(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
半環状圧電アクチュエータの周方向の各部位は、ミラー部の往復回転中、静止時のミラー部の表側(ミラー面側)に対峙する方向(以下、「Z軸方向」という。Z軸は後述の
図3に図示されている。)に振動している。本発明者らは、各半環状圧電アクチュエータが、全体としてZ軸方向に同一の位相で振動しているのではなく、相互に逆位相で振動する複数の領域を有していることを確認した。
【0009】
特許文献1の光偏向器は、各半環状圧電アクチュエータの圧電膜は一体となっており、一体の圧電膜を同一の駆動電圧で駆動している。したがって、駆動電圧に対するトーションバーの回転角度が低下している。
【0010】
特許文献2の光偏向器は、半環状でなく、直線状の圧電アクチュエータの圧電膜を長さ方向に複数の区分に分け、各区分に個別の圧電膜を設けて、隣り関係の区分の圧電膜には相互に逆位相となる駆動電圧を印加している。しかしながら、区分箇所は、直線状圧電アクチュエータを単独で作動させるとともに、直線状圧電アクチュエータのトーションバー側の端が自由端として設定され、該自由端が最大変位する時の区分箇所が圧電膜の区分箇所として選定されている。
【0011】
各半環状圧電アクチュエータは、支持体側の1つの支持端に対して、トーションバーに結合する端(特許文献2の「自由端」に相当)を2つ有している。また、光偏向器の実際の使用では、圧電アクチュエータにおけるトーションバー側の端は、自由端ではなく、該端のZ軸方向変位量は0となっており、かつ該端にはミラー部の質量が作用している。
【0012】
したがって、半環状圧電アクチュエータにおける圧電膜の区分箇所を、特許文献2の探索方式により探索しても、実際の適用において適切となる区分箇所からのずれが増大する。この結果、特許文献2の光偏向器におけるミラー部の駆動力は、各圧電アクチュエータの圧電膜を分割するものの、なお不十分と考えられる。
【0013】
本発明の目的は、1対の半環状圧電アクチュエータにより2つのトーションバーを介してミラー部を往復回転させる光偏向器において、半環状圧電アクチュエータによるミラー部の駆動力の増大を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の光偏向器は、表側において光を反射するミラー部と、軸線を揃えて前記ミラー部の両側から延び出る1対のトーションバーと、前記ミラー部の各半部の外側にそれぞれ配設され、両トーションバーに結合して、前記トーションバーを軸線の回りに往復回転させる1対の半環状圧電アクチュエータと、静止時の前記ミラー部の表側と対峙する方向視において前記1対のトーションバーの軸線に対して直交する直線上の位置で各半環状圧電アクチュエータを支持する支持体とを備え、前記半環状圧電アクチュエータは、前記方向視でミラー部の中心の回りの角度であって、前記半環状圧電アクチュエータが前記ミラー部を往復回転させている状態にある時に前記半環状圧電アクチュエータに生じる振動定在波の節が生じる角度位置、又は前記1対の半環状圧電アクチュエータが共通で全周一体の仮想圧電膜を有すると仮定して前記ミラー部に前記トーションバーの軸線周りに所定の回転力を付与したときに前記仮想圧電膜に生じる分極分布において分極の極性が周方向両側で逆となっている角度位置で周方向に区分され、各周方向区分に個別の圧電膜を有し、前記1対の半環状圧電アクチュエータの周方向区分に対し、前記方向視で所定の周方向区分から時計方向に順番に1番から番号付けしたときの奇数番の周方向区分の圧電膜と偶数番の周方向区分の圧電膜とは、相互に逆位相の駆動電圧を供給されるようになっていることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、半環状圧電アクチュエータにおいて個別に配置する圧電膜の範囲を規定する周方向区分は、半環状圧電アクチュエータがミラー部を往復回転させている状態にある時に半環状圧電アクチュエータに生じる振動定在波の節が生じる角度位置、又は1対の半環状圧電アクチュエータが共通で全周一体の仮想圧電膜を有すると仮定してミラー部にトーションバーの軸線周りに所定の回転力を付与したときの仮想圧電膜に生じる分極分布において分極の極性が周方向両側で逆となっている角度位置で定められる。したがって、半環状圧電アクチュエータの周方向区分が、半環状圧電アクチュエータのトーションバー側の端を自由端にして、その最大変位量に基づいて範囲を定められるときよりも、半環状圧電アクチュエータによるミラー部の駆動力の増大を図ることができる。
【0016】
