(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導電性ポリマーのエネルギー準位が、ベース電極とエミッタ電極間に設けられているp型有機半導体層の最高被占分子軌道よりも大きい請求項1〜3のいずれか1項に記載のトランジスタ素子。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態につき、詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、実施することができる。
【0026】
先ず、エミッタ電極とコレクタ電極との間に、有機半導体層とシート状のベース電極を有し、かつ、ベース電極を挟んで表裏それぞれの側に有機半導体層が配置されてなる本発明の有機トランジスタ素子(MBOT)について説明する。本発明の有機トランジスタ素子(MBOT)は、エミッタ電極とコレクタ電極との間にシート状のベース電極が配置され、かつ、該ベース電極の表裏それぞれの側に有機半導体層が設けられており、かつ、ベース電極とエミッタ電極側有機半導体層との間に設けられたホール透過促進層31が、導電性ポリマーを有してなる膜であることを一つの特徴とする。なお、本発明では、エミッタ電極とコレクタ電極との間に、ベース電極を挟んで配置された2つの有機半導体層をそれぞれ、コレクタ電極側のものをコレクタ層と、エミッタ電極側のものをエミッタ層と呼ぶ。
【0027】
本発明のトランジスタ素子の構造の一例を
図1に示したが、
図1に示すように、本発明の素子は、有機半導体/電極/有機半導体という積層構造をなす、単純な積層工程による作製が可能な縦型有機トランジスタである。
図1に示したように、その構造は、基板(不図示)上に、有機半導体よりなるコレクタ層21とエミッタ層22と、さらに、これら2層の有機半導体層に挟まれた位置にベース電極13、ホール透過促進層31が設けられている。すなわち、
図1に例示した本発明のトランジスタ素子は、基板上に、コレクタ電極11、コレクタ層21、ベース電極13、ホール透過促進層31、エミッタ層22、エミッタ電極12が、この順に積層した積層構造を有してなる。
【0028】
本発明のトランジスタ素子の特徴の一つは、ホール透過促進層31が、導電性ポリマーを有してなる膜として形成されていることである。本発明者らは、その実用化が可能なトランジスタ素子を得るために鋭意検討した結果、上記したベース電極13を挟んで有機半導体層を配置した特有の積層構造とすることに加え、先に述べたように、導電性ポリマーを含む材料によって形成したホール透過促進層31は平滑な面を有するものになるため、その上に形成されるエミッタ層22も平滑となり、平滑な界面を形成する積層構造となる。これらの結果、安定した電流が得られるとともに、凹凸により生成するリーク電流を抑制し、オフ電流を小さく維持する効果があり、さらに、ホール透過促進層31を構成する導電性ポリマーによりホールが加速され、エミッタ層22からホール透過促進層31を経由してコレクタ層21へと移動する電荷を増加させることによりベース電極13の透過率を大きくし、大きな電流増幅率が得られるとともに、低電圧領域において大きな出力変調と電流変調が、安定して作動できる有用な有機トランジスタ素子(MBOT)の実現が可能になることを見出した。
【0029】
前記したように本発明のトランジスタ素子に流れる電流は、エミッタ電極12とコレクタ電極11との間にコレクタ電圧V
Cを印加し、さらに、エミッタ電極12とベース電極13との間にベース電圧V
Bを印加すると、そのベース電圧V
Bの作用により、エミッタ電極から注入された正孔が加速されてベース電極を透過し、コレクタ電極に到達する。すなわち、エミッタ電極12とベース電極13間にベース電圧V
Bを印加したときに流れるベース電流I
Bは、ベース電圧の印加により、エミッタ電極−コレクタ電極間に流れるコレクタ電流I
Cへと増幅される。したがって、本発明のトランジスタ素子は、バイポーラトランジスタと同じような電流変調作用を安定して得ることができ、大きな出力変調と電流増幅が可能である。
【0030】
本発明を特徴づけるホール透過促進層の形成材料について説明する。本発明のトランジスタのホール透過促進層の形成に使用される導電性ポリマーは、ホールの透過を促進する材料であれば、問題なく使用できるが、その伝導度は1〜1000S/cmであるものが好ましい。また、良好なホール透過促進層の形成を可能にするため、親水性の導電性ポリマーを用いることが好ましい。このようなものとしては、例えば、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフルオレン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリアセチレン、ポリチエニレンビニレン及びこれらの変性体が挙げられる。中でも、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)やポリアニリンが好ましい。この点については後述する。これらの導電性ポリマーは、単独、または、2種類以上を併用して使用することができる。また、これらの導電性ポリマーは、ドープすることにより導電性を高めたものであってもよい。ドープ材料としては、ハロゲン、ルイス酸、カチオン種、アニオン種などを用いることができる。例えば、PEDOTの好ましいドープ材料としては、ポリスチレンスルホン酸(以下、PSSと略記する場合もある)、トルエンスルホン酸などが挙げられる。また、これらの導電性ポリマーを、必要に応じて、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラファイトなどのカーボン系導電性材料や、金、銅、銀、ニッケルなどの金属系導電材料や、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウムなどの金属酸化物導電性材料と併用することもできる。
【0031】
さらに、本発明で用いるホール透過促進層の形成材料には、上記した材料の他、成膜して積層する際における基材との密着性を高め、膜の表面の平滑性を付与するなどの目的で、ポリビニルアルコール、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリアルキレンオキサイド、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド及びこれらの誘導体、水性ウレタン樹脂、水性アクリル樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性ポリエステルなどの水溶性樹脂、エマルジョン溶液、水分散液と併用することもできる。
【0032】
本発明で用いるホール透過促進層の形成材料には、上記に例示した導電性ポリマーをいずれも使用できるが、特に好ましい導電性ポリマーとしては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(以下、PEDOTと略記する場合もある)又はポリアニリンが挙げられる。本発明者らの検討によれば、例えば、PEDOTにより形成した導電性ポリマー層は、優れた安定性、高い導電性(例えば、1000S/cm)、ホールの注入性を有するとともに可視光領域での吸収が小さいため、光学用途のデバイスにも使用できる。また、PEDOTは、ポリスチレンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などのドープ材料でドープすることにより、導電性を高めることができるだけでなく、ドープ種との混合比率を選択することにより導電性の制御ができるという利点もある。また、先に例示したような他のポリマーとのブロック構造、グラフト構造(例えば、アルキレンオキサイドとのグラフト化合物)をとることにより、その溶解性をコントロールできるので、平滑性を有する良好なホール透過促進層を容易に形成することが可能である。
【0033】
上記したように、本発明のトランジスタ素子は、ホール透過促進層が、導電性ポリマーを有してなる材料により膜として形成されており、このことにより、ホールの大きなベース電極透過率を実現できる。本発明を特徴づけるホール透過促進層は、該層の形成の容易さから、例えば、下記に説明するような導電性ポリマーを含有してなる水性インキを用いて形成されたものであることが好ましい。この際に使用する導電性ポリマーを含有してなる水性インキ(以下、単に水性インキとも呼ぶ)は、塗布印刷法によって、ホール透過促進層として機能する導電性ポリマーを有してなる膜(以下、導電性ポリマー層とも呼ぶ)を形成することができれば、問題なく使用できる。
