特許第6092892号(P6092892)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6092892
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】抗体の精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/18 20060101AFI20170227BHJP
   C07K 1/20 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   C07K1/18
   C07K1/20
【請求項の数】18
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-547103(P2014-547103)
(86)(22)【出願日】2012年12月14日
(65)【公表番号】特表2015-501836(P2015-501836A)
(43)【公表日】2015年1月19日
(86)【国際出願番号】KR2012010899
(87)【国際公開番号】WO2013089477
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2014年8月1日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0135652
(32)【優先日】2011年12月15日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516027775
【氏名又は名称】プレステージ バイオファーマ プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【弁理士】
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【弁理士】
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【弁理士】
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】ユン ジ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】リー ドン ユン
(72)【発明者】
【氏名】キム ウォン キョン
(72)【発明者】
【氏名】ヨン ジョン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ぺク チョン ウン
【審査官】 千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−516651(JP,A)
【文献】 特表2009−532474(JP,A)
【文献】 Andreas STEIN,Journal of Chromatography B,2007年,Vol.848,Pages 151-158
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/18
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)抗体の混合物を含む試料を、予め平衡化された陽イオン交換カラムに注入し、選択的に前記カラムを洗浄緩衝液で洗浄した後、前記カラムに結合した抗体を溶出緩衝液で溶出させ、前記試料から宿主細胞タンパク質(HCP)及び抗体アイソフォームを除去する工程、ここで、工程(a)の試料は、5〜7mS/cmの伝導度を有し、前記陽イオン交換カラムはCOO-の官能基を有する、
(b)前記工程(a)の溶出液に塩を混合して製造した試料を疎水性相互作用カラムに注入し、前記カラムに結合した抗体を溶出緩衝液で溶出させ、前記工程(a)の溶出液から宿主細胞タンパク質を除去する工程、及び
(c)前記工程(b)の溶出液を陰イオン交換カラムに注入し、素通り画分(flow-through)を回収する工程とを含む、
抗体集団の65%以上が活性抗体であり、前記抗体は8〜10の等電点を有する、
抗体集団の製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)の試料が、沈殿物を除去するために培養上澄液のpHをpH 4〜6の範囲になるように調節することにより製造された、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗体がトラスツズマブ(Trastuzumab)であり、前記工程(a)の陽イオン交換カラムがカルボキシメチル(CM)セファロースカラムまたはフラクトゲル(fractogel)COO-カラムである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体が、トラスツズマブ(Trastuzumab)である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(a)の溶出液が、65%〜80%の活性抗体、15%〜30%の酸性抗体アイソフォーム、及び5%〜20%の塩基性抗体アイソフォームを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(a)の抗体アイソフォームが、酸性抗体アイソフォームである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(a)の陽イオン交換カラムが、カルボキシメチルセファロース(CM Sepharose)カラムである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(a)が、
(i)20mM〜30mMの酢酸ナトリウム(pH 4.5〜5.5)及び35mM〜45mMの塩化ナトリウム(NaCl)を含む、平衡緩衝液で予め平衡化されたカルボキシメチル(CM)セファロースカラムに前記試料を注入する工程と、
(ii)20mM〜30mMの酢酸ナトリウム(pH 4.5〜5.5)及び35mM〜45mMの塩化ナトリウムを含む緩衝液で前記カラムを洗浄する工程と、
(iii)20mM〜30mMのトリス塩化水素(pH 7.0〜7.5)を含む緩衝液で前記カラムを洗浄する工程と、
(iv)20〜30 mMのトリス塩化水素(pH 7.0〜7.5)及び20mM〜30mMの塩化ナトリウムを含む緩衝液で前記カラムを洗浄する工程と、
(v)20mM〜30mMのトリス塩化水素(pH 7.0〜7.5)を含む緩衝液で前記カラムを洗浄する工程、及び
(vi)20mM〜30mMのトリス塩化水素(pH 7.0〜7.5)及び80mM〜100mMの塩化ナトリウムを含む溶出緩衝液で前記カラムから抗体を溶出させる工程とを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(a)の抗体アイソフォームが、酸性抗体アイソフォーム及び塩基性抗体アイソフォームである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(a)の陽イオン交換カラムが、フラクトゲル(fractogel)COO-カラムである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(a)が、
(i)20mM〜30mMの酢酸ナトリウム(pH 4.5〜5.5)及び35mM〜45mMの塩化ナトリウムを含む平衡緩衝液で予め平衡化されたフラクトゲルCOO-カラムに前記試料を注入する工程と、
(ii)20mM〜30mMの酢酸ナトリウム(pH 4.5〜5.5)及び35mM〜45mMの塩化ナトリウムを含む緩衝液で前記カラムを洗浄する工程と、
(iii)25mM〜35mMの酢酸ナトリウム(pH 5.5〜6.5)を含む緩衝液で前記カラムを洗浄する工程と、
(iv)25mM〜35mMの酢酸ナトリウム(pH 5.5〜6.5)及び45mM〜55mMの塩化ナトリウムを含む緩衝液で前記カラムを洗浄する工程と、
(v)25mM〜35mMの酢酸ナトリウム(pH 5.5〜6.5)を含む緩衝液で前記カラムを洗浄する工程、及び
(vi)25mM〜35mMの酢酸ナトリウム及び70mM〜90mMの塩化ナトリウムを含む溶出緩衝液で前記カラムから抗体を溶出させる工程とを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記工程(b)のカラムに結合した抗体が、溶出緩衝液の塩成分に対する濃度勾配(linear gradient)で溶出される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記工程(b)が、
