【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)「“その場形成”概念に基づく高入出力型全固体電池の創成」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Liを含有する活物質粒子と、前記活物質粒子上に形成され、炭酸リチウムと反応可能なニオブ酸化物から構成されるニオブ酸化物層とを有する被覆活物質粒子を準備する準備工程と、
前記被覆活物質粒子を用いて基板上に活物質層を形成する活物質層形成工程と、
前記活物質層に熱処理を行い、前記活物質粒子の表面に存在する炭酸リチウム成分と、前記ニオブ酸化物層とを反応させ、Li−Nb−O化合物を含有する相互拡散部を形成する熱処理工程と、
を有することを特徴とするリチウム電池用電極体の製造方法。
前記準備工程において、前記活物質粒子の表面に、アルコキシドを含有するゾルゲル溶液を塗布することにより、前記ニオブ酸化物層を形成することを特徴とする請求項1に記載のリチウム電池用電極体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の電極体の製造方法、および、電極体について説明する。
【0018】
A.電極体の製造方法
本発明の電極体の製造方法について図を用いて説明する。
図1は本発明の電極体の製造方法の一例を示す概略断面図である。まず、
図1(a)に示すように、Liを含有する活物質粒子1と、活物質粒子1上に形成され、炭酸リチウムと反応可能なニオブ酸化物から構成されるニオブ酸化物層2とを有する被覆活物質粒子10を準備する(準備工程)。次に、
図1(b)に示すように、被覆活物質粒子10を用いて基板11上に活物質層12を形成する(活物質層形成工程)。次に、
図1(c)に示すように、活物質層12に熱処理を行い、活物質粒子1の表面に存在する炭酸リチウム成分と、ニオブ酸化物層とを反応させ、Li−Nb−O化合物を含有する相互拡散部3を形成する(熱処理工程)。これにより、電極体20が得られる。
【0019】
本発明によれば、ニオブ酸化物層を有する被覆活物質粒子を用いて活物質層を形成し、その後、熱処理を行うことにより、高容量な電池を得ることができる電極体が得られる。また、本発明においては、熱処理工程で、活物質粒子の表面に存在する炭酸リチウム成分と、ニオブ酸化物層とを反応させ、相互拡散部を形成することにより、粒界抵抗を低減した活物質層を得ることができる。そのため、高容量な電池を得ることができると考えられる。粒界抵抗を低減できる一つの理由としては、相互拡散部に含まれるLi−Nb−O化合物が高いLiイオン伝導性を有することが挙げられる。他の理由としては、相互拡散部は、通常、活物質粒子との間に明確な界面を有さず、活物質粒子から連続的に形成されているため、イオン伝導がよりスムーズになるためであると考えられる。
【0020】
特に本発明においては、活物質粒子の表面に存在する炭酸リチウム成分を積極的に活用する。Liを含有する活物質粒子では、通常、表面に存在するLi成分と、大気中等に存在する二酸化炭素とが反応し、炭酸リチウムが生成する。従来、この炭酸リチウムは積極的に活用されることなかったが、本発明では、炭酸リチウムと反応可能なニオブ酸化物層を設けることで、炭酸リチウム成分(特にLi成分)を有効に活用することができる。
以下、本発明の電極体の製造方法について、工程ごとに説明する。
【0021】
1.準備工程
本発明における準備工程は、Liを含有する活物質粒子と、上記活物質粒子上に形成され、炭酸リチウムと反応可能なニオブ酸化物から構成されるニオブ酸化物層とを有する被覆活物質粒子を準備する工程である。なお、被覆活物質粒子は、自ら作製しても良く、購入しても良い。
【0022】
(1)活物質粒子
本発明における活物質粒子は、Liを含有するものである。活物質粒子の一例としては、酸化物活物質を挙げることができる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO
2、LiMnO
2、LiNiO
2、LiVO
2、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2等の岩塩層状型活物質、LiMn
2O
4、Li
4Ti
5O
12、Li(Ni
0.5Mn
1.5)O
4等のスピネル型活物質、LiFePO
4、LiMnPO
