特許第6093284号(P6093284)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6093284エネルギ変換型アクティブ絶対制震システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6093284
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】エネルギ変換型アクティブ絶対制震システム
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20170227BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20170227BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   F16F15/02 A
   E04H9/02 351
   F16F15/023 Z
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-237610(P2013-237610)
(22)【出願日】2013年11月18日
(65)【公開番号】特開2015-98875(P2015-98875A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2016年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 直幹
【審査官】 熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−094013(JP,A)
【文献】 特開平10−061256(JP,A)
【文献】 特開2010−078096(JP,A)
【文献】 特開平08−218679(JP,A)
【文献】 特開2001−254533(JP,A)
【文献】 特開2002−054680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
E04H 9/02
F16F 15/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震時に下部構造に対して水平方向に相対変位を生じる上部構造に入力した振動エネルギを制御力として利用可能な変換エネルギに変換する変換装置と、この変換装置で変換された変換エネルギを蓄積する蓄積装置と、この蓄積装置に蓄積された変換エネルギを前記上部構造に制御力として付与する再利用装置とを備えたエネルギ変換型アクティブ制震システムにおいて、
前記上部構造は前記下部構造上に、前記下部構造との間で水平方向に相対変位を生じ得る支持層を介して支持され、前記変換装置と前記再利用装置は共に、前記上部構造と前記下部構造との間に跨って架設され、
前記再利用装置は前記蓄積装置に蓄積された変換エネルギを用いて前記上部構造に対し、前記下部構造との間の相対変位に拘わらず、前記上部構造を前記下部構造の変位前の位置に留まらせるための制御力を付与することを特徴とするエネルギ変換型アクティブ絶対制震システム。
【請求項2】
前記支持層は柔な層であることを特徴とする請求項1に記載のエネルギ変換型アクティブ絶対制震システム。
【請求項3】
前記上部構造の、振動前の前記下部構造に対する絶対的な応答値に基づいて前記制御力を決定することを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載のエネルギ変換型アクティブ絶対制震システム。
【請求項4】
前記下部構造の振動時の応答値に基づいて前記制御力を決定することを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載のエネルギ変換型アクティブ絶対制震システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は構造物に入力した振動エネルギを制御力として利用可能なエネルギに変換し、この変換されたエネルギを使用して構造物に制御力を付与し、構造物の振動を抑制するエネルギ変換型アクティブ絶対制震システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震時等に構造物に入力した振動エネルギを流体エネルギ等、蓄積可能なエネルギに変換する油圧シリンダ等の変換装置と、変換装置で変換されたエネルギを蓄積するアキュムレータ等の蓄積装置と、蓄積装置に蓄積されたエネルギを構造物に制御力として付与する駆動装置(アクチュエータ)等の再利用装置から成立するエネルギ変換型アクティブ制震システムでは、図10図11に示すように変換装置は振動エネルギの入力位置に応じて地盤、または上層階に設置され、再利用装置は振動時の地盤に対する相対変位量、もしくは相対速度が大きくなる最上階等に設置される(特許文献1〜4参照)。
【0003】
ここで、変換装置の設置層において地盤との間の相対変位が小さい場合、制御力が付与された後の地盤に対する相対変位は制御力の付与により更に小さくなり、次のタイミングでその層に生じ、変換エネルギに変換可能な振動エネルギが小さくなるため、再利用装置が次に発生すべき制御力を賄えるだけの再利用エネルギを回収することが難しくなる。
