【文献】
K.-D. Bouzakis,Adaption of graded Cr/CrN-interlayer thickness to cemented carbide substrates roughness for improving the adhesion of HPPMS PVD films and the cutting performance,Surface & Coating Technology,2010年 9月15日,Vol. 205,pp. 1564-1570
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御ユニットは、前記バイアスパルスが前記第一カソードに印加される前記パルスの開始後で20〜60μsの初期期間(42)後に開始するべく印加されるように、前記パルスバイアス電源を制御するべく配置されている、
ことを特徴とする請求項35〜37いずれか一つに記載の装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、特性を改善した堆積層をもたらす、被覆体(coated body)は勿論のこと、基材(基板)をコーティング(被覆)するための方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、請求項1に係る方法、請求項
34に係る装
置により解決される。従属する請求項は、本発明の好ましい実施形態に関連するものである。
【0009】
本発明者等は、少なくともアルミニウムおよび1種以上のさらなる金属成分を含む異なる材料系の層を堆積させることを考慮した。以下に述べられるように、好ましい実施形態においては、反応ガスとして窒素を含む、少なくともアルミニウムおよびチタンの反応性スパッタリングが提案される。材料系Ti−Al−Nと、一つのさらなる金属(例えば、Ti−Al−Si−N、Ti−Al−Cr−N)、二つのさらなる金属(例えば、Ti−Al−Si−W−N、Ti−Al−Si−Cr−N等)、又はさらなる金属を含む、関連材料系は、本発明に至った考慮すべき事柄の一つの注目点である。
【0010】
本発明に係る方法及び装置において、少なくとも二つのマグネトロンカソードが、真空チャンバ内に設けられる。特に好ましくは非平衡マグネトロンカソードとして、すなわち、それ自体技術的に知られている非平衡マグネットシステムを備える。第一カソードには、第一金属組成(物)のスパッタリングターゲットが設けられ、第二カソードには、第二金属組成(物)のスパッタリングターゲットが設けられる。付随的に、以下に説明されるように、同一又は異なる金属組成物を有するさらなる電極およびターゲットが、真空チャンバ内に設けられてもよい。
【0011】
カソードに電力が供給されてプラズマが形成され、ターゲットがスパッタされる。プラズマからの粒子がコーティング(被膜)を形成する基材上に堆積するように、基材が真空チャンバ内に配置される。
【0012】
本発明によれば、第一金属組成(物)および第二金属組成(物)は異なるものである。第一金属組成物は、第一金属として主にアルミニウム(Al)からなる。これに関連して「金属」とは、単一タイプの金属元素をいう。
【0013】
これに関連して、「主に」とは、金属組成(物)内に存在する金属のうち、ある一つの金属がその含有量において突出しており、最大の原子百分率(at.%)を示す金属として使用されることを理解されたい。ターゲットが、均質に例えば均一材料として、又、例えば主成分の他に他の金属を含む化合物又は合金として、提供されることは一般的に可能であるが、一つの金属がプラグとして他の金属の板に挿入されるプラグターゲットとして、単一金属その他を含むターゲットを備えることも好ましい。
【0014】
第二金属組成(物)は、第一金属とは異なる第二金属を、少なくとも50at.%含む。第二金属は、周期表のIVA−VIA族の元素から選択され、好ましくは、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、クロム(Cr)、ケイ素(Si)およびハフニウム(Hf)を含む族から選択される。
【0015】
第一金属組成(物)は、66at.%以上のアルミニウム、より好ましくは90at.%以上、さらに好ましくは90at.%以上含むことが好ましい。特に、第一金属組成(物)を、純粋な形態のアルミニウム(ただし、一般的に3at.%未満の避け難い不純物は除く)として供給するのが好ましい。実施形態の変形例として説明するように、第一金属組成物は、例えば20at.%未満、好ましくは10at.%未満のSiの部分を含んでもよい。
【0016】
第二金属組成(物)は、好ましくは80at.%以上の第二金属、より好ましくは95at.%以上の、最も好ましくは、避け難い不純物を除いて純粋な形態の第二金属を含むことが好ましい。ここでは、第二金属として特にチタンが選択される。
【0017】
コーティングプロセスの間、第一カソードおよび第二カソードは、異なって操作される。第一カソードは、高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)によるパルス電力で操作される。その電力は、好ましくは周波数100〜1000Hz、より好ましくは300〜500Hzのパルスで供給される。パルスの持続時間(幅)は、好ましくは200μs未満、より好ましくは100μs未満のごとく、好ましくは短く設定される。パルス供給の間、第一ターゲットでのピーク電流密度は、好ましくは0.12A/cm
2よりも高く、さらに好ましくは0.24A/cm
2よりも高く、最も好ましくは0.36A/cm
2よりも高い。
【0018】
第二電極に供給される電力は、例えば、DC電力として、HF電力として、又はHIPIMSの範囲と同等までのパルス電力等として、供給されてもよい。しかしながら、いかなる場合も、HIPIMSパルス供給中に第一電極に印加される第一ピーク電流密度は、第二電極に供給される第二ピーク電流密度よりも高い。パルス電力の場合において、第二ピーク電流密度は、パルス供給中に到達する最大値として測定される。(電力を連続で一定に供給する好ましい場合において、第二ピーク電流密度は、放電中の一定の電流密度に対応する。)
【0019】
したがって、本発明によれば、それぞれのターゲット材料によって、第一電極および第二電極に異なる方法で電力を提供することが提案される。本発明者等は、高電流密度のHIPIMSパルスをAlターゲットに供給することは有用であるが、Ti、Zr、Cr、Si又はHfターゲットは、好ましくはDC電源(電力)により、低(第二)ピーク電流密度で好ましく操作されるべきである、ということを見出した。
Al+を用いた衝撃(ボンバード)により、被覆特性を低下させる第二(ウルツ鉱AlN)相の沈積なしに、高含有量のAlで、コーティング(被膜)の堆積(形成)が可能になる。これらのコーティング(被膜)においては、以下に述べる高硬度、低ストレス(応力)、及び硬化特性のような有用な特性を示すことが見出された。
【0020】
本発明の実施形態によれば、Siは、第一又は第二金属組成(物)のどちらか、又は両方に、ある程度の量が含まれてもよい。堆積層中のSiが、硬度及び/又は耐酸化性を増加させることが見出された。
【0021】
第一金属がアルミニウムでかつ第二金属がチタンである実施形態において、第一ターゲットのスパッタリングの間に
Al+が生成され、第二ターゲットのスパッタリングの間に高イオン化チタンイオン、すなわち、Ti
n+(n>1は10%未満)が、好ましくは完全に回避されることが好ましい。本発明者等は、多層イオン化チタンイオンを殆んど又は全く含まない