4、LiNiPO
4、LiCoPO
4等のオリビン型活物質、Li
2Ti
3O
7等のラムスデライト型活物質、Li
2MnO
3を含む固溶体型活物質等を挙げることができる。また、活物質粒子の他の例としては、LiSi合金(Li
xSi)、LiSn合金(Li
xSn)等の合金系活物質、および、Liを含む炭素活物質(Li
xC)等を挙げることができる。
【0023】
また、本発明における活物質粒子は、例えば、一般式Li
xM
yO
z(Mは遷移金属元素であり、x=0.02〜2.2、y=1〜2、z=1.4〜4)で表されるものであっても良い。上記一般式において、Mは、Co、Mn、Ni、V、FeおよびSiからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、Co、NiおよびMnからなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましい。なお、本発明における活物質粒子は、正極活物質として用いられても良く、負極活物質として用いられても良い。
【0024】
活物質粒子の平均粒径としては、例えば、0.1μm〜30μmの範囲内であり、1μm〜15μmの範囲内であることが好ましい。なお、平均粒径は、例えばSEM(走査型電子顕微鏡)による観察(例えば、n≧100)等により測定することができる。
【0025】
(2)ニオブ酸化物層
本発明におけるニオブ酸化物層は、炭酸リチウムと反応可能なニオブ酸化物から構成されるものである。ここで、「炭酸リチウムと反応可能なニオブ酸化物」とは、熱処理工程において、活物質粒子の表面に存在する炭酸リチウム成分に含まれるLiおよびOの少なくとも一方を受容し得るニオブ酸化物をいう。そのため、LiNbO
3は、炭酸リチウムと反応可能なニオブ酸化物には該当しない。すなわち、炭酸リチウムと反応可能なニオブ酸化物は、通常、LiNbO
3よりもLiまたはOの割合が少ないニオブ酸化物である。炭酸リチウムと反応可能なニオブ酸化物において、Nbに対するOのモル比は、3未満である。炭酸リチウムと反応可能なニオブ酸化物は、Liを含有していても良く、Liを含有していなくても良いが、後者の場合、Nbに対するLiのモル比は、1未満である。炭酸リチウムと反応可能なニオブ酸化物としては、例えば、Li
xNbO
y(0≦x<1、0<y<3)を挙げることができる。また、本発明におけるニオブ酸化物は、少なくともNbおよびOを含有するものであれば良く、他の元素を含有していても良い。例えばゾルゲル法において、ゾルゲル溶液を塗布・乾燥して得られた層には、NbおよびOの他に、炭化水素(アルコキシド基)および水が残留している場合があるが、このような層もニオブ酸化物層に含まれる。
【0026】
ニオブ酸化物層の形成方法は特に限定されるものではないが、例えば、ゾルゲル法、蒸着法等を挙げることができ、中でもゾルゲル法が好ましい。本発明におけるゾルゲル法は、通常、アルコキシドを含有するゾルゲル溶液を塗布し、乾燥することにより、ニオブ酸化物層を形成する方法である。通常のゾルゲル法では、水添加もしくは、溶媒中または空気中の水分(湿度)を利用してアルコキシドの加水分解を進行させる。塗布方法としては特に限定されるものではないが、例えば転動流動法を挙げることができる。
【0027】
ゾルゲル溶液は、少なくともNbを含有する。ゾルゲル溶液は、Liを含有していても良く、Liを含有していなくても良い。Nb源としては、例えば、ペンタエトキシニオブ、ペンタメトキシニオブ等のNbアルコキシド、酢酸ニオブ、水酸化ニオブ等を挙げることができる。Li源としては、例えば、エトキシリチウム、メトキシリチウム等のLiアルコキシド、酢酸リチウム、水酸化リチウム等を挙げることができる。
【0028】
本発明においては、ゾルゲル溶液を塗布した後に、300℃〜500℃の範囲内で熱処理することにより、ニオブ酸化物層を形成することが好ましい。ニオブ酸化物層に残存する炭化水素および水分が除去され、膜特性が向上するからである。中でも、上記温度は、350℃〜450℃の範囲内であることが好ましい。また、熱処理雰囲気は特に限定されるものではないが、酸素含有雰囲気であることが好ましい。ニオブ酸化物層に残存する炭化水素を除去しやすいからである。
【0029】
一方、蒸着法は、PVD法であっても良く、CVD法であっても良いが、PVD法が好ましい。PVD法としては、例えば、スパッタリング法、PLD法、真空蒸着法等を挙げることができる。