本発明の光偏向器において、各半環状圧電アクチュエータは、全部の周方向区分に圧電膜を有し、前記ミラー部の往復回転時に、全部の周方向区分の圧電膜に駆動電圧を供給されるようになっていることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、全部の周方向区分が、圧電膜によりトーションバーに駆動力を与えるので、ミラー部の駆動力を増大することができる。
【0018】
本発明の光偏向器において、前記半環状圧電アクチュエータは、前記ミラー部の往復回転時に、前記トーションバー側の端の周方向区分のみに駆動電圧を供給されるようになっていることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、各半環状圧電アクチュエータにおいて、トーションバー側の端の周方向区分のみが圧電膜によりトーションバーに駆動力を与えるので、光偏向器の構造を簡単にすることかできる。また、半環状圧電アクチュエータの全部位は、前記方向視の方向に、同一位相で振動するか、無振動となるので、半環状圧電アクチュエータを一体の圧電膜で構成して、該一体の圧電膜に駆動電圧を供給するときに比して、ミラー部の駆動力を増大することができる。
【0020】
本発明の光偏向器において、前記方向視で、前記半環状圧電アクチュエータは、前記支持体との結合部位における幅よりも前記トーションバーとの結合部位における幅の方が増大されていることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、圧電膜の面積が増大し、半環状圧電アクチュエータへの駆動電力に対するトーションバーの駆動力を増大することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1を参照して、光スキャナモジュール1の主要部を説明する。光スキャナモジュール1は、主要構成要素として、光偏向器2、光源3、及び制御装置4とを備える。
【0024】
光スキャナモジュール1は、例えば、プロジェクタ、バーコードリーダ、レーザプリンタ、レーザヘッドアンプ、又はヘッドアップディスプレイ等に装備され、走査光を出射する。
【0025】
光偏向器2は、半導体プロセスやマイクロマシン技術を用いた周知のMEMS(micro electro mechanical systems)デバイスとして、半導体基板上にミラー部や圧電アクチュエータ等の機構部品を一体的に形成して、製造される(例:本出願人による特開2009−169326号公報及び特開2009−223165号公報等)。
【0026】
制御装置4は、光偏向器2及び光源3へ制御信号を送る。制御装置4は、光偏向器2への制御信号により、ミラー部9の回転角度や往復回転の周波数等を制御する。制御装置4は、光源3への制御信号により、光源3のオン・オフ(点灯・消灯)や、場合によっては光源3からの光5の輝度を制御する。
【0027】
光偏向器2は、ミラー部9を装備する。ミラー部9は、表側に反射面を有し、光源3からの光5を反射面で反射する。ミラー部9は、作動時は所定の回転軸線の回りを往復回転しており、光5は、ミラー部9から反射した後、走査光として光偏向器2から前方に出射する。
【0028】
図2は、光偏向器2の表側を斜め前方から見た斜視図である。なお、光偏向器2の表側は光偏向器2の前面側又は正面側と同義である。ミラー部9は、
図2に図示する状態で、静止状態にある。ミラー部9は、静止時では、中心oから表側に延び出す法線をまっすぐ前方に向けている。
【0029】
ミラー部9は、円形であり、光偏向器2の中心に配設される。トーションバー13a,13bは、ミラー部9の中心oを通る1つの直線としての直線C1上に軸線を揃えて、ミラー部9の両側に配設されて、ミラー部9に結合している。尚、ミラー部9の形状は円形に限定されない。楕円形やその他の形状であってもよい。
【0030】
光偏向器2の説明の便宜上、光偏向器2の正面視を定義する。正面視は、静止時のミラー部9の表側に対峙する方向視の1つである。正面視では、ミラー部9の中心からトーションバー13a,13bの延び出す方向をそれぞれ上及び下と定義する。静止時のミラー部9の表側に対峙する方向視は、正面視に対して時計回りに任意角度のものとする。
【0031】
光偏向器2の説明の便宜上定義した光偏向器2の上下左右は、実際の使用時の光偏向器2の上下左右を規定するものではない。
【0032】
正面視において中心oに対して時計回りに角度を定義し、中心oからトーションバー13aの方向を角度=0°と定義する。
図2において、直線C1は、中心oに対して上側を0°の方向に延び出ている。直線C2,C3は、中心oに対して60°,120°の方向に右側へ延び出ている直線と定義される。
