特許第6092795号(P6092795)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6092795
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】光拡散性複層シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/02 20060101AFI20170227BHJP
   B32B 17/02 20060101ALI20170227BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   B32B5/02 B
   B32B17/02
   G02B5/02 A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-21361(P2014-21361)
(22)【出願日】2014年2月6日
(65)【公開番号】特開2015-147346(P2015-147346A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2016年7月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】305040569
【氏名又は名称】ユニチカグラスファイバー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木村 雅人
(72)【発明者】
【氏名】鳥飼 大志
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−198466(JP,A)
【文献】 特開2010−137582(JP,A)
【文献】 特開2013−35939(JP,A)
【文献】 特開2011−93280(JP,A)
【文献】 特開平08−290528(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0291200(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
G02B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維シートの少なくとも一方の面に、無機酸化物粒子からなり、金属アルコラート及び金属アルコラート反応生成物を含まない層と、金属アルコラート若しくは金属アルコラート反応生成物からなり、無機酸化物粒子を含まない層を積層した光拡散性複層シート。
【請求項2】
前記無機酸化物粒子がコロイダルシリカである請求項1記載の光拡散性複層シート。
【請求項3】
前記金属アルコラートがアルキルシリケートである請求項1又は2記載の光拡散性複層シート。
【請求項4】
前記ガラス繊維シートの通気度が20cc/cm/秒以下である請求項1〜3いずれか1項に記載の光拡散性複層シート。
【請求項5】
全光線透過率が45%以上且つ平行光線透過率が5%以下である請求項1〜4いずれか1項に記載の光拡散性複層シート。
【請求項6】
前記ガラス繊維シートの目付けが24〜300g/m、該厚さが30〜200μmである請求項1〜5いずれか1項に記載の光拡散性複層シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光拡散性複層シートに関するものであり、さらに詳しくは光源からの光を高度に拡散させる光拡散性複層シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
面照明装置や内照式看板などの照明装置においては、一般に、その発光面において輝度が充分に高いこと等が求められる。そのような発光面には、光源からの光を拡散させる光拡散性シートが用いられる。
【0003】
光拡散性シートには、例えばアクリル樹脂シートなどの樹脂シート、艶消しガラス、ガラス繊維織物を基布として用いたガラス繊維シートが用いられている(例えば、特許文献1〜4参照。)
【0004】
また、これら光拡散性シートの光拡散性をさらに向上させた光拡散用ガラス繊維シート(例えば、特許文献5参照)、光拡散性に加え不燃性を向上させた光拡散性不燃複合部材が提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−195114号公報
【特許文献2】特開平8−259637号公報
【特許文献3】特開平8−290528号公報
【特許文献4】特開平8−306215号公報
【特許文献5】特開2001−556464号公報
