(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
吸気を加圧してエンジンに供給する過給機の吐出口の下流で、且つエンジンの吸気ポートに送る吸気量を制御するスロットルボディの上流に配置されて、加圧空気を貯留する鞍乗型車両の吸気チャンバであって、
吸気チャンバの出口を有して、前記スロットルボディに対向する対向部分と、
前記対向部分と前記過給機の吐出口とを接続する接続部分と、
を備え、
前記接続部分は、出口側開口が、入口側開口よりも大きく設定され、
前記接続部分が、前記入口側開口から前記出口側開口に向かって徐々に横幅が増大しており、
前記過給機が、前記エンジンのシリンダブロックの後方に配置され、
前記吸気チャンバが、前記過給機と前記エンジンのシリンダヘッドとの間に配置され、
前記吸気チャンバの入口が前記吸気チャンバの後部に、出口が前部にそれぞれ形成されている鞍乗型車両の吸気チャンバ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。本明細書において、「左側」および「右側」は、車両に乗車した操縦者から見た左右側をいう。
【0021】
図1は本発明の第1実施形態に係る吸気チャンバを備えた鞍乗型車両の一種である自動二輪車の左側面図である。この自動二輪車の車体フレームFRは、前半部を形成するメインフレーム1と、このメインフレーム1の後部に取り付けられて車体フレームFRの後半部を形成するリヤフレーム2とを有している。メインフレーム1の前端に一体形成されたヘッドパイプ4に、図示しないステアリングシャフトを介してフロントフォーク8が回動自在に軸支されて、このフロントフォーク8に前輪10が取り付けられている。フロントフォーク8の上端部に操向用のハンドル6が固定されている。
【0022】
一方、メインフレーム1の後端部にスイングアーム12がピボット軸16の回りに上下揺動自在に軸支され、このスイングアーム12の後端部に後輪14が支持されている。車体フレームFRの中央下部でスイングアーム12の前側に駆動源であるエンジンEが取り付けられており、エンジンEがチェーンのような動力伝達機構11を介して後輪14を駆動する。エンジンEは、例えば、4気筒4サイクルの並列多気筒水冷エンジンであり、その前方にエンジン冷却水のラジエータ13が配置されている。各気筒は、エンジンEの幅方向に並んでいる。ただし、エンジンEの形式はこれに限定されない。
【0023】
メインフレーム1の上部に燃料タンク15が配置され、リヤフレーム2に操縦者用シート18および同乗車用シート20が支持されている。燃料タンク15の内部における後端の下端に、エンジンEへ燃料を送る燃料ポンプ17が配置されている。また、車体前部に、前記ヘッドパイプ4の前方を覆う樹脂製のフロントカウル22が装着されている。フロントカウル22には、外部からエンジンEへの吸気を取り入れる空気取入口24が形成されている。
【0024】
エンジンEは、車幅方向に延びるクランク軸26と、クランク軸26および変速機を収納するクランクケース28と、クランクケース28の前方上面から上方に突出したシリンダブロック30と、その上方のシリンダヘッド32と、クランクケース28の下方に設けられたオイルパン34とを有している。シリンダヘッド32はヘッドカバー32aを有している。シリンダブロック30およびシリンダヘッド32は若干前傾している。具体的には、エンジンEのピストン軸線が上方に向かって前方に傾斜して延びている。シリンダヘッド32の前面の排気ポートに接続された4本の排気管36が、エンジンEの下方で集合され、後輪14の右側に配置された排気マフラ38に接続されている。
【0025】
図2に示すように、シリンダブロック30の後方でクランクケース28の上面に、外気を浄化するエアクリーナ40と、このエアクリーナ40からの清浄空気を加圧してエンジンEに供給する過給機42が左右方向(車幅方向)に並んで配置されている。過給機42は、機械的動力伝達系を介してエンジンの動力により駆動される遠心式の過給機である。
【0026】
過給機42はエアクリーナ40の右側に隣接して配置され、図示しないボルトによりクランクケース28の上面に固定されている。過給機42はクランクケース28の後部の上方で車幅方向に延びる回転軸心44を有している。クランクケース28の上方でエンジンEの幅方向の中央部に、左向きに開口した過給機42の吸込口46が位置し、エンジンEの車幅方向の中央部に過給機42の吐出口48が位置している。詳細には、吐出口48は、後述の気筒側開口68(
図4)の車幅方向中央に位置する。
図3に示すように、過給機42の吐出口48は、回転軸心44よりも後方に位置している。
【0027】
図2の過給機42は、吸気を加圧するインペラ50と、インペラ50を覆うインペラハウジング52と、エンジンEの動力をインペラ50に伝達する前記動力伝達系の一部を構成する伝達機構54と、伝達機構54を覆う伝達機構ハウジング56とを有している。インペラハウジング52を挟んで車幅方向に伝達機構54とエアクリーナ40とが配置されている。インペラハウジング52は、図示しないボルトにより伝達機構ハウジング56およびエアクリーナ40と連結されている。伝達機構54は、車幅方向中心よりも車幅方向の一方にずれて配置されている。この実施形態では、伝達機構54は、過給機42の前記動力伝達系の一部を構成するチェーン58が配置される右側にずれて配置されている。
【0028】
