ延長し、Znセルシャッタの1回当たりの開期間を18秒とする。Znセルシャッタ、Mgセルシャッタ、Oセルシャッタ、及びGaセルシャッタがすべて開状態となる16秒間が、1回当たりのGaドープMg
xZn
1−xO単結晶膜成長期間である。Cuセルシャッタの1回当たりの開期間は10秒とした。
【0134】
OラジカルとCuを同時に供給しないことに加え、Cu付着工程の前後で、GaドープMg
xZn
1−xO単結晶膜表面をZnで覆うことにより、OラジカルとCuの直接の反応が抑制される。
【0135】
なお、ZnとともにMgを供給する場合、OラジカルとCuの反応を抑制するという観点からは、Znセルシャッタの開期間とMgセルシャッタの開期間の少なくとも一方が、Oセルシャッタの開期間を含むようにすればよいであろう。GaドープMg
xZn
1−xO単結晶膜のMg組成の制御性を高める観点からは、Znセルシャッタの開期間が、Mgセルシャッタ及びOセルシャッタの開期間を含むようにすればよいと考えられる。
【0136】
膜上にCuが供給されたGaドープn型Mg
xZn
1−xO(0<x≦0.6)単結晶膜(交互積層構造)をアニールすることにより、高抵抗化を経て、Cu、Ga共ドープp型Mg
xZn
1−xO(0<x≦0.6)単結晶膜が作製される。
【0137】
次に、Cu、Ga共ドープp型Mg
xZn
1−xO(0<x≦0.6)単結晶層を備える、ダブルへテロ構造のZnO系半導体発光素子に係る第2実施例及び第3実施例について述べる。
【0138】
図8A〜
図8Cを参照し、第2実施例によるZnO系半導体発光素子の製造方法を説明する。
【0139】
図8Aに示すように、ZnO基板11上方に、Zn及びOを同時に供給し、たとえば厚さ30nmのZnOバッファ層12を成長させた。一例として、成長温度を300℃、ZnフラックスF
Znを0.15nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccmとすることができる。ZnOバッファ層12の結晶性及び表面平坦性の改善のため、900℃で10分間のアニールを行った。
【0140】
ZnOバッファ層12上方に、Zn、O及びGaを同時に供給し、たとえば成長温度900℃で、厚さ150nmのn型ZnO層13を成長させた。ZnフラックスF
Znを0.15nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー250W、O
2流量1.0sccm、Gaセル温度を460℃とした。n型ZnO層13のGa濃度は、たとえば1.5×10
18cm
−3となる。
【0141】
n型ZnO層13上方に、Zn、Mg及びOを同時に供給し、たとえば厚さ30nmのn型MgZnO層14を成長させた。成長温度を900℃、ZnフラックスF
Znを0.1nm/s、MgフラックスF
Mgを0.025nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2sccmとすることができる。n型MgZnO層14のMg組成は、たとえば0.3である。
【0142】
n型MgZnO層14上方に、Zn及びOを同時に供給し、たとえば成長温度900℃で、厚さ10nmのZnO活性層15を成長させた。ZnフラックスF
Znを0.1nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccmとした。
【0143】
なお、
図8Bに示すように、活性層15として、単層のZnO層ではなく、MgZnO障壁層15bとZnO井戸層15wが交互に積層された量子井戸構造を採用することができる。
【0144】
基板温度をたとえば300℃まで下げ、GaドープMgZnO単結晶膜成長工程とCu付着工程とを交互に繰り返し、活性層15上方に交互積層構造を形成(膜上にCuが供給されたGaドープn型MgZnO単結晶膜を準備)した。交互積層構造形成に当たってのZnセル、Mgセル、Oセル、Gaセル、及びCuセルのシャッタシーケンスは、たとえば
図7に示すそれと同様である。
【0145】
たとえば、1回当たりのGaドープMgZnO単結晶膜成長工程での成長期間を16秒とし、1回当たりのCu付着工程におけるCu供給期間を10秒とした。GaドープMgZnO単結晶膜成長工程でのZnフラックスF
Znは0.15nm/s、MgフラックスF
Mgは0.03nm/s、Oラジカルビーム照射条件は、RFパワー300W、O
2流量2.0sccm、Gaのセル温度T
Gaは498℃である。VI/IIフラックス比は0.72となる。Cu供給工程でのCuのセル温度T
