(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6092776
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】可溶性補体受容体I型(sCR1)を用いる慢性腎症の処置
(51)【国際特許分類】
A61K 38/00 20060101AFI20170227BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20170227BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20170227BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20170227BHJP
【FI】
A61K37/02ZNA
A61P13/12
A61P43/00 111
!C07K14/705
【請求項の数】34
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2013-529328(P2013-529328)
(86)(22)【出願日】2011年9月15日
(65)【公表番号】特表2013-538232(P2013-538232A)
(43)【公表日】2013年10月10日
(86)【国際出願番号】US2011051792
(87)【国際公開番号】WO2012037370
(87)【国際公開日】20120322
【審査請求日】2014年9月16日
(31)【優先権主張番号】61/383,004
(32)【優先日】2010年9月15日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510122326
【氏名又は名称】セルデックス セラピューティクス インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】504315680
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ アイオワ リサーチ ファンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【弁理士】
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】スミス,リチャード・ジェイ・エイチ
(72)【発明者】
【氏名】ジャーン,ユジョウ
(72)【発明者】
【氏名】マーシュ,ヘンリー・シー
【審査官】
深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】
特表平08−510257(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/054403(WO,A1)
【文献】
特開2003−238596(JP,A)
【文献】
特表平08−501773(JP,A)
【文献】
Couser W G; Johnson R J; Young B A; Yeh C G; Toth C A; Rudolph A R,The effects of soluble recombinant complement receptor 1 on complement-mediated experimental glomerulonephritis.,Journal of the American Society of Nephrology : JASN, (1995 May) Vol. 5,No. 11, pp. 1888-94.,1995年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性補体受容体I型(sCR1)ポリペプチド;および医薬的に許容できるキャリヤーまたは賦形剤を含む、哺乳類におけるデンスデポジット病(DDD)または単離されたC3沈着を伴う糸球体腎炎(GN−C3)を処置するための医薬組成物。
【請求項2】
前記のsCR1ポリペプチドが、以下:
少なくとも短いコンセンサス反復8〜11を含むヒトCR1の断片;
少なくとも短いコンセンサス反復15〜18を含むヒトCR1の断片;
ヒトCR1の短いコンセンサス反復8〜11および15〜18を含む可溶性CR1ポリペプチド;
長い相同性反復Bを含むヒトCR1の断片;
長い相同性反復Cを含むヒトCR1の断片;
長い相同性反復BおよびCを含むヒトCR1の断片;
長い相同性反復B、CおよびDを含むヒトCR1の断片;
少なくとも長い相同性反復AおよびBを含むヒトCR1の断片;
長い相同性反復A、BおよびCを含むヒトCR1の断片;
長い相同性反復A、B、CおよびDを含むヒトCR1の断片;
CR1の細胞外ドメインを含むヒトCR1の断片;
CR1の細胞外ドメインを含み、N末端のLHR Aが欠失しているヒトCR1の断片(sCR1[desLHR−A]);
インビボでの血清半減期を向上させるために改変された糖鎖付加を有する可溶性CR1ポリペプチド;
シアリルルイスX部分を提示するように改変された糖鎖付加を有する可溶性CR1ポリペプチド(sCR1−sLex);
キャリヤー分子に連結された2個以上のCR1ポリペプチド部分を有する可溶性CR1コンストラクト;ならびに
それらの組み合わせ;
からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記のsCR1ポリペプチドが、以下:
CR1の細胞外ドメインを含むヒトCR1の断片;
インビボでの血清半減期を向上させるために改変された糖鎖付加を有する可溶性CR1ポリペプチド;
シアリルルイスX部分を提示するように改変された糖鎖付加を有する可溶性CR1ポリペプチド(sCR1−sLex);および
それらの組み合わせ;
からなる群から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記のsCR1ポリペプチドが、以下:
(i)C3bに結合する能力;
(ii)C4bに結合する能力;
(iii)C3bに結合する、およびC4bに結合する能力;
(iv)I因子補因子活性;
(v)古典的C3コンバターゼ活性を阻害する能力;
(vi)代替C3コンバターゼ活性を阻害する能力;
(vii)古典的C5コンバターゼ活性を阻害する能力;
(viii)代替C5コンバターゼ活性を阻害する能力;
(ix)好中球の酸化的バーストを阻害する能力;
(x)補体に媒介される溶血を阻害する能力;
(xi)C3a産生を阻害する能力;ならびに
(xii)C5a産生を阻害する能力;
からなる群から選択される補体制御活性を示す、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記のsCR1ポリペプチドが、古典的活性化経路および代替活性化経路の両方を介して補体活性化を阻害する能力を示す、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記の哺乳類がヒトである、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記のDDDまたはGN−C3が結果として腎組織におけるC3沈着をもたらす、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
sCR1ポリペプチドが腎組織におけるさらなるC3沈着を低減する、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
sCR1ポリペプチドが腎組織における既存のC3沈着を少なくとも部分的に逆行させる、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
sCR1ポリペプチドが腎臓損傷を低減する、請求項1〜9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
sCR1ポリペプチドがさらなる腎臓損傷を低減する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
sCR1ポリペプチドが既存の腎臓損傷を少なくとも部分的に逆行させる、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
sCR1ポリペプチドが腎機能の劣化を低減する、請求項1〜12のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
sCR1ポリペプチドが腎機能を向上させる、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
sCR1ポリペプチドが、以下:i)低減したタンパク尿、ii)低減した血清クレアチニン、および/またはiii)向上した糸球体濾過率、の1つ以上により示されるように腎機能を向上させる、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
sCR1ポリペプチドの投与がC3の血清レベルを増大させる、請求項1〜15のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
前記のポリペプチドが皮内、筋内、腹腔内、静脈内、皮下、髄腔内、硬膜外、経口または肺経路により投与されるよう処方される、請求項1〜16のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】
