【文献】
B B NELSON-CHEESEMAN,ROOM TEMPERATURE MAGNETIC BARRIER LAYERS IN MAGNETIC TUNNEL JUNCTIONS,APS JOURNALS,PHYS. REV. B,2010年,V81,P21
【文献】
FRITSCH D,STRAIN EFFECTS IN SPINEL FERRITE THIN FILMS FROM FIRST PRINCIPLES CALCULATIONS,JOURNAL OF PHYSICS; CONFERENCE SERIES,英国,INSTITUTE OF PHYSICS PUBLISHING,2011年 4月15日,V292 N1,P12014
【文献】
TSUCHIYA T,INFLUENCE OF THE LASER WAVELENGTH ON THE EPITAXIAL GROWTH AND ELECTRICAL PROPERTIES 以下備考,APPLIED SURFACE SCIENCE,NL,ELSEVIER,2009年 9月30日,V255 N24,P9804-9807,OF LA0.8SR0.2MNO3 FILMS GROWN BY EXCIMER LASER-ASSISTED MOD
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
25〜30℃の範囲内の温度で、72ミリテスラの磁場の下、前記デバイスが、厚さ2〜6nmの前記CFO層に対し、0.7〜2Vの範囲内の抵抗スイッチング電圧を呈する、請求項1に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
近年、金属酸化物、特に混合原子価マンガン酸化物は、様々な付随エネルギー(電荷、スピン、軌道および格子)相互間の競合から生じる特異な性質の観点から科学的な関心を集めている。ナノスケールレベルではシリコンベースの系がキャリアに関する統計上の問題に直面することになるため、このような機能性酸化物系における高キャリア密度は、将来、ナノスケールレベルのエレクトロニクスに対して有する潜在的可能性の点で大きな利点となると考えられている。したがって、これらおよびその他の格子整合酸化物系を用いたヘテロ構造およびマルチ層の特性を探求して新たな現象を模索すべく、広範囲にわたる研究活動が行われている。近時、このような酸化物ベースの界面系における輸送および磁性の分野において、複数の独特、特異かつ新規な物理特性が報告されている。ユニポーラスイッチングおよびバイポーラスイッチングが様々な膜系および界面系において観察されており、フィラメント状パス形成または磁場誘起界面障壁変化に基づくメカニズムが提案されているところである。
【0003】
抵抗スイッチング(resistive switching;RS)は特に興味深い現象であって、代替的な高密度不揮発性メモリ用途のためのその潜在的可能性の観点から近時注目を集めている。ユニポーラスイッチングおよびバイポーラスイッチングは、様々な膜系および界面系において観察されていて、フィラメント状パス形成または磁場誘起界面障壁変化に基づくメカニズムが提案されているところである(J.Maler,Nature Mater.4,805(2005);R Waser,R Dittmann, G Staikov,and K Szot,Adv. Mater.21,2632(2009))。
マンガン酸化物において、抵抗スイッチング(RS)はマンガン酸化物群のうち最も低いバンド幅をもつホールドープ領域(x=0.1−1.0)でのPr
xCa
1−xMnO
3(PCMO;電荷秩序(CO)絶縁体)において最初に報告された。外部摂動(電界/磁界,電流,温度等)の下で強磁性核の同時出現を伴う、電荷秩序(CO)状態の融解が大幅な抵抗減少をもたらした。これに続く研究によって、マンガン酸化物の抵抗スイッチングにおいて界面効果がもつ重要性が明らかになり、様々な関連モデルも提案されている。
【0004】
これまでになされた報告の1つとして、Dasほかによる報告がある(S. Das,S.Majumdar,S.Giri,J.Phys.Chem.C114,6671(2010))。この報告はゾルゲル法で堆積した極厚(83nm)NiO膜における抵抗スイッチング(RS)の低磁場磁性制御に関するものであるが、低温での磁性制御にとどまる。
【0005】
