特許第6092823号(P6092823)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6092823
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】鍛造金型装置
(51)【国際特許分類】
   B21J 13/03 20060101AFI20170227BHJP
   B21J 13/02 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   B21J13/03
   B21J13/02 Z
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-179927(P2014-179927)
(22)【出願日】2014年9月4日
(65)【公開番号】特開2016-52673(P2016-52673A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2015年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】593060849
【氏名又は名称】株式会社ヤマナカゴーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100080746
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 武嗣
(72)【発明者】
【氏名】金 秀英
【審査官】 塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−227922(JP,A)
【文献】 特開平03−230837(JP,A)
【文献】 特開平01−273639(JP,A)
【文献】 実開平07−009945(JP,U)
【文献】 特開昭63−188440(JP,A)
【文献】 特開昭51−050853(JP,A)
【文献】 実開平02−065427(JP,U)
【文献】 特開2004−291016(JP,A)
【文献】 特開2007−899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 1/00−13/14
B21J 17/00−19/04
B21K 1/00−31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス機の上盤(8)側に設けられると共にパンチ(10)の上部(10e)を保持するパンチホルダ(1)と、上記プレス機の下盤(9)側に設けられると共にワーク(W)を収容するキャビティ(20)を有するダイス(2)と、上記上盤(8)と上記下盤(9)の間に設けられると共に上記パンチ(10)が上下スライド自在に挿通するガイド孔(30)を有するパンチガイド(3)と、を備えた鍛造金型装置であって、
上記パンチホルダ(1)は、上記上盤(8)からの下方押圧力を受ける押圧受け面(15a)を有すると共に下面(15b)側に上方へ窪んだ凹球状面部(15d)を有する座部材(15)と、上記凹球状面部(15d)に摺接する凸球状部(16d)を有すると共に上記パンチ(10)の上端面(10a)に摺接する下端面(16b)を有する調心部材(16)と、を備え、
上記凸球状部(16d)と上記凹球状面部(15d)との球面状摺接部(71)、及び、上記上端面(10a)と上記下端面(16b)との平面状摺接部(72)に、潤滑油(J)を供給する油供給手段(7)を備え、
上記ダイス(2)は、上面(2a)に、上記キャビティ(20)の鉛直状軸心(L2)廻りに複数配設された上方突出状の細長山形状の位置決め用凸部(21)を有し、
上記位置決め用凸部(21)は、平面視で上記鉛直状軸心(L2)を中心として360°を等分割角度をもって分割したラジアル線上に幅方向の中心線を一致させて配設され、
上記パンチガイド(3)は、下面(3b)に、上記ガイド孔(30)のガイド軸心(L3)廻りに複数配設され、上記位置決め用凸部(21)が噛合する細長溝状の位置決め用凹部(31)を有し、
上記位置決め用凹部(31)は、平面視で上記ガイド軸心(L3)を中心として360°を等分割角度をもって分割したラジアル線上に溝幅方向の中心線を一致させて配設され、