【0030】
ニオブ酸化物層の平均厚さは、特に限定されるものではないが、例えば1nm〜100nmの範囲内であり、1nm〜40nmの範囲内であることが好ましく、10nm〜30nmの範囲内であることがより好ましい。ニオブ酸化物層の平均厚さは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察(例えば、n≧100)等により測定することができる。
【0031】
なお、後述する相互拡散部の厚さを大きくする場合には、ニオブ酸化物層を形成する前に、活物質粒子の表面における炭酸リチウム量を増加させる処理を行っても良い。炭酸リチウム量を増加させる方法としては、二酸化炭素が存在する雰囲気に静置する方法、二酸化炭素を含有するガスを噴霧する方法等を挙げることができる。
【0032】
2.活物質層形成工程
本発明における活物質層形成工程は、上記被覆活物質粒子を用いて基板上に活物質層を形成する工程である。
【0033】
活物質層の形成方法は、特に限定されるものではないが、被覆活物質粒子を噴射することにより、基板上に活物質層を形成する方法であることが好ましい。密度の高い活物質層を得ることができるからである。被覆活物質粒子を噴射する方法としては、例えば、エアロゾルデポジション法(AD法)、コールドスプレー法、静電噴霧法等を挙げることができ、中でもAD法が好ましい。AD法を用いることで、非常に密度の高い活物質層を得ることができるからである。このような緻密な活物質層を形成することで、高容量な電池を得ることができる電極体が得られる。
【0034】
特に、本発明においては、ニオブ酸化物層を有する被覆活物質粒子を噴射して活物質層を形成することにより、ニオブ酸化物層を有しない被覆活物質粒子を噴射した場合に比べて、密度の高い活物質層を得ることができる。その理由は、ニオブ酸化物の仕事関数、および、粒子が破砕して膜が堆積することに基づくと考えられる。その詳細は必ずしも明らかではないが、仕事関数が低いニオブ酸化物が粒子表面に存在すると、粒子を噴霧する過程で周りの金属と擦れ、正の帯電が生じる。一方、正に帯電された粒子が高速で基板に衝突すると粒子が破砕し、結合が切れる過程で電子が発生する。破砕によって生じる電子は正に帯電した粒子に向かうが、この過程でプラズマが発生し、局所的なスパッタや発熱が生じて不安定な(活性な)粒子表面が形成され、これらが接合する過程で緻密な膜形成が生み出されると考えられる。特に、この現象はAD法において顕著に生じると考えられる。
【0035】
活物質層の形成条件は、所望の活物質層が得られるように適宜選択される。例えば、AD法による成膜時のチャンバー内圧力Pは、所望の密度を得ることができる圧力であれば特に限定されるものではないが、例えば1×10
1Pa以上であることが好ましく、1×10
2Pa以上であることがより好ましい。成膜時の圧力が低すぎると、活物質層の密度が大きくなりすぎる可能性があるからである。一方、上記圧力Pは、例えば1×10
4Pa以下であることが好ましく、1×10
3Pa以下であることがより好ましい。成膜時の圧力が高すぎると、密度の高い活物質層を得ることが困難になる可能性があるからである。
【0036】
AD法における搬送ガスの種類としては、特に限定されるものではないが、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、窒素(N
2)等の不活性ガス、および、ドライエア等を挙げることができる。また、搬送ガスのガス流量は、例えば2L/min.〜20L/min.の範囲内であることが好ましい。
【0037】
本発明における活物質層の相対密度は、例えば70%〜100%の範囲内であることが好ましく、90%〜100%の範囲内であることがより好ましい。活物質層の相対密度が高すぎると、活物質層に歪みが生じる可能性があり、活物質層の相対密度が低すぎると、高容量化を図ることができない可能性があるからである。活物質層の相対密度は、活物質層の実際の密度を、活物質層の理論密度で除することにより求めることができる。なお、活物質層の実際の密度は、例えば活物質層の面積および厚さから活物質層の体積を求め、活物質層の重量をその体積で除することにより、求めることができる。
【0038】
活物質層の厚さは特に限定されるものではないが、例えば1μm〜50μmの範囲内であり、5μm〜30μmの範囲内であることが好ましい。
