(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鉄道車両の制御している輪軸の全てが同期して滑走している同期滑走を検出する同期滑走検出部であって、前記鉄道車両の制動時に、前記輪軸の間の速度差の絶対値が予め定めた同期滑走速度差閾値よりも小さく、且つ、前記輪軸の負の加速度が予め定めた同期滑走加速度閾値よりも大きいときに、前記同期滑走と判定するように構成されている同期滑走検出部、および、
前記制御している輪軸の全てが同期して空転している同期空転を検出する同期空転検出部であって、前記鉄道車両の加速時に、前記輪軸の間の速度差の絶対値が予め定めた同期空転速度差閾値よりも小さく、且つ、前記輪軸の正の加速度が予め定めた同期空転加速度閾値よりも大きいときに、前記同期空転と判定するように構成されている同期空転検出部、
の少なくともいずれかを備える鉄道車両用制御装置。
さらに、前記輪軸の一部または全部が非同期に滑走している非同期滑走を検出する非同期滑走検出部であって、前記鉄道車両の制動時に、前記輪軸の間の速度差の絶対値が予め定めた非同期滑走速度差閾値よりも大きいとき、または、前記輪軸の負の加速度が予め定めた非同期滑走加速度閾値よりも大きいときに、前記非同期滑走と判定するように構成され、前記非同期滑走速度差閾値は、前記同期滑走速度差閾値よりも大きい非同期滑走検出部、および、
前記輪軸の一部または全部が非同期に空転している非同期空転を検出する非同期空転検出部であって、前記鉄道車両の力行時に、前記輪軸の間の速度差の絶対値が予め定めた非同期空転速度差閾値よりも大きいとき、または、前記輪軸の正の加速度が予め定めた非同期滑走加速度閾値よりも大きいときに、前記非同期滑走と判定するように構成され、前記非同期空転速度差閾値は、前記同期空転速度差閾値よりも大きい非同期空転検出部、
の少なくともいずれかを備える請求項1に記載の鉄道車両用制御装置。
前記非同期滑走を検出したときに当該非同期滑走を検出した輪軸の制動トルクを低減する非同期滑走再粘着制御部、および、前記非同期空転を検出したときに当該非同期空転を検出した輪軸の力行トルクを低減する非同期空転再粘着制御部の少なくともいずれかを備える請求項2に記載の鉄道車両用制御装置。
前記同期滑走再粘着制御部および前記同期空転再粘着制御部の少なくともいずれかは、最も後方の前記輪軸を調節するように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の鉄道車両用制御装置。
前記同期滑走再粘着制御部および前記同期空転再粘着制御部の少なくともいずれかは、最も後方の前記輪軸を調節するように構成されていることを特徴とする請求項7に記載の鉄道車両用制御装置。
鉄道車両の制動時に、輪軸の間の速度差の絶対値が予め定めた同期滑走速度差閾値よりも小さく、且つ、前記輪軸の負の加速度が予め定めた同期滑走加速度閾値よりも大きいときに、前記輪軸の全てが同期して滑走していると判定する同期滑走検出方法。
鉄道車両の力行時に、輪軸の間の速度差の絶対値が予め定めた同期空転速度差閾値よりも小さく、且つ、前記輪軸の正の加速度が予め定めた同期空転加速度閾値よりも大きいときに、前記輪軸の全てが同期して空転していると判定する同期空転検出方法。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、多数の輪軸を有し、各輪軸の両端には、レールに当接する車輪がそれぞれ設けられる。鉄道車両の加速および減速は、車輪とレールとの間の粘着力、つまり、摩擦力により達成される。車輪とレールとの間の粘着力は、車輪やレールの摩耗状態、水濡れや異物の有無などの多様な条件のために均等ではない。また、粘着力は、車輪とレールとの間の動的状態、つまり、滑り率によっても変化する。具体的には、粘着力は、滑りが小さい範囲では、滑りの増大にともなって増加するが、ある限界(粘着限界)を超えると、滑りの増大にともなって減少する。
【0003】