さらに、上記位置決め用凸部(21)は、横断面台形状であって、横断面ハの字状の一対の第1傾斜面(21d)(21d)の第1傾斜角度をθaとすると25°<θa<80°に設定され、
上記位置決め用凹部(31)は、横断面台形溝状であって、上記一対の第1傾斜面(21d)(21d)が接触する横断面ハの字状の一対の第2傾斜面(31d)(31d)の第2傾斜角度をθbとすると25°<θb<80°に設定されていることを特徴とする鍛造金型装置。
【請求項2】
プレス機の上盤(8)側に設けられると共にパンチ(10)の上部(10e)を保持するパンチホルダ(1)と、上記プレス機の下盤(9)側に設けられると共にワーク(W)を収容するキャビティ(20)を有するダイス(2)と、上記上盤(8)と上記下盤(9)の間に設けられると共に上記パンチ(10)が上下スライド自在に挿通するガイド孔(30)を有するパンチガイド(3)と、を備えた鍛造金型装置であって、
上記パンチホルダ(1)は、上記上盤(8)からの下方押圧力を受ける押圧受け面(15a)を有すると共に下面(15b)側に上方へ窪んだ凹球状面部(15d)を有する座部材(15)と、上記凹球状面部(15d)に摺接する凸球状部(16d)を有すると共に上記パンチ(10)の上端面(10a)に摺接する下端面(16b)を有する調心部材(16)と、を備え、
上記凸球状部(16d)と上記凹球状面部(15d)との球面状摺接部(71)、及び、上記上端面(10a)と上記下端面(16b)との平面状摺接部(72)に、潤滑油(J)を供給する油供給手段(7)を備え、
上記ダイス(2)は、上面(2a)に、上記キャビティ(20)の鉛直状軸心(L2)廻りに複数配設された細長溝状の位置決め用凹部(31)を有し、
上記位置決め用凹部(31)は、平面視で上記鉛直状軸心(L2)を中心として360°を等分割角度をもって分割したラジアル線上に溝幅方向の中心線を一致させて配設され、
上記パンチガイド(3)は、下面(3b)に、上記ガイド孔(30)のガイド軸心(L3)廻りに複数配設され、上記位置決め用凹部(31)に噛合する下方突出状の細長山形状の位置決め用凸部(21)を有し、
上記位置決め用凸部(21)は、平面視で上記ガイド軸心(L3)を中心として360°を等分割角度をもって分割したラジアル線上に幅方向の中心線を一致させて配設され、
さらに、上記位置決め用凸部(21)は、横断面台形状であって、横断面ハの字状の一対の第1傾斜面(21d)(21d)の第1傾斜角度をθaとすると25°<θa<80°に設定され、
上記位置決め用凹部(31)は、横断面台形溝状であって、上記一対の第1傾斜面(21d)(21d)が接触する横断面ハの字状の一対の第2傾斜面(31d)(31d)の第2傾斜角度をθbとすると25°<θ<80°に設定されていることを特徴とする鍛造金型装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造金型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレス機の上盤側に設けられると共にパンチの上部を保持するパンチホルダと、プレス機の下盤側に設けられると共にワークが収容されるキャビティを有するダイスと、を備えた鍛造金型装置が公知である(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−321875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の鍛造金型装置は、図12に実線で示すように、パンチ軸心L1がキャビティの鉛直状軸心と一致するように、パンチ90をパンチホルダ91に取着していた。
しかし、プレス機の上盤8に、鉛直方向の偏荷重F1,F2や、スラスト力F3、モーメント力M等の不要力が作用すると、二点鎖線で示すように、上盤8が水平方向移動や傾動といった不要な変動をする。この上盤8の不要な変動に伴ってパンチホルダ91及びパンチ90が水平方向や傾斜状に位置ズレするため、鍛造品の同心度のバラツキ(誤差)が数百μm以上となり、鍛造加工後に機械加工を行わなければならないといった問題があった。なお、図12に於て、実際よりも大きく、パンチ軸心L1の不要な変動(位置ズレ)を図示している。
【0005】
