特許第6093434号(P6093434)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6093434燃料電池システムのための燃料電池スタックの稼働方法および燃料電池システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6093434
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】燃料電池システムのための燃料電池スタックの稼働方法および燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04225 20160101AFI20170227BHJP
   H01M 8/04302 20160101ALI20170227BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20170227BHJP
   H01M 8/04701 20160101ALI20170227BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20170227BHJP
【FI】
   H01M8/04 X
   H01M8/00 Z
   H01M8/04 T
   !H01M8/10
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-500786(P2015-500786)
(86)(22)【出願日】2013年2月21日
(65)【公表番号】特表2015-511058(P2015-511058A)
(43)【公表日】2015年4月13日
(86)【国際出願番号】EP2013000499
(87)【国際公開番号】WO2013139424
(87)【国際公開日】20130926
【審査請求日】2014年10月3日
(31)【優先権主張番号】102012005837.3
(32)【優先日】2012年3月23日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
(74)【代理人】
【識別番号】100090583
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 清
(74)【代理人】
【識別番号】100098110
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 みどり
(72)【発明者】
【氏名】フェーリクス・ブランク
(72)【発明者】
【氏名】マルティーン・ヴェール
【審査官】 清水 康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−245802(JP,A)
【文献】 特開平10−340734(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102007017172(DE,A1)
【文献】 特開2001−229947(JP,A)
【文献】 特開2006−079880(JP,A)
【文献】 特開2007−073378(JP,A)
【文献】 特開2005−322596(JP,A)
【文献】 特開昭58−035876(JP,A)
【文献】 米国特許第04582765(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0026274(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 − 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の燃料電池システムのための燃料電池スタック(10)の稼働方法であって、冷却運転において冷却剤の流れ方向(14,16)の反転によって前記燃料電池スタック(10)における前記冷却剤が、まず、第一の方向(14)へ搬送され、続いて前記第一の方向と(14)少なくとも実質的に反対の第二の方向(16)へ搬送される稼働方法において、
