(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6093376
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】周波数をダウン変換したデータ信号の、DCオフセットの補正を維持するシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
H04B 1/26 20060101AFI20170227BHJP
【FI】
H04B1/26 B
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-553289(P2014-553289)
(86)(22)【出願日】2012年11月5日
(65)【公表番号】特表2015-504290(P2015-504290A)
(43)【公表日】2015年2月5日
(86)【国際出願番号】US2012063491
(87)【国際公開番号】WO2013112220
(87)【国際公開日】20130801
【審査請求日】2015年9月1日
(31)【優先権主張番号】13/357,370
(32)【優先日】2012年1月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507308186
【氏名又は名称】ライトポイント・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】LitePoint Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100096725
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 明▲ひこ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100171697
【弁理士】
【氏名又は名称】原口 尚子
(72)【発明者】
【氏名】オルガード、クリスチャン、ヴォルフ
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ルイズ
(72)【発明者】
【氏名】エルドガン、エルデム、セルカン
【審査官】
佐藤 敬介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−256079(JP,A)
【文献】
特表2011−524696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
データパケット信号受信機によって受信されるデータパケット信号における前記データパケット信号受信機により生ずるDCオフセットを補正するための方法であって、
信号周波数、信号ゲイン、及び動作温度の1つ以上を含む、複数の動作環境パラメータを有するパケットデータ信号を、データパケット信号受信機で受信する工程と、
前記複数の動作環境パラメータに対応する補償データが利用可能である場合に、
前記受信したパケットデータ信号を前記補償データで補償する補償工程と、
前記受信したパケットデータ信号の、隣接するデータパケットの間のギャップの間のDC信号電圧を測定して、測定したDC電圧信号を与える測定工程と、ここで、前記パケットデータ信号は増幅されず、
前記複数の動作環境パラメータと対応する前記補償データが利用可能でない場合に、
前記データパケット信号受信機を較正して前記補償データを与える較正工程と、
前記受信したパケットデータ信号を前記補償データで補償する補償工程と、
前記受信したパケットデータ信号の、隣接するデータパケットの間のギャップの間のDC信号電圧を測定して、測定したDC電圧信号を与える測定工程と、ここで、前記パケットデータ信号は増幅されない、
を含む、方法。
【請求項2】
前記測定されたDC電圧信号は第1の値を有し、
前記方法は、前記補償、測定、及び較正工程を反復する工程を含み、
前記補償、測定及び較正工程を反復する工程の、前記測定されたDC電圧信号は、第2の値を含み、
前記第2の値が前記第1の値よりも小さい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定されたDC電圧信号は第1の値を有し、
前記方法は、少なくとも前記補償及び測定工程を反復する工程を含み、
少なくとも前記補償及び測定工程を反復する工程の、前記測定されたDC電圧信号は、第2の値を有し、
前記第2の値が前記第1の値よりも小さい、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記受信したパケットデータ信号の、隣接するデータパケットの間のギャップの間のDC信号電圧を測定し、測定されたDC電圧信号を与える測定工程は、
複数のデータパケット、及び前記複数のデータパケットのギャップの各1つの、少なくとも対応する部分を含む、前記パケットデータ信号の一部を捕捉して、捕捉されたパケットデータ信号部分、及び捕捉されたパケットデータ信号ギャップを与える捕捉工程と、
