【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、農林水産省、「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
板屋民子ら,牛乳中の病原性細菌の新検出法,日本獣医師会雑誌,1990年,Vol.43, No.5,pp.375-379
【文献】
Nogva, H.K., et al.,Application of 5’-Nuclease PCR for Quantitative Detection of Listeria monocytogenes in Pure Cultures, Water, Skim Milk, and Unpasteurized Whole Milk,Applied and Environmental Microbiology,2000年,Vol.66, No.10,pp.4266-4271
【文献】
Cressier, B., et al.,Assessment of an extraction protocol to detect the major mastitis-causing pathogens in bovine milk,Journal of Dairy Science,2011年,Vol.94, No.5,pp.2171-2184
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0008】
実施形態の乳中の微生物を濃縮する方法は、乳に酸を加えてタンパク質を凝集して凝集物を形成すること、および凝集物を固体層として回収することを含む。
【0009】
実施形態は、乳に酸を加え、タンパク質を凝集し、生じた凝集物を沈殿させると、乳に含まれる微生物は、その多くが沈殿物側、即ち、固体層側に含まれるという現象を見出したことに基づく。そのため、乳に酸を加えてタンパク質を凝集して凝集物を形成すること、および凝集物を固体層として回収することにより、乳中の微生物を濃縮する方法が提供される。
【0010】
実施形態に従う乳中の微生物を濃縮する方法は、乳に酸を加えてタンパク質を凝集して凝集物を形成すること、および凝集物を固体層として回収することを含む。
【0011】
乳に酸を加えてタンパク質を凝集して凝集物を形成することは、例えば、乳に酸を加え、タンパク質を凝集することにより行われてよい。
【0012】
凝集物を固体層として回収することは、例えば、生じた凝集物を遠心力により沈殿させた後に、生じた上清を除去することにより行われてもよい。或いは、凝集物を固体層として回収することは、濾紙を用いて液体成分を濾過することにより、固体層を濾取することにより行われてもよい。
【0013】
そのようにして固体層中に濃縮された微生物は、その後に続く所望の処理および検査、例えば、核酸の抽出、培養および免疫試験などに使用することが可能であり、それにより所望の処理および/または検査を効率よく、有利に行うことが可能となる。
【0014】
乳は、動物性の乳であればよく、動物から得られた乳であればよく、例えば、ウシ、ヤギおよびヒツジなど一般的に家畜として飼育される動物から採取された乳、市販されている何れかの乳であってよい。乳は、好ましくは無調整の乳、例えば、牛乳であってもよい。
【0015】
使用される酸は、乳中のタンパク質を凝集することが可能なpH値を乳に与える酸であればよい。乳中のタンパク質を凝集するためには、乳中のタンパク質の等電点よりも低いpH、例えば、pH4.6以下のpH値を乳に与える酸であればよい。乳汁中にはカゼインと呼ばれるタンパク質が存在しており、カゼインの等電点はpH4.6である。乳汁中のタンパク質の約80%はカゼインである。従って、乳汁の場合、カゼインを凝固することにより、乳中のタンパク質がほぼ凝固でき、そこに含まれる微生物を回収することが可能になると考えられる。
【0016】
使用される酸の例は、塩酸および硫酸などの無機塩、ギ酸および酢酸などのカルボン酸、並びにクエン酸などの有機酸など何れの酸でもよい。後の処理として遺伝子検査、培養検査および免疫学的検査を行うことを考えるとカルボン酸が好ましい。
【0017】
乳に酸を添加しながら、および/または乳に酸を添加した後に乳と酸とを混合してもよい。混合は攪拌により行ってもよい。例えば、攪拌は、乳に酸を添加しながら、および/または乳に酸を添加した後に行ってもよい。攪拌は、それ自身公知のいずれの方法を使用してよい。例えば、攪拌棒、マグネティックスターラーバー、およびボルテックス(vortex)などを使用してもよい。
【0018】
遠心分離の条件は、酸により生じる凝集物を沈殿し、液体成分と分離できる大きさの遠心力を加えることが可能な条件であればよい。例えば、3000×g〜50000×g、4000×g〜9500×g、5000×g〜9500×g、3000〜30000×gの遠心力を遠心されるべき対象に対して加えてもよい。また、上記の遠心力を加える時間は、1分間〜10分間、約3分間、約5分間などであってもよい。
【0019】
凝集物の沈殿の後に、上清を除去する手段は、それ自身公知の何れの手段を利用してもよい。例えば、デキャンタ、ピペッティングおよび/または吸引などにより上清が除去されてもよい。