【0034】
上記したホール透過促進層の形成に用いる水性インキは、例えば、水、アルコール系溶媒を含んでなるが、該水性インキ中で導電性ポリマーは、溶解、もしくは、分散した状態で存在する。このような水性インキで形成された導電性ポリマー層は、上記したように、その形成に用いる導電性ポリマーが水に対して親和性が高いものであるため、有機溶剤による浸食や腐食が殆ど起こらない耐有機溶剤性の高いものになる。本発明のトランジスタ素子を構成するホール透過促進層は、ベース電極とエミッタ層との間に形成されるが、ホール透過促進層が耐有機溶剤性に優れたものになることによって、下記に述べるように、ホール透過層を形成した後工程であるエミッタ層の形成工程で生じる恐れのある素子への浸食や腐食が殆ど起こらないという利点がある。該エミッタ層は、蒸着法などにより形成することもできるが、塗布印刷法を用いて形成すれば、その製造が容易になるので実用上、極めて好ましい。後述するが、エミッタ層の形成に用いる有機半導体材料は、有機溶媒に溶解することができるので、該有機半導体溶液の塗布印刷法によってエミッタ層を形成することが可能である。この場合に、ホール透過促進層(導電性ポリマー層)が、親水性材料によって形成される耐有機溶剤性に優れたものであることにより、有機半導体溶液の塗布印刷時に、その前工程で形成した導電性ポリマー層が、溶解、腐食、膨潤、劣化などを起こすことがないので、平滑なホール透過促進層とエミッタ電極側有機半導体層の界面を形成することが可能となる。
【0035】
上記したように、本発明のトランジスタ素子を構成するホール透過促進層は、導電性ポリマーを含有してなる水性インキから形成されることが好ましいが、この水性インキ中には、インキの薄膜形成能力を低減させない限り、有機溶剤を含むことができる。この場合に使用する有機溶剤としては、限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アミルアルコールなどのアルコール系溶媒、クロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロナフタレンなどのハロゲン系炭化水素溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族系炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン、スルフォラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン系極性溶媒などを挙げることができる。これらの溶媒は、単独で使用してもよく、或いは複数を併用してもよい。
【0036】
本発明者らの検討によれば、本発明のトランジスタ素子においては、上記したような材料からなるホール透過促進層の仕事関数を、エミッタ層に使用するp型有機半導体材料のHOMO(最高被占軌道)準位よりも、大きく(貴に)なるように構成することにより、ホールの透過をより促進し、電流増幅率を高めることができる。導電性ポリマーの仕事関数とp型有機半導体材料のHOMO(最高被占軌道)準位との差は、同じ準位でもよいが、好ましくは、0.1eVから1.5eV高いことが好ましい。0.1eVから1.5eVであれば、エミッタ層からホール透過層へと電荷は効率的に移動でき、ホール透過促進層からは、ベース電極を通り抜け、コレクタ層へと流れることができる。ホール透過促進層の仕事関数を、エミッタ層に使用するp型有機半導体材料のHOMO(最高被占軌道)準位よりも、小さく(卑に)なるように構成すると十分なホール透過促進効果が得られず、大きく(貴に)なるように構成しても、その差が1.5eV以上であると、エミッタ層からホール透過促進層へのホール移動が困難になるばかりでなく、ホール透過促進層からコレクタ層へのホール透過も困難となる。
【0037】
本発明者らの検討によれば、例えば、PEDOT〔ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)〕、PSS(ポリスチレンスルホン酸)を用いてホール透過層を形成することにより、エミッタ層からコレクタ層への、ホールの電流透過率を高めることができ、大きな増幅率を得ることができる。また、大気中光電子分光装置(AC−3:理研計器株式会社製、以下も同様の装置で測定)により測定したイオン化ポテンシャルは、仕事関数と考えられるが、PEDOT:PSSの測定値は5.2eVであるが、これは、p型有機半導体層のHOMO(例えば、P3HTの測定値4.8eV)よりも大きく、貴であるため、PEDOT:PSS層からホール注入が容易に起こると考えられる。上記のP3HTは、ポリ(3−ヘキシル)チオフェンのことである。
【0038】
上記したホール透過促進層が設けられてなる本発明のトランジスタ素子の製造方法について、一例を挙げて説明する(
図1参照)。まず、コレクタ電極を形成した基板(不図示)上に、有機半導体からなるコレクタ層11を印刷塗布法により形成し、次に、アルカリ金属塩であるフッ化リチウムなどからなる電流透過促進層(不図示)、アルミニウムからなるベース電極13、さらに、アルカリ金属塩であるフッ化リチウムなどからなる電流透過促進層(不図示)を蒸着法により形成する。次に、本発明を特徴づけるホール透過促進層31を印刷塗布法により形成し、さらに、有機半導体からなるエミッタ層22を印刷法により形成後、蒸着法により酸化モリブデンよりなる電荷注入層、アルミニウムよりなるエミッタ電極12を形成し、本発明のトランジスタ素子を作成することができる。
【0039】
本発明のトランジスタ素子は、上記したように、本発明を特徴づけるホール透過促進層とベース電極との間に、アルカリ金属塩層からなる電流透過促進層を形成することが好ましい。それは、下記の理由による。ホール透過促進層の形成材料である導電性ポリマーが酸性の官能基を有する場合や、若しくは、そのドープ種が酸性の官能基を有する場合に、金属により形成されたベース電極表面を腐食させる恐れがあり、ベース電極表面の腐食が生じると、作成されたトランジスタ素子のオン/オフ比を低下させ、素子特性を悪化させることがあり、トランジスタ素子としての駆動を妨げることがある。これに対して、前記したように、アルカリ金属塩を形成した後に導電性ポリマー層を形成すれば、ベース電極表面の腐食の発生が防止され、ベース電極表面の平滑性を維持したオン/オフ比の優れたMBOTとすることができる。
【0040】
本発明を特徴づけるホール透過促進層の厚さは、5nmから200nmであることが好ましく、より好ましくは10nmから100nmである。厚みが200nmを超えると均一な界面を形成することが困難となり、ベース電極を透過できる電荷が減少し、コレクタ電流のON電流が大きく減少する恐れがあるので好ましくない。また、厚みが5nm未満であると、ホール透過層を均一に形成することが困難になり、ホール透過層の欠陥や欠損を生じる恐れがあり、安定した効果を得ることが難となる。
【0041】
また、本発明のトランジスタ素子は、ベース電極を形成した後に、大気中で加熱処理することによって、金属電極表面に酸化物を形成する構成としてもよい。この場合に形成される金属酸化物層は、暗電流抑制層として機能するものになる。このため、本発明のトランジスタ素子を製造する場合に、ベース電極を金属によって形成し、該ベース電極の片面または両面に該ベース電極の酸化膜を形成すれば、エミッタ電極−ベース電極間に電圧V
Bを印加しない場合に流れる暗電流を効果的に抑制したものになる。上記における加熱処理の温度としては、80℃から300℃の範囲が好ましく、さらには、80℃から200℃の範囲が好ましい。一方、熱処理温度が300℃を超えると、材料の劣化、特に基板が有機物の場合は基板の変形が起きるだけでなく、有機半導体層の劣化も起こる場合があり、また、コスト的にも不利となるので好ましくない。
【0042】