Al+から生成されるコーティング(被膜)が高硬度を有することを見出した。
【0022】
第一電極に供給されるピークターゲット電流密度は、第二電極でのピークターゲット電流密度をかなり上回ることが好ましい。例えば、第一ピークターゲット電流密度は、第二ピークターゲット電流密度の2倍以上とされる。特に、第一ピークターゲット電流密度が0.12A/cm
2を超え、第二ピークターゲット電流密度が0.06A/cm
2未満であることが好ましい。
【0023】
当該技術で一般的に知られているように、アルゴン又はクリプトン等のプロセスガスは、好ましくは、スパッタリングに使うイオンを放出する。さらに、反応ガスが真空チャンバに供給されてもよい。特に、反応ガスが、窒素を含み、より好ましくは窒素からなる、ことが好ましい。また、酸素などの他の反応ガスを供給してもよく、これにより、スパッタされた金属粒子が、このガスと反応して、例えば堆積されるべき窒化物又は酸化物を形成する。
【0024】
本発明の異なる実施形態によれば、さらなる電極が真空チャンバに設けられてもよい。さらなるカソードには、第一カソードおよび第二カソードと同じ構成、すなわち、同型の電源、及び同じターゲット構成が設けられてもよい。この場合、追加のカソードは、バッチサイズを増加させるために役に立ち、すなわち一つの真空チャンバ内に大量のターゲット材料を供給することで、大きめの基材(基板)の表面がコーティング(被覆)される。特に、HIPIMSにしたがって操作される第一カソードの場合、実施形態において、従来の例えばDC操作マグネトロンに比べてHIPIMS操作マグネトロンの低いスパッタ率を補償するために、同じ構成の少なくとも一つのマグネトロンカソードをさらに設けてもよい。
【0025】
別の変形例として又はそれに追加して、さらなるカソードが、第一カソードおよび第二カソードの両方と異なる構成を備えて、真空チャンバに設けられてもよい。特に、少なくとも第三カソードには、主に、周期表のIV−VA族から好ましくはTi、Zr、Cr、SiおよびHfから選択される第三金属からなるが、第二金属とは異なる、第三金属組成(物)のスパッタリングターゲットが設けられてもよい。第二カソードと同じ方法で、第三カソードも、第一ピーク電流密度より低いピーク電流密度で操作される。特に、第三カソードは、第一カソードで生成されるピーク電流密度よりも低い(一定の)電流密度を有するDC又はHF電力(電源)で操作される。
【0026】
真空チャンバ内において、複数の異なる電極の構成が可能である。上述の通り、異なる電力構成を有する電極がさらに設けられてもよく、一方で、その代わりに、第一電極又は第二電極と同じ電力構成を有する電極を設けることも可能である。例えば、第二電極と同じ方法で電気的に構成される第三電極は、第二ターゲットからの元素、さらには周期表のIVA−VIA族からの元素を含む合金または化合物である第三金属組成(物)を有するターゲットを含んでもよい。
【0027】
さらに可能な電極構成が、本発明の好ましい実施形態に関連して述べられる。以下に記載の実施例から明らかなように、付加的なHIPIMSと従来のカソードの両方が、異なる構成で真空チャンバ内に設けられてもよい。特に、真空チャンバは、全部で2〜8つのマグネトロンカソード、好ましくは6つのマグネトロンカソードを含むことが好適である。
【0028】
本発明の特に好ましい実施形態においては、第一金属はアルミニウムで、第二金属組成(物)はチタンを含む。これは、反応ガスとして窒素を使用する反応性スパッタリングに特に好ましい。アルミニウムおよびチタン、特にTiAlNの他にさらなる金属を含まないコーティング(被膜)のために、本発明に係る方法および装置は、好ましい実施形態に関連して明らかになるように、特に有用な特性を提供する。さらに、有用な特性は、TiAlNおよび少量のCr添加物により実現されてもよい。
【0029】
別の実施形態においては、第一金属はアルミニウムであり、第二金属はチタンであり、さらに第三金属としてケイ素が使用されてもよく、ケイ素は、第三カソードのスパッタリングターゲットを形成する第三金属組成(物)内の主な金属として使用される。
【0030】
従来技術において一般的に知られているように、基材(基板)にバイアス電圧を、特に負電圧を印加して、プラズマから正電荷イオンを引き寄せるために基材をプラズマ電位に対し負電圧にすることが好ましい。このバイアスはDC電圧として供給されてもよい。好ましい実施形態によれば、バイアスは、ピーク値が1200Vまでのパルスバイアス負電圧として、代わりに印加されてもよい。この値およびここで述べられるバイアス電圧の全ての値は、基材とアノードの間の電圧の絶対値として与えられる一方、アノード例えば独立したアノード又はチャンバ壁に対して、基材が負(電圧の状態)であるように、極性が与えられる。バイアスパルス同士の間では、基材は、いかなる電源からも切り離されて(すなわち、例えば−10Vの浮遊電位の状態で)もよく、又は、代わりに、固定バイアス電圧値に設定されてもよく、その電圧値は、OV(接地状態)でもよく、又は、80V未満、好ましくは60V未満の低DC電圧に対応してもよい。
【0031】
本発明者等は、バイアス電圧V
Bの大きさの影響について検証した。Alスパッタリングターゲットを設けた第一(HIPIMS)電極およびTiターゲットを設けた第二(DC)電極の好ましい場合において、バイアス電圧V
Bは、例えば60〜200Vの絶対値を有する。形成層(layers)は、│V
B│≦160Vまで低残留応力を継続して示しており、この範囲のV
B値が好ましい。意外にも、堆積(形成)膜の硬度がV
Bの増加とともに増加しており、バイアス電圧V
Bの好ましい絶対値は、80〜160V(低残留応力を有する高硬度)、特に好まれるのは80〜140V(残留応力が低いままの最大硬度)である。
【0032】
バイアス電圧をバイアスパルスの形で好ましく印加する場合において、特に好ましくは、バイアスパルスが第一電極に印加されるパルスと同期させられてもよい。ここにおいて、「同期させられる」とは、同じ周波数および固定された位相関係をもって出現するパルスをいう。第一ターゲットに印加されるパルスおよびバイアスパルスは、同時に与えられるか、前後して発生してもよく、その結果、これらのパルスは、パルス間に時間オフセットにより移動する位相となる。
【0033】
本発明者等は、HIPIMSパルスを第一電極に印加する間に、プラズマ内の金属イオンがパルスを印加した後すぐに出現しないが、そのような金属イオンが遅れて発生し、各々のHIPIMSパルスの金属イオン充足期間(時間)(metal−ion rich period)が特定され、その間にプラズマは相当量の金属イオン、特にガスイオン(例えば、Ar
+)よりも多くの金属イオン(例えば、Al
+)を含む、ことを見出した。
【0034】
それ故に、バイアス電圧が金属イオン充足期間の少なくとも一部の間に存在するように、さらに好ましくは、バイアスパルスが金属イオン充足期間の間だけ十分に印加されて、金属イオンの充足期間の外側にバイアスパルス継続時間が全く存在しないか又はごく一部(例えば、10%未満)が存在するように、バイアスパルスを印加することが好ましい。DCバイアスが連続して印加されるとき、又は、例えば、第一電極でHIPIMSパルスと完全に同期して印加される、長めのパルスを有するパルスバイアスが印加されるとき、Ar等のプロセスガスの混入量の増加が、結果として生じる膜内で見出された。
【0035】