【特許文献6】特開2013−35939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年の照明装置などの高度化などにより、従来の光拡散用ガラス繊維シートの光拡散性をさらに高めたものが求められるようになってきている。例えば、特許文献5に記載の光拡散用ガラス繊維シートは、ガラス繊維織物の少なくとも一方の面にフッ素樹脂またはシリコーン樹脂からなる樹脂被覆層が形成されており、ある程度の光拡散性を有するものの、近年求められている高い光拡散性を充足できていない。特許文献6に記載の光拡散性不燃複合部材は、光拡散性をある程度維持しながら不燃性を高めるために、縮合反応性シリコーン樹脂を塗工若しくは含浸しており、不燃性は向上するものの、近年の光拡散性の高度な要求には十分ではない。
【0007】
すなわち、従来の光拡散用のガラス繊維シートにおいては、その構造・機械的特性、不燃性・防汚性及び光拡散性などについては一定程度の改善が行われているものの、照明装置などに対する十分な光拡散性の要求には答えられるものではなかった。
【0008】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、高い光拡散性を有する光拡散性複層シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前述の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ガラス繊維シートの少なくとも一方の面に、無機酸化物粒子からなる層と、金属アルコラート若しくは金属アルコラート反応生成物(以下、「金属アルコラート類」ということがある。)からなる層を積層した光拡散性複層シートとすることにより、好ましくは特定の無機酸化物微粒子、金属アルコラート若しくは金属アルコラート反応生成物を用い、より好ましくは、全光線透過率及び平行光線透過率を特定の範囲とすることにより、従来の光拡散性シートに比べ、光拡散性を顕著に向上させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下の(1)〜(6)のとおりである。
(1)ガラス繊維シートの少なくとも一方の面に、無機酸化物粒子からなる層と、金属アルコラート若しくは金属アルコラート反応生成物からなる層を積層した光拡散性複層シート。
(2)前記無機酸化物粒子がコロイダルシリカである(1)記載の光拡散性複層シート。
(3)前記金属アルコラートがアルキルシリケートである(1)又は(2)記載の光拡散性複層シート。
(4)前記ガラス繊維シートの通気度が20cc/cm2/秒以下である(1)〜(3)いずれかに記載の光拡散性複層シート。
(5)全光線透過率が45%以上且つ平行光線透過率が5%以下である(1)〜(4)いずれかに記載の光拡散性複層シート。
(6)前記ガラス繊維シートの目付けが24〜300g/m2、該厚さが30〜200μmである(1)〜(5)いずれかに記載の光拡散性複層シート。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ガラス繊維シートの少なくとも一方の面に、無機酸化物粒子からなる層と、金属アルコラート類からなる層を積層した光拡散性複層シートとすることにより、好ましくは特定の無機酸化物粒子、金属アルコラート類を用い、より好ましくは、全光線透過率及び平行光線透過率を特定の範囲とすることにより、従来の光拡散性シートに比べ、光拡散性が顕著に向上するため、例えばLED照明など光拡散性が高度に要求される照明装置に使用することができる光拡散性複層シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明におけるガラス繊維シートは、ガラス繊維からなるシートであれば特に限定されず、公知のガラス繊維織物(ガラスクロス)、ガラス繊維不織布、ガラス繊維編物等が挙げられる。その素材であるガラス繊維としては、特に制限はなく、汎用の無アルカリガラス繊維、耐酸性の含アルカリガラス繊維、高強度・高弾性率ガラス繊維、耐アルカリ性ガラス繊維等のいずれであってもよい。ガラス繊維織物の織布方法も、平織り、綾織り、朱子織り、斜子織り、畦織り等のいずれであってもよい。
【0014】
ガラス繊維シートを構成するガラス繊維の直径は、光拡散性複層シートの光拡散性等の観点から、1〜20μmが好ましく、2〜15μmがより好ましく、3〜10μmがいっそう好ましい。ガラス繊維の直径を1〜20μmとすることにより、後述するガラス繊維シートの通気度、全光線透過率、平行光線透過率などの値をより好適にすることができる。
【0015】