【0004】
このような事情から、上記のように変換装置と再利用装は異なる層に設置されることになり、特許文献1〜4のように変換装置と再利用装置との間の距離が遠隔化する傾向になる。但し、両装置間距離の遠隔化はエネルギの輸送距離が増大することであるから、再利用装置で利用可能な蓄積エネルギが損失することを意味するため、エネルギの利用効率の低下を招く結果になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−218679号公報(請求項1、段落0019〜0029、図1図3
【特許文献2】特開平9−324552号公報(請求項1、段落0015〜0020、図1図2
【特許文献3】特開平11−94013号公報(請求項1、段落0008〜0021、図1図5
【特許文献4】特開2005−163317号公報(請求項1、段落0012〜0028、図1図8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、例えば図12に示すように対になる変換装置と再利用装置の組を同一の層に設置することにすれば、変換装置で変換された蓄積エネルギの、前記遠隔化に基づく損失を低減することは可能になる。
【0007】
しかしながら、その場合、図13に示すように変換装置の設置層の揺れを抑制するために再利用装置から付与される制御力を強め、制震効果を高めようとすれば、変換装置設置層の相対変位や速度が低下し、揺れが低減されるため、その後にその層の振動エネルギから得られる変換エネルギが減少し、次のタイミングで制御力として利用可能な再利用エネルギも減少し、特許文献1〜4と同様の状況に陥り、制震効果を得にくくなる。
【0008】
この場合、再利用装置の制御力付与時の使用エネルギ量(再利用エネルギ量)に対する、変換装置による変換エネルギ量の比率(エネルギ収支)は1より小さくなるため、再利用装置が使用できる再利用エネルギ量が、変換装置が変換した変換エネルギ量で賄いきれなくなり、アクティブ制震システムが成立しない状況に陥る。
【0009】
本発明は上記背景より、再利用装置から上部構造に付与すべき制御力に要する再利用エネルギ量を抑えながら、変換装置が上部構造の揺れから変換できる振動エネルギ量を稼ぎ、再利用装置が使用する再利用エネルギ量に対する、変換装置による変換エネルギ量の比率(エネルギ収支)を1より大きくすることを可能にするエネルギ変換型アクティブ絶対制震システムを提案するものである。
【0010】
請求項1に記載の発明のエネルギ変換型アクティブ絶対制震システムは、地震時に下部構造に対して水平方向に相対変位を生じる上部構造に入力した振動エネルギを制御力として利用可能な変換エネルギに変換する変換装置と、この変換装置で変換された変換エネルギを蓄積する蓄積装置と、この蓄積装置に蓄積された変換エネルギを前記上部構造に制御力として付与する再利用装置とを備えたエネルギ変換型アクティブ制震システムにおいて、前記上部構造が前記下部構造上に、前記下部構造との間で水平方向に相対変位を生じ得る支持層を介して支持され、前記変換装置と前記再利用装置が共に、前記上部構造と前記下部構造との間に跨って架設され、
前記再利用装置が前記蓄積装置に蓄積された変換エネルギを用いて前記上部構造に対し、前記下部構造との間の相対変位に拘わらず、前記上部構造を前記下部構造の変位前の位置に留まらせるための制御力を付与することを構成要件とする。
【0011】
変換装置は例えばシリンダ内を往復動するピストンを挟んで区分されたシリンダ室を持つ油圧シリンダ等の液圧シリンダであり、上部構造に入力した地震時の揺れを受けて圧力が上昇した圧油等の圧液を流体エネルギ(圧力エネルギ)として蓄積装置に送る。本発明ではこの流体エネルギを変換エネルギと呼ぶ。蓄積装置は圧液を流体エネルギとして一旦、蓄積した後、再利用装置の制御力発生時に圧液を再利用装置に送り込み、再利用装置が上部構造に制御力を付与する。本発明では蓄積装置に蓄積されている変換エネルギの内、再利用装置が制御力の発生のために使用するエネルギを再利用エネルギと呼ぶ。再利用装置は例えばシリンダ内を往復動するピストンを挟んで区分されたシリンダ室を持つ油圧アクチュエータ等の液圧アクチュエータであり、両側のシリンダ室内に供給される圧液量の差に応じた圧力を制御力として発生する。
【0012】
蓄積装置3は例えば図3図4に示すように蓄積した変換エネルギを圧液の放出により再利用装置4に付属したサーボ弁45を経由させて再利用装置4に送り込み、再利用装置4はサーボ弁45で各シリンダ室43、44に振り分けられた圧液を各シリンダ室43、44内に流入させることにより両シリンダ室43、44間の圧力差ΔPを制御力Fとして上部構造7に付与する。再利用装置4が制御力Fの発生のために使用し、圧力の低下した圧液は変換装置2への復帰のために油圧タンク等の回収装置5へ放出される。変換装置2と蓄積装置3と再利用装置4、及び回収装置5はアクティブ絶対制震システムを構成する単位となる制震装置1を構成する。請求項1以下のアクティブ絶対制震システムはアクティブ絶対制震装置とも言い換えられる。
【0013】