過給機42の吸込口46にエアクリーナ40のクリーナ出口62が接続され、このクリーナ入口60に、外気を過給機42に導入する吸気ダクト70が車幅方向外側から接続されている。吸気ダクト70は前記チェーン58が配置される右側とは反対の左側に配置されている。これにより、車幅方向外側に吸気ダクト70が突出することを防ぐことができる。吸気ダクト70は、
図1に示すように、シリンダブロック42の側方領域を通過する。
【0029】
図3に示すように、過給機42の吐出口48は上方を向いている。前後方向における、吐出口48とエンジンEの吸気ポート47との間に、吸気チャンバ74が配置されている。吸気チャンバ74は、過給機42の吐出口48からシリンダヘッド32に向かう空気通路の一部を形成する。過給機42の吐出口48と吸気チャンバ74の入口77とが直接接続されている。吸気ポート47は、シリンダヘッド32の後部に形成されている。吸気チャンバ74は、金属製であり、本実施形態では、アルミニウム合金製である。過給機42の吐出口48と吸気チャンバ74の入口77との接続は、例えば、吐出口48の端面と入口77の端面とを突合せ状態で、外周面にゴムホース(図示せず)を装着して行う。
【0030】
吸気チャンバ74とシリンダヘッド32との間には、エンジンEの吸気ポート47に送る吸気量を制御するスロットルボディ76が配置されている。すなわち、吸気チャンバ74は、過給機42の下流で、且つスロットルボディ76の上流に配置されて、加圧された加圧空気である吸気を貯留する。
図5に示すように、スロットルボディ76に、スロットル弁105が設けられている。スロットル弁105は、吸気ポート47に供給する吸気量を調節する。スロットル弁105は、各種センサ値に基づいて電動制御されてもよく、手動操作によって駆動操作されてもよく、手動操作する弁と電動制御される弁との両方を備えてもよい。
【0031】
スロットル弁105の弁軸105aが幅方向に延び、全閉状態(スロットル弁105がほぼ水平状態)から開く場合、スロットル弁105の後端が下方に向かう方向、すなわち
図5における時計回り方向にスロットル弁105が回転することが好ましい。これにより、スロットル弁105を開いた場合に、後述のインジェクタ75の噴射口75aとスロットル弁105の後端部105bが離れることになり、スロットル弁105に燃料が付着するのを抑えることができる。
【0032】
このスロットルボディ76において、吸入空気中にインジェクタ75から燃料が噴射されて混合気が生成され、この混合気が各吸気ポート47からエンジンEのシリンダボア内の燃焼室(図示せず)に供給される。インジェクタ75に加えて、スロットルボディ76の下流側に空燃比を調整するためのメインインジェクタ49が設けられている。これにより空燃比のばらつきを抑制できる。スロットルボディ76は吸気ポート47から後方に向かって上方に傾斜するように配置されている。インジェクタ75は、気筒ごとに設けられ、吸気チャンバ74の上面に装着されている。インジェクタ75は、噴霧状に燃料を噴射することが好ましく、詳細には、軸線IXに対して径方向に広がる放射状にスプレー噴射されることが好ましい。
【0033】
メインインジェクタ49は、吸気チャンバ74の出口73の軸心(スロットルボディ76の軸線)AXを挟んでインジェクタ75の反対側に配置される。本実施形態では、側面視でスロットルボディ76の軸線AXに対して、前方にインジェクタ75の噴射口75aが配置され、後方にメインインジェクタ49の噴射口49aが配置される。これにより、スロットルボディ76の軸線AXに対して前後の燃料分布の偏りを抑制できる。より具体的には、インジェクタ75の軸線IXは、スロットルボディ76の軸線AXに対して、吸気ポート47(下方)に向かって後方に傾斜している。メインインジェクタ49の軸線MXは、スロットルボディ76の軸線AXに対して、吸気ポート47(下方)に向かって前方に傾斜している。
【0034】
図2に示すように、インジェクタ75の燃料配管19は、インジェクタ75の上方を幅方向に延びるデリバリパイプ21から前方に延びた後で後方に延び、前記燃料ポンプ17に接続されている。燃料配管19は、後述の逃がし配管83と反対側である吸気チャンバ74の左側を通過して、吸気チャンバ74の前方から後方に延びる。これにより、燃料配管19と逃がし配管83との干渉を防ぐことができ、組立性が向上する。燃料配管19が、吸気チャンバ74の側方を通過することで、燃料配管19と吸気チャンバ74の上方の部材、例えば、燃料タンクとの干渉を防ぐことができ、設計の自由度が向上する。インジェクタ75の詳細は後述する。
【0035】
図3の過給機42の後端は、クランクケース28の後端近傍に配置されている。吸気チャンバ74は、過給機42の前方斜め上方でシリンダヘッド32およびスロットルボディ76の後方斜め上方に配置されている。エアクリーナ40は、吸気チャンバ74の下方に配置されている。これら吸気チャンバ74およびスロットルボディ76の上方に、
図1に示す燃料タンク15が配置されている。吸気チャンバ74およびインジェクタ75は、側面視で燃料タンク15の下部に重なっている。
【0036】
吸気チャンバ74の上面は側面視で、前方に向かって上方に傾斜しており、インジェクタ75は、吸気チャンバ74の上面の最上部から前後方向にずれた位置に配置されている。本実施形態では、インジェクタ75は、前方にずれた位置に配置されている。これにより、インジェクタ75が吸気チャンバ74から上方に突出する量を抑えることができる。
【0037】
図3に示す吸気チャンバ74およびスロットルボディ76により、過給機42によって加圧された吸気をエンジンEに供給する過給気通路が形成されている。吸気チャンバ74の前部に、吸気チャンバ74に一体形成された接続パイプ79を介して、吸気チャンバ74の空気圧力を調整するリリーフ弁80が接続されている。
