(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6093428
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】がん性貧血改善・予防剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/197 20060101AFI20170227BHJP
A61K 31/28 20060101ALI20170227BHJP
A61K 31/295 20060101ALI20170227BHJP
A61K 33/06 20060101ALI20170227BHJP
A61K 33/24 20060101ALI20170227BHJP
A61K 33/26 20060101ALI20170227BHJP
A61K 33/30 20060101ALI20170227BHJP
A61K 33/34 20060101ALI20170227BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20170227BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
A61K31/197
A61K31/28
A61K31/295
A61K33/06
A61K33/24
A61K33/26
A61K33/30
A61K33/34
A61P7/06
A61P43/00 121
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-234461(P2015-234461)
(22)【出願日】2015年12月1日
(62)【分割の表示】特願2013-538532(P2013-538532)の分割
【原出願日】2012年10月5日
(65)【公開番号】特開2016-33160(P2016-33160A)
(43)【公開日】2016年3月10日
【審査請求日】2015年12月24日
(31)【優先権主張番号】特願2011-225383(P2011-225383)
(32)【優先日】2011年10月12日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-81346(P2012-81346)
(32)【優先日】2012年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508123858
【氏名又は名称】SBIファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【弁理士】
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【弁理士】
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】中島 元夫
(72)【発明者】
【氏名】安部 史紀
(72)【発明者】
【氏名】河田 聡史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 究
【審査官】
伊藤 清子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−016753(JP,A)
【文献】
特開2003−040770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/197
A61K 31/28
A61K 31/295
A61K 33/06
A61K 33/24
A61K 33/26
A61K 33/30
A61K 33/34
A61P 7/06
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】
(式中、R1は、水素原子又はアシル基を表し、R2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
で示される化合物又はその塩、および一種又は二種以上の金属含有化合物を含有するがん性貧血の改善及び/又は予防剤であって、
前記がん性貧血は、赤血球、およびさらに白血球、リンパ球、好中球、および血小板から選択される1つ以上の血液細胞の減少によって特徴付けられ、
前記がんは白血病ではない、
がん性貧血の改善及び/又は予防剤。
【請求項2】
R1及びR2が、水素原子であることを特徴とする請求項1記載のがん性貧血の改善及び/又は予防剤。
【請求項3】
金属含有化合物が、鉄、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、バナジウム、銅、クロム、モリブデン又はコバルトを含有する化合物であることを特徴とする請求項1記載のがん性貧血の改善及び/又は予防剤。
【請求項4】
金属含有化合物が、鉄、マグネシウム又は亜鉛を含有する化合物であることを特徴とする請求項3記載のがん性貧血の改善及び/又は予防剤。