上部構造7と下部構造6は支持層8を挟んで上下に区分される構造体であり、下部構造6は主に支持層8より上の構造体(上部構造7)を支持する地盤、もしくは基礎になり、上部構造7は下部構造6に支持される支持層8上の地上構造物等の構造物になる。但し、支持層8は地盤面上、もしくは基礎上に介在するとは限らず、図8に示すように地上層に介在することもあるため、下部構造6は地上構造物の一部を含むこともある。
【0014】
また図1−(a)に示すように支持層8が地盤と地上構造物の境界に位置する場合には、地上構造物に基礎が含まれる場合もあり、その場合、下部構造6は地盤になる。支持層8は図1−(b)に示すように上下(上部構造7と下部構造6)に分断された基礎の中間部に位置する場合もあり、その場合、基礎は上部構造7側と下部構造6側に分離する。支持層8は主に図1−(a)に示す免震層や(b)に示す低剛性層等の柔な層(請求項2)であるが、後述のように必ずしも柔な層である必要はない。請求項1における「支持層が下部構造との間で水平方向に相対変位を生じ得る」とは、支持層8が下部構造6との間で容易に水平方向に相対変位を生じる柔な層と、容易に相対変位を生じない、柔でない層を含む趣旨である。
【0015】
変換装置2と再利用装置4は上部構造7と下部構造6との間に跨って架設され、同一層に配置されることで、両者間の距離が短縮されるため、振動エネルギから変換された変換エネルギを変換装置2から再利用装置4まで送り込むまでに失われるエネルギの損失量が低減される。特に図3に示すように変換装置2と再利用装置4が同一位置に互いに併設された場合には、変換装置2と再利用装置4との間の距離が最短になるため、損失エネルギ量が最小になる。
【0016】
変換装置2と再利用装置4が上部構造7と下部構造6との間の同一層に設置されることで、図12に示す例と同様に再利用装置4から上部構造7に制御力が付与され、上部構造7の揺れが抑制されるときに、上部構造7の相対変位や速度が低下するため、その後に下部構造6に対して振動する上部構造7から得られる変換エネルギが減少し、次に制御力として利用(回収)可能な変換エネルギが低下する可能性が想定される。
【0017】
しかしながら、上部構造7は下部構造6との間の相対変位に拘わらず、地震発生前の下部構造6の変位前の位置に留まるような制御力を再利用装置4から受けることで、地震が終息するまでは、すなわち下部構造6が振動し続ける限り、上部構造7と下部構造6との間には相対変位が生じ、振動エネルギを発生するため、変換装置2は下部構造6と上部構造7との間の相対変位量や相対速度に応じた変換エネルギを得ることができる。「上部構造が地震発生前の下部構造の変位前の位置に留まる」とは、上部構造7が絶対空間に静止させられることを言う。上部構造7と下部構造6との間には下部構造6が変位前の原位置を通過するとき以外、相対変位が生じているため、変換装置2はこの相対変位から振動エネルギを再利用可能な変換エネルギに変換可能である。
【0018】
下部構造6が振動し続ける限り、変換装置2が振動エネルギから蓄積可能な変換エネルギに変換可能であることで、再利用装置4から上部構造7に制御力を付与した後、次のタイミングで再利用装置4が制御力として利用可能な再利用エネルギを賄うだけの量の変換エネルギを振動エネルギから変換し、蓄積することが可能であり、振動の繰り返しによる再利用可能な変換エネルギが次第に減少していく事態は回避される。
【0019】
また上部構造7が絶対空間に静止させられるための制御力を受けることで、下部構造6が振動を開始した後には、上部構造7に対しては下部構造6の振動開始前の位置に留まらせるだけの制御力を付与すればよいため、その制御力には下部構造6との相対変位が0になるように制御する場合のように上部構造7を下部構造6の変位に追従させるために要する制御力程の大きさを必要としない。この結果、上部構造7に付与すべき制御力は上部構造7を下部構造6の変位に追従させる場合より低減され、変換装置2が蓄積装置3に蓄積した変換エネルギの内、再利用装置4から出力すべき再利用エネルギ量を節減し、変換エネルギを温存することが可能になる。
【0020】
変換装置2が上部構造7と下部構造6との間に設置され、下部構造6に対する上部構造7の相対的な振動時の振動エネルギを変換エネルギに変換することは、仮に再利用装置4が何らかの理由で稼働しない場合にも、少なくとも変換装置2による振動エネルギの変換エネルギへの変換時に上部構造7には変換装置(油圧シリンダ)2が発生する減衰力が付与されるため、上部構造7に対するパッシブによる制震効果が発揮される意味がある。
【0021】
以上のように再利用装置4から付与される制御力の対象となる上部構造7と下部構造6との間には下部構造6の振動中、下部構造6が変位前の原位置を通過するとき以外、相対変位が生じていることで、この相対変位を利用して変換装置2が振動エネルギを変換エネルギに変換し続けることができるため、蓄積装置3に蓄積できる変換エネルギ量が減少することがない。一方、上部構造7に対しては下部構造6の振動前の位置に留まるような制御力を付与すればよいことで、上部構造7に付与すべき必要な制御力は下部構造6に対する相対変位がないように制御する場合より小さくて済むため、結果的に図5−(d)、図7に示すように再利用装置4が使用(消費)する再利用エネルギ量に対する、再利用装置4に供給される変換エネルギ量の比率(エネルギ収支)が1より大きくなり、エネルギ収支が向上する。
【0022】
