【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、例えば
図12に示すように対になる変換装置と再利用装置の組を同一の層に設置することにすれば、変換装置で変換された蓄積エネルギの、前記遠隔化に基づく損失を低減することは可能になる。
【0007】
しかしながら、その場合、
図13に示すように変換装置の設置層の揺れを抑制するために再利用装置から付与される制御力を強め、制震効果を高めようとすれば、変換装置設置層の相対変位や速度が低下し、揺れが低減されるため、その後にその層の振動エネルギから得られる変換エネルギが減少し、次のタイミングで制御力として利用可能な再利用エネルギも減少し、特許文献1〜4と同様の状況に陥り、制震効果を得にくくなる。
【0008】
この場合、再利用装置の制御力付与時の使用エネルギ量(再利用エネルギ量)に対する、変換装置による変換エネルギ量の比率(エネルギ収支)は1より小さくなるため、再利用装置が使用できる再利用エネルギ量が、変換装置が変換した変換エネルギ量で賄いきれなくなり、アクティブ制震システムが成立しない状況に陥る。
【0009】
本発明は上記背景より、再利用装置から上部構造に付与すべき制御力に要する再利用エネルギ量を抑えながら、変換装置が上部構造の揺れから変換できる振動エネルギ量を稼ぎ、再利用装置が使用する再利用エネルギ量に対する、変換装置による変換エネルギ量の比率(エネルギ収支)を1より大きくすることを可能にするエネルギ変換型アクティブ絶対制震システムを提案するものである。
【0010】
請求項1に記載の発明のエネルギ変換型アクティブ絶対制震システムは、地震時に下部構造に対して水平方向に相対変位を生じる上部構造に入力した振動エネルギを制御力として利用可能な変換エネルギに変換する変換装置と、この変換装置で変換された変換エネルギを蓄積する蓄積装置と、この蓄積装置に蓄積された変換エネルギを前記上部構造に制御力として付与する再利用装置とを備えたエネルギ変換型アクティブ制震システムにおいて、前記上部構造が前記下部構造上に、前記下部構造との間で水平方向に相対変位を生じ得る支持層を介して支持され、前記変換装置と前記再利用装置が共に、前記上部構造と前記下部構造との間に跨って架設され、
前記再利用装置が前記蓄積装置に蓄積された変換エネルギを用いて前記上部構造に対し、前記下部構造との間の相対変位に拘わらず、前記上部構造を前記下部構造の変位前の位置に留まらせるための制御力を付与することを構成要件とする。
【0011】
変換装置は例えばシリンダ内を往復動するピストンを挟んで区分されたシリンダ室を持つ油圧シリンダ等の液圧シリンダであり、上部構造に入力した地震時の揺れを受けて圧力が上昇した圧油等の圧液を流体エネルギ(圧力エネルギ)として蓄積装置に送る。本発明ではこの流体エネルギを変換エネルギと呼ぶ。蓄積装置は圧液を流体エネルギとして一旦、蓄積した後、再利用装置の制御力発生時に圧液を再利用装置に送り込み、再利用装置が上部構造に制御力を付与する。本発明では蓄積装置に蓄積されている変換エネルギの内、再利用装置が制御力の発生のために使用するエネルギを再利用エネルギと呼ぶ。再利用装置は例えばシリンダ内を往復動するピストンを挟んで区分されたシリンダ室を持つ油圧アクチュエータ等の液圧アクチュエータであり、両側のシリンダ室内に供給される圧液量の差に応じた圧力を制御力として発生する。
【0012】
蓄積装置3は例えば
図3、
図4に示すように蓄積した変換エネルギを圧液の放出により再利用装置4に付属したサーボ弁45を経由させて再利用装置4に送り込み、再利用装置4はサーボ弁45で各シリンダ室43、44に振り分けられた圧液を各シリンダ室43、44内に流入させることにより両シリンダ室43、44間の圧力差ΔPを制御力Fとして上部構造7に付与する。再利用装置4が制御力Fの発生のために使用し、圧力の低下した圧液は変換装置2への復帰のために油圧タンク等の回収装置5へ放出される。変換装置2と蓄積装置3と再利用装置4、及び回収装置5はアクティブ絶対制震システムを構成する単位となる制震装置1を構成する。請求項1以下のアクティブ絶対制震システムはアクティブ絶対制震装置とも言い換えられる。
【0013】
