(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
作成された自由表面形状が連続的であるか否かを判定し、該自由表面形状が連続的でないと判定された場合、連続的でないと判定された箇所に該当する要素に樹脂が存在しているとして該自由表面形状を修正する修正部を更に備えることを特徴とする請求項1または請求項2記載の流動挙動予測装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0014】
本実施の形態においては、
図1に示されるような、樹脂材料を収容するシリンダ1と、樹脂材料を溶融混練すると共にシリンダ1の先端部(下流側)へ搬送する2つのスクリュ2とを備える二軸スクリュ押出成形機3における、そのスクリュ混練場(スクリュ2及びシリンダ1内に形成される流路空間)にて溶融可塑化される樹脂材料の樹脂流動挙動を予測する流動挙動予測装置を例にとり説明を行う。本実施の形態においては、二軸スクリュ押出成形機を例に挙げ説明するが、これに限定されるものではなく、スクリュ式の可塑化装置、混練装置、単軸または3軸以上のスクリュ式の押出成形機においても本発明を適用することができる。以下、本実施の形態について図面を参照しつつ、その詳細を説明する。
【0015】
(装置構成)
図2は、本実施の形態に係る流動挙動予測装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図2に示されるように、流動挙動予測装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、記憶部12、入力部13、表示部14、HDD(Hard Disk Drive)15、を有する。
【0016】
CPU11は記憶部12上に展開されるOS(Operating System)、BIOS(Basic Input/Output System)、アプリケーション等の各種プログラムを実行し、流動挙動予測装置10の制御を行う。記憶部12は、所謂RAM(Random Access Memory)などの揮発性のメモリであり、実行されるプログラムの作業領域として利用される。
【0017】
入力部13は、流動挙動予測装置10を使用するユーザからの入力を受け付けるものであり、例えば、ディスプレイ上の特定の位置を指定するためのポインティングデバイスであるマウスや、文字または特定の機能等が割り当てられた複数のキーが配列されたキーボードである。
【0018】
表示部14は、OSおよびOS上で動作するアプリケーションのGUI(Graphical User Interface)、後述する
図8〜
図12に示される解析結果および描画データを表示するディスプレイ等の出力装置である。
【0019】
HDD15は、後述する流動挙動予測処理において用いられる各種パラメータや当該処理により算出される各種物理量といったデータが格納される、所謂不揮発性の記憶領域である。
【0020】
(機能構成)
次に、流動挙動予測装置10の機能構成を説明する。
図3は、本実施の形態に係る流動挙動予測装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
図3に示されるように、流動挙動予測装置10は、取得部101と、解析部102と、判定部103と、評価部104と、出力部105とを、機能として有する。これら機能は、CPU11や記憶部12等の前述したハードウェア資源が協働することにより実現される。
【0021】
取得部101は、所定の物理量を算出するために必要な各種パラメータを取得するものである。なお、当該パラメータは、ユーザにより手入力された情報を取得してもよく、予測対象の二軸スクリュ押出成形機3に対応してHDD15から取得するようにしてもよい。
【0022】
解析部102は、取得部101により取得された各種パラメータに基づいて3次元のスクリュデータの作成や樹脂材料の流動挙動を解析するものであり、本実施の形態においては、前述した格子要素法を用いて樹脂材料の流動挙動を解析する樹脂流動解析を行う。判定部103は、流動挙動予測処理に係る各種判定処理を行うものである。判定処理としては、流動挙動予測処理に係る収束判定や、後述する格子要素の各節点に樹脂材料が存在するか否かの判定等が挙げられる。