そこで、本発明は、プレス機の上盤の不要な変動によるパンチへの悪影響を防止でき、同心度の誤差が小さい超高精度の鍛造品を安定的に生産することが可能な鍛造金型装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の鍛造金型装置は、プレス機の上盤側に設けられると共にパンチの上部を保持するパンチホルダと、上記プレス機の下盤側に設けられると共にワークを収容するキャビティを有するダイスと、上記上盤と上記下盤の間に設けられると共に上記パンチが上下スライド自在に挿通するガイド孔を有するパンチガイドと、を備えた鍛造金型装置であって、上記パンチホルダは、上記上盤からの下方押圧力を受ける押圧受け面を有すると共に下面側に上方へ窪んだ凹球状面部を有する座部材と、上記凹球状面部に摺接する凸球状部を有すると共に上記パンチの上端面に摺接する下端面を有する調心部材と、を備え、上記凸球状部と上記凹球状面部との球面状摺接部、及び、上記上端面と上記下端面との平面状摺接部に、潤滑油を供給する油供給手段を備え、上記ダイスは、上面に、上記キャビティの鉛直状軸心廻りに複数配設された上方突出状の細長山形状の位置決め用凸部を有し、上記位置決め用凸部は、平面視で上記鉛直状軸心を中心として360°を等分割角度をもって分割したラジアル線上に幅方向の中心線を一致させて配設され、上記パンチガイドは、下面に、上記ガイド孔のガイド軸心廻りに複数配設され、上記位置決め用凸部が噛合する細長溝状の位置決め用凹部を有し、上記位置決め用凹部は、平面視で上記ガイド軸心を中心として360°を等分割角度をもって分割したラジアル線上に溝幅方向の中心線を一致させて配設され、さらに、上記位置決め用凸部は、横断面台形状であって、横断面ハの字状の一対の第1傾斜面の第1傾斜角度をθaとすると25°<θa<80°に設定され、上記位置決め用凹部は、横断面台形溝状であって、上記一対の第1傾斜面が接触する横断面ハの字状の一対の第2傾斜面の第2傾斜角度をθbとすると25°<θb<80°に設定されているものである。
【0007】
また、プレス機の上盤側に設けられると共にパンチの上部を保持するパンチホルダと、上記プレス機の下盤側に設けられると共にワークを収容するキャビティを有するダイスと、上記上盤と上記下盤の間に設けられると共に上記パンチが上下スライド自在に挿通するガイド孔を有するパンチガイドと、を備えた鍛造金型装置であって、上記パンチホルダは、上記上盤からの下方押圧力を受ける押圧受け面を有すると共に下面側に上方へ窪んだ凹球状面部を有する座部材と、上記凹球状面部に摺接する凸球状部を有すると共に上記パンチの上端面に摺接する下端面を有する調心部材と、を備え、上記凸球状部と上記凹球状面部との球面状摺接部、及び、上記上端面と上記下端面との平面状摺接部に、潤滑油を供給する油供給手段を備え、上記ダイスは、上面に、上記キャビティの鉛直状軸心廻りに複数配設された細長溝状の位置決め用凹部を有し、上記位置決め用凹部は、平面視で上記鉛直状軸心を中心として360°を等分割角度をもって分割したラジアル線上に溝幅方向の中心線を一致させて配設され、上記パンチガイドは、下面に、上記ガイド孔のガイド軸心廻りに複数配設され、上記位置決め用凹部に噛合する下方突出状の細長山形状の位置決め用凸部を有し、上記位置決め用凸部は、平面視で上記ガイド軸心を中心として360°を等分割角度をもって分割したラジアル線上に幅方向の中心線を一致させて配設され、さらに、上記位置決め用凸部は、横断面台形状であって、横断面ハの字状の一対の第1傾斜面の第1傾斜角度をθaとすると25°<θa<80°に設定され、上記位置決め用凹部は、横断面台形溝状であって、上記一対の第1傾斜面が接触する横断面ハの字状の一対の第2傾斜面の第2傾斜角度をθbとすると25°<θb<80°に設定されているものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、プレス機からの悪影響を受けず、鍛造加工品の同心度のバラツキ(誤差)が小さい超高精度の鍛造品を加工できる。超高精度の鍛造品を安定的に生産できると共に、鍛造加工(プレス工程)後に、機械加工を行う必要がなくなり、生産効率を大幅に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の一形態を示す断面正面図である。
図2】調心部材の一例を示す平面図である。
図3図2のB−B断面図である。
