(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ピン挿入孔に前記エポキシ樹脂を充填する工程では、前記浮き部における前記タイルと、前記浮き部に隣接している前記浮きが生じていない健全部における前記タイルとを、前記外壁の外側から内側方向に向けて押え冶具を用いて押さえつつ、前記ピン挿入孔にエポキシ樹脂を充填する
ことを特徴とする請求項1記載の壁等の浮き部の補修工法。
【背景技術】
【0002】
建物の内外壁又は床などには建築年数の経過につれて浮き部が発生することがあるが、これを放置した場合には当該浮き部の剥離・剥落などという問題が生じることがある。
【0003】
例えば、建築物の外壁に接着剤などによって複数枚のタイルが貼り付けられ、隣接するタイルとの間の隙間に目地部が形成されているタイル貼り外壁では、施工後の年数が経過するにつれて浮きが発生することがある。
【0004】
建築・土木構造物外壁の仕上げにタイルが貼り付けられるタイル貼り外壁の場合、主に、ポリマーセメントモルタルを接着剤としてタイルが貼り付けられることが多い。このようなタイル貼り仕上げの後、使用していた材料や、施工、環境、経年などの要因で、タイルの剥離(浮き)が発生することがある。
【0005】
このような浮き(剥離)が発生した状態を放置すると、貼り付けていたタイルが壁から脱落し、時には、事故につながるおそれもある。
【0006】
このような壁等の浮き部を補修する工法に関しては従来から種々の提案がなされている(例えば、特許文献1、2、3、4、5)。
【0007】
また、壁等の浮き部を補修する工法の一つとして、従来からアンカーピンニング部分エポキシ樹脂注入工法が知られている(非特許文献1)。
【0008】
非特許文献1記載の補修工法(アンカーピンニング部分エポキシ樹脂注入工法)は、平成4年に国土交通省が当該工法を含む外壁改修の仕様書を発行し、改訂を重ねて現在に至っているものである。
【0009】
このアンカーピンニング部分エポキシ樹脂注入工法が、タイル貼り外壁に生じたタイルの浮き(剥離)の補修に適用される場合、その工程は、
図22を参照して説明すると、一般的に、次のようになっていた。
【0010】
補修範囲の確認:浮き部における浮きの状況を確認し、補修範囲を決定する。
マーキング:浮き部に対して使用するアンカーピンの本数と、使用する位置を決定し、目地部にマーキングする。
アンカーピン挿入孔の穿孔:コンクリート用ドリルなどを用いて、アンカーピンを挿入するアンカーピン挿入孔を目地部に穿設する。
孔内の清掃:穿孔後、圧搾空気などを用いてアンカーピン挿入孔内の切粉等を除去する。
注入:アンカーピン固定用のエポキシ樹脂を仕様に従って調製、混練して準備し、アンカーピン挿入孔の最深部より徐々に充填する。
ピンニング:適切な長さの全ネジ切り加工のアンカーピンをアンカーピン挿入孔に挿入する。
パテ仕上げ:目立たぬ色のパテ状のエポキシ樹脂などを用いて仕上げる。
養生:アンカーピン固定用のエポキシ樹脂が硬化するまで養生する。
清掃:注入部以外に付着した材料を除去し、清掃する。
【0011】
近年のタイル貼り仕上げは大半が小型のタイルの直貼圧着工法であり、仕上げ層の総厚さが薄いのが一般的である。前述したようにアンカーピンニング部分エポキシ樹脂注入工法において、目地部に穿孔し、注入用ポンプでエポキシ樹脂を注入すると、仕上げ層が薄い場合、ポンプの圧力(最大24.5MPa)で、剥離面積が広がり、タイルを面外に押し出すという事態が生じる。時には、押し出し破壊、などの障害が発生することがあり、所定量のエポキシ樹脂をアンカーピン挿入孔に注入・充填できず、仕様書に求められている品質確保が簡単ではなくなるという問題がある。
【0012】
このような問題を考慮して、以下に概説する、複合工法、注入口付アンカーピンニング部分エポキシ樹脂注入タイル固定工法、タイル部分張替工法などが提案されている。
【0013】
複合工法
タイル面を注入口付アンカーピン、繊維、モルタルまたは透明樹脂で塗りつぶすことを特徴にしている。このため、注入圧力による障害はないが、タイル貼り外壁の意匠が大きく損なわれる、という問題があった。適用は壁単位全面になり、剥離(浮き)発生部位以外の部位も施工対象になるため、コストが比較的高くなるという問題もあった。剥離(浮き)部分のみの適用も可能であるが、意匠が大きく損なわれるおそれがあるため、あまり実施されていない。