(i)25mM〜35mMの酢酸塩(pH 5.5〜6.5)及び0.3M〜1.0Mのクエン酸ナトリウムを含む平衡緩衝液で平衡化された疎水性相互作用カラムに、工程(a)の溶出液を前記平衡緩衝液と同様のクエン酸塩濃度で合せた試料を注入する工程、及び
(ii)25mM〜35mMの酢酸塩(pH 5.5〜6.5)を含む溶出緩衝液を濃度勾配方式で適用し、抗体を溶出する工程とを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記工程(b)の疎水性相互作用カラムが、フェニルセファロース(Phenyl sepharose)カラムである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記陰イオン交換カラムが、試料の注入前にpH 7.0〜8.0の平衡緩衝液で平衡化された、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記平衡緩衝液が、Tris-HCl(pH 7.0〜8.0)を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記(c)工程の陰イオン交換カラムが、Qファーストフロー(Q Fast Flow)カラムである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記工程(c)で得られた陰イオン交換カラムの素通り画分が、0.001ppm〜5ppmの宿主細胞タンパク質(HCP)濃度を有する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテインA(protein A)カラムの使用せずに、陽イオン交換カラム、疎水性相互作用カラム及び陰イオン交換カラムを順次用いて抗体アイソフォーム及び不純物を除去することによって、高純度かつ高品質の抗体集団(population of antibodies)を製造する方法及び前記方法で製造された抗体集団に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテインAカラムは、抗体医薬品の生産に用いられる多くの精製工程において一般に用いられる。プロテインAカラムの使用は、精製過程の初期工程において高純度で生産できるという利点がある。しかし、プロテインAの価格は一般のイオン交換樹脂に比べて30倍以上高価であるため、抗体医薬品の生産におけるコスト高をもたらす。
【0003】
これまでの報告によると、プロテインA樹脂は抗体医薬品の生産に関連する原料コストの約35%を占めており(非特許文献1)、抗体試料に残っている微量のプロテインAがヒトに投与されると、免疫原性または他の生理的反応を引き起こすことがある(非特許文献2)。従って、プロテインAカラムを用いた精製工程の場合、各精製工程で残量のプロテインAをモニタリングして除去する必要がある 。また、プロテインAは、標的に対するその生物親和性に基づいて機能するので、化学的安定性が低いという欠点がある。従って、プロテインAの生理活性を維持させるために、1M NaOH の使用がカラム洗浄後の次の工程に必須であるにも関わらず、用いることができない。1M NaOHを使用せずに、カラムから不純物を完全に除去することは困難であり、カラムを再使用できる回数はが化学的樹脂の使用に許容される回数に比べてはるかに少ない。
【0004】
世界的な大手製薬会社は、プロテインAが高価であるにもかかわらず、初期工程で高純度の抗体精製が可能であるため、プロテインAを用いた抗体の精製をより好む。例えば、ジェネンテック(Genentech)はプロテインA、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂及び疎水性相互作用樹脂(HIC)を用いる精製工程でハーセプチン(Herceptin)と呼ばれる抗体を生産している(非特許文献3)。しかし、前記のようなプロテインAの欠点により、精製効率及び経済性に優れた抗体精製法の開発に対する必要性が依然として求められている。
【0005】
プロテインAカラムを使用せずに抗体を精製する方法を開発するにあたり、如何なる代替方法においても、まず第一に必要とされるのは、プロテインAカラムの使用と同等またはそれ以上のレベルで不純物が除去されることである。特に、CHO細胞株を抗体生産に対する宿主細胞として用いる場合、細胞培養液には目的の抗体だけでなく、宿主細胞タンパク質(HCP)、宿主細胞由来DNA(HCD)などの不純物も多量含まれており、細胞の成長のための因子も含まれている。従って、プロテインAを使用せずに抗体を精製する如何なる場合でも、多量の不純物により初期工程における不純物の効果的な除去が重要な要素となる。
【0006】
前記問題を解決するために、Warren Schwarza et alはHCIC(Hydrophobic charge Interaction chromatography)系列であるMEP HyperCelを用いて抗体を精製する方法を開発した(非特許文献4)。この方法では、塩が含まれている細胞培養液の状態で限外濾過を経ずに高純度で抗体を分離した。しかし、HCICはイオン交換樹脂の使用に比べ2倍〜5倍高価である。また、HCICによる不純物の除去が、イオン交換樹脂の使用に比べより効果的であるか否かは明らかになっていない。一方、プロテインAクロマトグラフィーは、それ自体の生物親和度に基づくものであるのに対し、Egisto Boschettiは、高純度を有する抗体を生産するためにレジンの化学的親和性に基づいた thiophillic クロマトグラフィー(T-gel)を用いることを提案した(非特許文献5)。しかし、T-gelも抗体を高純度で製造する際にプロテインAに比べ効果的ではなく、コストの面でもイオン交換樹脂を用いる方法に比べて5倍以上高い。従って、これまで、産業界では用いられてこなかった。
【0007】
一方、他の精製方法として、陽イオン交換樹脂のようなイオン交換カラムを吸着樹脂として用いることができる。最近、産業界で用いられている陽イオン交換樹脂の例としては、GE-healthcare社製造のCM Fast Flow及びSP Fast flow、Merck社製造のFractogel SO3及びFractogel COO-が挙げられる(特許文献1)。しかし、陽イオン交換樹脂も初期工程で不純物を十分に除去できないという限界が依然としてある。このように、精製工程の多くの条件を最適化することは、新規な精製工程を成功的に開発するための重要な要素である。
【0008】
抗体精製工程において、品質の一貫性を維持することは、不純物の除去と同様に重要である。抗体は、ジスルフィド結合により連結された2つの重鎖と2つの軽鎖からなっており、前記重鎖のFc部分がグリコシル化されている。しかし、宿主細胞として用いられるCHO細胞で生産される抗体には様々なアイソフォームが存在する(非特許文献6)。アイソフォームの大部分は、脱アミド(deamidation)、酸化などのような数個のアミノの酸修飾を有する(非特許文献7)。特に、抗原結合位置である相補性決定領域(CDR)が脱アミドにより修飾され、それにより抗体アイソフォームを形成する場合、抗体に対する結合力を低下させ抗体の生理活性に影響を与えることがある(非特許文献8)。
【0009】
多様な抗体アイソフォームは、例えば、アスパラギンが脱アミドされてアスパルテートになることにより形成することができ(非特許文献9)、メチオニンが酸化してメチオニンサルフェート(Methionine sulfate)になることにより形成することができる(非特許文献10)。また、重鎖のN末端にグルタメートは五員環構造を形成し、ピログルタメート(Pyroglutamate)に変換することができる(非特許文献11)。このような抗体アイソフォームは抗体の生理活性に影響を及ぼすため、抗体の生産工程中には抗体内に存在するアイソフォームの割合を調節する必要がある。
【0010】
抗体アイソフォームの量を調節するにおいて、陽イオンクロマトグラフィーはカラムに吸着した目的抗体を実効電荷の差に基づいてカラムから着脱させることができるため、陽イオン交換カラムクロマトグラフィーを用いることができるが、適切な精製条件を明示する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】US2007029244
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Journal of Chromatography A, 1024(2004)79-85