図4】調心部材の一例を示す底面図である。
図5】調心部材の他例を示す断面図である。
図6】ダイスの平面図であり、(a)はダイス基盤に位置決め用凸部を一体形成した例を示す平面図であり、(b)はダイス基盤とは別の部材に位置決め用凸部を形成した例を示す平面図である。
図7図1のA−A断面図である。
図8】位置決め用凸部と位置決め用凹部の噛合状態の横断面図である。
図9】作用を説明するための要部断面正面図である。
図10】パンチガイドとダイスの噛合状態を示す断面正面図である。
図11】鍛造加工状態を示す断面正面図である。
図12】従来技術の問題点を説明するための要部断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図示の実施形態に基づき本発明の鍛造金型装置を詳説する。
本発明に係る鍛造金型装置は、図1に示すように、丸棒状のパンチ10と、プレス機の上盤8側に設けられると共にパンチ10の上部10eを保持するパンチホルダ1と、プレス機の下盤9側に設けられると共にワークWを収容するキャビティ20を有するダイス(金型)2と、上盤8と下盤9の間に設けられると共にパンチ10が上下スライド自在に挿通するガイド孔30を有するパンチガイド3と、を備えている。
パンチ10の下端部10gが、円柱状のキャビティ20に収容されたワークWを、押圧して、カップ状(有底筒状)の鍛造品を形成するためのものである。
【0011】
パンチホルダ1は、上盤8の平面状下面8bに当接して上盤8からの下方押圧力を受ける平面状の押圧受け面15aを有すると共に、下面15b側に上方へ窪んだ凹球状面部15dを有する座部材15を備えている。
座部材15は、上盤8に接触している。凹球状面部15dは、下面15bから上方へ窪んだ半球状凹部15eの内面をもって形成している。その半球状凹部15eの頂部(凹球状面部15dの上部)に開口すると共に外周面15fに開口する内部油路15gを有している。
【0012】
さらに、パンチホルダ1は、座部材15の凹球状面部15dに摺接する凸球状部16dを有すると共にパンチ10の平面状の上端面10aに摺接する平面状の下端面16bを有する調心部材16を備えている。
調心部材16の凸球状部16dは、座部材15の凹球状面部15dを同じ曲率半径Rをもって形成されている。
【0013】
また、パンチホルダ1は、上盤8に接触していると共に座部材15の外周面15f側を包囲する環状のベース部材11と、ベース部材11の下面11bに取着されると共にパンチ10が挿通する貫通孔12aを有する環状の底壁部材12と、を備え、さらに、ベース部材11の内周面11dと座部材15の外周面15fとの間を密封するためのOリング等の上シール材61と、底壁部材12とベース部材11の下面11bとの間を密封するためのOリング等の下シール材62と、底壁部材12の貫通孔12aの内周面とパンチ10の上部10eの外周面との間を密封するためのOリング等のパンチシール材63と、を備えている。
上シール材61は、座部材15の内部油路15gの出口(半球状凹部15e側の開口部)よりも下方位置に設けている。
【0014】
そして、座部材15の凹球状面部15dと調心部材16の凸球状部16dとの球面状摺接部71、及び、調心部材16の下端面16bとパンチ10の上端面10aとの平面状摺接部72に、潤滑油を供給するための油供給手段7を備えている。
【0015】
油供給手段7は、パンチホルダ1の外部から調心部材16へ向かって潤滑油Jを導入して調心部材16の周囲を潤滑油Jで包囲するためのホルダ内部側構造と、パンチホルダ1へ潤滑油Jを供給するためのホルダ外部側構造と、を備えている。
【0016】
上記ホルダ内部側構造は、調心部材16と座部材15とベース部材11と底壁部材12とパンチ10の上部10eと上シール材61と下シール材62とパンチシール材63とで囲まれた内部空間Kと、座部材15の内部油路15gと、ベース部材11の外部と内部空間Kとを連通させる送油路と、図示省略するがベース部材11の外部と内部油路15gとを連通させる油導入路と、を備えている。送油路から内部空間Kに潤滑油Jを供給して、調心部材16の周囲を常に潤滑油Jで包囲するように、潤滑油Jを保持する構造である。また、潤滑油Jをベース部材11の外部から油導入路を介して内部油路15gに流し、内部油路15gを流れた潤滑油Jを、凹球状面部15dの上部から球面状摺接部71に沿って流し、下シール材62とパンチシール材63とで底壁部材12及びパンチ10の上部10eからの下方への漏れを阻止して、内部空間Kに潤滑油Jを保持させて(貯めて)、平面状摺接部72に潤滑油Jを供給させると共に、調心部材16の周囲を常に潤滑油Jで包囲する(球面状摺接部71と平面状摺接部72に潤滑油Jが供給される)ように、潤滑油Jを保持する構造である。