【0014】
注入口付アンカーピンニング部分エポキシ樹脂注入タイル固定工法
タイル中心に直接穿孔する工法であるが、注入口付アンカーピンは、メカニカルアンカー効果で注入圧力による障害がなくなる。また、化粧キャップが開発されたことにより、意匠が大きく損なわれるおそれは減少している。しかし、注入口付アンカーピンの1本あたりの単価が高額で、なおかつ、タイル1枚につき1本の注入口付アンカーピンを適用するので、コストが比較的高くなるという問題が残っている。
【0015】
タイル部分張替工法
部分改修への適用が可能であり、このため、コストを抑えることができ、適用例が多い。小型タイルの適用が特に多い。ただし、予備タイルがあっても経年変化による変色、汚れで意匠が多少損なわれることがある。特注色合わせタイルを焼いて使用しても合うことはなく、意匠が損なわれるという問題は解消できない。
【0016】
この他に、従来から、脱落のおそれがある激しい剥離箇所を、補修工事中の安全確保を目的に桟木、鋼材とメカニカルアンカーで抑え込んでエポキシ樹脂を注入・充填することもあった。
【0017】
本願出願人は、このような状況に鑑みて、注入圧力障害を解消する工法を提案している(特許文献6)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1〜
図3を用いて、この発明が提案する壁等の浮き部の補修工法に使用する押え冶具の一例を説明する。
【0028】
壁等の浮き部の補修工事に用いられる
図1〜
図3図示の押え冶具1は、中心側フレーム2と、中間支持フレーム3と、外側フレーム4とを備えている。
【0029】
中心側フレーム2は、補修対象の外壁に向う側の面に補修対象の外壁に当接する中心側フレーム当接面5を備えている(
図3)。
【0030】
中間支持フレーム3は、中心側フレーム2から、その先端側が中心側フレーム2の径方向外側に向かって所定の間隔にわたって伸びている。
【0031】
図示の実施形態では、中間支持フレーム3は、中心側フレーム2から外側フレーム4に向かって放射状に伸びる複数本の薄い板状の支持腕3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hから構成されている。なお、本明細書、図面において、放射状に伸びる複数本の支持腕3a〜3hを総称して「中間支持フレーム3」と表すことがある。
【0032】
図示の実施形態では、支持腕3a〜3hは、いずれも、補修対象の外壁に向う側の面に当該外壁に当接する中間支持フレーム当接面9を備えている(
図3)。
【0033】
外側フレーム4は中心側フレーム2からその径方向外側に向かって放射状に伸びる支持腕3a〜3hによって支持されていることにより、図示の実施形態においては、隣接する支持腕3aと3bとの間、支持腕3bと3cとの間、支持腕3cと3dとの間、支持腕3dと3eとの間、支持腕3eと3fとの間、支持腕3fと3gとの間、支持腕3gと3hとの間、支持腕3hと3aとの間、および、中心側フレーム2と外側フレーム4との間は透孔部6a、6b、6c、6d、6e、6f、6g、6hになっている。
【0034】
なお、図示の実施形態では、中心側フレーム2は、円周状の構造体であるので、中心側フレーム2の内側も透孔部6iになっている。
【0035】
図示の実施形態では、透孔部6iが、補修対象箇所の浮き部を補修すべく外壁12(
図5〜
図7)に形成されるピン挿入孔20に外壁12の外側から通じる透孔部になる。
図8図示のように、押え冶具1を補修対象の外壁12に固定した後、透孔部6iを介してピン挿入孔20にエポキシ樹脂21を注入、充填し、補強ピン22を挿入、固定する作業を行うことができる。
【0036】
また、透孔部6a〜6hは、
図8図示のように、押え冶具1が補修対象の外壁12に固定された際に、補修対象箇所の浮き部(例えば、タイル13a、タイル13b)に通じる透孔部の役割を果たす。
【0037】
これにより、本発明の補修工法で、浮き部におけるタイル、あるいは、浮き部におけるタイルと浮き部に隣接している浮きが生じていない健全部におけるタイルとを、押え冶具1によって外壁12の内側方向に向かって押さえつけつつ、ピン挿入孔20にエポキシ樹脂21を充填している際に、注入・充填されているエポキシ樹脂21の広がり具合を目視で確認できる。