デンスデポジット病(DDD)または単離されたC3沈着を伴う糸球体腎炎(GN−C3)の処置のための医薬の製造における、可溶性補体受容体I型ポリペプチドの使用。
【請求項19】
デンスデポジット病(DDD)または単離されたC3沈着を伴う糸球体腎炎(GN−C3)の処置のための医薬を製造するための方法であって、ここで前記医薬が可溶性補体受容体I型(sCR1)ポリペプチドを含む、方法。
【請求項20】
前記のsCR1ポリペプチドが、以下:
少なくとも短いコンセンサス反復8〜11を含むヒトCR1の断片;
少なくとも短いコンセンサス反復15〜18を含むヒトCR1の断片;
ヒトCR1の短いコンセンサス反復8〜11および15〜18を含む可溶性CR1ポリペプチド;
長い相同性反復Bを含むヒトCR1の断片;
長い相同性反復Cを含むヒトCR1の断片;
長い相同性反復BおよびCを含むヒトCR1の断片;
長い相同性反復B、CおよびDを含むヒトCR1の断片;
少なくとも長い相同性反復AおよびBを含むヒトCR1の断片;
長い相同性反復A、BおよびCを含むヒトCR1の断片;
長い相同性反復A、B、CおよびDを含むヒトCR1の断片;
CR1の細胞外ドメインを含むヒトCR1の断片;
CR1の細胞外ドメインを含み、N末端のLHR Aが欠失しているヒトCR1の断片(sCR1[desLHR−A]);
インビボでの血清半減期を向上させるために改変された糖鎖付加を有する可溶性CR1ポリペプチド;
シアリルルイスX部分を提示するように改変された糖鎖付加を有する可溶性CR1ポリペプチド(sCR1−sLex);
キャリヤー分子に連結された2個以上のCR1ポリペプチド部分を有する可溶性CR1コンストラクト;ならびに
それらの組み合わせ;
からなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記のsCR1ポリペプチドが、以下:
CR1の細胞外ドメインを含むヒトCR1の断片;
インビボでの血清半減期を向上させるために改変された糖鎖付加を有する可溶性CR1ポリペプチド;
シアリルルイスX部分を提示するように改変された糖鎖付加を有する可溶性CR1ポリペプチド(sCR1−sLex);および
それらの組み合わせ;
からなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記のsCR1ポリペプチドが、以下:
(i)C3bに結合する能力;
(ii)C4bに結合する能力;
(iii)C3bに結合する、およびC4bに結合する能力;
(iv)I因子補因子活性;
(v)古典的C3コンバターゼ活性を阻害する能力;
(vi)代替C3コンバターゼ活性を阻害する能力;
(vii)古典的C5コンバターゼ活性を阻害する能力;
(viii)代替C5コンバターゼ活性を阻害する能力;
(ix)好中球の酸化的バーストを阻害する能力;
(x)補体に媒介される溶血を阻害する能力;
(xi)C3a産生を阻害する能力;ならびに
(xii)C5a産生を阻害する能力;
からなる群から選択される補体制御活性を示す、請求項19〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記のsCR1ポリペプチドが、古典的活性化経路および代替活性化経路の両方を介して補体活性化を阻害する能力を示す、請求項19〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記の哺乳類がヒトである、請求項19〜23に記載の方法。
【請求項25】
前記のDDDまたはGN−C3が結果として腎組織におけるC3沈着をもたらす、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
sCR1ポリペプチドが腎組織におけるさらなるC3沈着を低減する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
sCR1ポリペプチドが腎組織における既存のC3沈着を少なくとも部分的に逆行させる、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
sCR1ポリペプチドが腎臓損傷を低減する、請求項19〜27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
sCR1ポリペプチドがさらなる腎臓損傷を低減する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
sCR1ポリペプチドの投与が既存の腎臓損傷を少なくとも部分的に逆行させる、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
sCR1ポリペプチドが腎機能の劣化を低減する、請求項19〜30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
sCR1ポリペプチドの投与が腎機能を向上させる、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
sCR1ポリペプチドの投与が、以下:i)低減したタンパク尿、ii)低減した血清クレアチニン、および/またはiii)向上した糸球体濾過率、の1つ以上により示されるように腎機能を向上させる、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
sCR1ポリペプチドがC3の血清レベルを増大させる、請求項19〜33のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権出願の相互参照
この出願は、2010年9月15日に出願された米国仮出願第61/383,004号に対する優先権を主張し、その内容を本明細書に援用する。
【0002】
連邦政府により資金提供を受けた研究に関する記載
本明細書で記述される発明は、国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(NIDDK)からのNIH/NIDDK助成金第1 R01 DK074409号により部分的に支援された。従って、米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、最終的に腎機能を害する代替経路補体活性化の調節不全と関係する疾患、特に非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)およびデンスデポジット病(DDD、膜性増殖性糸球体腎炎II型またはMPGN2としても知られている)、ならびに単離された(isolated)C3沈着を伴う糸球体腎炎(GN−C3)またはC3糸球体症(C3G)と呼ばれる最近記述された症候群の処置のための医薬組成物に関する。具体的には、本発明は、そのような疾患を処置するための可溶性補体受容体I型(sCR1)を含む医薬組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0004】
補体系は、微生物、異質粒子および変化した自己細胞の攻撃および排除を、3つの異なる活性化の経路:古典的経路、代替経路、およびレクチン経路を介して直接的または間接的に媒介する40種類より多くの異なるタンパク質を含む(
The Complement System, 第2改定版, Rother et al. (編者); Springer Verlag, 1998参照)。その補体系は先天免疫の主な構成要素であり、感染に対する中心的な宿主防御である。抗原抗体複合体を含む古典的経路を介する、レクチン経路による、または特定の細胞壁多糖類の認識を含む代替経路による補体カスケードの活性化は、微生物の溶解、走化性、オプソニン作用、血管細胞および他の平滑筋細胞の刺激、肥満細胞の脱顆粒、小さい血管の増大した透過性、白血球の方向付けられた移動、ならびにBリンパ球およびマクロファージの活性化が含まれるある範囲の活動を媒介する。膜侵襲複合体(MAC)は、その活性化された補体カスケードの最終産物である。それは病原体に対して致死的であり、準溶解性(sublytic)レベルでは有核細胞(例えば平滑筋細胞、内皮細胞)からのサイトカイン類および成長因子、例えばベータ−FGFおよびVEGFの放出を引き起こす、溶解性の多タンパク質複合体である。
【0005】
いくつかのヒトの疾患は、これらの活性化経路の1つ以上を介する補体カスケードの望まれない活性化を特徴とし、それは典型的な活性化マーカー、例えばその補体カスケードの下流の構成要素、例えばその補体系の切断産物および阻害因子−プロテアーゼ複合体の高められたレベルにより反映される。特異的なC3コンバターゼによるC3のタンパク質分解的切断は、補体活性化において主要な役割を果たしている。C3コンバターゼは、新しいC3コンバターゼ分子の潜在的構成要素であるC3bの形態を生成し、それによりそのカスケードを刺激する。
【0006】
自己細胞および組織の保護は、通常は流体相中に(可溶性形態)、および/または膜に結合した形態で存在する特異的な補体制御タンパク質または阻害因子によりきつく制御されている。その膜に結合した補体制御タンパク質には、C3bおよびC4bに結合し、C3コンバターゼを解体し、I因子によるC3b/C4bの分解を可能にする補体受容体I型(CR1またはCD35);C3bに結合してC3/C5コンバターゼを解体する崩壊促進因子(DAFまたはCD55);ならびにC3bおよびC4bに結合してI因子によるそれらの分解を可能にする膜補因子タンパク質(MCPまたはCD46)が含まれる。その膜に固定された補体制御タンパク質に加えて、可溶性制御タンパク質であるH因子は自己細胞のポリ陰イオン性表面への付着により強力な保護因子の役目を果たし、そこでそれは補体阻害可能性を増大させる(Jozsi et al., Histol. Histopathol., 19:251-8 (2004))。このH因子の保護活性は主に、(1)共有結合したC3bへの結合およびBbの置換(崩壊促進)、ならびに(2)セリンプロテイナーゼであるI因子によるタンパク質分解的切断によるC3bの永久的不活性化の触媒(補因子活性:例えばiC3b、C3cの生成)によるその代替C3コンバターゼC3bBbの寿命の効率的な低減により達成される(