再利用エネルギ量に対する変換エネルギ量の比率が1より大きくなることで、再利用装置4から出力される制御力の発生に要する再利用エネルギ量を制限する必要がなく、上部構造7に対し、上部構造7を下部構造6の変位前の位置に留まらせる(絶対空間に静止させる)ために必要な量の再利用エネルギ量を制限なく消費することができるため、制御力の付与による上部構造7に対する制震効果が損なわれることはなく、制震効果は十分に発揮される。
【0023】
上記のように再利用装置4が上部構造7を絶対空間に静止させるための制御力を上部構造7に付与することで、上部構造7と下部構造6との間には常に相対変位が生じるため、変換装置2はその相対変位量に応じた振動エネルギを再利用エネルギとして利用可能な変換エネルギに変換することができ、再利用エネルギ量を多く確保(蓄積)することが可能である。再利用エネルギ量の蓄積が可能であることで、上部構造7を絶対空間に静止させるために下部構造6に対して能動的(アクティブ)に相対変位させる上では、再利用装置4が発生すべき制御力の大きさを必ずしも制限する必要がなくなる。
【0024】
例えば上部構造7が免震層等、柔な層に支持されている場合には、上部構造7を絶対空間に静止させるために上部構造7に付与すべき制御力は柔でない層に支持されている場合の制御力より小さくて済む。
【0025】
上部構造7に制御力を付与したときに上部構造7を下部構造6に対して相対移動し易い状態に下部構造6に支持させるには、より小さい制御力の付与によって上部構造7を相対移動させることが合理的であるから、上部構造7は特許文献1〜4のように免震層や低剛性層のように柔な層に支持されることが適切である。その場合、風荷重程度の外力を受けたときにも上部構造7が下部構造6に対して揺れ易い状態に置かれることから、上部構造7の居住性が低下する可能性があるが、風荷重程度の外力で上部構造7が振動を生じないようにすることは、例えば上部構造7を再利用装置4で固定することにより可能になる。
【0026】
また、本発明では上部構造7に付与すべき制御力を制限する必要がないことと、上部構造7が必ずしも柔な層に支持される必要がないことで、図6に示すように風荷重程度の外力では容易に相対移動が生じないような、柔でない支持層8を介して上部構造7が下部構造6に支持されている場合にも、上部構造7に、下部構造6に対して相対変位を生じさせるだけの制御力を付与することができる。このため、支持層8の水平剛性の程度に拘わらず、上部構造7を下部構造6に対して相対移動を生じさせることが可能である。上部構造7が柔でない支持層8に支持された場合には、上部構造7に付与される制御力の大きさが制限されないことで、風荷重程度の外力を受けたときの上部構造7の居住性を低下させることなく、上部構造7を絶対空間に静止させる制御をすることが可能になる。
【0027】
只、支持層8が柔な層である場合(請求項2)には、上部構造7を下部構造6に対して相対移動させるために要する制御力の大きさが、支持層8が柔でない層である場合より小さくて済むため、蓄積装置3に蓄積されている再利用エネルギが消費されにくく、再利用エネルギが温存され易い利点がある。柔な層は免震装置からなる免震層と、下部構造6の振動時に下部構造6と上部構造7間に相対変位を生じさせるソフトファーストストーリー(低剛性層)を含む。ソフトファーストストーリーは1階、または低層階を柔構造化した層であり、例えば「柔らかくて強い柱で支持された層」等を言う。
【0028】
図6は上部構造7と下部構造6間に介在する支持層8が柔でない(非免震構造等である)場合に、上部構造7と下部構造6間に変換装置2と再利用装置4を設置した様子を、図7図6に示す建物モデルの解析結果としての応答加速度分布を示す。図6は柱・梁のフレームからなるラーメン構造の架構からなる上部構造7の2階の下に剛性要素9としての、ブレースが架設されたフレームを接合し、この剛性要素9と下部構造6の1階の床(スラブ)との間に図3に示す変換装置2と再利用装置4を架設した構造物(建物モデル)の例を示す。この例では2階以上の階が上部構造7になり、1階が、もしくは1階を含む基礎以下が下部構造6になる。
【0029】
図6では上部構造7の2階床に設置した速度センサにより上部構造7の絶対速度を計測し、その計測値に比例した制御力を再利用装置4から上部構造7に付与することにより上部構造7を絶対空間に静止させる制御をした場合の各階の応答加速度を図7に示す。図7から、再利用装置4からの制御力の付与がある場合には制御力の付与がない場合との対比では全階の応答加速度が低減し、上部構造7に対して絶対制震の制御をしたことの効果が表れていることが分かる。また上部構造7に制御力を付与した直後に上部構造7の下部構造6に対する振動から得られる平均の変換エネルギ量は再利用装置4から上部構造7に付与される制御力に必要な再利用エネルギ量を上回り、エネルギ収支(変換エネルギ量/再利用エネルギ量)が1を超えていることが確認されている。
【0030】
上部構造7を下部構造6の変位前の位置に留まらせる(絶対空間に静止させる)ための制御力は上部構造7の、振動前の下部構造6に対する絶対的な応答値(応答変位と応答速度の少なくともいずれか)に基づいて制御力を決定する場合(請求項3)と、下部構造6の振動時の応答値に基づいて制御力を決定する場合(請求項4)がある。
【0031】
