【文献】
C. SUN et al.,A Large-Scale Synthesis and Characterization of Quaternary CuInxGa1-xS2 Chalcopyrite Nanoparticles via Microwave Batch Reactions,INTERNATIONAL JOURNAL OF CHEMICAL ENGINEERING,2011年 1月 1日,Vo.104, No.11,p.2467-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
[2.37CFR 1.97及び1.98に基づいて開示される情報を含む関連技術の説明]
商品競争力を持つためには、光起電力セルは、化石燃料と競争できるコストで発電する必要がある。低コスト材料を用いて、安価なデバイス作製プロセスで光起電力セルを作る必要がある。光起電力セルは、中から高程度の太陽光電気変換効率を持つ必要がある。更に、材料合成とデバイス作製が、工業規模に拡大可能である必要がある。
【0003】
光電池市場は現在、シリコンウエハー系の光起電力セル(第1世代光起電力セルとも呼ばれる)で占められている。これらのソーラーセルの活性層は、単結晶シリコンウエハーからできており、その厚みは、通常数ミクロンから数百ミクロンの範囲であって、比較的大きい。ケイ素は、光吸収が比較的弱いため厚い活性層が必要である。これらの単結晶ウエハーは、その製造プロセスに高純度の単結晶ケイ素インゴットの加工やスライスが含まれるために、製造コストが比較的高い。このプロセスの収率は、低いことが多い。
【0004】
結晶シリコンウエハーが高コストであるため、この産業では、より安価なソーラーセル用材料が求められている。銅インジウム/ガリウムジスルフィド/セレニドCuIn
xGa
1−xS
2(0≦x≦1)(本明細書中では、概してGIGSと称す)などの半導体材料は強い光吸収体であり、光起電用途に適したスペクトル範囲に一致するバンドギャップを持っている。また、これらの材料は大きな吸収係数をもっているため、これらの材料を使用するソーラーセルの活性層には、たった数ミクロンの厚みが必要であるのみである。
【0005】
銅インジウムジセレニド(CuInSe
2)は、薄膜光起電用途で最も有望な候補の1つである。しかしながら、CuInSe
2ベースのソーラーセルは、CuInS
2膜をセレン化して製造できる。セレン化の際に、CuInS
2の膜をセレニウムリッチな雰囲気中で加熱し、この膜中の一部又は全部の位置の硫黄をセレニウムで置き換える。これは、SをSeで置換すると体積が膨張して膜中の空き空間が減少して、高品質で緻密なCuInSe
2吸収層が、再現性良く形成されるためである。SeでのSの完全置換を仮定すると、得られる格子体積の膨張率は、約14.6%となる(カルコパイライト(正方晶)CuInS
2の格子定数(a=5.52Å、c=11.12Å)とCuInSe
2の格子定数(a=5.78Å、c=11.62Å)から計算)。セレニウムリッチな雰囲気中で膜を熱処理することで、CuInS
2ナノ粒子膜を、主にセレニドからなる材料に変換できる。CuInS
2ナノ粒子は、CuInSe
2活性層の製造用の前駆体として有望である。単にCuInSe
2ナノ粒子を使うのでなく、CuInS
2ナノ粒子を使う利点は、この硫黄前駆体が通常、相当するセレニウム材料より安価で容易に入手できることである。
【0006】
吸収体材料の理論的な最適バンドギャップは、約1.3〜1.4eVである。CuInS
2ナノ粒子にガリウムを加えることでバンドギャップを変化させることができ、セレン化の後にCuIn
xGa
1−xSe
2吸収体層が、光吸収に最適なバンドギャップを有することとなる。
【0007】
基材上に銅インジウム(ガリウム)ジスルフィド膜を形成するのに、従来、高コストの気相法又は蒸着法(例えば、有機金属の化学蒸着、RFスパッタリング、フラッシュ蒸着等)が使われてきた。これらの方法は、高品質膜の製造が可能であるが、広い領域の堆積を行うことや高いプロセス収率を得るのが難しく、また高コストである。
【0008】
銅インジウムカルコゲナイド及び/又は銅インジウムガリウムカルコゲナイドのナノ粒子を用いる大きな利点の1つは、ナノ粒子を媒体中に分散させて、新聞印刷型プロセスのインクと同様に、基板上に印刷可能なインクにできることである。このナノ粒子インク又はペーストは、例えばスピンコート法、スリットコート法、又はドクターブレード法などの低コストの印刷方法で塗布可能である。印刷可能なソーラーセルは、標準的な従来のソーラーセル製造の真空蒸着方法に取って代わる可能性がある。これは、これらの印刷プロセスが、特にロールツーロール加工法で実施される場合に、より非常に大きな収率を可能とするからである。
【0009】
三元系のCuInS
2系のナノ粒子は、様々な合成法で製造されており、例えば熱注入法やソルボサーマル法、適当な前駆体の熱分解で製造されている。コロイド状ナノ粒子の合成では通常、高温(250℃を超える)で、小粒径(<20nm)の有機キャップされたナノ粒子を形成している。このためコロイド状ナノ粒子は、バルク材料より低い融点を示す。このようなナノ粒子は高度に単分散であるため(即ち、ナノ粒子の直径が狭いサイズ分布内にあるため)、ナノ粒子は大抵の場合、狭い融点範囲を有する。既発表の文献の大半は三元化合物CuInS
2に関するものであり、CuInGaS
2とCuGaS
2のナノ粒子の合成に関する既発表文献はほとんど存在しない。
【0010】
バイエル社の米国特許出願US2011/0039104A1(以下、‘104出願)には、非有機極性溶媒中で、銅塩、インジウム塩、及びアルカンチオールを用い、反応温度を240〜270℃とするCuInS
2ナノ粒子のコロイド合成プロセスが記載されている。この‘104出願に記載の方法には、CuIn
xGa
1−xS
2ナノ粒子合成への応用例の記載がなく、所望の化学量を得るのに初期金属比率の調整や試薬の選択が利用可能であることを示していない。また、この‘104出願に記載の反応温度を使用するには、高沸点のチオールが必要である。
【0011】
もう1つの例として、Kino等は、230℃でCu(OAc)