さらに、第一電極がAlターゲットを含みかつ第二電極がTiターゲットを含む好ましい場合において、金属イオンの充足期間外のDCバイアス又はパルスバイアスは、立方晶系のTiNおよびウルツ鉱AlNの混合物が含まれる二相膜を形成する傾向を増加させた。さらに、その膜は、プロセスガスの混入および反跳注入に起因する高めの残留圧縮応力、およびリスパッタリングによる低め(薄め)の膜厚を示す。
【0036】
対照的に、バイアス電圧V
Bが各々のパルスの金属イオン充足期間にのみ同期するパルスで印加されると、取り込まれたプロセスガスの量はかなり減少し、高密度の柱状微細構造の単一立方相膜が、リスパッタリングの程度が小さいために、圧縮応力が小さく堆積速度が高い状態で堆積される。
【0037】
その結果、第一電極でHIPIMSパルスの開始後、例えば、20〜60μs、好ましくは30〜50μs、特に好ましくは35〜45μsの初めの期間(時間)後に、遅れた状態でのみバイアスパルスを印加することが提案される。さらに好ましくは、バイアスパルスが、第一電極でのHIPIMSパルスよりも短いパルス継続時間で印加される。この比較を行うため、HIPIMSパルスのパルス継続時間は、電流がパルスの最大電流値の5%値を超える時間として規定されてもよい。この継続時間と比較すると、バイアスパルスは、10〜90%、好ましくは30〜70%、特に好ましくは40〜60%の短い継続時間で印加される。このように規定される範囲内で、バイアスパルスとHIPIMSパルスの間の同期化を選択することにより、単一立方相構造、高硬度、および非常に低いプロセスガスの混入等の好ましい特性を有する膜が堆積される。
【0038】
有利な点として、同期バイアスパルスは、特別に印加された、すなわち“カット”HIPIMSパルスと一緒に印加されてもよい。これらのパルスにおいて、パルス継続時間は短縮される。一つの実施形態において、カソード電力は、ピーク電流の近傍又は好ましくはその値でカット(遮断)される。これは、より良好なコーティング特性を実現し、自己スパッタリングおよび堆積速度を低下させる逆スパッタリングを回避する役割をなす。
【0039】
以下に説明されるように、上記の方法および装置により堆積するコーティング(被膜)は、合金硬化又は時効硬化の効果を示し、その硬度は、堆積後に適用される外的影響、例えば、加熱により増加する。したがって、被覆基材(被覆基板)(coated substrate)に処理を施して、硬化効果を引き起こすことが好ましい。特に、アニール処理(焼なまし処理)は、時効硬化効果を得るべく適用され、例えば、その処理では、被覆基材(被覆基板)が特定の時間間隔で所定の高温度に維持される。アニール処理は、被覆形成処理の間中又はその後に、コーティングユニット(被覆形成ユニット)中のその場所で(in situ)行われる。別な方法として、硬化処理が、被覆基材の外側面にのみ、例えばレーザー処理や電磁誘導等による局所加熱等で施される。堆積被覆膜(deposited coating)の合金硬化/時効硬化特性は、堆積後に特定の硬化処理は施されないが、被覆工具(coated tool)を、例えば切断(切削)のために操作する際に、その硬化効果がこの操作中に生じる熱により引き起こされる場合においても、有用である。
【0040】
さらに好ましい実施形態によれば、基材(基板)本体は、被膜形成(堆積、deposition)の間中に真空チャンバ内において移動するよう配置される。特に、基材(基板)本体は、回転支持体の上に配置される。スパッタリングターゲットの異なる組成(物)を備えたカソードが回転支持体の周りに配置される装置において、その支持体の回転速度は、堆積層の構造に影響を及ぼし得る。回転速度が遅いと、多層構造が認識される(可視化する)場合がある。堆積層の有用な特性は、回転速度が3rpm未満、好ましくは0.2〜3rpm、さらに好ましくは0.5〜2rpm、最も好ましくは1〜2rpmで実現されることが見い出された。
【0041】
本発明による被覆体は、基材(基板)および被覆層を含み、それは上記の方法および装置により有利に製造される。例えば、高速度鋼又は好ましくは超硬合金から形成された工具(ツール)等の基材上に設けられた被覆層は、単一の被覆層である。別な場合としては、被覆層は、例えば多層構成における複数の被覆層の一つでもよい。
【0042】
本発明による被覆層は、(Me
1−xAl
x)
1−ySi
yN
uG
1−uの組成を有する。Meは、周期表のIVA−VIA族から、好ましくはチタン、クロム、ジルコニウム又はハフニウムを含む族から選択される一つ以上の金属である。Gは、ホウ素、炭素および酸素から選択され、随意にのみ存在する。原子濃度は、Al含有量が0.4≦x≦0.8、好ましくは0.5≦x≦0.75、最も好ましくは0.55≦x≦0.7であり、Si含有量が0≦y≦0.2、好ましくは0≦y≦0.1となるようにする。窒素比率は、u>0.5となるよう選択し、最大で1とし、他の成分(B、C又はO)は存在しないものとする。
【0043】
本発明によれば、被覆層は、25GPaより大きい、好ましくは30GPaより大きい硬度(硬さ)を有する。
【0044】
本発明による被覆層は、好ましくは合金硬化効果を示す。合金硬化(alloy hardening)とは、転位移動を制限する溶質原子を有する被膜の特別な組成に関連している。その結果として、被膜は高硬度を有する。
【0045】
さらに、本発明による被覆層は、好ましくは時効硬化効果を示す。時効硬化(age hardening)は、互いに歪ませられる領域においての経時的な分解を描写する。この効果により、層の硬度は、堆積後の外的影響により増加する。付随する効果は、スピノーダル分解により実現する。好ましくは、被覆層は固溶体を形成する。特に、被覆層の成分の状態図が溶解度ギャップ(混和性ギャップ)を有し、被膜の組成が溶解度ギャップ内にあれば、スピノーダル分解、すなわち、同結晶(相)内の領域間での緩やかな組成勾配)が時間経過とともに、特に外的加熱の影響により、発生する。その結果生じるナノスケールの相分離により、層の巨視的硬度が増加する。
【0046】
被覆形成の後に付随する加熱の適用は、専用のアニール処理、又は上述の表面硬化処理で、その場所で行われる。しかしながら、特に、切断等で使用される被覆(された)工具の基材については、切断中に発生する熱が、所望の時効硬化効果を生じる場合があり、すなわち、切断(カッティング)、切削(ミーリング)又は被覆工具表面を直接使用する他の工具適用等の操作において生じる熱の影響により、被覆層の構造が変化して高硬度をもたらす。
【0047】
HIPIMSで電力供給されるAlターゲットおよびDCMSモードで操作されるTiターゲットで成長させられる準安定Ti
1−xAl
xN合金は、x=0.64の動的な固体溶解性限界を有し、低い残留引張応力(0.2〜0.7GPa)で、固溶体硬化により、30GPaまでの高硬度を示すが、これらすべてをDCMSのみ又はカソードアーク析出のいずれかで達成することは困難である。この問題は、HIPIMSパルス(Al
2+流束は無視できる)の間中に主にAl
+およびAr
+イオン照射により、動的制限を受ける成長および力学的な表面近傍の混合の組合せに帰するものである。HIPIMSパルス間の全金属堆積(析出)は<<1MLであるため、新しく堆積した材料はイオン衝撃に曝される。イオン混合は、HIPIMSの間中に金属イオンからの運動量転移の増大(enhanced momentum transfer)により促進される。基材に負のバイアス電圧を印加する際に、基材でのイオンエネルギーは、例えば60〜130eVであり、かなりの程度の残留イオン損傷が形成されるのを回避するには十分低い値となる。
【0048】