図2に示すように、リリーフ弁80に、高圧空気Aをエアクリーナ55に送るリリーフ通路82を構成する逃がし配管83が接続されている。逃がし配管83は、吸気チャンバ74の右側方を通って後方斜め下方に延びたのち、吸気チャンバ74の下方で、シリンダブロック30およびシリンダヘッド32と過給機42との間を、左側方に延びてエアクリーナ55に接続される。
【0038】
図1に示す吸気ダクト70は、エンジンEの一側方である左側方に配置されており、吸気ダクト70の前端開口70aを前記フロントカウル22の空気取入口24に臨ませた配置でヘッドパイプ4に支持されている。吸気ダクト70は、前端開口70aから導入した空気をラム効果により昇圧させる。
図2に示す吸気ダクト70の後端部70bにエアクリーナ40が接続されている。このように、吸気ダクト70は、エンジンEの前方からシリンダブロック30およびシリンダヘッド32の左外側方を通過して、エアクリーナ40を介して過給機42に走行風を吸気として導いている。
【0039】
図3に示すように、吸気チャンバ74は、主要部を構成するチャンバ本体64と、スロットルボディ76との接続部を有するホルダ66とからなる。ホルダ66には、エンジンEの各気筒へのファンネル69が装着される気筒側開口68(
図4)が形成されている。ファンネル69の中空部が、吸気チャンバ74の出口73を構成する。また、前記リリーフ弁80の接続パイプ79はホルダ66に一体形成されている。
【0040】
図4は、吸気チャンバ74と過給機42を車体後方から見た背面図で、吸気チャンバ74のチャンバ本体64の一部を切り欠いた状態を示している。同図に示すように、気筒側開口68は、気筒ごとに吸気チャンバ74の車幅方向(左右方向)に並んで4つ配置されている。こうして、吸気チャンバ74の下流側は、シリンダヘッド32の幅方向寸法とほぼ同じに構成されている。
【0041】
横方向の中央部で隣接する2つの気筒側開口68,68の間の部位Pに対して、縦方向に離間した位置に入口77がある。これにより、各気筒側開口68に均等に吸気を供給できる。また、出口73(
図3)を通る、つまり気筒側開口68を通る横幅寸法W2が、吸気チャンバ74の内部空間における入口77を通る横幅寸法W1よりも大きく設定されている。吸気チャンバ74の入口77と出口73は、前後方向に離れて配置され、ほぼ同じ高さ位置に形成されている。つまり、吸気チャンバ74は、上下方向に比べて前後方向に大きく延びている。
【0042】
吸気チャンバ74の内部に、入口77近傍から前記部位Pへ延びて内部空間を2分割する区画壁からなる抑制部材88が形成されている。抑制部材88は、隣接する2つの気筒側開口68,68において、一方の気筒側開口68の近傍領域から他方の気筒側開口68の近傍へ加圧空気が移動するのを抑制する。
図5に示すように、抑制部材88は、ホルダ66に設けられて、ファンネル69の上端(入口端)とほぼ同一の高さを有する。
【0043】
気筒毎の吸気工程の時間的ずれに起因して吸気チャンバ74内でも圧力分布に偏りが生じる場合がある。隣接する気筒で順に吸気工程が起こる場合、隣接する気筒に対応して配置される2つのチャンバ出口の間に抑制部材88を配置することが好ましい。これにより、一方の気筒に対応する吸気チャンバ74の出口73付近で吸気チャンバ74内の吸気Iが吸引されたときに、他方の気筒に対応する出口73付近の吸気Iが一方の気筒に吸引されることを防ぐことができる。その結果、気筒毎に吸引される吸気Iのばらつきを防ぐことができる。
【0044】
また、例えば、車幅方向両側に位置する出口73は、側壁に隣接することから、幅方向内側に位置する出口73に比べて吸気量が大きくなる。そこで、車幅方向内側に位置する出口73と車幅方向両側に位置する出口73との間に抑制部材88を配置してもよい。このように各出口73の間を幅方向に移動する吸気Iの流れを抑制する抑制部材88を配置することで、気筒毎の吸気Iの偏りを抑制できる。
【0045】
また、吸気量が少ない出口73付近の容積が大きくなるように、出口73ごとで容積を偏らせるよう抑制部材88を配置してもよい。抑制部材88は、対向部分84のみに配置してもよいし、対向部分84から接続部分86に亘って配置してもよい。
【0046】
本実施形態の抑制部材88は、板材で形成され、幅方向に交差して配置され、前後方向および上下方向に延びている。抑制部材88には、吸気Iが抑制部材88を幅方向に通過する通過領域を形成してもよい。本実施形態では、抑制部材88が、吸気チャンバ74の前壁および後壁との間に前後方向に間隔をあけて配置され、この間隔が前記通過領域を形成している。そのほか、抑制部材88に、所定量の吸気Iが幅方向に移動するのを許容する貫通孔を形成してもよい。吸気チャンバ74の入口77付近を除いて抑制部材88が配置されることで、入口77から吸気チャンバ74の内部へ流れ込んだ吸気Iを各気筒へ向けて分配することができる。ただし、抑制部材88はなくてもよい。
【0047】
吸気チャンバ74は、吸気チャンバ74の出口の軸心AX方向から見てスロットルボディ76と対向する部分の内部空間S1を形成する対向部分84、および前記内部空間S1と入口77とを接続する部分の内部空間S2を形成する接続部分86を備えている。詳細には、対向部分84は、スロットルボディ76の上方に配置され、接続部分86は対向部分84よりも後方に配置されている。対向部分84の入口側開口と、接続部分86の出口側開口とは同じ開口面積を有し、それらが吸気Iの流れ方向に連続的に形成されている。対向部分84の入口側開口は、対向部分84の後端に配置され、対向部分84は、その入口側開口と同寸法に前後方向に延びる。