上部構造7と下部構造6は支持層8を挟んで上下に区分される構造体であり、下部構造6は主に支持層8より上の構造体(上部構造7)を支持する地盤、もしくは基礎になり、上部構造7は下部構造6に支持される支持層8上の地上構造物等の構造物になる。但し、支持層8は地盤面上、もしくは基礎上に介在するとは限らず、
図8に示すように地上層に介在することもあるため、下部構造6は地上構造物の一部を含むこともある。
【0014】
また
図1−(a)に示すように支持層8が地盤と地上構造物の境界に位置する場合には、地上構造物に基礎が含まれる場合もあり、その場合、下部構造6は地盤になる。支持層8は
図1−(b)に示すように上下(上部構造7と下部構造6)に分断された基礎の中間部に位置する場合もあり、その場合、基礎は上部構造7側と下部構造6側に分離する。支持層8は主に
図1−(a)に示す免震層や(b)に示す低剛性層等の柔な層(請求項2)であるが、後述のように必ずしも柔な層である必要はない。請求項1における「支持層が下部構造との間で水平方向に相対変位を生じ得る」とは、支持層8が下部構造6との間で容易に水平方向に相対変位を生じる柔な層と、容易に相対変位を生じない、柔でない層を含む趣旨である。
【0015】
変換装置2と再利用装置4は上部構造7と下部構造6との間に跨って架設され、同一層に配置されることで、両者間の距離が短縮されるため、振動エネルギから変換された変換エネルギを変換装置2から再利用装置4まで送り込むまでに失われるエネルギの損失量が低減される。特に
図3に示すように変換装置2と再利用装置4が同一位置に互いに併設された場合には、変換装置2と再利用装置4との間の距離が最短になるため、損失エネルギ量が最小になる。
【0016】
変換装置2と再利用装置4が上部構造7と下部構造6との間の同一層に設置されることで、
図12に示す例と同様に再利用装置4から上部構造7に制御力が付与され、上部構造7の揺れが抑制されるときに、上部構造7の相対変位や速度が低下するため、その後に下部構造6に対して振動する上部構造7から得られる変換エネルギが減少し、次に制御力として利用(回収)可能な変換エネルギが低下する可能性が想定される。
【0017】
しかしながら、上部構造7は下部構造6との間の相対変位に拘わらず、地震発生前の下部構造6の変位前の位置に留まるような制御力を再利用装置4から受けることで、地震が終息するまでは、すなわち下部構造6が振動し続ける限り、上部構造7と下部構造6との間には相対変位が生じ、振動エネルギを発生するため、変換装置2は下部構造6と上部構造7との間の相対変位量や相対速度に応じた変換エネルギを得ることができる。「上部構造が地震発生前の下部構造の変位前の位置に留まる」とは、上部構造7が絶対空間に静止させられることを言う。上部構造7と下部構造6との間には下部構造6が変位前の原位置を通過するとき以外、相対変位が生じているため、変換装置2はこの相対変位から振動エネルギを再利用可能な変換エネルギに変換可能である。
【0018】
下部構造6が振動し続ける限り、変換装置2が振動エネルギから蓄積可能な変換エネルギに変換可能であることで、再利用装置4から上部構造7に制御力を付与した後、次のタイミングで再利用装置4が制御力として利用可能な再利用エネルギを賄うだけの量の変換エネルギを振動エネルギから変換し、蓄積することが可能であり、振動の繰り返しによる再利用可能な変換エネルギが次第に減少していく事態は回避される。
【0019】
また上部構造7が絶対空間に静止させられるための制御力を受けることで、下部構造6が振動を開始した後には、上部構造7に対しては下部構造6の振動開始前の位置に留まらせるだけの制御力を付与すればよいため、その制御力には下部構造6との相対変位が0になるように制御する場合のように上部構造7を下部構造6の変位に追従させるために要する制御力程の大きさを必要としない。この結果、上部構造7に付与すべき制御力は上部構造7を下部構造6の変位に追従させる場合より低減され、変換装置2が蓄積装置3に蓄積した変換エネルギの内、再利用装置4から出力すべき再利用エネルギ量を節減し、変換エネルギを温存することが可能になる。
【0020】
変換装置2が上部構造7と下部構造6との間に設置され、下部構造6に対する上部構造7の相対的な振動時の振動エネルギを変換エネルギに変換することは、仮に再利用装置4が何らかの理由で稼働しない場合にも、少なくとも変換装置2による振動エネルギの変換エネルギへの変換時に上部構造7には変換装置(油圧シリンダ)2が発生する減衰力が付与されるため、上部構造7に対するパッシブによる制震効果が発揮される意味がある。
