特許第6092885号(P6092885)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6092885非水電解質二次電池用負極活物質及びその負極活物質を用いた非水電解質二次電池
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  • 特許6092885-非水電解質二次電池用負極活物質及びその負極活物質を用いた非水電解質二次電池 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6092885
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用負極活物質及びその負極活物質を用いた非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20170227BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170227BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20170227BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170227BHJP
【FI】
   H01M4/48
   H01M4/36 C
   H01M4/36 E
   H01M4/525
   H01M10/052
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-538138(P2014-538138)
(86)(22)【出願日】2013年9月11日
(86)【国際出願番号】JP2013005377
(87)【国際公開番号】WO2014049992
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2016年3月10日
(31)【優先権主張番号】特願2012-214841(P2012-214841)
(32)【優先日】2012年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-61394(P2013-61394)
(32)【優先日】2013年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126963
【弁理士】
【氏名又は名称】来代 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100131864
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 正憲
(72)【発明者】
【氏名】南 博之
(72)【発明者】
【氏名】井町 直希
【審査官】 正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−059213(JP,A)
【文献】 特開2011−113862(JP,A)
【文献】 特開2003−160328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 − 4/62
H01M 10/05 −10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池用負極活物質粒子であって、
上記粒子は、その表面にのみ炭素を備え、
上記粒子は、内部にLiシリケート相を含むSiO(0.8≦X≦1.2)粒子を備え、
上記SiO粒子の表面は、炭素で50%以上100%以下被覆されている、
非水電解質二次電池用負極活物質粒子。
【請求項2】
上記SiO粒子の総モル量に対する、上記リチウムシリケート相のモル数の割合が、0.5mol%以上25mol%以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極活物質粒子
【請求項3】
上記SiO粒子の表面が、炭素で100%被覆されている、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用負極活物質粒子
【請求項4】
上記SiO粒子の平均一次粒子径は、1μm以上15μm以下である、請求項1〜3の何れか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質粒子
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の負極活物質粒子と、黒鉛粒子を備える、非水電解質二次電池用負極活物質
【請求項6】
請求項1〜4の何れか1項に記載の負極活物質粒子または請求項5に記載の負極活物質を含む負極と、
正極活物質を含む正極と、
上記正極と上記負極との間に配置されたセパレータと、
非水電解質と、
を備える非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記正極活物質が、リチウムと、金属元素Mとを含む酸化物を含み、
前記金属元素Mが、コバルト、ニッケルを含む群より選択される少なくとも一種を含み

前記正極および前記負極に含まれるリチウム量の総和xと、前記酸化物に含まれる前記金属元素Mの量MCとの比率x/MCが、1.01より大きい、請求項6に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用負極活物質及びその負極活物質を用いた非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SiOで表わされるシリコン酸化物は、比容量が高く、充電時にリチウムを吸収した際の体積膨張率もSiに比べて小さいことから、黒鉛と混合して負極活物質として用いることが検討されている(特許文献1参照)。
しかしながら、SiOで表わされるシリコン酸化物を負極活物質として用いた非水電解質二次電池は、黒鉛のみを負極活物質として使用した場合に比べ、初回充放電効率、及びサイクル初期における容量が著しく低下するという課題がある。
初回充放電効率の向上を図るべく、炭素活物質中にシリコン酸化物が分散され、該シリコン酸化物中にシリコンとリチウムシリケート相とを有する構造の複合体粒子が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−233245号公報
