【文献】
Mol. Biotechnol.,2010年 7月,Vol.45, No.3,pp.257-266
【文献】
J. Biosci. Bioeng. ,1999年,Vol.88, No.5,pp.461-467
【文献】
Mol. Ther.,2004年,Vol.10, No.4,pp.660-670
【文献】
Biotechnol. Prog.,1999年,Vol.15, No.5,pp.953-957
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記改質転換された宿主細胞の集団から、前記ポリクローナルタンパク質の組成物の2つ以上の構成要素をコードする核酸配列で形質転換された前記形質転換された宿主細胞の集団のサブセットを選択する工程をさらに包含する、請求項3に記載の方法。
前記ポリクローナルタンパク質の組成物が、一緒になって特定の抗原性エピトープを結合する、免疫グロブリン重鎖可変領域を含んでいるポリペプチドおよび免疫グロブリン軽鎖可変領域を含んでいるポリペプチドを含んでなる、請求項1に記載の方法。
前記一緒になってTCRを形成する2つのポリペプチドが、TCRのα鎖を含んでいるポリペプチド、およびTCRのβ鎖を含んでいるポリペプチドを含んでなる、請求項13に記載の方法。
前記一緒になってTCRを形成する2つのポリペプチドが、TCRのγ鎖を含んでいるポリペプチド、およびTCRのδ鎖を含んでいるポリペプチドを含んでなる、請求項13に記載の方法。
前記ポリクローナルタンパク質の組成物が、ゲル濾過、アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、および疎水性相互作用クロマトグラフィーからなる群より選択される方法によって精製される、請求項27に記載の方法。
前記ポリクローナルタンパク質の組成物の安定性が、イオン交換クロマトグラフィー、HPLC、パパイン消化に続く2−Dゲル分析、マイクロアレイ、qPCR、およびELISAアッセイからなる群より選択される方法によって決定される、請求項1に記載の方法。
前記多量体タンパク質が、一緒になって特定の抗原性エピトープを結合する、免疫グロブリン重鎖可変領域を含んでいるポリペプチドおよび免疫グロブリン軽鎖可変領域を含んでいるポリペプチドを含んでなる、請求項49に記載の方法。
前記AAV repタンパク質が、パッケージング細胞株中で、別のDNAベクター上で、mRNAとして、または、組換えタンパク質として、前記宿主細胞に提供される、請求項51に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本明細書に開示されるのは、安定な細胞集団(例えば、単一の組換えポリペプチドを発現する細胞集団、および複数の組換えポリペプチドを発現する細胞集団)を産生するための方法、ならびに抗体、T細胞レセプターおよびワクチンのような組換えのポリクローナルタンパク質を産生するための方法である。この開示された方法によって、安定な細胞集団を産生するための公知の方法および/または組換えポリクローナルタンパク質を産生するための公知の方法を上回る有意な利点が得られる。なぜなら開示された方法は、クローン選択(すなわち、個々の細胞クローン(前駆細胞)(次に個々の細胞株として増殖される)を選択する選択マーカーの使用)を必要としないからである。結果として、開示された方法は、個々の安定な細胞クローンの選択を要する方法よりも迅速かつ効果的である。
【0040】
本明細書に記載されるとおり、単一の組換えポリペプチドまたは複数の組換えポリペプチドのいずれかを発現する安定な細胞集団は、個々の形質転換された細胞の大集団から生成され得、これによって安定な細胞集団を調製し、かつ維持するための驚くべき利点が得られる。さらに、開示された方法を用いて生成される細胞集団は、経時的に集団中の特定の細胞に対するバイアスなしに維持され得ることは予想外であった。さらに、本開示の方法では、細胞の大集団を用いて安定な細胞集団(本明細書では、「組換えポリクローナル細胞集団」または「ポリクローナル細胞集団」と呼ばれる)を生成するので、個々の細胞株(例えば、選択プロセスを用いて単一の前駆細胞から生成された個々のクローン細胞株)のバンキングの必要はない。
【0041】
本明細書に記載される、組換え細胞集団(例えば、単一の組換えポリペプチドを発現する細胞集団および複数の組換えポリペプチドを発現する細胞集団)は、大型だが有限の集団の進化動態で概説されるように、特定の数学的限界内で挙動する(例えば、進化的に安定な集団を維持するために、変異体が、進化的に適合が乏しい場合に、その基準を規定している初期モデルを記載している、M.Smith,(1974)J.Theor.Biol.47:209〜221;Nash均衡を用いることによって、有限だが大型の集団が安定なままであり得ることを数学的に決定することが容易であったことを記述している、Crawford(1990)J.Theor.Biol.145:83−94;変異の逸脱が、集団サイズの増大とともに増大する特定の閾値を超える場合にのみ、ある集団を凌駕し得るということを示した、Nowakら(2004)Nature 428:646〜650およびLessard(2005)Theor.Population Biol.68:19−27を参照のこと)。これらのモデルによれば、有限だが大きい類似のタイプの集団を混合した場合、ある限られた時間の長さにわたって安定なままであるという可能性が高い;しかしこの時間の長さは、十分に大きい集団の状況では本質的に無限であり得る。
【0042】
理論的に束縛されることは望まないが、安定な進化挙動のモデルが、大きい個々の形質転換細胞集団で開始することによって、組換え細胞集団(例えば、単一の組換えポリペプチドを発現する細胞集団および複数の組換えポリペプチドを発現する細胞集団)に適用され得る。ポリクローナル細胞集団に関しては、個々の細胞集団は、増殖およびタンパク質発現に関して同様のプロフィールを有する組換えポリクローナルタンパク質の発現への実際の適用に基づいて、関連付けてもよい。本明細書では、各々の構成要素の細胞集団の比は、細胞集団の混合物を得るために、所望されるとおりに(すなわち各々が単一のタンパク質を発現し、全体として所望されるどのような比ででも複数のタンパク質の所定の安定な混合物を発現させるように)調節可能であると、想定されている。例えば、組換えポリクローナル細胞集団が、組換えポリクローナル抗体を産生するための細胞集団である場合、単一の抗体を各々が産生する、個々の細胞集団の比は、ポリクローナル混合物中の個々の抗体の役割を考慮して、治療上有効なポリクローナル抗体集団を生成するように調節できる。
【0043】
開示される方法は、ポリクローナル細胞集団中のバランスを達成するように設計される。例えば、バランスは、抗体のような複数の構成要素タンパク質を作製する場合、および異なる抗体を含有する混合細胞集団中の両方で必要である。ポリクローナル細胞集団中のバランスは、安定な個々の細胞集団を生成することによって、次いで安定な個々の細胞集団を混合して、ポリクローナル細胞集団を得ることによって達成され得る。個々の細胞集団およびポリクローナル細胞集団の両方で安定性を達成するために、両方の集団の進化動態を考慮しなければならない。本明細書で開示されるように、同様の細胞の大集団が混合される場合、それらは、集団中での特定の細胞に対する経時的なバイアスなしに、限られた時間の長さにわたって安定なままである、という事実が驚くべきことに発見された;しかし、時間の長さは、十分に大きい集団の状況では本質的に無限であり得る。
【0044】
安定なポリクローナル細胞集団は、十分な数の個々の細胞を用いて細胞集団を生成する場合、本明細書に記載のように継続して生成されてもよい。本明細書では、10,000個を超える個々の細胞を有する細胞集団が混合される場合、合わせた細胞集団は、安定なポリクローナル細胞集団を生じて、限られた時間の間(ポリクローナルタンパク質の生産プロセスにおいて、それは本質的に無限である)に、このようなポリクローナルタンパク質産物を生成する。
【0045】
例示的な実施形態では、本明細書に記載される安定な細胞集団は、目的のタンパク質をコードする核酸配列の少なくとも1つのコピーを含んでいる少なくとも1つのベクターの、宿主細胞ゲノムDNAへの優先的な組み込みを用いて、宿主細胞の集団を形質転換して、個々の形質転換された細胞の大集団を生成することによって得られる。優先的組み込みを用いる開示された方法を用いて、単一の組換えポリペプチドおよび複数の組換えポリペプチドを発現する細胞集団を生成してもよい。優先的組み込みのための例示的なベクターは、下に詳細に記載される。
【0046】
開示された方法のさらなる説明の前に、本明細書、実施例および添付の特許請求の範囲で使用される特定の用語をここに集める。これらの定義は、当業者によって、開示の残りの部分と照合して読まれ、理解されるべきである。他に規定されない場合には、本明細書に用いられる全ての技術および化学的用語は、当業者に通常理解されるのと同じ意味を有する。
【0047】
「細胞株」という用語は、本明細書において用いる場合、単一の前駆細胞由来の細胞の集団を指す。当業者は、所定の細胞株中に含まれる細胞が単一の前駆細胞由来であるので、その細胞株中の細胞の各々は、少なくとも最初は、同じゲノム特徴を共有していることを理解するであろう(例えば、Posteら、PNAS 1981 78:6226〜6230を参照のこと)。細胞株は典型的には、個々の前駆細胞クローンを選択することによって(例えば、選択マーカー、例えば、抗生物質選択マーカー、例えば、ネオマイシン、ブラストサイジン、ピューロマイシン、またはハイグロマイシンを用いて)生成される。次いで、この個々の前駆細胞クローンを培養して、目的の遺伝子産物を産生できる細胞株を増殖する。
【0048】
「細胞集団」、「細胞混合物」、「形質転換された細胞集団」および「組換え細胞集団」という用語は、本明細書において用いる場合、共通の遺伝的背景を共有するが、遺伝子的に同一ではない細胞の集団を指す。単一の組換えポリペプチドを発現する細胞集団では、目的のDNAフラグメントは、複数の細胞に組み込まれ(ここで各々の細胞における組み込み部位は、ゲノムの1つ以上の位置であってもよい)、これによって遺伝子的に同一ではない集団の細胞が創出される。細胞集団とは、個々のタンパク質細胞由来ではなく、および/または同じゲノム内容物を有する細胞から構成されていないので、細胞株とは異なる。例えば、本明細書に記載される細胞集団では、単一の前駆細胞を特定するための選択プロセス、およびその後の単一の前駆細胞のクローン増殖はない。本明細書に記載される細胞集団は、むしろ細胞の混合物であり、この混合物中の各々の細胞は、ゲノム中の1つ以上の位置に組み込まれているDNAを有し得る。単一の組換えポリペプチドを発現する細胞集団の安定性は、個体群動態学によって達成される。
【0049】
例示的な実施形態では、本明細書に記載される細胞集団,細胞混合物または形質転換された細胞集団は、例えば、複数の組換えポリペプチドを発現するポリクローナルであってもよい。ポリクローナルの細胞集団では、目的の2つ以上のDNAフラグメントを、複数の細胞に組み込んで(ここで各々の細胞における組み込み部位は、ゲノム中の1つ以上の位置である)、遺伝子的に同一ではない細胞を創出してもよい。本明細書に記載されるポリクローナル細胞集団は、2つ以上のモノクローナル細胞集団を混合することによって生成され得る。あるいは、ポリクローナル細胞集団は、バルクの質転換手順によって生成されてもよく、その場合、目的の複数のDNAフラグメントが、複数の宿主細胞に組み込まれる(例えば、宿主細胞1つあたり目的のDNAフラグメントが1つ)。本明細書に記載されるポリクローナル細胞集団は、個々の前駆細胞を特定するための選択プロセスも、その後の個々の細胞株のクローン増殖も必要としない(例えば、ポリクローナル細胞集団は、各々が個々の前駆体細胞に由来する個々の細胞株の混合物ではない)。ポリクローナル細胞集団の安定性は、個体群動態学によって達成される。
【0050】
本明細書に用いられる「形質転換」という用語は、外来DNAを細胞に導入するための任意の方法を指す。本明細書において用いる場合、「形質転換」とは、トランスフェクション、感染、形質導入またはドナー細胞とアクセプター細胞との融合を含めて、外来DNAを細胞に導入するための方法を包含する広義の用語である。
【0051】
「ランダム組み込み」という用語は、本明細書において用いる場合、目的のDNAフラグメント(例えば、目的のタンパク質をコードする部分的または完全なDNA)を細胞のゲノムに組み込むプロセスであって、このDNAのフラグメントが、そのゲノムの任意の一部に等しい確率で組み込まれ得るプロセスを指す。当業者は、ランダムな組み込みが、形質転換手順を指しており、宿主細胞ゲノム中の所定の位置へ発現構築物をガイドすることは一切行われないことを理解するであろう。例えば、特定の実施形態では、ランダムな組み込みとは、天然の組み込み部位に影響する外因的に追加された配列または酵素の補助なしに、宿主細胞の機構によって自然に行われる組み込みプロセスを指す(H.Wurtetle,Gene Therapy,2003,10:1791〜1799)。