記冷却運転の間に、前記冷却剤の揺れ動きの振幅が最初は小さくそのあと大きくされることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記振幅が前記冷却剤を搬送するポンプ装置(32)の圧力の変更によって、冷却運転時間の拡大を伴って、増大されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記冷却運転の第一の段階の間、ある冷却剤体積が、前記燃料電池スタック(10)を含む冷却剤循環路(24)における別の冷却剤体積よりも高い温度を有し、前記燃料電池スタック(10)の第一の冷却剤接続部(20)と前記燃料電池スタック(10)の第二の冷却剤接続部(22)との間を往復して移動することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記冷却運転の第二の段階の間、前記冷却剤体積が少なくとも、前記燃料電池スタック(10)の前記第一の冷却剤接続部(20)および/または前記第二の冷却剤接続部(22)まで搬送されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記冷却運転の間、前記冷却剤が少なくとも一時的に完全に、前記燃料電池スタック(10)を含む第一の冷却剤循環路(24)によって搬送され、前記第一の冷却剤循環路(24)は、冷却器を備える第二の冷却剤循環路と流体的に連結可能であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記燃料電池スタックに存在する冷却剤体積の温度に応じて、前記冷却剤体積の少なくとも一部が前記燃料電池スタック(10)を含む、より低温の冷却剤循環路(24)からの冷却剤によって置き換えられることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記燃料電池スタックの導電率を用いて決定される前記燃料電池スタックの効率に応じて、前記冷却剤体積の少なくとも一部が、前記燃料電池スタック(10)を含む、より低温の冷却剤循環路(24)からの冷却剤によって置き換えられることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記燃料電池スタック(10)からの冷却剤の流出、および/または、前記燃料電池スタック(10)への冷却剤の流入が、前記燃料電池スタック(10)に存在する前記冷却剤の温度に応じて、少なくとも一時的に少なくとも一つの流れ案内要素を用いて困難にされることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
車両のための燃料電池システムであって、燃料電池スタック(10)を含む冷却剤循環路(24)を備え、前記冷却剤循環路(24)は前記燃料電池スタック(10)に存在する冷却剤の流れ方向(14,16)の反転のための手段(32,34)を有するものであり、および前記手段(32,34)の制御のための制御装置(36)を備えた燃料電池システムにおいて、
前記制御装置(36)は、前記冷却運転の間に、前記冷却剤の揺れ動きの振幅を最初は小さくそのあと大きくするために設計されていることを特徴とする、燃料電池システム。
【請求項10】
前記流れ方向(14,16)の反転のための前記手段は弁装置(34)を含み、前記弁装置(34)を用いて、第一の切替え位置における前記燃料電池スタック(10)を通った第一の方向(14)への貫流、および、第二の切替え位置における前記燃料電池スタック(10)を通った、前記第一の方向(14)と少なくとも実質的に反対の第二の方向(16)への貫流がなされることを特徴とする、請求項9に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池システムのための燃料電池スタックの稼働方法に関し、ここで、冷却運転における冷却剤の流れ方向の反転により燃料電池スタックにおける冷却剤が、まず、第一の方向へ搬送され、これに続いて第一の方向に対して少なくとも実質的に反対方向である第二の方向へ搬送される。本発明はさらに燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムの燃料電池スタックが、周囲の温度が低いとき、即ち0℃よりも低いときに稼働されると、通常、燃料電池スタックにおいて発熱が部分的に生じ、これは、この部分で水素と酸素との反応が特に急速に始まることと関係する。この場所がますます加熱されると、燃料電池のこの領域からますます電力も供給され、この場所がさらに加熱される。燃料電池の温度の上昇に伴いその効率が向上するため、さらに多くの電力が生み出され、この場所はさらに加熱される。