前記捕捉されたパケットデータ信号ギャップのDC電圧を検出して、前記測定されたDC電圧信号を与える捕捉工程とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記受信したパケットデータ信号の、隣接するデータパケットの間のギャップの間のDC信号電圧を測定し、測定されたDC電圧信号を与える測定工程は、
隣接するデータパケットの間の少なくとも前記ギャップを含む、前記パケットデータ信号の一部を捕捉し、捕捉されたパケットデータ信号ギャップを与える捕捉工程と、
前記捕捉されたパケットデータ信号ギャップのDC電圧を検出して、前記測定されたDC電圧信号を与える検出工程とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記データパケット信号受信機を較正し、前記補償データを与える較正工程は、前記複数の動作環境パラメータの1つ以上の変化を検出する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記データパケット信号受信機を較正し、前記補償データを与える較正工程は、前記複数の動作環境パラメータの1つ以上と対応する前記補償データを更新する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記データパケット信号受信機を較正して、前記補償データを与える較正工程は、前記補償データをメモリ内に保存する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記データパケット信号受信機を較正して、更新した補償データを与え、さらに
前記受信したパケットデータ信号を前記更新した補償データで補償することにより、
較正及び補償する工程と、
新しい補償データを計算し、さらに
前記受信したパケットデータ信号を前記新しい補償データで補償することにより、
補償する工程と、
の一方を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記更新した補償データ、及び前記新しい補償データの少なくとも一方をメモリに保存する工程を更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
複数のデータパケット、及び前記複数のデータパケットのギャップの各1つの少なくとも対応する部分を含む、前記パケットデータ信号の一部を捕捉して、捕捉されたパケットデータ信号部分、及び捕捉されたパケットデータ信号ギャップを与える工程と、
前記捕捉されたパケットデータ信号ギャップのDC電圧を検出して、前記測定されたDC電圧信号を与える工程とを更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
隣接するデータパケットの間の少なくとも前記ギャップを含む、前記パケットデータ信号の一部を捕捉し、捕捉されたパケットデータ信号ギャップをもたらす工程と、
前記捕捉されたパケットデータ信号ギャップのDC電圧を検出して、前記測定されたDC電圧信号をもたらす工程とを含む、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線装置を試験するためのシステム及び方法、特に、信号が、適切に試験するために補正を必要とするDCオフセットを呈する、このようなシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
数多くの現行装置が、データ送受信のために無線信号を利用している。特に携帯式装置は、無線接続を利用して、電話、デジタルデータ伝送、及び地理的位置情報測定を含む機能を提供している。異なる多様な無線接続機能(例えば、WiFi、WiMAX、及びBluetooth(登録商標))が利用されているが、一般にこれらはそれぞれ、業界認定標準(例えば、それぞれについてIEEE 802.11、IEEE 802.16、及びIEEE 802.15)によって定義されている。これらの無線接続機能を用いて通信を行うためには、関連する標準で規定されているパラメータ及び制限に各装置が準拠していなければならない。
【0003】
無線通信仕様間には違いが存在するけれども(例えば、信号の送受信に使用される周波数スペクトル、変調方法、及びスペクトルパワー密度)、無線接続標準のほぼ全てにおいて、データ送受信のための同期データパケットの使用が特定されている。更に、これらの無線通信標準に準拠している多くの装置は、通信のためにトランシーバを採用して、すなわち、無線周波(RF)信号の送受信を行っている。
【0004】
連続する装置開発に沿ったどの時点においても、様々な通信機能に付随する標準にその装置の動作が準拠していることを試験し確認する必要が生じ得る。そのような装置を試験するために設計された専用システムは、典型的に、試験中に無線通信装置と通信するよう動作するサブシステムを含む。このサブシステムは、装置が、適切な標準に準拠して信号の送受信両方を行っていることを試験するよう設計されている。このサブシステムは、装置から送信された信号を受信して解析し、かつ業界認定標準に該当する装置に信号を送信する必要がある。
【0005】
この試験環境は、概ね、被試験デバイス(DUT)、テスタ、及びコンピュータからなる。テスタは一般に、特定の無線通信標準を使用してDUTとの通信を担う。コンピュータとテスタとは協働して、DUTから送信された信号を捕捉し、DUTの送信機能を試験するための基礎となる標準によって定められている仕様に照らして解析を行う。
