(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
更に、ゲル浸透クロマトグラフィにより測定した微分分子量分布曲線のポリスチレン換算分子量が10^3.5以上10^6.0未満の領域にピークトップを有するポリ塩化ビニル系樹脂成分(B)を含むことを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
ゲル浸透クロマトグラフィにより測定した微分分子量分布曲線のポリスチレン換算分子量が10^7.0を超える領域にピークトップを有する成分を含まないことを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
更に、ゲル浸透クロマトグラフィにより測定した微分分子量分布曲線のポリスチレン換算分子量が10^3.5以上10^6.0未満の領域にピークトップを有するポリ塩化ビニル系樹脂成分(B)を含み、かつ、ゲル浸透クロマトグラフィにより測定した微分分子量分布曲線のポリスチレン換算分子量が10^7.0を超える領域にピークトップを有する成分を含まないことを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
成分(A)
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなるフィルムは、このフィルムのゲル浸透クロマトグラフィ(以下GPCと略すことがある。)により測定した微分分子量分布曲線(以下GPC曲線と略すことがある。)のポリスチレン換算分子量が10^6.0以上10^7.0以下の領域にピークトップを有するポリ塩化ビニル系樹脂成分(A)を含む。
【0012】
成分(A)は、GPC曲線のポリスチレン換算分子量が10^6.0以上10^7.0以下の領域にピークトップを有する超高分子量ポリ塩化ビニル系樹脂成分であり、フィルムの耐低温衝撃性の改良に重要な働きをする。GPC曲線のピークトップのポリスチレン換算分子量が10^6.0以上であることによって、十分な耐低温衝撃性の改良効果を得ることができる。GPC曲線のピークトップのポリスチレン換算分子量が10^7.0以下であることによって、良好なフィルムの外観を得ることができる。成分(A)のGPC曲線のピークトップのポリスチレン換算分子量の下限は、好ましくは、10^6.2以上である。また、成分(A)のGPC曲線のピークトップのポリスチレン換算分子量の上限は、好ましくは10^6.8以下である。さらに、成分(A)のGPC曲線のピークトップのポリスチレン換算分子量は、10^6.2以上10^6.8以下であることが、好ましい。
【0013】
成分(A)の超高分子量ポリ塩化ビニル系樹脂成分としては、GPC曲線のピークトップのポリスチレン換算分子量が上記範囲であること以外は、特に限定されず、任意の方法で得たものを用いることができる。
【0014】
例えば、成分(A)として、ポリ塩化ビニル系樹脂の重合度をポリスチレン換算分子量が上記範囲になるように高めた、高重合度ポリ塩化ビニル系樹脂を挙げることができる。
【0015】
上記、高重合度ポリ塩化ビニル系樹脂は、ポリスチレン換算分子量が上記範囲であること以外は、当業界にて公知のポリ塩化ビニル系樹脂と同様の化学組成の樹脂である。このようなポリ塩化ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、塩化ビニル・マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル・エチレン共重合体、塩化ビニル・プロピレン共重合体、塩化ビニル・スチレン共重合体、塩化ビニル・イソブチレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル・スチレン・無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル・スチレン・アクリロニトリル三元共重合体、塩化ビニル・ブタジエン共重合体、塩化ビニル・イソプレン共重合体、塩化ビニル・塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン・酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル・アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル・各種ビニルエーテル共重合体等の塩化ビニル及び塩化ビニルと共重合可能な他のモノマーの共重合体;などの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0016】