【0003】
このように場所が限定された、また周囲と比較して燃料電池スタックにおいて高温である場所は、ホットスポットとも称される。ホットスポットの領域での燃料電池スタックの過剰な加熱は燃料電池の膜の乾燥や破損をもたらす可能性があるため、また燃料電池スタックの低温始動または冷始動の際にも、ホットスポットから熱を放散する冷却剤流が設定される。こうして、燃料電池スタックの低温始動または冷始動のときでさえも、ホットスポットから生み出された熱の放散のために機能する冷却運転が実行される。
【0004】
特許文献1には、燃料電池スタックにおける、燃料電池スタックの始動の際の冷却剤の流れ方向の反転が記載されている。ここでは、燃料電池スタックを含む冷却剤循環路に冷却剤ポンプが設置されており、これは第一の搬送装置から、第一の方向とは反対向きの第二の搬送方向へと切替え可能である。流れ方向の反転のために、例えば6秒といった比較的短い周期が選択され、これによって燃料電池スタック内の温度差を可能な限り小さく抑えることができる。もっと短い周期が設定されてもよく、これによって燃料電池スタック内の温度の幅をさらに縮小することができる。
ここで不利な点は、冷却剤の流れ方向の反転にもかかわらず冷却運転において問題が発生し得る点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】DE 10 2007 034 300 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明の課題は、冒頭で述べた種類の方法、および、燃料電池スタックの始動行動の改善が達成されるような燃料電池システムを提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は請求項1の特徴を用いた方法と、請求項4の特徴を用いた方法と、請求項11の特徴を備えた燃料電池システムにより解決される。本発明の有利な形態と目的に応じた発展形態は従属クレームに示す。
【0008】
本発明の第一の観点に基づき、ある時間間隔の経過後に流れ方向が反転するものであり、その時間間隔は冷却運転の間に少なくとも一度変更される。これによって冷却剤の流れは燃料電池スタックにおいて、まさに十分に多くの熱がホットスポットから放出されるように設定され、これによって各燃料電池の膜の破損を防止することができる。その一方で、この領域におけるホットスポットからの熱の搬送の後、あまりにも強力な冷却が起こらないように、それぞれに設定される時間間隔はさほど長くない。もしそうでなければ、これによって、燃料電池反応を通して既に水が生成されているため、氷が形成され、これに伴い反応物の流路の詰まりが引き起こされ得る。冷却運転の間に冷却剤が燃料電池スタックを通って各方向へ貫流する時間間隔の変更によって、これらの時間間隔はここで述べた状況において最適に調節することができ、これによって、ホットスポットからの熱の不十分な排出も、強力すぎる熱の排出も起こらない。こうして、特に低温始動または冷始動の際の燃料電池スタックの始動行動が改善される。
【0009】
特に、燃料電池スタックの始動、即ち所望の電力を生み出すことができる稼働状態への到達が、特に急速かつ安定的になされる。さらにこれによって、始動プロセスの間に、場合によっては燃料電池システムに存在する、例えば電池のような別の電気的エネルギー貯蔵部から必要とするエネルギーが、より少なくなる。車内の空調のような他の車両の機能のためにエネルギー貯蔵部の電力がより多く利用できるため、このことは燃料電池システムが車両に設置されている場合に特に有利である。
【0010】
冷却運転の間、即ち燃料電池スタックの領域のホットスポットから熱が排出され、ホットスポットの周囲の領域へ分散される間、流れ方向の反転は、冷却剤の流れの慣性効果を考慮しない限りにおいて、ほぼ中断されずになされる。特にポンプ装置は冷却運転の間、冷却剤を恒久的に搬送する。しかしながら流れ方向が反転するまでに、冷却剤の流れが少しの間停止し得る。
【0011】