【請求項5】
金属含有化合物が、鉄を含有する化合物であることを特徴とする請求項3記載のがん性貧血の改善及び/又は予防剤。
【請求項6】
がん性貧血を改善及び/又は予防するための医薬の製造における、下記式(I):
【化2】
(式中、R1は、水素原子又はアシル基を表し、R2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
で示される化合物若しくはその塩と金属含有化合物の使用であって、
前記がん性貧血は、赤血球、およびさらに白血球、リンパ球、好中球、および血小板から選択される1つ以上の血液細胞の減少によって特徴付けられ、
前記がんは白血病ではない、
使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん性貧血の改善及び/又は予防剤に関し、さらに詳しくは、5−アミノレブリン酸(ALA)若しくはその誘導体又はそれらの塩を含むがん性貧血の改善剤や予防剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
がん性貧血とは、がん患者に特有の貧血で、通常知られる鉄欠乏性貧血や腎性貧血とは大きく異なる貧血として知られている。がんに罹患した人の実に8割が程度に差があれ、がん性貧血となり、がんの進行に伴い貧血症状が悪化することや、抗がん剤や放射線治療によりさらに貧血が進むことが知られている。がん性貧血はがん患者のQOLを大きく低下させるため大きな問題となっている。
【0003】
がん性貧血と考えられているものの中には、がん部位からの出血により鉄欠乏性貧血を引き起こされている例があることも知られているが、それはごく一部であり、ほとんどのがん性貧血の原因は未だ不明のままである。大内らにより、がんが催貧血因子を分泌し赤血球を溶血するというメカニズムが提唱され研究されてきたが、未だ催貧血因子は特定されていない(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
一方、鉄欠乏性貧血は、多くの場合鉄剤の投与で寛解するが、がん性貧血に対して鉄剤が効果を示すことは少なく、また、鉄はがんの増殖を促進するという理由で、がん性貧血に鉄剤が使われることは少ないとされる。
【0005】
他方、腎性貧血は赤血球への分化を進める造血因子であるエリスロポエチンの生産低下が原因であることが知られており、エリスロポエチンやその誘導体、エリスロポエチンレセプターを刺激する化合物などが開発され、実用化している。しかしながら、通常のがん性貧血の患者において、エリスロポエチンの濃度低下が生じている例は知られていないので、腎性貧血とがん性貧血とは全く違う原因によるものと考えられている。
【0006】
それにもかかわらず、対症療法的にエリスロポエチンをがん性貧血に使おうという試みは多くなされてきた。しかし、一部の抗がん剤や放射線治療により悪化したがん性貧血ではわずかに貧血の改善をみたものの、投与区の方がプラセボ区より生存率が低いことから米国における認可は取り消され、日本においても承認が拒否されている。試験結果の解析によれば、投与区は血栓症や血管系障害の発現率が高く、腫瘍の進行を促進したことが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0007】
したがって、がん性貧血の治療においては、対処療法として輸血がおこなわれてきたが、輸血は各種感染症のリスクや鉄過剰の問題もある。さらには費用が高く血液供給が有限であるため、がん性貧血の改善剤及び予防剤の開発が切望されてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日消外会誌11(11)885−896,1978
【非特許文献2】New Current 22(18)7−8,2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、がんの進行を進めることなく、がん性貧血患者のQOLを向上させることができる、がん性貧血の改善や予防に有用な貧血改善及び/又は予防剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、貧血全般に対して既存の研究や治療剤に関する膨大なデータを精査し、さらにはがん性貧血と他のタイプの貧血の差異を検討し、がん患者における貧血の要因となるのは、造血因子や鉄ではないという結論に達した。そこで、造血因子以外でがん性貧血を改善及び/又は予防することができる化合物のスクリーニングに着手し、検討に検討を重ねた結果、全く意外にもALAにがん性貧血改善効果があることを見いだした。
【0011】