The Complement System, 第2改定版, Rother et al. (編者); Springer Verlag, 1998; pp. 28, 34-7)。表層の外側の相(おおよそ20〜140nm)におけるH因子のI因子に関する補因子としての活性は、H因子の表面に局在するプロテオグリカン類へのC末端の短いコンセンサス反復を用いた結合により促進される(Jozsi et al. (2004), 上記)。H因子の保護的可能性は、その補体カスケードの進行を局所的に制限する。これは、少数の膜に固定された補体制御因子を発現する細胞にとって、またはそのような補体制御タンパク質を完全に欠く組織、例えば腎臓の糸球体基底膜にとって特に重要である(Hogasen et al., J. Clin. Invest., 95:1054-61 (1995))。
【0007】
機能するH因子タンパク質の著しい低減または非存在、すなわち低減もしくは削除されたH因子発現、または機能しない、もしくは低減した機能性を有する変異H因子の産生につながるH因子遺伝子の変異による、機能するH因子タンパク質の著しい低減または非存在は、非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、デンスデポジット病(DDD、膜性増殖性糸球体腎炎II型またはMPGN2としても知られている)、および単離されたC3沈着を伴う糸球体腎炎(GN−C3、時々C3糸球体症またはC3Gとも呼ばれる)のような疾患における1つの可能性のある原因であることが実証されてきた。これらの疾患は最終的に腎機能を害する。糸球体膜は内在性の補体制御膜タンパク質を欠くため、この部位においてC3の継続的な切断が起こり、結果として補体活性化産物の沈着をもたらし、結果としてC3コンバターゼに媒介される糸球体基底膜の、ならびに上皮細管および内皮細胞の損傷、細胞外マトリックスおよび/または補体系の構成要素(例えばC3切断産物)の、および抗体の沈着による膜肥厚をもたらし、結果的に不完全な濾過(タンパク尿)をもたらす。
【0008】
膜性増殖性糸球体腎炎II型またはMPGN2とも呼ばれるデンスデポジット病(DDD)は、糸球体毛細血管壁の基底膜内の補体を含有する高密度沈着物(dense deposits)、それに続く毛細血管壁の肥厚、メサンギウム細胞の増殖および糸球体線維症を特徴とする稀な疾患である(Ault, Pediatr. Nephrol., 14:1045-53(2000))。DDDの他にも、膜性増殖性糸球体腎炎の2つの他の型、すなわちI型およびIII型(それぞれMPGN1およびMPGN3)が存在する。膜性増殖性糸球体腎炎は、子供および成人におけるネフローゼ症候群の主な腎臓原因(renal causes)の4%および7%を占める、多様かつしばしばはっきりしない病因の疾患である(Orth et al., New Engl. J. Med., 338:1202-1211 (1998))。膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)I型およびIII型は免疫複合体に媒介される疾患の変種であり;それに対し、MPGN II型は免疫複合体との既知の関連を有しない(Appel et al., “Membranoproliferative glomerulonephritis type II (Dense Deposit Disease): 最新版” J. Am. Soc. Nephrol., 16:1392-1403 (2005))。
【0009】
DDDは子供におけるMPGNの症例の20%未満および成人における症例のごくわずかな割合を占めている(Orth et al., 1998, 上記; Habib et al., Kidney Int., 7:204-15 (1975); Habib et al., Am. J. Kidney Diseas.,10:198-207 (1987))。両方の性別が等しく冒され、その診断は通常は血尿、タンパク尿、急性腎炎症候群またはネフローゼ症候群のような非特異的な所見を示す5〜15歳の年齢の子供においてなされる(Appel et al., 2005, 上記)。DDDを有する患者の80%より多くは、補体カスケードの代替経路のコンバターゼであるC3bBbに対して向けられた自己抗体である血清C3腎炎因子(C3NeF)に関しても陽性である(Schwertz et al., Pediatr. Allergy Immunol., 12:166-172 (2001))。C3NeFはMPGNのI型およびIII型を有する人の2分の1に及ぶまでにおいて、そして健康な人においても見られ、糸球体基底膜(GBM)中の高密度沈着物の電子顕微鏡による実証をDDDの確定診断に必須のものにしている(Appel et al., 2005, 上記)。この形態学的特徴はDDDに特有であり、それが“デンスデポジット病”または“DDD”がこのMPGNに関してより一般的な用語になった理由である。
【0010】
C3NeF自己抗体は、DDDを有する患者の50%より多くにおいてその疾患経過全体を通して持続する(Schwertz et al., 2001)。その存在は典型的には補体活性化の証拠、例えばCH50の低減、C3の減少、C3dg/C3dの増大、および補体カスケードの代替経路の活性化の持続的に高いレベルと関係している。DDDにおいて、C3NeFはC3bBb(または組み立てられたコンバターゼ)に結合してこの酵素の半減期を延長し、結果として持続的なC3の消費をもたらし、それはC3bBbのレベルおよび補体活性化を制御するための正常な制御機構を圧倒する(Appel et al., 2005, 上記)。ほとんどのDDD患者はH因子において疾患を引き起こす変異を持たないが、H因子および補体H因子関連5遺伝子(CFHR5)両方のいくつかのアレルはDDDと優先的に関係している(Abrera-Abeleda, M. A., et al., Journal of Medical Genetics, 43:582-589 (2006))。
【0011】
DDDの自然寛解は稀である(Habib et al., 1975, 上記; Habib et al., 1987, 上記; Cameron et al., Am. J. Med., 74:175-192 (1983))。より一般的な転帰は腎機能の慢性的な劣化であり、それは患者の約半分において診断の10年以内に末期腎疾患(ESRD)をもたらす(Barbiano di Belgiojoso et al., Nephron., 19:250-258 (1977)); Swainson et al., J. Pathol., 141:449-468 (1983))。一部の患者において、タンパク尿における急速な増減が急性の腎臓の劣化のエピソードと共に明白な誘発する事象の非存在下で起こり;他の患者では、その疾患は持続的なタンパク尿にもかかわらず、数年の間安定なままである。
【0012】
非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)は、微小血管症性溶血性貧血、血小板減少症、および腎不全の三つ組からなる。aHUSは、稀ではあるが、急性期において25%に及ぶ死亡率を有し、50%が末期の腎疾患に発展する重篤な疾患である(Noris, M., et al., N. Engl. J. Med., 361:1676-1687 (2009))。
【0013】
研究は、非定型溶血性尿毒症症候群を補体系の制御されない活性化に結び付けてきた。aHUSを有する患者のおおよそ半分が、それぞれ補体制御タンパク質である補体H因子、I因子および膜補因子タンパク質をコードするCFH、CFIおよびMCPにおいて変異を有する(
www.FH-HUS.org) (Noris, M., et al., 2009, 上記)。代替経路カスケードの重要なタンパク質である補体B因子(CFB)およびC3における機能獲得変異も報告されている(Goicoechea de Jorge, E., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 104:240-245 (2007); Fremeaux-Bacchi, V. et al., Blood, 112:4948-4952 (2008))。より最近、細胞表面上で補体活性化を調節する抗凝固特性を有する膜結合糖タンパク質であるトロンボモジュリン(THBD)をコードする遺伝子における変異もaHUSと関連付けられている(Delvaeye, M., et al., N. Engl. J. Med., 361:345-357 (2009))。最後に、抗CFH自己抗体と関連するaHUSは、大部分がH因子関連タンパク質1および3の欠失と関連する散発的な形態で記述されてきた(Moore, I., et al., Blood, 115:379-387 (2009))。
【0014】