【0021】
以上のように再利用装置4から付与される制御力の対象となる上部構造7と下部構造6との間には下部構造6の振動中、下部構造6が変位前の原位置を通過するとき以外、相対変位が生じていることで、この相対変位を利用して変換装置2が振動エネルギを変換エネルギに変換し続けることができるため、蓄積装置3に蓄積できる変換エネルギ量が減少することがない。一方、上部構造7に対しては下部構造6の振動前の位置に留まるような制御力を付与すればよいことで、上部構造7に付与すべき必要な制御力は下部構造6に対する相対変位がないように制御する場合より小さくて済むため、結果的に
図5−(d)、
図7に示すように再利用装置4が使用(消費)する再利用エネルギ量に対する、再利用装置4に供給される変換エネルギ量の比率(エネルギ収支)が1より大きくなり、エネルギ収支が向上する。
【0022】
再利用エネルギ量に対する変換エネルギ量の比率が1より大きくなることで、再利用装置4から出力される制御力の発生に要する再利用エネルギ量を制限する必要がなく、上部構造7に対し、上部構造7を下部構造6の変位前の位置に留まらせる(絶対空間に静止させる)ために必要な量の再利用エネルギ量を制限なく消費することができるため、制御力の付与による上部構造7に対する制震効果が損なわれることはなく、制震効果は十分に発揮される。
【0023】
上記のように再利用装置4が上部構造7を絶対空間に静止させるための制御力を上部構造7に付与することで、上部構造7と下部構造6との間には常に相対変位が生じるため、変換装置2はその相対変位量に応じた振動エネルギを再利用エネルギとして利用可能な変換エネルギに変換することができ、再利用エネルギ量を多く確保(蓄積)することが可能である。再利用エネルギ量の蓄積が可能であることで、上部構造7を絶対空間に静止させるために下部構造6に対して能動的(アクティブ)に相対変位させる上では、再利用装置4が発生すべき制御力の大きさを必ずしも制限する必要がなくなる。
【0024】
例えば上部構造7が免震層等、柔な層に支持されている場合には、上部構造7を絶対空間に静止させるために上部構造7に付与すべき制御力は柔でない層に支持されている場合の制御力より小さくて済む。
【0025】
上部構造7に制御力を付与したときに上部構造7を下部構造6に対して相対移動し易い状態に下部構造6に支持させるには、より小さい制御力の付与によって上部構造7を相対移動させることが合理的であるから、上部構造7は特許文献1〜4のように免震層や低剛性層のように柔な層に支持されることが適切である。その場合、風荷重程度の外力を受けたときにも上部構造7が下部構造6に対して揺れ易い状態に置かれることから、上部構造7の居住性が低下する可能性があるが、風荷重程度の外力で上部構造7が振動を生じないようにすることは、例えば上部構造7を再利用装置4で固定することにより可能になる。
【0026】
また、本発明では上部構造7に付与すべき制御力を制限する必要がないことと、上部構造7が必ずしも柔な層に支持される必要がないことで、
図6に示すように風荷重程度の外力では容易に相対移動が生じないような、柔でない支持層8を介して上部構造7が下部構造6に支持されている場合にも、上部構造7に、下部構造6に対して相対変位を生じさせるだけの制御力を付与することができる。このため、支持層8の水平剛性の程度に拘わらず、上部構造7を下部構造6に対して相対移動を生じさせることが可能である。上部構造7が柔でない支持層8に支持された場合には、上部構造7に付与される制御力の大きさが制限されないことで、風荷重程度の外力を受けたときの上部構造7の居住性を低下させることなく、上部構造7を絶対空間に静止させる制御をすることが可能になる。
【0027】
只、支持層8が柔な層である場合(請求項2)には、上部構造7を下部構造6に対して相対移動させるために要する制御力の大きさが、支持層8が柔でない層である場合より小さくて済むため、蓄積装置3に蓄積されている再利用エネルギが消費されにくく、再利用エネルギが温存され易い利点がある。柔な層は免震装置からなる免震層と、下部構造6の振動時に下部構造6と上部構造7間に相対変位を生じさせるソフトファーストストーリー(低剛性層)を含む。ソフトファーストストーリーは1階、または低層階を柔構造化した層であり、例えば「柔らかくて強い柱で支持された層」等を言う。