がん等の診断や治療分野で、ALAは光動力学的治療(PDT)や光動力学的診断(PDD)において広く用いられている。ALAはヘム系化合物の共通前駆体であるが、がん細胞においては、ALAを投与してもヘムが生成されず、ヘム系化合物の前駆体であるプロトポルフィリンIX(PPIX)が蓄積することが知られている。蓄積したPPIXに光を照射すると蛍光を発するためにPDDが可能となり、酸素存在下では活性酸素を発生するのでPDTが可能となる。がん性貧血はがん患者に特異的におこるので、ALAとPDTやPDD効果との関係が想起されるが、本発明において光照射は必要とされない。
【0012】
上述のとおり、がん細胞ではALAからヘムは生成されないが、ヘムは赤血球の重要な構成要素であるので、造血細胞がんの場合はALAを添加しても造血に結びつかないということになる。しかし、造血細胞がん以外のがん患者においても、がん性貧血はみられるので、がん化した造血細胞においてALAからヘムが生成されないことが、直接がん性貧血の原因となると考えるのは困難である。
【0013】
貧血とALAの関係については子豚の貧血防止に関してALAが有効であることが知られている(特許第4754731号公報参照)。子豚の貧血は急速な生育に造血が追いつかないために起こり、造血に必要な化合物の一つとしてALAの添加が有効であることが報告されている。がん性貧血の場合は生育が亢進しているわけではないので、同じ仕組みでALAががん性貧血を改善するとは考えがたい。
【0014】
以上のとおり、がん性貧血に対してALAが有効であるということは既存の情報から想像することはできない。また、ALAがなぜがん性貧血の改善や予防に有効なのかを考察することは、がん性貧血の原因が特定できていない現時点では困難ではあるものの、おそらく大内らの仮説(非特許文献1参照)にある催貧血因子の生産抑制や同因子による赤血球の溶血阻害に関係しているものと思われるが、作用機序解明にはさらなる研究が必要である。さらに、鉄化合物等の金属含有化合物はALAと協調して本発明の効果を増強するものであることも見いだした。ミネラルが十分な場合、もしくは別途摂取する場合はALA単独の投与で何の問題もない。ミネラルの中でも鉄は赤身の肉の摂取量が諸外国に比べて少ない日本人では不足がちである。このため日本人での実施例では同時に添加しているが、貯蔵鉄が十分な人を対象とする場合は必要ない。また、ALAはポルフィリンに代謝され光照射でPDT、PDD活性を示すことが広く知られているが、本発明であるがん性貧血改善剤は光を必要としない。
本発明者らは、さらに投与方法や、他成分、他薬剤との組合せや、投与量等に関して鋭意検討を重ね、ALAを含むがん性貧血改善剤や予防剤を確立し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、
(1)下記式(I)
【0016】
【化1】
【0017】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
【0018】
で示される化合物又はその塩を含有するがん性貧血の改善及び/又は予防剤や、
(2)R
1及びR
2が、水素原子であることを特徴とする上記(1)記載のがん性貧血の改善及び/又は予防剤や、
(3)さらに、一種又は二種以上の金属含有化合物を含有することを特徴とする上記(1)又は(2)記載のがん性貧血の改善及び/又は予防剤や、
(4)金属含有化合物が、鉄、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、バナジウム、銅、クロム、モリブデン又はコバルトを含有する化合物であることを特徴とする上記(3)記載のがん性貧血の改善及び/又は予防剤や、
(5)金属含有化合物が、鉄、マグネシウム又は亜鉛を含有する化合物であることを特徴とする上記(3)記載のがん性貧血の改善及び/又は予防剤や、
(6)金属含有化合物が、鉄を含有する化合物であることを特徴とする上記(3)記載のがん性貧血の改善及び/又は予防剤に関する。
【0019】
また、
(7)本発明は、式(I)で示される化合物若しくはその塩、又は、式(I)で示される化合物若しくはその塩と金属含有化合物とを、投与することを特徴とするがん性貧血の改善及び/又は予防方法に関する。別の態様として、本発明は、がん性貧血の改善方法及び/又は予防方法に使用するための、式(I)で示される化合物若しくはその塩、又は、式(I)で示される化合物若しくはその塩と金属含有化合物に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のがん性貧血の改善及び/又は予防剤によると、優れたがん性貧血改善/予防効果を得ることができ、かつがん増殖促進等の副作用が少なく又はほとんどなく、がん患者のQOLを大きく改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明においてがん性貧血とは、がん患者に発生するすべての貧血をさし、消化器がんなどの出血を伴う貧血、抗がん剤や放射線治療の副作用による貧血も含むが、多くは、がんの症状の一部として発生し進行に従い悪化するがん患者特異的な貧血であり、実際の治療現場でも、一般的な他の貧血症状に使われるエリスロポエチンの投与が禁忌とされている。がん性貧血は他の貧血と異なり赤血球の減少をさすだけでなく、多機能性造血幹細胞から分化されるすべての正常な血液細胞の低下をさし、白血球、リンパ球、好中球、血小板などの低下減少も含む。