2とIn(OAc)
3を1−ドデカンチオールとトリ−n−オクチルアミンと混合するCuInS
2ナノ粒子の製造方法を報告している[T.Kino et al.,Mater.Trans.,2008,49,435]。トリ−n−オクチルアミンは、配位性の高い溶媒(沸点:365〜367℃)である。従って、Kino等の方法を用いて合成したナノ粒子は、少なくとも部分的にアミンキャップされていると考えられる。このことは、光起電デバイスにこの粒子を使用する場合、このナノ粒子からなる膜からこのアミンを除くには高い加工温度が必要となるため、好ましくない。
【0012】
この熱注入ルートは通常、高温下で銅とインジウムの溶液に、適当な溶媒(例えば、トリオクチルホスフィン(TOP)又はオレイルアミン(OLA))に溶解した硫黄の溶液を注入することからなる。ZnでドープされたCuInS
2ナノ粒子が、この方法で160〜280℃の温度で製造されている[H.Nakamura et al.,Chem.Mater.,2006,18,3330]。
【0013】
熱注入法の欠点は、規模が大きくなると反応温度の制御が難しくなり、このため反応が一般的にはミリグラムスケールに制限され、通常大きな反応体積を必要とすることである。
【0014】
ナノ粒子合成のための単一源前駆体(SSP)法では、ナノ粒子に取り込まれる全ての構成元素を含む単一化合物が用いられる。熱分解により、このSSPが分解して、ナノ粒子形成に至る。SSPからのCuInS
2ナノ粒子の合成に関する文献は数多くある。CuInS
2ナノ粒子は、(PR
3)
2Cu(SR)
2In(SR)
2(式中、Rはアルキル基である)型の前駆体を使用して調製される。Castro等は、200〜300℃でフタル酸ジオクチル中にて液体前駆体(PPh
3)
2CuIn(SEt)
4を分解して、サイズが3〜30nmのカルコパイライトCuInS
2ナノ粒子を得た[S.L.Castro et al.,Chem.Mater.,2003,15,3142]。サイズが小さいにも拘わらず、このナノ粒子は大きな500nmの凝集物を作りやすく、有機溶媒に不溶であった。
【0015】
DuttaとSharmaは、196℃でエチレングリコール中にてIn(S
2COEt)
3とCu(S
2COEt)のキサントゲン酸前駆体を使用して、小量の凝集物を含む平均サイズが3〜4nmの正方晶CuInS
2を得ている[D.P.Dutta and G.Sharma,Mater.Lett.,2006,60,2395]。これらのSSPで調製されたCuInS
2ナノ粒子は非常に難溶性であり、非配位性の溶媒が使用されていたためミクロンサイズの凝集物を形成する傾向があった。SSPプロセスは、このような前駆体を合成する更なる工程が必要であるために他の方法より複雑である。
【0016】
他の方法は、金属塩と硫黄源の反応からなる。Choi等は、230〜250℃の温度でOLA中にて銅とインジウムの金属オレイン酸錯体とをドデカンチオールを用いて分解して、Cu−In−Sナノ粒子を製造している[S−H.Choi et al.,J.Am.Chem.Soc.,2006,128,2520]。
【0017】
このプロセスでは、アルキルチオールとの反応の前に金属オレイン酸が、合成、分離、及び精製されている。この粒子はかなり大きいものであり、反応時間と温度を変化させることで、その粒子形状は、団栗状、瓶状や幼虫型棒状に、また長さは、50〜100nmに調整されている。しかし、XRD分析は、このナノ粒子がCuInS
2というよりは、六方晶のカルコサイト構造のCu
2Sと正方晶構造のIn
2S
3の混合物からなっていることを示した。Carmalt等は、還流トルエン中110℃での金属塩化物とナトリウムスルフィドとの反応によりミクロンサイズのCuInS
2粒子を製造したが、この材料は難溶性が極めて高かった[C.J.Carmalt et al.,J.Mater.Chem.,1998,8,2209]。
【0018】
ナノ粒子の合成方法として、ソルボサーマル法が検討されている。しかしその粒度分布は通常大きく、このナノ粒子は凝集物を形成するために貧溶性であることが多い。ミクロンサイズのCuInS
2粒子が、オートクレーブ中にてチオグリコール酸の存在下でCuSO
4、InC
33、及びチオアセトアミドを混合して作られている[X.Guo et al.,J.Am.Chem.Soc.,2006,128,7222]。Lu等は、オートクレーブ中にて200℃で、トルエンやベンゼン、水などの色々な溶媒中でCuCl及び金属Inを硫黄粉末と反応させて、正方晶CuInS
2ナノ粒子を得ている[Q.Lu et al.,Inorg.Chem.,2000,39,1606]。この粒子はサイズが5〜15nmであるが、大きな凝集物を形成して不溶であった。トルエン、ベンゼン、又は水が反応媒体として用いられた。TEM画像は、粒度分布制御が悪いことを示し、粒度分布は反応媒体により変動した。また、Hu等は、CuCl、GaCl
3、及びチオウレアを用いるCuGaS
2ナノ粒子のソルボサーマル合成を報告している[J.Q.Hu et al.,Solid State Commun.,2002,121,493]。
【0019】
CuGaS
2ナノ粒子の生体分子支援合成が、Zhong等により報告されている[J.Zhong et al.,Appl.Surf.Sci.,2011,257,10188]。CuCl
2・2H
2O、GaCl
3、及びL−システイン(C
6H
12N
2O
4S
2)をエチレンジアミン及び水に溶解させ、次いで室温で20分間撹拌した。この溶液をオートクレーブ中にて200℃で10時間加熱した。TEM分析は、平均粒径が600nmの大きなナノ粒子を示した。
【0020】
四元以上のナノ粒子を与える合成方法の開発に大きな興味が払われているが、先行技術のCuInS
2及び/又はCuGaS
2ナノ粒子の合成方法の大半は、0≦x≦1の範囲のCuIn
xGa
1−xSナノ粒子の製造に適用できないことが分かっている。Wang等は、0≦x≦1の範囲のウルツァイトCuIn
xGa
1−xS
2ナノ粒子のコロイド合成について記載している[Y−H.A.Wang et al.,J.Am.Chem.Soc.,2011,133,11072]。Cu(acac)