ガラス繊維シートの単位面積当たりの質量(以下、「目付け」ともいう。)は、無機酸化物微粒子及び金属アルコラート類の含浸性、得られる複層シートの光拡散性等の観点から、24〜300g/m2が好ましく、55〜110g/m2がより好ましい。当該質量範囲を24〜300g/m2とすることにより、得られる複層シートの光拡散性を良好なものとすることができるとともに光透過性に優れ、また加工工程でガラス繊維シートが破損してしまう恐れが少ない耐久性に優れたものとなる。
【0016】
ガラス繊維シートの厚さは、光拡散性及び光透過性の観点から、30〜200μmが好ましく、50〜100μmがより好ましい。30〜200μmとすることにより光拡散性と光透過性のバランスがより取れたものとなる。
【0017】
ガラス繊維シートは、開繊処理が施されていることが好ましい。開繊処理とは、一般に繊維を開かせる(ばらけさせる)処理であり、例えば、複数のガラス繊維からなるガラス繊維シートに開繊処理を施すことによって、そのガラス繊維同士をばらけさせ、シートに占めるガラス繊維の面積を増大させることができ、厚さを薄くさせて全光線透過率を向上させると同時に、通気度を減少させて平行光線透過率をさらに低減することができる。
【0018】
上記開繊方法としては、例えば、高圧ウォータージェットによる方法、バイブロウォッシャーによる方法、超音波振動による方法、ローラーによる加圧での加工処理方法、など公知の方法を用いることができる。かかる開繊処理はガラス繊維を用いた製織工程において行ってもよいし、該製織工程後に行ってもよい。後述するガラス繊維シートのヒートクリーニング処理前或いは後若しくはヒートクリーニング処理と同時に行ってもよいし、上記表面処理と同時に若しくは後に行ってもよく、ヒートクリーニング処理前に開繊処理を施すのが好ましい。
【0019】
ここで、ヒートクリーニング処理とは、ガラス繊維を製織したガラス繊維シートを加熱処理により脱糊しガラス繊維表面の有機物を除去する処理であり、該処理を行なうことでガラス繊維シートに付着した収束剤などの有機物を除去することができる。ヒートクリーニング処理は、通常約300〜400℃の温度範囲内の加熱炉内にガラス繊維シートを約24〜120時間、好ましくは約48〜96時間程度放置することにより行われる。
【0020】
ガラス繊維シートの通気度は、光拡散性の観点から、20cc/cm2/秒以下であることが好ましく、15cc/cm2/秒以下であることがより好ましい。当該通気度は、ガラス繊維の繊度、ガラス繊維シート目付け、開繊処理の有無などにより調整することができる。
【0021】
ガラス繊維シートは、後述する無機酸化物粒子、金属アルコラート類との良好な密着性の観点から、シランカップリング剤などにより官能基処理を施したものが好ましい。シランカップリング剤としては、例えばエポキシシラン類、アミノシラン類、クロルシラン類、ビニルシラン類、( メタ)アクリルシラン類などが挙げられ、より具体的には、例えばγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾリンシラン、N−アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、N−3−(4−(3−アミノプロポキシ)ブトキシ)プロピル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、トリアジンシラン等のアミノシラン類、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン類、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロルシラン類、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリルシラン類、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルシラン類等などが挙げられる。前記シランカップリング剤は、良好な密着性の観点から、アミノシラン類、エポキシシラン類が好ましい。
【0022】
本発明における無機酸化物粒子は、無機酸化物粒子であれば特に限定されないが、シリカ(SiO2あるいはSiO)、アルミナ(Al23)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、酸化チタン(チタニア、TiO2)、ジルコニア(ZrO2)などが挙げられる。これらの中でも、特にシリカが好ましい。無機酸化物粒子は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
