(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6093528
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】スクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/15 20060101AFI20170227BHJP
A61K 8/96 20060101ALN20170227BHJP
A61Q 5/00 20060101ALN20170227BHJP
A61Q 1/10 20060101ALN20170227BHJP
【FI】
G01N33/15 Z
!A61K8/96
!A61Q5/00
!A61Q1/10
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-205364(P2012-205364)
(22)【出願日】2012年9月19日
(65)【公開番号】特開2014-59252(P2014-59252A)
(43)【公開日】2014年4月3日
【審査請求日】2015年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】592255176
【氏名又は名称】株式会社ミルボン
(74)【代理人】
【識別番号】100111187
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 秀忠
(74)【代理人】
【識別番号】100142882
【弁理士】
【氏名又は名称】合路 裕介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 廉
【審査官】
海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−155783(JP,A)
【文献】
再公表特許第00/032560(JP,A1)
【文献】
特表2000−506128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケラチン物質を処理するための組成物に配合される原料のスクリーニング方法であって、
ケラチン、加水分解ケラチン、又はケラチン誘導体の溶液(I)の蛍光強度(I)と、溶液(I)に更に被験原料が配合された溶液(II)の蛍光強度(II)と、を比較することを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項2】
前記ケラチン、前記加水分解ケラチン、又は前記ケラチン誘導体を構成するアミノ酸として、トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン、及びこれらの酸化体から選ばれた一種又は二種以上が含まれる請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記ケラチン物質が、ケラチン繊維である請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪、爪などのケラチン物質に適用される組成物に配合する原料のスクリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トリートメントなどの毛髪に適用される組成物に配合される原料は、多種多様であり、ニーズに応じた新規原料が市場に提供され続けられている。近年では、毛髪の保護、補修が求められることが多くなっており、これに適した原料のスクリーニングがしばしば行われる。原料のスクリーニングの場面で、人の感覚による官能評価によれば、毛髪の保護、補修を感じられる原料のスクリーニングを可能とする。また、原料の毛髪への浸透性を蛍光顕微鏡で観察するなど、機器を用いた評価により原料のスクリーニングを行う場合もある。
【0003】
毛髪におけるケラチンと相互作用する原料であれば、毛髪が保護・補修されるであろうと期待できる。その相互作用の評価を如何に行うかは、官能評価に拘る必要はなく、機器を用いて評価しても良いのは当然である。また、ケラチンと相互作用する原料であれば、毛髪以外のケラチン繊維(睫毛、眉毛など)、爪、皮膚にも相互作用する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑み、ケラチン物質との相互作用を予想可能な原料のスクリーニング方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者がスクリーニング方法について検討を行った結果、所定のペプチド溶液の蛍光強度が、その溶液への被験原料の追加配合により低下する場合があり、当該低下の程度により、被験原料とケラチン物質との相互作用を予想可能との知見を得、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、ケラチン物質を処理するための組成物に配合される原料のスクリーニング方法であって、ケラチンを構成するアミノ酸が結合したペプチドの溶液(I)の蛍光強度(I)と、溶液(I)に更に被験原料が配合された溶液(II)の蛍光強度(II)と、を比較することを特徴とする。
【0006】
本発明のスクリーニング方法において、前記ケラチンを構成するアミノ酸として、トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン、及びこれらの酸化体から選ばれた一種又は二種以上が含まれていると良い。また、本発明のスクリーニング方法において、前記ペプチドとして、ケラチン、加水分解ケラチン、又はケラチン誘導体が用いられると良い。