【0033】
光偏向器2は、左右対称の構造となっている。半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bは、ミラー部9の左右の半部の外側に配設され、トーションバー13a,13bの基端部に左右の側から結合している。
【0034】
矩形枠11は、中心をミラー部9の中心oに揃えて、半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bを外側から包囲するように、配設される。固定バー14a,14bは、それぞれ270°及び90°の位置に配設され、半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bの外周縁を矩形枠11の円形内周縁に結合している。
【0035】
分断溝18は、半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bにおいて、直線C2,C3が通過する箇所に形成され、半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bの圧電膜を周方向に分断している。トーションバー13a,13bは、直線C1上に沿って延び、半円弧状圧電アクチュエータ10aの圧電膜と半円弧状圧電アクチュエータ10bの圧電膜とを周方向に分断している。
【0036】
MEMS技術による光偏向器2の製作では、先に、半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bの全周,及びトーションバー13a,13bの全長に一律に圧電膜を形成し、その後、表側からのエッチングによりトーションバー13a,13b及び分断溝18の部分の圧電膜を除去している。
【0037】
左側のトーションバー13aは、分断溝18により上側から順番に円弧区分16a〜16cに区分される。右側のトーションバー13bは、分断溝18により上側から順番に円弧区分17a〜17cに区分される。これにより、円弧区分16a〜16c,17a〜17cの圧電膜には、個別に駆動電圧が印加可能になる。
【0038】
図3は、
図4に示した位置P1〜P5について説明した図である。
図4の実験では、光偏向器2に代えて、光偏向器20が用いられている。光偏向器20の全体を示した左側の図の黒枠の範囲が右側に拡大図として示されている。
【0039】
光偏向器2の半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bと光偏向器20の半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bとの相違点は、光偏向器2では、半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bの圧電膜が分断溝18により分断されているのに対し、光偏向器20では、圧電膜は、半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bの各々において分断溝18により分断されることなく、一体となっていることである。ただし、半円弧状圧電アクチュエータ10aの圧電膜と半円弧状圧電アクチュエータ10bの圧電膜とは、両者の間のトーションバー13a,13bの存在により分断されている。
【0040】
ミラー部9は、
図3に図示された状態では静止状態(圧電膜の無印加電圧状態)にあって、光偏向器20のまっすぐ前方に向けている。X軸及びY軸は、正面視でそれぞれ270°及び180°の方向に中心oから延びている。Z軸は、X軸及びY軸に対して直角に中心oから光偏向器2のまっすぐ前方に延び出している。
【0041】
P1〜P4は、半円弧状圧電アクチュエータ10aにおいて、180°〜270°の90°の周方向範囲を5等分したときに、トーションバー13bに近い方から順番に位置する4つの等分割点の角度位置になっている。P5は、半円弧状圧電アクチュエータ10aにおいて270°の角度位置にある。P1〜P5は、半円弧状圧電アクチュエータ10aの幅の中心を連ねる円周上にあって、中心oから等距離の位置にある。
【0042】
図4は光偏向器20のミラー部9を共振振動(18.877kHz)で駆動した時のP1〜P5と共にその近辺位置のZ軸方向の振幅を測定したものである。各位置の座標及び振幅の単位はすべてμmとなっている。各位置のZ軸方向の振幅は円の直径に比例する。
【0043】
P1〜P5の近辺位置は、X座標の値は、P1〜P5のX座標の値と同一で、Y座標の値のみがP1〜P5のY座標の値と僅かに相違させたものとなっている。
【0044】
図4のX座標及びY座標の値は、
