特許第6093500号(P6093500)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ メイヨ・ファウンデーション・フォー・メディカル・エデュケーション・アンド・リサーチの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6093500
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】心臓組織治療用細胞組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20170227BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20170227BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20170227BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20170227BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   C12N5/071
   A61K35/28
   A61P9/04
   C12N5/077
   C12Q1/68 A
【請求項の数】13
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2011-511722(P2011-511722)
(86)(22)【出願日】2009年5月20日
(65)【公表番号】特表2011-521645(P2011-521645A)
(43)【公表日】2011年7月28日
(86)【国際出願番号】US2009044714
(87)【国際公開番号】WO2009151907
(87)【国際公開日】20091217
【審査請求日】2012年5月8日
【審判番号】不服2015-5942(P2015-5942/J1)
【審判請求日】2015年4月1日
(31)【優先権主張番号】PCT/US2008/064895
(32)【優先日】2008年5月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501083115
【氏名又は名称】メイヨ・ファウンデーション・フォー・メディカル・エデュケーション・アンド・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】テルジク アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】べファー アッタ
【合議体】
【審判長】 田村 明照
【審判官】 佐々木 秀次
【審判官】 長井 啓子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0019944号明細書
【文献】 国際公開第2006/081190号
【文献】 BARTUNEK,J.,et al.,Am.J.Physiol.Heart Circ.Physiol.,2007,Vol.292,pp.H1095−H1104
【文献】 国際公開第2006/015127号
【文献】 BEHFAR,A.,et al.,The Journal of Experimental Medicine,2007.2.19,Vol.204,No.2,pp.405−420
【文献】 LEV,S.,et al.,Ann.N.Y.Acad.Sci.,2005,Vol.1047,pp.50−65
【文献】 国際公開第2007/012009号
【文献】 特表2007−517831号公報
【文献】 特表2007−537692号公報
【文献】 特表2002−511094号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12N5/00-5/077, C12Q1/00-1/68, A61K1/00-43/00
DB名 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/MIDLINE/EMBASE/BIOSIS
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TGFβ−1、BMP4、α−トロンビン、カルジオトロフィン、カルジオゲノールC、FGF−2、IGF−1、及びアクチビン−Aを有する組成物。
【請求項2】
FGF−4、LIF、VEGF−A及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
IL−6及びレチノイン酸をさらに有する請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
TNF−α、FGF−4、LIF及びVEGF−Aからなる群から選択される少なくとも1つの化合物を欠如している、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
組成物にある化合物が含有される場合、TGFβ−1は1mL当たり1〜5ng、BMP4は1mL当たり1〜10ng、カルジオトロフィンは1mL当たり0.5〜5ng、α−トロンビンは1mL当たり0.5〜5単位、カルジオゲノールCは50〜500nM、FGF−2は1mL当たり1〜10ng、IGF−1は1mL当たり10〜100ng、アクチビン−Aは1mL当たり1〜50ng、FGF−4は1mL当たり1〜20ng、IL−6は1mL当たり10〜100ng、LIFは1mL当たり1〜10単位、VEGF−Aは1mL当たり1〜50ng、レチノイン酸は1mL当たり0.1〜1.0μMの量で含有される、請求項1〜4のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項6】
2.5ng/mLの組換えTGFβ−1である前記TGFβ−1、5ng/mLの前記BMP4、1ng/mLの前記カルジオトロフィン、ならびに100nMの前記カルジオゲノールC、1U/mLの前記α−トロンビン、10ng/mLの前記FGF−2、50ng/mLの前記IGF−1、及び5ng/mLの前記アクチビン−Aを有し、これらを組み合わせて使用する、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
ウシ胎児血清、ヒト血清、血小板溶解物及びそれらの混合物を含有する培地からなる群から選択される培地に含有される、請求項1〜6のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項8】
MEF2cmRNA、MESP−1mRNA、Tbx−5mRNA、GATA4mRNA、Flk−1mRNA、GATA6mRNA、Fog−1mRNA及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つのmRNAの発現が上昇しており、及び/またはNkx2.5ポリペプチド、MEF2Cポリペプチド、Tbx−5ポリペプチド、FOG−2ポリペプチド、GATA−4ポリペプチド、MESP−1ポリペプチド及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドを有する心臓形成細胞を、間葉幹細胞から取得する方法であって、前記少なくとも1つのポリペプチドが前記心臓形成細胞の核に関連し、請求項1〜7のいずれか1つに係る組成物の存在下に前記間葉幹細胞を培養することを有する、心臓形成細胞を取得する方法。
【請求項9】
前記心臓形成細胞のMEF2cmRNA及びMESP−1mRNAの発現が上昇していることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記間葉幹細胞が骨髄由来幹細胞である、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記間葉幹細胞が、細胞表面上にCD90、CD105、CD133、CD166、CD29及びCD44を発現し、細胞表面上にCD14、CD34及びCD45を発現しないことを特徴とする、請求項8又は10に記載の方法。
【請求項12】
哺乳類における虚血性心筋症、心筋梗塞、又は心不全の治療用薬剤の製造方法であって、前記治療用薬剤には心臓形成細胞である分化細胞の集団を含み、前記分化細胞の集団は:(i)間葉幹細胞を、TGFβ−1、BMP4、α−トロンビン、カルジオトロフィン、及びカルジオゲノールCを有する組成物の存在下で培養して培養細胞を作成し、