また、本発明者らは、本発明のトランジスタ素子は、上記に記載した暗電流抑制層を形成しない素子においても、本発明を特徴づけるホール透過促進層を形成することで、暗電流を抑制し、十分なコレクタ電流と増幅率を得ることができることを見出した。すなわち、本発明の有機トランジスタ素子(MBOT)のホール透過促進層の効果により、エミッタ電極とコレクタ電極間にトランジスタ動作に不必要な漏れ電流(スイッチオフ時に流れるオフ電流、暗電流ともいう)が流れるのを効果的に抑制することができるので、結果として、オン/オフ比を向上させることができる。
【0043】
特に、有機トランジスタ素子(MBOT)を有機ELの駆動トランジスタ素子として用いた場合、暗電流が大きいとOFF時に有機EL素子の発光が起こり、ON時とOFF時のコントラストの低下を招くので、オン/オフ比は10以上であることが望ましく、好ましくは、100以上のオン/オフ比が駆動トランジスタ素子に要求される。これに対し、本発明のトランジスタ素子によれば、100以上のオン/オフ比が達成できる。
【0044】
本発明のトランジスタ素子の暗電流では、導電性ポリマーを有してなる膜からなるホール透過促進層が、ベース電極、または、ハロゲン化アルカリ金属層よりなる電流透過促進層上に形成されているため、電極界面が平滑となり、凹凸部分への電圧の集中が減少することがなく、リーク電流を減少させることができ、また、ホール透過促進層のエネルギーレベルを有機半導体のHOMOレベルよりも低くすることで電流の流れを制御でき、この結果、OFF時においては、エミッタ電極とコレクタ電極間を流れる電流は、殆ど流れなくなる。したがって、OFF時に流れる暗電流を抑制することにより、優れたオン/オフ比を得ることができる。この結果、本発明のトランジスタ素子によれば、ベース電極の酸化により形成される暗電流抑制層(酸化アルミ層)を形成することなく、優れたオン/オフ比、増幅率を得ることができる。
【0045】
上記したように、本発明のトランジスタ素子は、ホール透過促進層が、導電性ポリマーを有してなる膜により形成されており、このことによって、ホールの大きなベース電極透過率が実現でき、大きな増幅率である素子が得られる。本発明のトランジスタ素子の一例を挙げて、例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を含有してなる導電性ポリマーを用いてホール透過促進層を形成した場合に得られる、本発明の顕著な効果について説明する。
【0046】
例えば、後述する比較例2のトランジスタ素子は、レジオレギュラ(頭−尾)−P3HT〔regioregular−Poly(3−hexylthiophene−2,5−diyl)〕(以降、これをP3HTと呼ぶことがある)からなるコレクタ層(230nm)、フッ化リチウム(LiF)からなる1.1nmの電流透過促進層、金属アルミニウムからなる平均厚さ6nmのベース電極層、該アルミ電極の表面酸化膜層(暗電流抑制層)、フッ化リチウム(LiF)からなる2nmの電流透過促進層、前記P3HTからなるエミッタ層(70nm)、酸化モリブデン層(4nm)よりなる電荷注入層、アルミニウムからなる平均厚さ50nmのエミッタ電極からなる構造を有する。そして、この構造のトランジスタ素子では、コレクタ電圧V
C=−5V、ベース電圧V
B=−3Vを印加したときの、コレクタ電流I
Cのオン電流密度I
C-ON=−99mA/cm
2、電流増幅率h
FE=20.8であった。
【0047】
これに対し、上記のトランジスタ素子の構造に加えて、先に述べた材料からなる30nmの厚みのホール透過促進層を設けてなる構造の、後述する実施例6のトランジスタ素子は、その特性において、下記のように大きく改善されたものになる。すなわち、上記構造に加え、ベース電極上のフッ化リチウム層とエミッタ層との間に、導電性ポリマーを含むPEDOT:PSS〔ポリ(エチレンジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホン酸〕水分散液を用いて、ホール透過促進層(30nm)を形成した実施例6のトランジスタ素子は、コレクタ電圧V
C=−5V、ベース電圧V
B=−3Vを印加したときの、コレクタ電流I
Cのオン電流密度I
C-ON=−164.8mA/cm
2、電流増幅率h
FE=188となり、上記した比較例2のトランジスタ素子と比べて、コレクタ電流が1.6倍以上、電流増幅率が9倍以上となった。上記したように、本発明のトランジスタ素子は、増幅素子として利用するに十分な増幅率を得ることができ、電流駆動素子を駆動させるにも十分な電流を得ることができるものである。
【0048】
本発明の構成によって、上記した顕著な効果が得られたこれら原理について、本発明者らは、下記のように考えている。すなわち、そのメカニズムとしては、上記構成の本発明のトランジスタ素子では、[1]電流増幅率が大きくなること、[2]大気下加熱により形成される暗電流抑制層を形成しない場合でも、良好な電流増幅が得られることから、下記のように考えられる。まず、ベース電極、もしくは、電流透過促進層の上に、ホール透過促進層として導電性ポリマー層を形成することによって、電流透過促進層、導電性ポリマー層、エミッタ層界面の均一性が高くなり、電極の厚い部分や薄い部分に電界が集中することにより生じるリーク電流を生じることなく、これに加えて、ホールが加速され、ベース電極を透過すると共に、導電性ポリマーのエネルギー準位とコレクタ層とのエネルギー差が大きく、ホールが加速されるため、ベース電極を透過する電荷の透過率を大きく向上させることができたためと考えられる。
【0049】
また、本発明を特徴づけるホール透過促進層である導電性ポリマー層とベース電極間に、アルカリ金属塩からなる電流透過促進層が積層されている構造の本発明のトランジスタ素子では、ベース電極をより効率よく透過し、より大きな増幅率を得ることができる。この理由は、前記したホール透過促進層のベース電極透過性向上の効果に加え、ホール透過促進層である導電性ポリマー内で加速されたホールが、アルカリ金属塩からなる電流透過促進層が絶縁体層によりブロックされホットキャリアとなり、ベース電極を透過し、コレクタ層へと到達したことによると考えられる。
【0050】
本発明のトランジスタ素子(MBOT)の電流値は、低電圧領域においも大きな増幅が得られ、大きな電流を得ることができ、この点からも極めて有用なものになる。一般に、有機EL素子は低電圧領域での駆動させる素子であり、駆動トランジスタ素子には数ボルトで大きな電流を出力させることが要求される。有機EL素子は、印加電圧を高くすれば、大きな電流が得られ、高強度の発光を実現できるが、発光素子材料の劣化や分解を起こし、素子の寿命を短くし、長期間の安定した発光はできなくなる。したがって、駆動電圧は、1から20V程度であり、好ましくは10V以下である。このとき、低電圧領域において、トランジスタ素子により変調される電流密度値は、特に制限されることはないが、0.1mA/cm
2から500mA/cm
2が好ましく、さらに好ましくは、1mA/cm
2から200mA/cm
2がよい。発光素子として利用する場合、電流密度値は0.1mA/cm
2未満であると十分に発光させることができず、十分な発光強度が得られない。また、電流値が500mA/cm
2を超える素子は、十分なオン/オフ比を得ることができず、OFF時(電圧0V)においても、暗電流が生じて発光素子から発光するという問題が生じることがある。
【0051】
次に、上記した以外の本発明のトランジスタ素子の各構造・材料について説明する。
(基板)
本発明の有機トランジスタ素子は、通常、下記に挙げるような基板上に形成して使用される。この際に用いる基板は、トランジスタ素子の形態を保持できる材料であればよく、例えば、ガラス、アルミナ、石英、炭化珪素などの無機材料、アルミニウム、銅、金などの金属材料、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレートなどのプラスチック基板を用いることができる。プラスチック基板を用いた場合は、軽量で、耐衝撃性に優れたフレキシブルなトランジスタ素子を作製することができる。また、有機発光層を形成した発光トランジスタ素子として利用する場合であって、基板側から光を放出させるボトムエミッションの場合は、プラスチックフィルム、ガラスなど、光透過率の高い基板を用いることが望ましい。これら基板は、単独で使用してもよく、或いは併用してもよい。また、基板の大きさや、形態については、トランジスタ素子の形成が可能であれば、例えば、カード状、フィルム状、ディスク状、チップ状など、どのようなものでも問題なく使用できる。