成分(A)としての超高分子量ポリ塩化ビニル系樹脂成分の他の一例としては、通常の重合度のポリ塩化ビニル系樹脂、例えば重合度700〜2000のポリ塩化ビニル系樹脂をポリスチレン換算分子量が上記範囲になるように架橋反応させた架橋体を挙げることができる。成分(B)としても言及される通常の分子量のポリ塩化ビニル系樹脂を用いた成分(A)の製造方法は、一実施形態として具体的に後述するが、成分(A)の製造方法はそこに限定されるわけではない。
【0017】
この通常の重合度のポリ塩化ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、塩化ビニル・マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル・エチレン共重合体、塩化ビニル・プロピレン共重合体、塩化ビニル・スチレン共重合体、塩化ビニル・イソブチレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル・スチレン・無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル・スチレン・アクリロニトリル三元共重合体、塩化ビニル・ブタジエン共重合体、塩化ビニル・イソプレン共重合体、塩化ビニル・塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン・酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル・アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル・各種ビニルエーテル共重合体等の塩化ビニル及び塩化ビニルと共重合可能な他のモノマーの共重合体;などの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0018】
本明細書において、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)の測定は、典型的には以下のように行うことができる。
システムとして、日本分光株式会社の高速液体クロマトグラフィシステム「LC−2000Plus(商品名)」(デガッサー、送液ポンプ「PU−2080(商品名)」、オートサンプラー「AS−2055(商品名)」、カラムオーブン及びRI(示差屈折率)検出器を含むシステム。)を用い;
カラムとして、昭和電工株式会社のスチレンジビニルベンゼン共重合体カラム「GPC KF−806L(商品名)」2本を連結して用い;
和光純薬工業株式会社の特級テトラヒドロフラン(安定剤不含)を移動相として;
流速1.0ミリリットル/分、カラム温度40℃、試料濃度1.5ミリグラム/ミリリットル、試料注入量100マイクロリットルの条件で測定する。なお、各保持容量における溶出量は、ポリ塩化ビニル系樹脂の屈折率の分子量依存性が無いと見なしてRI検出器の検出量から求める。
【0019】
上記移動相に使用したテトラヒドロフラン10ミリリットルに、試料として裁断フィルム15ミリグラムを投入し、室温で静置して溶解後、トムシック(TOMISIC)株式会社のシリンジフィルター「TITAN3−PTFE(商品名)」のポアサイズ0.45μmのものを使用して濾過し、調製する。また、保持容量からポリスチレン換算分子量への較正曲線は、アジレントテクノロジー(Agilent Technology)株式会社の標準ポリスチレン「EasiCal PS−1(商品名)」(Plain Aの分子量6870000、841700、152800、28770、2930;Plain Bの分子量2348000、327300、74800、10110、580)を使用して作成する。解析プログラムは、日本分光株式会社の「ChromNAV GPC(商品名)」を使用する。なお、カラムとしては、「GPC KF−806L(商品名)」2本を連結して用いる以外に、「GPC KF−802(商品名)」1本および「GPC KF−801(商品名)」1本を連結して用いることもでき、また、「GPC KF800D(商品名)」等1本を「GPC KF−806L(商品名)」2本に連結して用いることもできる。
【0020】
GPCの理論及び測定の実際については、共立出版株式会社の「サイズ排除クロマトグラフィー 高分子の高速液体クロマトグラフィー、著者:森定雄、初版第1刷1991年12月10日」などの参考書を参照することができる。
【0021】
成分(B)