【0039】
また、本発明における基板は、活物質層を形成可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、集電体であることが好ましい。集電体の材料としては、例えば、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム、銅、ニッケル、チタンおよびカーボン等を挙げることができる。
【0040】
3.熱処理工程
本発明における熱処理工程は、上記活物質層に熱処理を行い、上記活物質粒子の表面に存在する炭酸リチウム成分と、上記ニオブ酸化物層とを反応させ、Li−Nb−O化合物を含有する相互拡散部を形成する工程である。
【0041】
熱処理温度は、通常、活物質粒子の表面に存在する炭酸リチウム成分と、ニオブ酸化物層とが反応し、Li−Nb−O化合物を含有する相互拡散部を形成可能な温度である。熱処理温度は、活物質層の密度等により異なるものであるが、例えば、200℃〜600℃の範囲内であり、300℃〜500℃の範囲内であることが好ましい。特に、AD法を用いて活物質層を形成した場合、密度の高い活物質層が得られ、比較的低温でも、相互拡散部を形成することができる。AD法を用いた場合、熱処理温度は、500℃未満であることが好ましく、450℃以下であることがより好ましい。一方、熱処理温度は、200℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましい。
【0042】
熱処理時間は、所望の相互拡散部を形成可能な時間であれば特に限定されるものではないが、例えば、1分間〜2時間の範囲内であり、30分間〜90分間の範囲内であることが好ましい。
【0043】
熱処理雰囲気としては、特に限定されないが、二酸化炭素濃度が低い雰囲気であることが好ましい。熱処理による炭酸リチウムの生成を抑制できるからである。二酸化炭素濃度は、大気雰囲気の二酸化炭素濃度(約400ppm)よりも低いことが好ましく、200ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることがさらに好ましい。熱処理雰囲気としては、具体的には、酸素雰囲気、不活性ガス雰囲気、減圧雰囲気等を挙げることができる。
【0044】
4.電極体
本発明により得られる電極体は、基板と、基板上に形成された活物質層とを有する。さらに、活物質層は、Liを含有する活物質粒子と、上記活物質粒子の表面に形成され、Li−Nb−O化合物を含有する相互拡散部と、を有する。活物質粒子と相互拡散部との間には、通常、明確な界面が存在しない。すなわち、活物質粒子および相互拡散部は、通常、連続的に形成されている。
【0045】
相互拡散部は、Li−Nb−O化合物を含有する。Li−Nb−O化合物とは、Li、NbおよびOを少なくとも含有する化合物をいう。Li−Nb−O化合物は、Li、NbおよびOのみを有する化合物であっても良く、他の元素(活物質粒子の構成元素)をさらに含有する複合酸化物であっても良い。Li−Nb−O化合物におけるLiは、例えば活物質粒子の表面に存在する炭酸リチウム成分に由来する。Li−Nb−O化合物は、LiNbO
3成分、Li
3NbO
4成分およびLiNb
3O
8成分の少なくとも一方を含有していても良い。また、Li−Nb−O化合物はアモルファス状であることが好ましい。イオン伝導度が高いからである。特に、Li−Nb−O化合物は、LiNbO
3結晶相、Li
3NbO
4結晶相およびLiNb
3O
8結晶相を含有しないことが好ましい。これらの結晶相を含有しないことは、X線回折(XRD)により確認することができる。
【0046】
例えば、ニオブ酸化物層が、活物質粒子の表面に存在する炭酸リチウム成分と反応し、活物質粒子自体と反応しない場合には、Li−Nb−O化合物から構成される相互拡散部が形成される。一方、ニオブ酸化物層が、活物質粒子の表面に存在する炭酸リチウム成分と反応し、さらに活物質粒子自体と反応する場合には、活物質粒子にNbがドープされた化合物が形成される。この化合物におけるNbは、ニオブ酸化物層に由来する。
【0047】