【非特許文献2】Purification Tools for Monoclonal Antibodies, Validated Biosystems, Tucson, AZ, 1996
【非特許文献3】Sven Sommerfeld a, Jochen Strube b, Chemical Engineering and Processing 44(2005)1123-1137
【非特許文献4】Journal of Chromatography A, 908(2001)251-263
【非特許文献5】J. Biochem. Biophys. Methods 49(2001)361-389
【非特許文献6】Hongcheng Liu, Georgeen Gaza-Bulseco, Journal of Chromtgraphy B, 837(2006)35-43
【非特許文献7】Isamu Terashima, Akiko Koga, Analytical Biochemistry368(2 007)49-60
【非特許文献8】Reed J. Harrisa, Bruce Kabakoffb Journal of Chromatography B, 752(2001)233-245
【非特許文献9】Boxu Yan, Sean Steen, Journal of Pharmaceutical Sciences, Vol. 98, No. 10, October 2009
【非特許文献10】Chris Chumsae, Georgeen Gaza-Bulseco,Journal of Chromatography B, 850(2007)285-294
【非特許文献11】William E. Werner, Sylvia Wu, Analytical Biochemistry 342 (2005)120-125
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
高価なプロテインAカラムを使用せずに高純度及び高品質の抗体集団を製造する方法を開発するために本発明者らは鋭意努力し、細胞を除去した培養上澄液のpHを下げて沈殿物を除去する前処理工程を用いることにより本発明の開発に至った。前処理された試料は陽イオン交換カラム、疎水性相互作用カラム及び陰イオン交換カラムを順次用いて、宿主細胞タンパク質(HCP)のような不純物を効率よく除去し、 最終的に活性抗体及び抗体アイソフォームを所望の比率で有する高品質の抗体集団を製造する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の1つの目的は、(a) 抗体の混合物を含む試料を、予め平衡化された陽イオン交換カラムに注入し、選択的に前記カラムを洗浄緩衝液で洗浄した後、前記カラムに結合した抗体を溶出緩衝液で溶出させ、前記試料から宿主細胞タンパク質(HCP)及び抗体アイソフォームを除去する工程、(b) 前記工程(a)の溶出液に塩を混合して製造した試料を疎水性相互作用カラム(HIC)に注入し、前記カラムに結合した抗体を溶出緩衝液で溶出させ、前記工程(a)の溶出液から宿主細胞タンパク質を除去する工程、及び(c) 前記工程(b)の溶出液を陰イオン交換カラムに注入して素通り画分(flow-through)を回収する工程を含む、抗体集団の65%以上が活性抗体である抗体集団の製造方法を提供することである。
【0015】
本発明の他の目的は、前記方法で製造された抗体集団の65%以上が活性抗体である抗体集団を提供することである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法を用いることにより、高価なプロテインAカラムを使用せずに、抗体生産細胞の培養液から不純物を効果的に除去し、高純度且つ高品質の目的とする抗体集団を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】pH 5の細胞培養液から不純物を除去した後のSDS-PAGE結果を示す。ここで、M:タンパク質サイズマーカー、1:細胞培養液、2:デプスフィルター(細胞除去後)(方法1)、3:pH 5に降下及び1時間低速攪拌後(方法1)、4:デプス及び除菌フィルター後(方法1)、5:pH 5に降下及び1時間低速攪拌後に上澄液(方法2)、6:デプスフィルター後(方法2)、7:除菌フィルター後(方法2)。
図2】細胞培養上澄液、プロテインAカラム、SPカラム、またはカルボキシルメチル(CM)カラムから回収した素通り画分及び溶出液を比較したSDS-PAGEの結果を示したものである。M:タンパク質サイズマーカー、S:細胞培養上澄液、1:プロテインAカラム素通り画分、2:SPカラム素通り画分、3:CMカラム素通り画分、4:プロテインAカラム溶出液、5:SPカラム溶出液、6:CMカラム溶出液、7:対照薬であるハーセプチン(登録商標)。
図3】CMカラムを用いて精製を行ったAKTA工程のグラフを示したものである。
図4】CMカラムを用いて精製を行ったCEX HPLCグラフを示したものである。
図5】フラクトゲル(Fractogel)COO-(M)カラムを用いて精製を行ったAKTA工程のグラフを示したものである。
図6】フラクトゲルCOO-(M)カラムを用いて精製を行ったCEX HPLCグラフを示したものである。
図7】細胞培養上澄液、CMカラムの溶出液及びフラクトゲルCOO-(M)カラムの溶出液のCEX HPLCグラフを示したものである。
図8】細胞培養上澄液、CMカラムの溶出液、フラクトゲルCOO-(M)カラムの溶出液、及び対照薬であるハーセプチン(登録商標)のCEX HPLCグラフを示したものである。
図9】フラクトゲルCOO-(M)カラムを用いた精製方法において、洗浄4工程中のカラム体積による塩基性抗体アイソフォームに対するピークの変化を示すAKTA工程のグラフを示したものである。
図10】疎水性相互作用クロマトグラフィーカラムで緩衝液の相互に異なる条件による効果を奏するAKTA工程グラフを示したものである((A)緩衝液pH 7.2、段階溶出、(B)緩衝液pH 6.0、段階溶出、(C)緩衝液pH 6.0、濃度勾配溶出)。
図11】本発明の抗体精製方法の全工程を示す流れ図である。
図12】本発明の抗体精製方法の各工程で除去された宿主細胞タンパク質(HCP)の量を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
1つの様態として、本発明は、(a) 抗体の混合物を含む試料を、予め平衡化された陽イオン交換カラムに注入し、選択的に前記カラムを洗浄緩衝液で洗浄した後、前記カラムに結合した抗体を溶出緩衝液で溶出させ、前記試料から宿主細胞タンパク質(HCP)及び抗体アイソフォームを除去する工程、(b) 前記工程(a)の溶出液に塩を混合して製造した試料を疎水性相互作用カラム(HIC)に注入し、前記カラムに結合した抗体を溶出緩衝液で溶出させ、前記工程(a)の溶出液から宿主細胞タンパク質(HCP)を除去する工程、及び(c) 前記工程(b)の溶出液を陰イオン交換カラムに注入して素通り画分を回収する工程とを含む、抗体集団の65%以上が活性抗体である抗体集団の製造方法を提供する。
【0019】
宿主細胞で生産される抗体生成物には、活性抗体以外にも種々の抗体アイソフォーム、宿主細胞タンパク質(HCP)、宿主細胞に由来したDNA及び細胞成長のための因子が含まれる。前記抗体アイソフォームは、抗体の特定アミノ酸が脱アミドまたは酸化により修飾された形態の抗体であり、このようなアイソフォームは互いに異なる生物学的活性を示す。宿主細胞を通じて発現された抗体生成物はアイソフォーム抗体を高い比重で含む。特に、抗体バイオ後続品の製造時には、対照薬として高品質を有する抗体を生産することが重要である。従って、宿主細胞から抗体を生産した後、抗体生成物で抗体アイソフォームの含量を調節する工程が必須となる。
【0020】
このような点において、本発明では宿主細胞タンパク質を除去して抗体の純度を高め、最初の細胞上澄液に比べて活性抗体の割合を増加させることにより、目的とする割合の酸性抗体アイソフォーム、活性抗体及び塩基性抗体アイソフォームを含む、抗体集団を製造する方法を提供する。
【0021】
本発明において、用語「抗体集団(population of antibodies)」とは、活性抗体及び抗体アイソフォームを含む抗体群をいう。本発明の目的上、前記抗体集団は活性抗体及び抗体アイソフォームを所望の割合で含む抗体群を意味する。前記抗体集団は一種類の抗体を含んでもよく、活性抗体及び抗体アイソフォームをいずれも含んでもよい。本発明の目的上、前記抗体集団は、好ましくは培養上澄液から宿主細胞タンパク質のような不純物及び抗体アイソフォームを除去して活性抗体の割合を高めた抗体群であってもよい。