2、In(acac)
3、Ga(acac)
3、及びトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)を、OLA中にて室温で撹拌し、窒素で30分間パージした。この溶液を150℃に加熱し、次いでこの溶液に素早く1−ドデカンチオール(DDT)とtert−DDTを注入し、この溶液を30分以内で280〜290℃に加熱して、30分間維持した。この溶液を室温まで冷却した後、ヘキサンとエタノールを用いて遠心分離した。OLAを1−オクタデセン(ODE)で置換することで、ナノ粒子の形状を銃弾型からオタマジャクシ型に変更できた。In:Ga比率を変えた場合も形状変化が観察された。本発明者らは、ウルツァイト相が材料の化学量制御に柔軟性を与えると考える。
【0021】
Wang等により説明された方法は、0≦x≦1の全範囲のCuIn
xGa
1−xS
2ナノ粒子の合成に使用できるが、このナノ粒子は、OLA(348〜350℃)、TOPO(2mmHgで201〜202℃、大気圧では397〜399℃に相当)、1−DDT(266〜283℃)、及び/又はtert−DDT(227〜248℃)などの高沸点リガンドでキャップされている。従って、得られた膜からリガンドを除くのに高温デバイス作製技術が必要である。また、Wang等の方法では、珍しいウルツァイト相のCuInS
2が得られる。これ対して、現在の光起電力セルは、カルコパイライト相を吸収体として使用している。
【0022】
Chang等は、バンドギャップを0.98〜2.40eVに調整可能な、0≦x,y≦1の範囲の五元Cu(In
xGa
1−x)(S
ySe
1−y)
2ナノ粒子の合成について述べている[S−H.Chang et al.,Energy Environ.Sci.,2011,4,4929]。ある代表的な反応では、CuCl、lnCl
3及び/又はGaCl
3、Se及び/又はSを、OLAと混合し、130℃で1時間激しく撹拌しながらArでパージした。この溶液を265℃に加熱して90分間維持し、次いで冷たい水浴中で反応を停止させた。ヘキサン/エタノールを用いて生成物を遠心分離した。xとyが約0.5の場合、平均粒子径は16±0.5nmであり、やや不規則な小面をもつ形状をしていた。類似の反応が、Guo等により報告されている。x=1の場合、平均粒子径が15nmであるコロイド状CuIn
xGa
1−xS
2ナノ粒子が合成されている[Q.Guo et al.,Nano Lett.,2009,9,3060]。ある代表的な合成では、CuCl、InCl
3及び/又はGaCl
3をOLAに溶解し、130℃で30分間、Ar下でパージした。この溶液を225℃に加熱し、次いで1MのS/OLA溶液を素早く注入した。この反応を225℃で30分間維持し、次いで冷却し、トルエン/エタノールを用いて遠心分離した。得られたナノ粒子の有機物含有量は極めて低く(<10%)、有機溶媒や極性溶媒に不溶であり印刷インクとして取扱い難いものであった。
【0023】
Cu(In,Ga)S
2ナノ粒子の合成に、In含有SSPとGa含有SSPの組み合わせを用いた。Sun等は、0≦x≦1の範囲のCuIn
xGa
1−xS
2ナノ粒子を合成するのに、様々な比率で、二種の単一源前駆体、(Ph
3P)
2Cu(μ−SEt)
3In(SEt)
2、及び(Ph
3P)
2Cu(μ−SEt)
2Ga(SEt)
2の混合物を用いた[C.Sun et al.,Chem.Mater.,2010,22,2699]。ある代表的な合成では、1,2−エタンジチオールの存在下で酢酸ベンジル中に、(Ph
3P)
2Cu(μ−SEt)
2In(SEt)
2と(Ph
3P)
2Cu(μ−SEt)
2Ga(SEt)
2を溶解し、次いで160℃で1時間未満の間マイクロ波を照射した。その反応温度で従来の熱分解より優れた均一性を得るためにマイクロ波照射を用いた。ナノ粒子の直径は2.7〜3.3nmの範囲であり、In含量の増加とともに増加した。バンドギャップは、1.59eV(x=1の場合)から2.3eV(x=0の場合)まで調整可能であった。反応温度を上げると粒度が増加し、バンドギャップが低下した。Sun等により報告されているSSP法は、In:Ga比率の変更を可能とするが、Cu:(In+Ga)の比率は単一源前駆体の化学量により定まって、変更できない。
【0024】
米国特許No.7,892,519には、チオラートリガンドでキャップされたCu(In,Ga)S
2ナノ粒子を製造するSSP法が記載されている。しかしこの明細書には、CuInS
2の合成方法しか例示されていない。
【0025】
15nm厚のナノフレークからなるCuIn
0.5Ga
0.5S
2の1〜2μm粉末のソルボサーマル合成が、Liangらにより報告されている[X.Liang et al.,J.Alloys & Compounds,2011,509,6200]。ある代表的な反応では、10分間撹拌してCuCl
2・2H
2O、GaCl
3、InCl
3及びL−システインをDMFに溶解した。この溶液をオートクレーブ中にて220℃で10時間加熱した後、室温まで冷却した。この固体を脱塩水で沈殿させて真空下で乾燥した。
【0026】
一般的に、先行技術に記載の合成方法は、凝集し易くてほとんどの溶媒に不溶である大きなナノ粒子を製造する。印刷や吹付けなどの従来の低コスト法で無機膜を作るためのインクを製造するには、さらに処理可能な小さな可溶性ナノ粒子を作ることが望ましいため、この事実は重要である。キャッピングリガンド、例えば炭化水素をナノ粒子の表面に結合させて処理性を上げてもよい。しかしながら、上述の合成方法は高温で実施されるため、キャッピングリガンドの選択が、比較高い気化/分解温度を有するリガンドに制限される。膜焼結時にこれらリガンドを除くことが難しいため、このような低揮発性キャッピングリガンドが存在すると、光起電膜の製造にナノ粒子を使用することが難しくなる。膜中に除去されたリガンドが存在すると炭素系不純物となり、これが膜性能に悪影響を与える。
【0027】