【0022】
本発明のがん性貧血の改善及び/又は予防剤の有効成分として用いられる化合物は、式(I)で示される化合物又はその塩(以下、これらを総称して「ALA類」ということもある)として例示することができる。δ−アミノレブリン酸とも呼ばれるALAは、式(I)のR
1及びR
2が共に水素原子の場合であり、アミノ酸の1種である。ALA誘導体としては、式(I)のR
1が水素原子又はアシル基であり、式(I)のR
2が水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基である、ALA以外の化合物を挙げることができる。
【0023】
式(I)におけるアシル基としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ベンジルカルボニル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1〜8のアルカノイル基や、ベンゾイル、1−ナフトイル、2−ナフトイル基等の炭素数7〜14のアロイル基を挙げることができる。
【0024】
式(I)におけるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1〜8のアルキル基を挙げることができる。
【0025】
式(I)におけるシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロドデシル、1−シクロヘキセニル基等の飽和、又は一部不飽和結合が存在してもよい、炭素数3〜8のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0026】
式(I)におけるアリール基としては、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル基等の炭素数6〜14のアリール基を挙げることができる。
【0027】
式(I)におけるアラルキル基としては、アリール部分は上記アリール基と同じ例示ができ、アルキル部分は上記アルキル基と同じ例示ができ、具体的には、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、ベンズヒドリル、トリチル、ナフチルメチル、ナフチルエチル基等の炭素数7〜15のアラルキル基を挙げることができる。
【0028】
上記ALA誘導体としては、R
1が、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル基等である化合物や、上記R
2が、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル基等である化合物が好ましく、上記R
1とR
2の組合せが、ホルミルとメチル、アセチルとメチル、プロピオニルとメチル、ブチリルとメチル、ホルミルとエチル、アセチルとエチル、プロピオニルとエチル、ブチリルとエチルの組合せである化合物などを好ましく挙げることができる。
【0029】
ALA類は、生体内で式(I)のALA又はその誘導体の状態で有効成分として作用すればよく、投与する形態に応じて、溶解性を上げるための各種の塩、エステル、または生体内の酵素で分解されるプロドラッグ(前駆体)として投与すればよい。例えば、ALA及びその誘導体の塩としては、薬理学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩等を挙げることができる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の各無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の各有機酸付加塩を例示することができる。金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の各アルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等の各アルカリ土類金属塩、アルミニウム、亜鉛等の各金属塩を例示することができる。アンモニウム塩としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩等を例示することができる。有機アミン塩としては、トリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩、トルイジン塩等の各塩を例示することができる。なお、これらの塩は使用時において溶液としても用いることができる。
【0030】