【0048】
本実施形態では、吸気チャンバ74の前壁74aが、スロットルボディ76よりも前方に突出して配置されており、この突出部分も、対向部分84に含まれている。すなわち、本実施形態では、「対向部分」は、吸気チャンバ74の出口の軸心X方向から見てスロットルボディ76に対向する部分の内部空間S1およびそれよりも下流側(
図5の左側)の内部空間を形成する部分をいう。より詳細には、対向部分84が、スロットルボディ76の近傍に位置し、吸気チャンバ74の出口を複数有し、貯留した吸気Iを各気筒に分配する機能を有する。
【0049】
接続部分86は、対向部分84と過給機42の吐出口48との間に位置し、吸気チャンバ74の入口77を有し、過給機42の吐出口48から吸気Iを対向部分84に導く機能を有する。接続部分86の上面は、後方に向かって下方に傾斜している。これにより、乗車時のライダーの姿勢の形状に沿わせやすいうえに、吸気Iが上壁に沿って滑らかに接続部分86を通過するから、エンジンEの出力が向上する。また、接続部分86の入口側開口である入口77の通路面積が、出口側開口である対向部分84との連通開口81の通路面積よりも小さく設定されている。
【0050】
より詳細には、
図2に示すように、接続部分86の出口側開口の幅寸法W3は吸気チャンバ74の幅寸法W2と同一寸法に設定され、接続部分86の入口側開口の幅寸法W1は過給機42の吐出口48の直径と同一寸法に設定されている。接続部分86の出口側開口の幅寸法W3は、シリンダヘッド32の幅方向寸法よりも大きくすることもできる。さらに、接続部分86が、入口から出口に向かって徐々に横幅が増大する扇形を構成している。接続部分86の形状は、扇形形に、例えば、三角形、台形等であってもよい。
【0051】
本実施形態では、接続部分86の出口側開口は、入口側開口よりも、幅方向寸法および幅方向に直交する方向の寸法(縦寸法)がともに大きく形成されている。さらに具体的には、接続部分86の出口側開口は幅方向に横長の形状に形成され、接続部分86の入口側開口は円形に形成され、接続部分86の出口側開口の幅方向寸法および縦寸法が、接続部分86の入口側開口の直径よりも大きく形成されている。
【0052】
図5に示すように、吸気チャンバ74の内部に、内部空間の加圧空気の流れの偏りを防ぐ整流部材90が設けられている。この実施形態では、整流部材90は、板金に多数の貫通孔(流路抵抗部)を設けたパンチングメタルからなり、吸気チャンバ74の内部空間の幅全体に延びている。整流部材90はパンチングメタルに限定されない。
【0053】
整流部材90を設けることで、吸気チャンバ74の入口77と、出口73との距離が短い場合でも、出口73に導かれる吸気Iの量の偏りを抑制することができる。整流部材90は、入口77と出口73との間で、吸気通路を横断するように配置され、流路抵抗部を幅方向に間隔をあけて複数配置することで、幅方向に流れが偏ることを抑制できる。
【0054】
本実施形態では、後方に向かって下方に傾斜するように整流部材90を配置することで、出口73に上方から対向する位置での吸気圧力の偏りを抑制できる。整流部材90の流路抵抗部の形状に車幅方向に偏りを与えることで、出口73の吸気圧力分布を偏らせて、気筒毎の吸気量のばらつきを抑制するようにしてもよい。詳細には、出力が小さい気筒に対応する出口73付近の圧力を高めるようにしてもよい。なお、整流部材90はなくてもよい。
【0055】
図3の吸気チャンバ74の内部空間の入口77から出口73までの寸法Lが、出口73のボア径Dの3倍以上である。この寸法Lは、出口73の軸心AXと直交する方向の寸法である。
【0056】
図6は吸気チャンバ74のチャンバ本体64の平面図で、
図7は吸気チャンバ74のホルダ66の平面図である。これらチャンバ本体64とホルダ66とにより、対向部分84および接続部分86が一体成形されている。
図6のチャンバ本体64は、下方に向いた開口91の周縁にフランジ部92が形成されている。このフランジ部92に、上下方向を向いた複数の挿通孔92aが形成されている。
【0057】
チャンバ本体64の後端に、吸気チャンバ74の入口77を構成する入口パイプ94が一体形成されている。吸気チャンバ74の外表面であるチャンバ本体64の前部の上面に、前方に向かって下方に傾斜する傾斜部93(
図5参照)が形成され、傾斜部93の前端からチャンバ本体64の上面の前端まで延びる取付用凹部95(
図5参照)が形成されている。
図5に示すように、取付用凹部95は、チャンバ本体64の前部の上面に比べて下方に凹んでいる。
【0058】
図6に示すように、この取付用凹部95に、前記インジェクタ75が配置されるインジェクタ座面97が幅方向に並んで気筒毎に、具体的には、4つ形成されている。インジェクタ75を気筒毎に設けることで、空燃比のばらつきが抑制されるとともに、同時に噴射可能な燃料量を増やすことができる。インジェクタ座面97は、取付用凹部95からさらに下方へ凹んでいる。このように、インジェクタ座面95を、チャンバ本体64の前部の上面の下方に配置することで、吸気チャンバ74の容量を確保しつつ、インジェクタ75の上方への突出量を抑えることができる。
【0059】
各インジェクタ座面97に、インジェクタ75が装着されるインジェクタ取付孔96が形成されている。この取付用凹部95における各インジェクタ座面97の近傍に、上方を向いたねじ孔からなる燃料パイプ取付孔99が形成されている。
【0060】