本発明の好ましい実施例によれば、基材、特に超硬合金の工具基材を対象に、被覆層は、低内部応力を有する。それは、0.25GPa以下の低い引張応力、しかし好ましくは1GPa以下の、さらに好ましくは0.5GPa未満の、あるいは0.25GPa未満の圧縮応力である。
【0049】
さらに好ましい実施形態によれば、被覆層は、0.3〜0.7、好ましくは0.4〜0.6、より好ましくは0.45〜0.55の範囲で、粉末回折データに標準化された、合成したX線回折(XRD)ピーク強度比I
111/(I
111+I
002)を有する。ここでは、被膜は、本発明の好ましい実施形態から明らかなように、テクスチャーが少ない(ざらつきが少ない、low textured)かまたはなく(untextured)、さらに高硬度を示す。
【0050】
本発明の一つの実施形態によれば、被覆層は、0.30未満の200及び/又は111のピーク強度比I(c−AlN)/I(c−TiAlN)を有する。
【0051】
好ましい実施形態において、被覆層は、従来の透過電子顕微鏡および透過電子回折及び/又はX線回折の検査により決定され得る、又、平衡状態の格子定数の解析から誘導され得る、一つの相材料である。
【0052】
アーク放電PVDにより製造される被覆層以外に、本発明による被覆層は、スパッタリングによって製造され、好ましくは混入された小滴(溶滴)を有さない。被覆層は、1〜8μm、好ましくは2〜5μm、最も好ましくは2〜4μm等の様々な厚さで、供給される。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ述べる。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図1は、導電性の真空チャンバ壁50の内部を真空にするための真空システム12、及びスパッタリングガス(好ましくはアルゴン)及び反応ガス(好ましくは窒素)のためのインレット14,16を備えた真空チャンバ10を含むPDVスパッタコーティング(被覆)装置1を模式的に平面で示したものである。真空チャンバ10内において、遊星回転する支持体20を備えた回転可能な基材テーブル18が配置されている。
図1において一つだけ示される基材ワークピース22が、支持体20の上に配置される。
【0055】
さらに、真空チャンバ10内には、回転テーブル18に隣接してマグネトロンカソード26,24が配置されている。各々のマグネトロンカソード24,26は、従来技術においてそれ自体が知られているように、非平衡マグネットシステムを含む。第一マグネトロンカソード24は、平らな矩形のスパッタリングターゲット28を含む。第二マグネトロンカソード26は、スパッタリングターゲット30を含む。
【0056】
真空チャンバ10内には、アノード32が配置されている。アノード32は、異なる電源に電気的に接続される。バイアス電圧V
Bを発するためのバイアス電源34は、アノード32と基材テーブル18の間に接続され、基材テーブルは、バイアス電源34が個々の基材ワークピース22にも電気的に接続されるように、導電性を有する。バイアス電圧V
Bは、負、すなわち、基材の電位を負の値にして正電荷イオンを引き寄せる。
【0057】
真空チャンバ壁電源36は、アノード32と真空チャンバ10の導電性の真空チャンバ壁50の間に接続されて、電圧Vcを発する。
【0058】
別個のアノード32を使用する代わりに、金属真空チャンバ壁50が、いくつかのアノードとして又は全てのカソードとして使用されてもよい。このように、代替の構成において、真空チャンバ壁電源36は存在しない。示される実施形態において、HIPIMS−カソード24(
図1)、62a、62b(
図8)および74a〜74d(
図9)は、カソードとして真空チャンバ壁50に対し作動し、非HIPIMS−カソードは、専用のアノード32に対して作動する。別な方法として、専用のアノードに対してHIPIMS−カソードを作動させ、及び/又は真空チャンバ壁50に対して非HIPIMS−カソードを作動させることも可能である。
【0059】
第一マグネトロン電圧V
M1を発する第一マグネトロン電源38は、第一マグネトロンカソード24と真空チャンバ壁50との間に接続されている。第二マグネトロン電圧V
M2を発する第二マグネトロン電源40は、アノード32と第二マグネトロンカソード26との間に接続されている。以下に説明するように、第一電源38は、HIPIMS電源であり、ショートパルスで電力を供給する。HIPIMSマグネトロンカソード24及びそれに対応するHIPIMS電源38は、そのまま参考資料に組み込まれる、WO2009/132822A2において説明されているように、構成され駆動される。第二電源40は、従来のDC電源である。電源38,40は、アノード32に対して、カソード24,26に負電圧を供給する。
【0060】
コーティング(被覆)装置の操作において、基材22が回転支持体20上に載置される。真空チャンバ10内において真空が発生させられる。スパッタリングガスとしてアルゴンがインレット14から供給される。電力が電源38,40によりマグネトロンカソード24,26に印加され、真空チャンバ10内においてプラズマが発生させられる。
【0061】
プラズマからのイオンが、スパッタリングターゲット28,30をスパッタする。負のバイアス電圧V
Bを印加することで、プラズマからのイオンが、層を堆積させるための基材22の表面上に駆りたてられる(付勢される)。堆積工程の間中において、窒素が反応ガスとしてインレット16から供給される。
【0062】
図1に示すコーティング(被覆)装置において、第一及び第二マグネトロンカソード24,26は、それぞれのターゲット28,30の組成及び対応する電源38,40により供給される電力の両方を異にする。第一マグネトロンカソード24には、純粋な形態のAlターゲット28が備えられている。電源38は、HIPIMSによるパルスに電圧V
M1、すなわち、ターゲット28で非常に高い電流密度の放電をもたらす非常に短いパルスを供給する。
【0063】
第二マグネトロンターゲット26には、純粋な形態のTiターゲット30が備えられている。電力は、DC電圧V
M1として第二マグネトロンカソード26に供給される。
【0064】
本発明の第1実施形態において、Ti
1−xAl
xN膜は、
図1の装置によって堆積される。そのような薄膜は、高温での高硬度および良好な耐酸化性を利点として、切断工具から航空宇宙産業の構成部品に至るまであらゆる種類の用途において摩耗保護のために使用されることが多い。立方TiNマトリックス内でAlの溶解度を高くさせ、ウルツ鉱AlNに構造的に分解させることなく準安定NaCl型の構造を形成する堆積方法は、高Al含有量が高温で被覆特性を改善するため、望まれている。
【0065】
従来の直流マグネトロンスパッタリング(DCMS)において、単一相膜は、基材温度500℃で、x≦0.4の条件で典型的に得られる。他方、Alモル含有量が少なくともx=0.66までの固溶体は、カソードアーク蒸着により生成可能であるが、小滴(溶滴、droplets)が生じる。立方相で溶解可能なAlの量は、他の要因の間で、入射材料流束のイオン化にも依存するように思われる。これは、表面領域で起こるイオン衝撃誘導混合が、その系(system)を分解に駆り立てる化学的な力を効果的に超越し得るためである。
【0066】
