(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜8のいずれか1項に記載の不織布を基材とし、当該基材100質量部に、液体が150質量部以上、2500質量部以下の割合で含浸されている液体含浸シート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[ビスコースレーヨン]
本発明の不織布は、特定のビスコースレーヨンを含む。そこで、そのビスコースレーヨンについてまず説明する。
本発明の不織布を構成するビスコースレーヨンの一形態は、横断面が単一構造を有し、横断面の輪郭が、例えば、円形、楕円形、もしくは繭玉形、または切れ目を有する円形、楕円形もしくは繭玉形であるものである。
横断面とは、繊維の長さに対して垂直な方向で切断した断面をいう。横断面が単一構造を有するとは、横断面を偏光顕微鏡で1000倍程度に拡大したときに、断面において区分けされた部分が観察されないこと、および/またはスキンコア染色により染色性に差が見られないことを指す。換言すれば、本発明で用いるビスコースレーヨンは好ましくは、通常のビスコースレーヨンの横断面において観察されるスキンコア構造を有していない。通常のビスコースレーヨンをスキンコア染色した場合には、スキン部とコア部との間で染色性に差が生じ、例えば、染色後の色の濃淡として観察され、例えば、スキン部は横断面の輪郭に沿って色の濃い部分として、また、コア部はスキン部で囲まれた色の薄い部分として観察される。
図7および
図8に、スキンコア染色した、通常のビスコースレーヨンおよびスキンコア構造を有しないレーヨンの光学顕微鏡写真(320倍)を示す。
図7に示すように、通常のビスコースレーヨンにおいては、スキン部とコア部との間で染色性に差が生じ、スキン部が濃く、コア部が薄くなっている。
【0013】
スキンコア染色は次の手順に従って実施される。
1.ロウ柱作製
染色する試料(染色試料)を分取し、約100本の繊維束として、ソーターを用いて繊維を平行にした後、染色試料の周囲に巻き付け用トウを巻き付けて、ロウ柱用繊維束を得、この束の両端を結束用の黒糸で結ぶ。次に、この繊維束を、一度融解させた後、放冷したパラフィン液に浸し、引き上げてパラフィンを固まらせ、直径約5mmのロウ柱を得る。
2.切片作製
ロウ柱を所定の長さ(10mm)に切断し、ロウ柱台に設置する。これを、ミクロトームに切断刃を取り付けたもので切断し、切片を得る。
3.プレパラート作製
メイヤー氏卵白液を塗布したスライドガラスに切片を並べた後、電熱器の上にスライドガラスをかざしてゆっくり加熱し、繊維束を包含しているパラフィンを融解させた後、キシレンでパラフィンを洗い流す。この融解と洗浄を15回繰り返す。完全にパラフィンを洗い落した後、流動パラフィンを1〜2滴滴下し、カバーガラスで覆う。
4.染色
プレパラートを前処理用試薬6種に順番に浸漬し、その後純水で洗浄する。
前処理の終えたプレパラートを直ちに染色液に2分間浸漬してから直ちに引き上げ、水洗する。その後プレパラートの後処理(前処理用試薬6種で、順番を逆に処理)を実施する。後処理後、水洗し、カナダバルサム(松脂)を1〜2滴滴下し、カバーガラスで覆う。カバーガラスで覆ったプレパラートを光学顕微鏡にセットして、640倍に拡大して、染色後の断面を観察する。
【0014】
上記において、メイヤー氏卵白液は、「卵白グリセリン」とも呼ばれる。メイヤー氏卵白液は、卵白50gを泡立て、その中へグリセリン50g、サリチル酸ナトリウム1gを入れて更に泡立てた後、金巾を使用して吸引濾過する方法で調製される。染色液は、純水100ccにオキサミンブルー4Rを1gを投入して撹拌し、溶解させた後、硫酸ナトリウムを300mg加えて撹拌し、溶解したものを用いる。染色に際しては、湯煎にて染色液を加温しながら撹拌し、85℃にした染色液を用いる。
【0015】
通常のビスコースレーヨンにおいてスキン部とコア部とではセルロースの配向の状態が異なり、そのような配向状態の違いは、再生浴(紡糸浴)中において、表面部分で再生がより進行し、内部では再生が進行していない状態で延伸されることにより生じる。横断面において染色性に差が見られないレーヨンは、繊維全体にわたってセルロースが一方向に配向しているために、単一構造を有していると考えられる。横断面が単一構造を有するビスコースレーヨンは、紡糸原液の再生速度を低下させ、再生を遅らせた状態で延伸することにより得られる。横断面が単一構造を有するレーヨンは、それに光が入射したときでも、光が屈折/反射する界面を有していないために高い透明性を示す。以下、本発明で使用する、横断面が単一構造を有するレーヨンを便宜的に「透明レーヨン」と呼ぶ。
【0016】
透明レーヨンは、横断面の輪郭が円形、楕円形または繭玉形を有してよい。透明レーヨンは単一構造を有するように、再生浴における再生の速度が遅くなるように製造される。再生速度が低下すると、脱水がゆっくりと進行するため、通常のビスコースレーヨンとは異なり、円形、楕円形または繭玉形の輪郭を有する横断面が得られやすい。繭玉形には、一部が直線状である楕円形(即ち、カプセルに近い形状)、および略中央部で一部が緩やかにくびれている楕円形およびカプセル形状が含まれる。また、楕円形には、卵形および涙形等、非対称なものも含まれる。
【0017】
あるいは、透明レーヨンは、その横断面の輪郭が、切れ目を有する円形、楕円形または繭玉形を有していてよい。「切れ目」とは、通常のビスコースレーヨンの横断面の輪郭が有する凹凸とは異なり、その長さ(深さ)が幅よりも十分に大きい凹部を指し、例えば、その長さが差し渡し径の1/4以上であるような凹部、または扁平度が1.80以上であるレーヨンについては扁平度を測定するための外接四角形の短辺の長さの1/4以上であるような凹部を指す。ここで、「差し渡し径」とは、横断面の輪郭の任意の二点を結ぶ線分のうち、最も長い線分をいう。
【0018】
通常のビスコースレーヨンの横断面を、光学顕微鏡で640倍程度に拡大すると、その輪郭は多数の細かな凹凸を有する菊花状の形を有するものとして観察される。これに対し、透明レーヨンは凹凸を有しない、あるいは有しているとしても、その数は少なく、また、凹凸の起伏も小さなものであるか、あるいは切れ目を1ないし2本程度有するものであって、全体として滑らかである。そのため、透明レーヨンは、通常のビスコースレーヨンと比較して、その表面に当たる光の乱反射を生じさせにくく、そのことも、これを用いて形成した不織布の湿潤状態の透明性を向上させる。
【0019】
あるいはまた、透明レーヨンは、横断面の周長(L)および横断面の面積(S)を求め、それらを用いて以下の式から算出される凹凸度が2以下である横断面を有するものとして特定され得る。
凹凸度=L
2/(4π・S)
この凹凸度が2以下である横断面は、その輪郭が全体として滑らかであって、通常のビスコースレーヨンの横断面(菊花状の横断面)とは異なるものとして特定することができる。凹凸度は、より好ましくは1.5以下、さらにより好ましくは1.3以下であり、最も好ましくは1.2以下である。
【0020】
尤も、前記の式で算出される凹凸度は、横断面の輪郭が滑らかであるとしても、横断面の扁平度が大きい場合には大きくなる。そのため、例えば、後述する二酸化珪素を含むビスコースレーヨンのように、横断面が扁平形状を有し、深い切れ目を2本ないし3本有するレーヨンについては、横断面の輪郭が細かな凹凸を有していなくとも、凹凸度が2以上となることがある。本発明者らの検討によれば、横断面の扁平度が1.80以上であるレーヨンについては、凹凸度が2.50以下であれば、横断面の輪郭の細かな凹凸が少なく、透明レーヨンとして機能することが判明した。したがって、横断面の扁平度が1.80以上である場合に、横断面の凹凸度が2.50以下、好ましくは2.30以下、より好ましくは2.20以下であるものは、本発明で用いることができる透明レーヨンとする。