既存の方法では、小さく、低融点で、サイズ分布が狭く、溶解性と処理性をもたらす揮発性リガンドを含むようなナノ粒子を製造できないため、これらの方法は、従来の低コスト膜印刷方法に対応したナノ粒子の製造に極めて向いているとは言えない。また、0≦x≦1の全範囲のCuIn
xGa
1−xS
2ナノ粒子の合成に有効であると分かっている方法はほとんどない。本発明の目的は、これらの問題を解決することである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
開示されているのは、11族イオン[Cu、Ag又はAu]と、13族イオン[B、Al、Ga、In又はTI]と、Sイオンとを含むナノ粒子の製造方法である。ある好ましい実施様態では、CuIn
xGa
1−xS
2(式中、0≦x≦1の範囲)で示されるナノ粒子が製造される。本明細書で使用されているように、式CuInS
2は、CuとInとSを含む材料に言及している。なお、この式は、必ずしもCu:In:S比率が正確に1:1:2であることを示すものではない。同様に、式Cu(In,Ga)S
2は、Cu、In、Ga及びSを含む材料に言及しており、必ずしもそのCu:In:Ga:S比率が正確に1:1:1:2であるというわけではない。本明細書中で「ClGS」という用語は、Cu及びS及び/又はIn及び/又はGaを含む任意の材料を示すのに使用されている。
【0045】
本明細書に開示されるように、ナノ粒子は、有機溶媒中にて11族及び13族のイオン源とアルカンチオールとを反応させて加熱して、この反応を進めることで、200℃以下の低温で形成できる。11族と13族のイオン源は、一般的には金属塩であり、例えば所望の金属イオンの酢酸塩又はハロゲン化物塩である。このチオール化合物は、式R−SHで表される。式中、Rは置換又は非置換の有機基(即ち、炭素原子に結合している1個以上の水素原子が非水素原子で置換されてよい)である。この有機基は、飽和基であっても不飽和基であってもよい。この有機基は、好ましくは線状、分岐状又は環状の有機基であり、カルボキシル基又は複素環基であってよい。
【0046】
この有機基は、好ましくはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、及び/又はアリール基である。この有機基は、2〜20個の炭素原子を含む、より好ましくは4〜14個の炭素原子、最も好ましくは10個以下の炭素原子を含むアルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基であってよい。
【0047】
合成の際、これらのチオールは2つの目的を持つ。1つは、これらがナノ粒子への硫黄供給源となることである。もう1つは、これらのチオールが、表面で結合するリガンドとなることである。これらのチオールはナノ粒子の表面に結合して、その表面上にリガンド層を形成する。このリガンド層は、ほぼ全てがチオールからなっている。言い換えれば、溶媒分子の幾つかがこのリガンド層に付着する、又は、この層の中に入り込むが、リガンド層のほとんどがチオールリガンドからなっている。なお、「層」という用語は、必ずしもこのリガンド層が完全な単一層であるわけではなく、又は単一層に限られているわけではない。ナノ粒子の表面上には、単一の単一層より大きなチオール分子があることもあり、小さなチオール分子があることもある。
【0048】
明らかなように、本明細書に開示のプロセスが上記の背景で説明した方法に優っている点は、本明細書に開示のプロセスが低温で行われることである。通常、ClGS合成に用いられるS源は、反応に200℃を超える温度を必要とする。しかし、開示のプロセスでは、合成中にキャッピング剤として低沸点アルキルチオールを使用することが可能である。
【0049】
低沸点アルカンチオールリガンドを使用すると、比較的低温で膜からリガンドを容易に除去することが可能となって有利である。低温除去ができることにより低温でのデバイス処理が可能となる。幾つかの実施様態によると、ナノ粒子が350℃以上に熱せられると、表面に結合しているチオールがナノ粒子の表面から追い出される。本明細書では、「追い出される」は、これらのチオールが分解する、気化する、或いはナノ粒子表面から除かれることを意味する。他の実施様態では、ナノ粒子が300℃以上、250℃以上、又は200℃以上に熱せられると、チオールが追い出される。
【0050】
様々な実施様態では、このアルカンチオールは、10個以下の炭素を、8個以下の炭素、又は6個以下の炭素を有してよい。特に好適なアルカンチオールはn−オクタンチオールであり、その沸点は約200℃である。或いは分岐アルカンチオール、例えば第三級チオールを使用できる。ある実施様態では、分岐チオールが硫黄源として用いられ、短鎖低沸点の線状チオールがキャッピングリガンドとして用いられる。tert−ノニルメルカプタンなどの第三級チオールは、同等の線状チオールよりもかなり低い温度で分解する。tert−ノニルメルカプタンは、約100℃で分解する。従って、第三級チオールを含むClGSは低温で合成可能であり、短鎖の低沸点リガンドをキャッピング剤として使用することが可能となる。典型例であるブタンチオールは、沸点が約100℃であり、200℃で合成されるClGS中に導入するには揮発性が高すぎる。しかしながら、ブタンチオールは、硫黄源として用いられる第三級チオールと組み合わせて、キャッピングリガンドとして使用できる。第三級チオールのもう1つの利点は、これらが「きれいに」(例えば、最終のナノ粒子上に何ら副生成物を残すことなく)反応することである。
【0051】
従って本発明の目的の1つは、式CuIn
xGa
1−xS
2で表されるナノ粒子であって、アルキルチオールキャッピングリガンドでキャップされたもの、特に10個以下の炭素を持つ、好ましくは8個以下の炭素を持つアルキルチオールキャッピングリガンドでキャップされたものを提供することである。ある実施様態では、このキャッピングリガンドが6個未満の炭素を持つ。ある実施様態では、このキャッピングリガンドが4個の炭素を持つ。
【0052】
最初の反応の後に、このナノ粒子を一定時間反応温度より低い温度で(通常、約40℃低い)熱処理して、その形状とサイズ分布を向上させてもよい。
【0053】