【0052】
(有機半導体層)
先に述べたように、本発明の有機トランジスタ素子の特徴は、構成するp型有機半導体層が、
図1に示したように、コレクタ電極とベース電極間に設けたコレクタ層21と、ベース電極とエミッタ電極間に形成されたエミッタ層22とからなる。各電極とこれらの有機半導体層とは、コレクタ層21は、直接或いは電流透過促進層を介して、エミッタ層22は、ホール透過促進層或いはホール透過促進層と電流透過促進層を介して積層された状態にある(
図1、
図2参照)。以下、有機半導体層であるコレクタ層とエミッタ層について説明する。
【0053】
本発明のトランジスタ素子の有機半導体層は、p型有機半導体層であり、p型有機半導体材料からなる。有機半導体材料にはn型特性を示す材料とp型特性を示す材料があるが、本発明では、その材料の種類の豊富さと、大気中での取扱の容易さからp型特性を示す有機半導体材を用いる。従って、有機半導体層を形成する材料は、p型有機半導体であれば問題なく使用でき、ホール輸送型の半導体として機能し、ホールを輸送するポリマー材料(正孔輸送性材料)であれば特に制限なく使用することができる。
【0054】
本発明における有機半導体層を形成するためのp型半導体材料は、電気的に安定であり、適切なイオン化ポテンシャルと電子親和力を持つ材料であることが好ましい。一般的なp型半導体材料であれば、特に限定なく使用でき、例えば、金属フタロシアニン類(Cu−Pc、Co−Pc、Ni−Pcなど)、無金属フタロシアニン、ペンタセン、ナフタロシアニン、インジコ、チオインジゴ、アントラセン、キナクリドン、オキサジアゾール、トリフェニルアミン、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、ピラゾリン、テトラヒドロイミダゾール、ポリチオフェン、ポルフィリン、ジナフトチオフェン、ジインデノペリレンなどが挙げられる。特に好ましい材料としては、例えば、金属フタロシアニン、無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン類、ペンタセン、ジナフトチエノチオフェン、ジインデノペリレン、および、これらの誘導体が挙げられる。これらの誘導体としては、メチル基、エチル基、ブチル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、オクタデシル基などのアルキル基、アルキル基中にヘテロ基を有するヘテロアルキル基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基などの官能基を有する化合物が挙げられる。本発明らの検討によれば、これら官能基を有することにより溶媒への溶解性が高まり塗布印刷法が可能となり、平滑な半導体表面を形成することが可能となるばかりでなく、官能基による相互作用により電荷の伝達性が改善される可能性もある。また、ポリマー材料である正孔輸送材料としては、例えば、チオフェン−フルオレンのコポリマー、フェニレン−ビニレンのコポリマー、ポリ(3−ヘキシル)チオフェン、ポリ(3−オクタ)チオフェン、ポリ(3−ドデシル)チオフェンおよびその誘導体などが挙げられる。
【0055】
本発明において使用できるp型半導体ポリマー材料としては、例えば、ポリ(3−ヘキシル)チオフェン(P3HT)が挙げられる。本発明者らの検討によれば、ポリ(3−ヘキシル)チオフェンを用いてコレクタ層を形成することにより、コレクタ層に隣接して積層形成されるベース電極、さらに必要に応じて形成される電流透過促進層を、平滑で均一な膜とすることができる。また、大気中光電子分光装置(AC−3:理研計器株式会社製、以下も同様の装置で測定)により測定したイオン化ポテンシャルは、HOMO(最高被占軌道エネルギー準位)と考えられ、P3HTの測定値は4.8eVであるが、これは、金(Au)、アルミ(Al)など金属から電荷の注入が容易に起こると考えられる。
【0056】
有機半導体層を形成するための特に好ましいp型半導体材料としては、先に説明したポリ(3−ヘキシル)チオフェン(P3HT)、ポリ(2,5−ビス(3−ドデシルチオフェン−2−イル)チエノ[3,2,b]チオフェン)(以降MEH−PPVと呼ぶことがある)、(メトキシーエチルーヘキソキシ ポリフェニレンビニレン)(以降MEH−PPVと呼ぶことがある)が挙げられる。本発明らの検討によれば、該p型半導体ポリマー材料を用いてエミッタ層を形成することにより、エミッタ層に隣接して積層形成されるエミッタ電極、必要に応じて形成される正孔注入層を平滑で均一な膜とできる。また、P3HTのHOMOは4.8eVであり、金(Au)、アルミニウム(Al)からの電荷の注入が容易に、かつ、大量に起こると考えられる。ポリ(3−ヘキシル)チオフェン(P3HT)は、「頭−頭」および「頭−尾」立体規則性P3HTを含む立体規則性ポリ(3−ヘキシルチオフェン)が好ましく、更に、好ましくは頭−尾P3HTである。P3HTは高い正孔移動度を有する材料であるが、残存触媒による不純物、高分子鎖の位置特異的欠陥、および低分子量成分の混入によって性能が低下することがある。特に限定するものではないが、その数平均分子量が、1,000〜100,000であるものが好ましく、特に25,000〜60,000であるものが好ましい。また、その純度は90%以上が好ましく、さらには、98%以上のより高純度のものを用いることが好ましい。
【0057】
但し、有機半導体層としては、電子よりも正孔の輸送性の高い物質であれば、これら以外のものを用いてもよい。なお、p型有機半導体層は、単独で使用する単層構造だけでなく、2成分以上からなる混合層、2成分以上の有機半導体層よりなる積層構造であってもよい。p型有機半導体層を形成する方法としては、蒸着法、もしくは、これらの化合物を含有した溶液、分散液を用いて各種の塗布印刷法により形成することができる。
【0058】
本発明における有機半導体層を形成する有機半導体層の電荷移動度は、高いことが望ましく、少なくとも、0.0001cm
2/V・s以上であることが好ましい。また、エミッタ層22の厚さは、コレクタ層21に比べて基本的に薄いことが好ましく、エミッタ層22の厚さは、1,000nm以下、好ましくは10nm〜300nm程度である。エミッタ層の厚さが10nm未満の場合は、電流の制御が十分なされない可能性があり、トランジスタ性能の低下、または、欠損によるリーク電流の増加する問題が発生して歩留まりが低下する恐れがあるので好ましくない。一方、1,000nmを超えると、製造コスト、材料コストが高くなるので好ましくない。
【0059】
本発明において、有機半導体層を形成する特に好ましい方法について、下記に、好適なP3HTを例にとって説明する。この際に使用するポリ(3−ヘキシル)チオフェン(P3HT)は、他のp型有機半導体ポリマーと混合して使用することができるが、より十分なトランジスタ特性を得るためには、50質量%より多く含まれていることが好ましい。p型有機半導体層を形成する具体的な方法としては、これらのポリマー材料を、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの有機溶媒に溶解、または、分散させて塗布液を調製し、その溶液、分散液を塗布装置などにより塗布または印刷などの簡便な方法が挙げられ、これらの方法で容易に形成される。
【0060】
本発明において、上記したような材料からなる有機半導体薄膜を溶液塗布法、印刷法によって形成する場合に使用する有機溶媒としては、適当な濃度の溶解液が得られるものであれば、特に制限はなく使用できる。例えば、クロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロナフタレンなどのハロゲン系炭化水素溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族系炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン、スルフォラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン系極性溶媒などを挙げることができる。これらの溶媒は単独で使用してもよく、或いは複数を併用してもよい。これら、有機半導体層の形成方法は、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、エアーナイフ法、スライドホッパー法、エクストリュージョン法などの塗布法、各種印刷法やインクジェット法などのウェットプロセスを挙げることができ、使用する材料の特性に応じて適宜選択して適用することができる。