【0038】
なお、上述した透孔部6iが、押え冶具1が補修対象の外壁12に固定された際に、補修対象箇所の浮き部に通じる透孔部の役割を果たすものとすることもできる。
【0039】
この場合、例えば、中間支持フレーム3を上述したような棒状、薄板状の支持腕3a等にするのではなく、透孔部6a〜6hが全部閉鎖されている形態・構造にすることもできる。すなわち、
図8図示のように、押え冶具1を補修対象の外壁12に固定した際に、補修対象箇所の浮き部を補修すべく外壁12に形成されるピン挿入孔20に外壁12の外側から通じる透孔部や、補修対象箇所の浮き部に通じる透孔部の役割を果たす透孔部の役割を果たす透孔部、あるいはこれら両者の役割を果たす透孔部が冶具1に備わっていれば、押え冶具1の当該透孔部以外の部分は補修対象の外壁12の表面に沿って平行に伸びる板状の構造にすることもできる。
【0040】
中間支持フレーム3の先端側に支持されている外側フレーム4は、補修対象の外壁に向う側の面に当該外壁に当接する外側フレーム当接面7を備えている(
図3)。
【0041】
図8図示のように、押え冶具1が補修対象の外壁に取り付けられた際に、中心側フレーム当接面5、中間支持フレーム当接面9、外側フレーム当接面7の中の少なくともいずれか一つが浮き部におけるタイルに、より好ましくは、浮き部におけるタイルと浮き部に隣接している浮きが生じていない健全部におけるタイルとに当接する。
【0042】
なお、補修対象箇所の浮き部を補修すべく外壁12に形成されているピン挿入孔20にエポキシ樹脂21を充填している間、外壁12に取り付け、固定されている押え冶具1によって、補修対象箇所の浮き部におけるタイル、あるいは、浮き部におけるタイルと浮き部に隣接している浮きが生じていない健全部におけるタイルを外壁12の内側方向に向かって押さえつけている構造が確保されれば十分であるので、押え冶具1は、上述した中心側フレーム当接面5、中間支持フレーム当接面9、外側フレーム当接面7の中の少なくとも一つ以上を備えている構造であればよい。
【0043】
外側フレーム4は、外側フレーム4を、すなわち押え冶具1の全体を、補修対象の外壁に取り付け取り外し可能に固定するための固定具(アンカーピン23a、23b)が挿通する孔8a、8b、8c、8dを、外側フレーム4の周方向に所定の間隔をあけて、複数個備えている。
【0044】
図示の実施形態では、外側フレーム4の周方向で、円周角90度ずつの間隔で4個の固定具挿通用孔8a、8b、8c、8dが配備されている。
【0045】
この固定具挿通用孔8a、8b、8c、8dが、押え冶具1を補修対象の外壁に取り付け、取り外し可能に固定するための固定部になる。
【0046】
補修対象の外壁がタイル貼り外壁12(
図5、
図6)である場合、中心側フレーム2からその径方向外側に向かって伸びる中間支持フレーム3の長さは、タイル貼り外壁12を構成するタイル13aなどの形状・構造に応じて定めることが望ましい。このようにすれば、中間支持フレーム3の先端側で支持される外側フレーム4に配備されている固定具挿通用孔8a、8b、8c、8d(冶具1に配備されている固定部)の位置が、タイル貼り外壁12を構成するタイル13aなどの形状・構造に応じて定められる。
【0047】
これによって、補修対象の浮き部が、例えば、タイル貼り外壁における浮きあがっているタイル13aなどである場合、浮きあがっている一枚のタイル13aの外側表面に、中心側フレーム当接面5、中間支持フレーム当接面9、外側フレーム当接面7の中の少なくともいずれか一つが当接し、補修対象箇所の浮き部を補修すべく外壁12に形成されているピン挿入孔20にエポキシ樹脂21を注入、充填する際に、補修対象箇所の浮き部におけるタイル、より好ましくは、浮き部におけるタイルと浮き部に隣接している浮きが生じていない健全部におけるタイルを外壁12の内側方向に向かって押え冶具1で押さえつけつつエポキシ樹脂21の充填を行うことが可能になる。
【0048】
押え冶具1を用いて浮きの補修を行う場合、建築物の外壁に発生した浮き部の補修のため、当該外壁にピン挿入孔20を形成する。このピン挿入孔20に補修工程でエポキシ樹脂が充填され、補強ピンが打ちこまれて、固定される。
【0049】
前述したように、浮きあがっている一枚のタイル13aを少なくとも1か所以上で押さえる場合であって、