上記のプロセスを用いて得られるナノ粒子は、一般的には直径が10nm未満であり、より典型的には直径が約2.5nmであるほど小さい。上記プロセスで、単分散性が高いナノ粒子群が得られる。例えば、上記プロセスを用いて製造したナノ粒子は、FWHMが約200未満である、より好ましくは約150nm未満、或いは約100nm未満である発光スペクトルを示すことがある。
【0054】
反応終了後、非溶媒を加え、トルエン、クロロホルム、及び/又はヘキサンなどの有機溶媒に再分散し、ナノ粒子を分離することで、ナノ粒子インクを形成してもよい。最終的なインク粘度を調整するために、添加物を、例えば他のチオールをこの反応液に加えてもよい。特定の実施様態では、十分な量のナノ粒子をインクベースと混合し、得られるインク製剤が、最大で約50w/v%のナノ粒子、より好ましくは約10〜40w/v%のナノ粒子、最も好ましくは約20〜30w/v%のナノ粒子を含むようにする。他の実施様態では、このナノ粒子濃度を可能な限り高くしてよい。動作上の変数に最もよく適合するようにインク中のナノ粒子濃度を調整することは、当業者の能力の範囲内である。
【0055】
ナノ粒子インクを支持層に印刷して、周期表の11族、13族、及び16族から選ばれたイオンを有するナノ粒子を含む薄膜を形成することができる。この膜形成は、支持層上での薄膜形成を許す条件下で、ナノ粒子を含む製剤を印刷、塗布、又は吹き付けることで支持層に堆積させる工程を含むことが好ましい。このナノ粒子製剤の堆積は、適当な任意の方法で行ってよいが、この方法には、ドロップキャステイング法、ドクターブレード法及び/又はスピンコーティング法が含まれることが好ましい。スピンコーティング法を使用する場合、このスピンコーティングを、最大で約5000rpmの回転速度、より好ましくは約500〜3500rpmの回転速度、最も好ましくは約2000rpmの回転速度で行ってもよい。或いは、又はそれに加えて、このスピンコーティングを、最長で約300秒間、より好ましくは約20〜150秒間、最も好ましくは60秒間行ってもよい。
【0056】
この膜の形成は一般的には、支持層に堆積したナノ粒子製剤の温度を繰り返し上昇させ、次いでその上昇温度に予め定められた時間保持し、さらにナノ粒子製剤を冷却して膜を形成するといった一連の工程を含むアニーリングサイクルを1回以上含んでいる。この一連の工程の各工程を、ナノ粒子製剤の温度が約10〜70℃増加するように行うことが好ましい。初期の工程を、後の工程よりも大きな温度上昇をもたらすように行ってもよい。例えば、このような工程のうち最初の工程を約50〜70℃の温度上昇で行い、続く1つ以上の工程で約10〜20℃温度を上げてもよい。この一連の工程の各工程で、ナノ粒子製剤の温度を、最大で約10℃/分の速度、より好ましくは約0.5〜5℃/分の速度、最も好ましくは約1〜2℃/分の速度で上げることが好ましい。ある例では、初期の工程では、後の工程より大きな速度で温度上昇させる。例えばある好ましい実施様態では、初めの1つ又は2つの工程が約8〜10℃/分で温度を上昇させる加熱を伴い、後の工程は約1〜2℃/分の温度上昇を伴う。上述のように、各工程は、ナノ粒子含有製剤を加熱し、次いでその上昇温度で予め定められた時間維持する工程を含んでいる。
【0057】
<実施例1 オクタンチオールを用いるCuInS
2ナノ粒子の合成>
5mlの1−オクタデセン中で、Cu(OAc)(122.3mg、0.9976mmol;OAc=アセテート)とIn(OAc)
3(292.0mg、1.000mmol)を混合し、120℃で20分間加熱した。この混合物に窒素ガスを充填し、5mlのオクタンチオールを注入して黄/オレンジ色の懸濁液を得た。懸濁液を200℃に加熱して、この温度で1時間維持した。この間に、懸濁液は赤変した。反応液を170℃で17時間熱処理し、室温に冷却し、生成物をアセトンで分離した。得られた凝集固体を遠心分離で捕集し、クロロホルムに再分散させ、濾過し、アセトン中で他のサイクルの沈澱とともに洗浄した。光学的に透明なナノ粒子溶液の吸収スペクトル(
図1参照)は、525nmに明確な励起子ピークを、約640nmに吸収端を示した。このピークは、バルクのCuInS
2のもの(810nm)よりもかなり青方偏移しており、期待される量子閉じ込め効果と一致した。そのXRDパターン(
図2のA)は、既に報告されている正方晶CuInS
2相とよく一致した。
【0058】
<実施例2 オクタンチオールを用いるCuInS
2ナノ粒子の合成>
30.121gのIn(OAc)
3(103mmol)と、12.002gのCu(OAc)(97.9mmol)と、180mlの1−オクタデセンとを、オーブン乾燥した1リットルの三口丸底フラスコに投入した。フラスコにリービッヒ冷却器を取り付け、窒素ガスでパージした。混合物を100℃で1時間脱気し、窒素ガスで充填した。
【0059】
140mlの脱気1−オクタンチオールを、シリンジを用いて素早く添加した。混合物を125℃で30分間、200℃で2時間加熱し、次いで160℃に冷却して16時間加熱した。
【0060】
混合物を室温まで冷却し、次いでフラスコを大気に解放させた。反応混合物を4000rpmで5分間遠心分離した。暗褐色/オレンジ色の上澄液をガラス瓶に移した。
【0061】
この固体を25mlのトルエンに分散し、25mlのアセトンを添加した。混合物を遠心器中4000rpmで5分間回転させた。暗色の上澄液を分離し、ガム状の固体をさらに各20mlのトルエンとアセトンで抽出した。この固体をもう一度遠心分離した(4000rpm、5分間)。上澄液を最後のものと混合し、固体は廃棄した。この上澄液混合物に100mlのメタノールと75mlのアセトンを添加し、混合物を6500rpmで3分間回転させた。濁った淡オレンジ色の上澄液を捨て、残る暗色油状の固体を取り分けた。
【0062】
この反応液のバルクに、400mlのメタノールと600mlのアセトンを添加し、混合物を4000rpmで5分間遠心分離した。無色の上澄液を捨てて暗色の油を集め、これをさらに2回各400mlのメタノールとアセトンで抽出し、それぞれ遠心分離と上澄液のデカンテーションで単離した。
【0063】