以上のALA類のうち、望ましいものは、ALA、及びALAメチルエステル、ALAエチルエステル、ALAプロピルエステル、ALAブチルエステル、ALAペンチルエステル等の各種エステル類、並びに、これらの塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩であり、ALA塩酸塩、ALAリン酸塩を特に好適に例示することができる。
【0031】
上記ALA類は、化学合成、微生物による生産、酵素による生産のいずれの公知の方法によって製造することができる。また、上記ALA類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またいずれかを単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0032】
本発明のがん性貧血改善及び/又は予防剤は、過剰症を生じない範囲で、さらに金属含有化合物を含有するものが好ましく、かかる金属含有化合物の金属部分としては、鉄、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、バナジウム、コバルト、銅、クロム、モリブデンを挙げることができるが、鉄、マグネシウム、亜鉛が好ましく、中でも鉄を好適に例示することができる。
【0033】
上記鉄化合物としては、有機塩でも無機塩でもよく、無機塩としては、塩化第二鉄、三二酸化鉄、硫酸鉄、ピロリン酸第一鉄を挙げることができ、有機塩としては、カルボン酸塩、例えばヒドロキシカルボン酸塩である、クエン酸第一鉄、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム等のクエン酸塩や、ピロリン酸第二鉄、ヘム鉄、デキストラン鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン五酢酸鉄アンモニウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄アンモニウム、フマル酸第一鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム等の有機酸塩や、トリエチレンテトラアミン鉄、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、含糖酸化鉄、グリシン第一鉄硫酸塩を挙げることができる。
【0034】
上記マグネシウム化合物としては、クエン酸マグネシウム、安息香酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、ジエチレントリアミン五酢酸マグネシウムジアンモニウム、エチレンジアミン四酢酸マグネシウムジナトリウム、マグネシウムプロトポルフィリンを挙げることができる。
【0035】
上記亜鉛化合物としては、塩化亜鉛、酸化亜鉛、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛、硫酸亜鉛、ジエチレントリアミン五酢酸亜鉛ジアンモニウム、エチレンジアミン四酢酸亜鉛ジナトリウム、亜鉛プロトポルフィリン、亜鉛含有酵母を挙げることができる。
【0036】
上記金属含有化合物は、それぞれ1種類又は2種類以上を用いることができ、金属含有化合物の投与量としては、ALAの投与量に対してモル比で0〜100倍であればよく、0.01倍〜10倍が望ましく、0.1倍〜8倍がより望ましい。
【0037】
本発明のがん性貧血の改善及び/又は予防剤に含有されるALA類と金属含有化合物は、ALA類と金属含有化合物とを含む組成物としても、あるいは、それぞれ単独でも投与することできるが、それぞれ単独で投与する場合でも同時に投与することが好ましく、ここで同時とは、同時刻に行われることのみならず、同時刻でなくともALA類と金属含有化合物との投与が相加的効果、好ましくは相乗的効果を奏することができるように、両者間で相当の間隔をおかずに行われることを意味する。
【0038】
本発明のがん性貧血の改善及び/又は予防剤の投与経路としては、舌下投与も含む経口投与、あるいは吸入投与、点滴を含む静脈内投与、パップ剤等による経皮投与、座薬、又は経鼻胃管、経鼻腸管、胃ろうチューブ若しくは腸ろうチューブを用いる強制的経腸栄養法による投与等の非経口投与などを挙げることができる。
【0039】
本発明のがん性貧血の改善及び/又は予防剤の剤型としては、上記投与経路に応じて適宜決定することができるが、注射剤、点滴剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ等に溶解した水剤、パップ剤、座薬剤等を挙げることができる。
【0040】