【特許文献2】特開2007−59213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2に記載の提案では、炭素活物質中に分散されたシリコン酸化物は、炭素マトリクス内にシリコン酸化物が点在した構造を有するため、充放電時に炭素マトリクスがリチウム拡散を阻害する。このため、リチウムがシリコン酸化物に十分届かない場合があり、実際の電池容量が理論容量よりも著しく小さくなって、初回充放電効率が低下する等の課題を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の非水電解質二次電池用負極活物質粒子は、その表面にのみ炭素を備える。上記粒子は、Liシリケート相を含むSiO(0.8≦X≦1.2)粒子を備える。SiO粒子の表面は、炭素で50%以上100%以下被覆されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施例によれば、負極活物質としてSiOを用いた非水電解質二次電池において、初回充放電効率とサイクル特性とが飛躍的に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】電池A1、ZにおけるSiOのXRD測定結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において「略**」とは、「略同等」を例に挙げて説明すると、全く同一はもとより、実質的に同一と認められるものを含む意図である。
【0009】
本発明の負極活物質は、内部にリチウムシリケート相を含むSiO(0.8≦X≦1.2)からなる粒子であって、SiOからなる粒子の表面が、炭素で50%以上100%以下被覆されている。
上記構成の負極活物質を用いた電池では、初回充放電効率とサイクル特性とを向上させることができる。この理由を以下に示す。
【0010】
SiOは、SiとSiOとの微細混合体であり、負極活物質として用いた場合の初回充電反応は、一般的に下記(1)式で表せる。
4SiO(2Si+2SiO)+16Li+16e→3LiSi+LiSiO・・・(1)
上記(1)式の如く、初回充電時にLiSiOが生成されるが、このLiSiOは不可逆反応物である。したがって、SiO中の全てのSiが可逆反応するものではなく、理論効率が低くなる。具体的には、上記(1)式のように不可逆反応物としてLiSiOが生成される場合には、16個のリチウムイオンのうち4個が不可逆となるため、理論効率は75%となる。
【0011】
そこで、上記構成の如く、電池作製時(初回充電前)のSiOに、LiSiO等のリチウムシリケート相が形成されたSiOを用いる。このような構成であれば、初回充電時において、不可逆反応物に奪われるリチウムが少なくなるので、初回充放電効率を飛躍的に改善することが可能となる。また、SiO粒子は、リチウムシリケート相を形成することにより、体積が大きくなる。そのため、SiOを負極活物質として用いた場合、リチウムシリケート相を有するSiOは、リチウムシリケート相を有しないSiOよりも充放電時における膨張、収縮時の変位が小さい。したがって、リチウムシリケート相を有するSiOを用いれば、負極合剤層内での剥離や、負極合剤層と負極集電体と
の剥離を抑制することができるので、サイクル特性が向上する。加えて、SiOの回りには炭素マトリクスが存在しないので、リチウム拡散が円滑に行われる。したがって、実際の電池容量が大きくなる。
【0012】
尚、上記リチウムシリケート相はLiSiOのみならずLiSiO等で構成されることもあるが、いずれの場合にも電気化学的に不活性である。また、リチウムシリケート相は電気化学的に形成するのではなく、化学反応により形成する。例えば、以下の方法により形成できる。
【0013】
SiO中にリチウムシリケート相を形成するには、例えば、LiOH、LiCO、LiF、又はLiClといったリチウム化合物とSiOとを混合し、高温で熱処理することにより得ることができる。この場合、リチウム化合物としてLiOHを用いた場合の反応式を下記(2)式に示す。(2)式から明らかなように、SiO中に存在するSiOとLiOHとが反応して、LiSiOが生成することがわかる。
SiO+4LiOH→LiSiO+2HO・・・(2)
リチウムシリケート相は、LiとSi、Oとの化合物であり、LiSiO以外にも、LiSiOやLiSiがあり、リチウム化合物の添加量や処理方法によって生成物が異なる場合がある。
【0014】
SiO(0.8≦X≦1.2)粒子の総量に対する上記リチウムシリケート相の割合が、0.5モル%以上25モル%以下であることが好ましい。リチウムシリケート相の割合が0.5モル%未満の場合には、初回充放電効率の改善効果が小さい。一方、リチウムシリケート相の割合が25モル%を超える場合には、可逆反応するSiが少なくなって、充放電容量が低下する。
【0015】
本発明において用いるSiOは、表面が炭素で50%以上100%以下、好ましくは、100%被覆されている。SiO表面が炭素で50%以上100%以下被覆されていると、SiOにリチウムシリケート相を形成させる際、リチウム化合物とSiOとが直接接触することを抑制できるので、SiO粒子の内部において、リチウムとSiOとを均一に反応させることが可能となるからである。なお、本発明において、SiO表面が炭素で被覆されているとは、粒子断面をSEM観察した場合に、SiO粒子表面が、少なくとも1nm厚以上の炭素被膜で覆われているということである。本発明において、SiO表面が炭素で100%被覆されているとは、粒子断面をSEM観察した場合に、SiO粒子表面の略100%が、少なくとも1nm厚以上の炭素被膜で覆われているということである。炭素で被覆する場合、SiOの反応均一性を高めるべく、SiOの表面を均一に被覆することが好ましい。炭素被膜の厚みは、1nm以上200nm以下であることが好ましい。1nm未満では、導電性が低く、また均一に被覆するのが難しい。一方、200nmを超えると、炭素被膜がリチウム拡散を阻害して、SiOに十分リチウムが届かず、大きく容量が低下する。更に、炭素被覆する場合、SiOに対する炭素の割合は10質量%以下であることが望ましい。
【0016】