残る固体を混合し、200mlのアセトンで洗浄し、次いで100mlのジクロロメタンに完全に分散させた。800mlの1:1メタノールアセトンを添加してこの生成物を沈殿させ、遠心分離した。固体をさらにジククロロメタン/メタノール(100:400ml)から再沈殿させた。固体を遠心分離(4000rpm、5分間)で単離し、約90分間真空乾燥させ、次いで窒素ガス下で保存した。39.479gの材料が得られた。誘導結合プラズマ発光分光(ICP−OES)分析により、この化合物の元素比が、Cu
1.0In
1.15S
1.70であることがわかった(重量比で13.09%Cu、27.32%In、11.22%S)。チオールキャッピング剤は、総硫黄含量に寄与している。得られたナノ粒子は、約510nmの吸収ピークと約680nmでの弱いルミネセンスに特徴があり、これは予期された量子閉じ込め効果と一致する(それぞれ
図3のAと
図3のB)。
【0064】
XRDパターン(
図2のB)のピークは、XRDの参照文献JCPDS32−0339の値と非常によく一致し、正方晶構造のCuInS
2と同定される。このナノ粒子のTEM画像(
図4)は、平均サイズが2.5nmであることを示す。
【0065】
<実施例3 オクタンチオールとODE:Sを用いるCuInS
2ナノ粒子の合成>
191.49gのIn(OAc)
3(0.66mmol)と122.39gのCu(OAc)(1.00mmol)とをフラスコに加え、真空下室温で保存した。5mlのオクタデセンを注入し、得られた緑色がかった懸濁液を100℃真空下で20分間加熱した。フラスコに窒素を充填し、5mlのオクタンチオール(29mmol)を注入し、温度を200℃まで上げた。温度が上がるにつれて溶液の色が徐々に黄色、オレンジ色、最後に赤へと変化した。反応液を200℃で10分間維持した。
【0066】
別途、三口丸底フラスコ中で1Mの硫黄の1−オクタデセン(ODE)溶液を、窒素下で全ての硫黄が溶解するまで加熱した。溶液の2.1ml(2.1mmol)を反応液に注入し、200℃で5分間保持した。反応液を室温まで冷却し、40mlのアセトンを添加後、赤色固体を遠心分離で捕集した。その固体を真空下で乾燥した。
【0067】
<実施例4 オクタンチオールとTOP:Sを用いるCuInS
2ナノ粒子の合成>
オーブン乾燥した100−mlの三口丸底フラスコに、1.25gのIn(OAc)
3(4.28mmol)と、0.51gのCu(OAc)(4.2mmol)と、7.5mlの1−オクタデセンとを投入した。フラスコにリービッヒ冷却器を取り付け、窒素ガスでパージした。混合物を100℃で1時間、次いで140℃で10分間脱気後、窒素ガスを充填した。5mlの1−オクタンチオールを加え、混合物を180℃で加熱した。5mlの1.71MのTOP:S溶液を約7.5ml/hrの速度で添加した。溶液を200℃で2時間加熱し、次いで160℃で18時間熱処理した。熱処理後加熱をやめ、反応液を60℃まで冷却した。40mlのメタノールを添加し、得られた混合物を室温で1時間撹拌し、次いで無撹拌で15分間放置した。このプロセスももう一度繰り返した。赤色固体が分離され、50mlのアセトンで洗浄し、遠心分離で捕集した。この固体を30mlのジクロロメタンに分散し、濾過し、75mlのメタノールで再沈殿させた。固体を10mlのジクロロメタンに再分散させ、再沈殿させて分離した。
XRDパターン(
図2のC)のピークは、JCPDS32−0339の値に非常によく一致し、正方晶構造のCuInS
2と同定された。
【0068】
この材料のTGAグラフは、オクタンチオール単独で合成した試料とは比較した、370℃に第2の工程を示す(
図5参照)。これは、トルエン中での材料の異なる挙動を反映するものであり、TOP:Sで製造した材料は、総無機物含有量は非常に似ているもののかなり大きな粘度を持っている。
【0069】
<実施例5 ヘキサデカンチオールを用いるCuInS
2ナノ粒子の合成>
292.10gのIn(OAc)
3(1.00mmol)と、122.57gのCu(OAc)と、5mlのオクタデセンとをフラスコに投入し、120℃真空下で30分間加熱した。この緑色懸濁液に窒素を充填し、フラスコに8.8mlのヘキサデカンチオールを加えて黄色/オレンジ色の懸濁液を得た。懸濁液を270℃に加熱したところ、その色が徐々に濃赤色に、最後には褐色に変化した。1時間後に懸濁液を室温まで冷却し、アセトンを加えて粒子を分離させた。オクタンチオール中での合成(
図6のB)と比較して、ヘキサデカンチオール(
図6のA)はより高温での加熱を可能とするが、吸収スペクトル(
図6)に示されるように、より広いサイズ分布のナノ粒子を与えた。
【0070】
<実施例6 Cu(In,Ga)S
2ナノ粒子の合成>
Cu(OAc)(1.48g、12.1mmol)と、In(OAc)
3(2.82g、9.66mmol)と、GaCl
3(1.28g、7.27mmol)と、ODE(25ml)とを250mlの丸底フラスコに入れ、100℃で2時間脱気した。1−オクタンチオール(18ml、104mmol)を素早く添加し、温度を125℃に上げ、次いで溶液を30分間熱処理した。温度を200℃に上げ、溶液を2時間熱処理した。温度を160℃に下げ、一夜撹拌し、室温まで冷却した。
【0071】
冷却後の反応混合物を4000rpmで5分間遠心分離した。油状の上層をデカンテーションで分離し捨てた。固体をアセトン中に分散させ、次いでメタノールを加え、混合物を4000rpmで5分間遠心分離した。固体をアセトン/メタノールに再分散させて遠心分離した。上澄液を廃棄後、このプロセスをさらに2度繰り返した。固体をジクロロメタンに溶解し、アセトン/メタノールで沈殿させた。4000rpmで5分間遠心分離後、上澄液を捨てた。このプロセスを繰り返し、次いで固体を一夜真空乾燥して黒色固体を生成物として得た。
【0072】
ICP−OESによる元素分析は重量比で次の通りである:16.84%Cu、25.25%In、5.28%Ga、18.8%S。これは、CuIn
0.83Ga
0.29S
2.21の化学式に相当する。チオールキャッピング剤は総硫黄含量に寄与している。
【0073】
XRD(
図2のD)は、特徴的なカルコパイライト回折パターンを示し、そのピーク位置と相対強度は、文献のCuInS
2とCuGaS