図4のミラー部9の中心oを原点としたものではない。実験の都合上、光偏向器2の正面視で中心oに対して斜め上方の所定位置を(0,0)としたときのX座標及びY座標の値で示している。
【0045】
図4から、共振振動時のP1〜P5のZ軸方向振幅について、P3が最小の0.3mm、P1が最大の4.4mm、P5は2.2mmとなっている。また、P2及びP4の振幅はそれぞれ中間の1.6mm,1.5mmとなっている。
【0046】
図4から、P3は共振振動の節の部位となることが知見される。前述の
図2の直線C2は、P3を通過する直線として選定されている。
【0047】
図5は所定のシミュレーションソフトにより解析した光偏向器2における分極分布図である。シミュレーションでは、圧電膜が光偏向器2の面全体に一体の仮想圧電膜として形成されているものとし、ミラー部9にトーションバー13a,13bの軸線周りに所定の回転力を付与したときの仮想圧電膜に生じる分極分布を調べることにし、得られた結果が
図5の分極分布図となっている。
【0048】
実際の解析ソフトの結果では、応力分布は、カラーで出力されるが、
図5ではモノクロで表示されている。
図5において、G1は色の濃い領域を表し、G2は色の薄い領域を示している。G1とG2とは、シミュレーションで生じた分極の極性が逆であることを意味する。
【0049】
半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bにおいて、G1とG2との各境目に対し、境目の周方向両側の分極極性が逆になっている。左側の半円弧状圧電アクチュエータ10aにおいてトーションバー13aに隣接するG2の領域は、0°から反時計回りに60°までの範囲を占めている。
【0050】
光偏向器2は、正面視で左右対称及び上下対称の構造となっているので、左上側の境目と同様な境目が左下側、及び右側にも生じている。
【0051】
図2において直線C1〜直線C3は、
図5の半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bにおけるG1とG2との境目を通過しかつ中心oを通る直線として選定されている。
【0052】
G1とG2との境目を区分個所として分断溝18(
図2)を形成し、ミラー部9の往復回転時では、半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bにおいてG1の領域とG2との領域とで逆極性の駆動電圧を供給すれば、半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bの各々が全面にわたりZ軸方向へ同一位相で変位することになる。そして、この結果として、半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bによるトーションバー13a,13bの回転駆動力が増大することが理解できる。
【0053】
図6は
図5の分極分布の解析に使用したシミュレーションソフトを使って別の光偏向器32について解析した分極分布図である。光偏向器32も、光偏向器2と同様に、正面視で左右対称及び上下対称の構造になっている。
【0054】
光偏向器32では、半環状圧電アクチュエータ50a,50bは、それらがトーションバー43a,43bに両側から結合した状態で、全体として菱形の周輪郭を形成するように、形状が設定されている。また、半環状圧電アクチュエータ50a,50bを外側から包囲して、固定バー44a,44bを介して支持する支持枠51の内周輪郭も菱形に選定されている。
【0055】
光偏向器32において、トーションバー43a,43bの軸線は、ミラー部39の中心oからそれぞれ0°及び180°の放射方向へ延びている。固定バー44a,44bは、それぞれ270°及び90°の角度位置において半環状圧電アクチュエータ50a,50bの外周縁と支持枠51の内周縁とを結合している。
【0056】
光偏向器32における分極分布の解析においても、圧電膜が光偏向器32の面全体に一体の仮想圧電膜として形成されているものとし、円形のミラー部39にトーションバー43a,43bの軸線周りに所定の回転力を付与したときの仮想圧電膜に生じる分極分布を調べた。
【0057】
シミュレーション解析により、光偏向器32においても、G1,G2の境目が、左右対称及び上下対称に、中心oから0°、60°,120°,180°、240°、300°の角度位置に出現していることが分かった。この位置は、
図2の直線C1,C2,C3の線上に一致する。
【0058】
したがって、光偏向器32の半環状圧電アクチュエータ50a,50bにおいても、G1とG2との境目を区分個所として分断溝18(