【0052】
本明細書において用いる場合、「部位特異的組み込み」という用語は、目的のDNAフラグメント(例えば、目的のタンパク質をコードする部分的または完全なDNA)を細胞のゲノムに組み込むプロセスであって、目的のDNAのフラグメントが、そのゲノム中の特定の配列に標的にされるプロセスを指す。この特定の標的配列は、ゲノム中に天然に存在してもよいし、または宿主細胞のゲノム中に遺伝子操作(例えば、Flpリコンビナーゼ媒介性組み込みのために、細胞のゲノムへFRT部位を遺伝子操作)されてもよい。
【0053】
部位特異的組み込みの例は、宿主細胞ゲノム中の特定の部位へ目的のDNAフラグメントを標的組み込みするためのFlpリコンビナーゼの使用である。組み込みの特異的な部位は、FRT部位として公知のDNA配列で生じる。FLPは、FRT部位に対して極めて特異的であるという点で、インテグラーゼの中でも例外である。FRT部位へのDNAの部位特異的な組み込みは、標的組み込みのためにDNAフラグメント中にFRT部位DNA配列を含むことによって達成し得る。しかし、FRT部位は、ほとんどのゲノムでは天然には存在しないので、典型的には、FRT部位は、目的のDNAフラグメントの導入前に目的の宿主細胞のゲノムに組み込まれなければならない。
【0054】
「優先的組み込み(preferential integration)」という用語は、本明細書において用いる場合、目的のDNAフラグメント(例えば、目的のタンパク質をコードする部分的または完全なDNA)を細胞のゲノムに組み込むプロセスを指し、この場合、DNAのフラグメントは、ゲノムの所定の領域を標的とする(ただし、単一の規定の部位、例えば、FRT部位は標的とされない)。本明細書において用いる場合、優先的な組み込みは、ランダムな組換え事象ではない。なぜなら、目的のDNAは、宿主細胞ゲノム中の規定の領域または特異的な部位に組み込まれる可能性が増大しているからである。優先的な組み込みはまた、組み込み部位での変動があるので、部位特異的な組み込みとは異なる。
【0055】
優先的組み込みの例としては、AAVrepタンパク質(単数または複数)によるAAVシステムを用いる組み込みが挙げられる。AAVS1部位への安定な組み込みは、逆方向末端反復または「ITR」配列によって媒介され、各々のITR配列は、145塩基対を含む(例えば、Bohenzkyら、(1988)Virology 166(2):316〜27;Wang,XSら、(1995)J.Mol.Biol.250(5):573〜80;Weitzman,MDら、(1994)PNAS 91(13):5808〜12)。近年のデータでは、AAVベクターは、宿主細胞へ、そして染色体19上に位置するAAVS1部位のようなrep標的配列(「RTS」)へ、約10%の効率で(残りの90%は、ヒトゲノムにまたがるタンパク質のRTS部位にまたがってひろがる)、組み込むことが示唆されている(例えば、Smith RH,Gene Therapy(2008)15,817〜822およびHueserら、PLoS Pathog 6(7):e1000985.doi:10.1371/journal.ppat.1000985に記載のとおり)。
【0056】
優先的組み込みの他の例としては、レトロウイルスベクター系の使用(ここでレトロウイルスベクターは、総ゲノムの約5%を包含する開口クロマチンドメインへ組み込まれる);attP部位とattB部位との間で組換えを行う、ファージインテグラーゼΦC31またはλインテグラーゼの使用(A.C.Grothら、PNAS,2000,97:59995〜6000);ならびにCreリコンビナーゼおよび種々のlox部位、例えば、バクテリオファージP1由来のloxPまたはそれらの改変体もしくは変異体、例えば、lox43、lox44、lox66、lox71、lox75、lox76、およびlox511(C.GormanおよびC.Bullock,Curr.Opinion in Biotechnology 2000:11:455〜460)の使用が挙げられる。優先的組み込みにおける相違はまた、特定のレトロウイルスのインテグラーゼで観察され得、例えば、HIVは好ましくは、発現された遺伝子中でリッチな染色体領域に組み込まれ、MMLVは好ましくは、転写開始部位付近に組み込まれ、そしてASLVは、活性な遺伝子について弱い優先度(ただし、転写開始領域に関する優先度はない)で組み込まれる(Mitchellら、PLoS Biol,2004,2:e234)。
【0057】
I.発現ベクター
本発明の発現ベクターは、目的の少なくとも1つのポリペプチドをコードするように構築される。本明細書において用いる場合、「目的のポリペプチド」および「目的のタンパク質」という用語は、目的の核酸または遺伝子によってコードされるタンパク質を指す。本明細書において開示された方法は、組換えのポリクローナル細胞集団によって発現され得るポリペプチドまたはタンパク質の種類によって限定されないと想定されている。目的の例示的なタンパク質としては、抗体(免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖を含む)またはそのフラグメント、T細胞レセプター分子、およびワクチンのタンパク質成分が挙げられる。
【0058】
本明細書において用いる場合、「ポリクローナルタンパク質の組成物の構成要素」という用語は、ポリクローナルタンパク質の組成物中に含まれるタンパク質を指す。このタンパク質は、単一のポリペプチドを含んでもよいし、または2つ以上のポリペプチド鎖を含む多量体タンパク質であってもよい。例示的な多量体タンパク質としては、抗体およびT細胞レセプターが挙げられる。例えば、インタクトな四量体抗体は、特定の標的ポリペプチドに一緒に結合する、免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖と呼ばれる、2つの異なるポリペプチド配列から産生される。T細胞レセプター(TCR)は、2つのポリペプチド鎖を含んでいるヘテロ二量体タンパク質である(例えば、このヘテロ二量体は、αおよびβのポリペプチド鎖またはγおよびδのポリペプチド鎖を含んでもよい)。
【0059】
ポリクローナルタンパク質の組成物の構成要素が単一のポリペプチドを含む場合、このタンパク質の構成要素は、単一の発現ベクターによってコードされてもよい。例えば、この発現ベクターは、目的の単一のポリペプチドをコードする核酸配列の少なくとも1つのコピーを含んでもよい。
【0060】
単一の発現ベクターが2つ以上のポリペプチドをコードする核酸を含んでもよいということも想定されている。例えば、単一の発現ベクターは、免疫グロブリン重鎖および軽鎖の配列の両方をコードする核酸配列、またはTCRの両方のポリペプチド鎖をコードする核酸配列のうちの少なくとも1つのコピーを含んでもよい。発現ベクターが、目的の2つ以上の核酸を含む場合(例えば、免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖の両方、またはTCRの両方の鎖)、目的の核酸は、ポリシストロン性配列でベクター中に配列されてもよく、必要に応じて、配列内リボソーム進入部位(IRES)によって隔てられてもよい。あるいは、目的の各々の核酸は、個々の調節性エレメント(例えば、プロモーターおよび/またはエンハンサー配列)の制御下でベクター中に配列されてもよい。いくつかの実施形態では、目的の各々の核酸は、ベクター中に同じ方向で、ただし個々の調節性エレメントの制御下で配列されてもよい。他の実施形態では、目的の各々の核酸は、ベクター中に反対方向で配列されてもよい。
【0061】
あるいは、ポリクローナルタンパク質の組成物の構成要素は、2つ以上の発現ベクターによってコードされてもよい。例えば、ポリクローナル組成物の構成要素が多量体タンパク質である場合、2つ以上のポリペプチドが少なくとも2つの異なる発現ベクター上にコードされてもよく(例えば、免疫グロブリン重鎖および軽鎖は、別々のベクター上にコードされる)。従って、多量体タンパク質の個々のポリペプチド鎖が2つ以上のベクターに含まれる場合、当業者は、両方のベクターとも、同じ宿主細胞中に形質転換されて、多量体タンパク質を生成することを理解するであろう。
【0062】
例示的な実施形態では、一緒になって単一の多量体タンパク質(例えば、抗体またはTCR)を形成する複数のポリペプチドをコードするために、ベクターのライブラリーを用いてもよい。例えば、ベクターのライブラリーは、各々のベクターが1つ以上のポリペプチドをコードする核酸を含む、複数のベクターを含んでもよい。当業者は、ベクターのライブラリーが、単一の宿主細胞中にトランスフェクトされて、多量体タンパク質を生成し得ることを理解するであろう。
【0063】
例示的な発現ベクターとしては、宿主細胞ゲノムへ組み込み得るウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクターおよび一本鎖DNAウイルスベクター(例えば、アデノウイルスベクター)が挙げられる。
【0064】
例示的なレトロウイルスベクター(レトロベクターとしても公知)は、レトロウイルス類、例えば、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMuLV)およびラウス肉腫ウイルス(RSV)、およびレンチウイルス類(宿主細胞のゲノムへ組み込み得る)由来であり得る。レトロウイルス類は、細胞へDNAフラグメントを導入し、かつそれらをウイルスのコードするインテグラーゼ酵素の活性を通じてゲノムに組み込み得る。インテグラーゼ媒介性のプロウイルス組み込みは、ランダム組み込みまたはリコンビナーゼベースの方法と比較してはるかに効率的である。レトロウイルス組み込みは、開口クロマチンの領域で優先的に生じ、これは他の方法と比較して低率の発現サイレンシングをもたらす。レトロウイルス組み込みは、ゲノムを通じて単一部位で生じても、複数部位で生じてもよく、コピー数は、複数回の形質導入またはより多数の感染を通じて増大され得る(下に詳細に考察)。
【0065】
種々のレトロウイルスベクターが当該分野で周知である。いくつかの実施形態では、レトロウイルスベクターは、複製欠損(例えば、ウイルス複製の必須遺伝子、例えば、ウイルス粒子の構造、レプリカトリー(replicatory)およびDNA修飾タンパク質をコードする遺伝子が欠失されるか、または無効にされる)であってもよい。当業者は、このような遺伝子の欠失が、目的のDNAの挿入のためにベクター中でスペースを提供し得ることを理解する(例えば、8〜10kbのDNAフラグメント)。このウイルス粒子構造、レプリカトリー(replicatory)およびDNA修復タンパク質は、ウィルス粒子のタンパク質をコードする核酸の一過性の同時トランスフェクションを通じて(例えば、インテグラーゼタンパク質は、別のDNAベクター上にコードされる)、または組換えタンパク質として、ウイルスパッケージングの間に、パッケージング細胞株中にトランスで提供される。この方法を用いれば、高いウイルス力価を達成することが可能である。この方法でパッケージングされたレトロウイルスを用いて細胞集団を繰り返し感染することによって、複数のゲノム挿入が達成され得、これによって、目的の組換えタンパク質の安定かつ高レベルの発現がもたらされる。これは、プラスミドコードcDNAの多数のコピーのトランスフェクションおよび組み込みを通じて、または遺伝子増幅方法を通じて生み出される細胞株の特徴である不安定性とは対照的である。
【0066】
一般には、レトロウイルスベクターは、「長末端反復(long terminal repeat)」または「LTR」配列(すなわち、5’および3’のLTR)に隣接される目的の2つ以上の遺伝子を含む。本発明のレトロウイルスベクターは、特定のLTRに限定されないと想定されている。例示的なLTRとしては、限定するものではないが、MoMLV、MoMuSV、MMTV、HIVおよびウマ伝染性貧血LTRが挙げられる。LTRは、ウイルスのゲノムRNAの会合に必要な配列、逆転写酵素およびインテグラーゼ機能、ならびにウイルス粒子にパッケージングされるべきゲノムRNAの発現の指向に関与する配列を含み得る。例示的なレトロウイルスベクターは、参照によって本明細書に援用される米国特許第6,852,510号、および同第7,378,273号に開示される。
【0067】
いくつかの実施形態では、レトロウイルスベクターは、G糖タンパク質を含んでいる偽型レトロウイルスベクターであってもよい(例えば、このG糖タンパク質は、水疱性口内炎ウイルス、ピリー(Piry)ウイルス、チャンディプラ(Chandipura)ウイルス、コイ春季ウイルス血症ウイルス、およびモコラウイルスのG糖タンパク質からなる群より選択され得る)。
【0068】
