(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6092886
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】コンプレッサ
(51)【国際特許分類】
F04B 39/00 20060101AFI20170227BHJP
F04B 39/12 20060101ALI20170227BHJP
F04B 39/16 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
F04B39/00 101G
F04B39/12 E
F04B39/16 E
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-538608(P2014-538608)
(86)(22)【出願日】2013年9月19日
(86)【国際出願番号】JP2013076169
(87)【国際公開番号】WO2014051016
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2015年2月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-212481(P2012-212481)
(32)【優先日】2012年9月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎一
(72)【発明者】
【氏名】縄田 秀男
【審査官】
松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭59−105979(JP,A)
【文献】
特公平07−087884(JP,B2)
【文献】
特開平06−117375(JP,A)
【文献】
特開2000−320458(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/074192(WO,A1)
【文献】
特開平10−245203(JP,A)
【文献】
特開2000−179458(JP,A)
【文献】
実開昭59−174380(JP,U)
【文献】
特開昭63−176677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00
F04B 39/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン、シリンダ、クランクおよび駆動モータを備え、モータの回転運動をケーシング内部に収容されたクランク部を介してシリンダ内のピストンの往復運動に変換する、往復運動式コンプレッサであり、
ピストンに吸気弁を備え、ケーシング内部からシリンダに空気を導入すると共に、
該ケーシングが、コンプレッサの円筒状ケーシングの一部を構成すると共に、その先端に小室を備え、
該小室が、コンプレッサの吸気口を形成する小孔を備えた第1の蓋部と、円筒状部と、第1の蓋部および円筒状部と共に小室を形成する第2の蓋部とを備え、
第2の蓋部に該小室内に空気を吸入する吸入ノズルを備えると共に、該小室内にフィルタを備え、該小室をコンプレッサ吸気口側と吸入ノズル側に分割することを特徴とするコンプレッサ。
【請求項2】
該吸入ノズルが100mm以上の長さを有することを特徴とする、請求項1記載のコンプレッサ。
【請求項3】
酸素よりも窒素を優先的に吸着する吸着材を充填した吸着筒と、該吸着筒の加圧空気を供給するコンプレッサと、該吸着筒を加圧し圧縮空気中の窒素を吸着し未吸着の酸素を生成する吸着工程と、該吸着筒を減圧排気し吸着材を再生する脱着工程を一定タイミングで繰り返すために該コンプレッサと吸着筒、排気管との間の流路を切り換える流路切換弁を備え、該コンプレッサが前記請求項1記載のコンプレッサである酸素濃縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンプレッサの消音機能および防塵フィルタ機能に関し、特に呼吸器疾患患者等の使用者に酸素濃縮空気を供給する医療用酸素濃縮装置と、それを運転する際に特に問題となるコンプレッサ騒音の低減を実現する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、喘息、肺気腫症、慢性気管支炎等の呼吸器系器官の疾患に苦しむ患者が増加する傾向にあり、その治療法として最も効果的なもののひとつに酸素吸入療法がある。かかる酸素吸入療法とは、酸素ガスあるいは酸素富化空気を患者に吸入させるものである。その供給源として、酸素濃縮装置、液体酸素、酸素ガスボンベ等が知られているが、使用時の便利さや保守管理の容易さから、在宅酸素療法には酸素濃縮装置が主流で用いられている。