上部構造7の下部構造6に対する絶対的な応答値を用いる場合(請求項3)は、図6に示すように上部構造7内に設置されたセンサ等で検出された応答変位や応答速度のみを用いたフィードバック制御により次に上部構造7に付与すべき制御力を決定することができるため、制御力を決定する上では上部構造7と下部構造6の諸元(特性)のデータを必要としない。上部構造7の応答変位や応答速度を計測するための計測器(センサ)を必要とするだけで済む。
【0032】
下部構造6の振動時の応答値を用いる場合(請求項4)には、地盤等の下部構造6上に設置されたセンサ等で検出された変位や速度を用いてフィードフォワード制御により次に上部構造7に付与すべき制御力を決定することになり、上部構造7の応答値を用いないため、制御力の算出には上部構造7の剛性、質量、振動特性等の諸元のデータを必要とする。
【0033】
下部構造6の振動時の応答値を用いて制御力Fを算出する場合の具体的手段を以下に示す。上部構造7(構造物)の固有周期を1.0秒、上部構造7を剛体と見なし、免震層(柔な層)に支持させたときの固有周期(免震固有周期)を3.0秒とし、上部構造7全体の質量Mを5t・sec/cm、上部構造7の基礎部分の質量mを0.5t・sec/cm、上部構造7全体の剛性Kfを197.19t/cm、基礎部分の剛性Kを24.10t/cmとする。また基礎部分の減衰係数Cを4.605t・sec/cm(減衰定数が20%のとき)、または6.908t・sec/cm(減衰定数が30%のとき)とする。
【0034】
ここで、上部構造7を絶対空間に静止させるための制御方法としては既往の各種の手法が利用可能であるが、例えば上部構造7の基礎が支持層8と共に、変換装置2と再利用装置4を介して下部構造6に支持された、図2に示す振動モデルに適用した場合の制御例を示す。この場合、再利用装置4が発生する制御力Fを用いた振動方程式は
M・d2X/dt2+C・dX/dt+K・X=−M(d2Y/dt2)+F
と表すことができる。
この式を絶対座標系で表すと、
M(d2X/dt2 +d2Y/dt2)+C(dX/dt+dY/dt)+K(X+Y)=K・Y+C(dY/dt)+F
になる。
ここで、右辺が0になるように制御力Fを定義すれば、
F=−K・Y−C(dY/dt)
として制御力Fが決められる。
制御力Fがこの値に設定された場合、左辺も0になるため、上部構造7全体を絶対空間に静止させることができることになる。
【0035】
上部構造7の絶対的な応答値として絶対速度と絶対変位を用いる場合(請求項3)の具体的な方法を以下に示す。制御力Fは
F=−G1(dX/dt +dY/dt)−G2・K(X+Y)
と表すことができる。ここで、G1は絶対速度に対するゲイン、G2は絶対変位に対するゲインである。
入力地震動として八戸(NS)レベルIIを用いた場合の解析結果を図5に示す。図5−(a)では横軸にG1を、縦軸に支持層(免震層)8上の上部構造7の応答最大絶対加速度を示している。
図5−(a)から、G1が大きくなる程、加速度が低下し、G1=50のときに破線円で示す、上部構造7が免震層に支持された(通常の免震構造の)場合の加速度の1/4に低下していることが分かる。図5−(a)中、鎖線円で示す応答値はG1=100のときで、G2=50、減衰定数=30%とした場合の応答値を示しているが、G1=100のときにはG1=50のときより加速度が更に減少していることが分かる。
【0036】
図5−(b)はG1と免震層の応答最大相対変位及び応答最大絶対変位との関係を示している。この図から、G1が大きくなる程、免震層の応答最大相対変位は小さくなるが、16cm付近に漸近することが分かる。この数値は地震動による地盤の変位量であるが、破線円で示す通常の免震構造の数値の2/3程度になっている。また免震層上の応答最大絶対変位はG1の増加に伴って減少し、G1=100、G2=50、減衰定数=30%のときにほぼ0になり、絶対空間に静止している状況にあることが分かる。
【0037】
図5−(c)は変換装置2が変換エネルギへの変換時に発生する減衰力、及び再利用装置4が発生する制御力とG1との関係を示している。この図から、G1が大きくなる程、制御力が大きくなるが、破線円で示す通常の免震構造の場合の制震装置(油圧シリンダ)が発生する減衰力と遜色ない程度の範囲内にあり、G1=50当たりからG1の増加に伴う制御力の増加の程度が緩慢であることが分かる。またG1=100、G2=50、減衰定数=30%のときには鎖線円で示すように減衰力と制御力のいずれも免震構造の場合より増大していることが分かる。
【0038】
図5−(d)は変換装置2で変換される変換エネルギの、再利用装置4が発生する制御力に使用される分(再利用エネルギ)の内、上部構造7の振動(揺れ)を打ち消すために上部構造7を加力している「加振」の時間帯に消費される再利用エネルギに対する比率(変換エネルギ/再利用(加振)エネルギ=エネルギ収支)とG1との関係を示している。制御力の発生時期は「加振」の時間帯と、「加振」以外の上部構造7の揺れを抑制するための抵抗力を発生している「吸収」の時間帯に区分され、「加振」と「吸収」が繰り返される。再利用装置4は例えば「加振」時に蓄積装置3に蓄積されている変換エネルギを使用して制御力を発生し、「吸収」時には蓄積装置3の変換エネルギを使用することなく、両側のシリンダ室43、44間の圧液の移動量を流量制御弁により制御することで、蓄積装置3に蓄積されている変換エネルギを温存することが可能になっている。