図8図示のように、建築物の外壁に形成されるピン挿入孔20を囲むように中心側フレーム2が配置されるときに、固定具挿通用孔8a〜8dが、ピン挿入孔20(
図8)が補修対象の外壁に形成される位置から径方向外側に向かって少なくとも100mm以上離れた位置で外側フレーム4に配備されるように、中間支持フレーム3が、中心側フレーム2から径方向外側に向かって伸びている形態にすることができる。
【0050】
図20、
図21は、この発明が提案する壁等の浮き部の補修工法に使用する他の押え冶具31を説明するものである。
【0051】
押え冶具31は、平面視で四角形の枠体32(図中、縦枠32d、32b、横枠32a、32c)と、枠体32の横枠32a、32cの間に、縦枠32d、32bと平行に伸びる縦桟33a、33b、33c、33dが架け渡されているものである。
【0052】
四角形の頂点の箇所及び、横枠32a、32cの中間に、押え冶具31を補修対象の外壁12に取り付け、取り外し可能に固定するための固定部となる固定具挿通用孔35a、35c、35d、35f、35b、35eが形成されている。
【0053】
縦枠32dと縦桟33aとの間、縦桟33aと縦桟33bとの間、縦桟33bと縦桟33cとの間、縦桟33cと縦桟33dとの間、縦桟33dと縦枠32bとの間の間隔や、横枠32aと横枠32cとの間の間隔は、補修対象箇所の浮き部を補修すべく外壁12に形成されているピン挿入孔20にエポキシ樹脂21を充填している間、外壁12に取り付け、固定されている押え冶具31によって、補修対象箇所の浮き部の少なくとも一か所以上を外壁12の内側方向に向かって押さえつける構造が確保されるようにして設定する。
【0054】
枠体32を構成する縦枠32d、32b、横枠32a、32c及び、縦桟33a〜33d4は、補修対象の外壁に向う側の面に当該外壁に当接する枠体当接面36、縦桟当接面37をそれぞれ備えている(
図21)。
【0055】
押え冶具31が補修対象の外壁に取り付けられた際に、枠体当接面36、縦桟当接面37の中の少なくともいずれか一つが補修対象箇所の浮き部に当接する。
【0056】
ここでも、補修対象箇所の浮き部を補修すべく外壁12に形成されているピン挿入孔20にエポキシ樹脂21を充填している間、外壁12に取り付け、固定されている押え冶具31によって、補修対象箇所の浮き部におけるタイル、あるいは、浮き部におけるタイルと浮き部に隣接している浮きが生じていない健全部におけるタイルを外壁12の内側方向に向かって押さえつけている構造が確保されれば十分であるので、上述した枠体当接面36、縦桟当接面37の中の少なくとも一つ以上を備えている構造であればよい。
【0057】
縦枠32dと縦桟33aとの間、縦桟33aと縦桟33bとの間、縦桟33bと縦桟33cとの間、縦桟33cと縦桟33dとの間、縦桟33dと縦枠32bとの間には透孔部34a、34b、34c、34d、34eが形成されている。
【0058】
これらの透孔部34a〜34eが、押え冶具31が補修対象の外壁12に固定された際に、補修対象箇所の浮き部を補修すべく外壁12に形成されるピン挿入孔20に外壁12の外側から通じる透孔部及び、補修対象箇所の浮き部に通じる透孔部の役割を果たす。
【0059】
図14は、この発明の、タイルの直貼り圧着工法で仕上げられているタイル貼り外壁に発生した、浮きの生じているタイルである浮き部を補修する、壁等の浮き部の補修工法に用いられるこの発明の補強ピンの一例を表す概念図であって、(a)は側面図、(b)は上側から見た斜視図である。
【0060】
金属製の補強ピン40は、浮き部における隣接するタイル同士の間の目地部に穿設されたピン挿入孔20に対してエポキシ樹脂を充填した後に打ち込まれるものである。
【0061】
補強ピン40の径dは、ピン挿入孔20の内径より大きく、補強ピン40長さHはピン挿入孔20の深さより短い長さに設定されている。例えば、後述するように、ピン挿入孔20が35mmの深さ、直径φ3.5mmで形成されているときには、例えば、d=4mmの径を有し、H=32mmの長さの補強ピン40が用いられる。
【0062】
補強ピン40は頭部に大径部40aを有している。この大径部40aの径Dは、ピン挿入孔20が穿設された目地部14の隣接するタイル同士の間の幅より小さいものになっている。
【0063】