本発明のがん性貧血の改善及び/又は予防剤を調製するために、必要に応じて、薬理学的に許容し得る担体、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤、溶剤、ゲル化剤、栄養剤等を添加することができ、具体的には、水、生理食塩水、動物性脂肪及び油、植物油、乳糖、デンプン、ゼラチン、結晶性セルロース、ガム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、グリセリンを例示することができる。なお、本発明のがん性貧血の改善及び/又は予防剤を水溶液として調製する場合には、ALA類の分解を防ぐため、水溶液がアルカリ性とならないように留意する必要があり、アルカリ性となってしまう場合は、酸素を除去することによって分解を防ぐこともできる。
【0041】
本発明のがん性貧血の改善及び/又は予防剤の投与の量・頻度・期間としては、がん性貧血患者やがん性貧血を予防しようとする者の年齢、体重、症状等により異なるが、ALA類の投与量としては、ALAモル換算で、成人一人当たり、0.01mmol〜25mmol/日、好ましくは0.025mmol〜7.5mmol/日、より好ましくは0.075mmol〜5.5mmol/日、さらに好ましくは0.2mmol〜2mmol/日を挙げることができ、特に予防剤として用いる場合は、低容量を継続して摂取することが望ましい。投与頻度としては、一日一回〜複数回の投与又は点滴等による連続的投与を例示することができる。投与期間は、改善剤として用いる場合は、赤血球数、ヘモグロビン、白血球数、血小板等貧血の状態を示す指標に基づいて当該技術分野の薬理学者や臨床医が既知の方法により決定することもでき、予防剤として用いる場合は、赤血球数、ヘモグロビン、白血球数、血小板等貧血の状態を示す指標に基づいてがん性貧血の悪化が起こらないよう観察しながら当該技術分野の薬理学者や臨床医が既知の方法により決定することもできる。
【0042】
本発明のがん性貧血の改善及び/又は予防剤は、他の既存の貧血の改善及び/又は予防剤と組み合わせて使用することもできる。既存の貧血改善剤や貧血予防剤としては、フェロミア、フェルム、フェロ・グラデュメット、ブルタール、スローフィー、テツクール等の鉄剤や、ビタミンB
12、葉酸ビタミン、ビタミンB
6等のビタミン剤や、ヒトエリスロポエチン(EPO)やEPOの一部配列を変更し糖鎖を付加したEPO誘導体等の造血因子系等の薬剤を挙げることができる。これらの薬剤とALAのがん性貧血に対する改善及び予防効果に関するメカニズムはそれぞれ根本的に異なると考えられるため、相加的な、場合によっては相乗的な効果が期待できる。また、これらの既存の貧血薬は、単独で用いた場合に、がん性貧血の改善に役立たない又はがんを進行させてしまう可能性があるが、本発明と組み合わせることでがんの進行を遅延させるという効果も期待できる。
【0043】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
スキルス性胃がんに罹患した女性について、(1)がん罹患前の2008年2月16日(この時点で29歳)と、(2)2010年7月20日と、がんに罹患していることが判明した2010年8月19日以降、1日あたりアミノレブリン酸リン酸塩100mgとクエン酸第一鉄ナトリウム114.7mgとを経口摂取開始した後の(3)2010月9月20日と、(4)2010年10月12日と、(5)2011年1月13日と、(6)2011年7月1日とにおける、赤血球数、ヘモグロビン値、白血球数を以下の表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
上記表1より、がん罹患前には正常値であった赤血球数、ヘモグロビン値、及び白血球数という貧血関係の血液指標が、がん罹患によりいずれも減少し、がん性貧血となったが、アミノレブリン酸リン酸塩とクエン酸第一鉄ナトリウムを投与することにより、見事に回復したことがわかった。患者はがんの罹患がわかってから、抗がん剤治療(TS1+ドセタキセル療法を実施。ドセタキセルは点滴で1日目に54mg/day、TS1は内服で100mg/dayで14日間で、7日間休薬。1コース21日間で行った。)を受けており、通常であれば抗がん剤の副作用により貧血が進むと考えられるが、ALAと鉄化合物との摂取により貧血は解消されており、このようながん性貧血の克服は驚異的である。
【実施例2】
【0047】
進行期の大腸がんで腸閉塞を起こした女性について、2009年8月19日(この時点で61歳)緊急手術をおこなった。手術時の所見によるとこぶし大の大腸がんがあり、がんを摘出し、腸閉塞を解除するも、多数の腹膜播種を認め余命3ヶ月の診断を受けた。手術後、抗がん剤治療として、FOLFOX(5−FU、アイソボリン、エルプラットの3剤併用)およびFOLFIRI(5−FU、アイソボリン、カンプトの3剤併用)に加えてアバスチンなどの分子標的薬を併用した。そして、この抗がん剤治療と並行して、一日あたりアミノレブリン酸リン酸塩50mgとクエン酸第一鉄ナトリウム57.4mgとを、経口摂取した。その結果、手術後1年間は抗がん剤治療を続けることができた。手術後1年後には、副作用のために抗ガン剤の投薬は断念したが、アミノレブリン酸リン酸塩50mgとクエン酸第一鉄ナトリウム57.4mgの経口摂取は継続し、告知された余命3ヶ月を大きく超え、1年半もの間、副作用が改善された状態で生存することができた。
