特許第6092882号(P6092882)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6092882NiCu含有合金の層を含む日射調整グレージング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6092882
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】NiCu含有合金の層を含む日射調整グレージング
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/36 20060101AFI20170227BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20170227BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20170227BHJP
   B60J 1/00 20060101ALN20170227BHJP
   B60J 3/02 20060101ALN20170227BHJP
【FI】
   C03C17/36
   B32B15/04 B
   G02B5/22
   !B60J1/00 H
   !B60J3/02 S
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-536313(P2014-536313)
(86)(22)【出願日】2012年10月17日
(65)【公表番号】特表2015-505789(P2015-505789A)
(43)【公表日】2015年2月26日
(86)【国際出願番号】FR2012052363
(87)【国際公開番号】WO2013057425
(87)【国際公開日】20130425
【審査請求日】2015年9月17日
(31)【優先権主張番号】1159542
(32)【優先日】2011年10月21日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100193404
【弁理士】
【氏名又は名称】倉田 佳貴
(72)【発明者】
【氏名】ローラ ジェーン サン
(72)【発明者】
【氏名】アグスタン パラシオ−ラロイ
(72)【発明者】
【氏名】エティアンヌ サンドル−シャルドナル
【審査官】 宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−080441(JP,A)
【文献】 特開昭63−252945(JP,A)
【文献】 特公昭47−007035(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C17/06−17/10,
17/34−17/42
B32B1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのガラス基材を含み、該基材上に層の積重体が被着されており、該積重体がニッケル及び銅を含む合金から成る機能層を含むグレージングであって、合金の銅の原子百分率が1%超で25%未満であり、かつニッケルの原子百分率が75%超で99%未満である、日射調整特性を有するグレージング。
【請求項2】
前記合金中の銅の原子百分率が5%と20%との間である、請求項1に記載のグレージング。
【請求項3】
前記合金中のニッケルの原子百分率が80%と95%との間である、請求項1に記載のグレージング。
【請求項4】
前記機能層の厚さが5ナノメートルと25ナノメートルとの間である、請求項1〜3の1項に記載のグレージング。
【請求項5】
前記合金がニッケル、銅及び不可避な不純物のみを含む、請求項1〜4の1項に記載のグレージング。
【請求項6】
前記合金がニッケル及び銅から成る、請求項1〜4の1項に記載のグレージング。
【請求項7】
前記積重体が、前記ガラス基材の表面から始まる一連の次の層、すなわち、
−前記ガラス基材からのアルカリ金属イオンのマイグレーションに対して前記機能層を保護するための、合計で5nmと150nmとの間の幾何学的厚さを有する、1つ又は複数の下層、
−前記合金から成る該機能層、
−空気からの酸素に対して該機能層を保護するための、合計で5nmと150nmとの間の幾何学的厚さを有する、1つ又は複数の上層、
から成る、請求項1〜の1項に記載のグレージング。
【請求項8】
