(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6093311
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】流体を精製するための濾過媒体
(51)【国際特許分類】
C02F 1/50 20060101AFI20170227BHJP
C02F 1/70 20060101ALI20170227BHJP
C02F 1/62 20060101ALI20170227BHJP
C02F 1/58 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
C02F1/50 531E
C02F1/50 510A
C02F1/50 520B
C02F1/50 520P
C02F1/50 540D
C02F1/70 Z
C02F1/62 Z
C02F1/58 P
C02F1/58 H
C02F1/58 A
C02F1/70 A
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-552935(P2013-552935)
(86)(22)【出願日】2012年2月7日
(65)【公表番号】特表2014-508036(P2014-508036A)
(43)【公表日】2014年4月3日
(86)【国際出願番号】EP2012052001
(87)【国際公開番号】WO2012107422
(87)【国際公開日】20120816
【審査請求日】2015年2月5日
(31)【優先権主張番号】61/441,064
(32)【優先日】2011年2月9日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】1150100-4
(32)【優先日】2011年2月9日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】509020295
【氏名又は名称】ホガナス アクチボラグ (パブル)
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゴア、アヴィナシュ
(72)【発明者】
【氏名】フ、ボー
(72)【発明者】
【氏名】ルック、シドニー
【審査官】
片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−093006(JP,A)
【文献】
特開2002−161263(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0241063(US,A1)
【文献】
Subcolloidal Fe/Ag Particles for Reductive Dehalogenation of Chlorinated Benzenes,Ind. Eng. Chem. Res. 2000,2000年,第2238-2244頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00、28、50、58−64、70−78
B01D 23/00−41/00
B01J 20/00−34
Japio−GPG/FX
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体中の汚染物質の含有量を低減させるための水処理用の濾過媒体であって、前記濾過媒体が、
アトマイズ鉄粉末と銀粉末との混合物(A)であって、
前記アトマイズ鉄粉末は1μm〜10mmの平均粒径を有し且つ少なくとも90重量%のFe含有量の鉄粉末を有し、
前記銀粉末は少なくとも99重量%のAg含有量を有し、
0.5〜5重量%のAgを含む前記混合物(A)と、
Ag含有量が0.5重量%以上である、アトマイズ鉄粉末と銀粉末との熱接合粒子であるか、又は、Ag含有量が0.25重量%以上である、アトマイズ鉄粉末と銀粉末との熱合金粒子である鉄−銀粉末合金(B)と、
多孔質で透過性の銀含有鉄ベース複合材(C)であって、前記混合物(A)又は前記合金(B)を用いて作成された複合材(C)と
のうちの少なくとも1つから選択される形態の鉄と銀を含むものであり、
前記汚染物質が、塩素含有化合物、硝酸塩、亜硝酸塩、重金属、毒性無機物質、毒性有機化合物、微生物および/またはその組合せからなる群より選択されるものである、濾過媒体。
【請求項2】
混合物(A)が10μm〜150μmの平均粒径を有するアトマイズ鉄粉末を含むものであり、前記混合物(A)中のAg含有量が0.5重量%よりも多く1重量%以下である、請求項1に記載の濾過媒体。
【請求項3】
鉄−銀粉末合金(B)が40〜150μmの平均粒径を有するものであり、
アトマイズ鉄粉末が10μm〜150μmの平均粒径を有し且つ少なくとも90重量%のFe含有量の鉄粉末を有し、銀粉末が少なくとも99重量%のAg含有量を有し、前記鉄−銀粉末合金(B)中のAg含有量が0.25重量%よりも多く1重量%以下である、請求項1に記載の濾過媒体。
【請求項4】
a) Ag含有量が0.5重量%以上である、アトマイズ鉄粉末と銀粉末との混合物(A)と、
Ag含有量が0.5重量%以上である、アトマイズ鉄粉末と銀粉末との熱接合粒子であるか、又は、Ag含有量が0.25重量%以上である、アトマイズ鉄粉末と銀粉末との熱合金粒子である鉄−銀粉末合金(B)と、
多孔質で透過性の銀含有鉄ベース複合材(C)であって、前記混合物(A)又は前記合金(B)を用いて作成された複合材(C)と
のうちの少なくとも1つから選択される形態の鉄と銀を含む水処理用の濾過媒体を準備する工程と、