他のウイルスベクターおよび形質導入方法もまた記載されており、これには、レンチウイルス系(例えば、ヒト免疫不全ウイルス1および2(HIV−1およびHIV−2)、シミアン免疫不全ウイルス(SIV)、猫免疫不全ウイルス(FIV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ビスナウイルス、およびジェンブラナ病ウイルス(JDV))が挙げられる。レンチウイルスベクターおよび系は、非分裂性の、最終的に分化された細胞に感染する能力、およびインテグラーゼベースの機構を通じてゲノムへ挿入する能力の故に興味深い。HIVベースの系は、ヒト臨床産物の産生および遺伝子療法適用に関していくつかの安全性の懸念を提起するが、多数の関連の動物ウイルスが、これらの目的で開発されている(例えば、Olsen,J.C.(1998)Gene Therapy 5:1481〜1487を参照のこと)。追加的に、イントロンのような、レトロウイルスビリオンでは通常見出されないさらなるエレメントを、当該分野で公知の方法を用いて組み込んでもよい(Bloら、DNA Cell Biol.2007,26:773〜9)。
【0069】
あるいは、レトロウイルスエレメントは、DNAプラスミドでウイルス粒子を創出することなく用いられ得る。これらのDNAプラスミドは、AAV ITR配列がレトロウイルスLTRで置換されており、repタンパク質がレトロウイルスインテグラーゼで置換されていること以外は、上記のようにAAVの二本鎖DNAプラスミドについて記載されたのと概念的に同様である。
【0070】
あるいは、一本鎖DNAウイルス類を用いて、目的の核酸を宿主細胞ゲノムに組み込んでもよい。一本鎖DNAウイルス類としては、限定するものではないが、DNAウイルスのボルティモア分類システムで第II群または第VII群に分類されるウイルスが挙げられる。第II群のウイルスの例としては、アデノ随伴ウイルス(AAV)およびパルボウイルスが挙げられ、第VII群のウイルスの例としてはB型肝炎ウイルスが挙げられる。
【0071】
例示的な一本鎖DNAウイルスは、アデノ随伴ウイルス(AAV)であり、これは、分裂している細胞および非分裂細胞の両方に感染可能であり、かつAAVS1と命名される、特定の部位(ヒト第19染色体において、時間のほぼ10%、残りの90%はヒトゲノムにまたがる他のRTS部位に広がっている)で、宿主細胞ゲノムに安定的に組み込まれる能力を有している(Hueserら、PLoS Pathog 6(7):el000985.doi:10.1371/journal.ppat.1000985)。AAVS1部位への安定な組み込みは、逆方向末端反復(inverted terminal repeat)すなわち「ITR」配列によって媒介され、各々のITR配列は、145塩基対を含む(例えば、Bohenzkyら,(1988)Virology 166(2):316〜27;Wang,XSら,(1995)J.Mol.Biol.250(5):573〜80;Weitzman,MDら,(1994)PNAS 91(13):5808〜12を参照のこと)。
【0072】
AAVのITR領域のヌクレオチド配列は、当該分野で周知である(例えば、Kotin(1994)Human Gene Therapy 5:793−801)。例示的なAAV ITR配列は、野性型核酸配列であってもよく、あるいは、1つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失または置換によって変更されてもよい。AAV ITR配列は、限定するものではないが、AAV−1、AAV−2、AAV−3、AAV−4、AAV−5、AAVX7を含む任意のAAV血清型由来であってもよい。一般には、5’および3’のITR配列は、目的の選択された核酸に隣接するが、当業者は、5’および3’のITR配列が、同じAAV血清型由来であっても、または異なるAAV血清型由来であってもよいことを理解するであろう。
【0073】
例示的なAAVベクターが当該分野で周知であり、これには限定するものではないが、AAV−1、AAV−2、AAV−3、AAV−4、AAV−5、AAVX7が挙げられる(例えば、米国特許第6、852、510号を参照のこと)。
【0074】
AAVのrepタンパク質はまた、AAVゲノムのAAVS1特異的な組み込みに必須であることが示された。repタンパク質は、シスで(すなわち、ITR配列に隣接する目的の核酸と同じベクター上に)提供されてもよく、または、限定するものではないが、組換えタンパク質として、またはエピソームベクターを含む別のDNAベクターのいずれかとしてトランスで提供されてもよい(例えば、Weitzman,MDら、上記;Zhou & Muzyczka(1998)J.Virol.72(4):3241〜7を参照のこと)。
【0075】
レトロウイルス類と同様に、AAVベクターのクローニング能力は、ウイルス遺伝子の置換から生じる。AAVベクターのクローニング能力は限られている(4.8キロベース(kb))が、挿入スペースは、ポリペプチドの発現に十分であり(例えば、免疫グロブリン軽鎖は、約670塩基対のcDNAによってコードされ、免疫グロブリン重鎖は、約1.2kbのcDNAによってコードされる)、種々の調節性および発現エレメントの挿入用に約3.0kbを提供する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、ヘッド−ツー−テール(head−to−tail)コンカテマー(これはベクターのクローニング能力を倍化し得る)を形成するように配置された(例えば、アニーリングされた)2つ以上のゲノム由来のITR配列を含むように設計され得る。
【0076】
特定の実施形態では、AAVまたはレトロウイルスベクターからビリオンを生成しなければならないことによって具体化されるサイズ限界は、AAVbのITR、またはレトロウイルスベクターのLTRを担持する二本鎖プラスミドDNAベクターを創出し、インテグラーゼを提供することによって回避され得るが、この場合、AAVrepタンパク質またはレトロウイルスインテグラーゼは、DNAベクター上またはタンパク質としてのいずれかで、トランスである。例えば、
図15に示されるベクターマップは、このようなITR二本鎖DNAベクターの1つを示し、
図17に示されるベクターマップは、rep発現プラスミドを示す。
【0077】
目的の1つ以上の遺伝子(例えば、目的のタンパク質をコードするDNA分子)を含有するベクター(例えば、レトロベクターまたはAAVベクター)を生成するために、公的に利用可能な、または以前に決定された配列情報を用いて化学的に合成してもよい。合成DNA分子を、定常領域コード配列および発現制御配列などの他の適切なヌクレオチド配列に連結して、所望のタンパク質をコードする従来の遺伝子発現構築物を生成してもよい。いくつかの実施形態では、目的のタンパク質が抗体である場合、抗体配列は、B細胞、例えば、形質細胞、またはハイブリドーマから、従来のハイブリダイゼーション技術またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術によって、合成核酸プローブ(その配列は本明細書に提供される配列情報に基づく)、またはB細胞もしくはハイブリドーマ細胞における抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に関する先行技術の配列情報を用いて、クローニングしてもよい。
【0078】
規定の遺伝子構築物の産生は、当該分野の慣用的な技術に含まれる。所望の抗体をコードする核酸は、例えば、レトロウイルスベクターの5’と3’LTR配列の間、またはAAVベクターの5’と3’ITR配列の間で発現ベクターに組み込まれてもよい(連結されてもよい)。このベクターはまた、目的の遺伝子、例えば、プロモーターおよび/またはエンハンサー配列、スプライシングシグナルなどの効率的な発現に必要な配列、および感染性ビリオンへウイルスRNAを効率的にパッケージングするのに必要な配列を含んでもよい(例えば、パッケージングシグナル(Psi)、tRNAプライマー結合部位(−PBS)、逆転写に必要な3’調節性配列(+PBS))。
【0079】
目的の1つ以上の遺伝子は、プロモーターおよび/またはエンハンサーのような調節性エレメントに作動可能に連結され得る。本発明は、特定のプロモーターに限定されないものと想定されている。目的の遺伝子を発現するための適切なプロモーターとしては、限定するものではないが、EF1αプロモーター、CMVプロモーター、β−アクチンプロモーター、FerLプロモーター、複合(composite)プロモーター、例えば、CMV EF−1αの組み合わせ、SV40エンハンサー、基本プロモーターおよび三分節リーダー複合プロモーター、RSV LTR、およびモロニーマウス白血病ウイルスの長末端反復配列が挙げられる。目的の1つ以上の遺伝子を発現するための適切なエンハンサーとしては、SV40およびCMVエンハンサーが挙げられる。
【0080】
ベクターとしてはまた、イントロンに関連するスプライシング配列が挙げられ、このようなイントロンの例は、βグロビンイントロン1、EF−1αイントロン1およびβアクチンイントロン1、および/または1つ以上のポリA配列、例えば、早期および後期SV40ポリA、ウシ成長ホルモンポリA、ヒト成長ホルモンポリA、EF−1αポリAおよびチミジンキナーゼポリAである。
【0081】
いくつかの実施形態では、目的のタンパク質の分泌が所望される場合、そのベクターは、シグナルペプチド配列を含むように改変されてもよい。一般には、シグナルペプチド配列は、約15〜30個の疎水性アミノ酸残基を含んでもよい。(例えば、Zwizinskiら,(1980)J.Biol.Chem.255(16):7973−77,Grayら、Gene 39(2):247−54[1985]、およびMartialら,(1979)Science 205:602〜607を参照のこと)。シグナルペプチド配列は、当該分野で公知であり、これには、限定するものではないが、ヒト成長ホルモン、ラクトフェリン、組織プラスミノーゲンアクチベータ、血清アルブミンα−カゼイン、分泌アルカリホスファターゼ、抗体κ、λまたは重鎖の生殖系列、およびα−ラクトアルブミン由来のシグナルペプチド配列を挙げることができる。
【0082】
このベクターとしてはまた、ポリシストロン性mRNAの翻訳の内部開始により、例えば、第二の遺伝子に由来する発現産物の産生を可能にするため、ポリシストロン遺伝子の間に位置する、追加の「配列内リボソーム進入部位(internal ribosome entry site)」すなわち「IRES」配列を含んでもよい。IRES配列を組み込んでいるベクターは当該分野で公知である。
【0083】
このベクターとしてはまた、タンパク質生成物の酵素的切断により、例えば、第二の遺伝子に由来する発現産物の産生を可能にするため、ポリシストロン遺伝子の間に位置する、追加的な2/フリン配列を含んでもよい。2A/フリン配列を組み込んでいるベクターは当該分野で公知である(Jostockら、Appl Microbiol Biotechnol(2010)87:1517〜1524)。
【0084】
このベクターはまた、目的の遺伝子に対して5’または3’のいずれかでRNAエクスポートエレメントを含むように改変され得る(例えば、米国特許第5,914,267号;同第6,136,597号;および同第5,686,120号;ならびにWO99/14310を参照のこと)。RNAエクスポートエレメントの封入によって、目的のタンパク質をコードする核酸配列にスプライスシグナルもイントロンも組み込むことなく、目的のタンパク質の高い発現が生じ得る。
【0085】
例示的な実施形態では、本発明のベクターは、形質転換された細胞の選択を提供する選択マーカーを含まない。
【0086】
上記で考察されたとおり、一般には、レトロウイルスベクターは、以下の構造を有し得る:
LTR−XXXXX−LTR
ここで、LTR配列が隣接するXXXXXは、プロモーター、リーダー配列、目的のタンパク質をコードする核酸配列(例えば、軽鎖配列および/または重鎖配列またはT細胞レセプター配列)、および/またはポリA配列のようなエレメントの組み合わせであってもよい。他の調節性エレメントが必要に応じて含まれてもよい。
【0087】
例示的な実施形態では、免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖の両方を含んでいるレトロウイルスベクターは、以下の構造を有してもよい:
LTR−X−軽鎖のプロモーター−κリーダー配列−免疫グロブリン軽鎖配列−軽鎖のポリA配列−重鎖のエンハンサー−重鎖のプロモーター−重鎖リーダー配列−免疫グロブリン重鎖可変配列−重鎖定常領域配列(CH)−重鎖のポリA配列−X−LTR。