【0023】
評価部104は、樹脂流動解析結果を評価するものであり、具体的には、当該評価として流体となった樹脂材料の自由表面形状を作成する。出力部105は、作成された自由表面形状を含めて流動挙動予測処理の結果を、例えば圧力分布図等として表示部14やHDD15へ出力するものである。
【0024】
(流動挙動予測処理の概要)
以下に、前述した流動挙動予測処理の理解を容易にするため、その概要を説明する。本実施の形態における流動挙動予測処理は、差分法を適用しない定常解析、即ち、時間のファクタを除いた定常状態を想定した樹脂流動解析を、格子要素法を用いて行うものである。具体的には、一般的な流動解析と同様、演算対象の演算領域であるスクリュ混練場(流路空間)の何れかの部位に圧力の境界条件を設定して3次元のスクリュ形状を具体的に再現し、その流路空間を三次元形状の格子要素に分割する。この分割した複数の格子要素それぞれを構築する節点を計算点として所定の方程式を解くことにより、各計算点における物理量を算出し、この物理量に基づいて樹脂材料の流動挙動を予測する。
【0025】
なお、格子要素に分割する場合、その格子要素の形状(メッシュ)として、三角形の面から構成される四面体要素を採用してもよいが、四角形の面から構成される六面体要素を採用することが好ましい。これは、四面体要素はコンピュータ上でソフトウェアが自動的に演算領域を要素分割する際に採用されることが多いが、演算精度は六面体要素を採用した方が高いためである。したがって、本実施の形態においては、六面体要素を採用して格子要素への分割を行う。なお、他の多面体要素を採用してもよいことは言うまでもない。
【0026】
このような格子要素法を用いた流動解析において、設定した圧力境界条件が10MPaなどの非常に高い値である場合は、演算領域全体の流体圧力が正の値を有する解析結果が得られるケースが多い。一方で、圧力境界条件の値が1MPa以下などの比較的大気圧に近い場合は、演算領域内の圧力結果が正の値と負の値の分布を示す。これは、与えた圧力境界条件が実現象に沿った現実的な値であっても、その結果は非現実的な負圧領域が存在することを意味する。即ち、この解析結果は演算領域内の数値バランスを保つために出力された数値であって、実際の現象と対比すると、負圧の領域は流体が存在しない空間であると判断することができる。つまり、流体が完全に充満しているとの前提で実施される格子要素法を適用した解析でも、負圧の流体が存在すると出力された領域は流体が存在しない空間であるとみなすことができる。本発明者らは、この考えに基づき、圧力値が正の値と負の値との境界面を流体の自由表面とすることにより、格子要素法を用いた定常的なスナップショット解析であっても、溶融樹脂材料の自由表面形状を再現できることを見出した。この考え方は解析の前提条件(完全充満)と結果の処理(非充満状態の判定)とが理論的に矛盾するため、同様の考え方に基づいた考察例はこれまでにはない。
【0027】
このような自由表面形状を描画する手法としては、
図4に示されるようなマーチングキューブ法(例えば、W. Lorensen and H. Cline, Computer Graphics Vol.21, No.4, pp.163‐169 (1987).参照)に基づくことが好ましい。具体的には、前述したように六面体要素へ分割されると、格子要素の辺の頂点は8カ所となる。その頂点(節点)を計算点とし、この8つの計算点それぞれが正の圧力値を有する32通りのパターンを考えることができる。それぞれのパターンで格子要素内にて自由表面を表現するには、マーチングキューブ法によれば15通りのパターンのうちのいずれかで描画することが可能となる。この描画法で描かれた流体の自由表面および充満状態は自由表面近傍の流体圧力がわずかに正の値を有する比較的低い圧力であるが、混練用途のスクリュで構成される流体が完全充満し混練が促進される混練領域では数MPaの高い圧力が作用する妥当な結果が表示できる。