【0061】
本発明においては、上記したような材料からなる有機半導体薄膜を、溶液塗布法、印刷法で形成する際に使用する有機半導体溶液に、単独では有機半導体材料を実質的に溶解しない貧溶媒を添加することによって、p型半導体ポリマー材料の膜内構造(=凝集状態)を制御することができる。P3HTの貧溶媒としては、例えば、アルコール系溶媒、NMPなどの非プロトン系溶媒、炭化水素系溶媒、アニソロンなどがあるが、導電性高分子層からなるホール透過促進層の上に形成する場合は、導電性高分子層を溶解することのない炭化水素系溶媒、例えば、ヘキサンを添加することが好ましく、ON電流が増加する。貧溶媒の添加により、膜内部の凝集が進んだことが原因と考えられるが、良溶媒に対して、重量比で2倍以上加えると溶液内での凝集が進み、印刷塗工により均一で連続した薄膜を形成することができず、その効果を得るためには、良溶媒に対する質量添加比率は良溶媒:貧溶媒=10:1から良溶媒:貧溶媒=10:10の範囲が好ましい。この範囲内であれば、均一で平滑な幕を形成することが可能となり、有機半導体層として利用することができ、大きなオン電流を得ることができる。
【0062】
(電極)
次に、本発明のトランジスタ素子に用いられる電極について説明する。本発明のトランジスタ素子を構成する電極としては、コレクタ電極11、エミッタ電極12、およびベース電極13があり、
図1に示すように、通常、コレクタ電極11は基板(不図示)上に設けられ、ベース電極13は、p型有機半導体層であるエミッタ層22、コレクタ層21の間に埋め込まれるように設けられ、エミッタ電極12はコレクタ電極11と対向する位置に、上記p型有機半導体層21、22とベース電極13とを挟むように設けられる。
【0063】
本発明のトランジスタ素子を構成する各電極に使用する材料は、例えば、本発明のトランジスタ素子を構成するコレクタ層21は、p型有機半導体ポリマーからなるp型半導体層であるので、コレクタ電極11の形成材料としては、例えば、ITO(インジウム錫オキサイド)、酸化インジウム、IZO(インジウム亜鉛オキサイド)、SnO
2、ZnOなどの透明導電膜、金、銀、銅のような金属、ポリアニリン、ポリピロールン、ポリアルキルチオフェン誘導体、ポリシラン誘導体のような導電性高分子などが挙られる。一方、エミッタ電極12の形成材料としては、アルミニウム、銀などの単体金属、Mg−Ag、Mg−Inなどのマグネシウム合金、Al−Li、Al−Ca、Al−Mgなどのアルミニウム合金、Li、Caをはじめとするアルカリ金属類、それらアルカリ金属類の合金のような仕事関数の小さな金属などを挙げることができる。
【0064】
また、先述したように、本発明では、コレクタ層を、先に述べたように印刷塗布法を用いてp型有機半導体ポリマーで形成することにより、ベース電極を形成するコレクタ層の界面は平滑となっている。そのため、そのポリマーであるコレクタ層上に設けられたベース電極13も平滑状に形成される。均一で平滑な形状を有するベース電極13は、所定の平均厚さのベース電極を形成した場合であっても薄いところと厚いところがなく、安定した大きな電流値と、高いオン/オフ比を得ることができる。
【0065】
また、本発明においては、OFF時の暗電流を抑制し、高いオン/オフ比を達成するベース電極として、アルミニウムにより電極を形成した後、空気中での熱酸化処理により、電極表面に酸化膜を形成したベース電極を使用することも好ましい形態である。
【0066】
本発明のトランジスタ素子に用いられるベース電極の厚さは、0.5nm〜100nmあることが好ましく、さらには、1.0nm〜50nmが好ましい。ベース電極は、ベース電極の厚さが100nm以下であれば、ベース電圧V
Bで加速された電子を容易に透過することができる。なお、ベース電極は半導体層中に欠陥や欠損がなく凹凸がなく設けられていれば問題なく使用できるが、0.5nm未満であると欠陥を生じ、均一な電極層となることが困難であり、有機トランジスタ素子として動作しないことがあるので好ましくない。
【0067】
本発明のトランジスタ素子に用いられる電極の形成方法としては、上記の各電極のうちコレクタ電極とエミッタ電極については、真空蒸着、スパッタリング、CVDなどの真空プロセス或いは塗布方法が挙げられる。これらの方法により形成された電極の膜厚は使用する材料などによっても異なるが、例えば、1nm〜1,000nm程度であることが好ましい。なお、その厚さが1nm未満の場合、トランジスタ素子として動作しないことがあり、1,000nmを超える場合は、製造コスト、材料コストが高くなるのでいずれも好ましくない。
【0068】
(電流透過促進層)
本発明のトランジスタ素子は、シート状のベース電極の表裏の一方の面或いは両方の面に、積層させた状態で電流透過促進層をさらに形成することも好ましい。また、電流透過促進層の形成材料には、ベース電極を透過する電流が増加する材料であれば、問題なく使用できる。電流透過促進層の形成材料としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類化合物、金属酸化物などが利用できるが、好ましい材料として、アルカリ金属化合物、最も好ましい化合物として、フッ化リチウムが挙げられる。電流透過促進層は、ベース電極とエミッタ層との間、ベース電極とコレクタ層との間に形成でき、どちらか一方に形成されていれば、その効果は認められる。しかし、本発明者らの検討によれば、ベース電極の表裏の両方の面に形成することにより、より大きな効果が得られ、コレクタ電流のON電流の大きな増加とOFF電流の減少がなされる。
【0069】
また、本発明を特徴づける前記したホール透過促進層は、先に述べたように、導電性ポリマーまたはドープ材料として、酸性成分を含むことがあり、電極上に直接形成すると電極を腐食し、安定な素子を形成できない恐れがある。これに対し、電流透過促進層としてアルカリ金属化合物層、例えば、フッ化リチウム層をベース電極とホール透過促進層の間に形成することにより、ホール透過促進層を形成したことによって生じる恐れのある電極の腐食を防ぐことができ、安定して駆動する素子を効率よく作成することができる。
【0070】
上記した電流透過促進層の厚さは、0.1nmから100nmが好ましい。この厚さが100nmを超えると材料が誘電体であるために絶縁体層として作用してしまい、ベース電極を透過できる電荷が減少し、コレクタ電流のON電流が大きく減少する恐れがあるので好ましくない。また、コレクタ層の上、もしくは、ベース電極上に0.1nm未満の膜厚である電流透過促進層を均一に作成し、安定した効果を得ることは厚みが薄過ぎて困難である。より好ましくは、0.3nmから50nm、さらには、0.3nmから10nm程度が好ましい。
【0071】
(暗電流抑制層)
本発明のトランジスタ素子は、必要に応じて、下記のようにして暗電流抑制層を形成したものであってもよい。その方法としては、ベース電極を形成した後に、当該ベース電極を加熱処理して形成してもよい。さらに、本発明のトランジスタ素子においては、前記ベース電極を金属からなるものとし、該ベース電極の片面または両面に該ベース電極の酸化膜を形成することで、エミッタ電極−ベース電極間に電圧V
Bを印加しない場合に流れる暗電流を効果的に抑制することができるものになる。
【0072】
上記したような形態の発明によれば、暗電流抑制層が、コレクタ電極とベース電極との間に設けられていることにより、暗電流が流れるのを効果的に抑制することができ、その結果、オン/オフ比を向上させることができる。このように構成した本発明のトランジスタ素子は、見かけ上、バイポーラトランジスタと同様の電流変調型のトランジスタ素子として有効に機能し、高いオン/オフ比、大きなコレクタ電流、電流増幅率を示す優れた有機トランジスタ素子として機能するものになる。なお、本発明のホール透過促進層を有するトランジスタ素子においては、暗電流抑制層を形成しない素子においても、大きなオン/オフ比を有する素子を得ることが可能である。
【0073】
(正孔注入層)