本発明の有利な形態では、その経過後に流れ方向が反転する時間間隔が、冷却運転の時間が長くなるにつれて大きくなる。これは、冷却運転の開始の際にホットスポットがまだ比較的小さいと、ホットスポットの熱がほんの少ししかそこから放出される必要がなく、このため温度の低い冷却剤が後から流入することによってホットスポットの十分な冷却が確保される、という認識に基づく。さらに、始動の際の短い時間間隔によって熱の非常に大部分が燃料電池スタックに残り、このため燃料電池スタック全体の所望の稼働温度への急速な到達に寄与する。さらに、その経過後に流れ方向が反転する最初の短い時間間隔によって、冷却剤の流れによって熱が放散されたホットスポット領域での不必要な氷の形成を、特に確実に防止することができる。しかしながら、時間間隔がますます長くなることによって、熱が燃料電池スタックにおいて特に優れて分散される。
【0012】
また別の有利な点としては、少なくとも第一の時間間隔において、ある冷却剤体積が、燃料電池スタックを含む冷却剤循環路に存在する他の冷却剤体積よりも高い温度を有し、燃料電池スタックに存在する熱源から既定の距離を越えて離れない。これによって、熱源またはホットスポットが、ホットスポットに形成された反応水が凍り得るほどに冷却されることが防止される。さらに、加熱された冷却剤体積による、熱源の周り、即ちホットスポットの周りでの揺動によってホットスポットから両方向への所望の熱の分散がなされるが、これは既定の距離でのみなされる。
【0013】
本発明の別の観点に基づき、燃料電池システムのための燃料電池スタックの稼働方法において、ある冷却剤体積が燃料電池スタックに存在する熱源から離れる距離は、冷却運転の間に少なくとも一度変更される。言い換えれば、冷却運転の稼働中に冷却剤の揺動の振幅が変化する。このやり方でも燃料電池スタックの始動行動が改善される。
【0014】
この距離は冷却運転の稼働中に、圧力および/または冷却剤を搬送するポンプ装置の搬送出力を変えることによって、特に変化させることができる。こうして、流れ方向の反転が固定の周期である場合も、圧力および/またはポンプ装置の搬送出力の変更によって、異なる流れの速度に設定することができる。異なる流れの速度の設定により、冷却剤体積は燃料電池スタックにおいて異なる長さの距離をカバーする。
【0015】
ある時間間隔の経過後に流れ方向が反転するその時間間隔の変更、および/または距離の変更は、特に燃料電池スタックの温度に応じて、および/または外部の温度に応じてなされ得る。こうして、燃料電池スタックでの冷却剤の流れの変更が、それぞれの状況へ特に優れて適応される。
【0016】
冷却運転の第一の段階において、ある冷却剤体積が、燃料電池スタックを含む冷却剤循環路に存在する他の冷却剤体積よりも高い温度を有し、燃料電池スタックの第一の冷却剤接続部と燃料電池スタックの第二の冷却剤接続部との間を往復して移動すると、さらに有利である。このようにして、加熱された冷却剤体積は燃料電池スタックから放出されず、また、熱源またはホットスポットから放散された熱が、燃料電池スタック全体の温度の上昇のために特に優れて利用される。またこうして、一層拡大するホットスポットの熱は、特に優れて燃料電池スタックの部分領域へますます広く分散される。
【0017】
さらに、冷却運転の第二の段階において、冷却剤体積は少なくとも燃料電池スタックの第一の冷却剤接続部および/または第二の冷却剤接続部まで搬送されると、有利である。このように、冷却剤接続部領域で異なる冷却剤の流路からの冷却剤の流れが混ざり合い、これらの流路は燃料電池スタックのそれぞれの燃料電池の冷却のために設置されている。この、それぞれ異なる燃料電池スタックの冷却剤の流路から生じた冷却剤の混合により、冷却剤の熱の均質化がなされる。特にこのような熱の分散は、冷却剤の流れ方向とは異なる方向、例えば燃料電池スタックでの冷却剤の流れ方向に対して垂直方向にもなされる。この対流的な熱の分散によって、熱伝導により既に起こっている分散に加えて、燃料電池スタック全体の特に急速な加熱がもたらされる。
【0018】
本発明の別の有利な形態では、冷却運転の間冷却剤は少なくとも一時的に、完全に燃料電池スタックを含む第一の冷却剤循環路によって搬送され、この循環路は冷却器を備えた第二の冷却剤循環路と流体的に連結可能である。この小さな第一の冷却剤循環路は、全体の冷却剤循環路よりも少ない量の冷却剤を有し、この全体の冷却剤循環路は第一の冷却剤循環路と第二の冷却剤循環路との流体的な連結によって実現され得る。冷却剤はまず完全に小さな第一の冷却剤循環路に搬送されるため、特に急速な冷却剤の加熱がなされ得る。