【0021】
凹凸度の算出に際しては、画像処理ソフトウェア(例えば、Image J 1.48v)を用いて、電子顕微鏡写真に写っている繊維の横断面輪郭の範囲指定を行って、断面積および周長を測定してよい。凹凸度は、電子顕微鏡で1000倍に拡大して撮影した写真から無作為に30本以上の繊維を選定して測定し、その平均値で示すものとする。電子顕微鏡による横断面の撮影は、例えば、レーヨンの束を板状部材の孔に通し、板状部材の表面にほぼ沿って、レーヨン束を鋭利な刃物で切断して横断面を露出させる方法で作製したサンプルを用いて実施してよい。
【0022】
横断面の扁平度は、横断面の輪郭の任意の二点を結ぶ最長の線分、すなわち差し渡し径Aの長さをa、該線分Aに対して垂直であり、かつ線分Aと平行な線分とともに横断面に外接する四角形(長方形または四角形)を構成する線分Bの長さをbとしたときに、a/bで表される。
図11に繊維の扁平度の求め方を模式図で示す。横断面の扁平度もまた、電子顕微鏡で1000倍に拡大して撮影した写真から無作為に30本以上の繊維を選定して測定し、その平均値で示すものとする。
【0023】
あるいは、透明レーヨンは、光学顕微鏡で640倍程度に拡大したときに、その側面において筋状の凹部が観察されない、または凹部が観察されるとしても切れ目としての凹部が1ないし2つ観察されるものとして特定することもできる。通常のビスコースレーヨンは、その繊維側面に多くの筋を有する。これは横断面の輪郭に存在する凹部が繊維の長さ方向につらなって形成されたものである。透明レーヨンは、横断面の輪郭が凹凸を有していない、あるいは凹凸を有しているとしても、その凹凸は起伏の小さいものであるため、筋としては観察されない。
【0024】
側面の凹部の数は、光学顕微鏡(透過型)で640倍程度に拡大して撮影した写真を用いて求めてよい。具体的には、写真を画像処理に付し、画像処理後、側面を四等分する線(四等分の対象となる領域を規定する線(基線)を含む)を引き、基線を除く3本の線(以下、便宜的に「計測線」と呼ぶ)と画像処理後に黒色で観察される筋状部とが交わる点の数を測定し、それらの平均値を求める方法で求めることができる。
【0025】
画像処理は、例えば、以下の手順に従って実施する。画像処理ソフトとしてpaint.net V4.0.5を使用し、画像の明るさを補正するための「調整」メニューから「白黒」を選択して、写真を白黒変換する。画像処理ソフトウエアであるImage J 1.48vを使用して、白黒変換した画像の輝度を求める。輝度は「Analyze(画像解析)」メニューの「Histogram(ヒストグラム)」より得られる「Mean(平均)」値に相当する。凹部の測定に際しては、このMean値が175〜195となる画像を、側面の凹部の数を測定するための画像として使用する。したがって、そのようなMean値が得られるように、撮影条件等を調整して、光学顕微鏡で拡大した像の写真を撮影するか、あるいは光学顕微鏡写真からそのようなMean値のものを選択して凹部の数を測定する。
【0026】
上記の条件を満たす写真について、画像処理ソフトpaint.net V4.0.5を使用して、凹部の数を測定する。具体的には、同ソフトの「調整メニュー」から「レベル」を選択し、入力ホワイトポイントを151、入力ブラックポイントを150とし、出力ホワイトポイントを255、出力ブラックポイントを0とし、出力ガンマを1.00として、画像処理を行う。なお、光学顕微鏡写真がカラーのものである場合には、前述の手順で白黒変換を行い、変換後の画像について、さらにこの画像処理を行う。処理後の画像において、繊維側面を長さ方向に四等分し、かつ長手方向に直交する線を引き、両側の基線を除く3本の計測線と、処理された画像の黒色の筋状部(凹部)との交点の数を数えて、平均値を求める。四等分する領域を規定するための基線は、繊維側面の上端および下端を結ぶ線分であって、繊維の長手方向と直交する線分のうち、撮像領域の境界に最も近い線分である。
【0027】
参考のために、繊維側面の光学顕微鏡写真およびそれを画像処理した後の画像の例を
図4(後述する実施例で製造した繊維5に相当)に示し、凹部と計測線の交点を示す模式図を
図5に示す。画像においては、繊維側面の上下を規定する線が濃い黒い線として現れることがあるが、これは凹部とはせず、これと計測線との交点は凹部の数として数えない。
【0028】
本発明で用いる透明レーヨンにおいて、画像を用いて求める凹部の数は、好ましくは3未満である。
【0029】
前述した透明レーヨンの横断面構造および横断面輪郭、ならびに側面の凹部の数に関する構成は、二以上組み合わされてよい。例えば、透明レーヨンは、横断面の輪郭が円形、楕円形もしくは繭玉形、または切れ目を有する円形、楕円形もしくは繭玉形であるとともに、横断面の凹凸度が2以下であるものであってよい。加えて、この透明レーヨンは、側面の凹部の数が3未満のものであってよい。あるいは、透明レーヨンは、横断面の輪郭が楕円形もしくは繭玉形、または切れ目を有する楕円形もしくは繭玉形であるとともに、横断面の扁平度が1.80以上であり、かつ横断面の凹凸度が2.5以下であるものであってよい。あるいは、透明レーヨンは、横断面の輪郭が円形、楕円形もしくは繭玉形、または切れ目を有する円形、楕円形もしくは繭玉形であるとともに、側面の凹部の数が3未満であるものであってよい。
【0030】
透明レーヨンはポリエチレングリコールを含んでよい。ポリエチレングリコール(PEG)は紡糸原液に添加される。PEGの添加により、ビスコースの再生速度が低下するため、上記特定の横断面構造および横断面輪郭を有する透明レーヨンを得ることができる。ポリエチレングリコールの平均分子量は例えば200〜7500である。平均分子量が1000以上であるPEGは、常温で固体であるため、加温溶融して添加するか、あるいは水溶液として添加する。透明レーヨン中のPEGの含有量は特に限定されない。後述するとおり、透明レーヨンを得るためには紡糸原液(ビスコース液)中に0.1質量%〜1.0質量%の量でPEGが含まれることが好ましく、繊維中にはそのような紡糸原液を紡糸した後でなお残存する量でPEGが含まれる。あるいは、透明レーヨン(およびこれを得るための紡糸原液)は、PEGに代えて又はPEGとともに、ビスコースの再生速度を低下させるために、ジメチルアミン、シクロヘキシルアミン、およびヘキサメチレンジアミンから選択される1又は複数のアミンを含んでよい。
【0031】
あるいは、透明レーヨンは二酸化珪素を含んでよい。アルカリ金属を含む珪酸化合物、例えば、珪酸ソーダ(Na
2O・nSiO
2・xH
2O、但しnは1〜3、xは10〜20)を紡糸原液に添加し、これを硫酸(H
2SO
4)を含む紡糸浴にて紡糸すると、紡糸原液中の珪酸化合物が硫酸と反応して二酸化珪素(SiO
2、但しポリマー)に変化し、得られるビスコースレーヨンは二酸化珪素を含むものとなる。アルカリ金属を含む珪酸化合物の添加によっても、ビスコースの再生速度が低下するため、上記特定の横断面構造および横断面輪郭を有する透明レーヨンを得ることができる。二酸化珪素を含む透明レーヨンの横断面は一般に、扁平度が大きく、切れ目を2本ないし3本有していて、通常のビスコースレーヨンで見られる細かな凹凸を有しない横断面を有するものとして得られる。
【0032】
透明レーヨン中の二酸化珪素の含有量は特に限定されない。例えば、紡糸原液(ビスコース液)中に、紡糸原液に含まれるセルロースの質量に対し、アルカリ金属を含む珪酸化合物は、硫酸と反応した後の二酸化珪素に換算して、10質量%〜100質量%の範囲で含まれてよく、好ましくは25質量%〜70質量%の範囲で含まれてよい。繊維中にはそのような紡糸原液を紡糸した後で存在する二酸化珪素が含まれる。二酸化珪素の含有量が少なすぎると、上記特定の横断面構造および横断面輪郭を得ることが難しくなる。二酸化珪素の含有量が多すぎると、強度が低下することがある。