相互拡散部の平均厚さは、特に限定されるものではないが、例えば1nm〜100nmの範囲内であり、5nm〜30nmの範囲内であることが好ましい。相互拡散部の平均厚さは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察(例えば、n≧100)、エネルギー分散型X線(EDX)等により測定することができる。なお、相互拡散部の厚さとは、EDX測定において活物質の測定を行い、母体となる活物質のみに存在する元素(遷移金属等)のカウント数を1としたとき、EDX測定において、そのカウント数が0以上1未満である領域をいう。
【0048】
B.電極体
本発明の電極体について、図を用いて説明する。
図1(c)は、本発明の電極体の一例を示す概略断面図である。
図1(c)に示すように、本発明の電極体20は、基板11と、基板11上に形成された活物質層12とを有する。活物質層12は、Liを含有する活物質粒子1と、隣り合う活物質粒子1の間に形成された相互拡散部3とを有する。また、
図2は、本発明における相互拡散部の一例を示す模式図である。相互拡散部3は、隣り合う活物質粒子1の間に形成され、各々の活物質粒子1の表面に形成されたLi−Nb−O化合物領域Aと、各々のLi−Nb−O化合物領域Aの間に形成されたNb−O化合物領域Bとを有する。
【0049】
本発明によれば、上記相互拡散部を有することにより、高容量な電池を得ることができる電極体とすることができる。特に、Li−Nb−O化合物領域の間に、Nb−O化合物領域を設けることにより、膜内部の電子伝導性を確保して、膜の電気的な抵抗を低減できるという利点がある。なお、Nb−O化合物領域は、通常、ニオブ酸化物層に含まれるニオブ酸化物が、活物質粒子の表面に存在する炭酸リチウム成分と反応しなかった領域である。また、本発明の電極体の詳細については、上述した「A.電極体の製造方法」の項で説明した内容と同様とすることができるため、ここでの説明は省略する。
【0050】
また、本発明においては、上記電極体を用いた電池を提供することもできる。
図3は電池の一例を示す概略断面図である。
図3に示すように、電池30は、通常、正極21と負極22との間に電解質層23が介在するように配置された構造を有している。正極21は、正極活物質を含有する正極活物質層24と、正極活物質層24の集電を行う正極集電体25を有している。負極22は、負極活物質を含有する負極活物質層26と、負極活物質層26の集電を行う負極集電体27を有している。また、電池30は、通常、正極21、負極22、および電解質層23を収容する電池ケース28を有する。
図3においては、正極21および負極22の少なくとも一方が、上述した電極体に相当する。
【0051】
電池は、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、中でも二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。本発明の電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができる。また、本発明における電池は、固体電解質層を有する全固体電池であることが好ましい。
【0052】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0053】
以下に実施例、比較例および参考例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【0054】
[参考例1]
まず、日本化学製のコバルト酸リチウム粒子(LCO粒子、平均粒径10μm)を用意した。次に、ニオブエトキシド(Nb(OC
2H
5)
5)をエタノールで希釈したゾルゲル溶液を用意した。その後、転動流動層コート装置を用いて、LCO粒子の表面にゾルゲル溶液を塗布し、被覆活物質粒子を作製した。実験条件は以下の通りである。
<実験条件>
・転動流動層コート装置:パウレック社製MP−01
・LCO粒子:500g
・ゾルゲル溶液:250g(濃度0.3mol/L)
・吸気風量:20m
3/h
・ロータ回転数:400rpm
・噴霧速度:3g/min
得られた被覆活物質粒子の被覆部分(ニオブ酸化物層)の平均厚さを断面EDXにより計測したところ、10nmであった。
【0055】
次に、得られた被覆活物質粒子を用いて、AD法によりSUS基板上に成膜し、活物質層を作製した。成膜条件は以下の通りである。
<成膜条件>
・温度:常温
・チャンバー内の圧力:5×10
2Pa
・ガス:Ar
・ガス流量:10L/min.