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなるフィルムは、一実施態様において、成分(A)を含み、更にGPC曲線のポリスチレン換算分子量が10^3.5以上10^6.0未満の領域にピークトップを有するポリ塩化ビニル系樹脂成分(B)を含む。また、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなるフィルムは、他の実施態様において、GPC曲線のポリスチレン換算分子量が10^7.0を超える領域にピークトップを有する成分を含まない。また、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなるフィルムは、さらなる他の実施態様において、成分(A)を含み、更にGPC曲線のポリスチレン換算分子量が10^3.5以上10^6.0未満の領域にピークトップを有するポリ塩化ビニル系樹脂成分(B)を含み、かつ、GPC曲線のポリスチレン換算分子量が10^7.0を超える領域にピークトップを有する成分を含まない。
【0022】
成分(B)は、通常の分子量のポリ塩化ビニル系樹脂成分である。ポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなるフィルムの低温耐衝撃性のみを考慮すれば、この組成物中の全てのポリ塩化ビニル系樹脂が超高分子量の成分(A)であっても良い。しかし、工業的には、より小さいモーター負荷で、より速い製膜速度でフィルム製品を得ることが有利であるため、成分(B)を用いることが好ましい。
【0023】
GPC曲線における成分(B)のピークトップのポリスチレン換算分子量が10^3.5以上であることによって、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなるフィルムの引張強度を良好に保つことができる。GPC曲線における成分(B)のピークトップのポリスチレン換算分子量が10^6.0未満であることによって、製造時のモーター負荷低減効果を得ることができる。GPC曲線における成分(B)のピークトップのポリスチレン換算分子量の下限は、さらに好ましくは10^4.0以上である。また、GPC曲線における成分(B)のピークトップのポリスチレン換算分子量の上限は、さらに好ましくは10^5.5以下である。また、GPC曲線における成分(B)のピークトップのポリスチレン換算分子量は、好ましくは10^4.0以上10^5.5以下であってよい。
【0024】
成分(B)のポリ塩化ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、塩化ビニル・マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル・エチレン共重合体、塩化ビニル・プロピレン共重合体、塩化ビニル・スチレン共重合体、塩化ビニル・イソブチレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル・スチレン・無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル・スチレン・アクリロニトリル三元共重合体、塩化ビニル・ブタジエン共重合体、塩化ビニル・イソプレン共重合体、塩化ビニル・塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン・酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル・アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル・各種ビニルエーテル共重合体等の塩化ビニル及び塩化ビニルと共重合可能な他のモノマーの共重合体;などの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0025】
成分(B)のポリ塩化ビニル系樹脂の重合度は、ポリスチレン換算分子量が上記範囲である限り特に限定されるものではないが、通常700〜2000であってよい。
【0026】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなるフィルムは、GPC曲線のポリスチレン換算分子量が10^7.0を超える領域にピークトップを有する成分を含まないことによって、フィルムの外観をさらに良好に保つことができる。
【0027】
次に、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなるフィルムが成分(A)及び(B)を含む態様におけるこれらの成分の含量の計算について説明する。
ここでは、ポリ塩化ビニル系樹脂が成分(A)及び(B)以外の成分を含まない(当該樹脂が成分(A)及び(B)のみからなる)場合の各成分の含量計算について例示する。すなわち、ここでの成分(A)及び(B)の含量は、それらの和が100質量%であることを前提として算出された値である。