図2)を形成し、ミラー部39の往復回転時では、半環状圧電アクチュエータ50a,50bにおいてG1の領域とG2との領域とで逆極性の駆動電圧を供給すれば、半環状圧電アクチュエータ50a,50bの各々において、全部位がZ軸方向に同位相で変位する。この結果、半環状圧電アクチュエータ50a,50bによるトーションバー43a,43bの回転駆動力が増大する。
【0059】
図6の光偏向器32では、半環状圧電アクチュエータ50a,50bにおいて、正面視の幅が、基端側(
図6でBで囲う範囲)から先端側(
図6でAで囲う範囲)へ向かって、漸増している。すなわち、半環状圧電アクチュエータ50a,50bは、正面視で固定バー44a,44bとの結合部位における幅よりもトーションバー43a,43bとの結合部位における幅の方が増大されている。
【0060】
この結果、トーションバー43a,43bと結合する範囲で圧電膜の面積を増大され、同一駆動電圧に対するトーションバー43a,43bの駆動力が増大し、トーションバー43a,43bの振れ角を増大させることができる。
【0061】
図7は、
図2の光偏向器2の変形例としての光偏向器62を示している。光偏向器62において、光偏向器2の要素と同一の要素は、同一の符号で指示して、説明は省略し、相違点についてのみ説明する。
【0062】
光偏向器62では、光偏向器2の半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bにおける円弧区分16b,17bの圧電膜が、エッチングにより除去されるか、駆動電圧の配線の省略等により無効化される。そして、円弧区分16a,16c,17a,17cの圧電膜のみが有効にアクチュエータ作用を行うようにされる。
【0063】
図8(a)及び(b)はそれぞれ光偏向器2,62における駆動電圧の供給配線を示している。なお、
図8では、円弧区分16a,16c,17a,17cの円周角は30°、円弧区分16b,17bの円周角は120°で図示されている。
図2では、直線C1,C2,C3は60°間隔となっているが、光偏向器2,62の種類により直線C1,C2,C3の間隔は変化する。通常、直線C2は、トーションバー13aの方向を0°として、直線C2は、45°±15°、直線C3は135°±15°の範囲である。
【0064】
図8において、駆動電圧v1,v2は、波形が同一で、位相が180°ずれたもの、すなわち相互に逆位相となっている。v1,v2は制御装置4から供給される。光偏向器2,62の半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bのモノポーラ型であるので、v1,v2は、単一の極性を維持しつつ、相互に逆位相になるよう振幅を所定直流を維持しつつ、値を所定の周波数で増減するものとなっている。
【0065】
図8(a)を先に説明する。円弧区分16a〜16c,17a〜17cの6つの円弧区分に対し、円弧区分17aを1番として、時計回りに1〜6の番号を付ける。すなわち、円弧区分17a,17b,17c,16c,16b,16aは、1番〜6番になる。
【0066】
光偏向器2では、v1は、奇数番の円弧区分17a,17c,16bの圧電膜に供給され、v2は、偶数番の円弧区分17b,16c,16aの圧電膜に供給される。これにより、奇数番の円弧区分の圧電膜と偶数番との円弧区分とは、Z軸方向へ同一位相で変位する。
【0067】
この結果、半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bの先端側としてのトーションバー13a,13bとの結合部におけるZ軸方向の変位量が増大し、トーションバー13a,13bの回転角が増大する。すなわち、v1,v2の振幅に対するミラー部9の回転角変化範囲が増大する。
【0068】
図8(b)について説明する。光偏向器62では、光偏向器2における2番及び5番の円弧区分への駆動電圧の供給が行われない。すなわち、周方向にトーションバー13a,13bの両隣りの円弧区分の圧電膜のみに駆動電圧が制御装置4から供給される。
【0069】
図8(b)において、v1は、6番及び4番の円弧区分16a,16cの圧電膜に供給される。v2は、1番及び3番の円弧区分17a,17cの圧電膜に供給される。これにより、ミラー部9の往復振動時に、半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bの各々において、円弧区分は、フラットを維持しているか、Z軸方向へ同一位相で変位する。この結果、半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bの各々において、円弧区分が、Z軸方向へ逆位相関係で変位するのが防止され、v1,v2の振幅に対するミラー部9の回転角変化範囲が増大する。