B.B.Nelson‐Cheeseman,F.J.Wongほかによる論文“Room Temperature Magnetic Barrier Layers in Magnetic Tunnel Junctions”(APS Journals,Phys.Rev.B Volume 81,Issue 21)は、高スピン偏極LSMO電極およびFe
3O
4電極ならびにフェリ磁性NiFe
2O
4(NFO)障壁層をもつ磁気トンネル接合のスピン輸送および界面磁性に関するものである。スピン依存輸送(spin dependent transport)は、障壁層そのものの内部でマグノンが励起されるマグノン支援型のスピン依存トンネリングの観点から説明される。LSMO(25nm)/NFO(3nm)/Fe
3O
4(25nm)の三重層は、パルスレーザー堆積によって、(110)方位のSrTiO
3(STO)基板上に成長された。磁化は+/−1.5テスラ(T)で誘起され、印加磁場は−2000〜+2000Oeの範囲内である。
【0006】
A.Asamitsuによる論文“Current switching of resistive states in magnetic resistive manganites”は、FZ(フローティングゾーン)法で溶融成長させたPr
1−xCa
xMnO
3(x=0.3)結晶を開示している。これらの結晶はおよそ4テスラのより一層高い磁場におけるスイッチング現象を示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、マイクロテスラ磁場(より一層の低磁場)下でかつ室温で制御可能な巨大抵抗スイッチング(resistive switching;RS)を行うことができる、極薄フェリ磁性CoFe
2O
4(CFO)と強磁性La
0.66Sr
0.34MnO
3(LSMO)とからなる高感度磁気ヘテロ接合デバイスに関するものである。
【0023】
一態様においては、La
0.66Sr
0.34MnO
3(LSMO)上に極薄CoFe
2O
4(CFO)をパルスレーザー堆積(pulsed laser deposition;PLD)により成長させて、面垂直電流(current perpendicular to plane;CPP)構造における電流‐電圧(I−V)特性を検証したところの、La
0.66Sr
0.34MnO
3(LSMO)上の極薄CoFe
2O
4(CFO)の新規なヘテロ接合デバイスが提供される。「in situ」で成長させた界面に対するこれらの測定結果は、巨大抵抗スイッチングにおける整流性の存在を明らかにしている。スイッチング電圧はより一層の低磁場において高感度で磁気的に制御可能(magnetically tunable)である。デバイスは面垂直電流(CPP)での整流特性を示しており、抵抗スイッチングのためのスレッショルド電圧とスイッチングにおけるコンダクタンスとが磁場に応じて系統的かつ相乗的変化を示している。
【0024】
本明細書中に記載された用語「磁性制御抵抗スイッチング(magnetic tunable resistive switching)」は、印加電圧の作用下で誘電体がその(二端子)抵抗スイッチングを突然変化させ、デバイスの切替えに不可欠なこの電圧が、磁場の存在下で変化する、という物理現象をさす(および意味する)。抵抗の変化は不揮発性を示しかつ可逆的である。
【0025】
用語「ヘテロ接合(heterojunction)」または「界面系(interface system)」は、CFO層とLMSO層との間(または領域間)で生じる界面をさす(および意味する)。
【0026】
用語「スイッチング電圧(switching voltage)」は、スイッチモジュールの抵抗状態を切替えるのに必要なスイッチモジュールにかかる最大信号電圧をさす(および意味する)。
【0027】
CFOは、室温でもつ非常に高い磁歪係数(R.Bozorth,E.Tilden&A.Williams,Phys.Rev.99,1788(1955))(λ〜800×10
−6)と、非常に効率的なスピンフィルタ効果(A.Ramos,M.-J.Guittet,J.-B.Moussyet,R.Mattana,C.Deranlot,F.Petroff,C.Gatel,Appl.Phys.Lett.91,122107(2007))との点で知られたフェリ磁性絶縁体である。
【0028】
La
1−xSr
xMnO
3(x=0.34、ラザフォード後方散乱によって決まる)は大きいバンド幅およびほぼ直線形のMn
3+‐O‐Mn