b) 1種類以上の汚染された流体を前記濾過媒体と接触させ、前記1種類以上の流体を精製する工程と、
c) 任意選択で、精製された1種類以上の流体から前記濾過媒体を除去する工程と
を含む、流体中の汚染物質の含有量を低減させるための方法。
【請求項5】
汚染物質が、塩素含有化合物、硝酸塩、亜硝酸塩、重金属、毒性無機物質、毒性有機化合物、微生物および/またはその組合せを含む群より選択されるものであり、工程b)の前記1種類以上の流体の精製が、前記流体中の汚染物質の少なくとも1種の含有量を低減させることを含む、請求項4に記載の流体中の汚染物質の含有量を低減させるための方法。
【請求項6】
工程b)において1種類以上の汚染された流体を、前記濾過媒体中を通過させる、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
Ag含有量が0.5重量%以上である、アトマイズ鉄粉末と銀粉末との混合物(A)と、
Ag含有量が0.5重量%以上である、アトマイズ鉄粉末と銀粉末との熱接合粒子であるか、又は、Ag含有量が0.25重量%以上である、アトマイズ鉄粉末と銀粉末との熱合金粒子である鉄−銀粉末合金(B)と、
多孔質で透過性の銀含有鉄ベース複合材(C)であって、前記混合物(A)又は前記合金(B)を用いて作成された複合材(C)と
のうちの少なくとも1つから選択される形態の鉄と銀を含む水処理用の濾過媒体の製造方法であって、
混合物(A)が、アトマイズ鉄粉末を純粋なAg粉末粒子と混合することにより得られるものであり、
鉄−銀粉末合金(B)が、アトマイズ鉄粉末と銀粉末粒子との熱接合または熱合金化によって得られるものであり、
多孔質で透過性の銀含有鉄ベース複合材(C)が、前記混合物(A)または前記鉄−銀粉末合金(B)を、圧密化、熱処理およびサイジングの1つ以上の工程に供することにより得られるものである、製造方法。
【請求項8】
流体が、地下水、川の水、産業排水、都市排水および/または地表水であって、前記流体中の塩素含有化合物、硝酸塩、亜硝酸塩、重金属、毒性無機物質、毒性有機化合物、微生物および/またはその組合せからなる群より選択される汚染物質の含有量を低減させるための請求項1〜4のいずれか1項に記載の濾過媒体の使用。
【請求項9】
少なくとも99%のAg含有量および0.1〜125μmの粒径を有する銀粉末粒子が、1μm〜10mmの平均粒径を有し、少なくとも90重量%のFe含有量の鉄粉末を有するアトマイズ鉄粉末の表面に接合されている、流体中の汚染物質の含有量を低減させるための水処理用の濾過媒体において使用するのに適した請求項1〜8に記載の鉄−銀粉末合金(B)。
【請求項10】
銀粉末粒子が熱プロセスによってアトマイズ鉄粉末の表面に接合されている、請求項9に記載の鉄−銀粉末合金(B)。
【請求項11】
少なくとも99%のAg含有量および0.1〜125μmの粒径を有する銀粉末粒子が、1μm〜10mmの平均粒径を有し、少なくとも90重量%のFe含有量の鉄粉末を有するアトマイズ鉄粉末の表面に熱合金化されている、流体中の汚染物質の含有量を低減させるための水処理用の濾過媒体において使用するのに適した請求項1〜8に記載の鉄−銀粉末合金(B)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾過媒体、その製造方法、前記濾過媒体の使用、および流体中の多種の汚染物質含有量を前記濾過媒体によって同時に低減させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の水源中の毒性の無機/有機物質は、水が飲用水系に移送される前、または受容者にリリースされる前に規制レベルを下回るように低減させなければならない。
硝酸塩(NO
3−)は、農業活動が盛んに行なわれているエリアの地下水中に見られる一般的な無機系汚染物質である。硝酸塩は、通常、農耕およびガーデニングにおいて植物や低木に栄養分を与えるために使用される肥料に由来する。
【0003】
このような活動によって生じ得る他の汚染物質は、リン酸塩(PO
43−)や微量の殺虫剤(アトラジンなど)である。肥料の蓄積は、肥料が土壌中に移行し、地下水系を汚染し得るので問題がある。浅層水の井戸と深層水の井戸のどちらも影響され得る。
【0004】
毒性の金属、例えば、ヒ素(As)、クロム(Cr)、その酸化状態が+6のもの(Cr
VI)は非常に有害であると考えられており、鉛(Pb)、水銀(Hg)、カドミウム(Cd)、セレン(Se)などや、塩素化炭化水素や他の有機物質(場合によっては全有機体炭素(TOC)として測定されるもの)のような他の物質は、天然起源、産業活動、又は農耕活動のいずれからも生じる。
【0005】
水中に存在し得る他の型の汚染物質はバクテリアなどの微生物である。
【0006】
バクテリアを死滅させるための慣用的な方法は、塩素含有化学物質を消毒のために水に添加する塩素処理プロセスの使用である。塩素は非常に効率的な消毒剤であるが、このプロセスに伴う欠点の1つは、健康問題を引き起こし得るClO
−イオンなどの塩素化合物が水中に残留することである。
【0007】
飲用水中の汚染物質が許容レベルに達するようにするため、いくつかの方法が現在使用されている。
【0008】
逆浸透は、浸透作用のプロセスに基づいたものである。これは、膜の一方側から他方側への水の選択的移動を伴うものである。
また、この手法は非常にエネルギーを消費する。
【0009】