【0070】
光偏向器2を
図8(a)の駆動方式で駆動する場合の一例では、るミラー部9を機械振れ角10°で約20kHzの共振周波数で駆動する場合の駆動電圧は10Vであった。一方、半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bの各々について圧電膜を分断溝18で分断することなく、一体にして、半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bにv1,v2の駆動電圧をそれぞれ供給する従来の光偏向器では、ミラー部を機械振れ角10°で約20kHzの共振周波数で駆動する場合の駆動電圧は20V以上、必要であった。
【0071】
したがって、光偏向器2を
図8(a)の駆動方式で駆動する場合は、従来構造に対して消費電力を半減できたことになる。また、駆動電圧の低下により、制御装置4(
図1)の駆動回路ICのコストが低減し、光スキャナモジュール1全体のコストを大幅に低減することができる。
【0072】
また、光偏向器62を
図8(b)の駆動方式で駆動する場合の一例では、るミラー部9を機械振れ角10°で約20kHzの共振周波数で駆動する場合の駆動電圧は11〜12Vであった。これは、光偏向器2を
図8(a)の駆動方式で駆動する場合よりも、若干劣るが、従来構造に対しては十分に消費電力を節減できることが分かった。また、光偏向器62は光偏向器2に比して構造が簡単となるので、歩留まりを含めた製造コストを低減することができる。
【0073】
従来構造では、圧電膜への印加電圧が比較的高いので、圧電膜の劣化による振れ角の減少が懸念されたが、光偏向器2,62に対する
図8(a)及び(b)の駆動方式で使用することにより、圧電膜の劣化が大幅に抑制されるとともに、長期信頼性が向上する。
【0074】
図9は光偏向器2の変形例としての光偏向器72の斜視図である。光偏向器72において、光偏向器2の要素と同一の要素は同一の符号で指示して、説明は省略し、相違点についてのみ説明する。
【0075】
光偏向器72では、トーションバー83a,83bは、基端側において、半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bとの結合部を越えて延び出し、矩形枠11の内周に結合している。
【0076】
トーションバー83a,83bが矩形枠11の内周に固定されているので、トーションバー83a,83bの往復回転が安定化する。
【0077】
図10は、光偏向器72の半環状圧電アクチュエータ10bにおける圧電センサ100の配備場所を示している。圧電センサ100は、半環状圧電アクチュエータ10bの配備領域における歪みに応じた電圧を出力して、ミラー部9の回転角を検出する。
図10は光偏向器72の正面視で示したものとなっている。
【0078】
半円弧状圧電アクチュエータ10aにおいて、円弧区分16cのアクチュエータ機能部としての圧電膜は、半環状圧電アクチュエータ10b側において、半円弧状圧電アクチュエータ10aの直線の端縁101にほぼ達している。これに対し、半環状圧電アクチュエータ10bの円弧区分17cのアクチュエータ機能部としての圧電膜は、半環状圧電アクチュエータ10bの先端側を区画線92〜94までに制限される。
【0079】
区画線92は、正面視における半環状圧電アクチュエータ10bの円周の内周線に対して法線方向に半環状圧電アクチュエータ10b内に設定される。区画線93は、半環状圧電アクチュエータ10bの内周線からの等距離を保持しつつ、内周線に沿って所定長さ延びている。区画線94は、半環状圧電アクチュエータ10bの直線の端縁と重なっている。
【0080】
区画線92は、区画線94より区画線93の長さだけ半環状圧電アクチュエータ10bの基端側の固定バー14bの方へ引きこまれている。
【0081】
圧電センサ100は、トーションバー83bと半環状圧電アクチュエータ10bとの結合部をまたがってトーションバー83b及び半環状圧電アクチュエータ10bに延び出している。圧電センサ100の半環状圧電アクチュエータ10b側の部分は、区画線92,93により画成される領域内に配設される。
【0082】
信号線105は、トーションバー83bにおいてトーションバー83bの軸線に沿って形成されている。信号線105は、一端において、圧電センサ100のトーションバー83b側の部分に接続され、他端において、矩形枠11の信号線110に接続されている。信号線110は、矩形枠11の図示していない電極へ接続されている。
【0083】