タイルの直貼り圧着工法で仕上げられているタイル貼り外壁では、50角、50二丁、等、外装壁モザイクタイル目地は5mmである。また、後述するように、ピン挿入孔20に充填されたエポキシ樹脂が、ピン挿入孔20から漏れ出ることを抑制する目的で、D=4.5mm〜4.8mmとすることが望ましい。
【0064】
上述した壁等の浮き部の補修工事に用いられる
図1〜
図3図示の押え冶具1及び、補強ピン40を用いた、本発明が提案する壁等の浮き部の補修工法の実施工程の一例を
図5〜
図19を参照して以下に説明する。
【0065】
なお、本発明の補修工法は、補修対象になっている外壁、例えば、外壁に浮きが生じている部分や、タイル貼り外壁における浮きあがっているタイル、更には、浮き部におけるタイルと浮き部に隣接している浮きが生じていない健全部におけるタイルを、補修対象になっている外壁に取り付けて少なくとも一か所以上で固定した上述の押え冶具1で押さえつけつつ、ピン挿入孔20にエポキシ樹脂21を注入・充填し、そこへ、本願発明特有の補強ピンを打ち込んで固定する点に特徴を有するものである。
【0066】
その他の点は、従来の補修工法と同一であるので、上述した従来のアンカーピンニング部分エポキシ樹脂注入工法と相違する本願発明に特有の工程にポイントをあてて以下に説明する。
【0067】
また、以下では、
図1〜
図3図示の押え冶具1を用いて、浮き部におけるタイルあるいは、浮き部におけるタイルと浮き部に隣接している浮きが生じていない健全部におけるタイルとを、外壁の外側から内側方向に向けて押えつつ、ピン挿入孔20にエポキシ樹脂21を注入・充填し、そこへ、本願発明特有の補強ピンを打ち込んでいるが、押え冶具としては、
図1〜
図3に図示して説明したものに限られず、浮き部におけるタイルあるいは、浮き部におけるタイルと浮き部に隣接している浮きが生じていない健全部におけるタイルとを、外壁の外側から内側方向に向けて押えつつ、ピン挿入孔20にエポキシ樹脂21を注入・充填し、そこへ、本願発明特有の補強ピンを打ち込むことを可能にするもの、あれば、
図1〜
図3図示の押え冶具に限られず、種々の押え冶具を用いることができる。
【0068】
<補修範囲の確認>
従来のアンカーピンニング部分エポキシ樹脂注入工法と同じく、補修範囲の確認を行って、浮き部における浮きの状況を確認し、補修範囲を決定する。
【0069】
例えば、
図5、
図6のタイル貼り外壁12において、ハンマーテストにより剥離のおそれがある浮き部を確認したところ、タイル13a、13bに浮き部が存在していることが確認できた。
【0070】
念のため、符号13cで示す位置のタイルを基準点として測定したところ、タイル13d、13eはタイル13cとの高さの差が0mmであったが、タイル13a、13bはいずれもタイル13cに対して0.3mm高かった。
【0071】
<マーキング>
次に、従来のアンカーピンニング部分エポキシ樹脂注入工法と同じく、浮き部に対して使用するアンカーピンの本数と、使用する位置を決定し、目地部14にマーキングする。
【0072】
<穿孔>
次に、ピン挿入孔20と、冶具押さえ用アンカー孔24a、24bとを、それぞれ、コンクリート用ドリルを用いて補修対象の外壁12の目地部14に対して直角に形成する(
図7、
図15)。ここでは、いずれも、35mmの深さ、直径φ3.5mmのピン挿入孔20と、冶具押さえ用アンカー孔24a、24bとを形成した。
【0073】
冶具押さえ用アンカー孔24a、24bは、押え冶具1を外壁12に取り付け取り外し可能に取り付け固定することに用いられる固定具(アンカーピン23a、23b)のために形成されるものである。図示のように、押え冶具1の中心側フレーム当接面5と外側フレーム当接面7とを補修対象の外壁12に当接させて冶具1を外壁12に取り付ける際に、外壁12において、外側フレーム4が備えている固定具挿通用孔8a、8bに対応する位置に、冶具押さえ用アンカー孔24a、24bを形成する。
【0074】
ピン挿入孔20は、ここに、エポキシ樹脂21を充填し、その後、補強ピン22(
図14図示の補強ピン40)を打ち込んで固定するために用いられる孔である。
【0075】
タイルの直貼圧着工法で仕上げられているタイル貼り外壁におけるタイルの剥離(浮き)に対して本発明の補修工法が適用される場合、ピン挿入孔20、冶具押さえ用アンカー孔24a、24bは、いずれも、