2の値の中間であった。
【0074】
図7に示すように、TEMは、直径が約4nmであり形状が不揃いのナノ粒子を見せた。
【0075】
<実施例7 Cu(In,Ga)S
2ナノ粒子の合成>
Cu(OAc)(1.48g、12.1mmol)と、In(OAc)
3(2.82g、9.66mmol)と、GaCl
3(0.73g、4.1mmol)と、ODE(25ml)とを250ml丸底フラスコに入れ、100℃で1時間脱気した。1−オクタンチオール(18ml、104mmol)を素早く添加し、温度を125℃に上げ、次いでこの溶液を30分間熱処理した。温度を200℃に上げて溶液を2時間熱処理した。温度を160℃に下げて一夜撹拌し、室温まで冷却した。
【0076】
冷却後の反応混合物を、4000rpmで5分間遠心分離した。油状の上層をデカンテーションで分離して捨てた。この固体を(反応フラスコからの固体残渣とともに)超音波処理によりアセトン中に分散し、メタノールを添加し、混合物を4000rpmで5分間遠心分離した。上澄液は捨てた。固体をアセトン/メタノールに再分散させ、遠心分離した。上澄液を捨てた後、このプロセスをさらに2回繰り返した。固体をジクロロメタンに溶解し、アセトン/メタノールで沈殿化させた。4000rpmで5分間遠心分離後、上澄液を捨てた。このプロセスを繰り返し、固体を真空乾燥して黒色粉末を生成物として得た。
【0077】
ICP−OESによる元素分析の結果は重量比で次の通りである:16.44%Cu、24.63%In、3.86%Ga、17.67%S。これは、CuIn
0.83Ga
0.21S
2.23の化学式に相当する。チオールキャッピング剤は総硫黄含量に寄与している。
【0078】
<実施例8 Cu(In,Ga)S
2ナノ粒子の合成>
Cu(OAc)(1.48g、12.1mmol)と、In(OAc)
3(2.82g、9.66mmol)と、Ga(acac)
3(2.67g、7.27mmol;acac=アセチルアセトネート)と、ODE(25ml)とを250ml丸底フラスコに投入し、100℃で1時間脱気させた。1−オクタンチオール(18ml、104mmol)を素早く加え、温度を125℃に上げ、次いで溶液を30分間熱処理した。温度を200℃まで上げて溶液を2時間熱処理した。温度を160℃まで下げて一夜撹拌し、室温まで冷却した。
【0079】
冷却した反応混合物を超音波処理によりアセトンに分散し、白色固体をスパチュラを用いて手で分離し廃棄した。溶液にメタノールを加え、混合物を4000rpmで5分間遠心分離した。上澄液は捨てた。固体をアセトン/メタノールに再分散して遠心分離した。上澄液を除いた後、このプロセスを繰り返した。この固体をジクロロメタンに溶解し、次いでアセトン/メタノールで沈殿化させた。4000rpmで5分間遠心分離後、上澄液を捨てた。このプロセスを繰り返し、次いで固体を真空乾燥して赤褐色の粉末を生成物として得た。
【0080】
この材料のXRD(
図2のE)は、特徴的なカルコパイライト回折パターンを示し、そのピーク位置と相対強度は、文献のCuInS
2とCuGaS
2のものの中間であった。このピークは、GaCl
3で製造したCuInGaS
2のピークよりもブロードで不明確であり、粒子サイズが適当なGa源を用いて調整可能であることを示している。
図8に示すように、TEMは、直径が<3nmのナノ粒子を見せた。
【0081】
ICP−OESによる元素分析の結果は重量比で次の通りである:13.86%Cu、22.05%In、2.94%Ga、19.98%S。これは、CuIn
0.88Ga
0.19S
2.86の化学式に相当する。チオールキャッピング剤は総硫黄含量に寄与している。
【0082】
<実施例9 1−オクタンチオールと硫黄粉末を用いるCu(In,Ga)S
2ナノ粒子の合成>
Cu(OAc)(0.369g、3.01mmol)と、In(OAc)
3(0.7711g、2.64mmol)と、Ga(acac)
3(0.4356g、1.19mmol)と、硫黄(0.2885g、9.00mmol)と、ベンジルエーテル(15ml)と、1−オクタンチオール(13.8ml、79.5mmol)とを、リービッヒ冷却器と捕集器を備えた100ml丸底フラスコに投入した。混合物を真空下60℃で1時間脱気させた。窒素充填後、温度を200℃に上げ2時間維持した。溶液を160℃に冷却して18時間熱処理し、室温まで冷却した。生成物をトルエンで洗浄し、エタノールで沈殿させた。
【0083】
<実施例10 1−オクタンチオールと硫黄粉末を用いるCu(In,Ga)S
2ナノ粒子の合成>
Cu(OAc)(0.369g、3.01mmol)と、In(OAc)
3(0.7711g、2.64mmol)と、Ga(acac)
3(0.4356g、1.19mmol)と、硫黄(0.2885g、9.00mmol)と、オレイルアミン(9ml)とを、リービッヒ冷却器と捕集器を備えた100ml丸底フラスコに投入した。混合物を真空下60℃で1時間脱気した。窒素で充填後、1−オクタンチオール(4.8ml、27.7mmol)を注入した。温度を200℃まで上げて2時間保持した。溶液を160℃に冷却し18時間熱処理後、室温まで冷却した。生成物をトルエンで洗浄し、エタノールで沈殿させた。
【0084】
<実施例11 CuGaS
2ナノ粒子の合成>
Cu(OAc)(1.48g、12.1mmol)と、GaCl
3(6.72g、38.2mmol)と、ODE(20ml)とを100ml丸底フラスコに入れ、100℃で1.5時間脱気した。1−オクタンチオール(18ml、104mmol)を加え、温度を200℃に上げ、次いで溶液を2時間熱処理した。温度を160℃に下げて一夜撹拌し、室温まで冷却した。
【0085】
冷却した反応混合物を4000rpmで5分間遠心分離した。油状の上層をデカンテーションで分離して捨てた。固体をアセトンに分散し、次いでメタノールを加え、混合物を4000rpmで5分間遠心分離した。固体をアセトン/メタノールに再分散させて遠心分離した。上澄液を捨てた後、このプロセスを繰り返した。固体をさらに2回アセトンで洗浄した。固体をジクロロメタン(DCM)に溶解し、次いでアセトン/メタノールで沈殿化させた。4000rpmで5分間遠心分離後、上澄液を捨てた。このプロセスを繰り返し、次いで固体を約3時間真空乾燥した。油状の固体をさらに2回DCM/メタノールで洗浄し、次いで一夜乾燥させて暗褐色の油状固体を生成物として得た。