【0020】
乳に酸を加えてタンパク質を凝集すること、遠心により凝集物を沈殿すること、および上清を除去することを行った後に更なる工程が行われてもよい。
【0021】
この実施形態は、乳に酸を添加し、添加された酸によりタンパク質を沈殿し、それを遠心することにより沈殿物と上清とを分離し、上清を除去して固体層を得て、これにカオトロピック塩を添加して液体混合物を得た後に、加熱すること、および前記液体混合物中の核酸を核酸吸着性ビーズに接触させて、前記核酸吸着性ビーズに付着させて前記核酸を分離することを含む。
【0022】
例えば、乳に酸を加えてタンパク質を凝集すること、遠心により凝集物を沈殿すること、および上清を除去することを行った後に、核酸の回収が行われてもよい。
【0023】
このように遠心力を使用する方法は、乳に酸を加えてタンパク質を凝集すること、遠心により凝集物を沈殿すること、および上清を除去することを含んでよい。
【0024】
凝集物を濾過により行う際には、そのような濾過は、ポアサイズが、例えば、20μm〜100μmの濾紙、またはナイロンなどの樹脂製のメッシュなどを用いてもよい。
【0025】
このように濾過を使用する方法は、乳に酸を加えてタンパク質を凝集すること、濾過により凝集物を回収することを含んでよい。
【0026】
更なる実施形態として、乳中の微生物の核酸を回収する方法が提供される。乳中の微生物の核酸を回収する方法は、乳に酸を加えてタンパク質を凝集して凝集物を形成すること、凝集物を固体層として回収すること、および固体層から核酸を抽出することを含んでよい。
【0027】
沈殿物からの核酸の抽出は、それ自身公知のいずれの核酸抽出を使用してもよい。そのような核酸抽出方法は、沈殿物に含まれる微生物を破砕し、破砕に続いてタンパク質を変性した後に、溶出された核酸を回収すればよい。または、沈殿物に含まれる微生物を破砕しながら、タンパク質を変性した後に、溶出された核酸を回収すればよい。或いは、沈殿物に含まれる微生物を破砕しながら、タンパク質を変性し、同時に溶出された核酸を回収すればよい。
【0028】
例えば、沈殿物から核酸を抽出することは、沈殿物に対して、タンパク変性剤および磁性ビーズを添加し、これを加熱することにより行われてもよい。
【0029】
タンパク変性剤の添加は、予めタンパク変性剤が溶解された液体媒体を添加することにより行われてもよい。或いは、予め沈殿物に液体溶媒を添加しておき、そこにタンパク質変性剤を添加してもよい。このようにして沈殿物とカオトロピック塩とを含む液体混合物を調製する。
【0030】
液体媒体は、例えば、水、緩衝液および生理食塩水などであってもよい。例えば、緩衝液は、例えば、トリス−塩酸塩、四ホウ酸ナトリウム−塩酸、リン酸二水素カリウム−四ホウ酸ナトリウム緩衝液等の緩衝液であってもよい。緩衝液のpH値は、7.0〜13.0、好ましくは7.0〜9.0であってもよい。緩衝剤を添加された加熱前の液体混合物のpH値は、7.0〜13.0、好ましくは7.0〜9.0であってもよい。
【0031】
タンパク変性剤は、例えば、カオトロピック塩であってよい。カオトロピック塩の例は、尿素とその対イオンからなる塩、グアニジウムイオンとその対イオンからなる塩などであってよく、例えば、グアニジン塩酸塩またはグアニジンチオシアン酸塩などが挙げられる。
【0032】
カオトロピック塩の濃度は、加熱する液体混合物の最終濃度で10重量%〜95重量%、好ましくは50重量%〜95重量%、より好ましくは80重量%〜95重量%であってよい。
【0033】
核酸吸着性ビーズは、その表面に核酸を吸着するビーズであればよい。核酸吸着性ビーズは、例えば、シリカビーズまたはシリカコーティングされたビーズであってもよい。核酸吸着性ビーズは、好ましくはシリカコーティングされた磁性ビーズであってよい。
【0034】
核酸吸着性ビーズの大きさは、平均径が0.1〜20μmであってよい。核酸吸着性ビーズの量は、加熱される液体混合物の1mL当たり、0.05mg〜100mg、好ましくは5mg〜50mg、より好ましくは5mg〜25mgであってよい。
【0035】
カオトロピック塩を添加された沈殿物についての加熱は、80℃近辺で1分間〜10分間、好ましくは5分間程度行われればよい。例えば、加熱温度は、下限が60℃以上、70℃以上、80℃以上、81℃以上、82℃以上、83℃以上、84℃以上または85℃以上、上限が90℃以下、89℃以下、88℃以下、87℃以下、86℃以下の範囲であってもよく、これらの何れかの下限値と上限値を組み合わせた範囲であってもよい。また例えば、加熱時間は、下限が1分間以上、2分間以上、3分間以上、4分間以上、5分間以上、上限が10分間以下、9分間以下、8分間以下、7分間以下、6分間以下の範囲であってもよく、これらの何れかの下限値と上限値を組み合わせた範囲であってもよい。例えば、加熱は、60℃〜90℃で1分間〜10分間、70℃〜85℃で1〜5分間、80℃〜85℃で1〜5分間に亘り行われればよい。
【0036】