組み換えによる、または血漿から精製したCFH、MCP、CFIおよびTHBDを用いたインビトロでの機能試験は全て、aHUSと関連する変異は内皮細胞表面上の補体の代替経路の活性を制御するための制御タンパク質の能力を損なうことを文書で裏付けた(Noris, M., et al., 2009, 上記)。一方で、CFBおよびC3における機能獲得変異は、結果としてインビトロで細胞表面上の補体沈着を引き起こすC3コンバターゼの機能亢進構成要素をもたらした(Goicoechea de Jorge, E., et al., 2007, 上記; Fremeaux-Bacchi, V. et al., 2008, 上記)。これらの発見は、aHUSが最終的に結果として腎臓微小血管血栓症をもたらす内皮細胞上の過度な補体活性化の疾患であることを示している。
【0015】
aHUSおよびDDDの患者に関して特にH因子置換療法が提案されてきたが(例えば米国特許公開第2009−0118163号を参照)、正常なレベルの機能しない変異H因子がその疾患の基礎となっている場合、困難が生じる。代替経路を介した補体の継続的活性化に取り組むことが実行可能な療法であろうかどうかは以前に知られておらず、新規の療法的アプローチに関する持続的な必要性は明らかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許公開第2009−0118163号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】The Complement System, 第2改定版, Rother et al. (編者); Springer Verlag, 1998
【非特許文献2】Jozsi et al., Histol. Histopathol., 19:251-8 (2004)
【非特許文献3】The Complement System, 第2改定版, Rother et al. (編者); Springer Verlag, 1998; pp. 28, 34-7
【非特許文献4】Hogasen et al., J. Clin. Invest., 95:1054-61 (1995)
【非特許文献5】Ault, Pediatr. Nephrol., 14:1045-53(2000)
【非特許文献6】Orth et al., New Engl. J. Med., 338:1202-1211 (1998)
【非特許文献7】Appel et al., “Membranoproliferative glomerulonephritis type II (Dense Deposit Disease): 最新版” J. Am. Soc. Nephrol., 16:1392-1403 (2005)
【非特許文献8】Habib et al., Kidney Int., 7:204-15 (1975)
【非特許文献9】Habib et al., Am. J. Kidney Diseas.,10:198-207 (1987)
【非特許文献10】Schwertz et al., Pediatr. Allergy Immunol., 12:166-172 (2001)
【非特許文献11】Abrera-Abeleda, M. A., et al., Journal of Medical Genetics, 43:582-589 (2006)
【非特許文献12】Cameron et al., Am. J. Med., 74:175-192 (1983)
【非特許文献13】Barbiano di Belgiojoso et al., Nephron., 19:250-258 (1977)
【非特許文献14】Swainson et al., J. Pathol., 141:449-468 (1983)
【非特許文献15】Noris, M., et al., N. Engl. J. Med., 361:1676-1687 (2009)
【非特許文献16】www.FH-HUS.org
【非特許文献17】Goicoechea de Jorge, E., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 104:240-245 (2007)
【非特許文献18】Fremeaux-Bacchi, V. et al., Blood, 112:4948-4952 (2008)
【非特許文献19】Delvaeye, M., et al., N. Engl. J. Med., 361:345-357 (2009)
【非特許文献20】Moore, I., et al., Blood, 115:379-387 (2009)
【発明の概要】
【0018】
本発明は、腎症、特に非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、デンスデポジット病(DDD、膜性増殖性糸球体腎炎II型またはMPGN2としても知られている)、および単離されたC3沈着を伴う糸球体腎炎(GN−C3、時々C3糸球体症またはC3Gとも呼ばれる)の療法的処置のための可溶性補体受容体I型タンパク質の使用に関する。
【0019】
従って、1観点において、本発明は、補体を阻害するのに有効な量の可溶性CR1タンパク質および医薬的に許容できるビヒクルを含む、aHUS、DDDまたはGN−C3の処置のための新規の医薬組成物を提供する。
【0020】
別の観点において、本発明は、望まれない代替経路補体活性化を特徴とする腎症の処置における可溶性補体受容体I型(sCR1)ポリペプチドの使用に関する。
本発明の好ましい観点において、本明細書における方法において用いられるsCR1ポリペプチドは、少なくとも短いコンセンサス反復8〜11を含むヒトCR1の断片;少なくとも短いコンセンサス反復15〜18を含むヒトCR1の断片;ヒトCR1の短いコンセンサス反復8〜11および15〜18を含む可溶性CR1ポリペプチド;長い相同性反復Bを含むヒトCR1の断片;長い相同性反復Cを含むヒトCR1の断片;長い相同性反復BおよびCを含むヒトCR1の断片;長い相同性反復B、CおよびDを含むヒトCR1の断片;少なくとも長い相同性反復AおよびBを含むヒトCR1の断片;長い相同性反復A、BおよびCを含むヒトCR1の断片;長い相同性反復A、B、CおよびDを含むヒトCR1の断片;CR1の細胞外ドメインを含むヒトCR1の断片;CR1の細胞外ドメインを含み、N末端のLHR Aが欠失しているヒトCR1の断片(sCR1[desLHR−A]);インビボでの血清半減期を向上させるために改変された糖鎖付加を有する可溶性CR1ポリペプチド;シアリルルイスX部分を提示するように改変された糖鎖付加を有する可溶性CR1ポリペプチド(sCR1−sLe
x);キャリヤー分子に連結された2個以上のCR1ポリペプチド部分を有する可溶性CR1コンストラクト;ならびにそれらの組み合わせから選択される。
【0021】
本発明の別の観点において、本明細書で開示される方法において用いられるsCR1ポリペプチドまたはその断片は、以下のものからなる群から選択される補体制御活性を示す:(i)C3bに結合する能力;(ii)C4bに結合する能力;(iii)C3bに結合する、およびC4bに結合する能力;(iv)I因子補因子活性;(v)古典的C3コンバターゼ活性を阻害する能力;(vi)代替C3コンバターゼ活性を阻害する能力;(vii)古典的C5コンバターゼ活性を阻害する能力;(viii)代替C5コンバターゼ活性を阻害する能力;(ix)好中球の酸化的バーストを阻害する能力;(x)補体に媒介される溶血を阻害する能力;(xi)C3a産生を阻害する能力;ならびに(xii)C5a産生を阻害する能力。本発明のさらに別の観点において、そのsCR1ポリペプチドまたはその断片は、上記の活性の組み合わせを示す。
【0022】
別の観点において、本明細書で開示される方法において用いられるsCR1ポリペプチドまたはその断片は、古典的活性化経路および代替活性化経路の両方を介する補体活性化を阻害する能力を示す。
【0023】
本発明の別の観点は、望まれない代替経路補体活性化を特徴とする、ヒトが含まれる哺乳類における腎症の処置における可溶性補体受容体I型(sCR1)ポリペプチドの使用に関する。
【0024】
本発明のさらに別の観点において、望まれない代替経路補体活性化を特徴とする腎症は、結果として腎組織におけるC3沈着をもたらす。
本発明の1観点において、本明細書で記述される腎症の処置におけるsCR1ポリペプチドの使用は、結果として腎組織におけるさらなるC3沈着の低減をもたらし、および/または既存のC3沈着を少なくとも部分的に逆行させ、かつ腎組織におけるさらなるC3沈着を低減する。
【0025】
本発明のさらに別の観点において、望まれない代替経路補体活性化を特徴とする腎症の処置における可溶性補体受容体I型(sCR1)ポリペプチドの使用は、腎臓損傷(kidney damage)を低減し、さらなる腎臓損傷を低減し、および/または既存の腎臓損傷を少なくとも部分的に逆行させる。
【0026】
本発明の別の観点において、望まれない代替経路補体活性化を特徴とする腎症の処置における可溶性補体受容体I型(sCR1)ポリペプチドの使用は、腎機能の劣化を低減し、および/または腎機能を向上させる。本発明の1観点において、その向上した腎機能は、以下の1つ以上により示される:i)低減したタンパク尿、ii)低減した血清クレアチニン、および/またはiii)向上した糸球体濾過率。
【0027】
本発明の別の観点において、望まれない代替経路補体活性化を特徴とする腎症の処置における可溶性補体受容体I型(sCR1)ポリペプチドの使用は、C3の血清レベルを増大させる。
【0028】