【0019】
本発明の別の形態では、燃料電池スタックに存在する冷却剤体積の温度に応じて、少なくとも冷却剤体積の一部が冷却剤によって、燃料電池スタックを含むより低温の冷却剤循環路から置き換えられる。言い換えれば、まず燃料電池スタックに存在する冷却剤体積が加熱され、続いてより低温の冷却剤が、燃料電池スタックの外部に存在する冷却剤循環路の領域から燃料電池スタックへともたらされる。特にここで、より低温の冷却剤による、より高温の冷却剤体積の部分的な置換えのみがなされる場合、特に急速に燃料電池スタックの高い出力が達成される。最終的にこのやり方によって、即ち燃料電池スタックに存在する冷却剤体積のバッチ式の加熱によって、冷却剤循環路に存在する冷却剤全体が加熱され得る。
【0020】
最終的には、燃料電池スタックからの冷却剤の流出および/または燃料電池スタックへの冷却剤の流入が、燃料電池スタックに存在する冷却剤の温度に応じて、少なくとも一時的に少なくとも一つの流れ案内要素によって困難になることが、有利であることが示された。この少なくとも一つの流れ案内要素は、例えばフラップであってもよい。
【0021】
このように流れ案内要素によって、冷却剤の比較的大部分が燃料電池スタックに残ることになる。これによって、冷却運転中にホットスポットから放散された熱が、特に広範に燃料電池スタック全体の加熱に利用される。
【0022】
少なくとも一つの流れ案内要素が、冷却剤の流出および/または冷却剤の流入をもはや防止しない収容位置へと移動可能であると有利である。これに応じて流れ案内要素は、その冷却剤を燃料電池スタックにとどめる機能を、燃料電池スタックの均等な加熱のために望ましい時間だけ果たす。
【0023】
燃料電池スタックを備える冷却剤循環路が所望の温度に達すると、交互に入れ替わる、即ち流れ方向を反転させることから、別の通常の稼働モードへの切替えが可能となり、ここで冷却剤は燃料電池スタックを通って一つの流れ方向のみへ流れる。
【0024】
本発明に基づく、特に車両に設置され得る燃料電池システムは、燃料電池スタックを備えた冷却剤循環路を含む。さらに、燃料電池スタック内にある冷却剤の流れ方向反転のための手段を備える。流れ方向の反転のための手段は、燃料電池スタックの外部に配置されてもよい。これは、冷却剤の両方向(即ち前方および後方)への搬送のために設計されたポンプであってもよい。この手段の制御のために機能する制御装置は、冷却運転の際、その経過後に流れ方向が反転する時間間隔を変更するために設計されていてもよい。これに追加的にまたは代替的に、制御装置は、冷却剤体積が、燃料電池スタックに存在する熱源から離れる距離を変更するために設計されていてもよい。これは特に、制御装置がポンプ装置を制御することによって達成することができる。冷却運転中にホットスポットから放散された熱が、特に優れて燃料電池スタックの領域に留まることができるため、このような燃料電池システムの手段によって燃料電池スタックの始動行動が改善される。これによって燃料電池の加熱がなされ、燃料電池スタックが急速に所望の出力がもたらされる。
【0025】
技術的解決の可能性として、流れ装置の反転のための手段に弁装置が含まれると好ましく、これを用いて、第一の切替え位置において燃料電池スタックの貫流が第一の方向へ、また第二の切替え位置においては燃料電池スタックの貫流が、第一の方向と少なくとも実質的に反対の第二の方向へとなされ得る。このような弁装置の設置によって、複雑な、しかし同様に原則的に想定可能な、冷却剤を第一の方向にも第二の方向にも搬送することができるポンプ装置を使用する必要がなくなる。
【0026】
時間間隔および/または距離の変更は冷却剤の温度に応じて設定可能であり、この際温度は、適切な温度センサを用いて、特に燃料電池スタックの冷却剤導入部および/または冷却剤排出部で感知することができる。
【0027】