グランド線106は、トーションバー83bに形成され、矩形枠11のグランド線111に接続されている。グランド線106は、半円弧状圧電アクチュエータ10bにおいて圧電センサ100と区画線92及び区画線93との間に形成され、トーションバー83bにおいて区画線94と信号線105との間に形成されている。
【0084】
グランド線107は、トーションバー83bに形成され、矩形枠11のグランド線112に接続されている。グランド線107は、トーションバー83bにおいて圧電センサ100及び信号線105と半円弧状圧電アクチュエータ10aの端縁101との間に形成されている。
【0085】
正面視において、半円弧状圧電アクチュエータ10の幅をW(
図10の半円弧状圧電アクチュエータ10bの内周線と外周線との距離)、トーションバー83bの幅(
図10のトーションバー83bの左右の側縁間の寸法)の半分の長さをLとする。
【0086】
圧電センサ100は、半円弧状圧電アクチュエータ10bの幅方向には、円弧区分17cにおいて内周線と該内周線から外周線の方へ最大0.18W離れた位置までの範囲を占める。圧電センサ100は、半円弧状圧電アクチュエータ10bの長手方向に半円弧状圧電アクチュエータ10b側に、0.25・L以下までの寸法内で延び出している。圧電センサ100は、トーションバー83bの幅方向に、トーションバー83b側に0からL/2未満までの寸法内で延び出し、0.25・L以下までの範囲内で延び出している。
【0087】
センサ配線105〜107を圧電アクチュエータの上または脇を通さずに、トーションバー83b上に通して、圧電アクチュエータの振動の影響を排除し、アクチュエータ信号とのクロストークを抑制することにより、圧電センサ100の出力は、ミラー部9の共振周波数において十分な振幅を有する。また、ミラー部9の共振周波数を含む所定周波数範囲で、v1又はv2の駆動電圧の位相を基準位相にして、基準位相に対する圧電センサ100の出力位相差が、基準位相に対するミラー部9の往復振動の位相差に一致したものになる。
【0088】
図11は、二次元走査型光偏向器130の斜視図である。二次元走査型光偏向器130は、二次元走査光を出射する。二次元走査型光偏向器130は、中央に光偏向器2bを備える。光偏向器2bの構成は、
図1の光偏向器2と同一であり、光偏向器2bは、ミラー部9、半円弧状圧電アクチュエータ10a,10b、矩形枠11、及びトーションバー13a,13bを備えている。
【0089】
外側支持枠131は、光偏向器2bを外側から包囲する。蛇腹型圧電アクチュエータ132a,132bは、外側支持枠131内で光偏向器2bの左右にそれぞれ配設され、基端側を外側支持枠131の左右の辺部の下端に結合し、先端側を光偏向器2bの矩形枠11の左右の辺部の下端に結合している。
【0090】
蛇腹型圧電アクチュエータ132a,132bは、複数のカンチレバーを左右方向に並べて、上下方向端部で折り返して、直列結合した周知の構造になっている。
【0091】
矩形枠11は、蛇腹型圧電アクチュエータ132a,132bの作動により左右方向の第1回転軸線141の回りに往復回転する。ミラー部9は、半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bの作動によりトーションバー13a,13bの軸線に一致する第2回転軸線142の回りに往復回転する。
【0092】
この結果、二次元走査型光偏向器130において、光源3(
図1)からの光5は、ミラー部9に反射して、水平方向と鉛直方向との2方向の走査光となって、二次元走査型光偏向器130の前方に出射する。
【0093】
本発明を実施形態について説明した。半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bは、半環状圧電アクチュエータの一例である。矩形枠11は、支持体の一例である。円弧区分16a〜16c,17a〜17cは、周方向区分の一例である。
【0094】
実施形態では、半環状圧電アクチュエータとして半円弧状圧電アクチュエータ10a,10bや、半菱形状の半環状圧電アクチュエータ50a,50bが用いられているが、その他の形状の半環状圧電アクチュエータを採用することができる。
【0095】
図2等の実施形態では、分断溝18が、直線C1に対して60°及び120°の交角を有する直線C2,C3上に形成されたが、60°及び120°は一例であり、直線C1は、光偏向器の形状大きさ等により相違する。通常、直線C1をトーションバー13a,13bの軸線を含む直線と定義すると、おおよそ、直線C2は、直線C2は、直線C1に対して30°〜60°の交角を有する範囲となる。また、直線C3は、直線C1に対して120°〜150°の交角を有する範囲となる。