本発明の別の観点は、代替経路補体活性化を阻害するのに有効な量の可溶性CR1タンパク質のDDDを患う哺乳類の対象への投与を含む、DDDを処置するための方法に関する。本発明の別の観点は、代替経路補体活性化を阻害するのに有効な量の可溶性CR1タンパク質のaHUSを患う哺乳類の対象への投与を含む、aHUSを処置するための方法に関する。本発明の別の観点は、代替経路補体活性化を阻害するのに有効な量の可溶性CR1タンパク質のGN−C3を患う哺乳類の対象への投与を含む、GN−C3を処置するための方法に関する。
【0029】
本発明の別の観点は、補体活性を阻害するのに有効な量の可溶性CR1タンパク質のDDDを患う哺乳類の対象への全身投与を含む、DDDを処置するための方法に関する。この観点において、その可溶性CR1タンパク質の投与は、静脈内(IV)、皮下(SC)、筋内(IM)、動脈内、腹腔内(IP)、髄腔内、肺内、または経口であってよい。本発明の別の観点は、補体活性を阻害するのに有効な量の可溶性CR1タンパク質のaHUSを患う哺乳類の対象への全身投与を含む、aHUSを処置するための方法に関する。この観点において、その可溶性CR1タンパク質の投与は、静脈内(IV)、皮下(SC)、筋内(IM)、動脈内、腹腔内(IP)、髄腔内、肺内、または経口であってよい。
【0030】
本発明のさらに別の観点は、補体活性を阻害するのに有効な量の可溶性CR1タンパク質のGN−C3を患う哺乳類の対象への全身投与を含む、GN−C3を処置するための方法に関する。この観点において、その可溶性CR1タンパク質の投与は、静脈内(IV)、皮下(SC)、筋内(IM)、動脈内、腹腔内(IP)、髄腔内、肺内、または経口であってよい。
【0031】
可溶性補体受容体I型および医薬的に許容できる希釈剤、キャリヤーまたは賦形剤を含む、DDD、GN−C3またはaHUSの処置における使用のための医薬組成物も意図されている。DDD、GN−C3またはaHUSの処置のための医薬の製造における可溶性補体受容体I型の使用も意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、sCR1による代替経路(AP)補体活性化の用量依存性の阻害を示すグラフである。
【
図2】
図2はaHUSを有する患者およびDDDを有する患者におけるインビトロ溶血アッセイの結果を示すグラフであり、sCR1が両方の患者において、DDDの患者ではC3NeFの存在下においてさえもC3コンバターゼ活性の強力な阻害剤であることを示している。
【
図3】
図3は、50mg/kgでの1回量のsCR1を注射したCfh−/−マウスにおけるC3レベルのインビボ試験の結果を示すグラフである。sCR1を注射したマウスにおけるC3レベルは、24時間後に著しく増大した。
【
図4】
図4は、1回量のsCR1で処置したCfh−/−試験動物(注射−1および注射−2)における48時間の時点での腎臓中のC3沈着を陰性対照(未処置およびPBS)に対して比較した組織病理学的スライドである。
【
図5】
図5は、25mg/kgおよび50mg/kgの用量で0、24、および48時間の時点で3用量のsCR1を注射したCfh−/−
tg−CR1マウスにおけるC3濃度のインビボ試験の結果を示すグラフである。C3濃度は0、12、36、および60時間の時点で測定された。
【
図6】
図6は、1回量のsCR1(25mg/kgおよび50mg/kg)で処置したCfh−/−
tg−CR1マウス試験動物における腎臓中のC3沈着を、注射後60時間の時点で陰性対照(0mg/kg)に対して比較した組織病理学的スライドである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、補体阻害タンパク質、特に可溶性CR1の投与は、慢性腎症/糸球体症、特に非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、デンスデポジット病(DDD、膜性増殖性糸球体腎炎II型またはMPGN2としても知られている)、および単離されたC3沈着を伴う糸球体腎炎(GN−C3、時々C3糸球体症またはC3Gとも呼ばれる)を有する患者における代替経路補体活性の阻害において有効であるという重要かつ驚くべき発見に基づいている。
【0034】
本発明をより完全に理解することができるように、以下の用語を定義する。
用語“腎症”または“ネフローゼ”は、本明細書で用いられる際、望まれない代替経路補体活性化および/または腎組織における補体活性化産物の沈着と関係する疾患/障害が含まれる、腎臓への損傷または腎臓の疾患もしくは障害を指し、それには非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)および/またはデンスデポジット病(DDD)および/または単離されたC3沈着を伴う糸球体腎炎(GN−C3)が含まれる。
【0035】
用語“補体阻害タンパク質”は、本明細書で用いられる際、補体活性化に対して負の制御活性を有する補体制御タンパク質のいずれかを指す。本発明において有用な補体制御タンパク質には、具体的には可溶性補体受容体I型(sCR1)、C4−結合タンパク質(C4−BP)、崩壊促進因子(DAF)、膜補因子タンパク質(MCP)、およびH因子が含まれる。
【0036】
本明細書で用いられる際、用語“可溶性補体受容体I型”、“可溶性CR1ポリペプチド”または“可溶性CR1”または“sCR1”は、天然のCR1タンパク質と対照的に、細胞表面上で膜貫通タンパク質として発現されないが、それでもなお補体制御活性、例えばC3b結合、C4b結合、古典的補体活性化経路および/または代替補体活性化経路および/またはレクチン補体活性化経路を阻害する能力等を示す、完全長ヒトCR1タンパク質の一部を指して用いられるであろう。特に、膜貫通領域を実質的に欠いており、または好ましくはCR1の細胞外ドメインの全部もしくは一部を含み、かつ補体制御活性を保持しているCR1ポリペプチドが、可溶性CR1ポリペプチドである。好ましい態様において、本発明において有用な可溶性CR1ポリペプチドは、それらが発現されている細胞により分泌される。適切な可溶性CR1ポリペプチドおよび製剤は、例えば米国特許第5,981,481号;米国特許第5,456,909号;および米国特許第6,193,979号において詳細に記述されており、それらを本明細書に援用する。少なくとも1個の完全なC3b/C4b結合部位を有する可溶性CR1ポリペプチドが好ましく、これはそのような分子が古典的活性化経路および代替活性化経路両方による補体活性化を遮断する能力を有するためである。特異的な補体阻害タンパク質への参考には、望まれないポリペプチド分節の切り詰めまたはスプライシングによる切り出し(splicing−out)により生成されるそのようなタンパク質の断片が、補体制御活性が保持されている限り含まれる。1個以上のアミノ酸置換または他の構造物、例えばキャリヤータンパク質もしくは免疫グロブリン定常領域への連結により作成された誘導体も、やはり補体制御活性が保持されている限り意図されている。特に、2個のC3b/C4b結合部位(具体的には短いコンセンサス反復(SCR)8〜11および15〜18)の内の少なくとも一方を完全な状態で有する可溶性CR1ポリペプチドが好ましく、これはそのような分子は代替補体経路による補体活性化を遮断する能力を保持していると考えられるためである。
【0037】
米国特許第6,193,979号において記述されているような、シアリルルイスX部分を提示するように改変された糖鎖付加を有する可溶性CR1ポリペプチド(sCR1−sLe
x);米国特許第5,456,909号において記述されている、増大したインビボ半減期を有する可溶性CR1の新規のグリコフォーム製剤;および米国特許第6,458,360号において記述されているような、キャリヤー分子に連結された2個以上のCR1部分を有する可溶性コンストラクト、例えばsCR1−F(ab)2融合物を特筆する。米国特許第6,713,606号において開示されているような、細胞表面上の局在を促進するためにリポペプチドに共有結合的に連結されている、C3bまたはC4b結合部位の内の少なくとも一方を完全な状態で有する可溶性CR1ポリペプチドも意図されている。より好ましくは、本発明の方法は、成熟したヒトCR1の細胞外ドメインを含むポリペプチド(SEQ ID NO:1)を利用する。
【0038】
本明細書で用いられる際、用語“処置”または“処置する”は、疾患もしくは障害の1種類以上の症状を緩和する、疾患もしくは障害の進行を抑制する、疾患もしくは障害の進行を止める、もしくは進行を逆行させる(後退を引き起こす)、または疾患もしくは障害の発症を予防するあらゆる計画を指す。処置には予防が含まれ、疾患または障害の治療が含まれるが必要ではない。
【0039】
本明細書で用いられる際、用語“疾患”および“障害”は当技術において一般に知られ、理解されている意味を有し、宿主個人の機能または健康におけるあらゆる異常な状態を含む。特定の疾患または障害、例えば非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)および/またはデンスデポジット病(DDD)および/または単離されたC3沈着を伴う糸球体腎炎(GN−C3)の、健康管理の専門家による診断は、直接の診察および/または1種類以上の診断検査の結果の考察によりなされてよい。
【0040】