このため、多数の輪軸に等しい制動トルクまたは力行トルクを作用させても、レールに対する粘着特性が車輪毎に異なり、輪軸間に速度差が生じる。粘着限界を超える滑りが生じた輪軸は、粘着特性が低下してさらに大きな滑りを招来し、滑走または空転状態となる。滑走または空転状態の輪軸は、粘着力の低下により鉄道車両の制動または力行に十分に寄与できなくなる。
【0004】
そこで、鉄道車両では、滑走または空転を検出し、滑走または空転が検出された輪軸の制動トルクまたは力行トルクを低減して滑走または空転を解消する制御が行われている。
【0005】
一般に、制動時には、輪軸の回転速度が高いほど、当該輪軸の車輪のレールに対する滑りが小さく、輪軸の回転速度が低いほど、車輪のレールに対する滑りが大きいと推認できる。また、力行時には、輪軸の回転速度が低いほど、当該輪軸の車輪のレールに対する滑りが小さく、輪軸の回転速度が高いほど、車輪のレールに対する滑りが大きいと推認できる。そこで、従来の方法では、制動時には最も高速の輪軸が、力行時には最も低速の輪軸が、レールに対する車輪の滑りがないものと考えて、それらの輪軸の速度を基準速度とし、基準速度と各輪軸の速度差の絶対値が予め定めた閾値以上である輪軸が滑走または空転していると判断する。
【0006】
また、鉄道車両の重量およびモータ/ブレーキの特性およびトルク指令等により、実現可能な鉄道車両の加速度は限られている。よって、従来の方法では、各輪軸の加速度の絶対値が、実現不可能な鉄道車両の加速度に相当する値を超えた場合には、輪軸が滑走または空転していると判断する。
【0007】
よって、従来の鉄道車両の制御方法では、速度差の絶対値が閾値以上である輪軸および加速度の絶対値が閾値以上である輪軸を滑走または空転していると判定し、その輪軸に印加される制動トルクまたは力行トルクを、速度差に応じて低減することおよび加速度に応じて低減することで、その車輪の滑走または空転を解消して再粘着させる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1の実施形態に係る鉄道車両の構成を示す。図示する鉄道車両は、実施形態に係る制御を実行する鉄道車両用制御装置である主制御装置1を備える制御車両2と、制御車両2に連結され、主制御装置1によって制御される従属車両3とを含む。制御車両2は、制御車両2および従属車両3を操縦するために、運転士によって操作される運転台4を備える。
【0015】
制御車両2および従属車両3は、それぞれ車両の長手方向の前後に配置された一対の台車を備える。各台車は、台車枠(図示せず)と、台車枠の長手方向の前後に配置され、両端に車輪5を有する一対の輪軸6をそれぞれ有する。制御車両2の輪軸6には、それぞれモータ7およびブレーキ8並びに輪軸6の速度を検出する速度検出装置としてのパルスジェネレータ9が設けられており、従属車両3の輪軸6には、それぞれブレーキ8およびパルスジェネレータ9が設けられている。このため、制御車両2は、モータ7の回転を個別に制御するモータコントローラ10およびブレーキ8を個別に制御するブレーキコントローラ11を有し、従属車両3は、ブレーキ8を個別に制御するブレーキコントローラ11を有する。本実施形態において、モータ7は、輪軸6を回転駆動する駆動装置であると共に、発電機として機能して輪軸6の回生制動を行う制動装置でもある。なお、速度検出装置は輪軸6の速度を検出できるものであればよく、パルスジェネレータ8に限定されない。例えば、エンコーダなどであっても構わない。
【0016】
本実施形態において、制御車両2は、駆動能力を有する車両であり、従属車両3は、駆動能力を有しない車両であるが、主制御装置1を備える制御車両2がモータ7のない車両であってもよい。運転台4は、制御車両2にあってもよく、従属車両3にあってもよい。また、1つの車両編成において、1台の制御車両2によって全ての車両を制御してもよく、輪軸6の制御を分担する複数の制御車両2が存在してもよい。
【0017】