無機酸化物粒子の平均粒子径(一次粒子径)は、光散乱性の観点から、5〜300nmが好ましく、10〜100nmがより好ましく、15〜30nmがいっそう好ましい。また、無機酸化物粒子の粒度分布は狭い方が好ましい。平均粒子径を5〜300nmとすることにより光散乱性と光透過性のバランスがより取れたものとすることができる。なお、平均粒子径は、動的光散乱法などにより測定することができる。
【0024】
さらに、無機酸化物粒子としては、コロイド状の上記無機酸化物粒子を用いるのが好ましい。コロイド状の無機酸化物粒子としては、例えば、コロイド状シリカ(コロイダルシリカ)、コロイド状アルミナ(アルミナゾル)、コロイド状酸化スズ(酸化スズ水分散体)、コロイド状酸化チタン(チタニアゾル)などが挙げられる。
【0025】
このようなコロイダルシリカとしては、市販品を用いることができ、具体的には、例えば、商品名「スノーテックス−XL」、「スノーテックス−YL」、「スノーテックス−ZL」、「PST−2」、「スノーテックス−20」、「スノーテックス−30」、「スノーテックス−C」、「スノーテックス−O」、「スノーテックス−OS」、「スノーテックス−OL」、「スノーテックス−50」(以上、日産化学工業社製)、商品名「アデライトAT−30」、「アデライトAT−40」、「アデライトAT−50」(以上、日本アエロジル社製)、商品名「シリカドール40」(日本化学工業社製)などが挙げられる。これらの中でも、商品名「スノーテックス−O」、「スノーテックス−OS」、「スノーテックス−OL」、商品名「シリカドール40」などの水分散体が特に好ましい。
【0026】
また、コロイド状シリカは、必要により、例えば、アルミナ、アルミン酸ナトリウムなどを含有することができ、また、必要により、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニアなど)や、有機塩基(例えば、テトラメチルアンモニウムなど)などの安定剤を含有することもできる。
【0027】
また、上記のコロイダルシリカ以外のコロイド状の無機粒子としても、市販品を用いることができ、具体的には、例えば、商品名「アルミナゾル100」、「アルミナゾル200」、「アルミナゾル520」(以上、日産化学工業製)などのアルミナゾル(ヒドロゾル)、例えば、商品名「TTO−W−5」(石原産業社製)や商品名「TS−020」(テイカ社製)などのチタニアゾル(ヒドロゾル)、例えば、商品名「SN−100D」、「SN−100S」(以上、石原産業社製)などの酸化スズ水分散体などが挙げられる。
【0028】
本発明の光拡散性複層シートは、ガラス繊維シートの少なくとも一方の面に、前述の無機酸化物粒子からなる層を有することを特徴とする。これは、ガラス繊維シートの少なくとも一方の面に前記無機酸化物粒子が化学吸着若しくは物理吸着している状態をいう。ガラス繊維シートの少なくとも一方の面に無機酸化物粒子からなる層を形成するためには、無機酸化物粒子を含有する溶液等を、浸漬手段、塗布手段、スプレー手段等により、ガラス繊維シートの少なくとも一方の面に無機酸化物粒子を含浸等して接触させる方法が挙げられる、ここでの含浸とは、前記溶液をガラス繊維シートの表面または内部まで浸して含ませることをいう。なお、本発明において、無機酸化物粒子を含浸する溶液とは、溶液、懸濁液又は分散液等の液体状態を含むものとする。
【0029】
無機酸化物粒子を含浸する溶液には、ガラス繊維シートと無機酸化物粒子との化学吸着若しくは物理吸着を促進させるために、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などのバインダー成分を含むことが好ましい。
【0030】
本発明における金属アルコラートとしては、チタンアルコラート、ジルコニウムアルコラート、アルミニウムアルコラート、アンチモンアルコラート、シリカアルコラート(アルコキシシラン又はアルキルシリケート)等が挙げられる。金属アルコラートを構成するアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、ステアリルアルコール、シクロヘキサノール、フェノール、ベンジルアルコール等の一般的なアルコールが挙げられる。また、アルキルシリケートとしては、メチルシリケート、エチルシリケート、n−プロピルシリケート、n−ブチルシリケートなど、重合度(n)が20以下のものが好ましく用いられ、なかでも、エチルシリケート、n−プロピルシリケートで重合度(n)が1のものが好ましく、エチルシリケートで重合度(n)が1のものが特に好ましい。これら金属アルコラートは、1種を単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。中でも、無機酸化物微粒子との屈折率差、密着性等の観点から、アルキルシリケートが好ましい。