図7図示のように目地部14に形成することになる。そこで、この場合には、使用されているタイル13aなどの大きさを考慮して大きさ・サイズが設定されている本発明の冶具1を使用することになる。
【0076】
すなわち、
図8、
図9図示のように、押え冶具1を、補修対象箇所の外壁に取り付け、固定した際に、ピン挿入孔20を囲む中心側フレーム2から径方向外側に向かって伸びる中間支持フレーム3が外側フレーム4を支持することよって配置位置が規定される固定具挿通用孔8a、8bが、目地部14に形成されている冶具押さえ用アンカー孔24a、24bに対応する位置になるように、タイル貼り外壁におけるタイル13aの大きさに対応させて大きさ・サイズが定められている押え冶具1を選択して使用することになる。
【0077】
<孔内の清掃>
その後、通常の要領で、ピン挿入孔20の孔内を圧搾空気などを用いて清掃する。
【0078】
<冶具をタイル貼り外壁に固定>
次いで、冶具押さえ用アンカー孔24a、24bの位置と、固定具挿通用孔8a、8bの位置とを対応させ、中心側フレーム当接面5と外側フレーム当接面7とを外壁12に当接させて押え冶具1を外壁12に当接させる(
図8)。
【0079】
引き続いて、アンカーピン23a、23bを用い、冶具押さえ用アンカー孔24a、24bと、固定具挿通用孔8a、8bとを介して、中心側フレーム当接面5と外側フレーム当接面7とを外壁12に当接させて押え冶具1を外壁12に取り付け、固定する(
図9)。
【0080】
これによって、補修対象箇所の浮き部におけるタイルであるタイル13a、13bと、この浮き部に隣接している浮きが生じていない健全部におけるタイルとを、押え冶具1によって、外壁12の外側から内側方向に向けて押さえるようにする。
【0081】
<エポキシ樹脂注入>
その後、通常の要領で、補強ピン22を固定するために用いられるエポキシ樹脂21を仕様に従って調製、混練して準備し、ピン挿入孔20の最深部より徐々に充填する(
図10、
図16)。
【0082】
例えば、手動式注入器を用い、手動式注入器のノズルをピン挿入孔20内に挿入し、ピン挿入孔20の最深部より徐々に充填する(
図10、
図16)。
【0083】
この際、
図1〜
図3図示の押え冶具1を用いているときには、押え冶具1が備えている透孔部6a〜6hを介して、ピン挿入孔20に充填されているエポキシ樹脂21の広がり具合を目視で確認しながらピン挿入孔20へのエポキシ樹脂充填を行う。
【0084】
図1〜
図3図示の押え冶具を用いていない場合でも、浮き部におけるタイルを、外壁の外側から内側方向に向けて押えつつ、あるいは、浮き部におけるタイルと浮き部に隣接している浮きが生じていない健全部におけるタイルとを、外壁の外側から内側方向に向けて押えつつ、打診によって適切なひろがりを確認しながらピン挿入孔20へのエポキシ樹脂充填を行う。
【0085】
<ピンニング>
充填後、本発明の補強ピン40を、インパクトドライバを用いて、頭部40aが目地部14に埋まるまで、ピン挿入孔20に打ち込む(
図11、
図17)。そして、エポキシ樹脂21を硬化させる。すなわち、図示の実施形態では、目地部14に配設されていた目地モルタル14aに補強ピン40の頭部40aが埋まるまでインパクトドライバを用いて補強ピン40を打ちこみ、エポキシ樹脂21を硬化させる。
【0086】
なお、エポキシ樹脂21をピン挿入孔20に充填した後、内圧によってエポキシ樹脂21が戻ってくることを防ぐ目的で、手動式注入器のノズルをピン挿入孔20から抜いた後、ただちに、釘のような部材を差し込んで栓をし、エポキシ樹脂21の戻りが穏やかになってから、前記の栓(釘)を抜いて、補強ピン40を打ち込むようにしても良い。
【0087】
<冶具の取り外し>
アンカーピン23a、23bを、固定具挿通用孔8a、8bを介して、冶具押さえ用アンカー孔24a、24bから抜き取り、押え冶具1を取り外す。
【0088】
<パテ仕上げ>
既存の目地部14の目地モルタル14aの色に合わせた目地モルタル43により補強ピン40の頭部40a(大径部)をタッチアップする。
【0089】
また、冶具押さえ用アンカー孔24a、24bにはパテ状のエポキシ樹脂などを用いて、仕上げを行う。
【0090】
<養生>
補強ピン40固定用のエポキシ樹脂21が硬化するまで適切な養生を行う。
【0091】