本実施形態において、車両2,3を制動する場合、運転士は、運転台4を介して、主制御装置1に入力を与える。主制御装置1は、運転台4からの入力に応じて、各モータ7が発揮すべき駆動力または制動力および各ブレーキ8が発揮すべき制動力を、各モータコントローラ10および各ブレーキコントローラ11に入力する。また、主制御装置1は、各パルスジェネレータ9から入力される検出値に基づいて、それぞれの輪軸6の回転速度および加速度を算出する。それらの回転速度および加速度に基づいて、主制御装置1は、減速時の車輪5の滑走を抑制する滑走制御、および、力行時の車輪5の空転を抑制する空転制御を行う。
【0018】
尚、本実施形態では、1台の主制御装置1によって、全てのモータ7による輪軸6の制動と、全てのブレーキ8による輪軸6の制動とを制御する。このため、各モータ7および各ブレーキ8の制動力は、各モータコントローラ10および各ブレーキコントローラ11のキャリブレーションによって、互いに略等しくなるように予め調整される。よって、モータ7やブレーキ8は、必ずしも、それぞれ同じ仕様でなくてもよい。
【0019】
図2に、主制御装置1の構成を示す。尚、主制御装置1は、パルスジェネレータ9からの検出信号を受信する入力インターフェイス21と、モータコントローラ10およびブレーキコントローラ11に制御信号を送信する出力インターフェイス22とを有する。また、主制御装置1は、同期滑走検出部23、同期空転検出部24、非同期滑走検出部25、非同期空転検出部26、同期滑走再粘着制御部27、同期空転再粘着制御部28、非同期滑走再粘着制御部29および非同期空転再粘着制御部30を備える。尚、これらの構成要素は、必ずしも物理的に構成されるものではなく、コンピュータプログラムの部分として構成され得る。
【0020】
入力インターフェイス21は、パルスジェネレータ9からの検出信号に基づいて、各輪軸6の速度および加速度を算出し、算出した速度および加速度を、同期滑走検出部23、同期空転検出部24、非同期滑走検出部25、および非同期空転検出部26に入力する。同期滑走再粘着制御部27、同期空転再粘着制御部28、非同期滑走再粘着制御部29および非同期空転再粘着制御部30は、出力インターフェイス22を介して、制御しているモータコントローラ10および/またはブレーキコントローラ11に制御信号を出力する。
【0021】
また、同期滑走再粘着制御部27、同期空転再粘着制御部28、非同期滑走再粘着制御部29および非同期空転再粘着制御部30は、それぞれ、制御している輪軸6の車輪5がレールに再度粘着したかどうかを判定する再粘着判定部31,32,33,34を備える。
【0022】
図3に、車両2,3を制動する際の、主制御装置1による同期滑走制御の流れを示す。先ず、ステップS1において、同期滑走検出部23により、後で詳細に説明するような、全ての輪軸6が一定量以上、同程度に滑っている同期滑走を検出する同期滑走検出制御が行われる。そして、ステップS2では、ステップS1において同期滑走が検出されたか否かを確認する。同期滑走が検出されていれば、ステップS3に進んで、同期滑走再粘着制御部27により、第X番目の輪軸6の滑りを解消する同期滑走再粘着制御が行われる。
【0023】
同期滑走が検出されていないとき、および、同期滑走再粘着制御を完了したときは、ステップS4に進み、制動動作が継続中であるか否かを確認する。ステップS4において制動動作が終了していなければ、ステップS1に戻って、上記の制御を繰り返す。ステップS4において制動動作が終了していれば、この同期滑走制御を終了する。
【0024】
本実施形態の同期滑走再粘着制御は、上記のように第X番目の輪軸6に限定して適用されるが、複数または全ての輪軸6に同期滑走再粘着制御を適用されてもよい。
【0025】
図4に、車両2,3を制動する際に、
図3の同期滑走制御と並行して行われる非同期滑走制御の流れを示す。この非同期滑走制御では、先ず、ステップS11において、例えばN本すべての輪軸6を順番に制御するためのループパラメータYを設定する。続いて、ステップS12において、非同期滑走検出部25により、従来と同様の方法で、第Y番目の輪軸6が他の輪軸6との比較において滑走している非同期滑走を検出する非同期滑走検出制御を行う。
【0026】
