【実施例】
【0028】
以下、本発明を具体的な実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
〈第1実施例〉
【0029】
(実施例1)
〔負極の作製〕
表面を炭素で被覆したSiO
X(X=0.93、平均一次粒子径:5.0μm)を準備した。尚、被覆はCVD法を用いて行い、また、SiO
Xに対する炭素の割合は10質量%、SiO
X表面の炭素被覆率を100%とした。上記SiO
X1モルとLiOH0.2モルとを粉状態で混合して(SiO
Xに対するLiOHの割合は20モル%となっている)、SiO
Xの表面にLiOHを付着させた。次に、Ar雰囲気中、800℃で10時間熱処理することにより、内部にリチウムシリケート相が形成されたSiO
Xを作製した。この熱処理後のSiO
XをXRD(線源はCuKαである)で解析したところ、
図1に示すように、リチウムシリケートであるLi
4SiO
4とLi
2SiO
3とのピークが確認された。また、SiO
Xの総モル数に対するリチウムシリケート相のモル数(以下、SiO
X中のリチウムシリケート相の割合、と称することがある)は5モル%であった。
【0030】
なお、SiO
X表面の炭素被覆率は、次の方法で確認した。日立ハイテク社製のイオンミリング装置(ex. IM4000)を用いて、負極活物質粒子の断面を露出させ、粒子断面をSEM及び反射電子像で確認した。粒子断面の炭素被覆層とSiO
Xとの界面は、反射電子像から特定した。そして、各SiO
X粒子表面における膜厚1nm以上の炭素被膜の割合を、粒子断面におけるSiO
X外周長に対する、膜厚1nm以上の炭素被膜とSiO
Xとの界面長さの総和の比より算出した。SiO
X粒子30個の炭素被膜の割合の平均値を、炭素被覆率とした。
【0031】
上記リチウムシリケート相が形成されたSiO
Xと、バインダーであるPAN(ポリアクリロニトリル)とを、質量比で95:5となるように混合し、更に希釈溶媒としてのNMP(N−メチル−2−ピロリドン)を添加した。これを、混合機(プライミクス社製、ロボミックス)を用いて攪拌し、負極合剤スラリーを調製した。
上記負極合剤スラリーを、銅箔の片面上に負極合剤層のlm
2当りの質量が、25g/m
2となるように塗布した。次に、これを大気中105℃で乾燥し、圧延することにより負極を作製した。尚、負極合剤層の充填密度は、1.50g/mlとした。
【0032】
〔非水電解液の調製〕
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを、体積比が3:7の割合となるように混合した混合溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を、1.0モル/リットル添加して非水電解液を調製した。
【0033】
〔電池の組み立て〕
不活性雰囲気中で、外周にNiタブを取り付けた上記負極と、リチウム金属箔と、負極とリチウム金属箔との間に配置させたポリエチレン製セパレータとを用いて電極体を作製した。この電極体を、アルミニウムラミネートからなる電池外装体内に入れ、更に、非水電解液を電池外装体内に注入し、その後電池外装体を封止して電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A1と称する。
【0034】
(実施例2)
リチウム源とSiO
Xとを混合して熱処理する際、リチウム源として、LiOHの代わりにLi
2CO
3を用いた(SiO
Xに対するLi
2CO
3の割合は10モル%とした)こと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiO
Xを、XRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLi
4SiO
4とLi
2SiO
3とのピークが確認された。また、熱処理後のSiO
X中のリチウムシリケート相の割合は5モル%であった。このようにして作製した電池を、以下、電池A2と称する。
【0035】
(実施例4)
リチウム源とSiO
Xとを混合して熱処理する際、リチウム源として、LiOHの代わりにLiClを用いた(SiO
Xに対するLiClの割合は20モル%とした)こと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiO
Xを、XRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLi
4SiO
4とLi
2SiO
3とのピークが確認された。また、熱処理後のSiO
X中のリチウムシリケート相の割合は5モル%であった。このようにして作製した電池を、以下、電池A3と称する。
【0036】
(実施例4)
リチウム源とSiO
Xとを混合して熱処理する際、リチウム源として、LiOHの代わりにLiFを用いた(SiO
Xに対するLiFの割合は20モル%とした)こと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiO
Xを、XRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLi
4SiO
4とLi
2SiO
3とのピークが確認された。また、熱処理後のSiO
X中のリチウムシリケート相の割合は5モル%であった。このようにして作製した電池を、以下、電池A4と称する。
【0037】
(比較例)
LiOHとSiO
Xとを混合せず、且つ、熱処理を行わなかった(即ち、負極活物質としてのSiO
Xとして、未処理のSiO
Xを用いた)こと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様に電池を作製した。このSiO
XをXRDで解析したところ、
図1に示すように、リチウムシリケート相は確認されなかった。このようにして作製した電池を、以下、電池Zと称する。
【0038】
(実験)
上記電池A1〜A4、Zを、以下の条件で充放電し、下記(3)式で示す初回充放電効率と下記(4)式で示す10サイクル目の容量維持率とを調べたので、その結果を表1に示す。
〔充放電条件〕
0.2It(4mA)の電流で電圧が0Vになるまで定電流充電を行った後、0.05It(1mA)の電流で電圧が0Vになるまで定電流充電を行った。次に、10分間休止した後、0.2It(4mA)の電流で電圧が1.0Vになるまで定電流放電を行った。
【0039】
〔初回充放電効率の算出式〕
初回充放電効率(%)=(1サイクル目の放電容量/1サイクル目の充電容量)×100・・・(3)
〔10サイクル目の容量維持率の算出式〕
10サイクル目の容量維持率(%)=(10サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100・・・(4)
【0040】
【表1】
【0041】
内部にリチウムシリケート相を有するSiO
Xを用いた電池A1〜A4は、内部にリチウムシリケート相を有していないSiO
Xを用いた電池Zに比べて、初回充放電効率及びサイクル特性が向上することがわかる。これは、充放電前のSiO
Xにおいて、予めリチウムシリケート相を有していれば、初回充電時に生成するLi
4SiO
4に奪われるリチウム量が少量で済み、充放電に関与できるリチウム量が増加するからである。また、内部にリチウムシリケート相を有するSiO
Xは、内部にリチウムシリケート相を有していないSiO
Xに比べた場合、充電量は同一であるにも関わらず、充電時の膨張度合いが小さくなる。したがって、充放電時の膨張収縮量の差が小さくなり、負極合剤層での剥離等が抑制されるからと考えられる。
尚、熱処理時に用いるリチウム化合物としては、LiOHに限らず、Li
2CO
3、LiCl、又はLiFでも同様の効果を発現することが確認できた。また、これら以外のリチウム化合物であっても、同様の効果を発現すると推測できる。
【0042】
〈第2実施例〉
(実施例1)
LiOHとSiO
Xとを混合して熱処理する際、SiO
Xに対してLiOHを2モル%添加したこと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiO
XをXRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLi
2SiO
3のピークが確認された。また、熱処理後のSiO
X中のリチウムシリケート相の割合は0.5モル%であった。このようにして作製した電池を、以下、電池B1と称する。
【0043】
(実施例2)
LiOHとSiO
Xとを混合して熱処理する際、SiO
Xに対してLiOHを50モル%添加したこと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiO
XをXRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLi
4SiO
4とLi
2SiO
3とのピークが確認された。また、熱処理後のSiO
X中のリチウムシリケート相の割合は12.5モル%であった。このようにして作製した電池を、以下、電池B2と称する。
【0044】
(実施例3)
LiOHとSiO
Xとを混合して熱処理する際、SiO
Xに対してLiOHを80モル%添加したこと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiO
XをXRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLi
4SiO
4とLi
2SiO
3とのピークが確認された。また、熱処理後のSiO
X中のリチウムシリケート相の割合は20モル%であった。このようにして作製した電池を、以下、電池B3と称する。
【0045】
(実施例4)
LiOHとSiO
Xとを混合して熱処理する際、SiO
Xに対してLiOHを100モル%添加したこと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiO
XをXRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLi
4SiO
4とLi
2SiO
3とのピークが確認された。また、熱処理後のSiO
X中のリチウムシリケート相の割合は25モル%であった。このようにして作製した電池を、以下、電池B4と称する。