前記下層及び上層の保護層が、Al、Zr又はBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素、窒化アルミニウムAlN、酸化錫、亜鉛及び錫の混合酸化物SnyZnzx、酸化ケイ素SiO2、ドープされていない酸化チタンTiO2、及びケイ素酸窒化物SiOxyから選択される、請求項に記載のグレージング。
【請求項9】
前記積重体が、前記ガラス基材の表面から始まる一連の次の層、すなわち、
−5nmと150nmとの間の厚さを有する、Al、Zr若しくはBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素、又は窒化アルミニウムAlNの下層、
−前記合金から成る前記機能層、
−5nmと150nmとの間の厚さを有する、Al、Zr若しくはBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素、又は窒化アルミニウムAlNの上層、
を含む、請求項1〜の1項に記載のグレージング。
【請求項10】
前記積重体が、少なくとも2つの前記機能層を含み、それぞれの前記機能層が該積重体において誘電体の少なくとも1つの中間層により隣の機能層と隔てられている、請求項1〜の1項に記載のグレージング。
【請求項11】
前記中間層が、Al、Zr又はBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素、窒化アルミニウムAlN、酸化錫、亜鉛及び錫の混合酸化物SnyZnzx、酸化ケイ素SiO2、ドープされていない酸化チタンTiO2、及びケイ素酸窒化物SiOxyから選択される材料の少なくとも1つの層を含む、請求項10に記載のグレージング。
【請求項12】
レージングであって、前記積重体が、前記ガラス基材の表面から始まる一連の次の層、すなわち、
−5nmと150nmとの間の厚さを有する、Al、Zr若しくはBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素、又は窒化アルミニウムAlNの下層、
前記機能層、
−5nmと150nmとの間の厚さを有し、Al、Zr又はBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素、窒化アルミニウムAlN、酸化錫、亜鉛及び錫の混合酸化物SnyZnzx、酸化ケイ素SiO2、ドープされていない酸化チタンTiO2、及びケイ素酸窒化物SiOxyから選択される材料の少なくとも1つの層を含む、中間層、
前記機能層、
−5nmと150nmとの間の厚さを有する、Al、Zr若しくはBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素、又は窒化アルミニウムAlNの上層
の連続を含む、請求項11に記載のグレージング。
【請求項13】
前記積重体がまた、Ti、Mo、Al又はこれらの元素の少なくとも1種を含む合金から成る群より選択された金属の保護層を含み、該層が1つ又は複数の前記機能層の上及び下に接触して配置され、各保護層が1nmと5nmとの間の幾何学的厚さを有する、請求項1〜12の1項に記載のグレージング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日射調整特性を与える薄層タイプの表面コーティングを含むガラス基材又は物品、特に建物用グレージングタイプのカラス基材又は物品の分野に関する。そのようなグレージングはまた、自動車の分野に適用することもできる。グレージングという語は、本発明の目的において、1つ又は複数のガラス基材から成る任意のガラス製品、特にシングルグレージング、ダブルグレージング、トリプルグレージング等を意味するものと理解される。
【背景技術】
【0002】
そのようなグレージングは、吸収及び反射により入射太陽放射線に作用する薄層の積重体を備えている。それらは、まとめて「日射調整グレージング」と称される。それらは、本質的に太陽光防護(太陽光防護機能)を提供するために使用され、又は本質的に客室若しくは住居の断熱するため(低放射率機能)に使用される。
【0003】
それゆえ、太陽光防護という語は、本発明の目的において、住居又は客室の外部から内部へとグレージングを通過するエネルギーの流れ、特に赤外(IR)放射線を制限するグレージングの能力を意味するものと理解される。
【0004】
低放射率という語は、50%未満、又は40%未満の垂直放射率εnをグレージングに与える少なくとも1つの機能層を備えたグレージングを意味するものと理解され、該放射率は以下の式、すなわち、
εn=1−Rn
により定義され、式中、Rnはグレージングの法線に沿った反射係数(国際規格ISO 10292の補足文書Aによる)である。