図7のホルダ66は、上方に向いた開口101の周縁にフランジ部98が形成されている。このフランジ部98におけるチャンバ本体64の挿通孔92a(
図6)に対応する位置に、上下方向を向いたねじ孔98aが形成されている。
【0061】
ホルダ66の前端に形成された2つの前記接続パイプ79が、ホルダ66の前壁に設けた貫通孔100を介して、吸気チャンバ74の内部空間に連通している。吸気チャンバ74の出口73周りの内部空間を増やすために、吸気チャンバ74の前部における車幅方向中間部を車幅方向外側部に比べて前方に膨らませてもよい。これによって出口73付近での吸気圧力が低下するのを抑制できる。本実施形態では、2本の接続パイプ79で形成される空間を用いて、出口73周りの車幅方向内側の内部空間を大きくしている。
【0062】
ホルダ66の前後方向中央部に、幅方向に並んで4つの前記気筒側開口68が形成されている。各気筒側開口68の前側および後側に、上下方向を向いたねじ孔からなるファンネル取付孔102,102がそれぞれ形成されている。また、各気筒側開口68の両側に、上下方向を向いた貫通孔からなるボルト挿通孔104が形成されている。
【0063】
つぎに、インジェクタ75について説明する。
図3に示すように、インジェクタ75は、インジェクタ75の軸心IXが、吸気チャンバ74の出口の軸心AXに対して傾斜して配置されている。詳細には、軸心AXは鉛直方向から若干後方に傾斜し、インジェクタ75の軸心IXは、前方から斜め後方下方に向けて傾斜するよう配置されている。また、インジェクタ75の燃料噴射口75aは、吸気チャンバ74の出口の軸心AXから変位した位置に設けられている。
【0064】
インジェクタ75の上端と吸気チャンバ74の上端とは、ほぼ同じ高さに位置している。インジェクタ75の上端を、吸気チャンバ74の上端よりも低くなるように設置することが好ましい。吸気チャンバ74の前面は、インジェクタ75の前面よりも前方に位置している。
【0065】
吸気チャンバ74の組立および取付について説明する。まず、ホルダ66をスロットルボディ76に固定する。具体的には、スロットルボディ76の入口に、
図7のホルダ66の気筒側開口68を合致させた状態で、上方からボルト挿通孔104にボルト(図示せず)を挿通する。その後、ボルトを
図5のスロットルボディ76に設けたねじ孔(図示せず)に締め付けることで、ホルダ66をスロットルボディ76に固定する。
【0066】
つづいて、ホルダ66にファンネル69を取り付ける。具体的には、
図7のホルダ66の内側から、気筒側開口68にファンネル69を被せ、ファンネル取付孔102にボルト(図示せず)を締め付ける。これにより、ファンネル69をホルダ66に取り付ける。
【0067】
つぎに、ホルダ66の接続パイプ79に、
図2のリリーフ弁80を取り付ける。具体的には、接続パイプ79の外周面にリリーフ弁80を嵌め込み、ゴムパイプのような押圧手段により嵌合部をリリーフ弁80の外周面を押し付ける。これにより、リリーフ弁80が接続パイプ79に取り付けられている。
【0068】
さらに、チャンバ本体64に、インジェクタ75およびデリバリパイプ21を取り付ける。まず、デリバリパイプ21に4つのインジェクタ75を取り付けておく。この状態で、各インジェクタ75を、
図6に示すチャンバ本体64の対応するインジェクタ取付孔96に装着し、図示しないボルトを用いて上方からデリバリパイプ21(
図4)を燃料パイプ取付孔99に取り付ける。
【0069】
つづいて、
図3のホルダ66とチャンバ本体64とを連結する。まず、上述のようにして、過給機42の吐出口48とチャンバ本体64に設けた吸気チャンバ74の入口77とを接続して、チャンバ本体64の前部を過給機42に固定する。その後、ホルダ66とチャンバ本体64とをねじ連結する。最後に、
図2に示すデリバリパイプ21と、燃料配管19とを接続する。
【0070】
つぎに、エンジンEの吸気系の動作について説明する。自動二輪車が走行すると、走行風が
図1の空気取入口24から吸気ダクト70に吸気Iとして取り入れられる。吸気Iは、吸気ダクト70内を後方に向かって流れ、車幅方向内側に向きを変えながら
図2のエアクリーナ40へ導かれる。
【0071】
エアクリーナ40に導かれた吸気Iは、エアクリーナ40内で浄化された後、過給機42に導入される。過給機42に導入された吸気Iは、インペラ50で昇圧されたのち、吐出口48から導出される。過給機42から導出された高圧の吸気Iは、
図4に示すように、吸気チャンバ74内で膨張されながら気筒側開口68に向かって流れる。この気筒側開口68に向かって流れる過程で、吸気Iの温度が低下する。
【0072】
吸気Iは、
図5に示す整流部材90によって、流れの偏りが抑制されて気筒側開口68に向かう。整流部材90を通過した吸気Iに、インジェクタ75から燃料Fが噴射される。燃料Fが噴射された吸気Iは、燃料Fの気化熱によりさらに温度が低下し、ファンネル69からスロットルボディ76を経由してエンジンEの吸気ポート47(
図1)に供給される。インジェクタ75は、噴霧状に燃料を噴射するので、広範囲で気化熱による温度低下を達成できる。この実施形態では、過給機42から吸気チャンバ74に導入された時点で、約150℃であった吸気Iが、吸気チャンバ74を通過する間に、約130℃まで温度が低下している。
【0073】
また、過給機42よりも下流側の過給気通路内の圧力が所定値よりも高くなると、吸気チャンバ74に設けられた
図2のリリーフ弁80が開動作し、吸気チャンバ74を含む過給気通路内の圧力を調整する。リリーフ弁80から逃がされた高圧空気Aは、リリーフ通路82を構成する逃がし配管83を通って、エアクリーナ40に導入される。