【0046】
(実験)
上記電池B1〜B4を、上記第1実施例の実験で示した条件と同様の条件で充放電し、上記(3)式で示した初回充放電効率と、上記(4)式で示した10サイクル目の容量維持率とを調べたので、その結果を表2に示す。尚、表2には電池A1、Zの結果についても記載している。
【0047】
【表2】
【0048】
内部にリチウムシリケート相を有するSiO
Xを用いた電池A1、B1〜B4は、内部にリチウムシリケート相を有していないSiO
Xを用いた電池Zに比べて、初回充放電効率が高く、サイクル特性も良好であることがわかった。また、電池A1、B1〜B4を比較した場合、SiO
X中のリチウムシリケート相の割合が高いほど、初回充放電効率が高く、サイクル特性も良好であることがわかった。更に、SiO
X中のリチウムシリケート相の割合が12.5モル%以上の電池B2〜B4では、負極活物質としてSiO
Xを用いた場合の理論充放電効率(75%)を越える初回充放電効率を示すことが確認できた。
【0049】
以上より、SiO
X中のリチウムシリケート相の割合は0.5モル%以上25モル%以下であることが望ましい。SiO
X中のリチウムシリケート相の割合が0.5モル%未満の場合には、リチウムシリケート相を形成した効果が低くなり、当該割合が25モル%を超えると、充放電容量が低下する。
【0050】
〈第3実施例〉
(実施例1)
原料としてのSiO
X(熱処理前のSiO
X)として、平均一次粒子径が1.0μmであるSiO
X(x=0.93、炭素被覆量10質量%)を用いたこと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiO
XをXRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLi
4SiO
4とLi
2SiO
3とのピークが確認された。また、熱処理後のSiO
X中のリチウムシリケート相の割合は5モル%であった。このようにして作製した電池を、以下、電池C1と称する。
【0051】
(実施例2)
原料としてのSiO
X(熱処理前のSiO
X)として、平均一次粒子径が15.0μmであるSiO
X(x=0.93、炭素被覆量10質量%)を用いたこと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiO
XをXRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLi
4SiO
4とLi
2SiO
3とのピークが確認された。また、熱処理後のSiO
X中のリチウムシリケート相の割合は5モル%であった。このようにして作製した電池を、以下、電池C2と称する。
【0052】
(実験)
上記電池C1、C2を、上記第1実施例の実験で示した条件と同様の条件で充放電し、上記(3)式で示した初回充放電効率と、上記(4)式で示した10サイクル目の容量維持率とを調べたので、その結果を表3に示す。尚、表3には電池A1、Zの結果についても記載している。
【0053】
【表3】
【0054】
内部にリチウムシリケート相を有するSiO
Xを用いた電池A1、C1、C2は、内部にリチウムシリケート相を有していないSiO
Xを用いた電池Zに比べて、初回充放電効率が高く、サイクル特性も良好であることがわかった。したがって、SiO
Xの平均一次粒子径は、1μm以上15μm以下であることが好ましい。尚、SiO
Xの平均一次粒子径が1μm未満の場合には、粒子表面積が大きいため、電解液の副反応が起こり易くなる。一方、SiO
Xの平均一次粒子径が15μmを超える場合は、化成処理時にリチウムがSiO
X内部まで拡散せず、多くのリチウムシリケート相がSiO
X表面に形成されるため、容量低下や負荷特性の低下を招くことがある。
【0055】
〈第4実施例〉
(実施例1)
熱処理後のSiO
Xを、ろ液のpHが8.0になるまで純水で水洗、濾過して、熱処理後のSiO
Xの表面から未反応のリチウム化合物を除去したこと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池D1と称する。
【0056】
(実施例2)
以下のような処理を、熱処理前に施したこと以外は、上記第1実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。
SiO
XとLiOHとを混合する際、LiOHを予め水に溶解させた液に、所定量のSiO
Xと、非イオン性界面活性剤(商品名:SNウエット980、サンノプコ社製ポリエーテル系界面活性剤)とを添加して、分散させた。尚、非イオン性界面活性剤の添加量は、固形分の総量に対して1質量%とした。次いで、上記分散液を温度110℃に設定した恒温槽で乾燥し、溶媒である水を除去した後、熱処理を行った。このようにして作製した電池を、以下、電池D2と称する。
【0057】
(実施例3)
熱処理後のSiO
Xを、ろ液のpHが8.0になるまで純水で水洗、濾過して、熱処理後のSiO
Xの表面から未反応リチウム化合物を除去したこと以外は、上記第4実施例の実施例2と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池D3と称する。