この構造を有しているレトロウイルスベクターは、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の配列の両方を同じ方向に含む。このレトロウイルスベクターの例示的なプロモーターとしては、CMVエンハンサーおよび/またはSV40エンハンサーを先行して有するEF1αプロモーターが挙げられる。いくつかの実施形態では、レトロウイルスベクターは、調節性エレメントの組み合わせ、例えば、CMVエンハンサーを軽鎖配列の前に有するヒトEF−1αプロモーター、および重鎖配列の前にSV40エンハンサーを有するラットまたはマウスのEF−1αプロモーターの組み合わせが挙げられる。特定の実施形態では、調節性エレメントの組み合わせ、例えば、1つの核酸の発現を駆動するヒトEF−1αプロモーター、および第二の核酸の発現を駆動するラットまたはマウスのEF−1αプロモーターの組み合わせは、レトロウイルスベクター構築物の安定性を増強し得る。
【0088】
別の実施形態では、免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖の両方を含んでいるレトロウイルスベクターは、以下の配列を有し得る:
LTR−X−軽鎖のポリA−軽鎖配列−κリーダー配列−軽鎖のプロモーター−エンハンサー配列−重鎖のプロモーター−重鎖リーダー配列−免疫グロブリン重鎖可変配列−重鎖定常領域配列(CH)−重鎖のポリA配列−X−LTR。
この構造を有しているレトロウイルスベクターは、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の配列の両方を反対方向に含む。このベクターの例示的なプロモーターとしては、CMVエンハンサーおよび/またはSV40エンハンサーをそのプロモーターに先行して有するEF−1αプロモーター、またはそれらの調節性エレメントの組み合わせが挙げられる。
【0089】
別の例示的な実施形態では、免疫グロブリン軽鎖のみを含んでいるレトロウイルスベクターは以下の構造を有し得る:
LTR−X−軽鎖のプロモーター−κリーダー配列−免疫グロブリン軽鎖配列−軽鎖のポリA配列−X−LTR。
レトロウイルスベクターの例示的なプロモーターとしては、CMVエンハンサーおよび/またはSV40エンハンサーを先行して有するEF−1αプロモーター、またはそれらの調節性エレメントの組み合わせが挙げられる。
【0090】
別の例示的な実施形態では、免疫グロブリン重鎖のみを含んでいるレトロウイルスベクターは以下の構造を有し得る:
LTR−X−重鎖のプロモーター−重鎖リーダー配列−
免疫グロブリン重鎖可変配列−重鎖定常領域配列(CH)−重鎖のポリA配列
−X−LTR。
レトロウイルスベクターの例示的なプロモーターとしては、CMVエンハンサーおよび/またはSV40エンハンサーを先行して有するEF−1αプロモーター、または調節性エレメントの組み合わせが挙げられる。
【0091】
例示的なAAVベクターは、隣接するLTR配列が隣接するITR配列によって置き換えられていることを除いて、上記の構造と類似の構造を有し得る。
【0092】
図14は、pExcelとして本明細書に言及される例示的な抗体発現ベクターの略図を示す。このpExcelベクターは、本明細書に記載されるように、抗体発現カセットの一過性発現または組み込みのために免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の両方を発現して、ポリクローナル細胞集団を生成するために用いられ得る。重鎖および軽鎖の両方の免疫グロブリン発現のためのpExcelベクターは以下のエレメントを含む:ColE1 ori=細菌複製起点;CMV=CMVエンハンサー;hFerL=耐性遺伝子の発現を駆動する、hFerL真核生物コアプロモーター;EM7=耐性遺伝子の発現を駆動する、細菌プロモーター;Neo/Kan:Neomycin(真核生物)/Kanamycin(原核生物)耐性遺伝子;Bグロビン pA=βグロビンポリアデニル化配列;hEF1α=ヒト EF1αプロモーター;重鎖リーダー(Heavy Leader)=例えば、VhX由来のリーダー;軽鎖リーダー(Light Leader)=例えば、kX由来のリーダー;可変重鎖=制限部位に隣接する、目的の抗体の重鎖の可変領域;hIG1定常重鎖=ヒトIgG1定常領域のcDNA;SV40 pA=SV40ポリアデニル化配列;BGH pA=BGHポリアデニル化配列;軽鎖(Light Chain)=制限部位に隣接する、目的のλ抗体またはκ抗体のいずれかの可変領域および定常領域;およびrEF1α=ラットEF1αプロモーター(イントロンおよびエキソンは、EF1αプロモーターおよびリーダーについてアノテーションされている)。
【0093】
図15は、以下のエレメントを含んでいるポリクローナル細胞集団への抗体発現カセットの一過性発現または組み込みのための、pEXCEL/ITRと本明細書で呼ばれる例示的な抗体発現ベクターの略図を示す:左ITRおよび右ITR=AAV2由来の逆末端反復(Inverted Terminal Repeat)配列;ColE1 ori=細菌複製起点;CMV=CMVエンハンサー;hFerL=耐性遺伝子の発現を駆動する、hFerL真核生物コアプロモーター;EM7=耐性遺伝子の発現を駆動する、細菌プロモーター;Neo/Kan:Neomycin(真核生物)/Kanamycin(原核生物)耐性遺伝子;Bグロビン pA=βグロビンポリアデニル化配列;hEF1α=ヒト EF1αプロモーター;重鎖リーダー(Heavy Leader)=例えば、VhX由来のリーダー;軽鎖リーダー(Light Leader)=例えば、kX由来のリーダー;可変重鎖=制限部位に隣接する、目的の抗体の重鎖の可変領域;hIG1定常重鎖(Constant Heavy)=ヒトIgG1定常領域のcDNA;BGH pA=BGHポリアデニル化配列 SV40 pA=SV40ポリアデニル化配列;軽鎖(Light Chain)=制限部位に隣接する、目的のλ抗体またはκ抗体のいずれかの可変領域および定常領域;およびrEF1α=ラットEF1αプロモーター(イントロンおよびエキソンは、EF1αプロモーターおよびリーダーについてアノテーションされている)。
【0094】
図16は、pEXCEL−ITRのエレメント並びにAAV2のp5プロモーター領域由来のp5IEE:p5組み込み有効性エレメント(Integration Efficiency Element)の各々を含んでいるポリクローナル細胞集団へ抗体発現カセットを一過性発現させるまたは組み込みのための、pEXCEL−ITR/p5と本明細書で呼ばれる例示的な抗体発現ベクターの略図である。このエレメントは、ITR配列に隣り合う位置であってもよい。あるいは、p5エレメントは、ITR配列のうちの一方または両方を置き換えてもよい。
【0095】
図17は、本明細書においてpExcel−Rep78ベクターと呼ばれる、例示的なRep78ベクターの略図である。このpExcel−Rep 78ベクターは、以下のエレメントを含む:SV40プロモーター=Rep78由来の真核生物プロモーター;Rep78=AAV2由来のRep78のコード配列;SV40後期pA=SV40由来の後期ポリアデニル化配列;Amp=アンピシリン耐性遺伝子および細菌プロモーター;ならびにORI=細菌複製起点の開始部位。
【0096】
組換えレトロウイルスベクターの構築後、レトロベクターを、パッケージング細胞株に導入する。パッケージング細胞株は、所望の宿主範囲を有するウイルス粒子へウイルスのゲノムRNAをパッケージングするために、トランスで必要なタンパク質(すなわち、ウイルスがコードしているgag、polおよびenvのタンパク質)を提供する。この宿主範囲は、ウイルス粒子の表面上に発現されるエンベロープ遺伝子産物の種類によって部分的に制御される。パッケージング細胞株は、エコトロピック(狭宿主性)、アンホトロピック(広宿主性)またはキセノトロピック(異種指向性)なエンベロープ遺伝子産物を発現し得る。あるいは、パッケージング細胞株は、ウイルスのエンベロープ(env)タンパク質をコードする配列を欠いてもよい。この場合、パッケージング細胞株は、ウイルスゲノムを、膜会合タンパク質(例えば、envタンパク質)を欠く粒子にパッケージングし得る。細胞へのウイルスの進入を可能にする膜会合タンパク質を含有するウイルス粒子を生成するために、レトロウイルス配列を含んでいるパッケージング細胞株を、膜会合タンパク質(例えば、水疱性口内炎ウイルス(VSV)のGタンパク質)をコードする配列でトランスフェクトする。すると、このトランスフェクトされたパッケージング細胞は、トランスフェクトされたパッケージング細胞株発現の膜会合タンパク質を含むウイルス粒子を生成し得る;これらのウイルス粒子(別のウイルスのエンベロープタンパク質によってキャプシド形成される、1つのウイルス由来のウイルスゲノムRNAも含む)は、偽型ウイルス粒子と呼ばれる。
【0097】
一本鎖DNAウイルスベクターが用いられる場合、例えば、AAVベクターでは、このベクターを、宿主細胞の増殖感染を促進するために、無関係のヘルパーウイルス、例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルスまたはワクチンで同時感染させる。例示的な実施形態では、組換えAAVビリオンは、AAVベクターおよびAAVヘルパープラスミドの両方でトランスフェクトされた宿主細胞中で産生され得る。AAVヘルパープラスミドは一般的に、AAVのrepおよびcapタンパク質を含むが、AAVのITRは欠く。従って、AAVヘルパープラスミドは、それ自体を複製もパッケージングもできない。AAVベクターは、AAVのITR配列(ウイルスの複製およびパッケージング機能を提供する)が隣接する目的の遺伝子を含む。ヘルパープラスミドおよびAAVベクター(目的の核酸を含んでいる)が、当該分野で周知の方法を用いて宿主細胞に同時形質転換された後、宿主細胞をヘルパーウイルスで感染させて、AAVのrepおよびcapタンパク質の発現を促す、ヘルパープラスミドに存在するAAVプロモーターをトランス活性化する。次に、目的の核酸を含んでいる組換えAAVビリオンを精製し、これを用いて所望の多重度の感染で宿主細胞を感染させて、1細胞あたり高コピー数を提供してもよい。下に考察されるとおり、宿主細胞は、同じAAVベクターおよび/またはAAVベクターのライブラリーを用いて繰り返し形質導入されてもよい。
【0098】
II.宿主細胞
ウイルスベクターによる形質導入に適した種々の宿主細胞(例えば、レトロベクター、AAVベクターなど)の使用が想定されている。例示的な宿主細胞株としては、哺乳動物細胞株、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(Chinese hamster ovary)(CHO)細胞、サル腎臓CV1(COS)細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、ウシ乳腺上皮細胞、ヒト胎児由来腎臓(HEK)細胞、ヒト子宮頸癌(HeLa)細胞、マウスセルトリ細胞(TM4)、アフリカ遺伝子サル腎臓細胞(VERO−76)、イヌ腎臓細胞(MDCK)、バッファローラット肝臓細胞(BRL3A)、ヒト肝臓細胞(Hep G2)、ヒト肺線維芽細胞(WI−38、IMR−90またはMRC−5)、マウス乳腺腫瘍細胞(MMT060562)、TR1細胞、ラット線維芽細胞、および骨髄腫細胞が挙げられる。
【0099】
哺乳動物細胞に加えて、昆虫細胞株、両生類細胞株、および植物細胞も用いられてよい。適切な昆虫細胞株の例としては、限定するものではないが、Sf細胞(例えば、Sf9およびSf21細胞株、ならびにHigh Five(商標)細胞株)および蚊の細胞株(例えば、MOS−55細胞株)が挙げられる。
【0100】
III.形質転換方法および細胞集団の生成
例示的な実施形態では、目的の少なくとも1つのタンパク質または目的のタンパク質のライブラリーをコードするウイルスベクターを用いて、宿主細胞ゲノム(例えば、宿主細胞ゲノムDNA)を形質転換してもよい。例えば、宿主細胞は、レトロウイルスベクターおよびレトロウイルスのインテグラーゼタンパク質を用いて、または一本鎖DNAウイルスベクター(例えば、AAVベクター)およびrepタンパク質を用いて、1細胞あたり少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも5回、少なくとも10回以上のウイルスベクターの多重感染で形質導入してもよい。約10〜約1,000,000という感染の多重度を用いて、組み込まれたベクターの約2〜約100コピーを含んでいる感染した宿主細胞のゲノムを生成してもよい。いくつかの実施形態では、約10〜約10,000という感染の多重度が用いられる。
【0101】
例示的な実施形態では、1つ以上の宿主細胞は、繰り返し形質転換され得る。例えば、宿主細胞は、米国特許第6,852,510号および同第7,378,273号に記載のように、同じウイルスベクター(例えば、レトロベクター、AAVベクターなど)で少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20回以上形質導入される。同じ細胞集団に対する、複数の繰り返しの形質導入の使用は、組み込まれたベクターの少なくとも1つのコピーを含んでいる宿主細胞の割合を増大し、かつ複数の組み込まれたコピーを含有する宿主細胞集団を生成するために用いられ得ると想定されている。理論によって束縛されることは望まないが、複数の反復の形質転換は、得られた細胞集団からのタンパク質産生も増大し得る。