【0005】
一般的に、本明細書に存在する全ての光及びエネルギーの特性は、建築用ガラスに使用されるグレージングの光、太陽光及びエネルギーの特性の測定に関する国際規格ISO 9050(2003)及びISO 10292(1994)並びに欧州規格EN 410(1998)及びEN 673(1998)に記載される原理及び方法に従って得られる。
【0006】
さらに、1つ又は複数のガラス基材と組み合わせた場合、これらのコーティングは審美的に満足のいくものでなければならず、すなわち、それらの積重体を備えたグレージングは、透過及び反射の両方において、ユーザーに不都合を感じさせないよう、十分に中間色であるか、又は特に建築の分野において望まれるほのかな青色若しくは緑色の、測色値を有しなければならない。これらのコーティングは従来CVD被着技術により被着させられ、特にコーティングが連続層の複合積重体から成る場合、現在最も容易で現在最も頻繁には、しばしば本分野においてマグネトロンスパッタリングと呼ばれる真空スパッタリング被着技術により被着させられ、その厚さは数ナノメートル又は数十ナノメートルを超過しない。
【0007】
通常、薄層の積重体は、本質的に本明細書において機能層と表示する1つ又は複数の活性層の固有の性質により、日射調整特性を有する。それゆえ、活性層又は機能層という語は、上記グレージングを通過する太陽放射線の流れに著しく作用する層を意味するものと理解される。そのような活性層は、公知のようにして、主に赤外放射線反射モードで、又は主に赤外放射線吸収モードで機能することができる。通常、これらの太陽光防護層は、既に上で説明したように、一部は反射により機能し、かつ一部は吸収により機能する。
【0008】
特に、現在販売される最適に機能する積重体は、本質的に入射IR(赤外)放射線の大部分の反射のモードで機能する少なくとも1つの銀タイプの金属機能層を取り入れる。これらの垂直放射率は数パーセントを超過しない。これらの積重体はそれゆえ、主に建物の断熱のための低放射率(又は低e)グレージングとして使用される。これらの層はしかしながら、湿気に非常に敏感であり、それゆえ、湿気から保護するため、専らダブルグレージングにおいて、それらの表面2上でのみ使用される。本発明による積重体はそのような銀タイプの層、又は金タイプ若しくは白金タイプの層を含まないか、非常に無視できるほどの量、特に不可避な不純物の形態で含む。
【0009】
例えば国際公開第01/21540号パンフレットにおいて記載されるように、Nb、Ta、若しくはWタイプ、又はこれらの金属の窒化物タイプの機能層を含む、太陽光防護機能を有する他の金属層も本分野において報告されている。そのような層の内部において、太陽光放射はこの時、主に非選択的に1つ又は複数の機能層により吸収され、すなわち、IR放射(すなわち、その波長は約780nmと2500nmとの間である)及び可視光放射(その波長は約380nmと780nmとの間である)が無差別に吸収される。そのようなグレージングにおいて、垂直放射率εnの値は一般的に高い。より低い放射率の値は、機能層が比較的厚い場合、特に金属ニオブについては少なくとも20nmである場合にのみ得ることができる。まさにこの層の非選択的な吸収により、そのようなグレージングの光透過係数は必然的に非常に低く、一般的に30よりも大幅に低い。結局、そのような特性の観点から、そのような積重体を使用して、十分に高い光透過率、すなわち通常は30%超の光透過率を保持しつつ、通常は30%未満、特に25%又は20%程度の比較的低い垂直放射率を兼ね備える日射調整グレージングを得ることは可能ではないように思われる。
【0010】
欧州特許第747329号明細書は、機能層が純粋なニッケルから成る積重体を記載する。しかしながら、ニッケルは強磁性金属であるため、磁場の力を使用した、被着させるべき材料の金属ターゲットのスパッタリングを含むマグネトロンスパッタリングタイプの従来の堆積技術によっては、工業的規模においてそれを層として被着させるのが非常に困難でかつ費用がかかることがわかる。
【0011】
この問題を回避するため、欧州特許第747329号明細書は、主にニッケル及びクロムを含み、Niの割合が少なくとも10at%である合金の使用が可能なことを示す。
【0012】
欧州特許出願公開第067257号明細書は、別法として、ニッケル及び銅を、1〜25wt%のニッケル及び75〜99wt%の銅の割合で含む合金の、太陽光防護機能層としての使用を記載する。
【0013】