そして、ステップS13において非同期滑走が検出されたか否かを確認する。非同期滑走が検出されていれば、ステップS14に進んで、滑走が確認された輪軸6の滑りを解消する非同期滑走再粘着制御が非同期滑走再粘着制御部29によって行われる。本実施形態において、非同期滑走再粘着制御は、従来の再粘着制御と同じ方法が適用できる。非同期滑走が検出されていないとき、および、非同期滑走再粘着制御を完了したときは、ループ終端であるステップS15に進む。
【0027】
ステップS15では、全ての輪軸6について上記処理が完了するまで、つまり、ループパラメータYがNになるまで、ステップS11に戻るループ処理を行う。全ての輪軸6について上記処理が完了したなら、ステップS16で、制動動作が継続中であるか否かを確認する。ステップS16において制動動作が終了していなければ、ステップS11に戻って、上記のループ処理を繰り返す。ステップS16において制動動作が終了していれば、この非同期滑走制御を終了する。
【0028】
図5に、上記の同期滑走および非同期滑走の判定条件を示す。同期滑走検出制御において、
図5は、輪軸6の間の速度差の最大値、または、最も高速の輪軸6の速度を補正して得られる基準速度との速度差の最大値を横軸とし、最も加速度の絶対値の大きな輪軸6の加速度を縦軸として適用される。一方、非同期滑走検出制御において、
図5は、一つの輪軸6の基準速度との速度差を横軸とし、一つの輪軸6の加速度を縦軸として適用される。
【0029】
尚、
図5は、後述する力行運転時の空転制御にも適用される。力行運転においては、制動運転時の滑走制御とは加速度の向きが反対になる。よって、滑走制御と空転制御の両方に適用できるように、図において加速度および速度差は、絶対値として表されている。
【0030】
具体的には、本実施形態では、同期滑走および非同期滑走の判定に共通して用いられる滑走加速度閾値Atが予め設定され、輪軸6間の速度差の絶対値について、同期滑走の判定に用いられる同期滑走速度差閾値Vts、および、非同期滑走の判定に用いられる非同期滑走速度差閾値Vtpが予め設定されている。尚、基準速度は、実測した速度データから、起こり得ない変化を除去するような公知の方法で算出される。
【0031】
この図において、検出された速度差の最大値が、同期滑走速度差閾値Vtsよりも小さく、且つ、検出された加速度が滑走加速度閾値Atをよりも大きい場合は、輪軸6が同期して一様に滑っている同期滑走状態であると判定される。
【0032】
また、それぞれの輪軸6について検出された速度差が、非同期滑走速度差閾値Vtpより大きい場合、および、検出された速度差が、同期滑走速度差閾値Vtsより大きく、且つ、検出された加速度が滑走加速度閾値Atをよりも大きい場合は、当該輪軸6が滑走状態であると判定される。
【0033】
よって、全ての輪軸6について検出された速度差が、非同期滑走速度差閾値Vtp以下であり、且つ、検出された加速度が滑走加速度閾値At以下である場合は、いずれの輪軸6にも有意な滑りがない粘着状態であると判定される。
【0034】
図6に、同期滑走検出部23により行われる、
図3のステップS1の同期滑走検出制御の詳細な制御の流れを示す。この制御では、先ず、ステップS21において、
図5について説明したように、輪軸6の速度差の最大値が同期滑走速度差閾値Vtsより小さく、且つ、最も加速度の絶対値の大きな輪軸6の加速度が滑走加速度閾値Atをよりも大きいか否か、つまり、検出されたデータが同期滑走領域内にあるか否かを確認する。検出されたデータが同期滑走領域内になければ、ステップS22に進んで、同期滑走検出中フラグFdsの値を「0(偽)」に設定してから、この処理を終了する。
【0035】
検出されたデータが同期滑走領域内にある場合、ステップS23において、同期滑走検出中フラグFdsの値を確認する。同期滑走検出中フラグFdsの値が「0(偽)」であれば、ステップS24において同期滑走検出中フラグFdsの値を「1(真)」に設定し、ステップS25において同期滑走検出タイマTdsをスタートする。
【0036】