【0028】
また、負圧の演算領域は実際には0Pa以下を取り得る領域場ではないため、その圧力は0と判断することができる。そのため、結果出力の際に圧力分布を表示させる場合、流体が存在しない空間領域は0Paと表示することが可能である。ただし、この負圧領域の圧力値の修正は、実際の解析演算中に実施すると物理量の収支バランスが崩壊するため定常状態の収束解が得られなくなる。そのため、演算終了後に出力された結果のデータを修正することが好ましい。
【0029】
(処理動作)
次に、流動挙動予測装置10の前述した各機能により実行される流動挙動予測処理について、図面を用いてその詳細を説明する。
図5は、本実施の形態に係る流動挙動予測処理を示すフローチャートである。
図5に示されるように、先ず、取得部101は、後述する流動解析処理による物理量の算出に用いられる各種パラメータを取得する(S1,S2,S3)。取得方法としては、例えば流動挙動予測装置10のユーザによる入力部13を介した入力により、取得部101が各種パラメータを取得してもよく、予めHDD15内に格納された各種パラメータを読み出して取得するようにしてもよい。
【0030】
ステップS1で取得されるパラメータは、格子要素法において用いる樹脂物性に関するものであり、例えば、粘度フィッティングによる粘度モデル式のパラメータ等が挙げられる。ステップS2で取得されるパラメータは、二軸スクリュ押出成形機3の操作条件に関するパラメータであり、例えば、樹脂材料の押出量、スクリュ2の回転数、二軸スクリュ押出成形機3における樹脂材料の流出圧力または流入圧力、流体の流出量または流速、外部からの伝熱量(熱解析を実施する場合)などが挙げられる。ステップS3で取得されるパラメータは、二軸スクリュ押出成形機3の構成データに関するものであり、例えば、シリンダ径、スクリュ形状、スクリュ溝深さなどが挙げられる。この構成データは、スクリュ2の先端部分や図示しないホッパ近辺の供給部分など複数の演算領域における各値であることが好ましい。
【0031】
各種パラメータの取得後、解析部102及び判定部103により、スクリュ形状を作成してその演算領域における樹脂流動解析を行う流動解析処理が実行され(S4)、流動解析処理後、評価部104により、前述した解析結果(計算点の物理量)を評価して自由表面形状を作成する解析評価処理が実行される(S5)。解析評価処理後、出力部105は評価結果を表示部14に出力し(S6)、本フローは終了となる。なお、評価結果としては各計算点の充満率、圧力値、速度等の物理量が数値や分布図形式等で出力される。次に、流動解析処理、解析評価処理について具体的に説明する。
【0032】
先ず、ステップS4の流動解析処理について説明する。
図6は、流動解析処理を示すフローチャートである。流動解析処理は、一般的に用いられている格子要素法に基づいて、スクリュ2及び樹脂材料が収容されたシリンダ1内に形成されるスクリュ混練場(流路空間)を対象に樹脂材料の流動解析を行う処理であり、先ず解析部102により、3次元のスクリュ形状の再現が行われる(S401)。簡単に説明すると、一般的な樹脂流動解析と同様に、演算領域、即ちシリンダ1内の最上流部(流体流入部)に流体の流入量あるいは流速を与え、当該領域内のいずれかの部位(一般的には流出口)に圧力の境界条件を設定する。なお、この圧力境界条件は取得部101により予め取得されるようにしてもよい。この圧力境界条件に加え、スクリュの回転数や、熱解析を実施する場合には外部からの伝熱量の設定が施される。これらの設定値をもとに、スクリュ形状を具体的に再現する。スクリュ形状の詳細な再現方法は、一般的な手法であるため、その詳細は省略する。
【0033】
スクリュ形状の再現後、解析部102は、その流路空間を三次元形状の格子要素、即ち六面体要素へと分割する(S402)。分割後、解析部102は、計算点に与える物理量を算出するために初期圧力値としてP0=0と設定し(S403)、剪断速度や粘度等の物理量を算出する。例えば、シリンダ1とスクリュ2との間の流路空間でスクリュ2が回転することによって定められる剪断速度は、以下の(1)式により求めることが好ましい。
