【文献】
Am. J. Respir. Cell Mol. Biol.,2006年,vol.35,pp.252-259
【文献】
American Journal of Pathology,2005年,vol.166 no.6,pp.1883-1894
【文献】
The Journal of Cell Biology,2002年,vol.157 no.3,pp.493-507
【文献】
The American Journal of Pathology,2006年,vol.169 no.2,pp.405-415
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
個体が、炎症性腸疾患(IBD)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、関節炎、肝線維症、肺線維性障害、炎症性脳自己免疫疾患、多発性硬化症、脱髄性疾患、神経炎症、腎疾患、腺癌、扁平上皮癌、神経膠腫および乳癌からなる群より選択される少なくとも1つの病状を有し、かつTGFβシグナル伝達の低下が該病状の改善をもたらす、請求項5記載の薬学的組成物。
個体が慢性閉塞性肺疾患(COPD)および/または線維性肺障害を有し、かつTGFβシグナル伝達の低下がCODおよび/または線維性肺障害の改善をもたらす、請求項5記載の薬学的組成物。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
I.序論
トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)は当初、非新生物性細胞における形質転換表現型を誘導しうる癌遺伝子として特徴づけられた。それ以来、いくつかのTGFβファミリーメンバーが、類似したアミノ酸ドメインの存在に基づいて特徴づけられている。
【0020】
いくつかのTGF-βアイソフォームは哺乳動物において偏在性に発現されるが(TGF-β1〜3)、TGF-βの潜在性関連ドメイン(LAP)であるプロペプチドとの非共有結合性相互作用によって不活性形態に維持される。TGFβがシグナルを伝達するためには、TGFβ活性化と呼ばれる過程により、それがその不活性複合体から放出されなければならない。潜在型TGF複合体は、以下の3つの構成要素を含む:活性(成熟)TGFβ二量体(dimmer)、LAP(潜在性関連ペプチド)およびLTBP(潜在型TGFβ結合タンパク質)。LAPは、TGFβ前駆体タンパク質のN末端に相当する、ジスルフィド結合によって連結された二量体である。成熟TGFβタンパク質は前駆体のC末端(約25kD)に相当する。TGFβとLAPとの間の結合はゴルジ体の内部でタンパク質分解性に切断されるが、TGF-βプロペプチドは非共有結合性相互作用によってTGFβと結合したままに保たれる。TGFβとLAPとの複合体は小型潜在型複合体(SLC)と呼ばれる。潜在性を付与するのは、LAPとTGFβとの会合である。LAP-TGFβ結合は可逆的であり、単離されて精製された構成要素を再結合させて不活性SLCを形成させることができる。本明細書では、SLCおよびより大型の複合体の両方が、いずれも不活性であることから潜在型TGFβと称される。
【0021】
一般に、インテグリンは接着分子であり、細胞外マトリックスタンパク質に対する細胞の接着を媒介する。インテグリンαvβ8はTGF-βのLAPと結合して、TGF-β1および3の活性化を媒介する(Mu et al. (2002) J. Cell Biol. 159:493)。インテグリンαvβ8媒介性のTGF-β活性化がTGF-βのインビボ活性化(すなわち、成熟TGF-βポリペプチドの放出)のためには必須であり、それ故にαvβ8はTGF-β機能のゲートキーパーである。インテグリンαvβ8は正常上皮(例えば、気道上皮)、間葉細胞および神経組織で発現される。本明細書に示された結果は、インテグリンαvβ8媒介性のTGF-β活性化が、COPD、肺線維症、関節炎、炎症性腸疾患、肝線維症および腎線維症、炎症性脳自己免疫疾患および脱髄性疾患(demylinating disesase)(例えば、MS、横断性脊髄炎、デビック病、ギラン・バレー症候群)、神経炎症、腎疾患、ならびに癌の増殖および転移を結果的にもたらしうることを示している。
【0022】
II.定義
別に定義する場合を除き、本明細書で用いる技術用語および科学用語は、当業者に一般的に理解されているのと同じ意味を有する。例えば、Lackie, DICTIONARY OF CELL AND MOLECULAR BIOLOGY, Elsevier (4th ed. 2007);Sambrook et al., MOLECULAR CLONING, A LABORATORY MANUAL, Cold Springs Harbor Press (Cold Springs Harbor, NY 1989)を参照されたい。本明細書に記載されたものと同様または同等なあらゆる方法、器具または方法を、本発明の実施に用いることができる。以下の定義は、本明細書でしばしば用いられるいくつかの特定の用語の理解を容易にするために提供されるものであり、本開示の範囲を限定することは意図していない。
【0023】
「抗αvβ8抗体」、「αvβ8特異的抗体」、「αvβ8抗体」および「抗αvβ8」という用語は、αvβ8と特異的に結合する抗体のことを指して、本明細書において同義に用いられる。同様に、抗β8抗体(および類似の用語)は、β8と特異的に結合する抗体のことを指す。本明細書に記載の抗αvβ8抗体および抗β8抗体は、αvβ8発現細胞上に発現されたタンパク質と結合する。
【0024】
固定された細胞とは、特性決定の目的で、細胞代謝を阻害して細胞を保持するように処理されたもののことである。固定は、当技術分野において、例えば、細胞学的特徴を組織検査によって観察するため、または免疫染色および/もしくはフローサイトメトリーによって細胞表面マーカー発現を観察するために一般的に行われている。当業者は、細胞を、例えばホルマリン、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、メタノール、アセトンなどを含むいくつかの公知の固定用溶液の任意のものの中で固定しうることを理解するであろう。組織も類似の様式で固定することができる。
【0025】
αvβ8関連障害とは、正常な非罹患対照に比して、細胞がαvβ8をより高いレベルで発現するか、またはαvβ8発現細胞の数が増加しているかのいずれかである、αvβ8発現細胞の存在によって特徴づけられる病状のことを指す。TGFβ関連障害(正常よりも高いTGFβ活性によって特徴づけられる障害)にはαvβ8関連障害が含まれるが、これは本明細書に記載したように、ある特定の状況ではαvβ8がTGFβの活性化に関与するためである。
【0026】
「核酸」とは、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド、および一本鎖または二本鎖の形態にあるそれらの重合体、ならびにそれらの相補物のことを指す。「ポリヌクレオチド」という用語は、ヌクレオチドの直鎖状配列のことを指す。「ヌクレオチド」という用語は、典型的には、ポリヌクレオチドの個々の単位、すなわち単量体のことを指す。ヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、またはそれらの修飾バージョンでありうる。本明細書で想定しているポリヌクレオチドの例には、一本鎖および二本鎖のDNA、一本鎖および二本鎖のRNA(siRNAを含む)、ならびに一本鎖および二本鎖のDNAおよびRNAの混合物を有するハイブリッド分子が含まれる。
【0027】
「相補的な」または「相補性」という語は、あるポリヌクレオチド中の核酸が第2のポリヌクレオチド中の別の核酸と塩基対を形成する能力のことを指す。例えば、配列A-G-Tは配列T-C-Aに対して相補的である。相補性は、核酸の一部のみが塩基対合によって適合する部分的なものであってもよく、またはすべての核酸が塩基対合によって適合する完全なものであってもよい。
【0028】
核酸ハイブリダイゼーション手法を用いる、特定のDNAおよびRNAの測定のための種々の方法が、当業者には公知である(Sambrook、前記を参照)。いくつかの方法は電気泳動分離を伴うが(例えば、DNAの検出のためのサザンブロット法、およびRNAの検出のためのノーザンブロット法)、DNAおよびRNAの測定を電気泳動分離を用いずに行うこともできる(例えば、定量的PCR、ドットブロット、またはアレイ)。
【0029】
「タンパク質」、「ペプチド」および「ポリペプチド」という語は、アミノ酸重合体、または2つもしくはそれ以上の相互作用性の、もしくは結合したアミノ酸重合体のセットを表すために互換的に用いられる。これらの用語は、天然アミノ酸重合体、修飾された残基を含むもの、および非天然アミノ酸重合体のほか、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応する天然のアミノ酸の人工的な化学的模倣物であるアミノ酸重合体に対しても適用される。
【0030】
「アミノ酸」という用語は、天然アミノ酸および合成アミノ酸のほか、天然のアミノ酸と類似の様式で機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣物のことも指す。天然アミノ酸とは、遺伝暗号によってコードされるもののほか、その後に修飾されたアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸およびO-ホスホセリンなどのこともいう。アミノ酸類似体とは、天然アミノ酸と同じ基本的な化学構造、例えば、水素、カルボキシル基、アミノ基およびR基と結合したα炭素を有する化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムなどのことを指す。そのような類似体は、修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)または修飾されたペプチド骨格を有してもよいが、天然アミノ酸と同じ基本的な化学構造を保っている。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するものの、天然アミノ酸と類似の様式で機能する化合物のことを指す。
【0031】
本明細書ではアミノ酸を、一般的に公知である三文字記号、またはIUPAC-IUBの生化学物質命名委員会(Biochemical Nomenclature Commission)が推奨している一文字記号のいずれかによって参照する。ヌクレオチドも同様に、一般的に認められている一文字記号によって参照する。
【0032】
「保存的に改変された変異体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に対して適用される。個々の核酸配列に関して、保存的に改変された変異体とは、同一もしくは本質的に同一なアミノ酸配列をコードする核酸のことを指し、または、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列のことを指す。遺伝暗号の縮重性のために、ほとんどのタンパク質が、多数の機能的に同一な核酸によってコードされる。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。このため、コドンによってアラニンが指定されるあらゆる位置で、コードされるポリペプチドを変化させずに、そのコドンを対応する上記のコドンのいずれかに変更することができる。そのような核酸変種は「サイレント変種(silent variation)」であり、保存的に改変された変種の一種である。あるポリペプチドをコードする本明細書中のあらゆる核酸配列は、その核酸のサイレント変種についても述べている。当業者は、核酸中の各コドン(通常はメチオニンに対する唯一のコドンであるAUG、および通常はトリプトファンに対する唯一のコドンであるTGGを除く)を改変して、機能的に同一な分子を得ることができることを認識しているであろう。したがって、あるポリペプチドをコードする核酸のサイレント変種は、発現産物に関する場合は、記載された配列の中に暗黙的に含まれるが、実際のプローブ配列に関する場合はそうではない。
【0033】
アミノ酸配列に関して、当業者は、コードされる配列中の単一のアミノ酸または低比率のアミノ酸を改変、付加または欠失させる、核酸、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質の配列に対する個々の置換物、欠失物または付加物が、その改変によってあるアミノ酸の化学的に類似したアミノ酸による置換がもたらされる「保存的に改変された変異体」であることを認識しているであろう。機能的に類似したアミノ酸を提示している保存的置換の表は当技術分野において周知である。そのような保存的に改変された変異体は、本発明の多型変異体、種間相同体およびアレルに追加されるものであり、それらを除外しない。以下のアミノ酸は、互いに対して典型的な保存的置換物である:1)アラニン(A)、グリシン(G);2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);4)アルギニン(R)、リジン(K);5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);7)セリン(S)、トレオニン(T);および8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins (1984)を参照)。
【0034】
2つもしくはそれ以上の核酸、または2つもしくはそれ以上のポリペプチドの文脈において、「同一な」または「一致度」(percent identity)という用語は、BLASTもしくはBLAST 2.0配列比較アルゴリズムをデフォールトのパラメーターで用いての、または手作業によるアラインメントおよび目視による評価で、同じであるか、または同じヌクレオチドもしくはアミノ酸が指定の比率である(すなわち、比較ウィンドウまたは指示された領域にわたって、最大の対応関係が得られるように比較およびアラインメントを行った場合に、指定の領域にわたる同一性が約60%、好ましくは65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上である)、2つまたはそれ以上の配列または部分配列のことを指す。例えば、NCBIのウェブサイト、ncbi.nlm.nih.gov/BLASTを参照。そのような配列はその場合、「実質的に同一である」と言う。この定義はまた、ヌクレオチド被験配列の相補物のことも指すか、またはそれにも適用されうる。本定義はまた、欠失および/または付加を有する配列、さらには置換を有するものも含む。以下に述べるように、アルゴリズムはギャップなどを考慮に入れることができる。典型的には、同一性は、少なくとも約25アミノ酸長もしくはヌクレオチド長の領域にわたって、または少なくとも約50〜100アミノ酸長もしくはヌクレオチド長の領域にわたって、または参照配列の全長にわたって存在する。
【0035】
「組換え」という用語は、例えば、細胞、または核酸、タンパク質、またはベクターに言及して用いられる場合、その細胞、核酸、タンパク質またはベクターが、異種核酸もしくはタンパク質の導入またはネイティブ性の核酸もしくはタンパク質の変更によって改変されていること、または細胞がそのように改変された細胞に由来することを示している。したがって、例えば、組換え細胞は、ネイティブ(非組換え)型の細胞には見いだされない遺伝子を発現するか、または通常であれば異常に発現される、低発現される、もしくは全く発現されないネイティブ性遺伝子を発現する。
【0036】
「異種」という用語は、核酸の部分に言及して用いられる場合、核酸が、自然下では互いに同じ関係では認められない2つまたはそれ以上の部分配列を含むことを示している。例えば、核酸は典型的には、1つの源からのプロモーターおよび別の源からのコード領域というような関連のない遺伝子に由来する2つまたはそれ以上の配列が配置されて新たな機能的核酸が作られるように、組換え法によって作製される。同様に、異種タンパク質とは、そのタンパク質が、自然下では互いに同じ関係では認められない2つまたはそれ以上の部分配列を含むことを示している(例えば、融合タンパク質)。
【0037】
「抗体」とは、抗原、例えばβ8、特定の細胞表面マーカー、または任意の所望の標的と特異的に結合してそれを認識する、免疫グロブリン遺伝子由来のフレームワーク領域またはその断片を含むポリペプチドのことを指す。典型的には、「可変領域」は抗体の抗原結合領域(またはその機能的同等物)を含み、結合の特異性および親和性にとって最も重要である。Paul, Fundamental Immunology (2003)を参照。
【0038】
例示的な免疫グロブリン(抗体)の構造単位は四量体で構成される。各四量体は2つの同一なポリペプチド鎖の対で構成され、それぞれの対は1つの「軽鎖」(約25kD)および1つの「重鎖」(約50〜70kD)を有する。各鎖のN末端には、抗原認識を主に担う約100〜110アミノ酸またはそれ以上のアミノ酸からなる可変領域が明確に存在する。可変軽鎖(V
L)および可変重鎖(V
H)という用語はそれぞれ、これらの軽鎖および重鎖のことを指す。
【0039】
「アイソタイプ」とは、重鎖定常領域によって定義される抗体のクラスのことである。免疫グロブリン遺伝子には、κ、λ、α、γ、δ、εおよびμ定常領域遺伝子が含まれる。軽鎖はκまたはλのいずれかとして分類される。重鎖はγ、μ、α、δまたはεに分類され、それらはひいては、それぞれIgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEという免疫グロブリンのクラスを定義する。
【0040】
抗体は、完全(intact)な免疫グロブリンとして、または特異的な抗原結合活性を含む、詳細に特徴づけられているいくつかの断片の任意のものなどとして存在しうる。そのような断片は、さまざまなペプチダーゼによる消化によって生成させることができる。ペプシンは抗体をヒンジ領域のジスルフィド結合の下方で消化して、軽鎖がジスルフィド結合によってV
H-C
H1と連結したものであるFabの二量体、F(ab)'
2を生成する。ヒンジ領域内のジスルフィド結合を切断するためにF(ab)'
2を穏和な条件下で還元し、それによってF(ab)'
2二量体をFab'単量体に変換することもできる。Fab'単量体は本質的には、ヒンジ領域の一部を伴うFabである(Fundamental Immunology (Paul ed., 3d ed. 1993)を参照)。さまざまな抗体断片が完全抗体の消化の点から定義されているが、当業者は、そのような断片を化学的に、または組換えDNA法を用いることによってデノボ合成しうることを理解するであろう。したがって、抗体という用語には、本明細書で用いる場合、抗体全体の改変によって生成された抗体断片、または組換えDNA法を用いてデノボ合成されたもの(例えば、単鎖Fv)、またはファージディスプレイライブラリーを用いて同定されたものも含まれる(例えば、McCafferty et al , Nature 348:552-554 (1990)を参照)。
【0041】