【0007】
本発明に係る上記方法によりスクリーニングした原料を配合した組成物で処理するケラチン物質は、例えば、ケラチン繊維(毛髪、睫毛、眉毛など)である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るスクリーニング方法によれば、被験原料の追加配合による所定溶液の蛍光強度低下が可能であり、この強度低下から被験原料とケラチン物質とが相互作用しているかを予想可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ピリドキシンの有無による加水分解ケラチンの凝集性の確認結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に基づき、本発明を以下に説明する。
本実施形態に係るスクリーニング方法は、所定の溶液(I)の蛍光強度(I)と、所定の溶液(II)の蛍光強度(II)とを比較することにより行われる。そして、当該方法は、ケラチン物質を処理するための組成物に配合される原料をスクリーニングするために使用される。
【0011】
(溶液(I))
溶液(I)は、ケラチンを構成するアミノ酸が結合したペプチドの溶液である。
【0012】
上記ケラチンを構成するアミノ酸として、トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファンの酸化体、チロシンの酸化体、フェニルアラニンの酸化体から選ばれた一種又は二種以上が含まれていると良い。芳香族アミノ酸であるトリプトファン、チロシン、又はフェニルアラニンを構成アミノ酸とするペプチドであれば、蛍光発光強度の観測が容易である。また、トリプトファン及びチロシンは酸化し易く、これらが酸化体となっていることがある。
【0013】
前記ペプチドとして、ケラチン、加水分解ケラチン、又はケラチン誘導体を用いると良い(「ケラチン誘導体」とは、ケラチン又は加水分解ケラチンを、カチオン化、シリル化、カルボキシメチル化などにより化学修飾したもの。)。ケラチンを含む市販品が化粧品原料として流通しており、その化粧品原料としては、ケラチンを含むクローダジャパン社製「ケラテック IFP−HMW」などが挙げられる。加水分解ケラチンを含む市販の化粧品原料としては、一丸ファルコス社製「プロティキュート Hガンマ」、成和化成社製「プロモイス KR−30」などが挙げられる。ケラチン誘導体を含む市販の化粧品原料としては、カチオン化された加水分解ケラチンであるヒドロキシプロピルトリモニウム加水分解ケラチンを含む一丸ファルコス社製「プロティキュート Cガンマ」などが挙げられる。また、カルボキシメチル化などのカルボキシ基を有する基により化学修飾されたケラチン誘導体は、例えば、特開2012−121831号公報、特開2010−132595号公報で開示されている。
【0014】
蛍光は公知の通りpHにより影響を受け易いので、溶液(I)のpHを安定化させるために、トリスヒドロキシメチルアミノメタンなどのグッドバッファー(Biochemistry 5 (2): p467–477.1966)や酢酸バッファーなどの無機塩を用いた緩衝液を溶液(I)に含ませると良い。溶液(I)のpHは、特に限定されないが、例えば7以上9以下である。
【0015】
(溶液(II))
溶液(II)は、溶液(I)に更に被験原料が配合されたものである。被験原料以外による蛍光への影響を抑えるために、溶液(II)は、被験原料の配合有無以外、溶液(I)と共通するものが望ましい。
【0016】
溶液(II)に配合する被験原料は、公知の化粧品原料から適宜選定される。なお、溶液(II)は水を主溶媒にすることから、水に溶解する化粧品原料を被験原料とするのが良い。
【0017】
(原料のスクリーニング)
溶液(I)の蛍光強度(I)と溶液(II)の蛍光強度(II)を、励起波長等の条件を同一として測定し、蛍光強度(I)と蛍光強度(II)を比較することで、原料のスクリーニングを行う。
【0018】
蛍光強度(I)、(II)の測定は、市販の蛍光分光光度計を用いて行われる。そして、溶液(I)及び溶液(II)に照射する励起光の波長は、これら溶液に含まれているペプチドに応じて適宜設定される。ペプチドの構成単位であるアミノ酸により適切な励起波長があり、例えば、トリプトファンからの蛍光の強度測定を行うときの励起光の波長は295nm程度であると良く、チロシンやフェニルアラニンからの蛍光の強度測定を行うときの励起光の波長は280nm程度であると良い。また、トリプトファン酸化体やチロシン酸化体からの蛍光の強度測定を行うときの励起の波長は300-400nm程度であると良い。
【0019】
蛍光強度(II)が蛍光強度(I)よりも低い場合、溶液(II)に配合された被験原料は、溶液(I)及び溶液(II)に配合されたペプチドと相互作用するものとされる(つまり、溶液(II)に配合された被験原料は、ケラチンと相互作用するものとされる)。そして、蛍光強度(II)が低い程に、溶液(II)に配合された被験原料は、ケラチンとの相互作用し易いものと考えられる。すなわち、ペプチドの構成単位となっている特定アミノ酸からの蛍光の強度測定を行う場合、そのアミノ酸に被験原料が相互作用すれば、励起光の吸収が阻害され易くなるから、蛍光強度も低下すると考えられる。
【0020】
(組成物)