【0035】
この(1)式においては、D:シリンダ径、H:溝深さ、N:スクリュ回転数、である。
【0036】
また、粘度は樹脂材料を対象とした非ニュートン流体のモデル式を適用して算出することが好ましい。非ニュートンのモデル式は複数種類が提案されているが、例えば、そのうちの代表モデルであるPower−lawモデルを例にすると、以下の(2)式により求めることができる。
【0038】
この(1)式においては、η:粘度、k,n:物性パラメータ、である。
【0039】
計算点に付与する物理量の算出後、解析部102は、算出された剪断速度や粘度等の物理量を用いてNavier−Stokes方程式により各計算点の圧力値、速度、滞留時間、充満率等の物理量を算出する(S405)。なお、計算点の物理量を求められる方程式であれば、何れの方程式を用いてもよい。
【0040】
算出後、判定部103は、収束判定のために、各計算点における圧力値の差分であるΔPをΔP=P−P0により求める(S406)。PはNavier−Stokes方程式により算出された圧力値である。各計算点の圧力値差分ΔPの算出後、判定部103は、全ての計算点の圧力値差分ΔPが所定の収束判定値未満であるか否かを判定する(S407)。収束判定値としては、本実施の形態のような高粘度の樹脂流動解析では、比較的圧力値の精度が求められるため、小数点以下の値を設定することが好ましく、演算時間の観点から0.1〜0.001Paの範囲で設定することがより好ましい。
【0041】
全ての計算点の圧力値差分ΔPが判定収束値未満でないと判定された場合(S407,NO)、判定部103は、P0=ΔPとし(S408)、再度ステップS404の物理量の算出処理を行う。一方、全ての計算点の圧力値差分ΔPが判定収束値未満であると判定された場合(S407,YES)、本フローは終了となる。
【0042】
次に、ステップS5の解析評価処理について説明する。
図7は、解析評価処理を示すフローチャートである。解析評価処理は、前述した自由表面形状を形成するための処理であり、先ず評価部104により、各計算点のうちの何れか1つが選択される(S501)。選択後、判定部103は、選択した計算点の収束判定後における圧力値が0未満、即ち負の値か否かを判定する(S502)。圧力値が負の値であると判定された場合(S502,YES)、評価部104は当該圧力値を0とし(S503)、判定部103による全ての計算点を選択したか否かの判定に移行する(S504)。
【0043】
一方、圧力値が負の値でないと判定された場合(S502,NO)、そのままステップS504の判定処理に移行する。全ての計算点を選択したと判定された場合(S504,YES)、評価部104は、圧力値が正の値である計算点と負の値である計算点との中間に対し、自由表面が存在する位置を示す自由表面位置を設け、これら計算点を連結し、自由表面形状を作成する(S505)。これにより、圧力値が正の値にある等値面を求めることができるため、ステップS6の評価結果出力の処理において、出力部105にてその等値面を三次元的に描画することにより流体である溶融樹脂材料の自由表面の表現を行うことができる。また、圧力分布も現実的な非充満状態の描画が可能となる。一方、全ての計算点を選択していないと判定された場合(S504,NO)、評価部104は、ステップS501の計算点の選択処理に移行し、選択していない計算点を選択する。
【0044】
自由表面形状作成後、判定部103は、自由表面形状が連続的か否か、換言すると、自由表面形状が格子要素間で連続性を有しているか否かを判定する(S506)。実際の解析では、本来の自由表面とは別に樹脂材料が存在している内部に圧力が低い領域が生じ、気泡のような空間(自由表面)が形成される場合がある。そのような場合、本来の自由表面とその内部の空間のどちらが実際の自由表面であるかを認識し、正確な描画を行う必要がある。本実施の形態においては、自由表面形状が連続的か否かを判定し、連続的でないと判定された場合、即ち気泡のような空間が形成されていると判定された場合、自由表面を修正することにより、極めて正確な自由表面形状を得ることを可能としている。なお、「自由表面形状が連続的か否か」の判定は、その空間領域がシリンダ要素に接しているか否かを基準とすることが好ましい。これは、本来の自由表面の外側の気体存在領域がシリンダ表面と接触しており、樹脂内部で生じた単なる気泡である場合はシリンダ表面には接触していないとの考えによるものである。