【0028】
上記方法で得られたGPC曲線において、近似的に、ポリ塩化ビニル系樹脂中の成分(A)及び(B)の含量とみなすことができる値は、以下の式に従って計算される。
成分(A)の含量 = 以下の(i)の値/以下の(iii)の値
成分(B)の含量 = 以下の(ii)の値/以下の(iii)の値
(i):極小値をとる位置から、ポリスチレン換算分子量10^7.0以上であってGPC曲線の傾きが安定的にゼロになる位置までの部分の面積
(ii):ポリスチレン換算分子量10^3.5近傍であってGPC曲線の傾きが安定的にゼロになる位置から、極小値をとる位置までの部分の面積
(iii):ポリスチレン換算分子量10^3.5近傍であってGPC曲線の傾きが安定的にゼロになる位置から、ポリスチレン換算分子量10^7.0以上であってGPC曲線の傾きが安定的にゼロになる位置までの部分の面積
GPC曲線からの面積比の計算と成分(A)及び(B)の含量との関係についての概念図を、
図1に示す。図中において、「1」は成分(A)のピーク、「2」は成分(A)の含量とみなされる面積、「3」は成分(B)のピーク、「4」は成分(B)の含量とみなされる面積、「5」はポリスチレン換算分子量10^3.5近傍であってGPC曲線の傾きが安定的にゼロになる位置、「6」はGPC曲線が極小値をとる位置、「7」はポリスチレン換算分子量10^7.0以上であってGPC曲線の傾きが安定的にゼロになる位置を示す。
【0029】
このように算出される成分(A)の含量は、低温耐衝撃性の改良効果発現の観点から、下限について好ましくは0.5質量%以上であってよく、より好ましくは1質量%以上であってよい。また、成分(A)の含量は、樹脂組成物の製造効率の観点から、上限について好ましくは10質量%以下であってよく、より好ましくは6質量%以下であってよい。さらに、上述のように算出される成分(A)の含量は、好ましくは、0.5質量%以上10質量%以下であってよく、より好ましくは、1質量%以上6質量%以下であってよい。また、上記のように算出される成分(B)の含量の下限は、フィルム製造時のモーター負荷低減効果発現の観点から、90質量%以上であってよい。また、成分(B)の含量の上限は、成分(A)による低温耐衝撃性の改良効果発現の観点から、99.5質量%以下であってよい。これらの量的関係をまとめると、好ましくは、上記のように算出される成分(A)の含量は0.5〜10質量%であり、かつ成分(B)の含量は99.5〜90質量%であってよい。より好ましくは、成分(A)の含量が1〜6質量%であり、かつ成分(B)の含量が99〜94質量%であってよい。
【0030】
なお、ポリ塩化ビニル系樹脂が、成分(A)及び(B)以外に、ポリスチレン換算分子量が10^7.0を超える領域にピークトップを有する成分を含む場合には、近似的に、ポリ塩化ビニル系樹脂中の成分(A)及び(B)の含量とみなすことができる値は、以下の式に従って計算される。
成分(A)の含量 = 以下の(i’)の値/以下の(iii’)の値
成分(B)の含量 = 以下の(ii)の値/以下の(iii’)の値
(i’):ポリスチレン換算分子量10^7.0以下の極小値(第一の極小値)をとる位置から、ポリスチレン換算分子量10^7.0以上であって、かつ直近のピークとの間でGPC曲線の傾きが安定的にゼロになる位置又は直近のピークとの間の極小値(第二の極小値)をとる位置までの部分の面積
(ii):ポリスチレン換算分子量10^3.5近傍であってGPC曲線の傾きが安定的にゼロになる位置から、極小値(第一の極小値)をとる位置までの部分の面積
(iii’):ポリスチレン換算分子量10^3.5近傍であってGPC曲線の傾きが安定的にゼロになる位置から、ポリスチレン換算分子量10^7.0以上であって、かつ、最も高分子量側のピークよりも高分子量側の領域でGPC曲線の傾きが安定的にゼロになる位置までの部分の面積
この態様における成分(A)及び(B)の含量の好ましい比率は、ポリ塩化ビニル系樹脂が成分(A)及び(B)のみからなる上記態様におけるこれらの成分の好ましい量に関する上記説明に準じる。
【0031】
ポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなるフィルムの製造方法
本発明に係るポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなるフィルムは、所定成分を含む(場合によっては別の所定成分を含まない)ものである限り、特に限定されるものではないが、通常1〜100μm程度の厚みを有していてよい。また、このポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなるフィルムは、公知のいかなる方法によっても製造されうる。以下では、典型例として、成分(A)と成分(B)との混合物を含むポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなるフィルムの製造方法を説明する。