【0031】
このような金属アルコラートとしては、市販品を用いることができ、具体的には、例えば、商品名「AR−709MD−CR・02」(株式会社A・R・D社製)、商品名「FJ803」(グランデックス社製)、商品名「TMOS」、「メチルシリケート51」及び「N−POS」(以上、扶桑化学工業社製)、商品名「エチルシリケート28」、「n−プロピルシリケート」及び「エチルシリケート40」(以上、コルコート社製)などが挙げられる。これらの中でも、光拡散性の観点から、商品名「AR−709MD−CR・02」(株式会社A・R・D社製)及び商品名「FJ803」(グランデックス社製)が特に好ましい。
【0032】
本発明の光拡散性複層シートは、ガラス繊維シートの少なくとも一方の面に、金属アルコラート類からなる層を有することを特徴とする。これは、ガラス繊維シートの少なくとも一方の面に金属アルコラート類が化学吸着若しくは物理吸着している状態をいう。ガラス繊維シートの少なくとも一方の面に金属アルコラート類からなる層を形成するためには、金属アルコラート類を含有する溶液等を、浸漬手段、塗布手段、スプレー手段等により、ガラス繊維シートの少なくとも一方の面に金属アルコラート類を含浸等して接触させる方法が挙げられる、ここでの含浸とは、前記溶液をガラス繊維シートの表面または内部まで浸して含ませることをいう。なお、本発明において、金属アルコラート類を含浸する溶液とは、溶液、懸濁液又は分散液等の液体状態を含むものとする。
【0033】
本発明の光拡散性複層シートにおいては、上述したガラス繊維シートの少なくとも一方の面に、無機酸化物粒子からなる層と金属アルコラート類からなる層を積層することが必要である。また、取り扱い性、脱落性等の観点から、最表面層は金属アルコラート類からなる層、中でもアルキルシリケート類からなる層とすることが好ましい。
【0034】
当該積層化により光拡散性が向上する理由は不明であるが、ガラス繊維シート、無機酸化物粒子からなる層及び金属アルコラート類からなる層を積層することにより、透明性の高い層を通過した光が当該層界面を通過した際に両層界面の微妙な屈折率差などにより、光散乱を誘発するものと推測される。なお、無機酸化物粒子(例えば、コロイダルシリカなど)とアルカリシリケートを事前に架橋させて一体化した縮合反応性シリコーン樹脂などではこの光散乱効果は劣ってしまう。
【0035】
本発明の光拡散性複層シートの全光線透過率は、45%以上であることが好ましく、45〜90%がより好ましく、45〜60%がいっそう好ましい。全光線透過率は、ガラス繊維シートを構成するガラス繊維の直径、ガラス繊維シートの織密度及び目付け、通気度などにより適宜調整が可能である。
【0036】
本発明の光拡散性複層シートの平行光線透過率は、5%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3%がいっそう好ましく、2%以下が特に好ましい。平行光線透過率は、ガラス繊維シートの目付け、通気度などを適宜調整するとともに、本発明の積層処理をすることにより、特に5%以下とすることができる。
【0037】
光拡散性シートにおいては、高い全光線透過率のもと通過した光を全て散乱に供することが高散乱には好ましいが、全光線透過率及び光散乱性能を共に高くすることは通常困難である。本発明の無機酸化物粒子からなる層及び金属アルコラート類からなる層を積層した複層シートにおいては、光散乱性を高くするためには、全光線透過率を特定の範囲に抑えてでも平行光線透過率を少なくした方が結果として高い散乱に結びつくことを発明者らは見出したものである。すなわち、好ましくは、全光線透過率及び平行光線透過率を適度な範囲に設定することにより、従来にない高い光拡散性を有し、均一かつ明るい照明等を実現することが可能な光拡散性複層シートが実現される。
【0038】
次に、本発明の光拡散性複層シートの製造方法について説明する。
【0039】
本発明の光拡散性複層シートの製造方法は、ガラス繊維シート若しくは前述の方法により開繊処理したガラス繊維シートに、無機酸化物粒子を含む水分散体等や金属アルコラート類をそれぞれ塗布若しくは含浸等した後に、乾燥することにより得ることができる。
【0040】
塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、キスコーティング、グラビアコーティング、バーコーティング、スプレーコーティング、ナイフコーティング、ワイヤーコーティング、噴霧法などの公知の方法を挙げることができる。