(ii)前記培養細胞の集団からの細胞検体が、MEF2cmRNA、MESP−1mRNA、Tbx−5mRNA、GATA4mRNA、Flk−1mRNA、GATA6mRNA、Fog−1mRNA及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つのmRNAの発現が上昇しており、及び/または前記分化細胞の核に関与するペプチドである、Nkx2.5ポリペプチド、MEF2Cポリペプチド、Tbx−5ポリペプチド、MESP−1ポリペプチド、GATA−4ポリペプチド、FOG−2ポリペプチド及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドを有する細胞を含有することを確認した上で取得されることを特徴とする薬剤の製造方法。
【請求項13】
前記製造方法のステップ(ii)が、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応を使用することを含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓細胞を取得し、使用することを有する方法及び材料に関する。例えば、本発明は、機能的心筋細胞としての心臓組織に組み込まれた細胞(例えば、分化型心臓前駆細胞または心臓形成細胞)を有する、哺乳類の心臓組織を提供する方法及び材料に関する。
【0002】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2008年5月27日出願の国際出願第PCT/US2008/064895号の優先権を請求する。
【背景技術】
【0003】
心臓血管疾患は、患者管理の進歩にもかかわらず、世界的に罹患及び死亡の主な原因である。高い修復能を有する組織とは対照的に、心臓組織は修復不可能な損傷を受けやすい。従って、細胞による心血管再生医療が臨床の場において進められつつある。
【0004】
最近の幹細胞生物学の出現により、現行の手法モデルの範囲が従来の病状の緩和から治療的修復へと広がっている。通常、臨床経験は、改変されない状態の自己由来成人幹細胞に基づいていた。第一世代生物製剤は、容易に入手可能な細胞型として認識されている、未感作のヒト幹細胞である。特定の個体は未感作のヒト幹細胞の送達によって病状が改善されることが分かっている。
【0005】
(定義)
本明細書において、矛盾を起こさない限り、引用及び以下に示す用語は次のように定義される。
【0006】
「hMSC」とは、ヒト間葉幹細胞を意味する。
【0007】
細胞の「心臓形成可能性」とは、細胞を損傷した心臓に注入することにより、この細胞が心臓細胞、例えば、心筋を作り出すことに成功する能力を意味する。
【0008】
「心臓形成細胞」(cardiopoietic cell:CP)は、未分化細胞からの分化に関与している細胞である。「心臓形成細胞」は、初期心臓転写因子Nkx2.5及び後期心臓転写因子MEF2Cの核移行により定義される心臓分化を示す(Behfar et al. Derivation of a cardiopoietic population from human mesenchymal stem yields progeny, Nature Clinical Practice, Cardiovascular Medicine, March 2006 vol. 3 supplement 1, pages S78−S82)。心臓転写因子GATA4の核移行が確認できる。心臓形成細胞では、筋節が欠けていてもよく、筋節タンパク質の発現が欠けていてもよい。心臓形成細胞はそれ自身の分割能を保持している。心臓形成細胞は、心筋細胞へと分化する可能性を有しているので、「心筋細胞前駆体」または「心筋細胞前駆細胞」とも呼ばれている。本明細書の背景として、心臓形成細胞は、ヒト成人間葉幹細胞(human adult mesenchymal stem cell:hMSC)由来のものであってよく、「CP−hMSC」は、そのようなヒト成人間葉幹細胞由来心臓形成細胞を意味する。
【0009】
「カクテル」または「心原性カクテル」とは、2つ以上の心原性物質を含有する組成物を意味する。
【0010】
「心原性物質」とは、細胞の心臓形成可能性を改善する物質である。
【0011】
「カクテル誘導細胞」または「心臓発生誘導細胞」とは、カクテルと接触することによりさらに分化される細胞である。
【0012】
「分化」とは、特殊性の低い細胞がより特殊化された細胞になる過程である。
【0013】
「駆出率」とは、心拍時に送り出される血液の分画を意味する。限定詞なしで、駆出率という用語は、特に左心室の駆出率(左心室駆出率、left ventricular ejection fraction:LVEF)を指す。
【0014】
「駆出率の変化」は、損傷した心臓に細胞を注入して治療した動物の心臓の、治療後の所定時間に測定された駆出率と、注入前に測定された駆出率との差を意味する。
【0015】
特に別段の指定がない限り、ここで使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者により一般に理解されるのと同じ意味をもつ。ここに記載された方法及び材料と同様または同等の方法及び材料を、本発明の実施に使用できるが、好適な方法及び材料について以下に説明する。ここで言及された刊行物、特許出願、特許及び他の参考文献の全ては、引用することによりその全体が組み込まれる。矛盾する場合には、定義を含む本明細書によって、支配されるものとする。また、材料、方法及び実施例は例示のみを目的とするもので、限定するものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、心臓細胞を取得し、使用することを有する方法及び材料を提供することを目的とする。例えば、本発明は、機能的心筋細胞としての心臓組織に組み込まれた細胞(例えば、分化型心臓前駆細胞または心臓形成細胞)を有する、哺乳類の心臓組織を提供する方法及び材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、TGFβ−1、BMP4、α−トロンビン並びにカルジオトロフィン及びIL−6からなる群から選択される化合物並びにカルジオゲノールC及びレチノイン酸からなる群から選択される化合物を有する組成物に関する。好ましい実施形態では、本発明の組成物は、TGFβ−1、BMP4、α−トロンビン、カルジオトロフィン及びカルジオゲノールCを有する。本発明の組成物は、FGF−2、IGF−1、アクチビン−A、TNF−α、FGF−4、LIF、VEGF−A及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの化合物を有してもよい。これらの組成物はさらに、FGF−2、IGF−1及びアクチビン−Aを有してもよい。本発明の他の好ましい組成物は、アクチビン−A、FGF−2、IL−6、IGF−1及びレチノイン酸を有する。別の実施形態では、本発明の組成物は、TNF−α、FGF−4、LIF及びVEGF−Aからなる群から選択される少なくとも1つの化合物を欠如することができる。
【0018】
本発明の組成物に以下の化合物の1つが含有される場合、TGFβ−1は1mL当たり1〜5ng、BMP4は1mL当たり1〜10ng、カルジオトロフィンは1mL当たり0.5〜5ng、α−トロンビンは1mL当たり0.5〜5単位及びカルジオゲノールCは50〜500nM、FGF−2は1mL当たり1〜10ng、IGF−1は1mL当たり10〜100ng、アクチビン−Aは1mL当たり1〜50ng、TNF−αは1mL当たり1〜50ng、FGF−4は1mL当たり1〜20ng、IL−6は1mL当たり10〜100ng、LIFは1mL当たり1〜10単位、VEGF−Aは1mL当たり1〜50ng及びレチノイン酸は1mL当たり0.1〜1.0μMの量で含有されてよい。
【0019】
本発明に係る好ましい組成物は、組換えTGFβ−1(2.5ng/mL)、BMP4(5ng/mL)、カルジオトロフィン(1ng/mL)、カルジオゲノールC(100M)を有し、これらを組み合わせて使用する。特に好ましい本発明の組成物は、上記化合物に加え、α−トロンビン(1U/mL)、FGF−2(10ng/mL)、IGF−1(50ng/mL)及びアクチビン−A(5ng/mL)を有する。
【0020】
本発明の他の好ましい組成物は、組換えTGFβ−1(2.5ng/mL)、BMP4(5ng/mL)、アクチビン−A(5ng/mL)、FGF−2(10ng/mL)、IL−6(100ng/mL)、因子IIa(hα−トロンビン、1U/mL)、IGF−1(50ng/mL)及びレチノイン酸(1μM/mL)を有し、これらを組み合わせて使用する。