イオン交換法は、水をビーズ様球形樹脂物質(イオン交換樹脂)中に浸透させるものである。水中のイオンが該ビーズに固定された他のイオンと交換される。微生物が該樹脂に付着でき、急速なバクテリア増殖の培養培地を提供し、その後、パイロジェンの生成がもたらされ得る。この手法は、初期の設備投資は少ないが、長期間の維持費が高い。
【0010】
上記の手法のうちの1つが、通常、水中に存在する1種類、場合によっては2種類の汚染物質を標的化するために適用される。これは、連鎖プロセスにおいて、いくつかの手法を次で相互に適用する必要がよくあることを意味する。効率を上げてコストを下げるためには、いくつかの汚染物質から1つの単一工程で水を精製することが望ましい。しかしながら、今日では、同時に多種の汚染物質から水を効果的に精製できる市場で入手可能な製品はほとんどない。
【0011】
米国特許公開公報第2007/0241063号には、鉄、炭素および酸素を含む鉄粉末顆粒を有する揮発性有機化合物で汚染された水の処理方法が記載されている。
【0012】
米国特許第5534154号には、汚染物質を含む溶液状態の水を、金属粒子と物理的に混合された吸着性物質の粒子を含む処理物質の透過体中を通過させることにより、汚染水を処理するための手順が記載されている。この特許に記載された鉄金属粒子は、一般的に固体の顆粒形態の鉄の充填物である。この手順では負のEh電圧が必要とされ、これには順に酸素の排除が必要とされる。
【0013】
米国特許第6827757号には、0.05〜10μmの非常に小さい平均粒径を有するマグネタイト−鉄ベース複合材が記載されている。
【0014】
欧州特許出願公開第1273371号には、鉄粉末粒子と無機化合物を含む媒体中のハロゲン化炭化水素を脱ハロゲン化することにより、選択された媒体が修正されるように適合された鉄粉末が記載されている。前記無機化合物は、非常に低い電気抵抗を有するものでなければならず、好ましくはCa、Ti、VおよびCrからなる群より選択される。前記無機化合物は、各粒子の表面上の少なくとも一部分に存在していなければならない。
【0015】
国際公開第2008/129551号には、炭素質物質、水不溶性の金属酸化物または水酸化物、およびキトサンとイオン交換体の少なくとも一つを含む液状フィルター媒体が開示されている。
【0016】
米国特許第4642192号には、水を金属粒子の真鍮床中を通過させることにより、無機塩素の濃度を低下させる方法が開示されている。この方法で示される硝酸塩の低減に対する効果は不充分である。
【0017】
米国特許第6303039号には、少なくとも2種類の殺生性金属と少なくとも1種類のキレート剤を含む配合物であって、数ヶ月以上にわたって溶解する配合物が開示されている。
【0018】
国際公開第03/076341号には、格納容器内に抗菌性処理媒体を備えており、該処理媒体が遷移金属および遷移金属酸化物のうちの1種類以上を含むものである、水中でのバクテリア増殖の防除のためのシステムが記載されている。
【0019】
米国特許第6261986号には、汚染物質の吸着と分解用の物品の製造方法および物品そのものが示されている。少なくとも1種類の吸着剤を少なくとも1種類の汚染物質変換剤と混合し、混合物を形成する。この混合物を圧密化し、多孔質で高度に透過性の物品を形成する。ゼオライトまたは表面改質ゼオライト(SMZ)を吸着剤に加工処理し、鉄粉末または鉄を銀などの他の金属と組み合わせて、汚染物質変換剤に加工処理する。該物品を用いた水中のクロメートおよびペルクロロエチレンの低減が実証された。
【0020】
米国特許第6942807号には、水用フィルターデバイスおよび生水から重金属と有機化合物を除去する方法が示されている。該デバイスは、サンドフィルターに直列に接続された少なくとも1つの鉄製フィルターを備えている。
【0021】
米国特許出願公開第2006/0021946号には、汚染水溶液から毒性金属を除去するための火山岩または人工レンガ由来の再利用鉱物の使用が開示されている。火山岩または人工レンガ由来の再利用鉱物は、ゼロ価の鉄、酸化状態の鉄誘導体および活性炭と組み合わせてもよい。
【0022】
米国特許出願公開第2009/0218266号には、殺生物特性を有する金属イオン供給源と、該イオン供給源を固定化し、殺生物濃度のイオンの持続放出をもたらすマトリックスとを備えたイオン送達システム(IDS)が開示されている。この供給源は、金属塩、金属粒子または微粒状金属合金であり得る。種々の金属と組み合わせた銀が開示されている。該金属または合金の粒径は5〜2000nm、好ましくは1000nm未満、最も好ましくは100〜300nmである。
【0023】
米国特許出願公開第2010/0176044号には、飲用水を処理するための炭素質濾過媒体が提供される。一部の実施形態では、濾過媒体は銀を抗菌成分として含むものである。
【0024】
国際公開第2010/019934号には、飲用水を粗砂の層に通して濾過すること、および該飲用水を複合鉄マトリックスと接触させることを含む、飲用水からウイルスを除去するための方法が示されている。該複合鉄マトリックスは、鉄、マンガン、セリウム、炭素 リン、イオウ、アルミニウム ケイ素、クロム、銅および亜鉛を含む成分を含むものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