英国特許出願公開第1309881号明細書は、主に銅及び5〜15wt%のニッケルを含有する機能層を含む透明なグレージングを記載する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
それゆえ、本発明の目的は、既に記載したような日射調整特性、すなわち、通常は30%超、好ましくは40%以上の光透過率TL、及び30%未満又は25%未満の垂直放射率εnをグレージングに与える層の積重体を含むグレージングであって、上記積重体が、特に建物又は客室の内部又は外部に暴露されるグレージングの面上に直接配置される場合に、何らの特定の予防策なく長持ちする、グレージングを提供することである。本発明の別の目的は、太陽光防護グレージングであって、そのグレージングにおける上記積重体が、その光学特性及びエネルギー特性を損なうことなく熱処理、例えば強化、曲げ加工など、又はより一般的により高い温度における熱処理に耐えることができるグレージングを提供することである。特に、本発明による層を備えるグレージングは、特に透過又は反射において、特に建築部門において望まれるような実質的に中間色又は濃すぎない青緑がかった色を有し、かつ熱処理後においてこれを保持する。中間色又は青緑がかった色という表現は、本発明の目的において、LAB表色系(L*,a*,b*)における、10未満又は10付近であり、好ましくは負の数であるa*及びb*の値を意味するものと理解される。
【0015】
本発明によるグレージングはまた、光波、すなわち波長が約380nmと780nmとの間である光波の大部分を有利に透過させ、波長が780nm超である赤外線の貫通を制限することにより、グレージングを通過する放射線を選択することを可能とする。
【0016】
本発明によればそれゆえ、グレージングで保護された部屋又は客室の強い照明を維持しつつ、そこに入る熱の量を最小化することができる。
【0017】
別の側面によれば、本発明によるグレージングはまた、使用される層の低放射率特性による断熱特性をも有し、建物の内部と外部との間の熱交換を制限することを可能とする。
【0018】
本発明の別の利点によれば、本発明による積重体を備えるグレージングは、特に銀をベースにした積重体を含む、太陽光防護特性を有する他の公知のグレージングと比較して製造するのが容易である。
【0019】
さらに、それは耐湿性でかつ耐傷つき性である。それはそれゆえ、有利には時折シングルグレージング(単一のガラス基材)として使用されることができ、積重体は有利には保護すべき建物又は客室の内面に向けられる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
さらに具体的には、本発明は、日射調整特性を有し、少なくとも1つのガラス基材を含み、該基材上に層の積重体が被着されており、該積重体がニッケル及び銅を含むか又はこれらから成る合金から成る層を含むグレージングであって、銅の原子百分率が1%超で25%未満であり、かつ、ニッケルの原子百分率が75%超で99%未満である、日射調整特性を有するグレージングに関する。ニッケル及び銅を含む合金から成る上記の層は積重体のうちの機能層であり、すなわち、グレージングの日射調整特性の源であり、又は少なくとも上記特性の主要部分である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
必要に応じて当然一緒に組み合わせることができる本発明の好ましい実施態様によれば、
−合金中の銅の原子百分率は2%と20%との間、例えば5%と10%との間又は2%と5%との間である。
−合金中のニッケルの原子百分率は80%と95%との間である。
−上記機能層の厚さは5ナノメートルと25ナノメートルとの間、好ましくは10ナノメートルと20ナノメートルとの間である。
−合金はニッケル及び銅のみから成り、他の元素は不可避な不純物の形態でのみ存在する。
−積重体が、ガラス基材の表面から始まる一連の次の層、すなわち、
−ガラス基材からのアルカリ金属イオンのマイグレーションに対して機能層を保護するための、合計で5nmと150nmとの間の幾何学的厚さを有する、1つ又は複数の下層、
−ニッケル及び銅を含むか又はこれらから成る上記合金から成る上記機能層、
−特に熱処理、例えば強化又は徐冷などの間に、空気からの酸素に対して機能層を保護するための、合計で5nmと150nmとの間の幾何学的厚さを有する、1つ又は複数の上層、
から成る。