本明細書で1個以上の名前を挙げられた要素または工程を“含んでいる”と記述された組成物または方法は開放型(open−ended)であり、それはその名前を挙げられた要素または工程は本質的であるが他の要素または工程をその組成物または方法の範囲内に加えてよいことを意味する。冗長さを避けるため、1個以上の名前を挙げられた要素または工程を“含んでいる”(または“含む”)と記述されたあらゆる組成物または方法は、その同じ名前を挙げられた要素または工程“から本質的になっている(consisting essentially of)”(または“から本質的になる(consists essentially of)”)対応するより限定された組成物または方法も記述し、それはその組成物または方法にはその名前を挙げられた本質的な要素または工程が含まれ、その組成物または方法の基本的および新規の特徴(単数または複数)に実質的に影響を及ぼさない追加の要素または工程も含まれていてよいことを意味することも理解されている。本明細書で1個以上の名前を挙げられた要素または工程を“含んでいる”、または1個以上の名前を挙げられた要素または工程“から本質的になっている”と記述されたあらゆる組成物または方法は、あらゆる他の名前を挙げられていない要素または工程を除外するように、名前を挙げられた要素または工程“からなっている”(または“からなる”)対応する、より限定された、および閉鎖型の(closed−ended)組成物または方法も記述することも理解されている。本明細書で開示されるあらゆる組成物または方法において、あらゆる名前を挙げられた本質的な要素または工程の既知の、または開示された均等物は、その要素または工程の代わりに用いられてよい。
【0041】
本明細書で用いられる他の用語の定義は、当業者により理解され、用いられている定義であり、および/またはそれは文章中のそれらの使用から当業者には明らかであろう。
この発明の方法は、代替経路補体活性化を遮断するのに有効であるあらゆる可溶性補体受容体I型ポリペプチドを用いることにより実施することができる。そのような補体阻害タンパク質には、例えばSEQ ID NO:1の、すなわちヒトCR1の細胞外ドメインを含む可溶性補体受容体I型(sCR1)、または補体阻害特性、例えば補体活性化を阻害する、C3bに結合する、もしくはC3bおよびC4bの両方に結合する能力、もしくはI因子補因子活性を保持しているCR1の断片が含まれる。好ましくは、本明細書で記述される方法において用いられる補体阻害タンパク質は、少なくとも長い相同性反復(LHR)Bおよび/またはC、好ましくはLHR BおよびCの両方、より好ましくは長い相同性反復A、B、およびC、またはA、B、C、およびD、最も好ましくはヒトCR1の細胞外ドメインの実質的に全体を含む、ヒトCR1の可溶性の(膜に結合していない)形態、またはLHR BCDが含まれるがN末端のLHR Aが省かれているCR1の細胞外ドメインである分子sCR1[desLHR−A]である(Scesney, S. M. et al, Eur. J. Immunol., 26:1729-35 (1996)参照)。適切な可溶性CR1ポリペプチドおよび製剤は、例えば米国特許第5,981,481号;米国特許第5,456,909号;および米国特許第6,193,979号において詳細に記述されている。例えば血清半減期を向上させるために例えば改変された糖鎖付加を有する改変されたsCR1分子、例えば米国特許第5,456,909号において記述されている改変されたsCR1分子を用いることもできる。米国特許第6,193,979号において記述されているような、シアリルルイスX部分を提示するように改変された糖鎖付加を有する可溶性CR1ポリペプチド(sCR1−sLe
xと名付けられた)を用いることもできる。そして、米国特許第6,458,360号において記述されているような、キャリヤー分子に連結された2個以上のCR1部分を有する可溶性コンストラクト、例えばsCR1−F(ab)2融合物を用いることもできる。
【0042】
下記でより完全に論じるように、本明細書において、sCR1の投与は、特に腎症性疾患、例えば非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、デンスデポジット病(DDD)、または単離されたC3沈着を伴う糸球体腎炎(GN−C3)における望ましくない代替経路補体活性化の作用を緩和することが実証されている。従って、我々は、補体阻害タンパク質の、適切なaHUSまたはMPGN2モデルにおける対象への投与は、代替経路および末端の補体カスケードの大量の活性化の病理発生、それに続く補体活性化産物(iC3b、C3c、C3d、sMAC)の糸球体基底膜における沈着を低減および/または改善することを発見した。腎症性疾患におけるsCR1の作用はインビボで実証されており、それは以前には未知であった重要な側面、すなわち、sCR1が送達されて補体制御タンパク質を欠く特定の組織、例えば腎臓の糸球体基底膜においてC3の沈着に影響を及ぼすことができるであろうかどうか、sCR1の制御活性がインビボで意味のある期間の間持続して制御されない補体活性化の作用および腎組織におけるC3沈着のような外部への指標を緩和することができるであろうかどうか、ならびにsCR1の投与がsCR1を療法薬としての現実的な候補にするであろう投与レベルで有効であることができるであろうかどうかを実証する。
【0043】
ここで、sCR1はC3Nef自己抗体と有効に競合することができ、DDDの患者の約85%において起こるC3Nefに媒介される補体活性化を相殺することができる。
補体受容体I型(CR1)またはCD35と呼ばれるヒトC3b/C4b受容体は、天然では赤血球、単球/マクロファージ、顆粒球、B細胞、一部のT細胞、脾臓の濾胞樹状細胞、および糸球体被蓋細胞の膜上に存在する(Fearon, 1980, J. Exp. Med., 152: 20, Wilson, J.G., et al., 1983, J. Immunol., 131: 684)。CR1はC3b、C4b、iC3bおよびiC4bに特異的に結合する。
【0044】
CR1は古典的および代替経路のC3/C5コンバターゼを阻害し、I因子によるC3bおよびC4bの切断に関する補因子として作用することができ、これはCR1が受容体の役目を果たすのに加えて補体制御機能も有することを示している(Fearon, D.T., 1979, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 76: 5867; Iida, K. I. and Nussenzweig, V., 1981, J. Exp. Med., 153: 1138)。補体活性化の代替経路において、2分子複合体C3bBbがC3プロテアーゼ(コンバターゼ)である。CR1はC3bに結合し、それにより断片Bbのその複合体からの解離を促進することができる。補体活性化の代替経路において、3分子複合体C3bC3bBbがC5プロテアーゼ(コンバターゼ)である。CR1はC3bC3bに結合し、それにより断片Bbのその複合体からの解離を促進することができる。さらに、C3bのCR1への結合はC3bをI因子による不可逆的なタンパク質分解的不活性化に対して感受性にし、結果として不活性化されたC3bの誘導体(すなわち、iC3b、C3dおよびC3dg)の生成をもたらす。補体活性化の古典的経路において、2分子複合体C4bC2aがC3コンバターゼである。CR1はC4bに結合し、それによりC2aのその複合体からの解離を促進する。補体活性化の古典的経路において、複合体C3bC4bC2aがC5コンバターゼである。CR1はC4bおよび/またはC3bに結合し、それによりC2aのその複合体からの解離を促進する。その結合はC4bおよび/またはC3bをI因子による不可逆的なタンパク質分解的不活性化に対して感受性にする。最後に、レクチン経路(マンノース結合レクチンまたはMBL経路とも呼ばれる)は、古典的経路中に、C3コンバターゼの上流に流れ込む。このように、CR1はレクチン経路の活性化を、その古典的経路に対するC3およびC5の活性化の段階における阻害活性を通して阻害する。
【0045】
H因子はCR1により示される特性と同じ特性の一部を有するが、両方の活性化経路を遮断するのには有効でない。H因子は代替経路においてのみ崩壊促進活性およびI因子補因子活性を有する。加えて、因子Hの活性は非活性化(non−activating)表面に限られる。これはCR1に関する重要な相違点であり、それは活性化および非活性化表面の両方の上で活性であり、従って発病しつつある疾患の条件下での使用により適している。活性化表面には、例えば壊死組織および炎症組織の存在が含まれるであろう。
【0046】
CR1のいくつかの可溶性(膜に結合していない)断片が、組み換えDNA手順により、発現されるDNAから膜貫通および細胞質領域を除去することにより生成されている。例えば、Fearon et al., 国際特許公開WO 89/09220(1989年10月5日)を参照。その可溶性CR1断片は機能的に活性であり、すなわちC3bおよび/またはC4bに結合する能力を保持しており、補体活性化を阻害し、そのCR1断片が含有する天然のCR1の領域に依存して、I因子補因子活性を示す。そのようなコンストラクトはインビトロで補体活性化の結果、例えば好中球の酸化的バースト、補体に媒介される溶血、C3aおよびC5aの産生、ならびにC5b−9(MAC)の産生を阻害する。可溶性コンストラクトsCR1/pBSCR1cは逆受身アルサス反応においてインビボでの活性も示しており(Yeh et al., 1991, J. Immunol., 146:250)、虚血後心筋炎および壊死を抑制し(Weisman et al., 1990, Science, 249: 146-151)、移植後の生存率を伸ばした(Pruitt et al., 1991, J. Surg. Res., 50: 350; Pruitt et al., 1991, Transplantation, 52: 868)。