本実施形態のスクリーニング方法でスクリーニングされた被験原料は、ケラチン物質を処理するための組成物に配合される。この組成物で処理されるケラチン物質は、人のケラチン繊維(毛髪、睫毛、眉毛など)、爪、唇、肌などの公知のケラチン物質である。そして、その組成物としては、例えば、毛髪用組成物(シャンプー用組成物、トリートメント用組成物、整髪用組成物、染毛用組成物、脱色用組成物、パーマネントウェーブ用組成物など)、マスカラ用組成物などの睫毛用組成物、アイブロー用組成物などの眉毛用組成物、マニュキア用組成物などの爪用組成物、口紅用組成物などの唇用組成物が挙げられる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0022】
(溶液(I))
pHが7.4の100mMトリス緩衝液(トリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩緩衝液)と、カルボキシメチル化されたケラチンの水溶液(特開2012−121831号公報の段落0089〜0092に準じて製造した−S−S−CH
2−COOH基を有するケラチンの水溶液)又は市販の加水分解ケラチンを10質量%含有する水溶液とを、等量混合したものを溶液(I)とした。
【0023】
(溶液(II))
トリス混合液に被験原料を配合した以外は、溶液(I)と同様に混合したものを溶液(II)とした。使用した被験原料及び各溶液(II)における被験原料の濃度は、下記表1〜3の通りである。
【0024】
(蛍光強度の測定)
分光蛍光光度計F−4500(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を使用し、下記測定条件にて蛍光強度を測定した。
励起波長:280nm、295nm、又は320nm
スキャンスピード:240nm/min
スリット幅:2.5nm
ホトマル電圧950V
【0025】
溶液(I)の蛍光強度(I)と溶液(II)の蛍光強度(II)の測定後、「消光率」を算出した。ここで、「消光率」とは、「所定蛍光波長の蛍光強度(II)/所定蛍光波長の蛍光強度(I)×100」により算出される値であり、値が小さなほど、被験原料により蛍光強度が低下したことを意味する。
【0026】
下記表1に、溶液(I)がカルボキシメチル化されたケラチン水溶液を使用して調製したもの、蛍光強度測定における励起波長が295nm、消光率が蛍光波長347.4nmの蛍光強度から算出したもの、である場合の被験原料、溶液(II)における被験原料濃度、消光率を示す。
【0027】
【表1】
【0028】
トリプトファンは波長295nmの光で励起するが、上記表1の消光率から、ピリドキシンがトリプトファンの励起光の吸収を阻害し、その結果、蛍光強度(II)が蛍光強度(I)よりも大きく低下したと考えられる。
【0029】
芳香環を有するトリプトファンは疎水性であり、ペプチドのトリプトファンにこれよりも親水性のピリドキシンが相互作用すれば、ペプチドの分散性が高まることになる。このことを、以下のピリドキシン配合の有無によるペプチドの凝集性をもって確認した。
【0030】
下記水溶液A1〜A2、水溶液B1〜B5を準備し、水溶液A1と水溶液B1〜B5のいずれかの等量混合液と、水溶液A2と水溶液B1〜B5の等量混合液とを調製し、各混合液の濁度を測定した(濁度測定における光源波長:600nm)。
水溶液A1:上記カルボキシメチル化されたケラチン1質量%の水溶液
水溶液A2:上記カルボキシメチル化されたケラチン1質量%、塩酸ピリドキシン0.1Mの水溶液
水溶液B1:塩化ナトリウム2.4Mの水溶液
水溶液B2:塩化ナトリウム2.8Mの水溶液
水溶液B3:塩化ナトリウム3.2Mの水溶液
水溶液B4:塩化ナトリウム3.6Mの水溶液
水溶液B5:塩化ナトリウム4.0Mの水溶液
【0031】
図1は、上記の濁度測定の結果に基づくグラフである。
図1においては、ピリドキシン未添加の場合、塩化ナトリウム濃度1.6M付近から濁度が向上したことを確認できるから、当該濃度から加水分解ケラチンの凝集が始まっていた。一方、ピリドキシンを添加した場合には、塩化ナトリウム1.8M付近から濁度が向上したことを確認できるから、当該濃度から加水分解ケラチンの凝集が始まっていた。以上のことは、ピリドキシンによる加水分解ケラチンの分散性向上を証明する。
【0032】
下記表2に、溶液(I)がカルボキシメチル化されたケラチン水溶液を使用して調製したもの、蛍光強度測定における励起波長が280nm、消光率が蛍光波長322.2nmの蛍光強度から算出したもの、である場合の被験原料、溶液(II)における被験原料濃度、消光率を示す。
【0033】
【表2】
【0034】
チロシン及びフェニルアラニンは波長280nmの光で励起するが、上記表2の消光率から、ピリドキシンがチロシンやフェニルアラニンの励起光の吸収を阻害し、その結果、蛍光強度(II)が蛍光強度(I)よりも大きく低下したと考えられる。また、消光率に関して、上記表1と表2の対比と共にパントテン酸に着目すれば、表2の方が表1よりも大幅に大きいから、パントテン酸は、トリプトファンにはある程度の相互作用があっても、チロシンやフェニルアラニンとの相互作用が小さいと考えられる。
【0035】
下記表3に、溶液(I)が加水分解ケラチン水溶液を使用して調製したもの、蛍光強度測定における励起波長が320nm、消光率が蛍光波長398nmの蛍光強度から算出したもの、である場合の被験原料、溶液(II)における被験原料濃度、消光率を示す。
【0036】
【表3】