「モノクローナル抗体」とは、抗原上のある所与のエピトープに対する単一の結合特異性および親和性を有する、抗体のクローン性調製物のことを指す。「ポリクローナル抗体」とは、単一の抗原に対して産生されているが、結合特異性および親和性がさまざまである複数の抗体の調製物のことを指す。
【0042】
本明細書で用いる場合、「V領域」とは、フレームワーク1、CDR1、フレームワーク2、CDR2、フレームワーク3、CDR3およびフレームワーク4というセグメントを含む抗体可変領域ドメインのことを指す。これらのセグメントは、B細胞分化の際に重鎖および軽鎖のV領域遺伝子の再構成の結果としてVセグメントに加えられる。
【0043】
本明細書で用いる場合、「相補性決定領域(CDR)」とは、軽鎖可変領域および重鎖可変領域によって構築される4つの「フレームワーク」領域の間に差し挟まれた、各鎖における3つの超可変領域のことを指す。CDRは抗原のエピトープに対する結合の主な原因となる。各鎖のCDRは典型的には、N末端から順に番号を付してCDR1、CDR2およびCDR3と称され、典型的には個々のCDRが位置する鎖によっても特定される。すなわち、V
H CDR3はそれが見いだされる抗体の重鎖の可変ドメインに位置し、一方、V
L CDR1はそれが見いだされる抗体の軽鎖の可変ドメインに由来するCDR1である。
【0044】
異なる軽鎖または重鎖のフレームワーク領域の配列は、種内では比較的保存されている。抗体のフレームワーク領域は、構成要素である軽鎖および重鎖のフレームワーク領域が組み合わさったものであり、三次元空間にCDRを位置づけて整列させる働きをする。
【0045】
CDRおよびフレームワーク領域のアミノ酸配列は、当技術分野において周知であるさまざまな定義、例えば、Kabat, Chothia, international ImMunoGeneTicsデータベース(IMGT)、およびAbMなどを用いて決定することができる(例えば、Johnson et al., 前記;Chothia & Lesk, (1987) J. Mol. Biol. 196, 901-917;Chothia et al. (1989) Nature 342, 877-883;Chothia et al. (1992) J. Mol. Biol. 227, 799-817;Al-Lazikani et al., J. Mol. Biol 1997, 273(4)を参照)。抗原結合部位の定義は、以下のものにも記載されている:Ruiz et al. Nucleic Acids Res., 28, 219-221 (2000);およびLefranc Nucleic Acids Res. Jan 1;29(1):207-9 (2001);MacCallum et al., J. Mol. Biol, 262: 732-745 (1996);およびMartin et al, Proc. Natl Acad. Sci. USA, 86, 9268-9272 (1989);Martin, et al, Methods Enzymol, 203: 121-153, (1991);Pedersen et al, Immunomethods, 1, 126, (1992);およびRees et al, In Sternberg M.J.E. (ed.), Protein Structure Prediction. Oxford University Press, Oxford, 141-172 1996)。
【0046】
「キメラ抗体」とは、(a)抗原結合部位(可変領域、CDR、またはそれらの部分)が、クラス、エフェクター機能および/もしくは種の異なるもしくは改変された定常領域と、またはキメラ抗体に新たな特性を付与する全く異なる分子(例えば、酵素、毒素、ホルモン、増殖因子、薬物など)と連結するように、定常領域もしくはその一部分が改変、置換もしくは交換されている;または(b)可変領域もしくはその一部分が、異なるもしくは改変された抗原特異性を有する可変領域(異なる種由来のCDRおよびフレームワーク領域など)によって改変、置換もしくは交換されている、免疫グロブリン分子のことである。
【0047】
抗体は、抗原上の「エピトープ」と結合する。エピトープは抗原上にある特異的な抗体結合相互作用部位であり、5〜6個のアミノ酸といった少数のアミノ酸、もしくは少数のアミノ酸の複数の部分、またはそれ以上の、例えば20個もしくはそれ以上のアミノ酸、またはそのようなアミノ酸の複数の部分を含みうる。場合によっては、エピトープは、糖質、核酸または脂質などに由来する非タンパク質性構成要素を含む。場合によっては、エピトープは三次元モイエティーである。すなわち、例えば、標的がタンパク質である場合、エピトープは、連続したアミノ酸、またはタンパク質フォールディングによって近接するようになったタンパク質の複数の異なる部分のアミノ酸(例えば、不連続エピトープ)で構成されうる。同じことが、三次元構造を形成する他の種類の標的分子にも言える。
【0048】
「特異的に結合する」という用語は、ある分子(例えば、抗体または抗体断片)が、標的に対して、標的でない化合物よりも少なくとも2倍の高い親和性で、例えば、少なくとも4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、20倍、25倍、50倍または100倍の高い親和性で結合することを指す。例えば、β8と特異的に結合する抗体は、典型的には、β8でない標的(例えば、異なるインテグリンサブユニット、例えばβ6)よりも2倍の高い親和性でβ8と結合すると考えられる。
【0049】
細胞種に関して、「結合する」という用語(例えば、線維性細胞、肝細胞、軟骨細胞などと結合する抗体)は、典型的には、ある作用物質が、そのような細胞の純粋な集団内の大半の細胞と結合することを示している。例えば、ある所与の細胞種と結合する抗体は、典型的には、指示された細胞の集団内の細胞の少なくとも2/3(例えば、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%)と結合する。当業者は、結合を判定する方法および/または閾値に応じて、ある程度のばらつきが生じうることを認識しているであろう。
【0050】
本明細書で用いる場合、第1の抗体またはその抗原結合部分は、標的に対する結合をめぐって第2の抗体またはその抗原結合部分と「競合」し、ここで第2の抗体の標的との結合は、第1の抗体の非存在下における第2の抗体の結合と比較して、第1の抗体の存在下では検出可能な程度に低下する。代替的なこととして、標的に対する第1の抗体の結合も第2の抗体の存在下で検出可能な程度に低下してもよいが、必ずしもそうである必要はない。すなわち、第2の抗体は、第1の抗体が標的に対する第2の抗体の結合を阻害することを伴わずに、標的に対する第1の抗体の結合を阻害することができる。しかし、各抗体が、他の抗体のそのコグネイトエピトープまたはリガンドに対する結合を、同じ程度、より大きい程度、またはより小さい程度のいずれかにかかわらず、検出可能な程度に阻害する場合には、抗体は、それらの各々のエピトープに対する結合をめぐって互いに「交差競合する」と言う。競合抗体および交差競合抗体はいずれも、本発明の範囲に含まれる。「競合」抗体という用語は、当業者によって判定可能なように、第1または第2の抗体に対して適用することができる。場合によっては、競合抗体(例えば、第1の抗体)の存在により、標的に対する第2の抗体の結合は少なくとも10%、例えば、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%またはそれ以上低下し、例えば、その結果、第1の(競合)抗体の存在下では、標的に対する第2の抗体の結合は検出不能になる。
【0051】
「差示的に発現される」または「差示的に調節される」という用語は、一般に、1つの試料において、少なくとも1つの他の試料と比較して過剰発現される(アップレギュレートされる)かまたは過少発現される(ダウンレギュレートされる)、タンパク質または核酸バイオマーカーのことを指す。本発明の文脈において、この用語は一般に、正常細胞との比較による、罹患細胞上のバイオマーカー(例えば、αvβ8)の過剰発現のことを指す。
【0052】
例えば、「過剰発現される」または「アップレギュレートされる」という用語は、対照レベルよりも検出可能な程度で高度に転写または翻訳されるタンパク質または核酸、一般にバイオマーカーのことを互換的に指す。この用語は、転写、転写後プロセシング、翻訳、翻訳後プロセシング、細胞内局在(例えば、オルガネラ、細胞質、核、細胞表面)ならびにRNAおよびタンパク質の安定性に起因する過剰発現を含む。過剰発現は、mRNA(すなわち、RT-PCR、ハイブリダイゼーション)であってもタンパク質(すなわち、フローサイトメトリー、画像化法、ELISA、免疫組織化学的手法)であっても、バイオマーカーを検出するための従来の手法を用いて検出することができる。過剰発現は、正常細胞との比較で、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上であってよい。
【0053】
「アゴニスト」、「活性化物質」、「誘導物質」という用語および同様の用語は、対照と比較して活性または発現を増大させる分子のことを指す。アゴニストとは、例えば、標的と結合する、それを賦活させる、増大させる、活性化する、活性化を強化する、感受性を高める、またはその活性をアップレギュレートする作用物質のことである。発現または活性は、対照におけるそれよりも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%またはそれ以上増大してよい。場合によっては、活性化は対照と比較して1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍またはそれ以上である。
【0054】
「阻害物質」、「リプレッサー」または「アンタゴニスト」または「ダウンレギュレーター」という用語は、対照と比較して、検出可能な程度でより低い発現または活性レベルをもたらす物質のことを互換的に指す。阻害される発現または活性は、対照におけるそれよりも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上低くてもよい。場合によっては、阻害は、対照と比較して1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍またはそれ以上である。
【0055】
「対照」試料または値とは、被験試料との比較のための参照基準、通常は公知の参照基準としての役を果たす試料のことを指す。例えば、被験試料を被験条件から、例えば被験化合物の存在下において採取して、公知の条件からの、例えば被験化合物の非存在下(陰性対照)または公知の化合物の存在下(陽性対照)にある試料と比較することができる。また、対照が、いくつかの検査または結果から集められた平均値であってもよい。当業者は、任意のさまざまなパラメーターの評価のために対照をデザインしうることを認識しているであろう。例えば、薬理学的データ(例えば、半減期)または治療尺度(例えば、有益性および/または副作用の比較)に基づいて治療上の有益性を比較する目的で、対照を考案することができる。対照をインビトロ用途のためにデザインすることもできる。当業者は、どの対照が所与の状況において役立つかを理解しており、対照値との比較に基づいてデータを分析することができるであろう。また、対照は、データの有意性を判定するためにも役立つ。例えば、所与のパラメーターに関する値が対照において幅広くばらついている場合には、被験試料における差異は有意でないと判断されるであろう。
【0056】
「標識」または「検出可能なモイエティー」とは、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、化学的、または他の物理的な手段によって検出可能な組成物のことである。例えば、有用な標識には、
32P、蛍光色素、高電子密度試薬、酵素(例えば、ELISAに一般的に用いられるもの)、ビオチン、ジゴキシゲニン、または、例えば放射性標識をペプチドまたは標的ペプチドと特異的に反応する抗体に組み入れることによって検出可能となる、ハプテンおよびタンパク質もしくは他の実体が含まれる。例えば、Hermanson,
Bioconjugate Techniques 1996, Academic Press, Inc., San Diegoに記載された方法を用いるというように、抗体を標識とコンジュゲートさせるための、当技術分野において公知の任意の方法を使用することができる。
【0057】
「標識された」分子(例えば、核酸、タンパク質または抗体)とは、分子と結合した標識の存在を検出することによってその分子の存在を検出しうるように、標識と、リンカーもしくは化学結合によって共有結合性に、またはイオン結合、ファン・デル・ワールス結合、静電結合もしくは水素結合によって非共有結合性に結合させたもののことを指す。
【0058】
「診断」という用語は、癌または炎症性病状などの障害が対象に存在する相対的確率のことを指す。同様に、「予後予測」という用語は、ある特定の転帰が将来起こる相対的確率のことを指す。例えば、予後予測は、TGFβまたはαvβ8関連障害を発症するか、もしくは再発が起こる見込み、または疾患の可能性の高い重症度(例えば、症状の重症度、機能低下の速度、生存性など)のことを指すことができる。医療診断の分野のあらゆる当業者は理解しているであろうが、これらの用語は絶対的であることを意図してはいない。
【0059】
「生検」または「患者由来の生物試料」とは、本明細書で用いる場合、TGFβ関連障害またはαvβ8関連障害を有するか、または有する疑いのある患者から得られた試料のことを指す。いくつかの態様において、試料は、針生検、細針生検、外科的生検などの組織生検試料であってよい。また、試料が、例えば白血球画分、血清または血漿などの血液試料または血液画分であってもよい。試料には病変または病変と疑われるものを保有する組織試料が含まれうるが、生物試料が別の部位、例えば転移が疑われる部位、リンパ節などに、または血液に由来してもよい。場合によっては、生物試料が、病変または病変と疑われるものに隣接する領域からのものであってもよい。
【0060】
「生物試料」は、例えば生検試料のように患者から、動物モデルなどの動物から、または培養細胞から、例えば、細胞株、もしくは患者から取り出して観察のために培養下で増殖させた細胞から得ることができる。生物試料には、組織および体液、例えば、血液、血液画分、リンパ液、唾液、尿、便などが含まれる。
【0061】
「治療法」、「治療」および「改善」という用語は、症状の重症度の何らかの低下のことを指す。炎症性病状を治療する場合には、治療は、例えば、炎症性サイトカインの血中レベル、活性のある成熟TGFβの血中レベル、疼痛、腫脹、免疫細胞の動員などを低下させることを指しうる。癌を治療する場合には、治療は、例えば、腫瘍サイズ、癌細胞の数、成長速度、転移活性、非癌性細胞の細胞死などを低減させることを指しうる。本明細書で用いる場合、「治療する」および「予防する」という用語は、絶対的な用語であることを意図していない。治療および予防は、何らかの、発病の遅れ、症状の改善、患者の生存可能性の向上、生存期間または生存率の増大などを指すことができる。治療および予防は、完全(検出可能な症状が全く残らない)であってもよく、または部分的であって、その結果、本明細書に記載の治療を受けていない患者よりも症状の頻度または重症度が低くなってもよい。治療の効果は、その治療を受けていない個体もしくは個体群と、または治療の前もしくは治療中の異なる時点の同一の患者と比較することができる。いくつかの局面において、疾患の重症度は、例えば、投与前の個体または治療を行っていない対照個体と比較して、少なくとも10%軽減される。いくつかの局面において、疾患の重症度は少なくとも25%、50%、75%、80%もしくは90%軽減され、または場合によっては、標準的な診断手法を用いてはもはや検出不能である。
【0062】
「有効量」、「有効用量」、「治療的有効量」などの用語は、障害を上記のように改善するのに十分な治療薬の量のことを指す。例えば、ある所与のパラメーターに関して、治療的有効量は、治療効果の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、40%、50%、60%、75%、80%、90%または少なくとも100%の増加または減少を示すと考えられる。また、治療有効性を、「倍」の増加または減少と表現することもできる。例えば、治療的有効量は、対照の少なくとも1.2倍、1.5倍、2倍、5倍またはそれ以上の効果を有しうる。
【0063】
本明細書で用いる場合、「薬学的に許容される」という用語は、生理的に許容される、および薬理学的に許容される、と同義に用いられる。薬学的組成物は一般に、緩衝化および貯蔵下での保存のための作用物質を含むと考えられ、投与経路に応じて、適切な送達のための緩衝液および担体を含みうる。
【0064】
「用量」および「投与量」という用語は、本明細書において互換的に用いられる。用量とは、各投与時に個体に与えられる活性成分の量のことを指す。本発明に関して、用量は、抗体または付随する構成要素の濃度、例えば、治療薬の量または放射性標識の投与量のことを指すことができる。用量は、投与の頻度;個体のサイズおよび忍容性;病状の重症度;副作用のリスク;投与経路;ならびに検出可能なモイエティー(あれば)の画像診断法を含む、いくつかの要因に応じて異なると考えられる。当業者は、上記の要因に応じて、または治療の進展に基づいて、用量を変更しうることを認識しているであろう。「剤形」という用語は、医薬品の特定の形式のことを指し、投与経路に依存する。例えば、剤形が液体、例えば、注射用の食塩液であってもよい。
【0065】
「対象」、「患者」、「個体」などの用語は互換的に用いられ、指示のある場合を除き、ヒトおよび非ヒト霊長動物、ならびにウサギ、ラット、マウス、ヤギ、ブタおよび他の哺乳動物種といった哺乳動物のことを指す。この用語は、対象が特定の疾患を有すると診断されたことを必ずしも示しているわけではなく、典型的には、医学的な管理(supervision)下にある個体のことを指す。患者が、治療、モニタリング、既存の治療レジメンの調整または変更を求めている個体であってもよい。
【0066】
「炎症性病状」は、個体におけるあらゆる炎症のことを指し、これは一過性(例えば、病原体またはアレルゲンへの曝露に応答して)であってもよく、または慢性であってもよい。炎症は、マクロファージおよび他の白血球を動員して活性化する、IFN-γ、IL-6およびTNF-αなどの炎症性サイトカインによって特徴づけられる。場合によっては、炎症が、慢性の有害な病状または自己免疫性病状(例えば、MS、ループス、関節リウマチ、クローン病)に進展することもある。炎症は、局所的(例えば、感染または曝露の局所部位)または全身的(例えば、アテローム性動脈硬化、高血圧)に顕在化しうる。いくつかの態様において、本明細書に記載の抗体組成物および方法は、炎症性病状を治療するために用いることができる。
【0067】
「癌」、「腫瘍」、「形質転換した」などの用語は、前癌細胞、新生物細胞、形質転換細胞および癌細胞を含み、固形腫瘍または非固形癌のことを指しうる(例えば、Edge et al.