4+結合により室温で強磁性導体である。界面におけるMn‐O‐Mn結合特性のわずかな変化は、しかしながら輸送特性および磁気特性を顕著に変化させうる(A.Rana,Kashinath Bogle,Onkar Game,Shankar Patil,Nagarajan Valanoor,Satishchandra Ogale,Appl.Phys.Lett.96,263108(2010);A.Urushibara,Y.Moritomo,T.Arima,A.Asamitsu,G.Kido,Y.Tokura,Phys.Rev.B 51,14103(1995))。極薄CoFe
2O
4/La
0.66Sr
0.34MnO
3を含んでなる本発明に係るヘテロ接合デバイスは、抵抗スイッチング(RS)のための界面系を呈し、低磁場においても高感度でゲート制御することができる、室温(27℃)での急激な(バイポーラ)遷移を示す。前記デバイスはこのようにして磁場を検出する。La
0.66Sr
0.34MnO
3(LSMO)と極薄CoFe
2O
4(CFO)との界面は、室温(27℃)かつ2ミリテスラ(mT)〜100ミリテスラの範囲のマイクロテスラレベルで顕著に高い磁場感度をもつ、抵抗スイッチング現象において非常にユニークかつ興味深い磁気電子結合を示す。
【0029】
デバイスは、LSMO(120nm)層上に成長させた、2〜6nmの範囲内の膜厚をもつ磁歪膜であるCoFe
2O
4(CFO)層からなる。
【0030】
本発明に係るヘテロ接合デバイスにおいて、磁場の存在下かつ室温(27℃)で観察された抵抗スイッチング電圧の変化は、LSMO/CFO(2nm膜厚CFOのケース)界面において、72mT磁場の場合〜2Vである。
【0031】
2つの材料からなるヘテロ接合デバイス複合材料は、KrFエキシマ(レーザー、λ=248nm、20nsパルス)を用いて、原子層による堆積成膜として知られるパルスレーザー体積(PLD)技術によって成長させる。レーザーアブレーションは、エネルギー密度2J/cm
2かつ繰り返し率10Hzで行なった。上部層がCFO(フェリ磁性絶縁体として作用する)でありかつ底部層がLa
1−xSr
xMnO
3(x=0.34)である。このLa
1−xSr
xMnO
3(x=0.34)は、より広範なバンド幅とほぼ直線形のMn
3+‐0‐Mn
4+結合ゆえに室温において強磁性導体である。
【0032】
極薄CoFe
2O
4/La
0.66Sr
0.34MnO
3で構成されたヘテロ接合デバイスの作製のためのプロセスは、以下の、
1.(La
0.66Sr
0.34MnO
3)LSMO膜(Abhimanyu Rana,Kashinath Bogle,Onkar Game,Shankar Patil,Nagarajan Valanoor,and Satishchandra Ogale,Appl.Phys.Lett.96,263108(2010))を、単結晶(001)LaAlO
3(LAO)基板上に、100mTorr酸素圧かつ700℃でPLD法(パルスレーザー堆積)により堆積すること、
2.工程(1)により得た膜の一部をマスクし、これに続いて、当該マスクした表面にLSMOを100mTorr酸素圧かつ700℃でPLD法により成長させ、薄膜を形成すること、
3.工程(2)で得たLSMO膜上に、CFO薄膜(2ないし6nm)を100mTorr酸素圧かつ700℃でPLD法により堆積したうえで、酸素圧400Torrにて冷却すること、
を含んでなる。
【0033】
前述したプロセスによれば、100nmの均質なLSMO膜を単結晶(001)LaAlO
3(LAO)基板上に、100mTorr酸素圧かつ700℃にてPLD法により堆積する。これに続いて、100nmLSMO膜の表面の一部の上にマスクを設けて、PLD技術により同じ温度および同じ酸素圧にて、20nmLSMO膜を当該マスクを介して成長させる(そして、これにより新たなLSMO表面を創出する)。これに直ちに続く形で、100mTorr酸素圧かつ700℃でPLD法による数nm膜厚(2ないし6nm)のCFO膜の堆積を行なったうえで、酸素圧400Torrで冷却を行い所望の極薄ヘテロ接合デバイスを得る。極薄ヘテロ接合デバイスを
図1(a)に示す。極薄ヘテロ接合の特徴を
図1(b)に記載のとおり透過型電子顕微鏡(TEM)で得ることができ、また、
図1(c)においては原子間力顕微鏡(AFM)で得ることができる。CFO/LSMOヘテロ構造の透過電子顕微鏡(TEM)断面イメージ(
図1(b))は、平行格子平面、膜厚均一性および高度の表面平滑度を示す。原子間力顕微鏡(AFM)トポグラフィックイメージ(二乗平均平方根(RMS)粗度〜0.4nm)、および、同時に取得した、負試料バイアス−3.5Vでの導電性AFM(CAFM)イメージを、