【0021】
好ましくは、本発明の組成物は、ウシ胎児血清、ヒト血清、血小板溶解物及びそれらの混合物を含有する培地からなる群から選択される培地に含有される。
【0022】
本発明はまた、MEF2cmRNA、MESP−1mRNA、Tbx−5mRNA、GATA4mRNA、Flk−1mRNA、GATA6mRNA、Fog−1mRNA及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つのmRNAの発現が上昇しており、及び/またはNkx2.5ポリペプチド、MEF2Cポリペプチド、Tbx−5ポリペプチド、FOG−2ポリペプチド、GATA−4ポリペプチド、MESP−1ポリペプチド及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドを有する分化細胞を、元細胞から取得する方法に関し、前記少なくとも1つのポリペプチドが前記分化細胞の核に関連し、前記方法は、本発明に係る組成物の存在下に元細胞を培養することを有する。そのような方法では、分化細胞のMEF2cmRNA及びMESP−1mRNAの発現が上昇していることが好ましい。
【0023】
本発明の好ましい実施例において、元細胞は間葉幹細胞である。そのような細胞としては、骨髄由来幹細胞であってよい。これらの細胞は、細胞表面上にCD90、CD105、CD133、CD166、CD29及びCD44を発現でき、細胞表面上にCD14、CD34及びCD45を発現しない。
【0024】
最も好ましくは、上記分化細胞は心臓形成細胞である。
【0025】
本発明の他の態様は、哺乳類に分化細胞を送達する方法であって、(a)分化細胞の集団からの細胞検体が、MEF2cmRNA、MESP−1mRNA、Tbx−5mRNA、GATA4mRNA、Flk−1mRNA、GATA6mRNA、Fog−1mRNA及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つのmRNAの発現が上昇しており、及び/または前記分化細胞の核に関与するペプチドである、Nkx2.5ポリペプチド、MEF2Cポリペプチド、Tbx−5ポリペプチド、MESP−1ポリペプチド、GATA−4ポリペプチド、FOG−2ポリペプチド及びそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つのポリペプチドを有する細胞を有することを判定し、(b)前記分化細胞の集団からの細胞を、前記哺乳類に投与すること、を有する、方法である。前記分化細胞の集団は、元の細胞を本発明に係る組成物のいずれかの存在下に培養することにより取得できる。特に好ましい実施形態において、前記ステップ(a)は逆転写ポリメラーゼ連鎖反応または免疫細胞化学を使用することを含んでよい。前記投与ステップは、全身、心臓内及び冠動脈内投与からなる群から選択される投与方法により前記細胞を投与することを含む。
【0026】
本発明の他の態様は、心臓組織に心筋細胞を提供する方法である。この方法は、心臓組織に、本発明に係る組成物との接触により取得可能な、本発明の態様の前記分化細胞を投与することを有する。
【0027】
本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細は、添付の図面及び以下の記載により説明する。本発明の他の特徴、目的、利点は本明細書及び特許請求の範囲から明らかである。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、心臓細胞を取得し、使用することを有する方法及び材料を提供する。例えば、本発明は、機能的心筋細胞としての心臓組織に組み込まれた細胞(例えば、分化型心臓前駆細胞または心臓形成細胞)を有する、哺乳類の心臓組織を提供する方法及び材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】11人の冠動脈疾患患者の骨髄由来未感作ヒト間葉幹細胞(hMSC)による処置の前後における駆出率(ΔEF)の変化(%)を示す。
図2】DAPIによる免疫染色後の共焦点顕微鏡法の結果であり、処置後に、駆出率変化を示さなかった患者2(左)の心臓転写因子のタンパク質発現、及び駆出率の変化があった患者9(右)のタンパク質発現を示す。
図3】上記11患者のhMSCにおける2つの有意な心臓転写因子mRNA発現を示す。
図4】無処置の未感作hMSC(左)と心原性カクテルで処置したCP−hMSC(右)のそれぞれのNkx2.5mRNA、GATA−6mRNA及びFog−1mRNAの心臓転写因子の任意単位(arbitrary unit:A.U.)におけるmRNA発現を示す。
図5】心原性カクテルで処置したCP−hMSC(右)を未感作hMSC(左)と比較した、NKX2.5、MEF2C、FOG−2及びGATA4ポリペプチドの核移行を示す、共焦点顕微鏡法により得られた画像を示す。
図6】未感作hMSCから「カクテル誘導」CP−hMSC及び最終的に心筋細胞(CM)への(D0、D5、D15及びD20日における)進行性変換を示す。
図7】未感作hMSC及びカクテル誘導心筋細胞の遷移電子顕微鏡超微細構造を示す。
図8】光学顕微鏡法によるカクテル誘導心筋細胞を示す。
図9】左側の最初のグラフは図1の各患者からの未感作hMSC及びCP−hMSCのTbx−5mRNA発現(A.U.)を示し、未感作細胞の結果をヒストグラムの右に、CP細胞の結果を左に示す。中央の第2のグラフはMEF2cmRNA発現を示し、右側の3番目のグラフはMESP−1mRNA発現を示す。全患者の未感作細胞の平均値及び全患者のCP細胞の平均値は、ヒストグラムのバックグラウンド程度である。
図10】CP−hMSC(すなわち、カクテル誘導hMSC)で心臓を処置した場合に対する、異なる種々の量の未感作hMSCで心臓を処置した後の駆出率の変化(Δ駆出率:12患者それぞれについてヒストグラムの右側部分に示す)を示すグラフである。
図11】心臓形成細胞未処置(左)及び処置後(右)の梗塞のある心臓の心エコー検査結果であり、CP−hMSCでの処置により前壁の蘇生がはるかに良くなっていることが分る。
図12図5と同様のグラフであり、梗塞のある心筋への未感作(左側)と心臓形成細胞(右側)の注入後の駆出率の変化(ΔEF)を示す。Shamは細胞無しでの注入である。
図13】梗塞のあるマウス心臓への未感作hMSCまたはCP−hMSCの処置を6ヶ月続けた結果を示す。未感作hMSC処置心臓では修復せず残ってしまった動脈瘤及び瘢痕が、筋再構築を誘導するCP−hMSC処置により解決された。
図14】心臓形成hMSC処置マウス心筋に、ヒト特異的ラミン免疫染色によりヒトに特異的なh−ALU−DNA配列が陽性染色された、コントロールとしての梗塞では存在しないヒト由来細胞が広く存在することが、共焦点解像によって明らかになったことを示す。
図15】ヒト起源の心筋細胞が心臓形成hMSC処置心臓のヒト心トロポニンI及びα−アクチニンの共局在により追跡されたことを示す。ヒト起源の心筋細胞は、未感作hMSC処置心臓には存在しなかった。梗塞のある前壁内での定量化では、CP−hMSC処置心臓に対して、未感作では心筋核の3±2%及び25±5%であることが明らかになった。これは心臓形成hMSC処置の生着の増進を伴っていた。
図16】ヒトトロポニン、心室ミオシン軽鎖mlC2V及びDAPI染色した未感作及びCP−hMSCの写真である。心室細胞表現型は、図15に示されるように修復された前壁または図17に示されるように消散された瘢痕での、心室ミオシン軽鎖mlC2Vの免疫染色によるヒトトロポニン陽性細胞の対比染色により実証された。
図17】ヒトトロポニン、心室ミオシン軽鎖mlC2V及びDAPIを染色した残余瘢痕の写真である。
図18】閉塞心臓血管の遠位での血管形成を示す、CP−hMSC処置再生心筋の写真である。
図19】心筋血管系内のヒトPECAM−1(CD−31)の発現を介してCP−hMSCが新たに血管形成に貢献することを示す。
図20】細胞送達後の時間(月)に対するSham(%)に比較したΔ駆出率をプロットしたグラフである。CP−hMSC処置の長期間の効果を1年以上またはヒトの人生の25年に匹敵するマウスの寿命の3分の1にわたって追跡した。Shamと比較して、未感作hMSCでは、6ヶ月及び12ヶ月でそれぞれ5%、2.5%の駆出率の増加効果があった。反対に、心臓形成hMSCで処置された梗塞マウスでは、Shamに比較して、6ヶ月及び12ヶ月で25%という著しい駆出率の改善が見られた。