酸素濃縮装置は、空気中に存在する約21%の酸素を濃縮して供給する装置である。それには酸素を選択的に透過する膜を用いた膜式酸素濃縮装置と、窒素または酸素を優先的に吸着しうる吸着材を用いた圧力変動吸着型酸素濃縮装置があり、90%以上の高濃度の酸素が得られる利点から、圧力変動吸着型酸素濃縮装置が主に使用されている。
圧力変動吸着型酸素濃縮装置は、酸素よりも窒素を選択的に吸着する吸着材として5A型や13X型、Li−X型などのモレキュラーシーブゼオライトを充填した吸着筒に、コンプレッサで圧縮された空気を供給することにより加圧条件下で窒素を吸着させ、未吸着の酸素濃縮ガスを得る加圧・吸着工程と、前記吸着筒内の圧力を大気圧またはそれ以下に減じて、吸着材に吸着された窒素をパージすることで吸着材の再生を行う減圧・脱着工程とを交互に繰り返し行うことで、高濃度酸素ガスを連続的に生成することができる。
このような酸素濃縮装置は、多くの場合、患者の比較的近くに設置して、患者の飲食時、就寝時を問わず、終日連続的に使用するものである。そのため、酸素濃縮装置から発生する騒音は、直接的に患者又は患者の家族等の耳に入り、不快感を与える恐れがある。特に就寝時などでは、騒音の与える影響が大きく、患者又は患者の家族の睡眠を妨げ、メンタルヘルスにも悪影響を及ぼすことが懸念される。圧力変動吸着タイプの酸素濃縮装置の騒音発生因子としては、圧力変動用のコンプレッサからの固体音、同コンプレッサの吸気音及び排気音、コンプレッサ駆動用モータの作動音、吸着床パージ気流音、機体内冷却用ファンの作動音等がある。中でも、コンプレッサの固体放射音や、コンプレッサの吸気音及び排気音等を含むコンプレッサに起因する騒音は、装置全体に占める割合が大きい。
上述したように、酸素濃縮装置では、コンプレッサの騒音源の静穏化は必須である。従来の酸素濃縮装置では、コンプレッサの吸気音等の気流音を低減させるために、空洞型或いは膨張型と呼ばれている消音器を使用していた。これに加えて酸素濃縮装置の小型軽量化への市場の要求も高く、これを実現するためには、消音器の小型化も必要となる。例えば、特開平10−245203号公報に記載の消音器では、その形状を直方体にしてデッドスペースをなくし、かつ吸気フィルタの取り付け部材と一体化することによって省スペース化を図っている。
ところが、上記のような空洞型消音器では、空洞断面積の比が大きいほど、排出される音の減衰率が大きくなり、空洞の長さは低減させたい音の周波数に関連するという特徴を有する。よって、空洞の物理的なサイズは、低減させたい音の周波数帯及び減衰率によって決定され、それが低騒音の酸素濃縮装置本体の小型軽量化を阻害する要因の一つとなっている。
消音器の消音効果を高めつつ、小型軽量化を行うために、例えば特開2003−235982号公報では、空洞型消音器と共鳴型消音器を組み合わせ、それぞれをデッドスペースに設置することで、小型化を維持すると共に消音化性能も確保する技術を開示している。
また低周波数帯の騒音と高周波数帯の騒音を、それぞれ異なった原理で消音する消音器として、特開2005−6731号公報に記載のような技術が公開されている。かかる技術では、高周波数帯の騒音と、低周波数帯の騒音を消音するための消音器を2つ用意し、前者の消音化には、吸音材を使用した長い流路を構成し、さらにこの消音器を低周波数帯の騒音を低減するための空洞型の消音器に内蔵することで、消音性能と小型軽量化を実現している。しかしながら、低周波数帯の騒音を消音するための空洞型消音器は、従来どおりの大きさが必要になり、根本的な技術的課題は残されたままである。さらに、従来の消音器は、振動体であるコンプレッサの吸気ポートと配管により接続する必要があるが、振動絶縁のための構造やスペース確保などが必要となり、省スペース化に対する課題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特開平10−245203号公報
特開2003−235982号公報
特開2005−6731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近の酸素濃縮装置に対しては、さらなる静音化性能が求められると共に、携帯用として小型・軽量化の要求も強い。これを実現するためには消音器自体の性能向上と小型化も必須である。最大の騒音源であるコンプレッサの吸気音の騒音を下げる為には吸気消音器の搭載が必須である現状の下、各種の消音器開発が進んでいるが、コンプレッサの騒音低減の為に、別途消音器を搭載することは、酸素濃縮装置を小型化する上で、相反する技術課題となっている。