【0017】
上記ホルダ外部側構造は、上記送油路及び上記油導入路と一端が連結された配管部材79と、配管部材79の他端と連結された潤滑油タンク又は送油ポンプ等の油送り装置と、を備え、潤滑油タンクから潤滑油Jの自重により、又は、送油ポンプの圧送により、パンチホルダ1へ潤滑油Jを送るように構成した構造である。
【0018】
また、図2乃至図4に示すように、調心部材16は、凸球状部16dに、潤滑油Jを保持するための複数本の第1凹溝16eを格子状に形成したり、また、下端面16bに、潤滑油Jを保持するための複数の第2凹溝16fを格子状に形成するも好ましい。
このように、第1・第2凹溝16e,16fを設けることで、鍛造に必要な押圧力を十分に受けることが可能な摺接面を確保しながらも、スムーズな摺接を実現でき、磨耗を防止できる。
但し、滑り量が少なかったり、面圧力が小さい場合に第1・第2凹溝16e,16fを省略しても良い(図示省略)。
【0019】
なお、調心部材16は、図1乃至図4及び図9乃至図11に示した半球凸状型の凸球状部16dを、図5に示すように、上部を切り欠いて(切り落として)、頂部を平面状部16kとし、側面側のみを凸球状部16dとするも良い。このように形成することで、座部材15の凹球状面部15dとの間に、潤滑油Jをより多く貯えることができる。
【0020】
次に、図1に示すように、パンチガイド3は、鍛造加工前待機状態(図1の状態)に於て、パンチホルダ1とダイス2の間(上盤8と下盤9の上下中間位置)に配設され、ガイド孔30にパンチ10の下端部10gと中間被案内部10dの下方部位とが挿入されている。
パンチガイド3のガイド孔30の内径寸法とパンチ10の中間被案内部10dの外径寸法は、高精度に(ガタつきなく)上下方向に摺接(摺動)可能に設定している。
【0021】
また、パンチガイド3は、パンチホルダ1と、ガスシリンダ(ガススプリング)又は油圧シリンダ或いはコイルバネ等の伸縮吊持手段51を介して連結されている。パンチホルダ1に吊り下げ状に取着され、一体状に昇降可能であると共に、伸縮吊持手段51の伸縮によってパンチホルダ1に対して接近離間自在に設けている。
【0022】
また、パンチガイド3は、ダイス2に立設した鉛直状ガイドシャフト52に外嵌状に取着する羽根状乃至鍔状の上下摺動部35を有し、ガイドシャフト52に沿って上下方向に案内される。また、ガイドシャフト52に外嵌状に配設される弾発付勢部材53によって、パンチガイド3は常時、上方(ダイス2から離間する方向)へ弾発付勢されている。なお、図示省略しているが、上下摺動部35は、ガイドシャフト52に外嵌状に取着する無給油ブッシュ又は玉形回転部材を有する軸受ブッシュを有している。
【0023】
次に、ダイス2は、上面2aに、上方突出状の位置決め用凸部21,21を複数有し、パンチガイド3は、下面3bに、ダイス2の位置決め用凸部21が噛合する位置決め用凹部31,31を設けている。
【0024】
図6(a)又は(b)に示すように、位置決め用凸部21(以下、凸部21と呼ぶ場合もある)は、キャビティ20の鉛直状軸心L2廻りに等間隔に4つ設けている。
複数の凸部21,21は、平面視で、鉛直状軸心L2を中心として360°を等分割角度をもって分割したラジアル線上に幅方向の中心線を一致させた細長山形状である。
ところで、図6(a)に於ては、凸部21は円形のダイス基盤2Aに一体に形成し、高い剛性を発揮させる構造である。
また、図6(b)に於ては、凸部21をダイス基盤2Aとは別の部材に形成し(いわば分割型とし)、中心に向かってのラジアル方向位置の微調整を可能とした構造である。
【0025】
そして、位置決め用凹部31(以下、凹部31と呼ぶ場合もある)は、ガイド孔30のガイド軸心L3が鉛直状軸心L2と同軸心上となるように凸部21と噛合する位置(対応する位置)に設けられ、ガイド軸心L3廻りに等間隔に4つ設けている。凹部31,31は、平面視で、ガイド軸心L3を中心として、360°を等分割角度をもって分割したラジアル線上に溝幅方向の中心線を一致させた細長溝形状である。なお、凸部21及び凹部31は3つ以上であれば良い。