【0022】
特に、抗体後続品の製造に本発明の方法を用いる場合、対照薬と同様または対応する組成で活性抗体及び抗体アイソフォームを含む抗体集団を製造することができる。
【0023】
前記目的とする抗体集団は、陽イオン交換樹脂カラムを用いた精製工程により所望の範囲の抗体アイソフォーム及び活性抗体を含むように製造することができ、活性抗体の割合は65%以上であることが好ましく、より好ましくは塩基性抗体アイソフォームが20%以下で含まれるものであってもよい。具体的には、前記抗体集団は65〜80%の活性抗体、15〜30%の酸性抗体アイソフォーム及び5〜20%の塩基性抗体アイソフォームを含むことができるが、これに制限されない。本発明の一実施例では、フラクトゲルCOO-陽イオン交換カラムを用いてハーセプチン(登録商標)対照薬の品質と類似した割合である、23.8%の酸性抗体アイソフォーム、68.7%の活性抗体及び7.5%の塩基性抗体アイソフォームを含む抗体集団を製造した(実施例2及び表7)。
【0024】
本発明において、用語「抗体」とは、免疫系内で抗原の刺激により作られる物質であり、特定の抗原と特異的に結合してリンパと血液を循環しながら抗原抗体反応を引き起こす。本発明の目的上、前記抗体は高品質で精製されるための標的タンパク質であり、本発明の方法により効率よく精製することができる。
【0025】
前記抗体は、他のタンパク質に比べて等電点が高いため、陽イオン交換樹脂カラムに培養上澄液を注入することにより比較的高純度で一次精製することができる。
【0026】
前記等電点(isoelectric point, pI)は、タンパク質分子の実効電荷(net charge)が0であるpH値、即ち、タンパク質分子の電気二重層の電荷が0であることを意味する。タンパク質がこの結合した複合体から解離される時、陽イオンの数が陰イオンの数と同数となり、実効電荷が0になる。本発明で精製される抗体は、これに制限されないが、等電点が、好ましくは7〜11であってもよく、より好ましくは8〜10の抗体を含むことができる。また、本発明の抗体はこれに制限されないが、好ましくは当該分野において通常に用いられる治療的可能性を有する全ての抗体を含むことができ、より好ましくはHER-2(Human Epidermal Growth Factor Receptor 2)を標的とする抗体であるトラスツズマブ(trastuzumab)またはペルツズマブ(pertuzumab)を含んでもよく、最も好ましくはトラスツズマブ(trastuzumab)を含んでもよい。前記トラスツズマブは、ジェネンテック(米国)により開発され、ハーセプチン(Herceptin)と呼ばれる。これはHER2に対する人間化抗体であり、乳癌細胞で主に発見されるHER2/neuに対する治療抗体として知られている。
【0027】
本発明において、用語「活性抗体」とは本発明の方法により製造された抗体集団に含まれる主要構成要素である。抗体の中で一部アミノ酸が脱アミドまたは酸化のような修飾(modification)により引き起こされる、減少した生物学的活性を有さない抗体をいう。即ち、活性抗体は酸性または塩基性抗体アイソフォームではない抗体を意味する。前記活性抗体は抗体集団の品質に対する最も重要な構成要素であり、抗体の他の構成要素のうち、最も高い生物学的活性を有する。
【0028】
本発明において、用語「抗体アイソフォーム」とは、活性抗体の一部アミノ酸が脱アミドや酸化により修飾された抗体を意味し、酸性抗体アイソフォーム及び塩基性抗体アイソフォームを含む。アイソフォームの例として、アスパラギンが脱アミドされてアスパルテートになった抗体アイソフォームまたはメチオニンが酸化してメチオニンスルフェートになった抗体アイソフォームを含む。また、重鎖のN末端にグルタメートは五員環構造を形成してもよく、ピログルタメート(Pyroglutamate)に変換されて抗体アイソフォームを形成してもよい。前記抗体アイソフォームがCHO細胞株のような宿主細胞から生産される場合、抗体生成物は宿主細胞培養液に高い割合でアイソフォームを含むことができる。
【0029】
従って、クロマトグラフィーのような精製過程を通じてこのような抗体アイソフォームを除去し、抗体集団が所望の割合で活性抗体及び抗体アイソフォームを含むようにする必要がある。同様に、培養上澄液から高品質の抗体集団を得るために、抗体アイソフォームは許容可能な範囲で除去され、前記集団が活性抗体を所望の割合で含むようにする必要がある。また、高純度の抗体を製造するためには、宿主細胞タンパク質(HCP)、宿主細胞由来DNA(HCD)及び細胞生長のための因子のような不純物が前記抗体集団から除去されなければならない。これに対し、本発明では、前記抗体アイソフォームの含量を調節し、宿主細胞タンパク質のような他の不純物を効果的に除去することにより、抗体集団を製造する方法を提供する。
【0030】
本発明において、前記工程(a)は、宿主細胞タンパク質(HCP)及びその抗体アイソフォームの量が減少するように抗体の混合物を含む試料を精製した形態の溶出液を回収するためのものである。より具体的には、前記工程(a)は(i)抗体の混合物を含む試料を、予め平衡化された陽イオン交換カラムに注入し、(ii)選択的に前記カラムを洗浄緩衝液で洗浄した後、(iii)前記カラムに結合した抗体を溶出緩衝液で溶出させる工程により、前記試料から宿主細胞タンパク質(HCP)及び抗体アイソフォームを除去するためのものである。
【0031】
本発明において、用語「抗体の混合物を含む試料」とは、抗体を生産する細胞の培養上澄液または抽出物が部分精製されたものであり、活性抗体及び抗体アイソフォームをいずれも含む。抗体が宿主細胞で生産される場合、活性抗体と抗体アイソフォームの混合物は培養上澄液または細胞抽出物に存在する。前記部分精製は濾過のような分別過程を1回または反復的に行ったにもかかわらず、目的とする抗体以外のタンパク質も存在することを意味する。
【0032】
前記抗体の混合物を含む試料は、(a)宿主細胞を培養して目的抗体を生産させ、前記宿主細胞を除去して培養上澄液を準備する工程、及び(b)前記培養上澄液のpHを標的抗体の等電点より低いpH、好ましくはpH 4〜6に調節して沈殿させた、沈殿物を形成して除去する工程を含む方法で製造されたものであってもよい。
【0033】
前記細胞培養液の細胞を除去する前にpHを調節する場合、減少したpHが細胞死滅を促進させ、前記培養物の宿主細胞タンパク質の量を増加させる。従って、宿主細胞タンパク質の量を減少させるために前記細胞培養液のpHは細胞除去後に調節される必要がある。このような方法により製造された試料は抗体集団をより効率よく精製するために用いることができる。
【0034】
前記細胞の除去方法は、当業界において通常に用いられる方法であってもよく、好ましくはフィルターを用いて行うことができ、より好ましくはデプスフィルターを用いることができるが、これに制限されない。本発明の一実施態様では、細胞の1次フィルターで回収された細胞培養上澄液のpH値を5に下げた後、細胞培養上澄液を再濾過した場合、細胞を含む培養液のpH値を5に下げた後にフィルターを経て製造した陽イオン交換カラム注入のための試料よりも、宿主細胞タンパク質の含量が顕著に少ないことが分かった(表2及び図1)。
【0035】
高い等電点を有する抗体はpHを下げた酸性条件では凝集体を形成しないが、抗体より低い等電点を有する宿主細胞タンパク質(HCP)は、pH値を下げた酸性条件では実効電荷を持たないので、ファンデルワールス(van der waals)力により凝集体を形成して多量の沈殿物が生産される。従って、前記培養上澄液のpHの範囲を目的とする抗体の等電点より下げながら宿主細胞タンパク質の等電点と近い値に設定することによって、宿主細胞タンパク質の沈殿を増加させることができる。即ち、前記pHは、目的とする抗体の等電点より好ましくは1〜6、より好ましくは2〜5のスケールで小さい値であってもよい。従って、前記上澄液のpHは、好ましくは3〜7であってもよく、より好ましくは4〜6であってもよく、最も好ましくは4.5〜5.5の範囲であってもよい。上澄液のpHを調節することにより生成された沈殿物は、当業界において通常に用いられるフィルター(例、除菌フィルター)で除去されてもよい。本発明の一実施態様ではpHを5に下げて沈殿物を形成し、これを上澄液から除去した場合、以後の精製工程がより効果的に行われ、より精製された生産物をも生産することができる。
【0036】
また、前記試料は、注入前に5〜7mS/cmの伝導度を有するように調節されたものであってもよいが、これに制限されない。
【0037】