【0041】
また、上記塗布若しくは含浸等した後、必要により乾燥することが好ましい。具体的には、無機酸化物粒子からなる層を形成するための乾燥温度条件としては、無機酸化物粒子の良好な固着性の観点から、80〜200℃が好ましく、100〜180℃がより好ましく、120〜160℃がいっそう好ましい。当該乾燥時間としては、0.5〜20分間が好ましく、1〜15分間がより好ましく、2〜12分間がいっそう好ましい。また、金属アルコラート類からなる層を形成するための乾燥温度条件としては、金属アルコラートの好適な脱水反応の観点からは、80〜200℃が好ましく、100〜180℃がより好ましく、110〜150℃がいっそう好ましい。当該乾燥時間としては、0.5〜20分間が好ましく、1〜15分間がより好ましく、2〜12分間がいっそう好ましい。金属アルコラートの脱水反応をより十分に進行させることにより、光拡散性をいっそう向上させることができる。
【0042】
無機酸化物粒子層、金属アルコラート類からなる層の積層は、上記塗布若しくは含浸した後に、乾燥することを順次施すことにより行うことができる。
【0043】
<分析方法>
1.全光線透過率及び平行光線透過率
全光線透過率及び平行光線透過率は、JISK7105において規定されている試験・計算方法 により測定した。
【0044】
2.光拡散性
光拡散性は、40W昼光色蛍光灯4本を光源とし、この光源から20cmの距離をおいて光拡散用ガラス繊維シートを配置して、光源と反対側から見た際の光源の視認の程度によって光拡散性を目視判定して、下記基準により5段階でランク付けして評価を行った。ここで、数字が小さいほど光拡散性が優れていることを示し、ランク1〜3であることが実用上好ましい。
1……光拡散性にいっそう優れ、実用上いっそう十分なレベルであった。
2……光拡散性に特に優れ、実用上十分なレベルであった。
3……光拡散性に優れ、実用上問題のないレベルであった。
4……光拡散性にやや劣り、実用上やや問題のあるレベルであった。
5……光拡散性に劣り、実用上問題のあるレベルであった。
【0045】
実施例1
<ガラス繊維シート>
織り密度が経62本×緯58本(本/25mm2)、目付け量107g/m2、厚さが89μmの平織りガラスクロス(ユニチカグラスファイバー社製、商品名「E10M」)をヒートクリーニングした後、2%のアミノシラン溶液(東レ・ダウコーニング社製、商品名:「Z6032」)に含浸させニップロールで絞り、120℃で乾燥させた。次に、高圧ウォータージェットによる方法(水圧3MPa)により、ガラス繊維表面がアミノシランで覆われたガラスクロスAを開繊した。このときのアミノシランの付着量は、0.059g/m2であった。当該開繊処理により、糸幅の広がりの指標である通気度は、37.9cc/cm2/secから12.5cc/cm2/secとなった。
【0046】
<無機酸化物粒子処理>
平均粒子径20nmの固形分40%のコロイダルシリカ溶液(日本化学工業社製、商品名「シリカドール40」)に0.5%のエチレン酢ビ溶液(昭和電工社製、商品名「ポリゾールEVAAD18」)加え、30分撹拌し、コロイダルシリカ粒子が分散した固形分40.5%の溶液Aを得た。次いで溶液Aを開繊ガラスクロスAに含浸させた後、ニップロールでプレスし、余分な溶液Aを絞り落とした。その後、熱風乾燥機で150℃、5分間乾燥させガラスクロス表面にコロイダルシリカ粒子が固着したガラスシートAを得た。このときガラス繊維シートに付着したコロイダルシリカ量は、12.2g/m2であった。
【0047】
<金属アルコラート処理>
次に、得られたガラスシートAを金属アルコラート(株式会社A・R・D社製、商品名「AR−709MD−CR・02」)に含浸させ、ドクターバーで金属アルコラートをそぎ落とし、付着量を調整した。その後、熱風乾燥機で130℃、5分間乾燥させ光拡散性複層シートAを得た。このときの金属アルコラート類の付着量は、10.3g/m2であった。
【0048】
実施例2
金属アルコラートとして、アルキルシリケート(グランデックス社製、商品名「FJ803」)を用いた以外は、実施例1と同様にして光拡散性複層シートBを得た。なお、実施例1と同様に、ガラス繊維シートに付着したコロイダルシリカ量は12.2g/m2、付着した金属アルコラート類量は、10.3g/m2であった。
【0049】
実施例3