Cuは930℃とし、CuフラックスF
Cuを0.0015nm/sとした。GaドープMgZnO単結晶膜成長工程とCu付着工程を交互に60回ずつ繰り返し、厚さ200nmの交互積層構造を得た。交互積層構造は、膜上にCuが供給されたGaドープn型MgZnO単結晶膜が60層、厚さ方向に積層されたものと考えることができる。
【0146】
図8Cは、交互積層構造16Aの概略的な断面図である。交互積層構造16Aは、GaドープMgZnO単結晶膜16aとCu層16bが交互に積層された積層構造(膜上にCuが供給されたGaドープMgZnO単結晶膜16aが、厚さ方向に積層された構造)を有する。GaドープMgZnO単結晶膜16aの厚さは3.3nm程度、Cu層16bの厚さは1原子層以下、たとえば約1/20原子層(GaドープMgZnO単結晶膜16a表面のCu被覆率が5%程度)である。交互積層構造16A(膜上にCuが供給されたGaドープMgZnO単結晶膜16a)はn型導電性を示し、ドナー濃度N
dは、たとえば約7.5×10
19cm
−3である。
【0147】
次に、膜上にCuが供給されたGaドープMgZnO単結晶膜16a(交互積層構造16A)をアニールし、活性層15上方に、Cuがドープされたp型膜(Cu、Ga共ドープp型MgZnO層16)を形成した。たとえば大気中で650℃、20分間のアニールを実施することにより、Cu層16bのCuをGaドープMgZnO単結晶膜16a内に拡散させ、n型導電性を示す交互積層構造16Aをp型化することができる。このアニール条件においては、GaドープMgZnO単結晶膜16aは、潜在的な高抵抗化を経てp型化される。
【0148】
なお、たとえば大気中で650℃、10分間のアニールを実施し、GaドープMgZnO単結晶膜16aを顕在的に高抵抗化した後、更に、大気中で650℃、10分間のアニールを行うことにより、GaドープMgZnO単結晶膜16aをp型化してもよい。
【0149】
Cu、Ga共ドープp型MgZnO層16のMg組成は、たとえば0.3である。
【0150】
ZnO基板11の裏面にn側電極17nを形成し、Cu、Ga共ドープp型MgZnO層16上にp側電極17pを形成する。また、p側電極17p上にボンディング電極18を形成する。たとえばn側電極17nは、厚さ10nmのTi層上に厚さ500nmのAu層を積層して形成し、p側電極17pは、大きさ300μm□で厚さ1nmのNi層上に、厚さ10nmのAu層を積層して形成することができる。ボンディング電極18は、大きさ100μm□で厚さ500nmのAu層で形成する。こうして第2実施例によるZnO系半導体発光素子が作製される。
【0151】
第2実施例においてはZnO基板11を用いたが、MgZnO基板、GaN基板、SiC基板、Ga
2O
3基板等の導電性基板を使用することが可能である。
【0152】
図8Aは、第2実施例によるZnO系半導体発光素子の概略的な断面図である。第2実施例によるZnO系半導体発光素子は、n型ZnO系半導体層(たとえばn型ZnO層13)、n型ZnO系半導体層上方に形成されたZnO系半導体活性層(活性層15)、ZnO系半導体活性層上方に形成されたp型ZnO系半導体層(Cu、Ga共ドープp型MgZnO層16)、n型ZnO系半導体層に電気的に接続されたn側電極(n側電極17n)、及び、p型ZnO系半導体層に電気的に接続されたp側電極(p側電極17p)を含む。
【0153】
Cu、Ga共ドープp型MgZnO層16は、CuとGaが共ドープされたp型ZnO系単結晶層である。Cu、Ga共ドープp型MgZnO層16内において、Cu濃度[Cu]とGa濃度[Ga]とは、0.9≦[Cu]/[Ga]<100の関係を満たし、より望ましくは、2≦[Cu]/[Ga]≦50の関係を満たす。具体的には、Cu濃度[Cu]は、たとえば2.0×10
20cm
−3、Ga濃度[Ga]は、たとえば3.6×10
19cm
−3、[Cu]/[Ga]は5.6である。第2実施例による半導体発光素子のCu、Ga共ドープp型MgZnO層16は、実用的なp型導電性を有するMgZnO層である。n型導電性を示すGaドープMgZnO単結晶膜16aを、低い温度でアニールすることによりp型化し、形成することができる。
【0154】
図9を参照し、第3実施例によるZnO系半導体発光素子の製造方法を説明する。第1及び第2実施例においては導電性基板上方に半導体層を形成したが、第3実施例では絶縁性基板上方に半導体層を形成する。
【0155】