この点において、高出力パルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)は、DCMSよりもかなり高いスパッタ材料流束のイオン化が顕著であり、第1実施形態に適用され、この実施形態では、カソード24,26がハイブリッドHIPIMS−DCMS構成内で設けられる。元素アルミニウムターゲットが備えられた第一カソード24は、HIPIMSモードで作動、すなわち、高ピーク電流密度の放電を生じるパルスで作動し、一方、元素チタンターゲットを備えた第二カソード26は、DCMS操作にセットされ、すなわち、DC電源により電力が供給される。比較例においては、ターゲットを入れ替えて、Tiターゲットを有する電極がHIPIMSモードで操作され、さらにAlターゲットを有する電極がDCMSモードで操作される。このように、強烈な高エネルギー金属イオン流束の膜特性への影響は、Ti−およびAl−イオンで別々に検証される。
【0067】
第1実施形態によれば、Ti
1−xAl
xN膜の堆積は、
図1に示す被覆システムで行われる。第一試験では、ケイ素基材(基板)が被覆特性を検証するために使われる。しかしながら、好ましい実施例では、工具基材22が被覆され、すなわち、超硬合金の切刃インサートが基材22として設置される。
【0068】
実施例および比較例の両方において、被膜内のAl含有量は、HIPIMS電力を一定に維持しつつ、DCMS操作のカソード上で平均電力を変えることで制御される。Al−HIPIMS/Ti−DCMS構成を有する実施例では、第一電極24でのHIPIMS平均電力は、2.5kW(5J/パルス、500Hz、反応モードのアーク放電により制限され、10%デューティサイクル)に固定され、第二電極26でのDCMS電力は、Al含有量が0.4≦x≦0.76となるよう、1.4kWと4kWの間で調整される。比較例では、TiおよびAlターゲットは、電極24,26の間で取り替えられる。その結果生じるTi−HIPIMS/Al−DCMS設定では、高平均HIPIMS電力5kW(10J/パルス、500Hz、10%デューティサイクル)が、所望の組成範囲で膜を成長させるために必要であるが、これはTiスパッタ速度がAl速度の約半分であるためである。第二電極26でのDCMS電力は、Alターゲットを備えた比較例において、0.75kW(x=0.41)から3kW(x=0.83)まで変化させられる。
【0069】
実施例および比較例両方において、負のDCバイアス電圧V
Bとして60Vが使用される。N
2対Arの流速比は0.2に固定され、その結果生じるプロセス圧力は0.4Paとなる。さらに、2×10kW(2時間以上の加熱フェーズ)および2×8kW(コーティングフェーズ、通常は90分以上)の輻射加熱(不図示)が使用される。
【0070】
被覆工程の間中、Al−HIPIMS/Ti−DCMS構成を有する実施形態によれば、ピーク電流密度、すなわち、ターゲット28の前面で分割される第一電極24に供給される電流は、0.39A/cm
2であり、それ故に、同じ大きさの第二ターゲット30での(一定の)電流密度≦0.022A/cm
2よりもかなり高い。同じ大きさのターゲットを有する比較例において、HIPIMSで駆動されるチタンターゲットでの電流密度は、ピーク時で1.14A/cm
2である。
【0071】
堆積中における基材22の温度は、〜500℃であることが見い出される。
【0072】
図7は、基材(基板)22上に設けた被覆層52を模式的に示したものである。ターゲット電力比、すなわち、DCMSモードで第二マグネトロン26に供給される(一定の)電力により分割されるHIPIMSモードで操作される第一カソード24に供給される(時間平均)ターゲット電力に応じて、被覆組成に変化が見られた。
【0073】
図2は、試験に供される両方のターゲット配列のDC電力を関数とする膜内のAlN含有量を示す。図より、HIPIMSの適用によって、スパッタ収量の差異から予想される傾向との間に大きな偏差を生じる。TiターゲットがHIPIMSモード(白丸表示)で駆動されると、予想されるAl含有量より高い被膜が得られる。類似性の観点より、HIPIMSがAlターゲット(黒四角表示)に適用されると、膜内のAl含有量は減少する。
【0074】
図3において、ナノ押込硬度は、実施例および比較例の両方において、膜内のAl含有量を関数とするすべてのTi
1−xAl
xN被膜を対象にプロットされる。特筆すべきは、HIPIMSのTi又はAlターゲットへの適用が、機械的特性に劇的な結果をもたらすことである。x=0.4の開始点において、非常に類似の硬度24GPaが両方の構成で得られるが、Al濃度が増加するにつれてデータの発散が見られる。Al−HIPIMS/Ti−DCMS構成を有する実施例において、硬度は、Al含有量の増加とともに増加し、0.55≦x≦0.6で最大値30GPaに到達するが、x>0.65で極端に減少する。
【0075】
それと対照的に、Ti−HIPIMS/Al−DCMS構成を有する比較例においては、x=0.53ですでに硬度が18.5Gpaまで減少し、高Al濃度を有する膜でも硬度は低い値のままである。両方法とも、x=0.67になって、再び同じ硬度を示している。
【0076】
この結果、組成範囲0.55≦x≦0.6において、強烈なAlイオン衝撃下で実施例により作成される膜は、HIPIMS電源からTiイオンのエネルギー流束に周期的に曝される比較例によって作成される膜よりも〜65%(最大で65%)硬い。
【0077】
膜のXDR解析(結晶面がサンプル表面に平行でなくても、六方晶系の粒子の電位の存在を検知するために、傾斜角を0℃と75℃の間で変化させる一連のΘ−2Θスキャン)では、比較例の膜(Ti−HIPIMS/Al−DCMS構成)において、0.41≦x≦0.53の範囲で、立方Ti
1−xAl
xN相のみが示されることが認められる。六方晶系のAlN充足(リッチ)相は、Ti0.4Al0.6NサンプルにおいてXRDにより最初に検知される。六方晶系および立方相の含有量間の相対比率は、Al濃度の増加とともに増加し、最終的にx=0.74で、立方相はXRDで検知不能になる。他方、代わりにHIPIMSがAlターゲットで使用されれば(Al−HIPIMS/Ti−DCMS)、溶解度上限は、このシリーズからTi0.41Al0.59N膜が立方相のみを示す事実から例示されるように、明らかに高い。このターゲット構成における六方晶系相はx=0.65で最初に検知され、合金分解の開始が0.59≦x≦0.65の範囲に、すなわち、混合エントロピー(すなわち分解の化学的な原動力)が最大値に達する領域にあることが示される。(このシリーズで)x=0.77の最大Al含有量を有するサンプルにおいて、立方相は、Tiターゲット上のHIPIMSで作成されるサンプルとは対照的に、(六方晶系相と共存する)XRDにより、いまだに明確に検知され得る。
【0078】
Al含有量を関数とする好ましい配向の変化(進展)は、
図4に示すように、明らかにターゲット構成に依存する。実施例(Al−HIPIMS/Ti−DCMS)から得られる膜は、テクスチャーがない(x=0.59)方向に徐々に変化する低Al含有量(0.40≦x≦0.56)で(111)テクスチャーを示し、最終的に高Al濃度で(200)−テクスチャーに成る。逆の傾向が、比較例(Ti−HIPIMS/Al−DCMS構成)によって作成されるサンプルで観察される。最小Al含有量を有する膜は、最大の(200)配向を示し、テクスチャーがない方向へ徐々に変化する。六方晶系相からの信号と重なるため、このシリーズでの膜で、x>0.6において、膜のテクスチャーを信頼性を持って決定することはできなかった。
【0079】
図5a〜5dは、最も代表的なサンプルの分析的なTEM特性を示す。
【0080】
図5a〜bは、TI0.6Al0.4NおよびTi0.41Al0.59Nの組成を備えた実施例(Al−HIPIMS/Ti−DCMS構成)により堆積される膜のTEM画像の概要を示す。