【0026】
図7に示すように、凸部21は、横断面ハの字状の一対の第1傾斜面21d,21dを有する横断面台形状であり、凹部31は、横断面ハの字状の一対の第2傾斜面31d,31dを有する横断面台形溝状である。第1傾斜面21d,21dの第1傾斜角度θaと、第2傾斜面31d,31dの第2傾斜角度θbと、を同じ値に設定している。
第1傾斜角度θa(第2傾斜角度θb)は、25°<θa<80°,25°<θb<80°に設定するのが好ましい。
【0027】
また、図8に示すように、両面接触間距離の最短幅寸法Eは、E<3Hcを満たすのが望ましい。また、凸部21の所定高さ寸法Hcに対して、噛合状態で凸部21と凹部31が接触する接触上下寸法hcは、hc>0.5Hcを満たすのが好ましい。
【0028】
次に、本発明に係る鍛造用金型装置の作用(使用方法)について説明する。
図1に示す待機状態から、プレス機の上盤8を降下させる。すると、図9に示すように、上盤8に、鉛直方向の偏荷重F1,F2や、スラスト力(水平方向の力)F3、モーメント力(回転力)M等のひずみやねじれ位置ズレといった不要力が作用する。
このような不要力によって上盤8は不要な変動をする。例えば、二点鎖線で示す基準水平面に対して、傾斜状となると共に、水平方向に位置ズレする。つまり、上盤8に接触している座部材15が傾斜状となると共に左右水平方向に位置ズレする。なお、図9に於て、実際よりも大きく、上盤8及び座部材15の不要な変動(位置ズレ)を図示している。
【0029】
ところが、上盤8及び座部材15の水平面に対する傾きを、凸球状部16dと凹球状面部15dとの摺接によって緩和(無効化)し、調心部材16の下端面16bを水平に保持する。
さらに、上盤8及び座部材15の水平方向の位置ズレを、調心部材16の水平な下端面16bとパンチ10の上端面10aとの摺接によって緩和し(無効化)、パンチ10が水平方向に位置ズレするのを防止する。
したがって、プレス機の上盤8の不要な変動による悪影響を受けず、パンチ10のパンチ軸心L1がキャビティ20の鉛直状軸心L2に一致した状態が保持される。
【0030】
また、調心部材16は潤滑油Jに包囲されているため、磨耗が少なく耐久性に優れ、確実かつスムーズに摺動して、上盤8の不要な変動に対応する。
【0031】
また、図10に示すように、プレス機の上盤8を降下させると、パンチホルダ1と、パンチ10と、パンチガイド3と、が一体状に降下し、パンチガイド3がダイス2に接近して、凹部31が凸部21に被さるように噛合する。なお、図10及び図11は、図面を見易くするため、上盤8の不要な変動が無い状態で作動した場合を図示している。
【0032】
複数の凸部21と複数の凹部31が夫々噛合することで、パンチガイド3がダイス2に対して位置決めされ、ダイス2のキャビティ20の鉛直状軸心L2と、ガイド孔30のガイド軸心L3が一致する。
【0033】
このように位置決めを行うことで、パンチガイド3と伸縮吊持手段51との組み付け部や、パンチガイド3の上下摺動部35とガイドシャフト52との組み付け部において、組み付け公差による隙間(ギャップや遊び)が大きくても、ガイド孔30のガイド軸心L3と、キャビティ20の鉛直状軸心L2とが、確実に一致する。組み付けを高精度に行う必要が無く、金型設置の製造や設置段取りを容易に行うことが可能である。
【0034】
そして、図11に示すように、さらに上盤8を降下させると、パンチガイド3の下方への移動は、凸部21との噛合により阻止され、伸縮吊持手段51が短縮し、パンチ10の中間被案内部10dがガイド孔30にガイドされ、パンチ10の下端部10gがキャビティ20へ挿入され、ワークWを、カップ状に高精度に鍛造加工する。例えば、鍛造加工品の外周面の軸心と、内周面の軸心と、の同心度の誤差が10μm以下の超高精度の鍛造加工を行うことが可能である。
また、座部材15と調心部材16を備えることで、プレス機の上盤8の変動がパンチ10に影響しないようにできる。また、位置決め用凹部31と位置決め用凸部21の嵌合により、ガイド孔30とキャビティ20の同心度と垂直度を確保できる。また、パンチ10の中間被案内部10dがガイド孔30にガイドされ、パンチ10とダイス2のキャビティ20間の同心度および垂直度の誤差を最小限に抑えることができる。