本発明に用いるSiOの平均一次粒子径は、1μm以上15μm以下であることが好ましい。SiOの平均一次粒子径が1μm未満の場合は、粒子表面積が大きくなり過ぎて、電解液との反応量が大きくなり、容量低下することがある。また、SiOの膨張収縮量が小さく、負極合剤層へ与える影響は小さい。そのため、SiO中に予めリチウムシリケート相を形成しなくても、負極合剤層と負極集電体との間で剥離が生じ難く、サイクル特性がさほど低下しない。一方、SiOの平均一次粒子径が15μmを超えている場合は、リチウムシリケート相の形成時に、SiO内部までリチウムが拡散せず、SiO表面にのみリチウムシリケート相が形成されることがある。リチウムシリケート相は絶縁性であるため、このような構造になると、リチウム拡散が阻害されて、充放電時にリチウムがSiOの中心付近まで拡散できないため、容量低下や負荷特性が低下することがある。したがって、SiOの平均一次粒子径は、1μm以上15μm以下であることが好ましく、特に4μm以上10μm以下であることが好ましい。
なお、SiOの平均一次粒子径(D50)とは、レーザー回折散乱法で測定された粒度分布における累積50体積%径のことである。
【0017】
本発明において用いるSiOは、負極活物質として単独で用いても良く、黒鉛やハードカーボンといった炭素系活物質と混合して用いても良い。SiOは、炭素系活物質よりも比容量が高いため、添加量が多いほど高容量化が可能となる。しかし、SiOは、炭素系活物質よりも、充放電時の膨張、収縮率が大きく、その割合が多過ぎると、負極合剤層と負極集電体との界面における剥離や、負極活物質粒子間の導電接触が低下するため、サイクル特性が大幅に低下することがある。したがって、SiOと炭素系活物質とを混合して用いる場合、負極活物質の総量に対するSiOの割合は、20質量%以下であることが好ましい。一方、SiOの割合が少な過ぎると、SiOを添加して高容量化するメリットが小さくなるので、負極活物質の総量に対するSiOの割合は1質量%以上であることが好ましい。
【0018】
正極及び非水電解質は、非水電解質二次電池に用いるものであれば、特に限定されることなく用いることができる。
正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケルあるいはマンガンを含むリチウム複合酸化物、リン酸鉄リチウム(LiFePO)に代表されるオリビン型リン酸リチウム等などが挙げられる。ニッケルあるいはマンガンを含むリチウム複合酸化物としては、Ni−Co−Mn、Ni−Mn−Al、及びNi−Co−Alなどのリチウム複合酸化物などが挙げられる。正極活物質はこれらを単独で用いても良いし、混合して用いてもよい。
【0019】
正極活物質が、リチウムと、金属元素Mとを含む酸化物を含み、前記金属元素Mが、コバルト、ニッケルを含む群より選択される少なくとも一種を含む場合、正極および負極に含まれるリチウム量の総和xと、上記の酸化物に含まれる金属元素Mの量Mとの比率x/Mは、例えば、1.01より大きいことが好ましく、1.03より大きいことがさらに好ましい。
比率x/Mが上記範囲である場合、電池内に供給されるリチウムイオンの比率が非常に大きくなることになる。つまり、不可逆容量の補填の点で有利である。
【0020】
上記比率x/Mは、例えば、負極活物質が内部にリチウムシリケート相を含むSiOと炭素系活物質とを混合したものである場合、負極活物質の総量に対するSiOの割合等によって、変動する。
比率x/Mは、正極および負極中に含まれるリチウム量xと正極活物質に含まれる金属元素Mの量Mを、それぞれ定量し、xの量を金属元素Mの量Mで除することにより算出できる。
【0021】
リチウム量xおよび金属元素Mの量Mは、次のようにして定量できる。
まず、電池を、完全に放電した後、分解し、非水電解質を除去して、電池内部をジメチルカーボネートなどの溶媒を用いて洗浄する。次いで、正極および負極をそれぞれ所定の質量だけ採取し、ICP分析により、正極および負極に含まれるリチウム量を定量することにより、リチウム量(モル量)xを求める。また、正極中のリチウム量の場合と同様にして、正極に含まれる金属元素Mの量(モル量)MをICP分析により定量する。
【0022】
非水電解液の溶媒、溶質については、非水電解質二次電池に用いることができるものであれば特に限定されるものではない。
上記非水電解液の溶質としては、LiBF,LiPF,LiN(SOCF,LiN(SO,LiPF6−x(C2n+1[但し、1<x<6,n=1または2]、或いは、オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩を用いることもできる。このオキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩としては、LiBOB〔リチウム−ビスオキサレートボレート〕の他、中心原子にC2−が配位したアニオンを有するリチウム塩、例えば、Li[M(C](式中、Mは遷移金属,周期律表のIIIb族,IVb族,Vb族から選択される元素、Rはハロゲン、アルキル基、ハロゲン置換アルキル基から選択される基、xは正の整数、yは0又は正の整数である。)で表わされるものを用いることができる。具体的には、Li[B(C)F]、Li[P(C)F]、Li[P(C]等がある。但し、高温環境下においても負極の表面に安定な被膜を形成するためには、LiBOBを用いることが最も好ましい。
【0023】
尚、上記溶質は、単独で用いるのみならず、2種以上を混合して用いても良い。また、溶質の濃度は特に限定されないが、電解液1リットル当り0.8〜1.8モルであることが望ましい。更に、大電流での放電を必要とする用途では、上記溶質の濃度が電解液1リットル当たり1.0〜1.6モルであることが望ましい。
【0024】
一方、上記非水電解液の溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチルラクトン、ジエチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートなどのカーボネート系溶媒や、これらの溶媒の水素の一部がFにより置換されているカーボネート系溶媒が好ましく用いられる。溶媒としては、環状カーボネートと鎖状カーボネートを組み合わせて用いることが好ましい。
【0025】
尚、上記特許文献2に記載の発明との違いは以下の通りである。
(1)上記の如く、本発明でもSiOの表面を炭素で被覆している。したがって、特許文献2に記載の発明のみならず本発明においても、SiO粒子に炭素が含まれる。しかしながら、特許文献2に記載の発明では、粒子の内部にまで炭素が存在するのに対して、本発明では粒子の表面にしか炭素が存在しない。また、このことに関連して、粒子中の炭素の割合は、本発明では約10質量%以下であって極めて少ないのに対して、特許文献2に記載の発明では約50質量%以上であって極めて多い。