【0006】
当該技術分野において周知であるように、デバイスを試験するために必要とされる時間は、試験の遂行に関連するコストと直線関係を有する。したがって、テストによって要求される時間量を減らすこと、それによって各テストシステムのスループットを増加させ、及び全体の製造コストを下げることは有利である。いくつかの要因が、デバイスを試験するために必要とされる合計時間に関与する。これらの要因としては、デバイスの操作、試験のセットアップ、テスタからデバイスへの制御信号の送信、デバイスによって送られる信号の捕捉、及びそれらの捕捉信号の解析に費やされる時間が挙げられる。
【0007】
試験精度は、信号周波数の決定及び様々な信号成分の生成を司る試験システムが高い精度で実行されることを必要とするが、これは、DUT動作性能が判定される際の基準をもたらすためである。DCオフセットを生じるミキサ又は準備段階におけるいずれかの不完全性が、このようなDCオフセットを低減又は相殺することによって確実に補正されるように、このようなコンポーネント及びそのサブシステムの較正を十分な頻度で行うことが当該技術分野において一般的である。DCオフセットは通常、周波数に依存するため、いくつかの場合において、試験周波数が変更するたびに、再較正を行うようにプログラミングされている。しかし、多くの場合において、このような再較正は保証されておらず、これはDCオフセットが、特定の基準の限界内の試験精度を維持するために十分に低いためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
全体的な試験時間を低減することによって得られる利点にもかかわらず、試験の精度及び信頼性を低下させることはできない。少なくとも、そうすることによって、デバイスを評価する再テストの必要性の割合が増加し、よって試験に必要な合計時間が増加する。それゆえ、必要な工程を削除することなく、又は試験の完全性を損なうことなく、試験を実施するために必要な時間を減少させる方法が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明により、無線信号システムの試験時間を低減するのをたすけるための、回路及び方法が提供される。本発明の実施形態は、データ信号において生じるDCオフセットの動的な適応性補正をもたらす。パケットデータ信号がないとき(例えば、パケットの間)及びデバイスの電力増幅器がオンにされていないか、又はオフにされたときに、下流処理のためにデータ信号がサンプリングされ、これによって器具により生じるDCオフセットのみが測定されることを確実にする。パケットギャップの間、前、又は後にサンプリングされる信号が、そのDC成分を測定される。器具により生じるDCレベルが、所定のレベルを超えると、DCオフセット補正が信号に適用される。請求される本発明の実施形態において、DCオフセット補償値が保存されて、同様のゲイン、周波数、及び/又は温度を使用して送信される後続の信号を補償するために取り出される。請求される本発明の実施形態において、器具により生じるDCレベルが第2の所定のレベルを超えるときに、較正される。あるいは、適応性動的DCオフセット補償の使用によって較正の必要性が低減又は排除される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、無線データパケット信号送受信機のための従来の試験環境の機能的ブロック図である。
【
図2】
図2は、無線データパケット信号送受信機のための従来のテスタの機能的ブロック図である。
【
図3】
図3は、下流処理及び分析のための、データパケット信号の周波数ダウン変換及びサンプリングの従来技術の機能的ブロック図である。
【
図4】
図4は、下流処理及び分析のための、データパケット信号の周波数ダウン変換及びサンプリングの別の従来技術の機能的ブロック図である。
【
図5】
図5は、
図4の回路におけるDCオフセットを例示する信号図のセットである。
【
図6】
図6は、
図4の回路のためのDCオフセットを例示する信号図のセットである。
【
図7】
図7は、送受信前のギャップの、データパケット送受信の間の信号(左)、及び器具のDCオフセットの拡大(右)を示す。
【
図8】
図8は、器具により生じるDC漏れによる、周波数ダウン変換データ信号において生じるDCオフセットの補正を維持するための本発明の一実施形態による回路の機能的ブロック図である。
【
図9】
図9は、DCオフセットの補償、又は較正が必要であることの判定に含まれる工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の「発明を実施するための形態」は、特許請求される本発明の、添付図面を参照とする、例示的実施形態のものである。そのような説明は、例示的なものであって、本発明の範囲に関して限定するものではない。そのような実施形態は、主題となる発明を当業者が実践することを可能にするために、十分詳細に説明されるものであり、主題となる発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく、何らかの変型を使用して、他の実施形態を実践することができる点が理解されるであろう。