スタックの単セルの電気化学的に活性な領域で冷却剤の温度が計測されない燃料電池スタックにおいては、燃料電池スタックにより生み出された熱が温度センサに到達するまでに時間の遅延があり得る。この場合、時間間隔および/または距離の変更を制御するための代替的な可能性は、燃料電池スタックの効率を燃料電池スタックの導電率(即ち電圧および/または電流)により決定することである。この可能性は、燃料電池スタックの導電率はもとより計測する必要があるため、特に有利である。これは、低い温度の場合は、高温の場合よりも圧力が低い(効率がより低い)ことを意味する。温度がより高い領域が大きければ大きいほど燃料電池スタックの効率が改善し、これによって、高温の領域からの熱を遠くへ搬送するために、冷却剤がさらに遠く、またはより長く搬送される必要がある。
【0028】
本発明の各観点の利点と好ましい実施形態は、本発明の別の各観点の利点と好ましい実施形態にも当てはまり、その逆も同様である。さらに、本発明に基づく方法について記載された利点と好ましい実施形態は、本発明に基づく燃料電池システムにも当てはまる。
【0029】
上記の明細書に記載の特徴および特徴の組み合わせ、ならびに以下の図面の説明に記載の、および/または図それ自身に記載の特徴および特徴の組み合わせは、それぞれに記載の組み合わせにおいてのみならず、本発明の枠組みから逸脱せずに、その他の組み合わせにおいて、または独立しても利用可能である。
【0030】
本発明のその他の利点、特徴および詳細は、請求項、ならびに、好ましい実施形態および図面に基づく以下の説明に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】冷却剤の流れ方向の反転によってホットスポットの領域において生み出された熱が分散される、車両のための燃料電池システムの燃料電池スタックの概略図である。
図2図1の燃料電池スタックにおいて、熱の分散によって冷却剤が燃料電池スタック全体において高温である図である。
図3】冷却剤循環路への燃料電池スタックの統合の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は車両のための燃料電池システムの燃料電池スタック10の概略図であり、この燃料電池スタックは周囲の温度が著しく低い中で、即ち0℃より低い温度において稼働された。このような燃料電池スタック10の稼働状態は低温始動または冷始動とも称される。この際、燃料電池スタック10の個々の燃料電池の領域において、まず、いわゆるホットスポット12が形成され、ここでは隣接する領域においてよりも燃料電池反応が優れて開始され、また周囲よりも強く加熱される。ここでは、燃料電池スタック10の冷却運転において往復して流れる冷却剤によって、ホットスポット12の形成にも関わらず、それぞれの燃料電池の、特にポリマー電解質膜(PEM)として形成され得る膜が不必要に過熱されなくなる。
【0033】
この場合、冷却運転においては、冷却剤はつまり燃料電池スタック10を通って一方向のみへ流れるのでなく、まず冷却剤は第一の方向14へ、次に第二の方向16へと搬送され、これについて図1において方向14、16は二つの矢印で示されている。冷却剤の流れ方向の反転は、各ホットスポット12から放散された熱が、燃料電池スタック10から失われないように十分に速い速度でなされる。こうして、熱は各ホットスポット12の領域で特に優れて分散され得る。
【0034】
冷却剤が諸所へ流れることと、または冷却剤の揺動とによって、このように各ホットスポット12での温度分布の平坦化がなされ、これによって各ホットスポット12の周囲において、燃料電池スタック10の特に大きな領域18が加熱される。しかしながら、冷却剤によってこの領域18において、膜の破損をもたらし得る最高温度の超過が防止される。
【0035】
燃料電池スタック10は第一の冷却剤接続部または冷却剤導入部20を備え、また、第二の冷却剤接続部または冷却剤排出部22を備える。燃料電池スタック10を含む冷却剤循環路24(図3を参照)のうち一つの循環路の通常稼働の場合、流れ方向の反転が起こらないため、冷却剤は冷却剤導入部20から冷却剤排出部22へと流れる。しかし、燃料電池スタック10の冷始動または低温始動の際は、直線状に設定された方向14,16に応じて、冷却剤導入部20または冷却剤排出部22のいずれかを通って、冷却剤が燃料電池スタック10へ流入する。燃料電池スタック10の他の接続部26,28は例えば(通常は再循環された)水素など燃料電池反応に関与する燃料や、空気または酸素の導入または放出のために機能する。これらの燃料も、流れ方向は反転されないが燃料電池スタック10を通って流れるため、ホットスポット12を囲んで形成された、この領域の周囲の温度を超えて加熱された冷却剤が存在する領域18は、やや冷却剤排出部22の方に寄って拡張する。