【0047】
ヒトCR1タンパク質の完全なcDNAコード配列およびアミノ酸配列は、米国特許第5,981,481号において記述されており、それを本明細書に援用する。完全長CR1遺伝子の単離、完全長タンパク質およびその活性断片の発現および精製、ならびに完全長タンパク質および完全長タンパク質に由来する断片における活性の実証が米国特許第5,981,481号において記述されている。
【0048】
本発明の方法において有用である補体阻害タンパク質、例えばsCR1は、好都合には、組み換えDNA技術を用いてそのタンパク質を宿主細胞、例えば細菌細胞、哺乳類細胞、またはさらには植物細胞において発現させて、大量に生成される。本明細書で意図される補体阻害タンパク質に関して、哺乳類宿主細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、アフリカミドリザル腎臓(COS)細胞、またはヒト細胞、網膜由来の細胞(例えばPER.C6細胞)が好ましい。非哺乳類の糖鎖付加パターンが生物学的機能または薬物動態に重大な影響を有しない場合、酵母発現、大腸菌発現、バキュロウイルス発現、および植物発現も意図されている。組み換えタンパク質の生成のための他の発現系も、本明細書で意図される補体受容体I型ポリペプチドの生成に有用であろう。望まれるタンパク質をコードする単離された遺伝子を適切なクローニングベクター中に挿入することができる。当技術で既知の多数のベクター−宿主系を用いることができる。可能性のあるベクターには、プラスミドまたは改変されたウイルスが含まれるが、それらに限定されない。そのベクター系は、用いられる宿主細胞と適合可能でなければならない。そのようなベクターには、バクテリオファージ、例えばラムダ派生物、またはプラスミド、例えばpBR322、pUCもしくはCDM8プラスミド(Seed, 1987, Nature, 329: 840-842)、またはそれらの周知のベクターの派生物が含まれるが、それらに限定されない。組み換え分子は宿主細胞中に形質転換、形質移入、感染、電気穿孔等により導入することができる。
【0049】
sCR1の好ましい形態を産生する組み換え細胞は、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(メリーランド州ロックビル)に寄託されている(アクセス番号CRL 10052)。その寄託された細胞は、ヒトCR1の細胞外ドメインをコードするプラスミドpBSCR1c/pTCSgptを有するチャイニーズハムスター卵巣細胞株DUX B11のクローン35.6である。精製された形のそのようなsCR1ポリペプチドは、Celldex Therapeutics,Inc.(マサチューセッツ州ニーダム)により、製品名TP10の下で、そして名称CDX−1135によっても製造されている。
【0050】
宿主細胞での発現後、可溶性CR1分子は、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、およびサイズ分画(sizing)カラムクロマトグラフィー、高圧液体クロマトグラフィー)、遠心分離、溶解度の差が含まれる標準的な方法により、またはタンパク質の精製のためのあらゆる他の標準的な技法により単離および精製されてよい。好ましい精製法は、米国特許第6,316,604号、米国特許第5,252,216号、および米国特許第5,840,858号において記述されており、それを本明細書に援用する。
【0051】
可溶性CR1タンパク質は、補体に媒介される疾患、すなわち、不適切な、または望ましくない補体活性化を特徴とする疾患または病気の調節において、療法的に有用である。C3bに結合することができる、および/または代替もしくは古典的C3もしくはC5コンバターゼを阻害する能力を保持している、および/またはI因子補因子活性を保持している可溶性CR1タンパク質または断片を、本明細書で開示する方法および使用において用いることができる。本発明において、我々は、可溶性CR1をDDDおよび/またはaHUSにより引き起こされる腎症の病理発生における望ましくない補体活性化を改善または阻害するために用いることができることを実証した。
【0052】
本発明の方法において、可溶性CR1ポリペプチドは、aHUS、DDD、および/またはGN−C3を患う対象に、補体活性化、ならびに結果としてC3コンバターゼに媒介される糸球体基底膜の、ならびに上皮細管および内皮細胞の損傷、細胞外マトリックスおよび/または補体系の構成要素(例えばC3切断産物)の、および抗体の沈着による膜肥厚をもたらし、そして結果的に不完全な濾過(タンパク尿)をもたらす、血清C3の持続的な低減および補体活性化産物の沈着における病理発生におけるその役割を弱めるために投与される。
【0053】
本発明に従うDDD、aHUS、またはGN−C3を処置する方法では、療法上有効量の可溶性補体受容体I型ポリペプチドを、そのような処置を必要とする哺乳類の対象に投与する。好ましい対象はヒトである。投与される量は、補体活性化を阻害するのに、および/または正常な代替経路制御を修復するのに十分であるべきである。療法上有効な用量の決定は当業者の能力の範囲内であるが、例として、DDDの処置のためにsCR1の全身投与を利用する本明細書で記述される方法の態様では、有効なヒトの用量は、患者の体重あたり0.1〜150mg/kg;好ましくは1〜100mg/kg、より好ましくは3〜75mg/kg、最も好ましくは5〜60mg/kgの範囲内(例えば5mg/kg、10mg/kg、25mg/kg、50mg/kg等)であろう。投与経路はその推奨される用量に影響を及ぼす可能性がある。例えば患者の全身において補体活性化を弱める、または阻害するために有効なレベルを維持するために、採用される投与方式に応じて、反復全身投与が意図される。
【0054】
可溶性CR1は、DDDおよび/またはaHUSおよび/またはGN−C3に関して処方された他の療法薬の投与との組み合わせで、またはそれと交互に用いられてよい。
投与のために、sCR1または他の療法的タンパク質は、適切な医薬組成物中に配合されてよい。そのような組成物は、典型的には療法上有効量のsCR1または他のタンパク質および医薬的に許容できる賦形剤またはキャリヤー、例えば生理食塩水、緩衝生理食塩水、塩溶液(例えばBSS(登録商標))、リン酸緩衝液、デキストロース、または滅菌水を含有する。組成物は、マンノースおよびマンニトールが含まれる糖類のような特定の安定化剤も含んでいてよい。
【0055】
様々な送達系、例えばリポソーム、微粒子、またはマイクロカプセル中への封入(encapsulation)が既知であり、この発明に従うsCR1ポリペプチドのような補体阻害タンパク質の送達のために用いることができる。適切な投与方式には、皮内、筋内、腹腔内、静脈内、皮下、髄腔内、または硬膜外注射、および経口または肺送達が含まれるが、それらに限定されない。
【0056】
本発明における使用のための1種類以上の補体阻害タンパク質を含有する医薬組成物は、型にはまった手順に従って、DDDおよび/またはaHUSおよび/またはGN−C3を患う人への全身投与のための医薬組成物として配合することができる。典型的には、全身投与のための組成物は、無菌の水性緩衝液中の溶液である。必要であれば、その組成物には可溶化剤および注射部位における痛みを和らげるためのリドカインのような局所麻酔薬も含まれていてよい。通常、その成分は、例えば活性単位中の有効薬剤の量が示されたアンプルまたは小袋のような密封された容器中の乾燥した凍結乾燥された粉末または水を含まない濃縮物として、別々に、または単位剤形中で一緒に混合されてのどちらかで供給されるであろう。その組成物が注射により投与される場合、投与前にその成分を混合することができるように、注射のための滅菌水または生理食塩水のアンプルが提供されてよい。
【0057】
その医薬組成物の成分の1種類以上を充填した1個以上の容器を含む医薬パックも意図されている。
以下の実施例は、本発明の方法を説明する。それらは説明として提供されており、限定のためのものではない。
【実施例】
【0058】
実施例1
CHO細胞において生成された、ヒトCR1の細胞外部分からなる組み換え可溶性補体受容体I型(sCR1)を、以下の実験において用いた。そのsCR1は、Celldex Therapeutics,Inc.(マサチューセッツ州ニーダム)から得られた。
【0059】
補体活性アッセイ
代替経路(AP)補体活性を、Wieslab補体APアッセイキット(Wieslab AB,スウェーデン、ルンド)を用いて流体相において評価した。この方法は、補体活性化に関する溶血アッセイの原理を、補体活性化の結果として産生された新生抗原に特異的な標識された抗体の使用と組み合わせる。生成された新生抗原の量は、その代替経路の機能活性に比例する。
【0060】