−上層及び下層の保護層が、Al、Zr又はBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素、窒化アルミニウムAlN、酸化錫、亜鉛及び錫の混合酸化物SnyZnzx、酸化ケイ素SiO2、ドープされていない酸化チタンTiO2、及びケイ素酸窒化物SiOxyから選択される。
−積重体が、ガラス基材の表面から始まる一連の次の層、すなわち、
−5nmと150nmとの間、好ましくは30nmと70nmとの間の厚さを有する、Al、Zr若しくはBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素、又は窒化アルミニウムAlNの下層、
−ニッケル及び銅を含むか又はこれらから成る上記合金から成る上記機能層、
−5nmと150nmとの間、好ましくは30nmと70nmとの間の厚さを有する、Al、Zr若しくはBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素、又は窒化アルミニウムAlNの上層、
を含む。
−積重体が、既に記載したようなニッケル及び銅を含むか又はこれらから成る上記合金から成る少なくとも2つの機能層を含み、それぞれの上記機能層が積重体において誘電体の少なくとも1つの中間層により隣の層と隔てられている。
−上記中間層が、Al、Zr又はBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素、窒化アルミニウムAlN、酸化錫、亜鉛及び錫の混合酸化物SnyZnzx、酸化ケイ素SiO2、ドープされていない酸化チタンTiO2、及びケイ素酸窒化物SiOxyから選択される材料の少なくとも1つの層を含む。
−積重体が、ガラス基材の表面から始まる一連の次の層、すなわち、
−5nmと150nmとの間、好ましくは30nmと70nmとの間の厚さを有する、Al、Zr若しくはBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素、又は窒化アルミニウムAlNの下層、
−既に記載したようなニッケル及び銅を含むか又はこれらから成る上記合金から成り、厚さが特に5nmと25nmとの間であり、好ましくは5nmと10nmとの間である、第1の機能層、
−5nmと150nmとの間、好ましくは5nmと50nmとの間、さらにとりわけ5nmと15nmとの間の厚さを有し、Al、Zr又はBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素、窒化アルミニウムAlN、酸化錫、亜鉛及び錫の混合酸化物SnyZnzx、酸化ケイ素SiO2、ドープされていない酸化チタンTiO2、及びケイ素酸窒化物SiOxyから選択される材料の少なくとも1つの層、好ましくはAl、Zr又はBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素の少なくとも1つの層を含む、中間層、
−ニッケル及び銅を含むか又はこれらから成る上記合金から成り、厚さが特に5nmと25nmとの間であり、好ましくは5nmと10nmとの間である、第2の機能層、
−5nmと150nmとの間、好ましくは30nmと70nmとの間の厚さを有する、Al、Zr若しくはBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素、又は窒化アルミニウムAlNの上層、
を含む。
−積重体はまた、1つ又は複数の機能層のための、Ti、Mo、Al又はこれらの元素の少なくとも1種を含む合金から成る群より選択された金属から成る追加の保護層を含み、上記追加の保護層は1つ又は複数の機能層の上及び下に接触してそれぞれ配置され、約1nmと約5nmとの間の幾何学的厚さを有する。好ましくは、上記追加の保護層はTi から成る。
【0022】
太陽光防護グレージングの製造方法は、例えば次の工程を含む。
−ガラス基材を製造する工程、
−マグネトロン真空スパッタリング技術により層の積重体をガラス基材へ被着する工程であって、合金中の銅の原子百分率が1%と25%との間、特に5%と20%との間であるニッケルと銅との合金から成るターゲットを、不活性ガス、例えばアルゴンの残留雰囲気中においてスパッタリングすることにより太陽光防護機能層を得る、積重体被着工程。
【0023】
「のみ含む」という表現は、本明細書の目的において、機能層を構成する合金が銅及びニッケル元素だけを又は主としてそれらを含み、その結果他の元素は、材料の所望の特性に影響を及ぼさないか、実質的に及ぼさない極めて少ない濃度でのみ存在することを意味するものと理解される。「不可避な不純物」という語はそれゆえ、ニッケル及び銅の合金中の特定の追加の元素、特に金属元素の存在が、主として、最初に使用した銅及びニッケル源中のこれらの不純物の存在に起因して、又はニッケル及び銅の層の被着方法に起因して避けることができないことを意味するものと理解される。一般的に、合金中の不純物とみなされる各元素の原子比率は1at%未満、好ましくは0.5at%未満、さらに好ましくは0.1at%未満である。