【0102】
宿主細胞を形質転換するための方法は、当該分野で周知である。要するに、宿主細胞は、宿主細胞ゲノムへの目的の1つ以上の遺伝子の感染および引き続く組み込みを可能にするのに十分な時間、感染性ベクターを含んでいる培地に暴露される。当業者は、組み込みの量が、(1)宿主細胞に積層するために用いられる培地の量(例えば、小容積を用いる)と、(2)宿主細胞がベクターに暴露される時間の長さと、(3)宿主細胞のコンフルエンシーと、(4)感染の多重度とを操作することによって最大化され得る。
【0103】
本明細書に記載されるとおり、いくつかの実施形態では、ベクターのライブラリーを用いて宿主細胞の集団を形質転換する。宿主細胞を、2つ以上のベクターで形質転換する場合、2つ以上のベクターの形質転換は、同時であってもよいし(例えば、宿主細胞は、2つ以上のベクター、例えば、ベクターのライブラリーを含有する溶液に暴露される)、または異なる時点(例えば、連続)であってもよい。宿主細胞が各々のベクター(例えば、ウイルスベクター)で連続して形質転換される場合、宿主細胞は、第一のベクターでトランスフェクトされ、ある期間継代され、次いで、任意の引き続くベクターでトランスフェクトされる。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、第一のベクターで繰り返し形質転換され、その後任意の追加のベクターで形質転換(例えば、繰り返し形質転換)されてもよい。
【0104】
例示的な実施形態では、本明細書に開示される形質転換方法は、個々の前駆細胞(例えば、個々の細胞クローン)のクローン選択の使用ならびに/または組み込まれた目的の遺伝子を含有する細胞を特定および選択するための細胞株の産生を必要としない。上記のように、本発明のベクターは、選択マーカーを含まなくてもよい。本明細書に開示される方法は、複数の、反復的な形質転換を利用して、目的の1つ以上の遺伝子の少なくとも1つが組み込まれたコピーを含有する細胞の少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%および100%を含む宿主細胞集団を生成する。
【0105】
いくつかの実施形態では、細胞集団は、形質転換された宿主細胞と形質転換されていない宿主細胞との両方を含んでもよい。形質転換されていない宿主細胞が存在する場合、この開示された方法はさらに、集団中の形質転換された細胞のサブセットを選択する選択工程を包含し得る。この選択工程は、ネガティブ選択であっても、またはポジティブ選択であってもよい。例示的なネガティブ選択マーカーとしては、限定するものではないが、G418、ブラストサイジン、ピューロマイシン、ハイグロマイシンおよびゼオシンが挙げられる。例示的なポジティブ選択としては、培養培地から排除される必須アミノ酸を作製可能な酵素の使用が挙げられる。選択工程は、複数の個々の細胞集団を混合する前に行われてもよい。あるいは、この選択工程は、複数の個々の細胞集団の混合後に行ってもよい。選択はまた、複数のベクターを用いて生成される細胞集団で、単回の形質転換で行われてもよい(例えば、単回の形質転換における各々のベクターが、目的の2つ以上のタンパク質をコードする場合)。
【0106】
目的の遺伝子の少なくとも1つ以上のコピーを組み込んでいる宿主細胞は、さらに多くの細胞数が望まれる場合、当該分野で周知の標準的な技術を用いて増殖してもよい。個々の細胞集団は、約百万個の細胞、約5百万個の細胞、約一千万個の細胞、約二千万個の細胞またはそれ以上の個数の細胞まで増殖されてもよい。例示的な実施形態では、個々の細胞集団は、下に考察されるように細胞集団を混合する前に約一千万個の細胞まで増殖される。
【0107】
IV.組換えポリクローナル細胞集団を産生するための細胞集団の混合
少なくとも2つの個々の細胞集団(各々が、異なるタンパク質を産生する)は、本明細書に記載の方法工程から生成される場合、細胞のポリクローナル混合物(本明細書においては「ポリクローナル細胞集団」と呼ばれる)を生成するように混合されてもよい。例示的な実施形態では、少なくとも2つの個々の細胞集団を生成して、それを混合し、複数のタンパク質を産生できるポリクローナル細胞集団を生成する。ポリクローナル細胞集団は、各々が異なるタンパク質を産生できる少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、50、75、100またはそれ以上の細胞集団を含んでもよい。
【0108】
少なくとも2つの個々の細胞集団は、等しい数(例えば、1:1の比)で混合されても、または1:1とは異なる比(例えば、1:2の比、1:3の比、1:4の比、1:5の比、1:10またはそれ以上の比)で混合されてもよい。3つ以上の個々の細胞集団が混合される場合、その細胞は、例えば、1:1:1の比、または例えば、1:1:1の比とは異なる任意の可能な比率で混合されてよいことも想定されている。
【0109】
ポリクローナル細胞集団はさらに、当該分野で周知の方法を用いて増殖されてもよいし、または細胞バンクを形成するために凍結されてもよい(下に考察される)。ポリクローナル細胞集団の全体的なサイズは、少なくとも100個の細胞、少なくとも1,000個の細胞、少なくとも1万個の細胞、少なくとも10万個の細胞、少なくとも百万個の細胞、少なくとも5百万個の細胞、少なくとも一千万個の細胞、少なくとも二千万個の細胞、少なくとも5千万個の細胞またはそれ以上の細胞を含んでもよい。例示的な実施形態では、組換えポリクローナル細胞集団は、個々の細胞集団(各々が異なるタンパク質を産生できる)から生成されてもよく、ここで各々の個々の細胞集団は、約百万個の細胞である。例えば、組換えのポリクローナルタンパク質の組成物が5つの異なるタンパク質を含む場合、組換え細胞集団の大きさは、少なくとも5百万個の細胞(例えば、5つの個々の細胞株の各々から約百万個の細胞)である。ポリクローナル細胞集団のサイズは、十分大きく、1つの細胞を産生する1つのトランスフェクトされた細胞集団のガウス増殖曲線は、第二(または第三など)のタンパク質を産生するトランスフェクトされた細胞集団に対して同一であるか、または実質的に同一であると考えられる。本明細書に記載されるポリクローナル細胞集団の安定性は、トランスフェクトされた細胞の大集団を用いること、および個々の細胞集団のうち多数(例えば、1つの個々の細胞集団あたり約百万個以上の細胞)を混合して、組換えポリクローナル細胞集団を産生することによって達成される。
【0110】
V.組換え細胞集団のバンキング
組換え細胞集団(例えば、単一の組換えポリペプチドを発現する細胞集団および異なるタンパク質を産生できる少なくとも2つの異なる細胞集団を含んでいるポリクローナルの細胞集団)を、将来の試験、スクリーニング、製造および/または使用のためにバンキング(すなわち、凍結および貯蔵)してもよい。細胞集団は、当該分野で周知の方法を用いて、個々のバイアルまたはアンプル中でアリコートにされて、凍結され得る(例えば、凍結ストックを生成するために)。アリコートのサイズ、1バイアルあたりの細胞の数、およびバイアル(またはアンプル)の数は、細胞集団の所望の用途次第で変化し得る。いくつかの実施形態では、細胞集団は、1バイアルあたり約百万個、約5百万個、約一千万個、または約二千万個の細胞という総細胞カウントでバンキングされ得る。例示的な実施形態では、ポリクローナル細胞集団は、1バイアルあたり約一千万個の細胞という総細胞カウントでバンキングされる。
【0111】
細胞集団(例えば、ポリクローナル細胞集団)は、バンキングされて、タンパク質組成物(例えば、ポリクローナルタンパク質組成物)のさらなる試験および確認に供されてもよいことが想定されている。本明細書に記載される方法によって産生されるポリクローナルタンパク質組成物の確認の際、細胞集団の1つ以上の凍結アンプル(例えば、モノクローナルまたはポリクローナルの細胞集団)が解凍されて、標準的な細胞培養技術を用いて増殖されてもよいと考えられることが想定されている。このような工程は、所定のポリクローナルタンパク質組成物の大規模容量を産生できる細胞株を樹立(例えば、治療用途用のポリクローナルタンパク質組成物を産生するための細胞株の製造)するために行われ得る。
【0112】
ある特定の実施形態では、単一のタンパク質(例えば、単一の抗体)を発現する個々の細胞集団はバンキング(すなわち、凍結および貯蔵)されない。
【0113】
VI.組換えポリクローナルタンパク質組成物
本明細書に記載の方法によって産生される組換えポリクローナルタンパク質の組成物は、タンパク質の混合物を含む。
【0114】
いくつかの実施形態では、ポリクローナルタンパク質の組成物は、1つ以上の標的タンパク質上の異なる抗原性エピトープに結合する抗体の混合物である。例えば、ポリクローナル細胞集団は、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、50、75、または100個の異なる抗原性エピトープに結合する、ポリクローナル抗体組成物を産生できる少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、50、75、100またはそれ以上の細胞集団を含み得る。異なる抗原性エピトープに結合する場合、これらのエピトープは、同じ標的タンパク質上に存在していてもよいし、異なる標的タンパク質(例えば、少なくとも2、3、4、5個以上の異なる標的タンパク質)上に存在していてもよい。
【0115】
2つ以上のポリペプチドを標的にする例示的なポリクローナル抗体組成物としては、限定するものではないが、同じ分子経路でポリペプチドを標的にする組成物(例えば、リガンド、その同族のレセプター、および/または下流のエフェクター分子)、重複機能を有するポリペプチド(例えば、同じレセプターを通して機能する2つのリガンド)、または同じ細胞の表面上に各々が発現されるポリペプチド(例えば、少なくとも2つのポリペプチドが、同じ疾患関連細胞、例えば、腫瘍細胞上で両方とも発現される)が挙げられる。いくつかの実施形態では、2つ以上の標的ポリペプチドは、同じ疾患、障害または状態との関連を除いて、無関係のポリペプチドであってもよい。
【0116】
いくつかの実施形態では、組換えポリクローナルタンパク質の組成物は、単一のポリペプチドを標的にする抗体の混合物を含んでいる組換えポリクローナル抗体組成物である(例えば、抗体の混合物は、同じ、類似(例えば、部分的に重複するエピトープ)、または異なる抗原性エピトープを同じ標的ポリペプチド上で標的にし得る)。いくつかの実施形態では、組換えポリクローナル抗体組成物は、野性型および変異体型(例えば、治療法(例えば、癌の処置)に対する抵抗性または疾患重篤度の増大に関連する公知の変異体)の両方のポリペプチドを標的にし得る。
【0117】
本発明の例示的な抗体ポリペプチドは、免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖を含み、6つの相補性決定領域(CDR)(すなわち、免疫グロブリン重鎖上の3つのCDR、および免疫グロブリン軽鎖の上の3つのCDR)を含んでいる四量体抗体を形成する。本発明の免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の配列は、天然の抗体配列、または遺伝子操作された抗体配列、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体および多価特異的抗体(例えば、二価特異的抗体)に相当し得ることが想定されている。目的のポリペプチドは、Fab、Fab’、F(ab’)
2、またはFvフラグメントのような抗原結合フラグメントに相当し得るとも考えられる。抗体および抗体フラグメントの抗原性を減少または排除するための方法は、当該分野で周知である。いくつかの実施形態では、ポリクローナル抗体組成物は、四量体のインタクトな抗体(例えば、天然に存在する抗体および/または遺伝子操作された抗体)および/またはその抗原結合フラグメントの組み合わせを含み得る。
【0118】
いくつかの実施形態では、ポリクローナル抗体組成物中の1つ以上の抗体は、検出可能な標識またはエフェクター分子、例えば低分子(例えば、毒素)のような他の部分に対して化学的にコンジュゲートされてもよい。
【0119】
ポリクローナル抗体組成物は、2つ以上のアイソタイプの免疫グロブリン重鎖を含んでもよい。例えば、免疫グロブリン重鎖は、以下のアイソタイプのうちいずれか1つを含んでもよい:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgM、IgDおよびIgE。個々の細胞集団の混合の際、組換えポリクローナル混合物は、同じまたは異なるアイソタイプの免疫グロブリン重鎖配列を含んでもよい。いくつかの実施形態では、組換えポリクローナル抗体組成物は、少なくとも2つ以上の異なるアイソタイプを含んでもよい。
【0120】