銀含有粉末は、銀の含有量が一定割合より多いとバクテリアを死滅させることができるが、硝酸塩の低減に対する効果は非常に小さいことが以前から知られている。また、鉄含有粉末では僅かな量の硝酸塩が低減され得るにすぎないことも以前から知られている。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、粉末形態の銀と鉄の組合せを使用すると、バクテリア死滅能および硝酸塩と塩素の低減能の驚くべき向上が示される有意な相乗効果および/または触媒効果を得られることを見つけた。したがって、このような組合せにより、かなりの量の重金属、バクテリア、塩素および硝酸塩を同時に低減させることができる。この相乗効果は、該組合せを鉄粉末と銀粉末の型の選択、銀の量の決定、および銀を含む鉄ベース濾過媒体の調製方法によって最適化することにより得られる。
【0027】
また、本発明による濾過媒体は、亜硝酸塩や、As、Cr、特に酸化状態+6で最も安定な状態を有するCr、Pb、Hgのような重金属や、毒性の有機および無機化合物のような他の汚染物質や、他の微生物またはその組合せを低減させるためにも使用され得る。
【0028】
本発明は、流体中の汚染物質の含有量を低減させるための濾過媒体であって、前記濾過媒体が、大部分のアトマイズされた鉄ベース粉末または鉄粉末と少量部の銀粉末を含む混合物(A)と、鉄−銀粉末合金(B)と、多孔質で透過性の銀含有鉄ベース複合材(C)のうちの少なくとも1つから選択される形態の鉄と銀を含むものであり、前記汚染物質が、塩素含有化合物、硝酸塩、亜硝酸塩、重金属、毒性無機物質、毒性有機化合物、微生物および/またはその組合せからなる群より選択されるものである濾過媒体に関する。また、本発明は、
a)大部分の鉄ベース粉末と少量部の銀粉末を含む混合物(A)と、
鉄−銀合金(B)と、
多孔質で透過性の銀含有鉄ベース複合材(C)
のうちの少なくとも1つから選択される形態の鉄と銀を含む濾過媒体を準備する工程と、
b)1種類以上の汚染流体を該濾過媒体と接触させ、前記1種類以上の流体を精製する工程と、
c)任意選択で、精製された1種類以上の流体から該濾過媒体を除去する工程と
を含む、流体中の汚染物質の含有量を低減させるための方法に関する。
【0029】
さらに、本発明は、
大部分の鉄ベース粉末と少量部の銀粉末を含む混合物(A)と、
鉄−銀合金(B)と、
多孔質で透過性の銀含有鉄ベース複合材(C)
のうちの少なくとも1つから選択される形態の鉄と銀を含む濾過媒体の作製方法であって、
混合物(A)が、アトマイズ鉄粉末を少なくとも本質的に純粋なAg粉末粒子と混合することにより得られるものであり、
鉄−銀合金(B)が、鉄ベース粉末粒子の銀粉末粒子での熱接合および/または熱合金化によって得られるものであり、
多孔質で透過性の銀含有鉄ベース複合材(C)が、大部分の鉄ベース粉末と少量部の銀粉末を含む混合物(A)または鉄−銀粉末合金(B)を、以下の工程:圧密化、熱処理およびサイジングの1つ以上に供することにより得られるものである、
方法に関する。
【0030】
また、本発明は、流体、好ましくは、流体を含む水、より好ましくは、地下水、川の水、産業排水、都市排水、医療排水および/または地表水において、該流体中の塩素含有化合物、硝酸塩、亜硝酸塩、重金属、毒性無機物質、毒性有機化合物、微生物および/またはその組合せからなる群より選択される汚染物質の含有量を低減させるための濾過媒体の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、本発明による濾過媒体の性能を評価するために使用したカラム試験の概略図を示す。
【
図2】
図2は、100%<60umである純粋な銀粉末の一例を示す。
【
図3】
図3は、鉄粒子表面に対する銀粒子の熱接合および熱合金化の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
銀粒子、鉄または鉄ベース粒子、または諸粒子は、粒径または平均粒径によって特性評価され得る。これとの関連において、平均粒径は、50重量%が平均粒径より大きい粒径を有し、50重量%が平均粒径より小さい粒径を有することを意味する。
【0033】
銀粒子は、99%より高い純度を有するものであり得、固体の球形粒子形状および0.1〜125μm、好ましくは1〜75μm、最も好ましくは1〜60μm(3〜60μmなど)の粒径を有するものであり得る。
【0034】
混合物(A)
本発明の一実施形態において、汚染流体の処理のための濾過媒体は、大部分の鉄ベース粉末と少量部の銀粉末を含む混合物(A)からなるもの、又は該混合物を含むものである。この混合物は、該混合物の0.01〜5%、好ましくは0.05〜1重量%の銀を含むことを特徴とする。
【0035】
混合物(A)は、典型的には、鉄ベース粉末粒子を銀粉末粒子と混合機内で、銀粒子が該混合物全体に均一に分散されるまで混合することにより製造される。混合は、通常の混合機、例えば、Z−ブレードミキサー、コーンミキサー、リボンミキサーまたはハイスピードミキサー内で、0.5分〜8時間、好ましくは1分〜5時間または30分〜3時間の時間で行なわれ得る。
【0036】
使用される鉄ベース粉末粒子は、溶融鉄のアトマイズ処理、すなわち、溶融鉄のガスアトマイズ処理および/または水アトマイズ処理により直接生成される。前記製造法は、現代の当業界における最も一般的な粉末製造プロセスであるが、本発明による鉄ベース粉末粒子は、上記のプロセスのものと同様の粒子が得られる他の製造プロセスから生成され得る。
【0037】
一般に、アトマイズ粉末粒子は、化学的還元によって製造される粒子より少ない内部多孔度を含む。また、粒子の形態構造およびサイズは製造プロセスに左右される。このような違いにより、アトマイズ粒子は、多くの場合、化学的還元粒子よりも高い見かけ密度、例えば、2.5g/cm
3より大きいか、または大抵は2.8g/cm
3より大きい見かけ密度を有する。
【0038】