【0035】
また、図示省略するが、本発明の別の実施としては、図7及び図8に於て上下を逆に配設する構成であっても良い。
即ち、ダイス2の上面2aに、キャビティ20の鉛直状軸心L2廻りに複数、位置決め用凹部31を、配設し、パンチガイド3の下面3bに、ガイド孔30のガイド軸心L3廻りに複数、位置決め用凹部31に噛合する下方突出状の位置決め用凸部21を、配設した構成である。
【0036】
なお、本発明は、設計変更可能であって、位置決め用凸部21及び位置決め用凹部31は3つ以上であれば良い。上方へ引き抜く際に、強い抵抗力が発生した場合は、パンチ10の上部10eに設けた下方縮径テーパ部を、底壁部材12の貫通孔12aに設けた下方縮径状テーパ部で、首吊り状に係止して持ち上げる。
【0037】
以上のように、本発明の鍛造金型装置は、プレス機の上盤8側に設けられ、パンチ10の上部10eを保持するパンチホルダ1を備え、パンチホルダ1は、上盤8からの下方押圧力を受ける押圧受け面15aを有すると共に下面15b側に上方へ窪んだ凹球状面部15dを有する座部材15と、凹球状面部15dに摺接する凸球状部16dを有すると共にパンチ10の上端面10aに摺接する下端面16bを有する調心部材16と、を備え、凸球状部16dと凹球状面部15dとの球面状摺接部71、及び、上端面10aと下端面16bとの平面状摺接部72に、潤滑油Jを供給する油供給手段7を備えたので、プレス機からの悪影響を受けず、鍛造加工品の同心度のバラツキ(誤差)が小さい超高精度の鍛造品(例えば、同心度のバラツキ誤差が10μm以下の超高精度の鍛造品)を加工できる。超高精度の鍛造品を安定的に生産できると共に、鍛造加工(プレス工程)後に、機械加工を行う必要がなくなり、生産効率を大幅に向上できる。調心部材16をスムーズに摺動させ、上盤8の不要な変動に容易かつ確実に対応できる。耐久性に優れる。
【0038】
また、プレス機の下盤9側に設けられると共にワークWを収容するキャビティ20を有するダイス2と、上盤8と下盤9の間に設けられると共にパンチ10が上下スライド自在に挿通するガイド孔30を有するパンチガイド3と、を備え、ダイス2は、上面2aに、キャビティ20の鉛直状軸心L2廻りに複数配設された上方突出状の位置決め用凸部21を有し、パンチガイド3は、下面3bに、ガイド孔30のガイド軸心L3廻りに複数配設され、位置決め用凸部21が噛合する位置決め用凹部31を有するので、ガイド孔30のガイド軸心L3を確実かつ高精度にキャビティ20の鉛直状軸心L2に同軸心上にできる。パンチガイド3に、ガイドシャフト52や伸縮吊持手段51を高精度に組み付ける必要がなくなり、容易に製造及び段取り作業を行うことができる。
【0039】
また、プレス機の下盤9側に設けられると共にワークWを収容するキャビティ20を有するダイス2と、上盤8と下盤9の間に設けられると共にパンチ10が上下スライド自在に挿通するガイド孔30を有するパンチガイド3と、を備え、ダイス2は、上面2aに、キャビティ20の鉛直状軸心L2廻りに複数配設された位置決め用凹部31を有し、パンチガイド3は、下面3bに、ガイド孔30のガイド軸心L3廻りに複数配設され、位置決め用凹部31に噛合する下方突出状の位置決め用凸部21を有するので、ガイド孔30のガイド軸心L3を確実かつ高精度にキャビティ20の鉛直状軸心L2に同軸心上にできる。パンチガイド3に、ガイドシャフト52や伸縮吊持手段51を高精度に組み付ける必要がなくなり、容易に製造及び段取り作業を行うことができる。
【符号の説明】
【0040】
1 パンチホルダ
2 ダイス
2a 上面
3 パンチガイド
3b 下面
7 油供給手段
8 上盤
9 下盤
10 パンチ
10a 上端面
10e 上部
15 座部材
15a 押圧受け面
15b 下面
15d 凹球状面部
16 調心部材
16b 下端面
16d 凸球状部
20 キャビティ
21 位置決め用凸部
21d 第1傾斜面
30 ガイド孔
31 位置決め用凹部
31d 第2傾斜面
71 球面状摺接部
72 平面状摺接部
J 潤滑油
L2 鉛直状軸心
L3 ガイド軸心
W ワーク
θa 第1傾斜角度
θb 第2傾斜角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12