【0028】
図6は上部構造7と下部構造6間に介在する支持層8が柔でない(非免震構造等である)場合に、上部構造7と下部構造6間に変換装置2と再利用装置4を設置した様子を、
図7は
図6に示す建物モデルの解析結果としての応答加速度分布を示す。
図6は柱・梁のフレームからなるラーメン構造の架構からなる上部構造7の2階の下に剛性要素9としての、ブレースが架設されたフレームを接合し、この剛性要素9と下部構造6の1階の床(スラブ)との間に
図3に示す変換装置2と再利用装置4を架設した構造物(建物モデル)の例を示す。この例では2階以上の階が上部構造7になり、1階が、もしくは1階を含む基礎以下が下部構造6になる。
【0029】
図6では上部構造7の2階床に設置した速度センサにより上部構造7の絶対速度を計測し、その計測値に比例した制御力を再利用装置4から上部構造7に付与することにより上部構造7を絶対空間に静止させる制御をした場合の各階の応答加速度を
図7に示す。
図7から、再利用装置4からの制御力の付与がある場合には制御力の付与がない場合との対比では全階の応答加速度が低減し、上部構造7に対して絶対制震の制御をしたことの効果が表れていることが分かる。また上部構造7に制御力を付与した直後に上部構造7の下部構造6に対する振動から得られる平均の変換エネルギ量は再利用装置4から上部構造7に付与される制御力に必要な再利用エネルギ量を上回り、エネルギ収支(変換エネルギ量/再利用エネルギ量)が1を超えていることが確認されている。
【0030】
上部構造7を下部構造6の変位前の位置に留まらせる(絶対空間に静止させる)ための制御力は上部構造7の、振動前の下部構造6に対する絶対的な応答値(応答変位と応答速度の少なくともいずれか)に基づいて制御力を決定する場合(請求項3)と、下部構造6の振動時の応答値に基づいて制御力を決定する場合(請求項4)がある。
【0031】
上部構造7の下部構造6に対する絶対的な応答値を用いる場合(請求項3)は、
図6に示すように上部構造7内に設置されたセンサ等で検出された応答変位や応答速度のみを用いたフィードバック制御により次に上部構造7に付与すべき制御力を決定することができるため、制御力を決定する上では上部構造7と下部構造6の諸元(特性)のデータを必要としない。上部構造7の応答変位や応答速度を計測するための計測器(センサ)を必要とするだけで済む。
【0032】
下部構造6の振動時の応答値を用いる場合(請求項4)には、地盤等の下部構造6上に設置されたセンサ等で検出された変位や速度を用いてフィードフォワード制御により次に上部構造7に付与すべき制御力を決定することになり、上部構造7の応答値を用いないため、制御力の算出には上部構造7の剛性、質量、振動特性等の諸元のデータを必要とする。
【0033】
下部構造6の振動時の応答値を用いて制御力Fを算出する場合の具体的手段を以下に示す。上部構造7(構造物)の固有周期を1.0秒、上部構造7を剛体と見なし、免震層(柔な層)に支持させたときの固有周期(免震固有周期)を3.0秒とし、上部構造7全体の質量Mを5t・sec
2/cm、上部構造7の基礎部分の質量mを0.5t・sec
2/cm、上部構造7全体の剛性Kfを197.19t/cm、基礎部分の剛性Kを24.10t/cmとする。また基礎部分の減衰係数Cを4.605t・sec/cm(減衰定数が20%のとき)、または6.908t・sec/cm(減衰定数が30%のとき)とする。
【0034】
ここで、上部構造7を絶対空間に静止させるための制御方法としては既往の各種の手法が利用可能であるが、例えば上部構造7の基礎が支持層8と共に、変換装置2と再利用装置4を介して下部構造6に支持された、
図2に示す振動モデルに適用した場合の制御例を示す。この場合、再利用装置4が発生する制御力Fを用いた振動方程式は
M・d2X/dt2+C・dX/dt+K・X=−M(d2Y/dt2)+F
と表すことができる。
この式を絶対座標系で表すと、
M(d2X/dt2 +d2Y/dt2)+C(dX/dt+dY/dt)+K(X+Y)=K・Y+C(dY/dt)+F
になる。
ここで、右辺が0になるように制御力Fを定義すれば、
F=−K・Y−C(dY/dt)
として制御力Fが決められる。
制御力Fがこの値に設定された場合、左辺も0になるため、上部構造7全体を絶対空間に静止させることができることになる。