ステップS23において、同期滑走検出中フラグFdsの値が「1(真)」であった場合、並びに、ステップS24およびステップS25の処理を完了した場合には、ステップS26に進んで、同期滑走検出タイマTdsの値を確認する。同期滑走検出タイマTdsの値が予め設定した同期滑走タイマ閾値Tts以上であれば、ステップS27において、同期滑走フラグFssの値を、同期滑走状態を検出したことを示す「1(真)」に設定し、この処理を終了する。同期滑走検出タイマTdsの値が予め設定した同期滑走タイマ閾値Tts未満であれば、同期滑走フラグFssの値を変更することなく、この処理を終了する。
【0037】
したがって、本実施形態では、
図3において、ステップS1の同期滑走検出制御が複数回繰り返され、検出されたデータが同期滑走領域内にある状態が同期滑走タイマ閾値Tts以上継続したと確認されたときに、同期滑走状態であると判定される。
【0038】
図7は、非同期滑走検出部25により行われる、
図4のステップS12の非同期滑走検出制御の詳細な制御の流れを示す。この制御では、先ず、ステップS31において、
図5について説明したように、輪軸6の速度差の最大値が非同期滑走速度差閾値Vtpより大きいか、或いは、最も加速度の絶対値の大きな輪軸6の加速度が滑走加速度閾値Atをよりも大きいか、つまり、検出されたデータが同期滑走領域および非同期滑走領域内の少なくともいずれかにあるか否かを確認する。検出されたデータが同期滑走領域内にも非同期滑走領域内にもなければ、ステップS32に進んで、非同期滑走検出中フラグFdsの値を「0(偽)」に設定してから、この処理を終了する。
【0039】
検出されたデータが同期滑走領域内または非同期滑走領域内にある場合、ステップS33において、非同期滑走検出中フラグFdpの値を確認する。非同期滑走検出中フラグFdpの値が「0(偽)」であれば、ステップS34において非同期滑走検出中フラグFdpの値を「1(真)」に設定し、ステップS35において非同期滑走検出タイマTdpをスタートする。
【0040】
ステップS33において、非同期滑走検出中フラグFdpの値が「1(真)」であった場合、並びに、ステップS34およびステップS35の処理を完了した場合には、ステップS36に進んで、非同期滑走検出タイマTdpの値を確認する。非同期滑走検出タイマTdpの値が予め設定した非同期滑走タイマ閾値Ttp以上であれば、ステップS37において、非同期滑走フラグFspの値を、同期滑走状態または非同期滑走状態を検出したことを示す「1(真)」に設定してから、この処理を終了する。非同期滑走検出タイマTdpの値が予め設定した非同期滑走タイマ閾値Ttp未満であれば、非同期滑走フラグFspの値を変更することなく、この処理を終了する。
【0041】
図8は、同期滑走再粘着制御部27により行われる、
図3のステップS3の同期滑走再粘着制御の詳細な制御の流れを示す。この制御では、先ず、ステップS41において、本制御が適用される第X番目の輪軸6の制動トルクをゼロにするように、主制御装置1から対応するモータコントローラ10またはブレーキコントローラ11に指令信号が入力される。ここで、制御対象とする輪軸6は、後述する非同期滑走再粘着制御の効果を促進するために、容易に滑走を解消できると予想される輪軸6とすることが好ましい。つまり、制動トルクを調節する制御対象は、最も滑動し難いと予想される輪軸6、例えば最も後方の輪軸6、または、実測データ上で最も速度が高い輪軸6とすることが好ましい。また、制動トルクを完全にゼロにせず、予め定めた十分に小さい値としてもよい。
【0042】
続いて、ステップS42において、粘着タイマTaをスタートし、ステップS43において、粘着タイマTaの値を確認する。粘着タイマTaの値が、予め設定した粘着限度時間Tl未満であれば、ステップS44において、第X番目の輪軸6の加速度の値および再粘着フラグFaの値を確認する。加速度の値が正の値でなく、且つ、再粘着フラグFaの値が「0(偽)」である場合、ステップS43に戻る。ステップS44において、加速度の値が正の値であるか、再粘着フラグFaの値が「1(真)」であれば、ステップS45に進んで、再粘着フラグFaの値を「1(真)」に設定し、ステップS46に進む。ステップS46では、第X番目の輪軸6の加速度の値を再度確認する。ステップS46で加速度が負の値でなければ、ステップS43に戻る。