図21】細胞移植後の時間(月)に対するΔ駆出率をプロットしたグラフである。梗塞集団を、効果を評価するために、治療時における明白な心疾患(駆出率:<45%)の記録によりサブグループに分類した。処置前において駆出率が35%で同等であったが、心臓形成hMSC処置集団のみにおいて6及び12ヶ月で10%の絶対的な駆出率の改良が見られ、未感作hMSC処置集団では逆に駆出率は5%低下した。
図22】梗塞が示されたマウスのサブグループの生存率(%)をプロットした棒グラフである。明白な心臓疾患サブグループの400日のフォローアップでは、Shamでは生存したマウスは存在せず、未感作処置hMSCでは、50%以上が死亡した。これに対して、心臓形成hMSC処置では、80%以上が生存した。
図23】病理学的実験及び心電図記録法により決定された、CP−hMSCでの処置の安全性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書は、心臓細胞(例えば、分化型心臓前駆細胞)に関する方法及び材料を提供する。例えば、本明細書は、機能的心筋細胞として心臓組織に組み込むことができる細胞、そのような細胞を作製する方法、そのような細胞を作製するための組成物及び細胞(例えば、分化型心臓前駆細胞)の集団が機能的心筋細胞として心臓組織に組み込まれる能力を有する細胞を含有するかどうかを決定する方法を提供する。本発明はまた、心臓組織(例えば、ヒト心臓組織)に機能的心筋細胞を提供するための方法及び材料を提供する。
【0031】
本明細書において提供される分化型心臓前駆細胞は、ヒト、サル、ウマ、イヌ、ネコ、ラット、マウスを含むがこれらに限定されない任意の種から取得できる。例えば、分化型心臓前駆細胞は、哺乳類(例えば、ヒト)の分化型心臓前駆細胞であることができる。
【0032】
場合によっては、本明細書において提供される分化型心臓前駆細胞は機能的心筋細胞として心臓組織に組み込まれる能力を有する。
【0033】
分化型心臓前駆細胞は、任意の好適な方法により取得することができる。例えば、哺乳類(例えば、ヒト)の幹細胞などの幹細胞から抽出できる。
【0034】
場合によっては、分化型心臓前駆細胞は、胚幹細胞から抽出することができる。場合によっては、分化型心臓前駆細胞は、間葉幹細胞から抽出することができる。間葉幹細胞は、いずれから取得してもよい。例えば、間葉幹細胞は、骨髄や骨梁などの哺乳類(例えば、ヒト)の組織から取得することができる。間葉幹細胞は、生体外で培養することができる。例えば、間葉幹細胞の数を生体外で増やすことができる。間葉幹細胞は、細胞表面にポリペプチドマーカーを発現することもしないことも可能である。例えば、間葉幹細胞は、細胞表面上にCD133、CD90、CD105、CD166、CD29及びCD44を発現することができ、細胞表面にCD14、CD34及びCD45を発現しない。
【0035】
分化型心臓前駆細胞は、任意の好適な方法により幹細胞(例えば、間葉幹細胞)から抽出することができる。例えば、分化型心臓前駆細胞は、組成物(例えば、培養培地)で間葉幹細胞を培養することにより、間葉幹細胞から抽出することができる。組成物は、1つまたは複数の因子を含有する任意の好適な組成物であることができる。因子は、ポリペプチド、ステロイド、ホルモン、小分子など、任意のタイプの因子であることができる。そのような因子の例には、TGFβ、BMP、FGF−2、IGF−1、アクチビン−A、カルジオトロフィン、α−トロンビン及びカルジオゲノールCが含まれるが、これらに限定されない。
【0036】
1つの実施形態において、TGFβ、BMP、カルジオトロフィン、α−トロンビン及びカルジオゲノールCを含有する培地を使用して、幹細胞(例えば、間葉幹細胞)から分化型心臓前駆細胞を取得することができる。そのような場合、TGFβ、BMP、カルジオトロフィン、α−トロンビン及びカルジオゲノールCを含有する培地での初期培養期間(例えば、1〜2日)の後、FGF−2、IGF−1、アクチビン−Aまたはそれらの組み合わせを培地に添加することができる。
【0037】
TGFβは、ヒトTGFβなどのTGFβ活性を有する任意のポリペプチドであってよい。例えば、TGFβは、組換えTGFβまたは合成TGFβであってよい。1つの実施形態において、TGFβはTGFβ−1であってよい。TGFβは、任意の好適な濃度で使用することができる。例えば、1mL当たり1〜10ngのTGFβ(例えば、1mL当たり約2.5ngのTGFβ−1)を使用することができる。
【0038】
BMPは、ヒトBMPなどのBMP活性を有する任意のポリペプチドであってよい。例えば、BMPは、組換えBMPまたは合成BMPであってよい。1つの実施形態において、BMPはBMP4であってよい。BMPは、任意の濃度で使用することができる。例えば、1mL当たり1〜20ngのBMP(例えば、1mL当たり約5ngのBMP4)を使用することができる。
【0039】
FGF−2は、ヒトFGF−2などのFGF−2活性を有する任意のポリペプチドであってよい。例えば、FGF−2は、組換えFGF−2または合成FGF−2であってよい。FGF−2は、任意の濃度で使用することができる。例えば、1mL当たり1〜20ngのFGF−2(例えば、1mL当たり約5ngのFGF−2)を使用することができる。
【0040】
IGF−1は、ヒトIGF−1などのIGF−1活性を有する任意のポリペプチドであってよい。例えば、IGF−1は、組換えIGF−1または合成IGF−1であってよい。IGF−1は、任意の濃度で使用することができる。例えば、1mL当たり10〜100ngのIGF−1(例えば、1mL当たり約50ngのIGF−1)を使用することができる。
【0041】
アクチビン−Aは、ヒトアクチビン−Aなどのアクチビン−A活性を有する任意のポリペプチドであってよい。例えば、アクチビン−Aは、組換えアクチビン−Aまたは合成アクチビン−Aであってよい。アクチビン−Aは、任意の濃度で使用することができる。例えば、1mL当たり1〜50ngのアクチビン−A(例えば、1mL当たり約10ngのアクチビン−A)を使用することができる。
【0042】
α−トロンビンは、ヒトα−トロンビンなどのα−トロンビン活性を有する任意のポリペプチドであってよい。例えば、α−トロンビンは、組換えα−トロンビンまたは合成α−トロンビンであってよい。α−トロンビンは、任意の濃度で使用することができる。例えば、1mL当たり0.5〜10単位のα−トロンビン(例えば、1mL当たり約1単位のα−トロンビン)を使用することができる。
【0043】
カルジオトロフィンは、ヒトカルジオトロフィン−1などのカルジオトロフィン活性を有する任意のポリペプチドであってよい。例えば、カルジオトロフィンは、組換えカルジオトロフィンまたは合成カルジオトロフィンであってよい。カルジオトロフィンは、任意の濃度で使用することができる。例えば、1mL当たり0.5〜10ngのカルジオトロフィン(例えば、1mL当たり約1ngのカルジオトロフィン−1)を使用することができる。
【0044】
IL−6は、ヒトIL−6などのIL−6活性を有する任意のポリペプチドであってよい。例えば、IL−6は、組換えIL−6または合成IL−6であってよい。IL−6は、任意の濃度で使用することができる。例えば、1mL当たり100〜200ngのIL−6を使用することができる。
【0045】
任意の濃度のカルジオゲノールCまたはその薬学的に許容できる塩(例えば、カルジオゲノールC塩酸塩)を使用することができる。例えば、10〜1000nMのカルジオゲノールC(例えば、約100nMのカルジオゲノールC)を使用することができる。
【0046】
レチノイン酸は、合成レチノイン酸、天然レチノイン酸、ビタミンA代謝産物、ビタミンAの天然誘導体またはビタミンAの合成誘導体などのレチノイン酸活性を有する任意の分子であってよい。レチノイン酸は任意の濃度で使用することができる。例えば、1×10−6〜2×10−6μMのレチノイン酸を使用することができる。
【0047】
場合によっては、TGFβ−1(例えば、2.5ng/mL)、BMP4(例えば、5ng/mL)、FGF−2(例えば、5ng/mL)、IGF−1(例えば、50ng/mL)、アクチビン−A(例えば、10ng/mL)、カルジオトロフィン(例えば、1ng/mL)、α−トロンビン(例えば、1U/mL)及びカルジオゲノールC(例えば、100nM)を補った血清含有または無血清培地を使用して、幹細胞(例えば、間葉幹細胞)から分化型心臓前駆細胞を取得することができる。場合によっては、培地(例えば、血清含有または無血清培地)は血小板溶解物を含有することができる。