【0035】
上部構造7の絶対的な応答値として絶対速度と絶対変位を用いる場合(請求項3)の具体的な方法を以下に示す。制御力Fは
F=−G1(dX/dt +dY/dt)−G2・K(X+Y)
と表すことができる。ここで、G1は絶対速度に対するゲイン、G2は絶対変位に対するゲインである。
入力地震動として八戸(NS)レベルIIを用いた場合の解析結果を
図5に示す。
図5−(a)では横軸にG1を、縦軸に支持層(免震層)8上の上部構造7の応答最大絶対加速度を示している。
図5−(a)から、G1が大きくなる程、加速度が低下し、G1=50のときに破線円で示す、上部構造7が免震層に支持された(通常の免震構造の)場合の加速度の1/4に低下していることが分かる。
図5−(a)中、鎖線円で示す応答値はG1=100のときで、G2=50、減衰定数=30%とした場合の応答値を示しているが、G1=100のときにはG1=50のときより加速度が更に減少していることが分かる。
【0036】
図5−(b)はG1と免震層の応答最大相対変位及び応答最大絶対変位との関係を示している。この図から、G1が大きくなる程、免震層の応答最大相対変位は小さくなるが、16cm付近に漸近することが分かる。この数値は地震動による地盤の変位量であるが、破線円で示す通常の免震構造の数値の2/3程度になっている。また免震層上の応答最大絶対変位はG1の増加に伴って減少し、G1=100、G2=50、減衰定数=30%のときにほぼ0になり、絶対空間に静止している状況にあることが分かる。
【0037】
図5−(c)は変換装置2が変換エネルギへの変換時に発生する減衰力、及び再利用装置4が発生する制御力とG1との関係を示している。この図から、G1が大きくなる程、制御力が大きくなるが、破線円で示す通常の免震構造の場合の制震装置(油圧シリンダ)が発生する減衰力と遜色ない程度の範囲内にあり、G1=50当たりからG1の増加に伴う制御力の増加の程度が緩慢であることが分かる。またG1=100、G2=50、減衰定数=30%のときには鎖線円で示すように減衰力と制御力のいずれも免震構造の場合より増大していることが分かる。
【0038】
図5−(d)は変換装置2で変換される変換エネルギの、再利用装置4が発生する制御力に使用される分(再利用エネルギ)の内、上部構造7の振動(揺れ)を打ち消すために上部構造7を加力している「加振」の時間帯に消費される再利用エネルギに対する比率(変換エネルギ/再利用(加振)エネルギ=エネルギ収支)とG1との関係を示している。制御力の発生時期は「加振」の時間帯と、「加振」以外の上部構造7の揺れを抑制するための抵抗力を発生している「吸収」の時間帯に区分され、「加振」と「吸収」が繰り返される。再利用装置4は例えば「加振」時に蓄積装置3に蓄積されている変換エネルギを使用して制御力を発生し、「吸収」時には蓄積装置3の変換エネルギを使用することなく、両側のシリンダ室43、44間の圧液の移動量を流量制御弁により制御することで、蓄積装置3に蓄積されている変換エネルギを温存することが可能になっている。
【0039】
図5−(d)の例ではG1の増加に伴い、変換エネルギ/再利用エネルギ(エネルギ収支)の比率が低下する傾向を示すため、変換エネルギで再利用エネルギを賄うことが厳しくなるように見える。但し、G1=50のときの変換エネルギの不足率は数%程度に留まるため、初期の、あるいは下部構造6の振動中に蓄えられた予備分の変換エネルギを合わせる(加える)ことで、変換エネルギの不足分を補い、十分に再利用エネルギを賄い得る状況にあると言える。なお、G1=50以降、G1=100、G2=50、減衰定数=30%のときにまでエネルギ収支はほとんど低下していない。
【0040】
このことは、変換エネルギの多くを再利用エネルギとして使用し、上部構造7に対して強い制御を掛けることを必要とする場合にも、継続する地震動から上部構造7に入力する振動エネルギを変換装置2が変換エネルギに変換し、蓄積装置3に蓄積し続けることで、支持層8が柔であるか否かを問わず、上部構造7を絶対空間に静止させる絶対制震制御が実現可能であることを意味している。結果として、これまで同一箇所でエネルギの変換と再利用を行う場合にエネルギ収支が1を下回り、再利用装置4が制御力の発生のために使用できる再利用エネルギ量が変換装置2が変換した変換エネルギ量で賄いきれない状況に陥ることがないことを物語る。