【0024】
以下の例は、単に例示の目的で示したものであり、記載したどの側面においても本発明の範囲を限定しない。比較目的のため、以下の例の全ての積重体は、同一のPlanilux(商標)ガラス基材上に作製する。積重体の全ての層は公知の従来のマグネトロンスパッタリング真空被着技術に従って被着させた。
【実施例】
【0025】
[例1(本発明による)]
本発明によるこの例において、従来のマグネトロン技術に従って出願人が販売するPlanilux(商標)タイプのガラス基材上に被着させたものは、一連の次の層から成る積重体であった。
ガラス/Si34(52nm)/Ni80Cu20*(15nm)/Si34(54nm)
*80at%のニッケル、20at%の銅
【0026】
NiCu製の機能金属層を、約80at%のニッケル及び約20at%の銅を含む合金から成るターゲットから出発するマグネトロンスパッタリング技術により得る。マグネトロンスパッタリング技術による層の被着の間、問題は見られなかった。
【0027】
最終的に得られた金属層の組成が最初のターゲットの組成に実質的に対応することを、最終的に得られた層のキャスタンマイクロプローブ分析(EPMA又は電子プローブ微量分析としても知られる)及びSIMS(二次イオン質量分析法)により検証した。
【0028】
その積重体を備えた基材に次いで650℃で8分間加熱することから成る熱処理を施し、続いて強化を行った。この処理はグレージングを強化しなければならない場合にグレージングが受ける状況の典型的なものである。
【0029】
本発明によるこのグレージングについて測定されたものは、熱処理の前後における、既に記載した規格に従った光透過率TL及び垂直放射率であった。
【0030】
[例2(本発明による)]
本発明によるこの例において、Planilux(商標)タイプのガラス基材上に、マグネトロン技術に従ってニッケル及び銅の適切な合金のターゲットから出発して被着させたものは、一連の次の層の連続から成る積重体であった。
ガラス/Si34(52nm)/Ni93Cu7*(15nm)/Si34(54nm)
【0031】
合金中のニッケルの濃度が高いにもかかわらず、マグネトロン技術による層の被着の間、問題は見られなかった。
【0032】
[例3(比較例)]
欧州特許第747329号明細書の例22の教示に従い、今度はニッケル及びクロムの合金から成るターゲットを機能層の被着のために使用したことを除いて、この例は例1と同一のやり方で実施し、マグネトロンスパッタリング技術により実質的に同一の積重体が得られた。
【0033】
さらに具体的には、従来のマグネトロンスパッタリング技術に従い、Planilux(商標)タイプの同一のガラス基材上に被着させたものは、一連の次の層から成る積重体であった。
ガラス/Si34(52nm)/Ni80Cr20*(15nm)/Si34(54nm)
*80at%のニッケル、20at%のクロム
【0034】
得られたNiCr製の機能金属層は80at%のニッケル及び20at%のクロムの合金から成る。
【0035】
[例4(比較例)]
この比較例においては、欧州特許出願公開第0067257号明細書に記載されているような日射調整グレージングを得るため、Planilux(商標)タイプのガラス基材上に同一のマグネトロン技術に従って被着させたものは下記の積重体であり、その活性層、すなわち上記グレージングを通過する太陽光放射線に作用する層はNi−Cu合金の層であり、そのうちでは銅が極めて大部分の割合を占めていた。
ガラス/Si34(55nm)/Ni25Cu75*(15nm)/Si34(50nm)
*25at%のニッケル、75at%のクロム
【0036】
本発明による例1及び2によるサンプル、並びに比較例3及び4によるサンプルについて実施した測定の値を、下の表1にまとめて示す。
【0037】
【表1】
【0038】
[例5〜9]
上記の例に従って被着させた機能層の耐薬品性を検証するため、同一の種々の合金組成物をやはりマグネトロン技術により、ガラスの表面上にあらかじめ被着させた10nmの窒化ケイ素の副層上に被着させた。各サンプルについて、機能層の厚さは10nmである。次いで、既に記載した加水分解試験を基材上で実施し、4日及び60日の暴露後に層のシート抵抗の変化を測定する。結果を下の表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