絶縁性基板であるc面サファイア基板21上方に、Mg及びOを同時に供給し、たとえば厚さ10nmのMgOバッファ層22を成長させる。一例として、成長温度を650℃、MgフラックスF
Mgを0.05nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2sccmとすることができる。MgOバッファ層22は、その上のZnO系半導体層がZn面を表面として成長するように制御する極性制御層として機能する。
【0156】
MgOバッファ層22上方に、たとえば成長温度300℃、ZnフラックスF
Znを0.15nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2.0sccmとして、Zn及びOを同時に供給し、厚さ30nmのZnOバッファ層23を成長させる。ZnOバッファ層23はZn面で成長する。ZnOバッファ層23の結晶性及び表面平坦性の改善のため、900℃で30分間のアニールを行う。
【0157】
ZnOバッファ層23上方に、Zn、O及びGaを同時に供給し、たとえば厚さ1.5μmのn型ZnO層24を成長させる。一例として成長温度を900℃、ZnフラックスF
Znを0.05nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2sccm、Gaのセル温度を480℃とする。
【0158】
n型ZnO層24上方に、Zn、Mg及びOを同時に供給し、たとえば厚さ30nmのn型MgZnO層25を成長させる。成長温度を900℃、ZnフラックスF
Znを0.1nm/s、MgフラックスF
Mgを0.025nm/s、Oラジカルビーム照射条件をRFパワー300W、O
2流量2sccmとすることができる。n型MgZnO層25のMg組成は、たとえば0.3である。
【0159】
n型MgZnO層25上方に、たとえば厚さ10nmのZnO活性層26を成長させる。成長条件は、第2実施例における活性層15の場合と等しくすることができる。単層のZnO層のかわりに、量子井戸構造を採用してもよい。
【0160】
活性層26上方に、Cu、Ga共ドープp型MgZnO層27を形成する。形成方法は、たとえば第2実施例におけるCu、Ga共ドープp型MgZnO層16のそれと等しい。
【0161】
第3実施例のc面サファイア基板21は絶縁性基板であるため、基板21裏面側にn側電極を取ることができない。そこでCu、Ga共ドープp型MgZnO層27の上面から、n型ZnO層24が露出するまでエッチングを行い、露出したn型ZnO層24上にn側電極28nを形成する。また、Cu、Ga共ドープp型MgZnO層27上にp側電極28pを形成し、p側電極28p上にボンディング電極29を形成する。
【0162】
n側電極28nは、厚さ10nmのTi層上に厚さ500nmのAu層を積層して形成し、p側電極28pは、厚さ0.5nmのNi層上に厚さ10nmのAu層を積層して形成することができる。ボンディング電極29は、厚さ500nmのAu層で形成する。こうして第3実施例によるZnO系半導体発光素子が作製される。
【0163】
図9は、第3実施例によるZnO系半導体発光素子の概略的な断面図である。第3実施例によるZnO系半導体発光素子も、第1及び第2実施例と同様に、n型ZnO系半導体層(たとえばn型ZnO層24)、n型ZnO系半導体層上方に形成されたZnO系半導体活性層(活性層26)、ZnO系半導体活性層上方に形成されたp型ZnO系半導体層(Cu、Ga共ドープp型MgZnO層27)、n型ZnO系半導体層に電気的に接続されたn側電極(n側電極28n)、及び、p型ZnO系半導体層に電気的に接続されたp側電極(p側電極28p)を含む。また、第3実施例のCu、Ga共ドープp型MgZnO層27は、第2実施例のCu、Ga共ドープp型MgZnO層16と同様の性質を有する。
【0164】
以上、実験及び実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されない。
【0165】
たとえば実施例によるZnO系半導体発光素子を製造するに当たり、酸素源としてOラジカルを用いたが、オゾンやH
2O、アルコールなどの極性酸化剤等、酸化力の強い他のガスを使用することができる。また、MBE法を用い、膜上にCuが供給されたGaドープn型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜を形成したが、たとえば真空蒸着やスパッタにより形成してもよい。更に、サンプル1〜サンプル4及び実施例においては、アニールを大気中で行ったが、酸素雰囲気中等で行ってもよい。