【0045】
自由表面形状が連続的であると判定された場合(S506,YES)、本フローは終了となる。一方、自由表面形状が連続的でないと判定された場合(S506,NO)、評価部104は、連続的でない箇所の格子要素が全て前述したような気泡といった空間領域であると判断し、当該格子要素が樹脂材料で満たされているとして自由表面形状を修正する自由表面形状修正処理を実行し(S507)、本フローは終了となる。
【実施例】
【0046】
本実施の形態に係る流動挙動予測装置10により適切に溶融樹脂材料の自由表面形状が描画できるか、下記の条件を与えて流動挙動予測処理を実施した。解析対象としてφ69mmの
図1に示されるような同方向回転型二軸押出機にて、押出量を200kg/h、スクリュ回転数を200rpmとし、ポリプロピレン溶融体(MFR=4.0)を流動させた条件とした。スクリュ形状はフライトリード65mmのフルフライトを211.25mmの長さとし、出口断面の平均樹脂圧力を0.5MPaと設定した。
図8〜
図12に当該条件下における流動挙動予測処理の結果を示す。
【0047】
図8は、二軸スクリュ押出成形機3の樹脂流動解析によるスクリュ表面の樹脂圧力分布結果を示す図であり、
図9は、二軸スクリュ押出成形機3の樹脂流動解析によるシリンダ表面の樹脂圧力分布結果を示す図である。これらの分布図は、本実施例に係る流動挙動予測処理結果であるため、当然負の値を有する圧力値は存在していない。スクリュ2が回転すると樹脂材料を下流側へ搬送させる力が生じるため、
図8及び
図9からわかるとおり下流側(図右側)へかけて圧力値が次第に上昇している妥当な結果が示されている。
【0048】
図10は、
図8のA−A断面図である。スクリュ回転により溶融樹脂材料を搬送させようとする表面(Pushing側)近傍の圧力値が上昇し、その背面(Leading側)は圧力値が低下して0Paとなっていることが表現できている。
【0049】
図11は、二軸スクリュ押出成形機の流動解析による溶融樹脂材料の充満状態を描画した結果を示す図である。これは、正の圧力値を有する計算点からマーチングキューブ法を用いて溶融樹脂材料の存在領域を図示したものである。
図8および
図5と比較して分かるとおり、正の圧力値を示す領域に樹脂が存在する描画となっており、その結果は実際の現象を鑑みても十分に妥当と判断できる。
【0050】
図12は、
図8のA−A断面における溶融樹脂材料の充満状態を描画した結果を示す図である。フライトのPushing側にのみ樹脂が存在しており、その充満状態および自由表面形状は格子要素のサイズを考慮すると妥当である。なお、さらに細かく要素分割を行うとより実際の挙動に近い自由表面状態が描画できることが示唆される。
【0051】
以上の結果から、本実施の形態に係る流動挙動予測処理のような、格子要素により演算された圧力結果をもとに樹脂材料の充満状態を描画する手段では、現実的に十分な表現が可能であることが示された。また、他の解析と比較しても自由表面形状を明確に再現できており、その解析及び評価時間も差分法を適用しない定常解析を格子要素法で行っているため、最長でも10分程度の演算時間で迅速に実施することができた。
【0052】
例えば、自由表面が形成される非充満状態の予測とその表現を行うための一手法としてVOF(Volume Of Fluid)法を適用した解析が知られている。VOF法は、初期値として演算対象系全体(演算領域全体)の流体(溶融樹脂材料)の充満率を設定するか、または、流体の供給量に従って演算対象系の最上流の境界面から流体を徐々に供給する演算条件のもとで、時間ステップを進行させた繰り返し計算による非定常状態での非充満状態を予測することが可能である。しかしながら、前述したVOF法を適用した解析は、高粘性流体である溶融樹脂材料では解析自体の収束安定性が悪く、またVOF法の難点である気液界面、即ち自由表面形状の判別が不明確であり、さらには演算時間が必要な非定常解析を行わなければならないため、本実施の形態のように定常的なスナップショット解析による予測をしたい場合、非定常解析を進めることで流動状態が安定した定常状態を導き出す必要があり、当該予測をリーズナブルに行うことが困難である。