ポリクローナル抗体組成物は、当該分野で周知の方法を用いて精製され得る。例示的な方法としては、ゲル濾過、アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、および疎水性相互作用クロマトグラフィーが挙げられる。選択された精製方法は、ポリクローナル抗体組成物中の全ての抗体が同じアイソタイプであるかまたは関連のアイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2、およびIgG4)であるかに依存し得る。この抗体が、同じアイソタイプであるか、または関連のアイソタイプである(例えば、全ての抗体がIgG抗体である)場合、この抗体は、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーを用いて精製され得る。この抗体が異なる(および無関係の)アイソタイプである場合、ゲル濾過を用いて、ポリクローナル抗体組成物を精製してもよい。
【0121】
いくつかの実施形態では、このポリクローナルタンパク質の組成物は、ワクチンとして使用するためのタンパク質の混合物である。このポリクローナル組成物は、同じ病原体の1つ以上の感染性因子、所定の感染因子の改変体(例えば、変異体型、アイソフォームなど)、または異なる感染性因子を模倣する組換えタンパク質を含んでもよい。ポリクローナルタンパク質の組成物のタンパク質構成要素は、疾患を生じることが公知であるかまたは疑われるタンパク質標的または因子の組み合わせを含んでもよい。ポリクローナルタンパク質の組成物は、限定するものではないが、ゲル濾過、アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、および疎水性相互作用クロマトグラフィーを含む当該分野で周知の方法を用いて精製されてもよい。
【0122】
限定するものではないが、ポリクローナル抗体組成物、ポリクローナルワクチン組成物を含む、ポリクローナルタンパク質の組成物の安定性は、当該分野で周知の方法を用いて決定され得る。例示的な方法としては、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、パパイン消化に続く2−Dゲル分析、マイクロアレイ、定量的PCR(qPCR)、およびELISAアッセイが挙げられる。バンキングされたポリクローナルタンパク質の組成物を経時的に定期的にモニターして、組換えポリクローナルタンパク質の組成物を構成する個々のタンパク質の安定性をアッセイしてもよいことが想定されている。
【0123】
特定の実施形態では、ポリクローナルタンパク質混合物の安定性は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって分析され得る。サンプルは以下に記載のように調製してもよい:細胞(例えば、FreeStyle 293−F培養物(Invitrogen))は、400×gで5分間の遠心分離に供し、この上清を次に、急速凍結および−20℃で貯蔵し、そして96ウェルフィルタープレート(3M Empore,カタログ番号6065)を用いる引き続く濾過に供してもよい。HPLC(Ultimate 3000 RSLC,Dionex)分析を、WCX−10 ProPacカラム(Dionex,カタログ番号016830)、流速1ml/分、30℃のカラム温度、および220/280nmの検出を用いて行ってもよい。抗体タンパク質は、20mMの2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、pH5.6(緩衝液A)と20mMのMES/1M NaCl、pH5.6(緩衝液B)との間の直線勾配を有するイオン交換カラムから溶出してもよい。各々の上清のサンプルのクロマトグラフィー分析は、連続工程、例えば(全部で14分)7分にわたる5%〜33%の緩衝液Bの勾配、0.5分にわたる33%〜100%の緩衝液Bの勾配、1分間の100%緩衝液B、0.5分にわたる100%〜5%の緩衝液Bの勾配、および5分間の5%の緩衝液Bで行われてもよい。Chromeleon Consoleプログラム(Dionex)を用いて、ピークの値を、mAU(A280)および保持時間(分)の関数として算出してもよい。これらのクロマトグラフィー条件を用いて、抗体タンパク質を別個の保持時間で溶出してもよい。別の例示的な精製プロトコールでは、抗体タンパク質は、FreeStyle 293−F細胞(Invitrogen)中で、293fectin Transfection Reagent(Invitrogen,カタログ番号12347−019)を製造業者の指示に従って用いて発現させ、HiTrap MabSelect(GE Healthcare,カタログ番号28−4082−53)カラムを用いて精製してもよく、緩衝液はBioscale Mini Bio Gel P6 Desalting Cartridge(Biorad,カタログ番号732−5304)で交換されてもよい。この溶出された抗体タンパク質は、A280によって定量され、混合され、HPLCによって分析されてもよい。
【0124】
VII.組換えポリクローナルタンパク質組成物の使用
本発明の組換えポリクローナルタンパク質の組成物を用いて、癌を含む種々の疾患および障害(例えば、乳癌、肺癌、非小細胞肺癌、卵巣癌、前立腺癌、子宮頸癌、結腸直腸癌、膵臓癌、肝臓癌、胃癌および頭頸部癌)を処置してもよい。例えば、癌細胞を、治療上有効な量のポリクローナルタンパク質組成物(例えば、ポリクローナル抗体組成物)に暴露して、癌細胞の増殖を阻害または軽減してもよい。いくつかの実施形態では、本発明の組換えポリクローナル抗体組成物は、癌細胞増殖を、少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%または100%まで阻害する。
【0125】
他の実施形態では、本発明のポリクローナルタンパク質の組成物を用いて、細菌および/またはウイルス感染症、ならびに感染性タンパク質、例えば、プリオン類および毒素類を処置してもよい。
【0126】
本明細書において用いる場合、「処置する、処理する(treat)」、「処置すること、処理すること(treating)」および「処置、処理(treatment)」とは、哺乳動物における、例えば、ヒトにおける疾患の処置を意味する。これには以下が含まれる:(a)疾患を阻害すること、すなわち、その進行を停止すること;および(b)疾患の軽減、すなわち、疾患状態を退行させること;および(c)疾患を治癒すること。
【0127】
一般には、活性成分の治療上有効な量は、0.01mg/kg〜100mg/kg、例えば、1mg/kg〜100mg/kg、1mg/kg〜10mg/kgの範囲である。投与される量は、処置されるべき疾患または適応症の種類および程度、患者の全体的な健康度合、抗体のインビボ力価、薬学的処方物および投与経路などの変数に依存する。初回投薬量は、所望の血液レベルまたは組織レベルを迅速に達成するために上限を超えて増大されてもよい。あるいは、初回投薬量は、最適量よりも少なくてもよく、毎日の投薬量は、処置の経過の間に漸増してもよい。ヒト投薬量は、例えば、0.5mg/kg〜20mg/kgで移行するようにデザインされた従来の第I相用量漸増試験で、最適化され得る。投薬頻度は、投与の経路、投薬量および処置されている疾患などの因子に依存して変化し得る。例示的な投与頻度は、1日に1回、週に1回、および2週に1回である。好ましい投与経路は、非経口、例えば、静脈内注入である。ポリクローナルタンパク質ベースの薬物の処方物(例えば、ポリクローナル抗体、ワクチンなど)は、当該分野の技術の範囲内である。いくつかの実施形態では、ポリクローナルタンパク質組成物(例えば、ポリクローナル抗体組成物)を凍結乾燥して、投与時点で緩衝化生理食塩水中に再懸濁する。
【0128】
治療用途に関しては、本発明のポリクローナルタンパク質の組成物を薬学的に許容される担体と合わせるのが好ましい。本明細書において用いる場合、「薬学的に許容される担体」とは、過剰な毒性、刺激、アレルギー応答または他の問題も合併症もなく、ヒトおよび動物の組織と接触して用いるのに適した緩衝液、担体および賦形剤(合理的な利点/リスクの比が釣り合っている)を意味する。この担体(単数または複数)は、処方物の他の成分と適合性であり、レシピエントに対して有害でないという意味で「許容可能」でなければならない。薬学的に許容される担体としては、薬学的投与に適した、緩衝液、溶媒、分散媒体、コーティング、等張性および吸収遅延剤などが挙げられる。薬学的に活性な物質用のこのような媒体および因子の使用は当該分野で公知である。
【0129】
本発明のポリクローナルタンパク質を含んでいる薬学的組成物(例えば、抗体、ワクチン)は、単位投与剤形で与えられてもよく、任意の適切な方法によって調製されてもよい。薬学的組成物は、その意図される投与経路と適合するように処方されるべきである。投与経路の例は、静脈内(IV)、皮内、吸入、経皮、局所、経粘膜および直腸の投与である。ポリクローナル抗体の投与の好ましい経路は、IV注入である。有用な処方物は、薬学の分野で周知の方法によって調製され得る。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,第18版(Mack Publishing Company,1990)。非経口投与に適した処方成分としては、滅菌希釈液、例えば、注射用水、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒;抗菌剤、例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム;キレート剤、例えば、EDTA;緩衝液、例えば、酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩;ならびに張度の調節剤、例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロースが挙げられる。
【0130】
静脈内投与のための適切な担体としては、生理学的食塩水、静菌水、Cremophor ELTM(BASF,Parsippany,NJ)、またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。この担体は、製造および貯蔵の条件下で安定でなければならず、微生物に対して防腐されなければならない。この担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコール)およびそれらの適切な混合物を含有する溶媒または分散培地であってもよい。
【0131】
薬学的処方物は好ましくは無菌である。滅菌は例えば、無菌濾過膜を通した濾過によって達成され得る。組成物が凍結乾燥される場合、濾過滅菌は、凍結乾燥および再構成の前に行われてもまたは後に行われてもよい。
【0132】
実施例
以下の実施例は、単に例示であって、決して本発明の範囲や内容を限定するものではない。
実施例1:外因性DNA配列の安定な発現を促進するための、AAV Repタンパク質を用いる安定なポリクローナル細胞集団の産生
【0133】
A.AAV Repタンパク質は、培養された細胞において、外因性DNA配列の安定な発現を増強する。
【0134】
本実施例の目的は、AAV Repタンパク質が、培養された細胞中で外因性のDNAの安定な発現を増強するか否かを決定することであった。
【0135】
GFPを、Freestyle 293細胞中で発現し、続いて種々の濃度のpAAV2−Rep78とともにpExcel−ITR:GFPの同時トランスフェクションを行った。Freestyle 293細胞(2×10
6)を、2μgのpExcel−ITR:GFPおよび2μg、40ng、20ng、10ngまたは4ngのpAAV2−Rep78とともに、293−Fectinを用いて、製造業者の指示に従って同時トランスフェクトを行った。細胞を、選択なしに25日間培養した。3〜4日毎に、GFP発現を、FACS分析によって評価した。17、21および25日のGFPを発現する細胞の割合を平均したが、エラーバーは、
図1に示されるように、標準偏差を示している。ベクター単独(pExcel−ITR:GFP対pRep78が1:0)によって、
図1に示されるように、約1%の組み込みが生じた。高レベルのRep78は、細胞に対して毒性であるが、Rep78は、毒性未満の用量で投与された場合、より高い全体的に安定な組み込み効率を媒介し(例えば、
図1に示されるようなpExcel−ITR:GFP対pRep78の1:1の濃度比は、ベクター単独での組み込みと比較してAAV rep78媒介性の組み込みのわずかな増大しか生じなかった(
図1では1:0))、pRep78の滴定によって、安定な発現を約5倍まで増強した、pRep78の濃度(例えば、1:50および1:100)が明らかになった。
【0136】
B.非ウイルスAAV組み込みは、安定な抗体発現を生じる
この実施例の目的は、非ウイルスAAV組み込みが安定な抗体発現を生じるか否かを検討することであった。Freestyle 293細胞(30×10