【0048】
場合によっては、間葉幹細胞から分化型心臓前駆細胞を取得するために使用する組成物はさらに、TNF−α、LIF及びVEGF−Aなどの因子を任意に含有してよい。
【0049】
TNF−αは、ヒトTNF−αなどのTNF−α活性を有する任意のポリペプチドであってよい。例えば、TNF−αは、組換えTNF−αまたは合成TNF−αであってよい。TNF−αは、任意の濃度で使用することができる。例えば、1mL当たり5〜50ngのTNF−αを使用することができる。
【0050】
LIFは、ヒトLIFなどのLIF活性を有する任意のポリペプチドであってよい。例えば、LIFは、組換えLIFまたは合成LIFであってよい。LIFは、任意の濃度で使用することができる。例えば、1mL当たり2.5〜100ngのLIFを使用することができる。
【0051】
VEGF−Aは、ヒトVEGF−AなどのVEGF−A活性を有する任意のポリペプチドであってよい。例えば、VEGF−Aは、組換えVEGF−Aまたは合成VEGF−Aであってよい。VEGF−Aは、任意の濃度で使用することができる。例えば、1mL当たり5〜200ngのVEGF−Aを使用することができる。
【0052】
本明細書において提供される組成物は、任意の組み合わせの因子を含有することができる。例えば、本明細書において提供される組成物は、TGFβ−1、BMP4、アクチビン−A、カルジオトロフィン、α−トロンビン及びカルジオゲノールCを含有することができる。場合によっては、本明細書において提供される組成物は、TGFβ−1、BMP4、FGF−2、IGF−1、カルジオトロフィン、α−トロンビン及びカルジオゲノールCを含有することができる。場合によっては、本明細書において提供される組成物は、TNF−α、IL−6、LIF、VEGF−A、レチノイン酸またはそれらの組み合わせ(例えば、IL−6、LIF、VEGF−A及びレチノイン酸;LIF、VEGF−A及びレチノイン酸;またはTNF−α、IL−6、LIF及びVEGF−A)を欠如することもできる。
【0053】
本明細書において提供される組成物は、任意の好適な方法により調製することができる。例えば、本明細書において提供される組成物は、市販の因子を使用して調製することができる。場合によっては、本明細書において提供される組成物は、細胞溶解物(例えば、血小板溶解物)を含有するように調製することができる。または心筋細胞やTNF−α−刺激内胚葉細胞などの細胞からの馴化培地であることができる。例えば、本明細書において提供される組成物は、市販の因子が補充された血小板溶解物を使用して調製することができる。場合によっては、本明細書において提供される組成物は、馴化培地から単離された因子を使用して調製することができる。場合によっては、前記因子は、血清を含有または含有しない細胞培養培地などの培地に溶解させることができる。
【0054】
幹細胞(例えば、間葉幹細胞)を本明細書において提供される組成物とともに任意の好適な方法を使用して培養し、機能的心筋細胞として心臓組織に組み込まれる能力を有する分化型心臓前駆細胞を取得することができる。例えば、間葉幹細胞は、本明細書において提供される組成物とともに、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、40、45または50日間培養することができる。場合によっては、本明細書において提供され、間葉幹細胞を培養するために使用される組成物は、毎日または2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、40、45または50日毎に交換することができる。
【0055】
場合によっては、間葉幹細胞は、血清の存在または非存在下に本明細書において提供される組成物とともに培養することができる。任意の好適な細胞密度で、幹細胞を本明細書において提供される組成物とともに培養することができる。例えば、1cm当たり約1000〜2000個の間葉幹細胞(例えば、約1500〜2000細胞/cm)を、本明細書において提供される組成物とともに培養して分化型心臓前駆細胞を取得することができる。
【0056】
一旦幹細胞(例えば、間葉幹細胞)を本明細書において提供される組成物とともに培養または分化因子により処置すると、分化の状態を、幹細胞が機能的心筋細胞として心臓組織に組み込まれる能力を有する分化型心臓前駆細胞に分化したか否かを決定するためにモニターすることができる。例えば、細胞検体を集め、ウェスタンブロット法、蛍光活性化細胞分類(fluorescence−activated cell sorting:FACS)法、免疫染色法、レーザー共焦点顕微鏡法、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(reverse transcription polymerase chain reaction:RT−PCR)法(例えば、定量RT−PCR)などの方法により評価することができる。場合によっては、MEF2c、MESP−1、Tbx−5、Nkx2.5、GATA6、Flk−1、Fog1及びFog2ポリペプチドまたはmRNAの発現が上昇していることが見出された細胞を選択し、心臓組織の治療のために哺乳類に投与することができる。
【0057】
本明細書に記載されているように、TGFβ−1、BMP4、FGF−2、IGF−1、アクチビン−A、カルジオトロフィン、α−トロンビン及びカルジオゲノールCを含有する血小板溶解物とともに培養した間葉幹細胞から抽出された分化型心臓前駆細胞では、MEF2cmRNA、MESP−1mRNA、Tbx−5mRNA、GATA6mRNA、Flk−1またはFog1mRNAの値が、処置前の間葉幹細胞における値に比較して、2〜5倍に上昇した。これらの分化型心臓前駆細胞はまた、虚血性及び非虚血性両状況における構造修復に直接相関する心ポンプ機能の改善とともに、心筋内、皮下または血管内に注入されたときに、機能的心筋細胞として心臓組織に組み込まれる能力を示した。機能的利点が、生体内心エコー及びヒト特異的タンパク質の染色による剖検により組織学的に立証された。また、本明細書に記載のように、TGFβ−1、BMP4、FGF−2、IGF−1、アクチビン−A、カルジオトロフィン、α−トロンビン及びカルジオゲノールCを含有する血清とともに培養された間葉幹細胞から抽出した分化型心臓前駆細胞は、MEF2cmRNA、MESP−1mRNA及びTbx−5mRNA値も、処置前の間葉幹細胞における値に比較して、5〜10倍に上昇した。
【0058】
これらの分化型心臓前駆細胞はまた、虚血性及び非虚血性両状況における構造修復に直接相関する心ポンプ機能の改善とともに、心筋内(例えば、心内膜または心外膜経由)、冠動脈内、心内注入または全身投与(例えば、皮下)により注入された場合に、機能的心筋細胞として心臓組織に組み込まれる能力を示した。また、機能的利点が、生体内心臓超音波及びヒト特異的タンパク質の染色による剖検における顕微鏡分析により立証された。このように、MEF2c、MESP−1、Tbx−5、GATA6、Flk−1、Fog1、FOG2またはそれらの組み合わせにおけるポリペプチドまたはmRNAの上昇などの放出基準を、哺乳類への投与に先立つ細胞の評価に使用することができる。
【0059】
ここで、細胞集団内におけるMEF2c、MESP−1、Tbx−5、GATA6、Flk−1、Fog(例えば、mRNAとしてのFOG1、ポリペプチドとしてのFOG2)のポリペプチドまたはmRNAの値について使用される「上昇値」という用語は、ポリペプチドまたはmRNAとしての基準値よりも大きい値を指す。
【0060】
ここで、細胞集団内におけるMEF2c、MESP−1、Tbx−5、GATA6、Flk−1、Fog(例えば、mRNAとしてのFOG1、ポリペプチドとしてのFOG2)のポリペプチドまたはmRNAの値について使用される「基準値」という用語は、処置前の細胞(例えば、処置前の間葉幹細胞)に通常見出される値を指す。例えば、MEF2cmRNA基準値、MESP−1mRNA基準値、Tbx−5mRNA基準値、GATA6mRNA基準値及びFOG1mRNA基準値は、それぞれ、本明細書において提供される組成物または他の分化因子で処置されていない間葉幹細胞を無作為抽出したサンプル中に存在するMEF2c、MESP−1、Tbx−5、GATA6、Flk−1及びFOG1mRNAの平均値であることができる。当然のことながら、比較サンプルの値を使用して、ある特定の値が上昇値であるか否かを決定する。