【0053】
VOF法と同様に、非充満状態の予測とその表現を行う一手法として粒子法を適用した解析が知られている。粒子法は、液体の流動性を予測する手段としてMPS(Moving Particle Simulation)法やSPH(Smoothed Particle Hydrodynamic)法のいずれかを用いることが一般的である。これらの演算手法は、いずれも計算点である粒子そのものの物理量を差分法で解くことで、溶融状態にある樹脂材料の粘性流動挙動を表現することができるものである。また、これらの手法は、計算点が時間ステップごとに移動する離散要素解法であることから、結果として自由表面形状の表現も可能であり、速度場や圧力場を解くと同時にシリンダ内の樹脂材料の非充満挙動が予測でき、溶融樹脂材料を対象とした解析自体の収束安定性がVOF法と比較して良いという利点がある。しかしながら、この粒子法を適用した解析も非定常挙動の予測手段であるため、VOF法と同様、定常状態の評価を行うには演算対象系全体の物理量が安定するまでの長い時間の計算が必要である。
【0054】
即ち、押出成形機内のスクリュ混練場における樹脂の非充満状態を定常的なスナップショット解析にて予測したい場合、非定常解析を進めることで流動状態が安定した定常状態を導き出す必要があるため、これらの演算手法を適用すると少なくとも数時間、延いては数日を要し、一般的な設計検証に必要とされる数十秒から数分の演算時間で非充満状態の予測を行うことが困難である。一方、本実施の形態によれば、前述したように明確に自由表面形状を再現でき、且つ、その演算時間も極めて短時間とすることが可能となる。
【0055】
なお、本実施の形態においては、流動挙動解析処理にて圧力値が負の値にある計算点を0としたが、これに限定されるものではない。自由表面の形状は大気圧下での表面張力によって形成されるとの考えに基づいた場合、自由表面を形成する境界圧力を0Paとせず101325Paの大気圧としてもよい。この場合、計算点の圧力値が大気圧より高いか低いかを判定基準とした描画とすることが好ましい。
【0056】
また、本実施の形態においては、圧力値に基づく収束判定を行っているがこれに限定されるものではなく、時間以外のファクタ、例えば速度や充満率といった物理量に基づいて収束判定を行ってもよい。
【0057】
本発明は、その要旨または主要な特徴から逸脱することなく、他の様々な形で実施することができる。そのため、前述の実施の形態は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、何ら拘束されない。更に、特許請求の範囲の均等範囲に属する全ての変形、様々な改良、代替および改質は、全て本発明の範囲内のものである。
【0058】
また、実施の形態にて述べた流動挙動予測装置10における各種ステップを、可塑化シミュレーションプログラムとして、
図13に示されるような、コンピュータにより読み取り可能な可搬型の記録媒体8に記憶させ、当該記録媒体8を情報処理装置9に読み込ませることにより、前述した機能を情報処理装置9に実現させることができる。記録媒体8としては、例えば、光ディスク(CD−ROM、DVDディスク等)、磁気ディスク(ハードディスクドライブ等)、フラッシュメモリ、ICカード、更にネットワークを介することで伝送可能な媒体等、コンピュータで読み取りや実行が可能な全ての媒体が含まれる。
【0059】
なお、特許請求の範囲に記載の流動挙動予測装置は、例えば、前述の実施の形態における流動挙動予測装置10である。圧力値算出部は、例えば解析部102であり、節点判定部は、例えば判定部103である。形状作成部は、例えば評価部104であり、修正部は、例えば判定部103および評価部104である。