【0032】
成分(A)と成分(B)との混合物を含むポリ塩化ビニル系樹脂組成物の好ましい製造方法としては、成分(B)の一部を架橋させることにより成分(A)を生成する方法を挙げることができる。
【0033】
成分(A)と成分(B)との混合物を含むポリ塩化ビニル系樹脂組成物からフィルムを製造する方法は、特に限定されず、公知の手段を用いることができる。好ましくは、成分(B)の一部を架橋させることにより成分(A)を生成することによってポリ塩化ビニル系樹脂組成物を得るのに連続して、この組成物をTダイやインフレーションダイなどの公知の押出ダイへ送り、製膜する方法を挙げることができる。
【0034】
成分(B)の一部を架橋させることにより成分(A)を生成する方法の好ましい一態様を、以下にて具体的に説明する。
該方法には、
成分(B)として用いるポリ塩化ビニル系樹脂100質量部;
アジピン酸系可塑剤、セバシン酸系可塑剤、アセチル化モノ脂肪酸グリセライド、アセチル化ジ脂肪酸グリセライド、及びエポキシ化大豆油からなる群から選択される少なくとも1種の可塑剤10〜60質量部;並びに
カルシウム亜鉛系安定剤 0.1〜5.0質量部;
を含む原料混合物が好ましく用いられる。
【0035】
上記可塑剤が10質量部以上であることによって、適切なせん断が行われ、架橋ゲルの生成及びそれに伴うフィルム外観の低下を防止することができる。上記可塑剤が60質量部以下であることによって、原料混合物の流動性が適度に抑制され、せん断を良好に行うことができるため、成分(A)を得るのがより容易になる。上記可塑剤は、より好ましくは15〜50質量部の範囲の量で用いられる。
【0036】
上記カルシウム亜鉛系安定剤が0.1質量部以上であることによって、ポリ塩化ビニル系樹脂の架橋反応が制御され、架橋ゲルの生成及びそれに伴うフィルム外観の低下を防止しつつ、目的の成分(A)を効率的に得ることが可能になる。上記カルシウム亜鉛系安定剤が5.0質量部以下であることによって、ポリ塩化ビニル系樹脂の架橋反応が適切に進行し、所望量の成分(A)を得ることができる。上記カルシウム亜鉛系安定剤は、より好ましくは0.3〜2.0質量部の範囲の量で用いられる。
【0037】
また上記カルシウム亜鉛系安定剤は、予め、アルコール系溶剤又はアルコール系溶剤と炭化水素系溶剤との混合溶剤に溶解又は分散させて使用するのが好ましい。上記カルシウム亜鉛系安定剤を予め溶剤に溶解又は分散させることにより、安定剤が原料混合物中に均一に分散し、高いせん断速度で制御された架橋反応が起こり、超高分子量の成分(A)を生成させることがより容易に可能になる。
【0038】
上記アルコール溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、メトキシブタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキサノール、ベンジルアルコールなどを挙げることができる。
【0039】
上記炭化水素系溶剤としては、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、及びこれらの混合物を挙げることができる。またこれらの炭化水素系溶剤は、官能基を有するものであってもよい。これらの中で流動パラフィンが特に好ましい。
【0040】
従来、ポリ塩化ビニル系樹脂を原料として用いるフィルム製膜では、焼けや架橋ゲルが発生し易いことから、反応中にかかるせん断速度を、通常、20〜100(1/s)程度と非常に小さくするようにされてきた。しかし、せん断速度を焼けや架橋ゲルの発生するぎりぎりまで上げたところ、制御された架橋反応が起きて、超高分子量の成分(A)が十分に生成し、フィルムの耐低温衝撃性を高めることができることが分かった。
【0041】
成分(B)の一部を架橋させることにより成分(A)を生成する方法において、好ましいせん断速度は、用いる成分(B)の分子量、並びに可塑剤及び安定剤の配合量にもよるが、120〜1000(1/s)程度であってよい。せん断速度が120(1/s)以上であることによって、成分(A)が十分に生成し、耐低温衝撃性を良く改善することができる。せん断速度が適切か否かは、製膜時にかかる最も大きなせん断速度が、上記範囲にあるか否かによって判断することができる。せん断速度が1000(1/s)以下であることによって、焼けや架橋ゲルの発生を抑制することができる。せん断速度は、より好ましくは130〜800(1/s)程度である。せん断速度は、更に好ましくは150〜500(1/s)程度である。