図1(c)に示す。CPPコンフィギュレーションでCAFMによって測定された電流の空間分布は、粒子境界付近における電流のナノスケール変調を伴い界面にわたって均一であることが観察されている。
【0034】
また、本発明はCFO/LSMOを用いて磁場を検出する方法に関するところ、この方法は以下の、
1.CFOおよびLSMOを含んでなる、抵抗スイッチングを行うことができる極薄ヘテロ接合デバイスを設け、この抵抗スイッチングは磁気的に制御可能であること、
2.電流‐電圧測定を同時的に実施する間に前記デバイスを磁場に暴露させて該磁場を検出する。磁場が変化するにつれて、抵抗スイッチング電圧もまた変化するが、この変化は、印加外部磁場の測定尺度にすぎないこと、
3.電流‐電圧測定を
図1(a)に示すように、面垂直電流(CPP)構造で行うこと、
を含んでなる。
【0035】
以下、様々なCFO膜厚(2nm,4nm,6nm)に対するLSMO‐CFO界面の面垂直電流(CPP)整流特性と、磁場のない状態下の様々なCFO膜厚に対するスレッショルド電圧とを説明する。
【0036】
図1(d)は、様々なCFO膜厚値について得られた代表的なI−V曲線を示している。すべてのCFO膜厚(2nm,4nm,6nm)について、スレッショルド電圧〜4.45V(±0.05)で、大きな抵抗スイッチング(RS)が正の極性(LSMO+ve端子)に向かってみられる。正サイクルほどに急激ではないが、負バイアスサイクルにおいて低抵抗状態(LRS)から高抵抗状態(HRS)へと逆遷移が発生する。RSスイッチング電圧がCFO層膜厚によらないことは、それが純粋に界面現象であることを示唆している。
図1(d)中の差込図は、2つの異なるデバイス面積、すなわち2mm×3mmおよび500μm×500μmに係るRS曲線を示している。高抵抗状態(HRS)と低抵抗状態(LRS)とについて、抵抗値が横方向面積の減少に伴って増大することが明らかに観察されており、これは界面型抵抗スイッチングと完全に整合するものである。
【0037】
これらの界面の面垂直電流(CPP)輸送(transport)を検証した。電圧を掃引サイクル(−5V→0V→5V→0V→−5V)下で掃引速度1.0V/sかつステップ0.05Vで変化させて、電流を記録した。驚くべきことに、巨大抵抗スイッチングが、これら界面のすべてにわたって必ず観察された(CPP伝導においては、I−V測定のためのトップコンタクトはインジウムである)。
【0038】
図2(a)は、CFO膜厚2nmの場合に界面にみられた代表的なI−V曲線を示した図である。同図は、磁場の増大に伴う抵抗スイッチング電圧の系統的低下を示している。
【0039】
この界面タイプに対して観察されたダイオード様の整流特性は、ドープしたマンガン酸化物のp‐n接合界面において一般にみられるものである。低抵抗状態(LRS)における、より高い電流値は、上述したCAFMイメージから明らかなように、CFO粒子境界を通過する電流の輸送が原因であると考えうる。かかる整流の機構は、金属マンガン酸化物界面,特にPr
0.7Ca
0.3MnO
3(PCMO)の場合にみられるショットキー障壁(Schottky barrier)の形成が原因である(A.Sawa,T.Fujii,M.Kawasaki,and Y.Tokura,Appl.Phys.Lett.85,4073(2004);A.Sawa,T.Fujii,M.Kawasakii,Y.Tokura,Appl.Phys.Lett.88,232112(2006))。これは、絶縁性Sm
0.7Ca
0.3MnO
3(SCMO)の単位セルを数個、LSMO上に堆積したあとではじめて整流特性を示している。したがって、CFO層の絶縁性質およびそのバンドアライメントが、ショットキー型の整流をもたらす表面電子障壁の変化において重要な役割を果たしていると結論付けることができる。
【0040】
別の実施形態においては、磁性(La
0.66Sf
0.34MnO
3)LSMOおよびCoFe
2O
4(CFO)のヘテロ接合における新規な極薄ヘテロ構造の高感度磁性制御抵抗スイッチングを以下に説明する。
【0041】
図2(b)、
図2(c)は、4nmCFO膜厚および6nmCFO膜厚に対する抵抗スイッチング曲線を、段階的に72mTに達するまで印加磁場の関数として示している。スイッチング電圧は、CFO膜厚のすべてのケースについて使用磁場の増大に伴って、かなりの低磁場でも遷移の鋭さを損なうことなく大幅に低下することがわかる。最も特筆すべきは、磁場の存在下ではスイッチング電圧シフトがCFO膜厚にかなり強く依存しているという点である。
【0042】