【0061】
MEF2c、MESP−1、Tbx−5、GATA4、GATA6、Flk−1、Fog2またはFOG1の上昇したポリペプチド及び/またはmRNA値は、対応する基準値より大きい限りどの程度でもよい。
【0062】
例えば、Tbx−5mRNAの上昇値は、未処置間葉幹細胞において観察されるTbx−5mRNAの基準値の1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10倍またはそれ以上であることができる。なお、基準値はいずれの量であってもよい。例えば、Tbx−5mRNAの基準値は0(ゼロ)でもよい。そのような場合、ゼロより大きいTbx−5mRNAの値はどれも上昇値であると言える。
【0063】
場合によっては、同定基準に哺乳類への投与に先立つ細胞の顕微鏡分析を含めることができる。そのような顕微鏡分析では、核に関連する転写因子ポリペプチドに対する細胞の評価を含めることができる。例えば、哺乳類内への放出に好適な細胞は、哺乳類内に放出される前に核に関連するNkx2.5、MEF2c、GATA4、MESP−1、FOG2、Tbx−5またはそれらの組み合わせの存在について評価することができる。
【0064】
機能的心筋細胞として心臓組織内に組み込まれる能力を有する分化型心臓前駆細胞を有する心臓組織は、任意の好適な方法により提供できる。例えば、分化型心臓前駆細胞は、心筋内(例えば、心内膜または心外膜経由)、冠動脈内、心内注入または全身投与(例えば、皮下)により注入できる。
【0065】
分化型心臓前駆細胞により任意の心臓組織を提供することができる。例えば、分化型心臓前駆細胞により哺乳類(例えば、ヒト)心臓組織を提供することができる。場合によっては、分化型心臓前駆細胞により虚血性心筋症、心筋梗塞または心不全に罹った心臓組織を提供することができる。
【0066】
任意のタイプの分化型心臓前駆細胞を心臓組織に投与することができる。例えば、自己または異種分化型心臓前駆細胞を心臓組織に投与することができる。場合によっては、本明細書において提供される組成物とともに培養された幹細胞(例えば、間葉幹細胞)を心臓組織に投与することができる。
【0067】
幹細胞は、心臓組織に投与される前に、本明細書において提供される組成物とともに任意の時間培養される。例えば、幹細胞は、心臓組織に投与される前に、本明細書において提供される組成物とともに6〜24時間(例えば、8、10、12、18または22時間)または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、40、45または50日間培養することができる。場合によっては、本明細書において提供される組成物とともに培養された幹細胞は、本明細書において提供される組成物とともに心臓組織に投与することができる。
【0068】
幹細胞は、本明細書において提供される組成物とともに心臓組織に投与される前に、本明細書において提供される組成物とともに任意の時間培養される。例えば、幹細胞は、本明細書において提供される組成物とともに心臓組織に投与される前に、本明細書において提供される組成物とともに6〜24時間(例えば、8、10、12、18または22時間)または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、40、45または50日間培養される。
【0069】
場合によっては、分化型心臓前駆細胞を哺乳類に投与する前に、特定の放出基準を達成しているか否かを決定するために評価してよい。例えば、分化型心臓前駆細胞を哺乳類に投与する前に、分化型心臓前駆細胞がMEF2c、MESP−1、Tbx−5、GATA6、Flk−1、Fog(mRNAとしてのFOG1、ポリペプチドとしてのFOG2)またはそれらの組み合わせのポリペプチドまたはmRNA値が上昇していることを確認するためにRT−PCRにより評価できる。
【0070】
本発明を以下の実施例によりさらに記載するが、特許請求の範囲に記載の発明の範囲を限定するものではない。
【0071】
虚血性心疾患に対して冠動脈バイパス術を受けた患者から、無作為に骨髄採取を行った。インフォームド・コンセントを得て、研究プロトコールは適切な倫理審査委員会及び動物実験審査委員会の承認を得た。何の意味もない注入をマウス以外、患者にすることはなかった。
【実施例1】
【0072】
間葉幹細胞は、18〜45歳の健常者(Cambrex, East Rutherford, New Jersey)の骨盤骨の後腸骨稜から抽出したヒト骨髄から採取した。フローサイトメトリー分析の結果では、間葉幹細胞はCD90、CD133、CD105、CD166、CD29及びCD44を発現し、CD14、CD34及びCD45は発現しなかった。
【0073】
ヒト骨髄由来間葉幹細胞を、血小板溶解物またはTGFβ−1(2.5ng/mL)、BMP4(5ng/mL)、FGF−2(5ng/mL)、IGF−1(50ng/mL)、アクチビン−A(10ng/mL)、カルジオトロフィン(1ng/mL)、α−トロンビン(1U/mL)及びカルジオゲノールC(100nM)が補充された血清中で培養した。細胞密度1000〜2000個/cmの血小板溶解物含有培養では、4〜10日後に、未処置間葉幹細胞に比較して、MEF2cmRNA、MESP−1mRNA、Tbx−5mRNA、GATA6mRNA及びFlk−1またはFOG1mRNAの発現が2〜5倍以上であることが認められた。
【0074】
細胞密度1000〜2000個/cmの血清含有培養では、5〜15日後に、未処置間葉幹細胞に比較して、MEF2cmRNA、MESP−1mRNA、Tbx−5mRNA、GATA4mRNA、GATA6mRNA及びFlk−1またはFOG1mRNAの発現が5〜10倍以上であることが認められた。
【0075】
RT−PCR分析に使用されたプライマー対としては、アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)から購入した標準プライマーを使用した。
【0076】
分化型心臓前駆細胞が機能的心筋細胞として心臓組織に組み込まれる能力を有することを示す結果は、鼓動する心臓での生体内及び続いての剖検による生体外の両方において観察された。生体内では、イソフルラン麻酔下に、二次元Mモード探索短軸及び長軸心エコー法、ドップラーパルス波形分析及び12誘導心電図検査によりモニターされたように、疾患心臓の心筋に直接心臓前駆細胞を投与することにより心臓性能が改善された。
【0077】
摘出した心臓組織を3%パラホルムアルデヒド内に固定し、薄片にし、ヒト細胞追跡の免疫探索を行った。機能改善及び瘢痕消散した、新たなヒト由来心筋細胞と脈管は、放出基準(例えば、MEF2cmRNA、MESP−1mRNA、Tbx−5mRNA、GATA4mRNA、GATA6mRNA及びFlk−1またはFOG1mRNA値の上昇)を満たす心臓前駆細胞で処置されたマウスの分析により立証された。これは、放出基準を満たさなかった細胞における効果の欠如と対照的である。
【0078】
患者への自己移植注入用の心臓形成細胞の作製規模を拡大するために、時間のかかる、定性的かつオペレーター依存の可能性のある免疫蛍光法の代替方法を検討した。選択肢の1つは、リアルタイム定量逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(real−time quantitative reverse transcription polymerase chain reaction:RT−qPCR)である。この方法では、オペレーター非依存的であり、参照標準に関して定量的な結果をより早く(1日以内)得ることができる。また、免疫染色サンプルは一つ一つ蛍光顕微鏡評価する必要があるが、異なるサンプル(または条件)を48まで96穴プレートを使ってRT−qPCRにより二重に試験することができる。
【0079】
RT−qPCRの好適なマーカーを同定するために、心臓病患者(n=7)から得られた骨髄サンプル由来の心臓形成細胞を使用した。細胞は、MEF2C及びNkx2.5に対する免疫蛍光染色により評価した。RNAはこれらの細胞から抽出し、Nkx2.5及びMEF2Cの発現はリアルタイム定量PCRにより測定した。
【0080】
参照標準は、心原性カクテルの非存在下に培養した同一バッチからの細胞で構成した。
【0081】
結果は、処置細胞から得られたデータを非処置細胞のそれに標準化する二重デルタCt法を使用して計算した。
【0082】