AJCC Cancer Staging Manual (7th ed. 2009);Cibas and Ducatman
Cytology: Diagnostic principles and clinical correlates (3rd ed. 2009)を参照)。癌には、良性新生物および悪性新生物(異常増殖物)の両方が含まれる。「形質転換」とは、自然発生的な、または誘導された表現型変化、例えば、細胞の不死化、形態変化、異常な細胞増殖、接触阻止および足場付着の低下、ならびに/または悪性腫瘍などのことを指す(Freshney,
Culture of Animal Cells a Manual of Basic Technique (3rd ed. 1994)を参照)。形質転換は、形質転換ウイルスによる感染および新たなゲノムDNAの組み入れ、または外因性DNAの取り込みによって起こりうるものの、自然発生的にも、または発癌物質への曝露後にも起こりうる。
【0068】
「癌」という用語は、癌、肉腫、腺癌、リンパ腫、白血病、固形癌およびリンパ系癌などのことを指しうる。さまざまな種類の癌の例には、肺癌(例えば、非小細胞肺癌またはNSCLC)、卵巣癌、前立腺癌、結腸直腸癌、肝臓癌(すなわち、肝癌)、腎癌(すなわち、腎細胞癌)、膀胱癌、乳癌、甲状腺癌、胸膜癌、膵癌、子宮癌、子宮頸癌、精巣癌、肛門癌、膵癌、胆管癌、消化管カルチノイド腫瘍、食道癌、胆嚢癌、虫垂癌、小腸癌、胃(stomach)(胃(gastric))癌、中枢神経系の癌、皮膚癌、絨毛癌;頭頸部癌、血液悪性腫瘍、骨原性肉腫、線維肉腫、神経芽腫、神経膠腫、黒色腫、B細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、小細胞リンパ腫、大細胞リンパ腫、単球性白血病、骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、急性骨髄球性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)および多発性骨髄腫が非限定的に含まれる。いくつかの態様において、本明細書に記載の抗体組成物および方法は、癌を治療するために用いることができる。
【0069】
III.αvβ8に対して特異的な抗体
A.ヒト化37E1B5
マウスモノクローナル抗体37E1(IgG2a)は、ヒトインテグリンαvβ8とそのリガンドであるトランスフォーミング-β(TGF-β)との相互作用を選択的に阻止する。この抗体は、それがαvβ8媒介性のTGF-β活性化(成熟TGF-βポリペプチドの放出)を選択的に阻止するが、固定化または分泌されたTGF-βに対するαvβ8結合は阻止しないという点で特徴的である。このことは、TGF-β活性化のみを擾乱させ、αvβ8の細胞接着特性は擾乱させないという高度の選択性をもたらす。加えて、TGF-βの全般的不活性化は、場合によっては望ましくない。37E1抗体の特異的活性は、TGF-βレベルを低下させるための標的化された治療ツールとなる。
【0070】
37E1の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を改良して、より親和性の高い抗体を作製した。
図1は、β8上の同一のエピトープに対してより高い親和性を付与する具体的なアミノ酸置換を示している。この改善された(より親和性の高い)抗体を37E1B5と命名した。これはインビトロでの親和性の増大、および培養細胞におけるインテグリンαvβ8媒介性のTGF-β活性化を阻害する効果の強化を示す。インビトロでの37E1B5抗体の有効治療用量はピコモル濃度の範囲にある。
図1に示すように、β8の高親和性結合を保っている37E1B5のヒト化バージョンを作製した。親37E1抗体および37E1B5抗体と同じく、ヒト化37E1B5はαvβ8媒介性のTGF-β活性化を阻止するが、固定化または分泌されたTGF-βに対するαvβ8結合は妨げなかった。
【0071】
よって、SEQ ID NO:4、6および8の可変重鎖配列中に見いだされる重鎖CDR 1〜3を有する抗体が提供される。重鎖CDR 1〜3の配列は、それぞれ、RYWMS(SEQ ID NO:94)、
およびLITTEDY(SEQ ID NO:96)である。さらに、可変軽鎖配列SEQ ID NO:5、またはSEQ ID NO:7および9に見いだされる軽鎖CDR 1〜3を有する抗体も提供される。SEQ ID NO:5からの軽鎖CDR 1〜3の配列は、KASQDINSYL(SEQ ID NO:97)、RANRLVD(SEQ ID NO:98)およびLQYDEFPYT(SEQ ID NO:99)である。軽鎖可変領域配列SEQ ID NO:7および9はSEQ ID NO:5と同じCDR1配列およびCDR3配列を有するが、CDR2には違いがある(YANRLVD、SEQ ID NO:100)。
【0072】
いくつかの態様においては、以下のものを、任意の組み合わせで含む抗体が提供される:
SEQ ID NO:94、95および96を含む重鎖可変領域配列、ならびにSEQ ID NO:97、98および99を含む軽鎖可変領域配列;
SEQ ID NO:94、95および96を含む重鎖可変領域配列、ならびにSEQ ID NO:97、100および99を含む軽鎖可変領域配列;または
SEQ ID NO:4、6および8からなる群より選択される重鎖可変領域配列、ならびにSEQ ID NO:5、7および9からなる群より選択される軽鎖可変領域配列。
【0073】
いくつかの態様において、抗体はSEQ ID NO:8の重鎖可変領域配列およびSEQ ID NO:9の軽鎖可変領域配列を含む。
【0074】
B.11E8
11E8抗体はαvβ8上の37E1B5と類似のエピトープと結合するが、固定された細胞(例えば、ホルマリンで固定された)とも結合する。37E1B5と同様に、11E8はαvβ8と特異的に結合し、αvβ8に対する潜在型TGFβの接着を阻害することなしに、活性のある成熟TGFβペプチドの放出を阻害する。11E8は非固定細胞上およびホルマリン固定された細胞上のいずれのαvβ8とも結合することができて、成熟TGFβの放出を低下させることができるため、11E8は、検出(例えば、診断またはモニタリング)、治療法、および検出/治療を組み合わせた用途のために有用である。
【0075】
抗体11E8の重鎖可変領域および軽鎖可変領域(CDRに下線を付している)を以下に示す:
SEQ ID NO:10‐11E8の重鎖可変領域(CDR 1〜3に下線を付している;それぞれSEQ ID NO:48〜50)
SEQ ID NO:11‐11E8の軽鎖可変領域(CDR 1〜3に下線を付している;それぞれSEQ ID NO:51〜53)
【0076】
よって、重鎖CDR SEQ ID NO:48、49および50ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:51、52および53を含む抗体が提供される。いくつかの態様において、抗体は重鎖可変領域SEQ ID NO:10および/または軽鎖可変領域SEQ ID NO:11を含む。
【0077】
図11A〜Bおよび12A〜Bに示すように、11E8の親和性成熟抗体が発見され、11E8Mut28、11E8Mut94および11E839と名付けられている。
【0078】
11E8Mut28親和性成熟抗体は、重鎖CDR3における変化(WGWD
SY;SEQ ID NO:54)および軽鎖CDR3における変化(QQ
FSNLPYT;SEQ ID NO:55)を有する。よって、いくつかの態様においては、以下を含む抗体が提供される:
重鎖CDR SEQ ID NO:48、49および54、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:51、52および53;または
重鎖CDR SEQ ID NO:48、49および50、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:51、52および55;または
重鎖CDR SEQ ID NO:48、49および54、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:51、52および55。
【0079】
11E8Mut28はまた、重鎖FR3
および重鎖FR4
における変化も有する。したがって、いくつかの態様において、抗体は、SEQ ID NO:56または57を含む重鎖可変領域(例えば、SEQ ID NO:32)、および任意で、SEQ ID NO:23を含む軽鎖可変領域を含む。
【0080】
11E8Mut94親和性成熟抗体は、重鎖CDR2およびCDR3における変化を有する
。よって、いくつかの態様においては、以下を含む抗体が提供される:
重鎖CDR SEQ ID NO:48、90および54、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:51、52および53。
【0081】
11E8Mut94はまた、重鎖FR2
、重鎖FR3
および重鎖FR4
における変化も有する。したがって、いくつかの態様において、抗体は、SEQ ID NO:91、92または57を含む重鎖可変領域(例えば、SEQ ID NO:88)、および任意で、SEQ ID NO:89を含む軽鎖可変領域を含む。11E8Mut94はまた、軽鎖FR1における変化
も有する。いくつかの態様において、抗体は、SEQ ID NO:93を含む軽鎖可変領域、例えばSEQ ID NO:89、および任意でSEQ ID NO:88の重鎖を含む。
【0082】
11E8Mut39親和性成熟抗体は、重鎖CDR1(
TYWIE;SEQ ID NO:112)、重鎖CDR2
、軽鎖CDR1
および軽鎖CDR2(Y
AS
NLHS;SEQ ID NO:107)における変化を有する。よって、いくつかの態様においては、以下を含む抗体が提供される:
重鎖CDR SEQ ID NO:112、113および50、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:51、52および53;
重鎖CDR SEQ ID NO:48、49および50、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:105、107および53;または
重鎖CDR SEQ ID NO:112、113、50、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:105、107および53。
【0083】
11E8Mut39はまた、重鎖FR1
、重鎖FR3
および重鎖FR4
における変化も有する。11E8Mut39は、軽鎖FR1
および軽鎖FR4
における変化を有する。したがって、いくつかの態様において、抗体は、SEQ ID NO:106、114または108を含む重鎖可変領域(例えば、SEQ ID NO:102)、および任意で、SEQ ID NO:104を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの態様において、抗体は、SEQ ID NO:115または111を含む軽鎖可変領域(例えば、SEQ ID NO:104)、および任意で、SEQ ID NO:102を含む重鎖可変領域を有する。
【0084】
C.14E5
14E5抗体はαvβ8上の37E1B5と類似のエピトープと結合する。37E1B5と同様に、14E8はαvβ8と特異的に結合するが、37E1B5とは異なり、14E5は、活性のある成熟TGFβペプチドの放出も、αvβ8に対する潜在型TGFβの接着も阻害しない。14E5はαvβ8に対して特異的であるが、活性を阻害することはないため、これは検出、例えばインビボ診断またはモニタリングの用途のために有用である。
【0085】
抗体14E5の重鎖可変領域および軽鎖可変領域(CDRに下線を付している)を以下に示す:
SEQ ID NO:12‐14E5の重鎖可変領域(CDR 1〜3に下線を付している;それぞれSEQ ID NO:58〜60)
SEQ ID NO:13‐14E5の軽鎖可変領域(CDR 1〜3に下線を付している;それぞれSEQ ID NO:61〜63)
【0086】
よって、重鎖CDR SEQ ID NO:58、59および60、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:61、62および63を含む抗体が提供される。いくつかの態様において、抗体は重鎖可変領域SEQ ID NO:12および/または軽鎖可変領域SEQ ID NO:13を含む。
【0087】
図11A〜Bおよび12A〜Bに示すように、14E5の7種の親和性成熟抗体が発見され、14E5Mut11、14E5Mut42、14E5Mut54、14E5Mut68、14E5Mut65、14E5Mut83および14E5Mut95と名付けられている。これらの親和性成熟抗体は、以下に述べるように、CDR配列およびFR配列における変化を有する。いくつかの態様においては、14E5および14E5の親和性成熟形態からのCDRおよびFRをさまざまな組み合わせで含む抗体が提供される。
【0088】
14E5Mut11は、重鎖CDR1における変化(TNWIE、SEQ ID NO:64)、軽鎖CDR1における変化
、軽鎖CDR2における変化(YTSSLHS、SEQ ID NO:66)および軽鎖CDR3における変化(QQYSNLPYT、SEQ ID NO:67)を有する。よって、いくつかの態様においては、14E5および14E5Mut11からのCDRの組み合わせ、例えば、以下を含む抗体が提供される:
重鎖CDR SEQ ID NO:64、59および60、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:61、62および63;または
重鎖CDR SEQ ID NO:58、59および60、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:65、66および67;または
重鎖CDR SEQ ID NO:64、59および60、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:65、66および67。
【0089】
14E5Mut11はまた、軽鎖FR1およびFR2における変化
も有する。したがって、いくつかの態様において、抗体は、SEQ ID NO:68または69を含む軽鎖可変領域(例えば、SEQ ID NO:24)、および任意で、SEQ ID NO:33を含む重鎖可変領域を含む。
【0090】
14E5Mut42は、軽鎖CDR1における変化
、軽鎖CDR2における変化(YTSSLHS、SEQ ID NO:66)および軽鎖CDR3における変化(QQYSDLPYT、SEQ ID NO:71)を有する。よって、いくつかの態様においては、14E5および14E5Mut42からのCDRの組み合わせ、例えば、以下を含む抗体が提供される:
重鎖CDR SEQ ID NO:58、59および60、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:70、66および71。
【0091】
14E5Mut42はまた、重鎖FR1
、軽鎖FR1およびFR2
における変化も有する。したがって、いくつかの態様において、抗体は、SEQ ID NO:72を含む重鎖可変領域(例えば、SEQ ID NO:34)を、任意で、SEQ ID NO:25を含む軽鎖とともに含む。いくつかの態様において、抗体は、SEQ ID NO:73または69を含む軽鎖可変領域(例えば、SEQ ID NO:25)、および任意で、SEQ ID NO:34を含む重鎖可変領域を含む。
【0092】
14E5Mut54は、重鎖CDR1における変化(TNWIE、SEQ ID NO:64)、軽鎖CDR1における変化
、軽鎖CDR2における変化(YTSSLHS、SEQ ID NO:66)および軽鎖CDR3における変化(QQYSNLPYT、SEQ ID NO:67)を有する。よって、いくつかの態様においては、14E5および14E5Mut54からのCDRの組み合わせ、例えば、以下を含む抗体が提供される:
重鎖CDR SEQ ID NO:64、59および60、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:61、62および63;または
重鎖CDR SEQ ID NO:58、59および60、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:70、66および67;または
重鎖CDR SEQ ID NO:64、59および60、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:70、66および67。
【0093】
14E5Mut54はまた、重鎖FR3
、ならびに軽鎖FR1およびFR2
における変化も有する。したがって、いくつかの態様において、抗体は、SEQ ID NO:74を含む重鎖可変領域(例えば、SEQ ID NO:35)を、任意で、SEQ ID NO:26を含む軽鎖とともに含む。いくつかの態様において、抗体は、SEQ ID NO:75または69を含む軽鎖可変領域(例えば、SEQ ID NO:26)、および任意で、SEQ ID NO:35を含む重鎖可変領域を含む。
【0094】
14E5Mut68は、重鎖CDR2における変化
、軽鎖CDR1における変化
、軽鎖CDR2における変化(YTSSLHS、SEQ ID NO:66)および軽鎖CDR3における変化(QQYSELPYT、SEQ ID NO:77)を有する。よって、いくつかの態様においては、14E5および14E5Mut68からのCDRの組み合わせ、例えば、以下を含む抗体が提供される:
重鎖CDR SEQ ID NO:58、76および60、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:61、62および63;または
重鎖CDR SEQ ID NO:58、59および60、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:70、66および77;または
重鎖CDR SEQ ID NO:58、76および60、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:70、66および77。
【0095】
14E5Mut68はまた、重鎖FR3
、ならびに軽鎖FR1およびFR2
における変化も有する。したがって、いくつかの態様において、抗体は、SEQ ID NO:78を含む重鎖可変領域(例えば、SEQ ID NO:36)を、任意で、SEQ ID NO:27を含む軽鎖とともに含む。いくつかの態様において、抗体は、SEQ ID NO:79または69を含む軽鎖可変領域(例えば、SEQ ID NO:27)、および任意で、SEQ ID NO:36を含む重鎖可変領域を含む。
【0096】
14E5Mut65は、重鎖CDR1における変化(TNWIE、SEQ ID NO:64)、軽鎖CDR1における変化
、軽鎖CDR2における変化(YTSSLHS、SEQ ID NO:66)および軽鎖CDR3における変化(QQFSNLPYT、SEQ ID NO:80)を有する。よって、いくつかの態様においては、14E5および14E5Mut65からのCDRの組み合わせ、例えば、以下を含む抗体が提供される:
重鎖CDR SEQ ID NO:64、59および60、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:61、62および63;または
重鎖CDR SEQ ID NO:58、59および60、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:70、66および80;または
重鎖CDR SEQ ID NO:64、59および60、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:70、66および80。
【0097】
14E5Mut65はまた、重鎖FR1およびFR3
、ならびに軽鎖FR1およびFR2
における変化も有する。したがって、いくつかの態様において、抗体は、SEQ ID NO:81または82を含む重鎖可変領域(例えば、SEQ ID NO:37)を、任意で、SEQ ID NO:28を含む軽鎖とともに含む。いくつかの態様において、抗体は、SEQ ID NO:79または69を含む軽鎖可変領域(例えば、SEQ ID NO:28)、および任意で、SEQ ID NO:37を含む重鎖可変領域を含む。
【0098】
14E5Mut83は、重鎖CDR1における変化(THWIE、SEQ ID NO:83)、軽鎖CDR1における変化
、軽鎖CDR2における変化(YTSSLHS、SEQ ID NO:66)および軽鎖CDR3における変化(QQYSDLPYT、SEQ ID N0:71)を有する。よって、いくつかの態様においては、14E5および14E5Mut83からのCDRの組み合わせ、例えば、以下を含む抗体が提供される:
重鎖CDR SEQ ID NO:83、59および60、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:61、62および63;または
重鎖CDR SEQ ID NO:58、59および60、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:70、66および71;または
重鎖CDR SEQ ID NO:83、59および60、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:70、66および71。
【0099】
14E5Mut83はまた、重鎖FR1
、ならびに軽鎖FR1およびFR2
における変化も有する。したがって、いくつかの態様において、抗体は、SEQ ID NO:84を含む重鎖可変領域(例えば、SEQ ID NO:38)を、任意で、SEQ ID NO:29を含む軽鎖とともに含む。いくつかの態様において、抗体は、SEQ ID NO:68または69を含む軽鎖可変領域(例えば、SEQ ID NO:29)、および任意で、SEQ ID NO:38を含む重鎖可変領域を含む。
【0100】
14E5Mut95は、軽鎖CDR1における変化
、軽鎖CDR2における変化(YTSSLHS、SEQ ID NO:66)および軽鎖CDR3における変化(QQYSDLPYT、SEQ ID NO:71)を有する。よって、いくつかの態様においては、14E5および14E5Mut95からのCDRの組み合わせ、例えば、以下を含む抗体が提供される:
重鎖CDR SEQ ID NO:58、59および60、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:70、66および71。
【0101】
14E5Mut95はまた、重鎖FR1およびFR3
、ならびに軽鎖FR1およびFR2
における変化も有する。したがって、いくつかの態様において、抗体は、SEQ ID NO:86を含む重鎖可変領域(例えば、SEQ ID NO:39)を、任意で、SEQ ID NO:30を含む軽鎖とともに含む。いくつかの態様において、抗体は、SEQ ID NO:87または69を含む軽鎖可変領域(例えば、SEQ ID NO:30)、および任意で、SEQ ID NO:29を含む重鎖可変領域を含む。
【0102】
D.6B9
6B9抗体は、ヒトβ8のアミノ酸61〜105(SEQ ID NO:17に示された完全長β8配列を基準とするアミノ酸位置)に含まれるβ8上のエピトープと結合し、マウスβ8とは顕著には相互作用しない。実施例に示すように、このエピトープにはセリン95がかかわっているため(直接的に結合しているか、またはエピトープ構造に間接的にかかわるかのいずれかで)、その位置でのプロリンによるセリンの置換により、結合が本質的には消失する。6B9抗体は、結合をめぐって37E1B5、11E8または14E5のいずれとも競合しない。加えて、6B9抗体は、固定されていない、およびホルマリン固定された細胞および組織上のβ8を検出して、β8をさまざまなレベルで発現する細胞上でのβ8発現レベルを識別することができる(実施例ならびに
図6および8を参照のこと。発現レベルはまた、細胞におけるβ8のゲノムコピー数、および病態を示すものともなりうる。
【0103】
抗体6B9の重鎖可変領域および軽鎖可変領域(CDRに下線を付している)を以下に示す:
SEQ ID NO:18‐6B9の重鎖可変領域(CDR 1〜3に下線を付している、それぞれSEQ ID NO:40〜42)
SEQ ID NO:19‐6B9の軽鎖可変領域(CDR 1〜3に下線を付している、それぞれSEQ ID NO:43〜45)
【0104】
よって、重鎖CDR SEQ ID NO:40、41および42、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:43、44および45を含む抗体が提供される。いくつかの態様において、抗体は、重鎖可変領域SEQ ID NO:18および/または軽鎖可変領域SEQ ID NO:19を含む。
【0105】
図11A〜Bおよび12A〜Bに示すように、6B9Mut1と名付けられた、6B9の親和性成熟抗体が発見された。注目されることとして、この親和性成熟抗体は、重鎖CDR2における変化
を有する。よって、いくつかの態様においては、重鎖CDR SEQ ID NO:40、46および42、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:43、44および45を含む抗体が提供される。
【0106】
6B9Mut1はまた、軽鎖FR1における変化
も有する。いくつかの態様において、抗体は、SEQ ID NO:47を含む軽鎖可変領域(例えば、可変領域はSEQ ID NO:23を含みうると考えられる)、および任意で、SEQ ID NO:18を含む重鎖可変領域を含む。
【0107】
E.4F1
4F1抗体もまた、β8のアミノ酸61〜105(SEQ ID NO:17に示された完全長β8配列を基準とするアミノ酸位置)に含まれるβ8上のエピトープと結合し、マウスβ8とは顕著には相互作用しない。実施例に示すように、このエピトープにはセリン95がかかわっているため、その位置でのプロリンによるセリンの置換により、結合が本質的には消失する。4F1抗体は、結合をめぐって37E1B5、11E8または14E5のいずれとも競合しない。加えて、4F1抗体は、固定されていない、およびホルマリン固定された細胞および組織上のβ8を検出して、β8をさまざまなレベルで発現する細胞上でのβ8発現レベルを識別することができる(実施例ならびに
図6、7、9および10を参照)。発現レベルはまた、細胞におけるβ8のゲノムコピー数、および病態を示すものともなりうる。
【0108】
抗体4F1の重鎖可変領域および軽鎖可変領域(CDRに下線を付している)を以下に示す:
SEQ ID NO:20‐4F1の重鎖可変領域(CDR 1〜3に下線を付している、それぞれSEQ ID NO:116〜118)
SEQ ID NO:21‐4F1の軽鎖可変領域(CDR 1〜3に下線を付している、それぞれSEQ ID NO:119〜121)
【0109】
よって、重鎖CDR SEQ ID NO:116、117および118、ならびに軽鎖CDR SEQ ID NO:119、120および121を含む抗体が提供される。いくつかの態様において、抗体は、重鎖可変領域SEQ ID NO:20および/または軽鎖可変領域SEQ ID NO:21を含む。
【0110】
F.抗αvβ8抗体
本明細書では、インテグリンαvβ8と特異的に結合するが、他のインテグリン(例えば、αvβ6、αvβ3など)とは顕著には結合しない抗体が提供される。本抗体は、αvβ8中の特定のエピトープまたはエピトープ領域と結合する。エピトープは立体構造(非直線的)エピトープであっても非立体構造エピトープであってもよい。そのような抗体は、β8のみと結合することもでき、すなわち、そのエピトープがβ8の内部に位置してもよく、または、両方のサブユニットの部分を含む非直線的エピトープ、もしくはαvとβ8との相互作用に依拠するエピトープと結合することもできる。本抗体は、上記のαvβ8特異的抗体のほかに、それらのヒト化、キメラ性および/または標識化バージョン、ならびにそれらのαvβ8結合性断片および/または変異体も含む。
【0111】
いくつかの態様において、抗体はβ8と結合し、例えば抗体の非存在下でのTGFβ活性化と比較して、TGFβ活性化を阻害する。いくつかの態様において、抗体は、αvβ8を発現する細胞のTGFβに対する接着を低下させない、すなわち、抗体はTGFβに対するαvβ8媒介性の細胞接着を低下させない。いくつかの態様において、抗体は、抗体の非存在下でのαvβ8結合と比較して、TGFβに対する可溶性αvβ8の結合を低下させない。いくつかの態様において、抗体は、SEQ ID NO:11の中にあるβ8上のエピトープと結合することができる。いくつかの態様において、エピトープは、ヒトβ8のアミノ酸R79、I85、S95、P100、I108、P109、R128、H140およびF179から選択される少なくとも1つのアミノ酸を含む。いくつかの態様において、エピトープは、ヒトβ8のアミノ酸I74、N88、I107、T110、I125、R175およびF180から選択される少なくとも1つのアミノ酸を含む。いくつかの態様において、エピトープは、ヒトβ8のアミノ酸I125、R128、R175、F179およびF180から選択される少なくとも1つのアミノ酸を含む。いくつかの態様において、抗体はヒトβ8と結合するが、マウスβ8とは結合しない。
【0112】
所与の抗原に対して産生された抗体の結合部位、すなわちエピトープは、当技術分野において公知の方法を用いて決定することができる。例えば、競合アッセイ(例えば、競合ELISA)を、既知のエピトープを有する抗体を用いて実施することができる。被験抗体が抗原結合をめぐって競合するならば、それは同じエピトープの少なくとも一部を共通している可能性が高い。抗原のドメインスワッピングまたは選択的突然変異誘発を用いて、エピトープの位置を特定することもできる。すなわち、抗原の各領域または各アミノ酸を、被験抗体と相互作用しないことが判明しているアミノ酸または構成要素と「取り替える(swap)」かまたは置換する。所与の領域またはアミノ酸の置換により、置換された抗原に対する被験抗体の結合が、置換されていない抗原と比較して低下するならば、その領域またはアミノ酸はエピトープにかかわっている可能性が高い。
【0113】
いくつかの態様において、抗体は、SEQ ID NO:8を含む重鎖可変領域およびSEQ ID NO:9を含む軽鎖可変領域を有するヒト化37E1B5抗体である。抗体のアイソタイプはIgG1、IgG2、IgG2a、IgG3またはIgG4でありうる。
【0114】
本明細書に記載する抗体は、ポリクローナル性でもモノクローナル性でもよい。ポリクローナル血清は典型的には、αvβ8の長軸方向に沿ったいくつかのエピトープと特異的に結合する抗体の混在集団を含有する。しかし、ポリクローナル血清が、αvβ8のある特定のセグメントに対して特異的であってもよい。いくつかの態様において、抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体(Queen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 10029-10033 (1989)ならびにWO 90/07861号、US 5693762号、US 5693761号、US 5585089号、US 5530101号およびWinter, US 5225539号を参照)またはヒト抗体(Lonberg et al., WO93/12227号(1993);US 5877397号、US 5874299号、US 5814318号、US 5789650号、US 5770429号、US 5661016号、US 5633425号、US 5625126号、US 5569825号、US 5545806号、Nature 148, 1547-1553 (1994), Nature Biotechnology 14, 826 (1996), Kucherlapati, WO 91/10741号(1991) EP1481008号、Bleck, Bioprocessing Journal 1 (Sept/Oct. 2005), US2004132066号、US2005008625号、WO2004072266号、WO2005065348号、WO2005069970号、およびWO2006055778号)が含まれる。いくつかの態様において、抗体は、14E5の、37E1B5、11E8のヒト化形態またはキメラ形態である。ヒトのアイソタイプIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4を、ヒト化またはキメラ抗体のために用いることができる。ある種の抗体は、αvβ8と、約10