6)を、30μgのpExcel−ITR:5.55.D2(これは、抗S.aureusδ毒素IgG1を発現する)と150ngのpAAV2−Rep78とともに、293−Fectinを用いて、製造業者の指示に従って同時トランスフェクトし、IgG1産生を経時的にモニターした。トランスフェクションの3日後、細胞を、500μg/mLのG418を含有している増殖培地で継代した。細胞培養上清のFc−特異的ELISAを、1週に2回行った。各々の時点でのIgG1の総pg/mlを、培養物中の1日あたりの平均細胞数で割った。
図2に示すとおり、1日あたり1細胞に産生される抗体のピコグラム数(pg/細胞/日)として測定した場合の相対発現は、11週間にわたって4〜8(pg/細胞/日)の間で維持される。細胞の密度および生育可能性は、G418選択期間の間に低下するようであり、これはこの期間に細胞の抗体産生に影響を与えたが、21日(3週)までには、細胞の密度および生育可能性は、トランスフェクション前レベルまで回復した(発現レベルは、G418選択開始の14日後に一過性のトランスフェクションレベル(時間=0)に接近する)。
【0137】
追加実験をまた、全部で5つの異なる抗体産生細胞集団で行い(二連で実施)、11週の期間にわたって安定性をモニタリングした。これらの集団の発現レベルは、実験の経過中、3〜10pg/細胞/日で維持された。
【0138】
得られた細胞集団は、クローン細胞株ではなく、ほとんどRep78タンパク質によって媒介される多様な分布の組み込み事象を有している細胞で構成されているバルク細胞集団である(
図1および
図10に示される結果によって示されるとおり)。これらの結果によって、4×10
6個の細胞/mlという細胞濃度では、10,000Lの容積を満たすのにこの実験では31日を要することが示唆される。11週まで、これは、7.75×10
12リットルに等しいか、または7.75×10
7の1万リットルの製造容器に等しい。ポリクローナル集団混合物の引き続く例では、10,000Lの産生容器に繁殖させるのに十分な数の細胞集団を産生させる間ずっと安定であることを示す時間的期間が示される。このデータではまた、
図2に示されるように、これらの細胞集団が、その産生容積の何倍も安定に抗体を産生できることが示唆される。
【0139】
C.安定なポリクローナル細胞混合物の産生
組換えポリクローナル細胞集団の個々の抗体構成要素を経時的にモニターして、AAV Repタンパク質組み込みを用いて産生される種々のポリクローナル細胞集団の安定性を評価した。
【0140】
以下の抗体名称を有する4つの異なる抗体を発現するFreestyle 293細胞集団を、
図2に記載されるようなpExcel−ITRベクター系を用いて生成した:42.11.D4(Bordetella pertussis特異的な抗体)、5.55.D2(S.aureus特異的な抗体)、26.3.E2(ウシκ−カゼイン特異的な抗体)および42.18.C2(破傷風毒素特異的な抗体)。トランスフェクションの21日後、4つの集団の各々を等しい数の細胞(2×10
5/mL)混合して、時間を0日と指定した。
図3に示されるとおり、表示された時点(例えば、3日、7日、10日、14日、17日、21日、28日、31日、35日)で、細胞培養上清のIEX HPLC分析を行った。各々の時点のスタックされたHPLCクロマトグラムを
図3Aに示す。HPLC分析からの各々の抗体のピーク下面積を用いて、
図3Bに示されるように、総集団内の各々の抗体の割合を経時的に算出した。実験の全経過にわたり集団内の各々の抗体の割合を平均し、その標準偏差を
図3Cに示す。例えば、
図3B〜
図3Cでは、抗体42.11.D4を発現する細胞は、総細胞集団の23.1%±2.1%であり;抗体5.55.D2を発現する細胞は、総細胞集団の30.3%±2.2%であり;抗体26.3.E2を発現する細胞は、総細胞集団の26.0%±2.1%であり、抗体42.18.C2を発現する細胞は、総細胞集団の20.6%±3.0%である。
【0141】
図3に示されるデータは、AAVのRep78タンパク質を用いるpExcel−ITRベクター系が、試験された4つの抗体集団で構成される安定なポリクローナル集団を産生したことを示す。ポリクローナル集団内の4つの細胞集団の各々(各々が異なる抗体を発現する)は、お互いに対して35日間にわたって安定であった(例えば、HPLCプロフィールで測定されるとおり、全経過時間にわたって、全発現で、任意の所定の抗体にはほとんど変動がなかった)。ポリクローナル集団が一旦確立されれば、観察されたポリクローナル内の4つの異なる集団のいずれにも、偏りもバイアスもなかった。
【0142】
ポリクローナル細胞集団はまた、AAVのRep78タンパク質およびp5エレメント(本明細書ではpExcel−ITR/p5と呼ばれる)を有するpExcel−ITRベクター系を用いて産生された。組換えポリクローナル細胞集団の個々の抗体構成要素を経時的にモニターして、ポリクローナル集団の安定性を評価し、p5エレメントが集団の安定性に及ぼす効果を測定した。
【0143】
以下の抗体名称を有する4つの異なる抗体を発現するFreestyle 293細胞集団を、
図3に記載されるようなpExcel−ITR/p5ベクター系を用いて生成した:42.11.D4、5.55.D2、26.3.E2および42.18.C2。トランスフェクションの21日後、4つの集団の各々を等しい細胞数(2×10
5/mL)混合して、時間を0日と指定した。
図4に示されるとおり、表示された時点(例えば、3日、7日、10日、14日、17日、21日、28日、31日、35日)で、細胞培養上清のIEX HPLC分析を行った。各々の時点のスタックしたHPLCクロマトグラムを、
図4Aに示す。HPLC分析由来の各々の抗体のピーク下面積を
図4Aに示す。HPLC分析からの各々の抗体のピーク下面積を用いて、
図4Bに示されるように、経時的に、総集団内の各々の抗体の割合を算出した。実験の全経過にわたり集団内の各々の抗体の割合を平均し、その標準偏差を
図4Cに示す。例えば、
図4B〜
図Cでは、抗体42.11.D4を発現する細胞は、総細胞集団のうち23.4%±1.9%であり;抗体5.55.D2を発現する細胞は、総細胞集団のうち28.6%±2.5%であり;抗体26.3.E2を発現する細胞は、総細胞集団のうち28.7%±1.6%であり;かつ抗体42.18.C2を発現する細胞は、総細胞集団のうち19.4%±2.8%である。
【0144】
図4に示されるデータによって、p5エレメントを有するAAVのRep78タンパク質を用いるpExcel−ITR/p5ベクター系が、試験された4つの抗体集団からなる安定なポリクローナル集団を生成したことが示される。p5エレメントで達成された結果は、p5エレメントなしに達成された結果と同様であって、このポリクローナル集団の正確な混合物は、
図3に示されるものとはわずかに異なっていたが、p5エレメントがポリクローナル細胞集団の安定性を変化させなかったことを、これは示している。両方の例(例えば、pEXCEL−ITR系対pEXCEL−ITR/p5系を用いる)とも、ほぼ等しい数の細胞集団を単に混合したに過ぎない。これは細胞混合物中の各々の抗体について異なる結果をもたらし得るが、ポリクローナルの集団が一旦確立されたら、観察されたポリクローナル細胞集団内の4つの異なる集団のいずれにも、偏りもバイアスもなかった。
【0145】
D.モノクローナルの安定な細胞集団を選択する前の、安定なポリクローナル細胞混合物の産生
この実験の目的は、安定なポリクローナル細胞混合物は、モノクローナルの安定な細胞集団を選択する前に生成され得るか否かを検討することであった。例えば、この実験では、細胞集団を混合してポリクローナル細胞集団を生成したが、選択マーカー(例えば、G418を含有する培地中で選択され得る、選択マーカーネオマイシン)を用いて、個々の安定な細胞集団を選択することはなかった。
【0146】
Freestyle 293細胞(30×10
6)を、以下の抗体のうちの1つをコードする150ngのpAAV2−Rep78および30μgのいずれかのpExcel−ITR(
図5A−Bを参照)またはpExcel−ITR/p5(
図5C〜Dを参照)を用いてトランスフェクトした:42.11.D4、5.55.D2、26.3.E2または42.18.C2。トランスフェクションの3日後、4つの集団の各々を等しい細胞数(2×10
5/mL)混合して、時間を0日と指定した。混合の直後に、細胞を、500μg/mLのG418を含有する増殖培地に継代した。細胞培養上清のIEX HPLC分析を、上記のように、3日、7日、10日、14日、17日、21日、28日、31日および35日に行った。各々の抗体のピーク下面積を用いて、
図5Aおよび
図5Cに示されるように、経時的に総集団内の各々の抗体の割合を計算した。例えば、
図5Aおよび
図5Bに示されるとおり、抗体42.11.D4は、総細胞集団のうち37.6%±1.1%であり;抗体5.55.D2は、総細胞集団のうち33.6%±1.0%であり;抗体26.3.E2は、総細胞集団のうち20.7%±0.7%であり;抗体42.18.C2は、総細胞集団のうち8.1%±0.5%である。別の例では、
図5Cおよび
図5Dに示されるように、抗体42.11.D4は、総細胞集団のうち31.1%±1.2%であり;抗体5.55.D2は、総細胞集団のうち27.0%±2.5%であり;抗体26.3.E2は、総細胞集団のうち35.5%±0.8%であり;抗体42.18.C2は、総細胞集団のうち6.4%±1.4%である。実験の全経過にまたがる集団内の各々の抗体の割合を平均し、その標準偏差を
図5Bおよび
図5Dに示す。
【0147】
このデータによって、ポリクローナル細胞集団は、G418で選択する前に混合される場合、安定であることが示される。このデータはまた、個々の構成要素の損失(例えば、単一の抗体構成要素のいずれか)がポリクローナル集団について10%未満であることも示す(例えば、抗体42.18.C2を発現する細胞の損失は10%未満であるので、抗体42.18.C2の発現は、ポリクローナル混合物中で経時的に失われることはない)。このデータによってまた、低く表されている集団(または小細胞集団)が、経時的に失われることなく、試験される期間全体を通じて同じ比率で残っていることが示される。
【0148】
さらなる実験を行って、pExcel−ITRベクター系を用いて安定なポリクローナル細胞集団を産生する場合の再現性の試験を行った。二連のポリクローナル細胞集団を産生した。個々の細胞集団が、pExcel−ITRベクター系を用いて以下の抗体のうちの1つを発現した:42.11.D4、5.55.D2、26.3.E2および42.18.C2。上記のような4つの抗体の各々を発現する細胞を含んでいるポリクローナル細胞集団を混合した直後に、ポリクローナル細胞集団を二つの培養物に分けて、平行培養した。
【0149】
細胞培養上清のIEX HPLC分析は、上記のように、3日、7日、10日、14日、17日、21日、28日、31日および35日に行った。二連の培養物中の各々の抗体の割合を平均し、その標準偏差を
図6Aに示す。
【0150】
本実施例では、これらの二連の培養物の間の相対的な相違は、データで反映されるとおり最小である。いずれの抗体にも、平均から離れた偏りもバイアスもない。標準偏差は、HPLCピーク下の総面積が小さいほど大きいという意味で、測定方法を反映している。
【0151】
さらなる実験では、抗体42.11.D4、5.55.D2、26.3.E2および42.18.C2を発現するポリクローナル集団を生成して、上記のように分けた。一部を培養物中に維持したが、残りは凍結して、液体窒素中に保管した。1週後に、凍結されたポリクローナル集団を解凍して、回収した。細胞培養上清のHPLC分析は、新鮮なポリクローナル集団および解凍したポリクローナル集団の両方で行った。同じ17日の期間にまたがって2つの集団内の各々の抗体の割合を平均し、その標準偏差を
図6Bに示す。
【0152】
このデータによって、ポリクローナル集団内の構成要素抗体の比の変動は、独立して培養される場合でも、または凍結保存された後でさえも、識別可能だとしても極めて小さいことが示される。これらの結果によって、特異的な特徴および所望の特徴を有するポリクローナル集団は、予想可能な結果をふまえて、貯蔵および回収できることが示される。
【0153】
E.抗体の複雑な混合物は、ポリクローナル集団から精製され得る。
本実施例の目的は、抗体の複雑な混合物が、ポリクローナル細胞集団から継続して精製され得るか否かを決定することであった。抗体42.11.D4、5.55.D2、26.3.E2および42.18.C2を発現するポリクローナル集団の細胞培養上清由来の抗体集団を、プロテインA−ベースの捕獲プロトコールを用いて精製した。精製された抗体集団のIEX HPLC分析を、精製していない培養上清の抗体集団と比較した(