【0042】
例えば、せん断速度は、単軸押出機を用いる場合において、一般に以下のとおり定義される。
γ=πDN/60h
γ:せん断速度(1/s)
π:円周率
D:単軸押出機のシリンダ内径(mm)
N:スクリュウ回転数(rpm)
h:シリンダ内面とスクリュウ外周との距離(mm)
【0043】
また、二軸押出機を用いる場合において、以下の式で近似的にせん断速度を見積もることができる。
γ=πDN/60h
γ:せん断速度(1/s)
π:円周率
D:二軸押出機のシリンダ内径(mm)
N:スクリュウ回転数(rpm)
h:シリンダ内面とスクリュウ外周との距離(mm)
【0044】
また、ダイスにおけるせん断速度は、最も大きなせん断速度がかかるリップ部において一般に以下のとおり定義される。
γ=V/St
γ:せん断速度(1/s)
S:ダイスリップ部の表面積(mm^2)
t:ダイスリップの開度(mm)
V:体積換算の吐出量(mm^3/s)
【0045】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなるフィルムには、通常使用される可塑剤を更に含ませることができる。
このような可塑剤としては、例えば、
ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジブチルフタレート、ブチルヘキシルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジラウリルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジオクチルテレフタレートなどのフタレート系可塑剤;
ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジ(ブチルジグリコール)アジペートなどのアジペート系可塑剤;
トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリ(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリ(ブトキシエチル)ホスフェート、オクチルジフェニルホスフェートなどのホスフェート可塑剤系;
多価アルコールとしてエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどを用い、二塩基酸としてシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、フタール酸、イソフタル酸、テレフタル酸などを用い、必要により一価アルコール、モノカルボン酸をストッパーに使用したポリエステル系可塑剤;
その他、テトラヒドロフタール酸系可塑剤、アゼライン酸系可塑剤、セバチン酸系可塑剤、ステアリン酸系可塑剤、クエン酸系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、ビフェニルテトラカルボン酸エステル系可塑剤、塩素系可塑剤などを挙げることができる。
【0046】
また、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなるフィルムには、通常使用される添加剤を更に含ませることができる。
このような添加剤としては、例えば、
ハイドロタルサイト化合物、ゼオライト化合物、金属石鹸などの塩素捕捉剤;
リン系、フェノール系、硫黄系などの酸化防止剤;
ヒンダードアミン系などの光安定剤;
エポキシ化大豆油などのエポキシ化合物;
ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系などの紫外線吸収剤;
β−ジケトン化合物;過塩素酸塩類;多価アルコール;顔料;滑剤;架橋剤;帯電防止剤;防曇剤;プレートアウト防止剤;表面処理剤;難燃剤;充填剤;蛍光剤;防黴剤;殺菌剤;金属不活性剤;離型剤;加工助剤等を挙げることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0048】
フィルム物性の測定方法
(イ)耐低温衝撃性
内径76mm、外径83mmの鉄製円筒枠に、フィルムを略緊張状態で枠口全体を覆うように張り、低温庫で30分間状態調節した後、外径37.5mm、質量43gの半球形落錘具を、円筒枠口に張ったフィルムの上40cmの高さから、その中心に落とした。試験片5枚を1セットし、5枚全てが割れなかった最低温度を測定した。
【0049】
(ロ)自己粘着性