H2還元で製造される鉄ベース粉末は、通常、2.0g/cm
3未満または1.8g/cm
3未満などの小さい見かけ密度を有する。
【0039】
CO還元で作製される鉄ベース粉末は、通常、上記の両者の中間、例えば、1.8〜2.8g/cm
3または2.0〜2.5g/cm
3の見かけ密度を有する。
【0040】
また、同様の様式で比表面積(BET)に関しても違いがある。アトマイズ粉末は0.1m
2/g未満などの小さい表面積を有し、CO還元粉末は一般的に0.1〜0.18m
2/gの表面積を有し、H2還元粉末は一般的に0.18m
2/gより大きい表面積を有する。
【0041】
粉末粒子の形態、密度、多孔度、表面積などの違いは、本発明によるフィルター媒体の性能に影響を及ぼし、(簡単にする目的で)本出願における製造ルートを特定することにより言及している。しかしながら、フィルター媒体の性質に影響を及ぼすのは粒子特性であって製造ルートでないことに注目することは重要である。したがって、上記のものと同様の特性を有する鉄ベース粉末粒子が得られる任意の他の手法が本出願の実施形態に包含されることを理解されたい。
【0042】
また、他の型の粒子、例えば、活性炭、活性アルミナおよびゼオライト、銅粉末を混合前に添加し、生成物の汚染物質低減特性を向上させてもよい。前記他の型の粒子の添加量は、該混合物の0.01〜10%、好ましくは0.05〜8%、より好ましくは0.10〜5重量%であるのがよい。
【0043】
鉄ベース粉末は、90%以上、例えば95%以上のFe含有量を有するものであり得る。鉄ベース粉末の平均粒径は1μm〜10mm、例えば20μm〜5mm(45μm〜2mmなど)であり得るが、これらの粒径に限定されると解釈すべきでない。さらに、最大2%の鉄ベース粒子が850μmより大きいものであり得、最大30重量%の鉄ベース粒子が45μmより小さいものであり得る、例えば、最大2%が212μmより大きいものであり得、最大30%が45μmより小さいものであり得る。
驚くべきことに、特定の型の銀粒子とアトマイズ鉄ベース粉末粒子との組合せでのみ、フィルター媒体が所望の特性および性能となることが示された。この要件を満たすためには、銀粒子は、99%より高い純度を有するものであり得、固体の球形粒子形状で、0.1〜125μm、好ましくは1〜75μm、最も好ましくは1〜60μm(3〜60μmなど)の粒径を有するものであり得るが、このような粒子範囲に限定されると解釈すべきでない。流体中の汚染物質を低減させるための既知の方法および銀粒子を含む製品とは対照的に、本発明に従って使用される銀粒子は、遥かに大型のサイズを有するものであり、ナノ粒子とみなされ得るもの、またはナノ粒子と定義され得るものではない。この事実は、種々の受容者に対する銀ナノ粒子の飛散に関するマイナス面が除かれ得るため非常に重要である。
【0044】
図2は、3〜60μmの粒径を有する銀粉末の粒子の形態構造を示す。
【0045】
一実施形態では、95重量%より多く、好ましくは99重量%より多くの鉄含有量を有する鉄ベース粉末をFe−Ag合金と混合する。ここで、前記Fe−Ag合金は、鉄粒子に熱接合または熱合金化されたAg粒子からなり、前記Fe−Ag合金は0.01〜5重量%の銀を含む。
【0046】
本発明の一実施形態において、濾過媒体は混合物(A)を含むものであり、該混合物は、
1)10mm〜1μmの平均粒径を有し、少なくとも90重量%のFe含有量の鉄粉末を有するアトマイズ鉄粉末と、少なくとも99重量%の銀含有量を有する本質的に純粋なAg粉末粒子とを含むものであり、混合物(A)は0.01〜5重量%のAgを含む。
【0047】
鉄−銀粉末合金(B)
本発明の一実施形態において、濾過媒体は、鉄−銀粉末合金(1種類または複数種)からなるもの、または含むものである。
【0048】
本発明による鉄−銀粉末合金(1種類または複数種)は、10mm〜1μm、好ましくは5mm〜20μm、最も好ましくは2mm〜45μmの粒径範囲を有するものであり得るが、これらの粒径に限定されると解釈すべきでない。鉄−銀粉末合金(1種類または複数種)は、(A)による銀と鉄粉末から得られ得る。
【0049】
一実施形態において、鉄−銀合金は熱接合および/または熱合金化によって製造され、この場合、銀粒子は鉄ベース粒子の表面に接合および/または合金化される。この実施形態の合金中の銀の量は0.01〜5%である。前記鉄ベース粒子は、溶融鉄のアトマイズ処理、すなわち、溶融鉄のガスアトマイズ処理または水アトマイズ処理により直接生成される。拡散接合プロセスに使用される銀粒子は純粋なAgから生成される。
【0050】
これとの関連において、用語「熱接合」は、950℃より下、好ましくは500〜950℃、最も好ましくは600〜950℃で銀粒子を鉄ベース粒子の表面に単に接合させることを意味する。用語「熱合金化」は、950℃より上、好ましくは950〜1250℃、最も好ましくは950〜1200℃で銀粒子を鉄ベース粒子の表面に堅固に合金化させることを意味する。
図3は、鉄粒子表面に対する銀粒子の熱接合および熱合金化の模式図を示す。
【0051】
択一的な実施形態では、銀粒子を鉄粉末の表面にバインダーによって接合させる。
【0052】
銀を含む多孔質で透過性の鉄ベース複合材(C)
本発明の一実施形態において、汚染流体の処理のための濾過媒体は、銀を含む多孔質で透過性の鉄ベース複合材からなるもの、または含むものである。
【0053】
前記複合材は、鉄−銀合金(B)または鉄ベース粉末−銀含有混合物(A)を一般的な粉末 冶金技術に供することにより、種々の形態、例えば、チップ、フレーク、ブロックまたはペレットに製造され得る。