【0058】
(実験)
上記電池D1〜D3を、上記第1実施例の実験で示した条件と同様の条件で充放電し、上記(3)式で示した初回充放電効率と、上記(4)式で示した10サイクル目の容量維持率とを調べたので、その結果を表4に示す。尚、表4には電池A1の結果についても記載している。
【0059】
【表4】
【0060】
熱処理後の水洗を行った電池D1は、水洗を行わなかった電池A1よりも、初回充放電効率及びサイクル特性が向上したことがわかる。電池D1の如く水洗を行えば、熱処理時の未反応物であるリチウム化合物を除去することができるので、負極活物質粒子の表面抵抗が低下する。したがって、放電時に負極活物質粒子間の導電パスが十分に形成されるからと考えられる。
【0061】
また、熱処理前のSiO
Xとリチウム化合物とを混合する際、予め界面活性剤を用いて湿式処理を行った電池D2は、熱処理前のSiO
Xとリチウム化合物とを単に乾式混合した電池A1よりも、初回充放電効率及びサイクル特性が向上したことがわかる。電池D1の如く界面活性剤を添加して湿式で混練すれば、SiO
X表面により微細なLiOHが均一に析出する。このため、熱処理時に、より均一なリチウムシリケート相が形成されたことによると考えられる。
【0062】
更に、界面活性剤を用いた湿式処理と化成処理後の水洗処理とを行った電池D3は、一方の処理しか行っていない電池D1、D2に比べて、初回充放電効率及びサイクル特性が向上していることがわかる。したがって、2つの処理を組み合わせることで、更に特性を改善できる。
尚、上記実験結果より、SiO
X表面にLiOHを均一に配置させるのが好ましいことがわかったが、このような状
態とするには、上記湿式処理に限定するものではなく、乾式処理であっても達成できる。
【0063】
〈第5実施例〉
(実施例1)
[正極の作製]
正極活物質としてのコバルト酸リチウムと、導電剤としてのアセチレンブラック(電気化学工業社製、HS100)と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、質量比が95.0:2.5:2.5の割合になるように秤量、混合し、分散媒としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を添加した。次に、これを混合機(プライミクス社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、正極スラリーを調製した。次に、この正極スラリーを、アルミニウム箔から成る正極集電体の両面に塗布、乾燥した後、圧延ローラにより圧延して、正極集電体の両面に正極合剤層が形成された正極を作製した。尚、正極合剤層における充填密度は3.60g/mlとした。
【0064】
[負極の作製]
上記第1実施例の実施例1で用いた熱処理後のSiO
Xと黒鉛との混合物を、負極活物質として用いた。尚、負極活物質の総量に対する熱処理後のSiO
Xの割合は5質量%とした。上記負極活物質と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC、ダイセルファインケム社製♯1380、エーテル化度:1.0〜1.5)と,結着剤としてのSBR(スチレン−ブタジエンゴム)とを、質量比で97.5:1.0:1.5となるように混合し、希釈溶媒としての水を添加した。これを、混合機(プライミクス社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、負極スラリーを調製した。次に、上記負極スラリーを、銅箔から成る負極集電体の両面に、負極合剤層の1m
2当たりの質量が190gとなるように均一に塗布した。次いで、これを大気中105℃で乾燥させた後、圧延ローラにより圧延して、負極集電体の両面に負極合剤層が形成された負極を作製した。尚、負極合剤層における充填密度は1.60g/mlとした。
【0065】
[電池の作製]
上記正極と負極とを、ポリエチレン微多孔膜からなるセパレータを介して対向させた。次に、正極タブと負極タブとを、各電極における最外周部に位置するように正極及び負極に取り付けた後、正極、負極及びセパレータを渦巻き状に巻回して電極体を作製した。次いで、該電極体をアルミニウムラミネートからなる電池外装体内に配置し、105℃で2時間真空乾燥した。その後、上記第1実施例の実施例1で示した非水電解液と同一の非水電解液を上記電池外装体内に注入し、更に、電池外装体の開口部を封止することにより非水電解質二次電池を作製した。当該非水電解質二次電池の設計容量は800mAhである。このようにして作製した電池を、以下、電池E1と称する。
【0066】
(実施例2)
上記負極の作製において、負極活物質の総量に対する熱処理後のSiO
Xの割合を10質量%としたこと以外は、上記第5実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池E2と称する。
【0067】
(実施例3)
上記負極の作製において、負極活物質の総量に対する熱処理後のSiO