当該加熱の際に、核酸吸着性ビーズが存在してもよく、存在しなくともよい。即ち、核酸吸着性ビーズは、沈殿物とカオトロピック塩とを含む液体混合物に対して、加熱前に添加されてもよい。または、核酸吸着性ビーズは、加熱の後に前記液体混合物に対して添加されてもよい。
【0037】
また当該加熱の際に、混合液が撹拌されてもよい。撹拌するための方法は、それ自体公知の何れかの撹拌手段を利用すればよく、例えば、ピペッティング、手による揺動、ボルテックスなどにより行えばよい。
【0038】
更に、液体混合物中に、界面活性剤、例えばSDSなどの陰性界面活性剤、ベタインなどの両面活性剤、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ジデシルジメチルアンモニウム塩などの陽性界面活性剤が存在してもよい。これらの界面活性剤は、加熱されるべき液体混合物に対して最終濃度1重量%〜30重量%、好ましくは1重量%〜20重量%、より好ましくは1重量%〜10重量%で添加されてよい。
【0039】
加熱は、液体を維持し、加熱することができる反応具上または反応具中で行われればよい。例えば、反応具は、容器形状または板形状であってもよい。そのような反応具は、例えば、ガラス、樹脂、金属およびその組み合わせから形成または構成されればよい。反応具の例は、マイクロチューブ、試験管、ビーカーおよびウェルプレートなどの容器、並びに流路または凹部などの反応部を具備するデバイスなどであってもよい。
【0040】
核酸を核酸吸着性ビーズに吸着させた後に、核酸吸着性ビーズを液体混合物から回収してもよい。回収の方法は、磁性ビーズの場合には、磁気を利用して回収すればよく、他のビーズの場合には、遠心および/または濾過により回収すればよい。
【0041】
沈殿物にカオトロピック塩を添加して液体混合物を得て、この液体混合物を加熱することによって、沈殿物中の微生物の細胞膜および(存在する場合には)細胞壁が破砕される。それにより微生物は溶解し、微生物に含まれる核酸が溶出される。微生物から溶出された核酸は、捕捉体としての核酸吸着性ビーズに吸着され、捕捉される。このような方法によって、沈殿物中の微生物の核酸を容易且つ短時間に分離することが可能になる。また、このような方法は、ビーティング処理や超音波処理を含む従来に比べて穏やかな条件で沈殿物中の微生物の破砕を行うことが可能である。従って、このような方法が行われるべき反応具への負荷が小さい。
【0042】
核酸吸着性ビーズに吸着されて捕捉された核酸は、更に、洗浄されてもよい。核酸を吸着している核酸吸着性ビーズの洗浄は、例えば、核酸吸着性ビーズをアルコールと接触した後にアルコールを除去することにより行われればよい。例えば、核酸吸着性ビーズが含まれる液体混合物の液体部分を除去した後にアルコールを加え、そのアルコールを除去することにより行われればよい。
【0043】
洗浄のためのアルコールは、メタノール、エタノール、イソプロパノールまたはn−プロパノールおよびそれらの組み合わせなどであればよい。洗浄ためのアルコールは、好ましくは2−イソプロピロアルコールおよびエタノール、または2−イソプロピロアルコールとエタノールとの混合物である。これらのアルコールによる洗浄によって、タンパク質やその他の成分を除去することが可能である。
【0044】
洗浄は、少なくとも1回行われればよく、好ましくは2−イソプロピロアルコールおよびエタノールで少なくともそれぞれ1回ずつ、または2−イソプロピロアルコールとエタノールとの混合物で少なくとも1回洗浄されればよい。
【0045】
また、洗浄時のアルコールにカオトロピック塩が存在してもよい。その場合、使用されるアルコールにカオトロピック塩が溶解されればよい。その場合のカオトロピック塩の濃度は、洗浄に用いるアルコールの10重量%〜50重量%、好ましくは10重量%〜30重量%、より好ましくは15重量%〜25重量%であってよい。
【0046】
このような洗浄により、核酸吸着性ビーズに捕捉された核酸から、例えば、タンパク質や脂質などの他の成分が除去される。
【0047】
洗浄された核酸が核酸吸着性ビーズから抽出され単離されてもよい。核酸吸着性ビーズに吸着された核酸を抽出単離する方法は、それ自身公知の何れかの方法により行われればよい。例えば、トリス塩酸液、TE(トリス塩酸液)および/または純水を用いて行われてよいが、好ましくはTEを用いて行われる。例えば、洗浄された核酸を捕捉した核酸吸着性ビーズに対して、抽出液を添加し、必要に応じて攪拌した後に、ビーズを除去すればよい。或いは、洗浄された核酸を捕捉した核酸吸着性ビーズに対して、抽出液を添加し、必要に応じて攪拌した後に、抽出液に含まれる核酸を採取すればよい。このようにして乳に含まれる微生物の核酸を分離することが可能になる。
【0048】
更に抽出単離された核酸は乾燥されてもよい。乾燥は、抽出液を乾燥除去すればよい。乾燥は、抽出液を乾燥除去できる条件で行えばよい。乾燥の温度は、例えば、例えば、50℃〜90℃、60℃〜85℃、60℃〜70℃で行えばよい。乾燥時間は、例えば、1分間〜10分間、1分間〜5分間、1分間〜3分間に亘り行えばよい。これにより、乳に含まれる微生物の核酸は、乾燥された状態で分離される。
【0049】