7、10
8、10
9、10
10、10
11または10
12 M
-1を上回るかまたはそれと等しい結合親和性で特異的に結合する(例えば、Kdがマイクロモル濃度(10
-6)、ナノモル濃度(10
-9)、ピコモル濃度(10
-12)またはより低い範囲にある)。
【0115】
G.抗αvβ8抗体のTGFβ活性および効果の検出
TGFβ活性に対する抗体の効果を明らかにするために、いくつかのTGFβバイオアッセイを利用することができる。例えば、TGFβ活性化を共培養アッセイで試験することができる。αvβ8を発現する被験細胞を、TMLC細胞、すなわち、ルシフェラーゼ遺伝子を作動させるTGF-β応答性プロモーター断片が安定的にトランスフェクトされたミンク肺上皮細胞と共培養する(Abe et al. (1994) Annal Biochem 216:276)。TMLC細胞はTGFβに対する応答性が高く、TGFβ活性化のバックグラウンドは極めて小さい。TMLC細胞はこのため、発光を読み取り値として用いて活性TGFβの存在に関して試験するために、他の細胞株との共培養下または無細胞画分中で用いることができる。アッセイは、記載された通り(Abe (1994);Munger (1999)に、抗TGFβ阻止抗体(10μg/ml、1D11;R&D Systems)、抗β8(20μg/ml、37E1B5)または抗β6(150μg/ml、10D5)の存在下または非存在下で行う。
【0116】
腫瘍組織中の活性TGFβを測定するためには、同重量の腫瘍組織をミンチ状にして、滅菌DME中で30分間、4℃でインキュベートする。4℃での遠心処理(20g)後に、活性TGFβを含む上清を採取する。続いてペレットを無血清DME中で20分間、80℃でインキュベートしてSLCを活性化し、その後に上清を採取する。続いて、活性または熱失活(潜在型)TGFβを含む上清を、あらかじめプレーティングしておいたTMLC細胞に、1D11を伴うかまたは伴わずに添加する。プロテアーゼ阻害物質アッセイのためには、共培養の開始時に阻害物質を添加する。各阻害物質の最大用量は、TMLC細胞が組換え活性TGFβに応答する能力を阻害しない最高濃度と定義される。培養細胞からの可溶性TGFβ活性を測定するためには、細胞を、37E1または10D5を伴うかまたは伴わない完全培地100μl中で、穏やかn回転させながら1時間、37℃でインキュベートする。5分間、4℃での遠心処理(20g)によって無細胞上清を採取し、続いて、プレーティングしたTMLC細胞に、1D11の存在下または非存在下で添加する。可溶性受容体アッセイのためには、細胞の一晩培養物から得た馴化培地を用いる。相対ルシフェラーゼ単位は、TMLCレポーター細胞のバックグラウンド活性を差し引いた活性と定義される。
【0117】
IV.抗体を作製する方法
本明細書に記載したような適した抗体、例えば、組換え抗体、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体の調製および使用のためには、当技術分野において公知の多くの手法を用いることができる(例えば、Kohler & Milstein, Nature 256:495-497 (1975);Kozbor et al., Immunology Today 4: 72 (1983);Cole et al , pp. 77-96 in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc. (1985);Coligan, Current Protocols in Immunology (1991);Harlow & Lane, Antibodies, A Laboratory Manual (1988);およびGoding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice (2d ed. 1986)を参照)。関心対象の抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子を細胞からクローニングし、例えば、モノクローナル抗体をコードする遺伝子をハイブリドーマからクローニングして、組換えモノクローナル抗体を作製するために用いることができる。モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子ライブラリーを、ハイブリドーマまたは形質細胞から作製することもできる。重鎖および軽鎖の遺伝子産物のランダムな組み合わせにより、種々の抗原特異性を有する抗体の大規模なプールが生じる(例えば、Kuby, Immunology (3rd ed. 1997)を参照)。単鎖抗体または組換え抗体の作製のための手法(米国特許第4,946,778号、米国特許第4,816,567号)を、本発明のポリペプチドに対する抗体を作製するために応用することができる。また、トランスジェニックマウスまたは他の哺乳動物などの他の生物を、ヒト化抗体またはヒト抗体を発現させるために用いることもできる(例えば、米国特許第5,545,807号;第5,545,806号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,661,016号、Marks et al., Bio/Technology 10:779-783 (1992);Lonberg et al., Nature 368:856-859 (1994);Morrison, Nature 368:812-13 (1994);Fishwild et al., Nature Biotechnology 14:845-51 (1996);Neuberger, Nature Biotechnology 14:826 (1996);およびLonberg & Huszar, Intern. Rev. Immunol. 13:65-93 (1995)を参照)。または、ファージディスプレイ技術を用いて、選択した抗原と特異的に結合する抗体およびヘテロマーFab断片を同定することもできる(例えば、McCafferty et al., Nature 348:552-554 (1990);Marks et al., Biotechnology 10:779-783 (1992)を参照)。抗体を二重特異性のあるもの、すなわち、2つの異なる抗原を認識しうるものとして作製することもできる(例えば、WO 93/08829号、Traunecker et al., EMBO J. 10:3655-3659 (1991);およびSuresh et al., Methods in Enzymology 121:210 (1986)を参照)。抗体が、ヘテロコンジュゲート、例えば共有結合性に連結された2つの抗体、またはイムノトキシンであってもよい(例えば、米国特許第4,676,980号、WO 91/00360号;WO 92/200373号;およびEP 03089号を参照)。
【0118】
抗体は、原核生物発現系および真核生物発現系を含む、任意のさまざまな発現系を用いて産生させることができる。いくつかの態様において、発現系は哺乳動物細胞発現系、例えばハイブリドーマまたはCHO細胞発現系である。多くのそのような系が、販売供給元から広く入手可能である。抗体がV
H領域およびV
L領域の両方を含む態様において、V
H領域およびV
L領域は、例えば、二シストロン性発現単位の形にあるか、または複数の異なるプロモーターの制御下にある、単一のベクターを用いて発現させることができる。他の態様において、V
H領域およびV
L領域を、別々のベクターを用いて発現させることもできる。本明細書に記載されたようなV
H領域またはV
L領域が、任意でN末端にメチオニンを含んでもよい。
【0119】
また、本明細書に記載したような抗体を、Fab、Fab'、F(ab')
2、scFvまたはdABを含む、さまざまな形式で作製することもできる。抗体断片は、ペプシン((Fab')
2断片を生じさせるため)もしくはパパイン(Fab断片を生じさせるため)などの酵素による完全な抗体の消化;またはデノボ合成を含む、種々の方法によって得ることができる。また、抗体断片を、組換えDNA法を用いて合成することもできる。いくつかの態様において、抗β8抗体は、β8と特異的に結合するF(ab')
2断片を含む。また、本発明の抗体がヒト定常領域を含むこともできる。例えば、Fundamental Immunology (Paul ed., 4d ed. 1999);Bird, et al., Science 242:423 (1988);およびHuston, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879 (1988)を参照。
【0120】
非ヒト抗体のヒト化または霊長類化のための方法も、当技術分野において周知である。一般に、ヒト化抗体は、ヒト以外の源からその中に導入された1つまたは複数のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒト性アミノ酸残基はしばしばインポート残基と称され、これらは典型的にはインポート可変ドメインから採られる。ヒト化は、本質的にはWinterらの方法(例えば、Jones et al., Nature 321:522-525 (1986);Riechmann et al., Nature 332:323-327 (1988);Verhoeyen et al., Science 239: 1534-1536 (1988)、およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992))に従って、齧歯類のCDRまたはCDR配列を、ヒト抗体の対応する配列の代わりに用いることによって行うことができる。そのようなヒト化抗体は、実質的に無傷ではないヒト可変ドメイン(substantially less than an intact human variable domain)が、非ヒト種由来の対応する配列によって置換されたキメラ抗体である(米国特許第4,816,567号)。実際には、ヒト化抗体は、典型的には、いくつかのCDR残基およびおそらくはいくつかのFR残基が、齧歯類抗体における類似部位由来の残基によって置換されたヒト抗体である。
【0121】
場合によっては、抗体または抗体断片を、別の分子、例えばポリエチレングリコール(PEG化)または血清アルブミンとコンジュゲートさせて、インビボでの半減期の延長を得ることもできる。抗体断片のPEG化の例は、Knight et al. Platelets 15:409, 2004(アブシキシマブに関して);Pedley et al., Br. J. Cancer 70: 1126, 1994(抗CEA抗体に関して);Chapman et al., Nature Biotech. 17:780, 1999;およびHumphreys, et al., Protein Eng. Des. 20: 227,2007)に提示されている。抗体または抗体断片を標識すること、または以下に記載するような治療薬とコンジュゲートさせることもできる。
【0122】
抗体結合の特異性は、その抗体および環境内の他の材料または無関係な分子全般に関する解離定数と比較した、標的(例えば、β8)に対する抗体の比較上の解離定数(Kd)によって定義することができる。典型的には、無関係な材料に関する抗体のKdは、標的に関するKdよりも少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍またはそれ以上の高さであると考えられる。
【0123】
例えば高い(pM〜低nM)、中程度(低nM〜100nM)または低い(約100nMまたはそれ以上)といった抗体の所望の親和性は、それを診断用薬または治療用薬のいずれとして用いるかに応じて異なりうる。例えば、中程度の親和性を有する抗体は、高親和性のものに比して、所望の組織に局在化させるのにより好首尾である可能性がある。このように、さまざまな親和性を有する抗体を、診断および治療の用途に用いることができる。
【0124】
標的指向性モイエティーは、典型的には、約1000nM未満、例えば、250nM未満、100nM未満、50nM未満、20nM未満またはそれ未満のKdで結合する。いくつかの態様において、親和性物質のKdは、15nM未満、10nM未満、5nM未満または1nM未満である。いくつかの態様において、Kdは1〜100nM、0.1〜50nM、0.1〜10nMまたは1〜20nMである。解離定数(Kd)の値は周知の方法によって決定することができ、複合的な混合物についてさえ、例えば、Caceci et al, Byte (1984) 9:340-362に開示された方法によって計算することができる。
【0125】
ある標的に対する抗体または任意の標的指向性物質の親和性は、例えば、Ernst et al. Determination of Equilibrium Dissociation Constants,
Therapeutic Monoclonal Antibodies (Wiley & Sons ed. 2009)に総説がなされているような、当技術分野において公知の方法に従って決定することができる。
【0126】
定量的ELISAおよび類似のアレイに基づくアフィニティー法を用いることができる。ELISA(酵素結合免疫吸着シグナル伝達アッセイ)は抗体に基づく方法である。場合によっては、関心対象の標的に対して特異的な抗体を基質に固定化した上で、標的を含む疑いのある試料と接触させる。続いて、結合しなかった物質を除去するために表面を洗浄する。標的結合は、例えば、標識化抗体を用いる第2の段階、標的の直接標識、または抗原結合が起こると検出可能になる標識による一次抗体の標識を用いるといった種々のやり方で検出することができる。場合によっては、抗原を基質に固定化した上で(例えば、タンパク質に対する高い親和性を有する基質、またはストレプトアビジン-ビオチン相互作用を用いて)、標識化抗体(または他の標的指向性モイエティー)を用いて検出する。元のELISA法のいくつかの変法が開発されており、当技術分野において公知である(Lequin (2005) Clin. Chem. 51 :2415-18を参照)。
【0127】
また、Kd、KonおよびKoffを、例えば、Biacore T100システムを用いることによって測定されるような、表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて決定することもできる。SPR法に関する総説は、例えば、Hahnfeld et al. Determination of Kinetic Data Using SPR Biosensors,
Molecular Diagnosis of Infectious Diseases (2004)にある。典型的なSPR実験では、一方の相互作用物(標的または標的指向性物質)を、流動セル内にある、金でコーティングしたSPR活性のあるスライドガラス上に固定化した上で、もう一方の相互作用物を含む試料を投入して、表面を越えて流れるようにする。ある所与の周波数の光が表面上で放たれれば、金の光反射率に対する変化により、結合および結合動態が示される。
【0128】
また、結合親和性を、ビオチン化した相互作用物をストレプトアビジン(SA)センサーチップに係留させることによって決定することもできる。続いて、もう一方の相互作用物をチップと接触させて、例えば、Abdessamad et al. (2002) Nuc. Acids Res. 30:e45に記載されたようにして検出する。