本発明のトランジスタ素子は、正孔注入層を形成したものであってもよい。正孔注入層は、エミッタ電極からの正孔注入障壁を小さくし、正孔注入効率を高めるとともに、安定性も向上させる。その形成材料としては、正孔注入効率を高めれば問題なく使用できるが、例えば、フタロシアニン類、金属酸化物などが挙げられる。好ましい金属酸化物として、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化バナジウムが挙げられる。正孔注入層の厚さは0.5nm〜500nmが好ましく、0.5nm未満であると効果が小さく、500nmよりも厚くすると絶縁体層として機能し、電流を大幅に低下するので好ましくない。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0075】
実施例および比較例で作製したトランジスタ素子の評価は、下記の方法で行ったが、まず、その評価方法について説明する。
(トランジスタ素子の評価)
作製したトランジスタ素子について、エミッタ電極−コレクタ電極間に印加電圧(V
C)を印加し、エミッタ電極−ベース電極間に印加するベース電圧(V
B)を0V〜−5Vの範囲で変調させた。出力変調特性の測定は、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧(V
C)を印加し、さらにエミッタ電極−ベース電極間にベース電圧V
B(0〜−3V)を印加したときの、ベース電流I
B、および、コレクタ電流I
Cの変化量(オフ電流、オン電流)を測定した。また、ベース電流の変化ΔI
Bに対するコレクタ電流の変化ΔI
Cの比率、すなわち、電流増幅率(h
FE=ΔI
C/ΔI
B)、オン電流とオフ電流の比率であるオン/オフ比(I
C-ON/I
C-OFF)を算出した。
【0076】
(実施例1)
[トランジスタ素子]
レジオレギュラ−P3HT〔regioregular−Poly(3−hexylthiophene−2,5−diyl)〕(P3HT)をトルエンに溶解し、濃度が25mg/mlとなるようにP3HT溶液を調製した。得られたP3HT溶液を、ITO透明基板上にスピンコーターにて塗布・乾燥し、コレクタ層(230nm)を形成した。フッ化リチウムからなる平均厚さ1.1nmの電流透過促進層、さらに、アルミニウムからなる平均厚さ6nmのベース電極層を真空蒸着法により形成し、その後、大気中雰囲気下において100℃の熱処理を1時間し、アルミ電極の表面に酸化膜層(暗電流抑制層)を形成した。次に、フッ化リチウムからなる2.0nmの電流透過促進層を形成し、次いで、導電性ポリマーとしてPEDOT:PSS〔商品名CLEVIOS AI4083、エイチ・シー・スタルク社製、導電率(カタログ値)=10
-3S/cm
2)〕水分散液を用いて、スピンコート法によりコーティングし、乾燥することによりホール透過促進層(30nm)を形成した。さらに、P3HTをトルエンに溶解し、濃度が10.0mg/mlとなるように調整し、スピンコート法によりコーティングし、乾燥することにより、P3HTからなるエミッタ層(50nm)を形成した。次に、酸化モリブデン層(電荷注入層)を真空蒸着法にて2nmの平均膜圧となるように形成し、アルミニウムからなる平均厚さ90nmのエミッタ電極を真空蒸着法による成膜手段で形成し、実施例1のトランジスタ素子を得た。得られた素子は、MBOTの特徴である電流変調を示した。
【0077】
上記で得られた実施例1のトランジスタ素子の出力特性は、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧V
Cを−5V印加し、さらにエミッタ電極−ベース電極間にベース電圧V
Bを印加したときと印加しないとき(0〜−3V)の、コレクタ電流I
Cおよびベース電流I
Bの変化量を測定して行った。この結果、コレクタ電圧V
C=−5V、ベース電圧V
B=−3.0Vを印加したときの、コレクタ電流I
Cのオン電流密度I
C-ON=−212.2mA/cm
2、V
B=0Vの時のオフ電流密度I
C-OFF=−0.04mA/cm
2であり、さらに、オン/オフ比は5.4×10
3、電流増幅率h
FEは150であった。
【0078】
(実施例2)
実施例1で用いたと同様のレジオレギュラ−P3HTをトルエンに溶解し、濃度が25mg/mlとなるようにP3HT溶液を調製した。得られたP3HT溶液を、ITO透明基板上にスピンコーターにて塗布・乾燥し、コレクタ層(230nm)を形成した。フッ化リチウムからなる平均厚さ1.1nmの電流透過促進層、さらに、アルミニウムからなる平均厚さ6nmのベース電極層を真空蒸着法により形成し、その後、大気中雰囲気下において100℃の熱処理を1時間し、アルミ電極の表面に酸化膜層(暗電流抑制層)を形成した。次に、フッ化リチウムからなる2.0nmの電流透過促進層を形成し、次いで、導電性ポリマーとして、実施例1で用いたと同様のPEDOT:PSS水分散液を用いて、スピンコート法によりコーティングし、乾燥することによりホール透過促進層(30nm)を形成した。さらに、ポリ(2,5−ビス(3−ドデシルチオフェン−2−イル)チエノ[3,2,b]チオフェン)(以降、PBTTT−C12と呼ぶことがある)をクロロベンゼンに溶液を用いて、10mg/mlとなるようにPBTTT−C12溶液を調製した。PBTTT−C12溶液をスピンコート法により、コーティングしてPBTTT−C12らなるエミッタ層(50nm)を形成した。次に、酸化モリブデン層(電荷注入層)を真空蒸着法にて2nmの平均膜圧となるように形成し、アルミニウムからなる平均厚さ90nmのエミッタ電極を真空蒸着法による成膜手段で形成し、実施例2のトランジスタ素子を得た。得られた素子は、MBOTの特徴である電流変調を示した。
【0079】
上記で得られた実施例2のトランジスタ素子の出力特性は、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧V
Cを−5V印加し、さらにエミッタ電極−ベース電極間にベース電圧V
Bを印加したときと印加しないとき(0〜−3V)の、コレクタ電流I
Cおよびベース電流I
Bの変化量を測定して行った。この結果、コレクタ電圧V
C=−5V、ベース電圧V
B=−3.0Vを印加したときの、コレクタ電流I
Cのオン電流密度I
C-ON=−26.9mA/cm
2、V
B=0Vの時のオフ電流密度I
C-OFF=−0.01mA/cm
2であり、さらに、オン/オフ比は2.2×10
3、電流増幅率h
FEは112であった。
【0080】
(実施例3)
実施例1で用いたと同様のレジオレギュラ−P3HTをトルエンに溶解し、濃度が25mg/mlとなるようにP3HT溶液を調製した。得られたP3HT溶液を、ITO透明基板上にスピンコーターにて塗布・乾燥し、コレクタ層(230nm)を形成した。フッ化リチウムからなる平均厚さ1.1nmの電流透過促進層、さらに、アルミニウムからなる平均厚さ6nmのベース電極層を真空蒸着法により形成し、その後、大気中雰囲気下において100℃の熱処理を1時間し、アルミ電極の表面に酸化膜層(暗電流抑制層)を形成した。次に、フッ化リチウムからなる2.0nmの電流透過促進層を形成し、次いで、導電性ポリマーとして、実施例1で用いたと同様のPEDOT:PSS水分散液を用いて、スピンコート法によりコーティングし、乾燥することによりホール透過促進層(30nm)を形成した。さらに、(メトキシーエチルーヘキソキシ ポリフェニレンビニレン)(以降MEH−PPVと呼ぶことがある)をクロロベンゼンに溶液を用いて、5mg/mlとなるようにMEH−PPV溶液を調製した。MEH−PPV溶液をスピンコート法により、コーティングしてMEH−PPVらなるエミッタ層(50nm)を形成した。次に、酸化モリブデン層(電荷注入層)を真空蒸着法にて2nmの平均膜圧となるように形成し、アルミニウムからなる平均厚さ90nmのエミッタ電極を真空蒸着法による成膜手段で形成し、実施例3のトランジスタ素子を得た。得られた素子は、MBOTの特徴である電流変調を示した。
【0081】
上記で得られた実施例3のトランジスタ素子の出力特性は、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧V
Cを−5V印加し、さらにエミッタ電極−ベース電極間にベース電圧V
Bを印加したときと印加しないとき(0〜−3V)の、コレクタ電流I