【0054】
「透過性の」という文言の使用は、本明細書における場合、複合材または鉄ベース粉末体が、特に液体またはガスが透過または浸透するように構築されていると解釈される。
【0055】
「多孔質の」という文言の使用は、本明細書における場合、複合材または鉄粉末または物体が、ガスまたは液体が細孔または隙間を通過可能なように構築されていると解釈される。
【0056】
したがって、本発明による銀を含む多孔質で透過性の鉄ベース複合材(C)は、該複合材の細孔および空洞内に存在する銀含有粒子を含むものであってもよい。
【0057】
鉄ベース粉末混合物(A)または鉄−銀合金(B)は圧密化および/または熱処理に供され、任意選択で、その後にサイジングに供され、銀を含む多孔質で透過性の鉄ベース複合材が製造され得る。
【0058】
圧密化は、通常、約7.0g/cm
3または7.0g/cm
3未満の圧密化密度が得られるように1000MPaより低い、好ましくは600MPaより低い圧力(例えば、10〜1000MPaまたは20〜600MPa)で行ない、所望の形状、例えば、ブロック、顆粒またはペレットを形成する。好ましくは、圧密化密度は、使用される鉄ベース粉末の型にもよるが、2.5〜7.0g/cm
3、好ましくは4〜6g/cm
3である。
【0059】
熱処理は、通常、使用される物質(A)または(B)の型にもよるが、還元雰囲気または不活性雰囲気中で1200℃より下、1000℃より下または800℃より下の温度を伴うものである。熱処理温度は、通常、300℃より上、好ましくは400℃より上である。対象温度範囲は、特に、300〜1200℃、400〜1200℃、300〜1000℃、400〜1000℃、300〜800℃、400〜800℃、300〜700℃、400〜700℃、300〜600℃、400〜600℃、300〜500℃および400〜500℃である。
【0060】
サイジング(sizing)または温和な磨砕が、通常、熱処理および/または圧密化後に行なわれ、10mm〜10μm、好ましくは5mm〜20μm、最も好ましくは2mm〜45μmの粒径がもたらされる任意の適当な設備にて行なわれる。
【0061】
濾過媒体の使用
また、本発明は、流体を、濾過媒体中を通過させるかまたは濾過媒体と接触させる、同時に多種の汚染物質からの汚染流体の処理のための濾過媒体の使用に関する。汚染流体は、好ましくは液状形態である。前記流体は、流体を含む水、好ましくは、地下水、川の水、産業排水、都市排水、医療排水および/または地表水であり得る。前記流体は、本発明による精製処理後、飲用水として使用され得る。前記汚染物質は、塩素含有組成物、硝酸塩、亜硝酸塩、重金属(As、Pb、Hg、Cd、Se、Crおよび六価Crなど)、他の毒性無機物質、毒性有機化合物および/または微生物(バクテリアなど);あるいはその組合せからなる群より選択されるものであり得る。
【0062】
流体中の多種の汚染物質の含有量を低減させるための方法
また、本発明は、上記の鉄粉末ベースの銀含有混合物(A)または鉄−銀合金(B)、または透過性で多孔質の複合材(C)を得る工程、および1種以上の汚染流体を、前記合金若しくは前記混合物若しくは前記複合材からなる又はこれらを含む濾過媒体中を通過させるか、又は該濾過媒体と接触させて、多種の汚染物質の含有量を同時に低減させる工程を含む、流体中の多種の汚染物質の含有量を低減させるための方法に関する。
【0063】
前記濾過媒体は、処理される流体の供給システムに接続された容器内部に配置できる。
【0064】
このような容器は、流体中の有害物質の含有量を低減させるための他の既知物質を内包している別の容器に、連続的または平行に配置して接続してもよい。
【0065】
また、前記濾過媒体は水に添加して清浄化され、一定時間後に濾過媒体を除去するか、或いはその水をデカンテーションしてもよく、その後精製水を使用することができる。
【0066】
本発明による濾過媒体は、好ましくは、BET(Brunauer,Emmett and Teller,1938)によって測定したときに0.05〜50m
2/gの比表面積を有する。
【0067】
本発明による濾過媒体では、特定の型の銀粉末粒子と特定の型の鉄粉末粒子を組み合わせると、非常に驚くべき相乗効果が得られる。この相乗効果は、多種の汚染物質の除去、特に、バクテリア、塩素および硝酸塩の除去に関する著しく高い効率によって明確である。
【0068】
流体中の多種の汚染物質を同時に低減させるための本発明による方法に伴うさらなる利点は、慣用的なイオン交換などの方法とは対照的に、この方法では有害廃棄物が生じないことである。
【0069】
本発明による濾過媒体は、実施形態に関係なく、11〜68%、好ましくは23〜50%の範囲の多孔度で示される透過性を有するものであるのがよい。
【0070】
本発明の一実施形態は、本発明による濾過媒体を、飲用水の処理、排水(都市および産業の)処理および/または土壌修復に適用することである。
【0071】
生成する副生成物、すなわち、鉄−銀合金または鉄粉末ベースの銀含有混合物または多孔質複合材を含む使用済濾過媒体は、他の産業において、例えば、鉄鋼業の原料として使用され得る。
【0072】
好ましい実施形態において、流体中の多種の汚染物質の含有量を同時に低減させるための濾過媒体は、大部分の鉄ベース粉末と少量部の銀ベース粉末を含む混合物(A)を含むものであり、前記混合物は、
10μm〜150μmの平均粒子径の大きさを有し、少なくとも90重量%のFe含有量の鉄粉末を有するアトマイズ鉄粉末と、