<清掃>
エポキシ樹脂注入部以外に付着した材料を適切な方法で除去し、清掃する(
図13、
図18)。
【0092】
エポキシ樹脂充填工程の間、上述したように、冶具1が、アンカーピン23a、23bによって補修対象の外壁12に取り付けられていることから、タイル13a、13bの表面側には、常に、冶具1の中心側フレーム当接面5、中間支持フレーム当接面9、あるいは外側フレーム当接面7の中のいずれかに当接している領域が存在する。
【0093】
これによって、補修対象のタイル13a、13bの外側表面は、前述したエポキシ樹脂充填工程の間、常に、少なくとも1点以上で押さえつけられている。
【0094】
この結果、アンカーピン挿入孔20にエポキシ樹脂21を注入・充填している工程で、剥離面積が拡大したり、タイル13a、13bが外壁12の外側に押し出されたり、さらには、このような押し出しによって破壊が生じてしまう、などといった障害の発生を安全、確実に防止できる。
【0095】
さらに、上述した冶具1の場合、エポキシ樹脂充填工程の間、透孔6b〜6iを介して、タイル13a、13bの表面を目視で確認することができる。そこで、ピン挿入孔20にエポキシ樹脂21を充填している工程で、剥離面積が拡大したり、タイル13a、13bが外壁12の外側に押し出されたり、さらには、このような押し出しによって破壊が生じてしまう、などといった障害の発生を、より確実に防止し、注入・充填されているエポキシ樹脂の広がり具合を目視によって把握できる。
【0096】
上述したように、補強ピン40の径dは、ピン挿入孔20の内径より大きく、補強ピン40長さHはピン挿入孔20の深さより短い長さに設定されている。そして、補強ピン40の頭部40aは大径部となっており、大径の頭部40aの径Dは、ピン挿入孔20が穿設された目地部14の隣接するタイル同士の間の幅より小さい。
【0097】
また、ピン挿入孔20へのエポキシ樹脂充填後のピンニング工程において、補強ピン40はその頭部40aが目地部14の目地モルタル14aに埋まるまでピン挿入孔20に打ち込まれている。
【0098】
そこで、ピン挿入孔20へ充填されたエポキシ樹脂21の余圧による補強ピン40の浮き上がりが防止され、エポキシ樹脂21がピン挿入孔20から漏れ出してタイルを汚染するおそれも防止できる。
【0099】
更に、コンクリートビスとしての機械的な固定力と、エポキシ樹脂の硬化・接着による固定力を発揮させてより確実なアンカー効果を発揮させることができる。
【0100】
なお、タイル13a、13bに引き続いて補修すべきタイル(浮き上がっているタイル)が隣接するタイル13e、13fである場合、
図12図示のように、一方の冶具押さえ用アンカー23aを取り外し、他方の冶具押さえ用アンカー23bの位置を支点として、冶具1を180度回転させて、隣接する次の補修位置に押え冶具1を移動させて、引き続いてタイル13e、13f部分の補修を行うことができる。
【0101】
前記のように、エポキシ樹脂充填工程の間、冶具1、31によって、補修対象のタイル13a、13bの外側表面を少なくとも1点以上で押さえつけることから、押え冶具1、31は、エポキシ樹脂注入・充填時の、外壁12の外側方向に向かう圧力を抑え込む強度を有するもので作製しておく必要がある。例えば、このような強度を有する金属製、合成樹脂製、木製にすることができる。
【0102】
また、アンカーピン23a、23bも、エポキシ樹脂注入・充填時の、外壁12の外側方向に向かう圧力を抑え込む強度を有するもので作製しておくことが望ましい。例えば、コンクリートビス、メカニカルアンカーなどを採用することができる。
【0103】
なお、押え冶具1、31は、補修対象箇所の浮き部を補修すべく外壁12に形成されているピン挿入孔20にエポキシ樹脂21の充填を行っている際に、補修対象箇所の浮き部におけるタイルあるいは、浮き部におけるタイルと浮き部に隣接している浮きが生じていない健全部におけるタイルとを外壁12の内側方向に向かって押さえつける役割を果たすものであり、これが実現されるならば、押え冶具1、31の外壁12への取り付け、固定は、一か所の固定部を利用して行われるものであってもよい。
【0104】
例えば、前記の例では、アンカーピン23a、23bを用い、2カ所の固定部である冶具押さえ用アンカー孔24a、24bと、固定具挿通用孔8a、8bとを介して、中心側フレーム当接面5と外側フレーム当接面7とを外壁12に当接させて押え冶具1を外壁12に取り付け、固定していた(