Cおよびベース電流I
Bの変化量を測定して行った。この結果、コレクタ電圧V
C=−5V、ベース電圧V
B=−3.0Vを印加したときの、コレクタ電流I
Cのオン電流密度I
C-ON=−120.7mA/cm
2、V
B=0Vの時のオフ電流密度I
C-OFF=−0.11mA/cm
2であり、さらに、オン/オフ比は1.1×10
3、電流増幅率h
FEは79.4であった。
【0082】
(実施例4)
[トランジスタ素子]
実施例1と同様にして、P3HTよりなるコレクタ層(230nm)、フッ化リチウムからなる平均厚さ1.1nmの電流透過促進層、さらに、アルミニウムからなる平均厚さ6nmのベース電極層を真空蒸着法により形成し、その後、大気中雰囲気下において100℃の熱処理を1時間し、アルミニウム電極の表面に酸化膜層(暗電流抑制層)を形成した。次に、フッ化リチウムからなる2.0nmの電流透過促進層を形成し、次いで、導電性ポリマーとして実施例1で用いたと同様のPEDOT:PSS水分散液を用いて、スピンコート法によりコーティングし、乾燥することによりホール透過促進層(30nm)を形成した。さらに、P3HTをトルエンと貧溶媒であるヘキサンの混合溶媒(重量比率 トルエン:ヘキサン=50:10)に溶解し、濃度8.3mg/mlとなるように調整した。このコレクタ層の形成に用いたのとは溶媒と濃度の異なるP3HT溶液(8.3mg/ml)を用いて、P3HTからなるエミッタ層(50nm)を形成した。次に、酸化モリブデン層(電荷注入層)を真空蒸着法にて4nmの平均膜圧となるように形成し、アルミニウムからなる平均厚さ50nmのエミッタ電極を真空蒸着法による成膜手段で形成し、実施例4のトランジスタ素子を得た。得られた素子は、MBOTの特徴である電流変調を示した。
【0083】
上記で得られた実施例4のトランジスタ素子の出力特性は、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧V
Cを−5V印加し、さらにエミッタ電極−ベース電極間にベース電圧V
Bを印加したときと印加しないとき(0〜−3V)の、コレクタ電流I
Cおよびベース電流I
Bの変化量を測定して行った。この結果、コレクタ電圧V
C=−5V、ベース電圧V
B=−3.0Vを印加したときの、コレクタ電流I
Cのオン電流密度I
C-ON=−175.7mA/cm
2、V
B=0Vの時のオフ電流密度I
C-OFF=−0.04mA/cm
2であり、さらに、オン/オフ比は4.0×10
3、電流増幅率h
FEは189であった。
【0084】
(実施例5)
[トランジスタ素子]
実施例1と同様にして、P3HTよりなるコレクタ層(230nm)、フッ化リチウムからなる平均厚さ1.1nmの電流透過促進層、さらに、有機半導体層をマスクしアルミニウムからなる平均厚さ6nmのベース電極層を真空蒸着法により形成し、その後、大気中雰囲気下において100℃の熱処理を1時間し、アルミニウム電極の表面に酸化膜層(暗電流抑制層)を形成した。次に、フッ化リチウムからなる2.0nmの電流透過促進層を形成し、次いで、導電性ポリマーとしてPEDOT:PSS(商品名CLEVIOS PH500、エイチ・シー・スタルク社製、導電率(カタログ値)=300S/cm
2)水分散液を用いて、スピンコート法によりコーティングし、乾燥することによりホール透過促進層(50nm)を形成した。さらに、P3HTをトルエンに溶解し、濃度が10.0mg/mlとなるように調整した。このコレクタ層の形成に用いたのとは濃度の異なるP3HT溶液を用いて、P3HTからなるエミッタ層(50nm)を形成した。次に、酸化モリブデン層(電荷注入層)を真空蒸着法にて4nmの平均膜圧となるように形成し、アルミニウムからなる平均厚さ50nmのエミッタ電極を真空蒸着法による成膜手段で形成し、実施例5のトランジスタ素子を得た。得られた素子は、MBOTの特徴である電流変調を示した。
【0085】
上記で得られた実施例5のトランジスタ素子の出力特性は、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧V
Cを−5V印加し、さらにエミッタ電極−ベース電極間にベース電圧V
Bを印加したときと印加しないとき(0〜−3V)の、コレクタ電流I
Cおよびベース電流I
Bの変化量を測定して行った。この結果、コレクタ電圧V
C=−5V、ベース電圧V
B=−3.0Vを印加したときの、コレクタ電流I
Cのオン電流密度I
C-ON=−225.2mA/cm
2、V
B=0Vの時のオフ電流密度I
C-OFF=−1.86mA/cm
2であり、さらに、オン/オフ比は1.2×10
2、電流増幅率h
FEは226であった。
【0086】
(実施例6)
[トランジスタ素子]
実施例1と同様にして、P3HTよりなるコレクタ層(230nm)、フッ化リチウムからなる平均厚さ1.1nmの電流透過促進層、さらに、有機半導体層をマスクしアルミニウムからなる平均厚さ6nmのベース電極層を真空蒸着法により形成し、その後、大気中雰囲気下において100℃の熱処理を1時間し、アルミ電極の表面に酸化膜層(暗電流抑制層)を形成した。次に、フッ化リチウムからなる2.0nmの電流透過促進層を形成し、次いで、導電性ポリマーとして、実施例1で用いたと同様のPEDOT:PSS水分散液を用いて、スピンコート法によりコーティングし、乾燥することによりホール透過促進層(30nm)を形成した。さらに、P3HTをトルエンに溶解し、濃度25mg/mlとなるように調整した。このP3HT溶液を用いて、P3HTからなるエミッタ層(70nm)を形成した。次に、酸化モリブデン層(電荷注入層)を真空蒸着法にて4nmの平均膜圧となるように形成し、アルミニウムからなる平均厚さ50nmのエミッタ電極を真空蒸着法による成膜手段で形成し、実施例6のトランジスタ素子を得た。得られた素子は、MBOTの特徴である電流変調を示した。
【0087】
上記で得られた実施例6のトランジスタ素子の出力特性は、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧V
Cを−5V印加し、さらにエミッタ電極−ベース電極間にベース電圧V
Bを印加したときと印加しないとき(0〜−3V)の、コレクタ電流I
Cおよびベース電流I
Bの変化量を測定して行った。この結果、コレクタ電圧V
C=−5V、ベース電圧V
B=−3.0Vを印加したときの、コレクタ電流I
Cのオン電流密度I
C-ON=−164.8mA/cm
2、V
B=0Vの時のオフ電流密度I
C-OFF=−0.05mA/cm
2であり、さらに、オン/オフ比は3.3×10
3、電流増幅率h
FEは188であった。
【0088】
(実施例7)
[トランジスタ素子]
実施例6と同様にして、P3HTよりなるコレクタ層(230nm)、フッ化リチウムからなる平均厚さ1.1nmの電流透過促進層、さらに、平均厚さ6nmのベース電極層を形成した。その後、大気中雰囲気下においての加熱処理を行わずに、フッ化リチウムからなる2.0nmの電流透過促進層を形成し、次いで、導電性ポリマーとして、実施例1で用いたと同様のPEDOT:PSS水分散液を用いて、スピンコート法によりコーティングし、乾燥することによりホール透過促進層(30nm)を形成した。さらに、P3HTをトルエンに溶解し、濃度25mg/mlとなるように調整した。このP3HT溶液を用いて、P3HTからなるエミッタ層(70nm)を形成した。次に、酸化モリブデン層(電荷注入層)を真空蒸着法にて4nmの平均膜圧となるように形成し、アルミニウムからなる平均厚さ50nmのエミッタ電極を真空蒸着法による成膜手段で形成し、実施例7のトランジスタ素子を得た。得られた素子は、MBOTの特徴である電流変調を示した。
【0089】
上記で得られた実施例7のトランジスタ素子の出力特性は、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧V
Cを−5V印加し、さらにエミッタ電極−ベース電極間にベース電圧V
Bを印加したときと印加しないとき(0〜−3V)の、コレクタ電流I
Cおよびベース電流I
Bの変化量を測定して行った。この結果、コレクタ電圧V
C=−5V、ベース電圧V
B=−3.0Vを印加したときの、コレクタ電流I
Cのオン電流密度I
C-ON=−164.3mA/cm
2、V
B=0Vの時のオフ電流密度I
C-OFF=−0.06mA/cm