【0043】
ステップS43において、粘着タイマTaの値が粘着限度時間Tl以上である場合、および、ステップS46において第X番目の輪軸6の加速度が負の値である場合には、ステップS47からステップS49までの処理を行って、同期滑走再粘着制御を終了する。ステップS47では、再粘着フラグFaの値を「0(偽)」に設定する。ステップS48では、制御対象のモータコントローラ10またはブレーキコントローラ11に、運転台の入力に応じた制動トルクを生じさせるように指令信号を入力する。ステップS49では、同期滑走フラグFssの値を「0(偽)」に設定する。
【0044】
この同期滑走再粘着制御では、ステップS44からステップS46までの処理において、制御対象の輪軸6の再粘着の確認が行われている(再粘着判定部31)。この処理を説明するのに先立って、
図9に、制動中の輪軸6の速度および加速度の変化、並びに、輪軸6の制動トルクの変化の概要を示す。尚、上の図には、車両の並進速度を細い実線で示し、これに対応させるために、輪軸6の回転速度をその車輪5の周速に換算して示している。
【0045】
図9において、輪軸6は、時間T1に滑り初め、その後、速度が列車の並進速度よりも低くなり、滑りの増大にともなって加速度が低下し、時間T2において、粘着限界に達している。その後、時間T3において、同期滑走検出タイマTdsの値が予め設定した同期滑走タイマ閾値Ttsに達し(ステップS26)、輪軸6に対する制動トルクが除去されている。これにより、車輪5とレールとの摩擦力が輪軸を加速する方向に作用して、輪軸6の加速度が上昇している。時間T4において、輪軸6の加速度が正の値になったことが確認されている(ステップS44)。そして、輪軸6の速度が車両並進速度に達すると、輪軸6は、車輪5とレールが再粘着することによって、車両並進速度とともに低下するようになる。そして、時間T5において、輪軸6の速度の加速度が再び減速を示す負の値になったことが確認され(ステップS46)、その後、制動トルクが回復されて、この輪軸6が車両の制動に寄与する状態に復帰している。
【0046】
以上を参照すると、ステップS44では、時間T3から時間T4までの間は、再粘着フラグFaの値が「0(偽)」のままであり、加速度が負の値であるため、次のステップS45には進めない。時間T4において加速度が正の値であることが確認されると、ステップS44からステップS45に進んで、再粘着の途中であることを示す再粘着フラグFaの値を「1(真)」に設定する。その後、ステップS46において加速度が再度負の値になったことが確認されるまでは、ステップS43を経由してステップS44に戻る。このとき、再粘着フラグFaの値が「1(真)」となっているため、ステップS44からステップS45,S46に進むことができる。そして、時間T5に加速度が再度負の値になったことが確認されると、ステップS46からステップS47に進んで、再粘着フラグFaの値を「0(偽)」に設定して、再粘着が終了したことを示す。
【0047】
また、ステップS43において粘着タイマTaの値を確認しているが、これは、同期滑走再粘着制御を開始してから、予め定めた粘着限度時間Tlが経過したときには、再粘着が確認されていなくても、同期滑走再粘着制御を終了するためである。なぜなら、速度を検出するパルスジェネレータ9のノイズおよび粘着特性や勾配条件の急激な変動等によって、再粘着が確認できない可能性を考慮して、一度、
図3の制御に戻ることが望ましいからである。このようにして、
図3の制御に戻った後、再度、同期滑走検出制御において同じ輪軸6に同期滑走が検出されれば、もう一度、同期滑走再粘着制御が開始される。この場合、別の輪軸6を制御対象としたり、運転台4に通知表示をしたりするようにしてもよい。
【0048】
図10に、非同期滑走再粘着制御部29により行われる、
図4のステップS14の非同期滑走再粘着制御の詳細な制御の流れを示す。この制御では、先ず、ステップS51において、Y番目の輪軸6、つまり、直前に非同期滑走を検出した輪軸6の制動トルクを、運転台4への入力に対応する指令値に、当該輪軸6の基準速度(最も高速の輪軸6の回転速度またはそれを補正した値)に対する比を乗じたトルクに設定するように、当該輪軸6のモータコントローラ10またはブレーキコントローラ11への入力信号を設定する。