【0129】
V.薬学的な用途および組成物
本明細書に記載の抗αvβ8抗体(そのαvβ8結合性断片、標識化抗体、イムノコンジュゲート、薬学的組成物などを含む)は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)および喘息を検出、治療、改善または予防するために用いることができる。
【0130】
本明細書に記載の抗αvβ8抗体(そのαvβ8結合性断片、標識化抗体、イムノコンジュゲート、薬学的組成物などを含む)は、炎症性腸疾患を検出、治療、改善または予防するために用いることができる。
【0131】
本明細書に記載の抗αvβ8抗体(そのαvβ8結合性断片、標識化抗体、イムノコンジュゲート、薬学的組成物などを含む)は、炎症性脳自己免疫疾患、多発性硬化症、脱髄性疾患(例えば、横断性脊髄炎、デビック病、ギラン・バレー症候群)、神経炎症、腎疾患または神経膠腫を検出、治療、改善または予防するために用いることができる。
【0132】
本明細書に記載の抗αvβ8抗体(そのαvβ8結合性断片、標識化抗体、イムノコンジュゲート、薬学的組成物などを含む)は、関節炎を検出、治療、改善または予防するために用いることができる。
【0133】
本明細書に記載の抗αvβ8抗体(そのαvβ8結合性断片、標識化抗体、イムノコンジュゲート、薬学的組成物などを含む)は、気道線維症、特発性肺線維症、非特異的間質性肺炎、感染後肺線維症、びまん性肺胞障害、膠原血管病関連肺線維症、薬剤誘発性肺線維症、珪肺症、アスベスト関連肺線維症、呼吸細気管支炎、呼吸細気管支炎間質性肺疾患、剥離性間質性線維症、特発性器質化肺炎、慢性過敏性肺炎、薬剤関連肺線維症、腎線維症または肝線維症(例えば、(例えば、アルコール、薬物使用、脂肪性肝炎、ウイルス感染(例えば、B型またはC型肝炎)、胆汁うっ滞(choleostasis)などによって誘発されるもの)を検出、治療、改善または予防するために用いることができる。
【0134】
本明細書に記載の抗αvβ8抗体(そのαvβ8結合性断片、標識化抗体、イムノコンジュゲート、薬学的組成物などを含む)は、腺癌、扁平上皮癌、乳癌、ならびに癌の増殖および転移を検出、治療、改善または予防するために用いることができる。
【0135】
当業者は、薬学的組成物の性質および投与経路が、治療される病状に部分的に依存することを認識しているであろう。
【0136】
経口投与のために適した製剤は、(a)溶液剤、例えば、パッケージングされた核酸の有効量が、水、食塩水またはPEG 400などの希釈剤中に懸濁されたものなど;(b)それぞれが所定量の有効成分を液体、固体、顆粒またはゼラチンとして含む、カプセル剤、サシェ剤または錠剤;(c)適切な液体中にある懸濁剤;および(d)適した乳剤、からなりうる。錠剤形態は、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、リン酸カルシウム、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、微結晶性セルロース、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸および他の賦形剤、着色剤、充填剤、結合剤、希釈剤、緩衝剤、保湿剤、保存料、香味剤、色素、崩壊剤ならびに薬学的に適合性のある担体のうち1つまたは複数を含むことができる。ロゼンジ形態は、スクロースなどの香味剤中にある有効成分、ならびに不活性基剤中に有効成分を含むパステル剤、例えば、有効成分に加えて、当技術分野において公知の担体を含む、ゼラチンおよびグリセリンまたはスクロースおよびアラビアゴム乳剤、ゲルなどを含むことができる。
【0137】
本明細書に記載の抗体(またはそのαvβ8結合性断片)は、単独で、または他の適した構成要素と組み合わせて、吸入によって投与するためのエアロゾル製剤(「噴霧」される)の形にすることができる。エアロゾル製剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などの加圧された許容される噴霧剤中に配合することができる。
【0138】
直腸投与のために適した製剤には、例えば、坐薬用基剤とともにパッケージングされた核酸からなる坐薬が含まれる。適した坐薬用基剤には、天然性または合成性のトリグリセリドまたはパラフィン炭化水素が含まれる。加えて、選択した化合物と、例えば液体トリグリセリド、ポリエチレングリコールおよびパラフィン炭化水素を含む基剤との組み合わせからなるゼラチン直腸カプセルを用いることも可能である。
【0139】
例えば、関節内(関節の中)、静脈内、筋肉内、腫瘍内、皮内、腹腔内および皮下経路などによる非経口投与のために適した製剤には、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、および製剤を意図するレシピエントの血液と等張にする溶質を含む、水性および非水性の等張滅菌注射液、ならびに懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤および保存料を含む、水性および非水性の滅菌懸濁液が含まれる。本発明の実施に際しては、組成物を、例えば、静脈内注入、経口、局部、腹腔内、膀胱内または髄腔内に投与することができる。非経口投与、経口投与および静脈内投与が、好ましい投与方法である。化合物の製剤は、単回投与分または多回投与分が封入されたアンプルおよびバイアルなどの容器として提供することができる。
【0140】
注射液および懸濁液は、前述したような種類の滅菌粉末、顆粒および錠剤から調製することができる。無菌的に投与しうる組成物を調製するための方法は当業者には公知かつ明らかであると考えられ、Remington's Pharmaceutical Science, 15th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa. (1980)などの刊行物にさらに詳細に記載されている。
【0141】
投与のための組成物は、典型的には、薬学的に許容される担体、好ましくは水性担体中に溶解された、本明細書に記載されたような抗体(例えば、抗αvβ8抗体、またはそのαvβ8結合性断片もしくはイムノコンジュゲート)を含む。種々の水性担体、例えば緩衝食塩水などを用いることができる。これらの溶液は無菌であり、望ましくない物質を一般に含まない。これらの組成物は、従来の周知の滅菌手法によって滅菌することができる。組成物が、必要に応じて、生理的条件に近づけるための薬学的に許容される補助物質、例えば、pH調整剤および緩衝剤、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどを含んでもよい。これらの製剤における活性物質の濃度は非常にさまざまであってよく、これは主として、選択された特定の投与様式および患者の必要性に応じて、液体の容積、粘性、体重などに基づいて選択される。
【0142】
また、製剤が、化学療法薬、細胞傷害性薬剤、サイトカイン、増殖抑制性薬剤および抗ホルモン剤を含む、追加的な活性化合物を提供してもよい。活性成分を、持続放出製剤(例えば、固体疎水性ポリマーの半透性マトリックス(例えば、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド)として調製することもできる。また、抗体およびイムノコンジュゲートを、例えばコアセルベーション法または界面重合法によって調製されたマイクロカプセル、例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセルおよびポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセルの中に、コロイド状薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)の中に、またはマクロエマルジョン中に封入することもできる。
【0143】
VI.診断用の組成物および用途
インテグリンαvβ8は、線維芽細胞、星細胞、軟骨細胞、活性化マクロファージ、ならびにT細胞およびB細胞のサブセット上で発現される。インテグリンαvβ8はCOPDおよび肺線維症において線維芽細胞で発現が増大しており、そのため線維芽細胞の細胞量増大に関する代用マーカーとして用いることができる。したがって、本明細書で開示される抗体は、線維性炎症過程を検出するための生体イメージング戦略に広く適用可能である。本明細書に記載される治療用抗体および診断用抗体は、以下のものに適用することができる:炎症性腸疾患(IBD)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、関節炎、肝臓の線維性炎症性障害、アルコール誘発性肝臓損傷、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、ウイルス肝炎、および原発性胆汁性肝硬変(PBC)、肝移植後の移植片拒絶反応、自己免疫性肝炎、自己免疫性障害、エリテマトーデス、強皮症、皮膚筋炎、水疱性類天疱瘡、尋常性天疱瘡、肺線維性障害、炎症性脳自己免疫疾患、多発性硬化症、脱髄性疾患、神経炎症、腎疾患、子宮体腎炎、肝細胞癌(HCC)、腺癌、扁平上皮癌、神経膠腫、黒色腫、前立腺癌、卵巣癌、子宮癌および乳癌。
【0144】
以上に説明したように、本明細書に記載の抗αvβ8抗体(そのαvβ8結合性断片、親和性成熟変異体、および50kD未満もしくは25kD未満の抗体変異体、またはscFvを含む)は、インビボまたはインビトロ(例えば、個体から入手した生物試料を用いる)のいずれかにおける診断のために用いることができる。抗体は典型的には、検出可能な標識とコンジュゲートされるか、または別の様式で会合している。会合は直接的なもの、例えば共有結合であってもよく、または例えば二次結合物質、キレート剤もしくはリンカーを用いた間接的なものであってもよい。
【0145】
意図する治療法の適用可能性を判定するために、標識化抗体を個体に与えることができる。例えば、標識化抗体を用いて、罹患部におけるインテグリンβ8密度を検出することができる。標的TGFβまたはαvβ8活性を標的とすることを意図した治療法(TGFβまたはαvβ8活性を低減させる目的で)の場合、β8の密度は典型的には、非罹患組織に比して高い。また、標識化抗体は、罹患部に治療法が到達しうることも示すことができる。このようにして、患者を撮像結果に基づいて治療法に関して選択することができる。癌の正確な境界を判定するというような解剖学的特徴決定は、古典的な撮像手法(例えば、CTスキャニング、MRI、PETスキャニングなど)を用いて達成することができる。そのようなインビボ方法は、本明細書で開示される抗体の任意のものを用いて実施することができる。いくつかの態様においては標識化14E5が用いられるが、これはそれがTGFβレベルに影響を及ぼさないためである。
【0146】
本明細書に開示された抗体の任意のものを、例えば、患者試料からの細胞または組織を用いる、インビトロの診断法またはモニタリング法のために用いることもできる。いくつかの態様においては、標識化11E8(またはβ8結合性断片または親和性成熟変異体)が用いられるが、これはそれが固定された細胞とも非固定細胞とも結合しうるためである。いくつかの態様においては、標識化6B9(またはβ8結合性断片または親和性成熟変異体)が用いられるが、これはそれが固定された細胞とも非固定細胞とも結合することができ、それがβ8結合をめぐって11E8、37E1または37E1B5などの治療用抗体と競合しないためである。いくつかの態様においては、標識化4F1(またはβ8結合性断片または親和性成熟変異体)が用いられるが、これはそれが固定された細胞とも非固定細胞とも結合することができ、それがβ8結合をめぐって11E8、37E1または37E1B5などの治療用抗体と競合しないためである。
【0147】
いくつかの態様において、診断用抗体は単鎖可変断片(scFv)である。完全な抗体(例えば、IgG)を、放射性免疫療法または治療薬の標的化送達のために用いることができるが、これはそれらが高度の取り込みおよび滞留を示すためである。場合によっては、循環血における完全なmAbの存続は、高度のバックグラウンドをもたらす恐れがある(Olafsen et al. (2012) Tumour Biol. 33:669-77;Cai et al. (2007) J Nucl Med. 48:304-10)。ScFvは典型的には分子質量がほぼ25kDであり、腎臓によって急速に排泄されるものの、一価であり、親和性が比較的低いことがある。一価であることの問題は、親和性を低nMからpMの範囲へと改善する、先進的な抗体工学(antibody engineering)(本明細書に示すように)によって克服しうる。そのような抗体は、イメージング剤として有用であるのに十分に短い半減期を有し、かつ、組織標的指向性のために適した結合特性を有する(Cortez-Retamozo et al. (2004) Cancer Res. 64:2853-7)。本明細書に示すように、本発明者らは、ヒト化scFVプラットフォームに変換させることのできる、4F1、6B9および14E5の極めて親和性の高いscFV抗体誘導体をいくつか作り出した。これらの改善された抗体は機能阻止性ではなく、それ故にβ8を標的とする治療薬と併用することができる。
【0148】
本明細書に記載の抗体を含む診断用薬には、例えば、以下の参考文献に提示されているような、当技術分野において公知のあらゆる診断用薬が含まれうる:Armstrong et al., Diagnostic Imaging, 5th Ed., Blackwell Publishing (2004);Torchilin, V. P., Ed., Targeted Delivery of Imaging Agents, CRC Press (1995);Vallabhajosula, S., Molecular Imaging: Radiopharmaceuticals for PET and SPECT, Springer (2009)。「診断用薬」、「検出可能なモイエティー」、「標識」、「イメージング剤」などの用語は、本明細書において同義に用いられる。診断用薬は、検出可能なシグナルを与える、および/または増強する作用物質としてのものを含む、種々の方法によって検出することができる。検出可能なシグナルには、γ線放射性、放射性、エコー源性、光学的、蛍光性、吸収性、磁気または断層撮影シグナルが非限定的に含まれる。診断用薬の撮像のための手法には、単一光子放出型コンピュータ断層撮影法(SPECT)、磁気共鳴撮像法(MRI)、光学撮像法、ポジトロン放出断層撮影法(PET)、コンピュータ断層撮影法(CT)、X線撮像法、γ線撮像法などが非限定的に含まれうる。PETは特に高感度かつ定量的であり、このため、インビボでの線維化過程を特徴づけるために有益である(Olafsen et al. (2012) Tumour Biol. 33:669-77;Cai et al. (2007) J Nucl Med. 48:304-10)。これはコンパニオン診断薬(companion diagnostic)より以上に有用であり、線維症患者を診断するため、臨床的な病期を判定するため、およびあらゆる治療レジメンに際して経過を観察するために一般に有用であると考えられる。
【0149】
本明細書に記載の診断用薬に放射性同位体を組み入れることができ、それにはγ線、ポジトロン、β粒子およびγ粒子、ならびにX線を放射する放射性核種が含まれうる。適した放射性核種には、
225Ac、
72As、
211At、
11B、
128Ba、
212Bi、
75Br、
77Br、
14C、
109Cd、
62Cu、
64Cu、
67Cu、
18F、
67Ga、
68Ga、
3H、
166Ho、
123I、
124I、
125I、
130I、
131I、
111In、
177Lu、
13N、
15O、
32P、
33P、
212Pb、
103Pd、
186Re、
188Re、
47Sc、
153Sm、
89Sr、
99mTc、
88Yおよび
90Yが非限定的に含まれる。ある態様において、放射性物質には、
111In-DTPA、