【0166】
また、実験及び実施例では、膜上にCuが供給されたGaドープn型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜をアニールし、Cuがドープされたp型層(Cu、Ga共ドープp型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶層)とした。Cu(IB族元素)が付着したGa(IIIB族元素)ドープn型Mg
xZn
1−xO単結晶膜がアニールされることで、CuがVIB族元素であるOと1価(Cu
+)の状態で結合しやすくなり、アクセプタとして機能する1価のCu
+が2価のCu
2+より生じやすくなる結果、Gaドープn型Mg
xZn
1−xO単結晶膜がp型化すると考えられる。したがって、Cuにかえて、またはCuとともに、Cuと同様に複数の価数を形成しうるIB族元素であるAgを用いることができる。また、Gaに限らず、Gaと同じくIIIB族元素であるB、Al及びInを使用することができる。使用されるIIIB族元素は、B、Ga、Al及びInからなる群より選択される一以上のIIIB族元素であればよい。
【0167】
その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【0168】
なお、先の出願(特願2012−41096号)で本願発明者らが提案した、(α)Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜を形成する工程と、(β)Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜上にCuを供給する工程を交互に繰り返す、Cuドープp型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)層の製造方法においては、以下の(1)〜(3)等の知見が得られている。
【0169】
(1)結晶性の悪化を防止するために、1回の工程(α)当たり、厚さ10nm以下のMg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜を形成することが望ましい。
【0170】
(2)高い平坦性、良好な結晶性を得るために、工程(α)においては、ストイキオメトリ条件(VI/IIフラックス比が1)またはII族リッチ条件(VI/IIフラックス比が1未満)でMg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜を形成することが望ましく、VI/IIフラックス比が0.5以上で1より小さいという条件のもとで形成することが一層望ましい。
【0171】
(3)良好な結晶成長を実現するために、工程(α)において、成長温度(基板温度)を200℃程度以上350℃以下としてMg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜を成長させることが望ましい。
【0172】
本願に係るZnO系半導体素子を製造する際にも、Gaドープn型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)単結晶膜を成長させる場合には、上記(1)〜(3)に示す条件で成長させることにより、平坦性が高く、良好な結晶性を有するp型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)膜を得ることが可能である。
【0173】
図10は、第1実施例〜第3実施例によるZnO系半導体発光素子を製造するに当たっての、Gaドープn型Mg
xZn
1−xO単結晶膜の成膜条件をまとめた表である。
【0174】
本表に示されるように、第1実施例〜第3実施例のすべてにおいて、上記(1)〜(3)に示す条件は満たされている。このため実施例によるp型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)層は、高い平坦性と良好な結晶性を備えるp型ZnO系半導体層である。
【0175】
なお、本願発明者らが原子間力顕微鏡(atomic force microscope; AFM)の像等により表面観察を行った結果、p型Mg
xZn
1−xO(0≦x≦0.6)層の表面は、交互積層構造の表面より平坦であることがわかった。実施例によるp型Mg
xZn
1−xO層は、アニール処理され、平坦性の向上されたp型ZnO系半導体層である。