フィルムの小巻を刃物で裂き、フィルム2枚が密着した状態のまま、長さ100mm×幅50mmの試験片を、フィルムのマシン方向が長さ方向となるように切出した。試験片の長さ方向の片方の端部から50mmを剥離した後、T字剥離試験を、200mm/分の条件で行った。剥離強度は、得られた応力−歪曲線における、応力が略一定値をとる部分の二乗平均値とした。フィルムの応力−歪曲線からの剥離強度算出についての概念図を、
図2に示す。
なお、自己粘着性に係る剥離強度の判断尺度は、以下のとおりである。
・剥離強度が15N/cm未満:不良
・剥離強度が15N/cm以上、50N/cm未満:やや不良
・剥離強度が50N/cm以上、250N/cm未満:良好
・剥離強度が250N/cm以上:十分に良好
【0050】
(ハ)ストレッチ性
JIS K7127−1999に従い、試験片タイプ5、試験速度200mm/分の条件で引張試験を行い、破断時の伸び率を測定した。
なお、ストレッチ性に係る破断時の伸び率の判断尺度は、以下のとおりである。
・破断時の伸び率が200%未満:不良
・破断時の伸び率が200%以上、250%未満:やや不良
・破断時の伸び率が250%以上、300%未満:良好
・破断時の伸び率が300%以上:十分に良好
【0051】
(ニ)透明性(ヘイズ)
JIS K7105−1981に従い、ヘイズ値を測定した。
なお、透明性に係るヘイズ値の判断尺度は、以下のとおりである。
・ヘイズ値が3.5%超過:不良
・ヘイズ値が2.5%超過、3.5%以下:やや不良
・ヘイズ値が1.5%超過、2.5%以下:良好
・ヘイズ値が1.5%以下:十分に良好
【0052】
(ホ)フィルム外観
フィルムの表面に、入射角をいろいろと変えつつ蛍光灯の光を当てながら、これを目視観察し、以下の基準で評価した。
◎(十分に良好):直径0.1mm以上の大きさの異物やフィッシュアイは観察されない。
○(良好):直径0.1mm以上の大きさの異物やフィッシュアイが観察されるが、直径0.3mm以上の大きさの異物やフィッシュアイは観察されない。
△(やや不良):直径0.3mm以上の大きさの異物やフィッシュアイが1個/A4サイズ未満の頻度で存在する。
×(不良):直径0.3mm以上の大きさの異物やフィッシュアイが1個/A4サイズ以上の頻度で存在する。
【0053】
使用した原材料
(1)ポリ塩化ビニル系樹脂
(1−1)株式会社カネカのポリ塩化ビニル樹脂:
重合度800、GPCにより測定したポリスチレン換算分子量10^4.9
(1−2)株式会社カネカのポリ塩化ビニル樹脂:
重合度1300、GPCにより測定したポリスチレン換算分子量10^5.1
(1−3)株式会社カネカのポリ塩化ビニル樹脂:
重合度1500、GPCにより測定したポリスチレン換算分子量10^5.2
【0054】
(2)可塑剤
(2−1)田岡化学工業株式会社のアジピン酸系可塑剤「DINA(商品名)」
(2−2)株式会社ADEKAのエポキシ化大豆油「アデカサイザーO−130P(商品名)」
【0055】
(3)カルシウム亜鉛系安定剤
(3−1)勝田化工株式会社の「CZ−440(商品名)」
【0056】
(4)その他成分
(4−1)理研ビタミン株式会社の防曇剤「RVM−06(商品名)」
【0057】
実施例1
上記(1−1)100質量部;
上記(2−1)35質量部;
上記(2−2)10質量部;
上記(3−1)0.8質量部;
上記(4−1)2.0質量部;
からなる配合物を用い、
単軸押出機とTダイを備えた装置を使用し、製膜時にかかる最も大きなせん断速度200(1/s)の条件で、厚み10μmのフィルムを製膜した。
【0058】
このようにして得られたフィルムのGPC測定を行ったところ、成分(A)が生成していた。GPC曲線における成分(A)のピークトップのポリスチレン換算分子量は10^6.5であった。GPC曲線から、上記段落0028記載の式により算出された成分(A)の含量とみなされる値は、2.8質量%であった。またポリスチレン換算分子量が10^7.0を超える領域にピークトップを有する成分は認められなかった。
さらに、このフィルムについて、上記(イ)〜(ホ)の物性評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
比較例、実施例2〜6、参考例
製膜時にかかる最も大きなせん断速度を表2に示す値に変更したこと以外は、全て実施例1と同様にフィルム製造を行った。いずれもポリスチレン換算分子量が10^7.0を超える領域にピークトップを有する成分は認められなかった。結果を表2に示す。
【0060】
実施例7〜12
用いる塩化ビニル系樹脂組成物の配合を、表1に示すように変更したこと以外は、全て実施例1と同様にフィルム製造を行った。いずれもポリスチレン換算分子量が10^7.0を超える領域にピークトップを有する成分は認められなかった。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】