【0081】
図5c〜dは、比較例(Ti−HIPIMS/Al−DCMS構成)、すなわち、TI0.59Al0.41NおよびTi0.47Al0.53Nを備えた二つの膜で提供されるTEMサンプルを示す。
【0082】
すべてのサンプルは、カラム(円柱)径が約20〜40nmの稠密な柱状構造を有する。Al含有量がx=0.59であるAl−HIPIMS/Ti−DCMSサンプルは、他よりも少し微細な粒子を有する。インサート(inserts)内に対応する制限視野電子回折(SAED)パターンでは、x=0.4での実施例によるサンプルが強烈な<111>テクスチャーを有する一方、上記のXRD結果にしたがい、類似のAl含有量(x=0.41)を有する比較例の膜が<200>−テクスチャーをもたらす、ことが明らかにされる。高Al含有量(
図5bおよび5d)を有する膜は両方とも、ほぼテクスチャーが見られない。いくつかのサンプルにおいて、少数の相が矢印で示されるように認められた。
【0083】
実施例にしたがって作成したサンプルにおいて、
図6はアニール試験の結果を示す。高Al含有量(x=0.59)を有するサンプルは、時効硬化を経て、900℃で最大硬度33GPaに達する。それに対し、低Al含有量(不図示)を有するサンプルでは、硬度は温度上昇とともに悪化する。900℃でアニール処理されたサンプルを用いて行われた傾斜角依存のXRD(不図示)により、Ti0.60Al0.40Nサンプルの場合で、六方晶系相の存在が示された。後者はまた、900℃でのアニール処理の後、Ti0.41Al0.59Nサンプルの場合に検知された。しかしながら、この場合は、かなりの非対称性の回折ピークにより、特に傾斜角が大きい箇所で、主に表面領域内で立方AlN相の形成が示された。
【0084】
図11は、アニール処理がXRDピークにどのように影響するかを示し、それ故にスピノーダル分解を例示する。Θ−2ΘXRD測定は、900℃でアニール処理されたTi
0.41Al
0.59NAl−HIPIMS/Ti−DCMS膜で傾斜角Ψを関数として実施されており、立方相からの111および002の回折ピークが、特に大きな傾斜角においてかなり非対称であることが示され、立方AlN相が主に表面近傍領域で存在することが示唆される。
一つの実施例が、
図11において、膜形成直後のサンプルの対応データとともに示される。立方AlN相から付加的な寄与(addtional contribution)により生じる非対称性の他に、アニール処理後のサンプルからの回折ピークが回折角度を低下させるよう移行し、TiN相の回折角度に近づくことは注目に値し、スピノーダル分解反応経路c−(Ti,Al)N→c−TiN+c−AlNが確認される。
【0085】
要約すると、実施例では、DCMSまたはカソードアーク等の他のスパッタリング技術に比べて、HIPIMS処理はターゲットの組成/構成に基づき予測可能な膜の化学量論に結びつかない、ことが示される。この特異的な挙動は、HIPIMSにおける電力が正規化(規格化)された堆積速度が一般的にDCMSの場合より低く、堆積速度の損失が元素に特有である、という事実により生じる。
【0086】
ここで述べられた結果は、強力なAl又はTiイオン流束の膜特性に与える影響間の劇的な非対称性を示し、それらはAl濃度の増加とともに生じる膜硬度の進展により最適に例示される(
図3参考)。
【0087】
結論として、DCMS又はHIPIMSモードのいずれかで駆動されるターゲットから発せられるイオン流束の明らかに異なる組成により、結果として生じる膜の特性に与える
Al+およびTi+のイオン流束の影響は、かなり異なる。実施例(Al−HIPIMS/Ti−DCMSターゲット構成)による
Al+を用いた衝撃により、高硬度(>30GPa)および低残留応力を示す高Al含有(0.55≦x≦0.6)膜を堆積することが可能になる。
【0088】
比較例によれば、
Ti+金属イオン流束、特にTi
2+イオン流束(Ti−HIPIMS/Al−DCMS構成)を用いて作成される対応するAl含有量を有する被膜は、18〜19GPaの範囲の硬度を示す。同様な組成を有する膜でのこのように異なる機械的特性は、TiNマトリックス内のAl溶解度が使用されるターゲット構成に強く依存するという事実に起因する。得られた結果により、最大40at%のAlが、成長過程でAl−HIPIMSマグネトロンからAl−イオンのサポートを受ける場合の64at%Alと比較して、Ti−HIPIMSマグネトロンから発せられるTiイオン流束を用いる立方相内に適応し得ることが示唆される。
【0089】
アノード32および層52が堆積される基材22の間に印加されるバイアス電圧V
Bは、DC電圧またはパルスで印加される。特筆すべきは、層52の構造及び特性が、バイアス電圧V
Bの大きさおよび第一マグネトロンカソード24に印加されるHIPIMSパルスでパルスバイアス電圧V
Bの同期をとることの両方を特異的に選択することで、かなり影響される。再び特筆すべきは、入れ替えられたターゲット構成を有する比較例とは対照的に、第一カソード24に設けられるアルミニウムターゲット28の好ましい実施例と第二のDC駆動カソード26に設けられるTiターゲット30との間で、際立った違いが見出される。
【0090】
図12は、電圧パルスV
M1を第一カソード24に印加することにより、可能なパルス形状の一例であるHIPIMSパルスがt=0μsで開始された後に現れる、個々のタイプのイオンのエネルギー合成イオン総数を決定する、原位置(その場)時間分解イオン質量分光法の結果をグラフに示したものである。
図12から明らかなように、HIPIMSパルスの3つの区別されるフェーズ(相)42,44および46が画定される。最初の
期間42では、パルスの開始後約0〜40μsで示される例において、プラズマ中のイオンは、金属イオンから比較的低い寄与(low contribution)を有するAr
+イオンが支配的となる。
金属イオンの
充足期間44に該当する次に続く
期間では、約40〜100μsで現れる
図12の例において、プラズマは金属イオンが支配的となる。金属イオンの
充足期間44において、ガスイオンの強度は希薄化のため減少する。続いて、後の金属相46では、100μsから始まる本実施例において、プラズマは、熱運動化(熱平衡化)された金属イオンが存在すると共に、熱運動化(熱平衡化)されたArイオンが支配的となる。
【0091】
このように、各々のHIPIMSパルス内で時間経過とともに異なる
期間内では、異なるタイプのイオンが存在する。DC電圧として連続的に印加されるバイアス電圧V
B、又は、HIPIMSパルスと完全に同期された、すなわちt=0μsでのその開始から現れるパルスバイアス電圧V
Bにより、すべての3つのフェーズ(相)42,44,46から発するイオンは、基材22に作用する。しかしながら、上記の
期間のうち選択された一つ(の
期間)のみと同期するパルスバイアス電圧V
Bを与えることにより、プラズマから発するイオンのグループを選択して、成長する層52に作用させることが可能である。
【0092】
特に、
図12に示される、金属イオンが支配的な、金属イオンの
充足期間44とバイアスパルスを十分に同期させることにより、これらのイオンを特異的に選択して、それによって、本事例のArにおいて、そのプロセスガスのイオンにより生じる影響を最小限にすることが可能である。
【0093】
図13は、第一カソード24に供給される単一のHIPIMSパルスの例に対する、電圧V
M1の曲線、第一カソード24での電流I
M1、及び同期パルスバイアス電圧V