【0086】
ICP−OESによる元素分析の結果は重量比で次の通りであった:12.74%Cu、13.42%Ga、11.54%S。これは、CuGa
0.96S
1.90の化学式に相当する。チオールキャッピング剤は総硫黄含量に寄与している。XRD(
図2のF)は、特徴的なカルコパイライト回折パターンを示し、これは文献のCuGaS
2のピーク位置と相対強度によく一致した。
【0087】
TEM(
図9)は、平均粒径が約4〜5nmである擬球状ナノ粒子の凝集物を見せた。
【0088】
<実施例12 tert−ノニルメルカプタンを用いるCuInS
2ナノ粒子の合成>
5.003g(17.1mmol)のIn(OAc)
3と、2.005g(16.3mmol)のCu(OAc)と、30mlのベンジルエーテルとを、オーブン乾燥した100mlの丸底フラスコに投入した。フラスコにリービッヒ冷却器と捕集ヘッドを取り付け、これを真空下100℃で1時間加熱し、その後窒素を充填した。
【0089】
100℃で9ml(84mmol)のブタンチオールを添加し、混合物をさらに30分間撹拌した。次いで、13ml(69mmol)のtert−ノニルメルカプタンを添加し、混合物を140℃に加熱して4時間撹拌してから室温まで冷却した。
【0090】
室温まで冷却後、激しく撹拌しながら30mlのプロパン−2−オールを反応混合物に添加し、フラスコを大気に解放した。混合物を5400Gで3分間遠心分離し、暗色の上澄液を取り出した。残留する残渣を2回、10mlのルエンに分散し、次いで10mlのプロパン−2−オールを添加した。各分散の後に混合物を5400Gで3分間遠心分離し、全ての上澄液を混合した。2回洗浄した後に残留する残渣を廃棄した。
【0091】
混合液にメタノール(300ml)を加えた。上澄液と得られた沈殿物を、遠心分離(2700G、5分)で分離した。淡オレンジ色の上澄液を捨て、固体を10mlのジクロロメタン/100mlメタノールから再沈殿させ、遠心分離し、真空下で乾燥させた。
【0092】
このプロセスで、TGAによる無機物含有量が67%である材料4.585gを得た(
図10)。無機物含有量は、線状のオクタンチオールを用いて合成したCuInS
2の無機物含有量より大きく、短鎖のリガンドがナノ粒子中の炭素含量を減少させ得ることを示している。
【0093】
吸収スペクトルと発光スペクトル(それぞれ
図11のAと
図11のB)は、ナノ粒子に典型的な量子閉じ込めを示している。この粒子のXRDパターン(
図2のG)は、既知のCuInS
2のXRDパターンとよく一致する。lCP−OESによる元素分析の結果は重量比で次の通りである:16.40%Cu、33.24%In、23.41%S。これは、CuIn
1.20S
2.80の化学式に相当する。ブタンチオールキャッピング剤は、Sの量に寄与している。
【0094】
<実施例13 tert−ノニルメルカプタンを用いるCu(In,Ga)S
2ナノ粒子の合成>
3.529g(12.1mmol)のIn(OAc)
3と、1.901g(5.2mmol)のGa(acac)
3と、3.227g(16.2mmol)のCu(OAc)
2・H
2Oと、22.5mlのオレイルアミンと、30mlのベンジルエーテルとを、オーブン乾燥した250ml丸底フラスコに投入した。フラスコにリービッヒ冷却器と捕集ヘッドを取り付け、混合物を真空下で100℃で1時間加熱し、その後窒素を充填した。
【0095】
脱気した1−オクタンチオール(12ml、69mmol)を100℃で加え、混合物を15分間撹拌し、次いで13ml(69mmol)の脱気tert−ノニルメルカプタンを加えた。混合物を160℃で4.5時間加熱し、室温まで放冷した。
【0096】
冷却後にフラスコを雰囲気に開放し、50mlのプロパン−2−オールを添加した。混合物を2700Gで5分間遠心分離し、濃赤色の上澄液を取り分けた。残留する残渣を20mlのトルエンに分散し、40mlのプロパン−2−オールを加えた。分散液を2700Gで5分間遠心分離し、上澄液を前回の上澄液と混合した。残留する残渣を廃棄した。
【0097】
上澄液の混合物にメタノール(250ml)を添加し、混合物を2700Gで5分間遠心分離した。淡オレンジ色の上澄液を捨て、得られた固体を30mlのトルエンに分散した。プロパン−2−オール(45ml)を加え、混合物を2700Gで5分間遠心分離した。上澄液を取り分け、残渣を廃棄した。上澄液にメタノール(150ml)を加え、得られた凝集固体を遠心分離(2700G、5分間)で分離し、次いでジクロロメタン(30ml)/アセトン(60ml)/メタノール(180ml)から再沈殿させ、次いでジクロロメタン(30ml)/メタノール(150ml)から再沈殿させた。沈殿物を遠心分離で分離し、真空下で乾燥させた。
【0098】
このプロセスで、TGA(
図12)による無機物含有量が57%である材料5.962gを得た。吸収スペクトルと発光スペクトル(それぞれ
図13のAと
図13のB)は、ナノ粒子に典型的な量子閉じ込めを示している。ICP−OESによる元素分析の結果は重量比で次の通りである:13.93%Cu、20.42%In、4.74%Ga、15.97%S。これは、CuIn
0.81Ga
0.31S
2.80の化学式に相当する。
【0099】
なお、本実施例で使用した溶媒のオレイルアミンは、前の実施例で使用した溶媒よりも高温(約350℃)で沸騰する。しかしながら、本実施例に記載のプロセスで製造したナノ粒子のTGA(
図12)は、ナノ粒子と結合した全ての有機物が350℃未満の温度で気化することを示し、オレイルアミンがナノ粒子をキャップしていないことを示唆する。従って、このプロセスで製造されたナノ粒子を用いて製造された膜では、オレイルアミンは存在しておらず、膜の残留炭素に寄与していない。
【0100】
本発明の特定の実施様態を開示及び記載してきたが、これらは本特許の範囲を制限するものではない。本明細書中で説明した発明の範囲から離れることなく様々な変更や修正が可能であることは当業者に明白であろう。