【0026】
(2)特許文献2に記載の発明では、SiO粉末と、炭素粉末と、リチウム化合物との存在下で、熱処理を行っている。したがって、リチウム化合物のリチウムは、SiOのみならず炭素中にも取り込まれる。これに対し、本発明では、SiO粉末と、リチウム化合物との存在下で、熱処理を行った後、炭素粉末と混合している。したがって、リチウム化合物のリチウムは、SiOにのみ取り込まれる(炭素中には取り込まれない)。
【0027】
(3)特許文献2に記載の発明の如く、SiOが炭素マトリクス内に点在した構造の場合、SiOの粒径が小さく、しかも、応力を緩和できる炭素マトリクスでSiOが覆われている。したがって、充放電時の負極活物質の膨張、収縮によって、負極合剤層に与える影響(負極集電体と負極合剤層との間での剥離等)は極めて小さい。このため、特許文献2に記載の発明では、負極活物質の膨張、収縮を緩和することによって電池特性を向上させるという作用効果は、僅かに発揮されるだけである。
これに対して、本発明の如く、内部にリチウムシリケート相を含むSiOからなる粒子(SiOの単独粒子)と黒鉛と混合して用いる場合には、電解液との副反応を抑制するためにSiOの粒径をある程度大きくする必要があり、しかも、SiOの周りには、応力を緩和できるマトリクスも存在しない。したがって、負極活物質の膨張、収縮による、負極合剤層に与える影響は極めて大きい。このため、本発明では、負極活物質の膨張、収縮を緩和することによって電池特性を向上させるという作用効果が大いに発揮される。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を具体的な実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
〈第1実施例〉
【0029】
(実施例1)
〔負極の作製〕
表面を炭素で被覆したSiO(X=0.93、平均一次粒子径:5.0μm)を準備した。尚、被覆はCVD法を用いて行い、また、SiOに対する炭素の割合は10質量%、SiO表面の炭素被覆率を100%とした。上記SiO1モルとLiOH0.2モルとを粉状態で混合して(SiOに対するLiOHの割合は20モル%となっている)、SiOの表面にLiOHを付着させた。次に、Ar雰囲気中、800℃で10時間熱処理することにより、内部にリチウムシリケート相が形成されたSiOを作製した。この熱処理後のSiOをXRD(線源はCuKαである)で解析したところ、図1に示すように、リチウムシリケートであるLiSiOとLiSiOとのピークが確認された。また、SiOの総モル数に対するリチウムシリケート相のモル数(以下、SiO中のリチウムシリケート相の割合、と称することがある)は5モル%であった。
【0030】
なお、SiO表面の炭素被覆率は、次の方法で確認した。日立ハイテク社製のイオンミリング装置(ex. IM4000)を用いて、負極活物質粒子の断面を露出させ、粒子断面をSEM及び反射電子像で確認した。粒子断面の炭素被覆層とSiOとの界面は、反射電子像から特定した。そして、各SiO粒子表面における膜厚1nm以上の炭素被膜の割合を、粒子断面におけるSiO外周長に対する、膜厚1nm以上の炭素被膜とSiOとの界面長さの総和の比より算出した。SiO粒子30個の炭素被膜の割合の平均値を、炭素被覆率とした。
【0031】
上記リチウムシリケート相が形成されたSiOと、バインダーであるPAN(ポリアクリロニトリル)とを、質量比で95:5となるように混合し、更に希釈溶媒としてのNMP(N−メチル−2−ピロリドン)を添加した。これを、混合機(プライミクス社製、ロボミックス)を用いて攪拌し、負極合剤スラリーを調製した。
上記負極合剤スラリーを、銅箔の片面上に負極合剤層のlm当りの質量が、25g/mとなるように塗布した。次に、これを大気中105℃で乾燥し、圧延することにより負極を作製した。尚、負極合剤層の充填密度は、1.50g/mlとした。
【0032】
〔非水電解液の調製〕
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを、体積比が3:7の割合となるように混合した混合溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を、1.0モル/リットル添加して非水電解液を調製した。
【0033】
〔電池の組み立て〕
不活性雰囲気中で、外周にNiタブを取り付けた上記負極と、リチウム金属箔と、負極とリチウム金属箔との間に配置させたポリエチレン製セパレータとを用いて電極体を作製した。この電極体を、アルミニウムラミネートからなる電池外装体内に入れ、更に、非水電解液を電池外装体内に注入し、その後電池外装体を封止して電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A1と称する。
【0034】
(実施例2)
リチウム源とSiOとを混合して熱処理する際、リチウム源として、LiOHの代わりにLiCOを用いた(SiOに対するLiCOの割合は10モル%とした)こと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiOを、XRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLiSiOとLiSiOとのピークが確認された。また、熱処理後のSiO中のリチウムシリケート相の割合は5モル%であった。このようにして作製した電池を、以下、電池A2と称する。
【0035】
(実施例4)
リチウム源とSiOとを混合して熱処理する際、リチウム源として、LiOHの代わりにLiClを用いた(SiOに対するLiClの割合は20モル%とした)こと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiOを、XRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLiSiOとLiSiOとのピークが確認された。また、熱処理後のSiO中のリチウムシリケート相の割合は5モル%であった。このようにして作製した電池を、以下、電池A3と称する。
【0036】
(実施例4)