Bを示す。
【0094】
当業者に認識されるように、電圧V
M1及びV
B、及び電流I
M1の大きさは、
図13に示されていない。HIPIMSパルスのため、電圧V
M1は、約2000Vのピーク値まで上昇し、電流I
M1は、約3000Aのピーク値(100%)に到達する。電圧V
M1およびV
Bは、同じスケールで示されていない。
【0095】
パルス電圧V
M1は、t=0〜200μsから印加される。その結果生じる電流I
M1もまたパルス挙動を示す。電流のパルス持続時間(幅)Tは、電流I
M1が最大電流値の5%を上回る期間(時間)と定義され、約200μsである。
【0096】
示された実施例において、バイアス電圧V
B は、持続時間(幅)T
Bの電圧パルスとして印加され、本実施例ではT
B=70μsであり、T
BはTの約30%である。バイアスパルスは、遅延時間T
Dの後に印加され、本実施例では40μs、すなわち、パルス持続時間Tの約20%に対応する。
【0097】
図14は、バイアスパルスが各々のHIPIMSパルスとどのように同期されるかを示す。示された実施例では、約200μsの持続時間(幅)を有するHIPIMSパルスが、周波数400Hzで、すなわち、約2500μsのインターバル(間隔)で、すなわち4%のデューティサイクル(負荷サイクル)で出現する。各々のHIPIMSパルスのインターバルにおいて、バイアスパルスは同じ持続時間であり、パルスの開始後に同じ遅延時間T
Dで出現する。
【0098】
このように規定されるバイアスパルスは、金属イオンの
充足期間44に対応する。同期は完全である必要はなく、他の
期間と例えば10%程度の少ない重なりがあっても良好な結果が得られる、ということが、当業者により認識される。
【0099】
DCバイアス、HIPIMSパルス(0〜200μs)に完全に同期するバイアスパルスを有するパルスバイアス、及び金属イオンの
充足期間44(HIPIMSパルス開始後の40〜100μs)に限定される
図13に示される好ましいバイアスパルスの比較において、好ましい短いバイアスパルスを用いて堆積された膜52は、その膜内に取り込まれた非常に低濃度のArを有し、検出限界以下であり、一方、DCバイアスおよび完全に同期するパルスバイアスは、その膜内に混入されたアルゴンの量が多いことを示す。好ましい短いパルスは、堆積した単一相のNaCl構造を有する層を生成し、稠密な柱状微細構造を示す。
対照的に、連続するDC又は完全に同期するバイアスは、二相構造の傾向を示し、Ar混入及び反跳注入に起因して、比較的高濃度の取り込まれたAr及び高残留圧縮応力を有する、立方TiN及びウルツ鉱AlNの混合物を含む、膜へと導く。さらに、リスパッタリングは、金属イオンの
充足期間に同期するバイアスパルスの場合に低くなり、堆積速度は増加する。
【0100】
言及されるべきことは、
図13に示されるようなHIPIMSパルスのパルス形状は、そのようなパルスの一例に過ぎない、ということである。HIPIMSカソードのためのHIPIMS電源において、パルスは、カソードに荷電したコンデンサを接続することにより好ましく得られ、コンデンサはカソードとアノードの間のギャップを渡って放電する。コンデンサが十分に放電されると、
図13に描写されたようなパルス形状が発生する。
【0101】
しかしながら、そのパルス形状は、変更されてもよい。特に、HIPIMSパルスの持続時間を減少させるのが好まれる。
図12に示されるように、金属イオンの
充足期間は、パルス開始後に約100μsまで続く。したがって、例えば100μsのような特定時間の後に、パルスをカット(遮断)する(すなわち、コンデンサの接続を断つ)ことが有利である。これにより、後の
期間46で作動ガスのイオンが高濃度になるのを回避しつつ、有利な金属イオンの充足
期間44を得ることが可能になる。さらに“カット(遮断)”(すなわち、強制終了)パルスは、HIPIMSカソードで自己スパッタリングが少ない利点を有する。
【0102】
特に好ましいのは、同期バイアスパルスと、カットすなわち短縮化されたHIPIMSパルスの組み合わせである。HIPIMSパルスは、金属イオン(
図12のAl−イオンを参照)の増加の原因である雪崩効果が一度生じると、HIPIMSカソードの前にイオン雲を生成する結果を得る。HIPIMSパルス(例えば、10〜50μs)の開始後に遅延をもって開始し、又、金属イオンの
充足期間44に同期して印加されるがその後に供給される同期バイアスパルスは、HIPIMSカソードの前に形成されるイオン雲を基材上に加速する結果を得る。
【0103】
図15に示すように、バイアスパルスの大きさは、Å(オングストローム)を単位とする格子定数a
0に影響を与える。(パルス)バイアス電圧V
B<120Vに対して、格子定数a
0はアルミニウム含有量x=0.62において予想されるより小さく、一方、V
B>120Vで作成される膜は予想されるより高いa
0を示す。第一(HIPIMS)電極に設けられたチタンターゲットを有する比較例では、低バイアス電圧ですでに、際立った変動を有する異なる挙動を示す。
【0104】
図16は、GPaを単位とする残留応力σを示す。図示されるように、層は、V
S≦160Vで低残留応力を示す。V
S>200Vにおいて、圧縮応力は、−1GPaよりも大きい。対照的に、比較例では、膜は、低バイアス電圧でも高圧縮応力を示す。
【0105】
図17は、バイアス電圧V
Bの大きさがGPaを単位とする押込硬さに与える顕著な影響を示す。HIPIMS電極24に設けられたアルミニウムターゲットを有する好ましい実施例において、膜の硬さは、V
Bの増加とともに増加し、120V≦V
B≦160Vの区間において、約30GPaに到達する。HIPIMS電極24に設けられたチタンターゲットを有する比較例においては、硬さは、かなり低く、20GPaを超えない。
【0106】
結果として、好ましいバイアス電圧V
Bは、金属イオンの充足相44と同期する持続時間で、−80−140Vの大きさのパルス、すなわち、実施例ではt=40μsからt=100μsまでの範囲で供給される。
【0107】
図18は、Ti−Al−N層で被覆された基材上で行う摩耗試験の評価を示す。
【0108】
異なるバイアスで得られる被膜において、被膜表面上で摩耗部材の通過(パス)数に対する最大摩耗幅VB
maxが示される。実線表示の曲線Aは、Ti−HIPIMS/Al−DCMS電極構成で得られる比較例に対応するものであり、特に28通過(パス)後はかなりの程度の摩耗を示している。
【0109】
点線表示の曲線Bは、HIPIMSパルスの完全な0〜200μsの継続時間で同期する、−60Vパルスバイアスを有するAl−HIPIMS/Ti−DC電極構成で得られる被膜に対応するものである。このサンプルは、曲線C(DCバイアスを用いるAl−HIPIMS/Ti−DC、一点鎖線表示)と同様に、比較例よりも改善した摩耗挙動を示している。
【0110】
最小摩耗幅が、曲線Dで得られ、各々のHIPIMSパルスの開始後に40〜100μsの金属イオン
充足期間にのみ同期する、−120Vパルスバイアスを有するAl−HIPIMS/Ti−DC電極構成で得られる被膜に対応するものである。
【0111】
二つより多くの電極をもたない
図1に係るコーティング(被覆)装置の第1実施形態は、基材22上に被膜52を形成するために使用されるが、工業的規模において、基材22を被覆(コーティング)するための装置に、二つ以上のカソードを設けることが好ましい。
【0112】
第2実施形態として、
図8は、
図1のコーティング(被覆)装置に対応するが、異なる電極構成を有するコーティング(被覆)装置60を示す。同様に、