【0049】
但し、同期滑走検出制御において同期滑走が検出されると同時に、非同期滑走検出制御においてX番目の輪軸6に非同期滑走が検出される可能性もある。そのような場合、X番目の輪軸6に対しては、
図8の同期滑走再粘着制御を優先し、この非同期滑走再粘着制御を適用しない。
【0050】
そして、ステップS52において、当該輪軸6の速度と基準速度との差、および、当該輪軸6の加速度を確認する。この速度差が非同期滑走速度差Vtpより小さく、かつ、加速度が滑走加速度閾値Atより小さい場合、つまり、当該輪軸6のデータが
図5の粘着領域内にある場合には、ステップS53に進み、当該輪軸6のデータが
図5の粘着領域内にない場合には、ステップS51に戻り、制動トルクの再設定を行う。つまり、このステップS52は、
図2の再粘着判定部33により行われる。ステップS53では、当該輪軸の制動トルクを、運転台4への入力に対応する指令値に合わせるような、通常の制御によるトルク設定に戻す。さらに、ステップS54において、非同期滑走フラグFspの値を「0(偽)」に戻して、この非同期滑走再粘着制御を終了する。
【0051】
図11は、上記の滑走制御のシミュレーション結果の一例を示す。図示したデータは、車輪5とレールとの摩擦を低く設定したときのものである。中央の図において、要求トルクは、車両の並進速度を所望の減速率で制動するために必要な制動力を全ての輪軸6で等分したときに各輪軸6に必要とされるトルクである。一方、図中の実トルクは、シミュレーション上、1つの輪軸6が分担できたトルク、つまり、当該輪軸6に作用した制動トルクを示す。
【0052】
本実施形態では、同期滑走検出制御により同期滑走が検出された場合、同期滑走再粘着制御によって、1つの輪軸6の速度を車両の並進速度に合致させるので、同期滑走再粘着制御の対象となった輪軸6と同期滑走再粘着制御の対象とならなかった輪軸6との間の速度差が大きくなる。つまり、同期滑走再粘着制御は、従来と同様の方法を適用できる非同期滑走検出制御および非同期滑走再粘着制御において基準となる滑りの最も少ない車軸6の速度を車両並進速度に合致させることで、非同期滑走再粘着制御による滑走抑制効果を促進する。
【0053】
また、
図12に、本実施形態の車両2,3を加速する力行時の輪軸6の同期空転を抑制する同期空転制御の流れを示す。この同期空転制御は、
図3,6,8に示した同期滑走制御と加速の向きが異なるだけで、基本的に同じ内容である。
【0054】
同期空転制御の全体的な流れを説明すると、先ず、ステップS61において、同期空転検出部24により、輪軸6が一定量以上、同程度に滑っている同期空転を検出する同期空転検出制御が行われる。但し、本制御では、モータ7を有し、力行トルクが印加される輪軸6のみが制御対象である。力行トルクが印加されない輪軸6は空転しないからである。
【0055】
そして、ステップS62では、ステップS61において同期空転が検出されたか否かを確認する。同期空転が検出されていれば、ステップS63に進んで、同期空転再粘着制御部28により、少なくとも1つの輪軸6の滑りを解消する同期空転再粘着制御が行われる。尚、本実施形態は、第X番目の輪軸6をのみを同期空転再粘着制御の制御対象とする例であるが、複数の輪軸6または全ての輪軸6を制御対象としてもよい。但し、この同期空転再粘着制御も、モータ7を有する輪軸のみが対象となり得る。
【0056】
同期空転が検出されていないとき、および、同期空転再粘着制御を完了したときは、ステップS64に進み、力行運転が継続中であるか否かを確認する。ステップS64において力行運転が終了していなければ、ステップS61に戻って、上記の制御を繰り返す。ステップS64において力行動作が終了していれば、この同期空転制御を終了する。
【0057】
図13に、車両2,3を力行する際に、
図12の同期空転制御と並行して行われる、非同期空転制御の流れを示す。この非同期空転制御は、