20(20)マイクロリットルのプールされた正常血清(Innovative research,カタログ番号IPLA−CSER,ミシガン州ノバイ)を、代替経路のみが活性化されていることを確証するための特異的な遮断薬を含有する340μlの希釈液(Wieslab補体APアッセイキット;Wieslab AB,スウェーデン、ルンド)中で希釈した。可溶性CR1ポリペプチド(TP10,Celldex Therapeutics,Inc.,マサチューセッツ州ニーダム)を、10μg/ml、5μg/ml、2.5μg/ml、1.25μg/ml、0.63μg/ml、0.31μg/mlまたは0μg/mlの終濃度になるように添加した。次いでその混合物を氷上で15分間保温し;その後、それぞれの希釈された血清を100マイクロリットルの分割量(aliquots)でマイクロタイターのウェルに移した。代替経路の特異的な補体活性化物質、すなわちLPS(リポ多糖)でコートされたマイクロタイターのウェル中での希釈された血清の保温の間に、活性化が開始された。そのウェルを提供された緩衝液で洗浄し、提供されたMAC形成の間に露出される新生抗原に対するホスファターゼ標識された抗体を用いてC5b−9(MAC)を検出した。
【0061】
データは、sCR1が代替経路の流体相活性化を用量依存的様式で強く阻害することを示した(
図1参照)。
溶血アッセイ
ヒツジ赤血球溶解アッセイは、細胞表面上の代替経路の活性化に続く、補体に媒介されるヒツジ赤血球の溶解を測定する。ヒツジ赤血球は一般にヒト血清中の補体に媒介される溶解の非活性化因子(non−activators)として作用する。代替経路のティックオーバー(tick−over)を通して自然に生じた少数のC3b分子がヒツジ赤血球の表面上に沈着している。正常ヒト血清において、H因子がC3b分子にN末端ドメインにより結合し、ヒツジ赤血球にCN末端ドメインにより結合する。これらの相互作用はヒツジ赤血球を補体から保護し、溶解は観察されない。
【0062】
20マイクロリットルの患者Aの血清(
図2、aHUS、暗青色)およびヒツジ赤血球(50μl、1×10
8/ml)をMg
++/EGTAの存在下(APの活性化が可能)で37℃において混合した30分後に溶血が観察された。並行した試験において、様々な量のsCR1(終濃度0μg/ml、10μg/ml、20μg/ml、30μg/ml、40μg/mlになるように)を患者Aからの同じ量の血清(20μl)に添加した後、ヒツジ赤血球(50μl、1×10
8/ml)を添加し、氷上で15分間保温した。sCR1の添加により溶血が大きく低減された(
図2参照)。
【0063】
患者Bはデンスデポジット病(DDD)および非常に強いC3NeF活性を有し、それは大量のC3の消費により制御されない代替経路の活性化を引き起こす。結果として、代替経路の補体因子が完全に消費される。sCR1がC3NeFがC3コンバターゼを安定化するのを妨げることができるかどうかを試験するため、10μlの患者Bの血清を、予め形成されたC3コンバターゼでコートされた10μlのヒツジ赤血球(1×10
9/ml)に添加した。予め形成されたC3コンバターゼを30℃(水浴)で20分間崩壊させた。その予め形成されたC3コンバターゼは、正常ヒト血清をヒツジ赤血球に添加し、まず室温(水浴)で8分間、次いで氷上で40分間保温することにより作成された。ヒツジRBCを、C3コンバターゼの延長された存在下で溶解させた。ラット血清(GVB−EDTA緩衝液中で1:5希釈したもの)をC3−9の源として添加することにより、溶血をアッセイした(
図2、DDD、水色)。並行した試験において、様々な量のsCR1(終濃度0μg/ml、10μg/ml、20μg/ml、30μg/ml、40μg/mlになるように)を患者の血清に添加した後、ヒツジ赤血球と混合し、氷上で15分間保温した。データは、sCR1がC3NeFの活性を用量依存的様式で抑制することを示した(
図2参照)。10人のDDD患者からの血清を用いたこの実験の反復は、類似の結果を示した。
【0064】
aHUSを有する患者およびDDDを有する患者におけるインビトロ溶血アッセイの結果は、sCR1はC3NeFの存在下においてさえもC3コンバターゼ活性の強力な阻害剤であることを示している。
【0065】
実施例2
Cfh−/−インビボマウス試験
補体H因子(CFH)の欠損は、デンスデポジット病(DDD)およびaHUSと関連付けられてきた(Fakhouri et al., Kidney International, 78:279-286 (2010)。遺伝子ターゲッティングによるCFH欠損マウス(Cfh−/−)は低い血漿C3レベルおよびマウスの糸球体基底膜に沿ったC3の沈着を自然に発現し、それはヒトのデンスデポジット病に類似している(Pickering, MC, et al., Nat. Genet., 31:424-428 (2002))。従って、Cfh−/−マウスはこの実験のための動物モデルとして選択された。
【0066】
5匹のCfh−/−マウス(インペリアル・カレッジ・ロンドンのDrs.Matthew PickeringおよびMarina Bottoから頂いた)に、sCR1を50mg/kgの用量で注射した(尾静脈注射)。対照として、1匹の同腹仔に同じ量のPBSを注射し、別の1匹の同腹仔を未処置のままにした。0、24および48時間の時点で血清を尾からの採血により集めた。血清C3レベルをマウス補体C3キット(Kamiya Biomedical,ワシントン州シアトル)を用いて測定した。sCR1を注射したマウスにおけるC3レベルは24時間の時点で劇的に増大した(正常基準値(約300〜1500mg/L)の下端付近まで上昇);しかし、C3レベルは全ての注射したマウスにおいて48時間までに注射前の状態付近まで低下した(
図3参照)。
【0067】
安楽死の時点(48時間)で腎臓を採取し、組織凍結媒体(Triangle Biomedical Sciences,ノースカロライナ州ダーラム)中に包埋した。ブロックを5ミクロンの厚さに切断し、C3沈着をFITCコンジュゲートC3抗体(MP Biomedicals,オハイオ州ソロン)を用いてアッセイした。
【0068】
C3沈着は全てのsCR1を注射したマウスにおいて減少した(
図4参照)。C3の免疫蛍光は、sCR1の1回投与後48時間の時点で減少していた。48時間までに、C3レベルの減少により明示されるように、代替経路の活性化は再び強くなった(
図3参照)。C3の免疫蛍光の減少は、sCR1の注射後24時間の期間にわたるC3コンバターゼ活性の一過的な制御を反映している。
【0069】
その実験を、Cfh−/−
tg−CR1マウス(シカゴ大学医療センターのDr.Richard Quiggから頂いた)(すなわち、ヒトCR1に関するトランスジェニックのH因子ノックアウトマウス)を用いて繰り返した。これらのマウスは上記で記述したCfh−/−マウスと同一であるが、それらはヒトCR1に関するトランスジェニックのマウスと交配させてある(Repik, A. et al., Clinical and Experimental Immunology, 140:230-240 (2005))。4匹のマウスにsCR1を0、24、および48時間の時点(マウスあたり3回注射)で、25mg/kg(2匹のマウス)または50mg/kg(2匹のマウス)のどちらかの用量で(腹腔内に)注射した。対照として、2匹の追加のマウスに同じ量のPBSを注射した。C3レベルを0、12、36、および60時間の時点で測定した。Cfh−/−
tg−CR1マウスはヒトCR1を発現しているため、それはsCR1に対する免疫応答を発現せず、sCR1の多回投与を用いるより長期の研究に適している。その結果を
図5において示す。sCR1を注射したマウスにおけるC3レベルは劇的かつ持続性の増大を示した(今回も、正常基準値(約300〜1500mg/L)の下端付近まで上昇)。
【0070】
安楽死の時点(60時間)で腎臓を採取し、組織凍結媒体(Triangle Biomedical Sciences,ノースカロライナ州ダーラム)中に包埋した。ブロックを5ミクロンの厚さに切断し、C3沈着をFITCコンジュゲートC3抗体(MP Biomedicals,オハイオ州ソロン)を用いてアッセイした。その結果を
図6において示す。
【0071】
C3沈着は、全てのsCR1を注射したCfh−/−
tg−CR1マウスにおいて両方の濃度で減少した(
図5参照)。C3の免疫蛍光は、sCR1の50mg/kgでの3回投与計画後60時間の時点で著しく減少していた。
図6において示すように、sCR1の実験の終わりまでの持続するレベルをもたらす(
図5参照)その3回投与計画は、その実験の終了時に、腎臓切片におけるC3沈着の顕著な減少をもたらした。これらの結果は、DDDにおける感受性の腎臓組織をsCR1の全身投与により保護することができることを示している。
【0072】
これらのデータは、稀な補体に媒介される疾患であるDDD(MPGN2)および/またはaHUSおよび/またはGN−C3に関する、望まれない補体活性を短期で緩和するための、および腎機能を長期で向上させる、または保護するための処置を示している。
【0073】
上記の記述に従って、補体制御タンパク質sCR1の他の態様を含有する追加の療法配合物を容易に試験し、調製し、DDD(MPGN2)および/またはaHUSおよび/またはGN−C3の処置のために用いることができる。特定の組成物および送達の方式に適合させた本発明の追加の態様および代替法は、上記の記述の熟読から明らかになるであろう。全てのそのような態様および明らかな代替物は、以下の特許請求の範囲により定められる通りのこの発明の範囲内にあることを意図している。
【0074】
上記で参照された刊行物を本明細書に援用する。
本開示に従う使用に関する好ましい可溶性補体受容体I型ポリペプチドは、次のアミノ酸配列を有する:
【0075】
【化1】
【0076】
【化2】
【0077】
【化3】
【0078】
【化4】
【0079】
【化5】
【0080】
【化6】
【0081】
【化7】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]