(i)手術直前の2009年8月19日と、(ii)アミノレブリン酸リン酸塩とクエン酸第一鉄ナトリウムとの摂取を開始し約1年5ヵ月経過した2011年1月28日とにおける、赤血球数、ヘモグロビン値、白血球数を以下の表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
上記表2より、手術直前にはがん性貧血による赤血球数とヘモグロビンの減少と、炎症による白血球の増加がみられるが、(ii)の摂取開始約1年5ヵ月後の時点ではアミノレブリン酸リン酸塩とクエン酸第一鉄ナトリウムを投与することにより赤血球数とヘモグロビンが増加して貧血が改善した。一方、白血球数は、正常値に落ちついた。抗がん剤による強い副作用が出たことを考えると、造血系にも強いダメージが与えられたと考えられるが、貧血が改善しているという結果は驚異的で、腹膜播種を抱えながらも医者の余命3ヶ月の告知を大きく超えた1年半後もQOLが改善した生活をおくることができている。
【実施例3】
【0050】
83歳女性が慢性リンパ性白血病に罹患し、抗がん剤リツキサンによる治療を受けた。治療後、1日あたりアミノレブリン酸リン酸塩150mgとクエン酸第一鉄ナトリウム172mgとを経口摂取した。治療前後の白血球数、赤血球数、ヘモグロビン、血小板数を以下の表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
上記表3より、2010年1月13日の検査値から白血球数の上昇がみられ白血病であることがわかるが、同時に赤血球数、ヘモグロビン、血小板も低下しており、がん性貧血を起こしていることがわかる。2010年11月15日よりリツキサンによる抗がん剤治療が開始され、抗癌剤治療の1サイクルを終えた2010年11月22日には早くも白血球数の低下が観察されるが同時に赤血球数、ヘモグロビン、血小板数が減少しており、副作用として貧血が進んだと考えられる。
【0053】
2011年3月16日に抗がん剤治療を終了し、終了時点での検査値はないが、さらに貧血が進んだと想像される。この時点から1日あたりアミノレブリン酸リン酸塩とクエン酸第一鉄ナトリウムとを経口摂取を開始し約2ヶ月経過後の5月20日の検査以降は赤血球、ヘモグロビン、血小板ともに大幅な回復がみられ、血小板数は正常値に回復した。特筆すべきは白血球数で、白血病の治療ではリツサキンで白血球数を抑えると通常白血球数は下がるがそのまま回復せず免疫に支障をきたすことが多い一方、抗がん剤投与量を減少させると再発の可能性が高くなる。表3より、十分に白血球数を下げつつその後回復させるという非常によい経過をたどっていることが明らかであるが、このような例は臨床的にはほとんどなく、かかる結果は、ALAと鉄化合物との投与の効果であるといえる。通常、貧血とは赤血球やヘモグロビンの不足を意味するが、白血球も赤血球も造血幹細胞が分化した細胞であることにかわりはなく、ALAのがん性貧血改善効果は今までに知られていない効果であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のがん性貧血の改善及び/又は予防剤は、医療分野において有利に利用することができる。
【0055】
なお、本出願の原出願における出願時の記載事項の全てが、本出願の明細書に記載されることを担保するために、便宜的に、原出願の出願時における特許請求の範囲を下記に転記する。
[請求項1]
下記式(I)で示される化合物、又はその塩を含有するがん性貧血の改善及び/又は予防剤。
【化2】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
[請求項2]
R
1及びR
2が、水素原子であることを特徴とする請求項1記載のがん性貧血の改善及び/又は予防剤。
[請求項3]
さらに、一種又は二種以上の金属含有化合物を含有することを特徴とする請求項1又は2記載のがん性貧血の改善及び/又は予防剤。
[請求項4]
金属含有化合物が、鉄、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、バナジウム、銅、クロム、モリブデン又はコバルトを含有する化合物であることを特徴とする請求項3記載のがん性貧血の改善及び/又は予防剤。
[請求項5]
金属含有化合物が、鉄、マグネシウム又は亜鉛を含有する化合物であることを特徴とする請求項3記載のがん性貧血の改善及び/又は予防剤。
[請求項6]
金属含有化合物が、鉄を含有する化合物であることを特徴とする請求項3記載のがん性貧血の改善及び/又は予防剤。
[請求項7]
下記式(I)で示される化合物若しくはその塩、又は、下記式(I)で示される化合物若しくはその塩と金属含有化合物とを、投与することを特徴とするがん性貧血の改善及び/又は予防方法。
【化3】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)