図9は、第3実施形態を示す。電極構成、すなわち、カソードに設けられるターゲットはもちろん電源のタイプおよび配置を除き、
図8及び9のコーティング(被覆)装置は、
図1に示される第1実施形態と同じである。特に、バイアス電源は、明瞭性のみを理由に、
図8及び
図9では省略されている。
【0113】
図8に係る第2実施形態において、4つの従来のDC駆動マグネトロンカソード66a,66b,66c,66dが、チャンバ10内に設けられ、それぞれが、アノード32に接続されたDC電源68a,68b,68c,68dを備えている。二つのHIPIMSカソード62a,62bが設けられ、それぞれが、真空チャンバ壁50に接続されたHIPIMS電源64a,64bを備えている。
【0114】
以下に、
図8,
図9の実施形態におけるターゲット構成の実施例および対応する操作について述べる。そのような構成の実施例が以下の表に列挙され、6つのカソードそれぞれに対して、ターゲット材料および操作タイプ(DC又はH=HIPIMS)が示される。
【0115】
実施例1 実施例2 実施例3
構成
図8 図8 図8
62a:AlSi−H 62a:Al−H 62a:Al−H
62b:Cr−H 62b:Cr−H 62b:Al−H
66a:TiAl−DC 66a:TiAl−DC 66a:Ti−DC
66b:TiAl−DC 66b:TiAl−DC 66b:Al−DC
66c:TiAl−DC 66c:TiSi−DC 66c:Ti−DC
66d:TiAl−DC 66d:TiSi−DC 66d:TiAl−DC
【0116】
実施例4 実施例5 実施例6
構成
図9 図8 図8
76a:TiAl−DC 62a:Al−H 62a:Al−H
76b:TiAl−DC 62b:Cr−H 62b:Cr−H
72a:Cr−H 66a:TiAl−DC 66a:TiAl−DC
72b:AlSi−H 66b:TiAl−DC 66b:TiAl−DC
72c:Al−H 66c:TiAl−DC 66c:Ti−DC
72d:AlSi−H 66d:TiAl−DC 66d:TiAl−DC
【0117】
実施例7 実施例8 実施例9
構成
図8 図8 図8
62a:Al−H 62a:Al−H 62a:Al−H
62b:Cr−H 62b:Al−H 62b:Cr−H
66a:Ti−DC 66a:Ti−DC 66a:Si−DC
66b:TiAl−DC 66b:TiAl−DC 66b:TiAl−DC
66c:Ti−DC 66c:Ti−DC 66c:TiAl−DC
66d:TiAl−DC 66d:TiAl−DC 66d:Si−DC
【0118】
実施例10 実施例11 実施例12
構成
図9 図8 図8
76a:Ti−DC 62a:Al−H 62a:AlSi−H
76b:Ti−DC 62b:Si−H 62b:W−H
72a:Al−H 66a:Ti−DC 66a:TiSi−DC
72b:AlSi−H 66b:TiAl−DC 66b:TiAl−DC
72c:AlSi−H 66c:TiAl−DC 66c:TiSi−DC
72d:Al−H 66d:TiAl−DC 66d:TiAl−DC
【0119】
表に示される実施例1によれば、4つの従来のマグネトロンカソード66a〜66dには、それぞれ、Ti−Alターゲット、すなわち、プラグ形状のAlインサートを有するアルミニウムターゲットが装備されている。第一HIPIMSマグネトロンカソード62aには、80%Alおよび20%Siの合成ターゲットが装備されている。第二HIPIMSカソード62bには、Crターゲットが設けられている。
【0120】
操作において、基材22の第一エッチングは、HIPIMSモードで操作される第二HIPIMSマグネトロンカソード62bを使用するだけで行われる。以下の被覆(コーティング)工程において、6つのカソードすべてが同時に操作される。
【0121】
スパッタリングの間中、Arはプロセスガスとして、窒素は反応ガスとして、供給される。その結果生じる被覆層52は、z<0.1を有する(Ti
1−xAl
x)
1−y−zSi
yCr
zN層である。以下全ての例に関しても、個々の組成パラメータx,yは、ターゲット内の元素の相対量およびカソードに供給される相対電力に依存する。
【0122】
表に示される実施例2において、
図8に係るカソード構成60では、第一HIPIMSマグネトロンカソード62aには、純粋な形態のAlターゲットが装備され、第二HIPIMSマグネトロンカソード62bには、Crターゲットが装備されている。4つの従来のカソードのうち、第一及び第二マグネトロンカソード66a,66bには、TiAlプラグターゲットが装備され、残りのマグネトロンカソード66c,66dには、TiSi合成ターゲットが装備されている。操作は、Crターゲットを有する第二HIPIMS電極62bを使用して第一スパッタエッチング、続いて、窒素を反応ガスとして供給しつつ6つの電極全てを同時操作で使用する被覆により達成される。その結果生じる被覆層52は、(Ti
1−xAl
x)
1−y−zSi
yCr
zN被膜である。
【0123】
図8に係る構成60のために表に示された実施例3において、第一及び第三の従来の電極66a,66bには、Tiターゲットが装備され、一方、残りの従来のマグネトロンカソード66b,66dには、一方にAlターゲットが、他方にTi−Alターゲットが与えられている。HIPIMSマグネトロンカソード62a,62bの両方には、元素Alターゲットが与えられている。窒素が反応ガスとして供給される。その結果生じる被覆層52は、(Ti
1−xAl
x)Nの組成を有する。
【0124】
表に示された実施例4において、
図9に係る構成70が使用される。従来マグネトロンカソード76a,76bには、両方にTi−Alプラグターゲットが装備されている。HIPIMSカソード72a〜72dのうち、第二及び第四カソード72b,72dには、Al−Siターゲットが装備され、一方、第一マグネトロンカソード72aはCrターゲットを携え、第三マグネトロンカソード72cはAlターゲットを携えている。窒素を反応ガスとして付加する操作により生じる被覆層52は、(Ti
1−xAl
x)
1−y−zSi
yCr
zN層である。
【0125】
これらの構成に共通することは、各々の場合において、第一電極が、HIPIMSモードで操作され、好ましくは純粋な形態のAlターゲット又はAl−Siターゲットとして、主にAlを含む。対照的に、主にTiを含むターゲットを有するカソードは、HIPIMSでは操作されない。このようにして、Al−イオンの有利な特性は、所望の特性を有する被覆層を得るのに役に立ち、一方で
Ti2+が回避される。
【0126】
別な構成において、C,B,及び/又はOのようなさらなる非金属元素が、反応ガス(例えば、酸素)又はターゲット材料の構成要素のいずれかの形で添加される。
【0127】
上記の本発明の実施例のイラスト及び記述は、例証又は例示であることを考慮されるべきであり、本発明は開示された実施例に限定されるものではない。確定した方策が相互に異なる実施形態において具陳されている単なる事実があるからといって、これらの方策を組合せたものが有利に使用できないことを示すものではない。例えば、HIPIMSパルスの金属イオン
充足期間と同期するパルスバイアス電圧の詳細が、HIPIMSにより駆動される純粋な形態のAlターゲット及びDCモードで駆動される純粋な形態のTiターゲットを有する実施例1において記載されるが、バイアス電圧の好ましい大きさ及びイオン−金属の充足部分に対するバイアスパルスの同期の両方が、異なる電極構成等の他の実施例にも好ましいものとなる。