【0012】
本発明の開示を通じて、内容から反対であるという明確な指示がなければ、説明するような個々の回路要素は、数において単数の場合もあれば複数の場合もあることが理解されるであろう。例えば、「回路」及び「回路機構」という用語は、説明される機能を提供するための、単一の構成要素、あるいは、能動的及び/又は受動的のいずれかであって、一体的に接続されるか若しくは他の方法で結合される(例えば、1つ以上の集積回路チップとして)複数個の構成要素のいずれかを含み得る。更には、「信号」という用語は、1つ以上の電流、1つ以上の電圧、又はデータ信号を指す場合がある。図面内では、同様又は関連する要素は、同様又は関連する英字、数字、若しくは英数字の指示子を有する。更には、本発明は、個別の電子回路機構(好ましくは、1つ以上の集積回路チップの形態)を使用する実装に関連して論じられているが、そのような回路機構のいかなる部分の機能も、処理される信号周波数又はデータ転送速度に応じて、適切にプログラムされた1つ以上のプロセッサを使用して、代替的に実装することができる。
【0013】
請求される本発明の代表的な実施形態により、器具により生じるDCオフセットの適応性及び動的補償が実現される。例えば、プレテストパケット信号の僅かな部分の迅速なサンプリングが得られ、その後、補償が必要であるかどうかを判定するために、サンプルの迅速な分析が行われる。DCオフセット補償はその後、信号に適用され得る。結果として、典型的な較正と同じだけの時間消費を必要とせずに、DCオフセットを補正することができる。同様に、試験中、又は試験後のパケット信号の一部が使用され得る。更なる利点として、時間集約的な器具の較正の必要が低減(又は排除)される。例えば、請求される本発明の実施形態において、較正は、測定されるDCオフセットが設定された閾値を超える場合にのみ行われる。結果として、全体的な試験時間が低減し、試験精度を損なうことなく、試験工程をより効率的なものとする。
【0014】
更なる実施形態において、必要な較正の数は、保存された補償値を使用して、器具により発生するDCオフセットを補償することによって更に低減される。補償値は最初に、パケット間、パケット前、又はパケット後ギャップから得られる、サンプルを使用して上記のように、計算される。これらの値は、信号(例えば、ゲイン、周波数、及び温度)を送信するために使用される設定によって、保存される。同様の設定を使用して送信される、後続のサンプリングされたパケットは次に、器具により生じるDCオフセットを排除又は低減するために、これらの保存された補償値によって調節される。加えて、これらの後続の信号におけるDCオフセットは、保存された値が正確なままであることを確実にするために測定されてもよい。必要により、保存された値は更新されてもよく、更なる補償が適用されてもよい。あるいは試験器具は、DCオフセットが設定された閾値を超えると、較正され得る。
【0015】
図1に示されているように、無線規格に照らし合わせて試験する従来の試験システム100は、被試験デバイス(DUT)101、テスタ102、並びに試験プログラムを実行して、DUT101及びテスタ102の動作を調整するコンピュータ(PC)コントローラ103を含む。それらは、任意の形態の通信リンク(例えば、イーサネット(登録商標)、ユニバーサルシリアルバス(USB)、シリアルペリフェラルインターフェース(SPI)、無線インターフェースなど)であり得る双方向通信経路(インターフェイス)104、105、106によってリンクされる。これらのインターフェース104、105、106は、1つ以上のデータチャネルから構成することができる。例えば、インターフェース104は、多重入出力(MIMO)タイプのリンク(例えば、IEEE 802.11n無線規格などで)、又は単入力単出力(SISO)タイプのリンク(例えば、IEEE 802.11a無線規格などで)とすることが可能である。他の可能な通信リンクは、当業者には明らかであろう。そのようなシステムでは、テスタ102は、双方向インターフェース104を介して、DUT101に試験信号を送る。DUT101もまた、同じ双方向インターフェース104を使用して、テスタ102に信号を送信する。制御コンピュータ103は、試験プログラムを実行し、インターフェース105及びインターフェース106を介して、DUT101及びテスタ102の動作を調整する。
【0016】
当業者には容易に理解されるように、DUT101とテスタとの間の信号インターフェース104は、over−the−air(無線)接続、又はアンテナに接続するための回路インターフェースを使用する有線接続(例えば、ケーブル)とすることができる。多くの場合、試験目的のために、そのような有線接続を使用して、信号の一貫性を確保する。
【0017】