【0039】
図5−(d)の例ではG1の増加に伴い、変換エネルギ/再利用エネルギ(エネルギ収支)の比率が低下する傾向を示すため、変換エネルギで再利用エネルギを賄うことが厳しくなるように見える。但し、G1=50のときの変換エネルギの不足率は数%程度に留まるため、初期の、あるいは下部構造6の振動中に蓄えられた予備分の変換エネルギを合わせる(加える)ことで、変換エネルギの不足分を補い、十分に再利用エネルギを賄い得る状況にあると言える。なお、G1=50以降、G1=100、G2=50、減衰定数=30%のときにまでエネルギ収支はほとんど低下していない。
【0040】
このことは、変換エネルギの多くを再利用エネルギとして使用し、上部構造7に対して強い制御を掛けることを必要とする場合にも、継続する地震動から上部構造7に入力する振動エネルギを変換装置2が変換エネルギに変換し、蓄積装置3に蓄積し続けることで、支持層8が柔であるか否かを問わず、上部構造7を絶対空間に静止させる絶対制震制御が実現可能であることを意味している。結果として、これまで同一箇所でエネルギの変換と再利用を行う場合にエネルギ収支が1を下回り、再利用装置4が制御力の発生のために使用できる再利用エネルギ量が変換装置2が変換した変換エネルギ量で賄いきれない状況に陥ることがないことを物語る。
【発明の効果】
【0041】
上部構造を下部構造上に、下部構造との間で水平方向に相対変位を生じ得る支持層を介して支持させ、変換装置と再利用装置を上部構造と下部構造との間に跨って架設し、再利用装置が変換装置で変換された変換エネルギを用いて上部構造に対し、上部構造を下部構造の変位前の位置に留まらせるための制御力を上部構造に付与するため、下部構造が振動し続ける限り、再利用装置が制御力として利用可能な再利用エネルギを賄うだけの量の変換エネルギを蓄積することができ、振動の繰り返しによる再利用可能な変換エネルギが次第に低下する事態を回避することができる。
【0042】
下部構造の振動中には、再利用装置が発生する制御力の付与対象である上部構造と下部構造との間の相対変位を利用して変換装置が振動エネルギを変換エネルギに変換し続けることができるため、蓄積装置に蓄積できる変換エネルギ量が減少することがない。一方、上部構造に対しては下部構造の振動前の位置に留まるような制御力を付与することで、上部構造に付与すべき制御力が下部構造に対する相対変位がないように制御する場合より小さくて済むため、再利用装置が消費する再利用エネルギ量に対する、供給される変換エネルギ量の比率(エネルギ収支)が1より大きくなり、エネルギ収支が向上する。この結果、再利用装置から出力される制御力の発生に要する再利用エネルギ量を制限する必要がなく、上部構造に対し、上部構造を絶対空間に静止させるために必要な量の再利用エネルギ量を制限なく消費することができるため、制御力の付与による上部構造に対する制震効果が損なわれることはなく、制震効果は十分に発揮される。
【0043】
上部構造に付与すべき制御力を制限する必要がないことで、上部構造が必ずしも柔な層に支持される必要がないため、風荷重程度の外力では容易に相対移動が生じないような柔でない支持層を介して上部構造が下部構造に支持されている場合にも、上部構造に、下部構造に対して相対変位を生じさせるだけの制御力を付与することができる。この結果、上部構造が柔でない支持層に支持された場合に、上部構造に付与される制御力の大きさが制限されないことで、風荷重程度の外力を受けたときの上部構造の居住性を低下させることなく、上部構造を絶対空間に静止させる制御をすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】(a)は上部構造が支持層としての免震層に支持された場合の上部構造と下部構造間に変換装置と再利用装置を設置した様子を示した立面図、(b)は支持層としての低剛性層に支持された場合の上部構造と下部構造間に変換装置と再利用装置を設置した様子を示した立面図である。
図2図1−(a)、(b)に示す構造物の振動モデルを示した概要図である。
図3】(a)は図1−(a)、(b)に示す上部構造と下部構造間に設置された変換装置を示した立面図、(b)は変換装置に再利用装置が併設されている様子を示した(a)の平面図である。
図4】(a)は制震装置の構成例を示した概要図、(b)は(a)におけるサーボ弁の詳細図である。
図5】(a)は上部構造が免震層に支持された場合の上部構造の絶対速度と絶対変位に基づいて再利用装置が発生する制御力を決定する制御をした場合の制御ゲインと応答最大加速度の関係を示したグラフ、(b)は制御ゲインと上部構造の最大変位との関係を示したグラフ、(c)は制御ゲインと制御力及び免震構造の場合の減衰力との関係を示したグラフ、(d)は制御ゲインとエネルギ収支との関係を示したグラフである。
図6】上部構造と下部構造間に介在する支持層が柔でない層である場合に、上部構造と下部構造間に変換装置と再利用装置を設置した建物モデルを示した立面図である。
図7図6に示す建物モデルの解析結果として応答加速度分布を示したグラフである。
図8】地上層のいずれかの階に支持層としての免震層が介在する場合の上部構造と下部構造間に変換装置と再利用装置を架設した構造物の例を示した立面図である。