図4,7,10に示した非同期滑走制御と加速の向きが異なるだけで、基本的に同じ内容である。非同期空転制御では、先ず、ステップS71において、例えばN本すべての輪軸6を順番に制御するためのループパラメータYを設定する。続いて、ステップS72において、非同期空転検出部26により、従来と同様の方法で、第Y番目の輪軸6が、他の輪軸6との比較において空転している非同期空転を検出する非同期空転検出制御を行う。
【0058】
そして、ステップS73において非同期空転が検出されたか否かを確認する。非同期空転が検出されていれば、ステップS74に進んで、非同期空転再粘着制御部30により、空転が確認された輪軸6の滑りを解消する非同期空転再粘着制御が行われる。本実施形態において、非同期空転再粘着制御は、従来の再粘着制御と同じ方法が適用できる。非同期空転が検出されていないとき、および、非同期空転再粘着制御を完了したときは、ループ終端であるステップS75に進む。
【0059】
ステップS75では、全ての輪軸6について上記処理が完了するまで、つまり、ループパラメータYがNになるまで、ステップS71に戻るループ処理を行う。全ての輪軸6について上記処理が完了したなら、ステップS76で、力行動作が継続中であるか否かを確認する。ステップS76において制動動作が終了していなければ、ステップS71に戻って、上記のループ処理を繰り返す。ステップS76において力行動作が終了していれば、同期空転制御を終了する。
【0060】
この非同期空転検出制御は、モータ7を有する輪軸6のみを対象としてもよいが、モータ7を有さず、空転しない輪軸6も制御対象とすることで、基準速度を常に車両の並進速度に一致させられる。
【0061】
図14に、本実施形態の力行中の輪軸6の速度および加速度の変化、並びに、輪軸6の制動トルクの変化の概要を示す。図示するように、力行時は、最も低速の輪軸6が車両並進速度に近いと考えられるため、最も高速の輪軸6が問題となる。また、同期空転再粘着制御では、
図8の同期滑走再粘着制御のステップS44およびステップS46に対応する工程において、その閾値の符号が逆になることに留意が必要である。つまり、力行トルクを除去した輪軸6の加速度が負の値になった後に再度正の値となったときに再粘着が完了したと判断する。
【0062】
本実施形態は、
図5に示すように、速度差について非同期滑走速度差閾値Vtpよりも小さい同期滑走速度差閾値Vtsを設けている。これにより、加速度が加速度滑走加速度閾値Atよりも大きい場合に、速度差が同期滑走速度差閾値Vtsを基準にして、全ての輪軸が同期して空転/滑走している同期滑走/同期空転であるか、一部または全ての輪軸が空転/滑走している非同期滑走/非同期空転であるかを判別できる。
【0063】
また、同期滑走/同期空転の場合には非同期滑走/非同期空転の場合よりも制動/力行トルクを小さくする再粘着制御を行うことで、同期滑走/同期空転にも、短時間で空転/滑走を解消できる。特に、同期滑走再粘着制御/同期空転再粘着制御を、滑りの少ない軸に適用することで、従来と同様の非同期滑走再粘着制御/非同期空転再粘着制御との相互作用によって極めて短時間で空転/滑走を解消できる。
【0064】
尚、
図5は、空転制御における同期空転速度差閾値、非同期空転速度差閾値および空転加速度閾値を、それぞれ、滑走制御における同期滑走速度差閾値Vts、非同期滑走速度差閾値Vtpおよび滑走加速度閾値Atと同じ値に設定することを企図している。しかしながら、空転制御における同期空転速度差閾値、非同期空転速度差閾値および空転加速度閾値は、同期滑走速度差閾値Vts、非同期滑走速度差閾値Vtpおよび滑走加速度閾値Atと異なる値でもよい。
【0065】
さらに、同期滑走検出制御における滑走加速度閾値(同期滑走加速度閾値)と、非同期滑走検出制御における滑走加速度閾値(非同期滑走加速度閾値)とを異なる値に設定してもよい。
【0066】
また、本実施形態は、滑走制御および空転制御の両方を実現する鉄道車両用制御装置、滑走制御および空転制御のいずれか一方だけを実現する鉄道車両用制御装置、並びに、同期滑走検出方法および同期空転検出方法を含む。