【0033】
二酸化珪素を含む透明レーヨンは、蛍光X線分析で測定した珪素含有量が、例えば、5質量%〜30質量%、特に8質量%〜23質量%、より特には13質量%〜19質量%であるものであってよい。珪素含有量がこれらの範囲内にある透明レーヨンは、透明性と強度とのバランスがとれたものとなる。二酸化珪素自体は透明性が高い物質であるため、上述した珪素含有量を満たす透明レーヨンを含む不織布は透明性が高い傾向にある。従って、横断面が単一構造を有し、かつ、繊維中に二酸化珪素を含み、かつ、蛍光X線分析で測定した珪素含有量が、5質量%〜30質量%、特に8質量%〜23質量%、より特には13質量%〜19質量%である、ビスコースレーヨンを含む不織布は、透明性が高いため、液体を含浸させた状態で用いる液体含浸シートの基材として用いる不織布として有用である。
【0034】
透明レーヨンの繊度および繊維長は、不織布の所望の形態および物性等に応じて適宜選択される。不織布の形態および物性等は液体含浸シートの用途等に応じて決定される。例えば、液体含浸シートをフェイスマスクとして使用する場合、透明レーヨンの繊度は0.1dtex〜6dtex程度であることが好ましく、0.7dtex〜3.0dtex程度であることがより好ましい。この範囲内の繊度の透明レーヨンは柔軟性を確保するのに適し、不織布製造の観点からも好ましい。透明レーヨンの繊度が小さすぎると、透明性が低下することや、繊維を交絡させる時に繊維が抜け落ち、目付が低下することがある。透明レーヨンの繊度が大きいほど、不織布の透明性は増すが、大きすぎると不織布が粗いものとなって触感が低下することがある。
【0035】
カードウェブを作製して不織布を製造する場合、繊維長は25mm以上、100mm以下とすることが好ましく、30mm以上、70mm以下とすることがより好ましい。エアレイウェブを作製して不織布を製造する場合、繊維長は1mm以上、50mm以下とすることが好ましく、5mm以上、30mm以下とすることがより好ましい。湿式抄紙ウェブを作製して不織布を製造する場合、繊維長は0.5mm以上、20mm以下とすることが好ましく、1mm以上、10mm以下とすることがより好ましい。繊維長が100mm以下であると、後述する水流交絡処理において、低繊維密度領域が形成されやすくなるため好ましい。
【0036】
透明レーヨンは、好ましくは、1.0〜3.0cN/dtex、より好ましくは1.5〜2.5cN/dtexの乾強度を有する。透明レーヨンはまた、好ましくは0.5〜2.0cN/dtex、より好ましくは0.7〜1.5cN/dtexの湿強度を有する。繊維強度はJIS L 1015に準じて測定される値である。透明レーヨンがこの範囲内の強度を有する場合には、不織布の柔軟性が向上する。また、透明レーヨンは、セルロースの平均重合度が200〜350のものであることが好ましい。セルロースの平均重合度がこの範囲内にある場合にもまた、不織布の柔軟性が向上する。
【0037】
[ビスコースレーヨンの製造方法]
透明レーヨンは、通常のビスコースレーヨンを製造する際に用いられる組成のビスコース液に、ビスコースに対してPEGを0.1質量%〜1.0質量%の範囲内で、炭酸ナトリウムを0.5質量%〜4.5質量%の範囲内となるように添加したものを紡糸して製造してよい。PEGは上記のとおり、再生浴での再生速度を低減させる役割をし、単一構造を有し、横断面の輪郭が凹凸を有しない、又は凹凸の起伏が小さいレーヨンが得られることを可能にする。PEGの割合が小さすぎると、再生速度を低下させることができず、多すぎると、再生速度が低下しすぎて、生産性良く繊維を製造することができないことがある。炭酸ナトリウムの添加量が上記範囲内であれば上述した扁平度が1に近い繊維を得られやすくなり、多すぎると繊維が中空となることがある。あるいは、ビスコースには、ビスコースに添加することによって、ビスコースの再生速度を低減させるPEG以外の成分、例えば、ジメチルアミン、シクロヘキシルアミン、およびヘキサメチレンジアミンから選択される1または複数のアミンを、PEGに代えて、またはPEGとともに添加してよい。
【0038】
PEGはまた、得られる不織布の柔軟性を向上させる役割をすると考えられる。PEGは異物としてセルロース分子間の結合を阻害し、それにより不織布の柔軟性を向上させると考えられる。また、PEGは、親水性であるため、不織布(即ち、それに含まれるレーヨン)に液体を含浸させたときに、繊維中のPEGと水とがなじんで、湿潤状態の不織布の柔軟性を向上させると考えられる。透明レーヨンには、PEG以外の成分、例えば、ケイ酸塩が、PEGとともに、またはPEGに代えて含まれていてよい。PEG以外の成分も、異物として繊維の柔軟性向上に寄与し得る。PEG以外の成分も好ましくは親水性である。透明レーヨンの親水性を向上させるPEG以外の成分は、前記したビスコースの再生速度を低減させるものであってよい。
【0039】
透明レーヨンは、例えば、PEGおよび炭酸ナトリウムを添加したビスコース液を、通常のビスコースレーヨンの製造に用いられる再生浴中に紡糸することにより製造できる。例えば、再生浴として、硫酸濃度70g/l〜150g/l、硫酸亜鉛濃度0〜30g/l、硫酸ナトリウム濃度150g/l〜350g/lのものを使用できる。再生浴温度は特に制限されないが、一般には45℃〜55℃である。他の条件も標準的なものであってよい。紡糸後は、通常のレーヨンの製造と同様に、水洗、脱硫、および漂白に付され、その後、水洗、および乾燥に付される。乾燥した繊維は所定の繊維長に切断される。
【0040】
あるいは、透明レーヨンは、通常のビスコースレーヨンを製造する際に用いられる組成のビスコース液に、セルロースの質量に対し、アルカリ金属を含む珪酸化合物、例えば、珪酸ソーダを、硫酸と反応した後の二酸化珪素に換算して、10質量%〜100質量%の範囲内となるように添加したものを紡糸して製造してよい。アルカリ金属を含む珪酸化合物の添加量は、セルロースの質量に対し、硫酸と反応した後の二酸化珪素に換算して、好ましくは25質量%〜70質量%の範囲内であってよい。アルカリ金属を含む珪酸化合物は上記のとおり、再生浴での再生速度を低減させる役割をし、単一構造を有し、横断面の輪郭が凹凸を有しない、又は凹凸の起伏が小さいレーヨンが得られることを可能にする。アルカリ金属を含む珪酸化合物の割合が小さすぎると、再生速度を低下させることができず、多すぎると繊維の強度が低下することがある。
【0041】
アルカリ金属を含む珪酸化合物、特に珪酸ソーダを添加したビスコース液を、通常のビスコースレーヨンの製造に用いられる再生浴中に紡糸することにより、透明レーヨンを製造することができる。例えば、再生浴として、硫酸濃度110g/l〜170g/l、硫酸亜鉛濃度10〜30g/l、硫酸ナトリウム濃度150g/l〜350g/lのものを使用できる。再生浴温度は特に制限されないが、例えば、45℃〜65℃である。他の条件も標準的なものであってよい。紡糸後は、通常のレーヨンの製造と同様に、水洗、脱硫、および漂白に付され、その後、水洗、および乾燥に付される。乾燥した繊維は所定の繊維長に切断される。
【0042】
[不織布]
本発明の液体含浸シート用の不織布は、上記で説明した透明レーヨンを含むことにより、湿潤状態で高い透明性を示す。本発明の不織布の構成等は特に限定されない。例えば、不織布は、パラレルウェブ、クロスウェブ、セミランダムウェブおよびランダムウェブ等のカードウェブ、エアレイウェブ、湿式抄紙ウェブ、ならびにスパンボンドウェブ等から選択される任意のウェブからなるものであってよい。不織布において、繊維同士は、水流交絡処理法またはニードルパンチ法により交絡されて一体化していてよく、あるいはサーマルボンドまたはケミカルボンドにより一体化していてよい。