99mTc(CO)
3-DTPA、
99mTc(CO)
3-ENPy2、
62/64/67Cu-TETA、
99mTc(CO)
3-IDAおよび
99mTc(CO)
3トリアミン(環状または直鎖状)が含まれる。他の態様において、作用物質には、DOTA、および
111In、
177Lu、
153Sm、
88/90Y、
62/64/67Cuまたは
67/68Gaを有するそのさまざまな類似体が含まれる。いくつかの態様においては、以下の参考文献に提示されているように、キレート剤と結びつけた脂質、例えばDTPA-脂質などの組み入れによってナノ粒子を標識することができる:Phillips et al., Wiley Interdisciplinary Reviews: Nanomedicine and Nanobiotechnology, 1 (1): 69-83 (2008);Torchilin, V.P. & Weissig, V., Eds. Liposomes 2nd Ed.: Oxford Univ. Press (2003);Elbayoumi, T.A. & Torchilin, V.P., Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging 33:1196-1205 (2006);Mougin-Degraef, M. et al., Int'l J. Pharmaceutics 344:110-117 (2007)。
【0150】
いくつかの態様において、診断用薬は、種々の画像診断法に用いられる金属イオンなどと結合するキレート剤を含みうる。例示的なキレート剤には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、[4-(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデク-1-イル)メチル]安息香酸(CPTA)、シクロヘキサンジアミン四酢酸(CDTA)、エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)四酢酸(EGTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、クエン酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、イミノ二酢酸(IDA)、トリエチレンテトラアミン六酢酸(TTHA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ(メチレンホスホン酸)(DOTP)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-四酢酸(TETA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、N
1,N
1-ビス(ピリジン-2-イルメチル)エタン-1,2-ジアミン(ENPy2)およびそれらの誘導体が非限定的に含まれる。
【0151】
いくつかの態様においては、診断用薬に、発色基質に接触すると有色生成物を生じる二次結合リガンドまたは酵素(酵素タグ)を付随させることができる。適した酵素には、ウレアーゼ、アルカリホスファターゼ、(西洋ワサビ)水素ペルオキシダーゼおよびグルコースオキシダーゼが含まれる。二次結合リガンドには、例えば、当技術分野において公知であるようなビオチンおよびアビジンまたはストレプトアビジン化合物である。
【0152】
いくつかの態様において、診断用薬は、蛍光性物質、リン光性物質、化学発光性物質などの光学的物質である。当技術分野において公知のさまざまな作用物質(例えば、色素、プローブ、標識または指示薬)を、本発明に用いることができる。(例えば、Invitrogen, The Handbook--A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologies, Tenth Edition (2005)を参照)。蛍光性物質には種々の有機および/もしくは無機低分子、または種々の蛍光性タンパク質、ならびにそれらの誘導体が含まれる。例えば、蛍光性物質には、シアニン、フタロシアニン、ポルフィリン、インドシアニン、ローダミン、フェノキサジン、フェニルキサンテン、フェノチアジン、フェノセレナジン、フルオレセイン、ベンゾポルフィリン、スクアラン(squaraine)、ジピロロピリミドン、テトラセン、キノリン、ピラジン、コーリン、クロコニウム、アクリドン、フェナントリジン、ローダミン、アクリジン、アントラキノン、カルコゲンピリリウム類似体、クロリン、ナフタロシアニン、メチン色素、インドレニウム色素、アゾ化合物、アズレン、アザアズレン、トリフェニルメタン色素、インドール、ベンゾインドール、インドカルボシアニン、ベンゾインドカルボシアニン、およびBODIPY(商標)誘導体が非限定的に含まれうる。
【0153】
VII.治療の方法
本明細書に記載された抗αvβ8抗体、およびそれらのαvβ8結合性断片またはイムノコンジュゲートは、個体に対して、公知の方法に従って、例えば、ボーラスとしてもしくは一定期間にわたる連続注入による静脈内投与、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内(intracerobrospinal)、皮下、関節内、滑膜内、髄腔内、経口、局部(例えば、経皮的)または吸入経路などによって投与される。抗体の静脈内投与または皮下投与が好ましい。投与は局所性でも全身性でもよい。
【0154】
組成物は、治療的または予防的な処置のために投与することができる。治療的な用途において、組成物は、疾患(例えば、IBD、癌、線維症(肺または肝臓)、COPD、喘息、関節炎など)に罹患した患者に対して、「治療的有効用量」で投与される。この用途のために有効な量は、疾患の重症度および患者の全般的健康状態に応じて決まると考えられる。患者が必要とし、かつ忍容性のある投与量および頻度に応じて、組成物の単回または多回の投与を行うことができる。本明細書に記載された組成物は、ヒトおよび他の動物、特に哺乳動物に対して投与することができる。したがって、本方法は、ヒトの治療および獣医学用途の両方に適用可能である。他の公知の癌治療法を本発明の方法と併用することができる。例えば、細胞を5FU、ビンブラスチン、アクチノマイシンD、シスプラチン、メトトレキサートなどの癌治療薬の標的とするため、またはそれらに対する細胞の感受性を高めるために、本発明に従って用いるための組成物を用いることもできる。また、本明細書に記載された組成物を、放射線療法または免疫療法、さらには現在開発中の治療薬と組み合わせることもできる。
【0155】
併用療法は、別々の製剤または単一の医薬製剤を用いる同時投与、およびいずれかの順番での連続投与を想定している。
【0156】
治療的有効用量を決定するためには、低用量の抗αvβ8抗体(またはそのαvβ8結合性断片またはイムノコンジュゲート)をまず個体に投与して、個体の病状が改善し始めるまで漸増させるとよい。例えば、初回投与量は1日当たり約0.001mg/kg〜約1mg/kgであってよい。個体の病状が最低用量で変化しない場合には、後の時点で、約0.01mg/kg〜約500mg/kg、または約0.1mg/kg〜約200mg/kg、または約1mg/kg〜約100mg/kg、または約10mg/kg〜約50mg/kgの範囲の1日用量を用いることができる。上述したように、当業者は、治療的有効用量を決定する場合にはいくつかの変数を考慮しなければならないことを認識しているであろう。患者に対して投与される用量は、患者において有益な治療反応を経時的に生じさせるのに十分であるべきである。用量のサイズは、個々の患者における特定の組成物(または併用療法)の投与に伴う有害な副作用の存在、性質および程度によっても決まると考えられる。
【実施例】
【0157】
VIII.実施例
A.実施例1:37E1B5抗体
37E1、37E1B5およびヒト化37E1B5(h37E1B5またはHu37E1B5)の重鎖および軽鎖V領域配列を
図1に示している。フレームワーク領域およびCDR領域が示されている。ヒト化37E1B5抗体は、37E1B5の高親和性および活性を保っている。
【0158】
インビトロ培養下において、37E1は約200μg/mlの濃度で、活性のある成熟TGFβペプチドの放出を阻害する。以上に説明したように、37E1B5ははるかに高い親和性を有し、ピコモル濃度の範囲で活性がある。37E1B5は10μg/mでは、インビトロ培養下で活性のある成熟TGFβペプチドの放出を阻害するのに極めて有効である。
【0159】
B.実施例2:11E8抗体および14E5抗体の作製
SP2/0骨髄腫細胞と、特異的免疫処置を行ったマウスからのリンパ球とを融合させることによって作り出したハイブリドーマ細胞において、11E8抗体および14E5抗体を産生させた。マウスに対する免疫処置は、分泌され、精製されたインテグリンαvβ8の操作されたバージョンの皮下注射によって行った。
【0160】
C.実施例3:β8エピトープの特性決定
37E1B5抗体、11E8抗体および14E5抗体の結合エピトープの位置を特定するために、ヒトITGB8中にマウス配列をスワッピングしたキメラ性インテグリンβ8構築物を用いた。エピトープの位置特定は、抗体結合、細胞表面染色、およびフローサイトメトリーによる検出によって行った。エピトープは、ヒトインテグリンβ8のアミノ酸121〜180(SEQ ID NO:17に示されたβ8配列を基準とする)の中に含まれる。3種の抗体はすべて、ヒトβ8と結合するが、マウスβ8とは結合しない。このことからみて、9種の非保存的なアミノ酸の差異、または7種の軽微なアミノ酸の差異(配列の中央の列に+によって表示)のうち少なくとも1つが結合エピトープに含まれているか、またはマウスタンパク質とヒトタンパク質とを識別しうるような様式でドメインの3次元構造に影響を及ぼしている。このエピトープはPsiハイブリッドとして知られるもの、ならびにインテグリンβ8サブユニットのβ-Iドメインのα1ヘリックスおよびα1リンカー領域の中に入り、分子の表面上に認められる。
【0161】
SEQ ID NO:1は、37E1B5エピトープ(アミノ酸121〜180)を含む、ヒトインテグリンβ8の領域を表している。SEQ ID NO:2は、37E1B5抗体による結合を受けない、相同なマウス配列を表している。マウス配列の位置140にあるRは多形性であり、Hでもありうる。アラインメント配列はSEQ ID NO:3によって表されている。
【0162】
どのアミノ酸が37E1B5エピトープに含まれるかを明らかにするために、ヒト配列をマウス配列で置換するさらなるドメインスワッピング試験を、この領域内で行った。インテグリンβ8のマウスアミノ酸125〜180への置換により、37E1B5の結合は有意に低下した。したがって、ヒトインテグリンβ8上のエピトープは、I125、R128、R175、F179およびF180から選択される少なくとも1つのアミノ酸を含む。
【0163】
D.実施例4:11E8抗体の特性決定
11E8抗体は、分泌されたαvβ8を免疫沈降させるとともに、β8をトランスフェクトさせたヒト293胚腎細胞上およびSW480結腸癌細胞上に存在するβ8サブユニットのエピトープを認識するが、モックトランスフェクト細胞ではそうでない。
【0164】
11E8は、ITGB8をトランスフェクトさせたSW480細胞におけるαvβ8媒介性TGF-β活性化を特異的に阻止する。37E1B5と同様に、11E8は高親和性抗体であり、極めて低い濃度でTGFβ阻止活性を有する(40μg/mlインビトロが試験した最低濃度であった)。11E8は、β8以外のものによって媒介される他の機序によって媒介されるTGF-β活性化は阻止しない。
【0165】
加えて、11E8はホルマリン固定細胞上に存在するβ8エピトープも認識し、このため、これはヒト組織における局在試験のためによく適する。11E8抗体はインビトロおよびインビボにおいて活性があり、αvβ8媒介性TGFβ活性を低下させるための治療薬として用いることができる。固定された細胞と11E8が結合しうるという能力は、規制当局による認可を早めるため、ならびに、患者群を選択するため(例えば、治療を開始する前に、関心対象の組織におけるαvβ8発現を確かめるため)、患者集団を特徴づけるため(例えば、αvβ8発現の局在、さまざまな治療薬に対する応答などに応じて)、および疾患進行をモニタリングするため(例えば、11E8抗体または別の治療薬による治療の過程において)の一助となる。
【0166】
11E8のエピトープの範囲をさらに明確に定めるために、37E1B5を用いる競合アッセイを行った。非標識37E1B5の添加により、ITGB8(ヒトインテグリンβ8)をトランスフェクトさせたSW480細胞およびαvβ8を発現するピューロ(puro)細胞と結合する標識化11E8抗体の結合が阻害された。この結果は、これらの抗体のエピトープが大きく重なり合うことを示している。
【0167】
SEQ ID NO:10および11に示されているように、11E8の可変領域配列を入手した。11E8重鎖のCDR 1〜3は以下の通りである:それぞれ、
。11E8軽鎖のCDR 1〜3は以下の通りである:それぞれ、
。
【0168】
E.実施例5:14E5抗体の特性決定
以上に開示したように、14E5抗体はヒトのインテグリンβ8を認識するが、マウスインテグリンβ8を認識せず、アミノ酸120〜180の中のエピトープと結合する。14E5抗体は、インビトロおよびインビボの両方でαvβ8発現細胞上のαvβ8と結合するが、活性のある成熟TGFβの放出を阻害しない。14E5抗体は診断用途または患者集団選択のために有用であるが、これはそれが高い親和性で結合し、FACSアッセイにおいて十分に機能するためである。
【0169】
14E5抗体のエピトープの範囲をさらに明確に定めるために、37E1B5を用いる競合アッセイを行った。非標識37E1B5抗体の添加により、ITGB8をトランスフェクトさせたSW480細胞およびαvβ8発現ピューロ細胞と結合する標識化14E5抗体の結合が阻害された。この結果は、これらの抗体のエピトープが重なり合うことを示している。
【0170】
SEQ ID NO:12および13に示されているように、14E5の可変領域配列を入手した。14E5重鎖のCDR 1〜3は以下の通りである:それぞれ、
。14E5軽鎖のCDR 1〜3は以下の通りである:それぞれ、
。
【0171】
F.実施例6:気道リモデリングにおけるインテグリンαvβ8の役割
TGF-βは炎症反応および線維化応答に関与する。IL-1βは、COPD患者の気道内で過剰発現されるβ8の発現をアップレギュレートする。インビボでのβ8、TGF-βおよびIL-1βの相互作用を明らかにするために、β8媒介性気道リモデリングのマウスモデルをデザインした。その結果により、IL-1-β誘導性でβ8媒介性のTGF-β活性化が気道リモデリングにおいて決定的な役割を果たすことが示されている。
【0172】
C57BL/6マウスにおいて、Cre/LoxPシステムを用いてβ8を欠失させた。気管内アデノウイルスIL-1βを、loxP導入(floxed)インテグリンβ8アレル1つおよびノックアウトアレル(Floxed/-)を有する6週齡〜9週齡マウスにおける炎症のモデルとして用いた。アデノウイルスヒトIL-1β(Ad-hIL-1β)または対照アデノウイルスのいずれかを、Ad-Creと伴うかまたは伴わずに、気管内に投与した。
【0173】
線維芽細胞がブレオマイシン誘発性肺線維症、オボアルブミン(ovalbumin)誘発性気道リモデリングおよびAd-IL1β誘発性気道リモデリングにおけるαvβ8媒介性のTGF-β活性化に主要な役割を果たすことを示すために、コラーゲンIα2プロモーターの制御下でCre-ER(T)融合リコンビナーゼを発現するマウスを用いた。組織検査によって気道形態の変化を評価した。Ad-hIL-1β投与後の複数の時点でいくつかの炎症サイトカインの遺伝子発現を分析したところ、炎症性反応を特徴づける複数の遺伝子の逐次的誘導が明らかになった。
【0174】