図9】地下階を含む構造物全体が上部構造であり、下部構造としての地盤との間に支持層としての免震層が介在する場合の上部構造と下部構造間に変換装置と再利用装置を架設した構造物の例を示した立面図である。
図10】従来の基本的な制震システムの構成例を示した立面図である。
図11】変換装置から複数の再利用装置にエネルギを供給する場合の従来の制震システムの構成例を示した立面図であり、(a)は変換装置が免震層に架設されたダンパーの場合、(b)は変換装置が隣接する構造物(棟)間に架設されたダンパーの場合である。
図12】同一層に設置された変換装置から再利用装置にエネルギを供給する場合の従来の制震システムの構成例を示した立面図である。
図13図12に示す振動モデルにおける変換エネルギと再利用エネルギの関係を示した概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1−(a)、(b)は地震時に下部構造6に対して水平方向に相対変位を生じる上部構造7に入力した振動エネルギを制御力として利用可能な変換エネルギに変換する変換装置2と、変換装置2で変換された変換エネルギを蓄積する蓄積装置3と、蓄積装置3に蓄積された変換エネルギを上部構造7に制御力として付与する再利用装置4とを備え、上部構造7が下部構造6上に、下部構造6との間で水平方向に相対変位を生じ得る支持層8を介して支持されたエネルギ変換型アクティブ絶対制震システム(アクティブ絶対制震装置)の構成例を示す。図1−(a)は支持層8が免震層の場合、(b)は水平剛性を低下させた低剛性層である場合である。
【0046】
変換装置2と再利用装置4は共に、上部構造7と下部構造6との間に跨って架設される。再利用装置4は変換装置2で変換され、蓄積装置3に蓄積された変換エネルギを再利用エネルギとして用いて上部構造7に対し、下部構造6との間の相対変位に拘わらず、上部構造7を下部構造6の変位前の位置に留まらせ、絶対空間に静止させるための制御力を付与する。
【0047】
蓄積装置4に変換エネルギとして蓄積されている圧液の内、再利用装置4が上部構造7への制御力の発生のために使用した後の圧力の低下した圧液は変換装置2への復帰のために油圧タンク等の回収装置5に回収される。この回収装置5と、変換装置2と蓄積装置3及び再利用装置4はアクティブ絶対制震システムを構成する単位となる制震装置1を構成する。
【0048】
制震装置1は図3−(a)、(b)に示すように振動エネルギを変換エネルギとしての流体エネルギに変換する油圧シリンダ等の変換装置2と、変換装置2に接続され、変換装置2で変換された流体エネルギを蓄積するアキュムレータ等の蓄積装置3と、蓄積装置3に接続され、蓄積装置3に蓄積された流体エネルギ(圧液)を用いて上部構造7に付与すべき制御力を出力する再利用装置4と、再利用装置4に接続され、再利用装置4からの制御力の出力時にシリンダ室43、44から放出された圧液を回収し、変換装置2に復帰させる回収装置5から構成される。回収装置5は変換装置2に接続される。
【0049】
制震装置1の下部構造6と上部構造7間への具体的な設置例を図3に示す。ここに示すように制震装置1を構成する変換装置2と再利用装置4は下部構造6の上部構造7側に固定されたブラケット61と、上部構造7の下部構造6側に固定されたブラケット71との間に架設され、上部構造7の下部構造6に対する任意の水平方向の相対変位とそれに伴う鉛直方向の相対変位に追従可能なように軸方向両端部において各ブラケット61、71に任意の軸の回りに回転自在に接続される。変換装置2と再利用装置4の軸方向両端部は球面軸受62、72を介してブラケット61、71に接続されることにより各ブラケット61、71に任意の軸の回りに回転自在に接続される。上部構造7は下部構造6に対して任意の水平方向に相対変位することから、変換装置2と再利用装置4の組(制震装置1)は水平二方向に向けて下部構造6と上部構造7間に架設される。
【0050】
変換装置2と再利用装置4は上部構造7の下部構造6に対する相対変位時に機能するから、いずれも軸方向を相対変位方向である水平方向に向けて配置されることが適切であるが、必ずしもその必要はない。蓄積装置3は変換装置2と再利用装置4の中間部に接続されるが、図3−(b)に示すように変換装置2と再利用装置4のいずれかに付属する形で一体化することもある。
【0051】
変換装置2は具体的には図4に示すようにシリンダ21と、シリンダ21内を往復するピストン22からなり、シリンダ21内はピストン22を挟んだ両側のシリンダ室23、24に区分され、前記のように支持層8を挟んで上下に区分された下部構造6と上部構造7との間に跨った状態で設置される。シリンダ21は図3に示すように下部構造6と上部構造7のいずれか一方に接続され、ピストン22が他方に接続される。
【0052】
変換装置2は地震による下部構造6の振動時に上部構造7が下部構造6に対して相対移動を生じたときに、一方のシリンダ室23(24)内の液圧が上昇することで、高圧の圧液を発生させ、圧液を高圧の状態のまま蓄積装置3に送り込む。蓄積装置3は高圧の圧液を流体エネルギ(圧力エネルギ)として保存する。下部構造6の振動時にはシリンダ21内をピストン22が往復動するため、高圧の圧液は両側のシリンダ室23、24内に交互に発生する。
【0053】