さらに、
図3(a)は、印加磁場の関数としての抵抗スイッチング電圧(V
th)の変化を示している。また、磁場変化の影響がCFO膜厚の増大に伴って減少することが観察されており、このことは、磁場とスイッチング電界値を支配する現象との間の強く、興味深い連関を示唆している。観察された72mT磁場下の抵抗スイッチング電圧のシフトは、膜厚2nm、4nmおよび6nmのCFOの場合についてそれぞれ〜2V、〜1.4Vおよび〜0.7Vである。磁場方向の反転はRS電圧シフトの傾向に対して影響を及ぼしていないとみられる(
図3(b))。
【0043】
明らかに、本発明の機構は、高抵抗率CFOと界面をなす広バンド幅マンガン酸化物を含むところ、後述するように非常に異なるものである。また、磁化測定結果である
図4(a)ないし
図4(c)が、LSMOおよびCFOの間の反強磁性結合の存在を明らかにしていると述べておくことも有益である。
【0044】
また、抵抗スイッチング(RS)現象を、正の掃引に先立って逆バイアス電圧(V
rb)を0V、−1V、−2Vから−7Vまで変化させて検証した(
図5(a))。デバイスを高抵抗状態(HRS)から低抵抗状態(LRS)へ切替えるのに必要なスレッショルド電圧(V
th)が負バイアスの増大とともに増大することが観察された。この観察内容は、抵抗スイッチング(RS)を支配している存在が印加電界の極性だけでなくその強度にも影響を受けるということを示唆している。このことは、抵抗スイッチング(RS)をもたらすショットキー障壁の変化における酸素空孔の役割を示唆しており、また、ジュール加熱効果の役割という可能性を排除する。ジュール加熱効果が関与している場合には逆バイアス電圧(V
rb)が低下する結果、デバイスがより高いスレッショルド電圧(V
th)で切替わったであろうからである(H.Peng,G.P.Li,J.Y.Ye,Z.P.Wei,Z.Zhang,D.D.Wang,G.Z.Xing and T.Wu,Appl.Phys.Lett.96,192113(2010);S.X.Wu,L.M.Xu,X.J.Xing,S.M.Chen,Y.B.Yuan,Y.J.Liu,Y.P.Yu,X.Y.Li,and S.W.Lia,Appl.Phys.Lett.93,043502(2008))。
【0045】
もう一つの関連性のある重要な観察内容は、磁場の増大に伴う高抵抗状態(HRS)におけるデバイス抵抗の増大である(
図5(b))。正の磁気抵抗(MR)は、NbドープしたSrTiO
3(Nb‐STO)と接触させたLSMOについてすでに報告されているところ、接合界面での電子的相互作用が原因であることが示唆されている(K.Jin,Hui-bin Lu,Qing-li Zhou,Kun Zhao,Bo-lin Cheng,Zheng‐hao Chen,Yue‐liang Zhou,and Guo-Zhen Yang,Phys.Rev.B,71,184428(2005))。他方、低抵抗状態(LRS)においては、抵抗は磁場の増大に伴い減少する(負のMR)ことが分かっており、バルクLSMOの挙動である。この観察結果は、高抵抗状態(HRS)においては界面が輸送を規定かつ制御しており、他方、低抵抗状態(LRS)においてはLSMOのバルクが輸送を制御していることを示唆している。
【0046】
前述した観察結果に対する説明として考えうるのは、LSMO/CFOデバイスにおいては、界面から隔たったバルクLSMOが室温で金属状態であるのに対して、界面LSMOおよびCFO層がデバイス抵抗に顕著に貢献していると予想される、というものである。スイッチング電圧の弱いCFO膜厚依存性によって示唆されるように、界面付近のLSMO層が高抵抗状態(HRS)における抵抗を支配している(
図6(a))。順方向バイアス下では電圧は主としてCFOおよび界面LSMO層によって共有されている。外部電圧が増大するにつれて、界面LSMO層の電圧降下が増大してスレッショルド値に達し、これにより正電荷をもつ酸素空孔をCFO層内に押し出す(
図6(b))。界面LSMOから酸素空孔が排除されることによって、その金属性が増大し、これにより界面障壁の絶縁性を抑制して高抵抗状態(HRS)から低抵抗状態(LRS)へのスイッチングをもたらす(
図6(c))。同様に、デバイスが逆バイアスされると、酸素空孔が再び界面LSMO層内に復帰して、結果としてそれを絶縁性にして、デバイスを再び低抵抗状態(LRS)から高抵抗状態(HRS)へ切替える。
【0047】
Vが、デバイスが磁場がない状態下で高抵抗状態(HRS)から低抵抗状態(LRS)へ切替わる外部印加電圧であるならば、界面LSMOおよびCFOの間の電圧降下はその抵抗値に比例して、それぞれV