【0074】
このように、本実施形態の吸気チャンバ構造を採用することで、吸気Iを冷却する冷却手段、いわゆるインタークーラを設けなくても、吸気温度を低下させて要求される出力を得ることができる。その結果、インタークーラを省略した分、構造を簡単化して製造コストを低減することができる。
【0075】
つぎに、吸気チャンバ74の内部空間の容積Vについて説明する。「吸気チャンバの内部空間の容積」とは、吸気チャンバ74の出口73を吸気チャンバ74の内面の延長面で横切った場合のチャンバ全体が形成する容量をいう。本実施形態のように、吸気チャンバ74の入口77が過給機42の吐出口48に直接接続されている場合、吸気チャンバ74の容積は、過給機42の吐出口48からスロットルボディ76の入口までの容積としてもよい。吸気チャンバ74の内部空間の容積Vが、エンジンEの排気量Xの2倍以上である。吸気チャンバ74の容積Vが排気量の2倍未満であると、吸気温度を充分低下させることができない可能性がある。
【0076】
前記内部空間の容積Vが、エンジンの排気量の3〜8倍であることが好ましい。この実施形態では、エンジンEの排気量が1000ccで、吸気チャンバ74の内部空間の容積Vを6000ccとしている。吸気チャンバ74の容積Vが、排気量の3倍以上であることで、吸気温度をさらに低下させることができる。また、吸気チャンバ74の容積Vを排気量の8倍より大きくすると、非加圧状態から加圧状態に達するまでの時間差が大きくなり、ライダーの操作に対する出力応答性が低下する場合がある。
【0077】
換言すれば、エンジンの気筒数がn、エンジンの排気量がXのとき、チャンバの内部空間の容積Vは、好ましくは、(V/n)≧0.5Xに設定されている。チャンバの内部空間の容積Vが、(V/n)≧Xに設定されていることがより好ましい。
【0078】
より詳細には、
図7に示すように、隣接する各気筒側開口68の中心、つまり隣接する出口73間の中間点P1を含み、気筒側開口68の並び方向(幅方向)に垂直で且つ気筒側開口68の軸心AXと平行な平面PLで分割することで得られる4個の分割領域R1〜R4の内部空間の容積V1〜V4のうち、最小値(この実施形態では、分割領域R1の内部空間の容積V1)がエンジンEの排気量Xの半分よりも大きくなるように、吸気チャンバ74の内部空間の容積Vが設定されている。4個の分割領域R1〜R4は、左側から右側に向かって分割領域R1〜R4の順に並んでいる。前記最小値V1が、排気量Xよりも大きくなるように吸気チャンバ74の内部空間の容積Vが設定されていることがより好ましい。
【0079】
吸気チャンバ74の出口73が気筒毎に設けられているので、総合的に見て出口73の面積が大きくなる結果、気筒からの吸引時の通路抵抗が少なくなり、その分、吸気チャンバ74の容積Vを大形化する必要がある。そこで、吸気チャンバ74の容積Vは、気筒ごとの排気量の8倍以上であることが好ましい。また、吸気チャンバ74の容積Vは、気筒ごとのシリンダ容積の12倍以上で32倍以下であることがさらに好ましい。
【0080】
単位時間あたりの過給機の吐出量は、単位時間あたりのエンジンの排気量よりも大きく設定されている。これによって一気圧よりも高い空気を気筒に導くことができる。具体的には、気体の標準状態(SATP)で、出入口が標準状態である場合に過給機42のインペラ50が一回転した場合の過給機42の吐出量をαリットルとし、クランクシャフト一回転での過給機42の増速比をβとし、エンジンの排気量をγとした場合には、(2×α×β)>γに設定されている。過給機42の吐出量とエンジンの吸気量とを調整することで、吸気チャンバ74の内部が所定圧力以上にならないように設定されている。本実施形態では、走行風を過給機に導くことで、入口側の圧力を高めることができ、過給機の吐出量をさらに増大させることができる。
【0081】
吸気チャンバ74の内部の圧力は、好ましくは1.5bar以上、より好ましくは2bar以上に設定され、本実施形態では、2.5barに設定されている。吸気チャンバ74の内部の圧力を大気圧より大きくすることで、気筒への充填量が増えてエンジン出力が向上する。吸気チャンバ74の内部が所定圧Pa(bar)に設定される場合、前記所定圧Paを大気圧Pbで除した値(Pa/Pb)を排気量Qに乗算した値以上の吸気チャンバ74の容積V(≧(Pa/Pb)×Q)に設定されることが好ましい。吸気チャンバ74の容積Vが、この値よりも小さく設定される場合には、エンジンEへの吸気Iによって吸気チャンバ74の内部の圧力分布に偏りが生じたり、十分な吸気Iをエンジンへ供給しにくくなったりする可能性がある。
【0082】
さらに、例えばリリーフ弁80が作動する最大圧をPcと設定する場合、最大圧Pcを大気圧Pbで除した除算値(Pc/Pb)を排気量Qに乗算した値以上の吸気チャンバ74の容積V(≧(Pc/Pb)×Q)に設定されることが好ましい。
【0083】
クランク軸に対する過給機の増速比をN,最高出力時の過給機の回転数をA(rpm)、最高出力時の過給機の吐出質量流量をB(kg/秒)とすると、クランク軸1回転あたりに吐き出される空気の質量Mは、M=(B×60)/(A/N)から得られる。ここで、最高出力時の吸気チャンバ74内の空気の質量Cは、C≧4Mであることが好ましい。
【0084】
つまり、最高出力時の吸気チャンバ74は、最高出力時のクランク軸1回転あたりに吐出される空気の質量Mの4倍以上の質量の空気を貯留することが可能な大きさに形成されている。より好ましくは、吸気チャンバ74は、質量Mの5倍以上15倍以下の質量の空気を貯留することが可能な大きさに形成され(15M≧C≧5M)、本実施形態では、10倍の質量の空気を貯留できる(C=10M)。