少なくとも99重量%のAg含有量を有し、組成物が該混合物の0.25より多くから1重量%までのAgを含むことが確保されるのに充分な量の本質的に純粋なAg粉末粒子とからなるものである。
【0073】
別の好ましい実施形態では、流体中の多種の汚染物質の含有量を同時に低減させるための濾過媒体は、鉄粒子表面に対する銀粒子の熱接合によって製造された40〜150マイクロメートルの平均粒径を有する鉄−銀粉末合金(B)を含むものである。
【0074】
鉄粒子は、10μm〜150μmの平均粒子径の大きさを有し、少なくとも90重量%のFe含有量の鉄粉末を有するアトマイズ鉄粉末であり、銀粒子は、少なくとも99重量%のAg含有量を有する本質的に純粋なAg粉末粒子である。Agの含有量は、該鉄−銀合金に対して0.25重量%よりも多く1重量%以下である。
【0075】
別の好ましい実施形態では、流体中の多種の汚染物質の含有量を同時に低減させるための濾過媒体は、熱合金化(この場合、銀粒子は鉄粒子表面に合金化される)によって製造された40〜150マイクロメートルの平均粒径を有する鉄−銀粉末合金(B)を含むものである。
【0076】
鉄粒子は、10μm〜150μmの平均粒子径の大きさを有し、少なくとも90重量%のFe含有量の鉄粉末を有するアトマイズ鉄粉末であり、銀粒子は、少なくとも99重量%のAg含有量を有する本質的に純粋なAg粉末粒子である。Agの含有量は該鉄−銀合金に対して0.1重量%よりも多く1重量%以下である。
【実施例】
【0077】
特性を示した表1による種々の粉末物質を以下の例で使用した。
【表1】
【0078】
見かけ密度(AD):
粉末が攪拌なしで疎性状態である場合の密度。これは、漏斗と計量カップからなるホール流量計によって測定され、その粉末は、漏斗を通過してカップ内に流入する(ASTM B 212およびASTM B 417)。
【0079】
粒径分布(PSD):
一連の漸減サイズ(漸増メッシュ)の各篩上に保持された粉末の重量パーセンテージで示される粒径分布データ(ASTM B 214)である。
【0080】
粒子密度(PD):
粒子の単位容積(例えば、閉鎖細孔内部)あたりの粒子質量。これは、液体に粉末を添加したときにみられる該液体の容積の増分を測定する比重瓶法によって測定する。
【0081】
比表面積(SSA):
ガス吸収(BET法)によって測定したときの、粉末の単位重量あたりの粉末の外表面積である。
【0082】
%Feおよび%Ag:
粉末中の鉄元素および銀元素の含有量。これは、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS法)によって求められる。
【0083】
試験方法
水中の汚染物質の低減能力の評価には以下の解析方法および試験方法を本実施例で使用した。
【0084】
バクテリア(大腸菌試験):
0.5gで添加した銀粉末以外の100gの粉末媒体を、標準的な病原性大腸菌を含む250mlの水に添加し、10分間振盪することによって混合した。粉末媒体を沈降させた後、100mlの被処理水をバクテリア有無試験のために採取した。1パックの試薬(IDEXX Laboratories)を、滅菌された非蛍光性の槽内でこの水試料に添加し、振盪することによって混合し、35℃で24時間インキュベートした。その結果は24時間目に、試料の5インチ以内に6W、365nm UV光を置くことによって読み出しを行なった。黄色の場合、試験は陰性であった(バクテリアは存在しない)。青色蛍光が観察された場合、大腸菌の存在が確認された(USA National Environmental Methods Index 68585−22−2)。
【0085】
塩素の低減:
0.5gで添加した銀粉末以外の100gの粉末媒体を、約6%の次亜塩素酸ナトリウムを有する漂白剤液の添加によって約5mg/LのClO
−を含めた250mlの水に添加した。この媒体と水は、30分間の穏やかな攪拌によって混合した。生水と被処理水中の塩素の量を、分光測光器(Hach DR5000)によって測定し、塩素の低減パーセンテージを計算した。
【0086】
硝酸塩の低減:
0.5gで添加した銀粉末以外の100gの粉末媒体を、約20mg/L−N 硝酸塩(Martinsberg,PA,USA)を含む250mlの地下水に添加した。この媒体と水は、穏やかに24時間攪拌することにより混合した。生水と被処理水中の硝酸塩の量を分光測光器(Hach DR5000)によって測定し、硝酸塩の低減のパーセンテージを計算した。
【0087】
多種の汚染物質の低減効率(MCRE):
試験対象フィルター媒体の効率を比較するため、指数を下記の式:
MCRE=(バクテリアの低減%+塩素の低減%+硝酸塩の低減%)/3
(式中、バクテリアの低減%は0または100のいずれかである)
に従って計算した。MCREは、多種の汚染物質の同時低減の効率を定量化することを意図したものであり、%で示し、したがって、100が最大レベルの効率である。
【0088】
実際には、ある汚染物質が別の汚染物質よりも除去することがより重要である場合があり得るため、この値は純粋に比較目的を意図したものである。
【0089】
例1(比較例)
参照例として、表1による粉末試料を、バクテリア、塩素および硝酸塩の低減能について個々に試験した。試験は、先に記載した試験方法に従って行なった。表2は、使用した粉末試料および結果を示す。
【表2】
【0090】
純粋な鉄粉末だけでは、バクテリアは死滅せず、硝酸塩除去の低減率は小さい(6〜14%)が、塩素は大きく低減され得る(68〜100%)。そのMCREは26〜38である。
【0091】