MEF2Cが、未感作細胞に比較した場合、qPCR及び免疫蛍光(核移行)の両者で心臓形成細胞の好適なマーカーとして同定された。一方、免疫蛍光(核移行)によるNkx2.5のタンパク質値としての量的変化は、未処置細胞に比べてRNA値での量的変化に当初は置き換えられなかった。Nkx2.5の発現誘導は、Nkx2.5の核移行に依存するので、Nkx2.5の下流の遺伝子を調査した。これにより、qPCRの追加の好適な遺伝子として、MESP−1、Flk−1及びTbx5が同定された。
【0083】
ヒト骨髄吸引物(15〜20mL)は胸骨切開に続く冠動脈バイパス手術において取得した。骨髄は、DMSO系無血清溶液中に冷凍保存した。間葉幹細胞は、原料の骨髄をプラスチック皿上に置き、12時間洗浄、D34/CD45/CD133マーカーパネルを使用して蛍光活性化細胞分類(fluorescence−activated cell sorting:FACS)分析により確認された、同一性を有する接着細胞を選択したものを採用した。細胞は、5%ヒト血小板溶解物(Mayo Clinic Blood Bank, Rochester, MN)を補充したDMEM中、37℃で培養した。
【0084】
免疫不全ヌードマウス(Harlan, Indianapolis, IN)に心筋梗塞を誘発した。盲検の前に、梗塞の1ヶ月後に、左心室の前壁の5つの心外膜部位に全部で600,000個の未感作または心臓発生誘導hMSCを12.5μLの増殖培地に懸濁し、検鏡下に注入した。Shamに対しては、細胞の注入をせずに同一の外科的処置を行った。この慢性梗塞モデルへの骨髄hMSCの心筋注入は、心エコー法で駆出率の改良が認められた11の被検体において、2被検体のみで細胞の移植による成果が得られ、その成果の多様性を示した。
【0085】
患者3及び9は、心臓生成可能性が高い個体であることが確認された。図1から、患者3及び9それぞれから取得したhMSCで処置したマウス(n=3)における駆出率の変化は、有意に陽性であることが観察されたが、他の患者の変化は陽性ではなかった。
【0086】
心臓転写因子のタンパク質発現は、図2に示されるように、共焦点顕微鏡法によりhMSCに観察された。図中の線の長さは、全てのパネルにおいて20μmに対応する。
【0087】
免疫染色は、MEF2C(1:400、Cell Signaling Technologies, Danvers, MA)、Nkx2.5(1:150、Santa Cruz Biotechnology Inc., Santa Cruz, CA)、GATA4(Santa Cruz Biotechnology Inc.)、リン酸化AKTSer473(1:100、Cell Signaling Technologies)、Tbx5(1:5000、Abcam, Cambridge, MA)、Mesp−1(1:250、Novus Bio, Littleton, CO)、Fog−2(1:100、Santa Cruz Biotechnology)、サルコメアタンパク質α−アクチニン(1:500、Sigma−Aldrich)及びヒト特異的トロポニン−I(1:100、Abcam)に特異的な抗体、並びにmlC2v(1:500、Synaptic Systems, Gottigen, Germany)、Sca−1(1:100、R&D Systems, Minneapolis, MN)、CD−31/PECAM−1(1:500、Beckman Coulter, Fullerton, CA)、α−平滑筋アクチン(Abcam)、ヒト特異的トロポニン−I(1:100、Abcam)、ヒトラミンA/C(1:50、Novacastra, New Castle, UK)及びKi67(1:500、Abcam)を使用して行い、3%パラホルムアルデヒド中に固定、1%トライトンX−100で透過処置し、核をDAPI染色して可視化し、LSM510共焦点走査型顕微鏡(Carl Zeiss Inc., Jena, Germany)を使用して共焦点顕微鏡法を行った。
【0088】
早期心臓転写因子であるNkx2.5、Tbx−5及びMESP1並びに後期心臓転写因子であるMEF2CがDAPI染色により観察された。患者2の結果を左に、患者9の結果を右に示す。得られた画像によれば、心臓転写因子の発現は、患者2のhMSCで弱く、患者9のhMSCで高かった。これは、患者9からのhMSCは効率的な治療的効果を与えるが、治療患者2からのhMSCではそのような効果は得られない、という事実を実証している。DAPIによる着色は青である。
【0089】
図2では、Nkx2.5の最初の一連の画像は、患者2(左)のhMSCにおいて細胞核のみがDAPI(左)で青く着色されたことを示す。細胞質内のNkx2.5の存在に対応して薄い緑色も現れている。患者9の対応する画像(右)は、細胞質及び細胞核にもNkx2.5(緑)の強い発現が見られる。
【0090】
第2の一連の画像は、患者2の心臓転写因子であるTbx−5(緑)及びMESP−1(赤)を示す。細胞株がDAPIにより青く染色され、緑及び赤は観察されないので、TbX−5及びMESP−1の発現がないことを示す。患者9では、細胞の細胞質が赤く、核が緑に着色され、これは両心臓転写因子が強く発現され、細胞核へのTbx−5の転位が起こっていることを示す。
【0091】
第3の一連の画像は、MEF2Cの結果を示し、その結果はNkx2.5に類似している。
【0092】
図3は、研究対象11人の患者のhMSCにおける心臓転写因子発現(MEF2C及びTbx−5)を示す、qPCRにより検討されたmRNA発現を示す。
【0093】
定量ポリメラーゼ連鎖反応(quantitative polymerase chain reaction:qPCR)は、AppliedBiosystems7,900HT配列検出システムを有するTaqManPCRキット(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて行った。TaqMan遺伝子発現反応は、96穴プレート内で培養して行い、三重で行った。閾値サイクル(C)は、蛍光が通過する固定閾値での分画サイクル数として定義される。TaqManC値は、−△△C法を使用して決定された相対倍率変化に転換し、GAPDH(P/N435,2662−0506003)発現に標準化した。
【0094】
その心筋転写活性を評価した遺伝子を表1に記載した。
【0095】
細胞は、ヒト組換えTGFβ−1(2.5ng/mL)、BMP4(5ng/mL)、カルジオトロフィン(1ng/mL)、α−トロンビン(1U/mL)及びカルジオゲノールC(100M)を含有する心原性カクテルでの刺激前及び刺激の5日後に、mRNAとタンパク質値により評価した。患者2及び9のhMSCにおいて、MEF2cmRNA及びTbx−5mRNA双方の発現(任意単位:A.U.)が、他の患者に比較して非常に高い。
【0096】
【表1】
【0097】
左心室機能及び構造を、連続的に経胸腔的心エコー法により追跡した(Sequoia 512; Siemens, Malvern, PA and VisualSonics Inc, Toronto, Canada)。駆出率(%)は、[(LVVd−LVVs)/LVVd]×100として算出した。LVVdは左心室拡張末期容積(μL)であり、LVVsは左心室収縮末期容積(μL)である。
【0098】
図4は、未処置の未感作hMSC(左)及び心原性カクテルで処置したCP−hMSC(右)における心臓転写因子、Nkx2.5mRNA、GATA−6mRNA及びFog−1mRNA、の任意単位(A.U.)でのmRNA発現を示す。各因子において、心原性カクテルで処置した細胞を使用することにより結果がはるかに良好であることが明らかである。
【0099】
図5は、心原性カクテルで処置した未感作CP−hMSCにおけるNkx2.5、MEF2C、GATA4及びFOG−2ポリペプチドの核移行を示す、共焦点顕微鏡法により得られた画像を示す。Nkx2.5、MEF2C、GATA4及びFOG−2は緑に、DAPIは青く見える。未感作hMSCの画像では、転写因子は現れない。ポリペプチドは、濃い緑色で示されるように、CP−hMSC(右)の核に移行される。
【0100】
図6は、未感作hMSCから「カクテル誘導」CP−hMSC及び最終的に心筋細胞CMへの進行性変換(D0、D5、D15及びD20日)を示す。第0日(D0)で、核はDAPIにより青に着色されている。第5日(D5)で、MEF2Cポリペプチドが核に移行(緑)される。第15日(D15)で、サルコメアα−アクチニンが存在(赤)し、筋節が存在し、細胞が心筋細胞への分化に確実に関与しており、もはや心臓形成ではないことを示している。大量のトロポニン−1が、第20日(D20:最終分化)に心筋細胞に存在している。