このようにして得られた核酸は、効率よく分離されているため、分離された核酸が、続けて更に伸長、増幅および/またはハイブリダイズ反応などの核酸反応に供することも可能になる。
【0050】
以上のような方法により、乳中の微生物を濃縮し、更に、乳中の微生物の核酸を回収することが可能になる。従って、乳中の微生物の濃縮から、その微生物の核酸の抽出および分離、並びに核酸の増幅および検出までを連続して、短時間且つ容易に行うことが可能になる。
【0051】
乳から微生物の核酸を分離する方法は、閉鎖空間を反応部として具備する反応デバイスにおいて行われてもよい。
【0052】
図1に反応デバイス10の例を示す。反応デバイス10は、直線上に連通した注入口11、流路12、加熱および磁性ビーズ吸脱着部13、第1のバルブ部14および回収口15と、更に加熱および磁性ビーズ吸脱着部13から伸び、互いに連通する第2のバルブ部16および廃液部17を含む。
【0053】
反応デバイス10を用いて、実施形態に従う乳中の微生物の核酸を分離する方法を行う例を以下に説明する。まず、注入口11から乳を100μL添加する。添加された乳は、流路12を通り、加熱および磁性ビーズ吸脱着部13に送られる。加熱および磁性ビーズ吸脱着部13において、乳は、図示しない添加部を通じて酸を添加されて凝集物を形成する。加熱および磁性ビーズ吸脱着部13は、遠心力を利用して凝集物を沈殿させる。上清は、第1のバルブを閉鎖し、第2のバルブ16を開放した状態で流路12を通り廃液部17に送られる。加熱および磁性ビーズ吸脱着部13に残された沈殿物に対して、図示しない添加部を通じて5Mのグアニジン塩溶液100μLと磁性ビーズ5μLが添加され、混和される。次に加熱および磁性ビーズ吸脱着部13において85℃で1分間加熱される。この加熱中に核酸が磁性ビーズに吸着される。次に、磁性ビーズを加熱および磁性ビーズ吸脱着部13の外側に配置された磁性体により吸着する。次に、注入口11から300μLのIPA(2−イソプロピロアルコール)を送液する。これにより、磁性ビーズを残して液体混合物は流路12を通り、更に、開放された第2のバルブ16を通って廃液部17に押し出される。このとき第1のバルブ14は閉鎖されている。更に、IPAが流入口11からに加熱および磁性ビーズ吸脱着部13に送液される。ここで外側に配置された磁性体の吸着が開放される。加熱および磁性ビーズ吸脱着部13ではIPAと磁性ビーズとの撹拌が行われる。IPAと磁性ビーズが撹拌された後、流入口11から300μLのEtOH(エタノール)が送液される。それによりIPA液が廃液部へ送液され、EtOHと磁性ビーズが撹拌される。次に、TE(トリス塩酸液)100μLが注入口11から送液される。それによりEtOHは廃液部へ送られ、TEと磁性ビーズが撹拌される。TEに溶出された核酸を回収するために、廃液側流路の第2のバルブ16を閉じて、回収側の第1のバルブ14を開放する。その後、核酸が溶出されたTE液が回収口15から回収される。
【0054】
このような反応デバイスは、更に、酸、IPA、EtOHおよびTE溶液などの液体を収容するための収容部を備えてもよい。
【0055】
また、このような反応デバイスは、抽出された核酸を増幅および/または検出するための遺伝子検査を行うための反応部をさらに備えてもよい。そのような反応デバイスは、コンタミネーションを回避することが可能である。また、反応デバイスを用いて、乳の濃縮、核酸の分離回収から検出反応までを行う全自動化装置を容易に提供することも可能である。反応デバイスを用いて、乳の濃縮、核酸の分離回収から検出反応までを行う全自動化装置を小型化することも容易になる。
【0056】
[例]
例1
乳汁からの黄色ブドウ球菌の濃縮を例に、本発明における濃縮方法を説明する。本法は
図2に示すように非常に簡単なフローにて実施した。
【0057】
この方法では、初期試料として乳汁0.9mLに10
4cfu/mLの黄色ブドウ球菌菌液100μLを添加して作成した10
3cfu/mL黄色ブドウ球菌疑似感染乳を使用した。
図2のフローチャートに示すように、まず、この初期試料に対して18Mの酢酸を100μL添加した。次に、これを9100×gで5分間遠心した。次に、上澄み液をデキャンタにより除去した。得られた沈殿物からなる固体層に対して5Mのグアニジンチオシアン酸塩を900μLと、磁性ビーズ20μLを添加した。これを85℃で1分間加熱した。これにより、磁気ビーズに固体層中の核酸を吸着させた。その後に、磁気ビーズを残して液相を除去した。磁気ビーズをIPAおよびEtOHで洗浄した。更に、洗浄された磁気ビーズをTE50μLで処理し、核酸を抽出した。具体的には次の通りに各処理を行った。
【0058】
実施例1