【0043】
いずれの形態の不織布においても、透明レーヨンは好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含まれる。透明レーヨンのみで不織布が構成されていてもよい。透明レーヨンの割合が多いほど、不織布の湿潤状態の透明性は向上する。
【0044】
透明レーヨンでない他の繊維が不織布に含まれる場合、当該他の繊維は、特に限定されず、天然繊維、透明レーヨン以外の再生繊維、半合成繊維、木材パルプおよび非木材パルプ等のパルプ繊維、および合成繊維から選択される一または複数の繊維であってよい。天然繊維は、例えば、コットン、麻、シルクおよびウールであり、再生繊維(透明レーヨンを除く)は、通常のビスコースレーヨン、溶剤紡糸セルロース繊維(例えば、テンセル(登録商標))、および銅アンモニアレーヨン(キュプラとも呼ばれる)、ポリノジック等である。
【0045】
合成繊維は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸およびその共重合体などから選択されるポリエステル系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテンなどから選択されるポリオレフィン系樹脂;ナイロン6、ナイロン12およびナイロン66などから選択されるポリアミド系樹脂;ならびにアクリル系樹脂から選択される一又は複数の樹脂で形成される、単一繊維または複合繊維(例えば、芯鞘型複合繊維、分割型複合繊維等)である。
【0046】
他の繊維は、不織布により多くの液体を含浸させるためには、親水性であることが好ましい。繊維が親水性であるとは、その公定水分率が5%以上であることを指す。親水性繊維は上記天然繊維のほか、親水性を有する合成繊維、および疎水性の合成繊維(公定水分率が5%未満の合成繊維)に親水化処理を施したもの等である。親水化処理として、例えば、コロナ放電処理、スルホン化処理、グラフト重合処理、繊維への親水化剤の練り込み、および耐久性油剤の塗布が挙げられる。
【0047】
他の繊維の繊度および繊維長は特に限定されず、不織布の所望の形態および物性に応じて選択され、その例は上記において透明レーヨンに関連して説明したとおりである。
他の繊維は透明レーヨンと混合して用いてよい。あるいは、不織布は透明レーヨンからなる層と他の繊維からなる層とを積層してなる積層不織布であってもよい。
【0048】
不織布の目付は、液体含浸シートの用途等に応じて選択され、例えば、10g/m
2〜200g/m
2としてよい。液体含浸シートがフェイスマスクである場合には、不織布の目付は、例えば30g/m
2〜100g/m
2、特に35g/m
2〜50g/m
2であってよい。目付が大きいほど、不織布の湿潤状態での透明性は低下する傾向にある。
【0049】
上記のとおり、本発明の不織布は透明レーヨンそれ自体が光の反射/屈折を抑制することにより、湿潤状態の透明性が向上したものである。さらに、透明レーヨンは、水流交絡処理法により製造される不織布において、水流の衝突により繊維密度がより小さい領域が占める割合を高くし、それにより不織布の透け性を全体として高くして、不織布の透明性を向上させ得ることがわかった。以下、その点について説明する。
【0050】
水流交絡処理法においては、一定間隔で設けられたオリフィスを有するノズルから水流を噴射させてウェブに当てることにより、繊維同士を交絡させる。したがって、繊維ウェブを細かいメッシュの上に置いて水流交絡処理を実施して得た不織布は、水流の衝突に起因して繊維密度が低減した領域と、当該繊維密度が低減した領域よりも繊維密度の大きい領域とが交互に配置されて、全体として細かなストライプ状の模様を呈する。透明レーヨンを使用した不織布においては、通常のビスコースレーヨンを使用した不織布と比較して、水流の衝突によって、より広い範囲で繊維密度が低下する。繊維密度が低下した領域(低繊維密度領域)は、繊維間に形成された空隙をより大きい割合で含み、高い透け性を示す。
【0051】
図1に、透明レーヨンからなる水流交絡不織布の表面を光学顕微鏡で50倍に拡大して撮影した写真を示す。この水流交絡不織布は、後述する実施例1の不織布であり、繊度2.2dtexの透明レーヨンのみからなる目付40g/m
2程度の湿式抄紙ウェブに、孔径0.13mmのオリフィスが1.0mm間隔で設けられたノズルを用いて、水流交絡処理を施して得た不織布である。ノズルに設けられたオリフィスの孔径は、オリフィスの間隔よりも相当小さいにもかかわらず、
図1においては、水流の衝突により繊維が周囲に移動して形成される低繊維密度領域の幅が、該低繊維密度領域によって挟まれる領域(高繊維密度領域)よりも相当に大きくなっている。一方、通常のビスコースレーヨンからなる同様の構成の不織布を観察しても、水流の衝突により形成される低繊維密度領域の幅は、高繊維密度領域の幅と、それほど変わらない(
図2参照)。
【0052】
透明レーヨンを用いたときに、より広い領域にわたって、水流の衝突に起因して繊維密度が低下する理由は定かではないものの、透明レーヨンは横断面の輪郭が滑らかであって繊維間の摩擦が低減され、水流が繊維に当たったときに移動しやすいために、繊維密度がより広い領域で低下すると考えられる。いずれにしても、透明レーヨンは、水流交絡処理法による形成される不織布の透明性を、不織布に占める低繊維密度領域の割合を増やすことによって有効に向上させ得る。透明レーヨンの使用に起因する低繊維密度領域は、その間に位置するより繊維密度のより高い高繊維密度領域よりも広く、好ましくは低繊維密度領域の幅は高繊維密度領域の幅の2倍以上、より好ましくは3倍以上、さらにより好ましくは4倍以上である。低繊維密度領域の幅が高繊維密度領域の幅よりも大きい程、高い透け性を確保できる。低繊維密度領域の幅は、高繊維密度領域の幅の好ましくは10倍以下、より好ましくは7倍以下、さらにより好ましくは5倍以下である。低繊維密度領域の占める割合が大きすぎると、不織布の機械的物性が低下することがある。
【0053】
低繊維密度領域の占める割合をより大きくするためには、より大きい繊度の透明レーヨンを使用することが好ましく、例えば、繊度2.0dtex以上3.0dtex以下のものが用いられる。ウェブの形態は特に限定されないが、湿式抄紙ウェブを用いると低繊維密度領域の割合がより大きくなる傾向にある。
【0054】
低繊維密度領域が占める割合の大きい不織布を得るための水流交絡処理の条件は、一般的に採用されている条件であってよい。例えば、水流交絡処理の際に使用する、ウェブを載せる支持体は、1つあたりの開孔面積が0.2mm
2を超える開孔を有さず、また、突起またはパターンが形成されていないものであってよい。具体的には、支持体は、80メッシュ以上、100メッシュ以下の平織の支持体であることが好ましい。水流交絡処理は、孔径0.05mm以上、0.5mm以下のオリフィスが0.3mm以上、1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧1MPa以上、15MPa以下の水流を、繊維ウェブの表裏面にそれぞれ1〜5回ずつ噴射することにより実施してよい。水圧は、好ましくは、1MPa以上、10MPa以下であり、より好ましくは、1MPa以上、7MPa以下である。
【0055】