Xの割合を20質量%としたこと以外は、上記第5実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池E3と称する。
【0068】
(比較例1〜3)
SiO
Xとして、未処理のSiO
X(熱処理していないSiO
X)を用いたこと以外は、それぞれ、上記第5実施例の実施例1〜実施例3と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下それぞれ、電池Y1〜Y3と称する。
【0069】
(実験)
上記電池E1〜E3、Y1〜Y3を、以下の条件で充放電し、上記(3)式で示した初回充放電効率とサイクル寿命とを調べたので、それらの結果を表5に示す。尚、1サイクル目の放電容量の80%に達したときのサイクル数をサイクル寿命とした。また、各電池のサイクル寿命は、電池Y1のサイクル寿命を100としたときの指数で表している。
更に、初回充放電効率とサイクル寿命とにおける向上率は、SiO
Xの混合率が同じである電池同士を比較したときのものであり、例えば、電池E1の場合には、電池Y1に対する向上率である。
〔充放電条件〕
1.0It(800mA)電流で電池電圧が4.2Vとなるまで定電流充電を行った後、4.2Vの電圧で電流値が0.05It(40mA)となるまで定電圧充電を行った。10分間休止した後、1.0It(800mA)電流で電池電圧が2.75Vとなるまで定電流放電を行った。〔正極及び負極中のリチウム量xと正極活物質に含まれる金属元素Mの量M
Cとの比x/M〕
これらの電池において正極および負極中に含まれるリチウム量xと、正極材料に含まれる金属元素Mの量M
Cとを、既述のように定量し、x/M
C比を算出した結果を、表5に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
上記表5から明らかなように、電池E1〜E3は電池Y1〜Y3に比べて、初回充放電効率とサイクル特性とが向上していることが認められる。したがって、SiO
Xと黒鉛とを混合した負極活物質を用いた場合であっても、SiO
Xとして、熱処理後のSiO
X(内部にリチウムシリケート相を有するSiO
X)を用いることが好ましいことがわかる。
また、SiO
Xの割合が高いほど、初回充放電効率における向上率とサイクル特性における向上率とが高くなっていることが認められる。但し、SiO
Xの割合が高くなり過ぎると、負極合剤層の剥がれが顕著に生じることがある。したがって、SiO
Xの割合は20質量%以下であることが好ましい。尚、SiO
Xの割合が少な過ぎると、SiO
Xの添加効果が十分に発揮されないので、SiO
Xの割合は1質量%以上であることが望ましい。
【0072】
〈第6実施例〉
(実施例1)
[負極の作製]
上記第1実施例の実施例1で用いた熱処理後のSiO
Xと黒鉛との混合物を、負極活物質として用いた。尚、負極活物質の総量に対する熱処理後のSiO
Xの割合は5質量%とした。上記負極活物質と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC、ダイセルファインケム社製♯1380、エーテル化度:1.0〜1.5)と,結着剤としてのSBR(スチレン−ブタジエンゴム)とを、質量比で97.5:1.0:1.5となるように混合し、希釈溶媒としての水を添加した。これを、混合機(プライミクス社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、負極スラリーを調製した。次に、上記負極スラリーを、銅箔から成る負極集電体の両面に、負極合剤層の1m
2当たりの質量が190gとなるように均一に塗布した。次いで、これを大気中105℃で乾燥させた後、圧延ローラにより圧延して、負極集電体の両面に負極合剤層が形成された負極を作製した。尚、負極合剤層における充填密度は1.60g/mlとした。
【0073】
〔非水電解液の調製〕
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを、体積比が3:7の割合となるように混合した混合溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を、1.0モル/リットル添加して非水電解液を調製した。
【0074】
〔電池の組み立て〕
不活性雰囲気中で、外周にNiタブを取り付けた上記負極と、リチウム金属箔と、負極とリチウム金属箔との間に配置させたポリエチレン製セパレータとを用いて電極体を作製した。この電極体を、アルミニウムラミネートからなる電池外装体内に入れ、更に、非水電解液を電池外装体内に注入し、その後電池外装体を封止して電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池F1と称する。
【0075】
(実施例2)
原料としてのSiO
X(熱処理前のSiO
X)として、平均一次粒子径が1.0μmであるSiO
X(x=0.93、炭素被覆量10質量%)を用いたこと以外は、上記第6実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiO
XをXRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLi
4SiO
4とLi
2SiO
3とのピークが確認された。このようにして作製した電池を、以下、電池F2と称する。
【0076】
(実施例3)
原料としてのSiO
X(熱処理前のSiO
X)として、平均一次粒子径が0.5μmであるSiO
X(x=0.93、炭素被覆量10質量%)を用いたこと以外は、上記第6実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。尚、熱処理後のSiO
XをXRDで解析したところ、リチウムシリケートであるLi
4SiO
4とLi
2SiO
3とのピークが確認された。このようにして作製した電池を、以下、電池F3と称する。
【0077】
(比較例1)
SiO
X(x=0.93、平均一次粒子径15.0μm)とLiOH0.2mol(SiOxに対しLiOHを0.2mol%)を、遊星ボールミルを用いて混合し、平均一次粒子径5.0μmのSiO
Xを作製した。さらに黒鉛を加えて混合した後、ハードカーボンと複合化し、Ar雰囲気中800℃で5時間熱処理し、平均一次粒子径40μmの負極活物質を作製した。
負極活物質と黒鉛とを、質量比で10:90(SiO:黒鉛=5:95)としたこと以外は、上記第6実施例の実施例1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池Z1と称する。
【0078】
(比較例2)
ボールミル処理後の平均一次粒子径を1.0μmとしたSiO
X(x=0.93、炭素被覆量10質量%)を用い、ハードカーボンと複合後の負極活物質の平均一次粒子径を8.0μmとしたこと以外は、上記第6実施例の比較例1と同様にして電池を作製した。このように作製した電池を、以下、電池Z2と称する。
【0079】
(比較例3)
ボールミル処理後の平均一次粒子径を0.5μmとしたSiO
X(x=0.93、炭素被覆量10質量%)を用い、ハードカーボンと複合後の負極活物質の平均一次粒子径を4.0μmとしたこと以外は、上記第6実施例の比較例1と同様にして電池を作製した。このように作製した電池を、以下、電池Z3と称する。
尚、上記第6実施例の比較例1〜比較例3の電池Z1〜Z3に使用された負極活物質は、特許文献2に近い内容である。
【0080】
(実験)
(電池性能評価)
上記電池F1〜F3、Z1〜Z3の初回充電容量及び上記(3)式で示した初回充放電効率を測定したので、それらの結果を表6に示す。尚、充放電条件は、上記第1実施例の実験で示した条件と同様である。
【0081】
【表6】
【0082】
上記表6から明らかなように、電池F1〜F3は電池Z1〜Z3に比べて、初回充電容量と初回充放電効率とが向上していることが認められる。
電池Z1〜Z3に使用されている負極活物質は、炭素質中にSiOを分散させた構造を持つ。一方、電池F1〜F3における負極活物質は、SiO表面に薄く炭素被覆膜を有する構造を持つ。SiOの粒径が1.0μm未満の場合、炭素質中にSiOを分散させた構造とSiO表面に薄く炭素被覆膜を有する構造の違いにおける電池特性の差異は小さいことが認められる。一方、SiOの粒径が1.0μm以上の場合、SiO表面に薄く炭素被覆膜を有する構造の方が、初回充電容量、初回充放電効率共に大きいことが分かる。これは、特許文献2に記載の炭素質中にSiOを分散させた構造の場合、SiOを覆っている炭素質が抵抗となり、充放電時のSiOの利用率を下げていることが考えられるためである。上記表6の結果より、SiO表面に薄く炭素被覆膜を有する構造でかつ、粒径が1.0μm以上の場合に、SiOの利用率を高め、初回効率が上がる効果が認められる。
【0083】
〈第7実施例〉
(実施例1)
SiO
Xに対する炭素の割合を2質量%、SiO
X表面の炭素被覆率を80%としたこと以外は、第1実施例の実施例2と同様にして、電池を作製した。このように作製した電池を、以下、電池G1と称する。
【0084】
(実施例2)
SiO
Xに対する炭素の割合を1.5質量%、SiO
X表面の炭素被覆率を50%としたこと以外は、第1実施例の実施例2と同様にして、電池を作製した。このように作製した電池を、以下、電池G2と称する。
【0085】
(比較例1)
SiO
X表面に炭素被覆を行わなかったこと以外は、第1実施例の実施例2と同様にして、電池を作製した。このように作製した電池を、以下、電池R1と称する。
【0086】
(比較例2)
SiO
X表面に炭素被覆を行わなかったこと以外は、第1実施例の比較例1と同様にして、電池を作製した。このように作製した電池を、以下、電池R2と称する。
【0087】
(実験)
上記電池G1〜G2及びR1〜R2を、上記第1実施例の実験で示した条件と同様の条件で充放電し、上記(3)式で示した初回充放電効率と、上記(4)式で示した10サイクル目の容量維持率とを調べたので、その結果を表7に示す。尚、表7には電池A2、Zの結果についても記載している。
【0088】
【表7】
【0089】
上記表7から明らかなように、表面の50%以上が炭素被覆され、かつ、リチウムシリケート相を有するSiO
Xを用いた電池A2及びG1〜G2は電池R1〜R2及びZに比べて、初回充放電効率とサイクル特性とが向上していることが認められる。