・スキャン速度:1mm/sec.
・基板ノズル間距離:10mm
得られた活物質層の厚さは約3.5μmであり、活物質層の相対密度は100%であった。これにより、電極体を得た。
【0056】
[参考例1−2]
被覆活物質粒子の被覆部分(ニオブ酸化物層)の平均厚さを20nmとしたこと以外は、参考例1−1と同様にして電極体を得た。得られた活物質層の相対密度は100%であった。
【0057】
[参考例1−3]
被覆活物質粒子の被覆部分(ニオブ酸化物層)の平均厚さを38nmとしたこと以外は、参考例1−1と同様にして電極体を得た。得られた活物質層の相対密度は100%であった。
【0058】
[参考例1−4]
ゾルゲル溶液を用いなかったこと、すなわち、Nb(OC
2H
5)
5による被覆を行わなかったこと以外は、参考例1−1と同様にして電極体を得た。得られた活物質層の相対密度は50%であった。
【0059】
[評価1]
参考例1−1〜1−4で得られた電極体を用いて評価用セルを作製した。電極体の活物質層上に、多孔性ポリエチレンフィルムを配置し、その上に金属リチウムを配置した。非水電解液として、プロピレンカーボネート(非水溶媒)にLiClO
4を1mol/Lの割合で溶解させたものを用いた。これにより、評価用セルを得た。
【0060】
得られた評価用セルに対して充放電試験を行った。充電は10μA/cm
2で4.2Vまで定電流充電を行った。その後、3.5Vまで放電を行い、放電容量とした。その結果を
図4に示す。
図4に示すように、ニオブエトキシドによる被覆を行うことで容量が大幅に増加した。特に、参考例1−2では、容量が顕著に増加した。その理由として、ニオブエトキシドによる被覆で、AD法で作製した膜の密度が向上したことが考えられる。他の理由として、ニオブエトキシドの加水分解で生成したニオブ酸化物層(Liイオン伝導性の酸化ニオブ(Nb−O
x))が粒界に存在することで、LCO粒子同士の繋がりが増加したことが考えられる。
【0061】
[参考例2−1]
まず、参考例1−2と同様にして、被覆部分の平均厚さが20nmである被覆活物質粒子を得た。次に、得られた被覆活物質粒子に対して、大気雰囲気中、300℃、1時間の条件で熱処理を行った。熱処理後の被覆活物質粒子を用いて、AD法によりSUS基板上に成膜し、活物質層を作製した。成膜条件は参考例1−1と同様である。これにより、電極体を得た。
【0062】
[参考例2−2]
被覆活物質粒子の熱処理温度を300℃から400℃に変更したこと以外は、参考例2−1と同様にして電極体を得た。
【0063】
[参考例2−3]
被覆活物質粒子の熱処理温度を300℃から500℃に変更したこと以外は、参考例2−1と同様にして電極体を得た。
【0064】
[評価2]
参考例2−1〜2−3で得られた電極体を用いて評価用セルを作製し、充放電試験を行った。評価用セルの作製方法および充放電試験の内容は、上記と同様である。その結果を
図5(a)、(b)に示す。
図5(a)、(b)に示すように、被覆活物質粒子の熱処理(AD法を行う前の熱処理)では、熱処理温度が400℃である場合に、最も容量が増加した。この理由として、LCO粒子の表面に形成されたニオブ酸化物層(Liイオン伝導性の酸化ニオブ(Nb−O
x))に残存する炭化水素および水分が除去されたことにより、膜特性が向上したことが考えられる。熱処理温度が300℃である場合は、熱処理温度が400℃である場合に比べて、炭化水素および水分の除去が不十分であったと考えられる。熱処理温度が500℃である場合は、LCOおよびNb−O