本発明の液体含浸シート用不織布は、湿潤状態で高い透明性を示すので、液体を含浸させた状態で対象物に貼り付けたときに、その下の対象物の視認をより容易にする。湿潤状態での透明性は、例えば、黒色のアクリル板の上に、不織布100質量部に対して700質量部の水を含浸させた不織布を貼り付け、不織布に照射した光の反射光の明度L
*を測定することによって評価できる。反射光のL
*が小さいほど、透明性が高いといえる。湿潤状態での不織布の反射光のL
*は好ましくは26以下、より好ましくは22以下である。あるいは、不織布の透明性は、乾燥した状態の不織布を黒色のアクリル板の上に置き、これの反射光の明度L
*を測定することによっても評価できる。乾燥した状態の不織布のL
*が大きいほど、湿潤状態の透明性は高い。
【0056】
あるいはまた、湿潤状態での不織布の透明性は、湿潤状態の不織布を透過する光の明度L
*を測定することによっても評価できる。透過光の明度L
*により透明性を評価する場合、L
*が大きいほど、透明性が高いといえる。湿潤状態での不織布の透過光のL
*は好ましくは22以上、より好ましくは23以上、さらに好ましくは24以上である。あるいは、不織布の透明性は、乾燥した状態の不織布に光を透過させ、透過光の明度L
*を測定することによっても評価できる。乾燥した状態の不織布の透過光のL
*が大きいほど、湿潤状態の透明性は高い。
湿潤状態での透過光の明度L
*は、不織布100質量部に対して700質量部の水を含浸させ、これを直径28mmの開孔部を有する支持体で把持し、把持した不織布を透過する光の明度L
*を測定することによって評価できる。あるいは、不織布の透明性は、乾燥した状態の不織布を直径28mmの開孔部を有する支持体で把持し、把持した不織布を透過する光の明度L
*を測定することによっても評価できる。
【0057】
別法として、不織布の透明性は、液体を含浸させていない乾燥した状態の光の透過率を測定することによっても評価できる。乾燥した状態での光の透過率が高いほど、湿潤状態での透明性が高くなる。本発明の液体含浸シート用不織布は、乾燥した状態にて、400nm〜800nmの範囲の波長の光について分光光度計で測定される透過率の平均値(算術平均値)が、好ましくは57%以上、より好ましくは60%以上であるような透明性を有する。
【0058】
本発明の液体含浸シート用不織布は、縦方向の剛軟度が好ましくは55mm以下、より好ましくは50mm以下、横方向の剛軟度が好ましくは25mm以下、より好ましくは23mm以下であるものである。剛軟度はJIS L 1096(45°カンチレバー法)に準じて測定される。剛軟度がこの範囲内にあるように構成した不織布は、柔らかく、対象物への追随性が良好となり、人体の皮膚、特に凹凸の多い顔面に良好に密着させることができる。
【0059】
[液体含浸シート]
本発明の不織布は液体を含浸させるためのものである。液体の種類および含浸量は、用途に応じて選択される。例えば、液体含浸シートを、対人用のウェットワイピングシートとして提供する場合には、水、または洗浄成分を含む水性溶液等を不織布100質量部に対して、100質量部以上、1000質量部以下の含浸量で含浸させてよい。対人用のウェットワイピングシートは、より具体的には、例えば、お手拭き、おしり拭き、経血拭き、化粧落とし用シート、洗顔シート、制汗シート、およびネイルリムーバーとして提供される。
【0060】
液体含浸シートを対人用フェイスマスク、および角質ケアシート等の対人用液体含浸皮膚被覆シートとして提供する場合には、有効成分を含む液体(例えば化粧料)を不織布100質量部に対して、150質量部以上、2500質量部以下、好ましくは400質量部以上、2000質量部以下の含浸量で含浸させてよい。有効成分は、例えば、保湿成分、角質柔軟成分、クレンジング成分、制汗成分、香り成分、美白成分、血行促進成分、紫外線防止成分、および痩身成分等であるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
フェイスマスクは、顔を被覆するのに適した形状を有し、さらに、例えば、目、鼻および口に相当する部分に、必要に応じて打ち抜き加工による開口部又は切り込み部が設けられた形態で提供される。あるいは、フェイスマスクは、顔の一部分(例えば、目元、口元、鼻または頬)のみを覆うような形状のものであってよい。あるいはまた、フェイスマスクは、目の周囲を覆うシートと、口の周囲を覆うシートとから成るセットとして提供してよく、あるいは3以上の部分を別々に覆うシートのセットとして提供してよい。
【0062】
あるいは、液体含浸シートは、対物用途のものであってよく、対象物に液体を供給する目的で、または対象物が湿潤した状態を保つ目的で、対象物に貼り付けて使用してよい。具体的には、本発明の液体含浸シートは、こびりついた汚れを軟らかくする、または対象物からこびりついた汚れを分離する目的で用いられる、洗浄剤等を含浸させたものであってよい。
【0063】
本発明には以下の態様のものが含まれる。
(態様1)
液体を含浸させた状態で用いる液体含浸シートの基材として用いる不織布であって、
横断面が単一構造を有し、横断面の輪郭が円形、楕円形もしくは繭玉形、または切れ目を有する円形、楕円形もしくは繭玉形である、ビスコースレーヨンを含む、
不織布。
(態様2)
液体を含浸させた状態で用いる液体含浸シートの基材として用いる不織布であって、
横断面が単一構造を有し、かつ以下の式により求められる横断面の凹凸度が2.0以下である、ビスコースレーヨンを含む、不織布。
凹凸度=L
2/(4π・S)
(式中、Lは横断面の周長、Sは横断面の面積である。)
(態様3)
前記ビスコースレーヨンが、繊維側面の顕微鏡写真から求められる凹部を3未満有する、態様1または2の不織布。
(態様4)
液体を含浸させた状態で用いる液体含浸シートの基材として用いる不織布であって、
横断面が単一構造を有し、かつ以下の式により求められる横断面の扁平度が1.80以上であり、かつ以下の式により求められる横断面の凹凸度が2.50以下である、ビスコースレーヨンを含む、不織布。
扁平度=a/b
(式中、aは横断面の任意の二点を結ぶ最長の線分Aの長さであり、bは線分Aに対して垂直であり、かつ線分Aと平行な線分とともに横断面に外接する長方形または正方形を構成する線分の長さである。)
凹凸度=L
2/(4π・S)
(式中、Lは横断面の周長、Sは横断面の面積である。)
(態様5)
前記ビスコースレーヨンが、繊維側面の顕微鏡写真から求められる凹部を3未満有する、態様4の不織布。
(態様6)
液体を含浸させた状態で用いる液体含浸シートの基材として用いる不織布であって、
横断面が単一構造を有し、かつ繊維側面の顕微鏡写真から求められる凹部を3未満有する、ビスコースレーヨンを含む、不織布。
(態様7)
前記ビスコースレーヨンがポリエチレングリコールを含む、態様1、2、3、または6の不織布。
(態様8)
前記ビスコースレーヨンが二酸化珪素を含む、態様1、4、5、または6の不織布。
(態様9)
態様1〜8のいずれかの不織布を基材とし、当該基材100質量部に、液体が150質量部以上、2500質量部以下の割合で含浸されている液体含浸シート。
(態様10)
フェイスマスクである、態様9の液体含浸シート。
(態様11)
液体を含浸させた状態で用いる液体含浸シートの基材として用いる不織布用のビスコースレーヨンであって、
横断面が単一構造を有し、かつ以下の式により求められる横断面の凹凸度が2.0以下である、ビスコースレーヨン。
凹凸度=L
2/(4π・S)
(式中、Lは横断面の周長、Sは横断面の面積である。)
(態様12)
液体を含浸させた状態で用いる液体含浸シートの基材として用いる不織布用のビスコースレーヨンであって、
横断面が単一構造を有し、横断面の輪郭が円形、楕円形もしくは繭玉形、または切れ目を有する円形、楕円形もしくは繭玉形である、ビスコースレーヨン。
(態様13)