図9)。これを、1本のアンカーピン23aのみを用いて、1カ所の固定部である冶具押さえ用アンカー孔24aと、固定具挿通用孔8aとを介して、中心側フレーム当接面5と外側フレーム当接面7とを外壁12に当接させて冶具1を外壁12に取り付け、固定する形態にすることもできる。
【0105】
また、固定部を、押え冶具1、31を外壁12に吸着固定する吸着具を取り付け、取り外し可能な構造部として冶具1、31に備えさせ、当該構造部に取り付けた吸着具を用いて、押え冶具1、31を外壁12に吸着固定し、これによって、押え冶具1で、補修対象箇所の浮き部を補修すべく外壁12に形成されているピン挿入孔20にエポキシ樹脂21の充填を行っている際に、補修対象箇所の浮き部の少なくとも一か所以上を押え冶具1、31によって外壁12の内側方向に向かって押さえつけるようにすることもできる。
【0106】
なお、上述した補修工程の間、押え冶具1、31は、落下防止ロープなどにつないでおいて使用することができる。
【0107】
図4は、
図1〜
図3図示の冶具1において取付具12を用いて取手11を取り付けたものである。取手11があることにより、使い勝手を良くすることができる。
【0108】
上述した実施形態で説明した押え冶具1では、外側フレーム4は中心側フレーム2からその径方向外側に向かって放射状に伸びる支持腕3a〜3hによって支持されており、隣接する支持腕3aと3bとの間、などは透孔部6a〜6hになっていた。また、押え冶具31では、 縦枠32dと縦桟33aとの間、等々、および、横枠32aと32cとの間には透孔部34a〜34eが形成されていた。そこで、押え冶具1、31の重量を軽減することができ、足場でのハンドリングが容易である。
【0109】
以上、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々に変更可能である。
【0110】
例えば、
図1〜
図4図示の冶具1における中心側フレーム2は、図示の実施形態では、円形のフレームとしたが、中間支持フレーム3、外側フレーム4と協働して、補修対象箇所、例えば、浮き上がっているタイルなどを、少なくとも一点以上で押さえつけることが可能であれば、円形である必要はない。
【0111】
また、中間支持フレーム3、外側フレーム4と協働して、補修対象箇所、例えば、浮き上がっているタイルなどを、を少なくとも一点以上で押さえつけることを可能にできるならば円周状の一部に切りかけ部などが存在していても構わない。
【0112】
同様に、中間支持フレーム3、外側フレーム4の構造、形態も、中心側フレーム2と協働して、補修対象箇所、例えば、浮き上がっているタイルなどを、少なくとも一点以上で押さえつけることを可能にできるならば、図示し、説明した構造、形態に限定されることはない。
【0113】
図1〜
図4図示の押え冶具1では、中心側フレーム2は、円周状の構造体で、中心側フレーム2の内側も透孔部6iになっていた。そこで、押え冶具1を
図8図示のように補修対象の外壁12に取り付け、固定した際に、外壁12に穿設されたアンカーピン挿入孔20が中心側フレーム2の中心になるようにしていた。しかし、上述したように透孔部6a〜6hが存在しているので、アンカーピン挿入孔20が、これらの透孔部6a〜6hの中のどの位置になるようにしても補修工事を行うことができる。
【0114】
上記の実施形態では、外側フレーム4において直径対称的に配備されている固定具挿通用孔8a、8cを利用して冶具1を外壁12に取り付け、固定していたが(
図9)。しかし、冶具1が、アンカーピン23a、23bによって補修対象の外壁12に取り付けられていることにより、補修対象のタイル13a、13bの外側表面が、エポキシ樹脂充填工程の間、常に、少なくとも一点以上で押さえつけられているようになりさえすれば、外壁12に形成される冶具押さえ用アンカー孔24a、24bの位置に応じて、隣接する固定具挿通用孔8a、8b、あるいは、固定具挿通用孔8b、8c、固定具挿通用孔8c、8d、固定具挿通用孔8d、8aを利用して冶具1を外壁12に取り付け、固定することもできる。また、これらの中の、どれか一か所のみで押え冶具1を外壁に取り付け、固定するようにすることもできる。