【0036】
冷却剤の流れ方向の反転の繰り返しによって、ホットスポット12は維持されるが、ホットスポット12により加熱された領域18はますます拡大する。さらに、流れ方向の反転の繰り返しによって、各ホットスポット12に形成された反応水の氷結による氷の形成が防止される。
【0037】
この場合冷却剤の流れ方向の反転は、まず比較的急速に、即ち比較的短い時間間隔が経過した後に起こる。言い換えれば、冷却剤の揺れ動きの振幅は、最初は特に小さく、また熱源としてのホットスポット12から熱を放出する冷却剤体積は各方向14,16へ比較的短い距離だけ戻る。特にこの手段によってホットスポット12の拡大が可能となるが、加熱された冷却剤が各ホットスポット12から離れ過ぎないため、同時に氷の形成が防止される。
【0038】
しかし、領域18の一層の拡大によって冷却剤の揺れ動きの振幅は大きくなり、このため各ホットスポット12で加熱された冷却剤体積はより長い距離を戻る。これは一定のポンプ出力を有する冷却剤ポンプにおいて、ある時間間隔の経過後に流れ方向が反転するその時間間隔が長くなることによって起こる。代替として、一定である時間間隔において冷却剤が一層速度を増して搬送されてもよく、これによって同一の時間間隔において冷却剤はより長い距離を戻る。
【0039】
ここで冷却剤の揺動の振幅が一層拡大する際には、まず、加熱された冷却剤が冷却剤導入部20と冷却剤排出部22の領域に留まるように留意され、これによって熱が燃料電池スタック10からは放出されないが、恐らくホットスポット12から放出される。
【0040】
加熱された冷却剤が各方向14,16へ移動する距離の拡大によって、しかしながら、加熱された冷却剤は冷却剤排出部22と冷却剤導入部20に到達する。この領域で燃料電池スタック10の分離された冷却剤流路からもたらされた、通常異なる温度の冷却剤が混ざり合う。このため、各冷却剤流路にある冷却剤の温度の同化が起こる。
【0041】
こうして、まず流れ方向の交互の入替えによって第一の方向14と第二の方向16への熱の分散が起こる一方、冷却剤導入部20と冷却剤排出部22の領域での冷却剤の混合によって、これらの方向14,16に対して垂直方向への熱の特に優れた分散もなされる。燃料電池スタック10に存在する全ての冷却剤が特に急速に加熱される。
【0042】
この状況は図2に示されており、ここでは加熱された冷却剤が冷却剤導入部20と冷却剤排出部22の領域へ進入している。ここでは冷却剤の流れの交互の入替えが引き続き起こっているため、より低温の冷却剤が燃料電池スタック10の外側から燃料電池スタック10へと導入され、その中心領域30では相対最大温度となる。この加熱状態が冷却剤循環路24(図3を参照)(ここでは、低温始動または冷始動のために特別に、より少ない冷却剤体積を有するより小さい冷却剤循環路であってもよい(図示せず))に存在する全冷却剤体積に達すれば、通常の冷却運転に切替えられることができ、ここで冷却剤は冷却剤導入部20を通って燃料電池スタック10へ流入し、交互に入れ替わりながら(または引き続いて)冷却剤の流れ方向が(再び)反転することなく、冷却剤排出部22を通って再び出て行く。
【0043】
図3に示すように、燃料電池スタック10は冷却剤循環路24に統合され、ここでは冷却剤ポンプ32が冷却剤を搬送する。各方向14,16へ交互に入れ替わる冷却剤の流れの振幅が特に大きいために、冷却剤循環路24に存在する全ての冷却剤が均等に加熱される場合は、通常稼働に切替えられてもよい。こうして冷却剤循環路24はその他の(図示されていない)、冷却器が設置された冷却剤循環路と流体的に連結され得る。これは、低温始動または冷始動の間、その他の冷却剤循環路24を遮断する弁による冷却剤循環路の開放によってなされる。
【0044】