図7)。これらの結果、精製によって、ポリクローナル集団内の異なる抗体エレメントの全てが効率的に回収されることが示唆される。サンプルの容量が増大し、相対的なピークの高さが大きくなるとき、サンプル中の相対的な標準偏差が有意に低下することも、観察された。この結果は、これらの全実施例の全データの基礎であるHPLCプロフィールから得られる実測値の小さい相違は、組成物中の真の変化よりもむしろ、相対的な観察誤差である可能性が高いことを示唆している。
【0154】
F.ポリクローナル細胞集団は、選択圧なしで安定である。
細胞集団の安定性を、選択圧の非存在下で試験した。
図2に記載されるような細胞集団を確立した。6週後、抗体5.55.D2を発現する細胞集団を2つの培養物に分けた。一方は、選択薬物G418
【化3】
の存在下で培養を継続したが、G418は他の増殖培地からは除去した(◆)。細胞培養上清のFc特異的ELISAは、1週に2回行った。IgG1の総pg/mlを、各々の時点で、培養物中の1日あたりの平均細胞数で割った;両方の培養物について、各週の平均pg/細胞/日を
図8に示す。このデータによって、IgG1産生には4週間にわたって有意な相違が観察されなかったことが示される。このデータによって、この細胞集団における抗体産生ベクターの組み込みは、選択圧の非存在下でさえ安定なままであることが示唆される。
【0155】
G.AAV−Rep依存性の組み込みは、抗体産生の増大をもたらす。
Freestyle 293細胞(30×10
6)を、293−Fectinを用いて、150ngのpAAV2−Rep78を含む場合と含まない場合に分けて、30μgのpExcel−ITR:5.55.D2でトランスフェクトした。トランスフェクションの3日後、両方のトランスフェクトされた集団を、500μg/mLのG418を含有する増殖培地中に継代した。細胞培養上清のFc特異的ELISAを、週に2回行った。IgG1の総pg/mlを、各時点で、培養物中の1日あたりの平均細胞数で割った;選択中の各週について、平均pg/細胞/日を、
図9に示す。
【0156】
Repタンパク質の非存在下では、pExcel−ITR:5.55.D2は、ランダムな組み込みを介して組み込まれる。pg/細胞/日で測定された相対的な産生は、、Repタンパク質が組み込みを媒介する場合さらに高く、このことは、Rep媒介性の組み込み(これは、本明細書に規定のように優先的な組み込みである)とランダムな組み込みとの間に質的な相違が存在することを示している(例えば、Repタンパク質が、さらに発現許容的な部位にITRを運ぶプラスミドを組み込むのを助けることを記載している、Smith,RH.,Gene Therapy(2008)15,817〜822を参照のこと)。
【0157】
図9では、
図2について上記されるとおり、得られた集団は、クローンではなく(すなわち、細胞株ではなく)、実際には、組み込み事象の多様な分布からなる可能性が高いバルク集団に相当する。ランダム組み込みおよび優先的組み込みの両方とも、安定的に発現する集団をもたらし得る。
【0158】
H.AAV−Rep依存性の組み込みは、組み込み事象の増大をもたらす。
Freestyle 293細胞(2×10
6)を、293−Fectinを用いて、10ngのpAAV2−Rep78とともに抗体5.55.D2を発現する2μgの表示されたベクター系でトランスフェクトした。細胞を選択なしに17日間培養した。3〜4日ごとに、抗体5.55.D2を発現する細胞数をFACS分析によって評価した。17日目に抗体5.55.D2を発現する細胞の割合を示す。
【0159】
図2および
図9に示される結果と同様に、得られた集団はクローンではなく、実際には、多様な分布の組み込み事象で構成されている可能性が高いバルク集団に相当する。非ウイルスのAAV媒介性の組み込みは、集団中の細胞数の増大をもたらし、ランダムな組み込みと比較して少なくとも1つの組み込み事象を経験する(
図1および
図10に示されるとおり)。ランダム組み込みを用いて、目的のタンパク質を発現する安定な集団を創出できるが、組み込みの相対数およびそれらの組み込みの質は、非ウイルスAAV媒介性の系の質よりも低い(例えば、ヒトゲノムにおけるランダム組み込みの大半が相対的に不安定であることを記載している、MigLiaccioら、Gene 256(2000)197〜214を参照のこと)。
【0160】
実施例2:外因性DNA配列の安定な発現を促進するため、レトロウイルスインテグラーゼを用いる安定なポリクローナル細胞集団の産生
A.レトロウイルスインテグラーゼは、培養細胞において、外因性DNA配列の安定な発現を促進する。
この実験の目的は、レトロウイルスインテグラーゼが、培養された細胞で外因性DNA配列の安定な発現を促進することを示すことであった。
【0161】
GP2−293細胞(Clontech,Mountain View,CA)、レトロウイルスパッケージング細胞株を、水疱性口内炎ウイルス(VSV−G)のG糖タンパク質を発現するベクターであるp−VSV−G(Clontech)、およびpEF/myc/nuc/GFP(Invitrogen,Carlsbad,CA)からクローニングされたGFPを含有する修飾されたpQCXINベクター(Clontech)であるp486(
図18)を用いて同時トランスフェクトした。
【0162】
FreeStyle 293F(Invitrogen)細胞を、トランスフェクションの48時間後に、GFPを含有する、上で得られたレトロウイルス粒子を用いて形質導入した。この形質導入された細胞を、抗生物質選択なしで連続的に継代培養し、形質導入の有効性は、Guava easyCyte8HTを用いてFACSを介して定期的にアッセイした(EMD Millipore,Billerica,MA)。
【0163】
図11のグラフは、複製の培養物由来のGFP陽性細胞の平均パーセントを示す。このデータによって、GFP発現陽性の細胞のパーセントが、表示された時間的期間中一貫していることが示され、形質導入の有効性は、細胞のうち95%超が、単一の形質導入後に安定してGFP陽性であることを示す。このデータはまた、抗生物質選択が無い状態では、安定な組み込み集団は、組み込み体を有さない細胞の存在下でさえ維持され得ることを示す。従って、細胞集団が生成され、かかる細胞の大半がゲノムDNAに1つ以上の組み込みを有しているが、その細胞集団は、組み込みが生じない細胞のサブセットも有しているような状態で、維持されてもよい。この集団のこの形質転換されてないサブセット(例えば、DNAフラグメントの組み込みがなかった細胞)は、より進化的に適合せず、細胞集団で細胞の全体的な割合を経時的に変化しない(例えば、組み込み体が存在しない(あるいは反対に、組み込み体が存在する)集団がより顕著になる場合に、偏りもバイアスも観察されない)。本明細書で記載されるような細胞集団で得られるデータによって、開示された細胞集団が、混合された個々の細胞株とは異なって挙動することが示される。例えば、細胞株(例えば、MigLiaccioら、Gene 256(2000)197〜214)、および混合された細胞株は不安定である場合が多い。驚くべきことに、本明細書で開示されるデータは、ポリクローナル細胞集団が経時的に安定であることを示す。
【0164】
B.レトロウイルスのインテグラーゼを用いる、安定なポリクローナル細胞集団の産生
本実験の目的は、レトロウイルスのインテグラーゼを用いて抗体を発現する安定なポリクローナル細胞集団を生成することであった。
【0165】
GP2−293細胞(Clontech)(レトロウイルスパッケージング細胞株)を、水疱性口内炎ウイルス(VSV−G)のG糖タンパク質を発現するベクターであるp−VSV−G(Clontech)、ならびに抗体の重鎖および軽鎖を含んでいる改変pQCXINベクター(Clontech)(例としては、ベクターp543(
図19)を参照のこと)を用いて同時トランスフェクトした。FreeStyle 293F(Invitrogen)細胞は、トランスフェクション48時間後に、各々が以下の抗体を含んでいる上で得られたレトロウイルス粒子を用いて形質導入した:5.55D2、26.3E2、42.11D4、または42.18C2。この形質導入された細胞を連続して継代培養した。
【0166】
培養上清を形質導入の10日後に取り除き、HPLCを介して分析した。頂部のクロマトグラムは、レトロウイルスベクター系によって生成される抗体に相当する精製抗体の標準の混合物である。4つの引き続くクロマトグラムは、レトロウイルスベクター系を用いて産生された抗体を含有する培養上清の分析を示す(
図12に示すとおり)。
図12に示すとおり、抗体タンパク質は、別個の保持時間でHPLCカラムから溶出した。さらに、レトロウイルスベクター系を用いて産生された抗体、および標準抗体混合物由来の対応する抗体は、同様の保持時間を示す。このクロマトグラムの標識された5.55D2では、1つのピークは、標準的な抗体混合物における全長5.55D2抗体に対応する。より短い保持時間を有する第二のピークは、抗体のλ軽鎖の過剰産生に相当し得る。
【0167】
本実施例は、バランスのとれた抗体発現ベクターが宿主細胞ゲノムDNA中に安定に組み込まれ得ることを示す。当業者は、重鎖および軽鎖のバランスが常に単純ではないこと、および較正されなければならないことを理解するであろう。例えば、
図19に示される構築物を含んでいるIRESについては、重鎖および軽鎖のバランスは、4つの抗体のうち3つで存在した。バランスを得るためには、レトロウイルスベクターまたはそれらの構成要素を用いる種々の選択肢がある。1つの選択肢は、一本鎖のベクターを用いて1細胞あたり複数の組み込みで完全なバランスを示す細胞株を選択することである(例えば、米国特許第6,852,510号を参照のこと)。あるいは、
図19に存在するIRESエレメントは、プロモーターエレメントのような別のエレメントで置き換えてもよい。IRESがプロモーターで置き換えられた1つのこのような構築物は、追加の推定の過剰のλ軽鎖なしに、5.55.D2抗体を生じるのに成功した。さらに、2A/フリン切断部位を用いてもよい(Jostockら、Appl Microbiol Biotechnol(2010)87:1517〜1524)。あるいは、DNAプラスミドベクターを、例えば、
図15に示されるように用いてもよく、その場合、ITRエレメントをLTRエレメントで置換して、クローニングされたレトロウイルスのインテグラーゼ遺伝子を、Repタンパク質の代わりに用いる(
図17に示すRep含有プラスミド)。
【0168】
別の実験では、抗体軽鎖を形質導入されたFreestyle 293F細胞の形質導入効率もまた試験した。上記のとおり、GP2−293細胞(Clontech)(レトロウイルスパッケージング細胞株)を、水疱性口内炎ウイルス(VSV−G)のG糖タンパク質を発現するベクターであるp−VSV−G(Clontech)、ならびに抗体の軽鎖を含んでいる改変pQCXINベクター(Clontech)(例としては、p498(
図20)を参照のこと)を用いて同時トランスフェクトした。FreeStyle 293F(Invitrogen)細胞は、トランスフェクション48時間後に、抗体5.55D2、26.3E2、42.11D4、または42.18C2由来の軽鎖を含んでいる上で得られたレトロウイルス粒子を用いて形質導入した。この形質導入された細胞を、抗生物質選択の非存在下で連続して継代培養した。
【0169】
形質導入の4日後および7日後に、細胞を固定して、製造業者の指示(Invitrogen)に従って、FIX&PERM試薬を用いて透過化処理し、FITC−コンジュゲートしたマウス抗ヒト軽鎖λ抗体またはκ抗体(BioLegend,San Diego,CA)を用いてλ軽鎖またはκ軽鎖について染色した。形質導入効率は、Guava easyCyte 8HT(EMD Millipore)を用いてFACSを介してアッセイした。FITC−染色したλもしくはκ軽鎖またはモック形質導入細胞の平均パーセントを
図13に示す。
図13から、形質導入の有効性は、4日〜7日の間で増大するか、または標準誤差内にとどまった。代表的なFACSの側面対前方散乱プロットおよび緑色蛍光ヒストグラムを、λ抗体(5.55D2)およびκ抗体(26.3E2)の形質導入の4日および7日間について、
図13Bに示す(
図13B)。
【0170】
図13によって、抗体鎖、すなわち、免疫グロブリン軽鎖が、
図11に示されるGFP構築物に近い率で細胞集団中に形質転換され得ることが示される。従って、抗体重鎖を担持するベクターがこれらの細胞集団中にその後形質転換されて、重鎖および軽鎖の両方を含んでいる完全な抗体が作製され得る。
【0171】
参照による援用
本明細書で言及される特許文献および科学的文献の各々の全開示は、全ての目的のために参照によって本明細書に援用される。
【0172】
等価物
本発明は、その趣旨からもその本質的な特徴からも逸脱することなく、他の特定の形態で具体化され得る。従って、前述の実施形態は、本明細書に記載の本発明に限定されるものではなく、あらゆる点で例示とみなされるべきである。従って本発明の範囲は、前述の説明によるのではなく、添付の特許請求の範囲によって示され、この特許請求の範囲の意味および等価な範囲に該当するあらゆる変更が、その中に包含されるものとする。