2であり、さらに、オン/オフ比は3.0×10
3、電流増幅率h
FEは58.2であった。
【0090】
(比較例1)
[ホール透過促進層が形成されていないトランジスタ素子]
実施例1で用いたと同様のレジオレギュラ−P3HTをクロロホルムに溶解し、濃度が20mg/mlとなるようにP3HT溶液を調製した。得られたP3HT溶液を、ITO透明基板上にスピンコーターにて塗布し、コレクタ層(250nm)を形成した。次に、フッ化リチウムからなる0.6nmの電流透過促進層を形成し、アルミニウムからなる平均厚さ10nmのベース電極層を真空蒸着法により形成した。これを大気中で100℃の温度で1時間熱処理し、アルミ電極の表面に酸化膜層(暗電流抑制層)を形成した。次に、フッ化リチウム(LiF)からなる3nmの電流透過促進層を形成し、その後、再び上記で使用したP3HT溶液を用い、スピンコーターにて、エミッタ層(100nm)を形成した。次に、酸化モリブデン層を真空蒸着法にて2nmの平均膜圧となるように形成し、金からなる平均厚さ30nmのエミッタ電極を真空蒸着法による成膜手段で形成し、比較例1のトランジスタ素子を得た。得られた素子の構造を
図3に示した。
【0091】
得られた素子は、MBOTの特徴である電流変調を示すことがなく、トランジスタ素子として作動しなかった。
【0092】
(比較例2)
[ホール透過促進層が形成されていないトランジスタ素子]
実施例1と同様にして、P3HTよりなるコレクタ層(230nm)、フッ化リチウムからなる平均厚さ1.1nmの電流透過促進層、さらに、有機半導体層をマスクしアルミニウムからなる平均厚さ6nmのベース電極層を真空蒸着法により形成し、その後、大気中雰囲気下において100℃の熱処理を1時間し、アルミ電極の表面に酸化膜層(暗電流抑制層)を形成した。次に、フッ化リチウムからなる2.0nmの電流透過促進層を形成した。さらに、P3HTをトルエンに溶解し、濃度25.0mg/mlとなるように調整した。このP3HT溶液を用いて、P3HTからなるエミッタ層(70nm)を形成した。次に、酸化モリブデン層(電荷注入層)を真空蒸着法にて4nmの平均膜圧となるように形成し、アルミニウムからなる平均厚さ50nmのエミッタ電極を真空蒸着法による成膜手段で形成し、比較例2のトランジスタ素子を得た。得られた素子は、MBOTの特徴である電流変調を示した。
【0093】
上記で得られた比較例2のトランジスタ素子の出力特性は、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧V
Cを−5V印加し、さらにエミッタ電極−ベース電極間にベース電圧V
Bを印加したときと印加しないとき(0〜−3V)の、コレクタ電流I
Cおよびベース電流I
Bの変化量を測定して行った。この結果、コレクタ電圧V
C=−5V、ベース電圧V
B=−3.0Vを印加したときの、コレクタ電流I
Cのオン電流密度I
C-ON=−99.2mA/cm
2、V
B=0Vの時のオフ電流密度I
C-OFF=−2.07mA/cm
2であり、さらに、オン/オフ比は48、電流増幅率h
FEは20.8であった。
【0094】
(比較例3)
[ホール透過促進層が形成されていないトランジスタ素子]
実施例1で用いたと同様のレジオレギュラ−P3HTをトルエンに溶解し、濃度が20mg/mlとなるようにP3HT溶液を調製した。得られたP3HT溶液を、ITO透明基板上にスピンコーターにて塗布し、コレクタ層(250nm)を形成した。次に、フッ化リチウム(LiF)からなる0.6nmの電流透過促進層、アルミニウムからなる平均厚さ10nmのベース電極層、その後、大気中雰囲気下において100℃の熱処理を1時間し、アルミ電極の表面に酸化膜層(暗電流抑制層)を形成した。さらに、フッ化リチウム(LiF)からなる3nmの電流透過促進層、上記で使用したP3HT溶液からなるエミッタ層(100nm)、酸化モリブデン層を真空蒸着法にて2nm、金からなる平均厚さ30nmのエミッタ電極からなるトランジスタ素子を作成した。
【0095】
上記で得られた比較例3のトランジスタ素子の出力特性は、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧V
Cを−5V印加し、さらにエミッタ電極−ベース電極間にベース電圧V
Bを印加したときと印加しないとき(0〜−3V)の、コレクタ電流I
Cおよびベース電流I
Bの変化量を測定して行った。この結果、コレクタ電流I
Cのオン電流密度I
C-ON=−64mA/cm
2、電流増幅率h
FE=11.4、V
B=0Vの時のオフ電流密度I
C-OFF=−0.001mA/cm
2であり、さらに、オン/オフ比は9.3×10
4であった。
【0096】
(比較例4)
[ホール透過促進層が形成されていないトランジスタ素子]
比較例3と同様にしてP3HTよりなるコレクタ層(250nm)を形成し、フッ化リチウム(LiF)からなる0.6nmの電流透過促進層、アルミニウムからなる平均厚さ10nmのベース電極層を形成した。大気下加熱による暗電流抑制層の形成は行わずに、大気下に2時間放置した。さらに、フッ化リチウム(LiF)からなる3nmの電流透過促進層、上記で使用したP3HT溶液からなるエミッタ層(100nm)、酸化モリブデン層を真空蒸着法にて2nm、金からなる平均厚さ30nmのエミッタ電極からなるトランジスタ素子を作成した。
【0097】
上記で得られた比較例4のトランジスタ素子の出力特性は、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧V
Cを−5V印加し、さらにエミッタ電極−ベース電極間にベース電圧V
Bを印加したときと印加しないとき(0〜−3V)の、コレクタ電流I
Cおよびベース電流I
Bの変化量を測定して行った。この結果、コレクタ電流I
Cのオン電流密度I
C-ON=−16.1mA/cm
2、電流増幅率h
FE=1.3、V
B=0Vの時のオフ電流密度I
C-OFF=−0.001mA/cm
2であり、さらに、オン/オフ比は2.5×10
4mA/cm
2であった。
【0098】
(評価結果)
トランジスタ素子の出力特性は、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧V
Cを−5V印加し、さらにエミッタ電極−ベース電極間にベース電圧V
Bを印加したときと印加しないとき(0〜−3V)の、コレクタ電流ICおよびベース電流IBの変化量を測定して行った。実施例のトランジスタ素子は、いずれもMBOTとして動作が確認された。評価結果を表1、表2に、主な結果をまとめて示した。すなわち、表1には、エミッタ層の材料をそれぞれに変えて行った実施例1〜3の結果を示した。そして、
図4に、この場合のトランジスタ素子の「コレクタ電流の変化(IC−VB特性)」を示した。また、表2に、ベース電極の加熱による暗電流抑制層を形成した素子と形成していない素子の実施例6と7の場合と、ホール透過促進層を形成しなかった以外は実施例6と同様の構成の比較例2の結果を示した。そして、
図5に、トランジスタ素子の「コレクタ電流の変化(IC−VB特性)」、をそれぞれ示した。
【0099】
上記の比較から、本発明の実施例のトランジスタ素子は、ホール透過促進層を形成しなかった比較例の素子との比較から、少なくとも導電性ポリマーにてホール透過促進層を形成したため、ベース電極透過率が大きくなり、優れた電流増幅率およびオン/オフ比が得られたと考えられる。
【0100】
さらに、本発明者らの検討によれば、少なくともホール透過促進層を導電性ポリマーにより形成した実施例の場合は、ホールのベース電極透過率を向上させ、その場合に、電流透過促進層を形成することも、有機トランジスタ(MBOT)の優れた性能発揮の重要な要因の一つとなっていることを確認した。
【0101】
【0102】
【0103】
さらに、実施例から、本発明のトランジスタ素子は、そのオン電流密度が、最大−225mA/cm
2の大きな電流を得ることができることを確認した(実施例5参照)。また、その場合に、電流増幅率h
FEも226を示す、トランジスタ特性に極めて優れた素子を得ることができた。このように本発明のトランジスタ素子は、低電圧下において、大電流変調ができ、電流増幅率も高く、見かけ上バイポーラトランジスタと同様の電流変調型のトランジスタ素子として有効に機能することが確認できた。