β8条件ノックアウトモデルからの結果により、β8は、IL-1β誘発性の一過性の気道炎症および線維化のために必要であることが示された。β8を発現するマウスにおけるヒトIL-1βの添加は、β8媒介性のTGF-β活性化、マウスccl2およびccl20遺伝子の誘導(CCケモカインリガンド2および20、これらは炎症性反応に関与する)、樹状細胞の動員、ならびに適応免疫応答の開始および持続化を導いた。
【0175】
条件的インテグリンβ8欠失モデルからのデータにより、Ad-hIL-1βおよびオボアルブミンの両方に対する炎症性反応および線維形成反応が低下し、その結果、気道リモデリングに対する防御がもたらされたことが示された。このことからみて、β8の標的化は、気道リモデリングおよびブレオマイシン誘発急性肺傷害におけるIL-1β誘発性またはオボアルブミン誘発性のTGF-β活性化を低下させる。
【0176】
G.実施例7:抗インテグリンβ8はColI発現を低下させる
ECM産生の増大および線維芽細胞収縮性の増大は、気道壁肥厚における線維化反応、ならびにI型コラーゲン(ColI)の増加および平滑筋アクチン(α-SMA)の増加において認められる顕著な特徴である。線維形成促進反応に対する自己分泌αvβ8媒介性のTGF-β活性化の寄与を評価するために、中和性抗β8を用いた。β8阻止抗体による気道線維芽細胞の処理はαSMA発現およびColI分泌を阻害し、このことは自己分泌αvβ8媒介性のTGF-β活性化は筋線維芽細胞の表現型に影響を及ぼすことを示している。気道線維芽細胞と扁平化生ヒト気管支上皮細胞との共培養は、気道線維芽細胞によるColIタンパク質発現の増加を導き、それはIL-1β依存性および線維芽細胞β8依存性であった。ColI発現の増大は、β8 siRNAによる気道線維芽細胞のトランスフェクションによってほぼ完全に阻害することができ、このことは、β8媒介性のTGFβの活性化を阻害することによって、線維形成促進反応を低下させ、線維性病状を改善させることができることを示している。
【0177】
H.実施例8:COPD線維芽細胞におけるインテグリンβ8発現
ヒトCOPD患者の肺由来の線維芽細胞におけるインテグリンβ8発現が組織染色および初代培養を用いて検出され、それは非COPD組織におけるよりも高度であった。インテグリンβ8発現は、特発性肺線維症の患者から単離した線維芽細胞でも、正常患者由来の線維芽細胞と比較して有意に増大していた。また、COPD線維芽細胞では、IL-1β依存性のインテグリンαvβ8タンパク質発現も、正常肺線維芽細胞と比較して増大している。これらのデータは、αvβ8がIL-1β活性の下流標的および病的メディエーターの両方であることを実証している。
【0178】
本明細書に記載の抗β8抗体(例えば、37E1B5、14E5および11E8)は、インテグリンβ8が発現され、かつIL-1βおよび/またはTGF-βが病的な役割を果たす疾患において、治療的および診断的に用いることができる。
【0179】
I.実施例9:インテグリンβ8中和抗体は誘発性気道炎症を低下させる
ヒトBACクローンRP11-431K20を用いて、ヒトインテグリンβ8(ITGB8)を発現するトランスジェニックマウスを作製した。これらのマウスを、マウスitgb8の機能性アレルを1つ有するマウスと交配させて、ヒトITGB8およびマウスitgb8の機能性コピー1つを有するマウスのF1世代を作製した。これらのマウスの交雑育種によってF2世代を作製したところ、その結果、生存能力のあるBAC ITGB8、すなわちその遺伝子のヒトコピーのみを有するitgb8 -/-マウスが得られ、このことはITGB8によるitgb8 -/-致死性のレスキューを実証している。
【0180】
これらのマウスを、気管内アデノウイルスIL-1β送達モデルを用いる気道リモデリングの誘発に用いた。この方法では、ヒト慢性閉塞性肺疾患(COPD)に類似した免疫学的プロフィールを有する活発な気道リモデリングが再現性を伴って誘発される。
【0181】
37E1B5抗体は7mg/kgの用量で気道炎症を有意に阻止し、気管支肺胞洗浄液中の好中球の有意な減少を伴う。組織学的に、気道壁の炎症および線維症は37E1B5によって有意に低下した。加えて、itgb8の線維芽細胞特異的欠失により、アデノウイルスIL-1β誘発性の気道リモデリングを有意に阻害することができた。
【0182】
アレルギー性気道リモデリング(オボアルブミン誘発性の気道炎症、線維症および粘膜化生)を検討するために、itgb8の線維芽細胞特異的欠失を有するマウスも用いた。itgb8-/-マウスでは野生型と比較して、リモデリングが大きく抑えられた。このアレルギーモデルも、IL-1βおよびTGF-βの両方に依存性である。これらのデータは、IL-1βおよびTGF-βによって媒介される先天免疫応答および適応免疫応答におけるitgb8の一般的な役割を示している。IL-1βは、気道および肺由来の線維芽細胞ならびにアストロサイトを含む複数の細胞種において、インテグリンβ8の増加を引き起こし、IL-1β誘導性のβ8発現はマウスおよびヒトの両方で認められる。
【0183】
J.実施例10:ヒト関節軟骨細胞はインテグリンαvβ8を発現する
慢性骨関節炎に対して膝の選択的修復術を受ける患者の膝の関節腔から、成人関節軟骨を採取した。初代軟骨細胞を集密度70%まで増殖させて、インテグリン受容体の発現を細胞染色およびフローサイトメトリーによって判定した。用いた抗体は抗β8(37E1B5)および抗β6(E7P6)であった。37E1B5では強い染色が検出され、E7P6では染色が全く認められなかった。TGFβバイオアッセイにおいて、抗β8(37E1B5)または中和性抗β6の存在下または非存在下で、初代軟骨細胞をTMLC TGFβレポーター細胞(Annes et al. (2004) J. Cell Biol. 165:723)と共培養した。抗β8はTGFβ活性化の強い阻止を生じたが、一方、抗β6はそのような効果を全く生じなかった。
【0184】
これらの結果は、αvβ8が軟骨細胞において発現されることだけでなく、その発現がTGFβ活性化をもたらすことも示している。このことからみて、αvβ8の阻害を、活性化TGFβと関連する軟骨障害、例えば関節炎および滑膜線維症などの治療に利用することができる(例えば、Bakker et al. (2001) Osteoarthritis and Cartilage 9:128を参照)。
【0185】
K.実施例11:肝星細胞はαvβ8を発現する
肝星細胞は活性化TGFβに応答してコラーゲンを産生することのできる収縮性細胞であり、肝線維症に関与する実質細胞種である。肝線維症には、アルコール、薬物および麻酔薬、感染(例えば、B型およびC型肝炎)、自己免疫、胆汁うっ滞(胆汁過剰)および非アルコール性脂肪性肝炎を含む数多くの誘因がある。
【0186】
本明細書に記載のβ8特異的抗体を用いて、肝臓におけるTGFβ活性が標的化されうるかを明らかにするために、インテグリンβ8発現を上記のトランスジェニックマウス(ヒトIGTB8を有するがマウスigtb8は有しない)において検出した。
【0187】
図2は、14E5抗体を用いる判定で、肝星細胞のかなりの割合がβ8を発現することを示している。
【0188】
L.実施例12:抗β8抗体は小腸炎症を軽減する
炎症性腸疾患(IBD)の症状を、ヒトIGTB8を発現するがマウスigtb8は発現しない、上記のトランスジェニックマウスにおいて観察した。その症状には、体重減少ならびに小腸の拡大および炎症、さらには脊柱側弯が含まれる。
図3は、これらのマウスの消化管における免疫細胞のゲーティングを示している。
図3Aは一般的なゲーティングパラメーターを示しており、一方、
図3B〜3Eは、それぞれCD4+、CD8+、B細胞およびNK細胞上でのβ8の発現パターンを示している。NK細胞はβ8を検出可能なレベルでは発現しなかった。IGTB8マウスの消化管由来の樹状細胞もβ8発現を示した。
【0189】
このように、抗β8抗体37E1B5のインビボでの効果を明らかにするために、IGTB8マウスを用いた。IGTB8トランスジェニックマウスに対して、3mg/kgの37E1B5による処置を、8週間にわたる週2回のIP投与によって行った。
図4は、37E1B5抗体による処置により、炎症に伴う小腸拡大が有意に軽減されたことを示している。
図5はさらに、抗体投与の効果を、IGTB8、対照(未処置)マウスから採取した腸の区域を、抗体投与(B5)マウスのものと比較して図示している。
【0190】
M.実施例13:4F1抗体および6B9抗体は、固定された細胞および組織上のヒトβ8と結合する
ハイブリドーマクローン4F1および6B9は、ホルマリン固定およびパラフィン包埋を行ったITGB8トランスフェクト293ヒト胚腎細胞、およびITGB8 BACトランスジェニック(Tg)マウスの脳を特異的に染色する。ヒトインテグリンαvβ8を発現する(293 B8)かまたは発現しない(293 野生型)、安定的にトランスフェクトされた293細胞を、10%緩衝ホルマリン中で一晩かけて固定し、ペレット化した後にアガロースプラグ中に包埋した上で、慣行的な組織プロセシング、パラフィン包埋および切片作製に供した。ITGB8 BAC Tgマウス由来の脳試料も類似の様式で処理した。加熱処理による抗原賦活化を用いて免疫染色を行い、抗体を市販のキット(Dako)を用いて検出した。6B9を25ug/mlで用い、102C加熱処理による抗原賦活化を10分間行った。4F1は50〜100ug/mlで用い、95C加熱処理による抗原賦活化を10分間行った。
図6における結果は、これらの抗体がβ8に対して特異的であり、固定された組織上のβ8と結合しうることを示している。
【0191】
ハイブリドーマクローン4F1については、ITGB8 BAC Tgマウスまたは野生型マウスの脳または肺を10%緩衝ホルマリン中で一晩かけて固定した上で、組織プロセシング、パラフィン包埋および切片作製に供した。免疫染色を上記と同じ加熱処理による抗原賦活化を用いて行い、抗体を市販のキットを用いて検出した。結果は
図7に示されている。
【0192】
N.実施例14:抗体6B9および4F1は、β8のゲノムコピー数が異なる細胞を識別することができる
ハイブリドーマクローン6B9は、固定された組織上のβ8と結合して、コピー数変種を検出することができる。
図8は、ホルマリン固定およびパラフィン包埋を行ったITGB8 BACトランスジェニック(Tg)マウス脳の免疫染色を示している。ITGB8 BAC Tgマウスまたは野生型マウスの脳を10%緩衝ホルマリン中で一晩かけて固定し、慣行的な組織プロセシング、パラフィン包埋および切片作製に供した。免疫染色は上記の通りに行った。1コピー(D‐系統 BAC/野生型)、2コピー(BおよびC‐系統 BAC/野生型;D‐系統 BAC/BAC)または4コピー(BおよびC‐系統 BAC/BAC)を発現する、3系統のTgマウス(B、CおよびD)が、野生型と比較して示されている。
【0193】
同様に、4F1の可変ドメインに由来する組換えモノクローナルウサギIgGも、コピー数変種を検出することができる。
図9は、ホルマリン固定およびパラフィン包埋を行ったITGB8 BACトランスジェニック(Tg)マウス肺の免疫染色の結果を示している。ITGB8 BAC Tgマウスまたは野生型マウスの肺を10%緩衝ホルマリン中で一晩かけて固定し、組織プロセシング、パラフィン包埋および切片作製に供した。免疫染色は上記の通りに行った。1コピー(D‐系統 BAC/野生型)、2コピー(BおよびC‐系統 BAC/野生型;D‐系統 BAC/BAC)または4コピー(BおよびC‐系統 BAC/BAC)を発現する3系統のTgマウス(B、CおよびD)が、野生型と比較して示されている。
【0194】
抗体4F1および6B9は、BAC ITGB8マウスから単離された、ホルマリン固定およびパラフィン包埋を行った組織において、ITGB8の1コピーと2コピーとの間での発現の差を検出することができた。したがって、これらの抗体は、治療用抗体(例えば、37E1B5、11E8およびβ8結合性断片、ならびにそれらの親和性成熟変異体)に対するコンパニオン診断薬として、β8の発現増大を検出するための診断用薬として有用な可能性がある。
【0195】
O.実施例15:固定されたヒト病的肺組織上でのβ8の検出
クローン4F1の可変ドメインに由来する組換えモノクローナルウサギIgGは、ホルマリン固定およびパラフィン包埋を行ったヒト線維性肺の免疫染色によってαvβ8発現を検出することができる。気腫および胸膜下瘢痕を有する患者の外科手術病理組織から、ヒト肺標本を入手した。組織を10%緩衝ホルマリン中で一晩かけて固定し、組織プロセシング、パラフィン包埋および切片作製に供した。免疫染色は上記の通りに行った。結果は
図10に示されている。矢印は、密な線維性結合組織の中に入り込んだ線維芽細胞を表す、紡錘細胞の染色を示している。
【0196】
P.実施例16:6B9抗体および4F1抗体に関するエピトープマッピング
6B9抗体および4F1抗体の結合エピトープの位置を特定するために、ヒトITGB8中にマウス配列をスワッピングしたキメラ性インテグリンβ8構築物を用いた。エピトープの位置特定は、抗体結合、細胞表面染色、およびフローサイトメトリーによる検出によって行った。エピトープはヒトインテグリンβ8のアミノ酸61〜105の中に含まれる。6B9抗体および4F1抗体は、ヒトβ8と結合するが、マウスβ8とは結合しない。3種の非保存的なアミノ酸の差異、または2種の軽微なアミノ酸の差異(配列の中央の列に+によって表示)のうち少なくとも1つが結合エピトープに含まれているか、またはマウスタンパク質とヒトタンパク質とを識別しうるような様式でドメインの3次元構造に影響を及ぼしている。
【0197】
SEQ ID NO:14は、エピトープ(アミノ酸61〜105)を含む、ヒトインテグリンβ8の領域を表している。SEQ ID NO:15は、4F1抗体による結合も6B9抗体による結合も受けない、相同なマウス配列を表している。アラインメント配列はSEQ ID NO:16によって表されている。
【0198】
どのアミノ酸がβ8エピトープに含まれるかを明らかにするために、この領域におけるアミノ酸スワッピングを行った。以下の表は、ヒトβ8配列の位置95にあるセリン残基が、6B9および4F1のエピトープにかかわることを示している。
【0199】
Q.実施例17:6B9抗体および4F1抗体の特性決定
SEQ ID NO:18および19に示されているように、6B9の可変領域配列を入手した。6B9重鎖のCDR 1〜3は以下の通りである:それぞれ
。6B9軽鎖のCDR 1〜3は以下の通りである:それぞれ
。
【0200】
SEQ ID NO:20および21に示されているように、4F1の可変領域配列を入手した。4F1重鎖のCDR 1〜3は以下の通りである:それぞれ
。4F1軽鎖のCDR 1〜3は以下の通りである:それぞれ
。
【0201】
R.実施例18:37E1B5抗体、14E5抗体および11E8抗体のエピトープの特性決定
以上に示されたように、SEQ ID NO:1は、37E1B5抗体、14E5抗体および11E8抗体のβ8エピトープ(アミノ酸120〜180)を含む、ヒトインテグリンβ8の領域を表している。SEQ ID NO:2は、結合を有意には受けない、相同なマウス配列を表している。
【0202】
どのアミノ酸がβ8エピトープに含まれるかを明らかにするために、この領域におけるアミノ酸スワッピングを行った。以下の表は、SEQ ID NO:1のアミノ酸175〜180が、各抗体のエピトープに含まれることを示している。
【0203】
S.実施例19:単鎖Fv抗体に関する親和性の決定
本発明者らはまた、親和性成熟バージョンを含む、開示された抗体の親和性も決定した。典型的には、単鎖抗体の親和性Kdは、対応するIgの10〜100倍の高さである(すなわち、単鎖抗体は、対応するIgの10分の1〜100分の1の低い親和性を有する)。
【0204】
本明細書に記載された実施例および態様は説明のみを目的としたものであり、当業者にはそれらに鑑みてさまざまな修正または変更が想起されると考えられるが、それらも本出願の趣旨および範囲、ならびに添付の特許請求の範囲に含まれるものとする。本明細書に引用した刊行物、ウェブサイト、アクセッション番号、特許および特許出願はすべて、その全体が目的を問わず、参照により本明細書に組み入れられる。