リチウム源とSiOとを混合して熱処理する際、リチウム源として、LiOHの代わりにLiFを用いた(SiOに対するLiFの割合は20モル%とした)こと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiOを、XRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLiSiOとLiSiOとのピークが確認された。また、熱処理後のSiO中のリチウムシリケート相の割合は5モル%であった。このようにして作製した電池を、以下、電池A4と称する。
【0037】
(比較例)
LiOHとSiOとを混合せず、且つ、熱処理を行わなかった(即ち、負極活物質としてのSiOとして、未処理のSiOを用いた)こと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様に電池を作製した。このSiOをXRDで解析したところ、図1に示すように、リチウムシリケート相は確認されなかった。このようにして作製した電池を、以下、電池Zと称する。
【0038】
(実験)
上記電池A1〜A4、Zを、以下の条件で充放電し、下記(3)式で示す初回充放電効率と下記(4)式で示す10サイクル目の容量維持率とを調べたので、その結果を表1に示す。
〔充放電条件〕
0.2It(4mA)の電流で電圧が0Vになるまで定電流充電を行った後、0.05It(1mA)の電流で電圧が0Vになるまで定電流充電を行った。次に、10分間休止した後、0.2It(4mA)の電流で電圧が1.0Vになるまで定電流放電を行った。
【0039】
〔初回充放電効率の算出式〕
初回充放電効率(%)=(1サイクル目の放電容量/1サイクル目の充電容量)×100・・・(3)
〔10サイクル目の容量維持率の算出式〕
10サイクル目の容量維持率(%)=(10サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100・・・(4)
【0040】
【表1】
【0041】
内部にリチウムシリケート相を有するSiOを用いた電池A1〜A4は、内部にリチウムシリケート相を有していないSiOを用いた電池Zに比べて、初回充放電効率及びサイクル特性が向上することがわかる。これは、充放電前のSiOにおいて、予めリチウムシリケート相を有していれば、初回充電時に生成するLiSiOに奪われるリチウム量が少量で済み、充放電に関与できるリチウム量が増加するからである。また、内部にリチウムシリケート相を有するSiOは、内部にリチウムシリケート相を有していないSiOに比べた場合、充電量は同一であるにも関わらず、充電時の膨張度合いが小さくなる。したがって、充放電時の膨張収縮量の差が小さくなり、負極合剤層での剥離等が抑制されるからと考えられる。
尚、熱処理時に用いるリチウム化合物としては、LiOHに限らず、LiCO、LiCl、又はLiFでも同様の効果を発現することが確認できた。また、これら以外のリチウム化合物であっても、同様の効果を発現すると推測できる。
【0042】
〈第2実施例〉
(実施例1)
LiOHとSiOとを混合して熱処理する際、SiOに対してLiOHを2モル%添加したこと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiOをXRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLiSiOのピークが確認された。また、熱処理後のSiO中のリチウムシリケート相の割合は0.5モル%であった。このようにして作製した電池を、以下、電池B1と称する。
【0043】
(実施例2)
LiOHとSiOとを混合して熱処理する際、SiOに対してLiOHを50モル%添加したこと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiOをXRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLiSiOとLiSiOとのピークが確認された。また、熱処理後のSiO中のリチウムシリケート相の割合は12.5モル%であった。このようにして作製した電池を、以下、電池B2と称する。
【0044】
(実施例3)
LiOHとSiOとを混合して熱処理する際、SiOに対してLiOHを80モル%添加したこと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiOをXRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLiSiOとLiSiOとのピークが確認された。また、熱処理後のSiO中のリチウムシリケート相の割合は20モル%であった。このようにして作製した電池を、以下、電池B3と称する。
【0045】
(実施例4)
LiOHとSiOとを混合して熱処理する際、SiOに対してLiOHを100モル%添加したこと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiOをXRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLiSiOとLiSiOとのピークが確認された。また、熱処理後のSiO中のリチウムシリケート相の割合は25モル%であった。このようにして作製した電池を、以下、電池B4と称する。
【0046】
(実験)
上記電池B1〜B4を、上記第1実施例の実験で示した条件と同様の条件で充放電し、上記(3)式で示した初回充放電効率と、上記(4)式で示した10サイクル目の容量維持率とを調べたので、その結果を表2に示す。尚、表2には電池A1、Zの結果についても記載している。
【0047】
【表2】
【0048】
内部にリチウムシリケート相を有するSiOを用いた電池A1、B1〜B4は、内部にリチウムシリケート相を有していないSiOを用いた電池Zに比べて、初回充放電効率が高く、サイクル特性も良好であることがわかった。また、電池A1、B1〜B4を比較した場合、SiO中のリチウムシリケート相の割合が高いほど、初回充放電効率が高く、サイクル特性も良好であることがわかった。更に、SiO中のリチウムシリケート相の割合が12.5モル%以上の電池B2〜B4では、負極活物質としてSiOを用いた場合の理論充放電効率(75%)を越える初回充放電効率を示すことが確認できた。
【0049】
以上より、SiO中のリチウムシリケート相の割合は0.5モル%以上25モル%以下であることが望ましい。SiO中のリチウムシリケート相の割合が0.5モル%未満の場合には、リチウムシリケート相を形成した効果が低くなり、当該割合が25モル%を超えると、充放電容量が低下する。
【0050】
〈第3実施例〉