典型的な試験においてDUT101は、その通信経路104を介して、テスタ102に信号を送信する。テスタ102は、その信号を受信し、その特性を測定し、特定の無線規格(例えば、IEEEの802.11g)に特有の仕様のセットに照らして、その測定された特性を解析する。DUT101は、コントローラ103の制御のもとで、該当する規格によって規定される多くの又は全ての異なる特性を有する様々な信号を送信し続ける。テスタ102は、適用可能な無線規格によって規定される試験仕様と適合する、測定及び分析を行う。したがって、試験システム100は、DUT101によって送信される信号に関する、必要な規定の試験を実行する。これらの試験は、DUT送信機が該当する規格に従って動作していることを確認する。DUT受信機を試験するため、テスタ102は、コントローラ103によって実行される試験プログラムに従って、経路104を介して信号を送信する。コントローラ103は、DUT101が該当する基準によって規定されている、信号周波数、電力、変調、及び他の信号特性に関して、テスタ102に命令する。DUT受信機はこれらの信号を受信し、その反応は、これが規格の仕様に従って適切に動作していたかどうかを判定する。
【0018】
図2に示されているように、テスタ102は典型的には、DUT101に送信される(例えば、信号ルーター又はスイッチ116を介して)、送信された試験信号113をもたらすための、ベクトル信号発生装置VSG 112と、これに加えて、分析のためにDUT信号115を捕捉する(例えば、信号ルーター又はスイッチ116を介して)ベクトル信号分析装置VSA 114とを含む。送信された信号113の特性と、DUT101から受信される信号115を正確に捕捉及び分析するテスタ102の能力の両方が、VSG 112及びVSA 114の動作及び継続的な較正の精度によってそれぞれ判定される。周知のように、VSG 112及びVSA 114は、直交変調特性(例えば、同一位相I及び直交位相Q信号成分)を有する無線周波数(RF)信号の送信及び受信をそれぞれ支援する回路を含む。
【0019】
図3に示されているように、従来的な技術は、入力データ信号115の周波数を、局所発振器(LO)信号121で、これらの信号115、121をミキサ122内で混合することによって、ダウン変換する。周波数をダウン変換した信号123は、その後、既知の技術に従って、アナログ−デジタル変換器(ADC)124により、対応するデジタル信号125へと変換されることによってサンプリングされる。しかしながら、当該技術分野において既知のように、より速いデータ速度は、より大きな信号帯域幅を生じる。したがって、このような信号の測定は、データ信号を受信及び捕捉するための、より広い帯域幅を有する試験機器を必要とする。帯域幅が更に増加すると、単一ADC 124を使用して、より広い帯域幅に対応するのがより困難になる。
【0020】
図4に示されているように、サンプリング回路の帯域幅については、サンプリングの前に直交位相周波数ダウン変換を使用して、効率的に倍増することができる。入力データ信号115は、直交位相周波数ダウン変換回路122a(その様々な設計が当該技術分野において既知である)における、直交位相LO信号121i、121qを使用して周波数がダウン変換されている。生じる同一位相123i及び直交位相123q周波数ダウン変換信号は、フィルタリングされ(図示されない)、その後前のように、各ADC回路124i、124qを使用して前と同じようにサンプリングされ、下流処理及び分析(図示されない)のために、直交位相のサンプリングされた信号125i、125qを生じる。
【0021】
しかしながら、このような周波数ダウン変換技術は、特に直交位相周波数ダウン変換により、LO信号漏れを生じる。既知のように、このようなLO信号121i、121q漏れは、周波数ダウン変換信号123i、123qにおいて、ゼロでないDC電圧オフセットとして生じ、更に混合積信号として、ダウン変換された信号123i、123qの公称周波数の2倍の周波数の混合積信号を生じる。混合積信号は通常、試験機器の帯域幅外となり、したがって一般的には重要性が(あったとしても)少ない。
【0022】
しかしながら、DCオフセット電圧には補正が必要であり、これは当該技術分野において既知の様々な技術を使用して行われ得る。従来的に、測定装置内における、DCオフセットを排除する方法は、中間的な周波数(IF)においてダウン変換した信号をサンプリングすることである。これは、ダウン変換ミキサにより生成される、生じたDCオフセットが、関心の信号の周波数外となり、よって容易にフィルタリングできる、という望ましい特性を有する。しかしながら、IQ(直交位相サンプリングされた)ダウン変換と比較すると、IFサンプリングされたシステムは、所与の信号帯域幅(BW)を維持するためにより高いサンプリング率を必要とする。更に、IFサンプリングされたシステムにおいて必要とされるフィルタリングは、より複雑であり、BW利益をもたらさない。しかしながら、IQサンプリングの欠点の1つとして、ダウン変換から生じたDC信号は、今度は信号の一部として存在する。結果として、器具により生成されたDC信号は、受信された信号に加わり、器具DC成分が受信された信号のDC成分より遥かに小さい場合を除き、真の信号表現に影響を及ぼす。
【0023】
DC漏れを自動的に低減させるためのフィードバック方式は、IQダウン変換ミキサによって生成されるDC漏れに対処するために、集積回路内において一般的に使用された。例えば、フィードバック方式は、受信機のベースバンド部分に典型的に組み込まれるゲインによってDC成分が確実に増幅されないように、IQダウン変換ミキサの出力において注入される補償DC電圧のレベルを制御するために、使用され得る。しかしながら、このようなフィードバック方式は典型的に、DC漏れを完全に補償するために、実質的な時間を必要とする。