xの反応が進み、そのような粒子を用いてAD法を行ったため、容量が増加しなかったと考えられる。
【0065】
[実施例1−1]
参考例2−2で得られた活物質層に対して、酸素雰囲気中、350℃、1時間の条件で熱処理を行った。これにより、電極体を得た。
【0066】
[実施例1−2]
活物質層の熱処理温度を350℃から400℃に変更したこと以外は、実施例1−1と同様にして電極体を得た。
【0067】
[実施例1−3]
活物質層の熱処理温度を350℃から450℃に変更したこと以外は、実施例1−1と同様にして電極体を得た。
【0068】
[参考例3]
活物質層の熱処理温度を350℃から500℃に変更したこと以外は、実施例1−1と同様にして電極体を得た。
【0069】
[評価3]
(エネルギー分散型X線解析)
実施例1−2で得られた電極層の断面に対して、エネルギー分散型X線(EDX)解析を行った。その結果を
図6に示す。
図6(a)〜(d)に示すように、得られた活物質層は非常に密度の高い膜であることが確認された。また、LCOの粒界に、Nb−O構造が存在することが示唆された。これにより、LCOの粒界に、Li−Nb−O化合物を含有する相互拡散部が形成されていることが示唆された。
【0070】
(充放電試験)
実施例1−1〜1−3、参考例2−2、参考例3で得られた電極体を用いて評価用セルを作製し、充放電試験を行った。評価用セルの作製方法は、上記と同様である。一方、充放電試験の内容は、電流密度を20μA/cm
2としたこと以外は、上記と同様である。
【0071】
その結果を
図7に示す。
図7に示すように、活物質層の熱処理(AD法を行った後の熱処理)を行うことにより、容量が増加することが確認された。これは、LCO粒子の表面に存在する炭酸リチウム成分と、酸化ニオブ(Nb−O
x)とが反応し、Li−Nb−O化合物を含有する相互拡散部が形成されたためであると考えられる。一方、熱処理温度が500℃の場合は、Li−Nb−O化合物の結晶化が進行すると同時に、LCOの分解が生じていると考えられる。なお、参考までに、
図8には、実施例1−2、参考例2−2、参考例3の充放電曲線を示す。
【0072】
なお、電極表面上に形成されている炭酸リチウムは、結晶性が低い状態であるか、微結晶の状態であるため、比較的低い温度で、ニオブ酸化物と反応すると考えられる。
【0073】
(DSCおよびX線回折測定)
上述したように、参考例3(500℃)では、Li−Nb−O化合物の結晶化が進行すると同時に、LCOの分解が生じていると考えられる。ここで、参考例1−1〜1−4で得られた被覆活物質粒子に対して、示差走査熱量測定を行った。その結果を
図9に示す。
図9に示すように、450℃〜500℃の間に、被覆部分(ニオブ酸化物層)に由来する発熱反応が認められた。また、実施例1−2、参考例2−2、参考例3で得られた電極体の活物質層に対して、XRD測定を行った。その結果を
図10に示す。
図10に示すように、500℃の熱処理では、400℃の熱処理では現れないピークが現れた。これらのピークは、LiNbO
3およびLi
3NbO
4のピークである。また、500℃の熱処理では、400℃の熱処理に比べて、LCOのピークが減少していることから、LCOの分解が生じていることが示唆された。