液体を含浸させた状態で用いる液体含浸シートの基材として用いる不織布用のビスコースレーヨンであって、
横断面が単一構造を有し、かつ以下の式により求められる横断面の扁平度が1.80以上であり、かつ以下の式により求められる横断面の凹凸度が2.50以下である、ビスコースレーヨン。
扁平度=a/b
(式中、aは横断面の任意の二点を結ぶ最長の線分Aの長さであり、bは線分Aに対して垂直であり、かつ線分Aと平行な線分とともに横断面に外接する長方形または正方形を構成する線分の長さである。)
凹凸度=L
2/(4π・S)
(式中、Lは横断面の周長、Sは横断面の面積である。)
(態様14)
液体を含浸させた状態で用いる液体含浸シートの基材として用いる不織布用のビスコースレーヨンであって、
横断面が単一構造を有し、かつ繊維側面の顕微鏡写真から求められる凹部を3未満有する、ビスコースレーヨン。
(態様15)
液体含浸シートがフェイスマスクである、態様11〜14のいずれかのビスコースレーヨン。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
【0065】
[繊維1](透明レーヨン)
セルロース含有量8.5質量%、水酸化ナトリウム添加量5.7%および二硫化炭素32%(セルロースの質量に基づく)の組成で、落球粘度が56秒、塩化アンモニウム価が17ccのビスコースを用意した。このビスコースに、60℃に加温溶融した平均分子量約1500のポリエチレングリコール(日油(株)製、商品名PEG#1540)を、ビスコースに対して0.6質量%添加した。次に炭酸ナトリウム((株)トクヤマ社製、商品名ソーダ灰炭酸ナトリウム)を水に溶解して、22質量%の炭酸ナトリウム水溶液を得、これをビスコースに対して炭酸ナトリウムが2.2質量%となるように添加し、これらが十分に混和するまで攪拌した。このときビスコースの温度は20℃であった。このビスコース液を硫酸110g/l、硫酸亜鉛14g/l、硫酸ナトリウム350g/lの再生浴中に紡糸速度50m/min、延伸率40%で紡糸し、繊度2.2dtexのビスコースレーヨンのトウを得た。これを繊維長7mmに切断して、脱硫、漂白した。
【0066】
得られたビスコースレーヨンを上記の方法でスキンコア染色し、染色後の状態を確認したところ(光学顕微鏡、640倍)、繊維の横断面の内周部と外周部との間で染色性(染色後の色の濃淡)に顕著な差が見られず、単一構造のものであることを確認した(
図8)。また、光学顕微鏡により640倍に拡大して観察したところ、横断面の輪郭は円形、楕円形、または繭玉形であって、起伏の大きい凹凸を有していなかった。さらに、側面において筋状の凹部は観察されなかった。また、得られた繊維の乾強度は1.81cN/dtex、湿強度は0.94cN/dtexであった。
【0067】
[繊維2](透明レーヨン)
繊度が0.8dtexとなるようにしたことを除いては、繊維1の製造と同様の条件および方法で透明レーヨンを得た。得られた繊維の乾強度は2.06cN/dtex、湿強度は1.06cN/dtexであった。
【0068】
[繊維3]
ビスコースにポリエチレングリコールおよび炭酸ナトリウムを添加しなかったことを除いては、繊維1の製造と同様の条件および方法で、繊度2.2dtexのビスコースレーヨンを得た。得られたビスコースレーヨンは、上記の方法でスキンコア染色し、染色後の状態を確認したところ(光学顕微鏡、640倍)、繊維の横断面の輪郭に沿って色の濃い部分(スキン部)と、色の濃い部分により囲まれた色の薄い部分(コア部)の存在が確認され、スキンコア構造を有していることを確認した(
図7)。また、光学顕微鏡により640倍に拡大して観察したところ、横断面の輪郭が菊花形状であって、凹凸を多数有し、また、繊維の側面に筋状の凹部が多数存在していた。また、得られた繊維の乾強度は2.30cN/dtex、湿強度は1.30cN/dtexであった。
【0069】
[繊維4]
ビスコースにポリエチレングリコールおよび炭酸ナトリウムを添加しなかったことを除いては、繊維2の製造と同様の条件および方法で、繊度0.8dtexのビスコースレーヨンを得た。得られたビスコースレーヨンは、スキンコア構造を有し、また、横断面の輪郭が菊花形状であって、凹凸を多数有し、また、繊維の側面に筋状の凹部が多数観察された。また、得られた繊維の乾強度は2.30cN/dtex、湿強度は1.30cN/dtexであった。
【0070】
[繊維5](透明レーヨン)
繊維1と同様の条件および方法で紡糸し、繊維長を40mmとした透明レーヨンを得た。
【0071】
[繊維6]
繊維3と同様の条件および方法で紡糸し、繊維長を51mmとしたレーヨンを得た。
【0072】
[繊維7]
繊度2.8dtex、繊維長38mmの溶剤紡糸セルロース繊維(レンチング社製、商品名テンセル)を用意した。
【0073】
[繊維8−1](透明レーヨン)
繊度が1.7dtex、繊維長が40mmとなるようにしたことを除いては、繊維1の製造と同様の条件および方法で透明レーヨンを得た。得られた繊維の乾強度は1.95cN/dtex、湿強度は0.98cN/dtexであった。
【0074】
[繊維8−2](透明レーヨン)
ポリエチレングリコールを、ビスコースに対して0.5質量%添加したこと、繊度が1.7dtex、繊維長が40mmとなるようにしたことを除いては、繊維1の製造と同様の条件および方法で透明レーヨンを得た。得られた繊維の乾強度は1.98cN/dtex、湿強度は1.02cN/dtexであった。
【0075】
[繊維8−3](透明レーヨン)
炭酸ナトリウムを添加しなかったこと、繊度が1.7dtex、繊維長が40mmとなるようにしたことを除いては、繊維1の製造と同様の条件および方法で透明レーヨンを得た。得られた繊維の乾強度は2.05cN/dtex、湿強度は1.03cN/dtexであった。
【0076】
[繊維9]
ビスコースにポリエチレングリコールおよび炭酸ナトリウムを添加しなかったこと、繊度が1.7dtex、繊維長が38mmとなるようにしたことを除いては、繊維1の製造と同様の条件および方法でビスコースレーヨンを得た。得られた繊維の乾強度は2.33cN/dtex、湿強度は1.32cN/dtexであった。
【0077】
[繊維10](透明レーヨン)
セルロース含有量8.5質量%、水酸化ナトリウム添加量5.7質量%および二硫化炭素32質量%(セルロースの質量に基づく)の組成で、ビスコース原液を作製した。次いで、作製したビスコース原液中に、3号珪酸ソーダと水酸化ナトリウムと水の混合溶液を添加し、ビスコース液の組成がセルロース7.2質量%、水酸化ナトリウム7.4質量%になるように調整して、珪酸ソーダ添加ビスコース液を得た。珪酸ソーダの添加率はSiO
2に換算して、セルロース質量に対して50質量%であった。
【0078】
前記珪酸ソーダ添加ビスコース液を、二浴緊張紡糸法により紡糸速度50m/min、延伸率50%で紡糸して、繊度が約2.2dtexのビスコースレーヨンのトウを得た。第一浴(紡糸浴)の組成は、硫酸115g/リットル、硫酸亜鉛15g/リットル、硫酸ナトリウム350g/リットルであり、温度は48℃とした。第二浴(熱水浴)の温度は85℃とした。
【0079】
前記トウを、カッターを用いて繊維長38mmに切断した後、熱水処理、漂白、酸洗いおよび水洗に付し、その後乾燥させた。得られた繊維の乾強度は1.27cN/dtex、湿強度は0.60N/dtexであった。繊維10の横断面を示す電子顕微鏡写真を
図9に示す。
また、得られた繊維の珪素含有量を蛍光X線分析により測定したところ17質量%であった。蛍光X線分析は以下の手順に従って実施した。
【0080】
[蛍光X線分析]
蛍光X線分析は、島津製作所製蛍光X線分析装置“LAB CENTER XRF−1700”を用いて、FP法による理論計算により測定した。この測定装置の概略と測定条件は、次のとおりである。