表1〜2で報告したデータの比較から、本発明による機能層の使用と関連する利点及び優位性が明示される。
【0041】
とりわけ、
表1で報告したデータを比較することにより、本発明による機能層を含むグレージングは、エネルギー絶縁特性と光特性との間の最良の折衷、すなわち性能指数(TL/εN)の最高値を有することが明らかとなる。
【0042】
さらにとりわけ、本発明による例1又は2と、比較目的で提示した例3との比較から、本発明によるNiCu合金から成る機能層を備えたグレージングが、ニッケル及びクロムの同様の合金の層を含む既知のグレージングと比較して優れた光学特性を有することが示される。さらに、本発明による機能層を備えるグレージングについては、グレージングの係数εNが有意により低い一方で、光透過率TLはより高いことが表1で見られる。
【0043】
機能層が主として銅を含むNi−Cu合金から成る比較例4による積重体を備えるグレージングは、本発明によるグレージングの性能指数に近い性能指数を有する。しかしながら、表2に報告したデータは、そのような層は長期寿命を保証することはできず、その耐加水分解性は低すぎることを示す。
【0044】
別の利点によれば、本発明による、活性層がNi−Cu合金を基礎材料とし、厚さは比較的薄く、すなわち、10〜20ナノメートル程度の値である太陽光保護積重体は、特にマグネトロンスパッタリング真空被着技術により製造するのに極めて容易かつ安価である。実際に、被着チャンバー中の基材の走行速度は上記の層の所望の厚さに直接関係するため、合金層の薄い厚さは生産性の少なからぬ向上を可能とする。
【0045】
例1により作製したサンプルについて今回測定したものはまた、次の試験に従った層の積重体の耐加水分解性(気候シミュレーション)であった。
【0046】
閉じたチャンバーにおいて、グレージングの促進老化を促すため、積重体を備えたグレージングを過酷な湿度及び温度条件(50℃における相対湿度95%)に合計して28日の間さらす。試験は、最後の熱処理を受けていない例1による第1のサンプル及び最終的に8分間620℃にした第2のサンプルについて実施する。
【0047】
試験を始める前、次いで試験の8日後、20日後及び28日後に積重体の垂直放射率を測定する。
【0048】
試験の8日後、20日後及び28日後において、垂直放射率の測定した初期値の変化は観測されなかった。
【0049】
上記の耐久性試験から、そのような積重体を、化学作用(湿気)又は機械作用(積重体の摩耗)による積重体の劣化のリスクなしに、難なく単一のグレージングの面2上に被着させることができることが示される。
【0050】
例1によるグレージングのL*、b*、a*システムにおける透過及び反射(外側)の測色特性を、徐冷及び強化の前後で測定した。
【0051】
測定したデータを下の表3で報告する。
【0052】
【表3】
【0053】
表3に報告したデータは、本発明による積重体を備えるグレージングの理想的な測色特性を示す。すなわち、例1によるパラメーターa*及びb*は、透過においても反射においても比較的小さい。そのような測色特性値は、建築の分野において現在望まれるような中間色又は濃すぎない青緑色をもたらす。
【0054】
*、a*、b*測色システムにおいて、垂直入射下での、熱処理に関連する透過におけるグレージングの色のばらつきは、通常使用され、次の式で定義される数量ΔEの値を使用して定量される。
【0055】
【数1】
【0056】
出願人が実施した試験は、上記の数量ΔEは、本発明によるグレージングについては常に3未満であり、通常は2未満であることを完全に示しており、そしてそれは、そのような積重体により被覆された基材は、その光学特性、及び特にその知覚色を実質的に変化させることなく、熱処理を受け、任意選択的に続いて強化を受けることができることを証明している。
本発明の実施態様の一部を以下の項目〈1〉−〈12〉に記載する。
〈1〉 少なくとも1つのガラス基材を含み、該基材上に層の積重体が被着されており、該積重体がニッケル及び銅を含む合金から成る層を含むグレージングであって、合金の銅の原子百分率が1%超で25%未満であり、かつニッケルの原子百分率が75%超で99%未満である、日射調整特性を有するグレージング。
〈2〉 前記合金中の銅の原子百分率が5%と20%との間である、項目1に記載の太陽光防護グレージング。