純粋な銀粉末だけでは、硝酸塩について低減はほとんどなく、塩素は一部低減され得るが、驚くべきことに、本発明において選択した3つの等級の銀粉末において同様の粒子形状を有する場合であっても、100%<60umである銀粉末でのみ、バクテリアが完全に死滅され得、そのMCREは48である。
【0092】
したがって、以下の例では、微細な銀粉末(100%<60um)を使用し、鉄に対する相乗効果および触媒効果を実証する。以下の例で使用した本発明による鉄粉末は、最大2%が212μmより大きく最大30%が45μm未満であるという粒径規格に従うアトマイズ鉄粉末とした。
【0093】
例2
大部分の鉄ベース粉末と少量部の銀ベース粉末の混合物を調製した。参照例として、純粋な還元粉末と純粋なアトマイズ粉末を使用した。混合物を、バクテリア、塩素および硝酸塩に関するその除去効率について評価した。除去効率はMCREとして計算した。混合物は、該試験方法に従って評価した。
【表3】
【0094】
表3は、純粋な鉄粉末だけではバクテリアは死滅され得ず、硝酸塩の低減の効果はわずかであることを示す。微細な銀粉末を純粋な鉄粉末に混合すると、バクテリア死滅、塩素および硝酸塩の低減において、銀含有アトマイズ(atmized)粉末では、相乗効果および/または触媒効果がみられ得る。満足なバクテリア死滅効果を得るためには、銀の含有量は>0.25重量%でなければならない。銀を0.5重量%で添加した場合、MCRE値は64である。性能が改善されないため、>1重量%の銀含有量は、コスト効率がよくないとみなされる。例えば、銀の含有量は、0.25〜0.5重量%などの0.25〜1重量%であり得る。表3から、銀含有材料は純粋な鉄と比べて性能より良好であること、および銀と組み合わせたアトマイズ鉄は、銀と組み合わせたHまたはCO還元鉄と比べて好ましい場合があり得ることは明らかである。
【0095】
しかしながら、銀含有H還元型およびCO還元型の鉄粉末では、銀を1%で添加した場合であっても相乗効果は観察されない。
例3
本発明による熱接合鉄−銀合金粉末粒子を含む濾過媒体を使用した。合金粒子は、75%H
2と25%N
2の雰囲気中で900℃にて30分間行なった熱接合プロセスによって調製した。
【0096】
参照例として、純粋な還元粉末と純粋なアトマイズ粉末を使用した。合金粒子を、バクテリア、塩素および硝酸塩に関するその除去効率について、該試験方法に従って評価した。全体的な除去効率をMCREとして計算した。
【表4】
【0097】
この表は、純粋な鉄粉末だけではバクテリアは死滅され得ず、硝酸塩の低減の効果はわずかであることを示す。銀をアトマイズ鉄粉末に熱接合させると、鉄と同量の銀とのミックスと比べてはるかに大きな相乗効果および/または触媒効果が得られ得る(表3)。MCREは、0.5%銀の添加により64から86まで増大する。満足なバクテリア死滅効果を得るためには、銀の含有量は>0.25重量%でなければならない。例えば、銀の含有量は、0.25〜0.5重量%などの0.25〜1重量%であり得る。
しかしながら、銀をH還元型およびCO還元型の鉄粉末に熱接合した場合では、かかる有意な相乗効果および/または触媒効果は得られない。
【0098】
例4
本発明による熱合金化鉄−銀粉末粒子を含む濾過媒体を調製した。合金粒子は、75%H
2と25%N
2の雰囲気中で1120℃にて30分間行なった熱合金化プロセスによって調製した。参照例として、純粋な還元粉末と純粋なアトマイズ粉末を使用した。混合物を、バクテリア、塩素および硝酸塩に関するその除去効率について該試験方法に従って評価した。除去効率はMCREとして計算した。
【表5】
【0099】
この表は、純粋な鉄粉末だけではバクテリアは死滅され得ず、硝酸塩の低減の効果はわずかであることを示す。銀をアトマイズ鉄粉末に熱合金化すると、半量の銀の添加で、銀熱接合鉄粉末と比べて同様の相乗効果および/または触媒効果が得られ得る(表4)。MCREは、鉄−銀ミックスで得られた64から0.25%の銀の熱合金化鉄粉末での88まで増大する。銀の含有量は、バクテリア死滅のためには、鉄−銀ミックスおよび銀熱接合鉄粉末と比べて半分の量まで低減させることができるが、満足なバクテリア死滅効果を得るためには>0.1重量%でなければならない。例えば、銀の含有量は0.1〜0.5重量%などの0.1〜1重量%であり得る。
しかしながら、銀をH還元型およびCO還元型の鉄粉末に熱合金化した場合では、このような有意な相乗効果および/または触媒効果は得られない。
【0100】
例5
天然に存在する水、マーティンズバーグ(ペンシルバニア州、米国)の地下水の試料を使用した。表6は、この地下水試料の特性を示す。この試料に、病原性大腸菌、ヒ素 六価クロム(Cr VI)および塩素(5mg/LのClO−(約6%の次亜塩素酸ナトリウムを有する漂白剤液の添加によって))を混ぜた。表6は、この地下水試料の特性を示す。
【表6】
【0101】
試験は、この水を、試験物質を有する
図1に示したようなカラム内にポンプ輸送することにより行なった。空筒接触時間(EBCT)は30分とした。流出液の水を一定時間後の汚染物質に関して解析した。0時間目の汚染物質の含有量を、非処理水(流入液)中の含有量に等しいとする。0.5%の銀を熱合金化したアトマイズ鉄粉末からなる100gのフィルター媒体を使用した。
【0102】
カラムに通した水(流出液)中の種々の汚染物質の種々の時間後の濃度を表7に示す。
【表7】
【0103】
表7においてわかるように、本発明によるフィルター媒体は、この水中の多種の汚染物質(この場合では、ヒ素、六価クロム、塩素、硝酸塩および病原性大腸菌)を効果的に除去する。