(i)測定装置の概略
測定元素範囲
4Be〜
92U
X線管 4kw薄窓,Rhターゲット
分光素子 LiF,PET,Ge,TAP,SX
1次X線フィルタ 4種自動交換(Al,Ti,Ni,Zr)
視野制限絞り 5種自動交換(直径1,3,10,20,30mmφ)
検出器 シンチレーションカウンタ(重元素)、プロポーショナルカウンタ(軽元素)
(ii)測定条件
管電圧−管電流 40kw−95mA
カットファイバーを用いて測定した。照射面は直径10mmφで厚み数mmに調整し、上方から照射して下方に透過させて測定した。
【0081】
[繊維11]
セルロース含有量8.5質量%、水酸化ナトリウム添加量5.7%および二硫化炭素32%(セルロースの質量に基づく)の組成で、落球粘度が56秒、塩化アンモニウム価が17ccのビスコースを用意した。このビスコースに、60℃に加温溶融した平均分子量約1500のポリエチレングリコール(日油(株)製、商品名PEG#1540)を、ビスコースに対して0.2質量%添加した。次に炭酸ナトリウム((株)トクヤマ社製、商品名ソーダ灰炭酸ナトリウム)を水に溶解して、22質量%の炭酸ナトリウム水溶液を得、これをビスコースに対して炭酸ナトリウムが2質量%となるように添加し、これらが十分に混和するまで攪拌した。このときビスコースの温度は20℃であった。このビスコース液を硫酸110g/l、硫酸亜鉛14g/l、硫酸ナトリウム350g/lの再生浴中に紡糸速度50m/min、延伸率40%で紡糸し、繊度1.7dtexのビスコースレーヨンのトウを得た。これを繊維長51mmに切断して、脱硫、漂白した。
電子顕微鏡により1000倍に拡大して観察したところ、
図10に示すとおり、横断面の輪郭は円形、楕円形、または繭玉形であって、深い切れ目を一つ有し、その他に起伏の大きい凹凸を有していなかった。さらに、側面において、前記切れ目以外に筋状の凹部は観察されなかった。
得られた繊維の乾強度は2.16cN/dtex、湿強度は1.22cN/dtexであった。
【0082】
[繊維12]
繊度1.7dtex、繊維長38mmの溶剤紡糸セルロース繊維(レンチング社製、商品名テンセル)を用意した。
【0083】
繊維1〜3、5、6、8−1〜3、9〜11について、横断面の周長および面積、凹凸度、扁平度ならびに繊維側面に存在する凹部の数を、先に説明した方法に従って測定した。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
[実施例1〜2、比較例1〜2]
繊維1および2、ならびに繊維3および4をそれぞれ湿式抄紙して目付約40g/m
2の湿式抄紙ウェブを得た。この湿式抄紙ウェブに、水流交絡処理を施して、繊維同士を交絡させた。水流交絡処理は、孔径0.13mmのオリフィスが1.0mm間隔で設けられたノズルを用いてウェブの一方の面に2MPaの柱状水流を1回噴射し、他方の面に4MPaの柱状水流を1回噴射し、続いて、先に柱状水流を噴射した面に4MPaの柱状水流をもう1回噴射して実施した。続いて、繊維ウェブを乾燥処理に付して不織布を得た。
実施例1の不織布の表面を光学顕微鏡で50倍に拡大して撮影した写真を
図1に示す。
【0086】
[実施例3、比較例3〜5]
繊維5〜8をそれぞれ用いて、ランダムカード機で、目付40g/m
2のランダムウェブを作製した。このランダムウェブに、水流交絡処理を施して、繊維同士を交絡させた。水流交絡処理は、孔径0.13mmのオリフィスが1.0mm間隔で設けられたノズルを用いてウェブの一方の面に3MPaの柱状水流を1回噴射し、他方の面に5MPaの柱状水流を1回噴射し、続いて、先に柱状水流を噴射した面に5MPaの柱状水流をもう1回噴射して実施した。続いて、繊維ウェブを乾燥処理に付して不織布を得た。
実施例3の不織布の表面を光学顕微鏡で50倍に拡大して撮影した写真を
図2に示す。
【0087】
実施例1〜3、および比較例1〜5の不織布の目付および厚さを表2に示す。また、実施例1〜3、および比較例1〜5の不織布の透明性を評価するために、乾燥状態および湿潤状態の反射光のL
*を求めた。各不織布のL
*を表2に示す。厚さおよびL
*の求め方は下記のとおりである。
(厚さ)
厚み測定機(商品名 ID-C1012CX (株)ミツトヨ製)を用い、試料1cm
2あたり3gおよび20gの荷重を加えた状態でそれぞれ測定した。
(反射光のL
*の求め方)
乾燥状態:不織布を黒色のアクリル板の表面に置き、測色色差計(日本電色工業(株)製、商品名ZE-2000)を用いて、不織布からの反射光のL
*、a
*およびb
*を測定し、測定値から黒色アクリルのL
*、a
*およびb
*値(2.91、-1.11、0.63)を引いて、各不織布のL
*、a
*およびb
*を求めた。
湿潤状態:不織布100質量部に対して700質量部の水を含浸させ、黒色のアクリル板の表面に密着させ、その状態で、測色色差計(日本電色工業(株)製、商品名ZE-2000)を用いて、不織布からの反射光のL
*、a
*およびb
*を測定し、測定値から黒色アクリルのL
*、a
*およびb
*値(2.91、-1.11、0.63)を引いて、各不織布のL
*、a
*およびb
*を求めた。
【0088】
【表2】
【0089】
また、実施例1、2、比較例1、2の不織布の透明性を評価するために、下記の方法で光透過率を測定した。測定結果としての吸収スペクトルを
図3に示すとともに、400nm〜800nmの透過率の平均値(算術平均値)を下記に示す。
実施例1 63.0%
実施例2 62.1%
比較例1 54.6%
比較例2 55.4%
(光透過率の測定)
分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製、商品名U-3900)を用いて、250nm〜900nmの範囲について吸収スペクトルを得た。
【0090】
実施例3、比較例3〜5の不織布について、JIS L 1096(45°カンチレバー法)に準じて剛軟度を測定した。各実施例について2つの試料を用意し、各試料につき縦方向および横方向の剛軟度を測定し、平均を求めた。測定結果を表3に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
実施例3、比較例3および5で使用した繊維の二次膨潤度、ならびに実施例3、比較例3および5の不織布の吸水率を、下記の方法で測定した。各実施例について、2つの試料を用意して、二次膨潤度および吸水率を測定し、平均を求めた。測定結果を表4に示す。
【0093】
【表4】
【0094】
(二次膨潤度)
各実施例または比較例で使用した繊維を解繊し、1.5gを秤取する。別に、純水150mlを入れた三角フラスコを、25℃の低温用恒温水槽に20分浸しておく。秤取した繊維を、三角フラスコに入っている純水に浸し、30分間浸漬する。浸漬後、試料を取り出し手で絞った後、ガラス玉を入れた沈殿管に移す。沈殿管を遠心分離器にセットし、遠心力1000〜1050Gとして、15分脱水する。脱水後、試料をひょう量缶に移し、脱水後の質量(脱水試料質量)を測定する。その後、乾燥させ、乾燥後、ひょう量缶をシリカゲルデシケーターに入れて約1時間放冷する。放冷後、試料の絶乾質量(絶乾試料質量)を測定し、試料の脱水後質量と絶乾質量をもとに、下記式にて原綿の二次膨潤度を算出する。
二次膨潤度(%)=(脱水試料質量−絶乾試料質量)/絶乾試料質量×100
【0095】
(吸水率)
(1)8cm×8cmの試験片を準備する。
(2)適当な大きさの容器に水を入れ、試験片を15分間浸漬する。
(3)浸漬後、ピンセットで試験片を水中から取り出して、1分間水を滴り落とした後、質量を測定し、下記式より吸水率を算出する。