本発明の製造方法において、前記工程(a)は、前記方法で製造された試料を予め平衡化された陽イオン交換カラムに注入し、選択的に洗浄緩衝液で前記カラムを洗浄し、溶出緩衝液で前記カラムに結合した抗体を溶出する工程を含む。
【0038】
本発明において、用語「陽イオン交換カラム」とは、陽イオン交換樹脂を充填したカラムを意味する。前記工程において、陽イオン交換クロマトグラフィーを行って活性抗体の抗体アイソフォーム及び不純物、好ましくは宿主細胞タンパク質(HCP)を除去することができる。前記陽イオン交換樹脂は、水溶液中の他の陽イオンと自分自身の陽イオンを交換する合成樹脂を意味する。抗体は等電点が高いため、等電点値以下のpHを有する緩衝液では陽イオンを帯びる。従って、前記陽イオンを帯びる抗体を吸着できる陽イオン交換樹脂を用いて抗体集団の品質を高めることができる。前記陽イオン交換樹脂は、当業界において通常に用いられるものから選択することができ、これに制限されないが、好ましくはCOO-またはSO3の官能基を有しているカラムであってもよく、より好ましくは、カルボキシメチル(CM)、フラクトゲル、スルホエチル(SE)、スルホプロピル(SP)、ホスフェート(P)またはスルホネート(S)であってもよく、最も好ましくはカルボキシメチルセファロース(CM sepharose)またはフラクトゲルCOO-であってもよい。
【0039】
前記工程(a)は、宿主細胞タンパク質及び活性抗体の抗体アイソフォームをいずれも除去できることを特徴とする。
【0040】
この時、前記宿主細胞タンパク質は、目的とする抗体以外のあらゆる異なる形態の不純物も含むことができる。具体的には、宿主細胞に由来したDNA、細胞生長のための因子、宿主細胞タンパク質自体などをいずれも含むことができる。従って、前記宿主細胞タンパク質を効果的に除去すれば、目的とする残余抗体をはるかに容易に精製して高純度の抗体生成物を生産することができる。
【0041】
前記工程に加えて、抗体アイソフォームは、高品質の抗体集団を製造するために除去される必要がある。前記抗体アイソフォームは、酸性抗体アイソフォーム及び/又は塩基性抗体アイソフォームであっていもよい。一般に、宿主細胞で発現される抗体生成物には、種々の抗体アイソフォームが存在する。抗体後続品を製造する場合、対照薬と最も類似した品質を有する生成物を作ることが重要である。抗体アイソフォームは、種々のアミノ酸の修飾により活性抗体と異なる電荷を示すため、このような電荷の差に基づいて目的とする抗体を分離することができる。ただし、前記電荷の差は、単に数個のアミノ酸によるものであるため、非常に小さい。従って、精製のためには、正確な条件を設定する必要がある。このような理由により、本発明では、陽イオン交換カラムを用いて酸性抗体アイソフォーム及び/又は塩基性抗体アイソフォームを除去する。
【0042】
前記抗体アイソフォームは、抗体内の一部アミノ酸が脱アミドや酸化により修飾された抗体をいう。前記抗体アイソフォームは、相互に異なる生物学的活性を示すため、品質管理において一定の水準に抗体アイソフォームの量を維持させることは重要である。一般に、培養上澄液は、活性抗体と比較した時、酸性及び塩基性抗体アイソフォームの含量が相対的に高い。従って、抗体アイソフォームの量を減少させることにより、異なる3種類の抗体の含量を調節しなければならない。前記抗体集団において活性抗体の好ましい割合は65%以上であるが、塩基性抗体アイソフォームの好ましい割合は20%以下である。前記工程(a)において、活性抗体、酸性抗体アイソフォーム、及び塩基性抗体アイソフォームの割合は、好ましくはそれぞれ65〜80%、15〜30%、及び5〜20%の範囲になるように調節されてもよい。
【0043】
前記工程(a)において、洗浄工程は好ましくは下記工程を含むことができる。
【0044】
前記カラムに残余抗体を付着させる第1洗浄工程、前記カラムの2次平衡化のための第2洗浄工程、酸性抗体アイソフォームを除去する第3洗浄工程、及び第3洗浄工程で除去されない酸性抗体アイソフォームを再付着させる第4洗浄工程。前記第1〜第4洗浄工程のための緩衝液のpH及び組成は除去しようとする抗体アイソフォームの種類または精製工程で用いられるカラムの種類に応じて異なってもよい。
【0045】
抗体の混合物を含む試料から酸性抗体アイソフォームを除去するためには、好ましくはカルボキシメチルセファロース(CM sepharose)を用いることができる。本発明の好ましい実施態様では、COO-基を有するCMセファロースを用いて抗体の精製を行った。その結果、プロテインAを用いた場合とCMセファロースを用いた場合の間に収率及び純度の面で差がないことが立証された。また、CMセファロースの使用はSPの使用に比べて高い収率及び純度を有する抗体の生産を可能にした(表4)。
【0046】
前記カルボキシメチルセファロースを用た製造方法は、好ましくは、(i)20mM〜30mMの酢酸ナトリウム(pH 4.5〜5.5)及び35mM〜45mMの塩化ナトリウム(NaCl)を含む平衡緩衝液で予め平衡化されたカルボキシメチル(CM)セファロースカラムに前記試料を注入する工程、(ii)20mM〜30mMの酢酸ナトリウム(pH 4.5〜5.5)及び35mM〜45mMの塩化ナトリウムを含む緩衝液で前記カラムを洗浄する工程、(iii)20mM〜30mMのトリス塩化水素(Tris HCl)(pH 7.0〜7.5)を含む緩衝液で前記カラムを洗浄する工程、(iv)20〜30 mMのトリス塩化水素(pH 7.0〜7.5)及び20mM〜30mMの塩化ナトリウムを含む緩衝液で前記カラムを洗浄する工程、(v)20mM〜30mMのトリス塩化水素(pH 7.0〜7.5)を含む緩衝液で前記カラムを洗浄する工程、及び(vi)20mM〜30mMのトリス塩化水素(pH 7.0〜7.5)及び80mM〜100mMの塩化ナトリウムを含む溶出緩衝液で前記カラムから抗体を溶出させる工程とを含むことができる。本発明の一実施態様では、平衡化、注入、洗浄1、洗浄2、洗浄3、洗浄4、着脱、ストリッピング、カラム再生の工程を順次経て抗体を精製することにより(表5)、活性抗体の含量を10%以上増加させることが明らかになった(図4及び表7)。
【0047】
また、前記酸性抗体アイソフォーム及び塩基性抗体アイソフォームの両方を除去するために、好ましくは、フラクトゲルCOO-を用いることができる。
【0048】
多量の塩基性抗体アイソフォームを酸性抗体アイソフォームと共に混合した場合、目的とする抗体集団を製造するためには、酸性抗体及び塩基性抗体をいずれも除去できる陽イオン交換カラムの使用が必須である。この場合、COO-官能基を有しているが、セファロース系支持体からなるCMとは異なり、合成メタクリレート重合体樹脂を支持体として構成しているフラクトゲルCOO-を用いて酸性抗体アイソフォーム及び塩基性抗体アイソフォームを同時に除去することができる。本発明の一実施態様では、フラクトゲルCOO-を用いて抗体精製を行う場合、酸性抗体アイソフォームだけでなく塩基性抗体アイソフォームも効率よく除去されることを確認した(表7及び図8)。
【0049】
前記フラクトゲルCOO-を用いる製造方法は、好ましくは、(i)20mM〜30mMの酢酸ナトリウム(pH 4.5〜5.5)及び35mM〜45mMの塩化ナトリウム(NaCl)を含む、平衡緩衝液で予め平衡化されたフラクトゲルCOO-カラムに、前記試料を注入する工程、(ii)20mM〜30mMの酢酸ナトリウム(pH 4.5〜5.5)及び35mM〜45mMの塩化ナトリウムを含む緩衝液で前記カラムを洗浄する工程、(iii)25mM〜35mMの酢酸ナトリウム(pH 5.5〜6.5)を含む緩衝液で前記カラムを洗浄する工程、(iv)25mM〜35mMの酢酸ナトリウム(pH 5.5〜6.5)及び45mM〜55mMの塩化ナトリウムを含む緩衝液で前記カラムを洗浄する工程、(v)25mM〜35mMの酢酸ナトリウム(pH 5.5〜6.5)を含む緩衝液で前記カラムを洗浄する工程、及び(vi)25mM〜35mMの酢酸ナトリウム及び70mM〜90mMの塩化ナトリウムを含む、溶出緩衝液で前記カラムから抗体を溶出させる工程とを含むことができる。本発明の一実施態様では、平衡化、注入、洗浄1、洗浄2、洗浄3、洗浄4、着脱、ストリッピング、カラム再生の工程を順次経て抗体を精製することにより(表6)、活性抗体の含量を約14%以上増加させ、塩基性抗体アイソフォームの含量は約4%以上減少させた(図6、表7)。
【0050】
本発明において、前記工程(b)は、工程(a)の溶出液に比べて宿主細胞タンパク質(HCP)の含量が減少した疎水性相互作用カラム(HIC)の溶出液を回収するためのものである。より具体的には、前記工程(b)は(i)前記工程(a)の溶出液に塩を混合して製造した試料を平衡緩衝液で予め平衡化された疎水性相互作用カラム(HIC)に注入し、(ii)前記カラムに結合した抗体を溶出緩衝液で溶出させる工程を含む。