(実施例1)
原料としてのSiO(熱処理前のSiO)として、平均一次粒子径が1.0μmであるSiO(x=0.93、炭素被覆量10質量%)を用いたこと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiOをXRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLiSiOとLiSiOとのピークが確認された。また、熱処理後のSiO中のリチウムシリケート相の割合は5モル%であった。このようにして作製した電池を、以下、電池C1と称する。
【0051】
(実施例2)
原料としてのSiO(熱処理前のSiO)として、平均一次粒子径が15.0μmであるSiO(x=0.93、炭素被覆量10質量%)を用いたこと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiOをXRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLiSiOとLiSiOとのピークが確認された。また、熱処理後のSiO中のリチウムシリケート相の割合は5モル%であった。このようにして作製した電池を、以下、電池C2と称する。
【0052】
(実験)
上記電池C1、C2を、上記第1実施例の実験で示した条件と同様の条件で充放電し、上記(3)式で示した初回充放電効率と、上記(4)式で示した10サイクル目の容量維持率とを調べたので、その結果を表3に示す。尚、表3には電池A1、Zの結果についても記載している。
【0053】
【表3】
【0054】
内部にリチウムシリケート相を有するSiOを用いた電池A1、C1、C2は、内部にリチウムシリケート相を有していないSiOを用いた電池Zに比べて、初回充放電効率が高く、サイクル特性も良好であることがわかった。したがって、SiOの平均一次粒子径は、1μm以上15μm以下であることが好ましい。尚、SiOの平均一次粒子径が1μm未満の場合には、粒子表面積が大きいため、電解液の副反応が起こり易くなる。一方、SiOの平均一次粒子径が15μmを超える場合は、化成処理時にリチウムがSiO内部まで拡散せず、多くのリチウムシリケート相がSiO表面に形成されるため、容量低下や負荷特性の低下を招くことがある。
【0055】
〈第4実施例〉
(実施例1)
熱処理後のSiOを、ろ液のpHが8.0になるまで純水で水洗、濾過して、熱処理後のSiOの表面から未反応のリチウム化合物を除去したこと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池D1と称する。
【0056】
(実施例2)
以下のような処理を、熱処理前に施したこと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。
SiOとLiOHとを混合する際、LiOHを予め水に溶解させた液に、所定量のSiOと、非イオン性界面活性剤(商品名:SNウエット980、サンノプコ社製ポリエーテル系界面活性剤)とを添加して、分散させた。尚、非イオン性界面活性剤の添加量は、固形分の総量に対して1質量%とした。次いで、上記分散液を温度110℃に設定した恒温槽で乾燥し、溶媒である水を除去した後、熱処理を行った。このようにして作製した電池を、以下、電池D2と称する。
【0057】
(実施例3)
熱処理後のSiOを、ろ液のpHが8.0になるまで純水で水洗、濾過して、熱処理後のSiOの表面から未反応リチウム化合物を除去したこと以外は、上記第4実施例の実施例2と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池D3と称する。
【0058】
(実験)
上記電池D1〜D3を、上記第1実施例の実験で示した条件と同様の条件で充放電し、上記(3)式で示した初回充放電効率と、上記(4)式で示した10サイクル目の容量維持率とを調べたので、その結果を表4に示す。尚、表4には電池A1の結果についても記載している。
【0059】
【表4】
【0060】
熱処理後の水洗を行った電池D1は、水洗を行わなかった電池A1よりも、初回充放電効率及びサイクル特性が向上したことがわかる。電池D1の如く水洗を行えば、熱処理時の未反応物であるリチウム化合物を除去することができるので、負極活物質粒子の表面抵抗が低下する。したがって、放電時に負極活物質粒子間の導電パスが十分に形成されるからと考えられる。
【0061】
また、熱処理前のSiOとリチウム化合物とを混合する際、予め界面活性剤を用いて湿式処理を行った電池D2は、熱処理前のSiOとリチウム化合物とを単に乾式混合した電池A1よりも、初回充放電効率及びサイクル特性が向上したことがわかる。電池D1の如く界面活性剤を添加して湿式で混練すれば、SiO表面により微細なLiOHが均一に析出する。このため、熱処理時に、より均一なリチウムシリケート相が形成されたことによると考えられる。
【0062】
更に、界面活性剤を用いた湿式処理と化成処理後の水洗処理とを行った電池D3は、一方の処理しか行っていない電池D1、D2に比べて、初回充放電効率及びサイクル特性が向上していることがわかる。したがって、2つの処理を組み合わせることで、更に特性を改善できる。
尚、上記実験結果より、SiO表面にLiOHを均一に配置させるのが好ましいことがわかったが、このような状
態とするには、上記湿式処理に限定するものではなく、乾式処理であっても達成できる。
【0063】
〈第5実施例〉
(実施例1)
[正極の作製]
正極活物質としてのコバルト酸リチウムと、導電剤としてのアセチレンブラック(電気化学工業社製、HS100)と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、質量比が95.0:2.5:2.5の割合になるように秤量、混合し、分散媒としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を添加した。次に、これを混合機(プライミクス社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、正極スラリーを調製した。次に、この正極スラリーを、アルミニウム箔から成る正極集電体の両面に塗布、乾燥した後、圧延ローラにより圧延して、正極集電体の両面に正極合剤層が形成された正極を作製した。尚、正極合剤層における充填密度は3.60g/mlとした。
【0064】
[負極の作製]