乳汁0.9mLに対して、あらかじめ培養した黄色ブドウ球菌を1000cfu/mLとなるように調整した菌液を100μL添加撹拌した。次に、18M酢酸100μLを添加し9100×g、5分間の遠心処理をした。ここで、酸である酢酸を添加することで、乳汁中に含まれるタンパク溶解度が常温でも飽和するため、タンパクが凝集する。タンパク凝集の際、周りに存在する脂肪や糖と共に、黄色ブドウ球菌がタンパクに包括されながら凝集する。凝集した液を9100×g、5分間処理することで、液体層と固体層に分離されるが、液体層について、核酸を抽出する処理を施したところ、黄色ブドウ球菌の核酸が得られず、他方、固体層から核酸を抽出したところ、添加した黄色ブドウ球菌のほぼ全菌数を回収することができた。つまり、乳汁中に含まれる水分を除いた固体層に黄色ブドウ球菌が濃縮したことが確認された。乳汁は概ね90%の水分からなっているため、本処理のように乳汁に酢酸を添加し、遠心処理をするだけで、乳汁中に含まれる細菌を10倍濃縮することができたことがわかる。ここで、遠心処理だけでも液体と固体に分離できるが、分離された液体層に酢酸を添加すると白濁する。つまり、遠心分離だけでは、タンパクや脂肪の分離が不十分であり、また、遠心分離した液体層を核酸抽出処理したところ、核酸の存在が認められた。つまり、酢酸を添加後に遠心分離することで高効率に細菌を固体層に濃縮できた。また、本例では酸として、カルボン酸である酢酸を使用した。カルボン酸は、細菌をより確実に固体層に包括することができ、且つその後の遺伝子検査、培養検査および免疫学的検査に阻害を起こさないので好ましい。
【0059】
次に濃縮した固体層を遺伝子検査に使用する方法について述べる。
【0060】
遺伝子検査するためには、固体層に含まれる黄色ブドウ球菌の核酸を抽出する必要があるが、抽出処理は、液体層として処理されることが一般的である。そのため、本法では、得られた固体層に5Mグアニジンチオシアン酸塩を900μL添加し液化後に、核酸抽出をした。グアニジンチオシアン酸塩は、タンパク変性剤であり、乳汁に含まれていた水よりも、少量で固体層を液化することができる。本法では、900μL添加した。ここで、得られた液には、初期に含まれていたほぼ全ての菌が含まれている状態となっている。次に、85℃で1分間の加熱をすることで、黄色ブドウ球菌の外膜を破砕し、核酸を溶出させた。溶出した核酸は、磁性ビーズ法やフィルター法と言った一般的な抽出法で回収することができ、本法では磁性ビーズ法に従い、磁性ビーズへの核酸吸着、IPAやEtOHによる洗浄、および、TE50μL(Tris−EDTA)を使用し、黄色ブドウ球菌の核酸液を得た。ここで、本法ではスタートサンプル量は概ね1mL程度となるが、濃縮していない初期の乳汁の状態からの抽出においては、同量のスタート試料量とするためには、乳汁200μLに対して5Mグアニジンチオシアン酸塩を800μL添加する必要がある。そのため、濃縮法を用いた本法の、抽出に使用する試料に含まれる菌数はほぼ100%とすると、濃縮法を用いない同菌数は、20%程度となる。つまり、本法は通常の5倍程度の核酸量を得ることができる。実際にリアルタイムPCRで抽出された核酸量を定量したところ、本法を用いることで、5倍量の核酸が得られたことが確認された。
【0061】
得られた固体層はタンパクが凝集しているため、固体層を免疫学的な検査に用いれば、高濃縮されたタンパク検査ができる。また、固体層を培地に拭えば、培養検査に用いることができる。
【0062】
以上の結果から、乳汁から比較的簡単に所望の細菌を濃縮することができることが明らかになった。また、微生物が濃縮された固体層から核酸を抽出することにより、感染の初期状態であっても高効率に菌を回収できることが示された。
【0063】
以下の例2〜例9は、カオトロピック塩、加熱および核酸吸着性ビーズを使用することにより、微生物の核酸を分離できることを証明するための実施例を含む。
【0064】
例2
グラム陽性菌とグラム陰性菌の破砕
乳汁に含まれるグラム陽性菌とグラム陰性菌をそれぞれ破砕した。グラム陽性菌として黄色ブドウ球菌を培養した菌液を用いた。グラム陰性菌として緑膿菌を培養した菌液を用いた。
【0065】
何れの菌にも感染していないことを確認した乳汁に濃度が1×10
4コピー/mLとなるように黄色ブドウ球菌および緑膿菌をそれぞれ添加した。これを擬似感染乳とした。
【0066】
実施例1として、擬似感染乳について黄色ブドウ球菌および緑膿菌を破砕する方法を説明する。
【0067】
2種類の擬似感染乳を3本のマイクロチューブにそれぞれ200μLずつ入れた。そこにPBS中で5Mのグアニジンチオシアン酸塩の1000μLを添加した。これらの6本のマイクロチューブを95℃でそれぞれ5分間、10分間および20分間に亘り加熱した。
【0068】
加熱した混合液について61℃で60分間に亘りLAMP法による核酸増幅を行った。濁度により増幅の立ち上り時間を測定した。
【0069】
結果を
図3に示す。5分間、10分間および20分間の加熱後の混合液に含まれる核酸は、何れも30以内に増幅が開始された。この結果から、5Mのグアニジンチオシアン酸塩の存在下での加熱によりグラム陽性菌とグラム陰性菌は何れも破砕されていることが明らかになった。
【0070】
上記の方法においては、加熱中に、グアニジンチオシアン酸塩がタンパク質を変性する。このとき、加熱されていることによって、タンパク質変性効果が促進される。その結果、グラム陽性菌およびグラム陰性菌の細胞膜と細胞壁が共に容易に破砕されると考えられた。
【0071】
例2
磁性ビーズの影響についての検討
磁性ビーズによる核酸の濃縮効果について検討した。グラム陽性菌について行った実施例2の方法と、磁性ビーズを使用したことを除いて実施例2と同様に行った実施例3の方法とを比較した。