本発明は、酸素濃縮装置に搭載するコンプレッサが発生する吸気騒音を抑えるために消音器を搭載するのではなく、コンプレッサそのものの静穏化を図る技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、かかる問題の解決する方法として、以下のコンプレッサに関する発明を見出した。
1.コンプレッサのケーシングの一部を構成すると共に、コンプレッサの原料空位の吸気口を形成する小孔を備えた第1の蓋部、筒状部、第1の蓋部および筒状部と共に小室を形成する第2の蓋部を備えた小室をケーシング端部に備え、該小室内に空気を導入する吸気ノズルを備えることを特徴とするコンプレッサ。
2.該小室内にフィルタを備え、該小室をコンプレッサ吸気口側と吸入ノズル側に分割することを特徴とする、上記1記載のコンプレッサ。
3.該吸入ノズルが100mm以上の長さを有することを特徴とする、上記1記載のコンプレッサ。
4.該コンプレッサが往復運動式コンプレサであり、該ケーシングが円筒状のクランクケースである上記1記載のコンプレサ。
5.窒素よりも酸素を優先的に吸着する吸着材を充填した吸着筒と、該吸着筒の加圧空気を供給するコンプレッサと、該吸着筒を加圧し圧縮空気中の窒素を吸着し未吸着の酸素を生成する吸着工程と、該吸着筒を減圧排気し吸着材を再生する脱着工程を一定タイミングで繰り返すために該コンプレッサと吸着筒、排気管との間の流路を切り換える流路切換弁を備え、該コンプレッサとして前記1記載のコンプレッサを搭載した酸素濃縮装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、消音性能を維持し、かつ小型軽量化が可能なコンプレッサを提供する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1は、往復運動式コンプレッサの外観模式図、
図2は、従来のコンプレッサの構成模式図を示す。
図3は、本発明の実施態様例であるコンプレッサの構成模式図、
図4はコンプレッサの外観模式図、
図5はコンプレッサの吸気消音機能部の構成模式図を示す。
図6は本発明の別の実施態様例のコンプレッサの構成模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のコンプレッサについて、図面を用いて以下に説明する。なお、本発明は、かかる実施態様例に限定されるものではない。
図1に示す1つのピストン・シリンダを備えた往復運動式(レシプロ式)コンプレッサは、モータ11の回転運動をケーシング12内に収容されたクランク部を介してシリンダ13内のピストンの往復運動に変換し、外気をシリンダ内に導入し、圧縮空気として供給する装置である。
図2の断面模式図で示すように、クランクケース22に設けられた吸気口26から取り込まれた外気は、ピストン25に設けられた吸気弁27を介してシリンダ23内に原料空気として送られ、ピストン25の上下運動で圧縮され、シリンダ上部の排気弁28から加圧空気として供給される。モータ21の回転運動をピストンの往復運動に変換するクランク部分24およびピストン25のシリンダ内の往復運動、さらには吸/排気弁の動作により発生する騒音の大半は、ケース内に閉じ込められてはいるものの、原料空気を導入する吸気口から一部が外部に漏れ出るため、コンプレッサ騒音が問題となる。
本発明のコンプレッサには、
図3に示すようにケーシングの吸気口側に小室を備えている。具体的には円筒状のクランクケース32aの先端に、従来の第1吸気口36aを備えた第1の蓋部39aと外気を取り込む第2吸気口36bを備えた第2の蓋部39bと、延長された筒状のケーシング32bにより小室を形成し、小室内にフィルタ30を設置する。
かかるフィルタ30は防塵フィルタの役割を果し、例えば不織布フィルタを、かかる小室内に設置することでコンプレッサ内への異物混入を防止することが出来る。さらに、従来のように吸気配管中に、別途吸気フィルタを設置することが不要となるなど、装置全体の小型化に有意に働く。かかる防塵フィルタに消音効果を期待することは出来ず、消音効果を有するような目の細かな吸音材を設置した場合には、吸気圧が上昇するなどのデメリットが生じる。