1およびV
2である(V=V
1+V
2)。したがって、V
1はCFO内に酸素空孔を押し出してデバイスを高抵抗状態(HRS)から低抵抗状態(LRS)へ切替えるのに不可欠な実電圧である。界面LSMO層のHRS抵抗が磁場によって増大する(正MR)ことに留意するならば、当該層における相対的電圧降下が増大しなければならない(
図6(d))。LSMO界面層のスイッチングのための最小必要電圧は固定値なので、デバイスはここに観察されたとおり、磁場の存在下においてより低い印加電圧で高抵抗状態(HRS)から低抵抗状態(LRS)へ切替わる。この論証における重要な要素は、より低い抵抗率の金属LSMOとの接合を形成するところの界面LSMO層の正MRの考えうる原因である。この点について鍵となるのは、Nb:STO/LSMO界面に関するJinほかの著作から得ることができる(K.Jin,Hui-bin Lu,Qing-liZhou,Kun Zhao,Bo-lin Cheng,Zheng‐hao Chen,Yue‐liang Zhou,and Guo‐Zhen Yang,Phys.Rev.B71,184428(2005))ところ、これによれば、著者らは接合の各領域におけるフェルミ準位近辺の電子の相対的スピン偏極がどのようなものであるかによって、その磁気抵抗(MR)がどのように影響されるかが決まるとの議論を提示している。LSMO系においては、t
2gスピンアップバンドは占有されていてe
gスピンアップバンドが部分的に占有されている。t
2gスピンダウンバンドはエネルギーがより高いので占有されていない。かくして、ショットキー接合形成プロセスにおいて、電子が界面LSMOに流出して、最初に、部分的に占有されたe
gバンドを占有して、これに続いて、t
2gスピンダウンバンドの部分的占有が行われて、フェルミ準位が一致するまでバンド曲がり(band bending)をもたらす。CPP輸送プロセスにおいては、正MRをもたらしうるのは、この領域におけるt
2gスピンダウン電子によるスピンアップ電子のスピン散乱である。
【0048】
観察された抵抗スイッチング現象は、究極的には、ミクロスケールおよびナノスケールで電磁石を製造するのに利用することができる、電流のスイッチングにつながる。これはまた、反強磁性膜においてSTMチップで強磁性領域をナノ加工するといった様々な用途に利用することができ、これがまた、無線自動識別(RFID)にも用いることができる(A.Asamitsu,Y.Tomioka,H.Kuwahara,and Y.Tokura,Nature 388,50‐52(1997))。
【0049】
本発明は、室温、CFO/LSMOヘテロ構造(パルスレーザー堆積、PLDにより成長)における巨大抵抗スイッチングを提供する。この巨大抵抗スイッチングは非常に低い磁場において高感度で磁気的に制御可能である。特筆すべきことに、スイッチングは磁場がない状態下で有意なCFO膜厚依存性を示さないが、印加磁場下では強度のCFO膜厚依存性を示す。
【0050】
デバイスは、CPP構造における整流特性を呈し、抵抗スイッチングのためのスレッショルド電圧とスイッチングにおけるコンダクタンスとが磁場に応じた系統的かつ相乗的変化を示している。
【0051】
[実施例]
以下の実施例は説明の便宜上のものであり、したがって本発明の範囲を限定するものと解釈すべきものではない。
【実施例1】
【0052】
[極薄CoFe
2O
4/LA
0.66Sr
0.34Mn0
3で構成したヘテロ接合デバイスの作製]
純度99.9%のLSMOターゲットから、100nm均質LSMO膜を、単結晶(001)LaAl0
3(LAO)基板(基板厚さは500μm)上に、100mTorr酸素圧かつ700℃でPLD法により堆積する。これに続いて、マスクを上記100nmLSMO膜表面の一部分に設ける。そして、20nmLSMO膜を、上記と同一温度・同一酸素圧でPLD技術により当該マスクを介して成長させる(これにより、新たなLSMO表面を創出する)。これに直ちに続く形で、純度99.9%のCFOターゲットから、100mTorr酸素圧かつ700℃でPLD法による2nmないし6nmのCFO膜の堆積を行なって所望の極薄ヘテロ接合デバイスを得る。酸素圧400Torrで室温になるまで膜の冷却を行なった。
【実施例2】
【0053】
[磁化検証]
磁化検証は、素材の磁気特性の判定のための一般に認められた公知の技術である、超伝導量子干渉計‐試料振動型磁力計(SQUID−VSM)によって行なった。