【0051】
前記工程(a)で回収された抗体溶出液は、最初に回収された溶出液またはこれを追加の緩衝液で希釈したものであってもよい。前記疎水性相互作用クロマトグラフィーのための試料は工程(a)の溶出液に塩を追加することにより製造してもよい。前記試料に添加される塩の種類は制限されないが、本発明の一実施態様ではクエン酸ナトリウムを工程(a)の溶出液に添加した。また、前記試料の塩濃度は工程(b)の疎水性相互作用カラムに用いられる平衡緩衝液の塩濃度に対して0.8倍〜1.2倍となるように調節してもよく、より好ましくは前記試料は平衡緩衝液と同様の塩濃度を有するように工程(a)の抗体溶出液に塩を添加して製造したものであってもよいが、これに制限されない。
【0052】
また、前記工程(b)は、好ましくは、線形濃度勾配方式で抗体を溶出することができる。本発明の一実施態様では、段階溶出方式に比べて濃度勾配溶出方式が収率及び溶出体積の面でより効果的である(実施例3)。
【0053】
前記工程(b)は、工程(a)で除去されない宿主細胞タンパク質のような不純物を除去することにより抗体生成物の純度を高めるため工程である。前記工程(b)は疎水性相互作用カラムを用い、工程(a)の陽イオン交換カラムと分離機作が異なる、疎水性の差に基づいて宿主細胞タンパク質を除去することができる。
【0054】
本発明において、用語「疎水性相互作用カラム(HIC)」とは、疎水性相互作用樹脂を充填したカラムをいう。前記工程において、疎水性相互作用クロマトグラフィーは、不純物、好ましくは宿主細胞タンパク質を除去するために行うことができる。タンパク質の三次構造は一般に親水性であるが、その全体構造においては疎水性の部分も有している。この部分の疎水性はタンパク質間の静電気的相互作用が強い条件下では発現されない。しかし、溶媒のイオン強度あるいは誘電率を高めて静電的相互作用を弱くすれば、前記タンパク質の疎水性は相対的に強くなるはずである。このような点において、疎水性リガンド(長い炭化水素鎖または芳香環)を クロマトグラフィー支持体(アガロースゲルビーズ、有機系高分子支持体等)に導入し、濃い塩濃度に平衡化させる場合、多様なタンパク質がこのようなリガンドに吸着できる。その後、塩濃度を下げれば、タンパク質の性質に応じて溶出するので容易にタンパク質を分離することができる。即ち、塩濃度を調節することにより疎水性環境を作る場合、タンパク質はこの水素性に基づいた特定カラムに対して互いに異なる吸収強度を有するようになるはずである。このような原理を用いて、疎水性相互作用カラムを用いたHCPを除去する前記工程(b)を行うことができる。
【0055】
前記疎水性相互作用樹脂は、当業界において通常用いられるものから選択できるが、これに制限されない。好ましくは、前記疎水性相互作用樹脂は、フェニルカラム、ブチルカラム、フェニルセファロース(phenyl sepharose)またはフラクトゲルEMAフェニルカラム等を含むことができ、より好ましくはフェニルセファロースを用いることができる。
【0056】
疎水性相互作用カラムを用いる前記工程(b)は、好ましくは、下記工程、(i)25mM〜35mMの酢酸ナトリウム(pH 5.5〜6.5)及び0.3M〜1.0Mのクエン酸ナトリウムを含む平衡緩衝液で平衡化された疎水性相互作用カラムに、工程(a)の溶出液を前記平衡緩衝液と同様のクエン酸ナトリウム濃度に調節して製造した試料を注入し、(ii)25mM〜35mMの酢酸ナトリウム(pH 5.5〜6.5)を含む溶出緩衝液を線形濃度勾配方式で抗体を溶出する工程を含むことができる。
【0057】
本発明の一実施態様では、pH 6.0の酢酸ナトリウム緩衝液を用いた場合、トリス塩化水素を用いる場合より収率が高かった。また、濃度勾配溶出が段階溶出に比べて高い収率を示した(表9)。このような結果は、濃度勾配を含む前記方法が高純度の抗体集団の製造に効果的な方法であることを示す。
【0058】
本発明の方法において、前記(c)工程は、工程(b)で得た溶出液から不純物を除去することにより目的とする抗体集団を回収するための工程である。具体的には、前記(c)工程は、前記工程(b)の溶出液を陰イオン交換カラムに注入し、素通り画分を回収する工程である。また、前記工程(b)で回収した溶出液は回収された溶出液自体または追加の緩衝液で希釈されたものであってもよいが、これに制限されない。
【0059】
本発明において、用語「陰イオン交換カラム」とは、陰イオン交換樹脂を充填したカラムをいう。前記工程において、陰イオン交換クロマトグラフィーを行って不純物、好ましくは、宿主細胞タンパク質を除去することができる。前記陰イオン交換樹脂は、水溶液中の特定陰イオンと自分自身の陰イオンを交換する役割を果たす合成樹脂をいう。前記陰イオン交換カラムは、等電点以上のpHで陰イオンを帯びるタンパク質を吸着させることができる。抗体は高い等電点を有するので、中性pHの緩衝液を用いる場合、これらの抗体が樹脂に結合せず抜け出るようになる。一方、宿主細胞タンパク質を含む不純物は等電点が低いため、陰イオン交換樹脂に吸着して容易に除去される。前記工程(c)は、このような原理に基づいて行うことができる。
【0060】
前記陰イオン交換樹脂は、当業界において通常に用いられるものから選択できるが、これに制限されない。このような樹脂の例としては、好ましくはQセファロース(Q sepharose)、4級アミノエチルまたは4級アミン(Q)などが含まれ、より好ましくはQ Fast Flowが含まれる。
【0061】
また、前記方法は、標的抗体の等電点(pI)より低いpHを有する平衡緩衝液、好ましくはpH 7.0〜8.0の平衡緩衝液、より好ましくはpH 7.0〜8.0であるトリス塩化水素を含む平衡緩衝液を用いることができる。本発明の一実施例では、陰イオン交換樹脂としてQ Fast Flowを用い、平衡緩衝液としてトリス塩化水素を用いた場合、MES緩衝液を用いる場合に比べて抗体の純度及び生産収率が高かった。また、pH 7.0〜8.0の範囲で抗体分離に最も適することを確認した(表11)。
【0062】
上述したように、除去される宿主細胞タンパク質は、目的とする抗体を除いた不純物をいずれも含み、宿主細胞に由来したDNA、細胞生長のための因子など、及び宿主細胞タンパク質自体をいずれも含むことができる。従って、宿主細胞タンパク質をまず除去すれば、目的とする抗体を高純度及び高品質で、より容易に精製することができる。また、工程(c)において陰イオン交換カラムは宿主細胞タンパク質だけでなく、エンドトキシンを効果的に除去できるため、高純度で目的とする抗体集団を精製することができる。
【0063】
総合すると、前記(a)〜(c)工程を含む本発明の抗体精製方法を経ると、不純物、特に、宿主細胞タンパク質を効果的に除去することにより、高純度及び高収率の抗体を製造することができる。最終に精製された試料の宿主細胞タンパク質の濃度は0.0001〜10 ppmの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.001〜5 ppmの範囲であってもよい。本発明の一実施例では宿主細胞タンパク質の濃度が第1精製工程後には550 ppm未満、第2精製工程後には100 ppm未満、第3精製工程の後には5 ppm未満に減少することを確認した(図12)。また、本発明の他の実施例では、本発明の抗体精製方法は99.9%の純度の抗体集団を製造することができることが確認された(表13)。
【0064】
もう1つの態様として、本発明は、前記方法で製造された抗体集団の65%以上が活性抗体である抗体集団を提供する。
【0065】
前記方法、抗体集団及び抗体集団の65%以上が活性抗体である抗体集団に対しては先に説明した通りである。
【発明を実施するための形態】
【0066】
以下、本発明を各実施例により詳しく説明する。しかし、これら実施例は単に例示的に説明する目的のために示すものであり、本発明をこれら実施例に限定しようとするものではない。
【実施例】
【0067】
実施例1:抗体精製のための培養液の前処理の方法
トラスツズマブ(trastuzumab)抗体を発現させる組換えCHO細胞(ATCC No. CCL61)を培養してトラスツズマブ抗体を発現させた後、陽イオン交換カラムに抗体を吸着させるためにpHを6以下に下げた。
【0068】
本実施例では、比較のために2つの方法を用いた。方法1は、培養液でデプスフィルター(Depth Filter)を用いる1次フィルター過程を通じて細胞を除去して培養上澄液を回収し、前記培養上澄液のpH値をpH 5に下げた後、前記培養上澄液の再濾過を行った。方法2は、細胞を含む培養液のpHを5下げた後、デプスフィルターを用いるフィルター過程に適用して陽イオン交換カラムに注入するための試料を製造した。本実験は、前記2つの方法の比較のために行った(表1)。