【0101】
図7は、未感作hMSC(左)及びカクテル誘導心筋細胞(右)の遷移電子顕微鏡超微細構造を示す。このために、細胞を1%血小板溶解物中で15日間培養した。心筋細胞にはミトコンドリア成熟、サルコメア形成及び筋管の形成が見られる。
【0102】
図8は、光学顕微鏡法によるカクテル誘導心筋細胞を示す。興奮収縮システムの成熟はカルシウム濃度変化の誘導により評価した。このために、細胞を15日間培養した後、カクテル刺激を5日間行い、5μMのカルシウム選択プローブであるフルオ−4−アセトキシメチルエステル(Molecular Probes, Carlsbad, CA)で37℃で30分間負荷し、温度調節ZeissLSM510顕微鏡(Zeiss)及び1Hzの刺激の間に得られた線走査画像を使用して生のイメージを得た。
【0103】
図9は、処置及び未処置hMSCにおけるTbx−5、MEF2C及びMESP−1がそれぞれ3、8及び8倍の増加を示す。
【0104】
図10に示されるように、CARPI基準に適合するCP−hMSCを梗塞に続く1ヶ月間生体に投与し、未感作患者適合hMSCに対して有意に駆出率を改善した。
【0105】
図11は、心臓形成細胞で未処置(左)及び処置(右)の梗塞のある心臓の心エコー検査結果であり、CP−hMSCでの処置により前壁の蘇生がはるかに良くなっていることが分る。心電図は、軽麻酔(1.5%イソフルラン)下に四肢誘導心電図検査(MP150:Biopac, Goleta, CA)により測定した。
【0106】
心エコー法では、収縮性は、未感作hMSC(n=17)またはSham(n=10:図9)において未変化であったのに対して、CP−hMSC(n=14)処置後の1及び2ヶ月でそれぞれ15%及び20%改善された。上段:冠動脈結紮の4週間後の細胞移植の前日(4wks post MI − no Tx)における梗塞のある心臓の心エコーが、Mモードで両調査対象群において前壁の無動を示した。中段:細胞移植の4週間後(4wks post Cell Tx)の未感作hMSCで処置した心臓は、CP−hMSC処置群では蘇生が見られたのに対して、前壁は無動のままであった。下段:細胞移植の8週間後(8wks post Cell Tx)に、未感作hMSCで処置された心臓は、CP−hMSC処置された梗塞のある心臓における健全な収縮活性に対して、限られた心筋の修復を示した。左側のパネルは胸骨傍(PS)長軸図であり、破線は2−D、Mモードの捕獲レベルを示す。右側のパネルの矢印は、前壁の蘇生を示す。
【0107】
図12は、平均して、誘導心臓形成hMSCの梗塞心臓への注入後、1及び2ヶ月後に著しい改良を達成したことを示す。対照的に、未感作hMSCまたはShamコントロールでは駆出率に対する効果が限定されていた。星印及び二重星印は、2時点での未感作hMSCに対してp<0.01であることを示す。
【0108】
hMSC由来の心臓形成細胞で処置した心臓では、機能の改善が3ヶ月及び18ヶ月で心筋再生の病理組織学的評価に相関していた。未感作hMSCで処置した心臓に修復されずに残っていた動脈瘤及び瘢痕は、再筋形成を誘導した心臓形成hMSC処置により解消された(図13)。
【0109】
肉眼的病理評価では、処置開始6ヶ月で、未感作(左)hMSC処置梗塞心臓とは対照的に、断面において、健全な再筋形成及び心臓形成の再構築の低下(CP、右)を伴う、左前下行(LAD)枝結紮(心臓の黄丸)の下流の瘢痕の解消が認められた。これらの結果は、特に優れたものである。
【0110】
ヒトALUプローブ(Biogenex, San Ramon, CA)を使用して、85℃で5〜10分間ハイブリダイズさせ、37℃で一晩培養し、抗蛍光GFP標識第2抗体による検出により、ALU−DNAの探索を行った。
【0111】
CP−hMSC処置マウス心筋では、ヒト特異的ラミン免疫染色によりヒトに特異的なALUDNA配列が陽性染色された、梗塞コントロールでは全く存在しなかったヒト由来細胞が広範囲に存在することが、共焦点解析により明らかになった(図14)。
【0112】
Sham(左)とは対照的に、心臓形成hMSC処置心臓の共焦点顕微鏡法による評価では、マウス梗塞心臓内に埋め込んだヒトh−ALUDNAプローブ(中央)により染色されて、ヒト核の著しい存在が明らかになり、さらにヒト特異的ラミン抗体染色により確認された(右、図14に示される写真)。凍結心筋切片は、PBS潅流中超酸素処置3%パラホルムアルデヒド固定した心から作製した。図中の線の長さは、50μmを示す。
【0113】
図15は、ヒト特異的トロポニン−I抗体により心臓形成hMSC処置心臓(中央及び右パネル)の前壁が有意に染色されたのに対し、未感作(左)では全く染色されなかったことを示す。
【0114】
さらに、図16に示されるように、mlC2vで対比染色した、未感作(上段)及び心臓形成(下段)hMSC処置心臓のヒトトロポニン−I染色は、移植されたヒト細胞からの心室心筋の発生を証明した。図中の線の長さは、20μm(上段)及び50μm(下段)を示す。
【0115】
図17に示されるように、hMSC処置心臓由来の心臓形成に残る瘢痕内で、心筋由来ヒト幹細胞は、mlC2vでのヒトトロポニン共局在化により本来のマウス心筋から区別することができた。図中の線の長さは、50μmを示す。
【0116】
図18では、表面顕微鏡検査により、右冠動脈(RCA:左下)及び回旋枝(右下)から生じたCP−hMSC処置心臓において、結紮LAD(黒丸)の末梢側に血管新生を検出した。
【0117】
図19は、ヒト特異的CD−31(PECAM−1)染色による、心臓形成hMSC処置心臓からの側副血管の共焦点評価を示す。図中の線の長さは、20μmを示す。
【0118】
図20は、未感作及びカクテル誘導(CP)hMSCでの処置による12ヶ月間での駆出率の変化の進展をShamに対する比(%)として示す。Shamに比較して、未感作hMSCでの処置は、6ヶ月及び12ヶ月でそれぞれ5%、2.5%の駆出率の増加効果を示した。
【0119】
対照的に、CP−hMSC処置梗塞マウスは、Shamに比較して、6ヶ月及び12ヶ月で25%の駆出率の著しい改善が見られた(図20)。さらに、梗塞集団を、効果を評価するために、治療時での明白な心臓疾患(駆出率<45%)の記録によりサブグループに分類した。処置前において駆出率が35%で同等であったが、心臓形成hMSC処置集団のみにおいて6及び12ヶ月で10%の絶対的な駆出率の改良が見られ、未感作hMSC処置集団では逆に駆出率は5%低下した(図21)。図22に示したように、カプランマイヤー(Kaplan−Meier)法による審査により、未感作処置集団及びShamとは対照的に、心臓形成hMSC処置群では、優れた生存率が得られた。
【0120】
心臓形成(CP)hMSCの効果を、心エコー法による1年のフォローアップにより示した(図23参照)。未感作幹細胞処置心臓の長軸画像は、心尖部Mモード評価で最も明確に認められる線維性及び運動不全前壁を明らかにした(患者11、左パネル)。対照的に、CP−hMSC処置心臓は、誘導幹細胞治療により得られる持続効果を反映する前壁を通して、健全な収縮性プロファイルを示した(患者11、右パネル)。
【実施例2】
【0121】
組換えTGFβ−1(2.5ng/mL)、BMP4(5ng/mL)、カルジオトロフィン(1ng/mL)、カルジオゲノールC(100M)及びα−トロンビン(1U/mL)、FGF−2(10ng/mL)、IGF−1(50ng/mL)及びアクチビン−A(5ng/mL)を含有し、これらを組み合わせて使用するカクテルで幹細胞を処置した場合も、同様な結果が得られた。
【実施例3】
【0122】
組換えTGF−β1(2.5ng/mL)、BMP−4(5ng/mL)、アクチビン−A(5ng/mL)、FGF−2(10ng/mL)、IL−6(100ng/mL)、因子IIa(hα−トロンビン、1U/mL)、IGF−1(50ng/mL)及びレチノイン酸(1μM)を含有し、これらを組み合わせて使用するカクテルで幹細胞を処置した場合も、同様な結果が得られた。
【0123】
本発明をその詳細な説明によりさらに説明したが、上記説明は例示を目的とするものであって、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。他の態様、利点、変更は以下の特許請求の範囲内である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23