織り密度が経60本×緯58本(本/25mm2)、厚さが100μmの平織りガラスクロス(ユニチカグラスファイバー社製、商品名「H105」)をヒートクリーニングしたガラスクロスCを用い、アミノシラン処理及び開繊処理を施さなかった以外は、実施例1と同様にして光拡散性複層シートCを得た。なお、実施例1と同様に、ガラス繊維シートに付着したコロイダルシリカ量は12.2g/m2、付着した金属アルコラート類量は、8.8g/m2であった。
【0050】
実施例4
織り密度が経59本×緯60本(本/25mm2)、厚さが50μmの平織りガラスクロスD(ユニチカグラスファイバー社製、商品名「E06C」)を用いた以外は、実施例1と同様にして光拡散性複層シートCを得た。なお、ガラスクロスDのアミノシランの付着量は、0.051g/m2であった。当該開繊処理により、糸幅の広がりの指標である通気度は、145.3cc/cm2/secから10.6cc/cm2/secとなった。また、ガラス繊維シートに付着したコロイダルシリカ量は7.3g/m2、付着した金属アルコラート類量は、5.2g/m2であった。
【0051】
比較例1
無機酸化物粒子処理を行なわなかった以外は、実施例3と同様にして光拡散性シート(ガラスクロス-無機樹脂複層体)を得た。なお、光拡散性シートの金属アルコラート類の付着量は、9.02g/m2であった。
【0052】
比較例2
織り密度が経44本×緯35本(本/25mm2)、厚さが180μmの平織りガラスクロス(ユニチカグラスファイバー社製、商品名「H220」)をヒートクリーニングしたガラスクロスFを用い、金属アルコラート処理を計2回施した以外は、実施例3と同様にして光拡散性複層シートFを得た。なお、光拡散性複層シートFに付着した金属アルコラート類量は、20.1g/m2であった。
【0053】
比較例3
金属アルコラート処理を計4回施した以外は、比較例1と同様にして、光拡散性複層シートGを得た。なお、光拡散性複層シートGに付着した金属アルコラート類量は、25.2g/m2であった。
【0054】
比較例4
金属アルコラート処理を計4回施した以外は、比較例2と同様にして、光拡散性複層シートHを得た。なお、光拡散性複層シートHに付着した金属アルコラート類量は、28.2g/m2であった。
【0055】
比較例5
織り密度が経32本×緯30本(本/25mm2)、厚さが280μmの平織りガラスクロス(ユニチカグラスファイバー社製、商品名「H350」)をヒートクリーニングした後、85%のアクリル系目止め樹脂溶液(サイデン化学製、商品名:「サイビノールSK−202」、固形分41.7%)に含浸させニップロールで絞り、180℃で乾燥させて、目止め処理されたガラス繊維シートIを得た。このときの目止め樹脂の付着量は29.9g/m2であった。
【0056】
比較例6
織り密度が経55本×緯53本(本/25mm2)、厚さが220μmの朱子織ガラスクロス(株式会社丸勝製、商品名「S330」)を用いた以外は、比較例5と同様にして、目止め処理されたガラス繊維シートJを得た。このときの目止め樹脂の付着量は29.9g/m2であった。
【0057】
比較例7
前述のガラスクロスEにシリコーン樹脂をナイフコートで片面コーティングし、熱風乾燥機で150℃、3分間乾燥させた。さらに裏面も同様に行い、両面シリコーン樹脂コートされたガラス繊維シートK(ユニチカグラスファイバー社製、商品名「照明カバー用クロス」)を得た。このときのシリコーン樹脂付着量は15g/m2であった。さらに、ガラス繊維シートKに実施例1と同様の金属アルコラート処理を施し、光拡散性複層シートKを得た。このときの金属アルコラート類の付着量は10g/m2であった。
【0058】
実施例1〜4、比較例1〜7にて得られた光拡散性複層シートなどの評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示したように、ガラス繊維シートの少なくとも一方の面に、無機酸化物粒子からなる層と金属アルコラート類からなる層を積層した光拡散性複層シートは、光拡散性の評価が優れ、LED照明などの高度に光拡散性が要求される分野においても用いることができるものであった(実施例1〜4)。特に、無機酸化物粒子からなる層と金属アルコラート類からなる層を積層するのに加え、ガラス繊維シートの目付け、厚さ、通気度などを特定のものとし、得られた光拡散性複層シートの平行線透過率が低い実施例1、2においては、特に光拡散性が優れたものとなった。一方、比較例1〜7においては、無機酸化物粒子からなる層を積層していないもの、無機酸化物粒子からなる層及び金属アルコラート類からなる層の代わりにアクリルからなる層としたもの、無機酸化物粒子及びシリコーン樹脂を一体としたもの、であったため、得られた光拡散性シートは、光拡散性に劣るものとなった。