再利用装置4は変換装置2と同様に圧油等の圧液が充填されたシリンダ41と、シリンダ41内を往復し、シリンダ41内を両側のシリンダ室43、44に区分するピストン42からなり、下部構造6と上部構造7との間に跨った状態で設置され、シリンダ41において下部構造6と上部構造7のいずれか一方に接続され、ピストン42において他方に接続される。
【0054】
再利用装置4のピストン42を挟んだ両側の各シリンダ室43、44と蓄積装置3との間には蓄積装置3内の圧液の各シリンダ室43、44への流入を制御するサーボ弁45が接続され、両側のシリンダ室43、44間には両側のシリンダ室43、44間の圧液の移動量を制御する流量制御弁46が接続される。流量制御弁は変換装置2が変換した変換エネルギの蓄積装置3への放出量を制限するために変換装置2にも接続されることがある。
【0055】
再利用装置4の流量制御弁46が両側のシリンダ室43、44間の圧液の移動量を制御することは、図4に示すように再利用装置4の両側のシリンダ室43、44間に流量Q0を生じさせることであるから、サーボ弁45の開放時にQ1+Q3の量の圧液が再利用装置4に送り込まれるときに、一方のシリンダ室43にQ1−Q2−Q0の流量の圧液が送り込まれ、他方のシリンダ室44にQ1−Q2+Q0の流量の圧液が送り込まれる。
【0056】
このとき、再利用装置4の各シリンダ室43、44にはQ1−Q2−Q0に応じた圧力Pa1とQ3−Q4+Q0に応じた圧力Pa2が発生し、これらの圧力差ΔPが制御力Fとして上部構造7に付与される。サーボ弁45と流量制御弁46の制御は両側のシリンダ室43、44内の圧力差ΔP、またはピストン42の移動速度V、及び制御力指令Fを用いたコントローラからの指令に基づいて行われる。流量制御弁に流量Q0を生じさせるかどうかは、速度V、または圧力差ΔPと制御力指令Fの積の正負で判定される。
【0057】
再利用装置4は蓄積装置3内に蓄積されている流体エネルギ(再利用エネルギ)の使用を節約する上では、上部構造7の下部構造6に対する振動(揺れ)を打ち消すために上部構造7に能動的な加力として制御力を付与する「加振」の時間帯と、上部構造7の揺れを抑制するための受動的な抵抗力を発生する「吸収」の時間帯の内、基本的に「加振」の時間帯に蓄積装置3内の流体エネルギを用いて上部構造7に制御力を付与する。再利用装置4は「吸収」の時間帯には主に蓄積装置3内の流体エネルギを用いずに、再利用装置4の両側のシリンダ室43、44内に存在する圧液を用いて上部構造7の揺れを抑制するための抵抗力としての制御力を上部構造7に付与する。
【0058】
再利用装置4が「加振」時のみ蓄積装置3の流体エネルギを使用して制御力を発生し、「吸収」時に蓄積装置3の流体エネルギを使用せずに制御力を発生する機構は、「加振」時に蓄積装置3からの圧液のサーボ弁45の通過を許容し、「吸収」時の少なくとも一部の時間帯に蓄積装置3からの圧液のサーボ弁45の通過を遮断する設定がされた流量制御弁46によって制御される。流量制御弁46が圧液のサーボ弁45の通過を遮断した状態では、流量制御弁46は両側のシリンダ室43、44内の圧液(圧油)を相互に流出入させることにより再利用装置4が発生すべき制御力に必要な圧液を賄う。
【0059】
図6は構造物全体の内、地上2階以上の層が上部構造7で、地上1階以下の層が下部構造6であり、上部構造7と下部構造6との間に介在する支持層8が柔な構造でない場合の例を示す。ここでは上部構造7における最下階である2階のスラブや梁の下部構造6側にブレースや耐震壁等、剛体としての剛性要素9を固定し、この剛性要素9と下部構造6との間に変換装置2と再利用装置4(制震装置1)を架設している。
【0060】
図6の例では支持層8が柔ではなく、剛に近いため、上部構造7に付与すべき制御力は支持層8が柔である場合より大きくなる。但し、上部構造7は下部構造6の変位前の位置に留まるように制御されることで、下部構造6との相対変位が大きくなり、図7の説明に記載のように再利用装置4が発生する制御力に必要な再利用エネルギを賄うのに十分な変換エネルギを変換装置2が振動エネルギから変換することができるため、制御力の大きさが不足する事態に陥ることはない。
【0061】
図8は構造物の地上階が支持層8を挟んで下部構造6と上部構造7に区分された場合の例を、図9は地下階を含む上部構造7としての構造物と下部構造6としての地盤との間に支持層8が介在する場合の例を示す。いずれも支持層8が積層ゴム支承や滑り支承、転がり支承等の免震層等、柔な層である場合を示しているが、柔な層は低剛性層(ソフトファーストストーリー)の場合もある。
【0062】
図1、及び図8図9の例では支持層8が柔な層であることで、支持層8が柔でない図6に示す例の場合より上部構造7に付与すべき制御力は小さくて済むため、蓄積装置3に蓄積される変換エネルギが温存され易く、蓄積され易い状況になる。
【符号の説明】
【0063】
1……制震装置、
2……変換装置、21……シリンダ、22……ピストン、23、24……シリンダ室、
3……蓄積装置、
4……再利用装置、41……シリンダ、42……ピストン、43、44……シリンダ室、45……サーボ弁、46……流量制御弁、
5……回収装置、
6……下部構造、61……ブラケット、62……球面軸受、
7……上部構造、71……ブラケット、72……球面軸受、
8……支持層、9……剛性要素。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13