【0085】
吸気チャンバの容積が大き過ぎると、運転者のスロットル開操作に対する出力応答性が低下する恐れがある。そこで、吸気チャンバ74内部の圧力が大気圧の状態から最高出力での回転数で過給機42が回転したときに、例えば、0.1秒以下で吸気チャンバ74内の圧力が最高出力時に設定される所定圧力に満たされることが好ましく、0.05秒以下であることがより好ましい。本実施形態では、約0.025秒に設定されている。
【0086】
吸気チャンバ74の容積Vを上述のように設定することによっても、前記インタークーラを設けることなく、要求されるエンジン出力を得ることができ、インタークーラを省略した分、構造を簡単化して製造コストを低減することができる。さらに、上述のような吸気チャンバ74の内部で噴霧状の燃料を噴射するインジェクタ75を組み合わせることで、吸気チャンバ74の内部の吸気温度をさらに低下させることができる。
【0087】
上記構成において、本願発明者は、スロットルボディ76よりも上流で吸気を貯留する容積を大きくすると、エンジンの出力が向上することを見い出した。しかしながら、スロットルボディ76付近で幅方向寸法や上下方向寸法を大きくすると、自動二輪車の寸法が大きくなったり、配置設計の自由度が低くなったりしてしまう。そこで、
図2に示すように、従来は過給機42と吸気チャンバ74との接続パイプとして使用されていた部分である接続部分86を、吸気チャンバ74の一部として利用することで、吸気チャンバ74の容積Vを大きくした。これにより、スロットルボディ付近でのチャンバ形状を維持でき、自動二輪車の大形化や設計自由度の低下を抑えつつ、エンジンEの出力を向上させることができる。
【0088】
また、接続部分86の出口側開口の幅寸法W3は吸気チャンバ74の幅寸法W2と同一寸法に設定され、接続部分86の入口開口の幅寸法W1は過給機42の吐出口48の直径と同一寸法に設定され、接続部分86が、入口から出口に向かって徐々に横幅が増大している。これにより、吸気の流速が徐々に小さくなるので、減速に伴って吸気流の乱れが抑制されて、吸気効率が向上する。
【0089】
図5に示すように、過給機42の吐出口48が対向部分84に対して後方に離れて配置されているので、接続部分86の前後方向寸法を大きくして、吸気チャンバ74の容量を大きくできる。
【0090】
図5の過給機42のインペラ軸51が、クランクケース28(
図3)の後部の上方に位置し、過給機42の吐出口48が、インペラ軸51よりも後方に位置している。このように、過給機42の吐出口48と対向部分84との前後方向寸法を大きくして接続部分86を大きくすることにより、吸気チャンバ74の容量を大きくできる。
【0091】
図1に示すように、エンジンEの前方を流れる走行風を過給機42に導く吸気ダクト70がシリンダブロック30の側方を通過している。これにより、吸気チャンバ74と吸気ダクト70との干渉を防いで、吸気チャンバ74の容量を大きくできる。
【0092】
エンジンEのシリンダヘッド32が前方に傾斜して配置され、対向部分84(
図5)が、シリンダブロック30の後方斜め上方に配置されている。これにより、シリンダヘッド32が前方に傾斜している分だけ、吸気チャンバ74を前後方向に大きくできる。
【0093】
図5に示す吸気チャンバ74の前壁74aが、対向部分84におけるスロットルボディ取付部よりも前方に突出して配置されている。これにより、前壁74aが前方に突出している分だけ、吸気チャンバ74を前後方向に大きくできる。
【0094】
吸気チャンバ74の内部空間の入口側の上流端部から出口側の下流端部までの寸法を、
図7の出口73のボア径Dの3倍以上とすることにより、入口77から出口73の距離(寸法L)が長くなる。これにより、吸気チャンバ74の外壁からの放熱により、吸気温度を下げることができ、エンジンの出力が向上する。
【0095】
図4に示すように、各気筒に対応する4つの出口73、つまり気筒側開口68が吸気チャンバ74の横方向に並んでおり、隣接する中央の2つの気筒側開口68において、一方の気筒側開口68の近傍領域から他方の気筒側開口68の近傍へ吸気Iが移動するのを抑制する抑制部材88が設けられている。これにより、各気筒に、均等に吸気Iを供給できる。
【0096】
図5に示すように、吸気チャンバ74の内部に、吸気Iの流れの偏りを防ぐ整流部材90が設けられているので、吸気ポート47に、安定して吸気Iを供給できる。
【0097】
本願発明者は、吸気チャンバ74の内部空間の容積Vを大きくすることで、過給機42から吐出された吸気Iの温度が低下することを見い出した。このように、吸気の温度を下げることで、ノッキングを避けながらエンジンの点火時期を早くして、エンジンの出力向上を達成できる。吸気チャンバ74の内部空間の容積Vが、エンジンの排気量の2倍以上であれば、十分なエンジン出力の向上が達成される。また、吸気チャンバ74の内部空間の容積Vがエンジンの排気量の8倍を超えると、運転者のスロットル開操作に対する出力応答性が低下する恐れがあるので、容積Vはエンジン排気量の3〜8倍であることが好ましい。自動二輪車に適用する場合、吸気チャンバ74の容積Vは、8000cc(8リットル)以下に設定されていることが好ましい。
【0098】
吸気チャンバ74の内部空間の入口側の上流端部から出口側の下流端部までの寸法が、
図7の出口73を形成するボア径Dの3倍以上であり、入口から出口の距離が長くなる。これにより、吸気チャンバ74の外壁からの放熱により、吸気温度を下げることができ、エンジンの出力が向上する。