【0024】
測定システムにおいて、動的な範囲、及び信号雑音比(SNR)を最大化することが望ましい場合が多い。したがって、分析される信号は一般的に、ベースバンド信号の信号範囲全てを利用する。これは通常、IQダウン変換ミキサの出力のフルスケールに近い。したがって、生じるDC漏れは、典型的にはIQダウン変換ミキサの出力を超えて更に増幅されないため、測定システムはDC漏れに対して感応性がより低い。しかしながら、測定装置は受信した信号を正確に測定及び分析しなければならないため、器具のDC漏れが、測定される信号よりも遥かに低いことが重要である(一般的に、少なくとも10dB低い)。結果として、器具は、所望の試験性能を確保するために、生成されたDC漏れを補償しなければならない。
【0025】
集積ソリューション(例えば、集積回路)において、受信機が典型的にはフィードバック時定数に対して長い時間信号を受信するため、フィードバック方式が使用され得る。しかしながら、測定器具、特に製造試験シナリオにおいて使用されるものにおいて、動作条件が変更される前に、1つ又はわずかなパケットのみが受信される。このような場合、器具は、器具により生じるDC漏れを補償する従来的なフィードバック方式のための時間を有さない。
【0026】
したがって、所望の試験測定精度を得るために、分析のために信号を捕捉する前に真のDC漏れの較正が行われる場合が多い。しかしながら、各測定の前に完全な器具較正を行うのは、較正にかかる時間のために好ましくない。試験精度を損なわずに、時間が余分にかかるのを避けるため、所望の性能を確保するが、不必要に時間を消費しない適応性の較正方法が本明細書において提供される。加えて、器具により生じるDCオフセットを補償する方法が提供され、これにより必要な較正の頻度を低減するか、又は試験器具較正の必要性を完全に排除する。
【0027】
図5に示されているように、典型的な所望の試験条件において、公称LO信号漏れは、直交位相データ信号I,Qが、およそゼロのDCオフセット電圧を有するようなものである。
【0028】
図6に示されているように、悪化した試験条件において、信号により多くのDCオフセットが生じる。DCオフセットは、ダウン変換、及び続くベースバンド回路の非最適な動作によって生じる場合がある。信号からオフセットを減じることによって、信号をゼロ周辺に合わせることができることは、当業者には既知である。アナログ−デジタル変換器において予測される信号レベルと比較したDCレベルの両方を知ることにより、DC漏れの直接的な指標が与えられることもまた、既知である。これらのレベルに基づき、特定の測定のために、較正が必要であるか、又は現在のDCレベルが許容可能であるかを判定することができる。
【0029】
典型的なDCオフセット補正技術は、LO信号が変換された信号123i、123qに最小の影響力を有するように、十分に小さくなるように、周波数ダウン変換操作に影響するか、又はこれを制御する。加えて、許容可能なLO信号漏れを維持するように、このような方法でこの補正を行うために、定期的な較正が重要となる。しかしながら、LO信号漏れは典型的には信号周波数、受信機における信号レベル(ゲイン)、及び動作温度に依存する。したがって、このようなDC電圧オフセット較正システムは、周波数又はゲインを変更するたびに、この較正を行わなければならない。加えて、周波数又はゲインを変更しなくても、例えば、機器の動作温度の変動によるLO信号漏れの変化を考慮して、規則的な所定の時間間隔で較正を行わなければならない。このような所定の時間間隔は、性能試験機器が最悪の場合でも十分に低いLO信号漏れレベルを維持するように、選択されなければならない。
【0030】
したがって、較正時間間隔は最悪の場合の試験機器性能によって規定されるため、典型的な試験機器の実施は必要以上に頻繁にこのような較正を行い、よって不必要に全体的な試験時間を増加させ、試験効率を低減させる。
図7に示されているように、試験パケットの前のギャップを含む、試験信号の一部が示される。分析のために受信される信号は、その独自のレベルのDCオフセットを有し得るため、パケットの送信中に器具により生じるDCオフセットを判定することはできない。その代わり、測定器具は、入力信号が存在しない場合にDCオフセットを判定しなければならない。したがって、器具は、器具により生じるDC漏れが受信された信号より有利である時間を判定することができなければならない。加えて、器具により分析されるシステムは、電力増幅器(PA)が入力信号なしに有効化されるために、実際のパケットが送信される前後においてIQダウン変換ミキサシステムにおいてDCオフセットを呈することが多い。これは、例えば、送信されるパケット全体にわたってPAが正確に機能していることを確実にするために行われる。
【0031】