〈3〉 前記合金中のニッケルの原子百分率が80%と95%との間である、項目1に記載の太陽光防護グレージング。
〈4〉 前記機能層の厚さが5ナノメートルと25ナノメートルとの間、好ましくは10ナノメートルと20ナノメートルとの間である、項目1〜3の1項に記載の太陽光防護グレージング。
〈5〉 前記合金がニッケル、銅及び不可避な不純物のみを含む、項目1〜4の1項に記載の太陽光防護グレージング。
〈6〉 前記積重体が、前記ガラス基材の表面から始まる一連の次の層、すなわち、
−前記ガラス基材からのアルカリ金属イオンのマイグレーションに対して前記機能層を保護するための、合計で5nmと150nmとの間の幾何学的厚さを有する、1つ又は複数の下層、
−前記合金から成る該機能層、
−空気からの酸素に対して該機能層を、特に例えば強化又は徐冷などの熱処理の間、保護するための、合計で5nmと150nmとの間の幾何学的厚さを有する、1つ又は複数の上層、
から成る、項目1〜5の1項に記載の太陽光防護グレージング。
〈7〉 前記下層及び上層の保護層が、Al、Zr又はBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素、窒化アルミニウムAlN、酸化錫、亜鉛又は錫の混合酸化物SnyZnzx、酸化ケイ素SiO2、ドープされていない酸化チタンTiO2、及びケイ素酸窒化物SiOxyから選択される、項目6に記載の太陽光防護グレージング。
〈8〉 前記積重体が、前記ガラス基材の表面から始まる一連の次の層、すなわち、
−5nmと150nmとの間、好ましくは30nmと70nmとの間の厚さを有する、Al、Zr若しくはBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素、又は窒化アルミニウムAlNの下層、
−前記合金から成る前記機能層、
−5nmと150nmとの間、好ましくは30nmと70nmとの間の厚さを有する、Al、Zr若しくはBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素、又は窒化アルミニウムAlNの上層、
を含む、項目1〜7の1項に記載の太陽光防護グレージング。
〈9〉 前記積重体が、ニッケル及び銅を含むか又はこれらから成る前記合金から成る少なくとも2つの機能層を含み、前記各層が該積重体において誘電体の少なくとも1つの中間層により隣の機能層と隔てられている、項目1〜8の1項に記載の太陽光防護グレージング。
〈10〉 前記中間層が、Al、Zr又はBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素、窒化アルミニウムAlN、酸化錫、亜鉛又は錫の混合酸化物SnyZnzx、酸化ケイ素SiO2、ドープされていない酸化チタンTiO2、及びケイ素酸窒化物SiOxyから選択される材料の少なくとも1つの層を含む、項目9に記載の太陽光防護グレージング。
〈11〉 太陽光防護グレージングであって、前記積重体が、前記ガラス基材の表面から始まる一連の次の層、すなわち、
−5nmと150nmとの間、好ましくは30nmと70nmとの間の厚さを有する、Al、Zr若しくはBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素、又は窒化アルミニウムAlNの下層、
−ニッケル及び銅を含むか又はこれらから成る前記合金から本質的に成る、第1の機能層、
−5nmと150nmとの間の厚さを有し、Al、Zr又はBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素、窒化アルミニウムAlN、酸化錫、亜鉛又は錫の混合酸化物SnyZnzx、酸化ケイ素SiO2、ドープされていない酸化チタンTiO2、及びケイ素酸窒化物SiOxyから選択される材料の少なくとも1つの層、好ましくは任意選択的にドープされた窒化ケイ素の少なくとも1つの層を含む、中間層、
−ニッケル及び銅を含むか又はこれらから成る前記合金から本質的に成る、第2の機能層、
−5nmと150nmとの間、好ましくは30nmと70nmとの間の厚さを有する、Al、Zr若しくはBで任意選択的にドープされた窒化ケイ素、又は窒化アルミニウムAlNの上層
の連続を含む、項目10に記載の太陽光防護グレージング。
〈12〉 前記積重体がまた、Ti、Mo、Al又はこれらの元素の少なくとも1種を含む合金から成る群より選択された金属の保護層を含み、該層が1つ又は複数の前記機能層の上及び下に接触して配置され、各保護層が約1nmと約5nmとの間の幾何学的厚さを有する、項目1〜11の1項に記載の太陽光防護グレージング。