【0072】
使用した擬似感染乳は次のように準備した。何れの菌にも感染していないことを確認した乳汁に濃度が1×10
2、1×10
3、1×10
4コピー/mLとなるように黄色ブドウ球菌を添加した。これを擬似感染乳とした。
【0073】
実施例3として、乳汁からの黄色ブドウ球菌を破砕する方法を説明する。
【0074】
擬似感染乳をマイクロチューブに200μL入れた。そこにPBS中で5Mのグアニジンチオシアン酸塩の1000μL、磁性ビーズMagneSil(登録商標)BLUE(Promega社製)の25μL、10%のSDS100μLを添加した。この混合物を95℃で5分間に亘り加熱した。
【0075】
核酸が吸着された磁性ビーズを、磁石を用いて磁気吸着することにより、磁性ビーズに付着した黄色ブドウ球菌の核酸を濃縮した。
【0076】
磁性ビーズに付着した核酸をTE(トリス塩酸液)で溶出した。得られた抽出液を61℃で60分間に亘りLAMP法による核酸増幅を行った。濁度により増幅の立ち上り時間を測定した。
【0077】
結果を
図4に示した。
図4に示されるように、磁性ビーズを使用することにより、加熱のみで破砕した場合に比べて核酸を効率よく濃縮し、回収することが可能であった。
【0078】
例3
乳汁からの黄色ブドウ球菌の核酸の分離
乳汁に含まれる黄色ブドウ球菌の核酸を分離するための時間について、実施形態に従う単細胞生物の核酸を分離する方法と従来の方法とを比較した。
【0079】
黄色ブドウ球菌に感染していないことを確認した乳汁に濃度が1×10
4コピー/mLとなるように黄色ブドウ球菌を添加した。これを擬似感染乳とした。
【0080】
実施例4
実施例4として、乳汁からの黄色ブドウ球菌の核酸を分離する方法を説明する。
【0081】
擬似感染乳をマイクロチューブに200μL入れた。そこにPBS中で5Mのグアニジンチオシアン酸塩の1000μL、磁性ビーズMagneSil(登録商標)BLUE(Promega社製)の25μL、10%のSDS100μLを添加した。この混合物を85℃で1分間に亘り加熱した。
【0082】
核酸が吸着された磁性ビーズを磁石を用いて磁気吸着することにより、磁性ビーズに付着した黄色ブドウ球菌の核酸を濃縮した。
【0083】
次に、99%のIPA(2−イソプロピロアルコール)および99%のEnOH(エタノール)を用いて核酸が付着した磁性ビーズを洗浄した。その後、磁性ビーズを85℃で5分間乾燥した。次に、TE(トリス塩酸液)溶出することにより、黄色ブドウ球菌の核酸を回収した。方法を開始した時点から、ここまでの工程を終了するまでの時間は、約15分間であった。
【0084】
更に、回収した黄色ブドウ球菌の核酸を含有するTE液について、LAMP法により核酸増幅を行った。濁度により増幅の立ち上り時間を測定した。この結果から、上記の方法により、簡単に所望の核酸を溶解および回収できることが示された。
【0085】
上記の方法においては、加熱中に、グアニジンチオシアン酸塩がタンパク質を変性する。このとき、加熱されていることによって、タンパク質変性効果が促進される。その結果、黄色ブドウ球菌の細胞壁が容易に破砕され、1分間という短時間で核酸を溶解するが可能になる。また、核酸を含む混合物が加温されていることによりビーズへの吸着効果も促進される。10%SDSを添加することにより、グアニジンチオシアン酸塩による細胞破砕が促進され、それと同時に磁性ビーズの凝集による吸着能の低下も抑制されると考えられる。
【0086】
比較例1
上記の実施例4の方法では、乳汁から黄色ブドウ球菌の核酸を回収するまでの時間は約15分であった。それに対して、市販の核酸抽出キットであるFastlD Genomic DNA Extraction Kit(日本認証サービス株式会社製)を用いて、同様の試料、即ち、感染した乳汁から黄色ブドウ球菌の核酸を次のように回収した。
【0087】
1×10
4コピー/mLの濃度で黄色ブドウ球菌を加えた乳汁を擬似感染乳として使用した。
【0088】
ます、ビーズチューブに対してLyse Buffer480μLおよび擬似感染乳を320μL添加した。次にプロテイナーゼKを添加して65℃で30分間加熱することにより、細胞を破砕した。これを9100×gで5分間遠心し、その上澄みの450μLを採取した。これを吸着カラムに添加した。吸着カラムを5700×gで1分間遠心した。更に、吸着カラムに洗浄液を添加して、5700×gで1分間遠心をした。次に、吸着カラムに75%のEtOHを添加して、5700×gで1分間遠心した。次に、吸着カラムに吸着された核酸をTE50μLを用いて溶出した。
【0089】
市販の核酸抽出キットであるFastlD Genomic DNA Extraction Kit(日本認証サービス株式会社製)を用いて、感染した乳汁から黄色ブドウ球菌の核酸を次のように回収するために必要とされた時間は約50分であった。
【0090】
実施形態の方法によれば、市販の核酸抽出キットに比べて非常に短い時間で、効率的且つ簡便に黄色ブドウ球菌の核酸を乳汁から分離および回収することが可能であることが明らかになった。
【0091】
例4
抽出精度について