最適なDCオフセット補償を確実にするため、請求される本発明の実施形態は、入力信号が存在せず、PAが非アクティブである期間中の、器具により生じるDCオフセットを合理的に測定する。例えば、本発明の実施形態は、パケットの間のギャップの間、PAが有効化される前後において、器具により生じたDCオフセットの測定をもたらす。一実施形態において、入力信号は、PAが無効化されていなければ、DCオフセットの正確な測定を可能にするために、パケットの間のギャップの間で抑圧され得る。
【0032】
パケットの開始は、正方向トリガによって容易に特定することができ、したがって、器具DCオフセットを測定するために、送信前の時点を決定するように所望のプリトリガ時間が使用され得る。例えば、プリトリガ時間は、パケットが送信されておらず、PAが有効化されていないことを確実にするために選択され得る。あるいは、器具は、PAの効果を打ち消すために入力の減衰を増加させることができる。あるいは、測定点は負方向のトリガ事象(パケットの終了を示す)を検出し、遅延を加えてPAを止める、及び/又は器具の減衰を増加させることによって決定され得る。
【0033】
したがって、パケットの間のギャップの間に捕捉される信号は、I及びQ経路の両方の個別のDCオフセットを判定するために使用され得る。これらのオフセットは、ほぼ最適な性能を確保すべく、後に捕捉されるパケットのための補正係数を決定するために使用され得る。当業者は、安定的かつ予測可能なDCオフセット補償を確実にするために、導出されたDCオフセット補償パラメータの平均を出し、フィルタリングしてもよいことを、理解するであろう。
【0034】
DCオフセットは一般的に器具の周波数及びゲインに依存し、いくつかの場合においてはシステム温度に依存し得るため、各周波数/ゲイン/温度のセットに割り当てられた個別のDCオフセット補償を保存するため、本実施形態の一実施形態において、リスト/ルックアップ表(LUT)(例えば、値、又は値の範囲)が使用される。この手法は特に、試験時間が非常に重要であり、試験される全ての装置が同じ試験シーケンスに供される、製造において特に有益である。このような場合において、周波数/ゲイン/温度に基づいて予め規定され、制限された数の補償値が、器具によって使用される。
【0035】
図8を参照し、DC補償回路の概念的実施が示される。ダウン変換IQミキサ(222a)は、直交位相LO信号(121i及び121q)を使用して、RF信号115をダウン変換する。フィルタリングされたベースバンド信号(123i及び123q)は、ダウン変換段階222a、又は各DCオフセット補正回路222bi、222bq(以下でより詳細に記載される)においてDCオフセットを補正される。生じるオフセットを補正されたベースバンド信号(223i及び223q)は、アナログ−デジタル変換器(224i及び224q)を使用して、デジタルドメインへと変換される。ダウン変換された信号(225i及び225q)のデジタル表現は、更なる処理下流へと伝達される。
【0036】
制御ユニット302(例えば、ホストシステムのメインプロセッサ、若しくはコントローラ、又は専用マイクロコントローラ)は、RF信号115の周波数を適切にダウン変換するために、局所発振器回路306によって与えられるLO信号121i、121qの周波数を制御するための必要な制御信号303fと、ダウン変換段階222aのゲインを制御するための制御信号303gとを与える。DC分析ブロック202との通信のため、DC分析ブロック202との通信インターフェース303tもまた提供されて、ダウン変換段階222aのゲインと対応するゲインデータ304gと、LO信号121i、121qの周波数(及びしたがってRF信号115の周波数)に対応する周波数データ304fと、温度データ304t(例えば、ホストシステム内の温度感知回路(図示されない)を使用して得られる)を与える。
【0037】
この処理は、
図5及び
図6について記載されるパケットの間のギャップ内に存在するDC漏れを測定することによって、器具のDC漏れが判定され得る限りにおいて、信号から実際に器具により生成されるDCオフセットを排除できる。デジタル表示は、更に、DC分析ブロック202へと更に伝達される。このブロックは、同じ周波数、温度(範囲)及びゲイン設定で次に捕捉するために使用するために、前回のゲイン設定からの補償値が保存される(例えば、LUTにおいて)メモリ204を含む。ブロック202は、Iチャネル225i及びQチャネル225qにおいて器具のDC漏れを決定することによって、器具のDC漏れを判定する。ブロック202は、2つのチャネルにおける器具のDCオフセットが、捕捉中にどこで測定され得るかを決定し、DC値を処理して保存される補償値が更新される必要があるか、又はこれらが許容可能であるかどうかを判定する。任意であるが、ブロック202は、例えば、設定された閾値を超えるDCオフセットが測定されたために、較正が必要であるかどうかを判定することができる。インターフェース205を通じて接続されたDC測定ブロック202に取り付けられたメモリブロック204は、温度、ダウン変換ミキサ222のダウン変換ゲイン、及びLO信号121i、121qの周波数に基づいて、別個の補正値を可能にする。多数の補正係数を保存することができ、必要とみなされれば含まれる全ての点において、平均を算出することを可能にする。任意に、保存された値の分析が行われて、経時的な器具の性能を評価し、例えば、較正が必要なとき、又は器具の他のメンテナンスが必要とされるときを判断することができる。