【0099】
換言すれば、吸気チャンバ74の内部空間の容積Vは、エンジンの気筒数がn、エンジンの排気量がXのとき、(V/n)≧0.5Xに設定される。さらに、容積Vが、(V/n)≧Xに設定されていることがより好ましい。これにより、エンジンの1回の吸気行程で吸引される容量以上の容積があるので、圧力低下を一層防ぐことができる。
【0100】
さらに、4個の分割領域R1〜R4の内部空間の容積V1〜V4のうち、最小値V1がエンジン排気量Xの半分よりも大きくなるように、吸気チャンバ74の内部空間の容積Vが設定されている。容積Vは、最小値V1がエンジン排気量Xよりも大きくなるように設定されていることが好ましい。これにより、十分な吸気チャンバの内部空間の容積Vが確保され、吸気圧力の低下を一層抑制することができる。
【0101】
また、クランクシャフト1回転あたりに過給機42から吐出される吸気Iの質量Mに対し、最高出力発生条件において吸気チャンバの内部に貯留される吸気の質量Cは、C≧4Mに設定されている。このように設定することによっても、エンジンの出力向上を達成できる。
【0102】
図5に示すインジェクタ75から噴射される燃料Fの気化熱で、吸気Iが冷却されるので、エンジンの点火時期を所望の時期に近づけることができ、その結果、エンジン出力が向上する。また、インジェクタ75の燃料噴射口75aが、吸気チャンバ74の出口73の軸心AXから変位した位置に配置されている。これにより、燃料噴射口75aと出口73との距離が長くなり、気化熱を効果的に利用でき、冷却効果が上昇する。
【0103】
また、吸気チャンバ74の上面に、インジェクタ75が配置され、インジェクタ75の軸心IXが、出口軸心AXに対して傾斜して配置されているから、インジェクタ75の吸気チャンバ74からインジェクタ75の上方への突出量が抑制される。その結果、吸気チャンバ74の上方に配置される燃料タンク15のスペースを圧迫しない。
【0104】
さらに、吸気チャンバ74の後部に入口77が、前部に出口である気筒側開口68(
図4)がそれぞれ形成され、インジェクタ75の軸心IXが、前方から斜め後方下方に向けて傾斜するよう配置されている。これにより、インジェクタ75が吸気チャンバ74の前部の上面を圧迫しないので、吸気チャンバ74の上方に燃料タンク15を容易に配置できる。
【0105】
また、吸気チャンバ74の上面の取付用凹部95に、インジェクタ75が装着されているので、インジェクタ75が、吸気チャンバ75の外表面から突出する長さを抑制できる。
【0106】
吸気チャンバ74は、放熱性の高いアルミニウム合金製で構成されているので、インジェクタ75を吸気チャンバ74に安定して支持できるとともに、吸気チャンバ74の外壁からの吸気Iの放熱が促進され、吸気温度をより効果的に下げることができる。
【0107】
図3に示すように、エンジンEのシリンダブロック30の後方斜め上方に、吸気チャンバ74が配置され、吸気チャンバ74の上面にインジェクタ75が配置され、吸気ダクト70がシリンダブロック30の側方を通過している。これにより、吸気ダクト70がエンジンEの上方を通過する場合に比べて、インジェクタ75とエンジン上方に配置される部材、例えば燃料タンク15との干渉を防ぐことができる。その結果、エンジン上方の配置設計の自由度を向上できる。
【0108】
また、吸気チャンバ74が側面視で、後方に向かって下方に傾斜しているので、吸気チャンバ74の後半部が低くなる。その結果、吸気チャンバ74の上方に配置される燃料タンク15の後部の容量を大きくすることができる。
【0109】
さらに、吸気チャンバ74の上面に配置されたインジェクタ75の上端と、吸気チャンバ74の上端とが、ほぼ同じ高さに位置しているので、インジェクタ75が、吸気チャンバ74から上方に突出するのを防ぐことができる。
【0110】
図2に示すように、インジェクタ75の燃料配管19は、デリバリパイプ21から前方に延びた後で、燃料ポンプ17に接続されている。これにより、燃料配管19が吸気チャンバ74の上面から上方に突出しない。
【0111】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。例えば、上記実施形態では、過給機42の吐出口48はほぼ上方を向いていたが、上方斜め後方を向いていてもよい。これにより、吸気チャンバ74の入口77がより後方に位置することになるので、吸気チャンバ74の前後方向寸法が大きくなって、吸気チャンバ74の容量を稼ぐことができる。
【0112】
また、接続部分86は、過給機42の吐出口48と対向部分84との間に配置されればよく、
図8に示すように吐出口48が対向部分84の下方に位置する場合、接続部分86は、吐出口48の上方で、且つ対向部分84の下方に配置される。さらに、過給機42の吐出口48は、クランクケース28の車幅方向中央のほか、車幅方向一方に偏って配置されてもよい。
【0113】
また、本発明は、自動二輪車以外の鞍乗型車両、例えば、二輪以上の車輪を有するバギー車にも適用できる。そのほかにも、特に、車幅方向寸法が制限されるような車両に好適に用いることができる。さらに、過給機は、エンジンの動力以外の動力によって駆動されてもよく、例えば、エンジンの排気エネルギを用いたり、別途電動モータを用いたりしてもよい。また、遠心式のほかルーツ式の過給機を用いてもよい。さらに、吸気チャンバ74内の吸気Iを冷却するインタークーラを設けてもよい。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。