吸水率(%)=(m2−m1)/m1×100
(式中、m1は試験片の標準状態での質量(g)、m2は試験片を湿潤し、水を滴り落とした後の質量(g)である。)
【0096】
湿式ウェブから作製した繊維長の短い繊維から成る不織布のうち、実施例1は、乾燥状態および湿潤状態のL
*が最も低く、光透過率が可視光領域(約400nm〜800nm)において最も高かった。実施例2もまた高い透明性を示した。カードウェブから不織布を作製した場合でも、透明レーヨンから成る不織布(実施例3)は高い透明性を示した。
通常のビスコースレーヨンで構成した不織布(比較例1〜3)は、湿式抄紙ウェブおよびカードウェブから作製した不織布のいずれについても、実施例と比較して、L
*が高かった。溶剤紡糸セルロース繊維のカードウェブから成る不織布(比較例4および5)も、実施例3の不織布と比較して、L
*が高かった。
【0097】
これらの結果から、透明レーヨンの使用により、湿潤状態で高い透明性を示す不織布が得られることが分かる。また、透明レーヨンで構成した不織布は、
図1に示すように低繊維密度領域の割合が大きく、このことによっても透明性が高くなっていると考えられる。
【0098】
本発明の不織布は、剛軟度の値から見て、通常レーヨンを用いた比較例3の不織布よりもやや硬いものであったが、溶剤紡糸セルロース繊維を用いた比較例4および5の不織布と比較して柔らかいものであった。
【0099】
本発明の不織布(実施例3)を構成する透明レーヨンは、通常のビスコースレーヨン(比較例4で用いた繊維)と同程度の二次膨潤度を有し、溶剤紡糸セルロース繊維(比較例5で用いた繊維)よりも高い二次膨潤度を有していた。同様に、本発明の不織布(実施例3)は、通常のビスコースレーヨンからなる比較例4の不織布と同程度の吸水率を示し、溶剤紡糸セルロース繊維からなる比較例5の不織布よりも高い吸水率を示した。これらのことから、本発明の不織布は、例えば特許文献1で例示されている溶剤紡糸セルロース繊維で構成した保液シートよりも高い吸水性および保液性を有するといえる。また、本発明の不織布は吸水率が高いために湿潤状態でより多くの水を保持しやすく、そのことは透明レーヨンの繊維断面構造等に起因する高い透明性と相俟って、湿潤状態での不織布の透明性向上に寄与すると考えられる。
【0100】
[実施例4〜5、比較例6〜7]
表5に示す繊維をそれぞれ用いて、表5に示す目付の湿式抄紙ウェブを得た(いずれも50g/m
2狙い)。この湿式抄紙ウェブに、水流交絡処理を施して、繊維同士を交絡させた。水流交絡処理は、孔径0.13mmのオリフィスが1.0mm間隔で設けられたノズルを用いてウェブの一方の面に2MPaの柱状水流を1回噴射し、他方の面に4MPaの柱状水流を1回噴射し、続いて、先に柱状水流を噴射した面に4MPaの柱状水流をもう1回噴射して実施した。続いて、繊維ウェブを乾燥処理に付して不織布を得た。
【0101】
[実施例6〜10、比較例8〜11]
表5に示す繊維をそれぞれ用いて、ランダムカード機で、表5に示す目付のランダムウェブを作製した。このランダムウェブに、水流交絡処理を施して、繊維同士を交絡させた。水流交絡処理は、孔径0.13mmのオリフィスが1.0mm間隔で設けられたノズルを用いてウェブの一方の面に3MPaの柱状水流を1回噴射し、他方の面に5MPaの柱状水流を1回噴射し、続いて、先に柱状水流を噴射した面に5MPaの柱状水流をもう1回噴射して実施した。続いて、繊維ウェブを乾燥処理に付して不織布を得た。
【0102】
実施例4〜10、および比較例6〜11の不織布の透明性を評価するために、乾燥状態および湿潤状態の透過光のL
*を求めた。各不織布のL
*を表5に示す。透過光のL
*の求め方は下記のとおりである。
(透過光のL
*の求め方)
乾燥状態:直径28mmの開孔部を有する支持体に不織布を把持し、測色色差計(日本電色工業(株)製、商品名ZE-2000)を用いて不織布を透過する光のL
*を測定し、各不織布のL
*を求めた。
湿潤状態:不織布100質量部に対して700質量部の水を含浸させ、直径28mmの開孔部を有する支持体に不織布を把持し、測色色差計(日本電色工業(株)製、商品名ZE-2000)を用いて不織布を透過する光のL
*を測定して、各不織布のL
*を求めた。
【0103】
【表5】
【0104】
湿式不織布および乾式不織布のいずれについても、繊度および目付がほぼ同じである場合には、透明レーヨンを用いた実施例の湿潤状態での透過光のL
*は、透明レーヨンを用いていない比較例よりも大きく、高い透明性を示した。このことは、具体的には、実施例4と比較例6との比較、実施例5と比較例7との比較、実施例6〜8と比較例8との比較、実施例9と比較例9との比較、および実施例10と比較例10との比較から明らかである。
【0105】
[実施例11〜12、比較例12〜14]
表6に示す繊維をそれぞれ用いて、ランダムカード機で、表6に示す目付のランダムウェブを作製した。このランダムウェブに、水流交絡処理を施して、繊維同士を交絡させた。水流交絡処理は、孔径0.13mmのオリフィスが1.0mm間隔で設けられたノズルを用いてウェブの一方の面に3MPaの柱状水流を1回噴射し、他方の面に5MPaの柱状水流を1回噴射し、続いて、先に柱状水流を噴射した面に5MPaの柱状水流をもう1回噴射して実施した。続いて、繊維ウェブを乾燥処理に付して不織布を得た。
【0106】
実施例11〜12、比較例12〜14の不織布について、乾燥速度を測定した。乾燥速度の測定方法は次のとおりである。
(乾燥速度の測定)
1.原質量(W)を測定したサンプルをチャック付きポリ袋に入れ、Wの700%となる蒸留水を含浸させ、24時間放置する。
2.ポリ袋から取り出したサンプルを質量既知のPEシート上に移し、質量(W0)を測定する。
3.サンプルをPEシート上に静置し、載置後360分までの間の任意時間(n分)に質量(Wn)を測定し記録する。nは、5、10、15、30、60、120、180、240、300、360とする。
4.任意時間経過後の水分率を次の式に従って算出し、グラフ上にプロットする。
水分率[%]=(Wn−W0)/W0×100
5.グラフより、水分率が600%,500%,300%,200%,100%に減少するまでに要する時間を読み取る。
【0107】
各実施例および各比較例について、360分までの水分率の減少を示すグラフを
図6に示すとともに、水分率が600%,500%,300%,200%,100%に減少するまでに要した時間(分)を表6に示す。
【0108】
【表6】
【0109】
実施例11と比較例13とから、乾燥速度に関して、繊度が同じである場合には透明レーヨンよりも通常レーヨンはより遅い乾燥速度を示し、液体をより長い時間にわたって保持した。実施例12は、透明レーヨンが二酸化珪素を含んでいる分だけセルロースの割合が小さく、保液性にやや劣り、乾燥速度が大きくなったものと推察される。溶剤紡糸レーヨンを用いた比較例12は、乾燥速度が最も大きく、吸収した液体を保持する能力は低かった。
【0110】
[実施例13]
繊維11を用いて、ランダムカード機で、目付約45g/m
2のランダムウェブを作製した。このランダムウェブに、水流交絡処理を施して、繊維同士を交絡させた。水流交絡処理は、孔径0.13mmのオリフィスが1.0mm間隔で設けられたノズルを用いてウェブの一方の面に3MPaの柱状水流を1回噴射し、他方の面に5MPaの柱状水流を1回噴射し、続いて、先に柱状水流を噴射した面に5MPaの柱状水流をもう1回噴射して実施した。続いて、繊維ウェブを乾燥処理に付して不織布を得た。
得られた不織布100質量部に対して700質量部の水を含浸させて、腕に貼り付けたところ、比較例8の不織布に水を含浸させたものと比較して、肌の色がより透けて見えた。