上記第1実施例の実施例1で用いた熱処理後のSiOと黒鉛との混合物を、負極活物質として用いた。尚、負極活物質の総量に対する熱処理後のSiOの割合は5質量%とした。上記負極活物質と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC、ダイセルファインケム社製♯1380、エーテル化度:1.0〜1.5)と,結着剤としてのSBR(スチレン−ブタジエンゴム)とを、質量比で97.5:1.0:1.5となるように混合し、希釈溶媒としての水を添加した。これを、混合機(プライミクス社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、負極スラリーを調製した。次に、上記負極スラリーを、銅箔から成る負極集電体の両面に、負極合剤層の1m当たりの質量が190gとなるように均一に塗布した。次いで、これを大気中105℃で乾燥させた後、圧延ローラにより圧延して、負極集電体の両面に負極合剤層が形成された負極を作製した。尚、負極合剤層における充填密度は1.60g/mlとした。
【0065】
[電池の作製]
上記正極と負極とを、ポリエチレン微多孔膜からなるセパレータを介して対向させた。次に、正極タブと負極タブとを、各電極における最外周部に位置するように正極及び負極に取り付けた後、正極、負極及びセパレータを渦巻き状に巻回して電極体を作製した。次いで、該電極体をアルミニウムラミネートからなる電池外装体内に配置し、105℃で2時間真空乾燥した。その後、上記第1実施例の実施例1で示した非水電解液と同一の非水電解液を上記電池外装体内に注入し、更に、電池外装体の開口部を封止することにより非水電解質二次電池を作製した。当該非水電解質二次電池の設計容量は800mAhである。このようにして作製した電池を、以下、電池E1と称する。
【0066】
(実施例2)
上記負極の作製において、負極活物質の総量に対する熱処理後のSiOの割合を10質量%としたこと以外は、上記第5実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池E2と称する。
【0067】
(実施例3)
上記負極の作製において、負極活物質の総量に対する熱処理後のSiOの割合を20質量%としたこと以外は、上記第5実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池E3と称する。
【0068】
(比較例1〜3)
SiOとして、未処理のSiO(熱処理していないSiO)を用いたこと以外は、それぞれ、上記第5実施例の実施例1〜実施例3と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下それぞれ、電池Y1〜Y3と称する。
【0069】
(実験)
上記電池E1〜E3、Y1〜Y3を、以下の条件で充放電し、上記(3)式で示した初回充放電効率とサイクル寿命とを調べたので、それらの結果を表5に示す。尚、1サイクル目の放電容量の80%に達したときのサイクル数をサイクル寿命とした。また、各電池のサイクル寿命は、電池Y1のサイクル寿命を100としたときの指数で表している。
更に、初回充放電効率とサイクル寿命とにおける向上率は、SiOの混合率が同じである電池同士を比較したときのものであり、例えば、電池E1の場合には、電池Y1に対する向上率である。
〔充放電条件〕
1.0It(800mA)電流で電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電を行った後、4.2Vの電圧で電流値が0.05It(40mA)となるまで定電圧充電を行った。10分間休止した後、1.0It(800mA)電流で電池電圧が2.75Vとなるまで定電流放電を行った。〔正極及び負極中のリチウム量xと正極活物質に含まれる金属元素Mの量Mとの比x/M〕
これらの電池において正極および負極中に含まれるリチウム量xと、正極材料に含まれる金属元素Mの量Mとを、既述のように定量し、x/M比を算出した結果を、表5に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
上記表5から明らかなように、電池E1〜E3は電池Y1〜Y3に比べて、初回充放電効率とサイクル特性とが向上していることが認められる。したがって、SiOと黒鉛とを混合した負極活物質を用いた場合であっても、SiOとして、熱処理後のSiO(内部にリチウムシリケート相を有するSiO)を用いることが好ましいことがわかる。
また、SiOの割合が高いほど、初回充放電効率における向上率とサイクル特性における向上率とが高くなっていることが認められる。但し、SiOの割合が高くなり過ぎると、負極合剤層の剥がれが顕著に生じることがある。したがって、SiOの割合は20質量%以下であることが好ましい。尚、SiOの割合が少な過ぎると、SiOの添加効果が十分に発揮されないので、SiOの割合は1質量%以上であることが望ましい。
【0072】
〈第6実施例〉
(実施例1)
[負極の作製]
上記第1実施例の実施例1で用いた熱処理後のSiOと黒鉛との混合物を、負極活物質として用いた。尚、負極活物質の総量に対する熱処理後のSiOの割合は5質量%とした。上記負極活物質と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC、ダイセルファインケム社製♯1380、エーテル化度:1.0〜1.5)と,結着剤としてのSBR(スチレン−ブタジエンゴム)とを、質量比で97.5:1.0:1.5となるように混合し、希釈溶媒としての水を添加した。これを、混合機(プライミクス社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、負極スラリーを調製した。次に、上記負極スラリーを、銅箔から成る負極集電体の両面に、負極合剤層の1m当たりの質量が190gとなるように均一に塗布した。次いで、これを大気中105℃で乾燥させた後、圧延ローラにより圧延して、負極集電体の両面に負極合剤層が形成された負極を作製した。尚、負極合剤層における充填密度は1.60g/mlとした。
【0073】
〔非水電解液の調製〕
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを、体積比が3:7の割合となるように混合した混合溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を、1.0モル/リットル添加して非水電解液を調製した。
【0074】
〔電池の組み立て〕