【0069】
【表1】
【0070】
前記両方法の比較のために、各方法による収率及び陽イオン交換カラムの後に宿主細胞タンパク質(HCP)の含量を比較した。
【0071】
その結果、細胞を一次的に除去する方法1の場合、収率が84%、陽イオン交換カラム後に宿主細胞タンパク質の最終含量は47.3ppmであった。一方、pHを培養液で直接下げる方法2は、前処理後の最終収率が82%、陽イオン交換カラム後の宿主細胞の含量は110.6ppmを示した(表2)。
【0072】
【表2】
【0073】
細胞生存度の比較においては、方法2の場合、pH 5に下げて1時間経過した後の細胞生存度が92.3%から73.9%へと顕著に減少し、且つ陽イオン交換カラム後に最終の宿主細胞タンパク質の最終含量が2倍増加した。
【0074】
このような結果は、工程を行う前にデプスフィルターで細胞を1次除去する前処理方法を本発明の精製方法に適用することが好適であることを示す。
【0075】
また、pH 6以下(好ましくは、pH 5)に下降して沈殿物を除去する、2つの方法を行って初期培養液より遥かに高い純度を有する上澄液を得た(図1)。
【0076】
実施例2:陽イオン交換クロマトグラフィー
実施例2-1:陽イオン交換樹脂の選定
プロテインAカラムの対案として、表3に示した陽イオン交換カラム候補を選択し、陽イオン交換カラムで純度及び収率面で有利な官能基を有するカラムを選択するための実験を行った。
【0077】
精製工程で一般に用いられる陽イオン交換樹脂である、SO3官能基を有するSP(sulfuric prophyl, strong, GE)とCOO-官能基を有するCM(carboxymethyl, weekly, GE)のカラム2つと対照群としてプロテインA FF(GE)を用い、陽イオン交換樹脂の選定のためにこれらの収率及び純度を相互に比較した。
【0078】
上澄液は、実施例1におけるの方法1による培養液(Titer 0.5mg/mL)の前処理過程で製造し、精製水を添加して伝導度を6.4mS/cmに下げ、これにより陽イオン交換樹脂カラムに注入する試料を製造した。
【0079】
【表3】
【0080】
前記3つの条件でSDS-PAGEの結果は、図2で示されるように、プロテインAとCMカラムの素通り画分では抗体が検出されていない一方、SPカラムの素通り画分では抗体が検出され、抗体の損失を示した。濃度を定量して収率を分析した時、SPカラムの場合、2.5%の低い収率を示した(表4)。また、SPは96.4%の最も低い純度を示し、rPA及びCMの場合、それぞれ99.2%及び97.5%の純度を示した(表4)。
【0081】
【表4】
【0082】
このような結果は、トラスツズマブ抗体の精製に対するプロテインAカラムの陽イオン交換樹脂の代案として、COO-官能基を有するCMセファロース(sepharose)が収率及び純度の面でSPより有利であることを立証する。
【0083】
実施例2-2:陽イオン交換樹脂CMを用いた抗体アイソフォームの調節
前記実施例2-1の結果に基づいて、陽イオン交換樹脂CMを用いて抗体アイソフォームを調節する実験を行った。陽イオン交換樹脂CMを用いて抗体アイソフォームを調節する実験の過程は下記の通りである。
【0084】
平衡化のために、20mMの酢酸ナトリウム(pH 5.0)及び40mMの塩化ナトリウムを含む緩衝液を6カラム体積でカラムに適用した。前-処理された上澄液をCMの吸着容量(25mg/mLカラム)以下に注入した。注入の後、洗浄1を行ってカラムに結合していない抗体を吸着させ、残りの上澄液を洗浄した。25mMのTris HCl(pH 7.2)を10カラム体積で適用して2次平衡化のための洗浄2工程を行った。25mMのTris HCl(pH 7.2)及び25mMの塩化ナトリウムを用いて酸性抗体アイソフォームの一部を除去する洗浄3工程を行った。その後、25mMのTris HCl緩衝液(pH 7.2)で、一部除去後に残った酸性抗体アイソフォームを再度カラムに吸着させる洗浄4の工程を行った。
【0085】
溶出は、25mMのTris HCl(pH 7.2)及び90mMの塩化ナトリウムを用いて行い、目的とする抗体集団を回収した。詳しい過程を下記表5に示した。
【0086】
【表5】
【0087】
図3は前記過程の確認のためのAKTA工程を示すグラフである。また、図4は抗体アイソフォームの含量分析のためのCEX HPLCグラフであり、洗浄3過程で酸性抗体アイソフォームを一部除去し、活性抗体を溶出させた時、酸性抗体アイソフォームのピークが減少した。
【0088】
従って、前記洗浄過程を通じて酸性抗体アイソフォームを除去することにより活性抗体の含量を10%以上増加させた。
【0089】
前記のような結果は、陽イオン交換樹脂を用いた精製方法に用いられるCMカラムは、集団で酸性抗体の部分を効果的に除去できることを示す。
【0090】
実施例2-3:陽イオン交換樹脂Fractogel COO-(M)を用いた抗体アイソフォームの調節
トラスツズマブのような抗体を動物細胞(例、CHO細胞)で発現させる場合、細胞培養上澄液は、酸性抗体アイソフォーム及び塩基性抗体アイソフォームをいずれも含む。従って、前記上澄液から酸性抗体アイソフォーム及び塩基性抗体アイソフォームをいずれも除去するのに適した陽イオン交換カラムにつて調べる必要がある。
【0091】
具体的には、COO-官能基を有しているが、セファロース系支持体で構成されたCMとは異なり、合成メタクリルレート重合体樹脂を支持体で構成しているフラクトゲルCOO-(M)を用いて酸性抗体アイソフォームと塩基性抗体アイソフォームの除去効果を確認した。
【0092】
前記注入試料は、実施例1の方法1を用いて培養上澄液を前処理することによって製造し、これをフラクトゲルCOO-(M)樹脂1mL当り25mg吸着容量以下に注入した。前記実験は15cm高のカラムを用いて150cm/hrの線速度で行った。陽イオン交換樹脂であるフラクトゲルCOO-(M)を用いた抗体アイソフォームを調節する過程は次の通りである。
【0093】
酢酸塩()をフラクトゲルCOO-(M)の緩衝液として用いた。注入後の洗浄1工程は細胞培養上澄液で抗体を付けて上澄液を除去する。洗浄2工程はpH値を5からpH 6に上げ、抗体アイソフォーム分離度を高めるための再平衡工程である。洗浄3工程は酸性抗体アイソフォームを除去する工程である。洗浄4工程は酸性抗体アイソフォームの一部を除去した後、再度再吸着させる工程であり、着脱は目的抗体を回収する工程である。
【0094】
ストリッピングは、カラムに強く付着している不純物を除去する工程である。その後、1MのNaOHを用いてカラムを再生する。詳しい過程を下記表6に示した。
【0095】
【表6】
【0096】
図5は、フラクトゲルCOO-(M)を用いて精製を行ったAKTA工程を示すグラフである。前記グラフのUVピークで見られるように、注入後に第3洗浄工程で多量の酸性抗体アイソフォームに対するピークが観察され、着脱工程で溶出した目的とする抗体に関するピークが観察され、次いで、多量の塩基性抗体アイソフォームに対するピークが観察された。また、図6のCEX-HPLC分析グラフで見られるように、酸性抗体アイソフォーム及び塩基性抗体アイソフォームを一部除去した後、抗体を溶出した時、活性抗体の含量が初期注入試料の活性抗体の含量に比べて14%高い結果を示した。
【0097】
図7及び8;及び表7で見られるように、塩基性抗体アイソフォームの除去効率がCMカラム値に比べて約8%高かった。ハーセプチン(登録商標)対照薬の塩基性抗体アイソフォームの含量は10%以下である。多量の塩基性抗体アイソフォームを含む細胞培養液をフラクトゲルCOO-(M)カラムを用いて精製する時、酸性抗体アイソフォームだけでなく塩基性抗体アイソフォームも効率よく除去した(表7、図7及び図8)。
【0098】
【表7】
【0099】
実施例2-4:陽イオン交換樹脂フラクトゲルCOO-(M)を用いた塩基性抗体アイソフォームの調節条件
本実施例では、精製過程で洗浄体積を調節することにより塩基性抗体アイソフォームの分離含量を調節できる方法を開発した。
【0100】
塩基性抗体アイソフォームの分離含量を調節するために、活性抗体溶出の直前である洗浄4工程で洗浄体積を調節した。塩基性抗体アイソフォームの含量は調節されることが確認された。洗浄4工程は、酸性抗体アイソフォームをカラムから除去した後、再吸着させる工程である。本実験は、再吸着程度に応じて異なる溶出ピークが示されるという仮定の下に行った。