燃料電池スタック10の領域に存在する冷却剤体積のみの加熱の後も、やや長い間、冷却剤が2つの方向14,16のうち1方向のみに搬送されてもよく、これによって燃料電池スタック10に存在する加熱された冷却剤の一部が、冷却剤循環路24の残りの領域からもたらされた、より低温の冷却剤により置き換えられる。冷却剤の部分的な置換えの代わりに、低温の冷却剤による完全な置換えがなされてもよい.こうして、加熱された冷却剤の全てのチャージが燃料電池スタック10から取り出され、冷却剤循環路24からの低温でまだ加熱されていない冷却剤によって置き換えられる。このような、燃料電池スタック10に存在する冷却剤の部分的または完全な置換えが十分に繰り返された後、最終的に、冷却剤循環路24に存在する全ての冷却剤が多かれ少なかれ均等に加熱される。その後通常稼働に切替えられることができ、そこでは冷却剤の流れ方向はもはや反転されない。
【0045】
代替的にまたは追加的に、冷却剤導入部24および/または冷却剤排出部22に、フラップまたはこれと同種の、冷却剤の流れに対して抵抗を設定する流れ案内要素が設置されてもよく、これは冷却剤の燃料電池スタック10への流入、または冷却剤の燃料電池スタック10からの流出を困難にする。このようなフラップまたは同種の流れ案内要素は、例えばバイメタル素子として構成されてもよく、これは温度に応じて位置を変更する。所望の温度に達すると、フラップは、特に自動で、冷却剤の燃料電池スタック10への流入、または冷却剤の燃料電池スタック10からの流出をもはや妨げない位置へと移動される。しかしながらフラップが機能的位置にある間は、フラップは、冷却剤が少なくとも大部分で燃料電池スタック10に留まるように働く。フラップはその後折り畳まれ、通常稼働に切替えられてもよい。
【0046】
図3には、冷却剤循環路24への燃料電池スタック10の統合を示す。冷却剤ポンプ32からの冷却剤が弁34へと流れ、この弁は制御装置36により制御される。弁34の第一の切替え位置で、冷却剤はライン38を通って燃料電池スタック10の冷却剤導入部20へと流れる。これに応じて、燃料電池スタック10から押し出された冷却剤は、冷却剤排出部22を通って排出される。冷却剤は、ここからライン40を通って冷却剤ポンプ32の低圧側へ到達する。
【0047】
弁34の第二の切替え位置で、冷却剤は弁34から第三のライン42を通って燃料電池スタック10の冷却剤排出部22へと流れ、冷却剤導入部20に繋がる第四のライン44を通ってそこから排出され、このラインもまた冷却剤ポンプ32の低圧側へと通じている。弁34の切替え位置を変えることにより、冷却剤を一方向のみへ搬送する冷却剤ポンプ32によってもまた、燃料電池スタック10の第一の方向14または第二の方向16(図1を参照)への貫流が実行される。
【0048】
図3に示すように、制御装置36によって冷却剤ポンプ32も制御することができる。ここで冷却剤ポンプ32は冷却剤に異なるレベルの圧力を与えるか、または異なるポンプ出力が設定されてもよい。このやり方によって冷却剤は異なる速度で搬送されることができ、これによって、異なる切替え位置への弁34の切替えが一定の周期の場合でも、冷却剤の流れの振幅を異なる大きさに設定することができる。2つの方向14,16へ搬送可能な冷却剤ポンプ32の場合は弁34を使用しなくてもよく、流れ方向の反転は制御装置36を用いた冷却剤ポンプ32の制御によってなされる。
【0049】
図3に概略的に示す冷却剤循環路24は他の(図示していない)冷却剤循環路に統合され、この循環路は冷却器を備える。まずは冷却運転において、ここではホットスポット12から熱が放散されて燃料電池スタック10において分散され、冷却剤は冷却剤循環路24に留まることが好ましい。これに続いて冷却剤循環路24は第二の、冷却器を備えた冷却剤循環路に連結されてもよく、これによって燃料電池スタック10から、稼働中に放散された余分な熱を、冷却器を通して排出することができる。
【0050】
燃料電池スタック10の稼働モードにおいて燃料電池スタックは、より大きい、冷却器を備える冷却剤循環路に統合されており、ここでは弁34の切替え位置をもはや変更する必要はなく、冷却剤が冷却剤導入部20を通って燃料電池スタック10へ流入し、冷却剤排出部22を通って排出される。
【符号の説明】
【0051】
10 燃料電池スタック
12 ホットスポット
14 方向
16 方向
18 領域
20 冷却剤導入部
22 冷却剤導入部
24 冷却剤循環路
26 接続部
28 接続部
30 中心領域
32 冷却剤ポンプ
34 弁
36 制御装置
38 ライン
40 ライン
42 ライン
44 ライン
図1
図2
図3