実施形態に従う単細胞生物の核酸を分離する方法および従来の方法によって、乳汁から黄色ブドウ球菌の核酸を分離する際の抽出効率を比較した。
【0092】
黄色ブドウ球菌に感染していないことを確認した乳汁に濃度が1×10
3、1×10
4および1×10
5コピー/mLとなるようにそれぞれ黄色ブドウ球菌を添加した。これを擬似感染乳とした。
【0093】
実施例5
黄色ブドウ球菌の濃度を除いて、実施例2と同様の方法を用いて核酸を分離し、リアルタイムPCRにより核酸を増幅した。各試験は、1つの濃度につき2例ずつ行い、結果は、平均値±標準誤差で示した。
【0094】
比較例2
黄色ブドウ球菌の濃度を除いて、比較例1と同様の方法を用いて核酸を分離し、リアルタイムPCRにより核酸を増幅した。各試験は、1つの濃度につき2例ずつ行い、結果は、平均値±標準誤差で示した。
【0095】
結果
実施例5と比較例2の方法により得られた結果を
図5のグラフに示した。
【0096】
実施例5では、擬似感染乳中の菌量が1×10
3、1×10
4および1×10
5コピー/mLのそれぞれの場合、抽出核酸量として約1×10
4、約1×10
5および約5×10
6コピー/mLが検出された。実施例5では、濃度依存的に良好に菌の抽出ができた。
【0097】
それに対して比較例4では、擬似感染乳中の菌量が1×10
3コピー/mLの場合、誤差が大きく、このコピー数では抽出効率が悪いことが明らかとなった。擬似感染乳中の菌量が1×10
4および1×10
5コピー/mLの場合では、5×10
3、5×10
4コピー/mLが抽出核酸量として検出された。
【0098】
比較例に比べて、実施形態に従う方法は、より少ない量の核酸についても良好に分離できることが明らかとなった。また抽出量についても、比較例に比べて、実施形態に従う方法はより多くの核酸を抽出することが可能であった。
【0099】
以上の結果から、実施形態に従う方法は、従来に比べてより抽出性能が高く、感度よく、安定して、正確且つ良好に単細胞生物の核酸を分離できることが明らかになった。
【0100】
例5
加熱温度についての検討
実施例5、6および7として、加熱温度を75℃、85℃および95℃とし、加熱時間を5分間行うこと、およびSDSを使用しないこと以外は、実施例4と同様に擬似感染乳から黄色ブドウ球菌の核酸を分離した。
【0101】
1×10
4コピー/mLの濃度で黄色ブドウ球菌を加えた乳汁を擬似感染乳として使用した。
【0102】
更に実施例8として、5Mのグアニジンチオシアン酸塩の100μLを添加し、且つSDSを含まない純水中で95℃で5分間の加熱を行うこと以外は、実施例4と同様の方法により擬似感染乳から黄色ブドウ球菌の核酸を分離した。
【0103】
分離した核酸をLAMP法により増幅し、濁度を測定することにより、増幅の立ち上がり時間を測定した結果を表1に示す。
【表1】
【0104】
85℃と95℃で5分間の加熱を行った場合がより良好な分離ができた。75℃で5分間の加熱では、単離された核酸を増幅するためには長い時間が必要であった。10分の1の量のグアニジンチオシアン酸塩での分離でも良好な分離が可能であった。
【0105】
例6
加熱時間についての検討
実施例9、10、11、12および13として、加熱時間を1分間、3分間、5分間、7分間および10分間とし、加熱温度を85℃としたこと、およびSDSを使用しないこと以外は、実施例4と同様に擬似感染乳から黄色ブドウ球菌の核酸を分離した。
【0106】
1×10
2、1×10
3および1×10
4コピー/mLの濃度で黄色ブドウ球菌を加えた乳汁を擬似感染乳として使用した。
【0107】
分離した核酸をLAMP法により増幅し、濁度を測定することにより、増幅の立ち上がり時間を測定した結果を
図6に示す。何れの菌量の場合であっても、1分間〜10分間の何れの場合にも良好に核酸が分離できた。この条件では、菌量が多い場合、短時間の加熱に比べて長時間の加熱を行った方が多くの核酸を得ることができる傾向があった。
【0108】
例7
核酸吸着性ビーズの添加時期についての検討
核酸吸着性ビーズの添加時期と黄色ブドウ球菌の2種類の異なる菌株を用いて実施例14〜17を行った。
【0109】
実施例14および15は、液体混合物を加熱後に核酸吸着性ビーズを添加した。実施例16および17は、加熱前に液体混合物中に核酸吸着性ビーズを含ませた。実施例14および16は、菌株No.35と称される黄色ブドウ球菌を使用した。実施例15および17は、菌株No.35とは異なる菌株No.42と称される黄色ブドウ球菌を使用した。
【0110】
1×10
4コピー/mLの濃度で黄色ブドウ球菌を加えた乳汁を擬似感染乳として使用した。
【0111】
実施例14および15のプロトコル
擬似感染乳をマイクロチューブに40μL入れた。そこに5Mのグアニジンチオシアン酸塩の500μL、10%のSDS100μLを添加した。この混合物を85℃で5分間に亘り加熱した。
【0112】
加熱後に、磁性ビーズMagneSil(登録商標)BLUE(Promega社製)の20μLを加熱された混合物に添加した。
【0113】
核酸が吸着された磁性ビーズを、磁石を用いて磁気吸着することにより、磁性ビーズに付着した黄色ブドウ球菌の核酸を濃縮した。