不活性雰囲気中で、外周にNiタブを取り付けた上記負極と、リチウム金属箔と、負極とリチウム金属箔との間に配置させたポリエチレン製セパレータとを用いて電極体を作製した。この電極体を、アルミニウムラミネートからなる電池外装体内に入れ、更に、非水電解液を電池外装体内に注入し、その後電池外装体を封止して電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池F1と称する。
【0075】
(実施例2)
原料としてのSiO(熱処理前のSiO)として、平均一次粒子径が1.0μmであるSiO(x=0.93、炭素被覆量10質量%)を用いたこと以外は、上記第6実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiOをXRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLiSiOとLiSiOとのピークが確認された。このようにして作製した電池を、以下、電池F2と称する。
【0076】
(実施例3)
原料としてのSiO(熱処理前のSiO)として、平均一次粒子径が0.5μmであるSiO(x=0.93、炭素被覆量10質量%)を用いたこと以外は、上記第6実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiOをXRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLiSiOとLiSiOとのピークが確認された。このようにして作製した電池を、以下、電池F3と称する。
【0077】
(比較例1)
SiO(x=0.93、平均一次粒子径15.0μm)とLiOH0.2mol(SiOxに対しLiOHを0.2mol%)を、遊星ボールミルを用いて混合し、平均一次粒子径5.0μmのSiOを作製した。さらに黒鉛を加えて混合した後、ハードカーボンと複合化し、Ar雰囲気中800℃で5時間熱処理し、平均一次粒子径40μmの負極活物質を作製した。
負極活物質と黒鉛とを、質量比で10:90(SiO:黒鉛=5:95)としたこと以外は、上記第6実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池Z1と称する。
【0078】
(比較例2)
ボールミル処理後の平均一次粒子径を1.0μmとしたSiO(x=0.93、炭素被覆量10質量%)を用い、ハードカーボンと複合後の負極活物質の平均一次粒子径を8.0μmとしたこと以外は、上記第6実施例の比較例1と同様にして電池を作製した。このように作製した電池を、以下、電池Z2と称する。
【0079】
(比較例3)
ボールミル処理後の平均一次粒子径を0.5μmとしたSiO(x=0.93、炭素被覆量10質量%)を用い、ハードカーボンと複合後の負極活物質の平均一次粒子径を4.0μmとしたこと以外は、上記第6実施例の比較例1と同様にして電池を作製した。このように作製した電池を、以下、電池Z3と称する。
尚、上記第6実施例の比較例1〜比較例3の電池Z1〜Z3に使用された負極活物質は、特許文献2に近い内容である。
【0080】
(実験)
(電池性能評価)
上記電池F1〜F3、Z1〜Z3の初回充電容量及び上記(3)式で示した初回充放電効率を測定したので、それらの結果を表6に示す。尚、充放電条件は、上記第1実施例の実験で示した条件と同様である。
【0081】
【表6】
【0082】
上記表6から明らかなように、電池F1〜F3は電池Z1〜Z3に比べて、初回充電容量と初回充放電効率とが向上していることが認められる。
電池Z1〜Z3に使用されている負極活物質は、炭素質中にSiOを分散させた構造を持つ。一方、電池F1〜F3における負極活物質は、SiO表面に薄く炭素被覆膜を有する構造を持つ。SiOの粒径が1.0μm未満の場合、炭素質中にSiOを分散させた構造とSiO表面に薄く炭素被覆膜を有する構造の違いにおける電池特性の差異は小さいことが認められる。一方、SiOの粒径が1.0μm以上の場合、SiO表面に薄く炭素被覆膜を有する構造の方が、初回充電容量、初回充放電効率共に大きいことが分かる。これは、特許文献2に記載の炭素質中にSiOを分散させた構造の場合、SiOを覆っている炭素質が抵抗となり、充放電時のSiOの利用率を下げていることが考えられるためである。上記表6の結果より、SiO表面に薄く炭素被覆膜を有する構造でかつ、粒径が1.0μm以上の場合に、SiOの利用率を高め、初回効率が上がる効果が認められる。
【0083】
〈第7実施例〉
(実施例1)
SiOに対する炭素の割合を2質量%、SiO表面の炭素被覆率を80%としたこと以外は、第1実施例の実施例2と同様にして、電池を作製した。このように作製した電池を、以下、電池G1と称する。
【0084】
(実施例2)
SiOに対する炭素の割合を1.5質量%、SiO表面の炭素被覆率を50%としたこと以外は、第1実施例の実施例2と同様にして、電池を作製した。このように作製した電池を、以下、電池G2と称する。
【0085】
(比較例1)
SiO表面に炭素被覆を行わなかったこと以外は、第1実施例の実施例2と同様にして、電池を作製した。このように作製した電池を、以下、電池R1と称する。
【0086】
(比較例2)
SiO表面に炭素被覆を行わなかったこと以外は、第1実施例の比較例1と同様にして、電池を作製した。このように作製した電池を、以下、電池R2と称する。
【0087】
(実験)
上記電池G1〜G2及びR1〜R2を、上記第1実施例の実験で示した条件と同様の条件で充放電し、上記(3)式で示した初回充放電効率と、上記(4)式で示した10サイクル目の容量維持率とを調べたので、その結果を表7に示す。尚、表7には電池A2、Zの結果についても記載している。
【0088】
【表7】
【0089】
上記表7から明らかなように、表面の50%以上が炭素被覆され、かつ、リチウムシリケート相を有するSiOを用いた電池A2及びG1〜G2は電池R1〜R2及びZに比べて、初回充放電効率とサイクル特性とが向上していることが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、例えば携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の駆動電源で、特に高容量が必要とされる用途に適用することができる。また、高温での連続駆動が要求される高出力用途で、電気自動車や電動工具といった電池の動作環境が厳しい用途にも展開が期待できる。
図1