【0038】
当業者によって認識されるように、本発明の実施形態を実施するために、他の概念的な構成も使用され得る。例えば、コントローラは、
図8に示される要素のいくつか又は全てに接続され得る。同様に、メモリ204は、DCオフセット補正回路222又はコントローラに直接連結され得る。DCオフセット補正は、試験信号がADC224によってサンプリングされた後に同様に行われ得る。
【0039】
図9を参照し、本発明の代表的な実施形態の可能な操作を示すフローチャートが示されている。捕捉が予定されると、試験の操作環境の所与のパラメータ(例えば、現在のパケットデータ信号周波数、信号ゲイン、及びシステム動作温度)に対する補償値が存在するかどうかを決定するために工程900において点検が行われる。好適な補償パラメータが既に存在する場合、これらはメモリ204から取り出される(902)好適な値がメモリ204に存在していない場合、捕捉を行う前又は後に補償値を計算する決定901が行われる。値が前もって計算されない場合、方法は続いて試験信号の少なくとも一部を捕捉する(907)。あるいは、較正が行われ(903)、新しい補償値が計算されて(904)、メモリ204内に保存される(905)。補償値が存在する場合(工程904において計算されるか、又は工程902において取り出される)、好適な補償が、例えば、既知の技術によって実施されるDCオフセット補正回路222bi、222bqに、インターフェース203i、203qを介して適用される(906)、又は、ダウン変換段階222a内でインターフェース(図示されない)を介してダウン変換ミキサ122(
図3)のDCオフセット補正入力に適用される。その後、試験信号が捕捉される(907)。捕捉は、DCオフセット分析ブロック202が、上記のように器具のDCオフセットを判定し得るギャップを含む(すなわち、パケットの間のギャップにおいて、又は1つ異常のパケットが送信された前若しくは後)。任意に、得られるDCオフセットの正確な測定を可能にするために、入力値が抑制され得る(例えば、PAがアクティブである場合)。DC補償ブロック202はその後、器具のDCオフセット908を判定する。有意なDCオフセットが見出された場合(909)、新しい補償値が計算される(910)。これは多くの方法で行うことができる。1つの方法は、例えば、現在測定されたDC値を使用して、ダウン変換ミキサのDC補償制御入力の外挿した特性に基づいて、好適なDCオフセットを得るために必要な補正係数を決定することである。当然、より進んだ方法は、前の測定値の履歴を使用して補正値を決定し、I及びQチャネルのそれぞれにおいて測定されたDC漏れの適応性及びより正確な補償を可能にし得る。これらの値はその後、同じ(又は同様の)ゲイン、周波数、及び/又は温度パラメータを使用して、以降の捕捉を補償するために、メモリ204内に保存される(911)。DCオフセットの値を任意により使用して現在捕捉される試験信号912を補償し、その後所望の信号の分析が行われる(914)。フロー909の同じ点において、観察された器具DCオフセットに基づいて、例えば、1つ以上のDC値が規定の閾値を超えた場合など、DC較正が必要であるかどうかを判定することができる。この場合、較正が行われて(913)、生じる補償値が決定され(910)、メモリ204に保存され(911)、これにより器具が同じ(又は同様の)周波数、ゲイン、及び温度範囲のパラメータで次回動作するときに、新しい値が選択される。捕捉された信号に対して任意に分析を行う(914)ことによって方法は終了する。あるいは、捕捉された信号は、後の分析のために保存することができる。
【0040】
DC分析ブロック202は、例えば、ダウン変換したデータ信号をDC補償データと組み合わせるための、合算回路又は高速フーリエ交換を行う回路などを含む、既知の技術に従って実施され得ることが容易に理解される。
【0041】
他の操作が可能であることが当業者には明らかである。例えば、より高度な操作が含まれてもよく、所定の時間において、器具がゲイン/周波数/温度セットを使用していない場合、捕捉が行われる場合に較正が強制的に行われる。同様に、前の補償からの結果が使用されて、新しい補償値を決定する場合、ダウン変換ミキサのDC補償制御入力性能が特徴付けられる際に、ほぼ理想的な動作を確保するために、適応性補正アルゴリズムが実行され得る。当然、当業者に既知であるように、他のアルゴリズムが利用されてもよい。しかしながら、これらのアルゴリズム全てに共通の特徴は、捕捉の一部として器具の固有のDCオフセットを判定し、その後この情報を現在及び以降の補償値のために使用する能力である。
【0042】
本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、本発明の構造及び動作方法の様々な他の修正及び変更を行えることが当業者に明らかであろう。本発明は、特定の好ましい実施形態に関連して説明したが、特許請求の範囲に示す本発明は、このような特定的な実施形態に不当に限定されるべきではないことを理解すべきである。以下の「特許請求の範囲」が本発明の範囲を規定し、かつこれらの請求項及びその均等物の範囲内の構造及び方法がそれによって包含されることを意図している。