【0114】
次に、それぞれ1000μLの99%のIPA(2−イソプロピロアルコール)および99%のEnOH(エタノール)を用いて核酸が付着した磁性ビーズを洗浄した。その後、磁性ビーズを85℃で5分間乾燥した。次に、50μLのTE(トリス塩酸液)溶出することにより、黄色ブドウ球菌の核酸を回収した。
【0115】
更に、回収した黄色ブドウ球菌の核酸を含有するTE液について、LAMP法により核酸増幅を行った。濁度により増幅の立ち上り時間を測定した。
【0116】
実施例16および17のプロトコル
擬似感染乳をマイクロチューブに40μL入れた。そこに5Mのグアニジンチオシアン酸塩の500μL、磁性ビーズMagneSil(登録商標)BLUE(Promega社製)の20μL、10%のSDS100μLを添加した。この混合物を85℃で5分間に亘り加熱した。
【0117】
核酸が吸着された磁性ビーズを、磁石を用いて磁気吸着することにより、磁性ビーズに付着した黄色ブドウ球菌の核酸を濃縮した。
【0118】
次に、それぞれ1000μLの99%のIPA(2−イソプロピロアルコール)および99%のEnOH(エタノール)を用いて核酸が付着した磁性ビーズを洗浄した。その後、磁性ビーズを85℃で5分間乾燥した。次に、50μLのTE(トリス塩酸液)溶出することにより、黄色ブドウ球菌の核酸を回収した。
【0119】
更に、回収した黄色ブドウ球菌の核酸を含有するTE液について、LAMP法により核酸増幅を行った。濁度により増幅の立ち上り時間を測定した。
【0120】
試験のプロトコルを表2に示す。
【表2】
【0121】
実施例14〜17についての結果を表3に示す。
【表3】
【0122】
表3に示すように、何れの条件においても良好に分離されていることが確認された。また、核酸増幅の立ち上がり時間は、加熱時に磁性ビーズが存在しているほうが、加熱後に磁性ビーズを添加した場合よりも短かった。
【0123】
例8
磁性ビーズ量と抽出量についての検討
エンテロコッカス、酵母およびストレプトコッカスからそれぞれ核酸を分離した。
【0124】
それぞれ1×10
4コピー/mLの濃度でエンテロコッカス、酵母および黄色ブドウ球菌を加えた乳汁を擬似感染乳として使用した。
【0125】
核酸が分離されるべき菌種の種類と、添加した量をそれぞれ磁性ビーズの量を5μL添加したことを除いて実施例4と同様の方法により核酸を分離する方法を実施例18として行った。
【0126】
核酸が分離されるべき菌種の種類と、添加した量をそれぞれ磁性ビーズの量を25μL添加したことを除いて実施例4と同様の方法により核酸を分離する方法を実施例19として行った。
【0127】
核酸が分離されるべき菌種の種類と、添加した量をそれぞれ磁性ビーズの量を25μL添加したこと、および磁性ビーズに捕獲した核酸を乾燥しないことを除いて実施例4と同様の方法により核酸を分離する方法を実施例20として行った。
【0129】
何れも分離した核酸をLAMP法により核酸増幅し、濁度を指標として立ち上がり時間を測定した。結果を
図8に示す。
【0130】
何れの菌種についても、磁性ビーズを5μL使用した場合も、25μL使用した場合も同様に良好に核酸を分離できた。
【0131】
例9
菌種についての検討
グラム陽性菌、グラム陰性菌および藻類の核酸を分離した。
【0132】
(1)擬似感染乳
グラム陽性菌の例として、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、連鎖球菌であるEnterococcus faecalisおよびStreptococcus dysagalactiaeの培養菌液を用いた。
【0133】
グラム陰性菌の例として、大腸菌であるEnterobacter cloacaeおよび緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の培養菌液を用いた。
【0134】
藻類の例としてPrototheca zopfiiの培養菌液を用いた。
【0135】
これらの菌をそれぞれ未感染乳汁に各培養菌液を添加して擬似感染乳を準備した。
【0136】
擬似感染乳を培養し、菌数を増やし、培養菌数を確認した。それぞれ最終濃度1×10
2、1×10
3、1×10
4および1×10
5cfu/mLで用いたこと以外は、実施例3と同様の方法により、各菌から核酸を分離した。分離された核酸をLAMP法により核酸増幅し、濁度を指標とし増幅の立ち上がり時間を測定した。
【0137】
結果を
図9に示す。何れの菌種についても良好に増幅されたことから、実施形態に従う方法により、グラム陽性菌、グラム陰性菌および藻類の何れも良好に分離できた。
【0138】
従って、上述した例2〜9と組み合わせて、上述の酸を用いる乳の濃縮方法を使用することにより、より簡便且つ高効率で乳から微生物の核酸を分離することが可能となる。それにより、例えば、生乳または牛乳からの効率的な微生物濃縮を簡便に行うことが可能となり、乳中の極微量の微生物を高感度な検知を実現することができる。そのため、乳房炎感染初期やこれまで見落とされていた微量食中毒菌検知が可能となる。