消音効果を高めるためには、第1吸気口36aと第2吸気口36bの開口部の配置を、直線状の位置に設けるのではなく、空気の流れが90度の角度をもつように配置し、第1吸気口36aを第1の蓋部39aの中央に設けた場合、第2吸気口36bは筒状部32bの側面に設ける。また小室の口径は、各吸気口の口径の5倍以上、好ましくは10倍以上とすることで膨張型消音機能を発揮する。
第2吸気口36bから直接、外気を取り込んだ場合にはコンプレッサ騒音を十分に抑えることは出来ない。
図4に示すように、少なくとも100mm長さの吸気ノズル57を設けることが重要である。吸気ノズルが長いほど騒音低減効果を示すが、長すぎると吸気圧力が高くなり吸気量が減る原因になる。必要吸気量の確保と騒音低減効果とのバランスの観点から、100mm−150mmのノズル長をとることが好ましい。
コンプレッサのケーシングそのものを、
図3に示す第1蓋部、第2蓋部を備えた小室を設けるように加工するには、大幅なコストがかかる。本発明では、
図5に示すようなケーシング末端に内部にフィルタを備えたキャップ構造体を嵌め込む構造とするのが好ましい。構造体の素材は、アルミニウム等の金属製の他、ABSなどの耐熱性樹脂製であっても良い。
具体的には、
図5に構成部材を示すとおり、中央に第1吸気口53を備えた第1キャップ51、不織布フィルタ55、側面に吸気ノズル57に接続する第2吸気口54を備えた第2キャップ52から構成される。第1キャップ51にはフィルタ55を中央で保持するリップを備えると共にリング状のシール材56を備える。吸気ノズル57から取り込まれた原料空気は、第2キャップ52から導入され、フィルタ55による防塵フィルタ機能を維持しつつ、第1キャップ51の第1吸気口53からコンプレッサケース内に供給することができる。
第1キャップの外面にはOリングを備え、第1キャップを円筒状のコンプレサーケースの末端に嵌合させることで、ケーシング末端にキャップを密閉することが出来、簡易、安価に本発明の消音機能、防塵機能を備えた小室を有するコンプレッサを作ることができる。
なお、1つのピストン・シリンダを備えた往復運動式(レシプロ式)コンプレッサを例としたが、
図6のように2つのピストン・シリンダを備えた往復運動式コンプレッサでも、同様の考え方でクランクケース部に本発明を適用することができる。
本発明のコンプレッサの騒音低減効果を比較した場合、
図2に示す1つのピストン・シリンダを備えた従来型の往復運動式コンプレッサでは55dBAの騒音レベルを示すのに対して、
図3に示す本願発明のコンプレッサでは50dBAと、10%の騒音低減効果を示し、更に
図4に示す100mmの吸気ノズルを更に装着したコンプレッサでは47dBAと、更なる騒音低減効果を示す。
本発明のコンプレッサは、圧力変動吸着型酸素濃縮装置に適用することが出来る。酸素濃縮装置は、加圧空気を供給するコンプレッサ、酸素よりも窒素を選択的に吸着する吸着剤を充填した吸着筒、吸着工程、脱着工程や均圧工程等のシーケンスを切り換える流路切替手段を備える。吸着筒で加圧空気から分離生成された酸素濃縮ガスは、製品タンクに一時貯留された後、調圧弁、流量調整弁で所定圧力、所定流量に調整後、酸素取出口よりカニューラを用いて使用者に供給される。
外部から装置内に取り込まれた原料空気中には、約21%の酸素ガス、約77%の窒素ガス、0.8%のアルゴンガス、二酸化炭素ほかのガスが1.2%含まれている。かかる装置では、呼吸用ガスとして必要な酸素ガスのみを濃縮して取り出す。
酸素濃縮ガスの取り出しは、酸素分子よりも窒素分子を選択的に吸着するゼオライトなどからなる吸着剤が充填された吸着筒に対して、供給弁、排気弁によって対象とする吸着筒を順次切り換えながら、原料空気をコンプレッサにより加圧して供給し、吸着筒内で原料空気中に含まれる約77%の窒素ガスを選択的に吸着除去することにより行われる。かかる吸着剤としては、5A型、13X型、Li−X型等のモレキュラーシーブゼオライト等が用いることができる。
かかるコンプレッサには、
図4に示す1つのピストン・シリンダを備えたシングルヘッドのタイプ、
図6に示すような2つのピストン・シリンダを備えたダブルヘッドの往復運動式コンプレッサを用いる。これにより吸気サイレンサを別途も受けることなく、小型で低騒音の酸素濃縮装置を構成することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0009】
本発明のコンプレッサは、コンプレッサ自体に吸気消音機能、吸気フィルタ機能を備え、静音化を維持したまま軽量小型化したコンプレッサとして、携帯型酸素濃縮装置などの医療機器に利用が可能である。