【0101】
洗浄4工程において、カラム体積1.5、カラム体積3及びカラム体積5を用いて溶出を行った。その結果、カラム体積が増えるほど塩基性抗体アイソフォームの溶出ピークも増加した(図9)。主要溶出試料はCEX-HPLCを用いて分析した。その結果、洗浄4工程でカラム体積を増やす場合、主要溶出試料の塩基性抗体アイソフォームの含量が減少した(表8)。もし、培養液で酸性抗体アイソフォーム及び塩基性抗体アイソフォームの含量が対照薬の値に比べて高い場合、本発明の方法を用いて酸性抗体アイソフォーム、活性抗体及び塩基性抗体アイソフォームを対照薬と類似した含量分布で生産することができる(表8)。
【0102】
【表8】
【0103】
実施例3:疎水性相互作用クロマトグラフィーカラムの条件
疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)であるフェニルセファロース(phenyl sepharose)fast flowを用いて高純度抗体精製実験を行った。
【0104】
HICカラムのために、前記実施例2-4の方法で陽イオン交換樹脂フラクトゲルCOO-(M)を行い、溶出液を表9にある3つの条件下での実験に用いた。
【0105】
第1に、(A)実験群において、基本緩衝液Tris HCl(pH 7.2)及び0.6Mのクエン酸ナトリウムを用いて吸着を行い、100%の溶出緩衝液(塩がない緩衝液)を用いて段階溶出方式で溶出を行った。(B)実験群では、基本緩衝液として酢酸ナトリウム(pH 6.0)及び0.6Mのクエン酸ナトリウムを用いて吸着を行い、(A)実験群のような段階溶出方式で溶出を行った。(C)実験群では、基本緩衝液として酢酸ナトリウム(pH 6.0)及び0.6Mのクエン酸ナトリウムを用いて吸着を行い、前記溶出緩衝液の5カラム体積で濃度勾配(gradient)方式で溶出を行った。
【0106】
前記3つの方式を比較し、緩衝液、pH及び溶出方法を選択した。
【0107】
2種類の緩衝液、Tris-HCl(pH 7.2)及び酢酸ナトリウム(pH 6.0)を比較のために用い、酢酸ナトリウム(pH 6.0)を陽イオン交換樹脂において基本緩衝液として用い、Tris HClは3番目のカラムであるQFFにおいて基本緩衝液として用いるために緩衝液製造の面で生産工程を単純化できるからである。
【0108】
図10のAKTA工程グラフで示されているように、(A)と(B)の条件下では主要溶出ピークが分かれ、溶出体積も(C)条件に比べて2倍高かった。しかし、(C)条件下では、溶出時にピークが分かれずに安定しているだけでなく、溶出体積も3つの条件のうち、最も小さい結果を示した。小さい溶出体積は、次の工程の作業時間を減少させる利点がある。3つの条件を比較した結果は、収率の側面で工程方式よりは5カラム体積濃度勾配方法が最も優れていることを示し、酢酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)がTris-HCl(pH 7.2)緩衝液より5%さらに高い収率を示し、従って、pHに対する抗体安定性の面でも低いpH条件が安定するため、酢酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)が最も適したHIC緩衝液であることを示した(表9)。
【0109】
【表9】
【0110】
実施例4:陰イオン交換樹脂クロマトグラフィーの条件
本発明では、陽イオン交換樹脂及び疎水性相互作用樹脂を順次用いた後、陰イオン交換樹脂クロマトグラフィーを用いて高純度の抗体集団を製造する工程を開発した。
【0111】
具体的には、等電点以上のpHで陰イオンを帯びるタンパク質は陰イオン交換カラムに吸着することができる。従って、等電点が7以上である抗体の場合(例えば、等電点が8.4であるトラスツズマブ)、中性pHの緩衝液を用いる場合、このような抗体は陰イオン交換樹脂には吸着せず、素通り画分として抜け出るようになる。これについて、本発明者らは下記のような実験を行って本発明の精製工程に適した陰イオン交換樹脂及び緩衝液条件を明示した。
【0112】
本実施例では、生産規模で陰イオン交換樹脂として多く用いている4級アミン系列のQ Fast flow(QFF, GEト)を用いて精製を行った。陰イオン交換樹脂に注入するための試料の製造のために、細胞培養上澄液を陽イオン交換カラム、疎水性相互作用カラム(HIC)及び限外濾過1次に適用して静電伝導度及びpHを有するようにした。25mmのMES(pH 6.0)、25mMのTris HCl(pH 7.0)、及び25mMのTris HCl(pH 8.0)の3つの緩衝液条件下に純度、HCP含量及び収率を互いに比較した(表10)。
【0113】
【表10】
【0114】
前記3つの条件の実験結果を表11に示した。純度や収率、HCP含量を比較したところ、pH 6よりはpH 7以上の緩衝液でより優れることが確認できた。従って、pH 7〜8のTris-HCl緩衝液を使用するほうがより有利であることを示した(表11)。
【0115】
【表11】
【0116】
実施例5:トラスツズマブ工程別のHCP除去率、精製収率及び純度の確認
本発明で開発された抗体精製工程の精製段階、好ましくはトラスツズマブ精製工程を図11に示した。
【0117】
前記工程において、HCPの含量を分析するために、ELISA定量法を行った。CHO細胞タンパク質に対する抗CHO HCP抗体がコーティングされたCHO宿主細胞タンパク質ELISAキット(Pangen, Cat. PKD1001, Lot. 17011002)を用いてトラスツズマブ精製工程の段階で、試料に対してHCPを定量した。工程の各段階別のHCP除去量を3つのバッチ(batch)で分析し、図12に示した。
【0118】
培養液回収工程の後、初期HCP含量は14,000 ppm以上であり、陽イオン交換カラム後のHCP含量は550 ppm未満に減少し、HIC工程の後、HCP含量は100 ppm未満に減少した。また、陰イオン交換樹脂の後、5 ppm未満に減少し、宿主細胞タンパク質が除去されたトラスツズマブを生産した(図12)。
【0119】
その後、前記3つのバッチで精製収率を計算した。収率の分析のために、培養液内の含量はプロテインAカラムを用いて分析し、陽イオン交換樹脂の後にはUV吸光度測定法により分析した。表12で示されているように、回収の後、陽イオン交換樹脂の工程で品質の調節のための酸性及び塩基性抗体アイソフォームの一部除去による収率の損失により、工程の収率は77〜79%程度であり、陽イオン交換樹脂の後に精製終了までは非常に少ない収率の損失を示した(表12)。
【0120】
【表12】
【0121】
次に、前記3つのバッチで純度を分析した。純度分析のために、SE-HPLC(Size Exclusion-High Performance Liquid Chromatography)を用いて分析を行った。用いられたカラムはTSK-Gel 3000SWxL(Tosoh Bioscience社)であり、各試料はPBS(Phosphate buffer saline, pH 7.4)を用いて10mg/mLで希釈した後、これを20μを注入して分析した。分析は、波長280nmで移動相PBSを流速0.5mL/minで流しながら30分間行った。
【0122】
その結果、最終純度は3つのバッチ(batch)でいずれも99.9%であり、対照薬の純度である99.6%より0.3%高かった(表13)。このような結果は、陽イオン交換カラム、HIC及び陰イオン交換カラムを用いる工程を含む本発明の方法が高純度及び高品質の目的とする抗体集団を生産するにおいて効果的に用いられることを示す。
【0123】
【表13】
【0124】
本発明では、前述の好ましく且つ代案的実施様態に関連して、具体的に示すことによって説明されているが、本明細書に記述された本発明の実施様態についての様々な変更が、添付の特許範囲に定義されているような本発明の精神及び範囲を逸脱するものでなく、本発明を実施するにあたって用いられるものとして、当業者らは理解するであろう。以下の特許請求の範囲は本発明を定義し、またその請求項の範囲内での方法及び装置並びにその均等物が含まれ得るものである。本発明のこのような説明は、本明細書に記述された構成要素の全ての新規で非自明的な結合を含むものと理解されなければならないし、また、請求項はその構成要素の新規で自明な組合せによって本出願又は、後続の出願において示すことができる。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
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図10
図11
図12